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第5回国際金融経済分析会合 議事要旨

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第5回国際金融経済分析会合 議事要旨
第5回国際金融経済分析会合
議事要旨
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(開催要領)
1.開催日時:平成 28 年4月 13 日(金)8:15~9:00
2.場
所:官邸4階大会議室
3.出 席 者:
安 倍 晋 三
内閣総理大臣
麻 生 太 郎
副総理 兼 財務大臣
兼 内閣府特命担当大臣(金融)
菅
義 偉
内閣官房長官
座長
石 原 伸 晃
内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
兼 経済再生担当大臣
加 藤 勝 信
一億総活躍担当大臣
岸 田 文 雄
外務大臣
黒 田 東 彦
日本銀行総裁
(有識者)
アンヘル・グリア
経済協力開発機構(OECD)事務総長
シャンジン・ウェイ
アジア開発銀行(ADB)チーフ・エコノミスト
(議事次第)
1.開 会
2.挨 拶
・安倍晋三 内閣総理大臣
・アンヘル・グリア 経済協力開発機構(OECD)事務総長
・シャンジン・ウェイ アジア開発銀行(ADB)チーフ・エコノミスト
3.議 事
・グリア 事務総長からの説明
・ウェイ チーフ・エコノミストからの説明
・意見交換
4.閉 会
1
(配布資料)
資料1 グリア事務総長提出資料(英語)
資料2 グリア事務総長提出資料(事務局による日本語訳)
資料3 ウェイ氏提出資料(英語)
資料4 ウェイ氏提出資料(事務局による日本語訳)
(概要)
(報道関係者入室)
【司会:石原大臣】
経済協力開発機構(OECD) 事務総長のアンヘル・グリア氏、アジア開発
銀行(ADB)チーフ・エコノミストのシャンジン・ウェイ氏をお招きして第
5回国際金融経済分析会合を開催いたします。
【安倍総理の冒頭挨拶】
第5回「国際金融経済分析会合」の開催に当たり、ご挨拶を申し上げます。
本日は、経済分析や経済予測を専門的に行っている国際機関からお二人の有
識者をお招きしました。一人は、経済協力開発機構(OECD)のアンヘル・
グリア事務総長、もう一人は、アジア開発銀行(ADB)のシャンジン・ウェ
イ チーフ・エコノミストです。
先生方には、ご多忙の中、本会合にお越しいただいたこと、厚く御礼を申し
上げます。本日の会合では、世界経済に関する分析についてご高見を頂きたい
と思います。
いよいよ来月には、伊勢志摩でG7サミットが開催されます。G7による政
策協調が求められる中、我が国は、議長国としてその責任を果たしていかなけ
ればなりません。世界経済の持続的かつ力強い成長を実現するために、日本と
してどのような貢献をしていくべきか、世界のリーダーたちと議論していきた
いと思います。
本日の会合を、サミットに向けた率直かつ有意義な会合にしたいと考えてお
りますので、よろしくお願いいたします。
2
【グリア事務総長の冒頭挨拶】
この会合は、総理の素晴らしいイニシアティブだと思う。賞賛したい。G7
に向けて、専門家や様々な機関と協議をされることを通じて、取り上げるべき
議題をより効果的に検討・強化し、世界が直面する課題の中で、何が重要なの
かを確認している。G7は、経済・金融を主に扱うG20とは異なり、経済の
みに終始するのではなく、グローバル・ガバナンスの問題を扱っている。経済
的、政治的にも有力な国々が参加しているため、責任も大きい。そのため、本
日、伊勢志摩サミットに向けた課題を検討するプロセスに関わることができる
ことは非常に光栄。この会合のため、私は資料と発言を準備した。また、財務
大臣会合にも、サミットにもお招きいただき、非常に光栄。総理と一緒に、そ
して総理のために仕事ができることをとても嬉しく思っている。
【ウェイ チーフ・エコノミストの冒頭挨拶】
このような会合にご招待いただき、私どもの意見を皆様と分かちあう機会を
いただき、感謝申し上げる。G7というのは、世界の成長と発達に向けたアイ
デアを作るための素晴らしいフォーラム。
ADBにとって、日本は創立メンバーであり、日本の貢献に感謝している。
日本の経済的な発展、その成功の歴史を振り返って見ても、質の高いインフラ、
あるいはクリーンエネルギーなど、多くの良い教訓をアジアの国々に与えられ
ると考えている。
(報道関係者退出)
【グリア事務総長のプレゼンテーション】
○
昨日、経済、社会、領土、高齢化について、いくつかの政策提言を申しあ
げた。まず、世界経済について申し上げる。

世界経済の回復は、依然として不透明。OECDの最新の予想によれ
ば、本年の世界のGDP(国内総生産)は、2015年と同様に3%増
加する。来年はそれよりわずかに良いという状況。過去5年間の世界経
済の成長率は、長期の平均(4%)を下回っている。
3
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
危機が始まって8年経ったが、経済成長率は危機前の水準に回復して
いない。世界貿易の成長率も特に懸念され、3%を下回っている。貿易
の成長率が経済の成長率を下回ったのは、過去の10年で5回のみであ
り、いずれも景気の減速期かリセッションと重なっている。つまり、現
在、世界経済は非常に困難な状況に直面しているということ。企業の設
備投資は、最近になってようやく危機前の水準に回復したが、多くの地
域では、危機前の状況以下。
過去10年間世界の成長をけん引してきた途上国経済は明らかに減速
している。金利も低迷しており、インフレ率も低水準で推移していて、
世界経済のダイナミズムが失われた状況。
米国経済は、明るい状況が続いている。雇用が創出されているが、未
だに賃金上昇に結びついていない。これはある意味で日本と似た現象。
ユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和は、回復の強化に
寄与したが、投資の低迷、高い失業率、そして不良債権の影響がでてい
る。
英国経済は、減速しており、EU離脱(Brexit)が英国自身及び他の
ヨーロッパ経済にとって大きな不確実性となっている。
中国は、読み解くのが難しい。成長は減速し、商品価格の大幅な下落
や世界貿易の弱含みをもたらしている。中国における減速は、過渡期の
調整の結果であり、経済のバランスが変わっている。鉄、石炭、セメン
ト、インフラ産業、化学、造船、板ガラスなど複数の産業分野で、設備
過剰が問題となっており、これは新たな投資を減らす要因にもなってい
る。投資の下落幅が、消費が増大するよりも大きいことが問題であり、
これによって中国経済が減速している。
インドの経済状況は悪くないように見える。一方で、ロシア、ブラジ
ルはリセッションの2年目となっている。加えて、ブラジルには政治的
不確実性があり、ロシアには経済制裁による影響が出ている。
このような困難な状況は、不平等の拡大、生産性の低下、人口高齢化
の進展、そして難民危機等の課題を背景に、世界経済の中で継続する。
標準以下の世界経済成長率と低いインフレ率をベースケースとすれば、
金融政策は先進国経済で緩和を続けるべき。
しかしながら、金融政策単独では、経済状況を正常化させ、長期的な
繁栄をもたらすには不十分。よりバランスの取れた政策のミックス
4
(Policy mix)が必要。政策のパッケージは、需要を下支えする政策と、
生産性及び包摂性とを向上させる政策との補完関係を生かすべき。つま
り、金融政策、財政政策、構造政策の3つすべてをバランスよく使うべ
きである。各国は、利用可能な財政上の余力を使って投資を後押しし、
構造政策を優先することで、教育、技能、健康及びイノベーションシス
テムへのアクセスとそれらの品質を強化することで、高い生産性向上と、
より広い社会的包摂という好循環をもたらすべき。
○ 日本について

日本については、2016年の経済成長率を0.8%と予測しており、
来年はもう少し下がると予測している。昨日公表されたIMFの最新の
経済見通しでは、今年は0.5%、来年は税率変更が織り込まれている
ために▲0.1%とのことであった。私がここで申し上げたいのは、税
制の影響は景気刺激策によって補完されるべきだと考えていること。

問題は投資の低迷と賃金が苛立たしいほどに上げ渋っていること。失
業率が低下するなど労働市場が逼迫しているにもかかわらず、賃金が上
昇していない。日本政府自身は我々以上にフラストレーションを感じて
いると思うが、引き続きしっかりと取り組むことが必要。賃金引上げに
ついては、私から連合や経団連にも必要性を伝えている。また、日本の
貿易相手国の活動が低迷しているということも一つの要因だと考えてい
る。

日本には、よりバランスの取れた政策の組み合わせが必要。アベノミ
クスの三本の矢すべてを効果的に使うことによってのみ、日本はより力
強く成長することができる。異次元の金融政策が行われる一方で、アベ
ノミクスの第3の矢である構造改革をもっと進めなければならない。

TPP、新たなコーポレートガバナンス・コード、子育て支援拡大を
含む、安倍総理の最近の主要な成果について、我々はこれを歓迎する。
しかし、競争力強化や起業の強化、男女間格差の縮小、労働者のスキル
アップ及び労働市場の機能改善のために更なる改革が必要。これらの政
策が持つ力は甚大。もし女性の労働力参加が男性の労働力参加と収斂す
るのであれば、GDPは20%も高くなる。

日本では、債務比率を低下トレンドに持っていくため、財政再建の努
力が続けられねばならない。来年4月の消費税率10%への引き上げ方
5
の決定は、2017年度に向けて経済状況がどうなるかに基づくべき。
したがって、条件が許せば、10%への引き上げは予定通り完全に実施
されるべき。そうでない場合は、毎年1%ずつの段階的な引き上げを2
回連続して行うことが望ましいかもしれない。どちらを選ぶかは政治的
決断にゆだねられているが、
「津波やリーマン級の経済ショックが起きな
い限り実行する」との公約は、私はとても強く力のあるメッセージだと
考えており、延期した場合の影響は大きいと思う。いずれにせよ、税率
引き上げの一時的な影響を和らげるための財政政策は必要。税率は一度
引上げたらずっと同じだが、景気を刺激する財政政策は、たった1年か
2年の話である。

更なる将来を見据え、財政の持続可能性のために意味のある前進を図
るためには、消費税率は少なくとも15%まで上昇しなければならない。
消費税は、OECD諸国の平均で約20%、ヨーロッパは22%である。
この目標は、毎年1%ずつの引上げによって達成するのが最善だと考え
られる。毎年1%の税率引上げを行えば、人々が毎年1%ずつ物価が上
がっていく状況に置かれることで、1回の消費税率引上げ後に消費を控
えようとする「壁効果」を排除することができる。15%になっても依
然として消費税率はOECD平均以下であるが、日本の財政ポジション
はより強まる。

日本がもう一つ優先させるべきことは、原子力規制委員会の厳格な安
全基準に適合した原子力発電所については再稼働を行うということ。O
ECDの関係機関である原子力機関(NEA)は、原子力規制委員会の
規制枠組みはベストプラクティスに沿ったものであると述べている。川
内原発運転停止申立てを棄却した最近の裁判所の決定は、とてもよい判
決であり、正しい方向への第一歩。
○ G7サミット

成長を軌道に回帰させるためのテコとして、財政政策と構造改革を一
層活用することにG7諸国が共同でコミットすることを、伊勢志摩サミ
ットの成果とすべき。

集団的・協力的アプローチは、プラスの波及効果を最大化する上で特
に有効。現在、多くの政府が、非常に低金利で長期間、資金調達が可能
な状況にあり、これは実質的に財政政策の余地が増大していることを意
6




味している。また、ほとんどの国は、現行の予算総額の範囲内で、成長
に資する分野の活動に資金を再配分する余地がある。OECD諸国の政
府総債務(対GDP比)が2007年の75%から2015年には11
5%に上昇していることは認識する必要があるものの、結果的に財政を
持続可能な道筋に戻れるようにするために、インフラ、教育やスキルを
含む成長に大きなインパクトを与えるプロジェクトを注意深く選んで、
それらに対する公共投資を増大させる必要がある。
こうした財政政策は、最近の構造改革の停滞を転換させるような協調
的な努力によって強化されるべき。OECDの成長に関する報告におい
て、
「改革が減速している、疲弊が見られる」と述べているが、これが最
も必要とされる時期にこういうことが起きているということで、軌道に
また戻すべき。改革というのは終わることがなく、常に実施する必要が
ある。
グローバル・ガバナンスを強化し、汚職、政治と規制の虜、並びに脱
税及び租税回避によって生じた信頼の失墜を反転させるための世界的な
努力を、増大させる必要がある。最近公表されたパナマ文書は、一つの
例。OECDは、総理、麻生大臣の支援のもと、税源浸食と利益移転(B
EPS)、自動情報交換のプロジェクトを進めている。租税回避地の問題
はただ一つの残された問題であり、対策をとるべき。また、企業の腐敗
を防ぐためにも、受益所有者の問題にも取り組むべきである。
G7が行動する可能性のあるもう一つの重要な分野がジェンダーの平
等。男女平等の推進に関しては、OECDがG7でイニシアティブをと
ることができる。OECDが加盟国のジェンダーの平等さを測り、順位
付けする、
「ジェンダー平等GPS」のようなものを作ることができると
思う。
いくつかのアイデアを出したが、もっと詳細のアイデアを含めたリス
トを提案として差し上げた。医療、教育、貿易、投資、そして特にG7
的な話題であるドーヴィル・パートナーシップなどについて、本会合の
ために配付した資料に、より詳しく記載している。
【ウェイ チーフ・エコノミストのプレゼンテーション】
○
このプレゼンテーションでは、(1) アジアの成長見通し、(2)中国経済の
7
詳細、(3)中国経済の減速の他国経済への影響、という 3 つのトピックを扱
う。
○
アジアの途上国(アジア太平洋諸国のうち日・豪・NZ を除く)の成長は
徐々に緩やかになっており、中国経済の鈍化や世界経済への不安等があり、
5.7%の成長を見込んでいる。ただし、世界経済全体の成長率よりも高い。

中国経済の成長は、6.9%、6.5%と減速しているが、まだ高水準。

インドは、7.4%の成長が見込まれ、今や最も速く成長している大国で
ある。インドネシアでは 5.2%成長を予測。バングラデシュ、カンボジア、
ミャンマー、フィリピン、ベトナムでも、一次産品価格の下落など様々
な課題があるが、人口規模は大きく、堅固な成長が見込まれる。

PPP で調整した場合、中国・インドは世界経済に大きなインパクト。ア
ジア全体で世界経済の成長の 60%に貢献。
○
中国経済の減速は驚くべきことではなく、年々、成長率は減速していくこ
とは予測していた。

中国経済の減速の理由には、構造的要因と短期的要因がある。構造的
要因には、既に減少している労働力人口、過去 30 年成長を続けてきた中
で生じた賃金上昇・競争力低下(電話、玩具、縫製など)
、発展段階の高
度化がある。短期的要因としては、中国は貿易面では対外的に解放され
ているため世界経済の弱含み、過剰生産能力の解消がある。

経済の構造変化は、データにも現れている。投資の GDP 比は下がって
おり、日本での爆買いにみられるように、需要面では消費の影響が投資
よりも大きい。供給面では、サービス部門が GDP の半分以上を占め、製
造業よりも寄与度大。

生産性向上のために多くの構造改革が必要だが、国営企業改革、金融
セクター改革、税制改革、人々の移動を容易にするための戸籍制度の緩
和、ゾンビ企業の整理が必要。堅実なマクロ経済政策には、為替の安定
化も含まれる。
○
中国経済の予測のベースラインは、徐々に成長率が低下していく、という
ものであり、急激・大幅には下がることは見込んでいない。その場合は、他
国への影響も緩やかにとどまる。
8

今後 2 年の中国経済の成長率の低下が、これまでの 2 年と同じペース
の 0.85%の低下だと想定すると、アジア途上国全体の成長率は 0.3%低
下、日本の成長率は 0.2%低下。これらの国は、中国と域内貿易や生産工
程において強い結びつきがあるため。

対照的に、米国への影響は殆どない。これは、中国との貿易面での関
係が小さく、石油価格の下落がもたらすプラスの影響と相殺されるため。

中国が仮に急速に失速すれば、もっと大きな影響がありうる。
○ むすび

中国経済の成長は緩やかなになるが、インド、ベトナム、バングラデ
シュなどアジアのいくつかの国は力強く成長。

アジアは、引き続き、世界経済の成長に大きく貢献。

中国経済は構造変化の過程にあり、構造的要因・短期的要因の双方が
ある。構造改革は徐々に進展し、2010 年代の終わりには 5%程度への成
長へ収斂するかもしれないが、これはパニックになったり、驚くべきこ
とではない。構造改革と堅実なマクロ経済政策が必要。

中国経済の成長は緩やかになるが、そのインパクトは国ごとに異なる。
貿易面でのマイナスの影響や、一次産品価格下落によるプラスの成長も
ありうる。
【質疑応答】
(安倍総理)
○
まず、グリア事務総長にお伺いする。日本は、来年、消費税の引き上げ
を予定しているが、グリア事務総長からは、
「日本の消費税率はOECDの
平均からして、まだ下のレベルにある。また、引上げに向けて意思を示し
ていくべき」との話があった。そのなかで、2%上げる、または1%ずつ
上げていくという考え方、選択肢が示された。

安倍政権においては、消費税率を5%から3%引上げを行ったが、消
費が我々の予想よりも落ち込んだ。その後今日まで消費マインドが冷え
ているというのが続いているというのが一つ大きな課題。一方、我々の
経済政策によって、税収全体が、消費税増税分に上乗せして増えている。
9

○
来年、2%引き上げた場合、消費にどのような影響があるのか。また、
IMFは消費税の引き上げを織り込んだ成長率について発表を行った
が、OECDではどのように分析しているか。また、1%ずつ上げてい
った場合、消費の落込みがどのくらいに抑制されると考えるか。
ウェイ チーフ・エコノミストには、中国経済についてお伺いする。

中国が、ゾンビ企業の退場や過剰設備を適正化していくという構造改
革を進めていくと、短期的には成長にどのような影響を与えていくと考
えているのか。

実際に中国が発表している成長率は、はたして実態を示しているのか
どうかという議論もあるが、その点についてもどう考えているのか。
(グリア事務総長)
○
ご質問は、日本が対処しなければならない、最も重要な世代間の問題であ
ると言える。

日本では、GDP比で230%もの政府債務残高を抱えている。これ
は、OECD諸国の中でこれまで経験したことがない。債務はほとんど
日本国内で消化されていると承知しているが、たとえば、2%のインフ
レ目標を達成した場合を考えてみてほしい。実質金利がゼロのもとで、
政府債務残高はすぐにGDP比で250%に膨れ上がってしまうだろ
う。インフレ率が2%、名目金利が同水準で、政府債務残高対GDP比
を安定させようとすると、基礎的財政収支の黒字を対GDP比で5%に
増加させなければならない。市場や格付け会社に対して、投資家たちの
日本への信認を確保するためのかなり強いメッセージを出さなければ
ならない。そして、日本国内の子や孫の世代に対しても同様に日本の将
来に対する自信を持たせなければならない。

IMFの消費税率引上げ後3か月の消費への影響についての分析は
的を射ていない。しっかりと認識しなければならないことは、消費税率
引上げ直前に人々は消費を加速させ、その駆込み需要の後は空白が生ま
れるということ。しかしながら、この空白は向こう3カ月や6カ月にと
どまる一時的なものであるから、財政政策によって調整をすることがで
きるのである。
○
消費税率を1%引き上げることで、その年の財政余力を1%増やすこと
10
ができるが、ここで確保した1%の財政余力は、引上げの年だけでなく将来
までずっと確保される。2%引き上げるとしたら、2%の財政余力が将来ま
で確保される。ただし、個人的な見解を申し上げるとすれば、私は一度に1
0%まで引き上げるべきであったと思う。犬の断尾を行う場合には、何回か
に分けて切るのではなく、1回ですべて切ってやった方がよいというのと
同じである。

現在総理は、2017年4月の2%引上げに向かって進まれていると
思い、2%引き上げられれば満足されるのではないかと思う。消費税率
引上げの時期や手法の選択はもちろん政治的な決断であると承知して
いるが、しかしながら、私は10%への引き上げで満足するべきではな
いと個人的に考えている。これは、私が、たとえば10%への引上げ後
も、消費税率が15%に達するまで毎年1%ずつ引き上げていくことを
提案している所以である。

日本には将来にわたって永続的な歳入源が必要である。10%への消
費税率引上げはすでに一度先送りされ、日本への信認に疑問が生じてい
る。ここでまた引上げを先送りすれば、さらに、日本の財政再建への取
り組みが真剣なものなのかという疑念が生じる。

財政再建を実現するためには、税収増も歳出改革も必要だが、もっと
も重要なことは、日本の財政状況を中長期的な視点から見なければなら
ないということ。その観点で考えれば、私は来年まず2%引き上げるべ
きだと思うし、最悪でも来年、再来年で1%ずつ引き上げていくべき。
そして、2023年まで毎年1%ずつの引上げを続けていく。

毎年1%ずつ引き上げることによって、消費税率引上げは一つの「壁」
から日常の出来事に変わり、消費税率引上げに関わらず日々の消費が続
くようになる。
○
私ならばこれ以上の引上げ延期はしない。あまりにもコストが大きすぎ
る。税収だけではなく、他にもいろいろなコストがある。増税先送りは体系
的なメッセージとして受け取られる。これはなぞかけであり、合図となる問
いかけであり、そしてその問いかけは非常に明確かつ強力である。
○
そして、消費税率引上げに伴う一時的な反動減は財政政策によって補う
ことができると考えている。そのため、私は消費税率引上げを予定通り行え
ば来年の成長率は▲0.1%であるとのIMFの悲観論には賛成しない。

そもそもこの悲観論は「消費税率引上げ」という言葉に非常に悪いイ
11
メージを植え付けることになる。そしてこれは消費税率引上げを政治的
により難しい問題にさせてしまいかねない。

消費税率引上げに伴う一時的な反動減は財政出動によって補えば、成
長率は堅実に推移する。
(ウェイ チーフ・エコノミスト)
○
中国の成長率の数字に信頼性があるかどうかについて。多くの人は、電力
消費の伸び率あるいは機械輸入が過去のような目覚ましい成長を見せてい
ないことを根拠に、GDP成長率の伸びも同じように鈍化していると考え、
成長率の数字に疑念を表明している。

しかし、この疑念は、中国経済で構造変化が起きているということを
十分に考慮していない。GDPに占めるサービス部門のシェアが増加し
ている一方、エネルギー集約的・資本集約的なセクターはGDP全体の
成長率に占める寄与度が低下している。個人消費やサービス業のシェア
が増加している中では、高い経済成長を達成する根拠として、かつてと
同様の電力消費・機械輸入の高い伸びは不要である。したがって、中国
の成長率の数字に対する疑念が正しいとは言えない。

また、現在では、日本の野村證券を含む主要な各国の投資銀行が中国
にエコノミストやアナリストを常駐させ、分析レポートを発行している。
そこで示されている中国のGDP成長率レンジは、政府が発表している
数字の周辺に収まっており、大きくずれているわけではない。

さらに、独自に私が中国企業にヒアリングしたり企業レベルの分析を
した結果では、中国経済に関する標準的な調査・分析の対象は多くが斜
陽産業を含む既存の産業に偏りがちな傾向を持っており、新しい産業
(たとえば5年前には設立されていなかった南部のドローンを作る会
社)の会社が調査の対象から漏れていることが分かった。

以上の通り、疑念の根拠となる各要因を精査すれば、6.5%という
ADBによる中国のGDP成長率は現実に即したものと言える。
○
構造改革が成長に何をもたらすかについて。賃金の上昇、労働力人口の縮
小は、経済成長にとって大きな下方圧力であるため、限られた労働力及び資
源のもとにおける生産性の向上がかつてないほど重要になってくる。

鉄鋼セクターの改革、中国国内における人口移動の規制緩和など、非
12
効率性や制度の歪みを除去する助けになる制度改革が必要。非効率をな
くし、生産性の低い企業から高い企業への人や資本の移動を自由にする
ことで同じ資本でも産出量を増やすことができる。これこそが生産性の
向上をもたらす方法であり、中国にとって非常に重要なことだと考える。

これら改革のうち、一部は政府主導で実行されると思うが、それ以外
については、私が中国にとって必要と思う速さでは進まないだろう。た
とえば、ゾンビ企業の整理について言えば、政府はゾンビ退治に前向き
と言っており、ゾンビ企業から労働者を外に出すための資金やゾンビ企
業を新しい会社に生まれ返らせるための資金について財政出動を行っ
ている。しかし現在のところ、ゾンビ退治は十分に進んでいないように
見える。

その他に、中国にとっては、他のOECD諸国と同様に労働市場改革
が重要である。かつて中国は非常に柔軟な労働市場を持っており、高い
経済成長の原動力となっていたが、ここ数年労働規制が大きく変わり、
フランス並みの厳しい労働規制になった。これは構造改革の妨げとなり
かねないため、私は中国が追及すべきとても必要な改革の一つとして労
働規制改革を挙げたい。労働規制改革は生産性の向上と期待成長率上昇
を支えるだろう。
(麻生財務大臣)
○
労働市場改革を含めた中国の構造改革には、どのくらいの時間がかかる
のか。
(ウェイ チーフ・エコノミスト)
○ どのような改革かによって答えは変わりうる。

例えば、人口移動に制限をかけている戸籍制度の緩和は、二線都市や
三線都市では実施され始めている。残されたのは一線都市(たとえば北
京や上海)。これらの都市はまだ戸籍制度の緩和に対しかなり後ろ向き
である。しかし、実際には、これらの都市でも水面下では人口流入がか
なり進んできている。たとえば上海では、人民広場の隅にある上海城市
計画展示館に展示されている1990年に作成された2020年まで
の上海の都市計画では、上海の人口は2020年に1800万人になる
と見込まれていた。しかし、最新の国勢調査によれば、上海市の人口は
13
既に2400万人に膨れ上がっており、政府の計画をはるかに超えてい
る。

戸籍制度以外の種々の規制は、比較的容易に緩和できると思う。売上
税を付加価値税にするという税制改革は、2年間複数都市において試行
されてきたが、今年になって、政府は全国的かつすべての部門でこの制
度を実施する予定である。これについては実現が可能であると思ってい
る。この手の改革は1~2年のうちには進んでいくと思う。

他の改革、例えば、国営企業の改革は個人的にも非常に重要だと考え
ているが、経済以外の事情もあるため、おそらく、それほど素早くは進
まないと思っている。もし、それが実施されないとなれば非常に不幸な
ことであり、政府は努力を倍増して、このような改革を進めるべきだと
思っている。
(以上)
14
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