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湖西連峰 - 静岡県
湖 西 連 峰 静岡 観察ガイ ド 自然 県 30 ク ブッ 静 岡 県 自 然 観 察 ガ イ ド ブ ッ ク 0 ⃝ 湖西連峰 KOSAI-RENPOU 自然保護憲章 (昭和49年6月5日制定) 自然をとうとび,自然を愛し,自然に親しもう。 自然に学び,自然の調和をそこなわないようにしよう。 美しい自然,大切な自然を永く子孫に伝えよう。 出かける前に 大きな声を出さないで,静かに観察しましょう。 生きものはとらないで,観察のために必要なときは,観察が 終わったらもとの場所にかえしましょう。 危険な場所,危険な生きものには注意しましょう。 ごみは出さないようにし,もし出したら持ち帰りましょう。 たき火をしたり,タバコを吸いながら観察したりすることは やめましょう。 自然観察の持ち物 自然観察の服装 ぼう し リュックサック フィールドノート 手ぶくろ とえんぴつ 帽子 すいとう 長そで シャツ お弁当 雨具 水筒 〈あると便利なもの〉 ゆったりした 長ズボン ず かん そうがんきょう 双眼鏡 運動ぐつ または長ぐつ 地図 ルーペ ビニールぶくろ 図鑑 巻尺 1 富士見台 415m 石巻分岐 一本杉 4 多米峠 豊橋へ 1km 15分 265m 県道豊橋大知波線 WC 2km 40分 観察地③ 4km 1時間 雨やどり岩 神石山 324m 知波田駅 観察地② 2km 40分 ラクダ岩 1km 20分 仏岩 214m 観察地① 梅田峠 登山口 新池 WC トキワマンサク自生地 334 嵩山 摩利支天 道 鉄 170.4m 駐車場 湖 名 入口 県道太田中原線 浜 竜 天 1km 20分 301 新所 1.5km 20分 線 330 の岡 新 県道 豊橋へ 新所原駅 0 2 500 1000m 日 所原 東海道本線 浜 名 湖 交 通 案 内 愛 知 県 天竜市 新城市 引佐町 引佐郡 三ヶ日町 三ヶ日I.C 浜北市 細江町 豊 橋 市 浜松西I.C 東名高速道路 浜名湖 湖西市 新所原 1 東海 道新 幹 線 東 海 道 本 線 浜松I.C 浜松市 浜名郡 浜松 新居町 1 浜名バイパス 遠州灘 しんじょはら ●電車で ・JR新所原駅下車 うめ だ 梅田ハイキングコース入口まで徒歩20分 てんりゅうはま な こ ち ば た ・天竜浜名湖鉄道知波田駅下車 た め とうげ 多米峠登り口まで徒歩約1時間 ●自家用車で ・東名三ヶ日インターから約40分(ハイキングコース入口) ・JR新所原駅から約5分 (ハイキングコース入口) 3 こ さいれんぽう 湖西連峰 湖 西 連 峰 ▲浜名湖から湖西連峰を望む はま な こ こ さい みっ か び 湖西連峰は浜名湖の西方に位置し,湖西市から三ヶ日町にかけ そうしょう うめ だ なんたん す やま て連なる山々の総称です。湖西市梅田を南端とし,嵩山(170.4m) かみいしやま た め とうげ ほんざかとうげ ぼう みね 神石山(324m),多米峠(265m),本坂峠(320m),坊ヶ峰(446 ひ かく お ね あい ち けんきょう m)と比較的低い山々が連なり,その尾根は愛知県との県境になっ はま な こ ています。また,自然もよく残され,浜名湖県立自然公園の一部 に指定されています。 尾根からは,浜名湖や,遠くに富士山や南アルプスも望まれ, み かわ わん ちょうぼう 西に三河平野や三河湾が見え,眺望がよいことから,昔からハイ キングコースとして人気があります。また,周辺には,県指定の ま り し てん ふ どう たき おお ち ば 天然記念物トキワマンサク群生地,摩利支天,不動の滝,大知波 はい じ 廃寺など,見どころも多くあります。 ちち ぶ こ せいそう 湖西連峰は老年期の山地で,秩父古生層と呼ばれる地層から成 っています。大知波などにはマンガン鉱が知られ,三ヶ日町の本 せっかいがん きわ 坂峠付近やその北部には石灰岩が分布しています。気候も極めて 4 とくちょう は 温暖で,その特徴が,生えている植物にもあらわれています。 シイやカシ類を中心とした林やヤブツバキ林が発達し,その林 しげ さんぷく 下にはウラジロやコシダが茂っています。山腹や谷間には,ヤマ ビワ・トキワガキなどの樹木やカギカズラ・ハスノハカズラ・シ タキソウなどのつる植物,ナチシダ・ナチクジャクなどのシダ植 物が見られます。一方で,マンサク・コブシ・ミヤマシキミ・ヒ メシャラ・ウラジロノキなど山地性の樹木も見られます。これは ざん 古い地層のため,今より気温の低いときに生育していたものが残 ぞん 存したものと考えられます。 しっ ち しょく ちゅう しょくぶつ かつては山すそに湿地が点在し,食虫植物などたくさんの湿地 性植物が見られたのですが,残念なことに,今ではほとんどの湿 地が消失し,これらの植物もほとんど見られなくなってしまいま した。 とくひつ じ せい この付近で特筆すべきものに,トキワマンサクの自生がありま み え くまもと す。この植物は,湖西市のほかに国内では三重県・熊本県にしか げ じゅん 分布しない貴重な樹木で, 4 月下旬∼ 5 月上旬にかけてクリーム さ 色の花を咲かせます。自生地は県天然記念物に指定されています。 こんちゅう このほか,野鳥や昆虫も多く,自然観察の適地といえます。 ▲ハイキングコース ▲トキワマンサク 5 観察地 1 観 察 地 1 ⃝ す やま 入口から嵩山 入 口 か ら 嵩 山 かん ざ はま な ▲神座から嵩山を望む こ さい れん ぽう こ ▲山頂から浜名湖を望む はし 嵩山は 湖 西 連 峰 の南東の 端 に位置する標高170.4mの小高い山 なが えんすいけい です。眺める位置によってその姿を変えますが,円錐形の女性的 とくちょう な美しい姿が特徴的です。嵩山へはハイキングコース登り口から うめ だ とうげ じょうはいすい 梅田峠を東に曲がり山頂に至るコースと,湖西工業用水道浄配水 じょう 場の裏を東に進み,山腹を南から北にまいて梅田峠を経て山頂に 至るコースがあります。 ●道沿いの植物 ハイキングコース登り口付近にはクロガネモチが見られます。 はだ 秋から冬にかけてたくさんつけた赤い実が目立ちます。木の肌は 白っぽくなめらかです。コースは梅田峠に向かってやや広い道が なだらかに登っています。道沿いに歩いて行くと,シイ,ヒサカ キ,ソヨゴ,ネジキ,コナラ,コシダ,ウラジロ,カクレミノ, ササクサなどが見られます。 最初の曲がり角付近にはカギカズラが見られます。 6 ▲クロガネモチ(果実) き はだ ▲クロガネモチ(木肌) カギカズラ たいせい 常緑性のつる植物で, 2 枚の対生する葉のわきに下向きのかぎ くき 状のとげがあります。このとげでほかの植物にまとわりつき,茎 の ころ さ を伸ばしていきます。暖かい地方に多い植物で,花は 7 月頃咲き ます。 ・・ ▲カギカズラ(葉ととげ) ▲カギカズラ(花) 少し進むと,ヒサカキの枝にヒノキバヤドリギが寄生している のが観察されます。 7 観 察 地 1 ⃝ 入 口 か ら 嵩 山 ヒノキバヤドリギ つぶ じょう 葉 は 退 化 し て,小 さ な 粒 状 と ふし たいせい なって節に対生しています。体に ある葉緑体でも光合成をしますが, 寄生している植物の組織のなかに の 根を伸ばし,水や養分を吸収して 生活しています。 ▲ヒノキバヤドリギ さらに,ヒサカキ,リョウブ,ヤマザクラ,ネズミモチ,クロ バイ,ニガイチゴ,アラカシ,カクレミノ,クスなどを観察しな うめ だ とうげ がら登るとほどなく梅田峠です。峠の手前のがけ地にはホラシノ ブが見られます。 ホラシノブ 常緑性のシダ植物ですが,ここ では冬場になると赤く色づきます。 す やま ここから,右に曲がると嵩山山 頂への道となります。道沿いには カゴノキ,アベマキ,コナラ,ク ▲ホラシノブ リ,サカキ,ヒメシャラ,サカキカズラ, サルトリイバラなどが見られます。 サカキカズラ 常緑性のつる植物で暖かい地方の海岸 ちゅう に近い山や林に見られます。花は 5 月中 じゅんころ さ 旬頃咲き,花のあとには, 2 個の大きな 果実をつけます。種子は白く長い毛をつ け,風でとばされます。 8 ▲サカキカズラ お ね 少し進むと,尾根すじの道となります。山頂に向かって,ミツ バツツジ,リョウブ,ヤブコウジ,コウヤボウキ,モチツツジ, ヒイラギ,ソヨゴ,クチナシ,ヒトツバ,ヒノキバヤドリギ,マ ンサク,ネジキなどが見られます。 ミツバツツジ 3 枚の葉をつけ,花は早春に さ 葉の展開に先立って咲きます。 葉には毛がなく,おしべの数は 5 本です。 ▲ミツバツツジ ヒトツバ 常緑性のシダ植物で,葉の裏 ほう し に胞子をつけますが,胞子をつ ける葉とつけない葉があります。 かわ いわ ば 暖かい地方の乾いた岩場に群生 します。このハイキングコース でもよく見られます。 ▲ヒトツバ クチナシ ていぼく しずおか 常緑性の低木で,静岡県より は 西の暖かい地方に生えます。花 は 6 ∼ 7 月頃咲き,白色で大き かお く,よい香りがします。果実は 黄赤色で黄色の染料となります。 こ さい 湖西市の花に指定されています。 ▲クチナシ(果実) 9 観 察 地 1 ⃝ 入 口 か ら 嵩 山 す やま うら て 嵩山周回コースは工業用水裏手を東進します。ソヨゴ,クロバ イ,クリ,コナラ,ヒサカキ,ヤマモモ,ミツバアケビ,ネジキ, マルバアオダモ,スギなどが見られます。 ソヨゴ し ゆう い しゅ 常緑性の樹木で,雌雄異株。 ころ 6 月頃に小さな目立たない花を つけます。秋には丸い果実が赤 わ めい く熟します。和名はそよぐの意 ふ 味で,葉が風に吹かれて音がす ることからこの名がつけられま ▲ソヨゴ した。 クロバイ こうぼく こ さいれんぽう 常緑性の高木で湖西連峰には 多い木です。 5 月頃に白い花を たくさんつけ,遠くからでも目 立ちます。暖かい地方に多い木 こっかっしょく です。幹は黒褐色です。 ▲クロバイ さらに進むとアラカシ,アベマキ,ヤマザクラ,シイ,カクレ ミノ,リョウブ,ネジキ,フモトスミレ,ガマズミ,ヤブニッケ イ,サカキ,ミズスギ,コシダなどが見られます。 ひがしはし ま り し てん ぶん き 東端あたりで摩利支天へ下る道が分岐します。ここを下りずに 進むと,リョウブ,コナラ,ネジキ,モチツツジ,ソヨゴ,ウラ ジロ,ネズミモチ,クロガネモチなどが見られます。シイやウラ とくちょう ジロガシの大木が多く見られることも特徴の 1 つです。 10 ● 比べてみよう(ウラジロとコシダ) ▲ウラジロ ▲コシダ ウラジロとコシダはともに常緑性のシダ植物です。暖かい地方 は に多く生え,ここでもいたる所で見られます。生えている場所を しゃめん ひ かげ 観察しましょう。ウラジロは林の下や,北側斜面などの日陰に多 かわ く,コシダは乾いた日当たりのよい場所で多く見られます。 ウラジロ う へん つい 名前のように葉の裏が白く, 2 枚の葉(羽片)が 1 か所から対 になって出ます。羽片は何段にも重なり,1m∼ 3 m近くになり ます。1年に 1 段ずつ成長するので,何年たっているのかを知る かざ ことができます。正月飾りとしてもなじみが深い植物です。 コシダ ふた また ぶん き つ ね 名前のようにウラジロに比べ小さく,二 又 分 岐 の 付 け 根 に葉 かざ (羽片)と同じような飾り羽片がつきます。羽片はそこから二又 く はま な こ に分岐し,それを数回繰り返し,横に広がります。浜名湖では束 ねて海にしずめてエビなどを採ることに利用されることがありま す。 11 観 察 地 1 ⃝ 入 口 か ら 嵩 山 ● 比べてみよう(落葉広葉樹) コナラ・クリ・アベマキ に じ りん コナラ,クリ,アベマキはこの地域の二次林を構成する代表的 ばっさい な樹木です。二次林とは自然林の伐採や消失のあと二次的に生育 している林のことをいいます。また,ドングリのなる木でもあり ます。ここではいたる所で見られますので,比べて見ましょう。 (1)落ち葉 ひ かく ▲冬の二次林内 ▲葉の比較 左からコナラ,クリ,アベマキです。コナラは,葉の形がいび らんけい きょ し するど つな卵形で,鋸歯(葉のふちのぎざぎざ)が鋭くあらくて,葉の うら かいはくしょく ちょう だ えんけい 裏は灰白色です。クリは,葉の形が長楕円形で,鋸歯は鋭くて先 のぎじょう はり とっ き あわ が短い芒状(針のような突起)になります。裏は淡い緑色です。 はば アベマキの葉の形はクリにやや似ていますが,それよりも幅が広 き ぶ く,葉の基部が丸くなります。鋸歯(葉のふちのぎざぎざ)は波 みっせい 状で芒(針のような突起)がでます。裏は灰白色で毛が密生しま す。これはクヌギとの大きな違いです。 12 (2)果実(ドングリ) 同じく左からコナラ,クリ, とく アベマキです。この仲間の特 ちょう かく 徴は,果実(どんぐり)が殻 と から がい ひ 斗と呼ばれる殻(外皮)で包 まれていることです。クリの イガがそれです。 クリは全体を包みこみ,コナラやアベマキでは一部を包みます。 ぼう し コナラの殻斗は帽子のようで,表面をよく見るとウロコのような 模様になっています。アベマキの殻斗は深い皿状で,細長いもの りんぺん (鱗片)がたくさん出ています。 き はだ (3)木肌 ▲コナラ ▲クリ ▲アベマキ かいはくしょく コナラは灰白色で縦に不規則な割れ目がはいります。クリは灰 はいかっ 黒色または灰色で,やや深く縦に長く割れます。アベマキは灰褐 しょく そう ひ かく 色で縦に不規則に割れ,コルク層が比較的よく発達します。 13 観 察 地 2 ⃝ 梅 田 峠 か ら 神 石 山 うめ だ とうげ 観察地 2 かみいしやま 梅田峠から神石山 ハイキングコースは梅田峠を西 に向かいます。ここからは本格的 お ね な山道らしい道になります。尾根 く すじの道で,アップダウンを繰り ほとけいわ 返しながら高さを増し,仏岩(214 m),ラクダ岩を経て,神石山(324 m)に至ります。約 3 ㎞ 1 時間の ▲仏岩付近 行程です。 ●道沿いの植物 仏岩の手前まではなだらかな登りで,ヒサカキ,ネズミモチ, リョウブ,コナラ,シイ,ヤマモモ,ソヨゴ,カクレミノ,サカ キ,クロバイ,アベマキ,シロダモ,コウヤボウキ,ススキ,マ キノスミレ,ササクサ,ミツバアケビなどが見られます。 ヒサカキ ていぼく 常緑の低木で, 3 ∼ 4 月に白色 たんおう さ し こく や淡黄色の花が咲き,秋に紫黒色 め ばな お ばな の実が熟します。花は雌花と雄花 があり,雌花のほうが小さいです。 ときに雌しべと雄しべのある花も みつかります。地元ではヒシャ シャキと呼んで仏様に供えること があります。 14 ▲ヒサカキ ▲サカキ(花) ▲サカキ(冬芽) サカキ しょうこうぼく くろむらさき 常緑の小高木で, 6 ∼ 7 月に白い花が咲き,秋に球形で黒紫色 せんたん ふゆ め の実がつきます。若枝の先端の冬芽はとがって,かぎ状に曲がっ しん じ ています。この木は神社に植えられたりして,木の枝は神事に用 いられます。 マキノスミレ スミレの仲間で,葉は細長く きょ し てとがり,低い鋸歯(葉のふち のぎざぎざ)があります。花は べにむらさき 4 ∼ 5 月に咲き,紅紫色です。 こ さいれんぽう みち 湖西連峰では日当たりのよい道 ばた 端や明るい林下で見られます。 ▲マキノスミレ 仏岩付近は急な登りや下りで,頂上付近やそれを過ぎたあたり ろ しゅつ では岩が露出しているところがあります。この付近では,アセビ ヤマザクラ,ウラジロガシ,マンリョウ,モッコク,ヒトツバ, シイ,モチツツジ,マンサク,ネジキ,ウラジロノキ,ナツハゼ, ヤマツツジ類などが見られます。 15 観 察 地 2 ⃝ 梅 田 峠 か ら 神 石 山 マンリョウ ていぼく さ 常緑の低木で花は 7 月に咲き, せんこう 白色です。秋から冬にかけ鮮紅色 の球形の実が熟します。この実の えん ぎ 美しさと万両という縁起のよい名 さいばい 前から,昔からよく栽培されます。 ▲マンリョウ モッコク こうぼく 常緑の高木で葉は厚く,先が丸 きょ し くなっていて,鋸歯(葉のふちの ぎざぎざ)がありません。花は 6 にわ き ∼ 7 月に咲き白色です。庭木とし てもよく植えられます。 ▲モッコク モチツツジ わか め 半常緑の低木です。若芽・がく へん せんもう 片や葉に腺毛(ねばねばした液を 出す毛)がはえていて,ねばるの でその名前がついたといわれます。 べにむらさき 花は紅紫色で 4 ∼ 5 月に咲きます。 ▲モチツツジ マンサク 落葉低木あるいは高木です。花 ころ は早春(ここでは 2 月頃)葉が出 る前に咲きます。花びらは黄色で 4 枚,リボン状です。 ▲マンサク 16 ウラジロノキ 落葉低木で,葉の裏には密に白い わた げ 綿毛がはえています。名前の通りで す。花は 5 月に咲き,小さな白い花 が枝先に密集してつきます。 ▲ウラジロノキ ここから少し進むとラクダ岩です。このあたりまでにはミツバ ツツジ,クスノキ,アカガシ,サカキ,アラカシ,シイ,コナラ, カクレミノ,ミヤマシキミなどが見られます。 ミヤマシキミ お ね 常緑低木で,ここでは尾根すじの 林で点々と見られます。 4 ∼ 5 月に 小さな白い花を咲かせます。秋から 冬にかけては赤い実が熟します。 ▲ミヤマシキミ かみいしやま ラクダ岩を過ぎて少し進むと神石山までは急な登りが続きます。 このあたりはアカガシやアラカシとシイが密生し,林の中は昼間 うすぐら でも薄暗いほどです。神石山の頂上ではアカガシ,イチイガシ, シイ,ヒメバライチゴ,コウヤボウキ,ヒトツバ,リンボクなど が見られます。 リンボク 常緑小高木で葉は細長く若い木で するど きょ し は鋭い鋸歯(葉のふちのぎざぎざ) がありますが,老木ではなめらかに なります。 9 ∼10月に小さな白い花 ほ をたくさん穂のようにつけます。暖 ▲リンボク かい地方に多い木です。 17 観 察 地 2 ⃝ 梅 田 峠 か ら 神 石 山 ●比べてみよう(常緑広葉樹)① シイ・カシ類 シイやカシ類はこの地域の 自然林を構成する代表的な樹 こ さいれんぽう 木です。湖西連峰では森林の せん い 遷移(うつりかわり)が進み いたるところで見られるよう になりました。 ▲シイ・カシ林 (1)葉っぱを比べてみよう ▲カシ① ▲カシ② カシ ①では左からウラジロガシ,アカガシ,アラカシです。葉 の の形はウラジロガシでは細長く先がしっぽのように長く伸びます。 きょ し するど 鋸歯(葉のふちのぎざぎざ)はウラジロガシでは鋭く,アラカシ ではあらく目立ちます。アカガシでは見られず,なめらかです。 葉の裏はウラジロガシではろう白色で,アラカシは灰色で,アカ え ガシではうす緑色です。葉の柄はアカガシでは 2 ㎝にもなります。 ひ かく カシ ②の右側がイチイガシです。アラカシと比較しています。 せいじょうもう 葉の半分以上に鋭い鋸歯があり,裏は星状毛(星の形をした毛) みっせい が密生します。湖西連峰ではまれにしか見られません。 18 右がシイの葉です。先がしっぽの の ように伸び上半分に鋸歯があります。 りんじょう 裏は細かい鱗状(うろこのような状 態)の毛が密生します。この地方で はスダジイとツブラジイが見られま すが,この本ではシイとしておきま す。 (2)果実(ドングリ) 左からアラカシ,アカガシ, シイ(ツブラジイ)です。シイ かく と がい ひ から は殻斗(果実を包む外皮・殻) がドングリを包みこみ,ほかの ぼう し カシ類は帽子のようになります。 その帽子には輪の模様がはいり ます。 き はだ (3)木肌 ▲ウラジロガシ ▲アカガシ ▲アラカシ ▲シイ ウラジロガシは灰色∼灰黒色でなめらかです。アカガシは緑灰 黒色であつく割れ目がはいります。アラカシは暗灰色でざらつき, シイ(スダジイ)は黒灰色,なめらかで,縦に割れ目がはいりま す。 19 神 石 山 か ら 多 米 峠 かみいしやま 観察地 3 観 察 地 3 ⃝ た め とうげ 神石山から多米峠 お ね 神石山からも尾根すじのコ ースが続きます。ところどこ とよはし ろで,視界が開け,西に豊橋 み かわわん はま な こ 市街や三河湾,東に浜名湖や ちょうぼう 富士山が望まれ,眺望を楽し むことができます。アップダ く ウンを繰り返し40分ほどで多 米峠に至ります。 ▲雨やどり岩 ●道沿いの植物 雨やどり岩まではヒイラギ,ミツバツツジ,モチツツジ,ヤブ ツバキ,リョウブ,シロダモ,イヌツゲ,イボタノキなどの樹木 や林の下ではフタリシズカ,シモバシラ,ヤブラン,草地ではヤ マハッカ,ヒオウギ,オカトラノオ,ノコンギクなどの草花も楽 しむことができます。 フタリシズカ 多年草で,葉は普通 2 対が たいせい 対生します。花は 5 月, 2 本 ほ さ 程度の穂に咲きます。名前は ふたり しずか しずか ご ぜん まい 二人静で,静御前の舞にたと えていいます。 ▲フタリシズカ 20 シモバシラ くき 多年草で,茎は四角で葉は対生 します。花は白色で 9 ∼10月に咲 か きます。冬,枯れた茎の根元から しもばしら ひょう ちゅう 霜柱のような氷柱ができる特性が あることからこの名がつけられま した。 ヒイラギ ▲シモバシラ こうぼく 常緑の高木で,葉のふちは若い 木では大きなとげとなりますが, 古い木ではとげがなくなり丸くな ります。11∼12月に白い花を咲か こ さいれんぽう お ね せます。湖西連峰の尾根すじには 古木が点々と見られます。 ▲ヒイラギ ヒオウギ 茎の高さ60∼100㎝になる多年 つるぎ 草で,葉は広い剣状でその並び方 ひ おうぎ が檜扇に似ていることからこの名 がつけられました。花は 8 月に咲 こうたく き,種子は黒く光沢があり,ぬば 玉と呼ばれます。 ▲ヒオウギ 雨やどり岩ではシダ植物のマメヅタ,ヒトツバ,ホソバカナワ ラビなどが観察されます。 21 観 察 地 3 ⃝ 神 石 山 か ら 多 米 峠 た め とうげ 多米峠まではイヌツゲ,ヒイラギの大木やコマユミ,イボタノ キ,ヤブツバキ,コナラ,シャシャンボ,ヤブツバキ,ヤブニッ ケイ,ミツバツツジ,アオキ,ネズミモチ,ソヨゴ,などの樹木 やツルグミ,ムベ,テイカカズラ,サネカズラなどのつる植物, オケラ,ササユリ,シソバタツナミ,リュウノウギク,ツルリン ドウなどの草花など,多くの植物が観察されます。 ササユリ ごろ さ 多年草で,白い大きな花が 6 月頃咲きます。 葉がササの葉に似ていることからこの名がつ けられました。 ヤブツバキ こうぼく のうりょく しょく 常緑の高木で葉の表面は濃緑色 ▲ササユリ こうたく で光沢があり, 2 ∼ 4 月に赤い花 しょうよう を咲かせます。照葉樹林を代表す こ さいれんぽう る樹木で,湖西連峰では多く,そ の群落も知られています。 ムベ ▲ヤブツバキ アケビの仲間ですが常緑性で, あん し しょく 秋に暗紫色に熟す果実は割れませ ん。その果実は食べられ,アケビ よりおいしいです。花は 4 ∼ 5 月 に咲きます。地元ではモクツウあ るいはモックウなどと呼ばれます。 ▲ムベ 22 とよはし おお ち ば せん 多米峠を東に下りると県道豊橋−大知波線に至ります。このあ たりでは,カゴノキ,シイ,クスノキ,タブノキ,ヤブツバキな どの照葉樹林が発達し,カンザブロウノキも見られます。一方で しっ ち ヒメシャラ,コブシなど山地性の樹木が見られます。また,湿地 ではハンカイソウなどを見ることができます。 ▲ヒメシャラ(花) ヒメシャラ 落葉高木で,木の幹はすべすべした赤茶 色です。一名サルスベリとも呼ばれます。 ▲ヒメシャラ(幹) 花は白色で 6 月頃に咲きます。 コブシ 落葉高木で, 3 月末頃白い目立 つ花が咲きます。花の下には小さ ともな い 1 枚の葉を伴います。 ▲コブシ ハンカイソウ 60−100㎝になる多年草で, 6 月頃に黄色の花が咲きます。根元 え から出る葉には長い柄があり,手 のひらのような形をしています。 ▲ハンカイソウ 23 観 察 地 3 ⃝ 神 石 山 か ら 多 米 峠 ● 比べてみよう(常緑広葉樹)② クスノキの仲間 シイやカシ類とともにこの地域の自然林(常緑広葉樹林)を構 成するおもな樹木です。 葉っぱで比べてみよう ① ② ①は左からクスノキ,ヤブニッケイ,シロダモ,②は同様に, タブノキ,カゴノキです。 ようみゃく ちゅう みゃく ①の植物はどれも 3 本の葉脈(真ん中の中脈とそのわきの対の そくみゃく らんけい 側脈)が目立ちます。クスノキの葉の形は卵形で,ほかの 2 つの だ えんけい 楕円形の葉と区別されます。葉の裏はクスノキとヤブニッケイは 黄緑色ですが,シロダモでは白くなっています。シロダモの葉の 裏をよく観察すると細い毛がはえているのがわかります。ほかの 2 つの植物は毛がはえていません。 う じょう みゃく ②の植物の葉脈は 羽 状 脈 といって,鳥の羽のような葉の脈に なっています。カゴノキはタブノキのよりやや小さく,細長い感 じがします。また,葉の質はタブノキのほうが厚い感じがします。 24 ▲クスノキの葉の拡大 ▲クスノキの木肌 もと クスノキの葉の基をさらによく観察しましょう。 3 行する脈の 付け根に小さなこぶが見えます。これは虫えいといって,中にダ き はだ あんかっしょく ニがはいっています。また,クスノキの木肌は暗褐色で細かい割 れ目がはいります。成長もはやく,各地で大木が見られますが, この木が本来の野生であるのかはわかっていないようです。 ▲カゴノキ(花) ▲カゴノキ(木肌) カゴノキ こ さいれんぽう か 湖西連峰の各地で見られ,大木も見られます。木肌は鹿の子ま か ご だらにはげ落ちます。鹿子の木の名前はこれによります。花は黄 ころ さ 色で 9 月頃咲きます。 25 こ さいれんぽう 湖 西 連 峰 の 昆 虫 こんちゅう 湖西連峰の昆虫 ●アゲハチョウの仲間 モンキアゲハ もん 飛んでいるときでも大きな白い紋 (古い標本は紋が黄色になる)が目 ころ 立つチョウです。 5 月頃からハイキ ングコースがこのチョウの通り道に なっており(チョウ道),暗い所も 平気で通りぬけていきます。 ▲モンキアゲハ アゲハの卵 モンキアゲハの幼虫が食べる植物 はカラスザンショウです。アゲハ チョウの仲間はカラタチやサンショ ウ,ニンジン,クスノキなどにおい のする植物の葉を食べます。アゲハ はミカン類の葉に卵を産みつけます。▲アゲハの卵 アオスジアゲハ 葉を食べていた幼虫は,チョウに なるとヤブガラシの花などに集まり, みつ 蜜を吸います。夏の暑い日には,水 しめ を吸うために湿った地面に集まって くるチョウもいます。ただし,水を 吸うのはオスだけです。 26 ▲アオスジアゲハ ●移動するチョウ ウラナミシジミ 春や夏には見られなかった ウラナミシジミも秋になると ハギやセンダングサの花でよ く見られます。ハギやクズな どのマメ類の花に卵を産みつ け,花や実を食べて育ちます。 成虫になると北のほうへ移動 ▲ウラナミシジミ していきます。 アサギマダラ 夏の終わり頃高い山から下 りてきたアサギマダラは湖西 い ら ご みさき 連峰を通って伊良湖岬に行き, わた 海を渡って南方へ向かいます。 おきなわ なかには沖縄にまで行きつく 個体もあるようです。長い旅 の合間に花にやってきて一休 ▲アサギマダラ みします。 イチモンジセセリ 春から見られるイネの害虫 のイチモンジセセリも秋にな ると数を増し,大群が見られ う か るときがあります。秋羽化す こ るものは大形で色が濃く,移 動しやすいといわれています。 ▲イチモンジセセリ 27 湖 西 連 峰 の 昆 虫 ふゆ ご ●成虫で冬越しするチョウ こ さいれんぽう 早春の湖西連峰では日当た りのよい場所に成虫で冬越し した各種のチョウが見られま す。地上ではルリタテハ,キ タテハ,ヒオドシチョウ。樹 上ではウラギンシジミ,ムラ サキシジミが羽を全開にして 日光浴をしています。 ▲ルリタテハ ヒオドシチョウの幼虫 成虫で冬越ししたヒオドシ チョウはエノキに卵をかため て産みます。幼虫ははじめ集 団で生活し,エノキの葉を食 べて育ちます。十分成長する と,木から下りてきてさなぎ になる場所を探します。 ▲ヒオドシチョウの幼虫 キタテハ 成虫になったキタテハは, 冬越しに備えて栄養をとるた しる みつ めに果物の汁や花の蜜を十分 に 吸 い ま す。寒 い と き に は じっとしていますが,冬でも 暖かい日には日だまりで日な たぼっこしている姿が見られ ます。 28 ▲キタテハ ●セミの仲間 松林のセミ 松林は 4 月∼ 6 月まで「ギ ーギー」と集団で鳴くハルゼ ミの声でにぎやかです。 7 月 にはニイニイゼミの「チィー」 の声に変わります。ニイニイ う か ゼミの羽化がら(ぬけがら) どろ よご は小さく泥で汚れています。 ▲ニイニイゼミの羽化がら セミの羽化がら 羽化がらは,セミの幼虫が しょう こ その場所で生活していた証拠 です。アブラゼミとミンミン ゼミの羽化がらは見分けがつ しょっかく せつ きません。触角の第 3 節が 2 節よりも長いのがアブラゼミ, 第 3 節と 2 節が同じ長さはミ ンミンゼミです。 ▲アブラセミ さんらん セミの産卵 さんらんかん か セミは産卵管で卵を枯れ木 の中にうめこみます。生きて いる木に産むと木の成長で卵 お が押しつぶされてしまうので しょう。セミの種類によって 卵を産んだあとのきずあとが 異なります。 ▲枯れた木にクマゼミの卵がうめこんであるところ 29 湖 西 連 峰 の 昆 虫 ●ハイキングコースで出あう虫 ハンミョウ 日当たりのよい広場で見ら れるのはハンミョウ類です。 ハンミョウは細長いあしで軽 快に歩きます。ヒトが近づく と飛び立ち,少し前方に降り るので「道おしえ」の名もつ けられています。 ▲ハンミョウ ホタルガ ホタルガの幼虫はヒサカキ を食べます。 6 月と 9 月の 2 う か 回羽化し,成虫は日中葉にと まったり飛んだりします。飛 んでいるときは,前羽の白帯 が輪のように見えます。羽が 黒く,頭が赤いところがホタ ルに似ています。 ▲ホタルガ カマキリの卵のう カマキリの卵のうの形は種 類によって違います。オオカ くき マキリはススキの茎などにま るい卵のうを産みます。ハラ ビロカマキリは木の上で生活 しているので,木の上の枝に 小型の卵のうをつくります。 ▲ハラビロカマキリの卵のう 30 ●林の中で出あう虫 クチキコオロギ 林の中にはいろいろなコオ ロギが生活しています。夏か ら秋にかけて夜「グィーッ」と 鳴くクチキコオロギは,くち 木(くさっている木)の中や木 の皮の下にすんでいます。成 虫になるまでに 2 年かかると ▲クチキコオロギのメス いわれています。 カネタタキ ふゆ ご 卵で冬越しし, 6 月にふ化 した幼虫は木の上で生活し, 8 月に成虫になります。オス は「チン・チン・チン」と短 い羽をこすり合わせて鳴きま すが,メスには羽がありませ ん。秋になると昼間も鳴いて ▲カネタタキ います。 クサヒバリ しげ 林のふちの茂みから「フィ リリリ」と聞こえてくればク サヒバリです。夏は夜,秋に は昼間も鳴いています。虫に 食われた葉の穴で鳴くことで, 声をより大きく共鳴させてい るのかもしれません。 ▲クサヒバリ 31 湖 西 連 峰 の 昆 虫 ●バッタ,キリギリスの仲間 コバネイナゴ しめ 水田や近くの湿った草地に はイナゴがいます。羽が短い のはコバネイナゴ,羽が長い のはハネナガイナゴです。イ つくだ に ナゴの佃煮にされるのはコバ ネイナゴが多いようです。 ▲コバネイナゴ ツチイナゴ しげ クズが茂った林や草地には ツチイナゴがいます。体の中 央に白い毛の帯があります。 ふゆ ご 成虫で冬越しするので,春早 おそ くから秋も遅くまで見られま す。 ヤブキリ ▲ツチイナゴ 「ギー」の鳴き声が聞こえて きますが, 「チョン」があり ません。 「チョンギー」はキ リギリス「チョン」なしがヤ こんちゅう ブキリです。肉食昆虫で,あ しにある長くするどいトゲが と に カゴになり捕らえた虫を逃が しません。 ▲ヤブキリ 32 ●トンボの仲間 オオシオカラトンボ 樹林におおわれたハイキン グコースは,夏でもあまり暑 さを感じません。ところどこ ろに木もれ日がさしこんでい る場所には,シオカラトンボ よりもやや大きいオオシオカ ラトンボがいます。 ▲オオシオカラトンボ オニヤンマ 7 ∼ 9 月のハイキングコー スでは大きなトンボが行った りきたりしています。オニヤ ンマです。黒と黄色のしま模 様があり,目は緑色をしてい さわ ます。メスは沢の砂地に腹部 こ さんらん を差し込むように産卵します。▲オニヤンマ オオアオイトトンボ 秋になって,林道沿いのや や暗い所で見られるイトトン ボはこのオオアオイトトンボ です。アオイトトンボの仲間 はちょっと休むときには,羽 を半開きにします。 ▲連結するオオアオイトトンボ 33 湖 西 連 峰 の 昆 虫 ●アカトンボの仲間 マユタテアカネ 林の中の草などにとまって いるアカトンボはマユタテア カネです。顔に黒い点が 2 つ まゆ 眉のように並んでいます。腹 部の赤いのがオス,黄色いの がメスです。 ▲マユタテアカネ アキアカネ う か アキアカネは 6 月ごろ羽化 しますが夏は見られません。 すず 夏は涼しい山地で過ごし,秋 に山から下りてくるのでアキ アカネと呼ばれます。オスと しめ メスがつながったまま湿った どろ 泥に産卵する「連結打でい産 卵」をします。 ▲アキアカネ ナツアカネ ナツアカネは 6 月ごろ羽化 し,ハイキングコースでよく 見られます。秋になるとオス は全身が真っ赤になります。 オスとメスがつながったまま しっ ち 湿 地 の草の上から卵をまく 「連結打空産卵」をします。 34 ▲ナツアカネ ●トンボに似た仲間 ツノトンボ ツノトンボはウスバカゲロ ウに似た仲間です。トンボの しょっかく 名がありますが,触角が長く 羽を屋根型にたたんでとまる こと,幼虫は水中ではなく陸 上で生活し,さなぎになるこ とがトンボとの違いです。 ▲ツノトンボ ツノトンボの卵 こ さいれんぽう 湖西連峰にはツノトンボと オオツノトンボの 2 種類がい ます。ツノトンボは草原にい て夜になると明かりによく飛 んできます。 8 ∼ 9 月に草の くき 茎に,50個ちかい卵を 2 列に 産みます。 ▲ツノトンボの卵 ツノトンボの幼虫 卵からふ化したばかりの幼 はな 虫は,ふ化場所を離れずにし ばらくかたまっています。そ の後,草の根ぎわや石の下な こん と どに移動して,小昆虫を捕ら えて食べます。 ▲ツノトンボの幼虫 35 湖 西 連 峰 の 昆 虫 ●アブの仲間 オオハナアブ 秋のハイキングコースを歩 みちばた さ いていくと,道端に咲いてい る花の周りをアブが飛びま わっています。キクの仲間に 多いのがオオハナアブです。 ハナアブ ▲オオハナアブ 3 月から11月まで,ほとん ど一年じゅう見られます。幼 虫は長い呼吸管をもっていて お すい 汚水の中で生活します。成虫 になると花に集まり,花粉を なめます。一年に何回も卵→ く 幼虫→さなぎ→成虫を繰り返 します。 ▲ハナアブ ホソヒラタアブ ハナアブと同じようにほと んど一年じゅう見られます。 ハエやハナアブ類のオスとメ スの見分け方は,複眼と複眼 の間が離れていればメス。複 眼と複眼がくっついていれば オスです。観察してみてくだ さい。 36 ▲ホソヒラタアブ ●クモを観察しよう キノボリトタテグモ ハイキングコースのがけを 注意して見ると,コケをカミ ソリでまるく切ったようなあ とに気づきます。キノボリト タテグモの巣です。虫が通る とまるいドアのある巣から出 てきて虫をつかまえて食べます。 ▲キノボリトタテグモの巣 ジグモ ハイキングコースを歩いて いると,がけや大きな木の幹 よご ふくろ に細くて汚れた袋が縦にひっ かかっているのが目につきま す。ジグモの巣です。虫が袋 の上を歩くと中からかみつき, ひきこんで食べてしまいます。 ゴミグモ ▲ジグモの巣 まるいクモの巣のまん中に, だっ ぴ 脱皮がらや食べかすを捨てず にそのままくっつけているた め,ゴミだけついているよう に見えます。しかし,よく見 ると色や形がゴミに似たクモ がいてじっとえものを待って います。 ▲ゴミグモ 37 こ さいれんぽう 湖 西 連 峰 の 野 鳥 湖西連峰の野鳥 りゅう ちょう はんしょく 湖西連峰には一年じゅうすむ留鳥,繁殖しにくる夏鳥,北国か えっとう ら越冬しにくる冬鳥が生息しますが,それ以外に注目されるのが 春と秋に通過していく鳥たちの動きです。そこで,(1)春から夏 わた の鳥 (2)秋の渡りの鳥 (3)冬の鳥の 3 つに分けて解説します。 た め とうげ ほんざかとうげ 野鳥は多米峠から本坂峠まで足をのばすとさらに楽しめるでしょ う。 (1)春から夏の鳥( 4 ∼ 6 月) 春は留鳥のウグイス,ホオジロ,メジロ,イカルなどのさえず さか ちゅう じゅん りが盛んになります。 4 月中旬になると夏鳥が加わり,さらに北 の地方で繁殖する小鳥の一部が林で休んでいくので,オオルリ, キビタキ,センダイムシクイ,コマドリなどのさえずりがあちこ ちで聞かれることがよくあります。夏鳥の最終便は 5 月下旬のホ お ね トトギスです。この時期の尾根歩きはさまざまなさえずりを楽し めます。 オオルリ 繁殖期には木の てっぺんや枝先で さえずりますが, と ちゅう 渡り途中のものは 目立たない所でさ えずっています。 夏鳥。 ▲オオルリ 38 キビタキ 渡り途中のものはあちこ ちでさえずっていますが, 繁殖期には常緑広葉樹の暗 い林を好みます。渡り途中 のたくさんのさえずりは, 急に天候が悪化したような ときがねらい目です。夏鳥。 ▲キビタキ サンショウクイ とく 「ヒリリッ」という声が特 ちょう こ つぶ 徴。 「サンショウは 小 粒 で から もヒリリと辛い」から名づ けられました。最近ひどく 減少した鳥ですが,運がよ いとまだこの声が聞かれま す。夏鳥。 ▲サンショウクイ ウグイス 3 月から 8 月までさえず りが聞かれます。姿はなか なか見られませんが,ほと んど全域で聞かれます。ほ かの鳥がさえずらない時間 帯にもさえずってくれます。 留鳥。 ▲ウグイス 39 湖 西 連 峰 の 野 鳥 メジロ 落葉広葉樹の明るい林で 張りのある声でさえずりま はんしょく す。繁殖期以外は「チー」 わた と鳴き,秋の渡りには姿は 見えないのに上空からこの 声だけが聞こえてくること たびどり があります。留鳥・旅鳥。 ▲メジロ ホオジロ 繁殖期に木のてっぺんや いっぴつけいじょうつかまつ 枝先で「一筆啓上仕る」な どとさえずります。ほかの 季節にホオジロの仲間は 「チッ」と鳴きますが「チ チッ」と「チ」を重ねて鳴 くのはホオジロだけです。 ▲ホオジロ 留鳥。 イカル 口笛でまねのできる「キ コキーコキー」などと鳴き かいどり ます。飼鳥のブンチョウの ような体つきで,黄色の太 とくちょう いくちばしが特徴です。冬 にはヤマハゼやヌルデの木 ▲イカル 40 に集まります。留鳥。 げ じゅん (2)秋の渡りの鳥( 9 月下旬∼11月) こ さいれんぽう 湖西連峰よりも北の地方で繁殖を終えた夏鳥や一部留鳥といわ えっとう れる鳥たちが,越冬地に向けて日本列島を北から南,東から西へ ぞくぞくと渡っていきます。この渡りの早いものは 8 月に始まり ますが,最も目につくのが10月から11月にかけての期間です。こ お ね の時期南北に長い尾根の上空を東から西へ横切っていきます。多 くの鳥は夜に渡りますが,ハイキング中に私たちの目につくのは 昼間群れで渡る鳥たちです。 もうきんるい 9 月下旬から10月上旬にかけては猛禽類のサシバやハチクマが 主役です。10月下旬から11月にかけてはヒヨドリ,メジロ,カワ ラヒワなどの数十羽の群れがいくつも通っていきます。そのほか に時期は前後しますが,ツバメ類,アマツバメ類,ツグミ類,セ キレイ類なども小さな群れや 1 羽で渡っていきます。昼間渡る小 鳥類の多くは早朝に渡ります。 ▲群れで渡るヒヨドリ 41 湖 西 連 峰 の 野 鳥 わた タカ類の渡り はま な こ お ね じょう 浜名湖の上空を飛んできたタカの仲間は,尾根付近に生じる上 しょう 昇気流に集まり,羽ばたかずに円を描きながらだんだん高く上り い ら ご みさき 伊良湖岬に向かって流れるように飛んでいきます。多いときには 1 時間くらいの間に数百羽になることもあります。ほとんどがサ シバでハチクマなどが少数まじります。サシバはカラスよりやや 小さいくらい。ハチクマはトビより小さめです。このほかにオオ タカ,ハイタカ,ツミ,ノスリ,ミサゴ,ハヤブサ,チゴハヤブ げ じゅん サなどがいます。サシバとハチクマは 9 月下旬から10月上旬の間 にほとんど渡ってしまいます。ツミやノスリは数は少ないですが 10月下旬以降がピークになります。 小鳥類の渡りがおもに早朝に集中しますが,タカ類の渡りの一 日の時間帯は特に決まっていません。ですから,ハイキング中に 必ず見られるというものでもないし,ふっと見上げた頭上に何十 羽ものサシバが円を描いているということもあります。 ▲サシバ 42 ▲ハチクマ ノスリ トビより小さく白っぽい はば お タカ。つばさの幅が広く尾 せん す も広げると扇子のように丸 とくちょう い感じになるのが特徴です。 お ね 秋から冬に尾根歩きで最も よく目にするタカです。旅 鳥・冬鳥。 ▲ノスリ ツミ ハトより小さめの最も小 さなタカです。自分より大 きなタカが飛んでいると必 つ か ずといっていいほど突っ掛 かっていくのが見られます。 小さいのに性質はきついよ うです。旅鳥。 ▲ツミ トビ 飛んでいる姿が大きく体 全体が黒っぽく見えること せんたん と尾は広げても両先端が角 張って見えることがほかの タカと違うところです。こ れがほかのタカを見分ける ポイントになります。留鳥。 ▲トビ 43 湖 西 連 峰 の 野 鳥 (3)冬の鳥(12∼ 3 月) ころ 10月20日頃には最も早い冬鳥のジョウビタキがきます。11月に わた 入るとアオジ,ツグミなど次々と渡ってきますが,冬にここで生 活するものが全部そろうのは12月に入った頃のようです。冬の林 は初夏の頃と違ってさえずるものもなくひっそりとしています。 す じ な それでも耳を澄ますと,落ち葉をどけるカサコソという音や地鳴 たよ きという小さな声を頼りに探すことができます。 留鳥の仲間もほかのシーズンよりも目につきやすくなります。 木の葉が落ちて見やすくなるばかりでなく,数が増えたり群れで 行動するようになるからです。その代表的なのがシジュウカラ, ヤマガラ,エナガなどで,多いときには30∼40羽の群れになり, ときにはウグイス,コゲラ,メジロなどが混じることもあります。 けいかい お ね 警戒心が少なく,尾根道で群れに囲まれて感動することもありま す。「ジュクジュク」という声はシジュウカラ,「ニーニー」はヤ マガラ,「ジュリジュリ」はエナガ,「ギー」はコゲラ。声だけで も種類がわかって楽しいです。 ▲シジュウカラ 44 ▲ヤマガラ アオジ みちばた 道端の草の中や林の中な どに普通にいる種類です。 「チッ」「チ ッ」と 一 声 ず つ 鳴 き ま す。地 面 か ら 「チッ」といって黄緑色の 小鳥が飛び立ったら,アオ ジです。冬鳥。 ▲アオジ カシラダカ 林のへりのような明るい ところを好み,数羽で群れ ていることが多いです。カ シラ(頭)の後ろの羽が少 しタカ(高)く立っている とくちょう のが特徴で,この名がつい ています。冬鳥。 ▲カシラダカ ウソ オスは灰色の体で頭が黒 く,ほおとのどが赤いのが 特徴です。メスは全体に茶 色味があります。どちらも こし 飛ぶと腰の白が目立ちます。 かた 木の枝先でまだ堅い芽やつ ぼみを食べます。冬鳥。 ▲ウソ 45 湖 西 連 峰 の 野 鳥 ジョウビタキ 目につきやすいところに けいかい とまり,あまり人を警戒し ません。背中の白い大きな はんてん 斑点が見分けるポイントで す。テリトリーをしっかり もって 1 羽で暮らしていま す。冬鳥。 ▲ジョウビタキ ルリビタキ 林のへりにもいますが, ジョウビタキより林の中の うすぐら 薄暗いところを好みます。 お メスはオリーブ色で,尾に 青みがあります。 「ヒッ ヒッ」という声で鳴きます。 冬鳥。 ▲ルリビタキ ツグミ わた 11月の初めに渡ってきて おそ いましたが,最近は遅くく けいこう る傾向があります。群れで 渡ってきますが,そのうち 1 羽で暮らします。 「クィッ クィッ」と二声ずつ鳴くの とくちょう が特徴です。冬鳥。 ▲ツグミ 46 シロハラ おもに林の地上でえさを とる習性があり,静かな林 の中でカサコソと落ち葉を どけながら虫やミミズなど を探しています。飛んで逃 お ばね げるときに尾羽の両側の先 が白いのが特徴です。冬鳥。 ▲シロハラ アカハラ かんきょう シロハラと同じ環境にす んでよく似ていますが,飛 んだときに尾の先が白くな いのが特徴です。冬になっ てしばらくヤマハゼやヌル デの実が残っている間はよ く食べにきます。冬鳥。 ▲アカハラ トラツグミ 暗い林を好み,落ち葉を どけてミミズを探してえさ にしています。 3 月末から 4 月初めに「ヒー ヒョー」 と,気味の悪い声で鳴きま す。黄色と黒のトラの模様 に似ています。冬鳥。 ▲トラツグミ 47 MEMO 48 富士山憲章 (平成10年11月18日制定) (行動規範) めぐ 富士山の自然を学び,親しみ,豊かな恵みに感謝しよう。 はぐく 富士山の美しい自然を大切に守り,豊かな文化を育もう。 かんきょう ふ か きょうせい はか 富士山の自然環境への負荷を減らし,人との共生を図ろう。 富士山の環境保全のために,一人ひとりが積極的に行動しよう。 けいしょう 富士山の自然,景観,歴史・文化を後世に末長く継承しよう。 静岡県・山梨県 ◇著 者 (この本をつくったみなさん) 植物 内藤宇佐彦(湖西市:遠州自然研究会) 昆虫 細田 昭博(浜松市:遠州自然研究会) 野鳥 北川 捷康(浜北市:遠州自然研究会) ◇写真協力 佐藤 旬一(P.39 キビタキ) ※この本は古紙100%配合の 再生紙を使用しています。 静 岡 県 自 然 観 察 ガ イ ド ブ ッ ク 3 ⃝ 『静岡県自然観察ガイドブック』シリーズ 既刊好評発売中! 1 引佐渋川 ⃝ 1 1 ⃝ 2 浜北森林公園 ⃝ 12 御前崎海岸 ⃝ 22 浜名湖 ⃝ 3 天城峠とその周辺 ⃝ 13 安倍峠 ⃝ 23 朝霧高原 ⃝ 4 大井川河口 ⃝ 14 寸又峡 ⃝ 24 谷津山 ⃝ 5 佐鳴湖 ⃝ 15 水窪自然林 ⃝ 25 富士山東麓 ⃝ 6 城ヶ崎海岸 ⃝ 16 愛鷹山麓とその周辺 ⃝ 26 つたの細道 ⃝ 7 丸火自然公園 ⃝ 17 西伊豆の自然 ⃝ 27 中田島砂丘 ⃝ 8 ⃝ 18 ⃝ 28 河津七滝 ⃝ 県民の森 伊豆須崎 桶ヶ谷沼 21 函南原生林 ⃝ 9 岩岳山 ⃝ 19 小笠山 ⃝ 29 高根山 ⃝ 10 日本平 ⃝ 20 三保と久能山 ⃝ 30 湖西連峰 ⃝ 湖 西 連 峰 青字は新刊 表紙写真:クロバイ 自然観察ガイドブック^ 湖西連峰 定価300円 (本体286円+税) ■企画編集■ 静岡県 環境森林部地球環境室 TEL. 054-221-3781 (社)静岡県出版文化会 〒420-0856 静岡市駿府町1-12 県教育会館2F TEL. 054-255-4451 (代) FAX. 054-254-5779 ■著 作■ 遠州自然研究会 ■制作発行■ (株)静岡教育出版社 〒422-8006 静岡市曲金5-5-38 TEL. 054-28 1-8870 (代) FAX. 054-286-659 0 C 2 ○ 004.3 0403