Comments
Description
Transcript
オオバコ アブラゼミ メジロ 皇居
第 8 回 都会の生物多様性 都会にも生きものがいる みなさんは、都会の生きものというと、何を思い浮かべますか?「 ハトやスズメは見かけるけれど、それ以外は、 都会に生きものなんて、ほとんどいないのでは?」 という答えもあるかもしれません。 ところが、ビルや住宅地が多い都会でも、注意深く観察すれば、意外と多くの生きものに出会うことができます。例 えば、道端やグラウンド等の人間がよく通る固い地面には、オオバコ、オヒシバ等の踏みつけに強い植物が生育し ています。このオオバコは、種子が人間に付着して運ばれやすい性質があり、人間と共存する戦略を持つ植物です。 また、公園や家の庭、道路に植栽された樹木や草本には、ミカン類の葉を食草とするナミアゲハや、樹木の汁を餌 とするアブラゼミやツクツクボウシ、木の実を餌とするヒヨドリ、花の蜜を吸うメジロ等が見られます。その他にも、空 き地や公園の草地には、オンブバッタやオオカマキリ等も見られます。 オオバコ アブラゼミ メジロ 都会の生きものの拠点 ビルや住宅地が多い東京の 23 区内にも、大規模な緑地が いくつか残されており、そこには多くの生きものが生育・ 生息 しています。例えば、千代田区の皇居では、2000 年の調査で、 植物 1,366 種,動物 3,638 種が記録され,その中には、都区内 では絶滅したと思われていた種( ベニイトトンボ,オオミズスマ シ等) も含まれていました。また、目黒区の自然教育園等もコ ナラ等の落葉樹やスダジイ等の常緑樹がまとまって生育する 樹林となっており、1,080 種の植物、2,100 種の昆虫、130 種の 鳥類が確認されています。 皇居 ( 参考文献) 宮内庁_国立科学博物館による皇居の生物相調査について 自然教育園 その他にも、渋谷区の代々木公園や千代田区の日比谷公園等の大きな公園には、草本や樹木等がまとまって存 在し、樹木の実を餌とするヒヨドリ、花の蜜を吸うメジロやチョウ類、草地に生息するバッタ類やカマキリ類等の多数 の生きものが生息しています。 代々木公園 日比谷公園 また、葛飾区の水元公園には、ヨシ等の湿生植物を中心とした広い草地があり、トンボ類、サギ類等の湿った環 境に生息する生きものが多くいます。 水元公園 シオカラトンボ 都会の地面の多くはアスファルトで舗装されていますが、公園内の大部分は地面が土となっているため、アズマモ グラ等の土に生息する生きものも見られます。また、都会の公園の特徴として、シュロやアオキ、ヤツデという低木 の植物が多く見られることが挙げられます。これらの植物は、ヒヨドリ等の鳥が種子を食べ、その糞に混じって落とさ れることで種子が散布されます。 モグラ塚 アオキ 都会の生物多様性を守るために 都会の生物多様性を守るためには、まず、都会の生きものの拠点となっている緑地や公園の緑を守るとともに、 必要に応じて草刈り等の適切な管理を行い、保全していくことが重要です。また、ビルの屋上などの緑化や工場の 敷地、道路、家の庭、マンションのベランダ等の緑化や、学校を利用したビオトープの設置など、生きものの生息環 境を創出する努力も必要です。家の庭でも、以下のような工夫で、生きものの生息環境を創出することができます。 東京都は、平成 19 年 6 月に、緑あふれる東京の再生を目指し、今後取組んでいく緑施策の基本的考え方や方向 性等を示した「 緑の東京 10 年プロジェクト」 基本方針を策定し、都市公園の整備や、道路の緑化等、生きものの生 息環境となる緑の創出を行っています。また、東京の都市空間には、屋上、壁面、未利用用地、鉄道敷地、駐車場 などの緑を生み出すことのできる「 すきま」 空間が多く存在しているため、このような空間を活用して新たな緑の創出 にも取組んでいます。 また、大規模な緑地や公園と、公園や学校、道路、家等の身近な緑が繋がることで、生きものが移動できる「 ネット ワーク」 が形成され、都会でもたくさんの生きものが生息できるようになります。 おわりに 第1回∼第4回は「 生物多様性関連の基礎知識」 、第5回∼第8回は「 東京の生物多様性」 について連載してまい りましたが、いかがだったでしょうか。第5回以降では、島しょ地域、自然公園、里地里山、都市部というように、東京 には多種多様な環境があることをご紹介しました。多種多様な環境があることで、様々な生きものが生息することが できます。しかし、それぞれの環境において時代・ 情勢の変化とともに様々な問題も発生しています。今後、東京に ある貴重な多種多様の環境を守っていくことが急務になってきています。 東京の自然環境を守るためには、みなさんひとりひとりの協力が必要です。 まずは、身近な生きものの存在を知り、その生きものの大切さを知り、その生きものの生息環境を守っていくこと が、生物多様性を守る第一歩になります。よく注意してみてみると、身近にはいろいろな生きものがいます。もしかし たら、意外なところで見たこともない珍しい生きものと遭遇することもあるかもしれません。模様や色が綺麗な生きも のもいれば、ちょっと気持ちの悪い生きものもいるでしょう。しかし、これらは全て人間と同じ地球に住む仲間なので す。網の目のように全ての生きものは繋がりあって生きていて、どれも欠けてはならない存在です。 みなさんも、身近な場所にいる生きものにもっと目を向けてみてはいかがでしょうか。新たな発見があるかもしれ ません。 ●生きものコラム∼都会で増えるシュロ∼ みなさんは、「 シュロ」 という植物を知っていますか? シュロは、日本の九州南部のほか、中国の亜熱帯地方に 生育します。幹はシュロ毛と呼ばれる繊維によって覆われ ていて、この繊維は水に浸かってもほとんど腐らないの で、垣根を作る縄などに利用されるほか、南国イメージを 情緒させるシュロは、庭や公園で植栽されてきました。近 年、シュロは、日本各地で栽培、植栽されていたものが、 鳥による種子の散布などにより野生化し、都会の公園や 庭を中心に増加しています。 目黒区にある自然教育園では、1965 年には、シュロは2本しかありませんでしたが、この 40 年で 2,149 本に増 え、約1万本ある樹木の中で、20%を占めるまでになっています。増えた理由はいろいろありますが、冬の気温 の上昇で、土壌凍結がなくなったことが一番の要因であると考えられています。シュロだけではなく、クスノキ、ビ ワ、ナツミカン、キウイなどの亜熱帯性の植物が増える現象も同じ原因と考えられます。 このように、都会の急速な温暖化は、生育する植物の種類や数にも影響を与えています。 <参考文献> ・ 私の研究( 国立科学博物館の研究者紹介) 国立科学博物館HP