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乗用車用タイヤの安全な使い方(PDF形式)
目次 1. 目的.......................................................................................................................................................... 1 2. テスト実施期間...................................................................................................................................... 1 3. 概要.......................................................................................................................................................... 2 4. テスト対象銘柄...................................................................................................................................... 3 5. テスト結果.............................................................................................................................................. 5 1) 空気圧が不適正なタイヤに関するテスト ............................................................................................5 (1) ブレーキングに影響する要素 ...................................................................................................... 6 (2) タイヤにかかる負担(発熱) ........................................................................................................... 6 (3) 好ましくない使用例 ...................................................................................................................... 9 (4) 燃費に影響する要素 .................................................................................................................... 11 2) 参考テスト .............................................................................................................................................. 13 (1) 気温等による空気圧の変化 ........................................................................................................ 13 (2) 左折時の巻き込み ........................................................................................................................ 13 (3) 低扁平サイズのタイヤを使用する上での注意 ........................................................................ 15 (4) 表示の理解度................................................................................................................................ 17 6. 消費者へのアドバイス ........................................................................................................................ 18 7. 業界への要望........................................................................................................................................ 19 8. テスト結果一覧.................................................................................................................................... 20 1) 制動距離................................................................................................................................................... 20 2) タイヤの負担 .......................................................................................................................................... 21 3) 転がり抵抗 .............................................................................................................................................. 22 4) 気温等による空気圧の変化.................................................................................................................. 23 9. テスト方法............................................................................................................................................ 24 1) 制動距離の測定 ...................................................................................................................................... 24 2) 運動性能の測定 ...................................................................................................................................... 24 3) 転がり抵抗の測定 .................................................................................................................................. 24 4) 実走行での燃費の測定.......................................................................................................................... 25 5) 気温等による空気圧の変化の測定...................................................................................................... 25 参考資料:タイヤの基礎知識 .................................................................................................................... 26 1. 目的 自動車用タイヤは、乗用車の構造上唯一路面と接し「車体や乗員・積荷の荷重を支える」、 「エ ンジンの駆動力を路面に伝え、ブレーキのパワーで制動させる」など、安全上極めて重要な役 割を果たしている部品である。 最近の乗用車のタイヤは安全性や安定した性能の追求を考慮してラジアル構造(図 2 参照)で チューブレス(チューブの代わりにタイヤの内面に空気が抜けにくいゴムを貼り付けたタイヤ) のものがほとんどを占めている。 PIO-NET を用いてタイヤに関する危害・危険件数を調べてみると、この 5 年間で 116 件の事 例が寄せられている。内容をみると、 「買って 2 年半足らずのタイヤが高速走行中にパンクした」 「タイヤ交換後空気が抜け、何度も業者に言ったがそのままだったところ、タイヤが破裂(バー スト)した」など、走行中のバーストやパンクに関するものが多い。 国民生活センターで実施しているタイヤに関する原因究明テスト結果をみると、バーストや パンクなどのトラブルはタイヤの空気圧不足や外傷等が原因となって起こっている場合が多い。 そこで乗用車用のタイヤについて、空気圧の調整不良などが安全面や性能面にどのような影 響を与えるのかを中心にテストし、タイヤの安全な使い方の情報を消費者に提供する。 2. テスト実施期間 検 体 購 入:2003 年 3 月 テスト期間:2003 年 4~10 月 -1- 3. 概要 タイヤは自動車の構成部品の中で極めて重要な役割を果たしている部分である。 PIO-NET などの相談事例を見ると、タイヤの外傷や空気圧不足等が原因と思われるパンクや バーストの事例が多い。そこで、タイヤのバーストなどトラブルの原因となっている空気圧不 足の影響を中心にテストすることとした。 1) タイヤの空気圧が低下すると、安全上の問題や燃費の悪化が起きやすくなる 空気圧が低いと走行中のタイヤの変形が大きい分、温度上昇幅が大きくなり、タイヤへの負 荷が増す。結果的に、偏摩耗などによる寿命の低下や転がり抵抗増加による燃費の悪化が起こ る。また、トレッド中央部の接地圧不足によるハイドロプレーニング現象(水膜で覆われた路面 でタイヤ摩擦力が失われる現象)の危険性も考えられる。 タイヤの空気は自然に抜けてくる。 タイヤとホイールの嵌め合わせ部からの漏洩もあり得る。 パンクなどで急激に空気が抜けない限り、空気圧が不足しても見た目や触った感じなどで判断 するのは難しい。タイヤの空気圧の低下等には注意が必要である。 2) 日常の空気圧点検が重要 タイヤメーカーも最低 1 ヶ月に 1 回の点検を呼びかけているが、ガソリンスタンド等での日 常的な空気圧の点検が望ましい。定期的な点検はパンクの早期発見やバーストの予防にもつな がる。 各車の空気圧の設定値はタイヤが冷えている状態を基準にしているが、走行でタイヤが温ま ると空気圧は 30kPa(キロパスカル:圧力の単位で 1kPa は 1cm 四方に約 10g)程上がることもある ので点検には注意が必要である。また、走行前であっても陽に当たって温まると 10kPa 程上が ることもある。条件によって空気圧の上がり方が異なる。 空気圧は左右でばらつきがないことも重要である。駆動輪の左右で空気圧が違うと左右の回 転数に差が出てタイヤへのダメージがある。ひいてはディファレンシャルギア(カーブでの内輪 と外輪の回転の差を吸収する装置)に悪影響がある。 3) 縁石や大きな石等との接触はタイヤへのダメージが大きい 縁石に擦ったり乗り上げたりすると、気付かないうちに損傷を受けることがある。これを繰 り返すとタイヤの強度が保てなくなる。また、タイヤ側面に大きな損傷を受けた場合、走行中 にダメージが大きくなり修理不可能となることが多い。 トレッドの溝に挟まった石等は、そのままにしておくと走行時の路面との摩擦でトレッド面 を傷付ける恐れがある。空気圧点検の際に、異物は取り除くようにするとよい。但しタイヤに 刺さった異物は内部にまで貫通していることも考えられる。このような場合、異物を不用意に 取り除くと空気が一気に抜けてしまうこともあるので、修理可能な場所での処置が必要となる。 -2- 4. テスト対象銘柄 一般的な乗用車用のタイヤとして国内の主要タイヤメーカー5 社が製造販売しているものの中 で、軽自動車用から普通車用までタイヤサイズが異なる 4 タイプの車種別に対象銘柄を絞った。 表 1 テスト対象銘柄 テスト対象タイヤ サイズ* テスト使用車両 排気量 車両重量 駆動 銘柄数 車種** [kg] 方式 [cm3] ABS*** 155/65R13 5 銘柄 658 820 FF 軽ワゴン なし 155/80R13 1 銘柄 997 850 FF コンパクトカー あり 175/70R14 5 銘柄 1,497 1,060 FF 小型セダン あり 195/65R15 4 銘柄 1,988 1,380 FR 普通セダン あり **車種の区分は一般的に使われている名称を参考にした ***ABS:Anti-lock Brake System、急ブレーキをかけたとき等にタイヤがロッ クするのを防ぐ装置 *タイヤサイズ表示の読み方の例 155 / 65 R 13 タイヤ幅[mm] 扁平率[%] ラジアル構造 リム径[インチ] タイヤ幅と扁平率は図 1 のような関係になる。 タイヤ幅 タイヤ高さ 扁平率 = タイヤ高さ × 100 [%] タイヤ幅 図 1 タイヤの幅、高さと扁平率 タイヤは図 2 のように、構造上ラジアルタイヤとバイアスタイヤに分けられる。現在乗用車 用タイヤとしてはラジアルタイヤが一般的である。 図 2 ラジアルタイヤとバイアスタイヤ -3- タイヤの各部名称とその役割は以下のとおりである。 トレッド部 ショルダー部 ベルト サイドウォール部 プライ カーカス ビードワイヤー ビード部 バルブ 図 3 タイヤの各部名称 名称 表 2 タイヤ各部の名称と役割 役割 カーカス部を締め付けている帯状のベルトコードでラジアルタイヤの ベルト 特徴である。接地面の剛性を高めており、これにより耐摩耗性、転が り抵抗等を向上させている。 構造体 コードを平行に並べて薄いゴム層で包んだもので、タイヤの骨格をな すカーカスの大部分を構成している。初期のタイヤではカーカスとし プライ て繊維にゴムを貼り付けたものが用いられていたが、走行によってタ イヤが変形するたびに縦糸と横糸が擦れ、すぐに破れてしまった。そ こで、縦糸と横糸を分離してプライとし、間にゴムを挟んでカーカス とした。 カーカス タイヤの骨格をなすプライとビート部の総称で、タイヤからトレッド・ サイドウォール・ベルトを除いたものをいう。 路面に直接接地する部分で、表面(トレッド面)には溝(トレッドパター トレッド部 ン)が刻み込まれている。トレッドパターンは路面上、特に濡れた路面 でのグリップ力を高める役目をしている。タイヤ全体で最もゴムが厚 い部分である。 部位 ショルダー部 カーカスを保護し、走行時に発生する熱を発散させるように設計され ている。また、この部分は操縦性にも影響する。 プライを保護する部分。この部分のゴムは走行時、屈曲が大きく厳し サイドウォール部 い条件で使用される。 (タイヤの側面) タイヤの中では最も薄い部分で、傷がついたら早めに交換する必要が ある。材質的に硬いと乗り心地が悪くなる。 タイヤをホイールに固定する部分。この部分には強靱なワイヤーを束 ビード部 ねたビードワイヤーが挿入されており、ゴムも硬質ゴムを使用してい る。タイヤ内の空気はここで遮断されている。 -4- 5. テスト結果 1) 空気圧が不適正なタイヤに関するテスト 車両ごとに決められている「指定空気圧」はタイヤの負荷能力と車両装着時に各タイヤにか かる荷重を基に算出されたもので、同じタイヤサイズであっても車両によって異なった空気圧 が指定されている。また、複数の異なるサイズが装着可能な車種ではそれぞれに異なった空気 圧が指定されている。一般的にはこの値が、乗用車を正常に走行させるために守るべきタイヤ の空気圧で、通常は運転席のドアを開けたところに表示されている。空気圧表示の例を写真 1 に示す。タイヤ空気圧の単位として以前は写真 1 左側のように[kgf/cm2]が使われていたが、現在 は写真 1 右側のように[kPa]が使われている(参考資料 30 ページ参照)。タイヤの空気圧が適正に 維持されていないと偏摩耗の発生などの様々なトラブルの原因となる(28 ページ参照)。 (旧) (新) 写真 1 空気圧表示の例 しかし、タイヤの空気はパンクしていなくてもゴム分子の隙間を通り抜けるので、放ってお いても自然に減ってくる。また、タイヤのバルブやタイヤとホイールの嵌め合わせ部からも空 気が漏れる可能性がある。一般にパンク等や急速に空気が抜けない限り、空気圧の低下を見た 目で判断するのは非常に難しい。本テストに先立ち、空気圧の変化と見た目の関係について調 べてみたところ、指定空気圧から空気圧を下げても見た目では変化が分からない限度が、30%の 低下程度であった。 そこで、車メーカーの指定空気圧を標準空気圧とし、これに対して 30%空気圧を低くしたタ イヤでどのような不具合が出るか調べた。また、一部のテストでは参考に、見た目で違いが殆 ど分からず、そのタイヤの最高空気圧を超えない範囲で空気圧を高くしたタイヤ(30%空気圧を 高くしたタイヤ)についても調べた。 -5- (1) ブレーキングに影響する要素 制動距離は空気圧を高めにすると長くなるが、低くても長くなることがあった 空気圧を変えると、タイヤ自体の変形量が変わり、トレッド面の接地面積と接地圧に違い が出る。これらにより制動距離にも違いが出ることが予想される。 そこで、空気圧の違いで制動性に違いが出るかを調べるために、運転者の技量による影響 が少ない ABS 装備車両で空気圧を変え 50km/h の速度から急ブレーキをかけたときに、ブレー キペダルを踏んでから車両が停止するまでの距離(制動距離)を測定した。尚、軽ワゴンは ABS 非装着車であったためこのテストでは除外した。図 4 は、指定空気圧及び空気圧を各々30%高 めと低めにしたタイヤでの制動距離を、テスト車両ごとの平均で表したものである。テスト の結果、各空気圧と車両やタイヤの変形量との相性等によると思われるデータのばらつきは あるものの、概ね、指定空気圧に対して空気圧を高くすると制動距離が伸びる傾向が確認で きた。また、空気圧を低くしても制動距離が長くなることがあった。 コンパクトカー 小型セダン 高め 指定 低め 普通セダン 12 13 14 制動距離 [m] 15 高め:指定空気圧+30% 低め:指定空気圧-30% 図 4 制動距離 (2) タイヤにかかる負担(発熱) 空気圧が低いほどタイヤの温度上昇が大きい傾向にあり、負担が大きい タイヤは主としてゴムと繊維からできている。回転中のタイヤは繰り返し変形することで 摩擦熱によりタイヤ自体が発熱する。そのためタイヤは変形の大きい部分の温度がより高く なる。タイヤの変形が大きいとタイヤの劣化が早まる。タイヤの接地面では負担の大きいと ころから摩耗するので、場所によって負担の大きさが異なれば偏摩耗することとなる。適正 な空気圧であれば問題無いが、空気圧が低いと変形量が多くなるので発熱量が多くなり、特 に高速走行を続けた場合、タイヤ自体の破損につながる危険もある。そこで、空気圧を変え たタイヤでスラローム(蛇行)走行や急ブレーキ操作を行い、その後の表面温度を赤外線サーモ グラフィで測ることによりタイヤの負担を調べた。空気圧は車両の指定空気圧と、これより 30%低い状態及び 30%高い状態に設定した。 -6- 車のタイヤのうち前輪タイヤは、操舵(ハンドル操作)と制動(ブレーキ操作)を主に受け持つ。 前輪駆動車(FF 車)では更に駆動(アクセル操作)も受け持つことになり、その分負担が大きくな る。そこで、走行前後での特に負担の大きい前輪ショルダー部の温度の変化を調べた。結果 を図 5 に示す。数値が大きいほどタイヤの表面温度が上昇したことになり、タイヤの負担が 大きいことを意味する。タイヤの温度は気温や路面温度等にも影響されるが、全体的に空気 圧が低いほど温度上昇幅が大きい傾向にあり、負担が大きいことが分かった。空気圧が高い と温度上昇は指定空気圧のときとほぼ同じか小さい傾向にあった。今回のテスト程度の温度 上昇幅では直ちにバーストするほどの危険性は考えられないが、より低い空気圧で高速走行 を続けた場合は温度上昇幅が大きくなることが予想され、バーストに至る危険性がある。 軽ワゴン 高め 指定 低め コンパクトカー 小型セダン 普通セダン 0 5 10 15 20 温度上昇幅 [℃] 25 高め:指定空気圧+30% 指定:指定空気圧 低め:指定空気圧-30% 図 5 走行後の前輪ショルダー部の温度上昇幅 走行直後のタイヤ表面温度分布の例を示したのが図 6 である。トレッド面やタイヤの側面 を見ると空気圧の低い方が温度が高く、特にショルダー部の温度が高かった。これらのこと から空気圧の低い方がタイヤにかかる負担が大きいことが分かった。 尚、タイヤのゴム材は熱の伝わりが遅いので、タイヤ内部の温度は表面温度に比べてかな り高くなっていることが予測される。 -7- 以上 トレッド面の温度がほぼ均一 以上 ショルダー部の温度が高い 以下 以下 図 6 走行直後の指定空気圧のタイヤ(図左側)と低めの空気圧のタイヤ(図右側)の温度分布 次に参考として、旋回中のタイヤの負担の大きさを見るために、空気圧が低めのタイヤで 半径 10m の円の周りを反時計回りに速度 30km/h で 10 周走った後、特に旋回中に負担のかか るショルダー部の温度変化を調べた。結果を図 7 に示す。 空気圧が低いと温度上昇が大きいことが分かった。 指定 低め 0 5 10 15 温度上昇幅 [℃] 20 25 低め:指定空気圧-30% 図 7 定常円旋回直後の外側前輪タイヤのショルダー部の温度上昇幅 図 8 に定常円旋回直後のタイヤ表面の温度分布を示す。トレッド面を見ると空気圧の低い 方が温度が高く、その範囲も広かった。タイヤの側面も空気圧の低い方が温度が高かった。 これらのことから旋回時ではショルダー部に負担がかかり、特に空気圧が低いとその負担が 大きいことが分かった。尚、空気圧が低いと指定空気圧の時と同じ様に旋回する為にはハン ドルを 10~20°余計にきる必要があった。これはタイヤの性能が低下したためと考えられる。 以上 ショルダー部の温度が高い 以下 以上 ショルダー部から トレッド面中央の温度が高い 以下 図 8 定常円旋回直後の指定空気圧のタイヤ(図左側)と低めの空気圧のタイヤ(図右側)の温度分布 -8- (3) 好ましくない使用例 空気圧が低めのタイヤで縁石に乗り上げるとタイヤの側面がやや大きく変形した 写真 2~写真 3 のように縁石に直角に乗り上げたときのタイヤの損傷について調べた。 その結果、空気圧が低めのタイヤでは側面がやや大きく変形した。今回はパンクには至ら なかったものの、タイヤで吸収できないほどの大きな変形があった場合、タイヤの側面に修 復不可能な損傷が生じる可能性がある。また、ホイールが変形する可能性もある。 変形 やや大きな変形 写真 2 縁石への乗り上げ(指定空気圧) 写真 3 縁石への乗り上げ(空気圧低め) 縁石に斜めに乗り上げるとタイヤへのダメージも大きい 縁石に斜めに乗り上げた場合、直角に乗り上げた場合よりもタイヤの側面にかかる衝撃が 1 点に集中することになる。そのため図 9 のようにタイヤの側面の一部だけが衝撃を受け、タ イヤ内部のコードが切れてしまい、タイヤの側面の一部分が気泡のように盛り上がっている ような変形(コブ)が生じることがある。この状態のまま走行を続けるとタイヤがバーストする 恐れもあり、できる限り速やかにタイヤを交換する必要がある。 尚、このようなことはタイヤの使用履歴に関わらず、新品のタイヤでも起こりえる。 図 9 タイヤの側面の一部に大きな衝撃を受ける様子 -9- 写真 4a コブの例 写真 4b コブの例 - 10 - 空気圧不足のままで長期間使用を続けると偏摩耗する 空気圧不足で長期間使用していたため、トレッド中央部よりショルダー部が先に摩耗した タイヤの例を写真 5 に示す(3 年間で年 1~2 回程度の空気圧の点検で使用していたが、撮影時 は指定空気圧より 20%低い空気圧だった)。タイヤがこのような状態になると、所定の性能が 得られない。 尚、指定空気圧で使用を続けていれば、トレッド面が均等に減り、タイヤ本来の寿命まで 使い続けることが出来たと思われる。 写真 5 空気圧不足による偏摩耗の例(トレッド中央部より摩耗したショルダー部) (4) 燃費に影響する要素 転がり抵抗は空気圧を高めにすれば低下し、空気圧を低めにすると増加する傾向があった 走行中に生じる抵抗としては、空気抵抗(車体が風をきることで生じる抵抗)、転がり抵抗(タ イヤの内部摩擦抵抗やタイヤと路面との摩擦抵抗)等がある。抵抗が大きければ、それに応じ て大きなエネルギーが必要になり、燃費が悪化する。一方で、タイヤの変形が少ないほど転 がり抵抗は少ないので、タイヤの空気圧を高くすることで転がり抵抗は小さくなると考えら れる。そこで、タイヤの空気圧を変えたときの転がり抵抗を調べた。 図 10 は、指定空気圧のタイヤと空気圧を各々30%高めにしたときと低めにしたときの転が り抵抗を、テスト車両ごとに平均したものである。テストの結果、指定空気圧に対して、空 気圧を低めにすると転がり抵抗が増加し、空気圧を高めにすれば転がり抵抗が低下する傾向 が確認できた。 - 11 - 軽ワゴン 高め 指定 低め コンパクトカー 小型セダン 普通セダン 80 100 120 140 160 180 200 高め:指定空気圧+30% 低め:指定空気圧-30% 転がり抵抗 [N] 図 10 転がり抵抗 転がり抵抗が増えると燃費が悪化する。そこで、参考にコンパクトカーで実際に市街地(36km) 及び高速道路(329km)を走行して燃費を調べた。 テストの結果、空気圧が指定空気圧より 30%低いタイヤで走行した車両は指定空気圧のタ イヤで走行した車両に比べて燃費が 8.5%悪化した。図 11 に燃費の違いを示す。 指定空気圧 空気圧低め 15.5 16 16.5 燃費 [km/L] 17 17.5 18 空気圧低め:指定空気圧-30% 図 11 空気圧の違いによる燃費の違い 尚、走行後に計測したタイヤの空気圧はいずれも 30kPa 近く上昇していた。 ところで、空気圧が少ないと、タイヤが潰れる分だけ、タイヤの半径が小さくなったのと 同様になる。そのため同じ距離を走ってもタイヤの回転数が多くなり、車のメーター上では 見かけの走行距離及び速度の表示に狂いが生じる。今回の実走行試験では、空気圧が少ない 方の車両での距離表示が 0.2%大きかった。このため、給油量とメーターの走行距離で見る通 常の燃費計算(満タン法:ある満タン給油時からその後の満タン給油時までの走行距離を給油 量で割る燃費計算法)では、燃費の低下が実際よりも小さく換算されてしまうことになる。 - 12 - 2) 参考テスト 気温等によるタイヤ空気圧の変化やタイヤを縁石に擦った場合、タイヤ側面の表示等につい てテストした。 (1) 気温等による空気圧の変化 気温や日照により空気圧が上昇し、日向と日陰でも差が出た タイヤの空気圧の指定値はタイヤが冷えているときの値であり、空気圧の測定と調整は走 行前のタイヤが冷えているときに行うよう指示されている。タイヤは走行すると発熱して中 の空気が膨張するため、見かけの空気圧は高くなる。このようにタイヤが温まった状態で空 気圧を指定値に合わせると、実質的な空気圧不足の状態となってしまう。 また、走行前であっても気温の変化などによりタイヤが温まれば、空気圧が変化する。そ こで、実際に外気温及び日照等の影響によりタイヤの空気圧がどのように変化するかを調べ るために、気温 25℃の屋内で指定空気圧に調整したタイヤを装着した車両の正面を西に向け、 左側のタイヤに直接陽が当たるように夏場の晴れた屋外に放置し、空気圧の時間変化を測定 した。日向で日光により温められたタイヤは冷えているときより空気圧が 20kPa 程度上昇す ることもあり、日陰でも気温の上昇により 10kPa まで上昇することもあることが分かった。 これらのことから、空気圧の正確な計測は気温や日照等様々な条件の影響を受けることが 伺える。 (2) 左折時の巻き込み 縁石との接触でタイヤの側面に損傷が生じた 車を縁石ギリギリに寄せようとして、タイヤを縁石などで擦ってしまうことがある。軽く 擦った場合はタイヤの側面に写真 6 のような模様ができる。 写真 6 タイヤの側面を縁石などで擦った際にできる模様の例 - 13 - 軽く数回擦る程度なら問題ないが、何度も強く擦るのはタイヤにとってよくない。実際に 使用されていたタイヤの例を写真 7 に示す。タイヤの側面を何度も擦ったため、刻印されて いたタイヤのサイズ等の表示が消えている。 写真 7 刻印の消えたタイヤの側面の例 縁石に擦るとバーストに至る危険性がある 一般に、小回りする必要が多い左折時に、最も内側を通る左後輪が縁石の角に擦ったとき の損傷について調べた。 テストは車速を人が歩く程度にして行った。その結果、大きな損傷には至らなかったもの の、タイヤの側面部に 1 回で写真 8 のような擦り傷ができた。低扁平サイズのタイヤではホ イールが地面に近くなる為、ホイールに傷がついたり場合によっては変形してしまう可能性 がある。タイヤの側面は走行中に変形を繰り返す部分なので、損傷したまま走行を続ければ 傷が大きく広がりバーストに至る危険性もある。ホイールが変形すれば空気が漏れる可能性 もある。 更に高い速度であった場合、より大きな損傷を受ける可能性がある。 - 14 - 写真 8 縁石との接触による擦り傷の例 (3) 低扁平サイズのタイヤを使用する上での注意 空気圧を外観から判断するのは非常に難しい 空気圧を見た目で判断するのは非常に難しく、低扁平サイズのタイヤであれば更に分かり にくいと言われている。表 3 に空気圧が下がったときのタイヤの、見た目の様子を示す。 扁平率 65%のタイヤでは、空気圧が指定空気圧より 60%少ない状態のとき、見た目で分か るほどタイヤが変形していた。一方、扁平率 45%のタイヤでは、空気圧が指定空気圧より 60% 少ない状態でも、見た目で判断するのは難しかった。 表 3 空気圧が下がったときのタイヤの外観 指定空気圧 指定空気圧から-30% 扁平率 65 % 扁平率 45 % - 15 - 指定空気圧から-60% 縁石に乗り上げるとタイヤの側面が大きく変形した 写真 9~写真 10 のように縁石に直角に乗り上げたときのタイヤの損傷について調べた。 その結果、低扁平サイズのタイヤでは側面が大きく変形した。今回はパンクには至らなかっ たものの、タイヤの側面で吸収できないほどの大きな変形があった場合、修復不可能な損傷 が生じる可能性がある。また、ホイールが変形する可能性もある。標準サイズのタイヤでは 特に問題は見られなかった。 大きな変形 変形 写真 9 縁石への乗り上げ(扁平率 65%のタイヤ) 写真 10 縁石への乗り上げ(扁平率 45%のタイヤ) - 16 - (4) 表示の理解度 タイヤ側面の表示の意味は、あまり理解されていない傾向だった タイヤ側面の表示にはメーカー名や銘柄名のほかに、タイヤサイズ、負荷指数、速度記号(26 ページ参照)等の仕様や、製造時期を表す製造週年(27 ページ参照)、また一部のタイヤでは回 転方向や外側/内側を指示する記号などが表示されている。しかし一般ユーザーに内容が理解 されているかは疑問がある。 そこでタイヤ側面に刻印されている表示の意味等について、その理解度を調べるために、 運転免許証を所有する人を対象としたモニターテストを行った。テストは一度に一人ずつ、 回答者(モニター)が出題者の質問に答える形で行った。 質問内容は以下のとおりである。 • 出題者が実際のサイズ表示を指し、回答者がその内容を答える • 出題者が製造時期の表示を指し、回答者がその内容を答える • 指定空気圧の表示が何処にあるか 結果を表 4 に示す。結果を見ると、一般ユーザーに表示の内容が十分に理解されていると は言えず、特に製造時期の表示を正しく理解しているユーザーは非常に少なかった。 表 4 表示に関するモニターテスト結果 質問項目 割合[%] 回答者 (人数[人]) 知らなかった人 31.8 (7) サイズ表示であることは知っているが、意味は知らない人 50.0 (11) 意味まで知っている 18.2 (4) 製造時期 意味を知らなかった人 95.5 (21) (製造週年) 意味を知っていた人 サイズ表示 4.5 (1) 指定空気圧の 知らなかった人 54.5 (12) 表示の位置 45.5 (10) 知っていた人 - 17 - 6. 消費者へのアドバイス 1) タイヤの空気圧が適正でないと、制動距離が伸びたり転がり抵抗が増す等の弊害がある タイヤの空気圧が低いと接地面積が小さくなり、制動距離が長くなることがある。また、タ イヤの変形が大きくなるので、転がり抵抗増加による燃費の悪化も起こる。更に、トレッド面 の接地の仕方が均一でないため使い続ければショルダー部から偏摩耗することになる。 濡れた路面では、トレッド面中央部の接地圧不足によるハイドロプレーニング現象誘発の危 険増大等が考えられる。 ところで、通常、空気圧の低下は 4 輪同時に進行するため、パンクなどで急激に空気が抜け ない限り、空気圧が不足しても比較対象がないので見た目での判断は困難である。安全上の問 題もあるので注意が必要である。 逆に、空気圧が高い場合、接地面積が小さくなるので転がり抵抗は小さくなる。しかし制動 距離が伸びてしまったり、トレッド面の接地の仕方が均一でないため使い続ければトレッド面 中央部から偏摩耗することもある。また、タイヤが硬くなるので路面からの衝撃を吸収しきれ ず、乗り心地の悪化や車体に過大なストレスを与える可能性がある。 2) タイヤの空気圧が低いとタイヤの発熱量が大きく、タイヤの負担になる タイヤは走行時の繰り返し変形により常に発熱するが、空気圧が低めのタイヤでは、変形の 度合いが大きい分、発熱量も多い。このとき、タイヤ内部では更に温度が上がって、その分、 タイヤへの負担が増し、結果的にタイヤそのものの寿命の低下を招いたり、バーストの危険性 が生じたりする。 尚、走行するとタイヤの発熱により空気圧は高くなるが、指定空気圧はそれをも見越して決 められたものである。燃費を気にして転がり抵抗を小さくするために元々の空気圧を極端に高 めにしておくと、タイヤの発熱による空気圧上昇と相まって、タイヤ自体の最高空気圧を超え てしまう可能性が生じ、走行中のバーストの危険が増すことになる。 3) 日頃から空気圧の定期的な点検が必要 空気が抜けにくいゴムを使っている車用タイヤでも、完全に空気を封じ込めることはできな いので、タイヤ内の空気は走らなくても自然に抜けてくる。また、タイヤとホイールの嵌め合 わせ部からの漏洩もあり得る。空気を入れるバルブの劣化でも空気が漏れてくる。空気圧の低 下を外観から判断するのは非常に困難であり、特に低扁平サイズのタイヤでは空気圧が半分以 下になっても外観からでは分からなかった。タイヤメーカーでは最低でも 1 ヶ月に 1 回は車の 指定空気圧を下回らないように空気圧点検することを呼びかけている。ドライバーの責任とし て実施したい。長距離を走行する際は、同時に応急用タイヤ(31 ページ参照)の点検も忘れてはな らない。定期的な点検はパンクの発見にもつながる。 4) 空気圧の点検はタイヤが冷えているときにしなければならない 車の空気圧の指定値は走行前のタイヤが冷えている状態を基準にしているので、空気圧の点 検はタイヤが冷えているときにしなければならない。走行後はタイヤが温まって空気圧は 30kPa 程上がることもある。また、走行前であっても陽に当たって温まれば、陽に当たってない側に 対して 10kPa 程上がることもある。条件によって空気圧の上がり方が異なるので、空気圧の点 - 18 - 検には注意が必要である。ガソリンスタンド等で空気圧を点検する際には、タイヤが温まって 空気圧が高くならないように、なるべく自宅の近所等で点検する方がよい。 5) タイヤ毎の空気圧にばらつきがないことも重要 空気圧は左右でばらつきがないことも重要である。駆動輪の左右で極端に空気圧が違うと、 直進でも左右の回転数に差が出ることになり、常にディファレンシャルギアに負担がかかるこ とになる。こうなるとディファレンシャルギアが過熱して、最悪の場合発火することもある。 操舵輪の左右で極端に空気圧が違うと、ハンドルが一方に取られるようになる。 点検には市販の空気圧計を用いることもできるが、使い方が悪いと正確な値が出ないばかり か、バルブから空気が抜けてしまうこともあるので取扱いがしやすいものを選び、計測方法に も慣れておくことが必要となる。 6) 縁石や大きな石等との接触はタイヤを損傷させる原因となる 縁石に擦った場合、気付かないうちに大きな損傷を受けることがある。タイヤの側面に損傷 を受けた場合、それが小さなものであっても、走行中に変形を繰り返すタイヤの側面では傷が 広がり、修理不可能なことが多く、タイヤ破裂等の危険な状態になることがある。タイヤにこ のような傷が見つかった場合、専門店等での点検が必要である。特に低扁平サイズのタイヤを 使っている場合は、同時にホイールまで損傷させることもある。ホイールに歪みなどが生じた 場合、そこから空気が漏れる危険もある。 トレッドの溝に挟まった石等は、そのままにしておくと走行時の路面との摩擦でトレッド面 を傷付ける恐れがある。空気圧点検の際に、異物は取り除くようにするとよい。但し内部にま で貫通している異物の場合、取り除くことで空気が一気に抜けてしまうことがあるので、修理 可能な場所で異物を取り除く必要がある。 7. 業界への要望 1) タイヤの製造時期を分かりやすくしてほしい 一般にはタイヤの寿命を溝の深さで判断するユーザーも多いと思われるが、タイヤに使われ るゴムは年数と共に劣化する。タイヤ表面にヒビができることもあるが、ヒビが無くてもゴム が硬化すれば本来の性能は発揮できず、溝が残っていてもタイヤの性能は落ちてくる。現在の 製造週年表示は国際規格に基づいているが、一般消費者にその内容が理解されているとは言い 難い。そこで、一般消費者でもタイヤの製造時期が分かるような工夫をしてほしい。また、タ イヤのゴムの劣化を考慮して、タイヤの使用期限の目安になるようなものも示してほしい。 2) 空気圧低下を警告する機能を付けてほしい 徐々に空気圧が下がっていった場合、運転者が気付かないことが多いと思われる。車に乗り 続けるためには日常の点検が必要だが、頻繁に行われていないのが実状だろう。また、走行中 のパンクに気付かないことも危険である。走行中に常時空気圧を監視する装置も実用化されて いるので、空気圧の低下を知らせる機能を一般車両にも広めてほしい。 - 19 - 8. テスト結果一覧 空気圧の違いによる影響を見るテストでは、車メーカーの指定空気圧を標準空気圧とし、指 定空気圧より 30%空気圧を低くしたタイヤと 30%空気圧を高くしたタイヤ調べた。走行を伴う 測定は乾燥路面で、2 名乗車相当で行った。 1) 制動距離 時速 50km/h から急ブレーキをかけたときの、ブレーキペダルを踏んでから車両が停止するま での距離を測定した。測定結果を表 5 に示す。 [m] 表 5 制動距離 高め 指定 低め コンパクトカータイヤ 1 15.0 14.3 14.4 タイヤ 1 13.4 13.4 13.8 タイヤ 2 14.1 14.1 14.0 タイヤ 3 14.0 14.2 14.3 タイヤ 4 14.0 13.6 13.6 タイヤ 5 13.7 13.3 13.6 小型セダン 平均 13.8 13.7 13.9 タイヤ 1 13.2 12.8 12.6 タイヤ 2 12.8 12.5 12.5 タイヤ 3 12.7 12.6 12.6 タイヤ 4 13.3 13.6 13.2 普通セダン 平均 13.0 12.9 12.7 全体平均 13.6 13.4 13.5 小型セダン 普通セダン - 20 - 2) タイヤの負担 タイヤの負担を見るために、走行前後のタイヤ温度の上昇幅を調べた。測定は特に負担の大 きいショルダー部の温度を測定した。測定結果を表 6 に示す。 表 6 走行後の前輪ショルダー部の温度上昇幅 高め 軽ワゴン 小型セダン 16.4 13.3 17.8 タイヤ 2 17.3 13.0 19.7 タイヤ 3 15.6 14.7 18.5 タイヤ 4 13.5 15.8 18.5 タイヤ 5 12.2 16.5 20.9 15.0 14.7 19.1 タイヤ 1 12.7 12.1 12.1 タイヤ 1 13.5 20.2 22.8 タイヤ 2 12.9 16.2 15.3 タイヤ 3 14.0 14.0 14.7 タイヤ 4 12.3 14.6 21.2 タイヤ 5 19.7 16.7 19.8 14.5 16.3 18.8 タイヤ 1 16.7 17.4 15.3 タイヤ 2 15.2 17.4 20.1 タイヤ 3 12.4 16.6 20.4 タイヤ 4 13.3 17.4 20.2 普通セダン 平均 14.4 17.2 19.0 全体平均 14.5 15.7 18.5 小型セダン 平均 普通セダン 低め タイヤ 1 軽ワゴン 平均 コンパクトカー 指定 [℃] 参考に、旋回時のタイヤの負担を見るために、ブレーキの影響が出ないように定常円旋回前 後のタイヤの温度上昇幅を調べた。測定は特に負担の大きいショルダー部の温度を測定した。 測定結果を表 7 に示す。 表 7 定常円旋回直後の外側前輪タイヤのショルダー部の温度上昇幅 [℃] 指定空気圧 空気圧低め 小型セダン タイヤ 1 18.2 23.2 小型セダン タイヤ 2 13.5 20.5 - 21 - 3) 転がり抵抗 走行抵抗を測定した。測定結果を表 8 に示す。 表 8 転がり抵抗 高め 軽ワゴン 小型セダン 低め 129 139 152 タイヤ 2 110 131 139 タイヤ 3 102 120 127 タイヤ 4 106 118 140 タイヤ 5 103 104 107 110 122 133 タイヤ 1 94 106 133 タイヤ 1 117 124 138 タイヤ 2 112 120 145 タイヤ 3 113 122 140 タイヤ 4 114 118 136 タイヤ 5 104 111 121 112 119 136 タイヤ 1 158 177 207 タイヤ 2 164 166 181 タイヤ 3 160 178 195 タイヤ 4 129 137 163 普通セダン 平均 153 165 187 全体平均 121 132 148 小型セダン 平均 普通セダン 指定 タイヤ 1 軽ワゴン 平均 コンパクトカー [N] - 22 - 気温等による空気圧の変化 気温 25℃の屋内で指定空気圧に調整したタイヤを装着した車両の正面を西に向け、左側の タイヤに直接陽が当たるように夏場の晴れた屋外に放置し、空気圧の時間変化を測定した。 結果を図 12 に示す。 20 35 31 10 29 空気圧増加量(日陰) 空気圧増加量(日向) 気温 27 0 25 9 10 11 12 13 時刻 図 12 空気圧の変化 - 23 - 14 15 16 気温[ ℃] 33 空気圧増加量[kPa] 4) 9. テスト方法 テストに使用したタイヤは、指定空気圧に調整しシャシダイナモ上で 80km/h で 100km 走行し、 簡易的に慣らしを行ってから使用した。 走行しながら行う測定は、乾燥路面で 2 名乗車相当で行った。 1) 制動距離の測定 車を 50km/h から急制動させたときの、ブレーキペダルを踏んでから停止するまでの距離を測 定した。測定時の変速機は中立状態とした。測定回数は約 500m のクーリングダウン走行を挟み ながら 5 回行った。5 回の測定のうち、最大のものと最小のものを除いた 3 回の平均を測定値と した。 2) 運動性能の測定 速度 40km/h 一定で走行しながら、様々な速さでハンドルを切り、そのときの車体のヨー角速 度と横向き加速度を記録した。これを FFT 解析することで、車体の操舵周波数応答特性を調べ た。 3) 転がり抵抗の測定 転がり抵抗は以下の走行抵抗を求める方法により、簡易的に求めた。 走行抵抗の測定を行う速度(以下「指定速度」)は、30km/h、20km/h、10km/h とする。測定は 車両を指定速度+5km/h を超える速度から変速機を中立にして惰行させ、指定速度+5km/h から指 定速度-5km/h に至るまでの時間(以下「惰行時間」)を 1/200 秒単位で測定した。各指定速度にお ける惰行時間の測定は、国民生活センター(相模原)の直線路で往路 2 回及び復路 2 回行い、その 平均値(以下「平均惰行時間」)を求めた。 次式により、各指定速度における走行抵抗を求める。 F= W + W4 0.36 t F :各指定速度における走行抵抗 [N] W :車両重量 [kg] W4 :回転部分の相当慣性質量(車両重量の 3.5%) [kg] t :各指定速度における平均惰行時間 [s] 各指定速度における走行抵抗をもとに、最小二乗方により走行抵抗を速度の 2 次関数として 次のように表す。 F = a+bV2 ∑ K ∑ F −∑ K ∑ K a= n ∑ K − (∑ K ) n ∑K F −∑K ∑F b= n ∑ K − (∑ K ) 2 i i i 2 i i i Fi i i i 2 2 i i 2 i K =V 2 F :各指定速度における走行抵抗 [N] - 24 - a :転がり抵抗に相当する値 [N] b :空気抵抗係数に相当する値 [N/(km/h)2] V :速度 [km/h] このときの a の値を転がり抵抗とした。 4) 実走行での燃費の測定 一般道及び高速道路を実際に同一車種 2 台が同一条件でタイヤの空気圧のみを変え、ドライ バーが途中交代しながら同時に交通の流れに合わせて走行し、給油量と走行距離から燃費の違 いを調べた。タイヤの空気圧は指定空気圧と、指定空気圧から 30%少ない空気圧とした。 コースは国民生活センター(相模原)を出発点とし、八王子バイパスを経由し、中央自動車八王 子 IC に向い、八王子 IC から長野自動車道岡谷 IC で折返し、中央自動車道八王子 IC で降り、 八王子バイパスを経由し、国民生活センター(相模原)に戻るコースとした。市街地の区間は 36km、 高速道路の区間は 329km であった。 5) 気温等による空気圧の変化の測定 気温 25℃の屋内でタイヤの空気圧を 216kPa(2.2kgf/cm2)に調整したタイヤを装着した車両の正 面を西に向け、左側のタイヤに直接陽が当たるように晴れた屋外に放置し、1 時間おきに空気圧 を測定した。 - 25 - 参考資料:タイヤの基礎知識 1) 負荷指数、速度記号 負荷指数(ロードインデックス)とは負荷能力を表す指標のことで、規定の条件下においてその タイヤ1本で支えられる最大荷重を示す。 LI 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 負荷能力(kg) 250 257 265 272 280 290 300 307 315 325 335 345 355 365 375 表 9 負荷指数 (ロードインデックス、LI) LI 負荷能力(kg) LI 負荷能力(kg) 75 387 90 600 76 400 91 615 77 412 92 630 78 425 93 650 79 437 94 670 80 450 95 690 81 462 96 710 82 475 97 730 83 487 98 750 84 500 99 775 85 515 100 800 86 530 101 825 87 545 102 850 88 560 103 875 89 580 104 900 LI 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 負荷能力(kg) 925 950 975 1000 1030 1060 1090 1120 1150 1180 1215 1250 1285 1320 1360 速度記号は規定の条件下において、そのタイヤが走行できる速度を示す記号である。速度カ テゴリーは、現在の速度記号より以前に使われていたラジアルタイヤの速度表示方法で、現在 でも ZR 表示は使用されている。 表 10 ラジアルタイヤの速度記号・速度カテゴリー タイヤ表示 最高速度 タイヤ構造 [km/h] 速度記号 速度カテゴリー N ― 140 P ― 150 Q ― 160 R ― 170 S SR 180 ラジアル T ― 190 H HR 210 V ― 240 ― ZR 240 超 W ― 270 Y ― 300 - 26 - 2) 製造番号 タイヤサイズなどは表も裏にも刻印があるが、製造番号は片方にしか打ち込まれていない。 製造番号の例を写真 11 に示す。 写真 11 製造番号の例 写真 11 のように数字や記号が入り混ざっているが、最後の 4 桁(1999 年以前は 3 桁)が製造時 期を表していて、その内容から製造年週という。写真 11 では、最後の 03 が 2003 年に生産され たということを意味する。その前の 10 は、その年の 10 週目に生産されたという意味である。 1999 年以前に生産されたタイヤは、下 3 桁が製造時期になる。この場合は一番最後の 1 桁が 製造年数、その前の 2 桁がその年の何週目に生産されたかが分かるようになっている。 288 --- 1998 年の 28 週目に製造 169 --- 1999 年の 16 週目に製造 1900 --- 2000 年の 19 週目に製造 0203 --- 2003 年の 2 週目に製造 製造週年の数字以外の記号などはタイヤの仕様や生産工場を示している。 - 27 - 3) トレッドパターン(溝) トレッドパターンの役割は一般的に以下の 5 つである。 1. 雨天時の排水効果 2. 駆動力・制動力の増加 3. 操縦安定性や放熱性の向上 4. 騒音の軽減 5. デザイン面の美しさ 中でも排水が最も重要である。タイヤの横方向に水を逃がす必要があるので、タテ溝だけだ とうまく排水できない。そこでタテ溝とヨコ溝が必要になって、複雑なトレッドパターンがで きる。 溝で囲まれた部分をブロックと呼ぶが、グリップを高めるにはブロック自体の動きを少なく して、ブロックの「ヨレ」を小さくするのが有効である。このためスポーツタイヤはブロック が大きくて、細かい切り込みも少ないパターンになっている。雨天の濡れた路面での排水性を 確保するため太い溝も配置することとなる。排水効率の優れた「方向性パターン」を採用する 例が多いのもこのタイプのタイヤの特徴である。 ところが、グリップを高める手法は逆にタイヤの騒音を発生する要因にもなる。パターンノ イズはタイヤが回転するたびにブロックが路面を叩く打撃音と、溝の中の空気が圧縮されては じける音が原因である。打撃音を小さくするためにはブロックを小さくし、空気がはじける音 を抑えるには溝を細くするという、グリップと排水性を高めるのとは正反対の手法が必要であ る。 4) タイヤの寿命 タイヤには 2 通りの寿命がある。ひとつは走行によってタイヤの溝がなくなること。タイヤ が路面に接地している以上、タイヤは地面との摩擦によって少しずつ減っていく。もうひとつ は年数によるもの。人間が年をとって老化するようにタイヤも年月とともに劣化し、性能が落 ちていく。タイヤの交換時期は車種や走行路面、走行の仕方によって大きく変わる。定期的に タイヤの状態をチェックし、スリップサインやヒビが出る前に早めの交換を行うことが望まし い。急発進や急加速、急旋回などの無理な走行をするとタイヤの寿命が短くなる。 スリップサインとはタイヤの残り溝の深さが、1.6mm 以下になるとタイヤの使用限界にきて いることを警告するマークのことである。溝が途切れるようにスリップサインが出てきたらタ イヤの使用限界を過ぎていることになるので、スリップサインが出ているタイヤでの走行は整 備不良車となる。残りの溝の深さが 1.6mm まで安全に使えるわけではないので、タイヤはスリッ プサインが出てから交換するのではなく、スリップサインが出る前に交換する必要がある。ぬ れた路面では、タイヤの溝がほぼ半分摩耗した状態を境に制動距離がぐんと長くなり、タイヤ の溝が 60%摩耗すると制動距離が 20%も伸びてしまうと言われている。 5) 空気圧 タイヤに掛かる荷重のうちタイヤ自身が直接支えることのできる荷重は 10%程度とも言われ、 タイヤは空気を充填することによって初めてその機能を発揮する。極端な言い方をすると、タ イヤはその大切な空気を保持する圧力容器ともいえる。 - 28 - タイヤの空気圧は、低すぎると高速耐久性低下や転がり抵抗の増大、ステアリング性能の低 下など悪影響が出やすいので、定期的な空気圧のチェックが必要である。指定空気圧はタイヤ が冷えているときの値なので、空気圧調整はタイヤが外気温と同程度の時に調整するようにす る。 空気圧が適正であればタイヤは均等に減っていくが、空気圧が高いと中央だけが減るセンター 摩擦、空気圧が低いとタイヤの両側が減る傾向にある。1 ヵ月に一度は空気圧のチェックをし、 走行前には目視で異常がないか確認しておくとよい。 表 11 空気圧の違い 空気圧過多 空気圧正常 接地面積が小さくなり外傷を受 均等にタイヤが減り、タイヤの けやすくタイヤの真ん中だけが 性能がきちんと発揮できる状 減るセンター摩擦が起きる。ゴ 態。 ツゴツした乗り心地になり、小 さな段差でも跳ねる感じがする。 走行安定性が低下する場合もあ る。 - 29 - 空気圧不足 接地面の両側が路面に接触し、 両サイドから摩耗する。タイヤ の発熱が大きく高速運転時に破 裂してしまう可能性がある。路 面に対する抵抗が大きくなり、 燃費が悪くなる。また、操縦性・ 安定性も低下しタイヤの負荷能 力も低下してしまう。 6) 空気圧の単位 タイヤの空気圧は、一般的に運転席のドアを開けたところに表示されている。圧力の単位と しては「kgf/cm2」(又は誤った表記だが「kg/cm2」)が使われていたが、国際単位系(SI 単位系、 フランス語の“Le Systeme International d'Unites"の略称)への移行を図る新計量法(平成 4 年法律第 51 号)により 1993 年 11 月 1 日、ISO(The International Organization for Standardization、国際標準化 機構)への移行がなされ、kPa(キロパスカル)という単位が使用されている。JIS 規格は 1991 年に 完全に SI 化され、JIS Z8203(国際単位系(SI)及びその使い方)に規定されている(1999 年 10 月 1 日 より、取引証明には SI 単位以外は使えないこととなった)。単位の変換は、 1kgf/cm2=98.0665kPa ≈ 100kPa である。 表 12 [kgf/cm2]と「kPa」の簡易換算一覧 kgf/cm2 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 2.9 3.0 kPa 137 147 157 167 177 186 196 206 216 226 235 245 255 265 275 284 294 「kgf/cm2」で表記された数値を 100 倍すると、 「kPa(キロパスカル)」に換算した値に近い値を 得られる。例えば 2.2kgf/cm2 は約 216kPa だが、220kPa としても誤差は約 2%で、タイヤの空気 圧としては実用上差し支えない。 重さとは力で、地球が物体を引く力、つまり物体に働く重力の大きさのことである。そこで、 力の単位として、重力加速度が 9.80665m/s2 の地点における質量 1kg の重さが 1kgf と定義されて いる。 1kgf=1kg*9.80665m/s2 質量 1kg の物体の重さは厳密には量る場所によって微妙に違ってくる。そこで、SI 単位系で は力の単位として「N(ニュートン)」という単位を用いることとし、以下のように定義されてい る。 1N=1kg*1m/s2 1N は凡そ 100g のリンゴ 1 個の重さに相当する。 そして圧力の単位としては「Pa(パスカル)」が用いられ、以下のように定義されている。 1Pa=1N/m2 100kPa は、凡そ 1cm 四方に 1kg の重さがかかっている状態に相当する。 - 30 - 7) タイヤローテーション タイヤは装着する位置によって摩耗の仕方や進み具合が違う。同じ位置に付けたまま長期間 使用すると、使用条件によって癖のある片減りを起こしやすい。そこでタイヤの取付け位置を 入れ換えることでタイヤの摩耗を均一化させ、長持ちさせようというのがタイヤのローテーショ ン(位置交換)である。 一般的には、フロントタイヤはショルダー部に、後輪駆動車(FR)はリヤタイヤのセンター部に 摩耗が起こりやすくなる。前輪駆動(FF)車では、フロントタイヤに制動力・駆動力、コーナリン グの力が集中的に働くので、リヤの 2 倍又はそれ以上に摩耗が起こる。FF 車では特に、ローテー ションがタイヤの寿命を延ばすためにも有効である。 ローテーションは、5000km 走行後を目安に行うのが適当と言われている。加減速が多かった り、直線よりもカーブが多い道を走ることが多い場合は、早めにローテーションを行うことが 望ましい。また、偏摩耗を防ぐのにも役立つ。ローテーションを怠るとタイヤが異常摩擦をお こし、異常振動(シミー)、騒音、乗り心地の低下、タイヤの寿命が短縮するなどの原因になる。 表 13 タイヤローテーションの例 一般タイヤ 方向性パターン FF 車 FR 車 基本的にローテーションを行う際は前後を交換する際に、表 13 に示すように一方のタイヤの 左右を交換する。例えば、FF 車の場合、前輪を同じ方向で後輪と交換し後輪の左のタイヤを前 の右側に後輪の右のタイヤを前の左といった具合である。ただし非対称・方向性パターンを採 用するタイヤ等左右の向きが決まっている場合、左側、右側のそれぞれ前後の入替えしかでき ない。スタッドレスタイヤでは前後の入替えのみとなる。車によって表 13 の例と異なるローテー ション方法が指示されていたり、前後輪でタイヤサイズが異なるためにローテーション自体が できないこともあるので、取扱説明書で確認する必要がある。 8) 応急用タイヤ タイヤの性能向上と道路整備が進み、タイヤのパンクが少なくなった。そのため、通常走行 するタイヤをスペアタイヤとして車載する必要性が小さくなり、パンクしたときだけに使用す る専用タイヤが開発された。これが応急用タイヤでテンパータイヤが主流となっている。テン パータイヤは、収納性と取り付けやすさを実現するために細く小さくなっている。あくまでも パンクしたタイヤを修理するまでの間、応急用として使用するもので、走行性能は通常のタイ ヤに比べ劣る。このテンパータイヤでは長距離走行することはできない。 - 31 - テンパータイヤの空気圧は、小さいタイヤで荷重を支えるために 420kPa と高く設定されてい る。タイヤのゴムも薄く空気圧も高いので空気が抜けやすい。よって定期的な点検が必要であ る。タイヤの径が変わるため車によっては取り付けられる位置(前後いずれか)に制限がある。こ のためパンクしたタイヤの位置によっては前後を入れ換える必要がある。 尚、最近の新車ではテンパータイヤの代わりに、パンク修理道具一式を装備する例もある。 9) 低扁平化、インチアップ タイヤの外径をほぼ同じにしたまま、内径を大きくすることをインチアップと呼んでいる。 タイヤの外径を変えないで内径を大きくするということは、タイヤの扁平率を下げることを意 味し、その分タイヤ剛性が向上して、走る・曲がる・止まるといった性能もアップすると言わ れているが、運動性能にはサスペンションの設定も大きく影響するため、タイヤを低扁平化す るだけで運動性能が向上するとは言えない。ただ、車の外見のみを重視してタイヤの外径をむ やみに大きくしたりタイヤ幅を広くすると、スピードメーターに誤差が生じたり、車体に干渉 したり車体からはみ出したりするなどの違法改造になることがあるので注意が必要である。ま た、扁平率が低くなるとロードインデックスが小さくなることもあるので注意が必要である。 タイヤが支えられる重さの能力は空気の量、つまり内容積と圧力に比例する。タイヤ内部の 容積が小さければ空気の量も少なくなる。扁平率が低いということは、標準サイズに比べて空 気が入る容積が小さいということになる。標準サイズから、低扁平サイズに変えたい場合、重 さを支える能力(荷重指数)が低下する場合はインチアップできない。 10) タイヤの保管 自宅で長い間タイヤを保管する場合は、タイヤの形を保持するため、ホイールに付け、空気 を入れたまま保管するのがよい。但し、ホイール付のタイヤは重量があるので、パイプなどの 突起物がトレッドゴムに食い込み跡が残ることがある。凹凸がない平らなところにタイヤに均 等に重さがかかる状態で置くとよい。床や壁にタイヤが直接触れるような場合、タイヤの色が 床や壁には付きやす、一旦黒くなってしまうとほぼ取れない。そのため、床、壁との間にダン ボールや木の板を挟むとよい。 タイヤのゴムには劣化を防ぐ成分などが配合されているが、これが直射日光で壊されてヒビ 割れの原因を作る。屋外で雨ざらしなどは最悪で、長持ちさせるには直射日光、雨などが当た らない様な場所に保管するのがよく、ゴムの劣化を防ぐ。タイヤにカバーをしておくのもよい。 11) タイヤに関わるトラブル (1) バルブコア タイヤのバルブの構造は、筒(ホイールから出っ張っている部分)の中にネジが作ってあり、 その中にバルブ・コアというゴムの付いた弁が入っている。このバルブ・コアが僅かに緩ん でいたりゴムの傷みや、小さなゴミを噛んでいたりすると、わずかにエアが漏れるようにな る。空気を入れた後に、注入口に石鹸水やツバを付けてその膜が膨らまないかを見れば、こ の機能をチェックすることができる。バルブ・コア自体の交換は、空気を入れ直す必要があ るが、比較的簡単に交換できる。 - 32 - ホイールとバルブの取付け部が、緩んでいたり(ネジ式)、サビや腐食が発生していたり、パッ キン(バルブグロメットという)のゴムが割れていれば、そこからエアが漏れてくる。問題があ りそうな場合は交換が必要になるが、その場合にはタイヤの組換えが必要となるので、タイ ヤ交換時に新品に換えておくのが望ましい。また、ホイール側に腐食がある場合は綺麗にし ておく必要がある。 パンクもなくバルブ関係にも問題がないのにエアが減るという場合は、ホイールとの密着 度を点検する必要がある。現在の車では、チューブの入ったタイヤはほとんどないので、タ イヤとホイールの間で気密性が保たれていなければならない。 また、ホイールを縁石にヒットしてリムが変形している場合は、そこからエア漏れを起こ す可能性がある。このようなエア漏れをチェックする場合は、大きな水槽にホイールごと浸 けてタイヤとホイールの間からエア漏れしていないか確認する。大きな水槽がなくても石鹸 水をタイヤとホイールとの境目全体に沿って流し込み、しばらく様子を見てみるという手が ある。漏れがあれば泡が発生する。 (2) カット、クラック なんらかの異物によってタイヤが受けた傷をカットという。カットはタイヤの内側に起こ ることは少なく、通常外側に起こる。特に異物を踏む機会の多い左側タイヤの外側にカット が生じる可能性が大きい。駐車するときに路肩にタイヤを擦りつけたりすると、それがカッ トの原因になることもある。路肩のブロックがずれていたりすると、大きな外傷になること もある。 あまり走っていないタイヤでも経年変化によってゴムの劣化が起こるのは避けられない。 目に見えて分かるのが、ゴムの細かいヒビ割れで、クラックと呼ばれている。クラックが目 立って多いとしたら、タイヤの寿命が近づいている可能性がある。専門店での点検を受けた 方がよい。 (3) フラットスポット 駐車場に長い期間放置された車のタイヤで、接地したトレッド面が変形して平面状になっ た状態。原因は接地している部分のタイヤコードが折り曲げられた状態になっていたためで、 フラットスポットのできたタイヤで走行すると、ボディーやハンドルに周期的な振動が出る。 タイヤ空気圧が少ないまま放置されるとなりやすいが、軽度なフラットスポットであれば、 走行を続けることで徐々に元に戻る。 (4) タイヤの美化剤・保護剤 タイヤにはもともと老化防止剤が含まれている。老化防止剤は徐々に表面に出てきて、ク ラックを防止している。ところが、タイヤ美化剤・保護剤の中には、その老化防止剤を流れ 落としてしまうものもある。 (5) スタンディング・ウェーブ 走行中に生ずるタイヤ接地部分のたわみは波となって後方に伝わり、やがて収束するが、 タイヤの空気圧が低いまま高速走行を続けると波の伝播速度より速くタイヤが回転すること - 33 - になり、これが重なり合って大きな波となってタイヤを変形させ、タイヤの接地部分の後方 に波状の変形が現れることがある。これをスタンディング・ウェーブ現象と言う。 スタンディング・ウェーブはタイヤの表面に生ずる波であり、車軸が振れるわけではない ので、スタンディング・ウェーブが発生しても車の振動は発生せず、ドライバーには感知で きない。明瞭なスタンディング・ウェーブが発生すると、タイヤ表面の温度が異常に高くな り、短時間でタイヤはバースト(破裂)することが多い。 (6) ハイドロプレーニング 水のたまっている道路を高速で走行するとき、ある速度以上になるとタイヤが路面上の水 を排除する作用が間に合わず、道路とタイヤの間に水膜ができタイヤが水上に浮いて車のハ ンドル操作やブレーキができなくなることがある。これをハイドロプレーニング現象と言う。 ハイドロプレーニングは車の速度、タイヤの溝の深さ、水深の深さ、空気圧の影響を受け る。タイヤが摩耗して溝が浅く、空気圧が低いと、低い速度でもハイドロプレーニングが起 きやすくなる。 ハイドロプレーニングの怖さは、ドライバーには発生していることが分からず、ブレーキ を踏んだり、ハンドルをきったときに操縦不能になり初めて分かるというところにある。 走行中、タイヤが浮いたような感じがしたら、慌ててブレーキをかけたりハンドルをきっ たりするとグリップが回復したときにスピンを起こしてしまうので、アクセルから足を急に 離したりせず、急なハンドルやブレーキの操作を避け、シフト操作もしないで、タイヤの回 転に合わせて徐々に減速しながらタイヤのグリップの回復を待つしかないと言われている。 (7) ディファレンシャルギアの過熱 一般にデフとも呼ばれるディファレンシャルギアは、タイヤの回転数の差を吸収するもの である。直進時、駆動輪は左右で同じ回転数だが、カーブでは内側よりも外側の車輪が多く 回転しないとスムーズに曲がれない。また、4WD では前後の回転数の差も妨げになる。その ため、駆動輪の間、4WD ではさらに前後輪の間にディファレンシャルギアが装備されている。 応急用タイヤ(テンパータイヤ)の様に径の小さなタイヤを駆動輪に付けた場合、直進時も左 右の車輪の回転数に差ができるため、常にディファレンシャルギアが作動し続けることにな る。そのためにディファレンシャルギアが過熱し、焼き付いたり発火する恐れがある。2000 年の年末頃に運輸省(現・国土交通省)から、マスコミを通じて「指定外のタイヤを装着した 4WD 車の車両火災が発生している」との発表があったが、これはサイズの違うタイヤを混同して 使用したことが原因となっている。 ディファレンシャルギアの過熱を防ぐためには、以下のようなことに注意する。 1. 前・後輪それぞれに、自動車メーカーが指定したサイズを使用する。 2. タイヤのメーカー、銘柄、パターンを、四輪とも同一にする。 3. 摩耗差の著しいタイヤを、混ぜて使用しない。 4. タイヤの空気圧を、指定空気圧に調整する。 5. 応急用タイヤは、自動車メーカーの指定した位置に装着し、指定された条件内で走行 する。 6. 冬用タイヤを装着するときも、1~4 に注意する。 - 34 - <title>乗用車用タイヤの安全な使い方</title> - 35 -