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国際教育協力長期派遣専門家に関する一考察 -インドネシアでの経験から

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国際教育協力長期派遣専門家に関する一考察 -インドネシアでの経験から
広島大学教育開発国際協力研究セン タ ー『 国際教育協力論集』 第 5 巻第 2 号( 2002) pp.33 ~ 43
国際教育協力長期派遣専門家に関する 一考察
-イ ン ド ネシア での経験から -
黒 田 則 博
( 広島大学教育開発国際協力研究セン タ ー)
はじ めに
1 年間のイ ン ド ネ シ ア での国際協力事業団
( JICA) 派遣長期専門家の経験を も 踏ま え 、
平成 12 年 6 月の外務省の「 政府開発援助
長期専門家の活動の一端を 紹介し その問題点
に関する 中期計画」にも 盛り 込ま れている よ
や課題を 指摘する と と も に、
“ 顔の見え る ”専
う に、日本の国際開発協力において近年“ 顔
門家に向け て の若干の提言を 行おう と 試み
の見え る 援助”の重要性が指摘さ れる よ う に
る。
な っ て いる 。 日本と いう 抽象的な 概念よ り
なお長期専門家には、プロ ジェ ク ト に携わ
も 、個々の日本人が汗を かいている 様子がみ
る 専門家と 途上国の省庁等に単独で派遣さ れ
え る 国際協力と いう こ と と 理解すれば、国際
ている いわゆる 個別専門家と があ り 、それぞ
協力が途上国の人々にと っ ても ま た日本の国
れに事情が異なる ため、こ こ では筆者の経験
民にと っ て も よ り 具体的で身近な も のと な
し た後者に焦点を 絞っ て論ずる 。
り 、その意味では歓迎さ れる べき こ と であ ろ
う。
1 . 何が期待さ れたか―専門家業務内容
( Terms of Reference = TOR)
し かし 、 ま さ に現地での日本の“ 顔” たる
べき 、専門家やその他の国際協力に従事し て
いる 日本人がはた し て ど のよ う な “ 顔” を
派遣前にま ず個別専門家と し てど のよ う な
も っ て活動を 行っ ている のかは必ずし も 明ら
職務の遂行が期待さ れている かを 知る 手立て
かではない。筆者ら が行っ た調査1)によ れば、
が、 TOR と いわれる も のであ る 。 私の TOR
専門家は少なから ず問題を 抱えている こ と が
によ れば、私はイ ン ド ネシア 共和国の国民教
明ら かになっ ている 。それは単に専門家個人
育省高等教育総局に配属さ れ、高等教育行政
の資質の問題に止ま ら ず、専門家に実際に期
について何ら かの“ 指導” を 行う こ と になっ
待さ れている こ と と 額面上の職務内容と の乖
ている 。こ こ で“ 指導” と いう 言葉を 使っ た
離、 専門家の養成・ 募集シス テム 、 事前の準
のは、 こ の TOR において高等教育行政が私
備、サポート シス テム など 多岐にわたっ てい
の“ 指導科目” と さ れている ためであ る 。明
る。
ら かにこ れは典型的な技術移転型専門家の発
さ ら には、専門家の役割も 多様化し つつあ
想で、高等教育行政について優れた知識・ 技
り 、従来の技術移転型専門家に加え 、政策ア
能を 有する 私が、 そ のよ う な 知識や技能を
ド ヴァ イ ザーや調整型専門家など と 呼ばれる
持っ ていないイ ン ド ネシア 側( 以下イ 側と 呼
専門家も 増加し ている 。
ぶ)カ ウ ン タ ーパート に対し てこ れを 移転す
そこ で本論では、派遣専門家の数が年々増
る と いう 姿が想定さ れている 。し かし 、 先に
加し つつあ る 教育分野を 事例と し て、自ら の
述べたよ う に専門家に期待さ れる 役割が多様
1)
黒田則博、澤村信英、西原直美「 国際教育協力長期派遣専門家に関する 一考察―JICA教育専門家に対する ア ン ケ ー
ト 調査の分析から 」 広島大学教育開発国際協力研究セン タ ー『 国際教育協力論集』 1999 年 Vol. 2 No. 2 pp. 155170.
- 33 -
国際教育協力長期派遣専門家に関する 一考察-イ ン ド ネシア での経験から
化し つつあ る のみなら ず、オーナーシッ プや
て議論でき る こ と を 楽し みにし ていた。
パート ナーシッ プが強調さ れ、
“ 援助する 側”
し かし 私が初めて総局長に会っ た時の彼の
と“ 援助さ れる 側” と の関係が再考さ れつつ
第一声は、「 黒田さ んはこ こ でいっ たい何を
あ る 中、そも そも こ のよ う な技術移転型の専
し たいのか」 と いう も のであ っ た。私は一瞬
門家のみを 念頭においた TOR 自体が改訂さ
耳を 疑っ たが、黒田と いう 人間がイ ン ド ネシ
れる 必要があ る よ う に思われる 。
ア の高等教育について何ができ 、何を し てく
さ て 、 も っ と 具体的に何が期待さ れた の
れる のかと いう 、いわば私に対する 値踏みで
か。第一に、「 政策策定に際し ての情報提供、
あ る と 理解し た。プラ イ ド の高いイ ン ド ネシ
助言」 を 行い、 イ 側の「 高等教育に関する 適
ア 人、し かも 高等教育総局長と いう 高い地位
切な政策決定」 に貢献し 、 第二に、「 高等教
にあ る 人なら ではの言い回し であ っ た。決し
育機関の運営に関する 調査研究、指導、助言」
てこ れを し て欲し いと か、あ れが必要だと い
を 行い、「 高等教育機関の運営の改善と 教育
う よ う な“ 懇願” はし ない。 それにし ても 、
研究の活性化」 を 促し 、 さ ら には「 JICA 教
イ ン ド ネシアの高等教育政策策定への私から
育関係諸プロ ジェ ク ト 及び各支援機関事業と
の何ら かの貢献について、彼が一切言及し な
の連絡調整」 を 行い、 も っ て「 各高等教育支
かっ たのはなぜだっ たのか。
援事業の効果的実施」に資する こ と と さ れて
実はイ ン ド ネシア は、高等教育政策につい
いる 。 明ら かにこ の TOR は、 いわゆる 政策
てはすでに既定の路線を 歩み始めており 、い
ア ド ヴ ァ イ ス 型と 調整型、両方の専門家の役
ま さ ら 高等教育政策について特にアド ヴァ イ
割を 期待し ている 。
ス を 必要と し ていなかっ たのである 。つま り 、
はたし てこ のよ う な TOR に書かれている
規制緩和、 独立法人化、 ア カ ウ ン タ ビ リ
役割が、 実際にイ 側の期待し て いる も ので
ティ ー、公的部門への市場原理の導入等々に
あ っ たのか。
特徴づけら れる 、いわゆる 新自由主義に基づ
く 高等教育の構造改革路線が進行し つつあっ
2 . 何を し よ う と し たのか
たのであ る 。こ の路線については、1996年に
総局が作成し た 「 高等教育長期発展計画 1996 - 2005」 2) の中にそ の萌芽的な ア イ
( 1 ) TOR は正確だっ たか
1 )政策ア ド ヴ ァ イ ス が必要と いう のは本
ディ ア が散見さ れ、 さ ら には、 2000 年 7 月
の「 高等教育戦略: ニュ ー・ パラ ダイ ム の実
当?
赴任する ま では、当然カ ウ ン タ ーパート で
施」 3)において 一層鮮明な 形で提示さ れて い
ある 高等教育総局長に対し て政策アド ヴァ イ
る。
ス を 行う こ と が、私の主たる 職務であ る と 固
それでは、こ れら の政策形成について誰が
く 信じ ていた。実際私自身、 高等教育の国際
助言し ど のよ う な 影響を 与え た のであ ろ う
化やグロ ーバル化と 呼ばれる 現象についてこ
か。少なく と も 、日本から こ れま でにこ のポ
こ 数年資料も 収集し 、わずかではあ る が研究
ス ト に派遣さ れたア ド ヴ ァ イ ザー4)ではなさ
も し てき たつも り であ っ たので、あ る 意味で
そう であ る 。日本において構造改革の流れの
総局長と イ ン ド ネシアの高等教育政策につい
中で、国立大学の独立法人化が本格化し てき
2)
Ministry of Education and Culture, Directorate General of Higher Education, Framework for Long-Term Higher Education
Development 1996-2005, pp. 1-299, 1996.
3)
Ministry of National Education & National Development Planning Agency, the Republic of Indonesia and the World Bank,
“New Paradigm in Higher Education”, Education Reform in the Context of Regional Autonomy: the Case of Indonesia, pp.
164-281, 2001 と し て再録。
4)
本ポス ト に派遣さ れた専門家は黒田で 6 人目であ る 。
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黒田 則博
たのはこ こ 2 ~ 3 年のこ と であ り 、 よ ほど の
2 ) JICA 等と の連絡調整が仕事?
構造改革推進論者でないかぎ り 、こ のよ う な
TOR の最後に書かれている「 JICA 教育関
政策の助言を 行う 日本の大学関係者や教育行
係諸プロ ジェ ク ト 及び各支援機関事業と の連
政官はいないであ ろ う 。むし ろ 、 世界銀行の
絡調整」 が、ま さ に連絡調整型専門家に期待
影響が ち ら ほ ら 窺え る 。 例え ば先に 述べた
さ れている 重要な役割であ る 。こ の職務内容
「 高等教育戦略」 は、1999年に世銀の支援を
の前段は、赴任当時実施さ れていた高等教育
得て 国民教育省等が組織し た 、 教育タ ス ク
分野での 3 つのプロ ジェ ク ト を 中心と する 、
フ ォ ース 報告書の高等教育に関する 部分であ
JICA の高等教育関連事業全体についてア ド
る 。ま た 1990 年代の中頃から 、 イ ギ リ ス や
ヴ ァ イ ス を 行う と と も に、 実際に連絡調整
オース ト ラ リ アなど の高等教育の独立法人化
( 事業間及び JICAと 高等教育総局と の)に当
や民営化の最先端を 行く 国の専門家が世銀の
たる こ と であ り 、後段は高等教育分野で協力
コ ン サルタ ン ト と し てイ ン ド ネシア に入り 、
を 行っ ている JICA を 含む援助機関の間の連
セミ ナー等を 通じ 影響を 与えたも のと 思われ
携を 図る こ と 、すなわちド ナー間協調を 促進
る。
する こ と であ る 。
し かし こ こ で強調し ておき たいこ と は、ア
こ れら は教育協力を 進めていく 上で確かに
フ リ カ 諸国など でし ばし ば見ら れる よ う に、
重要なこ と ではあ り 、後述する よ う に、実際
世銀等の援助機関が政策文書を 作成し それが
に私の仕事の少な から ぬ部分を 占めて いた
そのま ま 当該国の政府文書と なる と いっ た直
が、イ 側と の話し 合いの中でこ のよ う な役割
接的な影響あ る いは介入は、イ ン ド ネシア に
を 私が積極的に果たすよ う 明確に要望さ れた
限っ てはあ り え ないと いう こ と であ る 。途上
こ と はなく 、 むし ろ 直接的には JICA がこ の
国と はいえ 、高等教育行政については一応有
よ う な役割を 担う 人材を 必要と し たと いう こ
能な 人材を 有し て いる
と であ ろ う 。
5)
。 事実先のタ ス ク
フ ォ ース のメ ン バーはすべてイ ン ド ネシア人
さ ら に、そも そも イ 側にオーナーシッ プ意
であ る し 、「 高等教育戦略」 の執筆者も 同様
識と それを 行使でき る だけの能力があ れば、
であ る 。
事業間やド ナー間の調整や協調は、外部の者
要する に、イ 側に政策立案能力も あ り 、さ
ではなく イ 側自身が行う べき 性格のも のであ
ら には既に高等教育政策が策定さ れている こ
ろう 。
と から 、そも そも 最初から こ のポス ト に政策
3 ) イ 側に代わっ て案件の発掘・ 形成を 行
立案へのアド ヴァ イ ス など 求めていなかっ た
う こ と が重要?
のであ る 。
案件の発掘・ 形成は TOR にこ そ書かれて
な お、 TOR の第二に掲げら れて いる 「 高
いないが、 イ 側にと っ ても JICA 側にと っ て
等教育機関の運営に関する 調査研究、 指導、
も 暗黙裡に期待し ている も のである こ と は確
助言」 は、上記の高等教育の構造改革の実施
かであ っ た。事実前任の方々は、 新し いプロ
に関わる こ と と 理解さ れる が、こ れについて
ジェ ク ト を 作ろ う と 努力さ れたよ う であ り 、
も 調査研究を 除いては、イ 側と し ては、それ
それが実を 結んで実施に移さ れたプロ ジェ ク
は自分たち自身の仕事であ っ て、外部の人間
ト も 現にあ る 。
が関与すべき こ と ではな いと の態度であ っ
し かし 自助努力と それに基づく 要請主義を
た。
重要な原則と する 日本の ODA において、 日
5)
局長ク ラ ス の人材は、 多く は大学の教官( 大半が外国で博士号を 取得)と の併任、 あ る いはそれから の転職 (引抜
き )であ る 。
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国際教育協力長期派遣専門家に関する 一考察-イ ン ド ネシア での経験から
本から 専門家を 送り 当該国への援助事業案を
て、ど の分野において、ど のよ う な外国から
その国に代わっ て作成する と いう のは、いか
の協力が必要か)を 明確にし ておく こ と が不
にも 奇妙であ る 。技術援助の本質は、例え ば、
可欠であ ろ う 。すなわちよ り 戦略的な援助メ
魚の捕り 方を 教え る こ と であ っ て、永久に魚
ニュ ーの作成が必要であ ろ う 。
そのも のを 援助し 続ける こ と ではないと 、誰
政策アド ヴァ イ ス と いう 本来の役割が期待
し も が指摘する 。と する なら ばこ こ での本旨
さ れていないと いう のであ れば、こ こ にこ そ
は、いつま でも 途上国のためにプロ ジェ ク ト
その職務の意義があ る と 認識し 、高等教育総
の発掘・ 形成を 行う こ と ではなく 、そのこ と
局自身に“ 国際教育協力を 活用する 力”( 案
ができ る よ う に能力の形成を 支援する こ と で
件形成力、 調整・ 交渉力等々) を つけても ら
あろう 。
う と と も に、それを 推進する 制度やシス テム
4 ) 結論
を 形成する こ と を 目指すこ と と し た。
以上のと おり 、最も 専門性が必要と 思われ
そこ で、「 国民教育省高等教育総局が、 高
る 高等教育政策策定へのアド ヴァ イ ス につい
等教育発展計画にマッ チし た国際協力事業を
ては、実はその要望はなく 、実際にイ 側あ る
発掘し 企画立案でき る よ う になる こ と 」 を 、
いは JICA 側が求めていたも のは、 連絡調整
私の業務において達成すべき 上位の目標と し
的機能と 案件形成と いう 役務提供である と い
て業務実施計画書において明記し た。こ れは
う こ と が徐々に明ら かになっ てき た。し かも
当初の TOR を 変更する こ と になる も のであ
こ れら の役割は本来的にはイ 側が果たすべき
り 、カ ウ ン タ ーパート であ る 同総局長と の協
も のであ る 、 と の認識を 持つよ う になっ た。
議・ 合意の上で設定し たも のであ る 。
そ こ で 1ヶ 月ほど いろ いろ 考え あ ぐ ねた
本専門家の場合、 1 年間と いう 短い任期で
末、 本来のあ る べき 方向に私の TOR を 変更
も あ り 、ま た国民教育省高等教育総局のア ド
すべく 、その提案を 高等教育総局長に提出す
ヴ ァ イ ザーと いう 本来の立場から 考え て、従
る こ と と し た。
来し ばし ばそ う であ っ た よ う に、 イ 側に代
わっ て個々のプロ ジェ ク ト の発掘・ 形成を 行
( 2 ) TORの変更
う と いう のではなく 、でき ればイ 側自体にこ
上述のよ う にイ 側は、高等教育政策の策定
のよ う な意識や能力が形成さ れる こ と を 最終
について はそ の能力も あ り 大いにオーナー
的な目標と し たも のであ る 。理想的には私の
シッ プを 発揮し ている こ と は確かであ る が、
よ う なア ド ヴ ァ イ ザーがこ こ にいなく ても 、
こ と その政策実施のためにいかに国際的な協
イ 側自身がその政策にマッ チし たプロ ジェ ク
力を 活用する かについては、主体的な取組み
ト を 形成・ 提案でき る よ う になる こ と が望ま
も 十分ではなく その能力にも 欠けている こ と
れる のであ る 。いずれにし ても 、一貫し て持
が明ら かになっ てき た。
続可能性( sustainability) を 展望し つつ、 イ
こ の国の高等教育における 開発予算( 事業
側のオーナーシッ プを 重視・ 鼓舞し 、能力形
費) は、 毎年 40 ~ 60%も の多く を 外国から
成を 促すと いう 態度で臨むこ と と し た。
の援助( その大半が借款) に依存し ている に
も かかわら ず、それら 外国から の支援が必ず
3 . 何を し たか
し も 戦略的、計画的に活用さ れていないのが
実情であ る 。こ れだけ政策立案についてオー
私が実際に行っ た活動は、 2 種類に大別さ
ナーシッ プの強いイ 側であ っ てみれば、自ら
れる 。 ひと つは、 新たに TOR に盛り 込んだ
が高等教育計画の一環と し て 外国から の支
上記の“ 国際教育協力を 活用する 力” の形成
援・ 協力の必要性( ど の政策の実施にあ たっ
に関わる 活動であ り 、他方は旧来型の連絡調
- 36 -
黒田 則博
整的な業務であ る 。以下に、 それぞれの主な
を 行っ た。
活動を 記述し た。
上記の資料は今後プロ ジェ ク ト を 発掘・ 形
成し ていく 上での基本情報と し て活用が期待
さ れる も のであ る が、さ ら に、こ のよ う な作
( 1 )“ 国際教育協力を 活用する 力” の形成
に向けて
業を 総局長はじ め各局長と と も に行う こ と を
1 ) 現行の高等教育政策・ 施策及び国際協
通じ て、プロ ジェ ク ト 形成プロ セス の一つを
関係者がと も に経験する こ と になり 、高等教
力事業のマッ ピ ン グ
イ 側が主体的に、組織的、体系的で調整の
育総局内における 国際協力に対する 主体的取
と れたプロ ジェ ク ト 形成ができ る よ う に、ま
組みへの学習プロ セス の第一歩と 位置付けら
ず現下の高等教育戦略・ 政策と こ れま での国
れる 。
際的な協力・ 援助が対応し ている のか、それ
2 )「 連携・ パート ナーシッ プ国際ネッ ト
提案し 高等教育総局の合意と 協力を 得て、い
ワ ーキ ン グ ・ セン タ ー」( Center for
International Networking for
Collaboration and Partnership) の設置
わゆる Review Table 作り を 行っ た。 総局長
上記1 ) の作業を 進める 過程で、私が高等
や各局長と の数回にわたる イ ン タ ヴュ ーや提
教育政策を 有効に実施し て いく には国際協
供さ れた資料を 基に、 2002 年 1 月中旬に一
力・ 援助を も っ と 組織的・ 体系的に活用すべ
応の完成を みた 。 本来イ 側のオーナーシッ
き で あ る と 再三指摘し た こ と も あ っ て 、
プや自主性を 重視する と いう こ と であ れば、
2002 年 1 月に標記セン タ ーが高等教育総局
JICA 専門家であ る 私の協力を 得て、 総局自
内に設置さ れる こ と と なっ た。私がこ のよ う
と も 相互の関係が十分意識さ れてこ なかっ た
のかについて、いわば見取り 図を 作る 作業を
6)
身が本作業に取り 組むべき と こ ろ であ る が、
なセン タ ーの設置を 直接提案し たわけではな
何分総局長を 含め6人の局長は極めて多忙な
いが、高等教育総局側において国際協力の組
上、こ れら 局長以外に高等教育政策について
織的な推進の必要性が十分理解さ れたこ と か
十分理解し ている 人材がいないこ と から 、総
ら 、 こ のセン タ ーの設置に至っ た も のであ
局の協力を 得て私が取り ま と める こ と と なっ
る 。それにし ても 、率直にいっ てイ 側の積極
た。
的なオーナーシッ プと イ ニシャ ティ ヴに驚く
し かし 、各局長は極めて協力的で、Review
と と も に、改めてでき る 限り イ 側のオーナー
Table 自体の内容についても 大いに関心を 示
シッ プを 鼓舞し よ う と いう 私のアプロ ーチが
し 、ま た、こ の作成過程でイ ン ド ネシア の高
誤り ではなかっ たこ と を 認識し た。
等教育政策について意見交換を 行う こ と がで
セン タ ーの設置に当たっ て、2001年11月
き 、実質的にイ ン ド ネシア の高等教育政策に
7 日、 高等教育総局は JICA その他の関係の
ついてのアド ヴァ イ ス を も なし 得たと 考えて
ド ナー等を 招いて設置準備会合を 開催し た。
いる 。
その際、今後のセン タ ーの在り 方、特に日本
こ の Table に基づき 、 今後のこ の国におけ
と の協力の進め方について発表を 行っ た。さ
る 高等教育プ ロ ジ ェ ク ト を 考え る 上で の
ら に再三にわたり 部内の会議に招かれ、セン
Issues についてのメ モ 7)を 作成し 、 JICA 及び
タ ーの事業について助言を 行っ た。
高等教育総局に提出し 、それぞれにおいて検
こ のセン タ ーは、基本的には高等教育の国
討会( 総局については、各局長と 個別に議論)
際交流・ 協力について高等教育総局における
6) "Review Table of the Implementation of the New Paradigm" (January 17, 2002)
7) “ イ ン ド ネ シ ア における 今後の高等教育プロ ジ ェ ク ト ( 検討メ モ)”( 2002 年 1 月 21 日) 及び “Toward the
Formulation of New Projects for Higher Education (Memo for Discussion)”( 2002 年 2 月 5 日))
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国際教育協力長期派遣専門家に関する 一考察-イ ン ド ネシア での経験から
窓口・ 調整機関であ り 、現在JICAのシルバー
し てこ の計画に基づき 、毎年正式申請を 提出
エキ ス パート 、オース ト ラ リ ア 、オラ ン ダへ
する 。 ま たこ の計画はいわゆる rolling plan
の留学生の派遣等の事業に関わっ ている 。同
であ り 毎年協議の上改定が行われる 。こ の方
セン タ ーはま だ設置初年度であ る が、し ばし
式は、若干初年度は手間や時間がかかる かも
ば見ら れがちな名前はあっ ても 実態がないと
し れないが、 2 年目以降労力と 時間の節約に
いう こ と はなく 、現在積極的にその活動範囲
なり 、 何よ り も JICA の戦略的意図と 総局側
を 広げつつあ り 、 本専門家も 日常的にア ド
の政策が反映さ れやすいやり 方と 思われる 。
ヴ ァ イ ス を 求めら れた。
途中様々な紆余曲折があ っ たが、年二回の
3 ) Silver Experts Package Request 方式
シルバーボラ ン ティ ア 募集のう ち、 2002 年
度の前期分については試行的にこ の方式を 実
の実現
オーナーシッ プを 持っ たよ り 組織的かつ調
施し 、後期の募集分から 本格的に実施する こ
整のと れた国際開発援助の活用と いう 観点か
と で総局と JICA 双方の合意を みた。 こ の事
ら 直接提案し たのが、 JICA の silver expert
業は総局側では上記のセン タ ーが担当する こ
( 日本では senior volunteer) へのパッ ケ ージ
と と な り 、 そ の初めて の事業だっ た こ と も
申請と いう ア イ ディ ア であ る 。
あ っ てセン タ ー側は極めて熱心で、詳細な募
イ ン ド ネシア には2002年8月当時で 80人
集要項や応募の評価基準を 作成し 、積極的に
ほど の silver expert が派遣さ れて いる が、
こ の事業に取り 組んでいる 。 募集する シ ル
JICA 側の silver expert への需要の発掘や要
バーエ キ ス パート はわ ずか 数名で あ る が 、
請の審査は、個々の機関等から 出さ れる も の
オーナーシッ プ意識を 高め積極的な主体的取
を 受けてその都度調査し 検討する と いう のが
組みを 鼓舞する 一つのプロ セス と し て位置付
実情で、必ずし も 戦略的あ る いは先方の政策
けら れる も のであ る 。
ニ ーズ に応じ て 決定さ れて いる わけ ではな
4 )「 イ -日教育協力連絡会」 の開催
い。 JICA と し ても silver expert を よ り 戦略
さ ら に、国際開発協力に対する イ 側の組織
的に活用する こ と を 模索し ていた。
的・ 主体的対応を 促すためのも う 一つの活動
高等教育関係( 日本語教育、 工学等) の派
と し て計画さ れたのが、 こ の「 連絡会」 の開
遣は 20 人ほど であ る が、 こ れら への申請は
催であ る 。こ のよ う な会合の開催を 思い立っ
事実上ま っ たく 高等教育総局を 通すこ と なく
たのにはいく つかの理由があ る 。第一は、イ
行われていた。正式には高等教育総局の承認
側のオーナーシッ プを 高める ためのひと つの
が必要であ る が、こ れはま っ たく の事後の形
学習プロ セス であ る と の位置付けであ る 。教
式的手続き に過ぎ な かっ た。 そこ で、 JICA
育分野に限っ ていえ ば、現在、世界銀行やア
にと っ ても ま た高等教育総局にと っ ても 利益
ジア開発銀行のイ ニシャ ティ ヴによ る 初等中
があ る と 思われる 方式と し て こ の package
等教育に関する ド ナー会合( こ れには国民教
request を 提案し た。
育省初等中等教育総局も 出席し ている )が不
こ の要請方式においてはま ず、高等教育総
定期に開かれている 。本専門家は直接の担当
局側が JICA の重点領域( 日本語教育、 工学
ではないのでこ れに出席し たこ と はないが、
等) を 考慮し て 5年程度の受入れ要請計画を
出席者( 大使館担当官、 初中等担当 JICA 専
JICA に提出する 。 も ちろ んこ の際、 各機関
門家等) から の報告を 聞く と 、 イ 側は、 自ら
の要望を ど う 勘案する か、ど のよ う な政策的
主体性を も っ てド ナー間の援助を 調整する と
配慮を する かなど は総局の責任においてなさ
いう よ り は、いつも 援助プロ ジェ ク ト の実施
れる 。次に双方がこ の計画について基本合意
等についてド ナー側から 注文や要望を 受ける
を する ( むろ ん計画の修正も あ り う る )。 そ
立場で、いわば“ 宿題を 忘れてばかり いる 出
- 38 -
黒田 則博
来の悪い生徒” のよ う な立場だと いう 。
会」 は少なく と も JICA の教育協力に関する
率直に言っ て、こ れだけの被援助大国、し
限り 、全省的に情報を 共有でき る 場を 提供す
かも 一方では ASEAN の盟主のひと つた ら
る も のであ り 、縦割り の弊害を 少し でも 除去
んと する 気概を 有し てき た国が、こ のこ と に
する 第一歩になればと 考え た。
ついてこ れほど オーナーシッ プ意識を 欠いて
も ちろ ん、従来主と し て個別の事業を 通じ
いる のには驚いた。ス ハルト 体制崩壊後少し
ずつではあ る が、新たな国づく り を し ていか
てのみ話し 合いが行われてき た JICA 等の日
イ 側と が、よ り 広く 意見や情報を 交換
本側と
ねばな ら な いと いう 意識が芽生え つつあ る
する 場を 設ける こ と 自体、両者の意思疎通を
中、形だけでも 国民教育省側のイ ニシャ ティ
一層図る 上で有益だと 考え た。
ヴ でこ のよ う な会合を 設ける こ と によ っ て、
その実現には、 国民教育省側及び JICA 側
オーナーシッ プ意識を 高める のに役立つので
に解決すべき 問題が幾多あ っ た が、 結局は
はと 考え たわけであ る 。当初は国民教育省と
2002 年 4 月 26 日になっ て、 JICA の( プロ
JICA を 中心と する 日本側だけの会合であ る
ジェ ク ト 等の)ニーズ調査説明会と いう 形で
が、ゆく ゆく は、国民教育省が教育分野の関
実現する こ と と なっ た。事務次官の招集でほ
係ド ナーを 招集し て調整会議を 開ける よ う に
と んど の総局長が出席し たほか、主任視学官
なればと いう 思いであ っ た。
など 国民教育省直属機関の長の出席も 得ら れ
第二に国民教育省自身における 縦割り 行政
た。 こ れだけの幹部を 揃え た JICA と 国民教
の弊害の問題があ る 。日本でも 縦割り 行政の
育省と の対話は初めてのこ と であ り 、国民教
弊害はつと に指摘さ れている と こ ろ ではある
育省内において JICA 及び JICA へのプロ
が、 極端に言え ば、“ 局( 総局) あ っ て省な
ジェ ク ト 等の要請について共通の理解が得ら
し ”と いう のが少なく と も こ こ 国民教育省の
れたこ と 、ま た次官から 、今後国民教育省全
実情であ る 。
体と し て 取り ま と め、 国家開発企画庁
着任早々の 2001 年 9 月中旬、 JICA イ ン
( BAPPENAS) 8)に要望を 提出する 態勢を 整
ド ネシア事務所の教育担当が事務次官に呼ば
え る 旨の発言があ っ た こ と は、 今後のオー
れた のに同行し た 。 用件は要する に、 ノ ン
ナーシッ プの発揮にと っ て大き な意義を 有す
フ ォ ーマル教育に情報技術( IT) を 活用する
る も のであ っ た。
と いう 同次官が個人的に担ぐ プロ ジェ ク ト の
“ 売り 込み” であ っ た。し かし IT については、
当時非公式ではある が高等教育総局長から 既
( 2 ) 連絡調整的業務
1 ) 平成 14 年度( 前年度) プロ ジェ ク ト
に 4 件の提案がなさ れており 、 ま た、 教育分
要請案件の処理
野では高等教育分野の事業に重点を 置く と い
平成 14 年度の高等教育関係プロ ジェ ク ト
う 合意が日-イ でなさ れている にも かかわら
案件の形成プロ セス( ちょ う ど 筆者が着任す
ず、こ のよ う な提案が次官から 直々になさ れ
る 直前の 2001 年 8 月にそのプロ セス はほぼ
る と いう こ と は、こ の省全体を 統括する 立場
終了) において、 イ 側と JICA 側と の間に十
である 次官ですら 教育分野での国際援助につ
分意思疎通がと ら れておら ず若干の行き 違い
いて 充分把握し て おら ず、 省内での調整が
が生じ 、 高等教育総局と JICA の間に位置す
ま っ たく 欠如し ている こ と を 如実に示すも の
る 私が両者の関係修復に尽力せざ る を 得な
であ っ た。
かっ た。ま さ に典型的な連絡調整業務である 。
そこ で、こ のよ う な「 イ -日教育協力連絡
次のよ う な事態が生じ たのであ る 。
8)
JICA に対し イ ン ド ネシア 側の要請を 集約・ 調整する 機能を 有し ている 。
- 39 -
国際教育協力長期派遣専門家に関する 一考察-イ ン ド ネシア での経験から
こ の年は、たま たま 事前の要望調査説明会
けいろ いろ 尽力し たが、 結局 2002 年 2 月に
に多く の大学関係者が出席し て いた こ と も
入っ て、私の方から 総局長に対し こ れま での
あ っ て、多く の高等教育機関から 数十件にも
事態を 率直に説明し 、「 IT について日本から
上る 案件が直接 JICA 事務所に寄せら れた 。
のミ ッ ショ ン が何度も 来て、局長自ら が国民
こ れら の案件は、一応高等教育総局がと り ま
教育省の取り ま と め役と なっ て具体的な提案
と めた形で( そし て形式的には BAPPENAS
ま で作成・ 提出し ていながら 、東京から 何ら
を 通じ )提出さ れたこ と になっ ている よ う で
反応も ないこ と に同情する と と も に、こ のこ
あ る が、 実際は何ら 精査さ れた も のではな
と について、日本に成り 代わっ て私から お詫
く 、 高等教育機関か ら の 案件が そ の ま ま
び申し 上げる 。現段階では次年度の要望調査
JICA に提出さ れたも のであ る 。 そのよ う な
事情も あ っ て JICA 側が採択する に足る 良質
に正式に載せる こ と を 考える こ と が建設的で
な案件は皆無であ っ た。
旨述べた。私がこ のよ う なこ と を 発言する 立
し かし JICA イ ン ド ネ シ ア 事務所と し て
場にあ っ たがど う か、いま だに釈然と し ない
は、何と か優良案件を 東京に提案する 必要に
が、し かし こ の問題についてど こ かで区切り
迫ら れ、高等教育分野の在イ 日本人専門家の
を つけておかなければ、こ れま で極めて良好
あ り 、 私も ア ド ヴ ァ イ ザーと し て尽力する 」
協力を 得て 7案件を 作成し 、
“ イ 側の要望” と
であ っ た JICA と 高等教育総局と の関係を 損
し て 2001 年 8 月に東京に提出し た。 時間的
ねる こ と にも なり かねないと 思い、こ のよ う
な制約も あ っ て、残念ながら こ れら の案件に
な発言を 行っ た。こ れで事態は一応収拾する
ついて高等教育総局側と の事前の協議はほと
こ と と なっ た。
んど 行われていなかっ た。総局側がこ のよ う
以上、昨年度のプロ ジェ ク ト 形成過程につ
な提案がなさ れている こ と を 知る のは、翌年
の 1 月になっ てから であ る 。
いて縷々述べてき たが、こ れは、ス ハルト の
“ 開発独裁” 体制の崩壊以降、 援助に対する
一方高等教育総局側では、 2000 年 7 月の
従来の“ 物乞い” 的態度から“ オーナーシッ
沖縄サミ ッ ト における 日本の IT支援表明後、
プを 持っ て援助を 活用する ”と いう 態度へと
2001 年には相次ぎ プロ ジ ェ ク ト 発掘ミ ッ
少し ずつではある が意識変革が起こ り つつあ
シ ョ ン が来イ し たこ と から 、 日本の IT 支援
る 中で、今、イ 日双方で合意を 得ながら プロ
への期待が高ま っ ていた。そし て、 2001 年 4
ジェ ク ト を 形成し ていく 過程そのも のが重要
月にミ ッ シ ョ ン に対し 教育分野における IT
であ る こ と を 強調し たかっ たに過ぎ ない。
関連プロ ジェ ク ト の提案を 4件提出し た。同
2 ) 平成15年度のプロ ジェ ク ト の発掘・ 形
総局長と し てはこ れら の提案は非公式なも の
成
であ る が、その後日本側から 何ら かの反応が
上記のよ う な前年度の経験を 踏ま え 、連絡
あ り 、それを 受けて正式なルート に乗せる こ
調整を 密にし て高等教育総局と JICA と の意
と を 考え ていたよ う であ る 。し かし 、 日本側
思疎通を 図る 一方、“ 国際教育協力を 活用す
にいかなる 事情が生じ たのか不明であ る が、
る 力” の形成と いう 観点から 、イ 側が主体的
その年の末になっ ても 何ら のフ ォ ロ ーアッ プ
にこ の作業に取り 組むべき である と の方針で
はなかっ た。
臨んだ。
こ れら の行き 違いの結果、イ 側に何がし か
ま ず従来の専門家が行っ てき たこ と を 踏襲
の誤解や不信感を 生み出し たこ と は間違いな
し て、 先に行っ た Review Table 作り や前任
い。実際総局長も あ る 種の苛立ちを 募ら せて
者が行っ た大学の管理運営に関する 調査研究
いる と の情報が、直接、間接に私にも 伝え ら
の成果を 踏ま え 、 2002 年 2 月の下旬から 私
れた。こ の間双方の間に立っ て関係修復に向
の方で 3 つのプロ ジ ェ ク ト 案作り を 開始し
- 40 -
黒田 則博
た。こ れと 平行し て、こ れら の案について関
ト の詳細の詰めについてアド ヴァ イ ス する と
係の局長やイ 側大学関係者、さ ら には日本人
と も に、こ れら プロ ジェ ク ト の提案に対する
専門家と の意見交換を 行っ た。こ の結果3案
本専門家なり のコ メ ン ト を 総局長に伝えてお
のう ち、特にイ 側が関心を 示し 、ま たこ れま
いた。
でも イ 側独自に小規模ながら パイ ロ ッ ト 事業
こ の過程での JICA に対する 作業と し て
が実施さ れてき た、 産学地 の連携について
は、 JICA 事務所でのス ク リ ーニン グ のため
のプロ ジェ ク ト 案作成を 本格的に進める こ と
の要請案件調査書( 和文) の作成と 、 JICA 事
と し た。
務所内でのス ク リ ーニン グを 経た要請案件に
し かし プロ ジェ ク ト の形成過程にでき る だ
ついて英文の正式要請書作成があ っ た。本年
けイ 側が主体的に関わる よ う にする と の観点
はいずれも 私が他の日本人専門家の協力を 得
から 、本専門家がすべてプロ ジェ ク ト 案を 書
て行っ たが、後者については、本来高等教育
く こ と はぜず、 こ のテ ーマについて ワ ーク
総局のし かる べき 部署が行う べき こ と であ
ショ ッ プを 主催する など 積極的な姿勢を 示し
り 、こ の点について、担当局長に申し 入れを
ている ガジャ マダ大学に対し 、私の当初案を
行い次年度から こ の局で行う 旨合意を 得た。
示し プロ ジェ ク ト 案作成の意志を 打診し た。
3 ) その他の連絡調整等の業務
同大学はこ れを 歓迎し 、当初案を さ ら に発展
上記の高等教育総局のために行う 活動以外
さ せた総合的な産学地連携計画を 作成し こ れ
に、 直接的には JICA 自体の業務に関わっ て
を 高等教育総局に提出し た。
本専門家が協力する も のも 少なく なかっ た。
一方 2002 年 4 月に JICA の要望調査が始
ま ず JICA が 2002 年度の国別事業実施計画
ま っ た段階で、昨年の轍を 踏ま ないため、総
策定を 進める 中、こ れに協力し て 2001年12
9)
局長に対し こ の調査の趣旨や手順、さ ら には
月高等教育関係部分の案を 執筆し 提出し た。
JICA の優先課題やそこ における 高等教育の
加え て 、 2002 年度に入っ て JICA 内におい
位置付けなど を 説明し 、その準備を 行う よ う
てプロ グラ ム 協力が本格的に進めら れる こ と
ア ド ヴ ァ イ ス を 行っ た。 同局長は、 2002 年
になり 、その作業への協力と し てプロ グ ラ ム
4 月 26 日に行われた「 イ -日教育情報交換
協力における 高等教育の位置付けについて、
会」( Need Survey 説明会) において、 同総
2002 年 4 月、 本専門家の私案 10)を 作成し 提
局から の要望と し て BAPPENAS に提出を
出し た。 ま たあ わせて、 JICA が行っ た高等
希望する 6つのプロ ジェ ク ト 案を 明ら かにし
教育関係事業の“ プロ グ ラ ム 協力マト リ ッ ク
た。こ れら の提案は、基本的には昨年正式な
ス ” 作り の作業に対し 、 同年 5 月データ の提
ルート に乗ら な かっ た IT 関連プロ ジ ェ ク ト
供を 行っ た 。 さ ら に要望調査が本格化する
等“ 積み残し ” 案件を 正規のルート に乗せる
中、同月、プロ ジェ ク ト 等のス ク リ ーニン グ
と いう も のであ っ た。と にかく パイ プラ イ ン
の基準や観点について本専門家なり の案11)を
に詰ま っ ている も のを 正規のルート に乗せ、
作成し 提出し た。
日本側の正式な判断を 求めたいと いう 気持ち
こ れら の協力については、高等教育総局の
は理解でき る も のであ っ た。こ れで前年度の
アド ヴァ イ ザーはイ 側と 日本側の橋渡し の立
若干の行き 違いが一掃さ れる こ と を 期待し
場にあ る と 考え 、直接に協力が求めら れてい
た。
ない場合にも 積極的に取り 組んだつも り であ
その後5月に入り 、提案さ れたプロ ジェ ク
る。
「 地」 は地域社会。
「 イ ン ド ネシ ア における 今後の高等教育分野の支援の在り 方( 私案メ モ)」 pp.1-7、 2002 年 4 月 17 日
11)
「 プロ ジ ェ ク ト 等の提案に対する 評価( 選考) 基準いついて( メ モ)」 pp. 1-2、 2002 年 5 月 21 日
9)
10)
- 41 -
国際教育協力長期派遣専門家に関する 一考察-イ ン ド ネシア での経験から
その他、在任期間中に実施さ れていた、高
から の支援を 有効に組織・ 活用でき る 能力を
等教育開発( HED) プロ ジェ ク ト 等の関係者
十分有し ていない国の方が多いこ と は事実で
と 折に触れ情報・ 意見交換を 行い、高等教育
あ ろ う 。 し た がっ て 、 短期的には政策ア ド
総局アド ヴァ イ ザーと いう 立場から の率直な
ヴ ァ イ ス や援助調整への支援が必要であ ろ
助言も 行っ た。 ま た、 国際協力銀行( JBIC)
う 。し かし それは永続する も のではなく 、 持
が 2002 年 6 月から 実施し ている 高等教育セ
続可能性と いう こ と を 考え る と 、当該国側に
ク タ ー調査について 、 高等教育総局のア ド
そのよ う な能力が身につく よ う なプロ セス が
ヴァ イ ザーと し てその実施態勢の構築と 調査
必要であ る 。単なる 役務提供であ っ てはなら
内容の確定等に協力を 行っ た。
ない。今こ そ、 役務提供型専門家から 能力形
成型専門家へと さ ら なる 発想の展開が必要と
4 . 若干の教訓と 提案
思われる 。
2 ) プロ ジェ ク ト と し ての“ 国際教育協力
( 1 ) TOR
を 活用する 力” の形成
先に案件形成の一つの苦い経験について述
こ のよ う に個別派遣専門家の役割を 捉えな
べたが、専門家の派遣も こ のよ う な案件の一
おすなら ば、
“ 国際教育協力を 活用する 力”の
つであ り 、 TOR が実際の途上国のニーズ を
形成と いう ひと つのプロ ジェ ク ト を 構想し 得
反映し ている かど う かは、案件形成の過程で
る 。現在の JICA のス キ ーム では必要に応じ
当該国側と いかに良好な意思疎通が図ら れて
様々な投入を 柔軟に活用でき 、長期専門家の
いる かにかかっ ている と いっ ても 過言ではな
派遣のみな ら ず、 日本そ の他の国々での研
かろ う 。
修、複数の短期専門家の派遣など 多く の組み
ま た途上国側受入れ省庁の能力形成の度合
合わせが考え ら れる 。
によ っ ても 、専門家に何が期待さ れる かが異
こ の際留意すべき 点は、単に個々人に能力
なっ てこ よ う 。ま っ たく 能力を 欠いている 場
が身につく と いう だけでなく 、私が試みたよ
合には、当該国政府に代わっ てすべてのこ と
う に、こ のよ う な能力の形成と は、組織の中
を 行う と いう 、 いわば“ 完全役務提供型” の
に国際協力のための仕組みやシス テム を 作っ
専門家が必要なこ と も あ ろ う 。
ていく と いう 過程でも あ る 。し たがっ て、い
いずれにし て も 、 し ばし ば同じ ポ ス ト に
わば組織と し ての学習プロ セス と いう こ と も
10 年あ る いはそれ以上にわたり 、 専門家が
でき る 。
派遣さ れる と いう 現象も 見ら れ、途上国側の
ま たこ のよ う な“ プロ ジェ ク ト ” に求めら
ニーズの変化、能力の発展の度合等を 考慮し
れる 専門家は、個々の分野のス ペシャ リ ス ト
たえ ず TOR を 改訂する と と も に、 ポス ト そ
と いう よ り は、制度や仕組み作り と その運営
のも のについても 見直し を 行う 必要があ る 。
に長けたマネージャ ータ イ プのど ちら かと い
え ばジェ ネラ リ ス ト が求めら れる であ ろ う 。
3 ) 目標設定と 評価
( 2 ) 役務提供から 持続可能な能力形成へ
1 ) 能力形成型専門家
こ れま では、個別専門家については、雑多
こ れま で縷々述べてき たよ う に、本論の一
な役務提供が求めら れている ためかプロ ジェ
つの明確な メ ッ セージ は、 政策ア ド ヴ ァ イ
ク ト について行われている よ う な評価は行わ
ザーと いい調整型専門家と いい、いつも 日本
れていない。し かし 上記のよ う に能力形成と
から 人材を 提供し 日本の開発協力事業の円滑
いう 一つのプロ ジェ ク ト と し て捉え る と 、他
な実施を 図る と いう 発想はそろ そろ 止めにし
のプロ ジェ ク ト と 同様上位目標、目的、成果、
てはど う かと いう こ と であ る 。むろ ん、 外国
活動など PDM(Project Design Matrix) を 定
- 42 -
黒田 則博
め、それに照ら し て評価を 行う こ と も でき よ
ら には、 本ポス ト は JICA と 高等教育総局を
う 。さ ら にプロ ジェ ク ト と 同じ よ う に扱う と
橋渡し する 単なる 調整員ではなく 専門家であ
すれば、3年と か 5年と かの期限付き であ り 、
る と の自覚を 持つ必要があ る と も 痛感し た。
たえ ず見直し が行われる こ と にも なる 。
こ のよ う な微妙で合い矛盾する よ う な職務を
遂行する には、やはり 、イ ン ド ネシア 側の何
おわり に
を 変える ために当該専門家がこ こ に派遣さ れ
ている のかを 十分明確にする 必要がある と 思
私が職務を 遂行する 上で常に心がけたこ と
い、 上記「 2 」 で述べたよ う な活動目標を 掲
は、 私は JICA の専門家であ る と 同時に、 高
げ、「 3 」 のよ う な活動を し 、 そし て「 4 」 の
等教育総局のアド ヴァ イ ザーである と いう こ
よ う な提案を 行っ たのであ る 。
と であ る 。すなわち総局の一員でも あ る と の
要する に優れた“ 顔の見え る ”専門家と は、
意識を 常に持ち続け、総局の立場に立っ ても
いずれはカ ウ ン タ ーパート の陰に隠れて“ 顔
のを 考え る こ と を 忘れないよ う にし た。し か
が見え なく なる ”専門家と いう こ と であ ろ う
し 一方で、本専門家は単なる 総局への役務提
か。
供者ではないと いう 点にも 十分留意し た。さ
- 43 -
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