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到達運動におけるマイクロスリップの定量的研究

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到達運動におけるマイクロスリップの定量的研究
日心第71回大会 (2007)
到達運動におけるマイクロスリップの定量的研究
○池田知樹1・佐々木正人2
( 東京大学大学院学際情報学府・2東京大学大学院情報学環・教育学研究科)
Key words: マイクロスリップ,リーチング,生態心理学
1
目 的
スムーズな運動の中にも微少な淀みが生じている。例えば,
あるカップに向かった手が急にその軌道を変化させ,別のカ
ップをつかむことがある。これをマイクロスリップと呼ぶ
(Reed & Schoenherr, 1992)。ほとんどは無意識に起こるため行
為者がそれに気づくことは少ないが,ビデオに撮って観察す
るとそれは確実に生起していることがわかる。
先行研究から,マイクロスリップは環境が複雑になると増
加し,タスクの繰り返しやタスクを遂行しやすいように行為
者自身がその配置を変更すると減少することなどが知られて
いる(佐々木他,1998)。また,モーションキャプチャなどを
用いてマイクロスリップを定量的に計測した研究では,その
生起時に視線と手の動きが同期することや(栗原他,2002),
他の運動と比較して曲率の増大が見られるといった報告がな
されている(長島・茂木,2003)。
しかし,先行研究の多くはビデオの観察を手法としており,
定量的な研究もマイクロスリップの一部分だけを取り出して
議論しているに過ぎず,信頼性の点で疑問が残る。また,使
用されるタスクは環境の選択性が高く,マイクロスリップの
観察が容易である反面,その純粋な性質を見逃している可能
性がある。そこで,本研究ではシンプルなタスクを設定して,
その特徴をビデオカメラとモーションキャプチャの両方で分
析した。
方 法
被験者は 20 代の男性 1 名と女性 2 名の計 3 名であった。軌
道の追跡に使用するマーカーは,被験者の親指の爪・人差し
指の爪・手首の親指側の 3 ヶ所に取り付けた。
被験者には,卓上にランダムに設置した 4 種類の円柱を特
定の形に積み上げるタスクを課した。タスク 1 は,円柱をピ
ラミッド型に積み上げ,それを 3 つ作ること。タスク 2 は,
円柱を同じ大きさ毎に積み上げ,それを大きい方から 4 つ作
ることであった。また,タスク 1 は 1~3 個のディストラクタ
を置いた環境でも行った。試行回数は,タスク 1 がディスト
ラクタのない環境で 10 試行,1~3 個のディストラクタを置
いた環境でそれぞれ 10 試行,タスク 2 が 10 試行の計 50 試行
であった。
Figure 1. 実験の様子(タスク 1)。
マイクロスリップの抽出には,Reed ら(1992)が定義した
4 種類のマイクロスリップ(躊躇,軌道の変化,接触,手の
形の変化)ではなく,より発展的な議論をするために新たに
定義した次の 8 種類を採用した。躊躇Ⅰ:対象に向かう手の
動きが一時的に停止し,再び同じ対象に向かい始めるタイプ。
躊躇Ⅱ:対象に向かう手の動きが一時的に停止し,それとは
別の対象に向かい始めるタイプ。軌道の変化:対象に向かっ
た手が途中でその軌道を変化させ,別の対象に向かうタイプ。
軌道の変化(n):複数の軌道の変化が起こるタイプ。躊躇Ⅱ→
軌道の変化:躊躇Ⅱの後で軌道の変化が起こるタイプ。躊躇
Ⅱ→軌道の変化(n):躊躇Ⅱの後で複数の軌道の変化が起こる
タイプ。接触:特定の対象をつかむ前に,手が別の対象に触
れるタイプ。停滞:複数の対象の上で,手がゆらゆら動いた
り滞るタイプ。
結 果
ビデオの映像からマイクロスリップを抽出し,その生起時
におけるモーションキャプチャのデータを分析したところ,
各マイクロスリップに共通して 1 回のリーチングで 2 回以上
の速度の増減が認められた(通常 1 回のリーチングで速度の
増減は 1 回)。また,この特徴がビデオで抽出したマイクロス
リップの生起時以外でも見られた。この場面を再度ビデオで
確認したが,明確にマイクロスリップを抽出することはでき
なかった。
次に,映像から抽出したマイクロスリップの回数を統計的
に分析したところ,マイクロスリップはタスクを繰り返して
も継続的に生起することや,タスク環境やタスクの種類に影
響を受けることがわかった。
考 察
本研究の結果から,マイクロスリップを定量的に計測した
ことで,行為に埋め込まれた隠れたマイクロスリップの存在
が示唆された。また,それがタスク環境やタスクの種類に影
響を受けることから,その生起が行為の多様性や柔軟性を支
えている可能性が示めされた。
引用文献
Reed, E.S. & Schoenherr, D. (1992). The neuropathology of
everyday life: On the nature and significance of microslips in
everyday activities. Unpublished manuscript.
栗原一貴・鈴木一郎・梶山博史・久保寺秀幸・谷江博昭・和
田直晃・佐々木正人・中村仁彦 (2002). ビヘイビアキャプ
チャシステムによるマイクロスリップの計測 日本機械学
会[No.02-6]ロボティクス・メカトロニクス講演会’02
講演論文集
佐々木正人・鈴木健太郎・三嶋博之・篠原香織・半谷実香
(1998). 行 為 の 淀 み と 発 達 - ア フ ォ ー ダ ン ス の 制 約 -
BME,12(7),57-68
長島久幸・茂木健一郎 (2003). Microslips に見られる,視覚情
報の統合と運動 信学技報,NC2002-105
(IKEDA Tomoki, SASAKI Masato)
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