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短期間の絶食による減量が全身および骨格筋の糖代謝能に 及ぼす影響

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短期間の絶食による減量が全身および骨格筋の糖代謝能に 及ぼす影響
第 31 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書
(86)
2014 年度 pp.86∼92(2016.4)
短期間の絶食による減量が全身および骨格筋の糖代謝能に
及ぼす影響の検討
―“プチ断食”は糖尿病予防に本当に効果的なのか?―
寺 田 新*
野 中 雄 大*
EFFECTS OF RAPID WEIGHT LOSS INDUCED BY SEVERAL-DAY
FASTING ON WHOLE-BODY AND SKELETAL
MUSCLE GLUCOSE METABOLISM
Shin Terada and Yudai Nonaka
Key words: insulin resistance, fasting, skeletal muscle, insulin secretion, glucose transport.
緒 言
チ断食」と呼ばれる減量法が近年流行している。
しかしながら、この減量法が長期間のエネルギー
食事などで摂取した糖質の80%以上は骨格筋に
摂取制限と同様に糖尿病の予防・治療に効果的で
おいて処理されている 。一方、糖尿病患者では、
あるのかは必ずしも明らかになっていない。我々
この骨格筋の血糖処理能力が著しく低下すること
は、欧米で流行している間欠的絶食( 1 日おきに
が知られており、糖尿病の主な原因の一つである
絶食を行う)による減量が、内臓脂肪量を顕著に
と考えられている 。更に、この骨格筋における
減少させるものの、骨格筋および全身の糖代謝能
糖代謝能の悪化には、内臓脂肪の過剰蓄積が関与
をむしろ悪化させることを報告しており3)、短期
していることが明らかになっている5)。したがっ
間の絶食により体重が減少し、見かけ上健康な状
て、糖尿病を予防および治療するうえで、内臓脂
態になったとしても、むしろ逆効果となる可能性
肪量を減少させることが重要となってくる。
もある。そこで、本研究では、短期間の絶食によ
先行研究において、毎日のエネルギー摂取量を
る減量が骨格筋および全身の糖代謝能に及ぼす影
20∼30%程度減らすことで、内臓脂肪量が徐々に
響を、エネルギー摂取制限による効果と比較検討
減少し、骨格筋更には全身の糖代謝能が改善する
し、糖尿病の予防および治療に有効であるのか検
ことが報告されている
証することを目的とした。
1)
1)
。しかしながら、毎日継
5,6)
続してエネルギー摂取量を制限することは、満足
方 法
感・満腹感が得にくく、ドロップアウトしてしま
う人も多い。そこで、週末などに数日間だけ絶食
することで大きな減量効果を得ようとする、「プ
A.実験 1
1 .実験動物および飼育方法
* 東京大学大学院総合文化研究科 Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo, Tokyo, Japan.
(87)
実験 1 では、まず短期間( 3 日間)の絶食が骨
化 合 物 で あ る 2-Deoxyglucose(2DG) を 含 ん だ
格筋の糖代謝能に及ぼす影響について検討するこ
Krebs-Henseleit Buffer と と も に 試 験 管 内 で イ ン
ととした。 5 週齢の Wistar 系雄性ラット
(日本ク
キュベートした。2DG は、骨格筋に取り込まれ
レア社)を室温22±2 ℃、午後 9 時∼午前 9 時を
た 後、2-Deoxyglucose- 6 -phosphate(2DG6P) へ
暗期に設定した飼育室において、ステンレス製の
と変換され、それ以上代謝されることなく蓄積す
ケージにて個別飼育した。新たな飼育環境に馴化
る。本研究では、このインキュベート中に滑車上
させるために、 1 週間予備飼育期間を設け、その
筋内にどれだけ2DG6P が蓄積したかを測定する
間、粉末飼料(CE- 2,日本クレア社)と水道水
ことにより、最大インスリン刺激時の骨格筋の糖
を自由摂取させた。予備飼育期間終了後、すべて
取り込み能力(インスリン反応性)を評価した。
のラットに高脂肪食(たんぱく質,脂質,糖質が
また、骨格筋組織を採取した後、腹腔内脂肪(内
それぞれエネルギー比で23,50,27%)を自由摂
臓脂肪)を摘出し、重量を測定した。
取させた。高脂肪食を摂取させ始めてから 2 週間
3 .骨格筋糖輸送体 GLUT-4発現量の測定
後に、 1)コントロール群(CON 群:n = 8 )、 2)
骨格筋で血糖を取り込む際に重要な役割を果た
エネルギー摂取制限群(CR 群:n = 8 )、 3)短
す分子である糖輸送体 GLUT-4の蛋白質発現量を
期間絶食群(FAST 群:n = 8 )の 3 群に体重の
ウエスタンブロッティング法により測定した。
平均値が均等となるように分けた。CON 群には
B.実験 2
引き続き高脂肪食を 2 週間自由摂取させた(高脂
1 .実験動物および飼育方法
肪食を合計 4 週間摂取させた)
。本研究で用いた
実験 2 では、短期間の絶食が全身の糖代謝能に
高脂肪食をラットに 4 週間自由摂取させること
及ぼす影響を検討することを目的とした。実験動
で、インスリン抵抗性が発症することが報告され
物および飼育方法等は実験 1 と同様の方法を用い
ている
た。
。CR 群には、 2 週間にわたり 1 日の高
2,5)
脂肪食の摂取量(エネルギー摂取量)を CON 群
2 .経口糖負荷試験
の70%に制限し、緩やかに減量させた。FAST 群
飼育期間終了日に経口糖負荷試験を行った。実
は、CON 群と同様に11日間は高脂肪食を自由摂
験 1 と同様に、直前の食餌摂取による影響を除外
取させ、最後の 3 日間に絶食を行うことで CR 群
するために、CON 群と CR 群の餌を実験開始の
と同程度にまで急速に体重を減少させた。水はす
6 時間前に取り除いた。体重 1 kg 当たり 2 g のグ
べての群で自由摂取させ、体重および摂餌量は毎
ルコースを経口投与し、投与直前、投与30、60、
日測定した。なお、本実験は東京大学大学院総合
90、120分目に尾静脈から採血を行い、血漿グル
文化研究科・教養学部実験動物委員会による承認
コースおよびインスリン濃度を測定した。血漿グ
を得て実施した(承認番号:26-26)
。
ルコース濃度の測定にはグルコース CII テストワ
2 .骨格筋糖取り込み速度の測定
コー(和光純薬社)を、インスリン濃度の測定に
飼育期間終了日に骨格筋の糖取り込み速度の測
は ELISA キット(Mercodia 社)をそれぞれ用いた。
定を行った。直前の食餌摂取による影響を排除す
糖負荷試験終了後にイソフルランによる完全麻
るために、CON 群と CR 群の餌を実験開始 6 時
酔下において解剖を行い、腹腔内脂肪量を測定し
間前に取り除いた(FAST 群は 3 日前から既に絶
た。
食を開始している)
。イソフルランによる完全麻
3 .血漿アディポネクチン濃度
酔下において、両方の前肢から滑車上筋を傷つけ
アディポサイトカインの 1 つで、糖代謝能に大
ないように丁寧に摘出した。一方の筋は骨格筋の
きな影響を及ぼすことが知られているアディポネ
糖取り込み速度の測定用に用い、もう一方は糖輸
クチン7)の血漿中濃度を、経口糖負荷試験の 0 分
送体 GLUT-4発現量の測定に供した。
目(糖溶液投与前)のサンプルを用いて測定した。
傷つけないよう丁寧に摘出した滑車上筋を、イ
測定には ELISA キット(大塚製薬社)を使用した。
ンスリン(10 mU/ml)およびグルコースの類似
(88)
C.実験 3
し、毎日のエネルギー摂取量を CON 群の70%量
1 .実験動物および飼育方法
に制限した CR 群では、体重の増加が抑えられて
実験 3 では、絶食を 3 日間連続して行った場合
いた。また、FAST 群も最後の 3 日間に急激な体
と毎週 1 日ずつ 3 回に分けて行った場合とで、そ
重減少が認められ、飼育期間終了時の体重は CR
の効果に違いが認められるのか検討した。実験 1
群と同等であった(表 1 )。飼育期間終了時の体重、
および 2 と同様に高脂肪食を 2 週間摂取させた
腹腔内脂肪量および飼育期間中の総摂餌量は、両
ラットを、 1)CON 群(n = 5 )
、 2) 3 D
減量群に比べて CON 群で有意に高い値であった。
1 群(n
3 群(n = 5 )の 3 群に体重の平
また、CR 群に比べて FAST 群では、総摂餌量が
均値が均等となるように分けた。CON 群には、
有意に高いものであったが、飼育期間終了時の体
引き続き高脂肪食を 2 週間自由摂取させた(高脂
重および腹腔内脂肪量には CR 群と FAST 群の間
肪食を合計 4 週間摂取させた)
。3D
に有意な差は認められなかった(表 1 )。
=5)
、 3) 1 D
1 群は、
2 .骨格筋糖取り込み速度および GLUT-4蛋白
実験 1 および 2 の FAST 群と同様に、11日間は高
質発現量
脂肪食を自由摂取させ、最後の 3 日間に絶食を行
3 群には、 1 日間
最大インスリン刺激による骨格筋の糖取り込み
の絶食を週 1 回、 3 回行わせた(群分け当日, 7
速度は、CON 群と CR 群の間には有意な差は認
日目,14日目に 1 日ずつ絶食を行った)。
められなかったものの、FAST 群で CON 群およ
2 .経口糖負荷試験
び CR 群 に 比 べ て 有 意 に 高 い 値 を 示 し た(図
実験 2 と同様の方法を用い、経口糖負荷試験を
1 B)。同様に、骨格筋の主要な糖輸送体である
行い、血漿グルコースおよびインスリン濃度の測
GLUT-4の蛋白質発現量も、CON 群と CR 群の間
定を行った。
には差は認められなかったものの、FAST 群で有
い、急速に減量させた。 1 D
D.統計処理
意に高い値を示していた(図 1 C)
。更に、GLUT-4
データはすべて平均値±標準誤差で表した。群
蛋白質発現量と骨格筋の糖取り込み速度の間には
間の比較には一元配置の分散分析を用い、主効果
高い正の相関関係が認められた(図 1 D)。
B.実験 2
が認められた項目に関しては、Fisher s LSD 法を
用いて多重比較を行った。危険率 5 %未満をもっ
1 .体重、腹腔内脂肪量、摂餌量
て有意とした。
体重、腹腔内脂肪量および飼育期間中の総摂餌
量 は、 実 験 1 と 同 様 の 結 果 で あ っ た(Data not
結 果
shown)。
A.実験 1
2 .経口糖負荷試験
1 .体重、腹腔内脂肪量、摂餌量
経口糖負荷試験時の血漿グルコースおよびイン
飼育期間中の体重の変化を図 1 A に示した。飼
スリン値の変化を図 2 に示した。CON 群と CR
育期間中、CON 群の体重は増加し続けたのに対
群の間には、糖負荷試験時の血漿グルコース値の
表 1 .体重、総摂餌量、腹腔内脂肪量
(実験1)
Table 1.Body weight, food intake and intra-abdominal fat mass in rats.
CON
CR
FAST
Initial body weight
(g)
276
6
276
5
276
5
Final body weight
(g)
362
10
304
4***
305
6***
Food intake(g)
242
6
166
1***
187
4***
§§
28
2
18
1***
16
1***
Intra-abdominal fat mass
(g)
Values are means SEM, n = 8. *** Indicates significant difference from the
values obtained in the CON group at a level of P < 0.001. § §Indicates significant difference from the values obtained in the CR group at a level of P <
0.01.
(89)
P < 0.001
P < 0.001
P < 0.001
P < 0.001
r = 0.6255
P < 0.01
Plasma glucose
(mg/dl)
Glucose AUC(mg-min/dl)
Plasma insulin
(μg/l)
Insulin AUC(μg-min/l)
図 1 . 3 日間の絶食による減量が骨格筋の糖代謝能に及ぼす影響
Fig.1.Effects of slow and rapid weight loss on muscle glucose transport and GLUT-4 content in rats fed a high-fat diet.
(A), Body weight changes in rats during 2-wk intervention. Insulin-stimulated glucose transport activity(B)and GLUT-4
protein content(C)in rat epitrochlearis muscle.(D), Relationship between glucose transport and GLUT-4 content in rat
epitrochlearis muscle. Values are means SEM.
P < 0.001
P < 0.001
P < 0.001
P < 0.001
P < 0.01
図 2 . 3 日間の絶食による減量が全身の糖代謝能に及ぼす影響
Fig.2.Effects of slow and rapid weight loss on glucose tolerance in rats fed a high-fat diet.
Plasma glucose(A)and insulin responses(C)after oral glucose administration. The area under the curves
(AUCs)for plasma
glucose(B)and insulin
(D)during the 120-min period after oral glucose administration. Values are means SEM.
(90)
C.実験 3
変化に明確な差は認められなかったが、FAST 群
では、投与60分目までに血漿グルコース値の大き
1 .体重、腹腔内脂肪量、摂餌量
な増加が認められ、その後120分目まで高い値を
実験 1 および 2 と同様に 3 日間の絶食により
維持していた(図 2 A)
。血漿グルコース値のグ
3D
ラフから曲線下面積(area under the curve; AUC)
一方、 1 D
を算出したところ、CON 群と CR 群の間には差
し、CON 群に比べて飼育終了時の体重が有意に
は認められなかったものの、両群に比べて FAST
低い値を示したものの、毎回の絶食後に大量の飼
群で有意に高い値を示した(図 2 B)
。
料を摂取することで体重の減少量は 3 D
血漿インスリン値は、CON 群に比べて CR 群
比べて少ないものであった(表 2 )。また、腹腔
で低値を示し(図 2 C)
、インスリン AUC 値も
内脂肪量も同様に、CON 群に比べて 1 D
CON 群に比べて CR 群で有意に低い値を示して
よび 3 D
1 群では大きな体重の減少が認められた。
3 群でも絶食を行う度に体重が減少
3 群お
1 群で有意に低い値を示し、更に 1 D
3 群に比べて 3 D
いた。
(図 2 D)更に、FAST 群では血漿インスリ
1 群に
1 群で低い値を示す傾向に
ン値が最も低い値を示し、インスリン AUC 値も
あった(P = 0.06)(表 2 )。なお、飼育期間中の
他 の 2 群 に 比 べ て 有 意 に 低 い 値 で あ っ た(図
総摂餌量は、CON 群および 1 D
2 C,D)
。
3D
1 群で有意に低い値であったが、CON 群と
3 .血漿アディポネクチン濃度
1D
3 群には有意な差は認められなかった(表
CON 群と CR 群の間には血漿アディポネクチ
2 )。
ン濃度の差は認められなかったが、両群に比べて
2 .経口糖負荷試験
FAST 群において有意に低い値を示した(図 3 )。
経口糖負荷試験時の血漿グルコースおよびイン
3 群と比較して
Plasma adiponectin (µg/ml)
スリン値の変化を図 4 に示した。 1 D
び3D
1 群において、投与60∼90分目までに血
漿グルコース濃度の大きな増加が認められ(図
P < 0.001
4 A)、血漿グルコース AUC 値も、CON 群に比
P < 0.001
4.0
3 群およ
べて有意に高い値を示した(図 4 B)。また、 3 D
3.0
1 群の血漿グルコース AUC 値は 1 D
2.0
3 群と比
べても有意に高い値であった。
1.0
血漿インスリン値は、CON 群に比べて 1 D
0.0
CON
CR
群および 3 D
FAST
1 群で低値を示し(図 4 C)、イン
スリン AUC 値も CON 群に比べて両減量群で有
図 3 . 3 日間の絶食による減量が血漿アディポネ
クチン濃度に及ぼす影響
Fig.3.Effects of slow and rapid weight loss on plasma
adiponectin concentration in rats fed a high-fat diet.
Values are means SEM.
意に低い値を示していた(図 4 D)。一方、 1 D
3 群と 3 D
1 群の間に血漿インスリン AUC 値の
有意な差は認められなかった。
表 2 .体重、総摂餌量、腹腔内脂肪量
(実験3)
Table 2.Body weight, food intake and intra-abdominal fat mass in rats.
CON
Initial body weight
(g)
228
3
3D
228
1
3
1D
3
228
5
Final body weight
(g)
316
8
264
5***
292
7*§
Food intake(g)
239
11
194
8**
222
6§
20
1
14
1***
17
1*
Intra-abdominal fat mass
(g)
3
Values are means SEM, n = 5. *, ** and *** Indicate significant differences from the values obtained in the CON group at levels of P < 0.05, P
< 0.01 and of P < 0.001, respectively. §Indicates significant difference
from the values obtained in the 3D 1 group at a level of P < 0.05.
Plasma insulin
(μg/l)
Insulin AUC(μg-min/l)
Plasma glucose
(mg/dl)
Glucose AUC(mg-min/dl)
(91)
P < 0.01
P < 0.001
P < 0.05
P < 0.01
P < 0.001
図 4 .週 1 日× 3 回もしくは 3 日間連続× 1 回の絶食が全身の糖代謝能に及ぼす影響
Fig.4.Effects of weight loss induced by consecutive- or separate-day fasting on glucose tolerance in rats fed a high-fat diet.
Plasma glucose
(A)and insulin responses
(C)after oral glucose administration. The area under the curves
(AUCs)for plasma
glucose(B)and insulin(D)during the 120-min period after oral glucose administration. Values are means SEM.
臓脂肪量を減らすことに加えて、この GLUT-4の
考 察
発現量を増やすことが重要であると考えられてい
毎日のエネルギー摂取量を20∼30%程度減少さ
る。本研究では、FAST 群において滑車上筋の
せることで、内臓脂肪の蓄積を防ぎ、糖尿病をは
GLUT-4発現量と最大インスリン刺激による糖取
じめとする生活習慣病の発症を予防できることが
り込み速度の顕著な増加が認められ、更に両者の
数多くの研究により報告されている
。本研究で
間には高い相関関係が認められた(図 1 )。した
は、 3 日間の絶食を行うことでも、高脂肪食を摂
がって、短期間の絶食には、内臓脂肪量の減少に
取したラットの体重および腹腔内脂肪量を 2 週間
加えて骨格筋の GLUT-4の発現量を増加させるこ
のエネルギー摂取制限を行った場合と同程度に減
とで骨格筋の血糖処理能力を向上させる効果があ
少させることが明らかになった。更に本研究では、
る可能性が示唆された。
CR 群に比べて FAST 群では、飼育期間中の総摂
以上のように短期間の絶食は、骨格筋の糖代謝
餌量すなわちエネルギー摂取量は有意に高いもの
機能に対して好ましい効果をもたらすことが明ら
であった(表 1 )。したがって、体重および内臓
かになったことから、実験 2 では、短期間の絶食
脂肪量を減少させるためには、長期間のエネル
により全身の糖代謝能も改善する、という仮説の
ギー摂取制限よりも、数日間絶食を行うほうがよ
下、経口糖負荷試験を行った。その結果、我々の
り効率の良い方法であるのかもしれない。
仮説に反し、FAST 群では糖負荷試験時の血漿グ
先行研究により、インスリン最大刺激による骨
ルコース AUC 値の顕著な増加、すなわち耐糖能
格筋糖取り込み能力と GLUT-4発現量の間には高
の悪化が認められた。FAST 群では CON 群や CR
い正の相関関係が認められることが報告されてい
群に比べて血漿インスリン AUC 値が低値を示し、
ることから 、生体内における最大の血糖処理器
また全身の糖代謝能に大きな影響を及ぼすことが
官である骨格筋の糖代謝能を高めるためには、内
知られているアディポネクチン7)の濃度も他の 2
2,5)
4)
(92)
群に比べて有意に低い値であったことから、短期
増加することで、骨格筋の血糖取り込み能力が向
間の絶食は、腹腔内脂肪量を減少させ、更に骨格
上するものの、インスリン分泌能力が低下するこ
筋の血糖処理能力を高めるものの、血糖低下作用
とで、全身の糖代謝能・耐糖能は顕著に悪化する
をもつインスリンの分泌能力やアディポネクチン
ことが明らかとなった。更に、絶食期間を分散さ
の血中濃度を低下させることで、高血糖状態を引
せて、 1 回当たりの絶食時間を短くし、その負担
き起こしてしまう可能性が示唆された。一方、
を軽減したとしても、耐糖能の悪化を防ぐことは
CR 群でも CON 群に比べて糖負荷試験中の血漿
できない可能性が示唆された。
インスリン AUC 値が低値を示していたが、血漿
グルコース AUC 値は CON 群と同等の値であっ
謝 辞
た。この結果は、CR 群ではより少ないインスリ
本研究に対して多大な助成を賜りました公益財団法人
ン分泌で血糖を十分に処理できていたことを示し
ており、高脂肪食摂取によるインスリン抵抗性を
改善できていたと考えられる。
明治安田厚生事業団に深く感謝いたします。また、本研
究の遂行にあたり多大なご協力を賜りました東京大学大
学院総合文化研究科の稲井真氏、西村脩平氏、浦島章吾
氏に深くお礼申し上げます。
実験 2 において、 3 日間の絶食により全身の耐
糖能が悪化することが明らかとなったが、絶食を
3 日間連続して行うことで、生体に大きな負担が
かるため、糖代謝能が悪化したという可能性が考
えられる。そこで実験 3 では、絶食を 3 回(毎週
参 考 文 献
1)DeFronzo RA, et al.(1985): Effects of insulin on peripheral and splanchnic glucose metabolism in noninsulindependent(type II)diabetes mellitus. J Clin Invest, 76,
149-155.
1 回, 1 日間ずつ)に分散し、 1 回の絶食に伴う
2)Han DH, et al.(1997)
: Insulin resistance of muscle glu-
負担を軽減することで糖代謝能に対する悪影響を
cose transport in rats fed a high-fat diet: a reevaluation.
なくすことができるのかを検討した。その結果、
Diabetes, 46, 1761-1767.
3 日間の連続絶食よりも効果は小さいものの、絶
食を 3 回に分散させることでも体重および腹腔内
3)Higashida K, et al.(2013)
: Effects of alternate-day fasting
on high-fat diet-induced insulin resistance in rat skeletal
muscle. Life Sci, 93, 208-213.
脂肪量の減少が認められた。しかしながら、 3 日
4)Kawanaka K, et al.(1997): Changes in insulin-stimulated
間の連続絶食と同様に、絶食を 3 回に分散させた
glucose transport and GLUT-4 protein in rat skeletal mus-
1D
3 群においても、糖負荷試験時のインスリ
ン分泌が低下し、耐糖能の悪化が認められた。し
たがって、 1 回の絶食期間(時間)を短くし、負
cle after training. J Appl Physiol, 83, 2043-2047.
5)Kim JY, et al.
(2000)
: High-fat diet-induced muscle insulin
resistance: relationship to visceral fat mass. Am J Physiol
Regul Integr Comp Physiol, 279, R2057-R2065.
担を軽くしたとしても、絶食を繰り返し行った場
6)Weiss EP, et al.
(2006)
: Improvements in glucose tolerance
合には全身の糖代謝能を悪化させてしまう可能性
and insulin action induced by increasing energy expendi-
が示唆された。
ture or decreasing energy intake: a randomized controlled
trial. Am J Clin Nutr, 84, 1033-1042.
総 括
短期間の絶食により、腹腔内脂肪量が大きく減
少し、更に骨格筋の糖輸送体 GLUT-4の発現量が
7)Yamauchi T, et al.
(2008)
: Physiological and pathophysiological roles of adiponectin and adiponectin receptors in
the integrated regulation of metabolic and cardiovascular
, S13-S18.
diseases. Int J Obes(Lond)
, 32(Suppl 7)
Fly UP