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ロシア/イラン:対イラン制裁解除 がロシアに及ぼす影響

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ロシア/イラン:対イラン制裁解除 がロシアに及ぼす影響
JOGMEC
K Y M C
ロシア/イラン:対イラン制裁解除
がロシアに及ぼす影響
・主要6カ国(米英仏中露・独=P5+1)とイランは、4月2日、スイス・ローザンヌにおいて、イランの
核開発を制限する見返りに経済制裁を緩和する「枠組み合意」に達した。今後は、難航が予想される
ものの、6月30日を期限とする最終合意に向けた交渉が行われる。
・BP統計では、イランは2012年末からロシアを押さえて世界最大の天然ガス埋蔵量を有する国と評価
されるなど、産業界ではガス資源国としてのイランが注目されている。
・今後イランのガスが市場に出てくることが予想される。トルコ向けパイプラインの拡充、パキスタ
ン向けのPeaceパイプラインの始動といった動きがあり、ロシアとトルクメニスタンが影響を被る。
・対イラン制裁の主要なものは、米国、国連、EUによるものであるが、特に米国による制裁は、イス
ラム革命直後から始まって三十数年に及び、投資を制限したILSA法
(Iran & Libya Sanctions Act:
イランおよびリビア制裁法)から20年近くがたつ。
・対イラン制裁のうち、石油ガス開発に関する技術輸出、国際送金システム(SWIFT)からの排除等に
関するものが経済的効果を上げており、イランの石油ガス産業は低落傾向にあった。
・現在、類似の状況にあるのが、ウクライナ問題で米国やEUから経済制裁を受けているロシアであり、
両国の受けている制裁の内容を比較すると、ロシアの制裁は依然として低い段階にある。
・対イラン制裁解除では、P5+1とイランのどちら側が大きく譲歩したか、専門家によって見解が分か
れるが、米議会とイスラエル政府が合意の見直しを求めている一方で、イランの世論はこれを受容
している。
・現状のイランの国内世論を見る限り、これまでの対イラン制裁がイランの経済的疲弊をもたらして
はいても、その政策を変えるに至っていないことを示していると解され、現在米議会で論じられて
いる対露制裁強化についても、ロシアの対外政策の変更を促すものにはならないと予測される。
・なお、本稿は2015年4月下旬時点の情報に基づいている。
まっていないが、双方はこの枠組みを基
としている。双方が国内反対勢力の説得
に、6月3 0日を交渉期限とする包括合意
に腐心している様子が窺える一方で、合
を目指す。米国のオバマ大統領は同日、
意が極めて脆いものであることも否定で
イランと国連安保理常任理事国(米英
声明を発表し「枠組み合意」について「イ
きない。
仏中露)およびドイツ(P5+1)は4月2日、
ランと歴史的な理解に達した」と意義を
ローザンヌにおいて、イランの核開発を
強調した。
制限する見返りに経済制裁を緩和する
交渉で、最後まで課題が残った制裁解
「枠組み合意」
に達した。イランがウラン
除の進め方については、イラン側では「最
濃縮用の遠心分離機を1万9,0 0 0基から3
終合意の事項を実行した後、即座に全て
分の1の6,1 0 4基に削減し、ウランの濃縮
が解除される」と明記しているのに対し
度を少なくとも1 5年間3.6 7%にとどめる
て、米国文書では欧米による制裁は「解
イランは、2012年には原油を250万b/
など、核開発を10~15年間制限する。合
除」されるのではなく「停止」されるとし、
d輸出していたが、最近では輸出量は100
意事項の実行方法などの詳細はまだ決
イラン側に違反があれば制裁を復活する
万b/dまで低下していた。Bijan Namdar
1.「枠組み合意」
の経緯
うかが
もろ
2.「枠組み合意」が旧ソ連
のエネルギー輸出国に与
える影響
(1)石油市場における飽和感
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Zanganeh石油相によれば、
「枠組み合意」
ための改訂であるとのことであった。同
然 な がら 注目を 集 めることとなった 。
が成立すると約1 0 0万b/d輸出を伸ばす
様に4位のトルクメニスタンも、順位は変
2 0 1 3年は制裁解除に向けたP5+1の交渉
ことが可能で、現状でのイランの原油生
わらないものの、埋蔵量が2 0 1 1年に大き
が始まった年であり、制裁解除後を睨ん
産量が2 9 0万b/dにとどまっているのに
く評価が引き上げら
対して、今後3 8 0万b/d程度まで引き上
れた後、3 9%引き下
げることができるようになる。
げられている。なお、
1,800
しかしこれは、昨年来の油価の下落に
Oil and Gas Journal
1,600
苦慮している産油国、特にロシアやベネ
誌では、2015年年初
1,400
ズエラにとっては、必ずしも歓迎できる
の段階で、ロシアの
1,200
話ではない。EIAはShort-Term Energy
ガ ス 埋 蔵 量 が
Outlookで2 0 1 6年のBrent価格を$7 5/bbl
1,6 8 8Tcf、イランが
まで戻すと予測したが、イラン原油が再
1,2 0 1Tcfとなってお
び石油市場に出てくることにより油価は
り、2012以前のBP統
$5~$1 5/bbl下がると予想されることか
計とほぼ同様の水準
400
ら、油価は$60~$70/bbl程度にとどまる
のままである*6。
200
*1
と予測される 。これも、産油国にとっ
イランが最大のガ
ては警戒される情報である。
ス埋蔵量を有する国
にら
Tcf
ロシア
イラン
カタール
トルクメニスタン
1,000
800
600
0
2010
2011
2012
2013
年
出所:BP統計
となったことは、当
図1 ガス埋蔵量上位4カ国の近年の評価値
(2)
ガス資源国として存在感を増すイラン
イランの天然ガスの生産量は2 0 1 3年
は1,666億㎥で、米国(6,876億㎥)、ロシ
ア(6,048億㎥)に次いで世界第3位である
アルメニア
製油所
アゼルバイ ジャン
油田
が*2、国内需要と油層圧入用が多いため
カスピ海
に、僅かに8 7億㎥がトルコに輸出され
ているのみで、カタールの輸出量1,0 5 6
億㎥に大きく引き離されている。一方、
トルクメニスタン
Astara
トルコ
Tabriz
Rasht
北部ではトルクメニスタンから4 7億㎥
Neka
輸入している*3。2012年までは、トルク
Qazvin
Tehran
メニスタンからの輸入がトルコへの輸
Rey
Sanandaj
出を上回って、ネットのガス輸入国で
Saveh
あったが、2 0 1 3年に国内ガス供給の拡
Kermanshah
充によりトルクメニスタンからのガス
輸入量を減らしたことで、ネットでか
ろうじてガス輸出国となった。
2013年のBP統計によれば、天然ガスの
埋蔵量に関して、イランが1,1 8 7.3Tcf
(3 3.6T㎥)でロシアの1,1 6 2.5Tcf(3 2.9T
㎥)を押さえて第1位となり、注目を集め
Arak
イラク
イラン
Esfahan
マスジェデ・スレイマン油田
アフワズ油田
マルーン油田
アザデガン油田
アガジャリ油田
ヤダバラン油田
ダルクエイン油田
Bandar
Khomeini
クウェート
理由を尋ねたところ、ロシア式のガス埋
蔵量算定が、西側に比較して過大評価と
ひょう そく
なっていたため、全体の平仄を合わせる
Firuzabad
ノースパース・ガス田
Asaluyeh
サウジアラ ビア
サウスパース・ガス田
Bandar Abbas
フェルドウシ・ガス田
バーレーン
*5
。
1位と2位が逆転したものである
(図1)
筆者が2013年に、BPの担当者に改訂の
Shiraz
湾
シャ
ペル
ゴルシャン・ガス田
1,5 7 5.0Tcfが3 5%も引き下げられた結果、
Kerman
ドロウド油田
の前年のイランのガス埋蔵量は
1,1 6 8.6Tcfで、埋蔵量が大きく増加した
ガチサラン油田
Abadan
た*4。これは全世界の1 8%を占める。そ
わけではなく、単に前年のロシアの
ガス田
ノースフィールド・ガス田(カタール)
Lavan Island
バラル油田
シリ油田
カタール
オマーン
UAE
出所:JOGMEC作成
図2 イランの主要な油ガス田の分布
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だ動きが活発化していた。天然ガスに関
欧州へ輸出することで合意している。こ
1 2月にようやくトルコ側のパイプラインが
しては、ペルシャ湾のSouth Parsガス田
れは、Ahwaz油田等の随伴ガスをカスピ
完成しガス輸出が開始された。現状では、
海の西岸を通ってアゼルバイジャンに輸
イランからのパイプラインの輸送能力は
計画がある程度進捗しているとはいえ、
出するためのI G A T( I r a n i a n G a s
1 0 0億㎥にとどまっており、ガス輸出の実
技術、投資両面で制限を受けている。ガ
Trunkline)
-1ガスパイプラインを更に、
*8
績は、2013年で87億㎥であった 。
ス田は、沖合以外では同国南部に分布し
Tabriz-Bazargan経由でトルコ国境まで延
ているので、制裁解除後の新たな投資対
長するものである。1 9 9 9年に開通する計
②TANAPへのつなぎ込みの可能性
象として注目を集めている
(図2)
。
画で、イラン側は予定どおりパイプライン
トルコは現在、エネルギー・ハブ国家
を敷設したが、トルコ側で建設が遅れた。
を目指す政策を採っており、各国のパイ
イ
ランからトルコへの天然ガス供給と
(3)
この時点でイランは、トルコ国境までのパ
プラインの通過国として整備を進める計
TANAPパイプラインへの参加可能性
イプライン敷設は完了しており、トルコ側
画である。特に、イランという現時点で
①イランからトルコへの天然ガスパイプ
が自国の事業進捗の遅れを理由にガスを
世界第1位のガス埋蔵量を有する国から
受け取らない場合には、テイク・オア・
のパイプラインがトルコという通過国に
イランとトルコはパイプラインを敷設
ペイ条項が適用されると主張するなど、
入っている意義は大きい。このことは、
し、年間3 0 0億㎥のガスをトルコ、更には
両者の関係は円滑ではなかった。2 0 0 1年
欧州にとって「南回廊」
への新規のガス供
*7
(可採埋蔵量360Tcf〈10.2T㎥〉
) の開発
ライン
Finland
Norway
m
r
Vyborg
m
ea
or
d
55
St
Bc
Sweden
N
Greifswald
Belarus
Poland
Soyuz
od
rho
heUkraine
t
o
r
B
Czech
Uzhgorod
CA
C
Kazakhstan
Hungary
Romania
AP
T
(1
(3
00)
Greece
Turkey
Dzhubga
S
ue
Bl Samsun
Tanap
Georgia
S
Caouth
uca
sus
C-3
Bulgaria
Russkaya
ea m
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Tu
15) tre
CA
Slovenia
Croatia
Bosnia- ?
Herzegovina
Serbia
Italy
am
Austria
Orenburg
Yelets
z
Soyu
0
Olbernhau
Russia
16
Germany
O PA L
AL
MID
Rehden
Trans
Ba
lka
n
NEL
n
er
th
r
No
ts
gh
Li
Uzbekistan
Azerbaijan
( 160)
Erzurum
Tabriz
●
100
Akkas
Iraq
300
Dauletabad
Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ
IGAT
Syria
Trans- Turkmenistan
Caspian
Afghanistan
Iran
Asaluyeh
T
87
Kandahar
33API
0
Peace
Gwadar
●
Multan
Pakistan
Nawabshah
●
出所:JOGMEC作成
図3 イランからトルコおよびパキスタンに延びる天然ガスパイプライン
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給ソースを確保できるという展望が得ら
Pipeline)を建設して、アゼルバイジャン
India)パイプラインという構想で、インド
れることを意味する。
経由でトルクメニスタンのガスを
を目的地としていた。2 0 0 9年に米国の説
4月4日、バクーでアゼルバイジャンの
TANAPに入れるという案には反対して
得でインドが撤退したと言われている
国営石油Socar(State Oil Company of
いない。ただし、トルクメニスタン自身
Azerbaijan)のRovnag Abdullayev総裁
は海底パイプライン建設に関して能動的
②アフガニスタン、TAPIへの影響
が、自国が保有するTANAP(Trans-
に動く意思も能力も持っていない。
一方、トルクメニスタンからインドに至
Anatolian Natural Gas Pipeline)の70%
TANAPにつなぎ込む計画に関しては、
るTAPI(Turkmenistan-Afghanistan-
の株式について、制裁解除となればイラ
既存の(i)
イラン-トルコパイプラインを
Pakistan-India)パイプラインに関しては、
ンに売却する可能性に言及した。Socar
拡充する、
(ii)
トルクメニスタンからアゼ
それまで実現性が低いと見られていたが、
傘下のSouthern Gas Corridor Co.は51%
ルバイジャンに向けてカスピ海に新規に
2 0 1 3年にアフガニスタンが最後のメン
を依然保有する方針で、残りの19%を放
海底パイプラインを敷設するという2案
バーとして加盟し、長らく停滞していた
出する。他にBotasが30%を持っている。
があるが、距離、技術、コストいずれに
プロジェクトの協議が再開された*12。
現在、SocarはBPに1 2%売却する手続き
おいても(i)のイランからのほうがトルク
2 0 1 4年1 1月には、トルクメニスタンの
に入っていることから、イランにとって
メニスタンからよりも圧倒的に有利であ
Turkmengas、アフガニスタンのAfghan
は残りの7%が売却可能ということにな
る。今後、カスピ海横断パイプラインの
Gas Enterprise、パキスタンのInter state
る。4月9日、トルコのTaner Yildizエネ
議論はしにくくなる可能性がある。更に
Gas Systems、インドのGailの4社が、総
ルギー相も、カスピ海のガスをギリシャ
これは、ロシアが計画しているTurkish
延長1,8 0 0kmのTAPIパイプライン建設の
まで運ぶTANAPについて、経済性いか
Streamよりも先行する可能性もある。
ための合弁企業を設立した。アジア開発
んによってはイランが参加する可能性の
イランのガス輸出国としての発展は、
銀行(ADB)によれば、4社は同等の権益
あることを明らかにした 。アゼルバイ
ロシア、アゼルバイジャン、トルクメニ
を保有する。輸送
ジャンはTotal、Statoil、TPAOに権益
スタンのエネルギー輸出国としての立場
量は年間3 3 0億㎥
を譲渡する方針と報じられていたが、現
を弱めることになる。
で、3 0年間各国に
*9
状はこれにイランも加わった。
*11
。
供給するというも
(4)Peaceパイプライン(イラン-パキ
③TANAPの現況
スタンPL)とアフガニスタンの立場
のである*13。
2015年3月23日、
3月17日、トルコ、アゼルバイジャン、
①中国によるPeaceパイプラインへの融資
訪米したアフガニ
ジョージア
(旧国名:グルジア)
の首脳が
4月2 0日の習近平主席のパキスタン訪問
スタンのガニ大統
トルコ東部のKarsでTANAPの工事開始
に合わせて、パキスタン側がPeace(Iran-
領は、ケリー米国務長官やカーター国防
セレモニーに出席した。輸送容量1 6 0億
Pakistan)パイプライン計画が進展する可
長官、ルー財務長官らと会談し、2013年
㎥/年、総延長1,8 5 0km、供給開始は
能性のあることを明らかにした(図3)
。イ
から中断していた閣僚級の戦略対話を再
2019年、総工費$100億~$110億。トルコ・
ランのガス田地帯にあるAsaluyehからパ
開することで合意した。3 5万2,0 0 0人の
ジョージア国境で現状年間70億㎥を送っ
キスタン国境までの9 0 0kmは既に完成し
アフガン治安部隊の規模を維持するため
ているSouth Caucasusパイプラインに
ているが、パキスタン側が資金不足から
の米国の資金支援と、
アフガン主導の
「改
接続する。先端は、トルコ・ギリシャ国
着工できないでいた。今回、CNPC傘下
革と開発」を促すため最大8億ドルの財政
境で総延長8 7 0kmのTAP(Trans-
のChina Petroleum Pipeline Bureauが、
支援も併せて発表した。
ガニ大統領は
「ア
Adriatic Pipeline)
に接続し、2020年から
海岸に面したGwadarから国内ネットワー
フガニスタンは中央アジアから南アジア
年間100億㎥でフローを開始する(図3)
。
クの 入り口であるN a w a b s h a hまでの
へ流れるエネルギーの中心になる」と述
他のカスピ海やトルクメニスタンのガス
7 0 0kmを建設するというものである。事
べて、一連の決定を歓迎した *1 4。これ
田からのガスも加え2023年には230億㎥、
業費は$15億~$18億、更にGwadarでLNG
は名指しこそしていないが、TAPIの建
受入基地を造れば$2 0億に上るという。こ
設宣言とも読める。
これは、カスピ海横断パイプラインの実
の 8 5 %は中国 側 からの 融 資 による。
アフガニスタンの現況を見れば、新規
現にかなり期待を寄せた計画で、この時
Gwadarからイラン国境までの8 0kmは、
のパイプラインの建設工事は現実的とは
点でイランは特段考慮には入っていな
パキスタンが独自に建設する。パイプ径
思えない。このような状況のなか、議論
かったと思われる。
は56”
、当初の輸送容量は年間87億㎥、将
だけは前進していた。しかし、イランか
来的には年間400億㎥を目指す。
らパキスタンへのルートは、イラン側が既
④トルクメニスタンへの影響
このパイプライン計画はTAPIパイプラ
に完成していることもあり、はるかに実現
トルクメニスタンは、他国の企業がカ
イン(後述)に対抗して1995年に立案され
性がある。今回の動きも、トルクメニスタ
スピ海横断パイプライン(Trans-Caspian
たもので、当初はIPI(Iran-Pakistan-
ンにとっては、ネガティブな影響がある。
*10
2026年には310億㎥とする計画がある
。
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る企業を制裁する「イラン・リビア制裁
資を禁ずるもので、域外制裁措置となっ
法」
(ILSA)を成立させた。ブッシュ大統
ている。その後リビアに関しては、2006
領
(当時)は2002年の年頭教書でイランを
年にリビア関連条項が失効したので、以
「悪の枢軸」と表現して批判した。アメリ
降「イラン制裁法」
(ISA)と呼ばれてい
1 9 7 9年4月にイランでイスラム革命が
カ議会は2001年と2006年にも制裁期間を
る。いくつかの企業が対象となっている。
起き、同年11月にはテヘランのアメリカ
延長する法案を可決した。
3.対イラン制裁の経緯
(1)
米とイランの関係の歴史
大使館が占拠された。大使館員も人質に
②イ ラン自由支援法(Iran Freedom
とられる事件に発展したため、カーター
(2)
米国による主要な対イラン制裁の内容
大統領(当時)は1980年4月にイランを反
1 9 9 6年以降の対イラン制裁の概要を
ISAから1 0年を経て、制裁発動の要件
米国家と認定して、国交断絶を宣言する
表1にまとめた。主要なものについて、
を、兵器関連技術の販売にまで拡大した
とともに、経済制裁を実施した。1984年
若干の説明を付す。
ものであるが、これが適用された例はま
には、レーガン大統領
(当時)
がイランを
①イラン制裁法(ISA:Iran Sanctions
だない。
「テロ支援国家」
に指定した。1995年には
Support Act)
Act)
クリントン大統領
(当時)
が、アメリカ企
元来は1996年に、イラン・リビア制裁
③包括的イラン制裁・説明責任・資本引
業に対してイランとの貿易・投資・金融
法(ILSA法)として発動された。イラン、
揚法(CISADA:Comprehensive Iran
の禁止措置を実施し、翌1996年には、イ
リビアのエネルギー分野に対して、第三
Sanctions, Accountability and
ランとリビアの石油・ガス資源を開発す
国の企業や個人が年間$2,0 0 0万以上の投
Divestment Act)
表1 米国による主要な対イラン制裁
法令
イラン制裁法
(ISA)
イラン自由支援法
成立時期
19 9 6.8.5
2 0 0 6.9.3 0
制裁対象
イランのエネルギーセクターに対して年に $2,0 0 0 万以上の投資を行った企業または個人
イラン
(またはイランに再輸出されることを知っている者)
に対して大量破壊兵器
(WMD)
開発または先進的在
来型兵器の
“数および種類を不安定にする”
ことに有用な技術を販売する企業または個人
2 010.7.1
・$10 0 万以上
(または 1年間で $5 0 0 万以上)
のガソリン、航空機燃料の販売
・イランがガソリンを製造または輸入することを支援するような機器やサービスの販売
(金額基準は上記に同じ)
大統領令 1 3 5 9 0
2011.11.21
イランがそのエネルギーセクターにおいて用いることが可能な機器の販売→ 2 0 12 年のイラン脅威削減・シリ
ア人権法として法令化
FY2 0 1 2 国防授権法
イラン中央銀行を国際送金システム(SWIFT)から切り離す目的で、これと取引する外国金融機関に対する制裁
2011.12.31 を適用。その金融機関の所属する国が著しくイランからの原油の購入を減じた場合には制裁の適用免除を受け
ることができる
大統領令 1 3 6 2 2
以下の者に ISA と同様の制裁を課す。→ 2 0 13 年国防授権法として法令化
・イランから石油または他の石油精製品を購入した主体
・NIOC または Naftiran Intertrade Co.(NICO)
と取引を行った主体
2 012.7.3 0
・イランから石油化学製品を購入した主体
・NIOC、NICO、イラン中央銀行に対して資金的支援を行った個人、企業
・イランが米国銀行券または貴金属を購入することを助けた個人または企業
包括的イラン制裁・説明責任・
資本引揚法(CISADA)
イラン脅威削減・シリア人権法
イラン自由および反拡散法
(IFCA)/FY2 0 1 3 国防授権法
2 012.9.1
ISA に以下の制裁発動要件を追加する。
・石油・天然ガスセクターの維持または向上に用いられる $10 0 万以上
(または 1年間で $5 0 0 万以上)
となる
商品やサービスの提供
・石油化学製品の生産の維持や拡大に用いられる $2 5 万以上
(または 1年間で $10 0 万以上)
の商品やサービス
の提供
・イラン産原油を輸送するのに用いられる船舶の所有
・イランとの国外における石油・天然ガス JV への参加
・イランとのウランの採掘、生産または輸送に関連する JV への参加
・石油化学製品を含むエネルギー産業関連機器の最低数量以上の販売
・NIOC および NITC に対して保険または再保険を提供する企業
・イラン政府ソブリン債の購入または発行を促進する企業
・IRGC(イラン革命防衛隊)
等との間で
“著しい取引”
に従事している企業
2 013.1.2
イラン経済における主要セクターを支援する第三国の企業に対して米国の制裁権限を拡大するもの
・イランにおけるエネルギー、造船、海運および港湾操業に対して財やサービスを提供する主体
・イランへ貴金属または半製錬金属を提供する主体や、産業プロセスを統合するのに必要なソフトウェアを提
供する主体
・石油、ガソリンその他イランにおけるエネルギー、船舶輸送または造船セクターに対する財の輸送を含む、
イランとの国際的な取引に対する保険引き受けサービス、保険、または再保険を提供する主体
・先進医療品を含む特定の輸入品の取引を、市場を迂
(う)
回するなどの転売に従事しているイラン国民
出所:JOGMECワシントン事務所作成
67 石油・天然ガスレビュー
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67
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JOGMEC
K Y M C
ISAではイランへのガソリン販売や、
この法は、大統領令13590に加え、表1
2009年と決議がなされた。
イランが自らの製油所を建設・拡大する
にあるような石油・天然ガス、石油化学、
2 0 1 0年6月9日に国連安保理で採択さ
ことを可能にする機器類の販売は制裁対
原油輸送、ウランの生産・輸送等の各分
れた「第4次国連安保理追加制裁決議」
象となっていなかったため、$100万以上
野における商品やサービスの提供を主に
(または年間$500万以上)
の上記関連のも
したいくつかの制裁発動要件を、ISAに
輸、(ii)渡航拒否、(iii)金融制裁、(iv)
追加したものである。
貨物検査の強化が重点となった。これ
のについて制裁対象とする法である。
(2007年が第1次)においては、(i)武器禁
は、イランの核・弾道ミサイル関連の開
④FY2012国防授権法§1245
⑥イラン自由および反拡散法(IFCA:
発を推進する組織・企業の活動を大幅に
石油輸入業者が交換可能通貨を用いて
Iran Freedom and Counter
制限するととともに、イランによる禁止
イランへの石油代金の支払いを行うメカ
Proliferation Act)
品の密輸摘発を目指すものである。
また、
ニズムを絶つため、イランの中央銀行を
これは、エネルギー分野およびそれ以
革命防衛隊(IRGC)等の40の団体や1個人
)
から切り離
外のイラン経済における主要セクターを
を資産凍結の対象とした。特に、金融制
す目的で、イラン中央銀行と取引する外
支援する第三国の企業に対して、米国の
裁においては、国連加盟国に対して核・
国金融機関に対する制裁を適用する条項
制裁権限を拡大するものである。
ミサイル開発に係ると思われるイラン系
*15
国際送金システム
(SWIFT
がFY2012国防授権法に組み込まれた。具
銀行の支店開設を認めないよう求めてい
体的には、イラン中央銀行を通じて支払
⑦具体的な制裁条項
る。これは、武器開発の資金源を断つこ
い処理を行った外国金融機関に対して、
ISAでは6件の制裁オプションのうち2
とが目的である。
米国内での口座開設を禁止するというも
項を課すことを求めている。CISADAで
のである。ただし、適用除外条項があり、
は3オプションを追加し、合計9オプショ
その金融機関の所属する国が著しくイラ
ンのなかから3項を課し、「イラン脅威削
欧州連合(EU)による対イラン制裁は、
ンからの原油の購入を減じた場合には制
減・シリア人権法」では更に3オプション
2010年7月26日に決議された。EUは国連
裁の適用免除を受けることができる。
を加えて全1 2オプションのうち、5項の
決議と同様に、イランの核燃料濃縮・再
この、SWIFTからの追放という措置が
適用を求めることとした(表2)
。
処理活動・重水炉関連活動・核兵器開発・
取られると、送金システムにアクセスでき
なくなり、産油国の場合には原油の輸出
にあたっての資金回収業務が困難となる。
(4)EUによる対イラン制裁
弾道ミサイル開発等の活動への直接的・
(3)国連による対イラン制裁
間接的な協力を禁じている他、国連決議
国連安全保障理事会では、2006年の決
には含まれていないイランのエネルギー
議1696号でイランの核濃縮関連活動の停
分野への資機材供与・資金/技術協力を
⑤イラン脅威削減・シリア人権法(Iran
止を求めたが、イランが活動を停止しな
禁じている。金融分野では、核開発活動
Threat Reduction and Syria Human
かったため、同年の国連決議1737号で制
とイランエネルギー分野を対象として融
Rights Act)
裁措置を発動、次いで2007年、2008年、
資・保証・保険・再保険・ブローカー行
為・投資行為を禁止する。ま
た、イランに対する4万EUR
表2 具体的な対イラン制裁オプションの内容
根拠法
制裁の内容
①制裁対象主体への米国からの輸入に対する米国輸出入銀行による融資、クレジット、クレジット
保証の禁止
ISA オリジナル
イラン脅威削減・
シリア人権法
している。これまで国連決議
で制裁対象とされた個人・組
織に関してのEU加盟国にお
②制裁対象主体への米国軍事技術または軍事に有用な技術の輸出のためのライセンス停止
ける資産凍結も含まれる。
③制裁対象主体への年間 $1,0 0 0 万以上の米国金融機関からの融資の禁止
2 0 1 2年1月2 3日、イランの
④制裁対象が金融機関の場合、その金融機関が米国の主要な政府債取り扱い金融機関としてサービ
スの禁止、または米国政府資金の預け入れ銀行口座としてサービスの禁止
CISADA 追加
以上の送金には許可が必要と
核開発計画に対するEUの深
⑤制裁対象主体からの米国政府調達の禁止
刻かつ深まる懸念を受け、
⑥国際緊急経済国法
(IEEPA: International Emergency Economic Powers Act)
に定めるところによ
る制裁対象主体からの輸入の制限
EU理事会は、同国に対する
⑦制裁対象主体による外国為替取引の禁止
EUの制裁措置を拡充した。
⑧制裁対象主体と米国金融機関との間のクレジットまたは支払いの禁止
この決定は既存の制裁措置を
⑨制裁対象主体によるその米国ベースの資産から金銭的利益を生じる取得、保持、利用または取引
を行うことの禁止
補完し、核計画の資金源を標
⑩米国市民が制裁対象主体から著しい量の株式または国債に投資し、または購入を行うことの禁止
的にするものである。理事会
⑪制裁対象企業の支配株主または執行役員の米国からの追放
はイラン産の原油および石油
⑫制裁対象企業の主たる事務所への ISA 制裁条項の適用
製品の輸入を禁止し、これら
出所:JOGMECワシントン事務所作成
製品の輸入・購入・輸送のほ
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か、関連する資金調達や保険を対象にし
ている。更に、理事会はイランからの石
(3)2 013年のイラン、P5+1による
ジュネーブ共同行動計画(JPOA)
換に、イラン産原油の輸入を既に開始し
たことを明らかにした。イランが4月、核
油化学製品の輸入、およびこの分野のた
2 0 0 8年7月1 9日、スイスのジュネーブ
問題で欧米やロシアなど6カ国と「枠組み
めの主要な装備や技術のイランへの輸出
市庁舎で、イランと国連安保理常任理事
合意」に達したことを受け、事実上の制
を違法とした。イランの石油化学企業へ
5カ国+ドイツ(P5+1)とで、イランの核
裁緩和にロシア単独で踏み切ったもので
の新たな投資やそのような企業との合弁
開発疑惑に関する協議が開始された。
ある。イランの核開発疑惑をめぐり、米
事業も禁止される。
途中、紆余曲 折はあったものの、2013
国やEUはイラン産原油の輸入を止める
理事会はまた、厳密な条件の下での合
年1 1月2 4日に、イランとP5+1によりジュ
制裁を課している。
「枠組み合意」が最終
法的な取引の継続を保障しながらも、
ネーブ共同行動計画(JPOA:Joint Plan
合意に移行するまで、制裁は解除しない
EU域内にあるイラン中央銀行の資産を
of Action)
が「暫定合意」
され、2014年1月
方針であり、ロシアの行動には反発する
凍結した。イランの公的機関や中央銀行
2 0日からEUと米国により同時に6カ月間
と見られる。リャプコフ次官は
「原油との
う よ きょくせつ
*17
。
との金・貴金属・ダイヤの取引、および
の第1段階が実施に移された
イラン通貨の表示のある紙幣・硬貨のイ
EUによる制裁緩和措置のうち、原油・
明し、イランに提供している物資は「制
ラン中央銀行への引き渡しは禁じられ
石油製品に関しては、①イラン産、ある
裁の対象ではない」と主張した。ロシア
る。いくつかの軍事的用途にも使い得る
いはイランから輸出される原油や石油製
はウクライナ情勢をめぐり欧米と対立、
取り扱いに注意を要する追加的製品も今
品に対する輸送禁止、②上記原油・石油
イランとの関係でも制裁解除の可能性を
製品の輸入、購入、輸送に対する保険、
見越して、独自の動きを強めている*20。
*16
後イランへの売却は禁じられる
。
4. 対イラン制裁緩和の流れ
バーター取引を既に実施している」と言
再保険の提供禁止という措置が、ともに
一時停止される。ただし、イランの金融
機関も引き続き制約の対象であり、EUの
(1)
制裁緩和の流れ
5.「枠組み合意」をめぐる
評価に関して
金融機関との取引は禁止され、SWIFT
(1)どちらがより譲歩したか?
米国は1986年以来、イランからの輸入
システムの使用も禁じられている。
品に特別の関税を賦課する政策を採り、
米国による制裁緩和措置では、石油
4月2日の「枠組み合意」をめぐっては、
その後イランからの輸入が禁じられた。
化学、自動車製造業、貴金属関連での
イラン側と国連側のどちらがより譲歩し
2 0 0 0年3月1 7日にオルブライト国務長官
禁止事項が緩和され、関連する保険、
たかが注目点になった。専門家は、「イ
(当時)
は、イラン産の伝統産品の輸入解
輸送、金融サービスも許可される
*1 8
。
ランが本当に核兵器を開発する意図を
禁を決め、翌月から施行された。品目は、
また、中国、日本、韓国、台湾、トル
持っていたとするならば、非常に大きな
キャビア、ピスタチオ、ペルシャ絨毯の
コによる現行レベルでのイラン産原油
妥協だが、ウランを濃縮し、それを燃料
3品目である。
の輸入を認め、凍結されていた$4 2億に
として発電し、核燃料サイクルを確立す
ついては、外国金融機関からイランに
ることが目的だったとするならば、今回
分割送金される。
の合意は国益を重視した合理的判断と言
2014年2月5日、イランの核開発問題を
える」と評価した*21。評価が分かれるポ
アメリカの国 家 情 報 会 議( N I C:
めぐり国外で凍結されていた同国の原油
イントは、イランに核兵器を開発する意
National Intelligence Council)
は、イラン
収入のうち、日本銀行に凍結されていた
図があったと見るか、否かにある。
は2 0 0 3年秋に核兵器の開発を中止してい
$5億5,0 0 0万の代金がイラン側に送金さ
るので、イランの核兵器開発疑惑は事実
れた*19。
ではないと政府に報告し、米政府は2 0 0 7
2014年、米ボーイング社は、革命後初
イラン側では、最高指導者ハメネイ師
年12月3日に国家情報評価
(NIE:National
めて航空機部品をイランに輸出した。
は1週間沈黙を守っていたが、4月9日に
じゅうたん
(2)米政府によるイラン核兵器疑惑の否
定的評価
なって核協議について「米国が欺かなけ
Intelligence Estimate)として、これを公
表した。その後、これを覆した発表はな
いことから、イランにおける核兵器疑惑
(2)イランの立場
(4)ロシアによるイラン原油のバーター
輸入
れば、他の問題でも話し合えるかもしれ
ない」と初めて発言し、対話拡大に含み
はないとするのが米政府の基本的な見解
2 0 1 5年4月1 3日、ロシアのリャプコフ
を持たせた。この発言は、その間、交渉
で、議会と異なる立場であると思われる。
外務次官は、ロシア産穀物や「技術」と交
に懐疑的とされた保守強硬派から合意に
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一定の評価を与える発言が相次いだこと
6.対イラン制裁と対露制裁
との比較
によるものと思われる。イランでは、ウ
ラン濃縮装置は1/3に数が減ることになっ
たとはいえ、関連基地に関してはいずれ
スの禁止が中心になっており、在来型石
油資源やガスは対象となっていない。す
なわち、西側の保有する最先端技術のロ
シアへの提供を禁ずるものである。
(1)ウクライナ問題による対露経済制裁
表4にイランに課された制裁とロシア
2 0 1 4年3月のロシアのクリミア併合を
に課された制裁とを比較した。技術的に
契機として、米、EU、日本、カナダ、オー
は類似のレベルであるが、ロシアに対し
ストラリア等が、対露制裁を発動した。
ては、イランにおける国際送金システム
「枠組み合意」の成った翌週、政府とは
EU、米、日本の制裁の内容を表3に示す。
からの排除のような苛烈な制裁にはなっ
対照的に、米議会では野党共和党を中心
EU側の制裁は踏み込んだものとは言え
ていない。
に、合意反対や見直し論が出ている。特
ず、オバマ大統領が「欧州は覚醒すべき
に、イラン核計画を制限する措置が10~
時だ」と述べるなど、いら立ちを募らせ
15年間となっており、それ以降にイラン
ていた。7月1 7日に東ウクライナでマ
が核兵器開発を行う可能性のあること
レーシア航空機が撃墜されるという事件
(政府、議会)、欧州、中国、イスラ
米
を問題視している。議会に最終合意の見
が発生し、ミサイルが親ロシア派の占領
エル、国際石油ガス産業界の、対イラン、
直しの権限を与える法案が、4月1 4日、
地域から発射された可能性が高いと判断
対ロシアの制裁に対する考え方を、図4
米上院外交委員会で全会一致で採決さ
されたことから、EUも厳しい制裁に踏
に示した。
み込んだ。更に、9月にウクライナ東部
イランに対して、今回の
「枠組み合意」
こうしてみると、米政府側は制裁緩和
での軍事的な活動が活発化したことを踏
を非難し、更にイランを核兵器の使用か
を急いでおり、イランの核兵器開発に関
まえ、更なる制裁が課された。
ら遠ざける必要性を唱えているのが、米
も存続が認められており、大きな譲歩に
はなっていないとの理解が一般的である。
(3)
米国の立場
れた
*22
。
して懐疑的な姿勢は、2007年の国家情報
評価(NIE)以来、一貫しているように見
か れつ
(3)対イラン、対ロシアの制裁に対する
考え方
議会とイスラエルである。米議会は同様
(2)米による対イラン、対ロシア制裁の
内容の比較
える。これに対して、米議会はイスラエ
ルに極めて近い立場を取っている。
にロシアに対しても、SWIFTからの追
放を含む、より強い制裁を求めているが、
イランに課せられた制裁に比べると、
イスラエルは対露制裁に関して特段の意
対ロシアのそれはまだ低い段階にある。
見表明はなく、更に昨年3月27日の
「ウク
対露制裁の特徴は、ロシアの石油産業
ライナの領土一体性に関する国連決議」
イスラエルのネタニヤフ首相は3月3
を必ずしも標的にしたものではないとい
ではウクライナの民族主義を警戒して棄
日、
米議会の上下両院合同会議で演説し、
う点に、それは表れている。表3に見る
権に回るなど、ロシアに対しては融和的
P5+1とイランが進める核協議について
とおり、大水深・北極海・シェール用機
な姿勢である。
「イランの核兵器開発を阻止することは
材の米国からの輸出禁止、そしてサービ
米政府は、イランとの
「枠組み合意」
を
(4)
イスラエルの立場
できない。核兵器を多数保有する
のを保証するようなものだ」と指
摘。
「非常に悪い取引だ」と交渉の
表3 ロシアに対するEU、米国、日本による制裁(2014年)
意義を根底から否定した *2 3 。そ
して、4月2日に
「枠組み合意」
が発
表されるとすぐ、同首相は再び枠
組みの内容を激しく批判し、「今
議題に上がっている対策はイラン
を核兵器の使用から遠ざけるもの
ではない」と主張した。一方、イ
スラエル対外情報機関
(モサド)
の
エフライム・ハレヴィ元長官は、
ネタニヤフ首相がイランとP5+1
の間で核開発プログラムに関する
制裁
EU
米国
日本
第 1次
・3 月6 日:3 段階の対露制裁。まず ・3 月6 日:露政府高官・軍関係者等 ・3 月18 日:査証緩
(クリミア併合へ
は露とのビザ交渉凍結
の資産凍結・渡航禁止
和凍結、投資・宇宙・
安全保障での協定
の対応)
・3 月17日:露、クリミア当局者ら ・3 月17日:7 名の資産凍結・渡航
2 1名の資産凍結・渡航禁止
禁止追加、Yanukovich など
交渉の凍結
・3 月 2 1日:12 名の資産凍結・渡航 ・3 月 2 0 日:2 0 名の資産凍結・渡航
禁止
禁止追加、Tymchenko も
第2次
・5 月12日:13 名、2 社の資産凍結・ ・4 月2 8日:Rosneft のSechin 社長を ・4 月 2 9 日:2 3 名
渡航禁止
含む7 名17 社の資産凍結・渡航禁止 の査証停止
第3次
・7 月12日:追加資産凍結・渡航禁止
・7 月16 日:経済制裁。9 0 日超の資 ・8 月5 日:クリミア、
(マレーシア航空 ・7 月16 日:EIB、EBRD の融資禁止 金調達禁止
(Gazprombank、VEB、
ウクライナ東部の
機撃墜で強化) ・7 月3 1日:大水深・北極・シェー
Rosneft、Novatek)
不安定化に関与す
ルオイル用機材の輸出は事前認可。 ・8 月6 日:大水深・北極海・シェー
る企業の資産凍結、
ガスは非対象、8 月1日前の契約は
ル用機材の米国からの輸出禁止。3
輸入制限
不問。90日超の調達禁止
(Sberbank, 銀行と統一造船の米市場調達禁止
VTB)
極めて大幅な譲歩案を提案したと
第4次
・9 月12日:大水深・北極・シェー ・9 月12日:5 社(Gazprom、Lukoil、
・9 月 2 4 日:露の大
(ウクライナ東部
ルオイル事業への掘削・テスト・検 GazpromNeft、Surgutneftegaz、
手 5 行の日本での資
の不安定化)
層等のサービスの禁止 Rosneft、
Rosneft)に対する大水深・北極海・シェー 金調達の禁止。武
Transneft、GazpromNeft に対する
ル事業を支援する機器、サービス、技術 器輸出、武器技術
3 0 日超の資金調達の禁止。2 4 名の の提供禁止。5銀行の30日超の調達禁止。 提供の制限
資産凍結・渡航禁止
Transneft、GazpromNeft の 9 0 日超の
社債発行禁止。9 月 2 6 日までの猶予
主張した*24。
出所:各種報道から筆者作成
「枠組み合意」
に反対したことを強
く批判し、イランは交渉のなかで
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米国による対イラン、対ロシア制裁の比較
表4 (政策的効果に関しては本文参照)
対イラン
制裁分野
内容
対ロシア
経済的効果
内容
経済的効果
人・組織への制裁
・要人、革命防衛隊他の組織
大きくない
・要人の渡航禁止・資産凍結
大きくない
技術移転の禁止
・石油ガス、石油化学製品の
生産維持向上に資する財・
サービスの提供禁止
・造船・海運に関する財・サー
ビスの提供禁止
大きい。石油
生産は長期減
退。ガス開発
は低水準
・大水深・北極・シェール用
機材の輸出禁止
・上記に関する機器・サービ
ス・技術の提供禁止
ややあり。
シェールオイ
ル開発不可に
金融制裁
・ソブリン債の購入制限
・イランとの国際的取引に対
する保険・再保険の制限
・外銀の融資は制裁対象では
ないが、その実態なし
大きい。長期
にわたる投資
減。輸出低迷
・主要銀行による 3 0 日超の
調達制限。
・企業の 9 0 日超の社債の発
行制限
大きい。国民
福祉基金また
は中国からの
融資頼み
国際送金システムからの排除 イラン中央銀行と取引する外
国金融機関に対する制裁
大きい。原油
輸出を制限
現在は行われておらず。米共 極めて大。欧
和党を中心に要望
州全体に波及
出所:各種報道から筆者作成
出所:筆者作成
図4 対ロシア、対イラン制裁に対する各国の立場
まとめた立場であり、ロシアに対しては
裁の緩和を期待している。
めた *2 5。これは、原油輸出を物理的に
対決姿勢はあっても、議会の過激化を抑
える立場である。欧州は、対イラン、対
シアの原油輸出を制裁対象とするよう求
米における対露追加制裁の議論
(4)
止めるのではなく、国際的な銀行間決済
ロシアで対決姿勢から制裁強化をある程
2014年7月の段階で、米下院のマッコー
ネットワークSWIFTへのアクセスを禁
度指向すると思われるが、中国は融通無
ル国土安全保障委員長(共和党)は、ロシ
じ、輸出した場合の資金回収手段を封じ
碍にほとんど中立を貫いている。国際的
アには制裁の衝撃を吸収する力があると
るものである。同様の主張は、米英から
な石油ガス産業界は、ともに投資対象と
して、米欧による制裁は「効果的ではな
折節につけて間 歇的に出されているが、
して進出の機会を窺っている。当然、制
い」と指摘し、効果のある施策としてロ
EUを中心に取り上げられることはこれ
む
げ
かんけつ
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までなかった。
あれ相手国に何がしかの経済における負
事なのは我慢ではなく、
(制裁を)経済発
これには従来、批判も多い。例えばモ
の影響があることは確実である。しかし、
展に利用することだ」と訴えた*2 8。国産
スクワの石油勧告フォーラム(PAF:
経済制裁の目的は、相手側に経済的な打
農産物への回帰がその例である。ロシア
Petroleum Advisory Forum)の
撃を加えることではなく、これにより相
側も長期戦を覚悟しているように見える。
Konovalov事務局長は、「それは核オプ
手側に政策の変更を促せるかどうかがポ
今回、イラン側が大幅に譲歩して合意
ションだ」と断言した。ロシアの石油産
イントである。これまでも、成果が上がっ
にこぎ着けたと見るならば、制裁は相手
業が壊滅的な打撃を受けるだけでなく、
た例として、アパルトヘイトを断念させ
の政策変更に大いに効果があったと通常
ロシア経済と密接な関係にある欧州経済
た南アフリカ共和国に対する経済制裁が
は見なされる。そして、その見方を取る
も、同様の打撃を受けることになるとの
ある。
グループはロシアに政策変更を迫るに
主張である。
2 0 1 5年4月1 5日、ドイツ北部リュー
は、更に制裁を強化すること、特に国際
3月2 0日、EUのTusk大統領は、対露
ベックでの先進7カ国(G7)外相会合は採
送金システムからの追放が効果的である
制裁をめぐってEU内で一致した立場を
択した議長声明で、ウクライナに事実
とする意見と思われる。
維持することが徐々に困難になってき
上侵攻したロシアに課している制裁を
一方、イランが譲歩していないとい
ていることを認めた。EUの関係筋が匿
解除する条件として、今年2月のウクラ
う解釈を取るならば、国際送金システ
名を条件に語ったところによると、域
イナ和平合意の完全履行と、同国の主
ムからの切り離しまで行ったイラン制
内では半数以上の国が制裁緩和を望ん
権尊重をロシアに要求する姿勢を示し
裁は、イラン経済に痛手を与えたこと
でいるという。また専門家は、ロシア
た。制裁圧力をかけ続けながら譲歩を
自体は確かではあろうが、イランの政
*2 7
。
「 ウクライナの主権
策を変える手立てとはなっていないと
はエネルギー関連技術以外に米欧から
迫る戦略である
それほど多くを必要とはしていないと
尊重」とは、クリミア半島の返還に他な
いうことになる。
。
らない。ロシアがこれを実行すると思
現状のイランの国内世論を見る限り、
端的に言うなら、対露制裁の効果に疑
う人はいないだろう。すると、対露制
これまでの対イラン制裁がイランに経済
問はあるものの、それを理由に緩和した
裁には効果が見られない一方で、制裁
的疲弊をもたらしても、その政策を変え
い立場と、それを理由に原油の禁輸まで
そのものは未来永 劫とは言わないまで
るに至っていないことを示していると解
強化したい立場とで、両極端に相反して
も、相当期間続く状況が想定される。
され、現在米議会で論じられている対露
いるのが現状である。しかし、制裁を強
4月1 6日、プーチン大統領は毎年恒例
制裁強化についても、ロシアの対外政策
化すると効果が出るだろうというのはあ
のテレビを通じた国民との対話に臨んだ。
の変更を促すものとはならないと予測さ
くまで希望的観測に過ぎない。
そのなかで、制裁解除の見通しについて
れる。
も指摘している
*26
えいごう
問われると、
「欧米諸国によるロシアに対
(5)
対イラン制裁の教訓
経済制裁を実施すれば、程度の差こそ
(本村 眞澄)
する政治的、戦略的な政策であり、解除
を待つ意味はない」と語った。また、
「大
<注・解説>
*1: Argus FSUEnergy, 2015/4/09
*2: 第4位はカタールの1,585億㎥/年
*3: BP Statistical Review of World Energy, June 2014
*4: BP Statistical Review of World Energy, June 2013
*5: B
P統計では過去の評価値にもさかのぼって改訂するという方式を取っており、図1における各国のガス埋蔵量は、各年のBP
統計にのみ掲載されている。
*6: Oil and Gas Journal, 2014, Dec.1
で世界第1位
*7: カタール側のNorht Domeガス田の可採埋蔵量は900Tcf(25.5T㎥)
*8: BP Statistical Review of World Energy , June 2014
*9: Argus FSUEnergy, 2015/4/09
*10: IOD, 2015/3/18
*11: WSJ, 2015/4/08
*12: IOD, 2013/7/13
*13: IOD, 2014/11/17
*14: 日経, 2015/3/24
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*15: SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)
は、国際銀行間通信協会と訳され、銀行やその他の
金融機関の間の通信を取り扱うネットワークを運営する民間の組織である。1 9 7 3年に設立され、1 9 7 5年に基本的な運用の仕
組みを確立し、1977年から通信を開始した。2005年には202の国と地域の7,800を超える金融機関が会員となっている。法人格
としては、本部の置かれているベルギーの法人であり、条約に基いた国際機関ではない。
*16: 駐日欧州連合代表部
(2012.1.23)http://www.euinjapan.jp/media/news/news2012/20120123/110000/
*17: 米国とEUの対イラン生産緩和措置、2014年2月、
(独)
日本貿易振興機構 ジェトロ・ドバイ事務所
*18: Reuters, 2014/1/20
*19: Reuters, 2014/2/05
*20: 共同, 2014/4/13
(日経ビジネス、2015/4/07)
*21: 中東調査会村上拓哉研究員
*22: 毎日, 2015/4/15夕
*23: 共同, 2015/3/03
*24: Huffington Post, 2015/4/08
*25: 産経, 2014/8/01
*26: Reuters, 2015/3/23
*27: 共同, 2015/4/16
*28: 毎日, 2015/4/16
執筆者紹介
本村 眞澄(もとむら ますみ)
[学歴]1977年3月、東京大学大学院理学系研究科地質学専門課程修士修了。博士
(工学)。
[職歴]同年4月、石油開発公団(当時)入団。1998年6月、同公団計画第一部ロシア中央アジア室長。2001年10月、オクスフォー
ド・エネルギー研究所客員研究員。2004年2月、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEG)調査部
主席研究員(ロシア担当)。
[主な研究テーマ]ロシア・カスピ海諸国の石油・天然ガス開発と輸送問題、地球資源論。
[主な著書]
世界の大油田』
(共著)技報堂出版、1984年/『石油大国ロシアの復活』アジア経済研究所、2005年/
『ガイドブック
『石油・ガスとロシア経済』
(共著)北海道大学出版会、2008年/『日本はロシアのエネルギーをどう使うか』東洋書
店、2013年
[趣味]ブルーグラス、カントリー・アンド・ウェスタン
73 石油・天然ガスレビュー
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