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資料4 - 日本原子力学会
福島第一原子力発電所事故の教訓対応を超えて、 原子力安全確保への取組みへの所見 -原子力安全・保安院での経験と最近の米国関係機関(NRC等)との意見交換結果などからー 2015・8・18 原子力安全部会夏期セミナー 政策研究大学院大学 教授 根井 寿規 はじめに 福島第一原子力発電所事故発生時に原子力安全保安院審議官の任にあり、結果として、事 故の防止ができなかったことは痛恨の極みである。 現在も、約11万人もの方々が避難生活を余儀なくされ、除染作業、廃炉作業など長期間の事 後処置が必要など、原子力発電所において、一度、過酷事故が発生すると取り返しのつかな い事態に至ることを歴々と今も見せつけられている。そのことを忘れてはならない。 本日は、原子力安全保安院での規制行政経験などから、現時点での原子力安全に対する認 識を述べさせていただく。 事案の重大性は異なるが、経験した時期が東京電力の自主点検データ不正事案や関西電 力美浜3号機二次系配管破損事故から間もない時からで、規制制度変更による混乱、事業者 と規制部局とのコミュニケーションの希薄さなど今日の状況に通じるところもあると感じている。 福島第一事故の初動対応の反省からの所見なども含め、今後の原子力安全に関する活動 の充実に参考になることを期待しております。 こうした機会を与えていただいたことに感謝申し上げます。 原子力分野への関与と認識の変化 -原子力行政経験は、平成17年9月からの原子力安全保安院 原子力発電検査課長が初めて(当時47才) ○検査課長着任までの原子力(行政)への認識・・・“うさんくささ” -閉鎖性 -秘密主義(もんじゅ事故からプルサーマルへの転換プロセス) -安全を過度に強調する傾向(美浜2号の事象、チェルノブイル事故の相対化、JCO事故の際の発電所との相違強調) -地球温暖化対応の過度の強調 ○検査課長経験後の評価(保全学会への寄稿文) -安全管理のための多重かつ多様の努力の蓄積 →軽水炉指針27解説改訂の事実を不承知だったことは痛切に反省 -情報公開が徹底されている(核セキュリティ等関連を除く)こと →2002年の東京電力不祥事の効用と認識 <経歴:電力・原子力関連業務を中心に> 昭和56年3月 東京大学理学部地学科(地質学専攻)卒業 昭和56年4月 通商産業省入省(工業技術院総務課) 平成6年5月 資源エネルギー庁総務課(電気事業法等改正、阪神淡路大震災) 平成7年5月 大臣官房総務課 平成17年9月 原子力安全保安院 原子力発電検査課長 平成20年7月 東北経済産業局長 平成21年7月 原子力安全保安院審議官(原子力安全・核燃料サイクル担当) 平成24年4月 石油天然ガス金属鉱物資源機構理事 平成26年6月 政策研究大学院大学教授 “原子力に対する想い”(平成20年6月保全学会)からの抜粋 「原子力エネルギー利用技術は、リスクはあるが、極めて有用であることから、人類の叡智を集めて管理すべき貴重な知的財 産であるという想いを新たにし、これに携わるものの覚悟が問われていると感じている。 初めて原子力安全行政に携わったこの間の経験で、軽水炉は、これを安全に管理できることが既に実証されている技術である との認識を強めている。一方で、その点を社会に理解していただく努力が十分でないと感じている。 (中略) 原子力技術を利用する上でなされている社会との約束ごとの一つ一つを確実に実施していくことで、その期待に応えることが 人類最高の知的財産である原子力に携わる機会を与えられたものの努めである。その誇りを大事にしていきたい。」 福島第一原子力発電所事故を経験して 条件付で基本的な認識を変える必要はないとの理解 (福島第一原子力発電所事故対応を含めた原子力安全保 安院での経験などから) 条件付とは? 深層防護(Defense in Depth)の徹底 自然災害、外部起因事象は待ってくれない(シビアアクシデント対策、津波評価作業が間に合わなかったことの反省) 2. 原子力発電検査課長としての経験(平成17年9月6日~平成20年7月11日) 1)着任時の状況 ・2002年8月に表面化した東京電力の自主点検記録不正事案の対応が一巡 ・2003年10月に導入された定期事業者検査と定期安全管理審査等による現場混乱の初期調整時期 ・2004年8月に発生した関西電力美浜発電所3号機二次系配管破損事故の再発防止対策確認が急務 ・2005年8月の宮城県南部地震で、女川原子力発電所で基準地震動を一部スペクトルで上回る事象が発生 ・2005年時点では追加的なトラブル事象はほとんどなく全体的には落ち着いた状況 ・事業者とのコミュニケーション環境はほぼ遮断状態 ○着任時に指示されたミッション ・20年来の懸案とされる長期サイクル運転導入の道筋の確立 ・検査制度の運用改善 ・美浜発電所3号機の早期再稼動への段取り調整 ○<初期段階で工夫したこと ・2年間中断していた「検査の在り方検討会」の再開準備 ・事業者とのコミュニケーションチャネルの構築 ・美浜発電所3号機の再稼働に向けたスケジュールを無理ないものとするための調整(急がば回れ) ○業務遂行上留意したこと ・緊急時対応を時間経過とともに可能な限り早期に平時の対応に移行すること(検査制度、高経年化対策など) ・規制の予見可能性、透明性確保等の観点から検査業務の規制側のマニュアル整備を進めること ・事業者、メーカーとの良好なコミュニケーションの環境を形成すること(学協会活用を含む) ・措置対応については、検査官等の技術的視点の合意形成重視(幹部等からの政治的配慮要請を極力排除) 2005年 2006年 2007年 2008年 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 検査課長在任期間 東通合格証交付 志賀2号合格証交付 検査制度 検討開始 報告書案 報告書法令検討 省令改正方針 臨界事故隠し発覚 省令詳細検討 原子炉停止間隔提示 地元説明・制度詳細設計 発電設備総点検 省令案 省令 総点検指示 制御棒引き抜け 事案等 報告書 検査制度見直しの一部先行実施 中越沖地震 発生 発生時対応取りまとめ 東海第二 高経年化対策充実 伊方1 報告書 省令改正 3プラント評価(浜岡1、1F3、美浜3) 規制マニュアル等作成 1F5 大飯1 1F4 ガイドライン等改訂 大飯2 浜岡2 運転管理規程見直し作業 (2010年11月報告書) 検査運用関係 保安検査基本計画策定 事業者との情報交換 東北電力総点検 中国電力 北陸電力LPRM 保安調査・ 検査ガイ ド 作成、品質保証検査ガイ ド 作成、定期検査・ 定期安全管理審査・保安検査の一体運用検討 学協会の活用(日本機会学会 原子力安全規制の最適化に関する研究会等) 最初の面談 初期面談終了 原子力安全保安院検査課・保安検査官事務所、電力会社本社・各発電所関係者による総合意見交換会実施 メーカーとの定期情報交換会設置(電気工業会ベース) 行政不服審査対応 処理案作成 トラブル対応 意見聴取会 決定 PWR蒸気発生器一次冷却系管台溶接部亀裂 ハフニウム板型制御棒ひび損傷 2F3 PLR配管全周亀裂見逃し 東芝流量計データ不正 美浜3号機事故対応 使用前検査 最終事故調 地元調整 浜岡5号タービン破損 意見聴取会 裁決 対応指示文書 対応合理化指示文書 2)検査制度の見直しについて <長期サイクル運転の導入についての認識> ・石油プラントに関する米国在勤時の調査経験などから原子力で導入されていないことに不自然さを感じた <関係者へのインタビューからの所見> ・国際的な安全規制制度との乖離・・・定期検査への偏重、随時検査の未整備など ・過去の立地対策における定期検査への過度の言及(推進サイドによる規制の都合のよい利用の事例) ・定期検査間隔の延長による地元雇用機会減少懸念への対応の必要性 <検査制度見直しの基本コンセプト-平成17年12月頃に整理したもの> ①信頼性重視保全、状態監視保全を含めた保全プログラムの導入(認可制)・・・長期サイクル運転の前提 ②根本原因分析の導入等品質管理検査の充実 ③運転中-停止中一貫した検査の導入 <主要な経過> 平成17年11月「検査の在り方検討会」再開 (ハフニウム板型制御棒、PLR配管全周亀裂、流量計データ不正、ABWRタービン破損などトラブル事案多発) 平成18年7月報告書原案作成(→19回の会合を重ねた上で、パブリックコメントへ) 平成18年9月報告書確定 平成18年12月省令改正で制度構築することを決定 (発電設備総点検で中断) 平成19年5月 発電設備総点検で上述の②③を先行実施へ (平成19年7月 中越沖地震発生) 平成19年8月 長期サイクル運転(原子炉停止間隔延長可)制度導入方針表明 平成20年6月 省令案策定(→パブリックコメントへ) 平成20年8月 省令改正決定 検査制度見直し実現のプロセスからの所感 〇事故トラブル対応でない平時の制度改正の重要性と困難さを改めて痛感 ・平時の制度改正であるため、制度導入の前倒しを強いられることもなく、技術データ準備作業などを粛々と進めることができ、 国際的な動向も踏まえた新たな制度設計ができたと評価している。 ・保全プログラム導入等の省令改正は実現できたが、電気事業法と原子炉等規制法の統合一本化については、政策的必要 性が希薄、即ち緊要性がないとして、内閣法制局の理解が得られず実現できなかった。 ・安全確保に対する技術的基礎がしっかりした内容の制度改正であれば、制度見直しを妨げかねない事案に遭遇しても、強 い意思で実現に向けた調整を貫徹できるということを実体験したもの。 〇技術的に必要性を正しく検討した制度は、事故トラブル対応にも対応可能であることを実感 ・発電設備総点検の結果を踏まえた措置としては、既に実施済みの平成15年10月からの措置に合わせて、運転中-停止中 の一貫した検査及び根本原因分析の導入を追加すれば十分との評価をした。 (福島第一原子力発電所事故後の新規制基準対応の法改正についても、事故以前に進められていたシビアアクシデントの規 制対応化準備作業が有効に機能したものと認識している。) 〇事業者サイドの制度改正要望と技術データ蓄積などの現場の準備状況の乖離事例が散見 ・信頼性重視保全、状態監視保全の導入のためのデータ取得蓄積と基準・標準作成作業に時間を要した。 ・発電設備総点検、中越沖地震による中断のため、新検査制度は2009年1月施行、2010年度から本格導入となったが、そのタ イミングで現場レベルの技術的準備はギリギリの状況。当初想定の2007年乃至2008年春施行には間に合っていない。 (福島第一原子力発電所事故後の原子力規制委員会の審査体制整備要求と事業者側の準備状況の遅れによる乖離を聞き、 その頃の状況を彷彿とさせる事例と感じている。) 我が国の原子力発電所の運転状況と検査の関係 約3ヶ月 プラン運転期間(13ヶ月以内) 約3ヶ月 プラン運転期間(13ヶ月以内) 定期事業者検査 プラント停止 調整運転(約25日) 事業者 『定例試験』(例) 『定例試験』(例) 非常用炉心冷却系ポンプ起動 プラント 停止 調整 運転 規制当局 定期検査 定期安全 管理審査 プラント 停止 非常用発電機手動起動 保安検査 非常用炉心冷却系ポンプ起動 保安調査 調整 運転 非常用発電機手動起動 定期検査 定期安全 管理審査 保安 保安 検査 調査 『保守管理に係る保安検査項目』(例) 『保安調査』 配管の肉厚管理の実施方針及び実施状況 保安検査期間外においては、施設立入、書類等の検査、 関係者への質問、試料の提出について法律上の権限 を有していない。 (ただし、実態上は、検査官の任意の要請に応じ 定例試験への立会(非常用発電機手動起動等) て事業者の協力を得て、現場の巡視パトロールや定例試験への立会い などを行っている) 保守管理計画の策定・実施状況 9 現行の検査制度の課題と改善の方向性 1.保全プログラムに基づく保安活動に対する検査制度の導入 高経年化が進む中、プラント毎の特性を踏まえて事業者の保全活動の充実を求めることが必要 →プラントごとの保守管理活動を保全計画の策定等を通じて充実強化させ、検査も、一律の検査からプラント毎の特 性に応じたきめ細かい検査に移行していく 2.安全確保上重要な行為に着目した検査制度の導入 運転中、停止中を問わず、事業者の保安活動における安全確保の徹底を求めることが必要 →現在停止中に集中している検査に加え、運転中の検査を充実強化していく 3.根本原因分析のためのガイドラインの整備等 美浜3号機事故のような事業者の人的過誤、組織要因による事故・トラブルを防止するため、事業者による 不適合是正の徹底を求めることが必要 →事故・トラブルの根本的な原因分析に事業者が積極的に取り組むことができるようガイドラインの整備等を 進めていく 10 -事業者の保安活動のリスク重要度等を踏まえた検査対象及び頻度 の具体的検討- 事業者の①~⑩の活動について保安検査・保安調査で定期的に確認 ⑤燃料の貯蔵 ⑧保守管理計画 ②運転員の確保及び育成 ⑥放射性廃棄物放出管理用計測器の管理 ⑨原子力防災計画及び訓練 ③原子炉運転 ⑦放射線被ばく管理 ⑩所員及び請負会社従業員への保安教育 定期的に確 認する事 項に係る検査 対象 項 目 ①品質保証計画の策定、実行 ④原子炉停止 四半期程度毎 停止中(保全プログラムに基づいた定期事業者検査の実施) 燃料取替作業 不適合発生時 の処 置 ( イレギ ュラーに発生) 緊急時 の作業確 認 ( イレギ ュラーに発生) 非常 用電源の確保 事故時 の放射性物質 の閉じ込め機能確 認 事故時 の原子炉冷却に係る設備 ・ 機器 の性能維持 及び 信頼性確保 原子炉起動前 の確 認 出力変 化及び 温度制御に係る機能確 認 起動操作前 リスクレベル 原子炉水位変化に よるリスク増加 原子炉起動に係る設備 の機能確 認 運転 手順書 の作成 ・ 整備確 認 放射性物質 の閉じ込め機能確 認 原子炉停 止時 の設備 ・ 機 器 の健 全性 及び機能等 の確 認 海水系切替 燃料 取替 運転 手順書 の作成 ・ 整備確 認 原子炉停 止前 の確 認 原子炉停 止に係る設備 ・ 機 器 の機能確 認 出力変 化及び 温度制御に係る機能確 認 分解検査等停止 時に確認する事項 事業者 の活動により増 加する事 故 ・ トラブル リスクやこれら の発生時 の影響 のうち重大な も の着 目して行う検査対象 項目 不適合等 によるリスク増加 海水系切替によ るリスク増加 高圧炉心スプレイ系等 の待機除外によるリ スク増加 原子炉 起動操作 原子炉 起動準備 運転中 原子炉停止 原子炉 停止操作 11 実用発電用原子炉に係る検査制度の見直しのイメージ(平成18年9月想定) 保安活動管理の充実・強化(品質保証計画の充実・強化) 1999 2000 2001 保守管理の充実・強化 運転管理の充実・強化 JCO事故 NISA設立 2002 検査の在り方検討会 2003 自主点検記録問題 2004 現行検査制度の開始 在り方検討会 7提言 基準・規格 の整備 法律に基づ く機動的措 置 品質保証活動充実 軽微なトラ パフォーマ 定量的リス ブル情報活 ンスに応じ ク評価活用 用 た検査適用 抜き打ち的 手法の導入 保安検査、 保安検査官 及び保安調 体制整備 査実施 保安規定に おける運転 管理充実 美浜3号機事故 2005 JEAC4111/ 4209策定、 技術基準体 系の見直し 高経年化対 策等の充 実・強化(高 経年化対策 報告書) JEAC4209 保守管理活 保全技術が の保全プロ 動全体との 高度化・多 グラムの高 整合性の必 様化 度化の必要 要 性 2006 定期事業者 検査・定期 安全管理審 査の導入 保安規定上 に保守管理 活動の位置 付を明確化 品質保証活 動の義務付 (事業者の 改善努力促 進) 事業者にお ける検査要 領書の作 成・記録保 存は一定程 度定着 保安検査に おける保守 管理活動に 係る確認は、 事業者の体 制まで 事業者の品 質保証活動 の仕組は一 定程度定着 保守管理規格の更なる充 実を図り、保全プログラム に基づく体系的な保守管 理の実施が課題 検査の在り方検討会 2005年11月~ 原子力施設 情報公開ラ イブラリー(NU CIA)立上 人的過誤、 組織的要因、 安全文化等 への一層の 取組が不可 欠 情報収集進 活用に向け むが、分析 活用に向け た基盤整備 及び活用は た検討実施 進展 今後の課題 事業者の品質保証におけ る評価・改善活動の確認に 課題 ○個々のプラント毎の設備の特性や事業者の管理体制に対応したきめ細かい検査へ の転換 検査制度見直しの方向 2006 ~2008 新たな検査制度 に向けた準備 2008 新たな検査制度 の開始 ・「保全プログラム」にて、個々のプラントの機器・系統毎に、 設備の技術基準等を踏まえた適切な管理指標を事業者が 設定。また、管理指標を維持するための点検方法や点検頻 度等について科学的な知見をもとに事業者が採択 ・国は、事業者の「保全プログラム」の妥当性を事前に確認 リスク情報 活用ガイド ラインの策 定 ・根本原因分析のためのガ イドラインの整備 ・プラント毎の総合評価の実 施による安全確保の充実 安全上重要な保安 活動を直接確認す る検査導入が課題 ・保安検査官制度及び保安調査によ る運転中管理定着 ・保安検査期間外における保安検査 官の指摘の限界(例:保安調査での 指摘事項を保安検査項目として抽出 し再確認 等) 運転中・停止中を通 じた保守管理活動 保安検査と保安調 に対する検査導入 査の一体化が課題 が課題 ○個々のプラントごとの運転計画に応じた運転中・停止中一 貫した検査への移行 ・リスク情報などを活用し、安全確保上重要な保安活動を特定 ・原子炉停止操作、原子炉起動操作など、安全確保上重要な 行為が行われる際に検査を実施 ○品質保証の充実強化による安全水準高度化のための制度の見直しを、平成20年度実施を目途に準備 ・「保全プログラム」に基づく保全活動に対する検査の導入 ・安全確保上重要な行為に着目した検査の導入 ・根本原因分析の強化 【最終目標】 ・安全の確認 ・安全の向上 ・透明性の向上 : : : プラント毎の安全確保について一層きめ細かく確認 事業者による継続的な安全向上努力を促進 国民にとってわかりやすい安全実績や検査結果を提示 12 3)検査制度運用の規制側での取り組み <日常業務管理上の気付き事項> ・2000年の保安検査制度導入後、2001年原子力安全保安院設立、2002年東京電力不祥事、2003年定期事業者 検査等導入、2004年美浜3号機事故発生という経過のため、保安検査の規制側の体制が実質的に未整備 <日常業務管理円滑化のため基本的な考え方> ・メリハリのある検査活動への転換 ・検査のPDCAを回す仕組みの構築 ・規制資源の合理的活用 ・トラブル対応から未然防止対応へ <具体的活動例> 〇保安検査のシステム整備 ・規制側として、対象発電所ごとの重点検査対象及び課題の明確化・・・2006年3月から着手 ・規制側のマニュアル整備・・・保安調査・保安検査ガイド(2008年7月策定:事業者とも共有)等に帰結 ・検査課と保安検査官事務所共同による保安検査水準の全国共有化への取り組み(2006年度~) 〇品質保証検査の改善 ・根本原因分析投入による検査対象、検査の視点の重点化 ・事業者の実施規格である品質保証規格(JEAC4111)を規制側も使用。別の監査型の規制側の検査ガイドを作成 〇定期検査(検査課中心)、定期安全管理審査(JNES実施)、保安検査(保安検査官事務所中心)の一体運用と総合評価 ・総合評価表作成開始(2006年4月~)・・・・東北電力総点検(2006年7月)、中国電力指導(同年秋)、北陸電力LPRM(同12月) ・一体的な検査計画作成(2008年から試行) ・PI/SDP評価導入による検査の重点化(検査制度見直しで制度化) 運転段階の検査制度の枠組み 検査 国の検査は、事業者の保安活動を抜き取り・抜き打ちにより確認 (検査官のフリーアクセスが必要) 国が行う検査等 保安規定に基づく事業者の保安活動 放射線管 理業務 廃棄物管 理業務 防災管 理業務 保安検査 燃料管 理業務 定期事業者検査 運転管 理業務 定期安全管理審査 保守管 理業務 定期検査 (保守管理規定の適用) 品質保証規定の明確化 定期検査: 特に安全上の重要度が高い設備の健全性を確認するための国の検査 保安検査: 事業者の保安規定遵守状況を国が確認する検査 定期事業者検査: 技術基準が適用される設備の技術基準適合性を事業者が確認する検査 定期安全管理審査: 事業者の定期事業者検査の実施体制等を国が確認する審査 14 -各検査制度における検査対象- 事業者の保安活動 定期事業者検査:事業者 ○技術基準適合性の確認 【特定電気工作物】 ・補助ボイラー ・排気筒(H18.1より) ◎定期検査: NISA、JNES 【特定重要電気工作物】 ・原子炉本体 ・原子炉冷却系統設備 ・計測制御系統設備 ・燃料設備 ・放射線管理設備 ・廃棄設備 ・原子炉格納施設 ・非常用予備発電装置 ・蒸気タービン 保安検査:NISA ○定期事業者検査に係るプロ セスの確認 ★定期安全管理審査: JNES ★工程管理 ★協力事業者管理 ★検査に係る教育訓練 ★実施に係る組織 (◎検査要員の適切性) ★検査の方法 (◎検査要領書の適切性、 検査用機器の適切性、 検査内容の適切性) ★検査記録の管理 (◎検査内容の適切性) ○原子炉施設の品質保証 ○原子炉施設の保守管理 ○体制及び評価 ・原子炉施設の運転及び管理を行う者の職務及び 組織 ・原子炉施設の定期的な評価(定期安全レビュー、 高経年化対策) ○原子炉施設の運転及び管理を行う者に対する保 安教育 ○原子炉施設の保安に関する記録及び報告 ○運転管理: ・原子炉施設の運転 ・原子炉施設の運転の安全審査 ・排気監視設備及び排水監視設備 ・原子炉施設の巡視及び点検並びにこれらに伴 う処置 ○燃料管理 (燃料物質の受払、運搬、貯蔵等) ○放射性廃棄物管理(廃棄) ○放射線管理 ○緊急時に講ずべき措置 15 年度検査計画の策定による検査の実効性の向上 現状 定期検査 定期安全管理審査 保安検査 検査時期、検査内容の重複・類似 (特に保守管理について) 運用面の改善により実効性を向上 今後 ○年度検査計画の策定 各検査の重複を排除。全体として最適化されていることを確認。 ○パフォーマンスに応じた検査の実施 従来よりも検査量を絞った基本検査と、過去の運転実績から弱点 が見出された場合の追加検査を機動的に実施。 保安検査:従来3週間→基本検査は2週間程度とする 定期安全管理審査(実地審査):従来13項目→基本検査は4項目を選定 16 プラント総合評価による検査の実効性向上について 新たな検査制度では、安全実績指標評価(PI評価)、安全重要度評価(SDP評 価)を活用して事業者の保安活動の総合評価を行い、これを検査に反映させる ことで、検査の実効性をより向上させる。 (PI:Performance Indicator SDP:Significance Determination Process) 1.プラントのパフォーマンスに応じた規制(PI評価) ・保安活動が適切に行われたかどうかを指標により評価 (評価の透明性、客観性の確保) 2.より安全性に着目した検査(SDP評価) ・検査における発見事項、発生したトラブル等の原子力安全に与える影響を評価 (安全上の意味の明確化) 3.評価結果に応じた継続的改善の仕組み(保安活動総合評価) ・PI評価、SDP評価を用いた保安活動の総合評価を実施 ・評価結果は、次回の検査計画の立案等に活用(結果が良好な分野に対しては基本検 査のみ実施し、弱点に対しては追加検査を実施 (個別評価結果の体系化→保安活動の合理的な評価→事業者の改善努力を促進) 17 安全実績指標(PI)、安全重要度評価(SDP)手法によるプラント総合評価の導入 新たな検査制度の枠組み 総合評価 検査(保安検査、定期検査等) 保安活動の実施(事業者) 国が検査 等を実施 検査時の発見事項、指 摘事項の安全への影響 をSDP手法により評価 プラントの安 全確保水準 を把握 プラント安全に係る指標 (PI)の数値により安全 達成状況を評価 安全確保水 準に対応した 安全規制の 実施 (実施状況と実施結果から評価) 安全達成状況 保安活動の結果(事業者) 国へ報告 安全実績指標(PI:Performance Indicator) 安全重要度評価 (SDP:Significance Determination Process) 検査時発見事項、指摘事項のプラント安全等への影 響度合いを評価する手法 ①アメリカ、イギリス、スウェーデン等諸外国で使用 ②事業者共通(WANO)指標の選定、評価の実施や国際 機関(IAEA)でも指標選定の考え方を検討済 ③我が国のプラント状況、海外の状況を勘案、プラント性 能維持やプラント安全機能の維持等の観点から指標を 選定中。 ④過去の実績データ等に基づき、ある一定期間の指標の 結果(実績回数、件数等)を評価区分に従い評価 検査時発見事 項 ・ 指摘事 項 プラントの安全達成レベルを国際比較の観点からも把握 対象に応じた評価方法を採 用 プラントの諸特性のうち安全に係る分野の特性を示す指標 (例)計画外自動停止回数 法令に基づく事象報告件数 等 安全設備・機器等の 不具合がプラントの 安全性にどの程度 影響を及ぼすかとい う観点から評価 事業者の品質保証 システムが有効に機 能しているか否かの 観点から評価 対象と した事 項のプ ラント 安全へ の影響 度合い を把握 18 4)高経年化対策の充実の再整理 <着任時の状況> ・美浜3号機二次系配管破損事故に関して、地元(福井県)からの高経年化対策の充実要望を受けて実施したもの (地元からの要望は、他に、関西電力㈱原子力本部の地元移転、原子力安全保安院及びJNESの地元機能強化) ・平成17年8月31日に報告書とりまとめ、12月に省令改正。平成18年1月に福島第一3号、浜岡1号、美浜3号の高経年化技 術評価報告書提出。 ・平成18年3月に福島第一3号、5月に浜岡1号、7月に美浜3号の評価完了 <状況認識> ・技術的には、従来からの総合予防保全対策を基礎とした高経年化対策で十分との評価が通説 ・事故対応規制として、事業者への過剰な文書管理等要求も散見 ・品質保証要求、定期安全レビューを含めた保安検査業務との重複調整も未了 <具体的対応> ・当初の3機の評価作業を踏まえた規制側の対応のマニュアル化を指示。平成19年5月ガイドライン制定。 ・検査制度見直しの中で、高経年化技術評価署の報告義務を保全プログラム認可と一体化 ・別途、絶縁ケーブル評価指示を平成19年10月30日に発出。 <補論> ・定期安全レビュー及び高経年化対策については、東京電力不祥事と美浜発電所3号機事故の際の地元調整対応により、本 来実施すべき総合的な予防保全対策の形態が損なわれたとの理解がある。そのことが、福島第一原子力発電所事故の遠因 となった可能性が認識されたため、2001年6月の日本政府によるIAEA報告書において、以下のように記載している。 「このため、原子力安全や原子力防災に係る法体系と関係する基準・指針類 の見直し・整備を進める。その際、構造信頼性の 観点のみならず、システム 概念の進歩を含む新しい知見に対応する観点から、既存施設の高経年化対策 のあり方について 再評価する。」 ・このことは、原子力安全規制の技術的基礎について、地元自治体からの政治的な要請に迎合してはならないという教訓の一 例と理解している。 原子力発電所の高経年化対策の充実につ いて 西暦 2000 2005 2009 2015 図1 運転開始後30年を 迎える長期供用プラントの 推移 これまでの対策の検証 これまでの高経年化対 策は適切であると評価。 その上で、長期供用プラ ントの安全確保を確実な ものとするため、対策の 更なる充実を図る。 2 1 高経年化対策の基本的考え方 高経年化対策充実のための新たな施策 02 20 96 99 19 93 19 90 19 87 19 84 19 81 19 78 19 19 着目すべき経年劣化事象の明確化 プラントの長期供用に伴い性能低下が想定 していた傾向を上回る速度等予測から乖離 して進展するなどの性状を示す経年劣化 事象(図3参照) 着目すべき経年劣化事象に対し的確な高経年化技術評価(運転開始後30年に至る前に 60年の供用を仮定した経年劣化予測と設備の健全性評価)を実施するとともに、長期保 全計画(現状の保全活動に追加すべき保全策)を策定・実施することが重要。 機器の性能 1.透明性・実効性の確保(①対策の要求事項を明確にしたガイドライン及び標準審査要領等の整備、②事業者 の高経年化対策に係る国の監視方法をプロセスを含めた方法に転換、③長期保全計画に基づく事業者の追 加的な保全活動への国の監視の充実、④運転開始初期から着目すべき経年劣化事象への監視の充実) 2.技術情報基盤の整備(①情報ネットワークの構築、②安全研究の推進、③国際協力の積極的展開、④産官学 の有機的連携強化のための総合調整機能の整備) 3.企業文化・組織風土の経年劣化防止及び技術力の維持・向上 4.高経年化対策に関する説明責任の着実な実施 年度 図2 計画外停止発生率 その後の状況の変化 1.審査の実績、安全研究の成果、海外経験等データ・知見の蓄積。 2.平成15年10月の制度改正により品質保証体制に対する安全規制 の導入。 3.組織風土の劣化に起因する事故の発生(美浜3号機二次系配管損傷) 4.原子力従事者の減少に伴う技術伝承への懸念。 5.長期供用プラント増加に伴う一般の関心の高まり。 75 0 72 2 3 19 これまでの高経年化対策・・・平成8年から開始 → 9プラントで実施済み(敦賀1、福島第一1、美浜1等) 9 4 69 10 計画外停止率(9プラント) 5 66 20 20 長期供用プラント 増加への万全 の対応を実施 19 31 30 運転開始30年前後の9プラントを対象に、 運転開始当初から現在まで、年度ごとに発 生した1プラント当たりの計画外停止率(事 故等により運転を停止した率)を見ると、供 用期間の長期化に伴いこれが増加する傾 向は認められない。 19 2009年には運転開始後30年を 迎えるプラントの累計は20基、2 015年には30基を超える。 発生率 (発 生 件 数 / プ ラ ン ト 数 ) 基数 ◎30年、40年は一部機器の評価上の仮定で、安全上 重要な機器・構築物は、十分な 余裕をもって設計 ◎長期供用プラントであっても、適切な補修・取替など 保守管理により安全に供用を継続することが可能(図2) 19 原子力発電所の長期供用に対する漠然とした不安 → もともと30年、40年の寿命という説明? → プラント全体が老朽化し、安全性が低下する のではないか? 一例 当初性 能 技術基 準上の 要求 高経年化技術評価の開始時 期 性能低下 傾向の予 測からの 乖離の可 能性 供用年数 図3 着目すべき経年劣化事象 5)個別トラブル事象対応 ①ハフニウム板型制御棒のひび割れ(平成18年1月発生、2月3日一定条件の制御棒全挿入指示、5月31日報告書) ・制御棒の長寿命化等から導入されたハフニウム板型制御棒において、中性子照射の継続で生じるIASCCによりひびが進展 するという事象が発生することが新たに確認された事象 ・新技術の導入リスクを認識する事案であった。 ・本件については、全挿入指示時に資源エネルギー庁に一切伝達せずに処理したことから、原子力安全保安院と資源エネル ギー庁との距離感(経済産業省内での推進と規制の実質的分離)を実感した事案でもある。 ②福島第二発電所3号機PLR配管全周亀裂の見逃し(平成18年2月事象確認、3月23日UT留意点等指示) ・本件は、平成15年10月に導入した維持規格及び健全性評価制度の技術的信頼性を損なう事案 ・4月27日に原子力安全委員会に「健全性評価制度の現状と今後の取り組みについて」報告 ・本件は、新しい非破壊検査(UT)と実施者の認定制度(PD制度)の導入直後のもの。新制度導入後も技術的手法の確立には 慎重な対応が必要であることを示す事例。 ・維持基準適用の要望を踏まえて制度整備したものの、データ蓄積等に時間を要した事例としても認識されるもの。 ③東芝流量計データ不正(平成18年2月発覚(申告事案)、平成18年4月報告書) ・本件は安全上の問題はなかったものの、データ不正として信頼性を損なうこととなった事案。 ・内部申告に真摯に対応すべきことを学んだ事例。 ④浜岡5号機タービン破損事故(平成18年6月発生。平成18年11月報告書) ・本件も、新設計のタービンの乱流解析の不十分さによるもの。新技術適応リスクを痛感した事例。 ・同一設計の北陸電力志賀2号の停止点検を要請したところ財務担当役員の抵抗により拒絶。その後、受諾。 ・電力事業者内で、技術的知見に乏しい者の説得が難しいケースがあることを認識した事例。 ⑤PWR蒸気発生器管台溶接部亀裂(平成19年10月発生、平成20年2月点検等指示、平成20年6月知見集積により変更指示) ・インコネル600による亀裂発生は予見されており、若干想定より早く事象発生。 ・事前にリスクの知見があれば、落ち着いた対応ができることが確認できた事例。 6)美浜発電所3号機二次系配管破損事故事後処理対応 <着任時の状況> ・平成16年8月9日に発生した事故について、事故調査委員会での原因調査(平成17年3月30日)を終え、関西電力において、 品質保証体制の再構築を含めた再発防止対策の実施と規制当局における確認が残された課題。 ・地元の要望で実施した高経年化対策の充実についても、平成17年8月31日に報告書作成公表済。 ・関西電力の定期安全管理審査C評定後の再整理も課題。 <与えられたミッション> ・再発防止対策の確認を速やかに実施し、可能な限り早期の再稼働を実現すること <実施した対応> ・PDCAサイクルの評価が必要として、平成18年3月の保安検査以前の判断が困難であることのコンセンサス形成。 ・定期安全管理審査の順次B評定への改善確認 ・単なる保安検査の評価に留まらず、事故調査委員会報告書指摘事項を網羅した評価書作成準備 <再稼働までの実際のスケジュール> ・平成18年3月28日に事故調査委員会で再発防止対策を確認。直ちに地元に伝達。 ・平成18年5月26日 地元同意 ・平成19年1月10日 原子炉再起動(事故調報告後1年10ヶ月、事故後2年5ヶ月) ・平成19年2月6日 総合負荷試験 <この間のプロセスからの所見> ・定期安全管理審査のC評定など事故発生時に原因と直結しない法令上の措置などの過剰反応を慎むべきことを痛感。 ・規制側で了解として以降も、地元同意等で数ヶ月の期間を要する原子力施設関連の社会実態を学んだ事例 ・高経年化対策への対応も含めて、科学的合理的な安全規制を追求する立場と推進(再稼働)のための地元との利害調整と の間の距離感を感じた事案でもある。 ・この後の中越沖地震での東京電力の地元調整事情などから、供給エリアに県庁所在地がない地域の原子力事案の地元調 整は難しいという印象を有している。即ち、原子力における地元調整問題は、主として、東京電力と関西電力の問題に帰結す るのではないかという認識を原子力規制行政に携わる間は常に有していた。 関西電力㈱、美浜発電所3号機の二次系配管破損事故 (事故の直接的原因) 破損部位は、平成2年に三菱重工業が管理指針に基づく点検対象リストを 作成した際、漏れてしまった。 その後、三菱重工業から日本アームへ点検業務が移管されたり、三菱重 工業が他の発電所において破損部と同じ部位の点検対象リスト漏れを修正 したり、日本アームが破損部位を定期検査時の点検箇所に含める等、破損 部位が点検対象リストから漏れている状態が修正され、関西電力が認識で きた可能性もあったが、漏れたままになってしまった。 関西電力、三菱重工業、日本アームが関与する二次系主要配管の減肉管 理ミスにより、要管理箇所が当初の点検対象リストから欠落し、かつ、事故 に至るまで修正できなかった。 今回の事故の直接的な原因は、原子炉設置者としての自覚が不足した 関西電力の保守管理に係る品質マネジメントが機能していなかったこと。 23 7)発電設備の総点検 <前哨戦> ・平成18年8月に、東京電力で可燃性ガス制御系(FCS)のデータ不正事案、同9月に日本原子力発電でも同様の 事案が過去にあったことが判明 ・当時の経済産業大臣から、原子力はパラパラと過去の事案が表面化するので前に進めないとのコメント <発端など> ・中国電力㈱俣野川発電所土用ダムの沈下量等のデータ不正が発覚。 ・原子力発電所の水温データの不正が発覚したことも契機い、平成18年11月30日に総点検指示 <結果> ・7万人強のインタビュー等を経て、総計309件、うち原子力98件の過去の不正事案確認 ・原子炉自動停止の未報告事案(4件)、制御棒引き抜け事案(10件、うち2件臨界)など随時報道 ・平成15年10月の制度改正後の不正事案なし <措置> ・運転中・停止中一貫した検査(起動立会、LCO逸脱通報と立入検査)と根本原因分析の先行導入 ・原子力で11事案を対象に特別監視体制 ・アラームタイパーの常時検査確認、検査官のフリーアクセス、原子炉主任技術者の独立性要求等追加 <プロセスなどからの所感> ・平成14年の東京電力不祥事時に不適切事案の有無を確認していたが、その際は、文書による確認。 ・インタビューによる確認を求めたところ、追加事案を出し尽くす勢いで抽出。 ・過去事案の発覚リスクは著しく軽減されている。 8)中越沖地震対応 <初動措置> ・平成19年7月16日発生 ・3号機変圧器付近で火災発生 ・初日夜からプレス対応要請を受ける。8月10日頃まで毎日の記者会見 <冷温停止後の対応> ・初動措置、運転管理上の措置の適切性に関する議論の早期集結・・・BWR訓練センター・シミュレーション公開(10月) ・塑性変形関連の議論を踏まえ、設備健全性の現場確認方法の明確化作業準備 <再起動関連状況> ・6号機 平成21年8月25日 原子炉再起動(地震発生後2年1ヶ月) ・7号機 平成21年11月8日 原子炉再起動 (地震発生後2年4ヶ月) ・1号機 平成22年5月31日 原子炉再起動(地震発生後2年11ヶ月) ・5号機 平成22年11月18日 原子炉再起動(地震発生後3年4ヶ月) ・2,3,4号機 東日本大震災発生時点で再起動できず。 <再稼働プロセスと福島第一原子力発電所事故を踏まえた所見> ・中越沖地震の発生により、バックチェック作業への追加の指示と柏崎刈羽原子力発電所再稼働対応が優先された結果、他 発電所のバックチェク作業の遅延に繋がった可能性 ・微小漏洩などについても不適合管理を重視したが、ブロアウトパネルの取り扱いなど過酷事故を前提とした場合に適切な内 容であったかどうか再検証の必要性(吉田調書の指摘) ・ECCS系作動報道に見られる「安全神話」(ECCS系は万が一の際のもので使うことはないとの説明)による反射的報道は過酷事 故時の事故対応にマイナスの影響を与える懸念はないか? ・消防法上の危険物施設の使用禁止命令は過酷事故発生時のリスク要因とならないか? 地震発生時の各安全機能等の確保状況の評価 (BWR運転訓練センター(BTC)における4号機シミュレーション) 9)事業者とのコミュニケーション環境改善 <着任時の状況> ・事業者と検査課とのコミュニケーションはほぼ崩壊状態 ・着任後1ヶ月以内に面談したのは、美浜3号機対応の相談で来訪した関西電力のみ ・全電力会社(10社)との面談終了は平成18年2月 <工夫したこと> ・事業者との面談は、必要があれば、全て公開で構わない前提で準備した。 ・緊急時対応から平時対応に移行するための環境整備のためにも現場を有する事業者とのコミュニケーションは必須だった。。 ・担当者同士で整理されていない案件を直接的に事業者幹部とやりとりすることのないように留意した。 ・規制側のマニュアル、ガイドラインを策定した結果は事業者と原則として共有することとした。 ・メーカーとのコミュニケーションチャネルを構築した。 ・学協会の場を活用した。 10)行政不服審査対応 <着任時の状況> ・未処理の行政不服審査案件3件(MOX2件、定期検査終了処分1件) ・保安院全体で26件 <基本方針> ・不作為の瑕疵を回避する <措置> ・発電設備総点検と中越沖地震の合間に意見聴取会を開催し、処理に道筋をつける。 ・結果として、2009年7月までに保安院全未処理案件を処理。 3.原子力安全保安院審議官の経験(2009年7月14日~2012年3月31日) <着任時の状況> ・1年以内に想定されている“もんじゅ”再稼働への対応 ・六ヶ所再処理施設のガラス溶融炉の安定運転の実現 ・1年以内に想定される使用済燃料中間貯蔵施設、MOX燃料加工施設の許可処分の二次審査のフォロー ・ウラン廃棄物、余裕震度処分、廃止措置確認方法の明確ななど放射性廃棄物安全規制の制度整備 ・核燃料サイクル施設関連の検査関連活動がいわゆる一品物であることを理由に旧態依然の様相 ・耐震バックチェック作業が中越沖地震対応の影響もあり、大幅に遅延 ・リスク情報活用、シビアアクシデント規制要件化に向けた準備の必要性 <基本的な対応方針> ・“もんじゅ”再稼働については、安全技術の問題よりも、リスクコミュニケーションの問題として対応 ・六ヶ所再処理施設については、KMOCの結果を踏まえつつ、基本はリスクコミュニケーションの問題として対応 ・中間貯蔵施設、MOX燃料加工施設、放射性廃棄物安全規制については、スケジュール管理を重視 ・核燃料サイクル施設関連の検査等に関しては、JNESとの連携による技術的知見の蓄積と運用見直しの定式化 ・リスク情報活用については、核燃料サイクル施設での活用事例の抽出と試行 ・耐震バックチェックについては、速やかな作業進捗に向けた課題の抽出とアドバイス ・シビアアクシデント等については、利害関係者との必要な調整の支援 <東日本大震災までのプロセスについての所見> ・もんじゅ“再稼働”実施(2010年5月)、六ヶ所再処理試験再開方針確定(2011年2月)、中間貯蔵施設・MOX燃料加 工施設許可(2010年5月)、ウランクリアランス制度報告書策定(2010年11月)、余裕震度処分検討開始(2010年12 月)、廃止措置終了確認中間報告書策定(2011年1月)、核燃料サイクル施設検査制度検討報告書案(2011年3月)、 ウラン加工施設ISA活用方針提示(2010年9月)、シビアアクシデント規制検討着手(2011年3月18日予定)と耐震バッ クチェック以外の点については、想定通りのスケジュールで作業を進めることができたと評価。 ・深層防護の徹底、津波等地震付随事象の検討の遅れ、外部起因事象への認識の甘さに悔いが残る。 1)もんじゅ再稼働対応 <着任時の状況> ・1995年12月8日に発生した二次冷却系配管からのナトリウム漏えい事故以降停止 ・1996年10月~1998年3月までの安全性総点検を経て、2001年6月の原子力安全保安院による「安全性総点検を 踏まえた対応計画策定指示」への対応を順次進め、再稼動に向けた最終準備段階 ・原子力安全保安院としても、最終段階にある認識のもと、2007年7月にもんじゅ担当を検査課に移管。 ・2008年3月に発生したナトリウム漏えい検出器の誤作動防止などの点検作業もほぼ見通しがつく状態。 <再稼動の主要スケジュール> ・2010年2月に試運転再開に当たっての安全性評価取りまとめ、3月に耐震バックチェック評価も終え、4月26日に 地元同意 ・2010年5月6日に制御棒引抜き再起動 <もんじゅ再稼動対応の基本ライン> ・ゼロ出力試験ということもあり、技術的に安全面の課題はほとんどないため、リスクコミュニケーションに重点。 ・ナトリウム漏えい事故後、14年5ヶ月ぶりの再起動ということから、情報公開と報道対応が中心的な課題。このた め、事故当時の報道映像と新聞報道の全てに目を通し、報道サイドの関心も十分考慮したプロセス管理を行った。 <再稼動プロセスからの所感> ・規制部局による地元調整対応の違和感・・・安全評価、バックチェック評価の説明を求めに応じて行った際の、県の担当部長 のコメントは「技術的な説明をされても理解できない」という紋切り型のもの。何のために説明を求められたのか不明のまま。 (原子力規制委員会が、地元説明会などで技術的な質問に限定しているとして批判されているが、このような過去の事例を考 慮すれば、理解できるものとの認識) ・文部科学省は推進当局としての責任ある体制で地元説明等も対応。資源エネルギー庁との差を感じた事例である。 ・その後(2010年8月)の炉内中継装置落下に至るようなJAEAの管理体制への懸念を感じていたことは事実である。 2)六ヶ所再処理施設ガラス溶融炉試験再開対応 <着任時の状況> ・六ヶ所再処理施設は、1992年事業指定、1993年着工。化学試験、ウラン試験などの手順を経て、2006年3月に アクティブ試験開始 ・2007年11月からガラス固化設備の中核となるガラス溶融炉のアクティブ試験中に、白金族堆積により中断。 ・その後、仮焼層形成管理の困難さから試験中断。この間、2008年12月に攪拌棒の曲がり、天井レンガ損傷、 2009年1月に高レベル廃液漏えい、パワーマニピュレータ故障と立て続けのトラブル発生。 ・日本原子力研究開発機構の協力の下で、実機サイズのコールド試験を行うモックアップ試験設備(KMOC)を用 意し、2009年11月に試験を開始した。 <ガラス溶融炉試験再開と使用前検査計画策定に向けた対応からの所見> ・ガラス固化技術は再処理技術の中核ではない。余裕のある高レベル廃液貯蔵容量を有していれば、日本原子 力研究開発機構の東海再処理工場と同様に高レベル廃液による保管廃棄を前提として、再処理施設の商業運 転開始を2007年~8年頃には実現できていた可能性があるもの。電力規制緩和による合理化策要求時に廃液貯 蔵容量の減少の設計変更がなされたと聞いており、このため、ガラス固化設備の運転が再処理施設の使用前検 査の必要事項となったと承知している。東電不祥事、美浜3号機事故などと同様に合理化の負の影響事例と認識。 ・ガラス固化技術は、大学で学んだ固溶体の化学の逆問題と感じ、酸化還元電位、硫黄濃度への感受性などを 踏まえた事前検討を慎重に行うべきもの。KMOCでの試験により、技術的課題解消に目処がつくものと認識。 ・2010年春頃には、準備が整いつつあるとの認識のもと、ガラス溶融炉の試験再開と最終使用前検査の工程管 理に着手し、2010年12月に「再処理施設高レベル廃液ガラス固化建屋 ガラス溶融炉運転方法の改善検討結果 にういて」をとりまとめ、試験再開の方向性を示し、2011年2月に具体的な確認プロセスを提示。 ・東日本大震災がなければ、2011年夏頃からの試験再開を計画。実施は、2012年6月に再開し、初期の結果を得 ている。 3)放射性廃棄物規制制度整備関連 <着任時のミッション> ・ウラン取扱施設のクリアランス制度整備(2009年10月に原子力安全委員会報告策定済) ・東海原子力発電所の原子炉領域解体開始(2011年度想定:当時)を踏まえた、廃止措置終了確認の要件明確化と余裕深度 処分制度制定への対応 <対応の基本的考え方> ・放射性廃棄物規制制度整備については、使用済燃料の保管容量問題と密接な関係にある再処理工場や中間貯蔵施設と比 べても、時間的切迫感に乏しい業務であることから、やるべきことを粛々と行うという強い意志を持って進めることを基本とした。 <具体的に実施した措置> ・ウラン取扱施設のクリアランス制度整備については、2010年11月に「ウラン取扱施設におけるクリアランス制度の整備につい て」をとりまとめ、技術基準を策定するための基本事項(放射能濃度評価単位、決定方法、測定方法、管理方法など)を明確化 した。 ・廃止措置終了確認の要件明確化に関しては、2011年1月に「廃止措置の終了の確認に係る基本的考え方(中間とりまとめ)主な論点と今後の検討の方向性について」を作成し、具体的な制度設計に向けた技術情報集積等の方法を明示した。 ・余裕深度処分制度制定については、「第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方」が2010年8月に原子力 安全委員会決定として出され、余裕深度処分の安全審査の基本的な考え方が提示された。これを受け、2010年12月から余裕 深度処分の安全審査を実施するために必要な、記録保存、モニタリング、施設確認に関して専門家による具体的な検討に着 手した。 <放射性廃棄物規制制度関連業務からの所見> ・ICRPも含めた国際的な規制基準との整合性が重視され、適切に対応できるように準備されている分野との印象 ・余裕深度処分や今後必要となる第一種放射性廃棄物の安全審査に向けた取組みなど、処分施設の立地検討のスケジュー ル感を認識した制度整備が社会的受容性の観点からも重要な領域との認識 4)核燃料サイクル施設関連規制制度見直しなど ○検査制度等の改善に向けた取組み <着任後に感じた実用炉規制との組織文化的な相違> ・いわゆる「一品物意識」が強いため、規制制度運用に関して、標準化、マニュアル化の意識が希薄 ・実用炉関係では規制制度に関する方針を示す報告書を原子力安全保安院の責任と機関名で作成するのに対し、核燃料サ イクル施設では、審議会名で作成するのが通例(←原子力規制委員会に移行した後も同様の事案が見られるのではない か?) ・放射性廃棄物及び輸送関連の規制基準作成に比して、加工、再処理関連での原子力安全基盤機構との連携の希薄さ <具体的に工夫した点> ・2010年2月にとりまとめられた「原子力安全規制に関する課題の整理」の中に、取り組むべき課題として「発電炉以外の原子 力施設に係る安全規制手法の充実」を明記するとともに、「規格基準の体系的整備の促進」においても、「発電炉以外の分野 を含め、整備が期待される規格はまだ多く残されている。」とした。 ・その後、2010年9月に原子力安全基盤機構(JNES)に「加工施設・再処理施設の検査制度等に関する検討会」を設置し、改善 に向けた具体的な検討を行い、2011年2月25日までに必要な課題と対応スケジュール等を明確化。その後、2012年6月に「加 工施設及び再処理施設の検査制度などの在り方について」としてとりまとめられ公表されている。 ○リスク情報活用の取組み <基本認識> ・リスク情報活用については、安全目標が成立していない状況下で可能なものから活用するという方針で、実用炉の検査制度 で、安全重要度評価(SDP)などを制度化 ・核燃料サイクル施設関連での活用事例の抽出を企図 <具体的な対応> ・ウラン加工施設へのISA活用の具体化を進めることとし、2010年9月に具体的手順を定め公表済。 5)シビアアクシデント対応と耐震バックチェック関連 ○シビアアクシデント対応 ・「原子力安全規制に関する課題の整理」(2010年2月)において、「シビアアクシデント対応の規制要件化に関する検討」を明 記 ・その後1年がかりで情報収集等の準備を進め、2011年3月16日予定の原子力安全委員会シンポジウムと同3月18日予定の 「シビアアクシデント対応規制検討WG」で検討を開始する予定であった。 <所感> ・実用炉の安全規制に関しては、長年の懸案であった長期サイクル運転を含む検査制度の見直し、プルサーマル対応、耐震 バックチェック作業が2~3年以内には収束するという認識の下、次の課題として、特に国際的に議論が進んでいるシビアアク シデント対策などに取り組む準備をするという認識だった。 ・結果として、間に合わなかったことを痛切に反省せざるを得ないが、検査制度、プルサーマル、耐震バックチェックのいずれも、 本来は数年以上前には実施できていてもよいものである。「安全神話」の下、技術的な意味での原子力事故に当たらないもの に過度な対応をとらざるを得ず、結果として、本来重視すべき安全確保の課題への取組みが遅延したのではないかという感 がしてならない。 ○耐震バックチェック関連 ・耐震バックチェックの審査会に出席し、異なる原子力施設(立地地点)で同様の議論が繰り返されること、バックチェックである が故に、現状評価肯定型の議論に終始する点が常に気になった。 ・審査会での指摘事項の体系化や事業者間の情報共有など工夫すべき点もあったものと感じている。 ・貞観津波の知見が徐々に蓄積されていたことは大学時代の知己からの説明もあり認識していたが、中間報告が整った段階 で議論を予定しているということでよしとしてしまったことは悔いが残る。 ・柏崎刈羽の再稼動対応や福島第一3号機のプルサーマルに関連したバックチェックの追加要求など作業の優先順位を考え ておくべきだったのではないかという思いも残る。 ・この点は、現在の耐震安全性再評価作業においても、同様に、再稼動審査への過度の集中の弊害がないか懸念している。 4.福島第一原子力発電所事故対応 <初動対応> ・東日本大震災発生時(3月11日14時46分)、事故・故障対策室長と打ち合わせ中。直ちに緊急時対応に切り替え。 ・中越沖地震後に整備したシステムで地震発生後30分で第一報公表。関連する全原子炉のスクラム確認。 ・ERSSのモニターなどで通常の冷温停止状態への移行も確認し、一段落 ・15時42分に東京電力から原子力災害対策特別措置法10条事象として全交流電源喪失通報・・・耳を疑った ・16時36分に更に非常用炉心冷却装置注水不能として、15条通報・・・防災訓練では10条から15条まで通例約1 日 ・電源復旧のための電源車やバッテリー確保支援、一号機のIC作動確認、ベント実施の大臣指示などで忙殺 ・3月12日15時36分1号機水素爆発、3月14日11時01分3号機水素爆発、3月15日午前6時頃4号機水素爆発、同 日午前中の2号機圧力抑制室異常事象などで、1号、2号、3号で炉心溶融による過酷事故に至る。 <初動後の主要ミッション> ・3月15日の東京電力との統合本部設置後、原子炉の安全対応措置は統合本部に一元化。その後は調整業務。 ・3月20日から米国NRC派遣ミッションとの意見交換窓口(~年末まで。ほぼ連日。) ・3月22日に指示を受けた最悪シナリオ作成(近藤原子力委員長)の作業サポート ・3月26日から遮蔽、使用済燃料、廃棄物対策等の中長期対策の全体とりまとめと(馬渕)総理補佐官のサポート ・4月中旬頃からIAEAに提出する政府事故報告書の作成作業とりまとめ担当 <福島第一原子力発電所事故対応による所感> ・シビアアクシデントと津波対策の遅れを痛切に反省 ・福島第一1号機の遮蔽壁、4号プールのサポート、海側の遮水壁など技術的な必要性に疑問がある対応を政治 的な要請で実施せざるを得ず、改めて必要性を再検証することも必要と認識 ・中越沖で整備した情報公開スキームが官邸(政治)との関係で機能しなかったことの検証も必要。 米国NRCとの意見交換 <初動の経緯> ・福島第一原子力発電所事故については、発生初期から米側は取り分けBWRの事故ということで強い関心 ・3月13日以降、DOE、NRCの専門家を日本に派遣。13日に官邸等から保安院としての窓口となるよう個人指名の形で依頼。 ・3月14日に日本出発直前のNRC本体チームとの電話会談などを行ったが、実際にチームが保安院を訪問したのは3月20日。 ・その後は、自分の執務室等でほぼ連日意見交換を実施 <その後の主要トピックスなど> ・米国NRCから最初のアドバイスはNUREGのSAMG・・・日本でもよく知られているもの ・3月25日に本国作成のRecommendationの提示・・・敷地外中性子観測、4号プールから燃料飛び散るなど事実と異なる記載 ・現状説明を重ね、3月28日までには米側本国も含め認識の共有化。その後も現場データよりはSAMGなどのマニュアルどおり のアドバイスに固執する傾向(海水から淡水への早期切り替え、格納容器満水冷却など) ・4月10日頃に原子炉の状況も落ち着いたことから、議論の主軸を6月のIAEA閣僚会議に向けた報告書作成関連に切り替え ・主として、シビアアクシデント関連の議論に必要な専門家の交代派遣を依頼し、議論を継続。その中で、米側でもSAMG、b5 B,ROPなどをEDMGに統合する方向との示唆があった。・・・・大規模損壊の議論に通じるもの ・4月20日頃に派遣されていたサンディア国立研究所でMELCORE解析の責任者であるRandy Gauntt氏とJNESチームとの面談 アレンジに成功。その後のMELCOREによる炉心解析のInputに関する電話会議を重ねすり合わせを実施。 ・IAEA6月報告の内容については、5月中旬までに米側とは技術的な評価に齟齬がないことを確認。 ・7月以降は、IAEA9月報告に向けて防護措置の専門家の派遣を依頼し、議論を継続。 <米国NRCとの意見交換実施からの所見> ・米国から事故収束で実質的に必要となる技術的アドバイスはなかった。シビアアクシデント発生時の冷却方法などの知見に ついては、日本側の専門家の方がよく整理されていた。 ・一方で、b5Bなどシビアアクシデント全体の対応の仕組みについては、米側の方がよく整理されているとの印象。この点は、 IAEA報告書を国際的な水準でとりまとめる上で有益な情報が得られた。 5.原子力を離れた2年間(JOGMEC理事として)の経験 <経緯など> ・2012年4月1日から2年間、石油天然ガス金属鉱物資源機構(JOGMEC)理事(総務担当)に異動となった。 ・原子力規制委員会(当時の想定は原子力規制庁)に行くことも視野に入れていたため、意外な人事異動指示であった。 ・もともと大学で中心的に学んだのが、砂泥互層の構造地質と堆積岩岩石学(石油、石炭資源開発への応用可能分野)と金属 鉱床形成論であったため、JOGMECへの異動はある意味自然な形だったのかも知れない。 ・経済産業省での経歴上も、米国テキサス州ヒューストン勤務、中東アフリカ室長、石油精製備蓄課長、イラク連合姿勢当局 派遣と石油関連の業務の経験が長かったことも影響していると理解している。 <JOGMEC理事の業務で得られた知見など> ○シェールガス革命の現実 ・米国でシェールガス開発とこれに伴う石油生産量の増大が顕在化したのは2010年以降 ・現在は、サウジアラビア、ロシアを凌駕する世界最大の産油国の勢い ・天然ガス価格の下落で米国では原子力のみならず、石炭火力も価格競争の脅威にさらされている。 ○原子力分野以外のエネルギーの専門家に事故報告書を含めて取り組みが理解されていないこと ・JOGMECに異動して直ぐに、他の役員から事故報告書が出されていないとの指摘。直ちに、IAEA報告書について、概要を役 員会で説明する機会を設けた。 ・旧知のDaniel Yergin博士の依頼を受け、2013年3月に米国テキサス州ヒューストンで開催されたCERA Weekで福島第一原子 力発電事故対応の経験などを説明。石油天然ガス関係者を中心に、電力関係も含む専門家会議でその時点でも福島第一原 子力発電所に関する情報が殆ど共有されていなかった。 <JOGMEC理事としての業務経験から得られた所見> ○原子力に関する情報は、情報を公開しているだけでは他の分野の有識者や専門家に十分には伝わらないことを実感 ○シェールガス革命が国際エネルギー情勢を一変させていることを実感 シェール革命の影響など ○米国のシェール革命により原油価格は急落 ○天然ガス価格の地域間格差も拡大 ○このことが原子力のコスト競争力にも影響 原油価格推移 米国原油生産推移 10000 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 160 Conventional LTO 140 120 100 米国天然ガス生産推移 80 35000 60 30000 25000 40 20000 15000 20 10000 WTI Jan-2015 Apr-2014 Jul-2013 Jan-2012 Oct-2012 Jul-2010 Dubai Apr-2011 Jan-2009 Oct-2009 Jul-2007 Brent Apr-2008 Jan-2006 Oct-2006 Jul-2004 Apr-2005 Jan-2003 Oct-2003 Apr-2002 Jul-2001 Jan-2000 Oct-2000 0 5000 0 2007 2008 2009 conventional 2010 2011 shale gas 2012 2013 世界の天然ガス価格 38 シェールガスとは? シェールガスの埋蔵量 シェールガス 期待埋蔵量(Tcf) 地域 北アメリカ 3,840 南アメリカ 2,216 西ヨーロッパ 509 中央・東ヨーロッパ 旧ソ連 39 627 中東・北アフリカ 2,547 サブサハラアフリカ 中国・ベトナム・ 韓国・モンゴル 3,526 太平洋 2,312 他の太平洋アジア 南アジア 世界 フラクチャリング イメージ 274 313 0 16,103 (出典: SPE 103356論文) 出所:NY州環境保護局 (参考) 在来型ガス埋蔵量 6,621 Tcf 日本の天然ガス消費量: 世界の天然ガス消費量: (Proven&Probable, BP統計,2010) 3.7tcf/年 113.8tcf/年 40 40 6.政策研究大学院大学での活動など <経緯など> ・2014年6月に政策研究大学院大学に異動し、主として、エネルギー政策と科学技術イノベーション政策を中 心に授業と調査研究をしている。 ・原子力から2年ほど離れていたが、アジアからの留学生が過半を占める大学の特性もあり、留学生の母国 の関心などから、エネルギー政策に関連し、原子力に関する用務があれば結果として担任することとなって いる。 <この間の原子力関連活動> ・昨年11月に原子力学会、本年3月に機械学会に加入し、原子力関連の用務に携わる機会を得ている。 ・昨年12月と本年2月に米国のエネルギー関係(主として、石油天然ガス関係)の専門家等の依頼を受け、米 国で日本の原子力再稼動に向けた取組みと、その天然ガス需給に与える影響について講演 ・米国訪問時に、福島第一原子力発電所事故時に日本に派遣されていたNRC関係者と本部、第二地区事務 所、第四地区事務所で面談。また、MIT Energy Initiative, テキサスA&M大学原子力工学科、Westinghouse 本社役員との意見交換も実施。 ・本年4月に国際シンポジウム「女性が語る原子力」を日本エネルギー経済研究所と共催 <これまでの活動から得た知見など> ○米国での日本の原子力への関心は、再稼働によるシェールガス需要動向への影響 ○原子力防災における地方自治体(州政府)との関係は、NRCにとっても課題 ○原子力事業者(Westinghouse)は、福島事故対応は実質的には完了しており、天然ガス等とのコスト競争が 課題との認識 ○MIT、テキサスA&M関係者は、日本の原子力再稼動がなかなか実現しないことに不満を表する者もいる。 ○福島第一原子力発電所事故により中国で新設炉の建設開始が4年間実質停止状態だったこと、台湾で建 設終了原子力発電所の運転開始が事実上不能となっていることなど将来の原子力の主力市場であるアジア での原子力利用に一定の影響が生じている。 福島第一原子力発電所事故で派遣されていたNRC職員との意見交換 <事故当時のNRCの日本での活動概要> ・初期段階で10名弱のNRCスタッフが来日。10日~2週間の滞在で要員交代。 ・本部(ワシントン)のみならず、地区事務所からも参加 ・責任者(カスト氏)は、途中2度ほど一時帰国したのみで、年末まで滞在。 ・原子炉安全とシビアアクシデントの専門家が主体 <昨年12月、本年2月の意見交換のポイント> ○耐震関係 ・米国でも東日本大震災を契機に、米国内の原子力施設の耐震再評価実施 ・アトランタ事務所では、現在、特に特定の燃料加工施設の取り扱いが課題 ○シビアアクシデント対応 ・NRC本部では、福島事故後に事業者に必要な対策検討を指示し、順調に作 業が進んでいるとの評価 ・一方で、アトランタ、アーリントンの地方事務所の検査官の中には、事業者の 中に必ずしも真剣に取り組んでいないものがあるという批判的な意見もあった。 ○原子力防災関係 ・ハリケーンカトリーナを契機に、災害対策は州政府が主たる責任を負うべきと の認識が一般的。 ・原子力事故想定の訓練でも、州政府に必要な対応を求めるが、州によっては 自立的に対応しないところもある。 ・NRCができることは、放射性物質の放出拡散に関して、RASCALなどを用いた 解析結果で助言することということを理解してもらうことに苦労している。 事故当時の集合写真 NRC本部(2014年12月) アーリントン事務所 (2015年2月) アトランタ事務所(2014年12月) 原子力利用上の課題についての所見 <ウェスティングハウス幹部との意見交換> ○本年(2015年2月)にウェスティングハウス者のDanny Roderick社長他と懇談 ・「原子力利用の将来については、福島事故対応が課題ではなく、他の電源とのコスト 競争力である」と明言。 ・福島事故はAP1000で対応可との認識 (米国、中国で審査等に多少の時間を要しても新設炉の建設が進展するとの自信) ・経済性については、IEAのWEO2015が指摘しているように、シェール革命による天 然ガス価格低下の米国、建設期間が長期化している欧州では厳しい状況 7.原子力安全に関する所見 ①現状について <川内原子力発電所再稼動について> ○事故発生後4年5ヶ月、規制基準制定後2年1ヶ月での再稼動は、必ずしも遅い対応ではない ・中越沖地震(地震時停止から原子炉再起動まで 2年1ヶ月~3年9ヶ月以上) ・志賀1号臨界事故隠し(点検停止から原子炉再起動まで 2年1ヶ月) ・志賀2号タービン破損事故(点検停止から原子炉再起動まで 1年10ヶ月) ・浜岡5号タービン破損事故(事故停止から原子炉再起動まで 8ヶ月) ・宮城県南部地震(地震時停止から原子炉再起動まで 7ヶ月~1年9ヶ月) ・美浜3号二次系配管破損事故(事故停止から原子炉再起動まで 2年5ヶ月) ・福島第一原子力発電所1号機(データ不正による点検停止から原子炉再起動まで2年8ヶ月) <原子力規制委員会の活動について> ○初めての原子力事故経験後の安全審査としては、十分に誠実かつ効率的に実施されていると評価している。 ○原子力規制委員会への批判について ・炉規制法に原子力の利用を位置づける、原子炉安全審査会・核燃料安全審査会の位置付けを高めるなどの意 見があるが、事故後の炉規制法改正の経緯(「原子力の計画的利用」の削除)や原子力規制委員会の自らの技 術力向上の努力を阻害するものと認識している。 ・自治体との調整についても、原子力の安全を確保するための技術面からの専門機関としての任務を全うすると いう観点、安全規制制度の科学技術的合理性を確保する観点からは、現在の対応が適切と評価している。 <補論> 地元調整の困難さが見られるのは、基本的には東京電力、関西電力の2社の課題 ②原子力安全に係る課題について <福島第一原子力発電所事故対応経験から認識している課題> ○深層防護の徹底 ・安全審査指針27解説の記載を設けたことへの反省は真になされているか? ○自然災害、外部起因事象への追加的対応 ・大規模損壊対応の議論は早急に精査すべきではないか? ○シビアアクシデント対策、津波対策の未実施に関する組織要因分析の必要性(後述) ○原子力利用に対する国民の信頼回復のための取組みの必要性(後述) ○「安全神話」の呪縛からの開放の徹底(後述) <原子力安全保安院での経験から認識している課題> ○緊急時対応から平時対応への適切な移行措置の検討 ○規制機関と事業者とのコミュニケーション環境の形成・維持(後述) ○電力事業改革に伴う合理化の影響評価 ・過去の東京電力不祥事、関西電力美浜発電所3号機二次系配管破損事故、六ヶ所再処理ガ ラス固化施設など電力自由化に伴う一律合理化のマイナス影響の再来を懸念 ・発送電分離の功罪も要評価 <補論1> ○シビアアクシデント対策、津波対策が福島第一原子力発電所事故に間に合わなかったことの組織要因分析の必要性 <事実認識> -・シビアアクシデント対策、津波対策の必要性は既成組織(原子力安全委員会、原子力安全保安院)で認識されていた ・耐震バックチェック(基準地震動の再評価等)、柏崎刈羽原子力発電所再稼動、プルサーマル対応が優先された <所見> ・現在も、原子力規制委員会の業務が再稼動のための審査業務に過度に集中していないか? ・大規模損壊対応やサイバーテロなど国際的に重視されている課題への対応は十分か? 原子力利用に対する国民の信頼回復のための取組みの必要性 <事実認識等> ・国民の原子力利用への信頼は、福島第一原子力発電所事故以降に急激に低下。 ・事故直後よりも、1年以上経過して以降に更に低下したことが知られている。 ・事故調査なしの緊急安全対策、ストレステストによる再稼動遂行などが影響しているのではないかと推察 <所見> ・エネルギーのベストミックスは定められたが、その達成の必要性では国民の理解は得られない ・原子力のコストメリットを強調しても、事故リスクの不安は拭えない ・地球温暖化対策を理由とする必要性に納得感が得られていないのは、福島第一原子力発電所事故以前から不変 ・福島第一原子力発電所の事故への真摯な反省を繰り返し、その教訓から安全を高めるための取組みを関係者が一丸と なって地道に進めていることを丁寧に説明していくことが唯一の方策 ・その点からは、原子力利用に携わる関係者による原子力規制委員会批判は「百害あって一理なし」 ・原子力規制委員会には、引き続き、新しい安全規制制度の適切な運用、継続的な改善、透明性確保を前提としたステーク ホルダーとのコミュニケーションなど原子力施設の安全な利用のための環境整備への取組みを期待したい。 <補論2> 「安全神話」の呪縛からの開放の徹底 ○「安全神話」により歪められている安全関連規程・基準等の見直し整理はなされているか? ○ECCS系の使用を躊躇する風潮はないか? ○過酷事故対応を最重要課題とした際、リスクの小さいトラブル対応の過去の追加措置の妥当性再検証が必要 ではないか? ○断層変位の議論も、以前の耐震審査指針の記載に遡った変更を求める議論になるので、立地円滑化のため の「安全神話」によるものであったと主張できるか? ○事業者と規制当局とのコミュニケーション環境の形成・維持 ・コミュニケーションの改善には双方の努力が必要 ・事業者サイドの意識改革は徹底されているか? ・自主的安全性向上の検討の場において、相変わらずの規制によるインセンティブ要求資料が提示されるのは如 何か? ・規制対応の前に安全性向上に取り組まなければ、市場から退出させられるという危機感が必要ではないか? ・規制への要望と事業者側の体制整備の乖離はないか? ・耐震審査における課題は震災以前から指摘されていたものではないか? ・基準地震動を万が一に上回る地震動の観測が、全原子力発電所の再評価をもたらすリスクを考慮すべき ・規制当局には独立性と孤立の相違を認識した対応を期待 8.今後の取組み これまでの原子力規制行政の経験などを基礎として、現時点で認識している原子力利用を進める上で必要な原 子力安全に係る課題について整理してみた。 今後は、原子力学会、機会学会の活動を中心に、これまでの経験などで貢献できる場に継続的に参加。 加政策研究大学院大学において、以下の課題により積極的に取り組む可能性を追求していくこととしている。 ①将来の新設炉を想定した取組み 現在、政府においては、原子力発電所の新設については、議論を凍結していると承知 一方で、原子力発電の一定の利用を前提とした場合には、早晩、既設原子力発電所のリプレースなど新設への 取組みを想定せざるを得ない。 また、国際的には、AP1000などより安全を高めた原子炉の新設計画が進められており、わが国でもそうした新 技術の適用可能性を示すことが、結果として、原子力の安全利用の理解を進めることに繋がることも期待。 加えて、新設の場合に、バックフィットルールを想定して、事前にどの程度の裕度を想定するか、地質調査の方 式など追加的に検討すべき技術的事項も多く存在するものと想定している。 原子力の新設はリードタイムが長いこともあり、現時点からの準備をすることも必要ではないかと考えている。 ②原子力発電の経済性に関する調査 石油、天然ガス市場の動向調査の際に、原子力発電の経済性に与える影響をチェックすることを検討している。 ③アジア地域における原子力利用動向の調査 政策研究大学院大学に留学している学生のネットワークを活用しつつ、アジアの原子力利用計画動向などを調 査することを検討している。