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放射と自然対流によるタスク・アンビエント空調システム

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放射と自然対流によるタスク・アンビエント空調システム
── 実 施 例 ──
放射と自然対流によるタスク・アンビエント空調システム「O-TASC」
(大林組技術研究所新本館採用技術)
㈱大林組 本社設計本部 設備設計部 伊 藤 剛
ピーエス㈱ 平 山 禎 久
工学院大学 工学部建築学科 野 部 達 夫
■キーワード/パーソナル空調・放射空調・置換換気・ドラフトレス・局所温冷感・アダプティブ空調
トは自然換気にも利用して空調負荷を低減する。屋根
1.はじめに
には太陽電池を設置し創エネに寄与する。ペリバッ
大林組技術研究所新本館テクノステーション(写真-
ファシステムでは,眺望を確保しつつ外装日射遮へい
1)(東京都清瀬市,2010年9月完成,延べ面積5,535㎡,
と空調温度を緩和するプランニングにより,空調負荷
3階)は,省エネルギー技術を多数採用し,また建築的
を低減する。
な 快 適 空 間 を 構 成 す る こ と で ,CASBEE-Sラ ン ク
⑵ アクティブシステム
(BEE値7.6,国内最高)を取得している。
研究開発を含めた最新の設備技術を導入し,省CO2
最先端の環境配慮施設として,パッシブ手法,アク
をはかる手法である。多くの省エネルギー手法を組み
ティブ手法,マネジメント手法を組み合わせて,低炭素
合わせている。今回紹介するタスクアンビエント空調
化をめざし,試算において運用時のCO2排出量は一般的
のほか,熱源には地中熱ヒートポンプチラーとデシカ
な事務所ビルの55%削減,残り45%はカーボンクレジッ
ント空調に中温度帯(13〜20℃)の冷水を利用する。さ
らに中温冷水の蓄熱には潜熱蓄熱材を利用した。
トを購入し,カーボンニュートラルを達成する。以下に
採用した技術の概要を紹介する。
⑶ マネジメントシステム
⑴ パッシブシステム
運用時において省エネルギーを推進する手法であ
自然エネルギーを利用し,また建物外部から受ける
る。最適な運転制御による管理システム(BEMS)によ
負荷を抑制する手法である。エコロジカルルーフシス
り,運用エネルギーを抑制する。また利用者の省エネ
テムはトップライトにより昼光を積極的に利用し,人
活動を支援する見える化を導入し,居住者の参加意識
工照明のエネルギー消費を抑制する。またトップライ
と省エネ行動を促す仕組みを構築した。
写真-1 技研新本館「テクノステーション」外観
─ 15 ─
ヒートポンプとその応用 2011.
3.
No.81
── 実 施 例 ──
2.タスク・アンビエント空調の導
入の背景
が一般的である。アンビエント空調方式としては,天井
吹き出し空調のほか,床吹き出し空調,天井放射空調も
行われている。
2010年3月に地球温暖化対策基本法案が閣議決定さ
タスク空調の方式を,供給空気の種類と吹出口の配置
れ,本格的にCO2排出量削減の必要性が生じてきてお
により分類したものを表-1に示す。タスク空調は,さ
り,省エネルギーとしてのクールビズやウォームビズの
まざまな方式が提案,実施されており,それぞれ一長一
取り組みが重要になってきている。
短がある。従来のタスク空調は,気流を吹き付ける“強
一方で省エネルギーに取り組むあまり,空間の知的生
産性を損ねる可能性が指摘されている。今後,潜熱顕熱
制対流”により冷却するもので,冷房が主体であった。
3-2 タスク・アンビエント空調の問題点
分離型空調としての放射空調やタスク・アンビエント空
タスク・アンビエント空調は,室内の快適性の向上お
調は,省エネルギーと知的生産性とをマッチングさせる
よび省エネルギー化をはかる場合において有効なシステ
一つの切り札になると考える。
ムであると考えられるが,同時に問題点も抱えており,
一般に放射空調は全体空間の放射環境を均一化するこ
普及の妨げとなっていた。
とで,室温と小さな温度差で省エネルギーと快適性の確
例えば,タスク空間を空調するための専用のシステム
保をはかろうという考え方で構築されてきている。これ
または機器が必要となるため,イニシャルコストが増加
にタスク・アンビエント空調の概念を重ね合わせた場
する傾向にある。また強制対流といったドラフトより,
合,一般にアンビエント空間を受け持つのは放射空調で
不均一な部分冷却による不快感が発生する。特に顔周り
あり,タスク空間を受け持つのは気流となる。
に気流が当たる場合,目の乾きなどの不快感を生じる場
当プロジェクトでは,快適性(不快でない状態)と省エ
ネを両立させるために,アンビエント空間は気流による
合が多い。他にも個人での調整範囲が狭い,レイアウト
の変更への対応性が低いといった阻害要因がある。
置換換気空調,タスク空間に放射と自然対流によるパー
一方,タスク空調の省エネルギー性に対して,実際は
ソナル性をもたせた空調を組み合わせることを考案し開
アンビエント空間の空調に,より多くのエネルギーが使
発した。
われている。したがって,完全なるタスク空間,つまり
このように領域を分割することで,潜熱顕熱の分離処
独立した空間が成立しない限り,アンビエント空間は均
理,またタスクとアンビエントの分離による徹底した省
一な環境を作らざるを得ず,特に,在席率が少ない時に
エネルギーの空調を行うことができる。
は無駄なエネルギーを消費しているといわざるを得ない。
この問題は,アンビエント空調とタスク空調の役割分
3.タスク・アンビエント空調の特徴
担が明確になっていないことからきている。アンビエン
3-1 タスク・アンビエント空調の特徴と分類
ト空間とタスク空間との境界は,非常に不明瞭である。
タスク・アンビエント空調は,アンビエント空調でお
その結果,タスク空間もアンビエント空間と同様,快適
およそ許容できる温熱環境を形成し,タスク空調で個人
な温度帯になってしまうため,タスク空調があまり使わ
の好みにより温度調節をするという考え方で行われるの
れない事態となってしまう。
表-1 タスク空調の分類
方 式
天
井
吹
吹き出し空 気
供 給 源
ア ン ビ エ ント
共 用 空 調 機
長 所
短 所
レ イ ア ウト 変 更
へ
の
対
応
吹き出し空気の温湿度の調
節ができない
構造が単純・低コスト
⑴ ダクト方式の場合は
吹き出し 空 気 の 温 アンビエント空間の
高コスト
比較的困難
専 用 空 調 機 じゅう器の影響
湿度の調
節が可
能
き
空気を乱しやすい
を受けにくい
⑵ 室内空気循環方式
⑴ 空気齢が高くなりやすい の場合は比較的容易
⑵ 吹き出し空気の温湿度
構造が単純・低コスト
室内空気循環
の調節ができない
床 面 吹 き
⑴ 暖房時は気流により温冷感が悪い
⑵ 吹き出し空気の温湿度の調節が困難
ア ン ビ エ ント
構造が単純・低コスト
共 用 空 調 機
床吹 き
パーティション ア ン ビ エ ン ト ⑴ アンビエント
空 間の空 気
吹
き 共 用 空 調 機
を乱しにくい
⑵ 気 流の冷
却効果により
卓 上 ユ ニット
人 体 からの
専
用
外
調
機
吹
き
熱放散量が
大きい場合に
も対応可能
卓 上 送 風
室内空気循環
フ ァ ン
ヒートポンプとその応用 2011.3.
No.81
比較的容易
⑴ 吹き出し空気の温湿度
の調節ができない
比較的困難
⑵ 高コスト
⑶ じゅ
う
器の制限がある
⑴ 机上の書類等
⑴ 外気の供給が停止され
⑴ 居住域へ新鮮外気 が飛びやすい
⑵ 気流による不 てしまう場合がある
を効率よく供給可能
比較的困難
⑵ 高コスト
⑵ 吹き出し空気の温 快感が強い
⑶ じゅう器の制限がある
湿度の調節が可能
好みに応じて運転を
停止することが可能
構造が単純・低コスト
─ 16 ─
吹き出し空気の温湿度の調
容易
節ができない
── 実 施 例 ──
最終的には知的生産性の向上は考慮せず,イニシャル
コストに対して,エネルギー費削減の効果が小さいと判
タスク
タスク
断され,クールビズといったがまんの省エネに頼ること
準タスク
になっている。
アンビエント
4.新しいタスク・アンビエント空
調の提案
アンビエント
(従来型)
(省エネルギー型)
図-2 タスク空間とアンビエント空間の区分け
4-1 アンビエント空調とタスク空調の役割の整理
今回採用したアンビエント空調では,外気導入による
例えば〔従来型〕の場合,タスク空間を26〜27℃程
潜熱を主体に処理し,タスク空調で顕熱処理を分担させ
度,アンビエント空間を27〜28℃に調整する必要があ
る。しかし,知的生産性に影響をもつ,必要十分な新鮮
る。ここで〔省エネルギー型〕タスク・アンビエント空
外気の供給を考えると,外気は人間のいるタスク空間に
調として,準タスク空間という概念を形成した。タスク
供給し,その使用済外気をアンビエント空間に流用する
空間を26〜27℃程度,準タスク空間を27〜28℃とすれ
と省エネルギーに有効である。
ば,アンビエント空間は28〜30℃程度に緩和することも
4-1-1 アンビエント空調の無駄の排除
可能と考える。例えばコピー機やプリンタ,給茶スペー
アンビエント空間を放射空調によって省エネルギーと
ス,また普段は人がいない短時間の打ち合わせコーナー
快適性に対する満足度を高めるためには,ペリメータ側
は,この省エネルギー型アンビエント空間として,温度
の窓面の放射の影響を極力小さくすることが望まれる。
条件を緩和することを利用者に十分に説明した上で,住
逆にいうと,放射空調は窓のない部屋に適しているとい
み方として認めてもらえるのではないだろうか。このよ
える。窓のある一般的なオフィスの場合,ダブルスキン
うな発想で計画されるものとして,ペリメータ近傍の緩
ブラインドなど,相当なコストと,さらに視環境の一要
衝空間,ペリバッファ空間⑴がある。これは,日射負荷
素である眺望性を低下させることを許容せざるを得ない。
の多いペリメータには通路などの短時間の滞在スペース
また,省エネルギーの観点からいうと,放射空調は全
を配置し,温度条件を緩和して省エネルギーに寄与する
般空調であり,在席率が高く設定されている場合に有効
ものである。
であるが,在席率の高低にかかわらずアンビエント空間
アンビエント空間の空調エネルギーがタスク空間の空
を一律に空調することは無駄ではなかろうか。通常のオ
調エネルギーよりも多く,また在席率などを考えるとエ
フィスの在席率は70〜80%程度であり,営業部門や研究
ネルギーが有効に使われていないため,準タスク空間を
部門では50%を切ることもある。しかし,一般的な放射
形成することを提案したい。
空調やタスク・アンビエント空調では,アンビエント空
4-1-3 タスク空調の不均一温熱環境の改善
間を一律に空調している。一方,タスク空調では無駄を
タスク空間の不均一な温熱環境は,局所温冷感の不一
省くため,人感センサなどを用いた在席管理手法を導入
致と,ドラフトによる不快感を生じさせるが,特にドラ
している事例があるが,タスク空調よりもはるかに多く
フトによる不快感は,生理的にも心理的にも不快感を生
のエネルギーを消費するアンビエント空調の無駄を,い
じさせることが既往の研究で示されている⑵。また別の
かに省くかがタスク・アンビエント空調の省エネルギー
研究では,部分冷却を行うことが,全身温冷感の改善に
の勘所といえる。
も有効であることが示されており⑶,タスク空調は全身
4-1-2 準タスク空間の構築
温冷感に寄与する効果的な部位に注目することが必要で
図-1は従来のタスク・アンビエント空調の概念図で
ある。
ある。また図-2にタスク空間とアンビエント空間の模
式図を示す。
タスク空調を行う場合,衣服を着用した状態で有効な
冷却を行うことが可能なのは,顔や腕などの人体露出部
となる。しかし露出部に気流を与え続けると,ドラフト
アンビエント空調
パーソナル空調吹出口
による不快感が生じてしまい,良好な温冷感の確保と不
快感の解消の間には矛盾が生じてしまうため,これらの
26℃程度
タスク空 間
28℃程度
それらの問題の解決のため,放射と自然対流によるタ
スク空調方式を提案した。このタスク空調は,静穏な空
床吹出口
図-1 従来のタスク・アンビエント空調の一例
問題を解決する必要がある。
間を提供することが可能であるため,ドラフトによる不
快感が生じない。さらに机上面より上部からの冷却を主
体とすることで,古来より健康に良いとされてきた,頭
─ 17 ─
ヒートポンプとその応用 2011.
3.
No.81
── 実 施 例 ──
エントランスホール
エレベータホール
エレベータホール
執務室
パッシブな空調
=意識させない空調
アクティブな空調=環境選択権の明示
暑熱環境
放射と自然対流による
ドラフトレスな空調
プルームの形成
・床吹き出し
・タスクパネル
・デシカント外調機
による除湿
室温
28℃
室温
28℃
PMVのイメージ
EV
室温
28℃
スポット
空調
デシカント
外調機
新 し く 提 案 す る タ ス ク・ア ン ビエン ト 空 調
外 部
室温
28℃
スポット
空調
静的
(パッシブ)
平衡
±0
クールダウン 熱的不平衡の解消
意識させない空調
従 来 型 タ ス ク・ア ン ビエン ト 空 調
気流によるドラフト感
偏った吹き出しによる
不均一な温冷感
暑熱環境
PMVのイメージ
室温
28℃
EV
室温
28℃
±0
室温
28℃
室温
28℃
動的
(アクティブ)
平衡
執務室入室時点では熱的不平衡
(体内熱保有量)
は解消されない
機器の頻繁な調整→知的生産行動の阻害
図-3 新しいタスク・アンビエント空調システムの概念
(顔)を冷却し,足元は熱する(冷やさない)という,頭寒
務室入室前までの,粗熱の除去を目的とし環境選択権を
足熱の考えに則した冷却が可能となる。
付与されたアクティブな空調と,熱的な微調整を目的と
放射と自然対流を用いた,静穏気流・ドラフトレスに
し,その存在を意識させない執務室のパッシブな空調と
よるタスク空調が,不均一温熱環境改善の一助になると
の組み合わせということができる。
考える。
4-2 放射と自然対流によるタスク・アンビエント空
調「O-TASC」
4-1-4 アダプティブ空調システム
4-1節の考え方に則り,放射と自然対流によるタス
人間の熱放散量に応じて空調の制御量を変化させるア
ダプティブ空調が提案されているが,提案する新しいタ
ク・アンビエント空調“O-TASC”(Obayashi Task and
スク・アンビエント空調システムは,建物のエントラン
Ambient Air - Conditioning System Smart Comfortable)
スから執務空間までをトータルで考えたアダプティブ空
を開発した。開発は,“知的生産性や快適性と省エネル
調システムである。図-3にシステムの考え方を示す。
ギーはトレードオフの関係にあり両立は難しいが,至極
まず,屋外暑熱空間から執務空間に至るまでのエント
快適というよりも,不快でない状態を保持し,さらなる
ランスホール・エレベータホールを熱的緩衝ゾーンとみ
省エネルギーを実現する”という考え方に基づき行った。
なし,設置されたスポット空調の気流によって,屋外温
4-2-1 システムの概念
熱環境の暑熱性や,運動による通常時以上の代謝にとも
図-4に提案するタスク・アンビエント空間の概念を
なう粗熱を除去する。このスポット空調は,使用者の任
示す。タスク空間とアンビエント空間の間に,準タスク
意でON/OFFが可能である。続いて,穏やかに空調さ
空間を設ける。アンビエント空間は28℃以上に緩和し省
れた建物内を移動し,執務室の自席でのデスクワークへ
と移る過程で徐々に人体の熱放散量が減少していくが,
アンビエント空調
その減少に合わせ,執務室の空調は気流の少ない静穏な
2 6 ℃程 度
空調とする。執務室内の静穏な空調空間は,置換換気方
式の床吹き出しアンビエント空調(準タスク空間の処理
2 7 ℃∼ 2 8 ℃
を行った後にアンビエント空間を空調)と,不快な気流
ク空間を空調)とが協調することにより実現され,高い
パーソナルタスクパネル
パーソナル
床吹出口
冷温水コード
図-4 新しいタスク・アンビエント空間の空間構成
と考える。この一連のシステムは,エントランスから執
ヒートポンプとその応用 2011.3.
No.81
準タスク空 間
2 8 ℃∼ 3 0 ℃
を発生させない放射と自然対流によるタスク空調(タス
知的生産性が要求される建物に適合するシステムである
タスク空 間
─ 18 ─
── 実 施 例 ──
エネルギーをはかる。また床吹き出し空調により準タス
ク空間を27〜28℃に設定し,タスク空間(机周り)のみを
26〜27℃に設定するものとする。
新鮮外気は,デシカント空調機により調湿された空気
として準タスク空間用のパーソナル床吹出口から供給す
る。この場合,準タスク空間の顕熱処理分を含めて吹出
温度を設定する。準タスク空間の顕熱とは,主に照明や
昼光の放射による温度上昇分である。図-5に示すよう
に,タスク空間には,人体発熱分の顕熱処理を行うパー
ソナルタスクパネルをデスクに設置する。このタスクパ
ネルには自然対流を促進するコイルが組み込まれてお
写真-2 パーソナルタスクパネル(実験時)
り,パネル表面およびパネル内部を通った空気が下降気
流となり,人体方向へ静的な微風速気流が形成される。
さらに,その微風速気流によってパーティションや机上
にタスクパネルを設置する。図-5に示すように,パネ
のじゅう器表面も冷却され,二次放射による冷却効果も
ル内部のコイルによって冷却された下降気流(自然対流)
期待できる。
と,パネル表面の放射(一次放射)によりタスク空間を冷
却する。また,自然対流により机上面などが冷やされ,
上から見た図
それらからの放射(二次放射)においても,さらなる冷却
自然対流
自然対流
二次放射
効果が期待できる。
パーソナルタスクパネル
一次放射
寸 法
一次放射
横から見た図
パ ネ ル 内 コ イル
冷 水 流 量
冷 水 供 給 温 度
冷 却 能 力
二次
放射
一次放射
自然対流
二次放射
表-2 タスクパネル標準仕様
前面パネル( W9 50×H2 50 )
金 属管 周囲に細 金属 線を
巻きつけた形状(φ35 mm )
1 .0ℓ/ min
16 ℃(室 内温 度 28℃)
約 60W
5.放射と自然対流によるタスク空
調の実験的評価
パーソナル床吹出口
パーソナル床吹出口
今回提案したタスク空調(タスクパネル)の性能評価を
図-5 放射と自然対流によるタスク空調の概念
目的として,物理特性調査および被験者実験を行った。
デスク周りのパソコンやタスク照明の発熱は,準タス
物理特性調査では,デスク周りの気流速度,温度および
ク空間の床吹出口から供給される空調空気によって,置
通常の着席状態を想定して設置したサーマルマネキンの
換換気効果により,タスク空調の負荷とはならず,上昇
皮膚温度を測定した。また,タスクパネルを設置したデ
し排出される。このタスク空調は冷房環境に繊細な顔な
スクに被験者を着席させ,被験者に告知することなくタ
どの露出部を含めた上半身を冷却し,置換換気のプルー
スクパネルのON/OFFを行い,身体各部および体全体
ムを形成する。下半身は通気性のよいバックチェアの椅
の温冷感,気流感の申告を行わせる被験者実験を行った。
子を配置することで,見かけのクロ値を下げ(人体周り
5-1 物理特性調査
の対流熱伝達率を上げ),またパーソナルタスクパネル
工学院大学八王子キャンパス地震防災・環境研究セン
からの自然対流成分の落下分と,準タスク空間用の床吹
ター居住環境制御システム比較実験室(KTC)にて実験
出口からの空調空気の混合空気により負荷を処理するこ
を行った。実験施設,実験装置の詳細は省略し,概略と
とで準タスク空間を形成する。
結果のみ記す。
これらの放射と自然対流による空調方式は,ドラフト
試験室の空調装置は床吹き出し,天井吸い込み方式と
をほとんど感じることのない静穏な空調であり,新しい
し,高さ1,100㎜における室内温湿度が28℃,45%とな
タスク・アンビエント空調といえる。
るよう調整した。
4-2-2 放射と自然対流によるタスク空調の構成
5-1-1 風速および温度
実験に用いたタスクパネルを写真-2に示す。また,
デスク周りで三次元超音波風速計により風向きおよび
表-2にタスクパネルの標準仕様を示す。パーティショ
風速を測定した。また,同一点で温度を測定し,タスク
ンに囲まれたワークスペースをタスク空間として,そこ
パネルの放射・自然対流の効果を検証した。人体(サー
─ 19 ─
ヒートポンプとその応用 2011.
3.
No.81
── 実 施 例 ──
マルマネキン)およびデスクトップPCを熱負荷として設
面温度を確認し,最大で顔(頬)で1.0℃の低下が見られ
置し,タスク空間の熱環境を再現した。
た。このとき,パソコンモニター設置側の頬では0.5℃
ドラフトを示す風速は,机上面に近い測定点でも0.05
の低下であったため,パーソナルタスクパネルの放射効
〜0.06m/sとなり,不快を感じないレベルで人体方向へ
果の確認とともに,モニターの放射の影響も受けている
の気流の流れも確認できた。机上面から離れるにつれ風
ことがわかった。
速は弱まり,風向きは人体発熱によるプルームと考えら
5-2 被験者実験による評価
ここでは,デスクに着席した被験者に知らせることな
れる上向きとなった。
冷却効果を示す温度は,机上面から遠い測定点の温度
くタスクパネルのON/OFFを行い,表-3に示すよう
は室内温度(28℃)とほぼ等しいが,近くなるにつれ温度
に被験者に全身温冷感,部位別温冷感および部位別気流
は下がり,パーソナルタスクパネルの最大能力時(冷水
感を申告させた。
供給温度15℃,水量2.0ℓ/min)にて,パネル表面温度は
着衣量はクールビズを採用した夏期オフィス(男性
21℃程度,下降気流の温度20.0℃程度,机上面の人体付
0.64clo,女性0.51clo)とし,1.2met程度の軽作業を課し
近の温度は,25.5〜26.0℃程度が得られた。
た。なお女性の場合は表-4に示す60Wの能力実験にて
以上の結果より,自然対流が生じ,冷却された下降気
良好な結果が得られたが,男性は能力不足気味であった
流が人体を冷却することが確認できた。
ため,パーソナルタスクパネルの最大能力時70Wの実験
5-1-2 皮膚温度変化
結果を示す。
サーマルマネキンによりタスクパネルの人体冷却効果
を測定した。タスクパネルに冷水を供給し,定常状態で
表-3 申告スケール
3
2
1
0
−1
−2
−3
全17部位(左右足背,左右膝下,左右もも,腰,顔,腹,
左右掌,左右前腕,左右上腕,胸,背中)の測定を行っ
た。測定の一例をサーモカメラで撮影したものを図-6
に示す。タスクパネルの冷却およびじゅう器の冷却も確
認できる。
温冷感
暑い
暖かい
やや暖 かい
どちらでもない
や や 涼しい
涼しい
寒い
部位別温冷感
部位別気流感
暑い
どちらでもない
寒い
感じる
感じない
表-4 実験条件
空 調 方 式
室 内 空 気 温 度
相 対 湿 度
室 内 気 流
代 謝 量
流 量
タスクパネル 供 給 温 度
冷却能力
>35.7
35.4−35.7
35.1−35.4
34.8−35.1
34.5−34.8
34.2−34.5
33.9−34.2
33.6−33.9
33.3−33.6
<33.3
床吹き出し天井吸い込み
28℃
45%RH
静穏気流
1.2met(机上作業)
1.0∼2.0ℓ/min
15∼16℃
60∼70W
図-7に全身温冷感の申告結果を示す。冷水停止時は
“やや暖かい”の申告が44%であったのに対し,供給時の
申告は13%に減少した。また,“どちらでもない”・“や
や涼しい”の申告が増加しており,タスクパネルにより
温冷感が中立,あるいは涼しい側へ推移したと考えられ
る。
暑い
0%
0%
暖かい
0%
0%
冷水停止
やや暖かい
どちらでもない
涼しい
0%
0%
寒い
0%
0%
0
タスクパネルへの冷水停止時と供給時の皮膚温度差
冷水供給
50%
77%
6%
10%
やや涼しい
図-6 タスクパネルのサーモカメラ画像
(上:停止中,下:冷却中)
44%
13%
10
20
30
40
50
60
70
80(%)
図-7 全身温冷感の申告結果(男性)
は,特に変化のあった部位は気流の影響を受けやすい
図-8に部位別温冷感の申告結果を示す。冷水供給時
掌,前腕,上腕,腹,ももである。パーソナルタスクパ
に顔や首,掌,腕の“暑い”側の申告が減少していた。ま
ネルの最大能力時に放射温度計でサーマルマネキンの表
た,すべての部位で“寒い”側の申告が増加しているた
ヒートポンプとその応用 2011.3.
No.81
─ 20 ─
── 実 施 例 ──
いる。またタスク・アンビエント空調の省エネルギー効
停止 暑い
申告率
果を発揮させるために,RFIDタグなどを利用した在席
供給 暑い
に応じた制御との組み合わせを行っている。執務スペー
スの全200席に適用(写真-3)しており,2011年の夏期
に実装効果の検証を行う予定である。また2010〜2011年
申告率
停止 寒い
の冬期はパーソナルタスクパネルをデスク下部の足元に
供給 寒い
設置して,暖房効果の検証も予定している。
今後さらに高い満足度を実現できるシステムとして確
膝下︵右︶
膝下︵左︶
もも
︵左︶
もも︵右︶
掌︵右︶
前腕︵右︶
前腕︵左︶
上腕︵右︶
上腕︵左︶
尻
背中
腹
首
顔
掌︵左︶
(%)
60
50
40
30
20
10
0
(%)
60
50
40
30
20
10
0
図-8 部位別温冷感の申告結果(男性)
め,部位別にも温冷感の中立もしくは涼しい側への推移
が確認できた。
なお不快なドラフトとなる気流はほとんど感じないレ
立させていきたい。
<参考文献>
⑴ 相賀,他:ペリメータに熱的緩衝空間を有した床吹出空調シ
ステムの性能評価に関する基礎的研究,日本建築学会計画系論
文集 第563号,pp.45〜52,(2003)
⑵ 須藤:パーソナル空調システムの問題と課題,総合設備コン
サルタント技術年報,Vol.33,pp.7〜12,(2008)
⑶ 西原,他:局所冷刺激に対する人体反応特性の部位差,日生
気誌39⑷,pp.107〜120,(2003)
ベルであった。
6.まとめ
自然対流を含むやわらかな放射空調をタスク・アンビ
エント空調に応用し,新しいタスク・アンビエント空調
システム(パーソナルタスクパネル)を考案した。システ
ムの物理特性を測定したところ,温度や風向き・気流速
度よりドラフトを感じないことが確認できた。また,
サーマルマネキンによりタスクパネルの冷却効果を確認
した。
被験者実験により,タスクパネルの性能評価を行っ
た。全身温冷感・部位別温冷感は暑さや寒さが大きく偏
ることもなく,静的な代謝の状態であれば,熱的平衡に
よる快適性が得られることを確認した。
タスクパネルを使用することで,強制対流(ファン)を
用いない空調システムとして,振動や騒音といった不快
要素を排除した快適空間の構築が期待できる。
大林組技研新本館では,代謝量が多い場合のために
クールスポットなどのアダプティブ空調と組み合わせて
写真-3 パーソナルタスクパネル設置状態
─ 21 ─
ヒートポンプとその応用 2011.
3.
No.81
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