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キヤノンDC 10
10.多角化 ・教科書(網倉久永,新宅純二郎 『経営戦略入門』) 第10章 「多角化」 P.316~P.354 ・概要 本章ではまず、多角化の類型について紹介し、そ れによる経営成果の違いについて述べる。その後、 シナジー効果について解説する。 1 10. 多角化 10.1 多角化の成否とインパクト 10.2 多角化の動向 10.3 多角化と経営成果 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果 (合成効果) 2 10.1 多角化の成否とインパクト キヤノ ン の売上構成(1965年) ニコ ンの売上構成(1965年) 光学機器他 19% 光学機器 他 36% 155億円 81億円 カメラ 64% カメラ 81% キヤノ ンの売上構成(1990年) 光学機器他 6% カメラ 19% ニコ ンの売上構成(1990年) 光学機器他 25% カメラ 42% 2,411億円 9,313億円 事務機 75% 半導体関連機 器 33% 3 10.1 多角化の成否とインパクト キヤノンの売上構成(2005年) 光学機器 他 10% カメラ 23% 3兆7,541億円 事務機 67% ニコンの売上構成(2005年) 光学 機器 他 20% 6,384億円 カメラ 45% 半導体 関連機 器 35% 4 10.1 多角化の成否とインパクト キャノンとニコンの業績推移 4,000,000 500,000 3,500,000 450,000 1965~1990年の25年間で キヤノンは売上62倍,利益130倍に! ニコンは売上30倍,利益40倍。 3,000,000 400,000 350,000 2,500,000 300,000 売 上 2,000,000 高 (百 1,500,000 万 ) 1,000,000 250,000 200,000 150,000 100,000 500,000 経 常 利 益 (百 万 ) 50,000 0 0 1965 1970 1975 1980 キヤノン 売上高 1985 ニコン 1990 1995 キヤノン 2000 2005 ニコン 経常利益 5 10.1 多角化の成否とインパクト キャノンの売上高構成比の推移 4,000,000 3,500,000 光学機器他 3,000,000 事務機 百 2,500,000 万 2,000,000 円 1,500,000 カメラ 1,000,000 500,000 0 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2013年 売上:3,731,380(百万円) 純利益(税引前):347,604(百万円) 6 10.1 多角化の成否とインパクト ニコンの売上高構成比の推移 700,000 600,000 光学機器他 500,000 半導体関連機器 百 400,000 万 円 300,000 カメラ 200,000 100,000 0 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2013年 売上:1,010,493(百万円) 純利益: 42,459(百万円) 7 10.1 多角化の成否とインパクト 繊維企業の成長と多角化 企業名 旭化成 三菱レイヨン 日東紡 鐘紡 東レ クラレ 帝人 ユニチカ 日清紡 東洋紡 クラボウ 東邦レーヨン オーミケンシ 富士紡 シキボウ 大和紡 1954年度 1988年度 1988/1954 1988年度 売上高 売上高 売上高成長倍率 非繊維比率 (億円) 順位 (億円) 順位 216 5 8,178 1 37.9倍 80.0% 78 15 2,003 8 25.7倍 66.2% 114 12 1,217 11 10.7倍 54.5% 380 3 4,816 3 12.7倍 48.0% 298 4 5,531 2 18.6倍 43.2% 109 13 2,111 7 19.4倍 40.8% 153 8 3,123 5 20.4倍 35.1% 388 2 2,498 6 6.4倍 31.5% 147 9 1,749 9 11.9倍 30.0% 680 1 3,156 4 4.6倍 22.6% 160 7 1,307 10 8.2倍 18.0% 75 16 710 14 9.5倍 15.4% 96 14 631 15 6.6倍 9.0% 146 10 798 13 5.5倍 5.1% 127 11 614 16 4.8倍 1.6% 8 161 6 804 12 5.0倍 10.1 多角化の成否とインパクト 繊維企業の成長と多角化 9 10.1 多角化の成否とインパクト 多角化の類型 – 専業戦略(S:Single) – 垂直統合戦略(V:Vertical) – 本業中心多角化戦略(D:Dominant) • 集約的なもの(DC:Dominant-Constrained) • 拡散的なもの(DL:Dominant-Linked) – 関連分野多角化戦略(R:Related) • 集約的なもの(RC:Related-Constrained) • 拡散的なもの(RL:Related-Linked) – 非関連多角化戦略(U:Unrelated) 10 10.1 多角化の成否とインパクト 分類の尺度 (売上高による量的尺度) 専業型(S) – Yes (SR) SR≧0.95 No 最大事業の売上高÷総売上高 – (VR) 垂直型(V) Yes 垂直的な関連をもつ 最大の事業グル-プの売上高÷総売上高 – (RR) VR≧0.7 No 本業・集約型(DC) 本業・拡散型(DL) Yes 技術や市場で何らかの関連性をもつ 最大の事業グル-プの売上高 ÷総売上高 SR≧0.7 No 関連・集約型(RC) 関連・拡散型(RL) Yes RR≧0.7 No 非関連型(U) 11 10.1 多角化の成否とインパクト 分類の尺度 (資源展開のパターンによる定性的尺度) – 型 関連性が網の目状に緊密で,少数の種類の経営資源をさまざまな分野で共 通利用するタイプ – 型 さまざまな経営資源が企業内に蓄積され,緊密な共通利用関係が生じること なく,保有する経営資源をてこに新分野に進出し,その新分野で蓄積した経 営資源をベースにさらに新しい分野に進出するタイプ 集約 拡散 12 10.1 多角化の成否とインパクト 戦略類型の例 – – – – 専業型: 自動車 垂直型: (合成繊維→化学) RL 本業集約型:資生堂(化粧品→トイレタリ-製品) 本業拡散型:ヤマハ(ピアノ→スキ-→レジャー, 音楽教室→英会 話教室,ステレオ→通信機, ) – 関連集約型: (オ-トバイ→自動車など) – 関連拡散型:味の素(調味料→油脂,飼料,加工食品など) RC – 非関連型:宇部興産(セメント,化学,機械,石炭) 13 10.1 多角化の成否とインパクト 味の素の多角化タイプ 1965 1988 1999 調味料(V, R1 ) 54.2% 21.6% 18% 油脂(R2 ) 17.3% 15.0% 11% 3.5% 45.3% 27% 加工食品(V, R2 ) 飲料(R2 ) 各種アミノ酸(R1 ) その他(飼料等)( R1 ) 売上高(億円) ― ― 29% 2.6% 10.5% 12% 22.4% 544 7.6% 2011 国内食品(R) 52% 海外食品(R) 19% バイオ・ファイン 16% 医薬品 7% その他 6% 3% 4,600 6,097 売上高(億円) 12,076 SR 0.542 0.453 0.29 SR 0.52 VR 0.577 0.669 0.45 VR ― RR 0.792 0.603 0.67 RR 0.71 14 10. 多角化 10.1 多角化の成否とインパクト 10.2 多角化の動向 10.3 多角化と経営成果 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果 (合成効果) 15 10.2 多角化の動向 タイプ別の動向 – 実証研究の対象 日本の大企業(鉱工業)118社,1958年~1973年~1988年 – 多角化の動向 • 高度多角化企業(RC,RL,U)の増加:40%(1958年)→46%(1973年)→53%(1988年) • 非多角化企業(S,V)の減少:39%(1958年)→36%(1973年)→31%(1988年) – 国際比較 • 日本企業の多角化のレベルは低く,その進展スピ-ドも遅い. →1958~73年は,日本経済の高度成長期. 日本企業の多角化戦略タイプの推移 上野(2011)『戦略本社のマネジメント』, 白桃書房 16 10.2 多角化の動向 日本企業多角化戦略タイプの分布 17 10.2 多角化の動向 出所:龍元秀明(2012) 卒業論文 繊維産業 10.2 多角化の動向 旭化成の多角化タイプの変化 出所:龍元秀明(2012) 卒業論文 19 10.2 多角化の動向 多角化の誘因 – 外的誘因 1.既存製品市場の需要の成長率の長期的停滞 2.既存製品市場の高集中度(寡占)→競争の回避 3.既存製品市場の需要の不確実性→リスク分散 4.独占禁止法による企業分割規定の強化 – 内的誘因 1.未利用資源の有効利用 2.負の目標ギャップ 3.企業規模(未利用資源) 20 10.2 多角化の動向 多角化のモード 1.問題発生型 外的誘因、低成長産業、多角化に必要な経営資源の蓄 積の低い産業(生産財、非科学技術型産業) 2.適応型 内的誘因、高成長産業、消費財産業 3.企業者型 リーダーシップ、ビジョン 高成長産業、消費財産業、科学 技術型産業 21 10.2 多角化の動向 環境と戦略タイプ 1. 既存事業の →多角化の必要性 2. 既存事業の技術的差別化競争の程度、研究開発力→多角化の能力 22 10. 多角化 10.1 多角化の成否とインパクト 10.2 多角化の動向 10.3 多角化と経営成果 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果 (合成効果) 23 10.3 多角化と経営成果 多角化のタイプと成果 – 収益性と成長性のトレ-ド・オフ 高度の多角化は高い成長性をもたらすが,収益性は低くなる. – 特化率が高く,資源 的な展開であるほど,収益性は なる. (本業集約型が最も高い収益性) – 関連比率が高く,資源 的な展開であるほど,成長性は なる. 収益性と成長性のトレードオフ 高 成長性 収 益 性 / 成 長 性 収益性 低 低度 中度 高度 多角化の 程度 24 10.3 多角化と経営成果 多角化のルートと成果 図4-10. 戦略タイプと成果 戦略タイプと成果 4 DC 3.5 3 投 下 2.5 資 2 本 収 1.5 益 1 率 0.5 0 -0.5 0 DL S RC RL V 0.5 1 U 1.5 2 売上成長率 25 10.3 多角化と経営成果 多角化のルートと成果 (1) 型→本業集約型→関連集約型→ 型 まず、本業に近い事業分野への進出。 既存の中核的な資源を集約的に利用す るために、本業近辺の事業分野につぎつぎに進出し、やがて関連集約型に到達 する。さらに多角化を進めると、ある段階で経営資源の拡散的な利用が試みら れ、関連拡散型へと移って行く。 (2) 型→本業拡散型→ 型 まず、既存の事業分野とはかなり異質性の高い分野に進出する。それ以後、そ の新分野で獲得する新しい経営資源を利用して、さらに新しい分野へとつぎつぎ と進出していく。 データからは、この2つのルート以外には、専業型→垂直型(非多角化)しか存在 しない。 26 10.3 多角化と経営成果 多角化のルートと成果 – (2) 型→本業拡散型→ 型のルートのほうが効率的 な多角化である。関連集約型の成果は収益性・成長性ともに低 い。 – 集約型から拡散型への転換が困難 – 本業拡散型が本格的な多角化のための資源蓄積の準備期間と して捉えられる。 – 専業型から本業拡散型への移行では、本業が健全である間に、 積極的に新しい経営資源が導入される。 27 10. 多角化 10.1 多角化の成否とインパクト 10.2 多角化の動向 10.3 多角化と経営成果 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果 (合成効果) <参考文献> 伊丹敬之(1984)『新・経営戦略の論理』日本経済新聞社、第6章。 吉原英樹(1986)『戦略的企業革新』東洋経済新報社、第1章・7章。 28 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) 効果( 効果) – 複数の製品市場分野が、他の足らない所を補って、全体として 初めてうまく行く。 – 2人合わせて1人前 1+1=2 →スキーリゾートのホテルがテニスやゴルフ ひとつの資源についての制約条件あるいは必要条件を二つの市 場分野の合計で満たしている。直接的な相互作用は無い。 29 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) についての相補効果 (1)絶対的規模の不足 ある物的資源をひとつの製品市場分野が必要とする量が、その物的資源の現 有量に満たないために、二つ以上の製品市場分野を合わせて操業度を確保す る。 Ex) 工場の操業度 (2)資源利用のパターンの時間的ムラ 季節的あるいは時間帯別等で、物的資源の利用パターンにムラがあるために、 ひとつの製品市場分野がその資源を使い切ったり、使い余したりする(パターン のバランス)。 Ex) ホテル、ファミリーレストラン (3)ビジネスの不確実性 ひとつの製品市場分野の売上の不確実な変動のために、資源の必要性が不確 実に変動する(リスクのバランス)。 Ex) 国内-海外 30 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) についての相補効果 (1)絶対的規模の不足 ひとつの製品市場分野だけでは現有資金量を下回る資金需要しかなく、余剰が 出る。 (2)資源利用のパターンの時間的ムラ カネの流出入のパターンの時間的ムラ。季節変動、長短期、ライフサイクル (3)ビジネスの不確実性 31 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) 相乗効果(シナジー効果) – 定義 単一の企業が複数の事業活動を行なうことによって,異なる企業が別個にそれ らを行なう場合よりも大きな成果が得られるという結合効果。 – 相乗り、1+1=3 味の素:調味料のブランドイメージを食品で、調味料のアミノ酸技術を医薬品で。 – シナジーの分類 シナジー:販売チャネル,ブランドの共用 系列家電販売網;ラジオ→扇風機→テレビ シナジー:生産設備、研究開発 Ex) ラジオ、テレビ、VTR ・シナジー:人事管理,財務管理などの経営ノウハウ - 特徴 一方が他方の生み出す情報的資源を使っている。(評判、技術) 直接的な相互影響がある。 32 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) 相乗効果(シナジー効果) – なぜ相乗りが可能になるか? • モノ、カネはある製品のために使えば、それだけ他の分野で使える余地が 少なくなる。 • 技術、ブランド、流通網は異なる。→情報的資源( ):一つの資 源を「同時に」「多重利用」している。 – 情報の特徴 • 同時に複数の人が利用可能 • 使いべりしにくい • 使っているうちに、新しい情報が他の情報との結合で生まれることがある。 – 自社の持つ情報的資源の相乗効果をうまく使って、新分野への 進出をはかるとき、競争上の優位性を効率的に作り出せる。 – 情報的資源は、 (1)カネを出しても買えないことが多い、 (2)つくるのに時間がかかるので、競争相手が模倣しにくく、持続的に有効な 競争上の優位性につながることが多い。 33 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) ダイナミックな組み合わせ効果 – ダイナミックな相補効果 (1)モノのダイナミックな相補効果 現在の戦略のために蓄積される物的資源が、どの程度将来の転用が可能 なのか? (2)カネのダイナミックな相補効果 現在の事業ポートフォリオ全体としてキャッシュ・フローのパターンの異なる 事業をバランスよく持ち、その静的バランスが将来へも続くように現在での布 石を打つこと。→ ( )。 – ダイナミックな相乗効果(ダイナミック・シナジー) • 現在の戦略から生み出される情報的資源を将来の戦略が使う。 Ex) キヤノン:電卓の電子技術→各種OA機器 カシオ:電卓のLSI設計技術→時計、電子楽器、OA機器 シャープ:電卓の液晶ディスプレイ技術→ビデオカメラ、薄型大画面テレビ • ダイナミック・シナジーのよいサイクルに乗るためには、今の時点だけを考 えれば「多少の無理を承知」の上で、静的な資源の裏付けを多少欠いた 戦略を選んでおく必要があることも多い。 34 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) 経営資源のダイナミック・シナジー 多角化の 事業分野 現在の経営資源 のストック 現 在 資源蓄積活動によって 蓄積される経営資源 次期の多角化の 事業分野 日常業務活動を通じて 蓄積される経営資源 次期の経営資源 のストック 将 来 資源蓄積活動によって 蓄積される経営資源 日常業務活動を通じて 蓄積される経営資源 35 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) 戦略と資源の不均衡ダイナミズム モノ、カネは戦略実行に必要不可欠なため、それらについては資源 の裏付けを欠くことはできない。しかし、情報的資源は、戦略を「う まく」実行するのに必要な資源であるため、これを多少欠いた戦略 を選んでも実行は可能である。 情報的資源を欠いているために、当初は苦しい競争を強いられる かもしれないが、その中で競争相手や顧客に鍛えられていく。そし て、当初は欠けていた情報的資源が徐々に蓄積されていく。 戦略と資源の間にある程度のアンバランス(不均衡)を静的には含 みつつ、それがダイナミックに解消され、さらに大きな発展のベース をつくっていくという不均衡ダイナミズムがある。 →国の経済成長、産業発展にもみられる(日本の自動車産業)。 36 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) シナジーとコアコンピタンス 有 の 無 活 用 弱 資源の 強 ・・・成功 ・・・失敗 37 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) 資源とコアコンピタンス 事業 コアコンピタンス • コアコンピタンス(core competence) 他社では提供できないような利益を顧客にもたらすこ とのできる、その企業独自のスキルや技術の集合体 • ( ) 長年の経験・知識の蓄積のなかで選び抜かれた、当 該組織専用の成功のロジック(考え方・物の見方) (参考)高橋伸夫(2000) 『超企業・組織論』 有斐閣、第15章。 資源 資源 資源 38 10.4 多角化による事業間の組み合わせ効果(合成効果) コアコンピタンスとドミナント・ロジック (出所)Prahalad and Bettis (1986). The dominant logic: A new linkage between diversity and performance. Strategic Management Journal, 7(6), 485-501. 39