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公共施設マネジメントから コミュニティマネジメントへ

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公共施設マネジメントから コミュニティマネジメントへ
市町村アカデミー 講義
Again
公共施設マネジメントから
コミュニティマネジメントへの
展開にむけて
東京大学まちづくり研究室教授 小泉 秀樹
1.本稿の狙い
高度成長期に急速に整備された公共施設は、現在
公共施設マネジメントに関する公開されている行政文
書をGoogle検索注iiにて把握した。その結果、全国151
地方公共団体に存在することが判明した。
一斉に更新時期を迎えており、早急な老朽化対策が
地域別の傾向を図1に示した。関東地方、その中で
求められている。しかし、多額の更新・修繕費用が
も特に1都3県にて取組みが行われていることがわ
必要であるにも関わらず、税収の減収や社会保障費
かった。
の増大から、財源確保の難しさと共に財政状況の悪
これらの地域は、人口に比例して公共施設の総床
化が懸念されている。また、我が国では人口減少・
面積が非常に大きいこと、また比較的早い時期に公
少子高齢化が著しいスピードで進むため、全ての公
共施設が整備されたことにより、老朽化が深刻になっ
共施設を現状の規模のまま再整備するのではなく、
ていることから、早急な対策に迫られているためと考
今後の公共サービスの需要量の変化やニーズに対応
えられる。
した整備を行うことが求められている。
その一方で、将来の人口減少・少子高齢化社会を
見据え、集約型都市構造をはじめとした都市構造の
転換を求める声もある。
確かに、公共施設のみを取り上げてそのマネジメン
トを論じることは、自治体の財政支出の管理を行う上
では有効な面がある。しかし、本質的な問題は、少
子高齢社会や環境的な制約が増大する中で、地域・
コミュニティでの生活像・将来をどのように描き、ま
図1 地方別の公共施設マネジメント策定地方公共団体の割合
たそこにむけて、公共施設をふくめた地域・コミュニ
ティの資源を、どのようにマネジメントするのか、とい
うことであろう。
本稿では、まず近年急速に普及しつつある公共施
(2)公共施設マネジメントの概要
公共施設マネジメントの基本的な取組みを図2に示
す。
設マネジメントの実態について全国事例を収集しその
傾向を分析した上で、先端的な取組みを取り上げて、
現状での到達点を明らかにする。その上で、既述の
問題意識に照らして、コミュニティマネジメントに展
開するための道筋を明らかにしたい注i。
2.全国の公共施設マネジメントの取組みの現状
(1)策定状況の概要
2013年11月31日現在、全国1,742市区町村において、
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図2 公共施設マネジメントの基本的な流れ
基本的には「施設白書⇒基本計画⇒実施計画」の
3段階の順序で、公共施設マネジメントの取組みが
小泉 秀樹(こいずみ ひでき)
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授 博士(工学)1964年
東京都生まれ。専門はまちづくり、コミュニティ・デザイン。東京大
学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了後、1997年から東
京大学大学院講師(都市工学)
、2013年より現職。研究成果をふまえ
つつ多くの各地の住民、市民団体、自治体とまちづくり、コミュニ
ティ・デザインの実践に取り組んでいる。東日本大震災からの復興ま
ちづくりでは、釜石市、大槌町、陸前高田市に支援を行っている。都
市計画提案制度やまちづくり交付金の創設に社会資本整備審議会委員
として関る。著書に「スマート・グロース」(編著、学芸出版社)、
「成長主義を超えて−大都市はいま」
(編著、日本経済評論社)、
「 ま
ちづくり百科事典」(編著、丸善)ほか多数。都市住宅学会論文賞
ほか受賞多数。
行われていることが判明した。
これを踏まえ、公共施設マネジメントに取り組む
スの見直し」や「長寿命化・耐震化等の建築物の見
直し」
「財源確保」等の対策目標は、以前から多くの
151の地方公共団体を対象に、それぞれ3段階別の計
地方公共団体で取り組まれており、これらは施設更新
画策定状況を図3に分類した。これより、実施計画ま
を遅らせるための対策目標であると言え、地域住民の
で策定している地方公共団体はまだ少ないことがわか
生活には直接的な影響を与えない対策目標である。こ
る。
れに対して、新たに現れた「保有総量の削減」や
「機能・サービス・配置の見直し」といった対策目標
は、
「公共施設の総量削減」を意味しており、地域住
民の生活に大きな影響を与える可能性を有していると
言える。
これは、全ての老朽化した公共施設を維持更新し
ていくことは、今後の人口減少・少子高齢化社会に
そぐわず、また財政的にも困難なため、
「公共施設の
総量削減」という抜本的な対策目標を取らざるを得な
図3 3段階別の計画策定状況
いためだと考えられる。
(Ⅱ)実施計画の特徴
(3)公共施設マネジメントの特徴と課題
基本計画と実施計画の詳細を分析することで、公
共施設マネジメントの特徴と課題を抽出する。
(Ⅰ)基本計画の特徴
基本計画にて明確な原則・基本方針を定めている
地方公共団体は78であり、それらの基本計画を対策
目標に着目して分類を行うと図4となる。
図4 対策目標に着目した基本計画の分類
図4で示した、
「指定管理者制度・PFI等のサービ
35の実施計画を対象に、
(Ⅰ)で明らかになった
「公共施設の総量削減」という対策目標の特徴を踏ま
え、個別施設における計画内容について分析する。
まず、対象施設と実施計画の関係について分析を
行う。
図5は対象施設と実施計画との関係を示した図で
ある。
図5 対象施設と実施計画の関係
生涯学習施設、市民施設・集会施設、保健・福祉
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施設、子育て支援施設といった、市民が日常利用す
影響を考慮し地域内での施設配置を含んだ計画注iii(6
る「コミュニティ施設」が対象となっていることがわ
事例)
」
「住民意見の計画への反映を重視した計画注iv
かる。
(2事例)
」の3つに分類することができる。ほぼ全て
これらのコミュニティ施設は、名称や使用目的はそ
の地方公共団体が「コスト重視」の計画であり、住
れぞれ異なるが、市民が利用するために公共施設の
民意見の反映を重視している地方公共団体は非常に
貸室を提供するという点では、類似した施設機能だと
少ないことがわかった。
いえる。しかしその一方で、根拠法は社会教育法と
社会福祉法などそれぞれ異なり、そのため行政の管
(2)小括
公共施設マネジメントの実態に関しては以下の3点
轄も文部科学省と厚生労働省管轄など異なっている。
が明らかになった。1点目は、
「施設白書⇒基本計画
すなわち、異なる根拠法のために行政管轄が異なり、
⇒実施計画」の順で公共施設マネジメントが実施さ
また対象サービス層も限定されるため、類似機能を提
れている点である。2点目は、基本計画における対策
供する公共施設が重複して存在するという公共施設
目標として、
「公共施設の総量削減」が大きな割合を
の問題点が明らかになる。
示している点である。3点目は、生涯学習施設、市民
これを受けて、
「公共施設の総量削減」という対策
施設・集会施設、保健・福祉施設、子育て支援施設
目標を実施するために、根拠法等の制限から離れ、
といった市民が日常利用する「コミュニティ施設」が
類似機能を有する「コミュニティ施設」を対象とした、
実施計画の対象であり、
「複合化」
「地域移譲」と
公共施設マネジメントに関する実施計画が行われてい
いった対策手法によって、総量削減は行うが、地域
ると考えられる。
住民の生活に与える影響は最小限に留める計画だと
次に、
「コミュニティ施設」を対象とし、実施計画
に記載されている対策手法の分析を行う。結果を図6
に示した。
いう点である。
公共施設マネジメントの課題に関しては以下の3点
が明らかになった。課題1:実施計画まで策定してい
る地方公共団体は少ない点である。課題2:実施計
画において、コストに着目し施設運営の効率化のみを
目的とした計画が多く、計画による住民生活への影響
を考慮して、複数施設を対象とした地域スケールで
「複合化」
「地域移譲」といった計画を策定し、地域
内での施設配置を再考することでまちづくりや地域再
編のきっかけとした計画は非常に少ない点である。課
題3:住民意見が反映されている計画が非常に少な
図6 コミュニティ施設と対策手法の関係
コミュニティ施設を対象とした対策手法には、
(Ⅰ)
で示した基本計画の対策目標と共通している対策手
法の他に、
「複合化」
「地域移譲」という対策手法が
記載されていた。
「複合化」
「地域移譲」という具体的な対策手法が、
個別施設の実施計画にて明らかになった理由としては、
3.事例調査の分析
(1)事例の抽出方法と調査概要
2で明らかになった公共施設マネジメントにおける
3つの課題に対して、先進的な取組みを行っている事
例を対象とし、インタビュー調査を行い、その取組み
内容を明らかにした(図7)
。
「公共施設の総量削減」という基本計画における対策
事例は、課題を受けて2つの基準から抽出した。1
目標は、前述のように地域住民の生活に与える影響
つ目は、実際計画まで策定していると共に、地域単位
が大きいため、施設の「機能」に着目し、施設数・
で複数の公共施設を対象とした計画を策定し、地域
総床面積自体の削減は行うが、
「機能」に関してはで
再編につながる計画であるという基準である。これに
きる限り存続させ、地域住民の生活に与える影響を最
あてはまる事例として、神奈川県秦野市、千葉県習
小限に留めるためだと考えられる。
志野市、埼玉県宮代町、愛知県西尾市、兵庫県尼崎
さらに、実施計画策定の際に重要視されている視
点から、実施計画の分類を行った。
実施計画の視点は、
「施設運営のコスト削減を重視
した単体施設ごとの計画(27事例)
」
「住民生活への
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い点である。
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市、熊本県玉名市、以上6地方公共団体を対象とし
た。2つ目の選定基準注vは住民意見の計画への反映
を積極的に検討していることで、埼玉県さいたま市、
埼玉県鶴ケ島市の2つの事例を選定した。
のまちづくりを先導していく計画であるとの認識がな
されている場合もあった注vii。
(Ⅱ)施設配置の特徴
公共施設の施設配置に言及している地域注viiiを対象
に施設配置の特徴を分析したところ、小中学校を複
合化の拠点とし、その約1km内のコミュニティ施設を
複合化の対象としていることがわかった。図9は、施
設配置の一例として、秦野市南小学校地域の再編案
を取り上げた。
図7 課題と抽出事例の関係
これは、複合化により拠点以外の施設は閉鎖する
注vi
ことになるが、この閉鎖による地域住民への影響を最
実施計画に示された対策手法を図8に分類した。
小限にするために、歩いて通える範囲を対象とした施
(1)実施計画の特徴
設の複合化が計画されていると考えられる注ix。
図8 実施計画の分類
対策手法は、
「複合化」と「地域移譲」の2つに分
かれる。
「複合化」は、
「地域拠点にコミュニティ施設
を複合化」と「保健・福祉機能(あるいは行政機能)
図9 秦野市南小学校
しかしながら、複合化による地域内での施設配置
への集約」の2つに分類できる。
「地域拠点に複合
を検討している地域であっても、圏域や対象人口の
化」に関しては、拠点として、小中学校が多くの地方
考慮はされていない点、公共施設マネジメントに伴う
公共団体で想定されていた。これは、公共施設の総
公共交通の再編や、市街地・インフラ整備との関連
ストック量に占める小中学校の総床面積の割合が一
性についても考慮されていない点が挙げられ、公共
番大きいことや、一定範囲で設置されていること、学
施設マネジメントが今後のまちづくりを先導していく
校機能が地域コミュニティの中心となっていることが
という行政内部の認識にも関わらず、施設の配置や立
要因として考えられる。また小中学校を核として複合
地誘導については理論的に十分に検討されていない
化する際には、体育館や生涯学習施設といった教育
点が課題として挙げられる。
機能に着目して複合化したもの、生涯学習施設、子
育て支援施設、市民施設・集会施設、保健・福祉施
設といった集会施設に着目して複合化したものに、さ
らに分類できる。
「地域移譲」とは、自治会館・小規模な公民館を地
(3)住民意見の計画への反映
前述のように、住民意見の計画への反映を重視し
ている事例は、さいたま市及び鶴ヶ島市のみで、両市
ともワークショップを開催している。両市とも、小学
域移譲し、また市民が自由に使える施設として開放す
校を複合化拠点とし、どのような機能を複合化させる
ることである。その中でも、秦野市・鶴ヶ島市のよう
のか検討した上で、実際にゾーニング案を作ることが
に、この地域移譲施設を複合化施設の補完的な役割
ワークショップの内容となっている。その上で、鶴ヶ
として位置づけている例も見られた。
島市では、東洋大学学生が作った模型をもとに意見
交換が行われ、さいたま市では公募委員が複合化事
(2)施設配置の特徴
(Ⅰ)都市計画との関係
例等を視察し案を検討する。
しかしながらこの2つの市でも、ワークショップの
調査対象とした事例からは、公共施設マネジメント
対象地区や参加者は限定されており、ワークショップ
と都市マスタープランなど都市計画制度との連携関係
での決定事項の計画への反映についても限定的ある
は見られなかった。行政内部においては、都市マス
いは未確定であり、施設配置による周囲への影響に
タープランよりも、より地域の実情を踏まえて、実施
関する検討もまだ不十分である。また、住民意見の
計画を有している公共施設マネジメントこそが、将来
傾向としては、公共施設マネジメント自体には賛成で
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あるが、個別施設の複合化に伴う廃止や立地に関し
ての反対意見が多いことがわかった。
こうしたことから、公共施設マネジメントは、
「コ
ミュニティ施設計画」へと展開する可能性を有してい
以上を踏まえると、公共施設マネジメントを行う必
るということもできるだろう。しかし、住民生活に大き
要性についての住民理解は得られるが、自分の使う
な影響を与えるにも関わらず、住民参加が不十分な
公共施設の計画には反対するという「総論賛成・各
場合が多い。また、住宅地のマネジメントや市街地開
論反対」をどのように克服していくのか、その上で住
発事業、さらには公共交通など本来ならば施設配置
民と公共施設マネジメントに関してどの部分について
とともに検討すべき事項についても、検討は行われて
話し合うのか、またそこで得られた結果をどこまで計
いない。
画に反映していくのかということが、今後の大きな課
題になると考えられる。
つまり、多くの場合は、コミュニティでの豊かで持
続可能な生活の実現に直結する内容となっていない
のである。こうした現状は、公共施設マネジメントが、
(4)小括
本章では、第2章で明らかになった課題に対してど
た、その「発生」に由来するものであろう。そしてま
のような対応を行っているのか、現時点での到達点な
た、
「コミュニティ施設配置計画」は、本来はプラン
らびに問題点を明らかにした。
ニング(欧米における都市計画)のなかで総合的観
まず、
「住民生活への影響を考慮し、地域内での施
設配置を含んだ公共施設マネジメントは少ない」とい
点をもって行わるものであるが、日本では多くの場合、
「都市計画」で具体的な配置を定めることは殆どな
う課題に対して、先進事例は、小中学校を核として、
かった。このことが、現在の公共施設マネジメントが、
約1km内に位置するコミュニティ施設機能を複合化
都市計画やまちづくりとの連携に乏しいことの理由の
し、新たな地域拠点を形成し、また自治会館や小規
一つとなっている。
模な公民館を地域移譲することで、複合化施設の補
少子高齢化や人口・世帯減の進む我が国において
完的な役割を担わせるといった計画を行う、地域内で
は、諸種の制約中で持続可能で豊かなコミュニティ
の施設配置を検討していることがわかった。しかしな
(地域社会)をいかにつくりだすか?という、より能動
がら、都市計画との関係や公共交通・市街地開発等
的で、未来志向の検討が求められている。そして、
の施設配置による周囲への影響に関する検討は不十
そのためには、公共施設の維持管理費削減の観点を
分であることが判明し、行政内部での、公共施設マ
包含しつつも、公共交通の再編や空家・空地が急増
ネジメントは今後のまちづくりを具体的に先導する計
する住宅地のマネジメント、公共施設を含む地域資
画であるとの認識との矛盾が浮き彫りになった。
源のコミュニティ・リビング・ワーク注xにむけた活用、
次に、
「住民意見が反映されている計画は少ない」
高齢社会にむけた包括ケアの体制づくりなど、関連し
という課題に対しては、複合化施設の機能やゾーニ
た問題・課題領域と連動しつつ、また市民・住民の
ングに対して市民とワークショップ形式で検討する先
積極的な参加をとりつけながら、多面的に検討を行う
進事例があることが判明したが、その内容や意見の
ことが必要である。この際、高齢者福祉施設(介護
反映方法等についてまだ不十分であることが明らかに
事業施設)など、民間事業者が設置運営している施
なった。
設もあり、これらとの調整や一括的マネジメントなど
4.公共施設マネジメントからコミュニティマネ
ジメントへの展開にむけた示唆
(1)まとめ
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施設の維持管理費を減らすことを目的として始められ
も必要とされている。
つまり持続可能なコミュニティの運営・マネジメン
トの1つの断面として、公共施設マネジメントを位置
づけ直す発想が必要とされているのである。
公共施設マネジメントは、近年全国の自治体に急
では、どのようにすれば、そのような領域総合的な
速にひろがりつつある。そのうち萌芽的試みにおいて
コミュニティのマネジメントが可能となるのだろうか?
は、コミュニティに必要とされる機能・サービスを再
これには、米国のプランニング(都市計画)の歴史的
検討し、重複する機能をもつ施設の統廃合と複合化、
進展に1つのヒントをみることができる。つまり、都市
地域移譲といったかたちで、総量を削減することが行
地域への総合的なアプローチは、部門別の計画の充
われていた。また住民への影響を考慮し、小中学校
実があって初めて可能となり、更にそれら部門別の計
区等の生活圏を単位として施設配置(複合化による
画、そしてそれらに位置づけられる施策を、総合的・
集約化や廃止、地域移譲)を行っている事例も見ら
体系的に調整する制度的枠組みが求められる、という
れた。
ことである注xi。
vol.112
例えば、我が国の地域福祉計画や介護保険計画は、
論文集 第74巻第638号
空間計画的側面が弱く、結果として、地域にどのよう
5)李祥準ら(2012)
「IMPROVING THE EFFICIENCY
な施設がどの程度必要であるのかは、多くの場合明
OF PUBLIC FACILITIES MANAGEMENT: OR-
示されない。このため、例えば、公共施設マネジメン
トを行う場合であっても、高齢化に備えた施設の転用
などの検討は必ずしも行われていない。また、都市マ
GANIZATIONAL STRUCTURES AND MANAGEMENT PROCESS IN MUNICIPALITIES」日本建築
学会計画系論文集第77巻第673号
6)永田麻由子・小泉秀樹他(2014)
「地方公共団体にお
スタープランの策定時にこうした点を補う事も行われ
ける公共施設マネジメントの取組みに関する実態と課
ていない。
題̶公共施設の総量削減手法と住民生活に与える影響
これらのことは、部門別計画としての地域福祉計画
や介護保険計画が、コミュニティのマネジメントの観
に着目して」日本都市計画学会論文集,vol.49-3, No.77,
663-668
点からみれば未発達であるということと、更には、空
間に関連して諸種の計画を束ねる機能を、都市マス
タープランが現実的には持ち得ていないことを端的に
示している。また、公共交通に関する検討も、自治体
が独自に行う場合は極めて稀である。
こうした重要な分野の計画の立案を進め、また何ら
i本稿は文献6)をもとに筆者が執筆したものである。
ii「公共施設マネジメント」
「公共施設再編」
「公共施設再
配置」
「施設白書」などの用語を用いてGoogle検索を
行った。またこの作業の確認として、財団法人地域総
合 整 備財団〈ふるさと財団〉
(2013年)
「平成24年度
PFI/PPP調査研究会報告書∼公共施設マネジメントの
かの方針・計画において(我々はコミュニティ戦略と
あり方に関する調査研究∼」等の資料を参考にした。
呼んでいるが)
、分野調整的にコミュニティマネジメン
iii判別方法としては、複数の公共施設を地図上にプロット
トの戦略と主要事業、担い手を位置づけることが必要
し住民生活に与える影響について言及している、ある
なのである。
しかし、日本の行政文化において、こうしたコミュ
ニティ戦略を中心としたコミュニティマネジメントの体
制を形づくることは、直ちには困難である場合が多い
だろう。そこで、まずは、重要分野の検討や施策の
実施を行いつつ、特定なコミュニティを対象にした実
いは公共施設マネジメントをまちづくり・地域再編の
きっかけとすることを示している点などから判断した。
iv一般的なパブリックコメント等は除く。
v2つ目の選定基準は、課題3に対してのみの先進事例で
あるという位置付けではあるが、課題1に対してもさい
たま市・鶴ヶ島市ともに現在計画を策定中である。
(2013年12月現在)
践の中で、住民や市民社会組織、企業との連携を深
vi鶴ヶ島市では、東洋大学主催の「鶴ヶ島プロジェクト」
めつつ、分野間の連携を徐々にとりつけることが良い
が公共施設マネジメントに先駆けて行われており、計
のかもしれない。公共施設マネジメントを超えた、コ
画自体は現在作成中のため(2013.12に案が公表)
、計
ミュニティマネジメントに挑戦する先端的自治体の登
場に期待したい。
(執筆にあたり東京都都市整備局 永田麻由子氏に協力
いただきました。永田麻由子氏の略歴:東京大学大学院
工学系研究科都市工学専攻修了後、2014年より現職)
画の分析からは除外した。4(2)も同様である。
vii都市計画との関係として、用途地域の制限が複合化施
設建設の際の制限となる可能性があることも、習志野
市・尼崎市の調査で明らかになった。
viii秦野市・習志野市・宮代町(モデル案)
・西尾市(モ
デル事業)
・尼崎市・玉名市(モデル事業)
・さいたま
市(ワークショップ)を対象とした。
ix秦野市等のインタビュー調査においても、子どもや健康
【参考文献】
1)根本祐二(2011)
『朽ちるインフラ』日本経済新聞出版
社
な高齢者が歩いて通える範囲の公共施設を対象とした
複合化を検討しているという、行政側の計画策定意図
を明らかにすることができた。
2)中川雅之(2012)
「特集「都市の老朽化にどう備える
xコミュニティそのものをリビングのような生活空間とし、
か?:人口減少、高齢化時代のインフラ・公共施設の
またワークプレイス(職の場)として位置づけ直す、次
更新・維持管理」にあたって」日本不動産学会誌 第
世代型のまちづくりのあり方。
25巻第4号
3)志村高史(2011)
「新しいハコモノはつくらない!:秦
xi例えば、アメリカのワシントン州などでは、広域から近
隣レベルまで、また様々な分野毎の施策を、マスタープ
野市における公共施設配置の再配置計画とその実践」
ランの体系で調整しているが、その制度的背景として、
月刊自治研620号
マスタープランに記載のない施策は実施ができない、と
4)謝秉銓ら(2009)
「施設運営管理費と施設の利用実態
いうマスタープランの強い施策の拘束性や主導性を指
に着目した公共施設マネジメント手法に関する研究̶
摘できる。またマスタープランの実施に、市民、住民、
東京都多摩市をモデルとして̶」日本建築学会計画系
企業も協力する体系を構築している点も興味深い。
vol.112
25
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