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第 2 章 北部・北東部地域の概要

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第 2 章 北部・北東部地域の概要
第 2 章 北部・北東部地域の概要
第 2 章 北部・北東部地域の概要
2.1
アフガニスタン国の歴史
(1) 古代からアフガニスタン国家建設まで
アフガニスタンには、紀元前 10 万年前頃から旧石器の文化があり、また、紀元前 7000 年前頃か
ら新石器文化があったことが知られており、5 万年前頃の旧石器中期の石器がヒンドゥークシュ
山脈の北部と南部で発見されている。また、2 万~1 万 5,000 年前頃の旧石器後期の石器がバルフ
地域で発見されており、6,500 年前頃の物と推定される石器が、アムダリア南方で発見されてい
る。バルフ地方では、紀元前 2000 年から紀元前 1800 年頃の青銅器時代の数体の石製女性像が出
土しており、イラン高原やメソポタミアの諸文化と早くから深い繋がりがあったことを示してい
る。紀元前 2000 年頃から紀元前 1,000 年頃にかけて、中央アジアに居住していたアーリア人が
アムダリアを越え、アフガニスタン北部からインドに移動したと言われているが、この時アーリ
ア人はバルフを中心としたアフガニスタン北部地域で数千年前から動物の家畜化や農業が行われ、
人々が村や小さな町を形成し生活していたことに驚愕を覚えたと言う記載が残されている。
紀元前 6 世紀頃からは、アフガニスタン南部を中心にアケメネス朝ペルシアの支配下に置かれた
が、紀元前 330 年から全 327 年まで、アレキサンドロス大王がアフガニスタンの南北を転戦し、
アレキサンドロス大王の没後、後継者のセレウコス 1 世の統治下に置かれた。紀元前 305 年イン
ドのマウリヤ朝にヒンドゥークシュ山脈の南部を明け渡し、仏教がアフガニスタンに布教される
こととなったが、ヒンドゥークシュ山脈の北方では、セレウコス朝の支配が続き、紀元前 250 年
にセレウコス朝から独立し、グレコ・バクトリア王国が誕生した。紀元前 135 年頃、このグレコ・
バクトリア王国を滅ぼしたのは、遊牧民(サカ)による国家であるクシャン朝である。クシャン
朝の全盛期には、ヒンドゥークシュ山脈を越えアフガニスタンを席巻してガンダーラ地方へと進
出し、さらに領土をインダス河の向こうのガンジス中流域まで広げた。しかし、クシャン朝も三
世紀中旬頃から国力を低下し、ササン朝ペルシアを宗主国と認める小国となっていった。その後
クシャン朝は復興に努めるが、四世紀には王国が瓦解して、バルフ地域はペルシアの新しい属州
となり、ササン王朝から選ばれた王によって統治を受けることになった。このササン朝ペルシア
の統治は、イスラム教を奉ずるアラブ軍がアフガニスタンの西北部から進入するまで続き、バル
フ及びヘラートは 677 年にアラブ人の支配するとろとなり、ホラサーン州に併合されタヒール朝
が創設された。この時期、他のアフガニスタンの諸地域は、割拠する地方君主の支配権のもとに
あった。その後、サーマーン朝がイスラム教に基づく法による文治に力を注ぎ、経済の繁栄と共
にブハラ、サマルカンド、バルフ等の都市に文芸文化が花開いていった。サーマーン朝に続き、
ガズニー朝、グルー朝と支配が移行していくが、1222 年の蒙古軍の来襲でバルフ、ヘラート、バー
ミヤン等主要都市は、チンギスハーンの所領と化していった。この蒙古軍の襲来により、バルフ
はことごとく破壊され、灌漑水路は壊され周辺に湛水地域が広がり、果樹は根こそぎ引き抜かれ、
かつて広大な都市の痕跡だけを残した状況になった。
2-1
この後、クルト朝支配を経て、1370 年ティムールがバルフの王位につき、ヘラート及びバルフ地
域はティムール朝の支配下にはいることになる。ティムール朝は 1500 年代になるとサマルカン
ド政権とヘラート政権に分裂し、王国としての統一的な力が失われ、トルコ系遊牧民のウズベク
人が、強力な国家を形成しつつあり、1500 年にはサマルカンド政権を倒し、1507 年にはヘラー
ト政権を征服し、ティムール朝が滅びていった。ウズベキ人が、アフガニスタン北西部に定住し
始めるのはこの時期である。この後の 16 世紀、17 世紀は西方をサファヴィー朝、東方をムガー
ル朝にアフガニスタンが分割統治される時期が続く。1707 年カンダハール地方を占拠したガルザ
イ族がサファヴィー朝ペルシア人に対して反乱を起こし、宗主を殺して独立を宣言し、アフガニ
スタン自主の礎を築いた。ガルザイ族は、後継者を巡る争いがあったものの、1730 年まではペル
シアをも支配下に置く強大な部族となった。しかし、トルコ系アフシャール族であるナーディル・
シャーの登場によって次第に力を失い、代わってドゥラニ族がアフガニスタンの主族となってい
く。ドゥラニ族は、1947 年ナーディル・シャーがペルシア人に暗殺されたのを期に、アフマッド・
ハーンがカンダハールでアフガニスタン人の王として即位し、サドザリ朝がここに始まった。こ
れが現在アフガニスタンの基礎となるアフガニスタン人国家の始まりである。
古代からサドザリ朝支配までの長期に渡り、バルフ地域を中心とした北部地域は、南部のカンダ
ハールと並びアフガニスタン国の社会文化的中心地域として重要な役割を果たしてきた。
(2) 近代から現在まで
アフガニスタンは、北方を旧ソ連の中央アジア諸国、西をイラン、東から南をパキスタンと接し、
古くから中央アジアの文化・経済の要所であった。アフガニスタンは、過去よりそれら地理的条
件に左右され、周辺各国の影響を大きく受けた。
アフガニスタンは、19 世紀から共にアフガニスタンへの進出を望んでいた北方のロシアと、イン
ドを支配していた南方の英国の 2 大国の間で翻弄されつつも、両者の力関係を旨く利用し、形の
上で独立国家としての道を歩んできた。しかし、第二次世界大戦が終わり、英国がインドから撤
退した後は両者の均衡は崩れ、ロシアが徐々にアフガニスタンに対して影響力を持つようになっ
た。アフガニスタン国内では、ロシアの影響力が及び始めると反ソ運動が起こり始めた。
1950 年代より立憲君主制を導入し、近代化の道を歩んできたアフガニスタンに、突如軍事クーデ
ターが起こったのが 1973 年 7 月 17 日である。当時の国王ザヒル・シャーが目の治療のためイタ
リア訪問中、彼の甥であるダウド将軍(元アフガン首相)がクーデターを起こし、アフガニスタ
ンを共和制に移行させた。このクーデターは共産党の支援を受けたものであり、ダウドは新政府
の閣僚 14 人のうち半数をアフガニスタン共産党党員から抜擢し、多数の共産党員を行政官として
地方に派遣した。また、ダウド新大統領は体制固めのため、イスラム協会を初めとする全ての政
治グループを禁止し、彼らを厳しく弾圧した。弾圧を受けた政治グループのメンバーは、主にパ
キスタンのペシャワールに移動し、やがて、このペシャワールから反政府ゲリラがいくつも組織
されることになった。そして、この反政府ゲリラ達がアフガニスタンに介入した共産党(ソ連)
2-2
を追い出すべく抵抗運動を繰り広げた。共産党の影響力が増すにつれ、アフガニスタン国内でも
反体制運動、反共運動が盛んになった。また、共産党内部間でも抗争が激しくなり、クーデター、
暗殺が繰り広げられ、アフガニスタン国内は混乱した。
1978 年 12 月、アフガニスタン国内の混乱の原因は、共産党体制に反対する反政府勢力であると
主張したソ連は、事態を沈静化するためアフガニスタンへ軍事侵攻を始めた。ソ連の軍事侵攻に
対して、アメリカ、パキスタン、サウジアラビアの西側諸国は、共産主義勢力の拡大を阻止する
ため、国家の安全保障のため、あるいは石油に絡む利権を守るため、反政府組織を支援した。主
にアメリカは武器を提供し、パキスタンは軍事施設、サウジアラビアは資金を提供した。西側諸
国の支援を受けたイスラム原理主義者は、ソ連軍に対してゲリラ戦を続け、次第にこの戦いはイ
スラム戦士(ムジャヒディン)による聖戦(ジハード)と呼ばれるようになり、他のイスラム諸
国の賛同を得た。ムジャヒディン勢力は、イスラム協会、イスラム党など各政党を母胎とし結束
を図り、10 年にも及ぶジハードの結果、1989 年ソ連軍をアフガニスタンから退去させた。さら
に、1992 年には最後の共産党政権、ナジブラ政権を打倒しアフガニスタンから共産党を追い出し
た。ムジャヒディン達は、カブールに入城しイスラムに基づくムジャヒディン連立政権を発足さ
せた。
しかし、ラバニを大統領とするムジャヒディン連立政権は、各政治団体・組織間の不和が原因で
閣僚人事が揉め長続きしなかった。さらに、ムジャヒディンのカブール入城を助けたウズベク人
勢力や、ムジャヒディン達とは一線を画し、イランからの支援を受けてソ連に抵抗していたハザ
ラ人勢力などが、主要ポストに就くことが出来ず、程なくして内戦状態に入った。内戦は、ラバ
ニを中心とするイスラム協会と、ヘクマティアルを中心とするイスラム党とが対決する構図と
なった。内戦に対し、周辺各国はそれぞれの利権により支援を開始したため、内戦は長引くこと
となり、首都カブールのみならずアフガニスタンの各地に広がった。
この様な中、アフガニスタン国内でタリバンが台頭する。「タリバン」とはイスラム神学生「タ
リブ」の複数形のことで、彼らの殆どはジハードの時にパキスタンに逃れた難民、または、その
子供達であり、タリバンは 1994 年 11 月にパキスタンのトラック部隊拉致事件を解決し、アフガ
ニスタン国内で一躍有名になった。この事件の解決をきっかけにアフガニスタン第二の都市であ
るカンダハールを占領する。これ以降各地でムジャヒディン勢力と戦い、次々と戦闘に勝利した。
タリバン勢は、1995 年 2 月にヘクマティアルにも勝利し、4~5 年のうちに国土の 90%を支配し
た。一方、ムジャヒディン勢力の残党は、タリバンに対抗する目的で結束を固め、マスードを中
心とする北部同盟を結成した。タリバン政権はパキスタンが、北部同盟はタジキスタン、ウズベ
キスタン、イラン、インドの各国が支援したと言われている。この当時、タリバン政権は国土の
90%を支配したにもかかわらず、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連合以外からは、
国家として承認を受けることが出来なかった。しかし、トルクメニスタンの原油と天然ガス、そ
れを運ぶパイプライン建設権を狙い、国家、民間企業がタリバン政権に接触し続けたため、タリ
バン政権もそれらを巧みに利用して、政権維持を図った。
2-3
この様な中、2001 年 9 月アメリカで同時多発テロが発生し、同年 10 月にはアメリカと同盟国に
よるタリバン勢力に対する空爆が開始された。これを受け、北部同盟は反攻を開始し、11 月には
カブールを奪還、12 月にはタリバンが事実上消滅するに至った。これを踏まえ、各派は国連の仲
介により国家再建へのプログラムであるボン合意を成立させ、12 月にはハミド・カルザイを議長
とする暫定政権が発足した。2002 年 1 月には東京で復興支援国際会議が開催され、国際社会の全
面的なバックアップのもとに国家の復興が図られることとなった。2002 年 6 月には、緊急ロヤ・
ジルガが開催され、カルザイを大統領とする移行政権に統治機構が移管された。引き続き、ボン
合意に従い、2004 年 1 月には憲法制定ロヤ・ジルガによる憲法の制定、2004 年 10 月には国際世
論の全面支援のもと大統領選挙が実施され、カルザイが当選を果たした。これにより、本格政権
がスタートすることになり現在に至っている。
2.2
位置及び地形
アフガニスタン国は、国土面積 652,000km2 を有し、日本の約 1.7 倍、ほぼフランス、あるいは
テキサス州と同じ面積である。同国は海に面することなく、陸地に囲まれた土地で、北緯 29 度
21 分~38 度 30 分と東経 60 度 31 分~75 度の間にあり、国土の中央部を北東から南西へヒン
ドゥークシュ山脈が縦断しており、
国土の3/4 がヒンドゥークシュ山脈及び支脈に覆われている。
寒烈さと雪の多さからヒンドゥークシュ(インド人殺し)と呼ばれるこの山脈は、ヒマラヤやカ
ラコルム等の世界の屋根の西端にあり、南西に約 1,920km を縦断した後砂漠と化して消える。山
脈は、ワハン等のある北東部が最も高く 6,000m 級の高山が連なり、南西に行くほど高度が下が
る。
国の標高最高地点は、
北東部バダフシャーン州の高山ノシャックで標高 7,485m、
最低地点は、
北西部ジューズジャーン州のアムダリア河岸で標高 259m である。
アフガニスタンは、地形上大きく①北部山麓平原、②中央山岳、③東部・東南部山地・丘陵地、
④南部・西部平坦地帯に大別される。本調査対象地域の北部・北東部地域は、①北部山麓平原に
属し、大部分は標高 500m 以下のなだらかな平原地域であるが、平原の南部ではヒンドゥークシュ
山脈に向かい急速に高度が増す。また、ナンガハール州は、③東部・東南部山地・丘陵地に属し、
インダス川に合流するカブール川水系の盆地や谷底平野とそれらを取り巻く山地からなる。州都
ジャララバードの標高は、約 600m である。①北部山麓平原及び③東部・東南部山地・丘陵地の
特徴は、以下の通りである。
①北部山麓平原:大部分は標高 500m 以下の低標高地帯であるが、平原の南部では中央山岳に向
かい急速に高度を増す。アムダリア水系に属しヒンドゥークシュ山脈北麓から北側に流下する支
流河川から灌漑水の供給を受けている。この中で、バルフ及びクルム川は、アムダリアの支流で
あったが、紀元前 5~6 世紀頃より開発された伝統的灌漑システムにより、アムダリア平原内で水
が枯渇し、現在ではアムダリアの手前 40km から 60km で消滅しており、河川末端地域は裸地や
砂丘と化し Dashti-I Margo(死の砂漠)と呼ばれている。
③東部・東南部山地・丘陵地:インダス川に合流するカブール川水系の盆地、谷底平野とそれら
2-4
を取り巻く山地からなる地域である。ナンガハール州は、カブール川水系のカブール川やクナー
ル川から灌漑水の供給を受けている。また、ヌリスターン州、パクティア州、パクティカ州には、
アフガニスタン最大の森林地帯がある。
2.3
気 候
アフガニスタンは、乾燥、大陸性気候に属し、年平均降雨量は 300mm 程度である。降水は、一
般に 10 月~4 月に生じる。南西部~南部は乾燥気候、他は半乾燥気候に属するが、ヒンドゥーク
シュやパミールの山岳地帯は湿潤である。東部ナンガハール州、パクティア州では、夏にモンスー
ンの影響を受け降水がある。
アフガニスタンの気候は、
基本的に標高によって区分される。
北東部、
中央部の標高が概ね 2,400m
以上の地域には、半年以上に及ぶ長い冬がある。首都カブールを含む標高が概ね 2,400~1,300m
の地域は、四季が明瞭な温暖気候であるが、年間降水量は一般に 400mm 以内である。標高 1,300
~900m の地域は、高温の夏と 200mm 以下の降水量で特徴づけられる。標高概ね 900m 以下の
地域は、降水量 100mm 以下、高温で乾燥している。他方、東部のナンガハール、ホースト州は、
南東モンスーンの影響を受け、亜熱帯気候に属する。
1980 年代前半までの記録によると、最高気温はザランジュ(ニムルーズ州)の 51℃、最低気温
はシャーラック(ゴール州)の-52.2℃であった。また、年最大降水量はサラン・ショマリ(パラ
ワン州)の 1,212mm、最小降水量はザランジュ(ニムルーズ州)の 34mm であった。主要な農
業地帯(標高 500~2,000m)の降水量は、年間 200~350mm(1964~1973 年平均)であり、大
部分は冬季(11 月~4 月)の 6 ヶ月間に集中する。
気候区分からは、高標高地帯はツンドラ(ET)、氷雪(EF)気候、その周辺地域は冷帯冬雨(DF)
~温帯冬雨(Cs)気候に属し、更にそれを取り巻きステップ(BS)が分布する。南西部と北部の
低標高地帯は砂漠(BW)気候に、アラビア海モンスーンの影響を受ける東部のナンガハール州、
パクティア州は温帯夏雨(Cw)気候に属する。
調査対象地域の内、北部及び北東部地域は乾燥・大陸性気候であり、標高の低い地域は砂漠気候
に属している。また、ナンガハール州は、南東モンスーンの影響を受け、亜熱帯気候に属してい
る。カナダの気象チャンネル The Weather Network では、北部・北東部地域及びナンガハール
州の主要都市のうちマザリシャリフ、シビルガーン、クンドゥズ、ファイザバッド、ジャララバッ
ドの情報が入手可能であり、1961 年から 1990 年の気象データを基にした気象概況の平均値を
表 2.3.1 に示す。
2-5
表 2.3.1 気象概況の平均値
都市名
マザリシャリフ
バルフ州
(北部地域)
シビルガーン
ジューズジャーン州
(北部地域)
ファイザバッド
バダフシャーン州
(北東部地域)
クンドゥズ
クンドゥズ州
(北東部地域)
ジャララバッド
(ナンガハール州)
項 目
J
F
M
A
M
J
J
A
S
O
N
D
平均最高気温(℃)
平均最低気温(℃)
平均気温(℃)
平均降水量(mm)
平均日照時間(hr)
平均相対湿度(%)
平均風速(km/hr)
平均最高気温(℃)
平均最低気温(℃)
平均気温(℃)
平均降水量(mm)
平均日照時間(hr)
平均相対湿度(%)
平均風速(km/hr)
平均最高気温(℃)
平均最低気温(℃)
平均気温(℃)
平均降水量(mm)
平均日照時間(hr)
平均相対湿度(%)
平均風速(km/hr)
平均最高気温(℃)
平均最低気温(℃)
平均気温(℃)
平均降水量(mm)
平均日照時間(hr)
平均相対湿度(%)
平均風速(km/hr)
平均最高気温(℃)
平均最低気温(℃)
平均気温(℃)
平均降水量(mm)
平均日照時間(hr)
平均相対湿度(%)
平均風速(km/hr)
8
-1
3
29
122
79
11
7
0
2
42
115
78
11
6
-3
0
49
117
79
4
6
-1
2
44
114
80
7
16
3
9
18
181
61
4
11
0
5
35
118
77
11
9
1
5
44
124
76
11
8
0
2
65
117
76
4
10
0
4
57
115
75
7
18
6
11
24
183
60
4
16
5
11
44
158
72
14
16
6
11
56
162
71
11
14
2
8
92
149
71
4
16
6
10
77
159
75
7
23
11
16
39
207
62
4
24
11
18
28
194
64
11
24
12
17
26
198
65
11
21
8
14
98
186
67
4
23
12
17
54
201
71
7
28
15
22
36
228
59
4
31
17
25
11
300
44
11
31
15
23
11
298
47
11
25
11
18
77
257
61
4
30
16
23
30
277
54
7
35
20
28
16
305
47
7
37
23
30
0
353
27
14
37
19
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0
364
34
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32
14
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8
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43
4
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21
29
0
332
31
11
40
25
33
1
340
40
7
39
26
33
0
364
25
14
39
22
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0
366
31
11
36
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27
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30
7
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23
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1
340
28
11
39
27
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4
37
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0
333
24
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0
346
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35
16
26
1
305
28
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0
316
29
11
38
26
32
8
300
58
4
32
17
24
0
298
28
11
32
15
23
0
305
35
11
30
10
20
2
279
33
7
32
16
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0
290
32
11
35
21
28
8
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56
4
25
9
17
4
223
41
11
24
10
16
7
243
46
11
23
6
14
23
224
46
4
25
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17
7
222
44
11
31
14
22
3
278
55
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16
3
9
14
174
62
7
17
5
10
14
176
61
7
16
2
8
30
176
64
4
16
4
10
24
169
63
7
23
7
15
8
231
58
4
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0
5
22
126
75
7
11
2
5
30
126
74
11
10
-1
3
34
127
72
4
10
0
4
28
118
76
7
18
4
10
12
186
63
4
上記以降のデータとして、マザリシャリフ空港の
1995 年から 2004 年のデータによると、10 年間
の平均降水量は 140mm であり、上記平均降水量
をかなり下回っている。特に酷い干ばつのあった
1998 年から2001 年は平均降水量101mm と過去
30 年の平均値のほぼ半分の降雨しか観測されて
いない。また、図 2.3.1 に示すとおりバルフ州の
干ばつは、
1995 年から始まっていたことが判る。
2.4
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
Total
187
230
485
295
180
257
304
154
112
122
69
101
69
101
112
0
100
200
300
400
Annual Raifall (mm/yr)
図 2.3.1 バルフ州の平均降水量
水資源
2.4.1 アフガニスタンの主要水系
アフガニスタンは、かなりの水資源量を有しており、その 80%以上はヒンドゥークシュ山脈から
の雪解け水に依存している。近年の推定では、アフガニスタンは、毎年回復可能な潜在的水資源
2-6
として 75 億 m3 を有しており、その内、57 億 m3 が表流水、18 億 m3 が地下水と言われている。
また、降水が少ないことから表流水は、地下水涵養の主要水源でもある。灌漑への年間水利用量
は 20 億 m3 と推定され、その殆どが表流水で賄われている。
アフガニスタンには、ヒンドゥークシュ山脈から流れ出すヘルマンド・アルガンダブ川水系、カ
ブール川水系、アムダリア水系の 3 つの主要水系が存在する。各水系の特徴は以下の通りである。
【ヘルマンド・アルガンダブ川水系】
山脈から南方に流れ出て、カンダハール
州、ヘルマンド州、ニムルーズ州を潤し、
南西部のイランとの国境地帯に広がるシ
スターン地方のハムーン湖沼地に注ぐ水
系で、総流域面積は 386,000km2 である。
流域面積うち 78%に当たる 321,000km2
がアフガニスタン領内に存在し、約 20%
はイラン領内、2%はパキスタンとなって
いる。面積的には、アフガニスタン最大
図 2.4.1 アフガニスタン主要流域区分図
の水系であるが、年間平均流出量は僅か
14 億 m3 にすぎず、1993 年にヘルマンド・アルガンダブ川水系では、約 1.5 百万 ha の灌漑が行
われた(出典:Development Alternative Inc.)。
【カブール川水系】
山脈から東方に流れ出るカブール川水系で、ガンダーラ平原を貫流し、インダス川に合流しアラ
ビア海に注ぐインダス川水系の支流水系である。カブール川水系のアフガニスタン国内での流域
面積は 79,360km2 で、年間平均流出量は 24 億 m3、約 55 万 ha の農地を灌漑している。カブー
ル川は、アフガニスタン国内の河川で最も多くの水量を有するが、その殆どが山岳地域や岩石地
域を流れているため、アフガン国内で農地に適した土地が少ないため、ほんの限られた地域のみ
灌漑している。
【アムダリア水系】
アムダリアは、中央アジア最大の河川で、アフガニスタン内の標高 4,900m のワハン氷河を源流
として、2,540km に渡り流れている。その内、1,250km はアフガン国内又は国境に沿って流れて
いる。源流(Wakhan River)がゾルクル湖(Zor-Kul Lake)から流れ出たパミール川(Pamir
River)と合流した後、河川名はパンジ川(Panj River)と変わり、ワフシャ川(Vakhsh River)
と合流した後、アムダリアと呼ばれ、中央アジア諸国を貫流し、アラル海に流れ込む。アムダリ
アは、アラル海流域の主要な灌漑及び飲料水源となっている。アフガニスタン国内での流域面積
は、もはやアムダリアに達していない流域も含むかどうかにより変化するが、250,000km2 の大台
である。年間平均流出量も、上記流域を含むかどうかや流出量が大きく変化するバダクシャン支
2-7
流域の推定値により 13,900~19,000 百万 m3 と変化する。表 2.4.1 に様々な調査結果による北部
アフガニスタンの流域面積及び流量を示す。
表-2.4.1 各種調査結果による北部アフガニスタンの流域面積及び流出量
河川名
V. L. Shultz
Master Plan 1967
A. A. Pyatigorsky 1978
流出(mln. m3) 流域面積(km2) 流出(mln. m3) 流域面積(km2) 流出(mln. m3) 流域面積(km2)
(I)尻無し河川
Khulm
Balkh
Sari-Pul
Shirintagao
2,152.1
60.8
1,762.8
222.5
106.0
50,100
8,400
18,700
9,400
13,600
2,068.0
67.0
1,689.0
212.0
100.0
48,500
8,400
18,700
7,800
13,600
2,048.2
58.1
1,650.0
208.4
131.7
48,500
8,400
18,700
7,800
13,600
(II)ハリ・ルード水系
Murghaab
Harrirud
2,543.0
1,576.0
967.0
117,500
70,620
46,880
2,776.0
1,587.0
1,189.0
117,500
70,620
46,880
2,543.0
1,576.0
967.0
117,500
70,620
46,880
11,639.4
3,619.0
5,397.0
a/2,623.4
83,200
31,300
21,100
30,800
14,102.0
3,798.0
5,749.0
4,555.0
90,000
37,300
21,900
30,800
9,307.0
3,594.0
5,713.0
-
94,400
30,500
21,900
42,000
16,334.5
250,800
18,946.0
256,000
13,898.2
260,400
(III)アムダリア流入河川
Kunduz
Kokcha
Badakhshan
合
計
a/ 奔流域の平均比流量である 2.73 l/s/km で算出
出典:ICWC, Tashkent, Uzbekistan, Assessment of Water Resources in Northern Afghanistan
2.4.2 北部・北東部地域の主要水系(アムダリア水系)
本調査対象地域である北部・北東部地域は、アムダリア水系に属しており、殆どの水源がアフガ
ニスタン及びタジキスタンのパミール山脈の氷河融解、融雪、降雨に依存している。流量は、下
流域では取水工や貯水池により流量形態が緩和されているが、夏季(7 月~8 月)に最大となり、
冬季(1 月~2 月)に最も少なくなる。アムダリア水系は、アフガニスタンでは流域面積でもヘル
マンド・アルガンダブ川水系に次いで 2 位、流量でもカブール川水系に次いで 2 位にランクされ
るが、アフガニスタン農業においては、最も重要な流域であり、アフガニスタン農業生産量の約
半分が本流域で生産されている。
アフガニスタンでは、アムダリア流域は以下の 3 種類の支流域に分けられる。
a) アムダリア周辺の尻無し川で、クルム川(Khulm River)、バルフ川(Balkh River)、サー
レポル川(Sar-e-Pul River)、シリンタガオ川(Sherintagau River)等が含まれ、殆どが
当該地域で消費され、希にしかアムダリアに達しない。
b) ハリ・ルード水系として分類されることもある水系である。北方に流れるいくつかの国境を
越える河川水系で、トルクメニスタンやイランに供給されており、滅多にアムダリアに河川
水は達しない。ムルガブ川(Murghaab River)が、アムダリアに水を供給するカラクム水路
(Karakum Canal)に接続している。ハリ・ルード川(Harrirud River)は、今日トルクメ
ン砂漠に流れ込んでいる。
c) アムダリアに流入する様々な重要河川で、ワハン川(Wakhan River)、パミール川(Pamir
River)、バダクシャン州の他の河川、コクチャ川(Kokcha River)、クンドゥズ川(Kunduz
2-8
River)及び他の支流が含まれている。これらの河川は、北部アフガニスタンでアムダリアに
水を供給する唯一の河川である。
上記のアムダリア流域の 3 支流域の詳細は以下に示すとおりである。
【a. 尻無し川水系】
アムダリア流域に属するクルム、バルフ、サーレポル及びシリンタガオ川支流域は、流域面積
49,000km2 を有する。しかし、現在、本支流域からの流出はそれぞれの支流域で消費され、アム
ダリアには達していない。高水年には、これらの河川の灌漑地域から、余剰水がその周辺の近傍
低地に放出される。非常に高いピーク流量の時期のみ、主にバルフ川から古代のアムダリアの河
床で現在カラクルム水路として利用されているケリフウズバイ水路(Kelif Uzboy channel)に放
出される。これらの河川は通常アムダリアまでは達せず、砂漠で消滅しており、これらの河川と
アムダリアの間には、表流水源を持たない 72,500km2 の土地が存在する。
クルム川は、標高 3,600m のカラ・コタール峠から発し、狭い渓谷を経て広い谷間に出現する。
総延長は、230km で流域面積は 8,400km2 に及ぶ。カブール-マザリシャリフ間の道路は、この
河川沿いに走っている。
バルフ川は、石灰石層の高原地域を通り、多くの地下水源を有していることから、その上流域に
5 つの湖を有する。バルフ川は中流域ではワダアブ川(Wadhab River)と呼ばれ、ダラ・ユスフ
川(Dara-e-Suf River)は、重要な右岸の支流である。総延長は、400km で流域面積は 18,700km2
である。
サーレポル川は、コー・イ・ババ尾根(Koh-e-Baba)の北側斜面にある多くの湧水に源を発し、
サーレポル市近傍で合流し河川を形成している。総延長は 215km で、中流域の河川幅は 15~20m、
深さ 20m 程度ある。流域面積は大きく変化し、概ね 7,800km2~9,400km2 である。
シリンタガオ川は、ティルバンディ・トゥルキスタン尾根(Tirbandi-Turkistan)の北側斜面か
ら発し、マイマナ・ルード川(Maimana Rud River)、アブ・カイサル川(Abu-Kaisar River)、
エルマール川(Elmar River)を支流に持つ。流域面積は 13,600km2 である。
【b. ハリ・ルード水系】
マルガブ川流域のアフガニスタン国内の流域面積は 46,880km2 で、ハリ・ルード川流域の面積は
70,620km2 である。
マ ル ガ ブ 川 は 、 サ フ ェ ド コ ー 尾 根 ( Safedkoh ) と バ ン デ ィ ・ ト ゥ ル キ ス タ ン 尾 根
(Band-e-Turkistan)の間に広がる高地に発し、下流のムハマダハン(Muhamadhan)で灌漑
用に取水される。ムハマダハンの下流では、5,000ha の灌漑適地のうち約 1,000ha に灌漑されて
いる。カイサル支線(Kaisar)からカーン・タパ支線(Khan-Tapa)にかけては、アフガニスタ
ンとトルクメニスタンの国境沿いを流れ、トルクメニスタンのタフタ・バザール
2-9
(Takhhta-Bazaar)の上流では、カシャン(Kashan)及びクシュク(Kushk)支線により灌漑
されている。
ハリ・ルード川は、シャヒン村(Shahin)近くのいくつかの湧水の合流により、サルジャンガル
(Ssrjangal)で河川の形態を成す。源流からバドガ村(Badgah)(Daulatyar の西まで 27km)
までの間は、ハリ・ルード川は灌漑地や草地が存在する広い谷間を通って流れ、クシュウナミ村
(Kushnami)からオベ市(Obe)までは、狭い渓谷を流れているが、オベ市の下流からは広大
で平坦な谷間を流れる。ここには、7,000ha をカバーする灌漑システムを持つ長さ 150km、幅
39km に及ぶ大きなオアシスが存在し、一部ハリ・ルード川支流に当たるジャム川(Jaam)、カ
シェフルード川(Kashefrud)からも取水されている。ハリ・ルード川には、源流からプレ・カ
タム橋(Pul-e-Khatum)までの間に多くの支流が合流し、なかでもタガオシュラン川
(Tagaoushlan)は最も重要な支流に当たる。オベ市下流では多くの支流河川がハリ・ルード川
に到達せず、特に夏場は支流からの水は殆ど灌漑に使われてしまう。これら支流からの水がハリ・
ルード川に合流するのは、多くて 3 ヶ月程度である。
【c. アムダリア流入水系】
アムダリアは、その源流の位置する東部地域に重要な支流を有する。これらの支流には、流域面
積 31,300km2 を有するクンドゥズ川、流域面積 21,100~21,900km2 と概算されるコクチャ川、合
算して 30,800km2 の流域面積を持つバダフシャーン州の河川、また、ワハン川、パミール川等が
挙げられる。
クンドゥズ川は、ヒンドゥークシュ山脈に位置するシバール峠(Shibar pass)付近に発し、セイ
ガン川(Seigan)、カメルド川(Kamerd)の 2 つの左岸支流と、アンデルアブ川(Anderab)
及びカンアバッド川(Khanabad)の右岸支流を有する。
コクチャ川は、ファイザバッド近郊でジルム川(Jirm)、ワルドゥジ川(Warduj)、ザルディブ
川(Zardiv)の 3 河川が合流して形成される。コクチャ川は、狭い渓谷に沿って流れ、ファイザ
バッド下流で、デライム川(Deraim)、トシュカン川(Toshkan)及びキシュム川(Kishm)と
合流し、カラエ・ザヌム村(Kala-e-Zanum)近くでアムダリアに流入する。
ワハン川は、既に記載したとおり、ワハン氷河の標高 4,900m 付近が源流となり、パミール川と
合流しパンジ川と名を変え、ワフシャ川合流後からアムダリアと呼ばれる。
2.5
既存灌漑システム
2.5.1 北部水系の灌漑システム
(1) 歴史的背景
バルフ州及びジューズジャーン州に跨るバルフ川流域に展開する 18 の灌漑水路網は、世界で最も
古く、広大な重力式灌漑システムで、紀元前 6 世紀にアケメネス朝ペルシア時代に建設されたと
2 - 10
言われている。歴史的にこの様な初期の時代から、自然の供給と人間の需要のバランスを考慮し
た管理がなされていた。管理システムのトップには世襲的聖職者の支配者の一族で、この管理シ
ステムはイスラム時代までは良好に運営されていた。しかし、13 世紀のチンギス・ハーンの襲来
により、バルフ地域のほぼ全人口が殺され、水路網の維持管理に必要な多くの人力を失ったこと
で、水路網は維持出来なくなった。
これらの水路は、ティムール朝(15 世紀から 18 世紀)によって復活され、また、この時代に新
たな文化の中心であるマザリシャリフに水を供給するために、Nahre Shahi 水路が新たに建設さ
れた。しかし、19 世紀半ばから、戦争や不適切な管理のため、再度放置状態にされることとなっ
た。この様な状況の中、1889 年から多くのパシュトゥーン人が、アフガニスタン南部からバルフ
地域に移住し、彼らはバルフ川上流とバルフ地域に土地が与えられ、従来から当該地域で生活し
ていた住民と同様、これら灌漑システムから水の供給を受ける状況となり、水需要は大きく拡大
した。この新規入植による既存住民と新規入植者の間の水に関する問題は、現在も一部地域に顕
在している。
また、当該地域に展開する灌漑システムに大きな打撃を与える原因の一つは、1978 年のソ連侵攻
により、当該地域の主要都市の支配権を中央政府が失ったことであった。この時期に、一部の灌
漑水路は、ソ連に対抗したムジャヒディン達によって埋められてしまい、結果として、現在、灌
漑水路として機能しているシステムは、11 システムとなってしまった。
(2) 既存灌漑水路網
バルフ川下流域に位置する 11 の伝統的灌漑システムによる灌漑地域は、バルフ州の東から
Nahre-Shahi、Mazar-e-Sharif、Deh Dadi、Balkh、Dawlatabad、Char Bolak、Chimtal の各
郡、及びジューズジャーン州の Faizabad、Shiberghan、Aqcha 郡に跨る地域である。灌漑面積
は、約 420,000ha 程度と推測されるが、水利権台帳が失われたり、国有地が勝手に私有化された
りと、現在の土地利用及び土地所有台帳が明確に整
理されていないため、公式な既存灌漑面積は、明ら
かに出来ていない。この様な状況から、ADB プロ
ジェクト'Emergency Infrastructure Rehabilitation
and Reconstruction Project' (EIRRP, AFG Loan
1997) 'Traditional Irrigation Component'において、
各水路への水配分に使用する受益面積は、最終的に
は、各水路の代表及び灌漑局立ち会いの上、話し合
いによって決定された。
各水路の受益面積は、
表2.5.1
の通りである。
表 2.5.1 11 灌漑システムの水配分
Canal System
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
Emam Sahib
Nahre Shahi
Siagerd
Balkh
Mushtaq
Chimtal
Abdullah
Daulat Abad
Char Bolak
Faiz Abad
Aqcha
Total
Area
Water Allocation
(Paikal)
(%)
200
560
150
70
209
164
700
750
750
600
1,100
5,253
3.8%
10.7%
2.9%
1.3%
4.0%
3.1%
13.3%
14.3%
14.3%
11.4%
20.9%
100.0%
なお、アフガニスタンで使用されている面積の単位は、Jerib、Rasat、Paikal であり、一般的な
各単位の換算値は、1.0jerib=2,000m2、1.0rasat=66jerib、1.0paikal=6.0rasat で、1.0paikal
2 - 11
=79.2ha と言うことになるが、この換算値は各村によって異なることがあるので注意が必要であ
る。各水路の配置は図 2.5.1 の通りである。
図 2.5.1 バルフ川下流 11 灌漑システム
2.5.2 北東部水系の灌漑システム
概要が記載されている資料は、確認できなかった。
2.5.3 水管理
灌漑施設の水管理は、伝統的にミルアブ・バシ(Mirab bashi)によって行われている。ミルアブ・
バシは、水路システムの世話役で、小規模灌漑システムであれば 1 人、中規模、大規模なシステ
ムであれば数人から十数人のミルアブ・バシが選ばれる。水路受益範囲の農民達に水路の面倒を
見る人物として選任され、
地域によって異なるが農家の収穫物の概ね1/80を対価として受け取る。
その主な仕事は、①灌漑水の流下を妨げる草・枝刈り実施の決定・招集、②小規模な水路修復の
実施決定・招集、③農民と相談し、取水量の調整、④導水堤等の修復が必要な場合の招集、⑤農
民間を調整し、⑥灌漑スケジュールの決定、⑦上流等の他システムとの水争いの調停等が挙げら
れる。なお、大規模な水路の修復は、伝統的に受益農民が資材・労力を提供して実施される。
ミルアブが、水管理に関して責任を持つ範囲は、受益地内の各村への分水地点までであり、それ
以降は、各村から選出されマリックの承認を得たチャクボシ(Chak bashi)(ただし、地域によっ
ては Kok Bashi とも呼ばれる)が責任を持って行うことになっている。チャクボシの役割は、①
村落内において農民による灌漑が適切に行われているかを監視・調整する、②同じ二次水路を利
用する他の村への取水が適切に行われているかを監視・調整する、③受益者による水路清掃が適
切に行われているか監視する、④数村に跨る水配分の問題や水不足等、チャクボシの対応範囲を
超えた問題をミルアブに報告する、⑤ミルアブや灌漑局からの情報を農民に伝達する事などが含
まれている。
2 - 12
チャクボシの給与は、受益者からキャッシュ又は生産物で支払われ、一般には月額 3,000~
4,000Afg、生産物の場合は年間コムギ 400kg と言われている。チャクボシは、受益者から受け入
れられなかった場合、交代を余儀なくされるが、通常、一度選出されると 10~15 年程度の長期
に渡りチャクボシとして勤め上げる。
1978 年までは、コミュニティーと政府は共に協力し合い、水路を維持し平等な水供給は維持され
た。ミルアブ・バシは地方政府とコミュニティーに大きな影響を持っていた。ミルアブ・バシは
政府から任命され、政府の許可を得なくても住民を改修やクリーニングまたは取水等に関する指
示をする事が出来た。また、1978 年以前は、政府は違法取水取り締まりに関し、違法取水を行っ
た人達を罰するなど、ミルアブ・バシを支援してきた。さらに、中央・地方政府は州の灌漑局に、
取水工や水路のコンクリートライニングのための費用を出し、灌漑局は重機を出して、クリーニ
ング等の維持管理作業に関してコミュニティーを支援した。しかし、現在はこの様な政府からの
支援が行われなくなり、ミルアブ制度は維持されているものの、ミルアブ・バシの影響力は、限
定的なものになっている。
2.5.4 水利権及び水利費
Paikal はアフガニスタンの面積の算定単位であり、農地にはそれぞれ耕作条件や水利条件からグ
レードが決められ、それぞれに換算値が設定されている。灌漑水路からの取水量や灌漑面積は、
このPaikal 値により設定されており、
各水路及び水路内の分水工にPaikal 値が決められている。
バルフ州農業局からの聴き取りによる農地のグレードは以下の通りである。
Class I
:
Class II :
果樹園及び年間を通して灌漑される農地で、二毛作が可能である。
年間を通して灌漑可能な農地で、二毛作が可能である。(Class I に対する換算レー
ト 0.85)
Class III :
全面積の 50%以上の農地が灌漑可能で、単作のみが可能である。(Class I に対す
る換算レート 0.67)
Class IV :
全面積の 50%以下の農地が灌漑可能で、単作のみが可能である。(Class I に対す
る換算レート 0.40)
本来、Paikal 値は水路によって定められているが、長い歴史の中で入植などが行われたこともあ
り、各水路の Paikal 値について適切な管理が行われておらず、灌漑局が把握している Paikal 値
とミルアブ・バシやチャクバシが把握している Paikal 値の間に、大きな差違が生じていることが
多い。Paikal の換算レートについても、
1.0 Paikal が示す灌漑する面積の換算レートが水路によっ
て異なる。例えば、バルフ川下流域にある Abdullah 水路では 1.0 paikal は 72 ha である。
Daulatabad 水路では 80 ha である。また、上流のコミュニティーと下流のコミュニティーの 1.0
Paikal の換算値が異なっており、上流のコミュニティーは下流のコミュニティーより小さな換算
値が使用されている。これは、上流農家の方が小農であるためと言う説や、上流の方が下流より
確実に取水できるためという説等があるが、明確な説は現在では不明である。ともあれ、各支線
2 - 13
灌漑水路、農家やコミュニティーはそれぞれの Paikal を持っており、それらを総合すると 1 次水
路の合計 Paikal になる。水路の Paikal はミルアブ・バシ及びチャクボシに管理されており、彼
らは担当している水路の記録帳を持っている。各農家も自分の配分量とローテンション日数を
知っている。
Paikal による水の配分は取水工の溝幅によって決められている。1920 年に Paikal システムが開
始された当初では、1.0 Paikal は 3 から 3.5 インチの溝幅に相当した。しかし、1939 年には 1 イ
ンチに縮小された。現在、受益者と灌漑局の間でどの幅を適応すれば良いかについて意見の相違
があり、明確な答えは出されていない。個人に割り当てられた Paikal 値は、1925/26 年に作成さ
れた法律に基づいており、この時期に水権利をもらったコミュニティーや個人は自分たちを“契
約所持者”であると名乗っている。追加の Paikal 権利は 1939 に移住してきた人たちに与えられ
たと想定される。1970 年中頃、圃場調査が行われた。それによると、実際の Paikal 値と登録さ
れた Paikal との間に変化は見られなかった。
80 年前に設定された現在の Paikal が現在も有効とされているが、上記のような記録の相違の問
題が解決されないままになっており、また、近年の人口増加、河川水量の低下、農業形態の変化
や都市化等を考慮してない事から、この複雑な古いシステムは現状に適合していないのは明白で
ある。
水利費の徴収に関しては、理論的には Paikal に基づいて徴収されているはずである。しかし、水
利費は、1925/26 年の契約に基づいており、80 年以上一切見直しが成されていないことから、た
とえ適切に徴収されていたとしても、現在、その資金をもとに必要な改修工事等を十分行える金
額ではない。また、20 年以上に及ぶ戦乱の中で、土地台帳等が紛失したり、私的利益のために改
竄されていたりと、灌漑局が水利費を徴収しようとしても、公平に徴収できる状況ではないと思
量する。この様な状況から、水利費の徴収が現在行われているかどうか定かではない。
2.6
農村社会
2.6.1 農村社会の伝統的統治制度
伝統的な自治組織・協議組織であるシューラとは、人々が集まり、円になって座り、重要な社会
問題について紛争を解決し、集団的な決定を行うものであり、少なくとも半世紀以上の歴史を有
する。イスラムの人たちは、「シャリーア」と呼ばれるイスラム法に基づいて生活をしている。
「シャリーア」とは、コーランと預言者ムハマッドの言行伝承などに基づいたイスラム法のこと
で、神の定めた規範である。規範には、全てのルールが示されており、人間は絶対的に服従しな
ければならないと規定されている。「シャリーア」の高度な知識を備えた人物は「ウレマ」と呼
ばれ、イスラム国家・社会で重要な役割を果たす使命を帯びている。村落レベルでの宗教指導者
が「ムッラー」である。そうしたイスラム法の基で評議会と訳されるのが「シューラ」であり、
アフガニスタンの伝統的な部族長会議によるものが「ジルガ」と呼ばれている。
2 - 14
シューラは、元々村での争い事の調停や違法行為に対する処罰の決定など、共同体の問題を解決
する機関であり、意志決定の制度であるが、それぞれの地域毎に、部族内、部族間や地域社会の
公的な問題や紛争を解決するための同意形成や決定のための協議組織として機能してきた。
シューラが公的な問題を取り扱うのに対し、私的な問題は家族内で決定される。ジルガ・シュー
ラは、部族毎や村落、市、地域、州レベルで形成されている。
農村部で最も権威のある人物は、宗教上のリーダーであるムッラーであるが、村落内の指導者と
しては、伝統的に村落長である「マリック」が公的に認められている。マリックは理論的には村
落共同体で選ばれることになっているが、実際には特定の家柄の中で世襲されている。村落の運
営に関わる決定は、上記のシューラによって決められている。村落レベルのシューラは、ムッラー、
マリックを含めた成人男性が参加し、決定に関する資格を持つ。シューラの参加資格者は、正常
な判断力を持つ成人男子とされ、貧富や貴賤を問わない事を原則としている。一般には、女性は
シューラに参加することは出来ないことが慣習的に多く、参加しても発言権が弱いとされている
が、北部・北東部地域では、シューラに女性が参加していることも珍しくはない。シューラでの
決定方法は、多数決ではなく、人々が合意に達するまで議論する合議制である。そのため、伝統
的家父長制に基づく「エルダー」と呼ばれる長老達であっても、全ての参加者が平等な発言権を
持つシューラにあっては、その発言力が抑制される。
また、村落では伝統的に相互協力システムを有しており、これは住民にとって非常に有効で重要
な役割を果たしている。主な伝統的相互協力システムには、表 2.6.1 のようなものがある。
表 2.6.1 伝統的相互協力システム
タイプ
内
容
共同作業
• 村落施設管理への共同作業(Hashar)
• 住民間の協力(Hashar)
村落金融
• 献金箱(村落組織が管理)
その他の伝統的及び
宗教的システム
• 地主または家畜所有者から住民や Mullah への寄付(Ushar)
• 有力者から住民や僧侶への寄付(Zakwat or Kums)
• 伝統的催しのための協力
2.6.2 新しい住民組織
農村復興開発省(MRRD)は、内戦によって荒廃・疲弊した農村社会の復旧・復興を図るため、
2003 年から世界銀行の支援のもと、国家連帯プログラム(National Solidarity Program: NSP)
を開始した。本プログラムは、コミュニティー主導によって農村開発ニーズを満たすことを目的
としており、中央政府、開発支援パートナー(Facilitating Partner: FP)である 27 の NGO と国
際連合人間居住計画(UN-HABITAT)、そして住民を代表とするコミュニティー開発委員会
(Community Development Council: CDC)の協力によって実施されている。
2 - 15
NSP の実施戦略は、以下の通りである。
① コミュニティーレベルの選挙を通じて CDC を形成し、農村ニーズについてのプライオリ
ティー付けを行い、NSP の基準に合致したサブプロジェクトを決定・実施する。
② CDC によって決定された開発・復興活動(サブプロジェクト)の実施のために、ブロック・
グラント(1CDC 当たり 6 万ドル)を提供するシステムを構築する。
③ CDC のメンバーの会計・調達能力や技術を向上させ、透明性を確保する。
④ CDC と政府・ドナーとの関係を構築し、サービスやリソースへのアクセスを可能にする。
NSP は、ボトムアップ機能を持ったコミュニティーの意志決定組織である自治会づくりと、生活
に身近なインフラやサービスを住民自らが整備することの、両方を狙った計画である。NSP は都
市部を除く全国を対象に進められ、
2006年までのPhase Iでは、
GTZとDevelopment Alternative
Inc が管理コンサルタントとして運営に当たっていたが、その後の Phase II では NSP のアフガ
ニスタン人スタッフが管理を実施し、
NSP スタッフの監督のもとで27 のNGO とUN-HABITAT
が FP として、ここのコミュニティーの指導・支援を行っている。NSP の実施を通じ、2009 年 5
月現在で全国 34 州の 398 郡のうち、359 郡において 21,920 の CDC が設立されている。
CDC は、2006 年 10 月 31 日に施行された CDC 法によって規定されており、CDC は伝統的組織
であるシューラに代わる組織であると提議されている。CDC は 25 世帯を最小単位としており、
これ未満の村は統合される。基本的にコミュニティーには一つの CDC が置かれ、最低 10 人から
最高 30 人の委員により構成されている。委員は女性を含めた 3 人からなる選挙管理委員会の監視
のもと、住民投票が行われ選出される。委員の資格は、18 歳以上の国民で 1 年以上居住し、国・
州議会議員でないことや十分な執務時間がとれることなどが条件で、男性委員と女性委員は対等
の立場であると規定されている。委員は 3 年毎に選ばれ、2 期までは継続できる。役員として委
員長、委員長代理、秘書、会計が委員の中から選出される。
2.6.3 農村の土地所有
アフガニスタンの土地所有形態は、個人所有地(メルク)や部族が共有する共同所有地(ハリサー)
、
村民からモスクに寄進された寺社地(ワクフ)があり、土地を所有するのは地域の有力者(マリッ
クやムッラー等)からなる地主的階層と多数の零細な自作農階層とされている。また上記以外に、
河川・渓谷・砂漠等の公共用地(ミリー・ハリー)がある。土地を持たない村民は、出稼ぎ労働
か大地主に雇われて小作人や日雇い農夫として生活する。地主が小作人や日雇い農夫に耕作させ
る場合、耕作に係る取り決めは次の 2 種類に分けられると言われている。一つは、ニスファカリ
と呼ばれる、土地所有者が耕作に必要な生産資材を提供し、小作人が労働力を提供し、生産物の
1/5 を受け取るタイプ。二つ目は、パンジャマットと呼ばれ、小作人が生産資材を準備し、土地所
有者が決めた作物を生産し、生産物の 1/4 を受け取るタイプである。
2 - 16
第 3 章 北部・北東部地域の農業生産
第 3 章 北部・北東部地域の農業生産
3.1
農村・農業分野に係る農業行政
3.1.1 中央の行政組織
(1) 農業・灌漑・牧畜省
農業・灌漑・牧畜省(MAIL)は、ケシ栽培に依拠しない農業の発展と食料の安全保障を通じた
貧困削減を、省の目標に掲げて国の農業政策を主導しており、2005 年にはセクター開発計画とし
て、「アフガニスタン農業マスタープラン」が作成された。これに基づき、2007 年にはアフガニ
スタン国家開発戦略(ANDS)作成プロセスの一環として、7 つのプログラムからなる農業戦略
が作成された。
農業戦略における目的は、「アフガニスタン国全体において、食糧確保と貧困削減を達成するこ
とにより、農業経済を再構築し、農民が生産・生産性を向上させて、自然資源を持続的な成長の
ために管理・保護することができるようにし、農村部のインフラと灌漑システムを向上させ、市
場を拡大して人的資源・能力を向上させる。」としている。農業戦略では、プログラムの実施に
よって達成すべき目標値が以下のように設定されている。
•
農業分野における公共投資が 2010 年までに 30%増加する。
•
農地の所有権及び牧草地へのアクセスをはじめとする、土地所有権の問題を解決する実効
性のある戦略が 2010 年までに作成され、実施に移される。
•
プログラムのそれぞれが、何らかの形でケシ栽培の斬新的な減少に繋がる。
•
2010 年から、合法的な農業セクターが GDP の増加に貢献するようになる。
7 つの国家プログラムの概要は、以下の通りである。
a) 食糧確保
質の高い種子と肥料を効率よく用い、灌漑施設を改修・拡大することにより、コムギの輸入を減
らせること及び現金収入に繋がる高付加価値の園芸作物に耕地を充てることができ、食料と収入
源の両者を多様化させることが出来ることから、穀物生産が最重要課題として位置づけられてい
る。そのために、コムギの生産量・生産性向上、病虫害対策、収穫後処理・輸送・加工、共同の
貯蔵施設を支援し、農業生産の多様化を促す。
b) 輸出のための園芸作物の振興
アフガニスタンは伝統的に、果実、ドライフルーツ、ナッツ類の輸出国であり、周辺国に対して
比較優位にあったことから、灌漑システムの拡大と果樹の植栽を行うと共に、苗木の生産と輸送、
そして将来的には生産物のマーケッティングを行うための生産者組合を形成し、2015 年まで年間
8%の成長率を達成することを目標としている。
3-1
c) 畜産物の生産拡大と生産性の向上
アフガニスタンは、肉牛や鶏肉、鶏卵、牛乳を含む、多くの畜産物を輸入している。特に、酪農
や養鶏に必要となる飼料の生産が集中的に行われていないこと、獣医師補の養成が遅れており、
獣医サービスが多くの農民に行き届いていないこと、畜産物の加工を中心とした販路への投資が
遅れていることが、畜産普及の主たる制約要因となっている。そこで、家畜の栄養を改善して生
産性を拡大し、公共・民間のパートナーシップによって獣医サービスのネットワークを構築して、
家畜の健康を向上させ、畜産物の加工・利用のための投資を促進する。
d) 自然資源の管理と保護
アフガニスタンの自然資源は、過去 20 年に亘る紛争によって重圧を受け続け、著しく疲弊してい
る。政府は、法整備及びコミュニティーによる自然資源管理の導入によって、自然資源を管理す
る戦略計画を立てているところである。なかでも、流域管理計画、森林再生、森林資源の持続可
能な利用、牧草地管理、自然遺産の保護に力を入れていく。
e) 農村インフラと灌漑システムの改善
アフガニスタンにおける伝統的な灌漑システムの多くが、紛争の影響及び維持管理の不足によっ
て機能を失っていることから、改修を行うと共に水資源を有効利用するための点滴灌漑等の節水
灌漑技術を導入していく。加えて、農家経済の成長を促し、農民の国内・国際市場へのアクセス
を向上させるため、電力、通信、道路・交通、貯蔵・マーケッテキング施設等の基礎インフラへ
の投資を促進する。
f)
成長する市場に対する生産の拡大
農業・家畜生産の拡大のためには、民間投資を促すメカニズム、特に農民金融の構築が欠かせな
い。また、輸出促進のためには、規格の導入とそのための制度改革を行う。農民が、市場、技術
サービス、投入資材に関する情報にアクセスでき、市場メカニズムの中で交渉力を増すための農
民組織化を促していく。
g) 持続的成長のための人材育成
農業開発の促進のためには、MAIL の職員が、省・ドナー・民間のプログラム・プロジェクトの
計画立案、実施、モニタリング・評価が出来るようにすることが不可欠であり、そのための人材
育成をドナーの支援のもとに行う。併せて、農業生産・農業生産性を拡大するための制度的枠組
みを構築するための人材育成を行い、民間セクター・NGO・研究機関と共同で研究・普及活動が
行えるように、地方部の行政組織の改編を行っていく。
本省は 3 名の副大臣の下 9 局からなり、全職員数 10,000 人中、2,000 人がカブールに常駐してい
る。地方出先機関として州農業・灌漑・牧畜局、郡農業・灌漑・牧畜局が配置されている。
3-2
3-3
General Director for
Land Management
(G1)
Management
Development Office
(G3)
Staff Evaluation
Affairs and
Documentation
Office (G3)
Capacity Building
Office (G3)
Finance and
Accounts
Department (G2)
Integration
Department (G2)
Preparation and
Procurement
Department (G2)
Staff Relations
Office (G3)
Transportation
Department (G2)
Recruitment Office
(G3)
Land Management
and Distribution
Department (G2)
Media and
Publications
Department (G2)
Administration
Department (G2)
General Director for
Human Resource and
Capacity Building
(G1)
Provincial Relation
Department (G2)
Monitoring and
Evaluation
Department (G2)
Land Conflict Affairs
Department (G2)
General Director for
Finance and
Administration (G1)
Administration and Finance
Deputy Minister (Over Grade)
Emergency
Response Office
(G3)
General Director for
Implementation and
Coordination (G1)
Cereals and
Industrial Crops
Development
Department (G2)
Flower Growing
General Office (G4)
Vegetables Office
(G3)
Home Economy
Department (G2)
Horticulture Office
(G3)
Extension
Department (G2)
Research Department
(G2)
Internal Inspection
Department (G2)
General Director for
Agriculture Service
(G1)
Technical Deputy Minister
(Over Grade)
Cooperatives
Department (G2)
Alternative
Livelihoods
Department (G2)
Agriculture
Mechanization
Department (G2)
Protection
Department (G2)
Advisers' Board 5
(G2) / 4 (G3)
General Director for
Livestock and
Animal Health (G1)
Minister's Office Directorate
(G2)
Kuchis Office (G3)
Livestock Services
Department (G2)
Animal Health
Department (G2)
Food Quality Control
Department (G2)
Cereal Strategic
Storage Department
(G2)
図 3.1.1 農業・灌漑・牧畜省組織図
General Director for
Research and
Extension (G1)
Development and
Programs
Coordination
Department (G2)
Minister of MAIL
General Director for
Food Safety and
Quality Control (G1)
Construction Office
(G3)
Engineering
Department (G3)
Agriculture
Construction (G2)
Implementation and
Irrigation
Supervision (G3)
Irrigation System
Maintenance Office
(G3)
Irrigation Planning
and Management
Office (G3)
Social and Economic
Survey Office (G3)
Irrigation
Department (G2)
Irrigation and Natural
Resources Deputy Minister
(Over Grade)
Protected Area
Department (G2)
Pastures Department
(G2)
Forestry Department
(G2)
General Director for
Natural Resources
(G1)
Regulations
Implementation
Office (G4)
Foreign Relations
(G3)
Investment Private
Sector Department
(G2)
Statistics and
Marketing
Information Office
(G2)
General Director for
Policy and Planning
(G1)
(2) 農村復興開発省
農業復興開発省(MRRD)は、「基礎的サービスの提供、ローカルガバナンスの構築及びケシ栽
培に頼らない持続可能な生活を推進することによって、農村コミュニティー、特に貧困者や脆弱
な立場にいる人達の社会的、経済的、政治的な幸福を達成する。」ことを開発目標とし、様々な
国家優先プログラムを実施している。
農村部の人々が貧困から脱却するための条件を整えるため、基礎インフラ、人的資本形成及びロー
カルガバナンスを充実させることが、農村復興開発における基本戦略とされている。これらを達
成するための国家プログラムとして、国家連帯プログラム(National Solidarity Program: NSP)、
国家地域ベース開発プログラム(National Area Based Development Program: NABDP)、国
家農村アクセスプログラム(National Rural Access Program: NRAP)、農村給水衛生プログラ
ム(Rural Water Supply and Sanitation Program: RuWatSan)及びマイクロファイナンス投資
支援ファシリティー(Microfinance Investment Support Facility for Afghanistan: MISFA)が
実施されており、これらに加えて、新たにアフガニスタン農村企業開発プログラム(Afghanistan
Rural Enterprise Development Program: AREDP)が開始された。また、農業・灌漑・牧畜省
と共同で運営される包括的農業農村開発(Comprehensive Agriculture and Rural Development:
CARD)が計画されており、初年度の予算が DFID により、承認されている。このうち、NSP、
NABDP、AREDP、MISFA、CARD の内容は以下の通りである。
a) 国家連帯プログラム(NSP)
内戦等によって荒廃・疲弊した農村社会の復旧・復興を図るため、2003 年から世界銀行の支援の
もと NSP を開始した。本プログラムは、コミュニティー主導によって農村の開発ニーズを満たす
ことを目的としており、中央政府、開発支援パートナー、住民を代表とする村落開発委員会
(CDC)の協力によって実施されている。NSP を通じて、農村インフラや社会サービスへのアク
セスを向上させ、農村の生活を向上させると共に、地方におけるガバナンスが樹立され、安定し
た国家形成に寄与することが期待されている。
b) 国家地域ベース開発プログラム(NABDP)
アフガニスタン国内において諸種の原因により、特に窮状に陥っている地域に対して、総合的ボ
トムアップ、参加型、柔軟な支援を行うことにより、比較的有利な条件にある他地域とのギャッ
プを減らし、将来的に国家政策・プログラムの恩恵を受けられるようにすることが、NABDP の
目的である。技術的・資金的支援によって、MRRD の組織・能力を強化して、緊急に復興を必要
とする 10 カ所の地域に対して、投資計画と運営が行えるようにすることを目標としており、
UNDP と MRRD のパートナーシップのもと、2002 年 4 月~2005 年 12 月の期間でフェーズ 1
が実施され、引き続き 2006 年 2 月~2008 年の予定でフェーズ 2 が実施された。
3-4
c) アフガニスタン農村企業開発プログラム(AREDP)
AREDP は、「民間セクターのポテンシャルを開花させて、経済成長及び農村における持続的な
雇用と収入創出を達成する。」ことを目的とした国家プログラムである。事業内容は、有望産品
(Champion Products)の育成、金融アクセスの向上、企業開発サービス支援、品質管理、幼稚
産業保護、官民協力、他の国家プログラムとの連携、コミュニティー動員が挙げられている。こ
れらの活動を通じて、輸入代替え及び輸出振興により、有望産品の育成を実現することを目標に
している。
d) マイクロファイナンス投資支援ファシリティー(MISFA)
長年の戦乱によりアフガニスタンの経済、金融システムは崩壊し、機能している信用組合やマイ
クロファイナンス組織は皆無に等しく、人々はインフォーマルな金融貸付システムに頼っていた。
地方に住む貧しい人々の多くは、親戚、知人間での貸し借りに加え、アヘンの取引ディーラーに
対する負担を抱えていた。この様な状況を受け、マイクロファイナンスサービス育成、貧困層が
アクセス可能な金融セクターの発達を目的として、MRRD、CIDA、DFID 及び USAID の支援
を受け、2003 年 6 月より MISFA が開始された。MISFA は、マイクロファイナンス組織を通じ
て、サービスを顧客に提供すると同時に、マイクロファイナンス組織の能力開発も重点的に行っ
ている。
e) 包括的農業農村開発(CARD)
2003 年から実施してきた復興・農村開発の反省点として、生産、収入、雇用改善に係る進捗の遅
れ、農業分野での麻薬対策の遅延、プロジェクトの完了時における資金不足による持続性の欠如
と既存の公共機関の軽視等の問題が指摘された。これらの解決のため、DFID 等の支援のもと
CARD が計画された。CARD の初期目標は、郡レベルの開発計画及び投資計画の策定、優先郡で
のパッケージプロジェクト及び継続的な収入向上に繋がる地域プロジェクトの迅速な実施、
MRRD 及び MAIL の能力を郡レベル、州レベル、国レベルで強化する事などが挙げられている。
初年度は、ナンガハール州、バダフシャーン州、バルフ州でパイロットプロジェクトが実施され
る予定である。
本省は、2 局 13 課から構成されており、地方出先機関として州農村復興開発局がある。なお、
NSP や NABDP 等の国家優先プログラムは Community Led Department、AREDP は Rural
Livelihood and Energy Department の管轄である。
3-5
Minister of MRRD
Legal Adviser
Chief of Staff
Monitoring
Media and Public
Relations
A.I.R.D
Internal Audit
Deputy Minister for
Administration and Finance
Deputy Minister for Programs
Finance
Planning
Procurement
Community Led Development
Administration
Industry and Rural Energy
H.R. Department
Social Protection
Provincial Relation
Water Supply and Irrigation
Provincial Rural
Rehabilitation Department
Engineering
National Rural Access
Department
図 3.1.2 農村復興開発省組織図(2008 年 5 月時点)
3.1.2 地方の行政組織
(1) バルフ州農業・灌漑・牧畜局
バルフ州では、バルフ州農業・灌漑・牧畜局が農産品の生産拡大と生産性の向上、農村インフラ
と灌漑システムの改善等を通じて、バルフ州の貧困削減、農業経済の再構築を担っている。バル
フ州農業・灌漑・牧畜局は、2 局 12 課から構成されており、このうち、農業普及、家畜普及、林
業、植物防除、農産物を取り扱う部署は、郡レベルにも設置されている。バルフ州農業・灌漑・
牧畜局は、2007 年 8 月現在 342 名の職員から構成され、うち 142 人が技術職である。
3-6
Director
Deputy Director
Administration
Technical
Research
Planning
Agricultural Extension
Animal Husbandry Extension
Veterinary
Forestry
Plant Protection
Agricultural Crops
Mechanization
Seed Improvement
Quality Control
Land
図 3.1.3 バルフ州農業・灌漑・牧畜局組織図(2007 年 8 月時点)
バルフ州農業・灌漑・牧畜局にある農業普及課は、局内の主要部署として位置づけられ、2008 年
4 月現在課長を筆頭に、1 名の総務担当者と 44 名の普及員から構成されている。耕地面積が比較
的広い Balkh 郡、Dehdadi 郡、Nahre Shahi 郡、Charbolak 郡、Dowlatabad 郡、Khulam 郡、
Chimtal 郡には、
多数の普及員が配置されているのに対し、
耕地面積の少ない Marmol Zahra 郡、
Charkent 郡には少数名が配置されている。農業普及課から普及員に対しバイクのみが提供され、
燃料や維持費は個人負担となっている。なお、14 郡全てに普及事務所があるが、そのうち独自の
庁舎があるのは 6 郡のみで、残りは郡庁舎の一部や民家を代用している。
普及員は、1 名当たり郡内の 20~100 村を担当し、「無料の農業技術指導、高品質種子の分配、
耕作地データの収集、主要農産品の年間生産量のデータ収集、農業省と州農業局への報告」等の
業務を担当する。普及員の半数以上は、農業専攻の学位を保持し、それ以外の普及員も農業の専
門家ではないが、業務を遂行する上で十分な農業分野の経験を積んでいる。また、能力強化研修
としては、MAIL のコミュニケーションユニットが作成した教材を使い、中央から派遣された研
修教員が、毎年 15 日間に亘り農業に係る様々な研修を実施している。しかし、州レベルでは普及
員への研修教員がおらず、バルフ州農業・灌漑・牧畜局が率先して研修を実施することは困難な
状況である。
3-7
(2) バルフ州農村復興開発局
農村復興開発省の地方出先機関であるバルフ州農村復興開発局は、国家優先プログラム(NSP、
NABDP、NRAP 等)及び各ドナープロジェクト間の調整業務や村落普及員を通じた農村社会の
復旧・復興、経済活性化支援、コミュニティー能力開発を行っている。バルフ州農村復興開発局
では 2008 年 5 月現在 40 名のスタッフで構成されており、うち 27 名は常勤政府職員、13 名は契
約ベースの職員となっている。バルフ州農村復興開発局は、ダイレクターのもと 2 局からなって
おり、この組織構成は、全国の農村復興開発局で統一された指揮管理系統である。
Director
Secretary
Journal and Publicity
Vulnerable Staff
Head of
Administration and
Finance
Administration
Head of Program
Finance
Social and
Development
Management
Logistics
Engineering
Personal Staff
Finance Staff
Inventory Staff
Development Affairs
Rural Infrastructure
Computer Operator
Cashier
Transportation and
Maintenance
Social Affairs
Sanitation and
Hygiene
Water Supply and
Sanitation
Contract Staff
Drilling Mechanic
Radio Operator
図 3.1.4 バルフ州農村復興開発局組織図(2008 年 5 月時点)
バルフ州農村復興開発局内の Social and Development Management 課は、NSP の推進をモニ
ターし、また、実施中のドナープロジェクト(IRDP、WFP-Food for Work)間の調整、村落普
及員の派遣業務を担っている。バルフ州では、Chimtal 郡、Dawlatabad 郡、Kishindih 郡の 3
郡に女性 2 名を含む 5 名の村落普及員が配置されている。今後、Shortape 郡、Dehdadi 郡、Nahre
Shahi 郡にも配置予定であるが、時期は確定していない。
農村復興開発省の政策では、村落普及員は少なくとも過去 3 年に亘り、NSP が実施された郡に配
置されている。また、村落普及員の大半は、NSP においてファシリテーション・パートナー(FP)
として活動した経験があり、対象地域の事情に通じ、人脈も構築している人材であると言われて
いる。現在の村落普及員の職務は、FP と共に NSP の進捗をモニターし、バルフ州農村復興開発
局に報告することや、NSP お実施中にコミュニティーにて発生する諸問題を解決することである。
また、FP が NSP を実施した後は、村落普及員が FP の代わり、CDC への支援を続けることが期
待されている。しかし、バルフ州農村復興開発局の財政難により、村落普及員にはバイク等の交
通手段や通信費が提供されておらず、CDC を訪問する機会は、NSP の定期モニタリングか、他
3-8
のプロジェクト視察業務に相乗りした時のみに限定されている。村落普及員は、バルフ州農村復
興開発局の月例会議に出席して、月間活動報告書を提出することが義務付けられているが、上記
理由から、村落の状況を報告することは出来ていないものと推測される。
3.2
農業生産
アフガニスタン国及び調査対象州(Province)が含まれる地域(Region)毎の状況を、日本国内
及びウェブサイト等で得られる既存情報から分析した。当初想定した対象州毎の分析は、情報量
不足のため断念せざるを得ない状況である。
3.2.1 作物生産
アフガニスタン国の、
近年の主要作物栽培面積を表 3.2.1 に示す。
近年の主要作物延べ栽培面積は、
350 万 ha 前後で推移している
(一部2毛作も行われているため、
耕作地面積はこれより少ない)
。
表 3.2.1 からも明らかなように、アフガニスタン国の作物生産は穀物生産に大きく偏っており、全
栽培面積はほぼ穀物栽培面積によって占められている。穀物の中では、コムギが他を圧倒してい
る。主要作期は冬期(ほぼ 11 月~5 月)と夏期(ほぼ 5 月~10 月)に大別され、冬期には主に
コムギ、オオムギが栽培され、他の作物は夏期に栽培されるものが多い。対象各地域の主要作物
の作期は図 3.2.8 に示してある。対象地域の中では、東部地域は2毛作が盛んで土地利用率が高い
が、北部地域では年1作がほとんどである。北東部地域は、一部地域で 2 毛作がある程度普及し
ており、両地域の中間的な位置づけにある。
表 3.2.1 アフガニスタン国主要作物栽培面積
2004/05
2005/06
2006/07
(ha)
(%)
(ha)
(%)
(ha)
(%)
Cereals
2,660,000 89.5 3,030,000 88.1 2,989,000 81.6
Wheat
1,888,000 63.5 2,342,000 68.1 2,444,000 66.7
Rice (Paddy)
195,000
6.6
160,000
4.7
160,000
4.4
Barley
315,000 10.6
240,000
7.0
236,000
6.4
Maize
250,000
8.4
261,000
7.6
137,000
3.7
Millet
12,000
0.4
27,000
0.8
12,000
0.3
Pulses
37,000
1.2
50,000
1.5
321,000
8.8
Potatoes
17,000
0.6
20,000
0.6
20,000
0.5
Suger Crops
4,000
0.1
3,000
0.1
4,700
0.1
Cotton
25,500
0.9
30,000
0.9
31,950
0.9
Oil seeeds
61,625
2.1
77,000
2.2
42,950
1.2
Vegetables
51,660
1.7
87,813
2.6
68,400
1.9
Melon & W-melon
11,340
0.4
22,187
0.6
45,000
1.2
Anisseed & Fennel
4,500
0.2
4,500
0.1
4,500
0.1
Fruits
89,946
3.0
105,000
3.1
116,000
3.2
Nuts & Olives
9,000
0.3
9,947
0.3
19,916
0.5
Total 2,971,571 100.0 3,439,447 100.0 3,663,416 100.0
(Source) Afghanistan Statistical Yearbook, 2006 & 2007-08
Crop
2007/08
(ha)
(%)
3,021,000 82.3
2,466,000 67.2
170,000
4.6
236,000
6.4
137,000
3.7
12,000
0.3
294,000
8.0
20,000
0.5
6,200
0.2
35,000
1.0
40,000
1.1
68,000
1.9
45,000
1.2
4,500
0.1
116,000
3.2
19,703
0.5
3,669,403 100.0
(1) 穀物
アフガニスタン国では、コムギ、コメ、オオムギ、トウモロコシが、主要穀物として認識されて
いる。アフガニスタン国農業・灌漑・牧畜省(MAIL)/FAO は、主要穀物のアフガニスタン国民
3-9
一人あたり年間摂取量を表 3.2.2 のように設定している。ただし、コムギとコメは専ら食用として
利用されているのに対し、オオムギとトウモロコシは家畜飼料としての利用が多い。また、オオ
ムギとトウモロコシは、一部青刈り用飼料としても栽培されている。MAIL の資料による、オオ
ムギとトウモロコシの食用、飼料用利用割合(2009 年予測)を表 3.2.3 に示す。
表 3.2.2 一人あたり年間摂取量
穀物
コムギ
コメ(精米)
トウモロコシ
オオムギ
摂取量(kg/人/年)
160
17
2
1
(Source) Agriculture Prospects Report, May 2005, MAIL
表 3.2.3 オオムギとトウモロコシの利用(2009 年予測)
作物
オオムギ(千 ton)
(%)
トウモロコシ(千 ton)
(%)
食料
飼料
26
(6.8)
52
(21.1)
357
(93.2)
195
(78.9)
(Source) Agriculture Prospects Report, May 2009, MAIL
また、以上穀物の副産物である茎葉等の残渣や未熟粒は、家畜飼料、燃料、建築資材として活用
されているが、それだけに、これらが農地に十分還元されず土壌肥沃土が低下するといった影響
が懸念されている。
対象地域別の主要作物栽培面積(2007 年)を表 3.2.4 に示すが、地域別に以下の特徴がみられる。
北部地域:
全栽培面積が多い。コムギの割合が高く、イネ、トウモロコシの割合が低い
北東部地域: イネは栽培面積が 10 万 ha を越え、全国の栽培面積の約 60%を占めて大産地を形
成しているが、トウモロコシの割合が低い
東部地域:
全栽培面積が少ない。コムギ、オオムギの割合が低いが、一方でイネ、トウモロコ
シの割合が高い
表 3.2.4 対象地域別主要穀物栽培面積(2007 年)
Crop
Wheat
(%)
Rice Paddy
(%)
Barley
(%)
Maize
(%)
Total
(%)
North
N-East
East
Afghanistan
(000 ha) (%) (000 ha) (%) (000 ha) (%) (000 ha) (%)
930.0 82.1
572.0 69.9
82.0 52.9 2,466.0 74.5
(37.7) -
(23.2) -
(3.3) -
(100.0) -
11.7
1.0
101.7 12.4
27.0 17.4
170.0
5.1
(6.9) -
(59.8) -
(15.9) -
(100.0) -
83.5
7.4
40.2
4.9
2.3
1.5
236.9
7.2
(35.3) -
(17.0) -
(1.0) -
(100.0) -
28.2
2.5
4.9
0.6
23.7 15.3
137.0
4.1
(20.6) -
(3.5) -
(17.3) -
(100.0) -
1,133.3 100.0
818.7 100.0
155.1 100.0 3,309.9 100.0
(34.2) -
(24.7) -
(4.7) -
(100.0) -
(Source) Afghanistan Statistical Yearbook, 2006 & 2007-08
3 - 10
1) コムギ
コムギは主食として圧倒的に重要な作物であり、栽培面積、生産量共に主要穀物の 80%強を占め
ている。冬コムギ春コムギの 2 つの昨期があるが、冬コムギの作付けが圧倒的に多い。図 3.2.1
にアフガニスタン国の近年のコムギ生産状況の推移を示す。
近年の生産状況は、天候(主に降雨条件)に恵まれれば、栽培面積が 200~250 万 ha、生産量が
400~500 万トンの間で推移している。ソ連侵攻前に食糧自給を達成した当時(1976 年)のコム
ギの栽培面積、生産量が、それぞれ 235 万 ha、293.6 万トン(FAOSTAT)であったことから、
近年の栽培面積はその頃の水準に戻り、生産量はその頃を上回る実績となっている。ただし、そ
の間の人口増加があるため自給達成には至っていない。豊作年である 2009 年でも、コムギは約
14.5 万トンの不足が予想(自給率 97.2%)されている(Agriculture Prospects Report, May 2009,
MAIL)。
Harvested Area ('000 ha)
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
Rainfed
Irrigated
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Production ('000 ton)
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
Rainfed
Irrigated
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Yield (ton/ha)
3.50
3.00
2.50
2.00
1.50
1.00
Irrigated
Rainfed
Total
0.50
0.00
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Agriculture Prospect Reports, MAIL, Afghanistan (for 2005-2009)
図 3.2.1 アフガニスタン国のコムギ生産推移
図 3.2.1 から明らかなように、1999~2001 年、2004 年、2008 年と生産量に大きな落ち込みがあ
るが、これはいずれも干魃の水不足によって生産量が減少したものである。年毎の栽培面積は、
3 - 11
灌漑コムギに大きな変化はないが、天水コムギは大きく変動している。それ以上に変動が激しい
のは生産量で、干魃年は単位面積当たり生産量(以下、「収量」)の大幅な低下と相まって、生
産量の大きな減少が見られる。干魃年の収量の減少は、灌漑コムギにも生じており、灌漑地とい
えども干魃年には十分な水の確保が難しく、安定的な生産量を確保することが難しい状況が伺え
る。基本的に、その年の天候任せといった生産構造となっている。とはいえ、近年収量は増加傾
向を示しており、これが増産に大きく寄与していることも事実である。このような収量の増加は、
FAO を中心とした支援によって、以下のような好条件がもたらされたためと考えられる。
¾
優良種子、化学肥料の使用が農民に広まっている
¾
主要病害虫への防除対策が有効に機能している
図 3.2.2 に、対象地域の生産状況の比較を示すが、北部地域と北東部地域は、栽培面積で全国の半
分以上、生産量で約半分の割合を占め、アフガニスタン国の穀倉地帯を形成していることが伺え
る。一方、東部地域はコムギ生産に関する限り、全国的な重要度は余り高くない。但し、東部地
域の収量は比較的安定的に高いレベルを維持している。
Planted Area ('000 ha)
3,000
2,500
2,000
1,500
Others
East
N-East
North
1,000
500
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Production ('000 ton)
6,000
5,000
4,000
3,000
Others
East
N-East
North
2,000
1,000
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Yield (ton/ha)
3.00
2.50
2.00
1.50
North
N-East
East
Afghanistan
1.00
0.50
0.00
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Agriculture Prospect Reports, MAIL, Afghanistan (for 2005-2009)
図 3.2.2 対象地域別コムギ生産推移比較
続いて、各対象地域別のコムギ生産の推移を示す(図 3.2.3~図 3.2.5 参照)。
3 - 12
【北部地域】
北部地域の特徴は、天水コムギの割合が比較的多いことである。降雨条件に恵まれた年には天水
コムギ面積が大きく増大し、生産量も灌漑コムギを凌ぐことが多い。一方、灌漑コムギ栽培面積
は、長期的な減少傾向を示しており、1999~2002 年の干魃の影響から回復が見られない。この
ように、北部地域は全国的なコムギ生産地であるにもかかわらず、天水栽培に頼った不安定な生
産構造にある。
Planted Area ('000)
1,000
900
800
700
600
500
400
300
200
Rainfed
Irrigated
100
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Production ('000 ton)
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
Rainfed
200
Irrigated
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Yield (ton/ha)
3.00
2.50
2.00
1.50
1.00
Irrigated
Rainfed
Total
0.50
0.00
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Agriculture Prospect Reports, MAIL, Afghanistan (for 2005-2009)
図 3.2.3 北部地域のコムギ生産推移
【北東部地域】
北東部地域も北部地域と並ぶコムギ生産地であるが、年による天水コムギの変化が北部地域ほど
大きくない。また、灌漑コムギ栽培面積も 1999~2002 年の干魃年に僅かな減少が見られるもの
の、比較的安定的に推移している。年による生産量の変化は大きいものの、北部地域との比較に
おいて安定的な生産構造が伺える。
3 - 13
Harvested Area ('000 ha)
700
600
500
400
300
200
Rainfed
Irrigated
100
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Production ('000 ton)
1,400
1,200
1,000
800
600
400
Rainfed
Irrigated
200
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Yield (ton/ha)
3.50
3.00
2.50
2.00
1.50
1.00
Irrigated
Rainfed
Total
0.50
0.00
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Agriculture Prospect Reports, MAIL, Afghanistan (for 2005-2009)
図 3.2.4 北東部地域のコムギ生産推移
【東部地域】
東部地域は、上記 2 地域と比較してコムギの生産量がはるかに少なく、産地としての重要度が低
いが、灌漑による栽培が殆どを占め、上記 2 地域とは生産構造に大きな違いを見せている。これ
は、この地域の年間降水量が非常に少ないため、降水に恵まれた年であっても、コムギの天水栽
培がほぼ不可能な状況にあるためと考えられる。灌漑栽培が殆どであるため、平均収量レベルは
上記 2 地域より高く安定しているが、灌漑栽培に限ると、近年大きな違いは見られない。2006 年
以降(2008 年はデータなし)生産量が増加傾向を示しているが、それには収量の増加が大きく寄
与している。
3 - 14
Harvested Area ('000 ha)
120
100
80
60
40
20
Rainfed
Irrigated
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Production ('000 ton)
300
250
200
150
100
50
Rainfed
Irrigated
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Yield (ton/ha)
3.50
3.00
2.50
2.00
1.50
1.00
Irrigated
Rainfed
Total
0.50
0.00
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Agriculture Prospect Reports, MAIL, Afghanistan (for 2005-2009)
図 3.2.5 東部地域のコムギ生産推移
2) 他の穀物(イネ、オオムギ、トウモロコシ)
イネはコムギに次ぐ食用穀物であるが、一人あたり消費量が非常に少なく、庶民の日常的な食品
というより嗜好品としての性格が強い。地域差はあろうが、来客時や外出時に食堂で食べる、特
別な食品といった位置付けにある。イネは灌漑地における有力な夏作物であるが、水源上流部の
地域有力者が稲作用に過剰取水を行っているため、下流部の耕作に負の影響を及ぼしていること
が報告されている。イネは富者が換金作物として栽培しているケースが多いものと考えられる。
一方、オオムギ、トウモロコシは既に述べたように、食料としてよりも家畜飼料としての利用が
多い。オオムギは天水栽培が多く行われているようで、冬作、夏作の 2 作期がみられる。トウモ
ロコシは、イネ同様灌漑地の夏作物として栽培されている。図 3.2.6 に、アフガニスタン国のこれ
ら作物の生産推移を示す。
3 - 15
Harvested Area ('000 ha)
300
250
200
150
100
Rice Paddy
50
Barley
Maize
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Production ('000 ton)
700
600
500
400
300
200
Rice Paddy
Barley
Maize
100
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Yield (ton/ha)
4.00
3.50
3.00
2.50
Rice Paddy
Barley
Maize
2.00
1.50
1.00
0.50
0.00
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Agriculture Prospect Reports, MAIL, Afghanistan (for 2005-2009)
図 3.2.6 アフガニスタン国のイネ、オオムギ、トウモロコシ生産推移
イネは灌漑地で栽培されることから、栽培面積は比較的安定して推移している。生産量は、1999
~2002 年の干魃年以降順調な増加傾向を示しているが、それには収量の順調な増加が寄与してい
る。1976 年のイネの栽培面積、生産量は、それぞれ 21.0 万 ha、44.8 万トン(FAOSTAT)であっ
たが、近年の栽培面積は 20 万 ha 弱で推移しており、当時を若干下回っている。ただし、収量の
大幅な伸びによって、生産量は 60 万トンを越える水準まで増加し、当時を大きく上回っている。
2009 年のコメ生産量は精米ベースで 43.2 万トン(籾ベースでは 64.4 万トン)であったが、約 6.2
万トンの不足が予想(自給率 87.4%)されている(Agriculture Prospects Report, May 2009,
MAIL)。
オオムギの生産量は、1999~2002 年の干魃年以降僅かながら増加傾向を示しているが、これに
は、栽培面積の増加(年による変動はあるが)と収量の増加の両方が寄与している。1976 年のオ
オムギの栽培面積、生産量は、それぞれ 31.0 万 ha、40.0 万トン(FAOSTAT)あったが、近年
の栽培面積は 20~30 万 ha、生産量は 40 万トン前後で推移しており、ほぼ当時の水準まで回復
している。
3 - 16
トウモロコシの生産量は、オオムギと似たような傾向を示しているが、近年の生産量は頭打ちの
傾向を示している。オオムギと異なり、栽培面積と収量の増減が反比例する傾向が強く、安定し
た生産増加に至っていない。1976 年のトウモロコシの栽培面積、生産量は、それぞれ 48.2 万 ha、
80.0 万トン(FAOSTAT)あったが、近年の実績はいずれもそれらの半分以下で推移しており、
長期停滞が続いている。
続いて、表 3.2.5~表 3.2.7 に各対象地域別のイネ、オオムギ、トウモロコシ生産の推移を示すが、
データの欠落が多く、長期的な推移を分析するのは難しい状況にある。
【北部地域】
表 3.2.5 北部地域イネ、オオムギ、トウモロコシ生産推移
Crop
unit
2002
2003 2004-06
2.0
7.0
n.a.
Rice (Paddy) ('000 ha)
('000 ton)
6
21
n.a.
(ton/ha)
3.0
3.0
n.a.
('000 ha)
69.0
132.0
n.a.
Barley
('000 ton)
97
173
n.a.
(ton/ha)
1.4
1.3
n.a.
('000 ha)
8.0
8.0
n.a.
Maize
('000 ton)
23
24
n.a.
(ton/ha)
2.9
3.0
n.a.
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply
Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Afghanistan Statistical Yearbook 2007-08
2007
11.7
37
3.2
83.5
147
1.8
28.2
54
1.9
北部地域では、イネ、トウモロコシはそれほど重要な作物ではないが、近年、栽培面積増加によ
る生産量の増加が伺われる。
【北東部地域】
表 3.2.6 北東部地域イネ、オオムギ、トウモロコシ生産推移
Crop
unit
2002
2003 2004-06
74.0
77.0
n.a.
Rice (Paddy) ('000 ha)
('000 ton)
207
231
n.a.
(ton/ha)
2.80
3.00
n.a.
('000 ha)
83.0
77.0
n.a.
Barley
('000 ton)
125
135
n.a.
(ton/ha)
1.51
1.75
n.a.
('000 ha)
24.0
24.0
n.a.
Maize
('000 ton)
72
72
n.a.
(ton/ha)
3.00
3.00
n.a.
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply
Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Afghanistan Statistical Yearbook 2007-08
2007
101.7
367
3.61
40.2
62
1.54
4.9
10
2.02
北東部地域は、全国的のイネ栽培面積の半分以上を占める産地であるが(表 3.2.4 参照)、栽培面
積、収量共に増加傾向が伺える。その一方で、オオムギ、トウモロコシの生産は低落傾向を示し
ている。
3 - 17
【東部地域】
表 3.2.7 東部地域イネ、オオムギ、トウモロコシ生産推移
Crop
unit
2002
2003
2004-06
25.0
26.0
n.a.
Rice (Paddy) ('000 ha)
('000 ton)
75
78
n.a.
(ton/ha)
3.00
3.00
n.a.
('000 ha)
3.0
0.0
n.a.
Barley
('000 ton)
5
0
n.a.
(ton/ha)
1.67
n.a.
n.a.
('000 ha)
21.0
25.0
n.a.
Maize
('000 ton)
63
74
n.a.
(ton/ha)
3.00
2.96
n.a.
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply
Assessment Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Afghanistan Statistical Yearbook 2007-08
2007
27.0
69
2.56
2.3
3
1.14
23.7
59
2.50
東部地域では、これら作物の生産状況に大きな変化は伺えない。
(2) 野菜(メロン、スイカを除く)
野菜の栽培状況に関する数値データは、全国栽培面積(表 3.2.1 参照)以外見るべきものがない。
2007/08 年の全国栽培面積 6.8 万 ha は、1976 年の実績 9.8 万 ha(FAOSTAT)を若干下回って
いる。
野菜は、家屋周辺の庭先(vegetable garden)での栽培と、圃場(farm)での栽培とがあるが、
前者が自家消費用として栽培されるのに対し、後者は自家消費と共に販売用としても栽培されて
いる。2002~2003 年に行った FAO 調査結果(Agriculture and Food Production in Post-war
Afghanistan, August 2003)によると、庭先栽培を行っている農家は 36.9%、圃場での栽培を行っ
ている農家は 41.6%、両方での栽培を行っている農家は 35.9%となっている。また、野菜栽培を
全く行っていない農家は 58.4%にものぼる(表 3.2.8 参照)。上記調査による、対象地域別の野
菜栽培を行っている農家の割合も表 3.2.8 に示すが、北部地域はその割合が非常に低いが、北東部
地域、東部地域ではその割合が比較的高くなっている。
表 3.2.8 野菜生産農家の割合
Area
Afghanisitan
North
Northeast
East
Yes
41.6
26.5
59.6
43.7
No
58.4
73.5
40.4
56.3
(unit:%)
Total
100.0
100.0
100.0
100.0
(Source) Agriculture and Food Production
in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
野菜を圃場でのみ栽培している農家は、市場向け生産志向が比較的高いと思われるが、表 3.2.9
に対象地域別の圃場でのみ野菜を生産している農家の割合を示す。表 3.2.9 からは、北部地域では
自給目的の栽培が多いのに対し、東部地域では販売目的で野菜を栽培する農家の割合が比較的多
いことが伺える。北東部地域は、ほぼ全国平均に近く、両地域の中間に位置する。
3 - 18
表 3.2.9 圃場のみで野菜を生産する農家の割合
(unit:%)
Area
Yes
No
Total
Afghanisitan
5.7
94.3
100.0
North
3.1
96.9
100.0
Northeast
6.1
93.9
100.0
East
8.2
91.8
100.0
(Source) Agriculture and Food Production
in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
アフガニスタン国で主に生産される野菜は、タマネギ、トマト、ニンジン、カボチャ、オクラ、
ニンニク、リーキ(ニラネギ)等があるが、圃場で野菜生産する農家がそれら野菜を栽培する割
合を、対象地別に表 3.2.10 に示す。
表 3.2.10 野菜別の圃場生産する農家が栽培する割合
Area
Onion
Tomato
Carrot
Pumpkin
Okra
Garlic
(unit:%)
Leek
Afghanisitan
82.9
86.0
41.5
36.0
46.6
19.8
13.7
North
95.2
89.8
38.0
38.5
26.5
6.3
0.8
Northeast
83.4
94.1
65.3
57.3
32.9
20.0
7.3
East
73.7
62.1
16.5
17.4
83.5
42.9
8.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
全国的には、タマネギ、トマトを栽培する農家の割合が高く、その傾向は各対象地域でも同様で
あるが、対象地域別の特徴は以下のとおりである。
北部地域:
タマネギ、トマトに栽培が集中する傾向にあり、特にタマネギの割合が高い
北東部地域: トマトの割合が特に高く、ニンジン、カボチャの割合も全国平均を大きく上回る
東部地域:
タマネギ、トマトの割合が比較的少なく、オクラの割合が一番高い。オクラ、ニン
ニクの割合は全国平均を大きく上回る
(3) 果樹及びナッツ類
かつて、アフガニスタン国産の果樹・ナッツ類(主に乾燥品)は国際市場でも高い評価を受け、
主要輸出品としての地位を占めていた。
2007/08 年の果樹及びナッツ(オリーブ含む)の全国栽培面積は、それぞれ 11.6 万 ha と 2.0 万
ha であり、両方の栽培面積は近年増加傾向を示している(表 3.2.1 参照)。1976 年の栽培面積は、
それぞれ 12.6 万 ha と 1.4 万 ha であり((FAOSTAT)、果樹は当時の面積を若干下回っている
もののナッツ類はそれを上回っている。ただ、果樹やナッツ類は専用の果樹園で栽培されるばか
りでなく、裏庭(囲い)、道端(街路樹)、水路沿いでも多く栽培され、また圃場でも牧草、豆
類、野菜等と混作されることが多いため、正確な栽培面積の把握が困難なことが指摘されている。
上述の 2002~2003 年 FAO 調査結果によると、何らかの果樹・ナッツ類を栽培している農家の割
合は44.1%と報告されている。
表3.2.11 に対象地域別の果樹・ナッツ類栽培農家の割合を示すが、
北部地域、北東部地域は全国平均にほぼ近いのに対し、東部地域は栽培農家の割合がかなり低く
なっている。
3 - 19
表 3.2.11 果樹・ナッツ栽培農家の割合
Grow Fruits/Nuts Have Garden
Yes
No
Yes
No
Afghanisitan
44.1
55.9
42.7
57.3
North
45.2
54.8
44.6
55.4
Northeast
48.0
52.0
46.7
53.3
East
22.8
77.2
22.6
77.4
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war
Afghanistan, August 2003, FAO
Area
Total
100.0
100.0
100.0
100.0
アフガニスタン国で栽培される主な果樹は、ブドウ、アンズ、モモ、リンゴ、クワ、ザクロ、ス
モモ、柑橘類であり、ナッツ類はアーモンド、ピスタチオ、クルミである。各果樹・ナッツ類別
の農家が栽培する割合を表 3.2.12 に示す。
表 3.2.12 果樹・ナッツ類別の果樹・ナッツ栽培農家が栽培する割合
(unit:%)
Mul- Pome- Plum Almond Pista- Walnuts Citrus Other
berry granat
chio
Afghanisitan
28.5
42.9
16.9
31.6
47.5
13.4
12.4
26.4
0.9
17.6
4.6
3.5
North
50.6
21.1
6.5
5.4
11.9
2.7
6.5
49.4
1.4
33.8
0.6
9.1
Northeast
19.4
54.9
42.1
60.1
57.5
18.2
21.2
35.3
2.1
24.3
0.7
9.3
East
0.0
60.7
15.4
20.5
71.8
6.0
6.0
0.9
0.0
0.9
65.8
0.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
Area
Vines Apricot Peach Apple
各地域で栽培する農家の割合が高い果樹・ナッツ類は以下のとおりである。
北部地域:
ブドウ、アーモンド、クルミ
北東部地域: アンズ、モモ、リンゴ、クワ、アーモンド
東部地域:
アンズ、クワ、柑橘類
また、果樹・ナッツ栽培農家が所有する、果樹・ナッツ類の数(本数)と各対象地域別のそれら
の全国シェアーを表 3.2.13 に示す。
表 3.2.13 栽培農家が所有する果樹・ナッツ類の数
Crop
Vines
Apricot
Peach
Apple
Mulberry
Pomegranate
Plum
Almond
Pistachio
Walnuts
Citrus
Other
North
North-east
East
Afghanistan
(trees)
(%)
(trees)
(%)
(trees)
(%)
(trees)
(%)
12,543,077 (17.4)
257,675 (0.4)
0 (0.0) 72,164,877 (100.0)
196,729 (5.3)
531,251 (14.2) 94,771 (2.5) 3,743,864 (100.0)
60,627 (8.2)
343,765 (46.3) 30,427 (4.1)
742,130 (100.0)
143,844 (3.8) 1,061,527 (27.8) 22,945 (0.6) 3,822,813 (100.0)
70,394 (2.2)
745,438 (23.6) 78,311 (2.5) 3,152,476 (100.0)
135,843 (6.1)
814,351 (36.4)
6,484 (0.3) 2,239,631 (100.0)
163,725 (18.2)
158,797 (17.7)
6,235 (0.7)
899,047 (100.0)
1,479,991 (30.9)
889,992 (18.6)
748 (0.0) 4,785,381 (100.0)
30,425 (36.2)
22,931 (27.3)
0 (0.0)
84,024 (100.0)
157,607 (24.9)
232,052 (36.6)
748 (0.1)
633,470 (100.0)
2,338 (1.7)
17,143 (12.8) 107,740 (80.6)
133,738 (100.0)
706,517 (44.9)
836,463 (53.2)
0 (0.0) 1,572,619 (100.0)
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
各地域別の比較的高い全国シェアー(栽培本数)を有する果樹・ナッツ類は以下のとおりである。
3 - 20
北部地域: ブドウ、スモモ、アーモンド、ピスタチオ、クルミ
北東部地域:モモ、リンゴ、クワ、ザクロ、ピスタチオ、クルミ(ブドウ以外は各果樹・ナッ
ツ類とも、比較的高いシェアーを有する)
東部地域: 柑橘類(他は、非常にシェアーが低い)
上記 FAO 調査報告書では全国的に重要な果樹・ナッツ類の産地を示しているが、対象地域の中で
は、北部地域のバルフ州(Kulum)、サーレポル州(Sari Pul、 Sozma Qalah、Sangcharak)、
ファリヤーブ州(Dawlatabad、Shirin Tagab)、北東部地域のバダフシャーン州があげられて
いる。
(4) その他主要作物
その他の主要作物としては、ジャガイモ、雑豆類、メロン類、油糧作物(ヒマワリ、ゴマ)、ワ
タ、牧草(クローバー、アルファルファ)等があげられる。これら作物は、コムギの裏作として
栽培されるものも多い。
表 3.2.14 に、以上のその他主要作物の栽培面積を各対象地域別に示す。データは 2001/02 年のも
ので、少し古いことをお断りしておく。また、表中のその他には野菜が含まれている可能性があ
るが確認できていない。
表 3.2.14 穀物以外の主要作物栽培面積(2001/02 年)
North
North-east
East
Afghanistan
(ha)
(%)
(ha)
(%)
(ha)
(%)
(ha)
(%)
Potatoes
2,753
4.5
3,735
7.2
150
0.1
24,454
4.7
(%)
(11.3)
(15.3)
(0.6)
(100.0)
-
-
-
-
Pulses
15,099
24.5
11,011
21.3
50
0.0
69,377
13.3
(%)
(21.8)
(15.9)
(0.1)
(100.0)
-
-
-
-
Melons
3,358
5.5
4,927
9.5
2,793
2.0
25,247
4.8
(%)
(13.3)
(19.5)
(11.1)
(100.0)
-
-
-
-
Oilseeds
38,636
62.8
24,970
48.3
0
0.0
68,787
13.2
(%)
(56.2)
(36.3)
(0.0)
(100.0)
-
-
-
-
Cotton
1,078
1.8
73
0.1
6,160
4.3
17,509
3.4
(%)
(6.2)
(0.4)
(35.2)
(100.0)
-
-
-
-
Clover
208
0.3
696
1.3
10,726
7.6
137,073
26.3
(%)
(0.2)
-
(0.5)
-
(7.8)
-
(100.0)
-
Other
277
0.5
6244
12.1
121,886
85.9
178,700
34.3
(%)
(0.2)
(3.5)
(68.2)
(100.0)
-
-
-
-
Total
61,518 100.0
51,744 100.0
141,820 100.0
521,747 100.0
(%)
(11.8)
(9.9)
(27.2)
(100.0)
-
-
-
-
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
Crop
上記表から、以下のような各対象地域別の特色が伺える。
北部地域: 油糧作物、雑豆類の栽培が盛んで、全国的なシェアーも高い
北東部地域:北部地域同様、油糧作物、雑豆類の栽培が盛んである。これら以外に、ジャガイ
モ、メロン類も比較的高い全国シェアーを有する
東部地域: ここで示す各作物は、いずれも多く栽培されていないようで、その他の栽培が圧
倒的に多い。比較的温暖な気候条件もあって、作物の多様化が進み、全国的には
ユニークな農業形態にあると思われる。
3 - 21
表 3.2.15 に、全主要穀物(コムギ、イネ、オオムギ、トウモロコシ)と以上のその他作物の、2001/02
年におけるそれぞれの栽培面積を比較した。北部地域及び北東部地域は、主要穀物栽培への集中
度が非常に高いのに対し、東部地域は主要穀物とそれ以外の作物の栽培面積とがほぼ同じ割合と
なっている。これからも、東部地域で作物多様化が進んでいることが十分伺える。
表 3.2.15 穀物以外の主要作物栽培面積の割合(2001/02 年)
(unit:ha)
Cereals
Non-cereals
Total
Area
Afghanisitan
3,060,202
521,747
3,581,949
(%)
(85.4)
(14.6)
(100.0)
North
1,006,223
61,518
1,067,741
(%)
(94.2)
(5.8)
(100.0)
Northeast
843,981
51,744
895,725
(%)
(94.2)
(5.8)
(100.0)
East
155,173
141,820
296,993
(%)
(52.2)
(47.8)
(100.0)
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war
Afghanistan, August 2003, FAO
(5) ケシ
2007 年に国連の支援を受けて実施された実態調査によると、2007 年のアフガニスタン全国の栽
培面積は 19.3 万 ha(同年の全世界のケシ栽培面積の 82%)にも及ぶが、この面積はコムギ以外
の各主要穀物の栽培面積に匹敵する(表 3.2.1 参照)。また、同年のケシの農家売り渡し価格の総
額は、同国 GDP の約 13%の規模になることも報告されている。同年のケシの ha 当たり粗収益
(US$5,200)はコムギのそれ(US$546)の約 9.5 倍とみられるため、金額的ベースでは、ケシ
がコムギに次ぐ第 2 の作物としての位置を占めると推定される。結果、図 3.2.7 に、近年のアフ
ガニスタンにおけるケシ栽培面積の推移を示す。
Planted Area of Opium Poppy
250
(1,000 ha)
200
150
100
50
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
(Source) Afghanistan Opium Survey 2007, Ministry of Counter Narcotics, Afghanistan
図 3.2.7 アフガニスタン国のケシ栽培面積(1997~2007 年)
2001 年に栽培面積が大きく落ち込んでいるが、これは当時のタリバン政権がケシ栽培禁止令を厳
格に実施したためであり、干魃の影響ではない。2002 年以降はタリバン政権が崩壊したことも
あって増加傾向を示し、特に近年の増加率が急増している。ケシとコムギは作期が重複するため
(図 3.2.8 参照)、一部が競合関係にある(コムギの価格が有利でなくなった場合、一部コムギか
3 - 22
らケシへの移行が進む)との報告もあるが、2004~05 年の増減にはその可能性が考えられるもの
の、それ以降は両作物の栽培面積は共に増加しており、基本的に両者の競合関係は殆どないと考
えられる。
表 3.2.16 に、対象地域別のケシ栽培面積の推移を示す。
表 3.2.16 地域別ケシ栽培面積の推移
2004
2005
2006
2007
Area (ha)
(%)
Area (ha)
(%)
Area (ha)
(%)
Area (ha)
(%)
Afghanistan
131,000 (100.0)
104,000 (100.0)
165,000 (100.0)
193,000 (100.0)
North
13,789
(10.5)
25,040
(24.1)
19,267
(11.7)
4,882
(2.5)
North-east
16,593
(12.7)
9,009
(8.7)
15,336
(9.3)
4,853
(2.5)
East
36,621
(28.0)
4,095
(3.9)
8,312
(5.0)
20,581
(10.7)
Other Area
63,997
(48.9)
65,856
(63.3)
122,085
(74.0)
162,684
(84.3)
(Source) Afghanistan Opium Survey 2007, Ministry of Counter Narcotics, Afghanistan
Region
ケシの栽培面積は南部地域が圧倒的に多いことが報告されており、北部地域、北東部地域、東部
地域のシェアーはそれほど高くない。また、北部地域、北東部地域では、近年栽培面積は減少傾
向を示している。一方、東部地域では栽培面積が近年増加に転じており、2007 年の急増はナンガ
ハール州での増加が大きく影響している。
このようにケシ栽培が普及(蔓延)している背景には、深刻な貧困問題の存在が指摘されている
が、先の 2007 年の実態調査でも、栽培者の多くが貧困や現金収入(結婚等)の必要性を栽培す
る理由としてあげている。また、ケシは地域有力者が前払い金を払って栽培させるケースが多く、
借金返済も大きな理由としてあげられている。耕作者の殆どは、代替収入源(雇用、高付加価値
作物等)があれば、ケシの栽培を止める用意があるとも回答しているが、現状ではケシに代わる
有利な収入源を農民が見つけるのが容易でないのも事実である。また、表 3.2.17 に示すように、
栽培が盛んな南部地域はアフガニスタンでは、最も農民の平均収入が高い地域であり、ケシ栽培
の蔓延は必ずしも単純な貧困問題のみに帰するものではないことも、この問題の解決を複雑にし
ている。
表 3.2.17 地域別農家平均年間収入
Poppy Farm
Non-poppy Farm
US$/year/farm
(%)
US$/year/farm
(%)
Central
1,897
(69.1)
1,487
(84.8)
Eastern
2,187
(79.6)
1,818
(103.6)
North-eastern
2,134
(77.7)
1,134
(64.7)
Northern
2,690
(97.9)
1,851
(105.5)
Southern
3,316
(120.7)
2,480
(141.4)
Western
2,258
(82.2)
1,721
(98.1)
Afghanistan
2,747
(100.0)
1,754
(100.0)
(Source) Afghanistan Opium Survey 2007,
Ministry of Counter Narcotics, Afghanistan
Region
麻薬問題は、麻薬の輸出競争力の高さによって、アフガニの為替レートが実態経済の実力以上に
高止まりし、産業の国際競争力を弱めているといった経済問題にも波及している。
3 - 23
3.2.2 作期
対象地域別の主要作物の栽培カレンダーを、図 3.2.8 に示す。作期は冬作と夏作に別れるが、冬期
の主な作物はコムギ、オオムギである。両者は一部夏期にも栽培されるが、コムギは圧倒的に冬
作が多い。他の主な作物(イネ、トウモロコシ、雑豆類、ジャガイモ、ワタ等)は、夏作として
栽培される。アフガニスタンは降水量の殆どが冬期から春期に集中するため、一部例外を除いて
夏作は灌漑地で行われる。
North Region (Faryab, Jawzjan, Saripol, Balkh, Samangan)
Crop
Jan
Feb
Mar
Apr
May
Wheat (Winter)
Wheat (Spring)
Rice
Maize
Barley (Winter)
Barley (Spring)
Pulses
Potato
Cotton
Jun
Jul
Aug
Sep
Oct
Nov
Dec
May
Jun
Jul
Aug
Sep
Oct
Nov
Dec
Apr
May
Jun
Jul
Aug
Sep
Oct
Nov
Dec
Apr
May
Jun
Jul
Aug
Sep
Oct
Nov
Dec
North East Region (Baghlan, Kunduz, Takhar)
Crop
Jan
Feb
Mar
Apr
Wheat (Winter)
Wheat (Spring)
(Rainfed only)
Rice
Maize
Barley (Winter)
Barley (Spring)
Potato
Cotton
North East Region (Badakhshan)
Crop
Jan
Feb
Wheat (Spring)
Maize
Barley
Pulses
Potato
Opium poppy
Mar
East Region (Kunar, Laghman, Nangarhar)
Crop
Jan
Feb
Mar
Wheat (Winter)
Rice
Maize
Barley
Pulses
Potato
Cotton
Opium poppy
(not so popular)
Remarks:
Seeding
Transplanting
Harvesting
(Source) Afghanistan Seed and Crop Improvement Situation Assessment, April-May 2002, ICARDA
(注)他資料の情報によって、原典に一部修正を加えている。
図 3.2.8 対象地域別主要作物作期
3 - 24
3.2.3 畜産
家畜はアフガニスタン国農業の重要なサブセクターであり、皮革や毛織物は果樹・ナッツ類と共
にアフガニスタン国の主要輸出産品であった。また、家畜やその副産加工品は多くの農家の重要
な現金収入源ともなっており、その販売額は作物より多いとの一部報告もある。家畜の世話のみ
ならず、加工品の生産・販売に女性が一定の役割を果たす場合が多く、女性支援を通した生計向
上の対象としても、畜産分野の重要性が認識されている。
アフガニスタン国では、ウシ(乳牛、役牛)、ヒツジ、ヤギ、ニワトリが、重要な家畜として認
識されている。図 3.2.9 に 1996/97~2007/08 年の主要家畜飼育頭数の推移を示す。
Number of Major Livestock
18,000
16,000
('000 heads)
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
Cattle
Sheep
Goats
Chickens
4,000
2,000
0
1996/97 1997/98 1998/99 1999/00 2000/01 2001/02 2002/03 2003/04 2004/05 2005/06 2006/07 2007/08
(Source) Afghanistan Statistical Yearbook, 2007-08
図 3.2.9 主要家畜頭数の推移
各家畜別の動向は、以下のとおりである。
ウシ:
1999 年の干魃で一旦飼育頭数が減少したが、近年は順調な増加傾向を示す
ヒツジ:
1999 年の干魃以降飼育頭数が大幅に減少し、回復の傾向はない
ヤギ:
1999 年の干魃で一旦飼育頭数が減少した後、回復をみたが、近年は再び減少傾向
にある
ニワトリ: 1999 年の干魃で一旦飼育頭数が減少した後、大幅な増加をみたが、近年は再び減
少傾向にある
1976 年の飼育頭数は、ウシ 370 万頭、ヒツジ 2,120 万頭、ヤギ 300 万頭、ニワトリ 620 万羽で
あった(FAOSTAT)ことから、ヒツジ以外は近年その当時の飼育頭数を上回っている。ただし、
最も飼育頭数の多かったヒツジは未だ当時の半分以下に留まっており、畜産部門全体の低迷感の
原因となっている。ヒツジの飼育頭数がこれほど減少し、現在も回復傾向を見せないのは、1999
年からの干魃によって、家畜飼育を生業とする遊牧民の多くが廃業したことが大きな原因と考え
られ、同時期に約 1/3 の遊牧民が飼育する全ての家畜を失ったとの報告もある。また、作物栽培
地の放牧地への侵食が進行していることが報告されており(特に降雨に恵まれた年)、ヒツジの
飼育が盛んな北部から西部にかけての地域では、作物栽培(主にコムギ)との競合が深刻な影響
を与えていると推測される。
3 - 25
アフガニスタンの家畜飼育上の問題として、餌の確保が最大の問題として認識されており、放牧
地の確保(特にヒツジ、ヤギ)、飼料作物の増産は、アフガニスタンの畜産振興にとって重要な
課題となっている。FAO の協力で実施された Afghanistan National Livestock Census 2002-03
によると、地域によって利用される家畜飼料の内容に違いがあることが報告されている。コムギ
副産物(藁、ふすま)、トウモロコシ、油かす(ワタ)が多く利用されるのは全国ほぼ共通して
いるが、東部地方(東部地域が含まれる)では、他にクローバーが比較的多く利用されるのに対
し、北部地方(北部地域、北東部地域が含まれる)では、他にオオムギ、干草、アルファルファ
が比較的多く利用されている。また、同センサスでは多くの家畜飼育者が飼料を購入しているこ
とが報告されているが、東部地方では麦藁、コムギ(屑と思われる)、ベッチを比較的多く購入
し、他にも多種類の材料を分散購入する傾向があるのに対し、北部地方では油かす(ワタ)、オ
オムギに集中する傾向が見られる。
上記 FAO 調査(Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003)で
は、畜産部門も対象とし、地域毎の比較分析を行っているが、調査対象を定住農家のみとしてい
るため、遊牧民、非農家等によって飼育されている家畜が含まれていない欠点がある。一方、同
時期には上記センサスが概ね全国のあらゆる職種世帯を対象に実施されているが、
上記 FAO 調査
とは異なった独自の区分によって収集した情報の分析を行っている。ちなみに、前者の対象戸数
が 1,065,523 戸であったのに対し、後者の対象戸数は 3,044,670 戸であった。
表 3.2.18 に、主要家畜飼育頭数に関する上記 2 調査結果を比較して示す。
表 3.2.18 主要家畜飼育頭数調査結果比較
Animal
Afghanistan
North
North-east
East
Census
(a)
Cattle (heads)
FAO
Balance
(b)
(a - b)
Census
(a)
Sheep (heads)
FAO
Balance
(b)
(a - b)
Census
(a)
Goats (heads)
FAO
Balance
(b)
(a - b)
Poultry (heads)
Census
FAO
Balance
(a)
(b)
(a - b)
3,715,409 2,423,618 1,291,791 8,772,351 6,362,525 2,409,826 7,280,866 2,425,774 4,855,092 13,178,097 5,248,444 7,929,653
287,920
204,427
83,493 2,118,825 1,481,562
637,263
836,007
421,025
414,982
886,373
255,172
631,201
879,372
818,463
60,909 1,385,448 3,085,943 -1,700,495
919,799
593,366
326,433 1,306,687
963,225
343,462
756,133
426,969
329,164
608,333
56,613
551,720 1,395,203
373,847 1,021,356 2,636,124 1,285,894 1,350,230
(Source) (a) Afghanistan National Livestock Census 2002-03, FAO
(b) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
本報告書では地域別分析比較を重視していることから、以下、前者の調査結果を基に家畜毎に対象
地域状況の検討を行う。
(1) ウシ
ウシは、圃場耕起用や輸送用の牽引動力(役牛)として、また乳牛として、アフガニスタンでは
最も重要な家畜と認識されている。表 3.2.19 に農家のウシ(役牛+乳牛)保有状況を示すが、主
要家畜の中で全国農家保有率が一番高い(70.1%)。
3 - 26
表 3.2.19 地域別農家ウシ保有状況
Region
Total Farm
households
Afghanistan
North
North-east
East
Farm Households with
cattle
Total cattle
number
1,065,523
177,764
164,134
127,941
(%)
747,262
104,215
150,183
105,745
70.1
58.6
91.5
82.7
Mean number
per farm
households
per owner
2.27
1.15
4.99
3.34
3.24
1.96
5.45
4.04
2,423,618
204,427
818,463
426,969
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
ウシは、北東部地域、東部地域で保有率が高く、1軒あたりの飼育頭数も多い。一方、北部地域
は保有率が低く、1軒あたり飼育頭数も少ない結果となっており、保有農家でさえ、1軒当たり
の飼育頭数は犂や牛車の牽引に必要な数(2 頭)を下回っている。2002-03 年センサスでも、バ
ダフシャーン州(北東部地域)、コースト州(南部地域)、クナール州(東部地域)、ラグマー
ン州(東部地域)、ヌリスターン州(東部地域)の、パキスタン国境に沿った東側諸州において、
ウシの保有率が高いことが報告されており、表 3.2.19 の結果を裏付ける内容となっている。
役牛、乳牛別の正確な飼育頭数は不明であるが、上記 FAO 調査ではウシの性別個体数についても
調査している。雄牛の殆どが役牛、雌牛の殆どが乳牛と考えられるため、その比率を各対象地域
別に表 3.2.20 に示す。
表 3.2.20 農家ウシ保有頭数の割合(性別)
Region
Afghanistan
Male
57.7
Female
42.3
(Unit:%)
Total
100.0
North
67.7
32.3
100.0
North-east
49.1
50.9
100.0
East
57.3
42.7
100.0
(Source) Agriculture and Food Production in
Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
全国的には、農家が飼育しているウシは役牛の数が乳牛の数より多いと推定されるが、対象各地
域には以下のような特徴が見られる。
北部地域: 役牛の割合が約 2/3 と、全国平均を大きく上回っている
北東部地域:乳牛の割合が役牛を僅かに上回るものの、ほぼ同数である
東部地域: 全国平均にほぼ近い
(2) ヒツジ
ヒツジは、食肉用だけでなく、ウールや乳も利用されるが、乳の利用はヤギと比較して重要度は
少ない。ヒツジは富裕者層によって大きな群れで飼育されるケースが多く、富の象徴と見られて
いる。表 3.2.21 に農家のヒツジ保有状況を示す。
3 - 27
表 3.2.21 地域別農家ヒツジ保有状況
Region
Afghanistan
Total Farm
households
Farm Households
with sheep
number
Mean number
Total sheep
(%)
per farm
households
per owner
1,065,523
495,926
46.5
6,362,525
5.97
12.83
North
177,764
75,280
42.3
1,481,562
8.33
19.68
North-east
164,134
89,662
54.6
3,085,943
18.80
34.42
East
127,941
33,669
26.3
56,613
0.44
1.68
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
ヒツジは、北部地域、北東部地域では、ほぼ全国平均並の保有率であるが、1 軒あたりの飼育頭
数は全国平均を大きく上回っている。一方、東部地域は保有率が非常に低く、1 軒あたりの飼育
頭数も非常に少ない。2002-03 年センサスでも、北部地方(北部地域、北東部地域が含まれる)
は、1軒あたりの保有頭数が多い地域であることが報告されており、ファリヤーブ州(北部地域)
は、飼育頭数が多い州のひとつとして上げられている。また、毛皮やウールが珍重されるカラク
ル種も、北部地域諸州(ファリヤーブ、ジューズジャーン、サーレポル、バルフ、サマンガーン)
とクンドゥズ州(北東部地域)で多く飼育されていることが報告されている。
(3) ヤギ
ヤギもヒツジ同様、食肉用だけでなく、ウールや乳も利用されるが、ヤギの乳は牛乳に次いで重
要視され、牛乳が比較的多く販売されるのに対し、自家消費用として利用される場合が多い。一
方、ヤギのウールはヒツジのそれと比較して重要度は少ない。表 3.2.22 に農家のヤギ保有状況を
示すが、主要家畜の中で全国農家保有率が一番低い(33.2%)。
表 3.2.22 地域別農家ヤギ保有状況
Region
Afghanistan
Total Farm
households
Farm Households
with goats
number
Mean number
Total goats
(%)
per farm
per owner
households
1,065,523
353,935
33.2
2,425,774
2.28
6.85
North
177,764
48,754
27.4
421,025
2.37
8.64
North-east
164,134
65,834
40.1
593,366
3.62
9.01
East
127,941
56,364
44.1
119,542
0.93
2.12
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
ヤギは、北東部地域、東部地域では全国平均以上の保有率であるが、北部地域では平均以下となっ
ている。一方、1 軒当たりの飼育頭数は、一番保有率が高い東部地域で一番少なくなっており、
東部地域では比較的多くの農家が少ない頭数で飼育している様子が伺える。一方、北部、北東部
では1軒当たりの飼育頭数が全国平均を上回っており、比較的多数の飼育を行っている。とはい
え、両地域の 1 軒当たりの飼育頭数は、ヒツジと比較すると、はるかに少ない数となっている。
3 - 28
(4) 家禽類
家禽類の中では、ニワトリの数が一番多く、2002-03 年センサス結果から、家禽類の 90%以上を
ニワトリが占めると推測される。ニワトリは食肉用、産卵用として飼育されているが、一般にニ
ワトリの世話を多く行う婦人は、産卵用としての価値をより高く評価していることが、2002-03
年センサスで報告されている。表 3.2.23 に農家の家禽類保有状況を示すが、主要家畜の中で全国
農家保有率がウシに次いで高い(64.2%)。
表 3.2.23 地域別農家家禽類保有状況
Region
Afghanistan
Total Farm
households
1,065,523
Farm Households
with poultry
number
Mean number
Total poultry
(%)
684,157
64.2
per farm
households
per owner
4.93
7.67
5,248,444
North
177,764
51,803
29.1
255,172
1.44
4.93
North-east
164,134
126,858
77.3
963,225
5.87
7.59
East
127,941
110,483
86.4
1,285,894
10.05
11.64
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
家禽類は、北東部地域、東部地域では全国平均以上の保有率であるが、北部地域では平均を大き
く下回っている。東部地域は、1 軒当たりの飼育数も全国平均を大きく上回っており、全国でも
家禽類(ニワトリ)の飼育が盛んな地域であることが伺える。反対に、北部地域は、1 軒当たり
の飼育数も全国平均を大きく下回っている。
3.2.4 農業投入財
アフガニスタンで圧倒的に栽培面積が多いコムギの例を中心に、農家の農業投入財(種子、化学
肥料、トラクター)の使用状況を概観する。
(1) 種子
アフガニスタンのコムギ播種量は、全国平均で灌漑栽培:約 150kg/ha、天水栽培:約 90kg/ha
と大きく異なっている。一部の天水栽培地で、降雨に恵まれた年には播種量が多くなる例が報告
されており(A report on “Agriculture and Food Production in Post-war in Afghanistan
2002-2003”, FAO)、農家は高い収量が期待できる場合、播種量を増やす傾向にあると考えられる。
灌漑栽培の約 150kg/ha は、コムギ播種量としては多少多目といえる。
アフガニスタンでは、コムギ改良品種(Improved Varieties)の普及がある程度進んでおり、
2001/02 年の全国コムギ播種量の 52.9%が改良品種であった(表 3.2.24 参照)。対象地域別に見
ると、
改良品種普及率は、
いずれも全国平均を上回っているが、
特に、
東部地域での普及率は 94.0%
と非常に高い。全国的には、国の東側での普及率が高い。これは、パキスタンから商業ベースで
流入する種子の影響があると見られている。また、政府や FAO を初めとした各種援助機関によっ
て、コムギ改良品種種子と肥料の配布計画が継続的に実施されていることから、それら支援への
3 - 29
アクセスの容易度も、普及率に影響を与えていると考えられる。
表 3.2.24 コムギ改良品種使用割合(2001/02 年)
Region
Improved Varieties (%)
Afghanistan
52.9
North
56.6
North-east
76.0
East
94.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
表 3.2.25 に、農家が灌漑栽培コムギ用に使用した種子の調達先の割合を示す。
表 3.2.25 灌漑栽培コムギ種子の調達先(2001/02 年)
Region
Afghanistan
North
North-east
East
Variety
Origin (%)
Own saved
Received
Purchased
Total
All
62.5
3.9
35.5
100.0
Improved
61.5
6.1
33.0
100.0
All
22.6
6.3
69.4
100.0
Improved
24.8
10.8
61.7
100.0
All
66.2
4.2
31.8
100.0
Improved
65.4
4.6
32.1
100.0
All
60.5
0.1
39.0
100.0
Improved
61.3
0.1
36.0
100.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
全国レベルでは、全播種量に占める自家採取種子の割合は 62.5%であり、約 4 割を購入あるいは
他から受領した種子が占めている。約 4 割の種子更新率(自家採取以外)は十分高い数字であり、
良い種子の確保には定期的な更新が必要であるとの認識が、広く農家に共有されていることが伺
える。ただし、開発途上国では、販売される種子の品質が必ずしも高くない場合があり、農家の
高い種子更新率が、高品質種子の使用に結びついているかに関しては、更なる検討が必要である。
天水栽培の場合、種子更新率が灌漑栽培より低い可能性が高いが、天水栽培における同様なデー
タの入手はできなかった。また、表には全コムギと改良品種のみの両方の数値を示しているが、
両者の間に有意な差は見られない。
対象地域別に見ると、北部地域で種子更新率が飛び抜けて高く、北東部地域と東部地域は、全国
平均並みである。改良品種の普及率が一番低かった北部地域で、種子更新率が最も高くなってお
り、種子更新率と改良品種普及率との間に相関は見られない。既に述べたように、コムギの栽培
面積は年によって大きく変動するが、種子は予め次作の栽培面積を想定して、前作の適当量を確
保しておく必要があるため、急激な需要増に対応して、常に必要種子量を確保するのが難しい実
態が伺える。そのため、経営規模が比較的大きく、年による栽培面積の変動が最も激しい北部地
域では、農家が購入種子に多く依存していると考えられる。
FAO 調査では、2001/02 年に全国農家の 49.0%が、何らかのコムギ耕作放棄地を有することが報
告されている。その理由として、水不足をあげる農家(耕作放棄者)の割合が 86.7%と圧倒的で
3 - 30
あるが、種子不足も 29.2%と比較的高い数字となっている。
(2) 化学肥料
アフガニスタンでも、化学肥料は農民の間で広く使用されており、コムギのみならず、他の穀物、
野菜、果樹等への使用も一般的に行われている。ただし、使用は灌漑栽培にほぼ限られており、
コムギの天水栽培では、僅かに 1.5%の農家が使用するに留まることが報告されている。表 3.2.26
に、2001/02 年の灌漑コムギに対する化学肥料の使用率と使用量を示す。
表 3.2.26 灌漑栽培コムギ化学肥料使用状況(2001/02 年)
Use Fertilizers (%)
Use Rate
(kg/ha)
Urea
DAP
Other
Afghanistan
100.0
73.5
72.1
0.9
179
North
100.0
50.3
39.6
1.9
156
North-east
100.0
90.2
84.6
0.0
236
East
100.0
92.7
97.1
0.9
217
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan,
August 2003, FAO
Region
Grow Wheat
(%)
コムギに対して最も一般的に施用される化学肥料は、尿素と DAP(Di-ammonium Phosphate)
であり、DAP は基肥用として、尿素は追肥用(通常 1~2 回)として多く使用されている。全国
レベルでは、尿素、DAP 共に 70%強の農家がコムギ(灌漑栽培)に使用しており、全肥料の総
施肥量も 179kg/ha と、高い収量を狙うには十分ではないにせよ、ある程度のレベルにあると評
価される。
対象地域別に見ると、北部地域で尿素、DAP を使用する農家の割合、全肥料の総施肥量共に最低
となっているが、これは安定的に水の供給が可能なコムギ用灌漑地の確保が、他地域より難しい
ことの反映であると考えられる。一方、北東部地域、東部地域では、ほぼ 90%以上の農家がいず
れの肥料も使用し、総施肥量も 200kg/ha を上回っている。
(3) トラクター
アフガニスタンでは、圃場の耕起作業には家畜とトラクターが利用されている。家畜は、ウシの
利用が殆どであるが、限定的ながらロバ、ラバ、ウマの利用も見られる。同じ農家が家畜とトラ
クターを併用する例もあり、その場合、最初の耕起をトラクターで行い、それ以降の作業に家畜
が利用される。
表 3.2.27 に、2001/02 年と 2002/03 年に、耕起作業にトラクターを利用した農家の割合を示す。
全国レベルで、それぞれ 38.4%、45.7%となっており、アフガニスタンの農民にとって、トラク
ターは比較的身近な農業機械となっている。2 年間だけのデータではあるが、トラクター利用率
は増加傾向にあることが伺えるため、現時点の利用率はもう少し高いものと推測される。
3 - 31
表 3.2.27 耕起作業にトラクターを利用した農家の割合
Region
Total
Use in 2001/02
Use in 2002/03
Yes
Yes
No
No
Afghanistan
100.0
38.4
61.6
45.7
54.3
North
100.0
30.9
69.1
39.5
60.5
North-east
100.0
41.8
58.2
51.5
48.5
East
100.0
49.7
50.3
55.0
45.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan,
August 2003, FAO
対象地域別に見ると、利用率は北部地域で一番低く、全国平均を下回っている。北東部地域、東
部地域は、いずれも利用率が全国平均を上回っており、東部地域の利用率が最も高くなっている。
表 3.2.28 に、2001/02 年の耕起作業へのトラクターと家畜の併用状況を示す。
表 3.2.28 耕起作業へのトラクターと家畜の利用状況(2001/02 年)
Use
Tractor
Farmers (%)
Total
No
Use Draught Animals
Total
No
Yes
100.0
39.5
60.5
61.6
9.7
51.9
Yes
38.4
29.8
(Source) Agriculture and Food Production in
Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
8.6
トラクターと家畜を併用している農家の割合は 8.6%であり、殆どの農家がどちらか一方のみを利
用している。単位面積あたりの家畜賃耕料はトラクター賃耕料に連動しており、両者の間には競
合関係があることが報告されている。1999 年からの干魃によって、ウシの飼育頭数が激減したこ
とが、トラクターの普及率を高めたとの報告もある。
(4) 農業投入財援助の裨益状況
アフガニスタンでは、FAO や他の援助機関の支援プログラムによって、主としてコムギを対象に、
種子や肥料が配布されている。
なかでも、
FAO は 2001/02 年と 2002/03 年に緊急援助
(Emergency
Agricultural Assistance)を実施し、同時期の種子・肥料援助の中心的役割を担っていた。
表 3.2.29 に、2002/03 年に何らかの援助を通して、種子・肥料の支援を受けた農家の割合を示す。
この時期、1999 年から続いた干魃からの復興対策として、多くの支援が行われたはずであるが、
何らかの支援によって、種子あるいは肥料を受け取った農家の割合は、10%以下に留まっている。
表からは、援助では種子と肥料がセットで配布されたケースが多く、また、灌漑地のコムギ作に、
手厚く配布されたものと推測される。
3 - 32
表 3.2.29 種子・肥料の支援を受けた農家の割合(2002/03 年)
Type of Crops
Only IrriOnly RainTotal
gated
Both Wheat No Wheat
fed Wheat
Wheat
100.0
14.1
57.8
17.1
11.1
% of Farm Households
Received
Inputs
Total
Only Seed
2.4
0.5
1.3
0.4
0.1
Only Fertilizer
0.2
0.0
0.1
0.1
0.0
5.5
91.9
0.1
13.4
3.3
53.0
2.0
14.6
0.1
10.9
Both
None
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
このように、種子・肥料援助の受益農家数は限られているものの、既に検討してきたように、同
時期の種子・肥料の農家への普及率は、長く混乱が続いた社会状況を考慮すれば、それほど悪く
ないと評価できる。トラクターも含めて、主な農業投入財に関しては、民間市場がそれなりに機
能しているものと推測される。
3.2.5 土地所有と経営規模
(1) 経営規模
アフガニスタン農家の平均経営規模は 6.13ha であり、そのうち 2.86ha が灌漑地、3.27ha が天水
地となっている(表 3.2.30 参照)。
表 3.2.30 農家の経営規模
Region
Afghanistan
Farm
Households
1,065,523
Total Arable Land Area (ha)
Total
6,536,971
Average Farm Size (ha/household)
Irrigated
Rain-fed
Total
Irrigated
Rain-fed
3,048,801
3,488,170
6.13
2.86
3.27
North
177,764
2,384,953
569,267
1,815,686
13.42
3.20
10.21
North-east
164,134
1,226,192
486,753
739,439
7.47
2.97
4.51
East
127,941
162,671
147,508
15,163
1.27
1.15
0.12
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
平均 6.13ha の経営規模は、日本や他のアジア諸国との比較において、大きな規模といえるが、既
に述べてきたように、実際の耕作地面積は、その年の気候条件(主に降水量)によって大きく変
動しており、特に天水農地での変動が激しい。加えて、灌漑農地は、施設の劣化や水管理上の問
題により、少なからぬ割合が耕作不能になっており、天水農地では、土壌肥沃度回復のため、多
くの農家が毎年 1/3 程度を休耕地としていることが報告されている。そのため、多くの農家の毎
年の栽培面積は上記経営規模の一部に留まると思われる。FAO は 2002/03 年の調査(Agriculture
and Food Production in Post-war Afghanistan)結果から、アフガニスタンの典型的な農家の経
営規模を 5ha 未満、
実際の栽培面積は、
灌漑農地 1.14ha、
天水農地 0.5ha であると報告している。
対象地域別に見ると、経営規模は、地域によって大きな差があることがわかる。北部地域では
13.42ha と全国平均の 2 倍以上であるのに対し、東部地域は 1.27ha と全国平均の約 1/5 に留まっ
3 - 33
ている。北東部地域はそれらの中間にあり(7.47ha)、ほぼ全国平均並の規模となっている。経
営規模の差は、灌漑農地よりも天水農地の差が強く影響しており、北部地域と東部地域との差は、
前者で約 3 倍、後者で約 10 倍にもなっている。東部地域は、人口密度が比較的多いことに加え、
年間降水量が少ないために天水農地面積が非常に限られていることが、このような結果をもたら
している。図 3.2.10 に、経営規模別の農家数と農地面積の分布を示す。
30
% Farm
Households
% Arable
Land
25
20
(%) 15
10
5
0
Below
0.50 ha
0.50 0.99 ha
1.00 1.99 ha
2.00 4.99 ha
5.00 9.99 ha
10.00 19.99 ha
20.00 - 50 ha and
49.99 ha
more
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
図 3.2.10 経営規模別農家数と農地面積の分布
経営規模 2ha 以上~5ha 未満の農家グループの割合が一番多く、経営規模 5ha 未満の農家が全体
の 68.71%を占めるのに対し、経営規模が 20ha を越える農家は全体の 7.07%と少ない。一方、
経営農地面積の分布を見ると、経営規模 20ha 以上~50ha 未満の農家グループが最も多くを占め
ており、経営規模 5ha 未満の農家が経営する全農地は、全体の 19.46%でしかないのに対し、経
営規模が 20ha を越える農家が経営する全農地は、全体の 44.14%にもなる。
(2) 農地所有
アフガニスタンの小作制度に関しては「2.6.3 農村の土地所有」で説明したとおりであるが、長
期間の社会的混乱によって、国の土地登記制度は、事実上機能しておらず、現在農地所有を主張
する人々の殆どが、当該地の登記を行っていない(行えない)実態にある。そのため、現在アフ
ガニスタンで自作農とされている人々は、ある農地の占有を自身で主張し、現時点でひとまず、
その主張が地元で認知されている人達と認識したほうが事実に近いと思われる。
このような状況から、上記 2002/03 年の FAO 調査では、農家の自己申告に基づいて農地保有状
況を調査しているが、表 3.2.31 に示したように、小作農の数は 116,713 軒で、それら農家が借上
げている農地面積は 373,646ha となっている。こられの数は、それぞれ全体の 11.0%、5.7%で
しかなく、アフガニスタンでは自作農の割合が非常に高いことを示している。また、小作農の内
訳は、自小作農が農家数、借上げ農地面積共に、純小作農を大きく上回っている。
3 - 34
表 3.2.31 小作農家数と借地面積
Kind of Farm
Tenant (a. + b.)
Farm Households
(number)
(%)
Arable Land
(ha)
(%)
116,713
11.0
373,646
5.7
a. Mixed tenant
89,892
8.5
277,089
4.2
b. Tenant only
26,821
2.5
96,557
1.5
1,063,269
100.0
6,536,971
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war
Afghanistan, August 2003, FAO
100.0
Total Farm
以上の数字から、アフガニスタンでは、所有する農地規模に格差はあるものの、自作農が約 9 割
を占め、小作農であっても、多くが農地を所有していることになるが、過去の調査結果とは少な
からぬ開きがある。ちなみに、1968 年のアフガニスタン政府報告(1967 年調査)によると、自
作農の割合は 27%しかなく、刈分小作 47%、借地人 8%、共同所有経営 17%との記録がある。
その後、ソ連侵攻後の共産主義政権によって、不徹底ながら土地改革が行われたこともあり、自
作農の割合がかなり増加したと思われるが、1988/89 年の農業調査(Agricultural Survey)結果
では、自作農 78%、小作農(刈分小作も含む)21%となっている。長期に亘る社会的混乱が、法
的な裏付けは曖昧であるにしても、地主層から耕作者への実質的な農地移管を促進しているとす
れば、皮肉な結果である。
とはいえ、JICA「アフガニスタン国農業・農村開発分野支援基礎調査団報告書」(2008 年 5 月)
には、Bido クラスターCDC(バルフ州)での調査結果として、住民の 90%が、土地を所有して
いない(小作 60%、土地無し 30%)との記述もある。何れにせよ、基準となる土地登記制度の
混乱もあり、農地所有状況の実態を、正解に把握することは不可能に近い。表 3.2.32 に、小作に
出されている農地面積を、灌漑農地と天水農地別に示すが、小作地としては灌漑農地が、より多
く貸出されていることがわかる。
表 3.2.32 灌漑農地、天水農地別の小作借地面積
Kind of Farm
Tenant (a. + b.)
a. Mixed tenant
b. Tenant only
Total Farm
Irrigated
(ha)
Rain-fed
(%)
(ha)
(%)
235,352
7.7
138,293
4.0
163,953
5.4
113,154
3.2
71,418
2.3
25,140
0.7
3,048,801
100.0
3,488,170
100.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war
Afghanistan, August 2003, FAO
表 3.2.33 に、小作農家数と地主農家数を、それぞれ経営規模別に示す。小作農家の割合が一番多
いのは、2ha 以上~5ha 未満の農家グループで、農家数も、それ前後の中堅規模のグループで多
くなっている。一方、地主農家の占める割合は、経営規模が大きいグループで比較的大きい傾向
にあるが、農家数はやはり中堅規模グループで多くなっている。地主農家で興味深いのは、経営
規模 0.5ha 以下の農家の割合が比較的多いことであるが、寡婦家族等が労働力を十分確保できな
いため、土地を貸出している状況があると思われる。
3 - 35
表 3.2.33 経営規模別小作農家数及び地主農家数
Total Farm
Farm Size
(number)
Below 0.50 ha
0.50 - 0.99 ha
1.00 - 1.99 ha
2.00 - 4.99 ha
5.00 - 9.99 ha
10.00 - 19.99 ha
20.00 - 49.99 ha
50 ha and more
Total
(%)
142,835
122,445
187,815
277,481
158,770
98,737
58,760
16,426
1,063,269
Tenant Farm
(number)
(%)
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
4,631
6,525
17,129
47,679
23,560
11,206
4,031
1,952
116,713
Landload Farm
(number)
(%)
3.2
5.3
9.1
17.2
14.8
11.3
6.9
11.9
11.0
3,626
670
4,288
9,634
6,204
6,041
2,513
550
33,526
2.5
0.5
2.3
3.5
3.9
6.1
4.3
3.3
3.2
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
図 3.2.11 に、経営規模別の小作農家数を借上げ農地の灌漑状況別に示すが、経営規模の比較的小
さい農家が、灌漑農地を積極的に借上げている傾向が伺える。
Tenant Farm Households
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
Irrigated Only
Rain-fed Only
Both
5,000
0
Below
0.50 ha
0.50 0.99 ha
1.00 1.99 ha
2.00 4.99 ha
5.00 - 10.00 - 20.00 9.99 ha 19.99 ha 49.99 ha
50 ha
and
more
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
図 3.2.11 経営規模別小作農家数(灌漑条件別)
同様に、図 3.2.12 に、経営規模別の地主農家数を貸出し農地の灌漑状況別に示すが、灌漑農地を
貸出しているのは、中規模農家が多くを占めるが、天水農地は比較的経営規模が大きい農家が、
多く貸出している傾向が伺える。
10,000
Landlord Farm Households
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
Irrigated Only
Rain-fed Only
Both
1,000
0
Below
0.50 0.50 ha 0.99 ha
1.00 1.99 ha
2.00 - 5.00 - 10.00 - 20.00 4.99 ha 9.99 ha 19.99 ha 49.99 ha
50 ha
and
more
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
図 3.2.12 経営規模別農地貸出し地主農家数(灌漑条件別)
3 - 36
地主には、農家以外の地主も存在するが、農家以外の地主が貸出す農地面積が、全体の 47.8%と
約半分を占めており、天水農地では半分となっている。農家以外の地主には、高い割合で、海外
居住者を含めた不在地主が含まれていると推測される。
表 3.2.34 地主種類別の貸出し農地面積
Kind of Landlord
Irrigated
(ha)
Rain-fed
(%)
(ha)
Total
(%)
(ha)
(%)
Farm landlords
128,438
54.6
66,555
48.1
194,993
52.2
Other landlords
106,914
45.4
71,738
51.9
178,652
47.8
235,352
100.0
138,293
100.0
373,645
100.0
Total
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
3.2.6 各州の農業関連情報
Provincial Profile, Ministry of Rural Rehabilitation and Development (MRRD), October 2006
から、農業関連中心に、今回対象州の情報を抜粋して表 3.2.35 に示す。ただし、ジューズジャー
ン州、サーレポル州、クンドゥズ州は、Provincial Profile に情報がまとめられていないため含ま
れていない。
表 3.2.35 対象各州の農業関連情報
州名
自然・地理、水資源
Faryab
Balkh
人的資源
教育
人口の40%が亡命し8万人余りが帰還済
州都マザリシャリフの人口は25万人
識字率40%以下。教育への関心は高いがま 比較的高い識字率。コンピュータリテラ
ずは教育機関の設置が必要。
シー率高い(不確定情報との記載)
人的移動
作物
その他事業
治安
インフラ
制約
記載なし
小麦、大麦、米、綿、トウモロコシ、野
菜、果物、メロン、ビスタチオ、ブドウ、
リンゴ
羊、ヤギの飼育が盛ん。旱魃で飼育数減少
小作が一般的
州農業局とNGOによる支援
州農業局とNGOが主な団体
カラカル羊、カーペット。果物、野菜を売
る地方市場はない
小さな売店くらい
注意が必要
道路は要修復。ライフラインも不安定
武装勢力、汚職、NGOに対する誤解等
クレジット
非公式なものが一般的
開発ポテンシャル
旱魃からの回復が急務
家畜
土地所有
農業支援
構造
農業関連事業
Samangan
Baghlan
ピスタチオの森、牧草地、4つの河川、06 幹線道路あり、肥沃な土壌、灌漑設備は要 幹線道路あり、水の供給もまずまず、広い Baghlan川、二毛作可能な土地
年に旱魃、深刻な水不足
修復
牧草地はあるが肥沃とはいえない
Takhar
記載なし
多民族、主に中流階級
高等教育機関あり 僻地での識字率は低い 高等教育機関あり
記載なし
季節間で移動が見られる
記載なし
穀類、飼料、ジャガイモ、油糧作物、スイ 小麦、米、野菜、油糧作物、スモモ、ザク 小麦、米、綿、野菜、果物等
カ、タマネギ、アーモンド
ロ、ピスタチオ、アーモンド
牛の飼育が盛ん
農場の面積はさまざま
政府、NGO、大学による支援
都市部に私営の団体、金融組合
貿易
食肉加工、牛乳生産が盛ん
所有体系はさまざま
Afghanaid, AKFによる支援が見られる
新設された団体
蜂蜜、カーペット、手工芸品、養鶏、繊維
牛乳生産、養鶏が盛ん。牧草地の修復急務
所有体系はさまざま
NGOによる支援
活動休止中の団体、新設された団体
砂糖工場、乳製品工場、園芸等
サービス
予測できないテロ行為等に注意
ほとんどの施設が要修復か修復中
制度は多様で他州より高度。政府の能力は
不十分
FMFB, ARMP, BRAC, WOCCU, Madeira,
Women for Women
軽工業、商業、観光
比較的安定
物理的インフラは概ね要修復
一般的に制約と思われるものすべて
エコツーリズム、繊維、飲料水
エリアによっては注意が必要
カブールへの道路完成済。灌漑設備修復中
一般的に制約と思われるものすべて
BRAC, ARMP, MISFA
FMFB, BRAC, Oxus, Finca, S&C, MISFA,カ
ブール銀行
農業、畜産、建設、サービス、貿易
園芸、畜産、農業、観光
農業、畜産、観光、繊維、生花
Badakhshan
Nangarhar
Takhar川、肥沃な土地
Kotcha川、Tugaiフォレスト
森林地帯。アヘンの生産地
多民族
高等教育機関あり(要修復)
記載なし
小麦、米、綿、野菜、果物等
食肉加工、牛乳の生産が盛ん
人口100万人。主にタジク、ウズベク人
識字率高め
近隣諸国からの帰還者増加中
小麦、稲、乾燥果物、野菜、木材
1世帯当り平均1.1頭の牛、0.7頭の乳牛
(夏期の放牧地)
平均1~2haの農場。小作が一般的
農業省による家畜のワクチン接種支援
公式な組織なし
蜂蜜、乾燥果物、シルク、カシミヤ、ウー
ル
養鶏、観光、建設、研修事業
比較的安定
全国でも最悪のアクセスの悪さ
州名
自然・地理、水資源
人的資源
教育
人的移動
作物
家畜
土地所有
農業支援
構造
農業関連事業
所有体系はさまざま
NGOによる支援
活動休止中の団体、新設された団体
蜂蜜、養鶏、カーペット、装飾品
その他事業
治安
インフラ
エコツーリズム、繊維
エリアによっては注意が必要
道路、エネルギー供給共に要修復
制約
クレジット
一般的に制約と思われるものすべて
商業面での法律、財政機構なし
FMBM, BRAC, ARMP, カブール銀行、MISFA 非公式なもののみ
による公式な統計の参照可
政府に対する不信、NGOに対する誤解等
MRRD, FINCA, BRAC, MADERA
開発ポテンシャル
農業、畜産、観光、繊維、生花
農業、建設、電力
農業、畜産、養蜂、シルク、カシミヤ、
ウール
記載なし
記載なし
アフガニスタンで生産可能作物のほとんど
農村部の1世帯当り平均1~2頭の牛。特定
地域でのみヤギ。
小作が一般的。
農業理事会とNGOによる支援
多数の農協が存在
オリーブ工場、ひまわり油工場、バラ水工
場
石鹸工場、製薬会社、大理石工場
アヘン栽培地帯では注意が必要
ほぼ全域での道路の修復、農村部での電力
供給が必要
(Source)Provincial Profile, Ministry of Rural Rehabilitation and Development (MRRD), October 2006
3 - 37
3.3
食糧事情と食糧需給
3.3.1 国民の食料事情
2003 年の収穫直後に実施された National Risk & Vulnerability Assessment によると、
調査対象
家庭の 20.4%が、基準カロリー必要量(同アセスメントでは 2,070kcal/人/日と設定)を摂取でき
ていなかった。2003 年は、1999 年から続いた厳しい干魃が終わり、久々の豊作年であったが(図
3.2.1 参照)、それにもかかわらず、十分なカロリー摂取を行えない、多数の国民が存在したこと
を示唆している。表 3.3.1 に、2003 年収穫時に、基準カロリーを摂取できていなかった家庭の割
合を、対象地域別に示す。
表 3.3.1 地域別基準カロリー非摂取家庭の割合
Region
Percentage
Afghanistan
20.44
North
22.30
North-east
12.81
East
18.60
(Note) Basic energy requirement:
2,070kcal/capita/day
(Source) Monthly Food Security
Bulletin, April 2004, ANFS
対象地域の中では、北部地区の状況が一番悪く、次いで東部地区、北東部地区の順となっている。
北部地区の非摂取家庭の割合は全国平均を上回るが、東部地区、北東部地区の数値はそれを下回っ
ている。表 3.3.2 に、食品別のカロリー摂取割合を対象地域別に示す。
表 3.3.2 食品別カロリー摂取割合の地域比較
(unit: %)
Foods
North
North-east
East
Afghanistan
Cereals/Tubers
69.8
67.1
69.1
70.0
Oil/Ghee/Fats
14.2
14.9
10.9
11.8
Legumes
4.7
4.4
4.8
4.7
Dairy/Eggs
2.4
4.1
4.7
4.4
Sugars
3.1
4.0
5.8
4.0
Vegetables
2.3
2.0
2.2
2.0
Meat/Fish
1.8
2.1
1.3
1.4
Fruits
1.5
1.1
1.1
1.6
Nuts
0.4
0.2
0.1
0.2
Total
100.0
100.0
100.0
100.0
(Source) Monthly Food Security Bulletin, April 2004, ANFS
食品別カロリー摂取量の割合に関しては、穀物からの摂取が 70.0%(全国平均)と突出しており、
油脂を除く他食品グループからの摂取割合は、全国平均で何れも 5%を下回る。対象地域による
摂取パターンに大きな差は見られないが、全国平均との比較で以下のような特徴が見られる。
北部地域: 油脂、肉類、ナッツ類が多く、乳製品/タマゴ、砂糖類が少ない
北東部地域:油脂、肉類が多く、果物が少ない
東部地域: 砂糖類が多く、果物が少ない
3 - 38
穀物では、コムギの摂取量が殆どを占めており(表 3.2.2 参照)、他の穀物を圧倒している。また、
表 3.3.3 に農家の非主食類の摂取頻度を示すが、
最低週1回以上の頻度で摂取している農家の割合
は、野菜 48.3%、果物 26.3%、肉類 17.9%に留まっている。
表 3.3.3 農家の非主食食品摂取頻度
(unit: %)
Frequency
Vegetables Fruits
Meat
Never, no answer
2.9
2.4
2.8
Once a year
7.4
19.1
13.2
Every month
41.5
52.2
66.2
Every week
48.3
26.3
17.9
Total
100.0
100.0
100.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war
Afghanistan, August 2003, FAO
このように、アフガニスタン一般国民の食生活は、コムギに多くを依存している実態にあり、カ
ロリー摂取のみならず、栄養バランスにも問題を抱える国民が多いものと思われる。
3.3.2 国家の食糧需給
アフガニスタンの主要食用穀物としては、コムギとコメが挙げられるが、以下、それらの需給状
況をマクロレベルで分析する。
(1) コムギ
表 3.3.4 に、近年のアフガニスタンのコムギ需給の推移を示す。
表 3.3.4 アフガニスタンのコムギ需給推移
Year
Production
Requirement
Balance
Selfsufficiency
(%)
85.8
85.6
69.9
41.1
43.7
66.8
95.9
54.5
92.3
91.5
91.2
n.a
97.2
(1,000 ton)
(1,000 ton)
(1,000 ton)
1997
2,710
3,160
-450
1998
2,834
3,310
-476
1999
2,500
3,578
-1,078
2000
1,470
3,574
-2,104
2001
1,598
3,654
-2,056
2002
2,685
4,018
-1,333
2003
4,361
4,549
-188
2004
2,293
4,205
-1,912
2005
4,266
4,623
-357
2006
4,411
4,819
-408
2007
4,484
4,917
-433
2008
2,623
n.a
n.a
2009
5,115
5,260
-145
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply Assessment
Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
Agriculture Prospect Reports, MAIL, Afghanistan (for 2005-2009)
コムギの自給率は、1999 年からの干魃年には 50%を下回り、200 万トンを越える不足を生じてい
たが、2005 年以降は安定的に生産量が伸びており(2008 年を除く)、自給率も干魃前のレベル
を上回る 90%台でほぼ安定している。2008 年のデータが欠落しているが、近年の動向からみて、
3 - 39
この年は自給率が再び 50%台に低下し、200 万トン以上の不足を生じたものと推測される。表 3.3.5
に、対象州別にコムギ需給の推移(2005~09 年)を示す。
表 3.3.5 対象州別のコムギ需給推移
Surplus or Deficit ('000 ton)
2005
2006
2007
2008
Faryab
142.0
139.7
124.2
n.a.
Juzian
104.5
110.3
121.0
n.a.
Sar-i-Pul
78.0
82.4
75.3
n.a.
Balkh
141.0
128.6
129.4
n.a.
Samangan
82.5
82.0
82.2
n.a.
S-total
548.1
543.0
532.1
n.a.
Baghlan
72.7
74.3
70.2
n.a.
Kunduz
59.1
71.7
66.9
n.a.
Takhar
113.6
105.2
95.1
n.a.
Badakhshan
39.2
28.5
23.1
n.a.
S-total
284.7
279.7
255.3
n.a.
Nangarhar
-106.0
-128.4
-102.3
n.a.
Laghman
-35.6
-36.9
-35.7
n.a.
Kunarha
-42.3
-45.9
-47.2
n.a.
Nooristan
-16.9
-18.3
-17.8
n.a.
S-total
-200.9
-229.5
-203.0
n.a.
West
185.1
108.5
133.3
n.a.
West-Central
-63.0
-69.6
-63.0
n.a.
Central
-652.5
-540.0
-563.2
n.a.
South
-120.5
-194.8
-191.3
n.a.
South-West
-88.4
-52.0
-73.6
n.a.
Unsettled people
-249.3
-254.1
-260.1
n.a.
Afghanistan
-356.8
-408.2
-432.6
n.a.
(Source) Agriculture Prospects Reports, 2005 - 2009, MAIL
East
N-East
North
Region/Province
2009
141.0
141.3
68.4
121.2
76.9
548.8
62.3
116.1
134.4
12.2
325.0
-70.6
-27.1
-37.4
-16.8
-151.9
226.8
-6.3
-593.0
-112.9
-45.2
-336.0
-144.7
全国的には、コムギは、国の北部から西部にかけて余剰が生じる、一方、カブール周辺(中部地
域)及び東部から南部にかけて、不足が生じる構造となっている。
調査対象 10 州の中では、東部地域のナンガハール州以外で、コムギの余剰が生じている。2008
年のデータが欠落しているが、この年は前年の生産量を 40%以上も下回る不作年であったことか
ら、多くの州で不足が生じたものと推測される。2007 年の自給率は、北部地域で 164.2%、北東
部地域で 141.0%となっており、北部、北東部の両地域は、アフガニスタンを支える穀倉地帯と
なっている。厳しい干魃に見舞われない限り、両地域の各州では、コムギの余剰が生じる状況に
ある。
(2) コメ
表 3.3.6 に、近年のアフガニスタンのコメ需給の推移を示す。コメは、100%灌漑地で栽培される
ことから、コムギと異なり生産量が比較的安定しており、毎年の需給状況も比較的大きな変動な
く推移している。とはいえ、1999 年からの干魃の影響は大きく、2000 年と 2001 年には自給率
が大きく落ち込んでいる。2008 年の需要データが欠落しているが、同年の生産量は前年を上回っ
ており、自給率の推移に大きな変動はなかったものと推測される。干魃の影響を脱した 2002 年
以降は、生産量が毎年安定的に伸びており、自給率は干魃前の 90%台まで、あと少しで回復する
レベルまでになっている。
3 - 40
表 3.3.6 アフガニスタンのコメ需給推移
Year
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
Production
Requirement
(1,000 ton)
(1,000 ton)
400
440
300
320
280
329
104
321
122
244
260
306
291
409
310
416
325
426
360
453
370
463
410
n.a
432
494
Balance
(1,000 ton)
-40
-20
-49
-217
-122
-46
-118
-106
-101
-93
-93
n.a
-62
Self-sufficiency
(%)
90.9
93.8
85.1
32.4
50.0
85.0
71.1
74.5
76.3
79.5
79.9
n.a
87.4
(Source)
FAO/WFP (Special Reports of Crop and Food Supply Assessment
Mission to Afghanistan)(for 1997-2004)
表 3.3.7 に、対象州別に 2007 年のコメ需給状況試算を示す。
表 3.3.7 対象州別の 2007 年コメ需給試算
Region/Province
East
N-East
North
Faryab
Juzian
Sar-i-Pul
Balkh
Samangan
S-total
Baghlan
Kunduz
Takhar
Badakhshan
S-total
Nangarhar
Laghman
Kunarha
Nooristan
S-total
West
West-Central
Central
South
South-West
Unsettled People
Afghanistan
Production/Demand ('000 ton)
Production
Demand
Balance
0.0
14.8
-14.8
0.0
8.0
-8.0
0.0
8.3
-8.3
22.4
21.4
1.1
2.7
6.0
-3.3
25.1
58.4
-33.3
96.8
23.0
73.8
100.0
24.5
75.5
41.4
18.7
22.7
8.0
15.0
-7.0
246.1
81.2
164.9
16.8
24.0
-7.2
0.0
6.6
-6.6
13.2
8.4
4.8
16.0
3.9
12.1
46.0
42.9
3.1
30.4
45.6
-15.2
1.1
17.1
-16.0
8.4
91.0
-82.6
10.0
42.6
-32.6
3.0
50.7
-47.7
0.0
27.6
-27.6
370.2
456.6
-86.4
Self-sufficient
0.0%
0.0%
0.0%
105.0%
44.7%
43.0%
421.2%
407.4%
221.2%
53.3%
303.1%
70.0%
0.0%
157.2%
411.7%
107.2%
66.6%
6.4%
9.2%
23.4%
5.9%
0.0%
81.1%
(Remarks): Damand calculation follows FAO/WFP's assumption
as shown below
a. Food use: 17kg/capita
b. Seed use: 105kg/ha in paddy
c. Losses: 7% of production
(Source) Afghanistan Statistical Yearbook 2007-08
コムギと異なり、発表された州別の経年的データが入手できなかったため、Afghanistan
Statistical Yearbook 2007-08 のデータを基に、調査団独自で 2007 年の需給試算を行った。その
ため、表 3.3.6 と表 3.3.7 で、データに若干の齟齬があることをお断りしておく。
3 - 41
全国的には、コメの産地は比較的限られており、ある程度以上の生産量があるのは、北部、北東
部、東部、西部の諸地域となっている。その中で、余剰を生じているのは、北東部地域と東部地
域の 2 つだけであるが、東部地域の余剰は非常に少なく、ほぼ全ての余剰が北東部地域で発生し
ていると推測される。
対象 10 州の中では、バルフ州(北部地域)、バグラーン州、クンドゥズ州、タハール州(以上、
北東部地域)で余剰が生じており、これら 4 州がアフガスタンを代表するコメの産地を形成して
いる。ナンガハール州は、もう一方のコメ産地である東部地域に属しているが、州の人口が多い
ため需要量も多く、結果として不足州となっている。
3.4
農産物流通と価格
3.4.1 農産物流通
アフガニスタン経済は、現在も自給自足的な色彩が強いことに加え、国内流通体制の不備、劣悪
な道路事情、安定しない治安状況等の理由から、一般に農産物の国内流通は低調であり、余剰生
産物の流通も、多くが州あるいは地域レベルの域内に留まると見られている。
(1) コムギ
USAID 調査(Northern Wheat Trader Survey and Afghan Food Security, August 2007)の報
告書によれば、アフガニスタンでは、コムギ生産量の約 77%が収穫後一旦貯蔵され、余剰分も半
分以上が市場を通さない物々交換(小作料、地代、宗教税等への供出)で使用されているため、
市場を介した取引は非常に限られている。表 3.3.5 に示すように、コムギ余剰地は北部地域、北東
部地域、西部地域に限られているが、これら国内余剰地と、大消費地である中部、東部、南部諸
地域間の流通は、国内の治安悪化や、冬期の道路寸断によってしばしば滞り、困難な状況にあっ
たことも報告されている。そのため、国家的な不足があるにも関わらず、余剰の一部が CIS 諸国
に輸出されていたこともある。
以上の状況から、市場に流通するコムギは、輸入品が重要な位置を占めている。輸入量は、その
年の豊凶によって大きく変動するが、少ない年で約 50 万トン、多い年には 100 万トンを越えて
いる。表 3.4.1 に、2005/06 年と 06/07 年のコムギ輸入(商業ベース+援助)状況を示す。ただし、
非正規の国境取引(輸出入)が相当量あると推定されるため、実際の確かな輸入量は明らかでな
いのが実情である。
3 - 42
表 3.4.1 コムギ輸入量(商業輸入+援助)
2005/06
Origin Country
('000 ton)
<Flour>
Pakistan
Uzbekistan
Kazakhstan
Russia
Iran
USA
Others
2006/07
(%)
('000 ton)
(%)
215
112
24
10
4
1
3
370
58%
30%
6%
3%
1%
0%
1%
-
428
134
94
10
3
20
4
694
62%
19%
14%
1%
0%
3%
1%
-
36
26
10
8
10
Total
82
Wheat Equivalent Total
526
(Source) Afghanistan Customs Department
44%
32%
12%
10%
12%
-
43
6
12
30
1
93
925
46%
6%
13%
32%
1%
-
Total
<Wheat>
Pakistan
USA
Kazakhstan
Uzbekistan
Others
コムギの最大の輸入先はパキスタンで、他にウズベキスタン(ウズベキスタン政府は穀物輸出禁
止政策をとっているはずだが)、カザフスタンからの輸入量が多く、この 3 カ国からの輸入量で
大部分を占めている。パキスタンからのコムギは、主に東部、南部、南西部、西部の各地域に流
通し、ウズベキスタン、カザフスタンからのコムギは、主にカブールや中部地域、北部、北東部
の各地域に流通している。北部、北東部地域の国内余剰の多くも、おそらく後者のルートに乗っ
て流通しているものと推測される。このように、国内各地域の周辺国との関係によって、流通す
るコムギの棲み分けが見られる。
輸入されるコムギは、圧倒的にコムギ粉での輸入が多く、これは、アフガニスタン国内の製粉能
力が、不十分である(稼働中の製粉工場が少ない)現状を反映している。輸入量の多くを占める
パキスタン製の価格は、パキスタン政府の手厚い補助金政策によって安価に保たれており、それ
らが流入して来るため、アフガニスタンのコムギ関連産業の育成を阻害しているとの指摘がある。
しかし、反面、多量の安価なコムギが、市場に流入することによって、国内市場価格が安定的に
保たれているという側面もある。一般に、ウズベキスタン製は、パキスタン製より品質が悪く安
価であり、カザフスタン製は、高品質で高価との評価がされている。国産コムギは、品質が悪く
必ずしも安価でないため、市場では輸入品が好まれるとの報告がある。
図 3.4.1 に、アフガニスタンのコムギの流通路を示す。
3 - 43
Foreign Trading Companies/
Foreign Flour Milling Companies
Producers
(Agents)
Importers
Flour Millers
Wholesalers
(Agents)
Asiabs
(Small Custom Mills)
Bakeries
Retailers
Home
Bakers
Bread
Consumers
図 3.4.1 アフガニスタンのコムギ流通経路
流通・加工業者にとっての主な制限要因として、資金(クレジット)、貯蔵施設、治安が上げら
れており、これら問題の解決によって、流通コストを低減すると共に、安価な輸入コムギ(コム
ギ粉)に対抗できる、国内加工業者の育成が必要となっている。
(2) コメ
コメの場合、コムギにおける上記 USAID 調査のような調査は実施されておらず、全国的な流通
に関するまとまった情報を得ることはできなかった。しかしながら、以下のような理由によって、
コムギと似通った流通状況にあることが推測される。
¾
コメも、国内自給が達成されていない
¾
主要な国内コメ余剰地である北東部地域は、コムギの余剰地でもある
¾
コムギ流通業者の多くは、コメや食用油といった他の基礎食品も扱っている
¾
隣国のパキスタンは、世界的なコメ輸出国である
ただし、コメの場合、自家消費用としてよりも換金作物としての性格が強いことから、国内生産
量に対する流通量の割合が、コムギより高いと思われる。また、パキスタン米の国際市場でのプ
レゼンスの大きさから、パキスタン米の国内市場への影響力が、コムギ以上に強いことが想像さ
れる。
緑資源公団による報告書(参加型農業農村復興支援対策調査報告書:4 年次)では、「バーミヤ
ン市場に出回っているコメには、黄色いコメと白いコメがあり、白いコメのほうが安く販売され
ている」との記述があり、パーボイル米(黄色いコメ)と普通精米(白いコメ)の両方が市場に
出回っていると考えられる。アフガニスタンでは、おそらくパーボイル米嗜好地域と普通精米嗜
3 - 44
好地域がある程度分離しており、それらが、地域のコメ流通事情や価格にも影響を与えている可
能性がある。コメの価格に関しては、以下「3.4.2 農産物価格」で詳しく検討する。
コメの流通経路は、図 3.4.1 に示した流通経路にほぼ準じると思われる(ただし、製粉業者:Flour
Millers が精米業者:Rice Millers に替わり、パン屋:Bakeries は存在しない)。
(3) 野菜・果樹
野菜・果樹の流通に関する、総合的な調査も行われていないようだが、FAO が 2003 年に実施し
た調査(Afghanistan Survey of the Horticulture Sector 2003)によると、野菜・果樹の大部分
は自家消費用として栽培され、販売用としての栽培例が、殆どないことが報告されている。果樹
の場合、アフガニスタンの伝統として、自身の果樹園からの収穫物を客人に振る舞うことを、富
者の栄誉としてきたことから、果樹を表立って販売することに対する抵抗感が存在する(特にパ
シュトゥン人)との他の報告もある。
上記 FAO 調査では、生産者の販売先に関して調査しているが、66%の回答者が村内あるいは郡
(District)内で販売していると回答しており、国内生産物に関しては、州を越える大規模流通が、
限られている実態が伺える。ただし、生産者が地元の仲買人を通して、全国規模の流通網と繋がっ
ている可能性も考えられる。野菜・果樹の場合、生産者が流通業者との契約に基づいて栽培する
ケースもあり、ジャガイモや果樹の場合、収穫前の販売(青田売り)も頻繁に行われていること
が報告されている。販売は、通常個人ベースで行われ、生産者による共同販売等の活動は、報告
されていない。
一方、都市のマーケット調査結果からは、国内各地ばかりでなく、近隣諸国からの様々な生産物
が、販売されていることが報告されている。表 3.4.2 に、JICA 調査団(アフガニスタン・イスラ
ム共和国プロジェクト形成調査「農村経済活性化支援」)が、2008 年 4 月にマザリシャリフ(北
部地区バルフ州)で行った調査結果から、市場で販売されている主な野菜・果樹と、それらの生
産地を示す。
表 3.4.2 マザリシャリフ(バルフ州)の市場で販売されている野菜・果樹
Crop
Potato
Water Melon
Tomato
Onion
Garlic
Green Pepper
Cucumber
Squash
Okra
Apple
Orange
Origin
Afghanistan
Bamyan
Balkh
Nangarhar
Balkh, Baghlan
Balkh
Balkh
Balkh, Nangarhar
Balkh, Nangarhar
Balkh
Kabul
Imported
Pakistan
Pakistan, Uzbekistan
Pakistan (?)
Pakistan, Uzbekistan
China
China
Pakistan
Pakistan, Iran
Pakistan, Iran
(Source) アフガニスタン・イスラム共和国プロジェクト形成調査「農村経済活性化支援」
調査報告書 2009 年 3 月 国際協力機構(JICA)
3 - 45
上記 JICA 調査では、タマネギを事例とした流通経路に関しても報告されているが、おそらく、
他の野菜・果樹に関しても、基本的な流通経路に、大きな違いはないと考えられる。図 3.4.2 に、
想定されるアフガニスタンの野菜・果樹の流通経路を示す。
Pakistan, Uzbekistan, Iran, China, etc.
Producers
Importers (in Kabul or other
entrance points)
Middlemen
Local Market
Wholesalers
Retailers
Consumers
図 3.4.2 アフガニスタンの野菜・果樹の流通経路
(4) 畜産
家畜は、家畜そのものの利用に留まらず、現金収入が必要な時の、ストックとして飼育されてい
ることから、多くの作物と異なり、市場に販売される割合が高い。アフガニスタンでは、農家の
現金収入源として、作物よりむしろ、家畜の方が重要であるとの報告もある。農家がウシを最重
要家畜と認識していることは、既に述べたとおりであるが、FAO の支援によって 2002-03 年に実
施したセンサス(Afghanistan National Livestock Census 2002-03)では、ウシは、販売対象と
しても優先度が高い家畜であることが報告されている。その理由としては、販売価格が高いこと
もあるが、飼育者が家畜の販売を決定する主な理由が、家畜の高齢化と共に、餌不足(特に冬期)
への対応であるため、リスク回避のため、餌を多く必要とするウシを最初に手放すためである。
上記センサスでは、殆どの農家は、家畜を地元の業者(Local Trader)に販売しており、販売先
も平均で、2 時間程度の距離にあると回答している。したがって、他の農産物同様、殆どの家畜
は、域内流通が多くを占めていると考えられる。また、農家が食肉販売業者に直接家畜を販売す
る例は、極めて希であることから、アフガニスタンにおいても、家畜販売、家畜解体処理(屠殺)、
食肉販売という分業体制が、確立していると推測される。
3.4.2 農産物価格
アフガニスタン国農業・灌漑・牧畜省(MAIL)の食糧・農畜産情報・政策室(FAAHM:Food,
Agriculture and Animal Husbandry Information Management and Policy Unit)は、農業価格
月報(Agricultural Commodity Price Bulletin)を発行し、主要農産物小売価格や関連物価情報
を発表しているが、その情報を基に、以下コムギ、コメ、トウモロコシ価格の分析を行う。
3 - 46
(1) コムギ
図 3.4.3 に、アフガニスタン主要地域(カブール:首都、バルフ:北部地区、クンドゥズ:北東部
地区、ナンガハール:東部地区)における、2005 年1月から 2009 年6月までのコムギ(国産)
小売価格、図 3.4.4 に、コムギ粉(国産)の小売価格(データは 2005 年1月から 2008 年4月)
を示す。
40
35
30
price(Af/kg)
25
20
15
10
Kabul
Nangarhar
Balkh
Kunduz
5
Apr-09
Jan-09
Oct-08
Jul-08
Apr-08
Jan-08
Oct-07
Jul-07
Apr-07
Jan-07
Oct-06
Jul-06
Apr-06
Jan-06
Jul-05
Oct-05
Apr-05
Jan-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.3 コムギ小売価格(2005 年 1 月~2009 年 6 月)
40
35
30
price (Af/kg)
25
20
15
10
Kabul
Nangarhar
5
Balkh
Kunduz
Mar-08
Jan-08
Nov-07
Sep-07
Jul-07
May-07
Mar-07
Jan-07
Nov-06
Sep-06
Jul-06
May-06
Mar-06
Jan-06
Sep-05
Nov-05
Jul-05
May-05
Mar-05
Jan-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.4 コムギ粉小売価格(2005 年 1 月~2008 年 4 月)
アフガニスタンのコムギ小売価格は、2007 年 10 月頃まで、ほぼ Af10~Af15/kg のレンジで安定
的に推移していたが、それ以降 2008 年前半まで急激に上昇し、その後急激な下落をしている。
この急激な上昇と下落は国際価格動向の影響であると考えられるが、それに関しては後で更に検
3 - 47
討する。地域間の価格差は余り大きくなく、ある地域の価格が恒常的に高かったり低かったりす
るような現象もない。コムギ粉の小売価格動向も、コムギと殆ど同様である(2008 年 5 月以降は
データなし)。図 3.4.5 に、カブール(消費地)とクンドゥズ(生産地)における、コムギとコム
ギ粉の小売価格を示すが、両地域共にコムギとコムギ粉の価格は、殆ど連動して上下している。
40
35
Price (Af/kg)
30
25
20
KabulWheat
KabulWheat flour
KunduzWheat
KunduzWheat flour
15
10
5
Mar-08
Jan-08
Nov-07
Jul-07
Sep-07
Mar-07
May-07
Jan-07
Nov-06
Sep-06
Jul-06
Mar-06
May-06
Jan-06
Nov-05
Jul-05
Sep-05
May-05
Mar-05
Jan-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.5 コムギとコムギ粉の小売価格(2005 年 1 月~2008 年 4 月)
両地域共に、コムギとコムギ粉の価格差は、ほぼ Af3~5/kg で推移している。ちなみに、最新(2009
年 6 月)のコムギ小売価格は、カブール:Af16/kg、バルフ:Af17/kg、クンドゥズ:Af14/kg、
ナンガハール:Af17/kg であった。
価格の季節動向をみるため、データの欠落が少なく、比較的価格が安定的に推移している 2005
年の月別小売価格を図 3.4.6 に示す。
16
price(Af/kg)
14
12
10
8
Kabul
Nangarhar
Balkh
Kunduz
6
Dec-05
Nov-05
Oct-05
Sep-05
Aug-05
Jul-05
Jun-05
May-05
Apr-05
Mar-05
Feb-05
Jan-05
4
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.6 コムギ小売価格(2005 年)
クンドゥズとナンガハールの価格は、それぞれ 7 月と 6 月に一時的な価格低下が見られ、この時
期はコムギ収穫直後であるため、その影響があった可能性も考えられるが、カブールやバルフで
は、そのような兆候は見られず、他の年のデータからも、コムギ収穫後に決まって小売価格が低
3 - 48
下していると断定できる兆候は伺えない。コムギ粉の価格に関しても分析を行ったが、同様の結
果であった。少なくとも、コムギ、コムギ粉の小売価格は、国内生産の影響を殆ど受けないと思
われる。ただし、毎年収穫期(6~8 月)に、小売価格の下落が見られると言う WFP の報告もある。
アフガニスタンには、毎年多量のコムギが輸入されているが、図 3.4.7、図 3.4.8 にカブールにお
ける、コムギ、コムギ粉の、それぞれ輸入品と国産品の小売価格を示す。
30
25
Price(Af/kg)
20
15
10
5
Imported Wheat
Local Wheat
Mar-08
Jan-08
Nov-07
Jul-07
Sep-07
Mar-07
May-07
Jan-07
Nov-06
Jul-06
Sep-06
Mar-06
May-06
Jan-06
Nov-05
Jul-05
Sep-05
Mar-05
May-05
Jan-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.7 カブールにおけるコムギの輸入品と国産品小売価格
45
40
35
Price(Af/kg)
30
25
20
15
10
Imported
Wheat Flour
Local Wheat
Flour
5
Apr-09
Jan-09
Jul-08
Oct-08
Apr-08
Jan-08
Jul-07
Oct-07
Apr-07
Jan-07
Oct-06
Jul-06
Apr-06
Jan-06
Oct-05
Jul-05
Apr-05
Jan-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.8 カブールにおけるコムギ粉の輸入品と国産品小売価格
コムギの場合、国産品との価格差が少しだけ生じている。2006 年以前は輸入品の価格が輸出品よ
り高い傾向があったが、2007 年にはそれが逆転している。ただし、2008 年 4 月以降の状況は比
較データがないため不明である。一方、コムギ粉に関しては、データに欠落が多いものの、国産
品と輸入品の価格差が殆ど見られない。
最後に、コムギの小売価格と国際価格との関連を検討する。図 3.4.9 に、代表的なコムギ国際価格
(US Red No.2 Hard, FOB)、パキスタンの卸売価格(ラホール)、パキスタン政府買入支持価
3 - 49
格とカブールのコムギ(国産)小売価格を示す。比較のため、全ての価格はその時期の為替レー
トに基づき US$/ton に換算してある。
700
600
Price (US$/ton)
500
400
300
Wholesale
Price_Lahore
Support
Price_Pakistan
Retail
Price_Kabul
US No.2 Hard
(FOB)
200
100
Mar-09
May-09
Jan-09
Nov-08
Jul-08
Sep-08
Mar-08
May-08
Jan-08
Nov-07
Jul-07
Sep-07
Mar-07
May-07
Jan-07
Nov-06
Jul-06
Sep-06
Mar-06
May-06
Jan-06
Nov-05
Jul-05
Sep-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
A series of “Food Security Market Monitoring Bulletin, Pakistan WFP
http://www.ers.usda.gov/Data/Wheat/YBtable20.asp (USDA)
図 3.4.9 コムギ国際価格とカブール小売価格
カブール小売価格とパキスタン卸売価格共に、基本的に国際価格との強い関連性が見られるが、
少なくとも 2005 年以降、カブールのコムギ小売価格は、国際価格より高いか同レベルで推移し
ている。図 3.4.9 から、2007 年末までは、以上の価格間に以下に述べる関係が存在したと考えら
れる。
¾
アフガニスタンの小売価格は、パキスタン卸売価格と強く連動する(パキスタン卸売価格+
マージン)。カブール小売価格が 2006 年半ば以降少し下落した時期があるが、現地通貨高
となった影響と思われる。
¾
パキスタン卸売価格は、平時にはパキスタン政府買入支持価格に連動するが、パキスタン政
府買入支持価格は当該年の7月から1年間固定して適用され、国際価格の急激な変動に対応
できないため、その場合、パキスタン卸売価格は国際価格により強く反応する。
¾
パキスタン政府買入支持価格は、基本的に設定時の国際価格が目安とされている。
2008 年に入るとパキスタン卸売価格は国際価格と連動しなくなったが(おそらく、パキスタン政
府の規制があったと思われる)、カブールの小売価格はそのまま国際価格との連動を維持した。
その後、2008 年4月以降国際価格が下落を始めた後も、カブールの小売価格はしばらく高騰を続
け、2008 年一杯高止まりした後、2009 年に入って国際価格を追うように急激に下落している。
このように、2007~08 年の国際価格高騰によって、以上の価格間の関係に混乱が生じ、カブール
の小売価格もしばらく独自の動きを見せたが、ここにきて国際価格が少し落ち着きを取り戻した
こともあり、上記の関係が復活する可能性が高いと考えられる。
3 - 50
(2) コメ
図 3.4.10 に、国内各地のコメ(国産)の小売価格(データは 2005 年 1 月~2009 年 6 月)を示す。
70
60
price (Af/kg)
50
40
30
20
Kabul
Nangarhar
Balkh
Kunduz
10
Mar-09
May-09
Jan-09
Nov-08
Jul-08
Sep-08
Mar-08
May-08
Jan-08
Nov-07
Jul-07
Sep-07
Mar-07
May-07
Jan-07
Nov-06
Jul-06
Sep-06
Mar-06
May-06
Jan-06
Nov-05
Jul-05
Sep-05
Mar-05
May-05
Jan-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.10 コメ小売価格(2005 年 1 月~2009 年 6 月)
コメの小売価格も、2007 年 10 月頃までは、Af20~Af40/kg のレンジで変動を続けていたが、そ
れ以降、2008 年頃まで急激に上昇しており、国際価格高騰の影響が伺える。それ以降の動きは、
クンドゥズとそれ以外の地域で異なっており、前者は、急激な下落の後、Af30/kg 台後半で安定
しているが、その他地域では、一時的な下落はあったものの、2008 年末以降価格が持ち直し、
Af50/kg 台で高止まりしていた。ただし、それら地域の価格もここにきて下落傾向にあり(特に
ナンガハール)、地域間の価格差が縮みつつある。ちなみに、各地域の最新(2009 年6月)のコ
メ小売価格は、カブール:Af52/kg、バルフ:Af45/kg、クンドゥズ:Af38/kg、ナンガハール:
Af25/kg(ただし前月は Af45/kg)であった。
各地の価格動向は、長期的なレンジで見る限り、ほぼ同じ傾向を示しており、コムギ同様、ある
地域の価格が恒常的に高かったり低かったりするような現象もない。細かく見ると、カブールと
ナンガハール、バルフとクンドゥズの、それぞれの間でより強い関連性が見られ、これらのコメ
市場間で、比較的強い相互関係がある可能性が考えられる。
小売価格の季節変動を見るため、2005 年と 2006 年の月別価格動向を図 3.4.11 に示す。他の年に
関しても同様な分析を行ったが、コムギ同様、収穫期等の明確な季節変動は見られなかった。
3 - 51
Retail Price in 2005
40
35
price (Af/kg)
30
25
20
15
Kabul
Nangarhar
Balkh
Kunduz
10
5
Dec-05
Nov-05
Oct-05
Sep-05
Aug-05
Jul-05
Jun-05
May-05
Apr-05
Mar-05
Jan-05
Feb-05
0
Retail Price in 2006
40
35
price (Af/kg)
30
25
20
15
Kabul
Nangarhar
Balkh
Kunduz
10
5
Dec-06
Nov-06
Oct-06
Sep-06
Aug-06
Jul-06
Jun-06
May-06
Apr-06
Mar-06
Jan-06
Feb-06
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.11 コメ小売価格(2005 年と 2006 年)
既に検討した様に、コメも多量の輸入品(特にパキスタンからの)が、国内市場で流通している
可能性が高いが、図 3.4.12 に、大消費地であるカブールと、コメ主要生産地であるクンドゥズの、
国産米と輸入米の小売価格を示す。
100
90
80
price (Af/kg)
70
60
50
Kabul-Local
Rice
40
KabulImported
Rice
KunduzLocal Rice
30
20
KunduzImported
Rice
10
Mar-09
May-09
Jan-09
Sep-08
Nov-08
Jul-08
Mar-08
May-08
Jan-08
Sep-07
Nov-07
Jul-07
May-07
Mar-07
Jan-07
Nov-06
Jul-06
Sep-06
May-06
Mar-06
Jan-06
Nov-05
Jul-05
Sep-05
Mar-05
May-05
Jan-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.12 輸入米と国産米の小売価格
何れの地域でも、恒常的に、輸入米価格が国産米価格より高くなっている。輸入米と国産米の価
格差は、大凡 Af10~Af40/kg の間で、時期によって大きく変動している。また、一定の傾向は見
3 - 52
られないものの、国産米には、カブールとクンドゥズ間に、多少の価格差が存在するが、輸入米
については、非常に僅かとなっている。最後に、コメの小売価格と国際価格との関連を検討する。
図 3.4.13 に、代表的なコメ国際価格(タイ米 5%FOB)と、カブールとクンドゥズの小売価格
(US$/ton に換算)を、国産米、輸入米別に示す。
1800
1600
price (US$/ton)
1400
1200
1000
800
600
Thai 5%
400
Retail local
in Kabul
Retail local
in Kunduz
200
Apr-09
Jun-09
Feb-09
Oct-08
Dec-08
Aug-08
Apr-08
Jun-08
Feb-08
Oct-07
Dec-07
Aug-07
Apr-07
Jun-07
Feb-07
Oct-06
Dec-06
Jun-06
Aug-06
0
1800
1600
price (US$/ton)
1400
1200
1000
800
600
Thai 5%
400
Retail imported
in Kabul
Retail imported
in Kunduz
200
Jun-09
Apr-09
Feb-09
Dec-08
Oct-08
Aug-08
Jun-08
Apr-08
Feb-08
Dec-07
Oct-07
Aug-07
Jun-07
Apr-07
Feb-07
Oct-06
Dec-06
Jun-06
Aug-06
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
http://www.dft.moc.go.th/index_en.asp (Thai Govt.)
図 3.4.13 コメ国際価格とカブール、クンドゥズの小売価格
コムギ同様、カブールとクンドゥズのコメ小売価格は、国産米、輸入米共に、国際価格と強く連
動していることが伺え、少なくとも 2005 年以降、国際価格より高いレベルで推移している。特
に国産米小売価格が、常に国際価格(タイ米は 5%FOB)を上回る状況にあることは、注目すべ
き点である。輸入米は、地域の国際コメ流通事情から、パキスタン米が、殆どを占めると思われ
るが、一般にパキスタン米は低品質のため、ここで指標としているタイ米 5%より安く(おそら
く数 10US$/ton)取引されていることも考慮すると、パキスタンからの輸入米には、かなり大き
いマージンが上乗せされているものと思われる。
(3) トウモロコシ
図 3.4.14 に、国内各地のトウモロコシの小売価格(データは 2005 年 11 月~2009 年 6 月)を
示す。
3 - 53
40
35
price (Af/kg)
30
25
20
15
10
Kabul
Nangarhar
Balkh
Kunduz
5
May-09
Mar-09
Jan-09
Nov-08
Jul-08
Sep-08
May-08
Mar-08
Jan-08
Nov-07
Jul-07
Sep-07
Mar-07
May-07
Jan-07
Nov-06
Jul-06
Sep-06
Mar-06
May-06
Jan-06
Nov-05
0
(Source) A series of “Agricultural Commodity Price Bulletin”, FAAHM
図 3.4.14 トウモロコシ小売価格(2005 年 11 月~2009 年 6 月)
トウモロコシは、コムギ、コメより少し遅れて、2008 年に入って価格の急激な高騰が起こってい
るが、基本的には国際価格高騰の影響があったと考えられる。トウモロコシの小売価格には地域
差があるようで、カブールとの比較で、ナンガハールでは価格が低く、バルフとクンドゥズでは
価格が同等か多少高い傾向が伺える。各地域の最新(2009 年 6 月)のトウモロコシ小売価格は、
カブール:Af13/kg、バルフ:Af19/kg、クンドゥズ:Af11/kg、ナンガハール:Af12/kg であった。
なお、価格の季節動向に関しては、連続的なデータが得られる年は、価格が急騰した 2008 年(お
そらく国際価格の変動を強く受けた)のみであったため、検討を断念した。
3.5
農村住民の生活
3.5.1 農家人口と世帯規模
(1) 農家数と農家人口
FAO が 2002/03 年 に 行 っ た 調 査
(Agriculture and Food Production in
Post-war Afghanistan)では、当時の
全国の農家数を 1,065,523 戸、農家世
帯人口(以下、農家人口)を 12,103,964
人と推定している(表 3.5.1 参照)。な
お、同調査では、土地所有の有無に関
わらず、作物を栽培するか、家畜飼育
を行っている定住民を「農家」と定義
している。
表 3.5.1 農家数と農家世帯人口(2002/03 年)
Region
North
Northeast
West
West Central
Central
South
East
Southwest
Afghanistan
Farm Households
(number)
(%)
177,764
164,134
196,371
75,463
104,796
72,871
127,941
146,183
1,065,523
16.7
15.4
18.4
7.1
9.8
6.8
12.0
13.7
100.0
Farm Population
(number)
(%)
2,078,376
1,894,579
2,198,617
848,023
1,391,899
1,077,108
1,336,686
1,278,603
12,103,964
17.2
15.7
18.2
7.0
11.5
8.9
11.0
10.6
100.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan,
August 2003, FAO
アフガニスタン中央統計局
(The Central Statistical Office)は、2003 年 12 月現在の人口予測を、
22.1 百万人(遊牧民約 1.5 百万人も含めた人口)としており、これを基に計算すると、当時の全
3 - 54
人口に占める農家人口は 54.8%となる。ちなみに、2007/08 年の推定人口は、中央統計局による
年間統計(Afghanistan Statistical Yearbook 2007/08)で、24.5 百万人(定住民のみだと 23.0
百万人)とされている。
対象地域別の農家数と農家人口を見ると、両方共に、北部地域と北東部地域を合わせて、全国の
約 1/3 を占めている。また、東部地域は、それぞれ 12.0%、11.0%となっている。表 3.5.2 に、
2003 年頃の全人口(定住)に対する推定農家人口比を、対象地域別に示す。対象地域の農家人口
比は、何れも全国平均 58.5%を上回っており、北部地域と東部地域では 70%近くに達している。
表 3.5.2 定住人口に対する農家人口の割合試算
Farm (b)
%
(b/a)
Population
Region
Settled (a)
Afghanistan
20,691,500
12,103,964
58.5
North
2,984,500
2,078,376
69.6
Northeast
3,046,900
1,894,579
62.2
East
1,923,000
1,336,686
69.5
(Source) a: 2003-04 Population Statistics, the Central Statistics Office
b. Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
農村部には、農家以外の人々も居住しているが、上記 FAO 調査では、農村部に居住する非農家世
帯の割合を約 20%と見ており、それら非農家世帯まで含んだ当時の農村部の世帯数を 1.33 百万
戸、人口を 15.1 百万人(全人口の 68.3%)と推定している。ちなみに 2007/08 年統計では、農
村部定住人口を、17.9 百万人(全人口の 73.1%)と推計している。一般に、非農家世帯の割合は、
平野部で多く山間部で少ないと見られている。
(2) 世帯規模と年齢
上記 FAO 調査では、農家の平均家族数を 11.4 人と報告しており、他の多くの調査結果より人数
が多くなっている。これは、家族の単位をどう定義するか(核家族とするか、拡大家族とするか)
による差と見られ、FAO 調査では、現地の生活実態に基づき、拡大家族を単位として家族数を推
計している。
45
40
35
30
(%)
25
20
15
10
5
0
2 to 5
6 to 9
10 to 14
15 to 19
20 to 29
30 and
more
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
図 3.5.1 農家家族数の家族規模別分布(2002/03 年)
3 - 55
図 3.5.1 に、家族規模別の農家数の分布を示すが、農家平均家族数は 11.4 人であるものの、一番
割合が多いのは 6~9 人、次に多いのが 10~14 人の
表 3.5.3 地域別農家規模(2002/03 年)
規模の農家となっており、この 2 グループで、全農
家の約 75%を占めている。一戸当たりの家族数は、
民族によって差があるといわれており、50 人を越え
る大家族も存在することが報告されている。ただし、
対象地域別の農家規模に大きな差はなく、全国平均
Average Size of Farm
Household
Region
Afghanistan
North
North-east
East
11.4
11.7
11.5
10.4
(Source) Agriculture and Food Production in
Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
との差も顕著でない(表 3.5.3 参照)。
農家戸主の平均年齢は、約 47 歳と報告されており、40 代後半が農家の働き手の中心となってい
る。図 3.5.2 に、農家戸主の年齢別分布を対象地域別に示すが、何れも 40 歳代をピークとした正
規分布となっている。北部地域で 40 歳代のピークが比較的低い以外、地域間及び全国平均と、各
地域の間の差は、殆ど見られない。
35.0
30.0
25.0
20.0
(%)
15.0
10.0
Afghanistan
North
North-east
East
5.0
0.0
10 - 19
20 - 29
30 - 39
40 - 49
50 - 59
60 - 69
Over 70
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
図 3.5.2 農家戸主の年齢別分布(2002/03 年)
(3) 帰還民及び IDP
長期間に及ぶ内戦と社会的混乱によって、アフガニスタンの農村部には、少なからぬ帰還民
(Returnees)や国内避難民(IDP: Internally Displaced Persons)が居住している。彼等は、難
民先(パキスタン、イラン等)からの帰還者や、親戚や知人を頼って、国内の他地域から移動し
てきた人々で、彼等の半数以上が農村部に落ち着き、その大部分が、農業に従事していると考え
られている。表 3.5.4 に、2002 年中に再定住した帰還民、IDP の定住先別推定人口を示す。
表 3.5.4 帰還民、IDP の定住先別推定人口(2002 年)
Settled Pattern/Place
In farm households
People (‘000)
790
(%)
46.5
In non-farm rural households
200
11.8
In Kabul city
400
23.5
In other cities
310
18.2
1,700
100.0
Total
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
3 - 56
表 3.5.5 に、対象地域別の農家の再定住民(帰還民、IDP)家族数を示すが、これら家族の全農家
に占める割合は、北部、北東部地域と東部地域とでは、大きな差が生じている。前者においては、
再定住家族が占める割合は、
合計 1%以下で、
全国平均の 3%を下回っているが、
後者での割合は、
約 1 割にのぼる。
表 3.5.5 農家の帰還民家族数と IDP 家族数(2002/03 年)
Region
unit
Afganistan
number
(%)
number
(%)
number
(%)
number
(%)
North
North-east
East
Regident
Returnee
1,033,598
(97.0 )
176,267
(99.2 )
163,325
(99.5 )
115,720
(90.4 )
27,236
(2.6 )
1,498
(0.8 )
549
(0.3 )
10,475
(8.2 )
IDP
4,690
(0.4 )
0
(0.0 )
260
(0.2 )
1,746
(1.4 )
Total
1,065,524
(100.0 )
177,765
(100.0 )
164,134
(100.0 )
127,941
(100.0 )
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war
Afghanistan, August 2003, FAO
その背景としては、以下が主な要因と考えられる。
¾ 東部地域の方が、北部部、北東部地域よりも、内戦及び、その後に続いた社会的混乱の影
響を強く受けた
¾ 東部地域は、パシュトゥン人が多くを占め、最大の難民避難先であるパキスタンに接し、
物流等の主要ルートが域内を通過している
3.5.2 農家の収入構造
アフガニスタンでは、収入の多くを、農外収入に依存している農家の割合が多いことは、AREU
(Afghanistan Research and Evaluation Unit)をはじめ、JICA、その他の報告書でも度々指摘
されている。その実態を全国レベルで正確に把握することは難しいが、上記 FAO 調査では、それ
に関しても検討を行っている。
表 3.5.6 に、2002 年の農家の収入源に関する情報を示す。表には、収入項目別に、それぞれ収入
実績のある農家の割合を示しているが、金額に関する情報が欠けている。そのため、収入項目別
の重要度(収入額の多寡)を、完全に明らかにすることは不可能であるが、アフガニスタンの農
家が、どのような収入源に多くを依存しているかの示唆を得るには、興味深い情報となっている。
3 - 57
表 3.5.6 項目別収入実績を有する農家の割合(2002 年)
Income Source
Farm Product Sales
Crops
Animals
Others (milk, egg, meat,
hides, skins, wool, etc)
Non-farm Activities
Labor income, wages
Sales of handicraft
Cmmerce, trading
Other Activities
Remittance received
Borrowed money
Gift, charity, etc.
% of Applicable Farm Households
Afghanistan
North
North-east
East
22.7
34.6
13.3
27.9
36.4
8.8
43.0
41.0
10.1
20.3
62.2
2.7
60.8
10.3
7.7
51.1
16.6
3.1
48.0
3.9
9.8
74.7
0.6
9.9
20.4
46.8
3.4
25.0
60.6
1.6
23.2
42.6
6.0
8.8
55.8
4.3
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan,
August 2003, FAO
全国レベルで見ると、労賃を得た農家の割合が最も多く(60.8%)、農業生産物販売から収入を
得た農家の割合は、作物 22.7%、家畜 34.6%、その他(畜産物等)13.3%と、何れも 50%を大き
く下回っており、むしろ、農業生産物よりも借金や送金によって、現金を得ている農家の割合が
多くなっている(後述するが、借金先の少なからぬ割合が親戚縁者であり、送金との区別は曖昧
と思われる)。以上を総合的に判断すると、農業収入を主とする農家数より、農外収入を主とす
る農家数が、はるかに多い可能性が高いと思われる。
対象地域別では、収入実績のある農家の割合が高い項目に差があり、農家の収入構造には、地域
差が顕著に見られる。以下、対象地域別にそれぞれの特徴を整理する。
【北部地域】
¾
借金が、収入項目のなかで最も実績割合が高く、全国平均を大きく上回る
¾
農業収入の実績のある割合は、全国平均並であるが、その他(畜産物等)の割合は余り
多くない
¾
労賃が、収入項目のなかで二番目に実績割合が高いが、全国平均よりも低い
¾
手工芸品から収入を得ている農家の割合が、全国平均よりかなり高い
¾
商業活動から収入を得た農家の割合が、全国平均より低い
【北東部地域】
¾
労賃が収入項目のなかで最も実績割合が高いが、率そのものは、全国平均や他地域と比
較した場合むしろ低い
¾
農業収入の実績のある割合は、全国平均を上回り、特に作物販売からの収入実績の割合
が高い。ただし、その他(畜産物等)の割合は余り多くない
¾
手工芸品から収入を得ている農家の割合が、全国平均よりかなり低い
3 - 58
¾
商業活動から収入を得た農家の割合が、全国平均より高い
¾
借金、送金からの収入実績の割合は、全国平均並である
【東部地域】
¾
労賃が、収入項目のなかで最も実績割合が高く、全国平均を大きく上回る
¾
農業収入の実績のある割合は、家畜販売の割合が非常に高く全国平均を大きく上回るが、
反面、作物生産物、その他(畜産物等)からの収入実績の割合が低い
¾
手工芸品から収入を得ている農家の割合が、全国平均よりかなり低い
¾
商業活動から収入を得た農家の割合が、全国平均より高い
¾
借金からの収入実績の割合は、全国平均を上回るが、送金からの収入実績の割合は、全
国平均より低い
3.5.3 農家の穀物自給
アフガニスタンの多くの農家が、
作物生産物の販売から収入を得ていない実態は
(表 3.5.6 参照)
、
多くの農家が、作物を主に自家消費用として栽培していることを示唆している。作物の中では、
コムギを中心とした穀物の栽培面積が突出して多いが、これら穀物の豊凶が、農家の生活に少な
からぬ影響を及ぼしていると推測される。国家レベルの食糧状況は「3.3.2 国家の食糧需給」で
検討したが、ここでは、農家レベルのミクロ的な穀物自給状況について検討を行う。
表 3.5.7 に、2002/03 年 FAO 調査結果に基づく、2002 年に収穫したコムギの、農家一軒当たり
の平均生産量、使用量(販売、地代、その他)、自家必要量を示す。2002 年は、1999 年から続
いた干魃最後の年にあたり、コムギ生産量がまだ十分回復していなかった年で、同年の国家のコ
ムギ自給率は 66.8%と推定されている。その後のコムギの増産によって、国家自給率は 90%を上
回る年が多くなっていることから、近年の状況は、表 3.5.7 の実態から大きく改善されていると思
われる。
表 3.5.7 農家一軒あたり平均コムギ生産量、使用量、自家必要量(2002 年)
Region
Afghanistan
North
North-east
East
Unit Production
kg
(%)
kg
(%)
kg
(%)
kg
(%)
2,006
(100.0 )
2,014
(100.0 )
4,660
(100.0 )
1,229
(100.0 )
Sold
224
(11.2 )
217
(10.8 )
701
(15.0 )
48
(3.9 )
Use
Land rent Obligations Sub-total
84
(4.2 )
22
(1.1 )
62
(1.3 )
28
(2.3 )
254
(12.7 )
342
(17.0 )
546
(11.7 )
45
(3.7 )
Home
Requirement
562
(28.0 )
581
(28.8 )
1,309
(28.1 )
121
(9.8 )
2,192
-
2,151
-
2,142
-
2,955
-
Balance
-748
-
-718
-
1,209
-
-1,847
-
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
国家レベルで見ると、2002 年現在の、農家のコムギ収支は赤字(不足)となっており、生産量は、
自家必要量さえ満たすことができていない。
一方、
コムギ販売量は生産量の 11.2%となっており、
その他(地代、各種共益サービス分担、負債の返済等)も含めた自家用以外の使用量全体は、生
産量の 28.0%になる。
3 - 59
対象地域別に見ると、北東地域の農家は、当時もコムギの余剰生産がある農家が多く、販売量の
生産量に対する割合も、15.0%と全国平均を大きく上回り、この地域が国を代表するコムギ生産
地であることを示している。一方、北部地域、東部地域では、当時は不足を生じる農家が多かっ
たことが伺え、特に東部地域の農家の不足が大きくなっている。コムギ生産が改善した近年にお
いては、北部地域では、自給レベル以上の生産を挙げる農家が、増加していることが推測される
が、東部地域では、現在も余剰生産を挙げる農家は、少ないと思われる。
2002/03 年 FAO 調査では、農家を穀物総生産量によって以下の 3 つに分類し、2002 年(実績)
と 2003 年(予測)それぞれの、グループ別農家数と、それら農家生産量の全体に占める割合を
明らかにしている。その結果を表 3.5.8 に示す。
a. 食糧不足農家:穀物生産量 150kg/人未満
b. 食糧自給農家:穀物生産量 150kg/人以上、250kg/人未満
c. 食糧余剰農家:穀物生産量 250kg/人以上
表 3.5.8 穀物自給状況別の農家数と生産量の割合
Reported in 2002 (%)
Farm Category
Farm
Households
Cereal
Production
Expected in 2003 (%)
Farm
Households
Cereal
Production
Deficit Households
57.7
15.1
46.1
9.0
Self-sufficient Households
14.4
12.1
15.1
8.8
Surplus Households
Total
27.9
72.8
38.9
82.3
100.0
100.0
100.0
100.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
2002 年と 2003 年とを比較した場合、食糧不足農家の割合が約 11%減少し、一方で食糧余剰農家
の割合が 11%増加している。2003 年が久々の豊作年であったため、自給レベル以上の穀物生産
量を挙げた農家数が増加したことの結果である。ちなみに、同年の国家自給率は、コムギ 95.9%、
コメ 71.1%と推定されている。とはいえ、そのような豊作年であっても、46.1%の農家は自給量
を確保するだけの穀物生産を挙げていない実態があり、農家間に大きな生産量の格差が存在する
ことを示している。2003 年予測では、46.9%の食糧不足農家全体で、僅か 9.0%の穀物しか生産
していないが、一方で、38.9%の食糧余剰農家全体で 82.3%の生産量を占めている。
表 3.5.9 に、2002 年の穀物自給状況別の農家数と生産量の割合を、対象地域別に示すが、表 3.5.7
の検討結果を補足する内容となっている。北部地域の状況は、ほぼ全国並であるが、北東部地域
では、穀物の余剰生産を挙げた農家が 66.4%にのぼり、一方、東部地域では、77.1%の農家が自
給量に足る穀物生産を挙げることができなかった。
3 - 60
表 3.5.9 穀物自給状況別の農家数と生産量の割合の地域比較(2002 年)
Category of
Farm
Households
Afghanistan (%)
North (%)
North-east (%)
East (%)
Farm
Cereal
Farm
Cereal
Farm
Cereal
Farm
Cereal
Households Production Households Production Households Production Households Production
Deficit
57.7
15.1
51.8
14.8
18.0
3.6
77.1
Self-sufficient
14.4
12.1
14.8
13.7
15.6
5.4
7.3
9.7
27.9
100.0
72.8
100.0
33.4
100.0
71.5
100.0
66.4
100.0
91.0
100.0
15.6
100.0
66.6
100.0
Surplus
Total
23.7
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
このような状況から、多くの農家が食糧を購入している実態にあることが推測されるが、表 3.5.10
に、2002 年の収穫後から 12 月頃から翌年 1 月頃までに、コムギを購入したことのある農家の割
合を対象地域別に示す。また、同時期に食糧援助を得た農家の割合も示す。
表 3.5.10 コムギ購入農家、食糧援助受領農家の割合(2002 年)
Region
Afghanistan
North
North-east
East
Since Last Harvest
Purchase
Received Food
Wheat (%)
Aid (%)
69.1
66.6
40.4
92.4
13.7
18.4
16.7
0.4
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
対象地域別コムギ購入農家の割合は、
食糧不足農家の割合
(表 3.5.9 参照)
との相関が見られるが、
食糧不足農家のみならず、食糧自給農家あるいは食糧余剰農家の一部も、コムギの購入を行って
いる実態が伺える。余剰生産力のある農家は、穀物収穫後に自家必要量を確保した上で、余剰分
を販売するのが一般的とみられるが、何らかの事情で、自家必要量を確保しない(できない)ま
ま、販売する農家も少なくないことが推測される。
一方、食糧援助を受け取った農家の割合は、食糧不足農家の割合との関連性が見られず、食糧不
足農家の割合が多い東部地区では非常に少なく、その割合が少ない北東部地域ではむしろ多いと
いった興味深い結果を示している。これには、以下の理由が、可能性として考えられるが、現時
点では、それを断定することは難しい。
¾
食糧援助へのアクセスの差が、受領者率の差となっている
¾
東部地域では、比較的現金収入源に恵まれており、食糧生産量が十分でなくとも購買力
を有する農家が多い
¾
北東部地域は貧富の差が大きく、食糧不足農家の困窮が激しい
表 3.5.6 で検討した、2002 年の農家の収入源に関する情報を、上記の食糧不足農家、食糧自給農
家、食糧余剰農家の各グループ別にまとめて表 3.5.11 に示す。
3 - 61
表 3.5.11 項目別収入実績を有する農家(穀物自給状況別)の割合(2002 年)
<Cereal Deficit Farm Households>
Income Source
Afghanistan
% of Applicable Farm Households
North
North-east
Farm Product Sales
Crops
8.5
Animals
32.3
Others (milk, egg, meat,
12.6
hides, skins, wool, etc)
Non-farm Activities
Labor income, wages
70.1
Sales of handicraft
10.2
Cmmerce, trading
7.7
Other Activities
Remittance received
21.2
Borrowed money
54.5
Gift, charity, etc.
3.3
<Cereal Self-sufficient Farm Households>
Income Source
Afghanistan
Farm Product Sales
Crops
Animals
Others (milk, egg, meat,
hides, skins, wool, etc)
Non-farm Activities
Labor income, wages
Sales of handicraft
Cmmerce, trading
Other Activities
Remittance received
Borrowed money
Gift, charity, etc.
<Cereal Surplus Farm Households>
Income Source
East
19.4
36.6
5.9
33.7
9.7
57.9
5.8
11.5
1.8
58.6
13.5
3.2
76.2
3.7
4.7
75.5
0.3
9.1
23.8
71.7
2.4
29.8
55.6
3.0
8.5
63.0
4.5
% of Applicable Farm Households
North
North-east
East
21.2
36.4
26.3
36.9
27.5
42.0
20.5
64.4
15.7
10.9
7.9
5.5
58.2
14.4
8.8
46.5
22.6
4.3
47.6
2.6
12.9
68.5
2.7
15.1
21.9
40.4
3.6
24.2
50.1
0.0
33.3
48.0
7.5
12.3
49.3
8.2
Afghanistan
% of Applicable Farm Households
North
North-east
East
Farm Product Sales
Crops
52.8
41.7
56.7
Animals
38.6
35.9
42.8
Others (milk, egg, meat,
13.5
12.5
10.2
hides, skins, wool, etc)
Non-farm Activities
Labor income, wages
42.8
41.5
40.4
Sales of handicraft
8.3
18.6
4.3
Cmmerce, trading
7.4
2.5
10.4
Other Activities
Remittance received
17.9
27.3
19.1
Borrowed money
34.4
48.1
37.9
Gift, charity, etc.
3.4
1.0
6.4
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
51.8
73.6
3.6
76.4
0.0
9.1
7.3
38.2
0.9
食糧不足農家グループでは、労賃収入と借金の実績がある農家の割合が高く、この 2 つが現金収
入の大きな柱となっていると思われる。北部地域でのみ労賃収入より借金をした農家の割合が高
くなっており、北部地域では、相対的に雇用機会が少ないことが考えられる。このグループでは、
農業生産物販売実績がある農家の割合が少ないが、家畜販売実績のある農家の割合は、他グルー
プとそれほど大きな差がなく、家畜は、小規模農家にとって相対的に重要度の高い収入源と考え
られる。北東部地域は、全体としては作物販売実績のある農家の割合が多いにもかかわらず、こ
のグループで見る限り、他地域よりむしろ割合が少なくなっており、この地域の大規模農家と小
規模農家の較差が大きいことが推測される。
3 - 62
食糧自給農家グループにおいても、食糧不足農家グループより割合が少ないものの、労賃と借金
による収入実績がある農家の割合が高くなっており、作物販売実績のある農家は、各地域共に
20%台に留まっている。このグループは、北部地域で手工芸品販売、北東部及び東部地域で商用
活動による収入を得ている農家の割合が相対的に高く、農業分野以外の自営収入源確保に最も積
極的な階層であることが伺える。
食糧余剰農家グループでは、東部地域を除いて作物販売実績がある農家の割合が一番高く、この
グループではじめて、畜産も含めた農業生産物からの収入を主とする、農家らしい農家が多くな
るものと思われる。とはいえ、労賃収入と借金の実績がある農家の割合も比較的高く、このグルー
プでも労賃と借金は重要な収入源であることが伺える。
3.5.4 農家の負債
アフガニスタンでは、階層に関わらず多くの農家が借金をしていることは、既に検討してきたと
おりである。表 3.5.12 に、2002 年時点借金のある農家と貸付金のある農家の割合を示すが、借
金のある農家の割合は 56.4%で、貸付金のある農家の割合は 5.1%であった。
表 3.5.12 農家の貸借状況(2002 年時点)
Creditor
Households
Debtor Households
Yes
Total
No
Yes
0.2%
4.9%
5.1%
No
56.2%
38.7%
94.9%
Total
56.4%
43.6%
100.0%
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
また、上記それぞれの農家の平均借入金額と平均貸付金額は、US ドル相当で$478 と$800 であっ
た(表 3.5.13 参照)。
表 3.5.13 農家の平均借入金額、貸付金額(2002 年時点)
Region
US$ equivalent
Indebted
Credited
Afghanistan
478
800
North
324
134
North-east
464
2,393
East
659
469
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
対象地域別には、以下の特徴がみられる。
【北部地域】
平均借入金額、平均貸付金額共に全国平均より低く、平均借入金額が平均貸付金額を上回る。同
地域は、借金実績のある農家の割合が全国平均より多かったことを考えると、少額資金の貸借が
一般的で、且つ、非農家からの借金が主体であることが推測される。
3 - 63
【北東部地域】
平均借入金額は、全国平均並であるが、平均貸付金額が突出して多い。この地域では、積極的に
資金の貸出しを行う資金力のある農家が、他地域より多いことが伺える。
【東部地域】
平均借入金額が全国平均を上回っているが、平均貸付金額は全国平均より低く、平均借入金額が
平均貸付金額を上回る。他地域より多額の資金の貸借があるが、非農家からの借金が主体である
ことが推測される。
表 3.5.14 に、農家の資金借入先を示す。
表 3.5.14 農家の資金借入先(2002 年)
Type of Creditor
Singe Creditor
Rgion
Reative
Trader
Two or More Creditors
Fellow
Villager
Landowner
Relative & Relative & Trader &
Villager
Trader
Villager
Others
Not
reported
Total
Afghanistan
41.4
16.0
9.0
5.2
9.2
8.0
1.8
2.9
6.4
100.0
North
31.4
22.8
18.3
11.1
3.2
1.0
1.7
0.6
10.0
100.0
North-east
53.7
5.8
2.1
1.1
10.3
12.9
0.7
4.6
8.7
100.0
East
34.3
13.4
7.3
11.5
11.5
7.0
3.6
6.1
5.2
100.0
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
全国的には、親戚からの借入れが最も多く、次いで商人、村内居住者の順となっており、それ以
外からの借入れは限られている。また、公的な農村金融資金を利用しているのは皆無か、いても
非常に限られた農家であると思われる。地域別で割合が多少変化するものの、借入先の多い順番
は変わらない。
このデータをまとめた FAO 報告書によると、
借入先の商人、
村内居住者の多くが、
同じ氏族出身者や古くからの顔なじみであるため、親戚からの借金を含めて、返済条件(期限、
利子、返済手段等)は比較的緩やかで、弾力的な運用がされている。返済手段は、現金によるも
のが殆どであるが、一部現物(おそらく多くがコムギ)や労働力での返済も行われている。
表 3.5.15 に、農家の借金状況を穀物自給状況農家グループ別に示すが、穀物自給状況が悪い農家
ほど借金のある農家の割合が高く、平均借入金額も多い。穀物生産量の確保が、農家の生活安定
にとって重要な要素の一つであることを示唆している。
表 3.5.15 穀物自給状況別の農家の借金状況(2002 年)
Farm Household
% indebted
Average debt (US$ equivalent)
All
(average)
Deficit
Selfsufficient
Surplus
56.4%
66.5%
50.5%
38.4%
478
500
493
390
(Source) Agriculture and Food Production in Post-war Afghanistan, August 2003, FAO
3 - 64
3.6
地域別営農形態
本調査で得られた情報に基づき、各地域の典型的な営農形態を以下のように推測するが、現地調
査による今後の検討確認が必要である。
表 3.6.1 地域別農業形態
項目
経営規模
灌漑状況
年間耕作面積
灌漑農地作付率
年間作物栽培面積(延べ
面積)
作物
(1)灌漑地
(2)天水地
果樹
畜産(農家平均飼育頭
数)
コムギ自給状況
主要現金収入源
北部地区
北東部地区
東部地区
平野部
山間地
5ha 前後の中規模経営が
主体
農地灌漑率は 30%程度。
灌漑施設は比較的良く維
持されている。
非灌漑地で
の作物栽培も比較的盛ん
1ha 前後の零細経営が主
体
農地灌漑率は 90%程度。
灌漑施設保全状況は中程
度。
作物生産は概ね灌漑地
に集中
5ha 程度だが、降水量に
よって変動。
ローテーショ
ンによる休耕地が存在
概ね年1作
耕作面積に準じる
5ha 前後の中規模経営が
主体
農地灌漑率は 60~70%程
度。
灌漑施設は比較的良く
維持されている。
非灌漑地
での作物栽培も比較的盛
ん
5ha 程度
5ha 程度
1ha 程度
130~140%
6ha 前後
120~130%
5.5ha 前後
概ね年2作
2ha 弱
コムギに大きく偏り、
他は
オオムギ程度
コムギ中心だが、オオム
ギ、コメ栽培も盛ん
コムギ中心だが、オオム
ギ、
トウモロコシ栽培も盛
ん
コムギの重要度が相対的
に低い。他にコメ、トウモ
ロコシ、
野菜類の栽培が盛
ん
<冬作>
コムギ、タマネギ
<夏作>
コメ、トウモロコシ、野菜
10ha 前後の大規模経営が
主体
農地灌漑率は 15~20%程
度。
灌漑施設の老朽化が進
行。
作物生産は灌漑地への
集中度が高い
<冬作>
コムギ、オオムギ
<夏作>
リョクトウ、ワタ、スイ
カ・ウリ類
<冬作>
コムギ(一部春コムギ)、
オオムギ、雑豆類
<夏作>
コメ、リョクトウ、ワタ、
スイカ・ウリ類、野菜
<冬作>
<冬作>
コムギ(一部春コムギ)、 コムギ(一部春コムギ)、
オオムギ
オオムギ
<夏作>
<夏作>
油糧作物、スイカ・ウリ類 油糧作物、雑豆類、スイ
カ・ウリ類
アーモンド、ブドウ、ザク アーモンド、アンズ、ブド
ロ、ピスタチオ、クルミ、 ウ、リンゴ、クルミ、モモ
アンズ
ウシ:1 頭
ウシ:2-3 頭
ヒツジ:8-9 頭
ヒツジ:約 30 頭
ヤギ:2-3 頭
ヤギ:2-3 頭
家禽:1-2 羽
家禽:3 羽
自給レベル以上の農家が 自給レベル以上の農家が
大半を占めるが、
年による 大半を占めるが、
不足者も
変動大
多い
<全体>
<全体>
借金
給与・労賃
給与・労賃
借金
家畜販売
作物販売
<食糧不足層>
<食糧不足層>
借金
給与・労賃
給与・労賃
借金
家畜販売
家畜販売
3 - 65
<冬作>
比較的少ない(コムギ、オ
ムギ)
<夏作>
コムギ、トウモロコシ、
ジャガイモ
<冬作>
比較的少ない(コムギ、
オオムギ)
<夏作>
コムギ、オオムギ
実態なし
(灌漑地での栽培
がほとんど)
リンゴ、モモ、アンズ、ク
ワ、クルミ
柑橘類、スモモ、クワ
ウシ:6-7 頭
ヒツジ:8-9 頭
ヤギ:7 頭
家禽:7 羽
自給レベル以上の農家が
多くを占め、
不足者が比較
的少ない
<全体>
給与・労賃
借金
家畜販売
<食糧不足層>
給与・労賃
借金
家畜販売
ウシ:3-4 頭
ヒツジ:0-1 頭
ヤギ:1 頭
家禽:10 羽
自給不足農家が大部分を
占める
<全体>
給与・労賃
借金
家畜販売
<食糧不足層>
給与・労賃
借金
家畜販売
第 4 章 低分解能人工衛星画像による植被状態の解析
第 4 章 低分解能人工衛星画像による植被状態の解析
4.1
低分解能人工衛星画像の選定
(1) 一般に公開されている人工衛星画像の種類及び特徴
一般に公開されており、無償で利用できる代表的な低・中分解能の人工衛星画像の種類及び特徴
を以下の表 4.1.1 に整理する。この表に示されているように、低分解能の人工衛星画像の地上分解
能は、NOAA/AVHRR(以下、NOAA と呼ぶ)で 1.1km、Terra・Aqua/MODIS(以下、MODIS
と呼ぶ)で 250m(可視域)である。低分解能の人工衛星は、地上分解能が低いものの、同一地
点を一日に数回観測できるといった、高頻度観測に特徴がある。中分解能の人工衛星画像である
Landsat シリーズは 1972 年に世界で始めて運用を開始した人工衛星であり、現在は 7 機目とな
る Landsat/ETM+(以下、Landsat と呼ぶ)が運用されおり、膨大な画像が蓄積されている。地
上分解能は 30m(可視域)であり、従来から、農地開発・管理、資源探査、自然環境モニタリン
グ等の各分野で多用されている衛星画像である。
表 4.1.1 無償で利用できる低・中分解能衛星画像の特徴
区 分
低分解能
中分解能
NOAA/AVHRR
Terra・Aqua/MODIS
Landsat/ETM+
アメリカ
アメリカ
アメリカ
850km
705km
700km
同一地点の観測周期
9 日(2 つ以上の衛星により 1 日 4
回以上の観測が可能)
16 日(2 つの衛星により 1 日 4 回
以上の観測が可能)
16 日
観測波長域(バンド)
5 バンド
・可視近赤外波長域×2
・中間赤外波長域×1
熱赤外波長域×2
36 バンド
・可視近赤外波長域×16
・中間赤外波長域×14
熱赤外波長域×6
7 バンド
・可視近赤外波長域×4
・中間赤外波長域×2
熱赤外波長域×1
250m(可視近赤外域 2 バンド)
※その他波長域 500m~1000m
30m(可視近赤外域 4 バンド)
※その他波長域 30m~60m
人工衛星名/センサ名
打ち上げ国
周回高度
地上分解能(解像度)
観測幅(東西方向)
概 要
一般公開されているホー
ムページ(人工衛星画像
ダウンロード先)
1.1km
3,000km
2,330km
185km
分解能が低いが広範囲の時系 モ
ニタリングが可能。観測周期が短
く、季節変化に関するデータを収集
できる。
NOAA(AVHRR)の後継機とし
て、1)空間分解能、2)スペクトル分
解能、3)幾何補正精度の大幅な改良
がなされた。
植生解析に最も多用されている衛
星画像。各種のセンサにより、植
生の種類をある程度解析すること
が可能。
Comprehensive Large Array-data
Stewardship System (CLASS),
NOAA
http://www.nsof.class.
noaa.gov/saa/products /welcome
Level 1 and Atmosphere Archive
and Distribution System (LAADS
Web), Goddard Space Flight
Center, NASA
http://ladsweb.nascom.nasa.
gov/index.html
Global Visualization
Viewer(GloVis), Earth Resources
Observation and Science Center
(EROS), USGS
http://glovis.usgs.gov/
EarthExplorer, USGS
http://edcsns17.cr.usgs.gov
/EarthExplorer/
(2) 低分解能人工衛星画像の選定
2000 年以降のアーカイブが存在することから NOAA 及び MODIS のどらちの衛星を利用しても
植被状態の時系列毎の解析が可能である。また、NOAA 及び MODIS の人工衛星画像について、
2000 年から 2008 年の 9 年間にアフガニスタン国北部・北東部を撮影した画像の取得状況を調査
した結果、どちらの人工衛星画像共に、1 日に 3 シーン以上のアーカイブが存在することが確認
できた。
4-1
したがって、どちらの人工衛星画像も対象地域の植被状態に関する時系列分析に利用可能である。
しかし、空間分解能では、MODIS が NOAA の約 1/4 であり、地表面の被覆状況がより細かく
確認できることを考慮して、本業務では、MODIS を利用することにする。
4.2
植被状況の解析
MODIS の時系列画像を用いて北部・北東部州及びナンガハール州における植生被覆域の年変動
(2000 年~2008 年)の傾向を解析する。
4.2.1 使用データ
(1) データ仕様
•
PRODUCT:MODIS/Terra Surface Reflectance 8-Day L3 Global 250m SIN Grid V005
※8 日間合成データ(ノイズや大気(雲)によるデータ欠損を補完)
•
波長帯:可視・近赤外波長域 2 バンド(図 4.2.1)
Band1:0.620~0.670 μm、Band2:0.841~0.876 μm
分解能:250m
反射/放射強度
•
反射の強さ
放射の強さ
植 物
土
地表面
0.4 0.5
紫外線
波長
水面
水
可視光
0.7
1
近赤外
2
3
短波長赤外
4
5
7
10 〔μm〕
熱赤外線
1
10 100 〔mm〕
マイクロ波
図 4.2.1 物質からの反射・放射特性の例
•
False Color 合成画像 (赤色系:植生域、グレー系:裸地)
図 4.2.2 MODIS データ(False Color 合成画像)の例
4-2
(2) パラメータ
•
2000 年~2008 年(9 年間)
•
解析時期
•
全 10 州(北部・北東部州及びナンガハール州)をカバーするためのシーン
①冬季作確認:4 月下旬(22~29 日)、②夏季作確認:9 月上旬(1~8 日))
4.2.2 解析結果の整理
抽出した植生域の情報を基に、同年の 4 月及び 9 月の植生域の遷移(「4 月のみ植生域(冬季作
のみ)」、「9 月のみ植生域(夏季作のみ)」、「4 月かつ 9 月で植生域(通年作のみ)」)を集
計した。集計結果は表 4.2.1 に示すとおりである。
4-3
表 4.2.1 MODIS データ解析結果
■MODISデータ分析結果
No.
州名
※
面積 ('000 ha)
4月のみ植生域の面積
1
Badakhshan 9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
2
Takhar
9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
3
Kunduz
9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
4
Bughlan
9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
5
Balkh
9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
6
Samangan 9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
7
Juzjan
9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
8
Sari-i-Pul 9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
9
Faryab
9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
10
Nangarhar 9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
4月のみ植生域の面積
Total
9月のみ植生域の面積
4,9月で植生域の面積
※1pixel = 6.25ha (250m×250m)
4.3
2000
96
17
10
379
10
64
252
17
91
227
10
39
198
24
51
82
2
6
106
17
16
194
3
11
162
2
10
41
10
39
1,737
111
336
2001
2002
195
9
10
321
11
54
112
11
81
113
6
36
93
21
44
37
1
5
39
19
11
85
3
8
44
2
9
33
22
44
1,071
106
303
416
96
22
400
16
62
132
14
114
302
7
53
326
24
74
205
2
6
387
26
34
395
7
19
1,079
5
32
43
16
48
3,687
213
464
2003
162
145
18
358
20
78
365
12
142
396
12
73
707
26
113
371
1
9
685
21
80
479
6
26
1,296
3
32
54
9
60
4,874
256
632
2004
241
60
16
308
25
64
210
35
114
411
14
54
210
33
71
148
1
7
94
24
16
94
24
16
390
3
15
17
23
20
2,124
242
392
2005
124
145
17
348
18
68
222
16
131
397
11
45
336
33
80
166
3
8
270
36
27
332
10
20
764
3
23
40
29
61
2,999
302
480
2006
124
28
12
444
11
70
154
18
132
341
8
48
446
17
93
121
1
5
437
14
56
475
3
14
475
3
14
36
17
49
3,055
121
495
2007
149
20
13
401
7
74
255
12
140
370
5
56
453
21
90
274
1
8
327
31
37
442
3
19
920
2
23
54
16
51
3,646
119
513
2008
117
13
13
109
15
67
66
22
105
66
8
44
68
21
52
16
1
4
71
18
11
42
3
9
113
2
11
48
12
49
714
114
364
平均
180
59
14
341
15
67
197
17
117
292
9
50
315
24
74
158
2
6
268
23
32
282
7
16
583
3
19
41
17
47
2,656
176
442
解析結果の検証
4.3.1 既存資料との比較検証
現在入手できている統計資料には、2000 年~2008 年の冬季作及び夏季作の面積を比較できる
データは含まれていない。したがって、州別に各年の数値が正しいか正しくないかの検証は現段
階では行うことが出来ない。現在入手している信頼の置けるデータは、FAOSAT から入手した全
国の主要穀物栽培面積、全国コムギ栽培面積、全国コムギ以外穀物栽培面積と Reports of
FAO/WFP Crop and Food Supply Assessment Mission to Afghanistan 及び Afghanistan
Statistical Yearbook から入手した2002 年~2004 年と2007 年の地域別のコムギ栽培面積である。
これらを使って、低分解能人工衛星画像解析結果の検証を行う。
北部・北東部地域はアフガニスタン国の主要穀物生産地域であり、年による変動はあるものの全
国の 6 割から 7 割の穀物を生産していると言われている。したがって、解析の結果求められた面
積の推移は、統計データと同等の傾向を示すと考えられる。この仮説のもと、全国の主要穀物栽
培面積と対象10州全植生面積との比較、
全国コムギ栽培面積と対象10州4月の植生面積の比較、
全国コムギ以外穀物栽培面積と対象 10 州 9 月の植生面積の比較を行うと図 4.3.1 の通りとなる。
4-4
('000 ha)
情報
情報源
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
対象10州全植生面積
MODIS
2,183
1,480
4,363
5,761
2,759
3,781
3,671
4,278
1,192
全国主要穀物栽培面積
FAOSAT
2,406
2,094
2,238
3,005
2,667
3,030
2,989
2,812
n.a.
(注)
主要穀物はコムギ、コメ(イネ)、トウモロコシ及びオオムギ
7,000
6,000
('000 ha)
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
対象10州全植生面積
2000
2001
2002
情報
2003
情報源
2004
2000
2005
2001
2002
2006
2003
全国主要穀物栽培面積
2007
2004
2005
2006
2007
('000 ha)
2008
対象10州4月全植生面積
MODIS
2,073
1,373
4,150
5,506
2,516
3,478
3,550
4,159
1,078
全国コムギ栽培面積
FAOSAT
2,029
1,779
1,742
2,320
1,888
2,342
2,444
2,190
n.a.
6,000
5,000
('000 ha)
4,000
3,000
2,000
1,000
対象10州4月全植生面積
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
全国コムギ栽培面積
2007
('000 ha)
情報
情報源
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
対象10州9月全植生面積
MODIS
447
409
676
887
635
782
615
632
全国コムギ以外穀物栽培面積
FAOSAT
377
315
496
685
779
688
545
622
(注)
コムギ以外穀物はコメ(イネ)、トウモロコシ及びオオムギ
1,000
900
800
700
('000 ha)
600
500
400
300
200
100
対象10州9月全植生面積
0
全国コムギ以外穀物栽培面積
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
図 4.3.1 FAOSAT データと解析結果の比較
4-5
2008
477
n.a.
上記検証結果によると、全国の主要穀物栽培面積と対象 10 州全植生面積との比較、全国コムギ栽
培面積と対象 10 州 4 月の植生面積の比較については、2002 年及び 2003 年の植生面積が大きく
乖離しているものの、それらを除けば経年変化は概ね同等に推移していることが判る。また、全
国コムギ以外穀物栽培面積と対象 10 州 9 月の植生面積の比較においては、2000 年~2007 年の期
間で、ほぼ同等に面積が推移していることが判る。
また、Reports of FAO/WFP Crop and Food Supply Assessment Mission to Afghanistan 及び
Afghanistan Statistical Yearbook から入手した 2002 年~2004 年と 2007 年の地域別のコムギ栽
培面積と MODIS の冬季作の面積と比較すると図 4.3.2 の通りとなる。
N-East Region ('000 ha)
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2006
2007
a. MODIS(植生)
b. 統計(コムギ)
North Region ('000 ha)
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
a. MODIS(植生)
b. 統計(コムギ)
Nangarhar ('000ha)
140
120
100
80
60
40
20
0
2002
2003
2004
2005
2006
2007
a. MODIS(植生)
b. 統計(コムギ)
図 4.3.2 地域別のコムギ栽培面積と MODIS の冬季作の面積の比較
4-6
この結果からも地域毎のコムギ栽培面積の統計データと MODIS の解析結果が、同等に推移して
いることが判る。MODIS の解析結果と統計データの数値が大きく乖離しているところは気にか
かるところではあるが、MODIS では冬季降雨による山間傾斜地の草地面積等を含む全ての植生
を植生指標として計算してしまうため、この様な違いが出来てしまっているものと推測される。
上記のように現段階で入手できた統計データを基に、MODIS の解析結果を検証すると、間接的
な判断となってしまうが、解析結果に致命的な問題はないものと推測される。したがって、詳細
調査の対象州の絞込みは、本解析結果を用いて行う。
4.3.2 解析結果に関する考察
FAOSAT の統計資料及び各種資料によれば、アフガニスタンでは、2000 年以降 1999 年から引
き続いた 2000 年、2001 年及び 2004 年に干ばつが発生している。これら干ばつの発生年を念頭
に置いて、人工衛星のカラー合成画像を見ると、干ばつの影響が合成画像にも顕著に表れている
ことが判る。また、これら干ばつ年の 4 月の画像に注目すると、サーレポル州、サマンガーン州
及びバーミヤン州の州境に位置するコー・イ・ババ山脈(Kuh-e-Baba)辺りの雪の量が極端に少
ないことが判る。これらの結果から、アフガニスタン国北部・北東部地域の農業が水資源量に大
きく左右されていることが判り、作付当初にその年の利用可能水量を把握できれば、農家経営を
安定させることが可能となることから、現在、中断状態にある気象水文データの観測網の整備が
如何に重要であるか理解できる。なお、本調査では、積雪深等のデータ入手が出来ないことから
積雪量と干ばつの関係は明らかに出来ないが、次項においてこれらの画像を用い、4 月の積雪面
積と 9 月の植生面積から何らかの関係を模索する。また、画像解析結果として 2000 年から 2008
年の 4 月及び 9 月のカラー合成画像、植生域抽出図、VSW 画像、植生指数画像及び 4 月の画像
を基にして作成した積雪抽出図を別冊の衛生画像集に添付する。
4.3.3 MODIS データによる積雪域の抽出
(1) データの選定
• 4 月の MODIS データ(2000 年~2008 年)を処理対象とした。
• 処理対象は、可視・近赤外波長域 2 バンド(Band1:可視赤色波長域、Band2:近赤外波長
域)のうち、「Band1:Red(Red radiation」とした。
(2) 積雪域の抽出結果
図 4.3.3 に結果を示す。
4-7
■MODISデータ分析結果
面積 ('000 ha)※
No.
2000
2001
2002
3,841
3,519
5,567
5,000
4,015
5,620
5,186
4,084
4,188
4,558
112
105
213
255
242
304
120
118
115
1,584
耕作面積 積雪域(4月)の面積
耕作面積
2003
2004
2005
2006
2007
2008
平均
※1pixel = 6.25ha (250m×250m)
耕作面積
積雪域(4月)の面積
7000
450
6000
5,620
5,567
面積 ['000 ha]
5000
400
5,186
5,000
350
304
4000
255
3,841
3,519
3000
2000
500
4,084
4,015
242
4,188 300
250
213
200
112
120
105
118
115
150
100
1000
50
0
0
2000
2001
2002
2003
2004
年度
2005
2006
2007
2008
図 4.3.3 積雪域抽出結果
(3) 積雪域と耕作面積の関係
図 4.3.3 に示すように、北部・北東部地域全体を対象として、毎年の積雪量と耕作面積の推移をグ
ラフにすると、両者は連動していることが判る。しかし、図 4.3.4 に示すように、州毎に積雪量と
耕作面積の推移を比較してみると、バダクシャン州やナンガハール州のように積雪量と耕作面積
が、明らかに連動しているところと、タハール州やクンドゥズ州のように関連性が明確に判らな
い、または、2年から3年程度ずれた動きを示している。この様な結果が、単に積雪量と耕作面
積の関係から生じているものなのか、灌漑施設の状況、施設の維持管理状況、営農技術、種子の
品質の優劣等が関係しているものなのか、または、データ比較結果が短いために生じた誤差なの
か、本調査の調査結果だけでは断定する事が出来ないため、ここでは積雪量と耕作面積の関係に
ついて明言は避ける。しかし、北部・北東部地域全体を対象とした比較結果や各州の比較結果が
同様な傾向でなかったことから、アフガニスタン北部・北東部地域の水資源は、直接流域だけで
なく、ヒンドゥ・クシュ山脈に至るヒマラヤ、カラコルムからなる世界の屋根等の間接流域の影
響も受けているのではないかと推測される。
4-8
Badakhshan
積雪域(4月)の面積
7000
6000
5,186
5,000
5000
3,841
145
3,519
4,188
4,084
4,015
145
150
3000
96
20
9
3,519
2001
2002
2003
2004
年度
2005
2006
2007
40
22
6000
5,620
4000
5,186
100
4,188 60
4,084
3,519
50
3000
40
30
25
2000
20
16
18
11
10
11
15
7
0
2001
2002
2003
2004
年度
2005
0
2001
2002
2006
2007
2008
2003
2004
年度
2005
2006
2007
2008
Kunduz
積雪域(4月)の面積
100
90
6000
5,620
5,567
5000
80
5,186
5,000
4000
70
4,188 60
4,084
4,015
3,841
3,519
50
3000
40
35
2000
17
20
10
0
2000
20
12
10
7000
70
4,015
3,841
16
9
80
5,000
17
10
2000
90
5000
30
23
0
2008
Takhar
積雪域(4月)の面積
5,567
50
16
1000
0
7000
面積 ['000 ha]
3,841
13
0
2000
70
4,188 60
4,084
4,015
3000
2000
50
28
17
1000
4000
60
1000
80
5,186
5,000
29
100
2000
面積 ['000 ha]
面積 ['000 ha]
200
4000
5,620
5,567
面積 ['000 ha]
5000
100
90
6000
250
5,620
5,567
Nangarhar
積雪域(4月)の面積
7000
300
11
1000
14
16
12
22
18
30
20
12
10
0
0
2000
2001
2002
2003
2004
年度
2005
2006
2007
2008
図 4.3.4 各州の積雪域と耕作面積の推移
4.4
詳細調査対象州の選定
4.4.1 選定基準の設定
MODIS の解析結果で得られる情報は、各州の 4 月のみ植生域の面積、9 月のみ植生域の面積及
び 4 月、9 月共通した植生域の面積である。これらを整理することにより、冬季作の面積、夏季
作の面積、通年作の面積を得ることが出来る。また、それぞれの面積に係る 2000 年~2008 年の
9 年間の経年変化のデータが入手できている。これら経年変化の状況から、各州の平均栽培面積
と各年の面積変動率を算定することで、各州が冬季作及び夏季作それぞれに対し、どの程度安定
した水資源量を保有しているかを間接的に知ることが出来る。これら整理したデータを表 4.4.2
に示す。また、州毎の作付面積の経年変化を図 4.4.1 に示す。
詳細調査を実施する対象州の選定に用いる選定基準は、解析結果から得られる上記指標を使用し
て決定する。表 4.4.1 に評価指標とそれら指標から明確になる項目を示す。
表 4.4.1 評価指標と明確となる項目
No.
1.
2.
3.
4.
評価指標
冬季作の平均面積
夏季作の平均面積
冬季作の平均低減変動率
夏季作の平均低減変動率
明らかになる項目
冬季作改善の波及効果
夏季作及び灌漑施設改善の波及効果
冬季降雨の安定度
夏季灌漑水源の安定度
なお、本調査対象 10 州の評価は、各指標を効果の大きさに応じ機械的に 10~1 の得点をつけ、
総合得点が多い州を詳細調査の対象州として客観的に選定する。また、仕様書では北東部地域に
位置し稲作を中心とした営農が行われているタハール州、クンドゥズ州が詳細調査対象州として
選定され、比較対照州として RIP が実施されているナンガハール州が既に選定されている。本調
4-9
査が北部・北東部州を対象に広く農業基礎情報を収集することを目的としていることから、選定
する対象州は、北部州に位置し、畑作を中心とした営農が行われている州から選定することも、
一つの選択肢として考慮する必要もある。
4.4.2 詳細調査対象州の選定
上記指標を基に、本調査対象 10 州を評価すると表 4.4.2 の通りとなる。
表 4.4.3 に示す結果を見ると、仕様書で示されたタハール州及びクンドゥズ州は、稲作を中心とし
た営農が行われているだけでなく、北部・北東部地域の中で最も農業のポテンシャルの高い地域
であることが判る。また、第 3 位となるバルフ州は、南部のショルガラ郡を除き、畑作中心の営
農が行われている地域であることから、詳細調査結果を基にした提案が、詳細調査対象州のみな
らず北部・北東部地域全体に活用する事が可能となる。
以上の結果から、詳細調査の対象州は、北東部地域のタハール州、クンドゥズ州及び北部地域の
バルフ州とし、比較対照として RIP が実施されているナンガハール州を選定することとする。
表 4.4.3 詳細調査対象州の選定結果
No.
地域
州名
冬季作面積
('000ha)
1
冬季作減少
変動率
%
得点
夏季作面積
('000ha)
得点
得点
夏季作減少
変動率
%
得点
得点合計 得点順位
備考
Badakhshan
195
3
74
7
-26.8
8
-60.4
1
19
⑥
Takhar
408
9
81
8
-24.7
9
-9.0
10
36
①
仕様書にて選定済み
3
Kunduz
313
6
134
10
-28.2
7
-15.2
8
31
②
仕様書にて選定済み
4
Bughlan
341
7
59
5
-48.7
5
-13.4
9
26
④
5
Balkh
390
8
99
9
-49.5
4
-21.2
6
27
③
6
Samangan
164
2
8
1
-47.4
6
-21.5
5
14
⑧
Juzjan
300
5
55
4
-56.0
3
-40.2
2
14
⑧
8
Sar-i-Pul
298
4
23
3
-61.5
1
-32.8
4
12
⑩
9
Faryab
602
10
22
2
-58.6
2
-34.2
3
17
⑦
冬季作面積は、統計資料の数値とかけ
離れていることから信頼性に欠ける。
88
1
64
6
-20.7
10
-15.5
7
24
⑤
比較対照州
2
北東部
7
10
北部
東部
Nangarhar
4 - 10
詳細調査実施候補州
表 4.4.2 季別作付面積及び面積変動率
■季別作付面積及び面積変動率
面積 ('000 ha)※
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
1
Badakhshan
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
2
Takhar
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
3
Kunduz
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
4
Bughlan
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
5
Balkh
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
6
Samangan
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
7
Juzjan
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
8
Sar-i-Pul
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
9
Faryab
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
10
Nangarhar
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
冬季作面積
冬季作面積変動率
夏季作面積
Total
夏季作面積変動率
うち通年作面積
うち通年作面積変動率
※1pixel = 6.25ha (250m×250m)
No.
州名
2000
106
55%
27
37%
10
69%
443
109%
74
91%
64
96%
343
109%
108
80%
91
78%
266
78%
49
83%
39
78%
249
64%
75
76%
51
69%
87
53%
7
93%
6
91%
122
41%
33
60%
16
50%
205
69%
14
61%
11
67%
172
29%
12
55%
10
54%
79
90%
48
76%
39
82%
2,073
67%
447
72%
336
76%
2001
205
105%
19
26%
10
69%
375
92%
64
79%
54
80%
193
62%
92
69%
81
69%
149
44%
42
72%
36
72%
137
35%
66
66%
44
60%
42
26%
6
81%
5
80%
49
16%
30
54%
11
33%
93
31%
11
49%
8
52%
53
9%
12
54%
9
48%
77
88%
66
104%
44
95%
1,373
44%
409
66%
303
68%
2002
437
224%
118
160%
22
149%
462
113%
77
95%
62
92%
247
79%
128
95%
114
98%
355
104%
60
103%
53
107%
400
103%
98
99%
74
99%
212
129%
8
105%
6
97%
422
140%
60
109%
34
107%
414
139%
26
114%
19
119%
1,111
185%
37
171%
32
171%
90
103%
63
99%
48
102%
4,150
134%
676
109%
464
105%
4 - 11
2003
180
93%
163
221%
18
124%
437
107%
99
121%
78
117%
507
162%
154
115%
142
121%
470
138%
85
145%
73
147%
819
210%
138
140%
113
151%
380
231%
10
128%
9
140%
765
255%
102
185%
80
252%
505
170%
32
141%
26
166%
1,328
221%
35
163%
32
169%
115
131%
70
109%
60
129%
5,506
178%
887
144%
632
143%
2004
257
132%
76
104%
16
111%
372
91%
89
109%
64
95%
324
104%
149
111%
114
98%
465
136%
68
116%
54
108%
281
72%
104
105%
71
95%
155
95%
8
101%
7
107%
110
37%
40
73%
16
50%
110
37%
40
176%
16
101%
405
67%
18
83%
15
81%
37
42%
43
67%
20
42%
2,516
81%
635
103%
392
89%
2005
141
72%
161
219%
17
115%
416
102%
86
105%
68
102%
353
113%
147
109%
131
112%
442
130%
55
94%
45
90%
416
107%
113
114%
80
107%
173
106%
11
135%
8
120%
296
99%
62
113%
27
83%
352
118%
30
133%
20
129%
787
131%
26
119%
23
122%
102
116%
91
142%
61
131%
3,478
112%
782
127%
480
109%
2006
136
70%
40
54%
12
80%
515
126%
81
100%
70
105%
286
91%
150
112%
132
113%
389
114%
56
95%
48
97%
540
139%
111
112%
93
126%
127
77%
7
83%
5
86%
493
164%
70
128%
56
176%
490
164%
18
77%
14
91%
490
81%
18
81%
14
76%
85
97%
66
103%
49
105%
3,550
115%
615
100%
495
112%
2007
162
83%
34
46%
13
93%
476
117%
81
99%
74
111%
396
126%
152
113%
140
120%
426
125%
61
104%
56
113%
543
139%
112
113%
90
122%
282
172%
9
117%
8
123%
363
121%
68
124%
37
115%
461
155%
23
99%
19
122%
944
157%
25
118%
23
123%
106
121%
67
105%
51
110%
4,159
134%
632
102%
513
116%
2008
129
66%
26
35%
13
89%
176
43%
82
101%
67
100%
171
55%
127
95%
105
90%
110
32%
52
89%
44
88%
120
31%
73
74%
52
71%
19
12%
4
57%
4
57%
82
27%
28
52%
11
34%
50
17%
11
50%
9
54%
124
21%
12
56%
11
56%
97
110%
61
96%
49
104%
1,078
35%
477
77%
364
82%
平均
195
+53.7%~-26.8%
74
+76.0%~-60.4%
14
+24.8%~-20.0%
408
+12.3%~-24.7%
81
+09.0%~-09.0%
67
+08.8%~-09.2%
313
+22.8%~-28.2%
134
+12.0%~-15.2%
117
+16.5%~-13.4%
341
+24.5%~-48.7%
59
+17.0%~-13.4%
50
+18.8%~-15.0%
390
+39.6%~-49.5%
99
+16.8%~-21.2%
74
+26.5%~-21.2%
164
+59.5%~-47.4%
8
+17.2%~-21.5%
6
+22.5%~-17.8%
300
+70.0%~-56.0%
55
+31.8%~-40.2%
32
+62.5%~-50.0%
298
+49.2%~-61.5%
23
+41.0%~-32.8%
16
+27.4%~-34.0%
602
+73.5%~-58.6%
22
+42.8%~-34.2%
19
+46.3%~-37.0%
88
+16.2%~-20.7%
64
+12.6%~-15.5%
47
+13.5%~-27.0%
3,098
+34.6%~-43.2%
618
+17.0%~-28.3%
442
+17.0%~-21.2%
■Badakhshan
冬季作面積
夏季作面積
うち通年作面積
600
面積 ['000 ha]
500
437
400
257
300
200
205
118
106
100
180 163
27 10
22
19 10
141 161
18
40
17
16
162
136
76
129
34 13
12
26 13
0
2000
2001
2002
■Takhar
2003
2004
年度
冬季作面積
2005
夏季作面積
600
面積 ['000 ha]
500
2006
437
375
400
2008
うち通年作面積
515
462
443
2007
476
416
372
300
176
200
74 64
100
99 78
77 62
64 54
89 64
86 68
81 70
82 67
81 74
0
2000
2001
2002
■Kunduz
600
2003
2004
年度
冬季作面積
2005
2006
夏季作面積
2007
2008
うち通年作面積
507
面積 ['000 ha]
500
400
343
300
396
353
324
286
247
193
200
108 91
100
92 81
128 114
154 142
149
2003
2004
年度
114
147 131
150 132
152 140 171
2005
2006
2007
127 105
0
2000
2001
2002
■Bughlan
冬季作面積
夏季作面積
2008
うち通年作面積
600
470
面積 ['000 ha]
500
400
300
442
426
389
355
266
200
100
465
149
49 39
42 36
60 53
85 73
68 54
110
55 45
56 48
61 56
52 44
0
2000
2001
2002
2003
2004
年度
2005
図 4.4.1-1 州毎の作付面積の経年変化
4 - 12
2006
2007
2008
面積 ['000 ha]
■Balkh
冬季作面積
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
夏季作面積
うち通年作面積
819
543
540
416
400
281
249
75 51
137
2000
2001
138 113
104 71
113 80
111 93
112 90
2003
2004
年度
2005
2006
2007
98 74
66 44
2002
■Samangan
冬季作面積
夏季作面積
120
73 52
2008
うち通年作面積
面積 ['000 ha]
500
380
400
282
300
212
200
173
155
127
87
100
7
6
42
6
8
5
10 9
6
8
11 8
7
7
9
5
8
0
2000
2001
2002
面積 ['000 ha]
■Juzjan
800
700
600
500
400
300
200
100
0
2004
年度
冬季作面積
765
2005
夏季作面積
2008
うち通年作面積
363
296
122
33 16
2001
102 80
60 34
49 30
11
2002
2003
110
62
40 16
2004
年度
冬季作面積
600
70 56
27
2005
2006
夏季作面積
505
500
68 37
82
2007
28 11
2008
うち通年作面積
490
461
414
400
200
2007
352
205
110
93
100
14 11
11 8
26 19
40 16
32 26
30 20
18 14
23 19
50
11 9
0
2000
■F
4
493
■Sar-i-Pul
300
2006
422
2000
面積 ['000 ha]
2003
19 4
b
2001
2002
2003
2004
年度
2005
図 4.4.1-2 州毎の作付面積の経年変化
4 - 13
2006
2007
2008
■Faryab
冬季作面積
1,328
1400
944
1000
787
800
600
490
405
400
200
うち通年作面積
1,111
1200
面積 ['000 ha]
夏季作面積
172
12 10
0
53 12 9
2000
37 32
2001
35 32
2002
■Nangarhar
2003
26 23
18 15
2004
年度
冬季作面積
25 23
18 14
2005
2006
夏季作面積
124
2007
12 11
2008
うち通年作面積
面積 ['000 ha]
200
115
100
79
77
48
102
90
66
63
44
39
70
48
106
91
61
60
97
85
66
37 43
67
49
51
61
20
0
2000
2001
2002
2003
2004
年度
2005
図 4.4.1-3 州毎の作付面積の経年変化
4 - 14
2006
2007
2008
49
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