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製販分離モデルだけがリテールの ビジネスモデルではない
Financial Information Technology Focus June 2006 5 海外トピック 製販分離モデルだけがリテールの ビジネスモデルではない 大陸欧州では、銀行が保険子会社や大手保険会社との共同出資による保険会社を設立する製販 一体型のモデルが多く見受けられる。このモデルでは銀行は保険販売に関する様々なプロセス に積極的に関与し、それを通じて顧客リテンション向上の成果をあげている。 大陸欧州の保険商品販売は銀行経由が主流 の保険会社ランキングに顕著に現れている。 わが国では、銀行窓口での生命保険商品の 保険料収入でランキングすると、上位5社中 販売は2008年4月に全面解禁になる予定であ 4社は製販一体型であり(図表1)、銀行チャ るが、欧州のその歴史は古い。欧州では英国 1) ネルの強さを示している。唯一第5番目に独 を除き、銀行が保険販売の主要な販売チャネ 立系保険会社であるAlleanza Assicurazioniが ルとなっており、フランス、イタリア、スペ ランキングされているが、この保険会社とイ インの販売額シェアは60%以上を示している。 タリア最大手銀行Banca Intesa が共同出資で 銀行が生命保険を販売する上で、保険会社 設立した保険会社が第4位にランクされてい との契約形態を見ると、3種類に大別できる。 るIntesa Vitaである。専属代理店を販売チャ 一つは、わが国で一般的な販売提携の契約を ネルとするAlleanza Assicurazioniよりも、銀 結ぶ形態。二つ目は銀行が100%子会社の保 行チャネルでの販売が強いことを示している。 険会社を設立する形態。三つ目は、銀行と大 製販一体型の銀行の特徴は、銀行が販売だけ 手保険会社が共同で保険会社(ジョイント・ ではなく保険窓販に関する様々なプロセスに積 ベンチャー会社)を設立する形態である。フ 極的に関与していることである。その例として、 ランス、イタリア、スペイン等の大陸欧州で 銀行店舗向け保険商品の開発、ワンストップ・ は後者2形態の存在感が大きい。以下、この サービスの実施、行員のアドバイス力向上に向 2つの形態を銀行という販売チャネルと製造 けたサポート強化を挙げることができる。 2) Writer's Profile である保険会社が資本関係を有する点で製販 銀行店舗向け保険商品の開発 一体型と呼ぶことにする。 製販一体型が主流であることは、イタリア 製販一体型の銀行では、既存の保険商品を そのまま店頭に並べるのではなく、自らが商 銭谷 馨 図表1 イタリアの上位保険会社(2003年) Kaori Zeniya 金融ITイノベーション研究部 主任研究員 保険会社名 保険料 収入 モデル 販売チャネル (銀行) 専門はリテール金融 1 CreditRas Vita 5,320 JV マーケット調査 [email protected] 2 Sanpaolo Vita 4,662 子会社 Sanpaolo IMI 3 Poste Vita 4,489 子会社 Poste Italiane 4 Intesa Vita 3,506 JV Banca Intesa 5 Alleanza Assicurazioni 3,259 大手独立 トップ5 マーケット・シェア 33.6% トップ10 マーケット・シェア 53.8% UniCredit (注)表中の数字は保険料収入(単位:百万ユーロ) (出所)Insurance Pocket Book 2005より野村総合研究所作成 10 品開発に携わっている。これは、銀行店舗で 提供する保険商品は、従来からある銀行商品 に近い特性を持つ方が顧客に受け入れてもら いやすいというマーケティング結果を反映し たものである。また、そのような保険商品を 提供することで銀行スタッフは顧客に説明が しやすくなり、それによる販促効果が得られ ることも期待されている。具体的には、生命 保険機能はついているものの貯蓄性が強調さ 野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. NOTE れた商品や換金性の高い商品、また銀行の取 顧客の家族構成などの属性、購入履歴、購入 引状況に応じて保険料を割り引くなど既存の 後の保有状況・保険請求・解約などの情報が 生命保険会社にはない特徴を出した商品が提 店舗に集まるため、それが蓄積されたCRMシ 供されている。このような銀行専用の商品を ステムを利用することによって、顧客への次 スピーディに開発し顧客に提供するには、銀 なる提案の精度に期待が持てるのである。 行の方針を反映できる製販一体型が適当であ 例えば、完全子会社の生命保険会社を保有 3) するイタリア大手銀行CAPITALIA が開発し るという判断がなされているのである。 たCRMシステム『CORE』では、生命保険商 銀行店舗でワンストップ・サービス 品を含む銀行店舗で扱う金融商品がすべて管 製販一体型の銀行では、生命保険商品の 理され、顧客ごとに推奨すべき商品が 『販売』というアクションの前段階である 『CORE』上に表示されるようになっている。 『商品開発』から銀行が関与していることを そのため店舗スタッフは商品の説明ができる 述べたが、そのほか保険商品の推奨、アドバ だけでなく顧客に見合った商品を勧めること イス、販売後の契約内容の変更、保険金請求 ができる。この『CORE』導入によって、例 処理を行うなどの、保険商品提供に付随する えば定期払い保険の販売は導入前の販売額か サービスを銀行店舗で提供し、顧客の接点は ら導入後2ヶ月間で2倍強となるなど販売額 銀行だけで済むことを想定したワンストッ に大きく貢献しており、CRMシステムの有効 プ・サービスを目指している。 活用例と言えよう。 1) 英国はポラリゼーショ ン・ルールの影響が大きい。 ポラリゼーション。ルールと は投資商品を販売するにあた りアドバイスを提供する場合 は、全プロバイダー(生命保 険会社等)の全商品を取り扱 うか、1社のプロバイダーと 専属契約するかのいずれかで なくてはならない、という規 制。2005年1月に撤廃。 2) “The Banker”(2005年 7月号)の自己資本規模別ラ ンキングで第1位。 3) “The Banker”(2005年 7月号)の自己資本規模別ラ ンキングで第4位。 スペインのある銀行では、健康診断を必要 としない生命保険商品であれば、保険加入に 伴う審査も銀行店舗で行っている。これによ 製販一体型により顧客リテンション向上 以上、製販一体型の銀行における保険窓販 って顧客との接点の機会を多くするとともに、 の特徴を見てきたが、他の金融商品も同様で 顧客の待ち時間を短縮させているのである。 あり、商品開発から提案、販売、事後サービ 製販一体型で提供される保険商品は銀行ブラ スまで、販売だけではない付加価値サービス ンド名で提供されるのが一般的であるが、これ を提供することを通して顧客との長期的な取 は、ワンストップ・サービスのどのプロセスに 引へと導いているのである。 おいてもレピュテーショナル・リスクと向き合 既存顧客の維持は新規顧客獲得よりもコス うという銀行の姿勢を示していると言えよう。 ト低減が図れるなど『顧客リテンション向上』 は金融機関の共通した課題といえるが、製販 アドバイス力向上をサポートするCRM 欧州の銀行はわが国よりも情報系システム 一体型のビジネス・モデルは大陸欧州の銀行 が出した回答の一つと言えよう。 へ投資をしていると言われているが、CRMシ 今後、わが国の銀行では取り扱うことが可 ステムもその一つと言えよう。ワンストッ 能な金融商品が増えていくが、顧客リテンシ プ・サービスは、そのCRMシステムの有効性 ョン向上にどのように取り組むべきか、大陸 を高めるのに寄与している。それは、ワンス 欧州のビジネス・モデルに参考になる点は多 トップ・サービスを提供することによって、 いのではなかろうか。 N 図表2 製販一体型における保険商品のワンストップ・サービス(一例) 製販一体型 提案 商品説明 販売提携 提案 商品説明 審査 保険契約 バリュエーション 保険金請求 保険金受取 販売 野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 11