Comments
Description
Transcript
FIPG自動塗布工程における 塗布品質検査用画像システムの開発
FIPG自動塗布工程における 塗布品質検査用画像システムの開発 株式会社マクシス・シントー/林 真司 FIPG塗布と呼ばれる生産工程において、その塗布品質の品質管理が課題となっている。弊社の 「ロボットアイ」はストロボ光源とカラーパターン投光を用いた、小型で高速に3次元計測が可能な カメラシステムであり、移動中にもブレずに計測可能という特徴をもつ。これらの方式・特徴から、 FIPG工程の課題解決に適すると考え独自に開発を進めてきた。 本稿では、 塗布用のロボットに「ロボットアイ」搭載することでFIPG塗布工程における全数測定を 実現したシステムを紹介する。 1 開発の背景・目的 FIPG の工程は塗布剤を塗布する塗布部 (ディス ペンサ装置) 、指定された塗布経路に従いノズルを 気密性・密着性を必要とするような部品組立てに 駆動させるノズル駆動部(主に産業用ロボット) で おいて、従来の固体ガスケット(パッキンや Oリン 構成される。FIPG の利点として、液状素材による グ) の代わりに FIPG(Formed In Place Gasket) と 接着のため、被塗布部品の寸法ばらつきや面粗度 呼ばれる接着と密閉を兼ねた塗布剤を塗布するこ によらず密着性・気密性が高くなる。自由な形状 とにより、部品同士を接着する工程が増えている。 にすることができるため近年の生産現場で求めら FIPG は 40 年以上前に米国で開発され、日本に れることの多い多品種対応が容易である点が挙げ も普及し始めて 30 年以上経つ。自動車関連工程へ られる。しかしながら欠点もあり、接着後に部品 の適用が多く、エンジン周りのシリンダヘッド、 を外すことができない。塗布剤の付着や未生産時 シリンダブロック、オイルパンやミッションカ にも凝固が進む等、工程・設備・環境の維持管理 バー、ドアガラスのボディ貼り付け等に利用され、 組み込みECU (電気制御ユニット) のパッケージン グ、燃料電池の生産工程等にも使われている 1 、2) (図1) 。 この分野の発展は接着剤等の液状素材を定量吐 出するディスペンサ装置や、自由な経路・姿勢で 作業のできるロボット等の技術向上によるところ が大きく、塗布するという工程自体は新しくはない が近年増えており、これからも技術革新するにつ れこれらの工程が増えていくと予想される。 図 1 FIPG の実例写真 eizojoho industrial October 2014︱63 ■ 3 次元計測なら“できる” 図 2 システム構成・計測例 が大変なことなどが挙げられる。現状の FIPG 工 程 (塗布剤塗布工程) では以下のような課題がある。 • FIPG 塗布幅、高さの全数検査ができていな い (※抜き取り検査のみ等) 。 • 規格・図面通りの塗布ができていないまま、 生産し最終検査で OK ならそのままという現 状。 • 条件が変わる度に、 (ロボットなどの) 調整・抜 き取り品質確認の作業。 図 3 スペック • 最終検査で問題が発生した時に、遡って確認 ができない。 ムを搭載し、塗布剤を FA 用ロボットで塗布しな がらのリアルタイム検査が可能なシステムを開発 この中でも特に塗布品質の検査が第一であり大 した(図 2 、3)。ロボットへ搭載できる 3 次元計 きな課題である。生産現場での FIPG 工程では塗 測カメラ(RobotEye/ロボットアイ)を用いて、高 布後すぐに部品貼り付け・組立てを行うため、そ 速に 3 次元処理ができるアルゴリズムの開発を行 の塗布品質は不明のまま生産を行っているという い、塗布しながらも塗布剤の幅・高さをリアルタ 現状であり、品質検査を行ったとしても抜き取り イム計測することが可能となった。これにより塗 検査にとどまっている。この抜き取り計測におい 布工程での全数検査を実現し、測定の繰り返し精 ても、塗布後一定時間経過し凝固した後に接触式 度 0.5mm 以下を実現した。また、既存の塗布工程 (ノギス等) での測定という現場がほとんどである。 設備への適用が容易であることもあり、実用性が 高いと考える。 2 結果・効果 これらの課題の解決をするため、われわれはこ れら塗布剤を塗布する工程に特化し、塗布剤の 幅・高さを評価する独自の 3 次元計測アルゴリズ 64 ︱October 2014 これにより次のような改善が期待できる。 • 工程の中で全数検査が可能になり、塗布後に 貼り付ける前に確認ができる。 • 数値化されるため、図面・規格との比較判断 が可能。 eizojoho industrial 株式会社マクシス・シントー • 全数検査とデータ蓄積により、日・時間や季 て位相をずらした RGB パターンとし、カラーカメ 節ごとの変化がわかる。調整後の確認は一度 ラで撮影を行い RGB 成分に分割することで位相 塗布するだけで判断できる。 情報計算が可能な情報が得られるということであ • 塗布データや画像データ蓄積・分析ツール等の る。その後、撮影した画像の各画素について位相 データトレーサビリティ機能による問題把握。 情報を計算する。ここで得られた位相情報は同じ 周期を繰り返すため、位相連結処理により絶対位 3 方法・原理 相を求める必要がある。位相情報画像に対しラベ リングを行い、各ラベルの前後状態をチェックし、 3.1 カメラ構成 再度番号付けを行うことで位相連結を行う。また、 計測システムはカメラ部「ロボットアイ」と計 プロジェクタやカメラの色特性、計測対象の色味 算機部で構成され、ロボットアイはカメラとパター などの理由により、実際に得られる RGB 輝度値か ンプロジェクタで構成される。ロボットアイをロ ら計算される位相値には歪みが発生する。そこで ボット先端の塗布ノズル付近へ取付け塗布剤の塗 RGB 輝度値の補正を行い、より精度の高い位相情 布と同時に計測を行うシステムである。パターン 報が得られた 5) (図4)。 プロジェクタは光源にストロボ発光 LED を用い、 この手法によりワンショットでの 3 次元計測が また信号同期回路によりカメラ撮影と同期して発 可能となり、またパターン投光の光源にストロボ 光することができる。撮影時に瞬間的に、断続に 発光を用いることで計測対象もしくはカメラのブ パターン投光することでロボットが動きながらの レの影響をなくし、動きながらの 3 次元計測が可 撮影が可能である。 能となる。これらの特徴から、FIPG 工程での塗 布ロボットに搭載することで塗布しながらの計測 3.2 測定原理 が可能となった。 アクティブ投光法による 3 次元形状手法の中で、 高精細な計測が可能な手法として位相シフト法が よく知られる 3)。しかし、従来の位相シフト法に よる計測では位相をずらした複数の正弦波のパ 4 成果・構想 ロボットアイの適用事例を紹介する。 ターン切替が必要であった 4)。 ロボットアイでは、計測対象 にRGBパターンを投影した様 子をカラーカメラで撮影し、 得られた画像を RGB 成分に 分解することで従来の位相シ フト法における複数パターン の情報が取得できることを利 用してワンショットでの 3 次 元形状計測を行うことができ る。 具 体 的 に は、 投影するパ ターンを各チャンネルにおい 図 4 輝度補正グラフ P.9 参照 eizojoho industrial October 2014︱65 ■ 3 次元計測なら“できる” 4.1 事例1 ■自動車ドアガラス用塗布剤検査 導入前 • 全数検査はできないため、抜き取りの評価、しか も塗布後硬化したものをノギスで測定している。 • 水漏れが頻発する時もあり、 全数検査をしたい。 導入後 • 塗布幅、高さが基準通りに塗布できていると 思っていたが、寸法評価したところ、基準に 満たない塗布で生産していた。 • 水漏れ等の問題が発生した時に、検査データ・ 画像データを遡ることで課題を発見できた。 4.2 事例2 ■自動車関連金属部品上のシール材検査 (※提案段階) 3 軸直交ロボットでの塗布システムに対する検査 システムの提案。塗布幅、塗布位置のチェックを 行いたい。という要望に対し提案を進めている。特 に、塗布される部品に対する塗布位置の認識方法 について課題があり、また、塗布品質の検査だけ でなく塗布のためのロボット位置決めや、塗布量の 管理をしたいという要望もあるため検討中である。 5 今後 今後は電気自動車への移行により、ディスペン サの用途はエンジン周りから、電装系へシフトす ると考えられる(現在でも電装系での接着剤用途 は多い) 。 塗布設備においてはより細かく複雑な塗 布が求められると考えられ、画像検査がより困難 になると予想されるため、業界の動向を見据えて 機能開発を進めていきたいと考えている。また、 開発したシステム (ロボットアイ) は、計測対象の 複雑な形状や色味の変化には弱いものの、特徴量 ■ 会社紹介 マクシス・シントーでは、 産業用メカトロ装置の開発及び設計・ 製作を行っており、FAシステム・自動化設備のシステムインテグ レータとして、開発・構想設計から加工・組立・電子電気制御ま で先端技術で一貫対応する。 特にビジョンセンサ等の画像認識技術を用いた不良検査・測定 やロボットの知的制御、ハンドリング技術を得意としており、これら 技術を活用した次世代FA 装置の数々はユーザより高い評価をい ただいている。培ってきた経験・技術を元に、 新しい発想をもって チャレンジし続ける、 次世代のシステムインテグレータとして常にユー ザに満足していただく設備とサービスの提供を続けていく。 【事 例】 • 半導体関連設備・基板検査・加工機 基板高速ハンドリング、バンプ平坦化、実装機、各種基 板検査など半導体関連設備を提供する。 • 画像処理検査機 部品欠け・傷・色むら・寸法検査等を先端化した画像処 理技術で提供する。 • 自動車関連設備・大型ライン組立機 自動車用エンジン・ミッションなど、組立部品が数十点を 超える全自動組立ラインに提供する。 • ピッキングシステム 画像認識とロボット制御により、前後工程間の部品搬送 を自動化するシステム。 ■ 参考文献 1)" 自動車組立ラインにおける液状ガスケット自動塗布 システム", スリーボンド・テクニカルニュース 14, 1986. 2)" 燃 料 電 池 用 シ ー ル 剤「ThreeBond1152, ThreeBond1153」", スリーボンド・テクニカル ニュース 60, 2003. 3)吉沢徹 : " 光三次元・産業への応用 ", アドコム・ メディア株式会社 , 2008. 4)三高良介, 濱田長生: "位相シフト法による高速高 精度 3 次元計測技術 ", 松下電工技報 , pp.1015, Aug, 2002. 5)林 真司 , 西郷知泰 , 柴田進 , 梅崎太造 : "カラー パターン投影法による顔表情 3 次元形状のリアル タイム計測 ", 画像センシングシンポジウム2009 講演論文集 , 2009. の少ない均一な対象に対してワンショットで計測 ☆株式会社 マクシス・シントー 可能であるという強みがあり、FIPG だけではな TEL.052-503-2886 FAX.052-501-6685 く他の工程への展開も計画中である。 http://www.maxis-inc.com/ 66 ︱October 2014 eizojoho industrial