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妊婦・授乳婦専門薬剤師制度について(Vol.69)
妊婦・授乳婦専門薬剤師制度 について ∼ 林 昌洋先生(虎の門病院薬剤部長)に聞く∼ 日本病院薬剤師会から、がん、感染制御、精神科の専門薬剤師制度に続いて、今年、 HIV専門薬剤師制度と ともに、妊婦・授乳婦専門薬剤師制度の概要が発表されました。そこで、日本病院薬剤師会 専門薬剤師認 定制度委員会 妊婦・授乳婦小委員会委員長として、本専門薬剤師制度の発足に尽力された虎の門病院薬 剤部長の林昌洋先生に本制度の背景や認定薬剤師に求められるスキルなどをお伺いしました。 また、一般の薬物療法と違って、患 談外来」を開設しました。妊娠中に服 者本人のほかに、母体に投与した薬 用された薬物が胎児に及ぼす影響を 物が胎児・哺乳児へ移行する点を考 心配する全国からの相談者にお答え 妊婦・授乳婦専門薬剤師制度 慮しなければなりません。胎児毒性や して、20年間で1万人を数えます。出 が求められている背景を教えてくだ 発育毒性、 そして催奇形性といったリ 産に向けての相談を受けることによって、 さい。 スクです。 不安を取り除き、前向きに考えてもらえ 林 妊婦・授乳婦への薬物療法は、 そうした妊婦・授乳婦への薬物療 るように努めています。 薬剤の有効性と安全性の根拠となる 法の特殊性の下に、倫理的・科学的 情報が極めて少ないことが問題点で に妥当な判断ができる薬剤師が求め す。それは、医薬品が上市される過程 られていることが、妊婦・授乳婦専門 で、妊婦・授乳婦は治験の除外対象 薬剤師制度の背景にあります。 妊婦・授乳婦専門薬剤師制度 の背景 になっているためです。 したがって、上 薬剤師なら誰でも一度は、薬物 妊婦・授乳婦に対する薬の専門 市された時点で、妊婦・授乳婦に関す の赤ちゃんへの影響が心配な妊婦・ 家として薬剤師に必要なスキルなど るデータが無いままに薬物療法をする 授乳婦から相談を受けた経験がある を教えてください。 ことになります。 のではないでしょうか? 林 妊娠中でも医学的・薬学的に投 林 そうだろうと思います。1959年頃 薬が必要な妊婦への服薬支援を行う からサリドマイドによる奇形児の発生 には、 まず、薬物のリスク評価をしなけ が報告されたこともあって、妊婦やそ ればなりません。ベネフィットとリスクを の親たちは催奇形性を過度に心配す 勘案する点は、一般の薬物療法と同 る傾向があります。妊婦さんから「この じですが、 リスク評価に必要な情報の 薬は大丈夫ですか?」 と相談されても、 入手が難しい事が異なる点です。そ 十分な情報が得られず、明確に答え のため、 コホート・スタディから生殖試 られない経験を持つ医師や薬剤師は 験まで、可能な限り収集・評価したデ 少なくないと思います。そのため、胎児 ータから正しいエビデンスを選択して、 毒性があまり無い薬でも、根拠が無い 真のリスク評価をすることが重要です。 ために出産を断念するケースもあるで そして、 リスク評価と医師の診断を しょう。 もとに、生殖倫理に配慮したカウンセリ そうした状況があったことから、虎 ングを行って妊婦を支援する必要が の門病院では1988年に「妊娠と薬相 あります。 国家公務員共済組合連合会虎の門病院薬剤部長 林 昌洋 先生 7 妊婦カウンセリング の必要性 妊婦へのカウンセリングの要点 研修施設でのカウンセリング実習では、 能力やリスク評価能力を高めていっ などをお聞かせください。 経験が豊富な薬剤師が模擬妊婦ま てもらいたいと思います。 林 まず、 自然発生的に生殖自体が たは模擬カップルになり、 ロールプレイ なお、妊婦・授乳婦が薬について相 持っているリスクがあることを妊婦に を多数例経験してカウンセリングに慣 談したいという潜在ニーズは高いと思 理解してもらわなくてはなりません。外 れてもらう必要があると考えています。 います。少子高齢化のわが国において、 表奇形のほか内臓の奇形を含めると スケジュールは決まっていますか? 問題解決への新たな道筋をつける一 約2∼3%の新生児は先天異常を持 林 詳細なスケジュールはこれから詰 助として、次世代の健康を支援する専 って産まれてくることがわかっています。 めていくところですが、平成20年度で 門性を持った薬剤師が必要とされて それに、薬 物が上 乗 せするリスクの は「過渡的措置による妊婦・授乳婦 います。そうしたニーズに対応していく 有無を勘案したカウンセリングを行い 専門薬剤師」の認定を行います。平 ために、 かかりつけの医療施設でこの ます。 成21年度はこの妊婦・授乳婦専門薬 分野の基本的な情報が得られる体制 また、 カウンセリングでは、 インフォー 剤師が中心になって、講習会の開催 確保が必要と考えています。そのため ムド・コンセントをさらに推し進めて、 イ と研修施設での実技研修などを行い、 になるべく多くの認定薬剤師に全国 ンフォームド・ディシジョンという考え方 妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師 各地で活躍してもらうことを望んでい をベースにします。命の選択に関わり の認定試験を実施する予定です。 ます。 ますので、最終的に決めるのはカップ 妊婦・授乳婦専門薬剤師制度 さらに、認定薬剤師のうち、論文発 ルのお二人ですが胸を張って、産まれ の今後について抱負などをお聞かせ 表や学会発表を重ねて専門薬剤師 てくる赤ちゃんと向き合っていける方 ください。 の資格を取得した人は、 カウンセリン 向に案内することです。 林 医師から信頼を得てチーム医療 グをした妊婦・授乳婦さんからご協力 例えば、抗てんかん薬は疫学調査 を推進するために、認定された薬剤 をいただき、薬剤の疫学研究などを進 で奇形発生率が約9%とされています。 師は、 自らの薬物に関する情報収集 めてもらいたい、 と願っています。 見方を変えて、 健常児を得る可能性は、 通常妊娠で100人中97∼98例である のに対して、抗てんかん薬服用者の 表1:妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師申請資格の要約 (詳細は、 日本病院薬剤師会誌をご参照ください) 妊娠では100人中91例ほどになること 日本国の薬剤師免許を有すること を説明する、 といった手法で決めても 薬剤師歴5年以上であり、関連学会会員であること。 らうことも必要になるでしょう。 日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師、日本医療薬学会認定薬剤師、薬剤師 認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師、あるい は日本臨床薬理学会認定薬剤師であること。 病院または診療所に勤務し、妊婦・授乳婦の薬剤指導に引き続いて3年以上従事 していること。 妊婦・授乳婦専門薬剤師制度 の概要と今後 日本病院薬剤師会が認定する研修施設において、 「模擬妊婦・模擬授乳婦とのロ ールプレイ」を含めたカウンセリング技術等や、情報評価スキルの確認トレーニン グ等の実技研修を40時間以上履修していること、または研修施設において引き 続き3年以上、妊婦・授乳婦の薬剤指導に従事していること。 妊婦・授乳婦専門薬剤師制度 の概要を教えてください。 日本病院薬剤師会が認定する妊婦・授乳婦領域の講習会、及び「別に定める学会」 (表2参照)が主催する妊婦・授乳婦領域の講習会などを所定の単位(20時間、 10単位)以上履修していること。 林 「妊婦・授乳婦薬物療法認定薬 剤師」を取得後に「妊婦・授乳婦専 門薬剤師」へステップアップしていく 妊婦・授乳婦の薬剤指導実績が30症例以上(複数の疾患)を満たしていること。 方式になります。妊婦・授乳婦薬物療 病院長あるいは施設長等の推薦があること。 日本病院薬剤師会が行う認定試験に合格していること。 法認定薬剤師の認定申請要件として、 研修施設でカウンセリング技術や情 報評価スキルの確認などを行う実技 研修 (40時間以上) と講習会の履修 (20 表2:日本病院薬剤師会が「別に定める学会」 ● 日本医療薬学会 ● 日本薬学会 ● 日本臨床薬理学会 ● 日本産科婦人科学会 ● 日本小児科学会 ● 日本先天異常学会 時間、10単位)が必要になります。 8