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第 4 章 圧密貯留層帽岩内におけるケーシング破壊解析

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第 4 章 圧密貯留層帽岩内におけるケーシング破壊解析
第4章
圧密貯留層帽岩内におけるケーシング破壊解析
4.1
背景と目的
近年、ルーフ効果を伴うような圧密貯留層帽岩内においてケーシングが破壊される事例
が増加している。本章では正しく解析されていなかった帽岩内でのケーシングの引張破壊
について言及する。また、生産井を掘削する前の exploration well により地中の状態を把握
してからケーシングデザインは行われる。ここでは exploration well のデータ採取後の引張
状態になると考えられる帽岩内を前提とした解析を行う。
4.1.1
ケーシング設計と提案
近年、生産に伴い非常に大きく孔隙圧が変化する油層において、坑井内ケーシングが激
しい伸縮を受け破壊する事故が増加している。通常、油田の坑井に使用されるケーシング
の設計は、米国石油協会規格(以下、API 規格)による内圧・引張・圧潰降伏値を基準に
行われている。この設計法はケーシングの今まで求められてきた本来の機能と、ケーシン
グの性質を考慮した設計法である。ケーシングの従来の目的の一つは、地層からの流体圧
力を遮断し、高圧地層からの流体の浸入を防ぐことであった。そのため、ケーシングの圧
潰・内圧設計にはケーシング内部・外部に高圧流体があることを想定し、試験が行われて
きた。内部・外部の流体による圧力は、ケーシングの座屈荷重を上げることはあるものの、
いったんケーシングが塑性変形や座屈を開始すると変形を阻止することはなく、ケーシン
グは一気にバーストあるいは圧潰する。またケーシングは降伏を起こすと破壊点までほぼ
一定の外力で破壊する。断面積が変化するので降伏後の最大真応力は増加するが、元の断
面積で割った最大公称応力(引張強度)は降伏後それほど増加しない。従ってケーシング
の全体にかけられる最大荷重は降伏点を基準に設計することが最適である。ケーシング設
計には、引張試験として吊り荷重に耐える設計も行われるが吊り荷重設計ではいったんケ
ーシングが降伏を起こすと、伸びとともに引張強度に至るまでは安定的に耐えるものの、
それを超すと破断にいたるまで伸びを阻止する方法がないので塑性変形を起こさぬように
降伏点以下で設計される。従って、管が塑性変形しないこと、もしくは座屈による破壊を
起こさないことがケーシング設計の基準であり、通常 API 規格による引張降伏値を使って
設計する。
しかし、層が厚く孔隙率が高い北海のチョーク層・石灰岩貯留層周辺では、貯留層での
油ガス生産に伴う貯留層圧力の減退によって貯留層の圧密が激しく起こるため、ケーシン
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グが降伏値を超えて圧縮をうける。それと同時に、貯留層の圧力減退から上部帽岩内では
5 %を超える引張歪みをうける場合もある。またメキシコ湾の深層砂岩層でも、有効地圧(=
地圧-孔隙圧)が低く、孔隙率の高い貯留層が多く発見されている。それらの貯留層では
仕上げ後、生産中の圧密が大きく、ケーシングの伸縮が数%以上になる。このような伸縮の
大きな地層に設置されたケーシング設計を、周囲が流体であると想定した試験による API
規格基準で行うと、異常に高い降伏強度を持つ高グレード且つ異常に厚いケーシングを用
いる設計が必要となる。この場合生産性に一切あるいはほぼ影響を与えないようにするに
はコストが非常に高くなる。しかしそのような理想的な設計は難しく、現場では様々な制
約のために、高価で生産性の低い生産井になってしまう。
これに対して、地層は強度をもった岩石であるためケーシングの降伏後も周囲が流体の
ように無限にケーシングが歪むわけではなく、ケーシングの降伏や座屈は必ずしも管の破
壊を伴うものではない。実際のフィールドにおいても、数%伸びた状態でもケーシングを使
用できているということから、塑性変形を起こしても破断せず大きく変形さえしなければ、
地層に設置されたケーシングは問題ないといえる。すなわち、ケーシングの降伏強度を超
えても地層自体の強度によって荷重を担わせ、ケーシングと地層の強度によって坑内のケ
ーシングの損傷を操業に支障をきたさない程度に収めることが重要である。強度の高いケ
ーシングは、強度を得る一方で、伸性・延性が低く、脆性な傾向がある。そのため、強度
を優先することで、脆さから破断しやすい可能性もある。そこで、坑井保持・激しい伸縮
を伴う地層歪みに対応するケーシングの設計法として、伸び強度を基準に行う新しい設計
法を提案する。貯留層内でのケーシング破壊は圧潰、圧密座屈、せん断破壊が多いが、帽
岩内でのケーシング破壊は、引張・せん断破壊が多い。本章では帽岩内のケーシング破壊
で正しく解析がなされたことのなかった、ケーシングの引張破壊に焦点をあてて解析を行
う。すなわち従来のケーシング設計では降伏値を基準に設計してきたが、ここでは地層か
らの流体圧を遮断し、高圧地層からの流体の浸入を防ぐという従来の目的には従来の降伏
値を基準とするのに対し、坑井保持・激しい伸縮を伴う地層歪みに対応するケーシング設
計に、伸び強度を基準に行う設計法を提唱する。
なおここで述べるケーシング極限設計は 3~6 年でケーシングが破壊するような状態の貯
留層でケーシング寿命を延長する際に応用可能な方法である。20~30 年のスパンで使用す
る際は腐食問題があり安全率を十分とったケーシング設計が必要である。従来の API 規格
では降伏後の強度増加がデザインミスの安全率、または腐食後の安全率として機能してい
たところもあり、長期に使用されるケーシングに対しては腐食鋼管の強度・塑性挙動が解
明されるであろう将来の研究にゆだねる。
4.1.2
対象となる貯留層特性
一例として Magnolia Field をあげる。これは油 32,600 stbd、ガス 100MMscfd の生産量
を持つフィールドで、図 4.1.1 に示すように、メキシコ湾中央、水深 4,673 ft のオフショア
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に位置し、テンションレグプラットフォーム、仕上げはグラベルパックスクリーンで生産
されている。ここ Magnolia Field では Li, X., et al.(2003)とほぼ同様のケーシング問題が
起きている。
図 4.1.1
Magnolia Reservoir の海洋マップ
この地域にはいくつかの同様な貯留層が存在し、Alex, D. Procyk., et al.(2007)より図
4.1.2 の地震探査図が示すように貯留層(図中の赤丸)が岩塩ドームの上層部に位置する。
貯留層は 100~400 ft と厚いが、図 4.1.3 に示すように各貯留層および上部地層は断層によ
って分断されており、それぞれの貯留層セクションは密閉され、圧力減退は互いに影響を
及ぼしあわない。それぞれの貯留層幅は 1,250~2,500 ft であり、貯留層としては、異常な
ほどに層厚に対して幅が小さい。このように層厚が幅に対して異常に大きな貯留層では、
通常考えられない問題が起きる。
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図 4.1.2
Magnolia Field の地震探査図
図 4.1.3 断層で分断された貯留層
箱に圧力をかけたかのように貯留層天井部がたわみ、帽岩が貯留層内部に引きずり込ま
れたような形になる。このような現象をルーフ効果(Roof effect)と呼び、天井部の帽岩の垂
直応力が非常に減少する。またキャップロック内の水平地圧もある程度変化する。従って、
帽岩内での垂直歪みは引張歪みになり、水平歪みは圧縮歪みとなる。一方、ルーフ効果に
対して、一般の圧密は一軸圧密(Uniaxial compaction)と呼ばれ、層厚が幅に対して非常に
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小さいので、貯留層が垂直方向に均質に圧密を起こすため、横方向の歪み成分は 0 となる。
帽岩は貯留層の圧密とともに重力によって垂直に移動するだけで横方向の歪みは 0 であり、
縦方向の歪みは海底面まで徐々に小さな歪みを起こすだけである。帽岩内の地圧変化は無
視できるほど小さい。貯留層内の圧密はルーフ効果があると屋根が支えるので同条件の一
軸圧密の場合より多少小さくなるが、この貯留層は孔隙率が 30%以上もあるため圧密が激
しく、したがって貯留層内、帽岩内で様々な生産障害を引き起こす。
4.1.3
研究の概要と目的
前述のように近年の開発では、従来のものと異なり特殊な貯留層形状と高圧密が生じる
ことにより、想定していなかった引張によるケーシングの破壊という現象が起きている。
本章で貯留層を限定しているのは、帽岩内でのケーシング引張破壊が起こりうるルーフ効
果を伴うような圧密を起こす貯留層は 30%を超す高孔隙であるためである。これに対する
研究方法の概要は以下の通りである。
(1)有限要素法モデルを用いてルーフ効果を伴う圧密貯留層の解析
(2)公開あるいはデータ取得が行われていない実験によるケーシングの引張歪みデータの
取得
(3)実験データの分析
(4)データとシミュレーションとの解析
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