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コグニティブ無線技術の概要と標準化動向 - ITU-AJ

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コグニティブ無線技術の概要と標準化動向 - ITU-AJ
コグニティブ無線技術の概要と標準化動向
むらかみ
独立行政法人 情報通信研究機構 ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 主任研究員
1.コグニティブ無線の分類
ほまれ
村上 誉
Access Network)のうち最適なものを選択したり、必要か
爆発的な増加を続けるモバイルトラヒックにより、移動通
つ、可能であれば複数を組み合わせて使用するものである。
信システムに適した周波数帯は逼迫状況にある。そこで、場
現在運用されている無線システムに大きく手を加えずに利用
所や時間・帯域によって異なる無線の利用状況を検知し、
可能であるため、短期的に周波数利用効率の改善が期待で
有効かつ最適な利用を行うコグニティブ無線技術 の研究開
きるアプローチである。スマートフォン等にて携帯電話網へ
発が行われている。コグニティブ無線とは、
「認識する(cog-
のトラヒックを無線LAN等にオフロードする仕組みとして使
nition)
」という語が示すように、無線の利用状況を認識し、
われているほか、検討が始まっている第5世代携帯電話シス
最適な運用状態やパラメータに動的に切り替えることを繰り
テムにおいても、運用周波数帯が異なる複数のRANを組み
返すことで、限られた周波数帯を有効活用するための技術で
合わせる際に、このような技術の活用が期待されている。
[1]
ある。本技術は検知した周波数帯の活用方法から図1に示す
ヘテロジニアス型コグニティブ無線の実現のための規格が、
2種に分類可能である。一つはその場所において使用可能な
IEEE(米国電気電子学会、The Institute of Electrical and
無線システムを発見し、その中から最適なシステムに接続先
Electronics Engineers)にて策定されている。主なものとし
を切り替えたり、組み合わせて使用するヘテロジニアス型で
ては、コグニティブ無線の制御フレームワークとしてIEEE
ある。もう一つは、その場所において使用されていない周波
1900.4/4aが、分散センシングのためのアーキテクチャとして
数帯を発見し、その帯域を使って通信を行うホワイトスペー
IEEE 1900.6/6aがある。
ス通信技術である。
2.2 アーキテクチャと機能構成
複数のRANが協調し情報交換を行うために必要な機能を
2.ヘテロジニアス型コグニティブ無線
2.1 概要と標準化動向
有するアーキテクチャとしてコグニティブ無線クラウド[2]を提
案している。図2にその概要を示す。これをIEEEに対し提案
ヘテロジニアス型コグニティブ無線とは、複数の無線シス
テムが混在する環境において、コグニティブ無線機がその場
を行いIEEE 1900.4及びIEEE 1900.4a規格として採用されて
いる。
所に存在する無線システムについてセンシングを行い、その
管理ネットワーク、コグニティブ無線基地局、端末にそれ
場で利用できる無線アクセスネットワーク(RAN、Radio
ぞれ再構築マネージャ(xRM、x Reconfiguration Manager)
を配置することにより、各RANや端末の運用状況を横断的
ヘテロジニアス型 コグニティブ無線
に把握し、複数のRAN・周波数帯を対象としたリソースの
センシングし、利用可能な
(存在する)無線システムを発見する
System A
System B
System C
管理や最適化の判断・指示伝達を行うことが可能となり、
周波数資源の有効活用に寄与できる。
Freq.
PCやスマートフォンなど、全てのユーザ端末に複数RAN
に接続可能なチップやデバイスを搭載しコグニティブ無線端
末化するのは、コストや大きさ、消費電力等の点から必ずし
周波数共用型 コグニティブ無線
も最適とは言えない。そこで、複数のRANに接続可能なモバ
センシングし、利用されていない周波数帯・時間を発見する
System A
System B
イルルータ装置である、コグニティブ無線基地局(図3)の
提案も併せて行っている。
System C
Freq.
各xRM間の通信は制御情報であるので、確実な伝達が期
待される。TRM(Terminal RM)との通信においては、端
図1.コグニティブ無線技術の2方式
末がどのRANを使って通信を行っているかは分からないため、
ITUジャーナル Vol. 44 No. 12(2014, 12)
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スポットライト
RAN1
TMC
RRC
クトル情報を面的に得ることができるようになるため、より
OSM
高度に最適なパラメータや使用可能な周波数帯の推定が可
RMC
能となったり、自らセンシングを行う代わりに近隣から受領
TRM
RANn
TRC
NRM
Another
NRM
した情報を代用することでセンシングに要する時間や消費電
力を低減する効果が期待できる。
Terminal
ヘテロジニアス型コグニティブ無線システム
WS RAN
TMC
CBSMC
TRM
CBSRM
TRC
CBSRC
3.ホワイトスペース型コグニティブ無線
3.1 概要と標準化動向
WSM
ホワイトスペース型コグニティブ無線は、コグニティブ無
線機がその場所で使用されていない周波数帯を特定し、その
Terminal
Another
TRM
周波数帯を自分の利用したい無線方式・MACプロトコルな
CBS
Another
CBSRM
どを組み合わせて利用するものである。既存システムと周波
数を共用し、新しいシステムを導入することで、今まで使用
Packet based network
されていなかった周波数の利用が可能となり、周波数利用効
周波数共用型コグニティブ無線システム
CBS: Cognitive Base Station
CBSMC: CBS Measurement Collector
CBSRC: CBS Reconfiguration Controller
CBSRM: CBS Reconfiguration Manager
NRM: Network Reconfiguration Manager
OSM: Operator Spectrum Manager
RAN: Radio Access Network
RMC: RAN Measurement Collector
RRC: RAN Reconfiguration Controller
TMC: Terminal Measurement Collector
TRC: Terminal Reconfiguration Controller
TRM: Terminal Reconfiguration Manager
WSM: White Space Manager
WS RAN: White Space RAN
図2.コグニティブ無線クラウド
率を高めることができる。既存システムに対する与干渉を回
避するための手法や制度の導入が必須である。
地上波テレビ放送帯が行われているUHF帯での活用に関
する検討が盛んに行われており、当該帯域を想定した様々な
通信システム規格が策定されている。IEEE 802.11afが無線
LAN、IEEE 802.15.4mが省電力通信規格であるSUN(Smart
Utility Network)
、IEEE 802.22が中距離通信規格である無
線RAN(Regional Area Network)をそれぞれUHF帯で運
用するために策定され、またこれらが共存するための調整機
能を提供するIEEE 802.19.1規格も策定されている。
3.2 周波数管理技術と複数の通信規格
ホワイトスペースの利用の大前提として、同周波数帯の既
図3.コグニティブ無線基地局 試作装置
存通信ユーザに対して悪影響を与えないことが大前提とな
る。すなわち、その場で使われている無線の認識が正確であ
データ接続RANの種類によらず、確実に制御信号を伝達で
ることが求められる。センシング精度の無線機ごとの個体差
きる経路を確保することが必要となる。通常のデータパケッ
を回避するために、位置情報に基づき使用可能な周波数情
トとして送受する手法(インバンド方式)や、制御ネットワ
報が提供されるデータベース(図4)を用いた運用が、各ホ
ークのための専用システム(アウトバンド方式)を構築する
ワイトスペース通信規格において機能要件とされている。ま
方法がある。筆者らの検討では、起動時などRANが未接続
た、異なるホワイトスペース通信規格を採用した無線機が同
の時にはアウトバンドで、データ接続RANを確立した後はイ
一のホワイトスペース周波数帯を使用すると、相互に干渉し
ンバンド方式に切り替えるハイブリッド型が最も効率が良い
通信品質低下や使用不能な状態となり得る。異システム間
との結果が得られている。
で利用周波数帯を調整する共存マネージャ(IEEE 802.19.1
無線の利用状況を高精度に行う手法として、分散センシ
ング方式について検討し、そのアーキテクチャはIEEE 1900.6
規格)をデータベースと併用することで、これらの共存も可
能となっている。
及びIEEEE 1900.6aに採択されている。複数のセンサの情報
これらのデータベース等と連携し、テレビ周波数帯を利用
を近隣で交換することにより、単体では得られなかったスペ
して通信を行う無線LAN規格として、IEEE 802.11af規格が
12
ITUジャーナル Vol. 44 No. 12(2014, 12)
第一段階と同じ作業を行う
加えて、
ホワイトスペース通
信システム間の共存を行う
マネージャに対しても自身
が持つ情報を必要に応じて
供給
ホワイトスペース機器からの情報と
データベースからの情報を利用
プライマリ機器に干渉がないかに加え、
ホワイトスペース機器間の共存の可能
性を計算、学習、判断し、逐次利用可
否を応答
他にも、主にルーラルエリアでの中長距離をカバーするた
めの地域ネットワーク規格として、IEEE 802.22規格が策定
されている。最大出力を4W(EIRP)とすることで数十km
離れた地点でも通信できる。
標準化されているもの以外では、商用の携帯電話システム
であるLTE方式をテレビ周波数帯で動作させることを狙った
ホワイトスペース
データベース
ホワイトスペース
共存マネージャ
ホワイトスペースLTE方式[3]の検討なども行われている。
4.ITUにおける議論
ITU-Rにおいても、複数のWPにて周波数割当てや規制の
必要性について議論が行われてきた。2007年にWRC-12の議
異なる規格のホワイトスペース機器
センシング情報や、
自らの無線機型式番号、位置情報を送信
プライマリ機器に悪影響を与えないかをホワイトスペースデータ
ベースに、
さらに他のホワイトスペース機器間で干渉は発生しない
かを共存マネージャに問い合わせ
利用可否情報に応じて動作
図4.ホワイトスペースデータベースと共存マネージャ
題としてコグニティブ無線システム(CRS、Cognitive Radio
System)の規制検討の是非について議論されることとなり、
主担当としてWP1Bで規制の必要性について、サポートとし
て技術要素についてWP5Aを中心にSG5の各WPで議論が進
められた。また同時期に、WP5AにおいてはCRSに研究課題
を策定し、それに基づき技術レポートが作成された。
策定されている。帯域幅は6、7、8MHzから選択可能として
これらに各グループでの検討結果として、WRC-12にて
世界中のテレビ放送帯との親和性を高めつつ、最大4チャネ
CRSは技術であって業務ではないので、周波数割当てや規制
ルまで束ねて伝送可能なチャネルアグリゲーション機能や、
についてはCRSを適用する各業務(移動通信や衛星通信等)
最大4ストリームまでのMIMO(Multiple-Input Multiple-
に対して行われるべきである、と結論づけられた。併せて、
Output)方式をサポートし最大600Mbpsの高速通信にも対
CRSの利用と導入のための研究を推進するという決議がなさ
応可能としている。
れ、引き続きWP5Aにて技術レポートの第2版の作成が進め
また、センサーネットワークに適用されているSUN方式を
られている。
TVホワイトスペース帯にて利用可能とするIEEE 802.15.4m
規格が策定さている。主にスマートグリッドのようなメータ
5.謝辞
リングに使われる超低消費電力マルチホップ通信システムと
しての活用が期待されている。
本検討の一部は、総務省委託「電波資源拡大のための研
究開発」によって行われたものである。
参考文献
[1] J. Mitra III et al, “Cognitive radio: making software radios
more personal”, IEEE Personal Commun., pp.13--18, Aug.
1999.
[2] H. Harada, “Cognitive Wireless Cloud: A Network
Concept to Handle Heterogeneous and Spectrum Sharing
Type Cognitive Radio Access Network”, Proc. of IEEE
PIMRC 2009, pp 1-5, Sept. 2009.
[3] 原田 他、“ホワイトスペースLTEシステムに関する研究
図5.ホワイトスペース無線LAN IEEE 802.11af規格準拠 試作装置
開発”、信学技報、RCS2012-218、Dec. 2012.
ITUジャーナル Vol. 44 No. 12(2014, 12)
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