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創発の人 - Nomura Research Institute

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創発の人 - Nomura Research Institute
創発の人
グローバルな視点で未来を先取りし、世の中のパラダイムを変え、新しい価値を
生んでいく。そんな NRIの理念を体現するような、
各界注目の人物が登場します。
文─ 佐保 圭 撮影─ミワタダシ
日本が誇る
「キャラクター文化」
の立役者
小池一夫
この人の作品を知らないという大人を、
日本で探すのは難しいだろう。
劇画原作者として数々の名作を
生み出してきた小池一夫さん。
冥府魔道を生きる孤独な父と子の姿を描いた『子連れ狼』は、あまりに有名だ。
『犬夜叉』の高橋留美子、
『北斗の拳』の原哲夫など、多くの作家も育成しており、
間違いなく、日本が世界に誇るコンテンツ“MANGA”興隆の立役者の一人。
た
一般用語となった「キャラクターを起 てる」という概念を、およそ20 年前に提唱した人物でもある。
漫画、アニメ、ゲームなどの日本の「キャラクターコンテンツ」は、他国の追随を許さないほどの競争力を持つ。
それゆえ優れた“知財”
として世界中から狙われている事実をもっと理解すべきだと、警鐘を鳴らしている。
当
「未来創発」
に掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。
すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2007 Nomura Research Institute,Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
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日本が誇る知財の「キャラクター」は
世界中から狙われ、争奪されている
小池一夫さんは1970 年から現在まで、数々の
作画家と組んで200 余の作品を書き、70 歳を越
えた今も最前線に立ってヒット作を世に送り出し
続けている。
独特のキャラクターを生み出し組み合わせるこ
とで、個々の登場人物の持つ魅力の“総和”
をは
るかにしのぐ物語世界を創出する──そんな漫
画原作の第一人者である彼こそ“創発の人”と呼
ぶにふさわしい。
2003 年に「知的財産基本法」が施行され、
小泉純一郎首相(当時)を本部長とする「知的財
産戦略本部」が設立されてからは“キャラクター
コンテンツの知的財産権に関するオーソリティ
ー”
として参画。経団連や関経連などでの講演を
重ねてきた。経済産業省は、2005 年には13.6
兆円だった漫画、アニメ、ゲームなどのコンテンツ
ビジネスの市場規模を、2015 年までに19 兆円
に拡大することを目標としている。だが、そんな
楽観論に対して、小池さんは警鐘を鳴らす。
「リンカーン大統領の『特許制度は天才の炎に
利益という燃料を加えた』という有名な特許演
説を機に、米国が知財保護に力を入れ始めたの
は1859 年。小泉前首相が所信演説で『知財立
「キャラクターを起てる」
という
概念は、業種を問わず
あらゆるビジネスに重要です。
国』を宣言したのは2002年ですから、140 年以上も遅れ
ている。日本の“知財”
の保護に対する状況は、惨憺たる
ものなんです。
例えばウルトラマンにしても、タイのチャイヨー・プロダ
クションに世界の配給権を奪われて、青い目や赤い目のウ
ルトラマンを作られ、世界中に配給されても何の文句も言
えない。生みの親である円谷プロには、わずかに日本で配
小池 一夫
こいけ・かずお
1936 年、秋田県生まれ。中央大学卒業後、時代小説家・山手
樹一郎氏に師事。1970 年『子連れ狼』
( 画/小島剛夕)の執筆
以来、小説、漫画原作、映画・テレビ・舞台などの脚本、作詞、
出版など幅広い創作活動を行う。2000 年に、大阪芸術大学芸
術学部教授に就任。2005 年 4 月には同大学新設のキャラクタ
ー造形学科学科長に就任、現在に至る。
『大阪芸術大学 小
池一夫のキャラクター造形学』など、著書多数
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給する権利が残されただけ。米国の政府機関でテレビや
ラジオなどの放送を管理し、
著作権問題なども担当する
“連
邦通信委員会(FCC)”の子ども向けサイトのキャラクター
は『ドラえもん』にそっくり。しかもオレンジ色。藤子不二
雄プロが何度文句を言っても変えようとしない。そういう
実状をもっとたくさんの人に知ってほしい」
当
「未来創発」
に掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。
すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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創発の人
2005 年から小池さんが初代学科長を務める大阪芸術
ではない。
「
“キャラクターを起てる”
という概念は、どんな
大学キャラクター造形学科は、06 年 5月、同学科で開発
業種のビジネスにも活用できる視点を与えてくれる」と小池
した「 IAAF世界陸上 2007大阪 」の公式マスコットキャ
さんは示唆する。
ラクター「トラッフィー」を発表した。
「僕は常々、弟子たちに『あらゆるものを
“キャラクター
「このキャラクターは、学生たちから募集した475点の
化”
しなさい』と教えています。この考え方は、
業種を問わず、
作品から絞り込んで磨き上げたものですが、発表する前に
どんなビジネスでも重要です」
世界 64カ国で登録しました。インターネット時代ですか
例えば財政破綻した夕張市の「ゆうばりロボット大科学
ら、世界のどこかで先に登録されてしまったら、それで終わ
館」
。年間 5 万人もロボットを見に来る人がいるから、その
りです」
ための“箱”
を造ろう、というのが本来の考え方のはず。
それくらいしなければ正当な権利が守れないほど、日本
「ところが、まず“箱”
を造って、それから5万人を呼ぼう
は追いつめられていると小池さんは言う。
とした。大事なのはロボットや箱のキャラクターじゃない。
「これは戦争なんです。
“キャラクター”
というビジネス・コ
来館してもらいたい『5 万人』の姿をきちんと分析した上で
ンテンツを争奪し合う世界戦争の中で、知的財産権を取ら
“キャラクター化”すること。顧客の“キャラクター化”
がで
れたり侵されたりしている一番の被害者は日本です。政治
きなければ、ビジネスを成功させられるはずはないですよ」
家も財界人も、漫画やアニメ、ゲームのキャラクターは日本
つまり、企業や商品、ビジネス自体の“キャラクター”を
が世界に誇るビジネス・コンテンツであると同時に、世界か
しっかり“起てる”のはもちろんのこと、事業の対象となる
ら狙われている“知財”だということをもっと理解すべきで
顧客を“キャラクター化”してとらえ直すことで既存のビジ
しょう」
ネスの成功率を高める、あるいは“新たなキャラクター”を
市場に想定することで、新規顧客や新市場の開拓につな
次なるキャラクターの作り手は
未来の地球を守っていく子どもたち
げるなどの努力が必要となるのである。
取材の最後、時代が求める“キャラクター論”の第一人
者である小池さんに「人生が終わる前に、最後に作りたい
小池さんが現在の漫画・アニメ・ゲームの世界で果たし
“キャラクター”は何か?」と問いかけたところ、サングラス
た大きな役割の一つに「後進の育成」がある。
の奧の目を細めながら、次のように答えてくれた。
1977年、漫画家、漫画及び映画の原作者の養成のため
「子どもたちに訴えるキャラクターです。ただ、僕が作る
に「小池一夫劇画村塾」を開講。88 年から2005 年まで
んじゃない。次の地球を守ってゆく小中学生に“地球の温
中断するも、06 年から再開している。
暖化を止めるキャラクター”を作らせたい。子どもたちに
彼の塾からは300人以上の“小池一夫の弟子”たちが
輩出し、中には『犬夜叉』の高橋留美子、
『北斗の拳』の
『あなたたちの手で作りなさい』と呼びかける……それが僕
の役割だと思います」
原哲夫、
『ドラゴンクエスト』の堀井雄二など、そうそうた
るクリエイターたちの名前が並ぶ。この塾で、小池さんは終
始一貫して“キャラクター”の重要性とその創り方、起て方
について弟子たちに説いてきた。
「ビジネスにおいても“キャラクター”つまり“企業マスコ
ット”の影響力は絶大です。以前は業界内で低迷していた
ダイキンエアコンが、かわいらしい『ぴちょんくん』の宣伝
効果で一気に業績を伸ばしたのは、その最たる例といえる
でしょう」
作者が送り込んだ「心」こそがキャラクター。魅力的なキャラクター
だが、大切なのは商品や企業自体の“キャラクター”
だけ
する小池教授。右は、漫画家の永井豪氏(同大教授)
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が人々に感動を与える。大阪芸術大学で「キャラクター原論」を講義
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