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グローバルな調和、透明性・予見性の確保、イノベーションの促進のため
グローバルな調和、透明性・予見性の確保、イノベーションの促進のために 経済学的観点から見た特許制度は、技術革新並びに競争力を支え、保護するための柱である・・・一方、特許 制度が、特許の薮(やぶ)を生み出し・・・主にパテントトロールによる特許権の濫用を許している点が厳しい批判 にさらされている。世界中の特許出願の幾何級数的とも言える伸び・・・。・・・手間の重複を極力省くために、世 界中の特許庁の現有資源を合理的かつ効率的に結合させることにあらゆる努力を傾注させるべきである。 マックスプランク知的財産研究所 ジョセフ・ストラウス氏 背景1.世界的な特許の「システミック・リスク(注1)」 ~ 変化に対応したプロパテント政策の強化 ~ 特許をより多く、そしてより広く押さ 知的財産は排他的なビジネス資産で えないと、競合他社に負けてしまう。 はなく、社外も含めたイノベーション それがゲームのルールだ。 ネットワークへの投入資源と捉えるべき。 The Economist誌 欧米の大手メーカー 背景2.特許の「軍拡競争(注2)」 166万件 93% シンガポール 約4割が 非居住者 140 82% インド 120 76% ブラジル 100 51% 欧州(EPO) 80 米国 47% 60 中国 46% 40 世界平均 ほとんどの出願 が非居住者によ るもの 1990年代から大き な乖離がみられる R&D投資 38% 24% 韓国 20 特許出願件数 86% タイ R&D投資(百万USドル) 非居住者による出願 国内出願 主要国の実質研究費の推移 (2000年を100とした指数) 96% メキシコ 米国への出願件数 160 ○技術の高度化・複雑化に伴い、グロー ○水平分業が進み、研究開発でも自前主 バルな研究開発も拡大。 義からオープンイノベーションへの動 ○業種分野に応じたイノベーションの きが進んでいる。 「動機付け」を考慮すべきとの意見も ○標準化の動きを推進し、かつ、ライセ ある。例えば、医薬品・バイオ分野と ンス交渉にかかるコストを低減させる IT分野では、イノベーションの創出構 ためにも、パテントプールの取組が重 造に違いがある。 要に。 米国の特許出願件数とR&D投資との比較 各国の非居住者出願比率(2005年) 180 昔はソフトウェアはハードの付属物に過ぎなかった が、それが今では一大産業だ。今後は、発明もそれ 自体がビジネスの対象になっていくと信じている。 米国Intellectual Ventures社長 (注2)The Economist誌の知財特集 (注1)欧州特許庁「知財制度の将来シナリオ」 世界の特許出願件数 (継続出願件数) 14% 日本 0 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 0% 20% 40% 60% 80% 100% (出典)WIPO Patent Report 2007 (出典)WIPO統計から特許庁作成 (出典)Bessen and Meurer, Patent Failure (2008年刊行予定) (出典)平成19年版 科学技術白書 ○なお、アフリカ(ARIPO、OAPI)は約97%。 (1)各国間のワークシェアリング ○急増する特許出願に対応するために は、各国特許庁の審査を増強するだ けでは不充分か。 ○他国の審査を活用する「特許審査ハ イウェイ」等を推進。世界における 「仮想的な特許庁」が必要との主張 もある。 (2)「世界特許」に向けて ○WIPOでは制度調和に向けた議論が停 滞。知財は、公衆衛生などの局面で も議論されるなど、マルチフォーラ 化している。 ○世界の議論を前向きに進めていくた め、日本がいかにリーダーシップを 発揮できるか。 (3)アジア・アフリカ等との連携 ○日米欧の三極から中韓の五極へ。 ○ASEANとの包括的な知的財産協 力プログラムの推進。 ○APEC域内での審査協力等 ○審査・執行体制への協力など、途上 検討に際しての3 つの柱 国の体制整備を支援。 ○模倣品・海賊版対策の推進。 (4)WIPOでの議論の活性化 ○WIPOの役割として何が期待されるか。 Ⅰ.持続可能(サステイナブル)な 世界の特許システムの実現 2008/1/23 特許庁 背景3.技術の高度化・複雑化に伴う「オープンイノベーション」 ○米国では1990年代から、R&D投資の ○世界の特許出願は急増しており、2005 ○途上国における特許出願のほとんどが 年には約170万件に。 先進国からのもの。途上国にとっては 推移に比して、特許出願の件数が急 増している。 ○このうち約4割が、非居住者による。 「他国の特許権を保護するために特許 これは、経済のグローバル化の進展の 制度を導入している」という状況。こ ○特許紛争増を背景に、競合他社の牽 反映。 れが、深刻な南北対立の背景のひとつ。 制を目的にした出願といったゲーム ○世界の特許庁には、同じ内容の出願が ○模倣品・海賊版対策として、権利付 の変化が起きている。 重複して出されており、この傾向は今 与・保護が重要。 ○特許権の不安定性が、ビジネスリス 後も続く。 クを増やしている可能性も。 (万件) 資料3 (5)変化に柔軟に対応できる特許 ○特許権の取得や保護の段階での不確 実性を極力抑えることが、ビジネス のリスクを減らす。 ○審査実務に関する三極比較研究等を 通じて、調和に向けたさらなる努力 が重要。 ○引き続き、各国との審査官会合、審 査結果などの相互利用を推進。 ○また、イノベーション環境の変化や 技術の急激な変化、国際的な制度調 和に対し、迅速に、かつ、柔軟に対 応するため、透明度が高く、予見性 の高い審査基準や、その他の特許性 判断基準を策定するメカニズムを検 討すべき。 Ⅱ.特許権の「保護」の基盤を明確にする、 透明性と予見性の高いメカニズムの構築 (6)知財投資・知財管理 ○金融技術と結びついた戦略的な特許 への投資ビジネス。 ○侵害調査といった特許管理ビジネス などの新ビジネスが出現。 (7)パテントトロール ○パテントトロールに対し、何らかの 対応が必要か。また、いかなる対応 が考えられるか。 (8)ライセンスポリシーの透明化 ○パテントプールに加え、標準化やリ サーチツールに関連するライセンス 交渉を円滑にするためのメカニズム の検討が必要か。 オープンイノベーションの例 Ciscoは、積極的にR&Dをアウトソース することで自社製品の競争力を確保し ている。 Intelは、「インテル・キャピタル」を通じ て、新興企業に戦略的に投資すること で、関連業界を活性化している。 P&Gは、「コネクト・アンド・デベロップ」 というR&Dを取引・仲介する仕組みを 創設。 Nokiaは、「コンセプト・ラウンジ」で、先 進的な製品コンセプトを広く募っている。 (9)イノベーションインフラの整備 ○イノベーション創出のメカニズムの 変化により、特許以外の技術情報の 役割が重要に。 ○学術論文などにも拡張できるデータ ベース・検索エンジン。 ○技術者の知見を広く募るコミュニ ティ・パテント・レビュー ○中国などの文献の機械翻訳。 (10)中小企業・地域・農商工連携 ○知財を有効に活用することにより、 地域経済や中小企業の活性化につな げていく。 Ⅲ.特許権の「創造」、「利活用」を円滑にするための 広がりを持ったイノベーションインフラの整備 1 グローバルな調和、透明性・予見性の確保、イノベーションの促進のために 国際的な出願増による 特許システムの危機 特許権の不確実性がビジネ スリスクを拡大させる側面も 技術の高度化・複雑化 オープンイノベーションの要請 欧州 1624 1791 米国 イギリス専売条例 フランス特許法 プロパテント時代 検討の方向性 ○変化する経済情勢の中で、イノベーションの促進に資する知財制度を実現するため、 3つの柱を軸として、これまでのプロパテント政策を超えて幅広く検討する。 ○経済のグローバル化の進展により、国際的な特許出願が増加している。これに対処 するため、持続可能な世界の特許システムの実現に向けた検討を行う。 ○米国における訴訟の増加などにより、特許権の不確実性がビジネスリスクを拡大し ている側面もある。特許権の保護について、透明性と予見性の高いメカニズムの構 築に向けた検討を行う。 ○技術の高度化・複雑化により、研究開発の姿も多様化。オープンイノベーションに 対応するためにも、広がりを持った知財インフラの整備に向けた検討を行う。 ~ 変化に対応したプロパテント政策の強化 ~ 1967 1970 1973 (参考:世界における議論の動向) 諸外国では、知財制度のあり方についての議論にて様々な表現がなされている。 ○英国ゴアーズレビューでは、グローバル化とデジタル化が進展する社会において「バランスのとれ た柔軟な特許権」が必要、と表現されている。 ○EPOの将来シナリオでは、知財のあり方を規定する4つの要因について分析されている。 「市場メカニズムによる調整が進んだ場合の知財政策」 「途上国対先進国という構図の国際関係が続く場合の知財政策」 「著作権や医薬品アクセスをめぐる社会の多様な価値観が反映される場合の知財政策」 「科学技術が急激に進歩する場合の知財政策」 ○The Economist誌では「特許制度の改革 Patent improvement」と表現されている。 ○プロパテント政策の強化は、例えば「プロパテント政策の適正化」と表現するのも一案。 1885 専売特許条例 専売特許所設立 WIPO(世界知的所有権機関)設立 特許協力条約(PCT) ヨーロッパ特許条約 EPO(ヨーロッパ特許庁)設立 プロパテント時代 Ⅲ.特許権の「創造」、 「利活用」を円滑にす Ⅱ.特許権の「保護」の基盤を明確にす るための、広がりを る、透明性と予見性の高いメカニズム 持ったイノベーション の構築 インフラの整備 歴史的・世界的な視野に立って ○世界の知財に対するスタンスを見ると、特に米国では、プロパテント政策を強く進 める動きとそれを修正する動きとの間で、揺れ動いてきた。 ○米国では1980年代からプロパテント政策が続く中、2000年以降、質の低い特許など 現行の特許制度がイノベーションを阻害しているとの批判的な見解が多く見られる。 ○欧州では、今年に入って、知財システムについてのあるべき将来像やビジョンなど が、相次いで策定されている。 ○我が国は、これまでも知財の「創造」「保護」「利活用」というサイクルを重視し てきた。米国の近年のプロパテント政策の適正化の動きは日本や欧州の状況に近づ きつつあるとも言えるが、こうした世界的な、知財をめぐる大きな議論が展開され る中で、我が国においても「新たな課題に対応した知財システム」の将来像につい て整理を行い、従来のプロパテント政策を強化していく必要があるのではないか。 1880 連邦特許法 Patent Office(米国特許庁)設立 リンカーン演説、 プロパテント政策 エジソン白熱灯特許 1940~反トラスト法によるアンチパテ ント時代 こうした変化に対応するため、 プロパテント政策をさらに強化 Ⅰ.持続可能な世界 の特許システム の実現 1790 1802 1859 日本 1995 1974 1979 コーエン・ボイヤー特許(DNA特許) 貿易収支が赤字(競争力低下) 1980 1980 1981 1982 1985 バイドール法 チャクラバティ判決(バイオ特許) ディーア判決(ソフトウェア特許) 連邦巡回区控訴裁判所設立 ヤングレポート(レーガン大統 領産業競争力委員会) プロパテント政策 TRIPS協定発効(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定) 加盟国が遵守すべき知財保護の最低基準が明確化された。 1998 2000 ロンドン・アグリーメント(未 発効)欧州特許の各国語への翻 訳を不要とするもの 連邦取引委員会 「技術革新の促進のために:競争 と特許の適正なバランス」 2004 全米科学アカデミー 「21世紀の特許制度」 2004 競争力協議会 「イノベートアメリカ」 2006 eBay判決(差止判断の厳格化) 欧州委員会「欧州特許制度の改 善に関するビジョン」 EPO「知財制度の将来シナリオ」 英国財務省「ゴワーズ・レ ビュー」 2007 特許庁「21世紀の知的財産権 を考える懇談会報告書 ~これ からは日本も知的創造時代~」 2002 2003 知的財産基本法成立 知的財産戦略本部発足 2005 知的財産高等裁判所設立 ステートストリート判決(ビジネスモデ ル特許) 2003 2007 1997 KSR判決(進歩性判断の適正化) 連邦特許法改正案を審議中 1990年代までは、米国企業にとって特許権を取得 特許権の範囲が不明確で、権利の基盤も不 確実。これらに起因する知財訴訟・紛争の増 大は、明らかに経済成長を阻害している。 することは理にかなっていた。しかし、特許権から得ら れる利益よりも、特許権を取ることに伴う訴訟リスクが 上回ってしまっている。 ベッセン教授、ミューラー教授(ボストン大、2008年刊行予定の「Patent Failure」の草稿から) 特許制度は天才の炎に利益の油を注いだ。 エイブラハム・リンカーン 2