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湖西連峰 - 静岡県

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湖西連峰 - 静岡県
湖
西
連
峰
静岡
観察ガイ
ド
自然
県
30
ク
ブッ
静
岡
県
自
然
観
察
ガ
イ
ド
ブ
ッ
ク
0
⃝
湖西連峰
KOSAI-RENPOU
自然保護憲章 (昭和49年6月5日制定)
自然をとうとび,自然を愛し,自然に親しもう。
自然に学び,自然の調和をそこなわないようにしよう。
美しい自然,大切な自然を永く子孫に伝えよう。
出かける前に
大きな声を出さないで,静かに観察しましょう。
生きものはとらないで,観察のために必要なときは,観察が
終わったらもとの場所にかえしましょう。
危険な場所,危険な生きものには注意しましょう。
ごみは出さないようにし,もし出したら持ち帰りましょう。
たき火をしたり,タバコを吸いながら観察したりすることは
やめましょう。
自然観察の持ち物
自然観察の服装
ぼう し
リュックサック フィールドノート
手ぶくろ
とえんぴつ
帽子
すいとう
長そで
シャツ
お弁当
雨具
水筒
〈あると便利なもの〉
ゆったりした
長ズボン
ず かん
そうがんきょう
双眼鏡
運動ぐつ
または長ぐつ
地図
ルーペ
ビニールぶくろ
図鑑
巻尺
1
富士見台
415m
石巻分岐
一本杉
4
多米峠
豊橋へ
1km 15分
265m
県道豊橋大知波線
WC
2km 40分
観察地③
4km
1時間
雨やどり岩
神石山
324m
知波田駅
観察地②
2km 40分
ラクダ岩
1km 20分
仏岩
214m
観察地①
梅田峠
登山口
新池
WC
トキワマンサク自生地
334
嵩山 摩利支天
道
鉄
170.4m
駐車場
湖
名
入口 県道太田中原線
浜
竜
天
1km 20分
301
新所
1.5km 20分
線 330
の岡
新
県道
豊橋へ
新所原駅
0
2
500 1000m
日
所原
東海道本線
浜
名
湖
交 通 案 内
愛
知
県
天竜市
新城市
引佐町
引佐郡
三ヶ日町
三ヶ日I.C
浜北市
細江町
豊
橋
市
浜松西I.C
東名高速道路
浜名湖
湖西市
新所原
1 東海
道新
幹
線
東
海
道
本
線
浜松I.C
浜松市
浜名郡
浜松
新居町
1
浜名バイパス
遠州灘
しんじょはら
●電車で ・JR新所原駅下車
うめ だ
梅田ハイキングコース入口まで徒歩20分
てんりゅうはま な
こ
ち
ば
た
・天竜浜名湖鉄道知波田駅下車
た
め とうげ
多米峠登り口まで徒歩約1時間
●自家用車で ・東名三ヶ日インターから約40分(ハイキングコース入口)
・JR新所原駅から約5分
(ハイキングコース入口)
3
こ さいれんぽう
湖西連峰
湖
西
連
峰
▲浜名湖から湖西連峰を望む
はま な
こ
こ さい
みっ か
び
湖西連峰は浜名湖の西方に位置し,湖西市から三ヶ日町にかけ
そうしょう
うめ だ
なんたん
す やま
て連なる山々の総称です。湖西市梅田を南端とし,嵩山(170.4m)
かみいしやま
た
め とうげ
ほんざかとうげ
ぼう
みね
神石山(324m),多米峠(265m),本坂峠(320m),坊ヶ峰(446
ひ かく
お
ね
あい ち
けんきょう
m)と比較的低い山々が連なり,その尾根は愛知県との県境になっ
はま な
こ
ています。また,自然もよく残され,浜名湖県立自然公園の一部
に指定されています。
尾根からは,浜名湖や,遠くに富士山や南アルプスも望まれ,
み かわ
わん
ちょうぼう
西に三河平野や三河湾が見え,眺望がよいことから,昔からハイ
キングコースとして人気があります。また,周辺には,県指定の
ま
り
し てん
ふ どう
たき
おお ち
ば
天然記念物トキワマンサク群生地,摩利支天,不動の滝,大知波
はい じ
廃寺など,見どころも多くあります。
ちち ぶ
こ せいそう
湖西連峰は老年期の山地で,秩父古生層と呼ばれる地層から成
っています。大知波などにはマンガン鉱が知られ,三ヶ日町の本
せっかいがん
きわ
坂峠付近やその北部には石灰岩が分布しています。気候も極めて
4
とくちょう
は
温暖で,その特徴が,生えている植物にもあらわれています。
シイやカシ類を中心とした林やヤブツバキ林が発達し,その林
しげ
さんぷく
下にはウラジロやコシダが茂っています。山腹や谷間には,ヤマ
ビワ・トキワガキなどの樹木やカギカズラ・ハスノハカズラ・シ
タキソウなどのつる植物,ナチシダ・ナチクジャクなどのシダ植
物が見られます。一方で,マンサク・コブシ・ミヤマシキミ・ヒ
メシャラ・ウラジロノキなど山地性の樹木も見られます。これは
ざん
古い地層のため,今より気温の低いときに生育していたものが残
ぞん
存したものと考えられます。
しっ ち
しょく ちゅう しょくぶつ
かつては山すそに湿地が点在し,食虫植物などたくさんの湿地
性植物が見られたのですが,残念なことに,今ではほとんどの湿
地が消失し,これらの植物もほとんど見られなくなってしまいま
した。
とくひつ
じ せい
この付近で特筆すべきものに,トキワマンサクの自生がありま
み
え
くまもと
す。この植物は,湖西市のほかに国内では三重県・熊本県にしか
げ じゅん
分布しない貴重な樹木で, 4 月下旬∼ 5 月上旬にかけてクリーム
さ
色の花を咲かせます。自生地は県天然記念物に指定されています。
こんちゅう
このほか,野鳥や昆虫も多く,自然観察の適地といえます。
▲ハイキングコース
▲トキワマンサク
5
観察地
1
観
察
地
1
⃝
す やま
入口から嵩山
入
口
か
ら
嵩
山
かん ざ
はま な
▲神座から嵩山を望む
こ さい れん ぽう
こ
▲山頂から浜名湖を望む
はし
嵩山は 湖 西 連 峰 の南東の 端 に位置する標高170.4mの小高い山
なが
えんすいけい
です。眺める位置によってその姿を変えますが,円錐形の女性的
とくちょう
な美しい姿が特徴的です。嵩山へはハイキングコース登り口から
うめ だ とうげ
じょうはいすい
梅田峠を東に曲がり山頂に至るコースと,湖西工業用水道浄配水
じょう
場の裏を東に進み,山腹を南から北にまいて梅田峠を経て山頂に
至るコースがあります。
●道沿いの植物
ハイキングコース登り口付近にはクロガネモチが見られます。
はだ
秋から冬にかけてたくさんつけた赤い実が目立ちます。木の肌は
白っぽくなめらかです。コースは梅田峠に向かってやや広い道が
なだらかに登っています。道沿いに歩いて行くと,シイ,ヒサカ
キ,ソヨゴ,ネジキ,コナラ,コシダ,ウラジロ,カクレミノ,
ササクサなどが見られます。
最初の曲がり角付近にはカギカズラが見られます。
6
▲クロガネモチ(果実)
き はだ
▲クロガネモチ(木肌)
カギカズラ
たいせい
常緑性のつる植物で, 2 枚の対生する葉のわきに下向きのかぎ
くき
状のとげがあります。このとげでほかの植物にまとわりつき,茎
の
ころ さ
を伸ばしていきます。暖かい地方に多い植物で,花は 7 月頃咲き
ます。
・・
▲カギカズラ(葉ととげ)
▲カギカズラ(花)
少し進むと,ヒサカキの枝にヒノキバヤドリギが寄生している
のが観察されます。
7
観
察
地
1
⃝
入
口
か
ら
嵩
山
ヒノキバヤドリギ
つぶ じょう
葉 は 退 化 し て,小 さ な 粒 状 と
ふし
たいせい
なって節に対生しています。体に
ある葉緑体でも光合成をしますが,
寄生している植物の組織のなかに
の
根を伸ばし,水や養分を吸収して
生活しています。
▲ヒノキバヤドリギ
さらに,ヒサカキ,リョウブ,ヤマザクラ,ネズミモチ,クロ
バイ,ニガイチゴ,アラカシ,カクレミノ,クスなどを観察しな
うめ だ とうげ
がら登るとほどなく梅田峠です。峠の手前のがけ地にはホラシノ
ブが見られます。
ホラシノブ
常緑性のシダ植物ですが,ここ
では冬場になると赤く色づきます。
す やま
ここから,右に曲がると嵩山山
頂への道となります。道沿いには
カゴノキ,アベマキ,コナラ,ク
▲ホラシノブ
リ,サカキ,ヒメシャラ,サカキカズラ,
サルトリイバラなどが見られます。
サカキカズラ
常緑性のつる植物で暖かい地方の海岸
ちゅう
に近い山や林に見られます。花は 5 月中
じゅんころ さ
旬頃咲き,花のあとには, 2 個の大きな
果実をつけます。種子は白く長い毛をつ
け,風でとばされます。
8
▲サカキカズラ
お
ね
少し進むと,尾根すじの道となります。山頂に向かって,ミツ
バツツジ,リョウブ,ヤブコウジ,コウヤボウキ,モチツツジ,
ヒイラギ,ソヨゴ,クチナシ,ヒトツバ,ヒノキバヤドリギ,マ
ンサク,ネジキなどが見られます。
ミツバツツジ
3 枚の葉をつけ,花は早春に
さ
葉の展開に先立って咲きます。
葉には毛がなく,おしべの数は
5 本です。
▲ミツバツツジ
ヒトツバ
常緑性のシダ植物で,葉の裏
ほう し
に胞子をつけますが,胞子をつ
ける葉とつけない葉があります。
かわ
いわ ば
暖かい地方の乾いた岩場に群生
します。このハイキングコース
でもよく見られます。
▲ヒトツバ
クチナシ
ていぼく
しずおか
常緑性の低木で,静岡県より
は
西の暖かい地方に生えます。花
は 6 ∼ 7 月頃咲き,白色で大き
かお
く,よい香りがします。果実は
黄赤色で黄色の染料となります。
こ さい
湖西市の花に指定されています。
▲クチナシ(果実)
9
観
察
地
1
⃝
入
口
か
ら
嵩
山
す やま
うら て
嵩山周回コースは工業用水裏手を東進します。ソヨゴ,クロバ
イ,クリ,コナラ,ヒサカキ,ヤマモモ,ミツバアケビ,ネジキ,
マルバアオダモ,スギなどが見られます。
ソヨゴ
し ゆう い しゅ
常緑性の樹木で,雌雄異株。
ころ
6 月頃に小さな目立たない花を
つけます。秋には丸い果実が赤
わ めい
く熟します。和名はそよぐの意
ふ
味で,葉が風に吹かれて音がす
ることからこの名がつけられま
▲ソヨゴ
した。
クロバイ
こうぼく
こ さいれんぽう
常緑性の高木で湖西連峰には
多い木です。 5 月頃に白い花を
たくさんつけ,遠くからでも目
立ちます。暖かい地方に多い木
こっかっしょく
です。幹は黒褐色です。
▲クロバイ
さらに進むとアラカシ,アベマキ,ヤマザクラ,シイ,カクレ
ミノ,リョウブ,ネジキ,フモトスミレ,ガマズミ,ヤブニッケ
イ,サカキ,ミズスギ,コシダなどが見られます。
ひがしはし
ま
り
し てん
ぶん き
東端あたりで摩利支天へ下る道が分岐します。ここを下りずに
進むと,リョウブ,コナラ,ネジキ,モチツツジ,ソヨゴ,ウラ
ジロ,ネズミモチ,クロガネモチなどが見られます。シイやウラ
とくちょう
ジロガシの大木が多く見られることも特徴の 1 つです。
10
● 比べてみよう(ウラジロとコシダ)
▲ウラジロ
▲コシダ
ウラジロとコシダはともに常緑性のシダ植物です。暖かい地方
は
に多く生え,ここでもいたる所で見られます。生えている場所を
しゃめん
ひ かげ
観察しましょう。ウラジロは林の下や,北側斜面などの日陰に多
かわ
く,コシダは乾いた日当たりのよい場所で多く見られます。
ウラジロ
う へん
つい
名前のように葉の裏が白く, 2 枚の葉(羽片)が 1 か所から対
になって出ます。羽片は何段にも重なり,1m∼ 3 m近くになり
ます。1年に 1 段ずつ成長するので,何年たっているのかを知る
かざ
ことができます。正月飾りとしてもなじみが深い植物です。
コシダ
ふた また ぶん き
つ
ね
名前のようにウラジロに比べ小さく,二 又 分 岐 の 付 け 根 に葉
かざ
(羽片)と同じような飾り羽片がつきます。羽片はそこから二又
く
はま な
こ
に分岐し,それを数回繰り返し,横に広がります。浜名湖では束
ねて海にしずめてエビなどを採ることに利用されることがありま
す。
11
観
察
地
1
⃝
入
口
か
ら
嵩
山
● 比べてみよう(落葉広葉樹)
コナラ・クリ・アベマキ
に
じ りん
コナラ,クリ,アベマキはこの地域の二次林を構成する代表的
ばっさい
な樹木です。二次林とは自然林の伐採や消失のあと二次的に生育
している林のことをいいます。また,ドングリのなる木でもあり
ます。ここではいたる所で見られますので,比べて見ましょう。
(1)落ち葉
ひ かく
▲冬の二次林内
▲葉の比較
左からコナラ,クリ,アベマキです。コナラは,葉の形がいび
らんけい
きょ し
するど
つな卵形で,鋸歯(葉のふちのぎざぎざ)が鋭くあらくて,葉の
うら
かいはくしょく
ちょう だ えんけい
裏は灰白色です。クリは,葉の形が長楕円形で,鋸歯は鋭くて先
のぎじょう
はり
とっ き
あわ
が短い芒状(針のような突起)になります。裏は淡い緑色です。
はば
アベマキの葉の形はクリにやや似ていますが,それよりも幅が広
き
ぶ
く,葉の基部が丸くなります。鋸歯(葉のふちのぎざぎざ)は波
みっせい
状で芒(針のような突起)がでます。裏は灰白色で毛が密生しま
す。これはクヌギとの大きな違いです。
12
(2)果実(ドングリ)
同じく左からコナラ,クリ,
とく
アベマキです。この仲間の特
ちょう
かく
徴は,果実(どんぐり)が殻
と
から
がい ひ
斗と呼ばれる殻(外皮)で包
まれていることです。クリの
イガがそれです。
クリは全体を包みこみ,コナラやアベマキでは一部を包みます。
ぼう し
コナラの殻斗は帽子のようで,表面をよく見るとウロコのような
模様になっています。アベマキの殻斗は深い皿状で,細長いもの
りんぺん
(鱗片)がたくさん出ています。
き はだ
(3)木肌
▲コナラ
▲クリ
▲アベマキ
かいはくしょく
コナラは灰白色で縦に不規則な割れ目がはいります。クリは灰
はいかっ
黒色または灰色で,やや深く縦に長く割れます。アベマキは灰褐
しょく
そう
ひ かく
色で縦に不規則に割れ,コルク層が比較的よく発達します。
13
観
察
地
2
⃝
梅
田
峠
か
ら
神
石
山
うめ だ とうげ
観察地
2
かみいしやま
梅田峠から神石山
ハイキングコースは梅田峠を西
に向かいます。ここからは本格的
お
ね
な山道らしい道になります。尾根
く
すじの道で,アップダウンを繰り
ほとけいわ
返しながら高さを増し,仏岩(214
m),ラクダ岩を経て,神石山(324
m)に至ります。約 3 ㎞ 1 時間の
▲仏岩付近
行程です。
●道沿いの植物
仏岩の手前まではなだらかな登りで,ヒサカキ,ネズミモチ,
リョウブ,コナラ,シイ,ヤマモモ,ソヨゴ,カクレミノ,サカ
キ,クロバイ,アベマキ,シロダモ,コウヤボウキ,ススキ,マ
キノスミレ,ササクサ,ミツバアケビなどが見られます。
ヒサカキ
ていぼく
常緑の低木で, 3 ∼ 4 月に白色
たんおう
さ
し こく
や淡黄色の花が咲き,秋に紫黒色
め ばな
お ばな
の実が熟します。花は雌花と雄花
があり,雌花のほうが小さいです。
ときに雌しべと雄しべのある花も
みつかります。地元ではヒシャ
シャキと呼んで仏様に供えること
があります。
14
▲ヒサカキ
▲サカキ(花)
▲サカキ(冬芽)
サカキ
しょうこうぼく
くろむらさき
常緑の小高木で, 6 ∼ 7 月に白い花が咲き,秋に球形で黒紫色
せんたん
ふゆ め
の実がつきます。若枝の先端の冬芽はとがって,かぎ状に曲がっ
しん じ
ています。この木は神社に植えられたりして,木の枝は神事に用
いられます。
マキノスミレ
スミレの仲間で,葉は細長く
きょ し
てとがり,低い鋸歯(葉のふち
のぎざぎざ)があります。花は
べにむらさき
4 ∼ 5 月に咲き,紅紫色です。
こ さいれんぽう
みち
湖西連峰では日当たりのよい道
ばた
端や明るい林下で見られます。
▲マキノスミレ
仏岩付近は急な登りや下りで,頂上付近やそれを過ぎたあたり
ろ しゅつ
では岩が露出しているところがあります。この付近では,アセビ
ヤマザクラ,ウラジロガシ,マンリョウ,モッコク,ヒトツバ,
シイ,モチツツジ,マンサク,ネジキ,ウラジロノキ,ナツハゼ,
ヤマツツジ類などが見られます。
15
観
察
地
2
⃝
梅
田
峠
か
ら
神
石
山
マンリョウ
ていぼく
さ
常緑の低木で花は 7 月に咲き,
せんこう
白色です。秋から冬にかけ鮮紅色
の球形の実が熟します。この実の
えん ぎ
美しさと万両という縁起のよい名
さいばい
前から,昔からよく栽培されます。
▲マンリョウ
モッコク
こうぼく
常緑の高木で葉は厚く,先が丸
きょ し
くなっていて,鋸歯(葉のふちの
ぎざぎざ)がありません。花は 6
にわ き
∼ 7 月に咲き白色です。庭木とし
てもよく植えられます。
▲モッコク
モチツツジ
わか め
半常緑の低木です。若芽・がく
へん
せんもう
片や葉に腺毛(ねばねばした液を
出す毛)がはえていて,ねばるの
でその名前がついたといわれます。
べにむらさき
花は紅紫色で 4 ∼ 5 月に咲きます。
▲モチツツジ
マンサク
落葉低木あるいは高木です。花
ころ
は早春(ここでは 2 月頃)葉が出
る前に咲きます。花びらは黄色で
4 枚,リボン状です。
▲マンサク
16
ウラジロノキ
落葉低木で,葉の裏には密に白い
わた げ
綿毛がはえています。名前の通りで
す。花は 5 月に咲き,小さな白い花
が枝先に密集してつきます。
▲ウラジロノキ
ここから少し進むとラクダ岩です。このあたりまでにはミツバ
ツツジ,クスノキ,アカガシ,サカキ,アラカシ,シイ,コナラ,
カクレミノ,ミヤマシキミなどが見られます。
ミヤマシキミ
お
ね
常緑低木で,ここでは尾根すじの
林で点々と見られます。 4 ∼ 5 月に
小さな白い花を咲かせます。秋から
冬にかけては赤い実が熟します。
▲ミヤマシキミ
かみいしやま
ラクダ岩を過ぎて少し進むと神石山までは急な登りが続きます。
このあたりはアカガシやアラカシとシイが密生し,林の中は昼間
うすぐら
でも薄暗いほどです。神石山の頂上ではアカガシ,イチイガシ,
シイ,ヒメバライチゴ,コウヤボウキ,ヒトツバ,リンボクなど
が見られます。
リンボク
常緑小高木で葉は細長く若い木で
するど
きょ し
は鋭い鋸歯(葉のふちのぎざぎざ)
がありますが,老木ではなめらかに
なります。 9 ∼10月に小さな白い花
ほ
をたくさん穂のようにつけます。暖
▲リンボク
かい地方に多い木です。
17
観
察
地
2
⃝
梅
田
峠
か
ら
神
石
山
●比べてみよう(常緑広葉樹)①
シイ・カシ類
シイやカシ類はこの地域の
自然林を構成する代表的な樹
こ さいれんぽう
木です。湖西連峰では森林の
せん い
遷移(うつりかわり)が進み
いたるところで見られるよう
になりました。
▲シイ・カシ林
(1)葉っぱを比べてみよう
▲カシ①
▲カシ②
カシ ①では左からウラジロガシ,アカガシ,アラカシです。葉
の
の形はウラジロガシでは細長く先がしっぽのように長く伸びます。
きょ し
するど
鋸歯(葉のふちのぎざぎざ)はウラジロガシでは鋭く,アラカシ
ではあらく目立ちます。アカガシでは見られず,なめらかです。
葉の裏はウラジロガシではろう白色で,アラカシは灰色で,アカ
え
ガシではうす緑色です。葉の柄はアカガシでは 2 ㎝にもなります。
ひ かく
カシ ②の右側がイチイガシです。アラカシと比較しています。
せいじょうもう
葉の半分以上に鋭い鋸歯があり,裏は星状毛(星の形をした毛)
みっせい
が密生します。湖西連峰ではまれにしか見られません。
18
右がシイの葉です。先がしっぽの
の
ように伸び上半分に鋸歯があります。
りんじょう
裏は細かい鱗状(うろこのような状
態)の毛が密生します。この地方で
はスダジイとツブラジイが見られま
すが,この本ではシイとしておきま
す。
(2)果実(ドングリ)
左からアラカシ,アカガシ,
シイ(ツブラジイ)です。シイ
かく と
がい ひ
から
は殻斗(果実を包む外皮・殻)
がドングリを包みこみ,ほかの
ぼう し
カシ類は帽子のようになります。
その帽子には輪の模様がはいり
ます。
き はだ
(3)木肌
▲ウラジロガシ
▲アカガシ
▲アラカシ
▲シイ
ウラジロガシは灰色∼灰黒色でなめらかです。アカガシは緑灰
黒色であつく割れ目がはいります。アラカシは暗灰色でざらつき,
シイ(スダジイ)は黒灰色,なめらかで,縦に割れ目がはいりま
す。
19
神
石
山
か
ら
多
米
峠
かみいしやま
観察地
3
観
察
地
3
⃝
た
め とうげ
神石山から多米峠
お
ね
神石山からも尾根すじのコ
ースが続きます。ところどこ
とよはし
ろで,視界が開け,西に豊橋
み かわわん
はま な
こ
市街や三河湾,東に浜名湖や
ちょうぼう
富士山が望まれ,眺望を楽し
むことができます。アップダ
く
ウンを繰り返し40分ほどで多
米峠に至ります。
▲雨やどり岩
●道沿いの植物
雨やどり岩まではヒイラギ,ミツバツツジ,モチツツジ,ヤブ
ツバキ,リョウブ,シロダモ,イヌツゲ,イボタノキなどの樹木
や林の下ではフタリシズカ,シモバシラ,ヤブラン,草地ではヤ
マハッカ,ヒオウギ,オカトラノオ,ノコンギクなどの草花も楽
しむことができます。
フタリシズカ
多年草で,葉は普通 2 対が
たいせい
対生します。花は 5 月, 2 本
ほ
さ
程度の穂に咲きます。名前は
ふたり しずか
しずか ご ぜん
まい
二人静で,静御前の舞にたと
えていいます。
▲フタリシズカ
20
シモバシラ
くき
多年草で,茎は四角で葉は対生
します。花は白色で 9 ∼10月に咲
か
きます。冬,枯れた茎の根元から
しもばしら
ひょう ちゅう
霜柱のような氷柱ができる特性が
あることからこの名がつけられま
した。
ヒイラギ
▲シモバシラ
こうぼく
常緑の高木で,葉のふちは若い
木では大きなとげとなりますが,
古い木ではとげがなくなり丸くな
ります。11∼12月に白い花を咲か
こ さいれんぽう
お
ね
せます。湖西連峰の尾根すじには
古木が点々と見られます。
▲ヒイラギ
ヒオウギ
茎の高さ60∼100㎝になる多年
つるぎ
草で,葉は広い剣状でその並び方
ひ おうぎ
が檜扇に似ていることからこの名
がつけられました。花は 8 月に咲
こうたく
き,種子は黒く光沢があり,ぬば
玉と呼ばれます。
▲ヒオウギ
雨やどり岩ではシダ植物のマメヅタ,ヒトツバ,ホソバカナワ
ラビなどが観察されます。
21
観
察
地
3
⃝
神
石
山
か
ら
多
米
峠
た
め とうげ
多米峠まではイヌツゲ,ヒイラギの大木やコマユミ,イボタノ
キ,ヤブツバキ,コナラ,シャシャンボ,ヤブツバキ,ヤブニッ
ケイ,ミツバツツジ,アオキ,ネズミモチ,ソヨゴ,などの樹木
やツルグミ,ムベ,テイカカズラ,サネカズラなどのつる植物,
オケラ,ササユリ,シソバタツナミ,リュウノウギク,ツルリン
ドウなどの草花など,多くの植物が観察されます。
ササユリ
ごろ さ
多年草で,白い大きな花が 6 月頃咲きます。
葉がササの葉に似ていることからこの名がつ
けられました。
ヤブツバキ
こうぼく
のうりょく しょく
常緑の高木で葉の表面は濃緑色
▲ササユリ
こうたく
で光沢があり, 2 ∼ 4 月に赤い花
しょうよう
を咲かせます。照葉樹林を代表す
こ さいれんぽう
る樹木で,湖西連峰では多く,そ
の群落も知られています。
ムベ
▲ヤブツバキ
アケビの仲間ですが常緑性で,
あん し しょく
秋に暗紫色に熟す果実は割れませ
ん。その果実は食べられ,アケビ
よりおいしいです。花は 4 ∼ 5 月
に咲きます。地元ではモクツウあ
るいはモックウなどと呼ばれます。
▲ムベ
22
とよはし
おお ち
ば せん
多米峠を東に下りると県道豊橋−大知波線に至ります。このあ
たりでは,カゴノキ,シイ,クスノキ,タブノキ,ヤブツバキな
どの照葉樹林が発達し,カンザブロウノキも見られます。一方で
しっ ち
ヒメシャラ,コブシなど山地性の樹木が見られます。また,湿地
ではハンカイソウなどを見ることができます。
▲ヒメシャラ(花)
ヒメシャラ
落葉高木で,木の幹はすべすべした赤茶
色です。一名サルスベリとも呼ばれます。
▲ヒメシャラ(幹)
花は白色で 6 月頃に咲きます。
コブシ
落葉高木で, 3 月末頃白い目立
つ花が咲きます。花の下には小さ
ともな
い 1 枚の葉を伴います。
▲コブシ
ハンカイソウ
60−100㎝になる多年草で, 6
月頃に黄色の花が咲きます。根元
え
から出る葉には長い柄があり,手
のひらのような形をしています。
▲ハンカイソウ
23
観
察
地
3
⃝
神
石
山
か
ら
多
米
峠
● 比べてみよう(常緑広葉樹)②
クスノキの仲間
シイやカシ類とともにこの地域の自然林(常緑広葉樹林)を構
成するおもな樹木です。
葉っぱで比べてみよう
①
②
①は左からクスノキ,ヤブニッケイ,シロダモ,②は同様に,
タブノキ,カゴノキです。
ようみゃく
ちゅう みゃく
①の植物はどれも 3 本の葉脈(真ん中の中脈とそのわきの対の
そくみゃく
らんけい
側脈)が目立ちます。クスノキの葉の形は卵形で,ほかの 2 つの
だ えんけい
楕円形の葉と区別されます。葉の裏はクスノキとヤブニッケイは
黄緑色ですが,シロダモでは白くなっています。シロダモの葉の
裏をよく観察すると細い毛がはえているのがわかります。ほかの
2 つの植物は毛がはえていません。
う じょう みゃく
②の植物の葉脈は 羽 状 脈 といって,鳥の羽のような葉の脈に
なっています。カゴノキはタブノキのよりやや小さく,細長い感
じがします。また,葉の質はタブノキのほうが厚い感じがします。
24
▲クスノキの葉の拡大
▲クスノキの木肌
もと
クスノキの葉の基をさらによく観察しましょう。 3 行する脈の
付け根に小さなこぶが見えます。これは虫えいといって,中にダ
き はだ
あんかっしょく
ニがはいっています。また,クスノキの木肌は暗褐色で細かい割
れ目がはいります。成長もはやく,各地で大木が見られますが,
この木が本来の野生であるのかはわかっていないようです。
▲カゴノキ(花)
▲カゴノキ(木肌)
カゴノキ
こ さいれんぽう
か
湖西連峰の各地で見られ,大木も見られます。木肌は鹿の子ま
か
ご
だらにはげ落ちます。鹿子の木の名前はこれによります。花は黄
ころ さ
色で 9 月頃咲きます。
25
こ さいれんぽう
湖
西
連
峰
の
昆
虫
こんちゅう
湖西連峰の昆虫
●アゲハチョウの仲間
モンキアゲハ
もん
飛んでいるときでも大きな白い紋
(古い標本は紋が黄色になる)が目
ころ
立つチョウです。 5 月頃からハイキ
ングコースがこのチョウの通り道に
なっており(チョウ道),暗い所も
平気で通りぬけていきます。
▲モンキアゲハ
アゲハの卵
モンキアゲハの幼虫が食べる植物
はカラスザンショウです。アゲハ
チョウの仲間はカラタチやサンショ
ウ,ニンジン,クスノキなどにおい
のする植物の葉を食べます。アゲハ
はミカン類の葉に卵を産みつけます。▲アゲハの卵
アオスジアゲハ
葉を食べていた幼虫は,チョウに
なるとヤブガラシの花などに集まり,
みつ
蜜を吸います。夏の暑い日には,水
しめ
を吸うために湿った地面に集まって
くるチョウもいます。ただし,水を
吸うのはオスだけです。
26
▲アオスジアゲハ
●移動するチョウ
ウラナミシジミ
春や夏には見られなかった
ウラナミシジミも秋になると
ハギやセンダングサの花でよ
く見られます。ハギやクズな
どのマメ類の花に卵を産みつ
け,花や実を食べて育ちます。
成虫になると北のほうへ移動
▲ウラナミシジミ
していきます。
アサギマダラ
夏の終わり頃高い山から下
りてきたアサギマダラは湖西
い
ら
ご みさき
連峰を通って伊良湖岬に行き,
わた
海を渡って南方へ向かいます。
おきなわ
なかには沖縄にまで行きつく
個体もあるようです。長い旅
の合間に花にやってきて一休
▲アサギマダラ
みします。
イチモンジセセリ
春から見られるイネの害虫
のイチモンジセセリも秋にな
ると数を増し,大群が見られ
う
か
るときがあります。秋羽化す
こ
るものは大形で色が濃く,移
動しやすいといわれています。
▲イチモンジセセリ
27
湖
西
連
峰
の
昆
虫
ふゆ ご
●成虫で冬越しするチョウ
こ さいれんぽう
早春の湖西連峰では日当た
りのよい場所に成虫で冬越し
した各種のチョウが見られま
す。地上ではルリタテハ,キ
タテハ,ヒオドシチョウ。樹
上ではウラギンシジミ,ムラ
サキシジミが羽を全開にして
日光浴をしています。
▲ルリタテハ
ヒオドシチョウの幼虫
成虫で冬越ししたヒオドシ
チョウはエノキに卵をかため
て産みます。幼虫ははじめ集
団で生活し,エノキの葉を食
べて育ちます。十分成長する
と,木から下りてきてさなぎ
になる場所を探します。
▲ヒオドシチョウの幼虫
キタテハ
成虫になったキタテハは,
冬越しに備えて栄養をとるた
しる
みつ
めに果物の汁や花の蜜を十分
に 吸 い ま す。寒 い と き に は
じっとしていますが,冬でも
暖かい日には日だまりで日な
たぼっこしている姿が見られ
ます。
28
▲キタテハ
●セミの仲間
松林のセミ
松林は 4 月∼ 6 月まで「ギ
ーギー」と集団で鳴くハルゼ
ミの声でにぎやかです。 7 月
にはニイニイゼミの「チィー」
の声に変わります。ニイニイ
う
か
ゼミの羽化がら(ぬけがら)
どろ
よご
は小さく泥で汚れています。
▲ニイニイゼミの羽化がら
セミの羽化がら
羽化がらは,セミの幼虫が
しょう こ
その場所で生活していた証拠
です。アブラゼミとミンミン
ゼミの羽化がらは見分けがつ
しょっかく
せつ
きません。触角の第 3 節が 2
節よりも長いのがアブラゼミ,
第 3 節と 2 節が同じ長さはミ
ンミンゼミです。
▲アブラセミ
さんらん
セミの産卵
さんらんかん
か
セミは産卵管で卵を枯れ木
の中にうめこみます。生きて
いる木に産むと木の成長で卵
お
が押しつぶされてしまうので
しょう。セミの種類によって
卵を産んだあとのきずあとが
異なります。
▲枯れた木にクマゼミの卵がうめこんであるところ
29
湖
西
連
峰
の
昆
虫
●ハイキングコースで出あう虫
ハンミョウ
日当たりのよい広場で見ら
れるのはハンミョウ類です。
ハンミョウは細長いあしで軽
快に歩きます。ヒトが近づく
と飛び立ち,少し前方に降り
るので「道おしえ」の名もつ
けられています。
▲ハンミョウ
ホタルガ
ホタルガの幼虫はヒサカキ
を食べます。 6 月と 9 月の 2
う
か
回羽化し,成虫は日中葉にと
まったり飛んだりします。飛
んでいるときは,前羽の白帯
が輪のように見えます。羽が
黒く,頭が赤いところがホタ
ルに似ています。
▲ホタルガ
カマキリの卵のう
カマキリの卵のうの形は種
類によって違います。オオカ
くき
マキリはススキの茎などにま
るい卵のうを産みます。ハラ
ビロカマキリは木の上で生活
しているので,木の上の枝に
小型の卵のうをつくります。
▲ハラビロカマキリの卵のう
30
●林の中で出あう虫
クチキコオロギ
林の中にはいろいろなコオ
ロギが生活しています。夏か
ら秋にかけて夜「グィーッ」と
鳴くクチキコオロギは,くち
木(くさっている木)の中や木
の皮の下にすんでいます。成
虫になるまでに 2 年かかると
▲クチキコオロギのメス
いわれています。
カネタタキ
ふゆ ご
卵で冬越しし, 6 月にふ化
した幼虫は木の上で生活し,
8 月に成虫になります。オス
は「チン・チン・チン」と短
い羽をこすり合わせて鳴きま
すが,メスには羽がありませ
ん。秋になると昼間も鳴いて
▲カネタタキ
います。
クサヒバリ
しげ
林のふちの茂みから「フィ
リリリ」と聞こえてくればク
サヒバリです。夏は夜,秋に
は昼間も鳴いています。虫に
食われた葉の穴で鳴くことで,
声をより大きく共鳴させてい
るのかもしれません。
▲クサヒバリ
31
湖
西
連
峰
の
昆
虫
●バッタ,キリギリスの仲間
コバネイナゴ
しめ
水田や近くの湿った草地に
はイナゴがいます。羽が短い
のはコバネイナゴ,羽が長い
のはハネナガイナゴです。イ
つくだ に
ナゴの佃煮にされるのはコバ
ネイナゴが多いようです。
▲コバネイナゴ
ツチイナゴ
しげ
クズが茂った林や草地には
ツチイナゴがいます。体の中
央に白い毛の帯があります。
ふゆ ご
成虫で冬越しするので,春早
おそ
くから秋も遅くまで見られま
す。
ヤブキリ
▲ツチイナゴ
「ギー」の鳴き声が聞こえて
きますが,
「チョン」があり
ません。
「チョンギー」はキ
リギリス「チョン」なしがヤ
こんちゅう
ブキリです。肉食昆虫で,あ
しにある長くするどいトゲが
と
に
カゴになり捕らえた虫を逃が
しません。
▲ヤブキリ
32
●トンボの仲間
オオシオカラトンボ
樹林におおわれたハイキン
グコースは,夏でもあまり暑
さを感じません。ところどこ
ろに木もれ日がさしこんでい
る場所には,シオカラトンボ
よりもやや大きいオオシオカ
ラトンボがいます。
▲オオシオカラトンボ
オニヤンマ
7 ∼ 9 月のハイキングコー
スでは大きなトンボが行った
りきたりしています。オニヤ
ンマです。黒と黄色のしま模
様があり,目は緑色をしてい
さわ
ます。メスは沢の砂地に腹部
こ
さんらん
を差し込むように産卵します。▲オニヤンマ
オオアオイトトンボ
秋になって,林道沿いのや
や暗い所で見られるイトトン
ボはこのオオアオイトトンボ
です。アオイトトンボの仲間
はちょっと休むときには,羽
を半開きにします。
▲連結するオオアオイトトンボ
33
湖
西
連
峰
の
昆
虫
●アカトンボの仲間
マユタテアカネ
林の中の草などにとまって
いるアカトンボはマユタテア
カネです。顔に黒い点が 2 つ
まゆ
眉のように並んでいます。腹
部の赤いのがオス,黄色いの
がメスです。
▲マユタテアカネ
アキアカネ
う
か
アキアカネは 6 月ごろ羽化
しますが夏は見られません。
すず
夏は涼しい山地で過ごし,秋
に山から下りてくるのでアキ
アカネと呼ばれます。オスと
しめ
メスがつながったまま湿った
どろ
泥に産卵する「連結打でい産
卵」をします。
▲アキアカネ
ナツアカネ
ナツアカネは 6 月ごろ羽化
し,ハイキングコースでよく
見られます。秋になるとオス
は全身が真っ赤になります。
オスとメスがつながったまま
しっ ち
湿 地 の草の上から卵をまく
「連結打空産卵」をします。
34
▲ナツアカネ
●トンボに似た仲間
ツノトンボ
ツノトンボはウスバカゲロ
ウに似た仲間です。トンボの
しょっかく
名がありますが,触角が長く
羽を屋根型にたたんでとまる
こと,幼虫は水中ではなく陸
上で生活し,さなぎになるこ
とがトンボとの違いです。
▲ツノトンボ
ツノトンボの卵
こ さいれんぽう
湖西連峰にはツノトンボと
オオツノトンボの 2 種類がい
ます。ツノトンボは草原にい
て夜になると明かりによく飛
んできます。 8 ∼ 9 月に草の
くき
茎に,50個ちかい卵を 2 列に
産みます。
▲ツノトンボの卵
ツノトンボの幼虫
卵からふ化したばかりの幼
はな
虫は,ふ化場所を離れずにし
ばらくかたまっています。そ
の後,草の根ぎわや石の下な
こん
と
どに移動して,小昆虫を捕ら
えて食べます。
▲ツノトンボの幼虫
35
湖
西
連
峰
の
昆
虫
●アブの仲間
オオハナアブ
秋のハイキングコースを歩
みちばた
さ
いていくと,道端に咲いてい
る花の周りをアブが飛びま
わっています。キクの仲間に
多いのがオオハナアブです。
ハナアブ
▲オオハナアブ
3 月から11月まで,ほとん
ど一年じゅう見られます。幼
虫は長い呼吸管をもっていて
お すい
汚水の中で生活します。成虫
になると花に集まり,花粉を
なめます。一年に何回も卵→
く
幼虫→さなぎ→成虫を繰り返
します。
▲ハナアブ
ホソヒラタアブ
ハナアブと同じようにほと
んど一年じゅう見られます。
ハエやハナアブ類のオスとメ
スの見分け方は,複眼と複眼
の間が離れていればメス。複
眼と複眼がくっついていれば
オスです。観察してみてくだ
さい。
36
▲ホソヒラタアブ
●クモを観察しよう
キノボリトタテグモ
ハイキングコースのがけを
注意して見ると,コケをカミ
ソリでまるく切ったようなあ
とに気づきます。キノボリト
タテグモの巣です。虫が通る
とまるいドアのある巣から出
てきて虫をつかまえて食べます。 ▲キノボリトタテグモの巣
ジグモ
ハイキングコースを歩いて
いると,がけや大きな木の幹
よご
ふくろ
に細くて汚れた袋が縦にひっ
かかっているのが目につきま
す。ジグモの巣です。虫が袋
の上を歩くと中からかみつき,
ひきこんで食べてしまいます。
ゴミグモ
▲ジグモの巣
まるいクモの巣のまん中に,
だっ ぴ
脱皮がらや食べかすを捨てず
にそのままくっつけているた
め,ゴミだけついているよう
に見えます。しかし,よく見
ると色や形がゴミに似たクモ
がいてじっとえものを待って
います。
▲ゴミグモ
37
こ さいれんぽう
湖
西
連
峰
の
野
鳥
湖西連峰の野鳥
りゅう ちょう
はんしょく
湖西連峰には一年じゅうすむ留鳥,繁殖しにくる夏鳥,北国か
えっとう
ら越冬しにくる冬鳥が生息しますが,それ以外に注目されるのが
春と秋に通過していく鳥たちの動きです。そこで,(1)春から夏
わた
の鳥 (2)秋の渡りの鳥 (3)冬の鳥の 3 つに分けて解説します。
た
め とうげ
ほんざかとうげ
野鳥は多米峠から本坂峠まで足をのばすとさらに楽しめるでしょ
う。
(1)春から夏の鳥( 4 ∼ 6 月)
春は留鳥のウグイス,ホオジロ,メジロ,イカルなどのさえず
さか
ちゅう じゅん
りが盛んになります。 4 月中旬になると夏鳥が加わり,さらに北
の地方で繁殖する小鳥の一部が林で休んでいくので,オオルリ,
キビタキ,センダイムシクイ,コマドリなどのさえずりがあちこ
ちで聞かれることがよくあります。夏鳥の最終便は 5 月下旬のホ
お
ね
トトギスです。この時期の尾根歩きはさまざまなさえずりを楽し
めます。
オオルリ
繁殖期には木の
てっぺんや枝先で
さえずりますが,
と ちゅう
渡り途中のものは
目立たない所でさ
えずっています。
夏鳥。
▲オオルリ
38
キビタキ
渡り途中のものはあちこ
ちでさえずっていますが,
繁殖期には常緑広葉樹の暗
い林を好みます。渡り途中
のたくさんのさえずりは,
急に天候が悪化したような
ときがねらい目です。夏鳥。
▲キビタキ
サンショウクイ
とく
「ヒリリッ」という声が特
ちょう
こ つぶ
徴。
「サンショウは 小 粒 で
から
もヒリリと辛い」から名づ
けられました。最近ひどく
減少した鳥ですが,運がよ
いとまだこの声が聞かれま
す。夏鳥。
▲サンショウクイ
ウグイス
3 月から 8 月までさえず
りが聞かれます。姿はなか
なか見られませんが,ほと
んど全域で聞かれます。ほ
かの鳥がさえずらない時間
帯にもさえずってくれます。
留鳥。
▲ウグイス
39
湖
西
連
峰
の
野
鳥
メジロ
落葉広葉樹の明るい林で
張りのある声でさえずりま
はんしょく
す。繁殖期以外は「チー」
わた
と鳴き,秋の渡りには姿は
見えないのに上空からこの
声だけが聞こえてくること
たびどり
があります。留鳥・旅鳥。
▲メジロ
ホオジロ
繁殖期に木のてっぺんや
いっぴつけいじょうつかまつ
枝先で「一筆啓上仕る」な
どとさえずります。ほかの
季節にホオジロの仲間は
「チッ」と鳴きますが「チ
チッ」と「チ」を重ねて鳴
くのはホオジロだけです。
▲ホオジロ
留鳥。
イカル
口笛でまねのできる「キ
コキーコキー」などと鳴き
かいどり
ます。飼鳥のブンチョウの
ような体つきで,黄色の太
とくちょう
いくちばしが特徴です。冬
にはヤマハゼやヌルデの木
▲イカル
40
に集まります。留鳥。
げ じゅん
(2)秋の渡りの鳥( 9 月下旬∼11月)
こ さいれんぽう
湖西連峰よりも北の地方で繁殖を終えた夏鳥や一部留鳥といわ
えっとう
れる鳥たちが,越冬地に向けて日本列島を北から南,東から西へ
ぞくぞくと渡っていきます。この渡りの早いものは 8 月に始まり
ますが,最も目につくのが10月から11月にかけての期間です。こ
お
ね
の時期南北に長い尾根の上空を東から西へ横切っていきます。多
くの鳥は夜に渡りますが,ハイキング中に私たちの目につくのは
昼間群れで渡る鳥たちです。
もうきんるい
9 月下旬から10月上旬にかけては猛禽類のサシバやハチクマが
主役です。10月下旬から11月にかけてはヒヨドリ,メジロ,カワ
ラヒワなどの数十羽の群れがいくつも通っていきます。そのほか
に時期は前後しますが,ツバメ類,アマツバメ類,ツグミ類,セ
キレイ類なども小さな群れや 1 羽で渡っていきます。昼間渡る小
鳥類の多くは早朝に渡ります。
▲群れで渡るヒヨドリ
41
湖
西
連
峰
の
野
鳥
わた
タカ類の渡り はま な
こ
お
ね
じょう
浜名湖の上空を飛んできたタカの仲間は,尾根付近に生じる上
しょう
昇気流に集まり,羽ばたかずに円を描きながらだんだん高く上り
い
ら
ご みさき
伊良湖岬に向かって流れるように飛んでいきます。多いときには
1 時間くらいの間に数百羽になることもあります。ほとんどがサ
シバでハチクマなどが少数まじります。サシバはカラスよりやや
小さいくらい。ハチクマはトビより小さめです。このほかにオオ
タカ,ハイタカ,ツミ,ノスリ,ミサゴ,ハヤブサ,チゴハヤブ
げ じゅん
サなどがいます。サシバとハチクマは 9 月下旬から10月上旬の間
にほとんど渡ってしまいます。ツミやノスリは数は少ないですが
10月下旬以降がピークになります。
小鳥類の渡りがおもに早朝に集中しますが,タカ類の渡りの一
日の時間帯は特に決まっていません。ですから,ハイキング中に
必ず見られるというものでもないし,ふっと見上げた頭上に何十
羽ものサシバが円を描いているということもあります。
▲サシバ
42
▲ハチクマ
ノスリ
トビより小さく白っぽい
はば
お
タカ。つばさの幅が広く尾
せん す
も広げると扇子のように丸
とくちょう
い感じになるのが特徴です。
お
ね
秋から冬に尾根歩きで最も
よく目にするタカです。旅
鳥・冬鳥。
▲ノスリ
ツミ
ハトより小さめの最も小
さなタカです。自分より大
きなタカが飛んでいると必
つ
か
ずといっていいほど突っ掛
かっていくのが見られます。
小さいのに性質はきついよ
うです。旅鳥。
▲ツミ
トビ
飛んでいる姿が大きく体
全体が黒っぽく見えること
せんたん
と尾は広げても両先端が角
張って見えることがほかの
タカと違うところです。こ
れがほかのタカを見分ける
ポイントになります。留鳥。
▲トビ
43
湖
西
連
峰
の
野
鳥
(3)冬の鳥(12∼ 3 月)
ころ
10月20日頃には最も早い冬鳥のジョウビタキがきます。11月に
わた
入るとアオジ,ツグミなど次々と渡ってきますが,冬にここで生
活するものが全部そろうのは12月に入った頃のようです。冬の林
は初夏の頃と違ってさえずるものもなくひっそりとしています。
す
じ
な
それでも耳を澄ますと,落ち葉をどけるカサコソという音や地鳴
たよ
きという小さな声を頼りに探すことができます。
留鳥の仲間もほかのシーズンよりも目につきやすくなります。
木の葉が落ちて見やすくなるばかりでなく,数が増えたり群れで
行動するようになるからです。その代表的なのがシジュウカラ,
ヤマガラ,エナガなどで,多いときには30∼40羽の群れになり,
ときにはウグイス,コゲラ,メジロなどが混じることもあります。
けいかい
お
ね
警戒心が少なく,尾根道で群れに囲まれて感動することもありま
す。「ジュクジュク」という声はシジュウカラ,「ニーニー」はヤ
マガラ,「ジュリジュリ」はエナガ,「ギー」はコゲラ。声だけで
も種類がわかって楽しいです。
▲シジュウカラ
44
▲ヤマガラ
アオジ
みちばた
道端の草の中や林の中な
どに普通にいる種類です。
「チッ」「チ ッ」と 一 声 ず
つ 鳴 き ま す。地 面 か ら
「チッ」といって黄緑色の
小鳥が飛び立ったら,アオ
ジです。冬鳥。
▲アオジ
カシラダカ
林のへりのような明るい
ところを好み,数羽で群れ
ていることが多いです。カ
シラ(頭)の後ろの羽が少
しタカ(高)く立っている
とくちょう
のが特徴で,この名がつい
ています。冬鳥。
▲カシラダカ
ウソ
オスは灰色の体で頭が黒
く,ほおとのどが赤いのが
特徴です。メスは全体に茶
色味があります。どちらも
こし
飛ぶと腰の白が目立ちます。
かた
木の枝先でまだ堅い芽やつ
ぼみを食べます。冬鳥。
▲ウソ
45
湖
西
連
峰
の
野
鳥
ジョウビタキ
目につきやすいところに
けいかい
とまり,あまり人を警戒し
ません。背中の白い大きな
はんてん
斑点が見分けるポイントで
す。テリトリーをしっかり
もって 1 羽で暮らしていま
す。冬鳥。
▲ジョウビタキ
ルリビタキ
林のへりにもいますが,
ジョウビタキより林の中の
うすぐら
薄暗いところを好みます。
お
メスはオリーブ色で,尾に
青みがあります。
「ヒッ ヒッ」という声で鳴きます。
冬鳥。
▲ルリビタキ
ツグミ
わた
11月の初めに渡ってきて
おそ
いましたが,最近は遅くく
けいこう
る傾向があります。群れで
渡ってきますが,そのうち
1 羽で暮らします。
「クィッ
クィッ」と二声ずつ鳴くの
とくちょう
が特徴です。冬鳥。
▲ツグミ
46
シロハラ
おもに林の地上でえさを
とる習性があり,静かな林
の中でカサコソと落ち葉を
どけながら虫やミミズなど
を探しています。飛んで逃
お ばね
げるときに尾羽の両側の先
が白いのが特徴です。冬鳥。
▲シロハラ
アカハラ
かんきょう
シロハラと同じ環境にす
んでよく似ていますが,飛
んだときに尾の先が白くな
いのが特徴です。冬になっ
てしばらくヤマハゼやヌル
デの実が残っている間はよ
く食べにきます。冬鳥。
▲アカハラ
トラツグミ
暗い林を好み,落ち葉を
どけてミミズを探してえさ
にしています。 3 月末から
4 月初めに「ヒー ヒョー」
と,気味の悪い声で鳴きま
す。黄色と黒のトラの模様
に似ています。冬鳥。
▲トラツグミ
47
MEMO
48
富士山憲章 (平成10年11月18日制定)
(行動規範)
めぐ
富士山の自然を学び,親しみ,豊かな恵みに感謝しよう。
はぐく
富士山の美しい自然を大切に守り,豊かな文化を育もう。
かんきょう
ふ
か
きょうせい
はか
富士山の自然環境への負荷を減らし,人との共生を図ろう。
富士山の環境保全のために,一人ひとりが積極的に行動しよう。
けいしょう
富士山の自然,景観,歴史・文化を後世に末長く継承しよう。
静岡県・山梨県
◇著 者 (この本をつくったみなさん)
植物 内藤宇佐彦(湖西市:遠州自然研究会)
昆虫 細田 昭博(浜松市:遠州自然研究会)
野鳥 北川 捷康(浜北市:遠州自然研究会)
◇写真協力 佐藤 旬一(P.39 キビタキ)
※この本は古紙100%配合の
再生紙を使用しています。
静
岡
県
自
然
観
察
ガ
イ
ド
ブ
ッ
ク
3
⃝
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既刊好評発売中!
1 引佐渋川
⃝
1
1
⃝
2 浜北森林公園
⃝
12 御前崎海岸
⃝
22 浜名湖
⃝
3 天城峠とその周辺
⃝
13 安倍峠
⃝
23 朝霧高原
⃝
4 大井川河口
⃝
14 寸又峡
⃝
24 谷津山
⃝
5 佐鳴湖
⃝
15 水窪自然林
⃝
25 富士山東麓
⃝
6 城ヶ崎海岸
⃝
16 愛鷹山麓とその周辺
⃝
26 つたの細道
⃝
7 丸火自然公園
⃝
17 西伊豆の自然
⃝
27 中田島砂丘
⃝
8
⃝
18
⃝
28 河津七滝
⃝
県民の森
伊豆須崎
桶ヶ谷沼
21 函南原生林
⃝
9 岩岳山
⃝
19 小笠山
⃝
29 高根山
⃝
10 日本平
⃝
20 三保と久能山
⃝
30 湖西連峰
⃝
湖
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表紙写真:クロバイ
自然観察ガイドブック^
湖西連峰
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(本体286円+税)
■企画編集■
静岡県 環境森林部地球環境室
TEL. 054-221-3781
(社)静岡県出版文化会
〒420-0856 静岡市駿府町1-12 県教育会館2F
TEL. 054-255-4451
(代) FAX. 054-254-5779
■著 作■
遠州自然研究会
■制作発行■
(株)静岡教育出版社
〒422-8006 静岡市曲金5-5-38
TEL. 054-28
1-8870
(代) FAX. 054-286-659
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