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事業原簿 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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事業原簿 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
第1回「エネルギー使用合理化海洋資源活用
システム開発」(事後評価)分科会
資料 5-1
「エネルギー使用合理化海洋資源
活用システム開発プロジェクト」
事業原簿
担当部
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
省エネルギー技術開発部
―目次―
概要
プロジェクト基本計画
プロジェクト用語集
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
1. NEDO 技術開発機構の関与の必要性・制度への適合性 .................................1
1.1 NEDO 技術開発機構が関与することの意義 .......................................1
1.2 実施の効果 .................................................................2
2. 事業の背景・目的・位置づけ .....................................................5
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
1. 事業の目標 ....................................................................10
2. 事業の計画内容 ................................................................12
2.1 研究開発の内容 ............................................................12
2.2 研究開発の実施体制 ........................................................15
2.3 研究の運営管理 ............................................................21
3. 情勢変化への対応 ..............................................................22
4. 中間評価結果への対応 ..........................................................24
5. 評価に関する事項 ..............................................................26
Ⅲ.研究開発成果について
1. 事業全体の成果 ................................................................27
2. 研究開発項目毎の成果 ..........................................................39
別表(文献・特許リスト) ..........................................................99
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
1. 成果の実用化、事業化可能性 ...................................................103
2. 波及効果 .....................................................................111
3. 実用化・事業化のシナリオ .....................................................113
ii
概要
概
要
作成日
制度・施策名
事業名
(プロジェクト名)
担当推進部/担当
者
0.事業の概要
Ⅰ.事業の位置
づけ・必要
性について
平成16年12月1日
「海洋深層水の多目的・多段階利用の推進」
エネルギー使用合理化海洋資源活用システム開発
プロジェクト番号
P99026
省エネルギー技術開発部/川嶋淳史(3223)
本プロジェクトでは、海洋深層水(以下、「深層水」という)の有する周年安定した低温性を活かし
発電所での冷却水利用等の省エネルギー技術に利用するとともに、清浄性、富栄養性等を利用した多
目的・多段階利用によって経済性の向上を図る。本研究開発では、国内外で例のない大量かつ高効率
で取水する技術、及び高効率資源・エネルギー利用技術の開発と実証研究を行い、また、取水及び海
域放流後の CO2 固定等、環境影響とその評価技術の確立、これまで実施された非エネルギー関連利用
研究の成果を加味し、国内沿岸域の深層水利活用適地それぞれの立地条件に応じた最適利用形態の提
示と LCA 的評価の実施により深層水活用システムの有用性を検証する。
海洋資源を有効に利用することは将来の資源・エネルギー問題にとって重要な課題である。とりわけ
数百メートルの深さに存在する深層水は表層の海水とは異なり、低水温性、清浄性、富栄養性等の特
長を有することから、特に清浄性、富栄養性を利用した水産分野等に対し 1980 年代後半より基礎的
な研究が行われてきた。一方、深層水の周年安定した低温性は火力発電所の復水器冷却水へ利用する
ことにより、大幅な発電効率の改善が期待され、我が国の地球温暖化問題に対する国際公約を果たす
ための選択肢の一つとして、その効果を定量的に明らかにするとともに、実用性を検証することは意
義あるものである。また利用後、海洋へ還流した場合には、深層水の富栄養性により、植物プランク
トン増殖や藻場の造成が促され、結果として放流海域での生物的 CO2 吸収による温暖化対策も期待で
きる。そのためには国内外で例のない深層水の大規模取水が不可欠でその技術開発およびその有効利
用は海洋開発の一つとして位置づけられ、実用後の公益性は高い。特に、深層水の取水技術について
は、日量 10 万トン規模の実施例はあるものの、発電所等で必要となる 100 万トン規模の大量取水の
安定供給技術は未だ実証されておらず、この確立を行う必要がある。また大量の深層水取水及び還流
に関して、環境影響評価が必要で適切で公平な立場での評価項目の抽出、評価手法の確立と評価が必
要である。
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
事業の目標
深層水の大量取放水技術の開発、資源・エネルギーとしての利用技術の開発、大量深層水の取放水に
関する CO2 固定等、環境影響評価項目の抽出、手法の確立及び評価を行い、国内沿岸域の利活用適地
それぞれの立地条件に応じた火力発電所を中核とした多目的多段階利用システムの最適利用形態につ
いて、LCA 的評価も含めた総合評価を行う。また経済的成立性の高い地点に提案し、パイロット試験
へと進展させるために、実用化・事業化へ向けた今後の課題、展開方法などを纏める。また、プロ
ジェクトを通して得られた基礎データ等については、プロジェクト実施期間中にデータを体系的に整
理し、幅広く社会に提供する。
なお、資源・エネルギー利用技術と取水技術は実用化を目指した課題であるので 50/100 の補助事
業で、また、環境影響評価技術、立地条件別の多目的多段階利用システム設計は基礎的な検討を実施
するので 100/100 補助事業とした。
主な実施事項
H11fy
H12fy
H13fy
H14fy
H15fy
H11fy
H12fy
H13fy
H14fy
H15fy
深層水取水技術開発
事業の計画
内容
資源・エネルギー利用技術開発
環境影響評価技術等研究開発
立地条件別最適システム設計・評価
技術研究開発
会計・勘定
総額
基盤研究
(100/100 補助)
開発予算
開発体制
特別会計
249
165
261
117
844
11
64
351
108
55
588
63
313
516
369
172
1,432
モデル実証研究
(高度化)
(50/100 補助)
(単位:百万円)
注)金額は NEDO 総予算額
技術開発機構負担
分
経産省担当原課
運営機関
52
資源エネルギー庁 資源・燃料部 鉱物資源課
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
i
概要
委託先
情勢変化へ
の対応
社団法人日本海洋開発産業協会(注 1)、清水建設株式会社(注 2)、株式会社関西総合環境
センター(注 2)
(注 1)
(H16.4.1 から、財団法人エンジニアリング振興協会に承継)
(注 2)
(H14 及び 15 年度から JOIA と連名で NEDO 技術開発機構と共同研究)
(再委託先、協力企業・団体等:企業31社、財団等4団体、2自治体、6大学:欄
外の備考に記載)
平成 13 年度の中間評価を受けて、開発項目の見直しと基本計画の修正を行った。
中止した項目:「冷熱オフライン輸送技術開発」
【モデル実証研究】
○資源・エネルギー利用技術研究
・省エネ性としては、日本の中部地域の発電所(60 万 Kw 級)への適用の場合に発電量増分は 1.4%見込
まれ、原油換算で 1.72 万㌔㍑の省エネに、また、新規発電所(南方地域)への適用では発電量増
分は 2.9%と見込まれ、原油換算で 3.58 万㌔㍑の省エネに寄与できることを示した。なお、発電効
率改善をポイント*で示すと、既設で 0.6 ポイント*、新設で 1.2 ポイント*となり、計画の目標値を
達成した。
・深層水を冷熱源代替に用いる技術では、空調や冷凍機応用において、電力削減率 40∼80%であるこ
とを実証した。
・資源有効利用では膜を利用した濃縮水製造法を開発・実証し、資源利用技術としての有効性を示し
た。
*注)“ポイント”とは、例えば、発電効率 40%の設備において発電効率の向上により 41%になった場合、「1
ポイントの発電効率向上」として表す単位。
Ⅲ.研究開発成
果について
Ⅳ.実用化、事
業化の見通
しについて
○深層水取水技術開発研究
日量 100 万㌧の大量の深層水を安定的に揚水する最も経済的な方法を検討して以下の結果を得た。
・管路設置構造形式:揚水方式として自然流下方式が最適であることを示した。
・設置構造:地形に合わせて対応可能な、着底及び浮遊管路を選定した。
・管材料:鋼管と硬質ポリエチレン管を選定した。鋼管は補強構造を考案し、また、硬質ポリエチレ
ン管は、鉄線巻きアラミド繊維補強構造を新規に開発し、小口径の実証設備を敷設し各種の性能確
認を通して実用性を確認した。
・敷設工法:半浮遊式海底曳航法、着底管路及び多点係留方式浮遊管路を選定した。
・100 億円以下のコストでの施工技術の検討と試設計を実施(高速管内流:2m 以上/秒)し、更に
3km 以内の立地では試設計により 70 億円以下のコスト縮減が可能であることを示した。
【基盤研究】
○環境影響評価技術等研究
・環境影響検討項目として 13 項目を抽出し、それぞれの環境影響評価手法を検討した。CO2 収支検
討法、藻場生態系モデルについてはマニュアル案を作成した。
・深層水の発電所利用により,既存の発電所の環境影響を軽減できると推定した。新たな変化として
放水口近傍の pH 低下が起こる可能性と、赤潮発生域への適正放流条件を推定した。
・深層水の取放水によって大気中に CO2 を放出する可能性があるが、発電利用によって逆に CO2 排出
量を削減できることを推定した。
・深層水の適度な昇温と栄養塩の供給による植物プランクトンや海藻類、これを捕食する有用生物の
生産量の増大を確認した。そのためのより効率的な放流法として深層水の高希釈法や潜堤の築造
等を提案した。
○立地条件別最適システム設計・評価技術研究
・日本の典型的な地点での深層水利用最適システムの設計事例検討のため、実用化適地の立地条件調
査と実用化適地の立地条件を整理した。更に国内3地域に絞り電源立地型深層水利用システムの産
業立地システムを提案した。
・システム構成要素技術である、火力発電所復水器冷却、ガスタービン吸気冷却、室内空調システ
ム、冷凍システム等について、省エネルギー効果、CO2排出量削減効果を定量的に評価した。
・発電所施設におけるLCA的評価の結果、深層水施設は炭酸ガス排出でみると発電所施設の 0.3%
程度と小さい寄与である。また、深層水を利用した発電所では既存型の発電所に比べて、燃料削減
が最大 2.9%であること、発電所の炭酸ガス発生量は運用での燃料が 79%を占めることから、深層水
を用いた発電所は LCA の面からも有利であることが示された。
投稿論文
「査読付き」15件、「その他」1件、口頭発表72件、著書・雑誌・新聞16件
特 許
「出願済」9件、
「登録」0件、「実施」0件
・発電利用:小型及び中規模モデルパイロットプラントによる中容量取水と発電所冷却利用の実用化
を経て、今後想定される発電所の新規立地及び既設発電所における更新にあわせた実機適用が期待
される。
・発電以外の多段階・多目的産業利用:取水地点の立地地点での産業化では、空調をはじめとした冷
熱利用では新規に設置する場合、深層水冷却を組み込んだ利用が、省エネからみても経済性から見
ても著しく優位であることが明らかであり、促進されると見込まれる。また、漁業などの産業利用
が期待されるシャーベット氷製造では製品価値を高めることも期待できる。塩分濃縮やミネラル調
ii
概要
整技術では食塩をはじめとした地場産業利用が期待される。
・環境影響評価技術の公開と知的基盤整備:大量の深層水を省エネルギーのために利用するという観
点での取水の技術から放流に至る環境への影響、地域の産業立地という、今までに例のない系統的
な研究成果を公表して、実現の方向性を示した。得られた設計マニュアルや立地適用事例設計に更
に現場検証により精度を高めることを通じ、深層水を核とした産業システムの基盤整備の促進や環
境評価技術の標準化に貢献することが期待される。
Ⅴ.評価に関す
る事項
評価履歴
平成 13 年度
中間評価実施
評価予定
平成 16 年度
事後評価実施予定
Ⅵ.基本計画に
関する事項
策定時期
平成 11 年 3 月
策定
変更履歴
平成 14 年 3 月
変更
備考)
本プロジェクトにおける再委託あるいは共同研究の団体等は下記の通りである。
企業:(株)大林組、鹿島建設(株)、川崎重工業(株)、川鉄チュービック(株)、(株)関西総合環境センター、共栄冷機工業(株)、(株)熊谷組、(株)KDD 研究
所、五洋建設(株)、清水建設(株)、新日本製鐵(株)、住友重機械工業(株)、大成建設(株)、東亜建設工業(株)、(株)東京久栄、(株)東芝、(株)
東洋製作所、ナカシマプロペラ(株)、日油技研工業(株)、(株)日本エコエネルギー研究所、日本鋼管(株)、日本海洋(株)、(株)間組、深田サルベージ建設
(株)、芙蓉海洋開発(株)、古河電気工業(株)、(株)前川製作所、(株)三井造船昭島研究所、三井金属エンジニアリング(株)、三菱重工(株)、若築建
設(株)
財団・社団法人等:(社)海洋産業研究会、(財)新エネルギー財団、(財)電力中央研究所、(財)若狭湾エネルギー研究センター
自治体:富山県、高知県
大学:大阪府立大学、香川大学、高知工科大学、高知大学
iii
プロジェクト基本計画
プロジェクト基本計画
「エネルギー使用合理化海洋資源活用システム開発事業基本計画」
NEDO
平成14年3月 改定
省エネルギー技術開発室
1.研究開発の目的・目標・内容
(1)研究開発の目的
海洋資源を有効に利用することは将来の資源・エネルギー問題にとって重要な課題で
ある。とりわけ数百メートルの深さに存在する海洋深層水(以下、「深層水」という。)
は表層の海水とは異なり、低水温性、清浄性、富栄養性等の特長を有することから、特
に清浄性、富栄養性を利用した水産分野等に対し1980年代後半より基礎的な研究が
行われてきた。一方、深層水の恒常的な低水温性は火力発電所の復水器冷却水へ利用す
ることにより、大幅な発電効率の改善が期待され、我が国の地球温暖化問題に対する国
際公約を果たすための選択肢の一つとして、その効果を定量的に明らかにするとともに、
実用化を検証することは意義あるものである。また利用後、海洋へ還流した場合には、
深層水の富栄養性により、植物プランクトンが増殖し藻場の造成が促され、結果として
放流海域での生物的CO 2 吸収による温暖化対策も期待できる。深層水の大規模取水およ
びその有効利用は海洋開発の一つとして位置づけられ、実用後の公益性は高い。深層水
の取水技術については、日量10万トン規模の実施例はあるものの、発電所等で必要と
なる100万トン規模の大量取水の安定供給技術は未だ実証されておらず、この確立を
行う必要がある。また深層水取水及び還流に関して、環境影響評価手法は確立されてい
ないことから、国として公平な立場での評価手法の確立及びそれを用いた評価が必要で
ある。
(2)研究開発の目標
平成15年度終了までに、深層水の大量取放水技術の開発、資源・エネルギーとして
の利用技術の開発、大量深層水の取放水に関するCO 2 固定等の環境影響評価の手法の確
立及び評価を行い、国内沿岸域の利活用適地それぞれの立地条件に応じた、火力発電所
を中核とした多目的多段階利用システムの最適利用形態について、LCA的評価も含め
た総合評価を行う。また経済的成立性の高い地点に提案し、パイロット試験へと進展さ
せるために、実用化・事業化へ向けた今後の課題、展開方法などを纏める。また、プロ
ジェクトを通して得られた基礎データ等については、プロジェクト実施期間中にデータ
を体系的に整理幅し、広く社会に提供を図る。
(3)研究開発内容
上記目標を達成するために、以下の研究開発項目について、別紙の研究開発計画に基
づき研究開発を実施する。
【モデル実証研究】
○資源・エネルギー利用技術研究
○深層水取水技術開発研究
【基盤研究】
○環境影響評価技術等研究
○立地条件別最適システム設計・評価研究
2.研究開発の実施方式
(1)研究開発の実施体制
本研究開発は、NEDOが企業、民間研究機関、独立行政法人、大学等(委託先から
再委託された研究開発実施者を含む)から公募によって委託先を選定後、共同研究契約
等を締結し、実施する。
共同研究開発に参加する各研究開発グループの有する研究開発ポテンシャルの最大限
の活用により効率的な研究開発の推進を図る観点から、研究体には研究開発責任者を置
iv
プロジェクト基本計画
き、その下に研究者を可能な限り結集して、各研究開発項目間の相互連携を密にして、
効果的な研究開発を実施する。
(2)研究開発の運営管理
研究開発全体の管理・執行に責任を有するNEDOは、経済産業省及び研究開発責任
者と密接な関係を維持しつつ、本研究開発の目的及び目標に照らして適切な運営管理を
実施する。具体的には、必要に応じて、NEDOに設置する委員会等、外部有識者の意
見を運営管理に反映させる他、四半期に一回程度研究開発責任者等を通じてプロジェク
トの進捗について報告を受けること等を行う。
3.研究開発の実施期間
本研究開発の期間は、平成11年度から平成15年度までの5年間とする。
4.評価の実施
NEDOは、国の定める技術評価に係る指針及び技術評価要領に基づき、技術的及び
政策的観点から、研究開発の意義、目標達成度、成果の技術的意義ならびに将来の産業
への波及効果等について、NEDOに設置する技術評価委員会において外部有識者によ
る研究開発の中間評価を平成13年度、事後評価を平成16年度に実施する。なお、評
価の時期については、当該研究開発に係る技術動向、政策動向や当該研究開発の進捗状
況等に応じて、前倒しする等、適宜見直すものとする。
5.その他の重要事項
(1)研究開発成果の取扱い
①成果の普及・・・得られた研究成果のうち、共通基盤技術に係る研究開発成果については、
NEDO、実施者とも普及に努めるものとする。
②知的所有権の帰属・・・委託研究開発の成果に関わる知的所有権については、「新エネル
ギー・産業技術総合開発機構新エネルギー業務方法書」第43条の規定等
に基づき、原則として、すべて受託先に帰属させることとする。
(2)基本計画の変更
NEDOは、研究開発内容の妥当性を確保するため、社会・経済的状況、内外の研究開
発動向、産業技術政策動向、第三者の視点からの評価結果、研究開発費の確保状況、当該
研究開発の進捗状況等を総合的に勘案し、達成目標、実施期間、研究開発体制等、基本計
画の見直しを弾力的に行うものとする。
(3)根拠法
本プロジェクトは、エネルギーの使用の合理化に関する法律(昭和54年法律第49
号)第21条の2第1号に基づき実施する。
6.基本計画の改訂履歴
(1)平成11年4月、NEDOで制定。
(2)平成14年3月、省庁再編に伴う経済産業省とNEDOの役割分担の見直しを受けて、
研究開発の目的、内容、目標を統一的に明記する等の改訂。
v
プロジェクト基本計画
(別紙)研究開発計画
【モデル実証研究】
研究開発項目「深層水取水技術開発研究」
1.研究開発の必要性
300m以深からの日量100万トンの深層水の大量取水施設については深さ、規模の
面から現存していない。技術の確立のためには、我が国の立地環境条件を考慮した上で、
適用性の高い形式を絞り込み、各要素についての机上検討、小規模試験による実用性評価、
さらにはこれらを通じて抽出された課題について改善を加え、モデル実証実験による検証
が必要である。
2.研究開発の具体的内容
施設規模、施設敷設費、管口径、高速通水、メンテナンスフリー化等に関して、達成目
標を可能とする取水技術を開発するため、各要素(材料、動力源、構造、敷設技術等)を
検討し、モデル実証試験により検証する。
(1)管路設置構造形式の選定
複数の国内立地条件に合致した φ2m級管路設置構造形式に対し、構造設計や施工法の
検討及び経済性の検討を行い、その適用性を評価する。
(2)管材料の選定
管材料について、着底管路、一点係留方式及び多点係留方式の浮遊管路の管路設置構造
に合致した管断面仕様について設計するとともに、経済性、適用性を評価し、選定する。
(3)敷設技術の選定
管路設置構造形式及び管材料毎に、適応性の高い敷設技術を選定する。
(4)高速通水管路の実用化
高速通水に際しての管路の挙動(ON/OFF制御におけるウォーターハンマー現象
等)について、小規模試験による現象把握、対応策の策定を行い、モデル実証試験により
検証する。
(5)メンテナンスフリー化への対応等
メンテナンスフリー化、その他運転上の問題点に対応するためのハード面の改良を行う。
(6)施設敷設費の低減化
机上検討、モデル実証施設敷設の知見に基づいて、施設敷設に係わる費用を分析し、改
善により施設敷設費の低減化を図る。
3.達成目標
最終目標:日量100万トン規模で、施設敷設費が100億円程度、大口径管路(φ2.
0m)、高速通水(2.0m/s)、メンテナンスフリー化を可能とする取水設備について
の設置構造、敷設技術を確立する。
中間目標:管路設置構造形式を具体化し、構造設計や施工法、経済性及び適用性を評価す
る。高速通水管路の実用化に向けた改善策を策定する。
vi
プロジェクト基本計画
研究開発項目「資源・エネルギー利用技術研究」
1.研究開発の必要性
深層水を利用した多目的・多段階利用システムの構成のためには、発電効率改善、冷熱
源代替、資源有効利用の各技術分野の個々の技術有効性を検証することが必要である。有
効性の検証のため、各技術の省エネルギー効果、費用対効果を明らかにするとともに、必
要性を認めたものに対しては、長期使用における性能維持等に関して、実機による実証等
を行う必要がある。また多目的・多段階利用システムの有効性、長期性能についても検証
が必要がある。
2.研究開発の具体的内容
(1)発電効率改善技術
効率改善や出力増大を目指すために、蒸気サイクル(ランキンサイクル)発電への適用
による発電効率向上を検討する。このため、既存または新設の場合の火力発電所を対象に、
日本各地の気象・海象条件を考慮し、取放水温度差をパラメータとして数値モデルを用いて
検討し、発電効率または経済性が最適になるシステムを立案する。
(2)冷熱源代替技術
深層水の低温・清浄特性を利用して、低温貯蔵、空調システム、冷凍システム、シャー
ベット海水氷製造、オフライン熱供給システムの各システムを検討し、省エネルギー効果
を定量化し、経済性のあるシステムを立案する。
(3)資源有効利用技術
濃縮塩水と脱塩深層水の効率的製造技術における省エネルギー効果を定量化し、経済性
のあるシステムを立案する。
(4)実機実証試験
上記(1)∼(3)において、立案された各技術について省エネルギー効果等により選
定を行い、必要と認められるものについては、実機による効果の確認を行う。
(5)深層水循環系多目的・多段階利用システム
マイクロガスタービンを中心とした、複数の利用技術を連動したモデルシステムにおけ
るトータルとしての運転性能、省エネルギー効果、経済性を検証する。
3.達成目標
最終目標:最適システム設計・評価に活用するため、深層水利用の多目的・多段階利用シ
ステムを構成する、資源・エネルギー利用に関する発電効率改善、冷熱源代替、資源有
効利用の各技術分野の個々の技術の有効性、多目的・多段階利用システムの有効性を検
証する。なお発電所の発電効率は、復水器の大幅な設計変更をすることなく、深層水を
用いることにより既設で0.5ポイント、新設で1ポイント上昇することを目標とする。
中間目標:各技術分野の個々の技術について、経済性、省エネルギー効果を定量化する。
また実用化のための実証すべき課題を明らかにし、実証研究内容を立案する。
vii
プロジェクト基本計画
【基盤研究】
研究開発項目 「環境影響評価技術等研究」
1.研究開発の必要性
深層水の大量取放水はこれまで例が無く、その環境影響に問題がないことを確認すること
は、火力発電所を中核とした多目的・多段階利用システムの実用性の検証に必須である。そ
のため、環境影響評価手法を確立し評価するとともに、評価結果に基づき、取放水手法、
取放水施設構造の最適化を図る必要がある。また、深層水を海域へ還流し、その特長(富栄
養性、低温性等)を有効に利用することによる海域環境の修復効果、大量取放水および火力
発電所発電効率向上におけるCO 2固定効果の定量的評価は、本システムの地球温暖化対策
技術としての有効性を明らかにするために必要である。また実用化に際してのモニタリン
グ手法を予め策定しておくことは、パブリックアクセプタンスを得るためには必須である。
2.研究開発の具体的内容
(1)環境影響評価手法の確立及び評価
深層水の取放水、取水設備敷設工事に係わる影響評価項目(取水側では生物連行、放流
側では温度影響、海域の富栄養化、有害な赤潮発生等)を選定し、これらの環境影響評価
項目について、それぞれ実態調査、数値モデルによる検討、赤潮生物と珪藻類の混合培養
等によって、その影響を推定する。評価結果に基づき、取放水手法、取放水施設構造の最
適化を図る。
(2)海域肥沃化研究
深層水放流に伴う肥沃化効果を水理実験や数値シミュレーションにより定量化する。具
体的には沖合い放流法による有光層への深層水の拡散方式や、深層水に含まれる栄養塩に
よる植物プランクトン、海藻の生長が表現できる生態系モデルを開発し、深層水放流によ
る海域肥沃化の可能性を明らかにする。評価結果に基づき、取放水手法、システム構造へ
のフィードバックを行う。
(3)火力発電所への深層水利用におけるCO2収支の検討
大量取水に係わる深層水中のCO 2 排出量、放水による生物的CO 2 固定量、発電所の発
電効率向上によるCO2排出削減量を求め、CO2収支を明らかにする。
(4)環境影響モニタリング手法の策定
モニタリング技術に関する技術動向調査を行い、実用化に際しての環境モニタリング手
法を策定する。
3.達成目標
最終目標:深層水の大規模取放水、取水設備敷設工事に係わる環境影響評価手法を確立し、
評価を行う。また実用化に向けた環境モニタリング手法を策定する。
中間目標:深層水取放水による環境影響の概略評価を行う。また取放水と発電所復水器冷
却によるCO2収支を算出する。
viii
プロジェクト基本計画
研究開発項目「立地条件別最適システム設計・評価研究」
1.研究開発の必要性
火力発電所を中核とした多目的多段階利用システムの実用化適地の選定のためには、我
が国における地形、地質、海象等の自然条件、陸域における産業構造等の社会条件などに
より、実用化適地の立地条件を調査し、その利用システムの類型化(モデリング)を行う
こと、さらに省エネルギー効果、CO 2排出量削減効果、産業創出効果、波及効果等の経済
効果を、他の3分野の研究成果も活用して明確にし、LCA的評価を含めた総合評価を行
うことが必要である。
2.研究開発の具体的内容
(1)適地類型化の検討および利用システムの設計
深層水利用における実用化適地の立地条件調査を行い、深層水の利用システムと立地条
件に応じたモデルシステムの類型化を行い、国内適地別に多目的多段階利用システムの最
適利用システムを設計する。
(2)立地条件別最適利用システムの設計・評価
上記(1)から、既設並びに新設の火力発電所を中核とした多目的多段階利用システム
の最適利用形態に対する国内実用化適地を選定し、省エネルギー効果、CO 2排出量削減効
果、経済効果等について定量的に求め、実用化可能性についてLCA的評価を含めた総合
的な評価を行う。
(3)実用化・事業化に向けた課題整理
上記(2)の評価結果から、経済的成立性の高い地点について、実用化・事業化に向け
た今後の課題及びその解決、展開方法などを纏める。
3.達成目標
最終目標:火力発電所を中核とした多目的多段階利用システムの最適利用形態について、
LCA的評価も含めた総合評価を行い、経済的成立性の高い地点を選定する。さらに、
選定地点に利用形態を提案するために、実用化・事業化に向けた今後の課題、展開方法
などを纏める。
中間目標:システム構成要素の省エネルギー効果、CO 2排出量削減効果を定量的に評価し、
適地類型化モデルを対象に予備的な最適システムの設計・評価を行う。
ix
プロジェクト用語集
プロジェクト用語集
「エネルギー使用合理化海洋資源活用システム開発」
関連用語の解説
(あ)
赤潮
プランクトンの異常増殖により海水が着色する現象。有害プランクトンや一時的に酸素消費量が
増大することによる酸素欠乏のため、魚介類のへい死など漁業被害を伴うこともある。
赤潮の発生は閉鎖性水域で起こりやすく、窒素、リン等の栄養塩類の流入などによる富栄養化の
進行が基本的発生原因とされているが、底質からの栄養塩の海水中への溶出および降雨、河川水の
大量流入による塩分低下などの原因も指摘されている。
ROV (無人遠隔操作探査機、Remotely Operated Vehicle;ROV)
水深約 100m まで潜り、海中を観察できる小型水中カメラロボット。本体についているスク
リュー(スラスター)を動かし、潜航・浮上・前進・後進、旋回等自由に動かし、また、CCD カメラ
により水中映像を撮影することができる。
(い)
磯根資源
あわび、さざえ、岩がき、いせえび、てんぐさ、岩のり等、磯場にある生物資源。漁業上、重要
な資源となることも多い。
(え)
栄養塩
生物がその生命を維持するために体外より摂取する無機栄養物質で、生体を構成する元素のうち
炭素、水素、酸素を除いたもので、窒素やリン、ナトリウム、マグネシウム、ケイ素など、主に無
機栄養として摂取される物質をさす。特に窒素とリンは植物プランクトンの増殖の制限因子になり
やすいため、環境基準、排水基準が定められており、富栄養化を防止するために重要な物質である。
LCA 的評価
LCA(life cycle assessment)とは、品物の生産から廃棄までの資源枯渇量,廃棄物,環境汚染量
などを調査,分析,評価する方法で、本事業では、海洋深層水の取水から放流にかかる一連の事業
での環境負荷を評価する意味で「LCA 的評価」とした。
x
プロジェクト用語集
(か)
カイアシ類
水かき状の脚を持つ甲殻類に属する動物プランクトン。
海洋深層水(深層水)
深海の大部分を占める水塊で、水産深層水協議会(2001 年)によると「光合成による有機物生
産が行われず、分解が卓越し、かつ、冬季の鉛直混合の到達深度以深の海洋水」と定義されている。
現在では、概ね 200m 以深の海水を海洋深層水として取り扱うのが一般的になっている。海洋深層
水の特徴として、低温安定性(2∼10℃)
、清浄性、富栄養性がある。
カジメ
高さ 1∼2m になる大型の海藻で沿岸の岩礁域や転石帯に繁茂し、群落をつくる。この群落は海中
林と呼ばれ、魚や貝類のよいすみかとなる。藻場造成に用いられる。
過冷却方式
過冷却(supercooling)とは、結氷点以下の温度に冷却しても固まらず、液体の状態が保持され
ている状態のことをいう。固体になるための核がなかなか作られず、過冷却状態が保たれる。例え
ば、水の場合、通常0℃まで冷却すると氷になるが、0℃以下になっても氷にならない場合がある。
これを過冷却現象という。さらに冷却していくと、結晶の核生成が起こる。水の場合、その達成し
うる最大の過冷却度は、純度を増せば 30℃以上となる。この現象を利用して液体中に固体結晶を
生成する方式を過冷却方式という。一般的に水や海水の場合、過冷却度を 2∼3℃として微細氷結
晶を生成する。
ガスタービン吸気冷却
大気温度が高くなると燃焼用空気密度が低くなるため、電力需要がピークを迎える夏場の昼間に
ガスタービン出力は低下する傾向(外気温35℃で約15%の出力低下)がある。これを改善する一手
法として、ガスタービンの燃焼用空気を冷却し、空気密度を高めることにより出力を増加・熱効率
向上を図る出力回復技術がある。液体空気をガスタービン吸気口に直接噴霧し吸気温度を低下させ
る方法などがある。
管路形式
取水路や放水路の構造形式の一種であり、一般的には既成の管材料を用いて海底面上に配管する
筒状の施設構造物のことである。
(き)
北太平洋中層水
オホーツク海北部北太平洋とその縁辺海で作られた低温・低塩分の海水が親潮に乗って三陸沖を
南下し,南から流れてきた黒潮とぶつかって鹿島灘の沖で沈みこんで300∼700m付近の中層を東へ
向かって流れた後,いくつかの水塊に分かれながら時計回りに反転して,再び日本の南部太平洋沿
岸へと戻ってくる水塊。鹿島灘沖で沈んでから室戸沖にまで帰ってくるまでの周期は10∼50年程度
であると言われている。
xi
プロジェクト用語集
北太平洋中層水流量
北太平洋中層水(NPIW)の流量については、Yasudaら(1996)によると、日本東部海域で生成さ
れるNPIWは約17.8MT/secで、そのうち亜熱帯循環によって日本沿岸に戻ってくる流量は約12MT/
secと推測されている。
逆浸透膜 (Reverse osmosis:RO膜)
海水淡水化を目的として開発された膜である。海水中の水のみを透過する性質を持った半透膜で
ある。海水淡水化で使われている他、無機・有機化学工業、食品工業、医学、製薬工業にも広く応
用されている。
ギャラリー形式
取水路や放水路の構造形式の一種として、その設置構造上からの呼称であり、トンネルボーリン
グマシーンや大口径ボーリングマシーン等を用いφ3m程度の口径で、一旦陸上より斜坑あるいは立
坑と横坑の組合せで所定海底深度まで掘削後、ギャラリーを設け、次いで、口径300mm∼φ600mm程
度の小口径で海水中に貫通ボーリングして構築する筒状の構造物である。
汽力(火力)発電所
蒸気タービン発電機とボイラおよび復水・給水系統を主要設備とする発電所である。
(く)
空気調和機
空調する為に室内に供給する空気の温度・湿度を調節し、塵埃等を除去する装置。冷温水(冷
媒)コイル、加湿器、エアフィルタ、送風機などを一体のケーシング内に収めたもの。エアハンド
リングユニット、ファンコイルユニット、パッケージエアコン、ルームエアコンなどがある。
(け)
ゲル化
液体が濃縮され、流動性を失い、ゼリー状になる現象のことをいう。例えば、寒天が固まるよう
な現象。
係留式浮遊曳航法
管路配管を海底に敷設するとき、地上側に固定ブロックにより保持し、一方を浮遊状態で海上曳
航し敷設する方法で、浮遊式曳航法の場合にかかる大きな力を半減すうることで管の折れや変形を
防止する。
(し)
小口径ボーリング形式
取水路や放水路の構造形式の一種として、その施工方法に基づく呼称であり、ボーリングマシー
ンを用いて陸上より地盤中を弧状や斜め状にφ600mm以下程度の口径で削孔し、内管を挿入して筒
状の構造物とするものである。
植物プランクトン
クロロフィルなどの光合成色素を持ち、光合成を行うプランクトン。緑藻類、珪藻類、鞭毛藻類
xii
プロジェクト用語集
に属する小型藻類が主体である。なお、プランクトンとは海洋や湖沼に生息する生物のうち、水の
動きに抗して移動できないで浮遊生活を送る生物のことである。
蒸気サイクル(ランキンサイクル)
蒸気原動機プラントとして最も基本的な熱サイクルである。①沸騰水を給水ポンプで保温しなが
ら圧縮してボイラへ送る過程、②ボイラで加熱して100℃以上の蒸気とする過程、③タービンで
保温しながら膨張させてエネルギーを得る過程、および、④排蒸気を復水器(用語参照)に通して、
圧力一定にして冷却し復水させる過程より成り立つ。なお実際のプラントではランキンサイクルの
熱効率を改善した再熱サイクル・再生サイクルが利用されることが多い。
(す)
スラリ状
液体と固体粒子を混ぜて、どろどろの状態にした流動性のある混合物のことをいう。水と微細氷
のように同一の物質でスラリを形成する他に液体中に別の固体粒子を混ぜてスラリを形成する場合
がある。液体、固体粒子の性質により種々の流動特性を示す。一般的な物質であれば、シャーベッ
ト、クラッシュと同意に使われる。
(せ)
成績係数(COP)
冷凍機やヒートポンプにおけるエネルギー変換効率である。低熱源から得た冷熱量を、どの程度
高熱源に移したかで表す。つまり、投入されたエネルギー量(仕事)に対する利用目的のためのエ
ネルギー量(冷凍機では低熱源から取去る熱量すなわち冷却熱量、ヒートポンプでは高熱源に供給
する熱量すなわち加熱熱量)の比として成績係数が定義される。
生態系モデル
生物群集とその生活に関与する無機的環境を含めた系を再現、予測する数値計算モデル。バクテ
リア、植物プランクトン、動物プランクトンなどの分解、光合成、捕食、排泄といった素過程をそ
れぞれ定式化し、栄養塩、炭素等の循環によってモデルを構成する。現在のところ、動物プランク
トンまでの低次生態系モデルは様々なものが開発されているが、魚類やそれより栄養塩段階の高い
ものについてはその時間的、空間的な変動が激しく、モデル内に取り込むことは難しい。
生物連行
海水取水するときに生物体(魚類、卵・稚仔魚、動物プランクトン、植物プランクトンなど)も
同時に取り込まれる現象をいう。これら生物体は、発電所の復水器冷却用海水の取水では、温度的
ショックや機械的ショック(圧力変化、壁面への衝突)などの影響を受ける。冷却システムの目つ
まりの原因などにもなる。
潜熱
気体、液体、固体のいずれかの状態にある物質が形(体)を変えるときに放出、または吸収する
熱量。形が変るときに温度変化を伴わないため潜(ひそんだ)熱といわれる。
氷⇔水⇔水蒸気の場合、それぞれの潜熱は以下となる。
氷⇔水 融解(凍結)潜熱
: 3.37×105J/kg , 79.7kcal/kg
xiii
プロジェクト用語集
水⇔水蒸気 蒸発(凝結)潜熱
: 2.50×106J/kg , 596.7kcal/kg
氷⇔水蒸気 昇華潜熱
: 2.83×106J/kg , 676.4kcal/kg
潜堤
堤体が水面下に没した消波構造物。自然のサンゴ礁を模擬したもので,潜堤の内側に波の穏やかな
水域を作ることができる。
(に)
日本海固有水
日本海の水深 200m 以深の海水は日本海固有水と呼ばれており、日本海全海水の約 80%を占める。
日本海固有水は、その地形的特性や海水性状から日本海以外の場所から運ばれてきたのではないと
言われている。形成場所については、諸説があり、少なくとも上部固有水(1000m 以浅の海水)は、
ウラジオストク南東沖で冬季の厳しい海面冷却によって形成されていると推察される。宮田
(1958)による日本海における夏季の水系模式によると、日本海固有水は、「中間水:水温 5℃前
後、塩分 33.78∼34.02psu」
、
「深層水:水温 1℃前後、塩分 34.07psu 前後」
、
「底層水:水温 0.5℃
以下、塩分 33.95∼34.12psu」に分けられる。
(た)
タラソテラピー(海洋療法)
海水・海藻・海洋性気候のもつ医学的な治療効果を治療目的として利用する自然療法で、ヨーロッパ
を中心に盛んで次第に世界に広まっている。ギリシャ語のタラッサ「Thalassa=海」とフランス語の
セラピー「Therapie=治療」の造語で、1876 年フランス人医師ラ・ボナディエール博士によって命名
された。
(ち)
着底管路
取・放水管路の設置構造形式の一形式であり、海底地盤に対して着底した形で配管・設置した管
路構造をいう。
(て)
低温特性
清浄性・富栄養性と並ぶ海洋深層水が持つ三大特性の一つ。表層の海水は季節によって大きく変
化するが、これより深いところにある深層水は季節の影響を受けずに一年を通じて安定した低温を
示すようになる。
電気透析
海水淡水化法の一種である。陽イオンしか透過しない陽イ
オン交換膜と陰イオンしか透過しない陰イオン交換膜を交互
に設置し、電圧をかけることにより海水を濃縮液と脱塩液
(水)に分離する方法。
淡
濃
Na
Na
Na
Cl
Cl
Cl
xiv
淡
プロジェクト用語集
テンドライト氷
氷の結晶構造の一種で樹枝状結晶のことをいう。これは、結晶性生成時の過冷却度の増大により、
平面で囲まれた形態を安定に維持した成長が困難になることによるものである。
(ね)
熱源中央(分散)方式
空調設備に利用する冷温水、蒸気等の熱媒を発生する為の装置の方式で、冷凍機、ボイラなどの
熱源機器をその建物の用途、使用勝手、規模に応じて中央の 1 ヶ所の機械室等に設置する方式と、
階層別、エリア別に分散させて設置する方式がある。大規模な貸しビル等では、エリア別に使用時
間、使用頻度等の違いがあり、熱源機器を分散させたほうが省エネ効果が高いといえる。
(は)
半浮遊式海底曳航法
管路の外周を傷つけずに形状を保持した敷設を行うために、海底に接触させないで敷設する工事
方法。管路が大口径となると本工事方法が適している。
(ふ)
ファンコイルユニット
小型空気調和機のひとつであり、冷温水コイル、送風機、エアフィルタ、ケーシング等から構成
されており、冷水・温水等の供給を受け室内空気を循環させることにより、冷暖房を行うユニット。
富栄養化
水の出入りの少ない閉鎖性水域では、工場排水、家庭排水、農業排水などにより水中の栄養塩類
である窒素、リンなどが増えると藻類やプランクトンなどが太陽光線を受けて爆発的に増殖し、そ
の後の腐敗過程で水中の酸素が消費されて貧酸素化するために、生物群集の安定した維持が不可能
になる現象。
復水器
蒸気原動機に用いるタービン排気蒸気を冷却してボイラ給水を生成する熱交換器であり、蒸気
タービン出口圧を低下させることによりタービン有効利用熱量の増大を図る。
フジツボ類
岩等に付着する固着性の甲殻類。底の平たい円錐状の殻に包まれている。船底や取水管等にも付
着することから、水の流れを悪くするなどの被害を及ぼすことがある。
浮遊管路
取・放水管路の設置構造形式の着底管路に対して、海底地盤面に浮かして配管・設置した管路構
造を言う。また、浮遊管路には一点係留方式のものと多点係留方式の 2 形式の管路がある。一点係
留方式管路は管先端部と陸側端部とをシンカーで固定し、その間の管路を逆カテナリー状に浮上さ
せて配管する構造であり、多点係留方式管路は管先端部から陸側端部までを数 10m ピッチ程度にハ
xv
プロジェクト用語集
ンガーワイヤーを配置し、管を浮かした状態で固定、配管する構造である。
噴流
ジェットともいわれ、ノズルや管から流体が連続的に噴出する形態。
(ほ)
ボックスモデル
モデル化する領域を均一とみなせる大きさの複数個のボックスに分割し、そのボックス間の物質
収支を計算することにより、その物質の濃度、現存量などを計算するモデル。通常、数値シミュ
レーションよりも簡便な方法として用いられる。
ホンダワラ類
大型の海藻類でホンダワラ、ノコギリモク、ヒジキ、アカモク、ヨレモクなどがある。藻場を形
成することから海中植林に用いられる。
(ま)
マクサ
別名テングサ。10∼30cm 程度の大きさで、寒天の材料として重要な海藻であり、初夏から初秋
にかけて採集される。
膜ろ過
膜の孔径より小さな物質だけを通過させる分離方法。膜の孔径が大きい順に精密ろ過膜、限外ろ
過膜、ナノろ過膜(nanofiltration:NF 膜)、逆浸透膜(reverse ososis:RO 膜)がある。膜の材質は
有機高分子、セラミック等があり、用途に応じて使い分ける。また、膜の形状も平膜、管状膜、中
空糸膜(ストロー形状)に分かれる。
(→逆浸透膜)
(も)
藻場
沿岸域にみられる大型海藻・草類の群落。魚介類やイカ等、海の生物の繁殖や生活の場として重
要な場所である。環境庁(1997)によると、藻場とは面積が 1ha 以上、水深 20m 以浅に分布するもの
としている。藻場のタイプとして①アマモ場、②ガラモ場、③コンブ場、④アラメ場、⑤ワカメ場、
⑥テングサ場、⑦アオサ・アオノリ場、⑧その他に区分している。
藻場造成(海中植林)
アラメ、カジメ、ホンダワラなどの大型海藻類を移植し、人工的に藻場を作ること。砂泥域等に
ついては、着生基盤となるブロックや波消ブロックなどの構造物を設置する必要があることもある。
(ゆ)
有光層
植物プランクトンが光合成を行うための太陽光線が届く浅い部分で、植物プランクトンの1日の
光合成量が呼吸量を上回る水深以浅をさす。
xvi
プロジェクト用語集
(ら)
ランキンサイクル
非可逆熱サイクルの一種で、蒸気タービンの理論サイクル。蒸気
原動所における最も単純な基本的サイクルであって、給水ポンプに
おける水の断熱圧縮、ボイラーにおける等圧加熱、蒸気タービン又
は蒸気機関における蒸気の断熱膨張、及び復水器における等圧冷却
の4過程からなり、熱エネルギーを機械的仕事に変換するための蒸
気サイクルの一形式である。
xvii
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
Ⅰ.事業の位置づけ・必要性について
1.
NEDO 技術開発機構の関与の必要性・制度への適合性
1.1
NEDO 技術開発機構が関与することの意義
〔事業の位置づけ〕
1997 年 12 月に開催された「気候変動枠組条約第三回締結国会議(COP3)」におけ
る議定書に示されたように、地球規模の環境保全と経済的発展の調和は緊急の課題となっ
ており、日本でも諸外国と歩調を合わせて取り組むべき国家の課題である。経済産業省は
取り組みとして、環境・エネルギー・経済のバランスのとれた持続可能な社会の構築に取
り組んでいる。
一方、四方を海洋に囲まれている我が国にとって、海洋資源を有効に利用することは将
来の資源・エネルギー問題にとって重要なテーマである。とりわけ 200∼300 メートル以深
に存在する海洋深層水 *(本原簿では以降、「深層水」という。)は表層の海水とは異なり、
低水温性、清浄性、富栄養性等の特長を有することから水産分野等では 1980 年代後半より
基礎的な研究が行われてきた。
この深層水は地球規模での自然循環により再生される自然エネルギーのひとつとして将来
のエネルギー源としての可能性に注目できる。また、淡水やミネラル、鉱物資源など地上か
ら海中に流出し地上資源が限界を向かえていく場合にも新規な供給源としても大きな可能性
がある。しかし、深層水は、再生型資源として有用な未利用エネルギー源のひとつであるが、
一方では深層水の温度は 1∼10℃であり大気温との差が小さく化石燃料等に比べてエネルギ
ー密度が低いため、冷熱源としてエネルギー利用する場合を考えると必然的に従来にない大
量使用が必要である。また、産業利用を考えた場合にも経済的に取水するためにも大量取水
は有効である。しかし、一方では、このような大量取水に伴う地域環境のみならず地球全体
での環境への影響がどう現れるのか、どの程度なのかを事前に予測して、かつ適宜モニタリ
ングする基盤つくりも欠かせない。また地域特性に応じた開発への配慮も必須である。
そこで、本事業ではこれらの目標に対する技術課題を抽出して産学官の幅広い知見を集め
た総合的な開発事業として実施することとした。
*
海洋深層水に関する参考資料は、例えば、
1)“海にねむる資源
海洋深層水”
2)“21世紀の循環型資源
高橋正征、あすなろ書房(2003 年).
海洋深層水の利用”
中島敏光、緑書房(2002 年)
〔事業の目的〕
本事業は、年間を通して低温安定性を有する深層水を火力発電所の復水器冷却水へ利用
することにより期待される発電効率の改善効果の検証と省エネルギー効果を示し、深層水
の多目的利用及び多段階利用についてその実用化を検証することを目的とした。また、利
用後海洋へ還流した場合には、深層水の富栄養性により、植物プランクトンの増殖や藻場
-1-
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
の造成が促される結果、放流海域での生物的 CO2 吸収による温暖化対策も期待できると予
測された。
〔国又は NEDO 技術開発機構の関与の必要性〕
深層水の取水については、世界的に見て日量 10 万トンクラスの取水技術はあるものの、
発電所等で必要となる 100 万トンクラスの大量取水の安定供給技術はまだ実証されておら
ず、この確立を行う必要がある。しかしながら、本技術の実現可能性に関する知見が乏し
く、さらに実用化に際しての経済性評価等は行われておらず将来の普及予測の困難さから、
現状では民間主導では技術開発の促進は望めない。加えて、深層水汲み上げ及び放流に関
して環境影響に対する評価手法も確立されていないことから、公平な立場での評価手法の
確立およびそれを用いた環境影響の評価が必要である。また、深層水の大規模取水および
その有効利用は海洋開発の一つとして位置づけられ、実用後の公益性は高く、深層水利活
用が地域振興の有力な方策として取り上げられている昨今の状況からも、国策として基盤
整備が急がれている。
以上の点を考慮し、深層水をエネルギー資源として利用するための技術開発は、国及び
NEDO 技術開発機構が主導して行うことが必要である。加えて経済性の向上や環境影響評価手
法を確立することにより、民間で自主的に利用できるようにすることが必要である。
1.2
制度への適合性
本研究開発は、根拠法として、「エネルギーの使用の合理化に関する法律(昭和 54
年法律第 49 号)」第 21 条の 2 第 1 号に基づき、独立行政法人新エネルギー・産業技術
総合開発機構(以降、NEDO 技術開発機構と記載する。)が経済産業省からの補助金を受
けて実施する事業である。
国の施策として、経済産業省では「海洋深層水の多目的・多段階利用の推進」が進
められている。その目的は、
「深層水の低温性に着目し、これまで未着手であった発電
所の冷却水への利用ばかりでなく、冷暖房需要、水産及び食品流通等での大量の低温
エネルギー利用など省エネ利用システム等エネルギー分野における多目的・他段階利
用のための研究開発を行う」とされており、省エネルギーと資源利用に関する本プロ
ジェクトの制度への適合性は十分に認められる。
-2-
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
1.3
実施の効果
本事業における実施の効果として、深層水を火力発電所の復水器冷却水として利用する
場合につき、省エネルギーと炭酸ガスの排出削減の効果、そして、経済性に関する本事業
の効果を述べる。
深層水を冷却に用いる効果は、発電所の冷却効率の向上である。火力発電所では、高圧
の蒸気にてタービンを駆動させることにより発電を行うが、タービン通過後の蒸気圧が高
いと蒸気が流れにくくなることから、タービン通過後の蒸気を海水で急冷し、蒸気を水に
戻し気圧を下げている。現状の火力発電所においては、海水の表層水を復水器の冷却に利
用しているため表層水の水温は年間の変動が大きく、例えば中部地方の海域では10℃∼3
0℃の間で変動する。この表層水に代えて、低温(常時1∼10℃以下)で年間の変動の少な
い深層水を冷却水として利用することにより、真空度が上がることから、発電効率の改善
がなされる。また、冷却設備の小型化による設備費の削減も実現できる。
〔省エネルギー効果〕
本プロジェクトの目標である火力発電所における 0.5∼1 ポイント *の発電効率向上という
値の省エネ効果は、発電所においては、規模が大きいだけに確立された現状技術を元にしつ
つ、復水器冷却を深層水による冷却に切り替えるだけで、0.5 ポイント *(既設発電施設への
適用)から 1 ポイント *(新設発電施設)向上することは非常に大きな省エネ効果となる。
既設発電所適用、新設発電所適用の事例につき省エネルギーの効果を定量的に見積もると
以下のようになる。
*
ポイントとは:本事業の目標値として、既存発電所で 0.5 ポイント以上、新設で 1 ポイン
ト以上の発電効率向上として設定した。ここでいう“ポイント”とは、例えば、40%の発電
効率の設備において発電効率の向上により 41%になった場合、「1 ポイントの発電効率向上」
として表わす単位である。
ア) 既設設備への適用
火力発電所(60 万 kW 級)へ適用した場合に、発電効率 40%の発電所で 0.5 ポイントの向上
により 40.5%になると、電力増分は
60(万 kWh)×24(時間/日)×365(日/年)×1(稼働率)×(0.405-0.40)/0.4
⇒6,570 万 kWh/年
省エネ量は、60 万 kWh 級プラントでの原油換算で、
6,570 万(kWh)×0.2356(㍑/kWh)1)=15,479(㌔㍑)
⇒1.55 万㌔㍑/年
イ) 新規設備への適用
新設発電所では、発電効率の向上による効果の目標値は1.0ポイントである。この場合
-3-
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
燃料削減による効果は、電力増分では、
60(万 kWh)×24(時間/日)×365(日/年)×1(稼働率)/(0.41-0.40)/0.4
=13,140(万 kWh)
省エネ量は、60 万 kWh 級プラントでの原油換算で、
13,140 万(kWh)×0.2356(㍑/kWh)1)=30,958(㌔㍑)
=3.10 万㌔㍑/年
〔炭酸ガス(CO2)の排出削減効果〕
省エネルギーによる原油削減は同時に炭酸ガス(CO2)の排出削減にもつながり、下記のとお
り換算される量の炭酸ガスの排出削減となる。
ア) 既設設備への適用
既設発電所(中部地域、60 万 kW 級)に適用し、発電効率向上の目標値である 0.5 ポイン
ト向上した場合
CO2 排出削減量=1.55 万㌔㍑/年×38.2(MJ/㍑) 1)×0.0684(kg-CO2/MJ) 2)
=4.05 万 t-CO2
イ) 新規設備への適用
新設発電所(南方地域、60 万 kWh 級)に適用し、発電効率向上の目標値である 1.0 ポイン
ト向上した場合、
CO2 排出削減量=3.10 万㌔㍑/年×38.2(MJ/㍑) 1)×0.0684(kg-CO2/MJ) 2)
=8.10 万 t-CO2
〔経済効果〕
前述のとおり、現状の火力発電所において冷却に用いている海水の表層水(中部日本海域
では 10℃∼30℃の間で変動)では取水と放水の温度差を7℃としているが、富山湾の例では
一年中、1∼3℃という深層水を利用することで温度差を 10℃以上とできるため、大幅な冷却
設備の小型化が可能で、60 万 kW級の発電所の新設を考えた場合、年間あたり約 4 億円の経
済効果が試算される。これと新設の場合の1ポイントの電力増分は 13,140 万 kW であり、稼
働率 80%、電力単価 10 円/kWh と仮定して経済効果を算出すると、
13,140 万(kWh/年)×0.8(稼働率)×10(円/kWh)=10.5(億円/年)
そこで、経済効果は年間あたり、10.5+4=14.5(億円)と試算される。
この値は、基本計画の深層水の設備投資額 100 億円に対して、単純回収年数は、7 年程度、
研究開発総額 20 億円の内、国費投入 14.3 億円に対しても 1 倍程度である。
また既存の発電所への適用の場合には年間 6,570 万 kWh の電力増分で、新設発電所と同じ
仮定をすると、6,570 万(kWh/年)×0.8(稼働率)×10(円/kWh)=5.2(億円/年)が経済効果
と考えられる。
この他に、既設の発電所では取放水口や管路内部に付着する生物除去は大きな問題であり、
その費用負担も大きい。深層水を利用した場合には海中生物が表層水に比べ少なく、取水設
備、放水設備に付着する貝等生物は殆どなくなると予想され、場所によっては維持管理費用
-4-
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
として年間で約 1 億円程度の経費節減の効果も期待される。尚、深層から海水の汲みあげは
水圧差を利用した自然流下方式(本文 57 頁参照)によるために、深層水利用で考慮すべき運
転費の負担増は取水設備費分だけになる。
また、これ以外に、大量の深層水が取水されると、その一部を用いて、低温庫や空調シス
テム、シャーベット氷の製造等など、地域のニーズに応じた、省エネルギーシステムを作り
出せる。これらのシステムでは、現有システムと比較して消費電力が 50%以上削減されると
考えられる。また、資源としての利用は産業育成や活性化が図られ、これらの経済への波及
効果も期待される。
1),2)
引用は、下記によった。
1)電力から原油への換算:電力 (発電時) 原油1㍑=38.2MJ、1kWh=0.2356 ㍑
a)「エネルギー源別発熱量の改定について」資源エネルギー庁(平成 13 年 3 月 30 日)、
エネルギー源別発生熱量一覧表
b)NEDO 技術開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発」公募要領別紙単位換算
2)炭酸ガスの換算(排出係数換算値):0.0684kgCO2/MJ
・「事業者からの温室効果ガス排出量算定方法ガイドライン(試案)」
環境省地球環境局
平成15年7月)
-5-
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
2.
事業の背景・目的・位置づけ
2.1
事業の背景・目的・意義
本プロジェクトで利用しようとしている深層水は水深 200m∼300m 以深の海水を指し、太
平洋側では北太平洋中層水、日本海側では日本海固有水という循環型資源である。この深層
水は、清浄で、周年的に低温であることから、これを火力発電所の冷却水、低温庫や室内の
空調などへ利用できれば大きな省エネルギー効果が得られる。
〔本プロジェクトの背景〕
海洋深層水の低温性に着目した取り組みは古くから研究されてきたが、実用化検討の歴史
は比較的浅い。海洋深層水の取水施設に関しては、国内では 1989 年に初の陸上型利用設備が
高知県に設置され、続いて、富山県、沖縄県、静岡県等に設置されているが、いずれも日量
1 万トン程度以下である。また、海洋深層水の利用は、水産や脱塩水、化粧水、タラソテラ
ピーなどへの産業利用である。国外においても米国のハワイに日量 10 万トン程度の取水施設
があるが、室内冷房や農業利用等一部冷熱エネルギー利用をしているにすぎない。
即ち、現時点では、省エネルギーの観点から発電所冷却水への利用を考慮して、日量 100
万トンという大量の深層水を取水した事例は見当たらない。
〔本プロジェクトの目的〕
そこで本プロジェクトでは、深層水を安定的かつ経済的に大量取水する技術開発、深層水
の低温性を十分に生かした省エネルギー技術開発、大量の海洋深層水取水と海域に還流した
ときの環境影響評価、本プロジェクト成果を活用したシステムを日本各地に普及・展開する
ために、社会条件や地形、気象などの自然条件を勘案した上で、多段階有効活用を含めた最適
利用形態を提案することを目的とした。
〔本プロジェクトの意義〕
本事業の意義は、再生可能な自然エネルギーである海洋深層水の低温特性を利用して、火
力発電所の復水器への適用による発電効率向上により、省エネルギーと CO2 削減が期待でき
る。従来未利用であった、海洋深層水の恒常的な冷熱エネルギーの有効活用は、国が目指す
技術開発による炭酸ガス排出量削減の目的にもかなうものである。
また、これまでの取水規模と比較して大量の取水技術を開発することにより、深層水単位量
あたりの取水価格が大幅に低下し、エネルギー利用に対しても経済的成立が可能となること
が期待できる。
また、海洋深層水の取水及び放水に伴う環境影響評価法を確立し、藻場造成や植物プラン
クトンの増殖効果、あるいは CO2 削減効果など環境へのプラス効果と、取水・放水に伴うマイ
ナス影響について明確化し事業性判断のための知見を得る。環境影響評価手法を策定してお
くことは、実用化を推進する上からも重要である。
また、海洋深層水の最適利用形態を実用化できれば、新しい再生循環型産業システムが構
-6-
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
築され、日本のみならず、特に熱帯・亜熱帯の島諸国を含めた海外での地域振興策ともなり、
地域の発展に貢献できる、等の意義がある。
〔本プロジェクトの概念〕
本事業は、深層水を発電所の冷却水利用を中核とした冷熱エネルギー利用を行い、画期的
な省エネルギー技術を開発するもので、図1では深層水を利用した社会システムの概念を示
した。取水した深層水は、発電所の冷却に利用され放流されるとともに、一方ではその一部
を地域冷房に利用するほか、深層水に含有する資源利用として各種の産業創出やタラソテラ
ピー等の健康利用に供される社会のイメージを示した。
このように深層水利用の産業社会は、深層水の低温性をはじめとした特長を活かし、多目
的・多段階に利用を推進してより循環型に近づく社会システムを後押しすることが本事業の
概念である。
図1.発電所を核とした深層水の資源・エネルギー利用研究の概念図
資源・エネルギー利用技術
環
取水・放水技術
境
影
響
の
評
価
発電 所を 核と した 資源・エネ ルギ ー利 用
技
術
大量取水
立地条件別のシステム設計・評価技術
引き続いて、深層水の特徴である「低温安定性」、「清浄性」、「富栄養性」を利用する本プ
ロジェクトの狙いに関して、その概念図を下記の(図2)に示した。
1番目の特徴である「低温安定性」は、発電所復水器、空調・冷凍、農漁業等への冷熱利
用によるエネルギー利用に用いる。とりわけその低いエネルギー密度を有効に利用すること
を考える、発電所の蒸気サイクル(ランキンサイクル)へ活用することで大きな効果を得る
-7-
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
としたことが、本プロジェクトの大きな特長である。
次に、2番目の特徴である「清浄性」は、発電所の冷却水に用いた場合における取水設備
の付着物の大幅な低減によるメンテナンスコストの低減などに大きな効果が期待できる。こ
の他に、資源利用として塩分及びミネラル分の濃縮や脱塩淡水化においては濾過などの前処
理の負荷を軽減することができ、食品、美容、健康産業等に適用による経済効果や省エネの
効果が期待される。
また、3番目の特徴である「富栄養性」は、冷却に利用した後の放流により、地域の海域
の海藻や植物プランクトンの増殖効果による炭酸ガス固定が期待される。この他に、磯焼け
の改善や漁場形成等が期待できる。
一方、これら一連の資源・エネルギーのカスケード利用の反面、人為的に大量の深層水を
取水し放水することによる環境へのマイナス影響も含めた評価が必要である。また、深層水
の利用は単一の産業だけでなく日本の取水可能な各地点の地域の特徴を考慮し、経済性のあ
る利用形態のシステム提案と LCA 的評価を行い、導入の効果を評価することも重要である。
図2
深層水の特長を活かした多目的・多段階利用
海洋深層水
低温安定性
清浄性
富栄養性
取水
・日量100万m 3 レベルの取水技術
環
境
影
響
エ ネ ル ギー資 源 の 利 用
・発電効率の改善技術
発電所復水器適用
ガスタービン吸気冷却
農漁業
野菜・花卉栽培
藻類培養
魚介類の蓄養・種苗
生産・養殖
その他の資源の利用
・新産業・新製品の創出
(濃縮技術・ミネラル調整
技術・抽出技術)
食品分野 での利用
(食塩、発酵食品、飲料水など)
美容・健康・医療分野 での利用
(タラソテラピー、化粧水など)
農業分野 での利用
(土壌改良など)
二酸化炭素の生物固定化技術
環境改善型の放水
植物プランクトンによる固定
海藻育成による固定
磯焼けの改善技術
-8-
の
カ
ス
ケ
ー
・ ・
モ環
ニ境
タ影
リ響
ン評
グ価
技技
術術
空調(冷房)技術
冷凍・冷却技術
シャ−ベット氷製造
ー
・冷熱利用技術
一般産業利用
深
層
水
資
源
・
エ
ネ
ル
ギ
ド
利
用
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
2.2
事業の位置づけ
本事業は、省エネルギーの観点から深層水を利用することの産業技術としての見極めを目
指すものである。日量 100 万トンの取水量は、発電所の冷却水利用の場合には取放水温度差
にもよるが、概ね 60 万 kW 級の火力発電所の冷却水流量に該当する。取水パイプは現在の建
設技術で建設可能な規模として、直径 2m 級を見込むが、今までの設置事例がなく、また、敷
設方式や設置工事など多様な技術要素検討が必要なため、民間企業では研究投資リスクが高
く、単独では取り組むことが困難である。また、海洋深層水の冷熱利用、資源利用技術に関
しても機器設計や利用方式は既知であるが産業として実用化事例がなく、多用途にわたる実
用化事例を検討するには単独企業等での実施は困難である。
これら新規産業の生産活動の基盤となりうる開発テ−マは、産業技術政策における事業の
類型では、実用化開発・実証支援の事業としてとらえられる。
一方、日量 100 万トンという規模の大量の深層水取・放水における環境影響評価について
は、従来に体系的になされた経緯が殆ど無く、また生態系に及ぼす影響についても不明な部
分が多いことから基盤的研究として、また、立地条件別の産業社会への最適システム設計と
評価に関する研究も、共通基盤的な研究として位置付けられる。
-9-
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
1.
事業の目標
本研究開発は、深層水を大量かつ高効率に取水する技術、深層水を資源・エネルギーとして
利用する技術、海域に放流する際の環境影響評価技術、国内での最適システム設計・評価技術
の4つの技術分野からなる。
これら4つの技術目標を達成し、発電効率の向上した火力発電所を中核とした、深層水の冷
熱エネルギーを活用した多目的・多段階利用システムを確立し、深層水の資源利用、エネルギ
ー利用を促進することが目標である。
4つの技術分野については、以下の目標を設定し、研究を実施する。
(1)モデル実証研究
①資源・エネルギー利用技術研究
深層水の保有する冷熱性、清浄性を活用し、長期使用においても伝熱性能の低下がなく、か
つ通年で安定した冷却特性を有する高効率でメンテナンスフリーな冷却システム技術を確立
し、発電所や建物の冷房・冷凍倉庫に適用する際の性能評価や実機実証等を行う。発電効率は、
復水器の大幅な設計変更なしで、冷却に温度変化の季節変動のある表層水の代わりに低温で安
定している深層水を用いることにより、既設発電所で 0.5 ポイント、新設で 1 ポイント上昇す
ることを目標とする。この値は、発電効率 40%の発電所の場合、それぞれ発電効率を 40.5%、
41%に効率が改善されるので、燃料消費では、既設発電所で 1.23%、新設発電所で 2.4%減少
させるものであり、効果の大きな省エネ目標である。
また、深層水の低温・清浄特性を利用して、低温貯蔵、空調システム、冷凍システム、シャ
ーベット海水氷製造の各システムを検討し、深層水の有する冷熱を活用することにより、経済
的成立性のあるシステムを提案することも目標である。
②深層水取水技術開発研究
300m 以深から日量 100 万トンの深層水を取水する施設については、深さ、規模の面から見て
世界に現存していないため、実用化に向けては我国の立地環境条件へ合致することも含め、適
用性の高い形式の絞込み検討に加え、机上検討による主要事項についての実用化評価検討と課
題抽出、抽出された課題を中心に小規模実証実験による検証、パイロット事業等による実用化
規模に向けての段階的実証実験と実用化検証と言った大きな段階的研究開発が必要と考える。
このため高効率化、低コスト化、メンテナンスフリー化を目的に適用可能な各要素技術(材
料、動力源、構造、設置技術等)の比較検討を行い、代表的/汎用的システムについてモデル
実証試験を実施し、効果の定量把握を行い、自然条件、利用形態等に応じた最適な取水システ
- 10 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
ムを提案する。
(2)基盤研究
③環境影響評価技術等研究
大量の深層水の取・放水を可能とするためには、海域環境に及ぼす環境影響項目の抽出、
評価手法の確立、実際の評価が必要である。また、深層水を海域へ還流し、その特徴(富栄養
性、低温性等)を有効に利用することによって、海域環境の修復が期待できる。具体的には海
域における海藻や植物プランクトンの増殖に伴う生物生産の増大が期待でき、深層水の適正
な放水方式を開発することにより、環境保全と沿岸域の生物量増大に利用することが可能と
なる。
このため既存の取水設備等を利用した深層水の特性、生物連行等に係わる実態調査及び基礎
実験等を行い、環境影響項目を抽出し、評価法を確立し、実際の評価を実施し、また、深層水
を利用した海域肥沃化技術を検討する。これらにより深層水の取放水およびエネルギー利用に
よる CO2 固定効果を定量的に評価する。
④立地条件別最適システム設計・評価研究
深層水利用のためにわが国における地形、地質、海象等の自然条件、陸域における産業構造
等の社会条件などにより、実用化適地の立地条件を調査し、その類型化(モデリング)を行う。
その後、実用化のための項目(省エネ効果、CO2 固定効果、産業創出効果、技術そのものの波
及性、経済性等のいわゆる全体目標)を明確にし、取水、資源・エネルギー利用、環境影響評
価研究の成果をフィードバックして評価する。最終的には、モデル別最適システム設計とLC
A的評価手法を確立し、総合評価する。
- 11 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
2.
事業の計画内容
2.1
研究開発の内容
(1) 全体計画
本計画は、当初の3年間で本プロジェクトの基本的な検討と概略を評価し、実用化のための
問題点を明らかにするとともに実証試験を設計し、後半の2年間では、深層水取水利用システ
ムが成立するために必要な項目の実証実験を実施、評価したものである。
研究開発は以下の4項目で、モデル実証研究では、①資源・エネルギー利用技術研究と②深
層水取水技術開発研究を補助率 50%事業として実施し、基盤研究では、③環境影響評価技術
等研究と④立地条件別最適システム設計・評価は、補助率 100%事業として、平成 11 年から
平成 15 年までの5年間のプロジェクトとして実施した。
具体的な内容は、表 2.1-1 の研究開発の年度計画に示す通りである。
表 2.1-1 研究開発の年度計画
研究開発項目
H11
実施内容
H12
H13
H14
H15
H16
【モデル実証研究】
①資源・エネルギー利用技術研
究
(1)発電効率改善技術
(2)冷熱源代替技術
低温貯蔵
空調システム
シャーベット海水氷製造
オフライン熱供給システム
(3)資源有効利用技術
濃縮塩水とミネラル調整技術
(4)深層水循環系
多目的・多段階利用システム
②深層水取水技術開発研究
【基盤研究】
③環境影響評価技術等研究
(1)管路設置構造形式の選定
(2)管材料の選定
(3)敷設技術の選定
(4)高速通水管路の実用化技術
(5)メンテナンスフリー化への対応等
(6)施設敷設費の低減化
(1)環境影響評価手法
(2)海域肥沃化研究
調
査
・
机
上
検
討
実
験
設
備
・
導
入
実
機
実
証
・
評
価
調
査
・
設
計
モ
デ
ル
施
設
施
工
実
証
運
転
・
試
設
計
調
査
試
験
と
解
析
評
価
整
理
・
策
定
調
査
モ
デ
ル
構
築
提
案
整
理
(3)CO2収支の検討
④立地条件別
最適システム設計・評価研究
(4)環境影響モニタリング手法の策
定
(1)適地類型化および
利用システムの設計
(2)立地条件別最適
利用システムの設計・評価
(3)実用化・事業化に向けた課題整
理
委員会(深層水新産業利活用委員会、各分科会)の開催
評価の実施
- 12 -
○
○
○
●
中
間
評
価
○
○
●
事
後
評
価
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
(2)
研究開発項目毎の内容詳細
【モデル実証研究】
①資源・エネルギー利用技術研究
エネルギー利用及び資源利用技術に関する研究は本プロジェクトの主課題であり、深層
水の低温特性を効率的に利用できるシステムを提案・検討し、その省エネ特性、経済性を定
量的に把握する。また実用化のために必要な課題を抽出し、実証試験を行う。より詳細は
以下の通りである。
・ エネルギー関連設備(特に発電システム)に適用し効率改善や出力増大を目指すために、
蒸気サイクル(ランキンサイクル)発電への適用による発電効率向上を数値モデルによ
り検討する。
・ 深層水の低温・清浄特性を利用して、空調システム、低温貯蔵、冷凍システム、シャーベ
ット海水氷製造の各システムを検討し、設置コスト、省エネルギー効果を定量化し、経
済性のあるシステムを提案する。
・ 清浄性に着目して海水濃縮と淡水化についても技術見通しと省エネルギー量を定量評価
する。
②深層水取水技術開発研究
取水技術の開発に関しては、国内外に前例のない大量な深層水を安価・安定的に取水す
る技術を開発するために、既往の技術を調査し、問題点を把握する。これらの結果から実
用化に際して必要な開発条件を抽出し、技術的、経済的に可能な取水技術を比較検討し、プ
ロジェクトが成立する取水技術を提案する。経済性に関しては、エネルギー利用の面から条
件が付けられるので、これを目標にコストダウンする技術を開発する。より詳細は以下に
示す通りである。
・ 構築面に関しては、水路形式として管路形式、小口径ボーリング形式、ギャラリー形式
の3形式を中心に研究開発する。
・ 構造面に関しては、コスト縮減の方策を探索しより経済性の向上を図り、且つ、現有の
施工技術・施工機械で対応出来るよう、水路口径の小口径化、高速取水技術の確立に主
眼をおく。
・ 取水管の設置についても種々の方式を精査し立地に応じた適切な方策を提言する。
・ 放水路については、植物プランクトンの増殖のために考えられている水深 20m 程度への
放水技術に関して、取水技術の研究開発の延長線上で考える。
【基盤研究】
③環境影響評価技術等研究
大量の深層水の取放水はこれまでに国内外に例が無く、その環境影響評価を行うこと
は、本技術の成立にとって不可欠である。このため以下の項目を検討して環境影響を予測
する評価手法を提案する。
・環境影響評価
海洋深層水の取水・放水による影響評価項目として,取水では生物連行等、放水口では
- 13 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
温度と栄養塩濃度変化の複合的作用による海域の富栄養化、赤潮発生の可能性、藻場等、
海域環境に及ぼす影響を抽出し、既存の深層水取水施設での実態調査、室内実験等とこれ
に基づく数値モデルによって検討し、影響のレベルを推定する。
・海域肥沃化効果評価
深層水を沿岸域に放流することによって、植物プランクトンや海藻の増殖を促進し、海
洋の生物生産活動の活性化や、海洋における CO2 の固定量を増大できる可能性がある。こ
のための有効な放流方式を提案し、その効果を水理実験やシミュレーションにより定量化
する。
・CO2 収支の検討
深層水を汲み上げ、放流した場合、深層水中の CO2 が大気中に放出される。一方で深層
水中に高濃度に存在する栄養塩類によって植物プランクトンや海藻の増殖が促進され、大
気中に放出された CO2 を再び海洋に吸収されることになる。また、汲み上げた深層水によ
る発電効率の向上によるエネルギー削減が、深層水を汲み上げて利用する場合のトータル
としての CO2 収支となる。深層水の利用によってどの程度の CO2 の放出削減が期待できるか
を推定する。
④立地条件別最適システム設計・評価研究
国内外の深層水利用施設の実態調査、及び現在、調査・計画中の深層水利用設備、技術動
向を調査し、本技術が適用できる地域の地形、気象、海象などの自然条件、産業、人口な
どの社会条件を勘案して立地の適地類型化を行う。
これをもとに机上検討により、各地域における予備的なシステム設計を複数パターン行
い、取水、資源・エネルギーから得られた結果を加えて、典型的な地点での最適システムを
設計し、その経済性、省エネルギー性を定量化する。また深層水を冷却水に利用した火力
発電所のLCA的評価を行い、総合評価する。
- 14 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
2.2
研究開発の実施体制
深層水という海洋資源を有効活用しその成果を社会に還元するためには、エネルギー及び
資源利用についての実証及び実用化研究、そして、これと並行して環境影響や社会システム
への適合性評価といった共通基盤的研究の両面からのアプローチが必要である。
このため、大学の基礎的・学術的なポテンシャルと民間企業等が保有する技術シーズ、海
洋関連の研究調査機関の情報、地域研究機関との融合と連携により研究開発の達成が可能と
考えて体制を組んだ。
(1)
推進体制
○第一期推進体制(調査、導入)
平成 11 年から平成 13 年までは、NEDO 技術開発機構が公募して選定した社団法人日本海洋
)への共同研究(委託)により推進した。実施体制の特
開発産業協会(以下 JOIA 注)という。
徴は、本事業の関連分野が、海洋資源開発を主としながら、資源、エネルギー、化学、材料、
機械、環境、シミュレーション等、広い範囲を占めるため、延べにして、企業 31 社、4 大学、
2 自治体、3 財団法人、1社団法人が委託(共同研究)あるいは再委託として参加した。プロ
ジェクトとしての参加団体の数および参加研究員の数の多さからも大きな波及性がある研究
プロジェクトといえる。
この体制で発電とともに冷熱利用等、深層水のポテンシャルを活かしたエネルギー利用研
究を進めた。
図 2.2-1 は、平成 11 年度から 13 年度までの体制を示す。
注)社団法人日本海洋開発産業協会は、平成 16 年 10 月1日に財団法人エンジニアリング振興協会に
統合された。
○第二期推進体制(集中化)
平成 14 年及び 15 年には、これらの研究成果、調査成果を反映して近い将来に実現性があ
り且つ緊急性と省エネルギー効果の大きい研究開発項目に特化することとし、4分野の中で
も、モデル実証試験と環境影響評価研究への重点化を図った。
そこで、JOIA の他に、それまで再委託先であった、清水建設株式会社(深層水取水技術)
及び株式会社関西総合環境センター(環境評価技術)を連名共同研究(委託)先として追加
した実施体制とした。
図 2.2-2 は、平成 14 年度及び平成 15 年度の体制を示す。
事業推進では、JOIA に研究開発責任者をおき、基盤研究とモデル実証研究についての実施
では、東京大学、東京工業大学、東海大学の大学関係者、産業総合研究所や水産庁、また、
電力企業や電源開発株式会社、自治体、水産分野等の外部委員を入れた深層水新産業利活用
委員会(表 2.2-1)を設置して、企画と推進管理を行った。
研究開発項目は、4分類して分科会に大別し、各分科会にはリーダーを置いて推進した。
4分科会では選任された4リーダーを中心に、それぞれプロジェクト参加企業、大学、自治
- 15 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
体等の専門研究者が集結して議論を進める一方、分科会間では、深層水を取水する技術、資
源エネルギーとしての利用研究、取放水に関わる環境影響評価技術、各研究開発成果を総括
してシステム提案する形で、立地条件別最適システム設計・評価研究が総括する形で連携を
取り推進した。各分科会の委員会では企業において異動等があったが、本原簿では例示とし
て平成 15 年度の委員リストを表 2.2-2 ①∼④に示した。
経済産業省(METI)
NEDO技術開発機構
委託(共同研究)
(社)日本海洋開発産業協会
(JOIA)
○深層水新産業利活用委員会
○分科会
・立地条件別最適システム設計・評価研究分科会
・深層水取水技術開発研究分科会
・環境影響評価技術等研究分科会
・資源・エネルギー利用技術研究分科会
再委託(共同研究)
①深層水取水技術開発研究
富山県
鹿島建設(株)
(株)熊谷組
(株)KDD研究所
五洋建設(株)
清水建設(株)
新日本製鐵(株)
大成建設(株)
(株)東京久栄
東亜建設工業(株)
ナカシマプロペラ(株)
(株)日本エコエネルギー研究所
日油技研工業(株)
日本鋼管(株)
(株)間組
深田サルベージ建設(株)
三井金属エンジニアリング㈱
若築建設(株)
図 2.2-1
再委託(共同研究)
再委託(共同研究)
再委託(共同研究)
②資源・エネルギー利用技術研究
③環境影響評価技術等研究
④立地条件別最適システム設計・評価研究
高知県
富山県
高知県
富山県
高知県
富山県
鹿島建設(株)
共栄冷機工業(株)
新日本製鐵(株)
(株)東芝
(株)日本エコエネルギー研究所
日本鋼管(株)
(株)前川製作所
三菱重工業(株)
大阪府立大学
香川大学
高知大学
高知工科大学
(株)関西総合環境センター
海洋マリンバイオテクノロジー
研究所
鹿島建設(株)
(株)KDD研究所
清水建設(株)
大成建設(株)
(株)東京久栄
東京久栄
日油技研工業(株)
日本海洋(株)
芙蓉海洋開発(株)
(株)三井造船昭島研究所
三菱重工業(株)
(株)大林組
鹿島建設(株)
川崎重工(株)
川鉄チュ−ビック(株)
清水建設(株)
住友重機械工業(株)
(株)東芝
ナカシマプロペラ(株)
(株)日本エコエネルギー研究所
古河電気工業(株)
(財)新エネルギー財団
(財)電力中央研究所
(財)若狭湾エネルギ−
研究センタ−
本プロジェクトの実施体制(平成 11∼13 年度)
(参加、42 団体;企業 31、大学 4、財団・社団 4、自治体 2)
- 16 -
(財)新エネルギー財団
(財)電力中央研究所
(財)若狭湾エネルギ−
研究センタ−
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
経済産業省(METI)
NEDO技術開発機構
委託(共同研究)
(社)日本海洋開発産業協会
(JOIA)
清水建設(株)
①深層水取水技術開発研究
③環境影響評価技術等研究
④立地条件別最適システム
○深層水新産業利活用委員会
(株)関西総合環境センター
(KANSO)
③環境影響評価技術等研究
○分科会
・立地条件別最適システム設計・評価研究分科会
設計・評価研究
・深層水取水技術開発研究分科会
・環境影響評価技術等研究分科会
・資源・エネルギー利用技術研究分科会
①深層水取水技術開発研究
②資源・エネルギー利用技術研究
③環境影響評価技術等研究
④立地条件別最適システム設計・評価研究
再委託(共同研究)
再委託(共同研究)
②資源・エネルギー利用技術研究
③環境影響評価技術等研究
高知県
富山県
高知県
富山県
新日本製鐵(株)
(株)東洋製作所
(株)前川製作所
大阪府立大学
香川大学
再委託(共同研究)
④立地条件別最適システム設計・評価研究
高知県
鹿島建設(株)
(株)東京久栄
芙蓉海洋開発(株)
高知大学
高知工科大学
(財)電力中央研究所
古河電気工業(株)
図 2.2-2 本プロジェクトの実施体制(平成 14∼15 年度)
(企業 9、大学 4、財団・社団 2、自治体 2)
(備考)
・経済産業省(METI):資源エネルギー庁
資源・燃料部
鉱物資源課
・NEDO 技術開発機構:独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構は平成 15 年 10 月 1 日から独立行政法人
・社団法人日本海洋開発産業協会(JOIA)は、平成 16 年 4 月 1 日から財団法人エンジニアリング振興協会に統合
・株式会社関西総合環境センター(KANSO)は平成 16 年 10 月 1 日に㈱環境テクノス社名変更
- 17 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
表 2.2-1
深層水新産業利活用委員会(平成 11∼15 年度)
委員長 東京大学 大学院
総合文化研究科 教授
高橋 正征
委
機械科学科 教授
斎藤 彬夫
委 員 東海大学
海洋学部 海洋土木工学科 教授
田中 博通
委
生産環境部 部長
井関 和夫
委 員 (独)産業技術総合研究所
環境管理部門地球環境研究グループ室長
原田 晃
委 員 東京電力(株)
電力技術研究所 主管研究員
委 員 関西電力(株)
研究開発室 研究推進グループ マネジャー
委 員 中部電力(株)
電力技術研究所 主査
委 員 電源開発(株)
技術開発センター 茅ヶ崎研究所 所長代理
委 員 北海道電力(株)
土木部 グループリーダー
委 員 沖縄電力(株)
電力本部 発電部電源開発室 室長
員 東京工業大学
員 水産庁 瀬戸内海区水産研究所
表 2.2-2 ①
貝沼 憲男 (H11)
安田 勝則(H12-H13)
安田 登 (H14-H15)
加納二朗 (H11-H12)
松元 秀樹(H13-H14)
大野 和彦 (H15)
依田 真 (H11-H13)
三浦 雅彦(H14-H15)
三宅
小林
古谷
坂本
淳一
仁 (H11-H12)
恵一(H13-H14)
容 (H15)
高木 直久
深層水取水技術開発研究分科会(平成 15 年度)
リーダー 清水建設(株)
エンジニアリング事業本部 深層水事業部 部長
清水 勝公
委 員
高知工科大学
連携研究センター 教授
横川 明
委
員
富山県
商工労働部 商工企画課 班長
新川 稔
委 員
滑川市
産業民生部 深層水振興課 課長
坪川 宗嗣
委
(社)富山県農林水産公社
員
専門推進員
奈倉 昇
委 員
新日本製鐵㈱
環境・水道事業部 部長代理
木村 春男
委 員
大成建設㈱
土木営業本部営業部 副課長
尾高 義夫
委 員
(株)東京久栄
技術開発部 部長
足達 康行
委 員
㈱日本エコエネルギー研究所 風力発電システム部 部長
青木 俊征
委 員
鹿島建設㈱
土木技術本部 海洋技術室 部長
沖原 幸政
委 員
日本鋼管(株)
ソルーションエンジニアリングセンター 次長
米澤 雅之
委
日油技研工業(株)
営業本部 海洋事業推進室 次長
調
委 員
(株)KDDI 研究所
海洋エンジニアリンググループ グループリーダー
小島 淳一
委 員
ナカシマプロペラ(株)
東京支店 技術部 顧問
大内 一之
委 員
(株)熊谷組
土木本部 土木技術部 副部長
山口 高弘
委 員
(株)間組
土木事業総本部 構造物統括部 副部長
桑原 正博
委 員
若築建設(株)
事業統括本部 営業企画部 課長
星野 幸弘
委 員
五洋建設(株)
環境・エンジニアリング本部 土木設計部 部長
三木 隆之
委
員
東亜建設工業(株)
土木本部機電部 部長参事
加藤 謙
委
員
三井金属エンジニアリング(株)
パイプ事業部 主任
佐藤 晋吾
員
- 18 -
睦
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
表 2.2-2
②
資源・エネルギー利用技術研究分科会(平成 15 年度)
リーダー 新日本製鐵㈱
環境・水ソリューション事業部 部長代理
木村
春男
委
員
(独)産業技術総合研究所
四国センター 総括研究員
大井
健太
委
員
高知大学
農学部 教授
松岡
孝尚
委
員
高知工科大学
知能機械システム工学科 教授
横川
明
委
員
(株)前川製作所
技術研究所 システムコンポグループリーダー
町田
明登
委
員
高知県
産業技術委員会 研究開発推進主任スタッフ
吉村
敦
委
員
富山県
工業技術センター 生活工学研究所主任
九曜
英雄
委
員
(株)東洋製作所
研究開発部 主査
太田
隆
委
員
室蘭工業大学
機械システム工学科 助教授
媚山
政良
表 2.2-2
③
環境影響評価技術等研究分科会(平成 15 年度)
リーダー (株)関西総合環境センター
技術開発部 部長
池田
知司
委
員
水産庁
水産工学研究所 水産土木工学部 室長
坪田
幸雄
委
員
水産庁
水産工学研究所 水産土木工学部 室長
明田
定満
委
員
高知大学
農学部 教授
西島
敏隆
委
員
大阪府立大学
海洋システム工学科 助教授
大塚
耕司
委
員
(独)産業技術総合研究所
化学物質リスク管理センター 主任
堀口
文男
委
員
(独)産業技術総合研究所
環境管理部門地球環境研究グループ 室長
原田
晃
委
員
(財)電力中央研究所
企画部 課長
水鳥
雅文
委
員
(財)電力中央研究所
環境科学部 主任研究員
下島
公紀
委
員
水産庁
瀬戸内海区水産研究所 藻場・干潟生産環境研究室 室長 寺脇
利信
委
員
高知県海洋深層水研究所
総括主任研究員
森山
貴光
委
員
富山県農林水産部
水産漁港課
藤田
大介
委
員
富山県水産試験場
栽培・深層水課 主任研究員
渡辺
健
委
員
富山県水産試験場
科学技術特別研究員
松村
航
委
員
香川大学
農学部 助教授
一見
和彦
委
員
環境創造エンジニアリング部 部長
高月
邦夫
委
員
芙蓉海洋開発㈱
技術推進部 開発企画室長
金巻
精一
委
員
(独)産業技術総合研究所
四国センター 主任研究員
垣田
浩孝
委
員
日油技研工業(株)
営業本部 海洋事業推進室 次長
調
委
員
清水建設(株)
エネルギーソリューション本部 エネルギー環境部
委
員
大成建設(株)
技術センター土木技術研究所
委
員
鹿島建設(株)
技術研究所 環境技術研究部 水域環境グループ長
田中
昌宏
委
員
(株)KDDI 研究所
海洋エンジニアリング グループリーダー
小島
淳一
委
員
(株)三井造船昭島研究所
取締役総括部長
小林
正典
委
員
高知県
産業技術委員会 研究開発推進主任スタッフ
吉村
敦
委
員
(株)東芝 電力システム社
事業開発担当
若松
光夫
委
員
東洋建設(株)
環境エンジニアリング部 部長
稲田
勉
㈱東京久栄
- 19 -
睦
主査 平山
彰彦
海洋水理研究室長 勝井
秀博
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
表 2.2-2
④
立地条件別最適システム設計・評価研究分科会(平成 15 年度)
リーダー (財)電力中央研究所
CS推進室
参事
角湯
正剛
サブリーダー 清水建設㈱
技術研究所先端技術開発センター
森野
仁夫
委
員
福井県立大学
生物資源学部
大竹
臣哉
委
員
大阪府立大学
海洋システム工学科
大塚
耕司
委
員
高知大学
農学部
松岡
孝尚
委
員
高知工科大学
連携研究センター
教授
横川
明
委
員
(独)産業技術総合研究所
四国センター
グループ長
小川
洋司
委
員
(社)海洋産業研会
常務理事
中原
裕幸
委
員
鹿島建設㈱
土木技術本部
沖原
幸政
委
員
㈱日本エコエネルギー研究所
風力発電システム部長
青木
俊征
委
員
ナカシマプロペラ(株)
顧問
大内
一之
委
員
高知県
産業技術委員会
吉村
敦
委
員
富山県
商工労働部
新川
稔
委
員
(株)大林組
エンジニアリング本部コンサルタント部
細野
成一
委
員
川崎重工業(株)
技術総括本部
委
員
住友重機械工業(株)
船舶艦艇鉄構事業本部開発部
委
員
古河電気工業㈱
研究開発本部千葉研究所
委
員
(株)東芝
委
員
委
員
主任研究員
助教授
助教授
教授
海洋技術室
部長
研究開発推進主任スタッフ
商工企画課
班長
課長
参事
冨士田
加戸
正治
石井
健一
事業開発担当
若松
光夫
(財)若狭湾エネルギーセンター
主査
小泉
真範
川鉄チュービック(株)
東京事務所代表
渡辺
修三
電力システム社
- 20 -
主席
首席技師
茂
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
2.3
研究の運営管理
NEDO 技術開発機構は本研究開発の目的及び目標に対して、経済産業省、研究開発推進責
任者と連携を取り進めた。具体的には適宜、課題の見直しを行う一方、定期的に、本プロ
ジェクトの運営管理全体を審議するため JOIA 内に設置した深層水新産業利活用委員会で、
本プロジェクトにおける運営・企画・評価等を総合的に審議した。この深層水新産業利活
用委員会を構成する委員には基盤技術から実用化にむけた技術の検討も実施できるよう、
大学、国立研究所及び産業界、特に電力会社からの有識者をメンバーとし、原則として年
4回開催した。
また、日常の研究開発各論についての運営は、先述(16 頁)のとおり、JOIA 内に、切り
口のそれぞれ異なる4つの要素技術について成果を効率的に推進するために、
「 立地条件別
最適システム・評価研究分科会」を連携の要にして、
「深層水取水技術開発分科会」、
「資源・
エネルギー利用技術研究分科会」及び「環境影響評価技術等研究分科会」を設け連携を図
った。各分科会では、毎年度原則として年4回の開催及び進捗に応じて適宜開催を行い推
進した。
- 21 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
3.
情勢変化への対応
3.1
社会的な動向の変化
(1)
電力需要情勢の変化
本事業を取り巻く環境は、プロジェクト開始当時とは異なり、平成 12 年(2000 年)か
ら電気事業は部分的な小売自由化が始まり、厳しい競争が始まり、一層のコストダウンが
要請されるとともに折からの不況により景気が低迷し、新規の電源立地は殆ど延期または
中止されている。特に火力発電所に関しては、旧来の効率の悪い発電所は休止または閉鎖
されている。一方では、地球温暖化問題の観点からは CO 2 削減の問題があり、発電効率を
向上させて温暖化効果ガス放出の減少を求められており、一層の省エネルギーが必要にな
ってきている。
(2)
各地における小規模取水事業の状況変化
海洋深層水の利用に関しては、プロジェクト開始以降、地方自治体が中心となり多くの
計画構想が立ち上げられ、既に現在では国内で 14 地点の取水設備が設置され、さらに 17
カ所で建設の計画があるという状況である。この中には民間だけで取水して利用している
事例も見受けられるほど開発熱が高まっている。しかし、これらの事例は、その殆どが日
量数千トン程度の少量取水で、脱塩水販売や化粧水、水産利用などの産業利用であり、エ
ネルギー活用の計画はない。
このように情勢は、プロジェクト開始時とは変化してきており海洋深層水の利用は地域
産業の活性化のための重要な要素となりつつあるが、取水設備の費用が高価で、民間での
開発ではなかなか実施できない。このため取水設備のより一層のコストダウンを図ること
が重要となってきている。
(3)
研究開発項目の集中化の必要性
小規模の深層水資源を利用した産業化の検討は関心も高く、地域で進められているが、
深層水の有する大きな特長である冷温特性を十分生かす技術を開発することが重要である
にも拘わらず、これらの研究開発は本プロジェクト以外には十分に進められているといえ
ない状況である。
そこで、本プロジェクトでは成果に結びつく項目に特化して推進することが喫緊の課題
であり、近い将来において省エネルギー効率の向上が期待できない研究として、より高性
能の新規材料開発の成果を待つ必要のあるオフライン熱供給など研究開発項目は中止して、
研究開発投資の資源の重点化を図ることがより重要となってきた。
(4)
実用化対象のエネルギー供給規模の変化
深層水をエネルギー源として利用するためには、大量に取水し、その単位流量あたりの
単価を下げる必要があり、当初は日量 100 万トンクラスを対象に考えた。そのため、この
- 22 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
取水量を発電所の復水器冷却水として考えると発電所の規模は 60 万 kW 級を対象としてき
たが、上述のとおり旧来の電力会社では殆ど新規の火力発電所の建設計画はない。しかし、
電力の部分的な小売自由化の影響を受け独立系の電力会社(IPP、PPS)等では、中、小規模の
火力発電所の建設を行っており、近頃の情報であるロシアの京都議定書への調印情報を勘
案すれば、省エネで、熱も電気も供給できる深層水利用のコジェネシステムは、実用化の
可能性がある。
3.2
基本計画の変更
平成 14 年 3 月、省庁再編に伴う経済産業省と NEDO 技術開発機構の役割分担の見直しを
受けて、研究開発の目的、内容、目標を統一的に明記し、研究開発項目の具体的内容を記
載するなどの改定を実施した。
- 23 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
4.
中間評価結果への対応
本プロジェクトは平成 14 年 1 月 25 日及び 3 月 26 日に実施した中間評価で指摘のあっ
た研究開発項目の絞り込みと研究開発項目の内容の見直しを行った。
〔テーマの絞り込み〕
研究開発項目②の「資源・エネルギー利用技術研究」の中の1項目である「冷熱オフラ
イン輸送技術開発」は、現状では目的とする蓄熱能力を有する蓄熱材料の探索の結果、材
料開発が進んでいないことを受けて、テーマ検討を平成 13 年度で終了した。
また、「発電所復水器の研究開発」は机上検討による省エネルギー性を見積もることと
しており、平成 13 年度で当初の計画を達成したので検討を完了し整理した。
〔推進体制の見直し〕
平成 11 年の開始から 3 カ年、先導的に幅広い調査を行う目的で、社団法人日本海洋開
発産業協会を共同研究の委託先とし、再委託先として41団体が参加して推進してきたが、
平成 14 年度からはこれらの結果を総括して、実証事業では、大量取水技術に集中化するた
めに清水建設株式会社を再委託先から連名委託先に、また、環境影響評価技術の深化を図
るために株式会社関西総合環境センターを連名委託先にし、再委託先には実証試験を実施
する団体に絞って、平成 14 年度及び 15 年度は推進の集中化を図った。
〔項目の追加〕
研究開発項目③の「環境影響評価技術研究」で指摘のあった大量取水による環境へのマ
イナス影響の評価が不充分との指摘を受けて、正負両面の影響の定量的評価実験を実施す
るとともに、有識者へのヒヤリングや各種の公開資料調査をもとに負(マイナス)の影響
についても検討考察し、その影響と管理因子を明らかにすることとした。
以下、対処方針に基づいて推進した内容を整理する。
指摘事項
対処と結果
(1)課 題 を 精 査 し 人 力 と 資 力 を 優 先 度
・ 役割分担を明確化し平成 14∼15 年度の実施
の高い課題に配分し開発のスピード
を速めることが重要である。
体制を見直した。
・ 技術的な課題があり実用化迄に時間がかかる
「冷熱オフライン輸送技術開発」を平成 14 年
度から削除して空調や冷凍技術の実証試験に
集中して成果につなげた。
(2)省 エ ネ ル ギ ー 効 果 を 明 確 に 示 す 指
標とすべきである。
・ 指標は機器の経済性・省エネルギー性を示す
目安としてのものとして扱うこととした。
・ 省エネルギー性は、原油換算で統一的に表示
することとした。
- 24 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
(3)経 済 及 び 環 境 評 価 に 関 し て 建 設 に
・ 建設および実証運転による環境に与える影響
よるリスクを推定する等、マイナスの
試験結果の整理を進めることと並行して、広
評価も実施するべきである。
域の環境問題に関する公開資料調査、有識者
へのヒヤリング実施、赤潮等の環境への影響
の発生を定量的に評価管理する手法の提言等
を行った。
(4)論文の公表が不充分である。
・ 学会発表、査読付き論文による成果の公開を
進め、当該分野の専門家の意見を広く収集し
た。
・ 査読付き論文は、15 件(内、海外 5 件)、口
頭発表は、72 件、その他、17 件(著書、新聞、
雑誌など)での公表を進めた。(平成 16 年 9
月 1 日集計)
- 25 -
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
5.
評価に関する事項
5.1
評価の履歴
(1)NEDO 技術開発機構中間評価(技術評価)
NEDO 技術開発機構での中間評価は 2 回の分科会での審査と、引き続く、第4回技
術評価委員会で審査の結果、了承された。
・評価委員会:
「海洋資源活用システム開発」(中間評価)技術評価分科会
第1回評価分科会(平成 14 年 1 月 25 日)
第 2 回評価分科会(平成 14 年 3 月 26 日)
新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術評価委員会
第4回技術評価委員会(平成 14 年 6 月 14 日開催)
・評価分科会委員氏名
会長 白山 義久
5.2
京都大学大学院
理学研究科
教授
委員
池上
康之
佐賀大学 理工学部
助教授
委員
上原
春男
佐賀大学
学長
委員
久保田
東海大学 海洋学部 地球環境工学科
教授
委員
小山
繁
九州大学 機能物質科学研究所
教授
委員
豊田
孝義
海洋科学技術センター
研究副主幹
委員
松里
寿彦
水産総合研究センター 養殖研究所
所長
委員
宮崎
多恵子
三重大学 生物資源学部
助手
雅久
事後評価の実施
・評価手法:外部委員による評価。評価項目、評価基準、評価手法は NEDO 技術開発機
構の評価スキームに沿って実施。
・評価事務局:研究評価部
・評価項目・基準:別途資料
・評価委員:別途資料
- 26 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.
事業全体の成果
Ⅲ.研究開発成果について
1.
事業全体の成果
水深 300m 程度以深の海水は、太陽光が届かないことから年中特性変化が少なく、低温
で細菌等が少なく清浄である。
そこで、本研究ではこの深層水を1日当たり 100 万 m 3 程度取水し、省エネルギーの観点
から火力発電所の復水器冷却水や冷房、冷凍庫への利用を行い、その後海域へ還流して環境
への影響を最小限にするとともに植物プランクトンの培養などを通して炭酸ガス固定など
への効果を上げるシステムを構築するものである。さらに、地域での効率的に深層水を利
用するシステム化された産業社会の構築、立地地点の社会特性に応じた産業形成を含めた
提案を行うことを目的として実施した。
本事業の成果として、エネルギー資源としての利用技術では、深層水を発電所復水器の
冷却水として利用した場合、発電効率の向上、復水器の小型化、取水施設の保守コストの
大幅な軽減などの効果があることが示され、大きな省エネルギー効果と CO 2 排出量削減効
果を有することが明らかとなった。また、深層水の大量取水技術検討により、このような
利用を実現する大量取水技術も目標としたコスト水準で実現できる見通しを得た。さらに
環境影響についても定量的な評価が可能となる技術開発がなされ、発電立地型海洋深層水
多目的利用システムについても日本各地における特長を生かした産業化で経済的な成立の
可能性のあることが確認された。
- 27 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.1
1.
事業全体の成果
資源・エネルギー利用技術研究
深層水を経済的に得るには大量取水が必要で、この用途としては火力発電所の冷却水利
用が適している。即ち、発電所においては効率が 1%変化するだけでも料金の押し下げ効果
は大きく、例えば、100 万 kW級発電所で深層水による改善効果が年間平均 1.5%とすれば、
30 億円/年の増収効果が期待できる(電気料金が 20 円/kWh として計算)。
産業利用技術としては、冷熱エネルギーの利用では、空調、低温庫等やシャーベット氷
などの冷凍技術等が、また、資源利用では、濃縮深層水、脱塩深層水の製造、ミネラル調
整によるマグネシウムの濃縮等が有用と考えられる。
発電所の効率改善は数値モデルを用いて解析し、冷熱、及び資源利用は実証試験機器を
導入し、現場(高知県、富山県)で深層水を用いた試験を実施し解析した。なお、発電効
率の改善技術に関しての実証試験として熱交換冷却管の汚れなどの試験を実施した。
(1)
発電効率改善技術
①発電所復水器への適用
・ 既設発電所への適用では、例えば新潟のような中部地域では、60 万 kw 級発電所の場
合、表層水温の高い夏場においては発電効率が低下するが、この減少分は電気出力で
年平均 1.4%である。そこで、深層水を冷却水に利用し取放水温度差を現行の 7℃から
16℃にすることによりこの出力低下が防止され、それによる年間の電力増分は 7,320
万 kwh、省エネ量は原油換算で削減量は 1.72 万㌔㍑になると算定された。
・ 新設発電所への適用では、沖縄のような南方地域において、表層水の代わりに低温の
深層水を冷却水に利用することにより、燃料消費の低減と復水器の小型化が可能とな
る。また取放水温度差を現行の 7℃から 16℃にすることで取水ポンプの小型化が可能
となり、復水器、ポンプの製作を含めた設備コストは年間で 4.21 億円の削減がなさ
れることを示した。発電量の増加割合は年平均で 2.92%、年間の電力量増分は 15,360
万 kWh/年、省エネ量は原油換算で削減量は 3.62 万㌔㍑/年であった。
②ガスタービン吸気冷却への適用
関東地区の 14.4 万 kWh 級ガスタービン発電所の場合、夏場の発電量の低下は気温
30℃で 10.%にもなる。このため吸気冷却に深層水を用いることで所定の出力が確保さ
れ、電力増分は 1,900 万 kWh/年となる。
(2)冷熱利用技術
①冷熱利用技術
・
深層水冷熱利用空調(冷房)システム調査研究では、共同研究センターの 6 室に「水
冷媒方式」と「全空気方式」の深層水冷熱利用空調システムを設置して実験を行っ
た。室温は設計通り 26℃に安定して制御でき、従来の空冷チラー方式と比較して、
電力削減率は 77.0%であった。
・
低温庫貯蔵技術開発では、4.95 平方 m の低温庫に冷凍冷却方式装置と深層水冷却装
置を取り付け、農業生産物の保存時の呼吸熱に相当する熱不可を与えて比較実験を
行った結果、深層水利用による電力削減率は 64.7%であった。
- 28 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.
事業全体の成果
②シャ−ベット状海水氷製造に関する実証試験研究
・
深層水シャーベット状氷製水実証試験装置(過冷却解除方式、製水能力 50 ㎏/h)を
製作し、省エネルギー性に関する実証実験を行った。この結果、製氷システムの凝
縮器冷却水に深層水を利用した場合、空気冷却するシステムに比較し、電力削減率
は 33.0%であった。
・
また、深層水を凝縮器冷却に使用すると同時に製氷原水として使用した場合、消費
電力がさらに 12%削減されることがわかった。
・
深層水氷(シャーベット氷)による低温貯蔵技術開発では、魚介類の低温貯蔵にお
いて、深層水シャーベット氷は従来の砕いた氷と比較し、より高鮮度と品質の高い
水産物を供給できることがわかった。従来の砕氷と表層海水利用冷海水を併用した
鮮度保持方法から、深層水シャーベット氷と深層水利用冷海水を併用する方法に転
換した場合、電力削減率は 45.6%と試算された。
③資源有効利用技術
・
逆浸透膜法による濃縮深層水と脱塩深層水の効率的製造技術開発の結果から、エネ
ルギー消費の少ない逆浸透膜(RO 膜 * )、ナノろ過膜(NF 膜 * )と RO 膜を組み合わせ
ることにより、15 重量%の濃縮深層水が得られた。
*
(何れも用語集、「膜ろ過」参照)
・ 海水ミネラル調整技術開発では、飲料や食品等への利用を前提として、海水中に含
まれる 1 価、2 価イオンを分離しナトリウムや塩素が少なく、カルシウム、マグネ
シウム等を濃縮する高ミネラル水の製造システムについて検討した結果、カリウム
は最大 350%、マグネシウムは最大 480%まで濃縮できた。
④省エネ性の目標と検討結果
本事業における発電所への適用による省エネ結果は、数値解析の結果では事業目標を達
成した。(本文 40 頁参照)
実施の成果 **
目標値
向上ポイント *
既設発電所
0.5 ポイント
省エネ量
1.55 万㌔㍑ **
ポイント *
0.56 ポイント
(6,570 万 kWh)
新設発電所
1.0 ポイント
3.10 万㌔㍑ **
(13,140 万 kWh)
*表中、㌔㍑は 原油換算を示す。
**
成果は適地への適用事例を示す。(40 頁参照)
- 29 -
省エネ量
1.72 万㌔㍑ **
(7,320 万 kWh)
1.2 ポイント
3.62 万㌔㍑ **
(15,360 万 kWh)
Ⅲ.研究開発成果について
1.2
1.
事業全体の成果
深層水取水技術開発研究
本研究の目標は、国内外で前例のない、日量 100 万㌧の大量の深層水を 100 億円程度の
設備費で取水できる取水設備の開発である。我国における立地条件や関連施設の技術開発
実績、利用上の制約を考慮し、取水設備は陸上設置型で「管路設置形式」が実現性の高い
技術と判断し、開発を進めることとした。このため実用化のための各種検討や小規模実証
試験などによる検証・評価を行い、取水システムの確立を図った。
(1)大口径管路の実用化:
・
我が国の立地特性への適応性を踏まえて構造設計を検討した結果、大量取水の実用
化に適した管路設置形式として、着底管路、多点係留方式浮遊管路、および一点係
留方式浮遊管路の3形式であらゆる立地条件に対応できることが分かった。
・
管材料の実用化の検討において、海底の不陸状態を考慮してフリースパン長が 100
mの場合にも適用できる形式として、新たに管材料としてアラミド繊維で補強した
内径 2m の鉄線巻きのポリエチレン管を開発した。また、フリースパン長が 50mの
場合の経済的な方式としてリングスティフナで補強した鋼管も開発した。
・
取水量 100 万㌧/日規模に対する硬質ポリエチレン素管の断面寸法は内径 2.4m、肉
厚 134mm であり、今までに実用例のない超大口径極厚管の製管方法の確立が不可欠
である。そこで二層押出し製管方式を開発し、既存製管関連技術での適応性検討と
小口径管サンプルによる試作・強度実験を行い、その結果から実用性が高いことを
検証した。
・
大口径管路の敷設方法は、海底の状況に対応する設置方式に依存し、着底管路およ
び多点係留方式浮遊管路の場合は「半浮遊式海底曳航法」が、急峻な地形に対応し
た一点係留方式浮遊管路の場合は「係留式浮遊曳航法」が最適である。
・
「半浮遊式海底曳航法」につき、実海域での小規模での実証試験を行い、着底管路、
多点係留方式浮遊管路への適応性を評価した。
(2) 高速通水管路の実用化:
国内の深層水取水設備では実績のない 2m/sec という高速通水での動揺特性や係留
系の安定性を検証・確認した。
即ち、高速通水への適応性については、室内挙動実験(試験体φ13mm×L=0.8)や実
海域小規模実験(φ225mm×L=100)によって、着底管路及び多点係留方式浮遊管路に
対する最大通水流速(V=2m/sec)の通水実験を行った結果、不適となる挙動は計測され
ず、充分に適応性の高いことが判明した。また、高速通水の実用管路への反映につい
ては先の実験結果を踏まえ、管路の動揺安定性に関する既存検討式による検討を行い、
高速通水管路に対しても適用のあることを示した。
- 30 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.
事業全体の成果
(3) 実現性を踏まえた経済性評価
深層水取水管路の実用化において施設建設費の縮減は最重点開発事項の 1 つと言え
る。本研究開発では管内通水速度の高速化による適用口径の最小化と施工方法の改
善・工夫等により建設費の縮減化を図った。その結果施設建設費は浅海部埋設工や護
岸部貫通工、陸上配管工、取水ピット等陸上施設費も含め、L=4000m 以下の管路で、
開発目標(100 億円)に対して適合し、また、L=3000m 以下の管路で、事業性の成立性(70
億円以下)のあることが判明した。
(4) 運用面での実用化評価
メンテナンスフリーで運転可能な施設とするための運用面のデータ収集を既設深層
水取水施設 7 ヶ所のアンケート調査と平成 14 年 11 月 22 日より稼動させたモデル実証
施設の運転を通じて行った。その結果、数 cm をこえる魚介類等の大型生物やヨコエビ
類(3∼0.5cm)、介形類(2mm 以下)、コペポート(5mm 以下)、矢虫類(3∼1cm)等の微小生
物の連行が確認された量は少なく通常の使用では問題がないが、運用環境や利用内容
によっては対処が必要と考えられる。
- 31 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.3
1.
事業全体の成果
環境影響評価技術等研究
新たな大規模な事業を計画する場合、事業特性や地域特性を考慮した上で、想定される
環境影響項目を抽出し、課題となる項目を事前予測する必要がある。このような観点から
深層水を大量に取水し、発電所復水器冷却水として利用し、熱交換(昇温)を行った上で
大量に放流した場合に想定される環境影響を検討した。内容としてはマイナス影響と富栄
養海水を放流することによる海域肥沃化に伴って進む炭酸ガス固定化や藻場造成などプラ
ス影響の両者について検討を行った。
(1)
環境影響評価項目
既存の火力発電所やその他の環境影響評価検討項目や事例を参考に、深層水の大量取放
水に伴う環境影響の検討項目を抽出し、評価手法を検討した。その結果、CO 2 収支検討法と、
藻場生態系モデル検討法をマニュアル(案)にまとめた。
・
既存の表層水取水型火力発電所の環境影響と共通する項目として、取水に伴う流動
変化や生物の連行、放流域での温度変化が挙げられるが、これらは深層水を利用す
ることによって影響を大幅に低減できる可能性を示した。
・
深層水の大量放流によって新たに起こる変化のうち、pH 変化と富栄養化については
100 万 m 3 /日の規模では、実海域での変化は小さいことが推定された。
・
深層水の大量放流による赤潮発生の可能性については、深層水の放流が植物プラン
クトン群集の中でも赤潮にはなりにくい珪藻類の増殖を刺激することが実験的に示
され、珪藻主体の群集に変化する可能性を明らかにした。
・
大量の深層水の富栄養性を効率的に肥沃化に利用する方法として、沿岸近くに放流
する場合と沖合い放流を比較した結果、日量 100 万 m 3 規模では沿岸放流による藻場
への利用が効果的であることを示した。さらに大量といっても実海域では限られた
量のために、より効果的な深層水の放流法として、潜堤の築造や、螺旋放流ノズル
を提案した。
・
深層水を取水し、そのまま放流した場合は大気中に CO 2 を放出する可能性がある。
一方で、低温な深層水を火力発電所復水器冷却水として利用することによって発電
効率が向上し、これにより排出 CO 2 を削減できることが明らかとなった。これらの
結果を総合すると、深層水を取水し、火力発電所冷却水として利用して放流した場
合、年間 CO 2 排出量を約 4 万㌧ CO 2 (100 万 m 3 /日で)削減できることを示した。
以上の結果から、深層水を発電所復水器冷却水としての利用した場合は、表層水を取水
するこれまでの方式と比較して、全体として環境影響を低減できる可能性があることを示
した。
しかし、限定的ではあるが、深層水の放流により放水口のごく近傍に若干の低pH 域が
形成されることが予測されたが、具体的な影響についてはより高い精度の解析が必要であ
る。
- 32 -
Ⅲ.研究開発成果について
(2)
1.
事業全体の成果
海域肥沃化の可能性
深層水を 15℃程度昇温して放流した場合に海域に与える影響を本研究開発で開発した
ボックスモデルで評価した結果、植物プランクトンの一次生産や大型藻類の成長には悪影
響は見られず、概ね成長促進効果があることが明らかとなった。また、高岡漁港(高知県)
での深層水放流実験によって、閉鎖的海域への放流が藻類成長に有効なことを明らかにし
た。
- 33 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.4
1.
事業全体の成果
立地条件別最適システム設計・評価研究
深層水取水技術開発研究、資源・エネルギー利用技術研究、環境影響評価技術研究の成
果を受けて、また、既往の非エネルギー関連利用研究の成果も加味し、それぞれの立地条
件に応じた深層水の最適利用形態を提示し、実際にこれらのシステムが構築された場合の
省エネルギー効果、環境影響、経済的成立性などの評価を行った。また、深層水利用火力
発電の LCA 的評価を行った。
(1)
・
最適システム設計
全国の深層水利用適地 6 地域(北海道、富山、首都圏、静岡、高知、沖縄)を対象
に非発電所立地も含めた最適システム設計と評価を行い、最終的に、その効果や立
地特性を考慮して沖縄、首都圏、北海道の 3 地点を対象に発電立地型海洋深層水多
目的利用システムの詳細検討を行った。
・
沖縄地域では、蒸気タービン火力発電所(12.5 万 kW)を中心として、地域冷房、大規
模海水淡水化、製品生産、健康・療養、藻類生産、水産養殖、農業などに深層水(冷
却排水)を二次利用するシステムを検討した。
・
首都圏では、ガスタービンと蒸気タービンのコンバインドサイクル発電所(72 万 kW)
を主体として、総合病院、リゾートホテル、福祉施設で深層水を利用し、その後、
工業利用やその他の産業利用に分水するシステムを検討した。
・
北海道地域では、蒸気タービン発電所(5 万 kW)を中心として冷蔵庫、冷凍庫、冷房
等への冷熱を供給し、飲料水供給、水産養殖等へ利用し、最終的な放流水を海域の
藻場造成に供するシステムを検討した。
・
これらのシステム案について、省エネルギー効果、環境影響、経済性などの評価を
行い、発電と排水の二次利用によって経済的な成立の可能性があることを確認した。
(2)
・
深層水利用発電システムの LCA 的評価
60 万 kW 級の新設 LNG 火力発電所の冷却水として深層水を 100 万㌧/日利用する発電
システムについて LCA(ライフサイクルアセスメント)的評価を行った。
・
発電所の構築段階における CO 2 排出量の寄与はごくわずかで、運用段階が 99.5%を占
める。その 8 割を燃料が占めていること、深層水取水施設の建設や運用に関わるエ
ネルギー消費量や CO 2 排出量は、発電施設のそれに比べて 1%以下と非常に小さいこ
と、また、深層水取水施設建設段階でのエネルギー消費量や CO 2 排出量は深層取水
の運用段階に比べて 1/3 程度であることなどが明らかになった。
- 34 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.5
その他
1.
事業全体の成果
∼深層水利用効率の提案について∼
深層水の冷熱利用を考えた場合、従来の使用条件と比較した省エネルギー性の優位性を
検討し、評価することが重要である。深層水を冷熱源として見た場合、温度が1∼10℃で
冷熱としてのエネルギー密度は低いことから、最適な用途に適用することを判定する必要
がある。
そこで、深層水利用による省エネルギー効果を評価するために、以下のように深層水利
用効率(η dsw )という指標を考えた。
(1)深層水利用効率(η dsw )の算出
深層水のエネルギーは、温度差と水量の積で示される。
H T =C・ρ・ΔT×Q
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)
(ただし、H T :エネルギー量(kcal/h)、C:比熱、ρ:密度、ΔT:T O -T I (℃)、T O :深
層水出側温度(℃)、T I :深層水入側温度(℃)、Q:流量(㎏/h))
一方、設備の消費電力が深層水冷熱によって一部代替できたと考えれば、省電力量と深
層水の有するエネルギーは(2)式に示すように同等と見なし得る。
ΔW=H T ×(1/860)×η=ΔT×Q×(1/860)×η
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)
〈ただし、ΔW:省電力量(kWh/h)、単位換算:(1kWh=860kcal)、η:エネルギー
変換効率〉
つまり、省エネルギー量は深層水の温度差と流量に依存する。
深層水を利用する場合、その温度は取水地点・水深によってほぼ決定される。つまり、
深層水入側温度(T I )が固定されれば、最適温度差(ΔT)を得るためには、深層水側温度
(T O )は自動的に決まる。例えば、水深 300m を想定すると、日本海側の富山では深層水入
側温度(T I )は 1∼5℃前後、太平洋側の室戸では 7∼10℃前後である。深層水入側温度(T I )
が低ければ低いほど利用し得る潜在エネルギーは大きくなる。
そこで、省エネルギー量を深層水の関数として表わせれば、設備規模に左右されない省
エネルギー指標となる。深層水の有するエネルギーが省エネルギーにどのように係わった
かを、定量的に表わすことが本研究計画では重要である。
省エネルギー量を深層水の関数として表わせば、(3)式のようになる。
ΔW=f(ΔT,Q)×(1/860)×η
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)
ΔT を定数とし、Q を変数と考えれば、(4)式のようになる。
ΔW=f(Q)×ΔT×(1/860)×η
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(4)
右辺の f(Q)以外は定数となることから、まとめると(5)式となり、単純化される。
ΔW=f(Q)×η dsw ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(5)
ここで、η DSW を深層水利用効率とする。単位は、kWh/㎏である。実際に使用する場合
- 35 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.
事業全体の成果
には、バランス上 kWh/㌧となる。
例えば、深層水を年間 120,000 ㌧/年を使用して 60,000kWh/年の省エネルギーが得られ
たとすれば、深層水利用効率η dsw は以下のように 0.5kWh/㌧となる。
η dsw =ΔW/f(Q)=60,000/120,000=0.5kWh/㌧
これは、深層水が太陽光発電や風力発電と同じように電力に変換された場合の変換効率
とみなすことができる。設備を変換機と同義だとすれば、深層水効率とは変換機の効率を
表すともいえる。つまり、深層水利用効率とは設備の省エネルギー特性を反映した指標で
ある。深層水利用効率は設備規模、利用形態にかかわらず、深層水の能力を示しており、
効率が高いほど利用価値は高い。
このように、深層水利用効率は使用した深層水の単位量当たりの電力削減量で表したも
のである。しかし、指数として定量化された値がどのような意味を持つのかは別問題であ
る。深層水利用効率をより使い勝手の良い指標にするためには、指数に意味を持たせる必
要がある。一般的に、検討したシステムが経済的に成り立つかどうかは、費用対効果にか
かってくる。個々のシステム(設備)の省エネルギー量は省電力量(kWh/年)あるいは原
油節約量(kl/年)で表わされるが、設備の大小によって、省エネルギー量の絶対値は異な
る。数字でみる限り、大きな設備ほど省エネルギー量は大きい。
規模の大小に依存しない省エネルギー指標として、深層水利用効率を相対評価の指数と
して利用することができる。省エネルギー効率を深層水の利用効率に置き換え、相対評価
を試みる。
単位から明らかなように、深層水利用効率は電力量と深層水量の比である。いずれも金
額に置きかえることが可能である。しかし、金額は状況によって変化する。そこで、深層
水利用効率η dsw は次のように置きかえられる。
η dsw =(円/㌧)/(円/kWh)
深層水利用効率というのは、深層水が省エネルギーにどの程度寄与するかを見る指標と
考え、費用対効果の点から、評価できる。つまり、深層水利用効率に意味を持たせること
ができ、費用対効果の点からは、たとえ深層水利用効率が同じであっても、使用される状
況によって深層水の単価が異なってくれば、深層水利用効率の意味することが異なること
を認識して検討する必要がある。
(2) 深層水利用効率を省エネルギー指標で評価することを提案
上で算出した深層水利用効率(kWh/㌧)は、深層水を種々の用途に用いる場合の効率を比
較判断する指標として用いることとする。
具体的には、省電力量(kWh/年)或いは原油節約量(k ㍑/年)から用いた深層水の量を勘案
して、省エネルギーの指標として深層水利用効率で判定することである。本プロジェクト
での成果はこれを用いて比較評価した。
・深層水単価の算出
有効取水量
:1,000,000 ㌧/日=3.65 億㌧/年
初期設備負担
:100 億円
- 36 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.
事業全体の成果
設備償却年数
:30 年
維持費用
:償却費用も含め 30 年で返済、金利 2%(元利均等返済)、修繕
費 1%、税 0.7%とする。
単純年間維持費用:償却費用(4.47 億円/年)+修繕費(1.0 億円/年)+税金(0.7
億円/年)=6.17 億円/年
深層水単価
:6.17÷3.65=1.69 円/㌧
・深層水利用効率による電力との比較評価の考え方
電気料金との比較から深層水利用効率は、売電と買電の場合で基準が異なるので、計算
の前提として買電単価は 20 円/kWh、売電単価は 10 円/kWh として算出した。
発電のの場合
:
1.69 円/㌧÷10 円/kWh)=0.169(円/㌧
電力消費の場合
:
1.69 円/㌧÷20 円/kWh)=0.084(円/㌧)、
結局、0.17kWh/㌧(発電)、0.08kWh/㌧(買電)を元に比較すべきと考えられ、深層水利
用効率が、この値よりも高い用途の場合、深層水利用は効果的な適用と判断できることと
なる。
- 37 -
Ⅲ.研究開発成果について
1.6
1.
事業全体の成果
まとめと今後の展開
本研究開発で確立したこれらの要素技術は大部分が小規模実験や数値モデルを用いた
研究によってその可能性を確認したレベルにあり、今後のシステム実現のためには、現状
から一歩進めた実証規模における検証を伴った研究開発が不可欠である。
また、本研究開発で提案した発電所立地型の深層水多目的利用システムは、発電、淡水
供給、冷房の他に冷却排水としての深層水を 2 次利用することで水産養殖、農業、製品生
産、観光産業などへの利用が可能であり、さらには放流海域の環境改善にも寄与しうる点
で、総合的な地域開発を推進するための核となりうる技術である。
深層水利用技術の開発は、国際的に見てわが国が主導する数少ない技術開発の一つであ
り 、 こ の よ う な 技 術 を 実 用 化 し 、 国 内 は も と よ り 、 国 際 的 な 技 術 移 転 や ODA( official
development assistance:政府開発援助)あるいは CDM(クリーン開発メカニズム)への
展開を図ることは大きな意義がある。このような新規分野を切り開く技術開発は、民間だ
けでは遂行が困難であり、今後の実用化に向けては、産学官各方面の力を集めた総合プロ
ジェクトとしての推進が望まれる。
- 38 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.
研究開発項目毎の成果
2.1
研究開発項目
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
資源・エネルギー利用技術研究
本研究開発では取水した大量の深層水の最適システム設計・評価に活用するため、
深層水利用の多目的・多段階利用システムを構成する、資源・エネルギー利用に関す
る発電効率改善、冷熱源代替、資源有効利用につき、各技術分野個々の技術の有効性、
多目的・多段階利用システムの有効性を検証することを目的として以下の研究開発を
進めた。なお、発電所の発電効率は、復水器の大幅な設計変更をすることなく、深層
水を用いることにより既設で 0.5 ポイント*、新設で 1 ポイント*上昇することを目標
とした。また、省エネルギ−性は深層水利用効率**も算出し、効率を評価した。
本研究開発項目の推進実施では、取り組むべき研究項目整理、フィージビリスタデ
ーの実施、省エネと経済性(費用対効果)算出、実証実験を行うべき対象実験項目の
選定と設備導入による実験確認を実施した。研究項目は 3 分野、①発電効率改善、②
冷熱源代替技術、③資源有効利用に大別し、個々の研究項目毎に検討した。
主な実証試験場は、高知県室戸市および富山県滑川市である。高知県では海洋深層
水共同研究センターを建設し各種冷熱源代替技術開発と実証試験を実施し、富山県で
は濃縮深層水と脱塩深層水の効率的製造技術開発と実証試験を実施した。
注)* :ポイントについての説明は 4 頁参照、
**:深層水利用効率は、37 頁参照
(1)
成果の各論
発電所冷却水への利用とガスタービン吸気冷却に関しては、既往の検討結果をまと
めるとともに現地条件に応じた数値計算により現存の発電所または新設発電所に対し
て、発電効率と経済性の面からの最適な復水器の設計等を行い、発電効率、全体シス
テムとしての効率を求め、経済性を明らかにした。
低温貯蔵、空調システム、冷凍システム、シャーベット海水氷製造およびシャーベ
ットの鮮度利用に関しては、深層水を使用することによる省エネ効果を定量化した。
また、資源有効利用に関しては、濃縮・脱塩技術とミネラル調整技術の新規性を明ら
かにし、費用対効果を省エネルギーの点でも定量化した。
①
発電効率改善技術
a.
発電所復水器への適用
深層水の低温安定性に着目し、深層水を火力発電所の復水器冷却水として利用する
39
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
場合、夏場は温度が高い表層水に比べて一年
を通して 10℃以下の低温であるため、蒸気サ
G
イクル(ランキンサイクル)発電への適用に
より、新設、既設での適用事例につき定量的
ボイラー
冷
却
水
復水器
な効果を解析 *・検証した。適用のイメージを
P
図 2.1-1 に示す。
*
解析コード:STEAM-Master 及び STEAM-Pro コ
図 2.1-1
発電所覆水器への適用
ード(米国 Thermflow 社)
(ⅰ)既設発電所への適用
一般的な傾向として、復水器の設計蒸気温
5
場合には熱 効率がよく なる。低温 の深層水
を利用する と、たとえ ば年間の海 水温度差
の大きい新潟のような中部地点では、60 万
kW 級の火力発電所の場合、夏場の発電効率
の減少は電気出力で見た場合、年平均で
1.4%(ピークで約 3.5%)であった。これは
電気出力の設計値
からの偏差(MW)
度を下げた 場合、すな わち真空度 を上げた
日本の中部
0
-5
-10
-15
-20
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
発電効率 40%の施設では 0.56 ポイントの
月
発電効率の 向上となり 目標値の達 成が可能
図 2. 1-2
である。(1.5%×0.4=0.56)
月毎の電気出力の偏差
図 2. 1 -2 には、表層水を用いた発電所における月毎の電気出力の標準と夏場の減少
分(図中では「偏差」として表した。)を示す。これは中部地域では夏場、表層海水
の水温が高くなり、冬場に比べて真空度が低下してランキンサイクルの発電効率が低
下することによる。そこで、冷却水(日量 100 万トン)に深層水を利用し、取放水温度
差を現行の 7℃から 16℃にすると、年間の電力増分(夏場における発電効率低下分の
回避)を図ることができ、増分は 7,320 万 kWh/年、原油低減量は 1.72 万 kl/年、深
層水利用効率は 0.21kWh/㌧となる。この値は経済効率の限界値の 0.17kWh/㌧よりも
大きいので効率的な適用と考えられる。
(ⅱ)新設発電所への適用
年間 を 通 じ て水 温 が 高 く温 度 変 化 が小 さ い 沖 縄の よ う な 南方 地 点 で は夏 場 に おけ
る電気出力の著しい低下はない。しかし、新設発電所では復水器の設計から見直すこ
とができ、冷却用海水の取水温度と放水の温度差を大きくとれば、伝熱面積ならびに
ポンプ容量を小型化でき、建設コスト低減と運転コスト低減が期待される。
例えば、沖縄のような南部地域では、60 万 kW の火力発電所の場合、燃料節約の観
点から、取放水温度差を現行の 7℃から 12℃に、設計蒸気温度を 26.0℃にすると、
深層水取水量は 126 万㌧/日である。年間の電力増分は既設の同一規模と比較して、
100%稼働率として計算すれば 15,360 万 kWh/年(発電量の向上値:2.92%)、原油低
40
海
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
減量は 3.62 万 kl/年、深層水利用効率は 0.33kWh/㌧であった。この値は経済効率の
限界値の 0.17kWh/㌧よりも大きいので効率的な適用と考えられる。
また施設の建設コストは復水機の小型化などにより、深層水を利用しない場合に比
べて年間 4.21 億円の削減につながると試算された。(補足表 2.1-1)
なお、発電量の向上 2.92%は発電効率 40%の施設では 1.2 ポイントの発電効率の
向上となり目標値を達成することが示された。(2.92%×0.4=1.17)
補足表 2.1-1
発電所新設の場合のコスト試算
1.前提となる設計条件
ΔR=ξMΔM+ξCΔC+ΔFη
ただし、
ΔR:年間全体コストの偏差(億円/年)
ξM:機器の年経費率(0.18/年)
ΔM:機器コストの偏差(億円/年)
ξC:土木施設の年経費率(0.13/年)
ΔC:土木コストの偏差(億円/年)
ΔF:燃料コストの偏差(億円/年)
η:設備稼働率(80%)
2.復水器、ポンプ製作費
復水器およびポンプの製作費は、それぞれの現設計でのコストの 1/6 が固定費、その他 5/6
が復水器は伝熱面積に、ポンプではポンプ容量に比例するものと仮定した。
現設計での復水器コスト
:50 億円
現設計でのポンプコスト
: 5 億円
現設計での土木(水路)コスト :44.3 億円
総額
:99.3 億円
3.深層水を用いた場合のコストの削減(試算と結果)
・ 設計の見直しにより復水器は 70%に、取水ポンプは 70%に小型化できる。
・ この結果、復水器は 50 億円が 37.5 億円に、ポンプは 5 億円が 3.75 億円に、土木(水路)
コストは 44.3 億円が 31 億円になる。
・ コスト低減は年額あたり、復水器で 2.25 億円、ポンプで 0.23 億円、土木(水路)で 1.73
億円になる。
・ ⇒全体にかかる費用は、深層水を利用しない場合、総額 99.3 億円に比べて、深層水を用
いた場合、72.25 億円となり、年間で 4.21 億円の削減効果がある。
(ⅲ)その他の適用
その他の副次効果で可能性のある用途として、発電所における海水を用いた淡水化
への深層水利用が挙げられる。
発電所における用水としての可能性を調査した結果、現状では日量 1,000 ㌧レベル
の淡水が用いられているが、特にボイラー用水では純度の高いものが要求される。現
在火力発電所では工業用水を利用しているが原子力では海水の淡水化でまかなってい
る。
今後、火力発電所での淡水化のニーズも大きいと期待されているようである。
そこで、深層水淡水化を表層水と比較した。深層水の特長である清浄性により、(a)
懸濁物除去工程の大幅な簡素化、(b)海洋浮遊物や貝類や細菌類、藻類等海洋生物がな
く、(c)薬液処理工程の省略による工程減少、消耗品減少、(d)除去廃棄物の処理が不
要、等の結果、設備費として、表層水と比べて深層水利用ではコストを 65%削減できる
41
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
ことが明らかになった。
b.
ガスタービン吸気冷却への適用
関東地区において、14.4 万 kW 級ガスタービン発電所の場合、外気温 15℃を設計点
とすれば、夏場の発電効率の低下によるロスは電気出力で見た場合、年平均で 2.2%(夏
場半年平均で 4.4%、ピークで約 8%)であった。図 2. 1 -3 に月別の外気温度の変化を
示す。冷却水(日量 5 万㌧)に深層水を利用し、吸気温度を設計点の 15℃一定にできれ
ば、夏場半年のみで電力低下を防ぐことで電力増分は 2.653 万 kWh/年、正味の原油削
減量は 2,230 ㌔㍑/年、正味の深層水利用効率は 0.86kWh/㌧であり、この値は経済効
率の限界値の 0.17kWh/㌧よりも大きいので効率的な適用と考えられる。
冷却器
凝縮器
SILENCER
吸気
大気
GT
深層水利用
燃料
M
凝縮水利用
℃
35
30
平均気温℃
25
20
15
10
5
0
最高気温℃
システム適用可能期間
基準温度℃
ドレンタンク
1
(a)システムフロー図
図 2. 1-3
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 月
(b)月別外気温度変化
ガスタービン吸気冷却への適用
②
冷熱利用技術
a.
深層水冷熱を利用した低温庫貯蔵技術開発
深層水の低温安定性の特徴を利用して冷熱エネルギーを取り出し、低温庫の冷却に
用いることとし、従来の冷凍冷却方式との省エネ効果を比較する実証実験を行い、事
業化の可能性を示した。また、冷却方式として熱効率、製造コスト、省エネ性などの
送水ポンプ
循環系(2次利用へ)
深層水
受水漕
Y
流量調整弁
出口水温計
熱負荷
既存冷蔵機
140w
入口水温計
ボールバルブ
流量計
庫内温度計
試作
熱交換器
ドア
X
庫外温度計
図 2.1-4
低温庫貯蔵システム比較
図 2.1-5
42
実証実験装置
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
観点から検討して深層水を直接熱交換器に通して、庫内を冷却する方式とした。これ
らから 4.95 平方 m の低温庫に冷凍冷却方式装置と深層水冷却装置を取り付け、農業生
産物(ショウガ)700 ㎏の呼吸熱に相当する熱負荷を与えて比較実験を行った。図 2. 1 -5
に回路のフロー及び図 2. 1 -4 に実証実験装置の外観を示す。深層水流量 5 ㍑/m での比
較実験から年間の電力削減量は 1,419kWh/年、電力削減率は 64.7%、原油削減量は 334
㍑/年、CO 2 削減量は 0.872 t-CO 2 /年、深層水利用効率は 1.52kWh/㌧であった。この
値は経済効率の限界値の 0.08kWh/㌧よりも大きいので効率的な適用と考えられる。
b.
深層水冷熱利用空調(冷房)システム調査研究
共同研究センターの 6 室に「水冷媒方
式」と「全空気方式」の空調システム(冷
房のみ)を設置し、深層水の温度変動お
よび水量、冷房熱量、冷水温度、各室の
温度および湿度の計測を行った。図 2.1-6
に装置の根幹を成すプレート熱交換器及
び冷却ポンプユニットを示す。また、図
2.1-7 はシステムのフローを示す。
供給される深層水の温度は 10∼11℃程
度で、室温は設計通り 26℃に安定して制
御できた。従来の空冷チラー方式と比較
して、年間の電力削減量は 13,376kWh/年、
電 力 削 減 率 は 77.0 % 、 原 油 削 減 量 は
図 2.1-6
熱交換器及び冷却ポンプユニット
3,150 ㍑/年、CO 2 削減量は 8.23t-CO 2 /年、
深層水利用効率は 1.90kWh/㌧であった。
この値は経済効率の限界値の 0.08kWh/㌧よりも大きいので効率的な適用と考えられる。
補 機
FC U
補
真水
水
FCU
補
主機
FC U:ファ ン コ イ ル ユニッ ト
真
機
F C U: ファンコイル ユニ ット
補機
冷却塔
熱 交 換 器
主機
深 層 水
10℃
深 層 水 循 環 P
補機
(ア)
(イ)
従来方式
図 2.1-7
深層水利用方式
深層水を利用した空調(冷房)システムフロー
43
機
Ⅲ.研究開発成果について
c.
2.研究開発項目毎の成果
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
シャーベット状海水氷製造に関する実証試験研究
深層水の清浄性、富栄養性を利用したシャー
水、海水
ベット氷を魚介類の鮮度保持に用いることによ
15∼30℃
り、優れた鮮度保持効果が得られることが期待
空冷凝縮器
される。また、シャーベット氷は、魚種に合っ
凝縮温度25∼4
5℃
製氷機
た塩分濃度(1∼3%)に調整可能であり、塩分を
冷凍機
含んだ氷の製造が可能な製氷方式(過冷却解除
方式)を用いており、また粒径 0.1∼0.3mm の氷
であるため、魚介類を包み込むようにやさしく
(a)従来方式
冷却でき、冷却効果も高い。更に、流動性があ
るため配管による搬送が可能であり、運搬の煩
深層水
わしさなどがなく、使い勝手が良いという利点
5∼10℃
水冷凝縮
器
がある。深層水の低温安定性を製氷用の冷凍シ
凝縮温度10∼15
℃
冷凍機
ステムの COP * を 58%向上させ、36%の省エネル
製 氷機
ステムに冷却水に利用することにより、冷凍シ
ギー効果が得られる。
そこで、深層水シャーベット状氷製氷実証試
(b)深層水利用方式
験装置(過冷却解除方式、製氷能力 50kg/h)を
図 2.1-8
製作し、海洋深層水共同研究センターにて製氷
シャーベット氷製造システム
システムの凝縮器冷却水に深層水を利用した場
合の省エネルギー性に関する実証実験を行った。
図 2.1-8 に、本システムのフローを、そして、図 2.1-9 に実証試験装置の外観(ア)及び
製造したシャーベット氷の性状(イ)を示す。
(ア)
実証試験装置
図 2.1-9
(イ)
製造したシャーベット氷
製造装置外観(ア)及び(イ)製造したシャーベット氷
44
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
実証実験結果を元に冷却能力 1,000kW規模、年間稼動時間をフル運転に近い 6,000
時間として試算した。製氷システムの凝縮器冷却水に深層水を利用した場合、空気冷
却するシステムに比較し、
・ 年間の電力削減量は 557,000kWh/年、
・ 電力削減率は 33.0%、
・ 原油削減量は 145 ㌔㍑/年、
・ CO 2 削減量は 342t-CO 2 /年、
・ 深層水利用効率は 0.40kWh/㌧(深層水温度 5℃では、0.94kWh/㌧)。
深層水を凝縮器冷却に使用すると同時に製氷原水として使用した場合、消費電力が
さらに 12%削減されることがわかった。従来方式の製氷原水に表層水を使用する場合
に比較し、年間の電力削減量は 694,640kWh/年、電力削減率は 42.0%、原油削減量は
164 ㌔㍑/年、CO 2 削減量は 430 t-CO 2 /年、深層水利用効率は 0.49kWh/㌧(富山県での
取水を想定し深層水温度 5℃では、1.25kWh/㌧)であった。この値は経済効率の限界値
の 0.08kWh/㌧よりも大きいので効率的な適用と考えられる。
次に、魚介類の低温貯蔵における深層水シャーベット氷の有用性の検証、従来技術
との比較、効果的な使用方法を検討した。
その 結 果、 深層 水 シャ ーベ ッ ト氷 は
状態
従来の砕氷氷と比較し同じ熱量より高
鮮度と品質の高い水産物を供給できる
シャーベット
氷に浸漬
ことがわかった。シャーベット氷の
塩分濃度
体色の白化
眼球白濁
魚体の凍結
3 .3 %
あり
あり
あり
2 .2 %
あり
あり
あり
1 .1 %
なし
わずか
なし
IPF が 20% 以 上 で あ れ ば 魚 倉 や 市 場
海水氷に浸漬
なし
わずか
なし
タンク内が均一かつ効率的に冷却でき
砕氷上に保管
あり
あり
なし
**
ることがわかった。また、低温貯蔵過
眼球白濁、体色白化
程における最適な塩分は漁体色の白化、
漁体の凍結の回避の点から 1%程度の
塩分組成のシャーベット氷が適するこ
とも明らかになった。図 2.1-10 にマア
図 2.1-10
ジ冷蔵時の塩分濃度と品質の関係を示
す。
*
**
COP:Coefficiency of Performance エネルギー消費効率
IPF:Ice Packing Factor
塩水と氷の比率
45
マアジ冷蔵時の塩分濃度と品質
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
③
資源有効利用技術
a.
逆浸透膜法による濃縮深層水と脱塩深層水の効率的製造技術の開発
開発の目的は効率的に濃縮深層水と脱塩深層水を製造することである。エネルギー
消費の少ない逆浸透膜(RO 膜)、ナノフィルター膜(NF 膜)を組み合わせることによ
り 20%濃度の濃縮深層水を製造することを目標としてきた。濃縮・脱塩深層水を製造
する小型の実証試験装置を製作し、実用化の可能性を探ってきた。
図 2.1-11 に濃縮及び脱塩プロセスの工
程フロー図を、図 2.1-12 には富山県の水産
試験場に設置した実証試験装置の外観を示
金属膜ろ過
RO膜モジュール1
深層水
NF膜モジュール
濃縮
p
p
す。
原水
目標濃度 20%に対し、現状では 15%の濃
排水
ろ過水
水
高濃縮水
の製造エネルギーは 50kWh/m 3 程度である。
図 2.1-11
濃縮・脱塩水製造フロー
は下がる。
深層水を濃縮する方法としては製塩で行
われている電気透析法があるが、NaCl を濃
縮するものであり、目指した濃縮深層水と
は質的に異なったものであるので、エネル
ギー比較には馴染まないが、あえて両方式
の経済性を比較した。前提は逆浸透法は深
層水を、電気透析法は現状どおり表層水を
使用し、15%の濃縮塩水を 1,000m 3 /日製造
することとした。その結果、逆浸透法は電
気透析法に対し、電力削減量は 1,938MWh/
年、電力削減率は 17.0%、原油削減量は 460
㌔㍑/年、CO 2 削減量は 1,200t-CO2/年であ
った。
図 2.1-12
46
RO膜モジュール2
p
縮深層水が得られている。15%の濃縮塩水
設備規模が大型化すれば、製造エネルギー
脱塩水
実証試験装置
Ⅲ.研究開発成果について
(2)
発
電
効
率
改
善
技
術
冷
熱
源
代
替
技
術
資
源
有
効
利
用
技
術
2.研究開発項目毎の成果
2.1 資源・エネルギー利用技術研究
成果のまとめ
実施内容
火力発電所復水器
への適用
目標
既設で 0.5 ポイント、
新設で 1 ポイント上昇
ガスタービン(G
T)吸気冷却への
適用
省エネルギー効果の
定量化と効率的なシ
ステムの提案
低温貯蔵技術
省エネルギー効果の
定量化と効率的なシ
ステムの提案
空調(冷房)シス
テム開発
省エネルギー効果の
定量化と効率的なシ
ステムの提案
シャーベット海水
氷製造および利用
技術
省エネルギー効果の
定量化と効率的なシ
ステムの提案
濃縮深層水と脱塩
深層水の効率的製
造技術
省エネルギー効果の
定量化と効率的なシ
ステムの提案
- 47 -
研究開発の成果
① 既設発電所(新潟、60 万 kW 級)では年平均
1.4%の発電 効率向上が 期待できる 。(年間
稼働率:100%)
a.電力増量:73,200MWh/年
b.原油削減量:17,200kl/年
c.CO 2 削減量:44,900 ㌧/年
d.深層水利用効率:0.21kWh/㌧
② 新設発電所(沖縄、60 万 kW 級)では復水器
や取水ポン プの小型化 、効率向上 による燃
料費削減に より大幅な ストダウン が期待で
きる。(年間稼働率:100%)
a.設備費減:4.21 億円/年
b.電力増量:153,600MWh/年
b.原油削減量:36,200kl/年
c.CO 2 削減量:94,600 ㌧/年
d.深層水利用効率:0.33kWh/㌧
① 関東地区、14.4 万 kW 級のGT発電では、年
平均 1.5%の発電効率向上が期待できる。
(年間稼働率:6ヶ月×100%)
a.電力増量:26,530MWh/年
b.原油削減量:2230kl/年
c.CO 2 削減量:5,830 ㌧/年
d.深層水利用効率:0.86kWh/㌧
① 1.5 坪の低温庫での実証実験を行った。
(年間稼働率:100%)
a.電力削減量:1,419kWh/年
b.電力削減率:64.7%
c.原油削減量:334L/年
d.CO 2 削減量:872 ㎏/年
e.深層水利用効率:1.52kWh/㌧
① 共同研究センター6 室で実証実験を行った。
(年間稼働率:夏季 912 時間)
a.電力削減量:13,376kWh/年
b.電力削減率:77.0%
c.原油削減量:3,150L/年
d.CO 2 削減量:8,230 ㎏/年
e.深層水利用効率:1.88kWh/㌧
① 共同研究センターでの実証実験(製氷能
力:50 ㎏/h)結果から、冷却能力 1,000kW
規模でかつ 、深層水を 製氷原水と して使用
した場合で試算した。
(年間稼働率:6,000 時間)
a.電力削減量:694,640kWh/年
b.電力削減率:42.0%
c.原油削減量:164kl/年
d.CO 2 削減量:430,000 ㎏/年
e.深層水利用効率:0.49kWh/㌧
① NF膜とR O膜の組み 合わせによ り、15%
の濃縮水を 1,000m3/日製造するとして、電
気透析法と比較した。
(年間稼働率:100%)
a.電力削減量:1,752MWh/年
b.電力削減率:16.0%
c.原油削減量:460kl/年
d.CO 2 削減量:1,200 ㌧/年
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2
研究開発項目
(1)
目標と開発の前提条件
2.2 深層水取水技術開発研究
深層水取水技術開発研究
深層水取水技術開発研究は海洋深層水を発電所の冷却水として利用することを目指し、“深層
水の大量・高効率取水技術の確立”を開発目標に実施した。
開発研究を進めるに当たっては我国における立地条件や取水関連施設技術実績等の調査結果を
考慮し適用・実現化可能性の高い取水路形式を抽出・限定して開発を行うこととし、その結果とし
て「管路形式(表 2.2-1)」について開発を実施した。
表 2.2-1 取水路形式3形式の実用性評価比較表
管
路
ギャラリー
取水ピット
小口径ボーリング
取水ピット
取水路形式
取水ピット
取水管
斜坑
小口径ボーリング孔
取水口
管
路
仕
様
適
応
性
比
較
項
目
小口径ボーリング
▽-300m
比較事項
口
径
φ2.0m
長 さ
条 数
水 深
取水量
地象、海象等
の立地条件
への適応性
海域利用等の
制約条件への
適応性
施設実績から
の対応可能性
対応可能性
現有技術での
実現可能性
経済性
総合評価
開発課題
【凡例】◎;最適
L=3,000m
N=1 条
D=-300m
3
「100 万 m /日・条」の取水可。
管路設置構造形式や管材料を組合
せることで適応可能性が高い。
ギャラリー
斜坑:B4.3m*H3.5m*1 本
坑口:φ0.5*L=50m*12 本
L=3,500m
N=1 本
D=-300m
3
「100 万 m /日・本」の取水可。
CH∼CM 以上の良好な地質に加え、坑口
部地形が急峻であることが不可欠とな
る。
海底の取水口部を除き、基本的には全
く影響が無い。
◎
◎
φ0.3m
◎
△
浮遊管路等、管路設置構造形式によ
ってはその影響が生じる。
△
管防護掘削等、建設時に多少の影響
が出るものの、供用時影響は少な
い。
同種の施設実績を有すが、口径面で
の実績が無い。
○
建設、供用を通じ、その影響度は比較
的に少ない。
○
施工技術、管材料等現有技術の延長
上で対応可。ただし、補修用機器面
で多少問題有り。
80∼100 億円程度
(100m3/日施設)
○
類似施設実績はあるものの、設置深度
△
実績が 100m 以浅と、大水深化に伴う課
題が懸念される。
複雑な地層変化に加え、大深度・長距離
×
施工及び海底坑口部掘削対応に懸念が
残る。
陸上ボーリング:60 億円
△
海上ボーリング:50 億円
注)最適条件下での建設費
地象の影響を大きく受けるためにその
△
適地が限定され、立地条件が合えば経
済性は良い。
・様々な地形・地質条件に適応できる斜坑掘削
及び孔壁保護技術の開発が不可欠。
・また、海底面への貫通部削孔技術の開発が
必要である。等
○
我国の様々な立地条件への適応性
○
は比較的に高いが、経済面において
の開発が望まれる。
・様々な立地条件に合致した大口径管路の
設置形式の開発。
・経済性を踏まえた大口径管路の管材、設
置形式、施工技術の開発。等
○;一般的に適応
△;適応に検討を要す
▽-300m
▽-300m
◎
◎
L=1,000m
N=60 本
D=-300m
3
「数千m /日・条」が最大限度
削孔トルクの関係から、一般土
への適応度が高く、また、急峻
地形に適用性が高い。
海底の取水口部を除き、基本的
には全く影響が無い。
×
△
◎
建設、供用を通じ、その影響度
は比較的に少ない。
◎
油田削孔等、類似施設はあるも
のの、大口径・長距離削孔が課
題となる。
複雑な地層変化に加え、大深
度・長距離削孔及び数十本の併
設対応に懸念が残る。
超高価
60 本×9 億円/本=540 億円
△
取水性能及び建設費面で不適
である。
×
×
×
・大口径、長尺孔の削孔機械及び孔壁
保持技術の開発がメインとなる。
・現有機械や技術で対応不可能なボー
リング仕様はφ1m×延長 L=0.8km 程
度である。
×;不適
また、管路形式に関する実用化開発は各種机上検討や実証実験等による検証・評価等を行い、全
体取水システムとしての確立を図った。
- 48 -
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
以下に管路形式における開発の具体的な達成事項と目標及びその方策を示す。
<開発の達成目標>
<具体的対応方策>
1)経済性
施設整備費:100億円程度以下
⇔実現化を踏まえた縮減化方策
a.高速通水管路の実用化
(従来 0.5∼1.0m/s⇒2.0m/s)
b.その他の縮減化方策
2)施設規模
取水量:100万 m3/日
(取水深度:300m)
⇔大口径管路の実用化
(従来 φ1m程度以下⇒φ2m)
a.管路設置形式の実用化
(従来 着底、浮遊管路⇒工夫・改善)
b.管材料の実用化
(従来 鋼管、PE管等⇒大口径化と補強)
c.敷設方法の実用化
(従来 リールバージ法、浮遊曳航法⇒新工法)
3)施設仕様等
⇔運用面での実用化
実現性の高い運用が図れる
a.メンテナンスフリー
国内各所に立地できる施設技術とする
b.施設整備に伴う環境影響
<最終成果>
経済的・技術的に可能な取水システムを具体化
(管路の設置形式、管材料、敷設方法及び全体取水施設仕様を具体化
・設計基準を確立するとともに、経済性の高い施設とする)
(2)
大口径管路の実用化開発
大口径取水管路の実用化開発は「設置形式、管材料、敷設方法」の主要 3 事項の具体化に加え、
これまでに基準化されていなかった全体取水システムと構造物としての設計法を確立したことで
開発目標を達成した。
a.管路設置形式の実用化開発
管路設置形式については既存実績調査を基に抽出された“着底管路、多点係留方式浮遊管路、
一点係留方式浮遊管路”の 3 形式について、我国の立地特性3パターン(表 2.2-2)に対する適
応性検討として主に構造耐力面から検討を加え
・緩傾斜地形:着底管路
・大陸棚地形:多点係留方式浮遊管路
・急峻地形:一点係留方式浮遊管路
がそれぞれ適合性の高い設置形式(表 2.2-3、4)であることが分かるとともに、その 3 形式の管
- 49 -
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
路設置形式を適用することで我国各地の立地条件に対応できることを確認した。
表 2.2-2 我が国の立地条件特性一覧表(地象・海象・海域利用特性パターン)
No
概念図
地 象
地形
北海道、富山県、静岡県、千葉県 等
管路長;約3000m
海
地質
象
波 浪
制約
海底勾配: 6∼10°
表層:土砂(層厚大) (富山県)
海底面:比較的に平坦
深層:基岩
T=12.0s
海底勾配:30∼50°
浅海部:転石、軟岩
(沖縄県)
表層
Hmax=15.3m
V=1.0m/s
T=11.2s
深層
底曳 等の漁
V=0.5m/s
業海域
Ⅰ
Hmax=10.0m
土砂
海域利用
潮 流
V=0.5m/s
基岩
江差、飛島、越前、沖縄県・離島 等
管路長;約2500m
Ⅱ
軟岩
海底面:起伏大
深海部:硬岩
硬岩
三重県、和歌山県、高知県 等
海底勾配:
浅海部 3∼5°
深海部 30°程度
海底面:
浅海部 平坦
深海部 起伏大
管路長;約3000m
土砂
硬質土
Ⅲ
基岩
浅海部:
表層 土砂
深層 硬質土
(高知県)
Hmax=17.1m
T=15.0s
・刺網、定置網、
V=0.5m/s
深海部:
硬質土、岩
表 2.2-3 管路設置形式別特性一覧
取水管設置構造形式
着
底
管
路
地象条件
▽
P▽
取水ピット
▽-300m
取水口
多
点
係
留
式
浮
遊
管
路
一
点
係
留
方
式
浮
遊
管
路
P
▽
▽
取水ピット
着底部
▽-100∼150m
係留鎖
浮遊部
取水口
▽-300m
P
▽
▽
取水ピット
着底部
▽-100∼150m
固定部ブロック 浮遊部
▽-300m
取水口
固定部ブロック
海象条件
海域利用
地質:一般土に適。転石・岩質土 波浪:穏やかな海域に適。 漁業:漁法により影響度が
にも適応できるがブリッ 波高≧15mの海域で 異なるが、何らかの
も適応可能である 影響が出る。
ジの発生程度による。
が管重の増大を来
勾配:緩傾斜に適。急峻地形にも す。
航行船舶:全く影響なし。
適応可能であるがθ≧30° を超えると作用軸力が増大。 流れ:V≧2ktとなる海域 投錨:投錨はできない。
にも適応可能。
起伏:平坦地形に適。多少の起伏 にも適応可能であるが発生 ブリッジ≧50mとなると適
応管材が限定される。
環境影響
生物:影響が全く皆
無とは言えな
い。集魚、魚
道寸断 等の
影響が考えら
れる。
地形:洗掘 等への
影響が懸念さ
れるが事前検
討で回避でき
る。
地質:一般土に適。転石・岩質土 波浪:穏やかな海域に適。
波浪の影響が大き
にも適応できる。
い浅海部への適応 不可。
勾配:比較的に急峻地形に適、
θ≧30°となると係留鎖の
軸力が増大。
流れ:V=2kt程度の海域に
も適応可能である
起伏:平坦地形に適。多少の起伏 が管の浮上性能増
にも適応可能であるが激し 大による係留鎖の
い起伏には不適となる。 大重量化を来す。
漁業:刺網、底曳漁業等を 生物:同 上。
中心に漁業への影響
が出る。
地質:地質に関係なく適応可能。 波浪:穏やかな海域に適。
波浪の影響が大き
い浅海部への適応 不可。
勾配:急峻地形に適。ただし、
θ≧30°となると固定基礎 流れ:V=1kt以上の海域に
の移動安定が図れない。 も適応可能である
が管の浮上性能増
起伏:地形に関係なく適応可能。 大による管作用軸
ただし、固定基礎の安定に 力の増大と固定基
礎重量の増大を来
は影響あり。
す。
漁業:漁業への影響が出る。生物:同 上。
航行船舶:全く影響なし。
投錨:投錨はできない。
地形:同 上。
航行船舶:100m以深であり、
その影響は全く
ない。
地形:同 上。
投錨:投錨はできない。
また、国内において実績のない多点係留方式浮遊管路及び着底管路の実用性については実海域
小規模実験(φ225mm)を通じ、高速通水管路への適応性も含め確認し、実用性があることを検証
した。
- 50 -
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
表 2.2-4 管路設置構造形式の実用化評価一覧
評価項目
評価に当ってのコメント
評価点
管材料への適応
管路設置構造形式別に下記2種類の大口径管材料を開発、その適応性が高い
ことを検証している。
◎
設計技術面
・着底管路:鋼管及び鎧装硬質ポリエチレン管
・浮遊管路:硬質ポリエチレン管
管路計画
(各地への立地対応性)
現地の地象、海象、海域利用制約等の立地条件に合致した最適な管路設置
構造形式「3形式」を具体化している。
○
ただし、管路形状は敷設法の制約から直線形とする必要性がある。
施工技術面
経済性面
管路の構造設計
発電所構造物としての信頼性の高い設計法を確立している。
○
管路の水理設計
ウォーターハンマー解析も含め関連の設計規準類があり、問題なく対応で
きる。
◎
海域利用制約度
海域の航行船舶への影響はなし。ただし、投錨に対する問題への回避は出
来ない。
○
環境への影響度
漁業活動への影響は避けられない。また、海生生物への影響としては魚道
を寸断する懸念があり、色、音、振動、濁等の影響は少ないと考えられる。
○
管路の施工
敷設時安定性確保も含め実施工可能な管路設置構造形式である。
◎
環境面への影響度
施工時環境影響度としては浅海部管防護工と半浮遊曳航法による長管引出
しに伴う海底面の一部切削である。その程度は規模、期間とも従来工事以下
である。
○
施設工事費
現有機資材での対応性
総合評価
3形式とも開発目標である「施設建設費≦70億円(管路長≦3000m)」をク
リアーしている。
◎
現有の施工資機材及び管材料で対応可能である。
○
実用化可能性と言う点での確認はできたが、今後、実機を踏まえた検証が
望まれる。
○
【評価点】◎:十分に対応可、○:種々の検討を要が対応可検証要、△:総合試運転対応型、×:研究開発要
b.管材料の実用化開発
・管材料
大口径管に適用する管材料については深層水取水管路としての基本的要求性能に加え、φ2m
級管材料に対する現有製造設備や製管技術面から “鋼管と硬質ポリエチレン管”の 2 管種を抽出
し、管路設置形式別に
・着底管路:鋼管及び硬質ポリエチレン管
・浮遊管路:硬質ポリエチレン管(素管)
の適合性について主に管強度面に関する検討を行い、その適応性が高いことを確認した。特に、
着底管路における断面仕様決定要因となる“ブリッジ現象”発生支承部耐力検討に関しては補強
管(図 2.2-1)を新規に考案、適応するとともに、その発生応力度解析手法としてFEM解析で
の適応性について管断面強度試験結果等との相関性から評価、確認した。
・製造方法
これまでに製管実績のない大口径・極厚硬質ポリエチレン素管の製造方法については小口径管
での試作や各種材料実験等を通じ「多層押出し製管方式(図 2.2-2)」での製造可能性を確認す
るとともに、強度特性上も一体物として取扱えることを確認した。加え、鎧装方法についてもφ
225mm*L=2.6km の試作・製管を通じ、実規模への対応可能性を検証した(図 2.2-3)。更に、単管
(L=10m)接続方法として硬質ポリエチレン管の融着接合とアラミド繊維のラップ接着剤接合、長
管(L=150m)の敷設時接続方法として機械継手(フランジ継手)についても、具体化検討を加え、
その実用化可能性の高い方法であることを確認した(表 2.2-5、6)。
- 51 -
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
管種
2.2 深層水取水技術開発研究
アラミド繊維補強鉄線巻きPE管
(新規開発)
リングスティフナー補強鋼管
軸力補強材 (アラミドシート)
鋼管φ2726mm*t13mm、SM490
緩衝材(軟鋼鉄線)
φ9mm×1重巻
導管
(高密度ポリエチレン)
リングスティフナー
H206.5mm*t25mm、ctc1700mm
概念図
V: Default XY View
L: CASE1
C: SPC1
1.322
大
防食層 (低密度
ポリエチレン)
1.239
1.157
0.991
0.826
0.744
0.661
変位
0.909
0.578
変位分布
1.074
0.496
0.413
0.33
0.248
Y
0.165
小
X
0.0826
Z
Output Set: MSC/NASTRAN Case 1
Deformed(1.322): Total Translation
Contour: Total Translation
0.
適用管路
設置形式
着底管路及び浮遊管路
着底管路
基本耐力
破断引張力600t
許容フリースパン長100m
支点集中荷重50t
許容フリースパン長50m
実用化の
要点
製管法確立
設計法確立
設計法確立
図 2.2-1 開発の管材料
素管製管工程(多層押出し製管方法)
1 層目製管工程
OD2100mm×ID2000mm×60t
10M
10M
2 層目以降製管工程
2 層目:30t+3 層目:25t
最終仕上がり: OD2230×ID2000×115t
10M
10M
10M
10M
吊上げ
押出成型機
ジョイント部切離し
モーター
パイプ引取機 内管表面加熱機
シャワー冷却槽
(×2基)
切断機
コロ台
ジョイントスリーブ
導管押出機
金型クロスヘッド
押出し機
樹脂
二層目
PE導管(一層目)
方向
真空引き
加熱(バーナー)
スクリュー
図 2.2-2 多層押し出し製管方法概要
- 52 -
冷却時ポリエチレンの熱収縮
により圧着させる。
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
鎧装工程(軸方向アラミド補強鉄線巻き構造)
10.0M
①アラミド帯巻き工程
O.D. φ2,230
導管
15°
アラミド繊維
テーピング止め
②鉄線巻き工程
受コロ ×4台
(昇降付)
10.0M
溶 接
パイプ回転機
パイプφ2230(OD)
変位計
受コロ(昇降付)× 4台
レール
M
鉄線 500kg/ビン×10
油圧ポンプで上下
ビン台
M
モーター
図 2.2-3 鉄線巻き装置概要
ピンチローラー
鉄線繰出台(ブレーキ付き)
10基搭載
レール
鉄線ビン台車 10t用
※送りピッチ : 35mm / パイプ1回転
※257回転で9.0Mの鉄線巻完了 × 1回(2重)
表 2.2-5 配管接続方法比較表
方式
項目
継手の概要
(導管接続)
熱融着継手
バット融着方式
EF継ぎ手方式
0
ポリエチレン管
アラミド繊維帯
アラミド接続
アラミド接続
アラミド繊
維帯の接続
継手部防護
特性・形状
継手耐食性
施工性
作業時間
コスト
ポリエチレン管
ポリエチレン管
アラミド繊維帯
バット融着部
EFソケット
導管端面を熱板により溶融し、導管
同士または、導管とポリエチレン製
継手(ツバ短管)とを突合わせ融着
する。
継手部においてラップさせたアラ
ミド帯を樹脂にて固める。
鉄線又は、カバーをかぶせ防護す
る。
パイプ部分とほぼ同形状・同寸法で
あり、管路特性の平均化が図れる。
加熱用熱線を予め埋込んだポリ
エチレン製継手に電流を流して
加熱し、導管外周と継手本体を溶
融・融着する。
継手部においてラップさせたア
ラミド帯を樹脂にて固める。
鉄線又は、カバーをかぶせ防護す
る。
パイプ部分より若干大きいがパ
イプと同材質であり、管路特性の
平均化が図れる。
主要部分はパイプと同材質であ
るため、良好である。
専用コントローラが必要。作業ス
ペースは小さいが、大口径では、
接続パイプ前後の延管設備が大
掛かりとなる。
バット融着同様、冷却に時間かか
り、同様にアラミド接続も別途必要
になるため、全工程の作業時間も
バット融着とそれ程変わらない。
比較的安価
主要部分はパイプと同材質である
ため、良好である。
バット融着機が必要となり、作業ス
ペースも大きい。大口径では、接続
パイプ前後の延管設備が掛かりと
なる。
冷却に時間がかかり、φ2000 では
継手一箇所につき融着 8 時間、アラミ
ド接続 3 時間であり全工程約 11 時
間程度を所要する。
部品点数が少なく安価。
- 53 -
機械継手
メカニカル方式
メカニカルフランジ
アラミド繊維帯
締付けボルト
メカニカルフランジにより、導管を
掴み、ボルトにより接続する。
くさびにより、アラミド帯を機械的
に締め上げる。
防護と接続を継手一体で行う。
重量が大きく、フランジ形状とな
る。管路特性と継手部の特性が大き
く異なる。
金属が主要部分であるため、材質の
選定や被覆が必要。
特別な工具は必要とせず、作業スペ
ースは小さい。
大口径であるとボルト点数が多く
なるが、φ2400 でもアラミド接続も含
め 3 時間以内で接続が可能と思わ
れる。
部品点数が多く、高価。
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
表 2.2-6 実用化評価項目
項目
種
製造技術
管路への
適用面
経済面
別
項
目
評価点
製造方法
ポリエチレン2層押し出し製法により、大口径極厚化が可能
○
汎用性
ある程度の管径の変化に対して、一つの製造装置で対応できる
◎
製造工期
装置を自動化しても既存技術では製造スピードに限度がある。また初期は
新規設備設置にも多くの工期を要する。
△
製造品質
製管速度の制御等により、ある程度精度の高いものが可能。
○
素材安定性
主材料はポリエチレンであり、耐食性、清浄性が高い。
◎
強度面
ブリッジ時の発生荷重に対して鉄線巻き構造にて対応可
◎
施工への適用性
施工時の導入張力に対してアラミド軸補強にて対応可
◎
既存設備の使用
既存設備を改造することにより初期投資は押えられる。
○
最適仕様によるコス 設置条件別に管肉厚、鉄線径等仕様を変化させることによりコストを抑え
ト低減
ることが可能
評価点:◎十分に対応可、○検討が必要だが対応可、△検討が必要、×対応不可
◎
c.敷設方法の実用化開発
敷設方法の抽出は現有敷設技術や作業船・機器での対応可能性に加え、敷設時天候の急変への適
応性等について管路設置形式別に下記 2 工法の抽出を行うとともに、
・着底管路及び多点係留方式浮遊管路:半浮遊式海底曳航法
・一点係留方式浮遊管路:係留式浮遊曳航法
敷設時発生断面力と位置保持安定について検討を行い(表 2.2-7)、敷設計画の立案を通じ、そ
の適応可能性について評価、実現性を確認した(表 2.2-8)。
表 2.2-7 大口径管路用敷設方法別特徴一覧
敷設方法
敷設法概念図
半浮遊式海底曳航法
接合台船
中間基礎吊降し
ウインチ台船
半浮遊管路
係留式浮遊曳航法
取水口吊下げ 管路引出し
ウインチ台船
ウインチ台船
接合台船
固定シンカー
ハンガーワイヤー
管引出し
ウインチ台船
中間基礎吊降し
ウインチ台船
中間固定基礎
管引出しワイヤー
係留鎖
係留鎖
本設兼用管係留シンカー
比較項目
位置保持易さ
許容線形保持易さ
管材損傷の可能性
管路設置構造形式へ
の適応性
天候急変への対応易
さ
現有技術・機資材で
の対応可能性
施工実績の有無
総合評価
作用外力に対して係留鎖で移動安定を確保で
き、敷設位置精度が高い。
海底面に沿った滑らかな線形の確保ができ、
管理が容易。
海底面上を浮かして敷設するが、極端な地形
変化や起伏程度によっては擦る危険性あり(ハ
ンガーワイヤー長で対応可)。
浮遊管路では管引出し即完了となる。着底管
路ではハンガーワイヤーを切断することで沈
設完了となり、適応性が良い。
海上のウインチ台船の切離し、回避が可能。
作業船及び敷設機材とも現有のもので対応可
能であり、経済的な施工が確保。
小口径・短尺管ではあるが「徳之島 OTEC」で唯
一 1 例の実績がある。
実用化可能性大。
- 54 -
◎ 作用外力に対して管保持シンカーで移動安定
を確保でき敷設位置精度が高い。
◎ 管引出しワイヤー張力管理により許容線形確
保が図れ、管理が比較的に容易。
○ 管路を浮上させて敷設するので海底面に対し
て擦る懸念は少ない。
◎
◎ 管引出し即完了であり、適応性が良い。
◎
◎ 海上のウインチ台船の回避は不可能である
が、事前の天候予測と急速施工で対応可能。
○ 同左。ただし、管保持シンカーへの管引出し
ワイヤーの固定方法の開発が要。
○ 「海洋温度差研究会」での研究開発工法。
○
△
○
△
一部の開発を要すが、適応可能性が高く実用
可能性大。
○
◎
△
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
表 2.2-8 敷設方法の実用化評価一覧
評価項目
設計技術
施工技術
経済性
評価に当ってのコメント
評価点
管材料への適応性
両工法とも管材料(鋼管及び硬質ポリエチレン管)に損傷を与える等の影響が少ない。
また、設計上で決定された管断面仕様での敷設を可能としている。
◎
管路形状への適応
性
敷設工法上の制約から管路形状は直線形とする必要性があり、管路長最短化への制約と
なっている。ただし、浅海部着底管路では沿岸近く近距離での屈曲が可能である。
○
管路設置構造への
適応性
両工法とも管路設置構造形式に対して容易に施工出来、その適応性が高い。
管路の品質確保へ
の適応性
両工法とも管路の位置確保及び許容線形確保に対して安全・確実に対応できる。
敷設作業の安全・確
実性
敷設時の移動安定性確保や天候急変への対応性も含め、安全・確実な施工が確保可能で
ある。ただし、着底管路におけるROVでのフロート切離し作業に多少の難しさが残る。
○
管接続作業の確実
性
主に敷設時の気象・海象条件によるが、鋼管での溶接継手、鎧装硬質ポリエチレン管で
の機械継手とも安全・確実な施工が図れる。
○
浅海部管防護工へ
の対応性
浅海部防護工として埋設方法が一般的であるが、管路の位置精度が高いことからその対
応性は容易である。
◎
環境面への影響度
環境影響度としては半浮遊曳航法による長管引出しに伴う海底面の一部切削があり、珊
瑚地盤での影響度が懸念される程度である。
○
施設工事費
両工法とも開発目標である「施設建設費≦70億円(管路長≦3000m)」をクリアーして
いる。
◎
現有機資材での対
応性
現有の施工機械、資材で十分に対応可能であるが、鋼管による着底管路において大深度
・大型フロートシステムの実用化に不安が残る。ただし、硬質ポリエチレン管製管路で
のフロートは鋼製フロートで十分に対応可能である。
△
実機に向けより実用化サイズに近い管路での検証・確認が望まれる。
○
総合評価
○
○
【評価点】◎:十分に対応可、○:種々の検討を要が対応可、△:検証要、×:不適・研究開発
特に、半浮遊式海底曳航法の実用性評価に当っては敷設システムの構築と使用機器関係の技術資
料等を入手する目的からφin225mm×L=100m 管路での実海域小規模実験を行い、所要引出し力や
管路の係留系器具類及び施工用機器類等に関する技術データの入手を図るとともに、その技術関
連データに基づく実規模での検討を通じ、対応可能であることを確認した。
一方、大口径管路の実用化においては、これまで全体取水システムとして設計の体系化がなさ
れていなかった施設構造物に対して、その設計法を基準化・確立して汎用性を図った。表 2.2-9 に
設計フローを示す。
【基本設計】
・取水ルート
・管路設置形式
・所要管路長
・揚水方式
・水理設計
・取水管仕様
・取水ピット設計
・ポンプ設備設計
表 2.2-9 取水管路の設計フロー
計画
【深層水取水仕様】
・設置場所
・取水流量
・水質(水温 等)
【調査】
・自然環境
・海域利用
・背後地利用
・社会環境
設
計
【設計条件設定】
・取水条件
・地象条件
・海象条件
・気象条件
・水質条件
・水位条件
・設計震度 等
【データ分析】
・地象データ
・海象データ
・気象データ
・水質データ
・陸上データ
NG
施工計画
【概略施工計画】
・管路敷設計画
・管路埋設計画
・取水ピット計画
・取水ポンプ計画
・口径別施設・運転
コスト試算
最適か?
【管路構造設計】
・移動安定計算
・管強度計算
・動揺解析
・耐震設計
・昇温設計
・管路・係留施設設計
・取水口設計
・管路防護工設計
- 55 -
【施工計画】
・施工(敷設)方法
・敷設時管応力度検討
・施設建設コスト
・施設建設工期
・環境影響検討
建設工事
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
(3)
2.2 深層水取水技術開発研究
実現化を踏まえた縮減化方策
実機管路の実現化において技術的に信頼性が高くかつ安価な管路とするためには管路の小口径
化を図ることが重要な要点であり、そのためには高速通水管路の実用化が不可欠となる。本研究
開発では「管内流速≧2m/sec」の実用化により「施設費100億円」管路の実現化を確認したこ
とで開発目標を達成した。
a.高速管路の実用化開発
着底管路及び浮遊管路の高速通水への適応性については全く知見が無かったことから試験体φ
13mm×L=0.8m による室内挙動実験(管内流速 1.6m/sec、管外流速 0.5m/sec)、次にφ225mm×L
≒100m 管路による実海域小規模実験(最大通水流速 V=2m/sec:表 2.2-10)の 2 段階の実験を行
い、管路の破断・移動安定に影響する挙動について VTR 撮影と加速度計で計測した。
表 2.2-10 高速通水管路開発
◇管路設置構造形式別対応性検証
①
水槽実験
管:天然ゴムφ13mm
三次元回流水槽
鉄線入ビニールφ16mm
小型ポンプ
P
外部流速 0∼0.5m/s
通水速度 0∼1.6m/s
管外流
管路拘束条件:多点係留方式浮遊管路(15cm、30cm、45cm)
管端高速:自由、固定
②
管内流
実海域実験
ハンガーワ
鎧装 PE 管φin227mm、通水速度 0∼2.0m/s、
係留間隔
管路拘束条件:多点係留方式浮遊管路及び
着底管路
浮遊区間 約 100m
結果:取水ポンプの ON&OFF 等急激な通水変化を
通水方向→
生じなければ管路の動揺はない。
取水口
実海域実験概要図
◇設計への展開:「Paidaussis の理論式、
背後渦による動揺解析」
で検討可
◇高速通水管路:管内通水速度V≧2m/s
の実用可能性を検証
浮遊管路における送水前後の動揺変化に関する周波数分析結果
- 56 -
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
その結果は、
・管外流があっても定常状態の管内流下では管路に悪影響を及ぼす挙動が起きない。
・急激な始動・停止操作を行うと管軸方向に大きく揺れが生じる。ただし、通水操作を緩やか
に行うことで防止できる。
となり、浮遊管路においても高速通水管路としての適用可能であることを確認した。
実規模管路の高速通水への適応可能性検討は前述の実験結果に対し、既成管路の動揺安定性に
関する理論式「管を横切る流れに対する安定検討式」及び「管内流に対する安定検討式」との相
関性について検討し、その適応妥当性があることを確認した。
また、その検討式よりV≧2m/sec の高速通水管路についても解析可能となり、管内流速が 2∼
3m/sec 以上となる管路でも実用性が高いことを確認した(表 2.2-11)。ただし、通水速度の高速
化に伴う損失水頭の増大により、ポンプ揚水方式では液切れ現象が発生するために適用流速の制
約を受ける懸念があったが、揚水方式を「自然流下方式」とすることで対処した(表 2.2-12)。な
お、自然流下方式は流入物除去への対応が容易であり、現有ポンプでの対応が可能である等、実
用性の高い方式であることを確認している。
表 2.2-11 管路の振動現象に対する安定性検討結果(硬質ポリエチレン管)
1000
凡 例
:管内流速による共振現象
:管路外流速による着底管路の共振現象
:管路外流速による浮遊管路の共振現象
V=0.5m/sの一定
T=管路導入張力
900
800
6.0
5.0
700
管内流速
=3.2m/s
600
管内流速関係
線
500
400
m
/
s
︶
︶
m
4.0
3.0
︵
ス
パ
ン
長
管
内
流
速
︵
ー
管
路
の
許
容
フ
リ
2.0
1.0
管内流に対する
許容スパン長
≦320m 300
T=200t 0.0
T=50t
T≒0t
200
管外流に対する
許容スパン長
≦150m 100
0
1700
1000
1800
1900
2000
2100
2200
2300
2400
2500
2600
2700
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
10000
- 57 -
2800 管路口径(mm)
管路長(m)
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
表 2.2-12 大量取水に対する揚水方式比較表
揚水方式
②案:ポンプダイレクト取水方式
①案:自然流下方式
比較項目
ポンプピット
スクリーン 取水ポンプ
P
概念図
取水管
P
着水槽 ポンプ室
取水管
取水口
海生生物流入に
対する対応性
水理特性に対す
る揚水安定性
ウォーターハンマーに対
する構造面の対
応性
現有揚水機器で
の対応性
ストレーナー
取水ポンプ
取水口
流入物が多くても容易に除去可能であり、スクリー
ン等の機器類も現有。
②案と異なり、吸込み側は正圧状態で取水され
るため、液切れ現象は発生せず、安定取水が可
。
取水ピットの平面積を150m2程度以上とすること
で、ピット内水位の変動を抑えることができ、対
応可。
現有ポンプで対応可。
◎
◎
○
◎
取水ピットの規
模(建設費への
影響)
②案に比べ取水ピットが深くなり、建設費増と
なる。
揚水動力量
(運転費)
②案に多少減となる程度
△
◎
配管、ポンプ類の機密性と耐圧性能を要求さ
れることになるが、高速通水に伴う対応性
に問題有り。
大量取水に対し、吸込み側及び吐出側揚程
とも大きいポンプは特注となり、複数台での
対応となる。
①案に比べポンプピットの深さは多少浅くな
るが、所要平面積は同等程度である。
①案に多少増となる程度
特に流入物への対応性に懸念があり、液切
れ現象を踏まえると高速通水への対応性が
低い。
【判例】◎:最適、○:一般的に適応、△:検討を要す、×:一般的に不適
総合評価
流入物対応も含め、高速通水への対応性が可能
であり、大量・安定取水が確保できる。
連続取水をする上で2系統以上のポンプ設
備が必要となり、ストレーナからの除去作業も大
変。
吸込み側負圧が-6.5mを越えると液切れ現
象が発生し、安定取水が図れない。
○
×
△
×
△
○
○
×
b.実現化を踏まえた経済性評価
深層水取水管路の実用化において、施設建設費の縮減化は最重点開発事項の1つと言える。本
研究開発では管内通水速度の高速化による適用口径の最小化と揚水方式や施工方法の改善・工夫
等により建設費の縮減化を図ったもので、その概要は以下の通りである。
方策―1:高速通水管路の実用化
従来:φ1m×4 条
新規:φ2m×1 条
方策―2:揚水方式の選定
従来:ポンプ揚水方式(損失水頭 7m 程度で液切れ発生)
新規:自然流下方式(液切れ現象は発生しない)
方策―3:長管引出し時間短縮(接続方法の工夫)
従来:融着継手方式(融着:8hr+鉄線処理:3hr+引出し:1hr=12hr/1 ヶ所)
新規:機械継手方式(接続:3hr+引出し:1hr=4hr/1 ヶ所)
注)施設費及び施設の生涯コストがミニマムとなる施設仕様については管路設計で考慮済。
管路設置形式別及び管材料別の標準的取水施設費用は表 2.2-13 となり、適応管路長 L≦4000m
において開発目標である 100 億円を達成することができた。なお、更なる取水施設費縮減化方策
- 58 -
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
としては海底地形に合わせ「着底管路と多点係留方式浮遊管路」を組合わせて配管する方法が考
えられ、実計画に伴う海底地形条件によっては更に施設費圧縮が可能となることが確認できた。
表 2.2-13 管路設置形式別建設費比較
190
180
170
160
︵円 ︶
建設費
億
建 150
設
140
費
130
億 120
円 110
凡例
【管路設置形式】
黒:着底管路 PE管(緑:鋼管)
赤:多点係留方式浮遊管路 PE管
紺:一点係留方式浮遊管路 PE管
【内 訳】
:材料費
:長管製作費
:敷設費
:管防護及び陸上施設費
:仮設費
:諸経費
注)管材費には製管設備費を含まず。
3
Q=1,000,000m /d
100
90
80
事業性限界範囲
70
60
50
40
30
20
10
0
(4)
L
φ
1,000
1700
2,000
2000
3,000
2100
4,000
2200
5,000
6,000
2400
7,000
8,000
管路長(m)
管口径(mm)
↑
取水量=1,000,000m3/d
運用面での実用化
運用面の実用化として、メンテナンスの程度と施設立地が環境や海域の漁業活動に与える影響
度等について評価した。その結果、メンテナンス面については従来施設と同程度の点検・保守で対
応可能な施設に造り込めることが分かった。また、環境や漁業への影響についても従来施設・工事
と同程度以下で運用可能な施設と出来、開発目標を達成した。
a.メンテナンスフリー化
メンテナンスフリーで運転可能な施設とするための運用面のデータは既設関連施設7ヶ所に対
するアンケート調査と平成 14 年 11 月 22 日より稼動を開始したモデル実証装置の運転記録を基に
収集を図った。その結果は連続・安定取水が図れることに加え、土建施設の補修等が不要であるも
のの、取水ポンプ等の設備機器類の定期点検・保守と流入物(魚介類:絶対量は表層取水に比べ遥
かに少ない)の排除(図 2.2-4)が必要となることが確認された。ただし、管路内面の生物付着
等による通水量の減少に関しては全くないことが確認された。
結果として、メンテナンスフリー化に向けては従来の取水施設と同様な機器と方法で対処する
ことで問題ないことが実証できた。
- 59 -
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
11月
10月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
03/1月
魚類(ザラビクニン他6種)
エビ類(エビジャコ他5種)
クラゲ類(3種)
02/12月
尾数(尾)
大型生物混入尾数の月別推移(2002/12-2003/11)
月
図 2.2-4 ストレーナーに混入した主な大型生物種の月別尾数推移
b.施設整備に伴う環境影響
取水施設の建設から供用までを通じ施設立地が環境に与える影響について、環境要素と影響要
因の関係を整理し、また、その影響程度について評価検討を加えた。その結果、影響要因である
取水口と取水管路が各環境要素に与える影響度は以下の通りと考えられる。
・建設工事に伴う主要環境要素は護岸部改修や管防護工事等による音と濁りであるが、従来の
埋立・浚渫、護岸等の工事に比べ規模及び工期とも非常に小さいことから、影響が全く無いと
は言えないものの、その影響度は比較的に少ないと考えられる。
・施設の設置が与える影響度については主要環境要素として管路からの色、音(図 2.2-5)、
振動、温度、海底面の分断、謂集効果があるが、その影響度は実海域小規模実験から得られ
たデータ等より比較的に小さいものと推定される。
なお、漁業活動に対しては漁法にもよるが、管路の設置形式に関係なく何らかの影響を与える
ものと考えられ、資源保護区域等としての配慮が望まれる。
各種水中騒音に対して魚類が
反応を起こす水圧レベル
マダイにおける各種音圧レベル
管路発生音圧
: 80dB
図 2.2-5 取水管供用時「音」の影響
- 60 -
Ⅲ.研究開発成果について 2.研究開発項目毎の成果
2.2 深層水取水技術開発研究
(5) 成果のまとめ
「深層水取水技術研究開発」における研究成果のまとめ一覧
実施項目
モ 深
デ 層
ル 水
実 取
証 水
研 技
究 術
研
究
開
発
実施内容
(1)管路設
置形式の
実用化開
発
目標
日量 100 万
トン規模
の取水管
路を具体
化する。
研究開発の成果
・管路設置形式としては「着底管路、多点係留方式浮遊管路、一
点係留方式浮遊管路」を選定し、構造設計を通じ我国の立地特
性への適合可能性を確認。
・我国では実績の無い多点係留方式浮遊管路の成立性に関し、実
海域小規模実験により実証。
100 億円以
下で整備
にする。
・φ2m 級の管材料として「鋼管と硬質ポリエチレン管」の適応性
を確認。
・特に、着底管路用としてリングスティフナー補強鋼管と鉄線巻
きアラミド繊維補強硬質ポリエチレン管を新規に考案、設計法
を確立するとともに、その実用性を確認。
・鉄線巻きアラミド補強硬質ポリエチレン管の実用化開発では、
大口径・極厚ポリエチレンの製造方法や鎧装方法、接続方法につ
いても具体化、実用性が高いことを確認。
・敷設工法は着底管路と多点係留方式浮遊管路用として「半浮遊
式海底曳航法」を、また一点係留方式浮遊管路用として「係留
式浮遊曳航法」を考案するとともに、その実用性を検証。
・管内流速≧2m/sec となる高速通水管路の実用化については、そ
の実現可能性が高いことを実証するとともに、計測結果と理論
式との相関性より解析法を確立。
(2)管材料
の実用化
開発
(3)敷設技
術の実用
化開発
(4)高速通
水管路の
実用化開
発
(5)施設整
備費の縮
減化方策
(6)メンテ
ナンスフ
リー
(7)施設設
置の環境
影響評価
実用性の
高い取水
施設とす
る。
・揚水方法は管内流速≧2m/sec の実現化を図るために「自然流下
方式」を採用、取水システムとしての適応性を検証。
・取水施設費の縮減化は高速通水管路の実用化による必要口径の
小口径化に加え、施工方法の改善・工夫や管接続方法の改良等に
より経済性のある取水施設を実現化。
・結果として、管路長 L=4km で 100 億円となり、開発目標を達成。
・また、現地地形条件に合わせ「着底管路と多点係留方式浮遊管
路」を組合わせることで更なる取水施設費の縮減化が図れるこ
とを確認。
・取水施設全体としては従来構造物と同程度の耐用年数を有する
ことを検証。また、維持管理も従来の取水施設と同様な点検・保
守すれな良いことを確認。
・運用面においては付着生物等がないものの、特に流入物への対
応”が必要となり、従来の取水施設と同様な機器と方法で対応
可能であることを確認。
・取水施設の建設及び運転を通して環境に及ぼす影響は従来の海
洋関連構造物と同等以下であると評価。最も影響が懸念される
要因としては①建設時浅海部床掘り・埋設に伴う影響、②運用時
管路による海底面の分断と漁礁効果の影響の 2 点が想定される。
・漁業活動への影響については漁法にもよるが、何らかの影響が
あるものと想定され、資源保護区域等として利用することが望
ましい。
- 61 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.3
2.研究開発項目毎の成果
研究開発項目
2.3
環境影響評価技術等研究
環境影響評価技術等研究
本研究開発では、深層水を発電所冷却水として利用した場合に起る、深層水の大規
模取放水を前提とした環境影響を検討し、既存の発電所と比較してその影響レベルを
推定すると共に、プラス影響として海域肥沃化の可能性や深層水の利用による CO 2 収支
を推定することを目的とした。
(1)
環境影響評価検討項目の選定
既存発電所での環境影響検討項目を参考と
表 2.3-1
深層水の取・放水影響に関する検討項目
し、他の環境影響検討事例のヒアリングや文
献検索、HP 検索等をおこない、深層水取放水
深層取水 表層取水
CO2放出
による要検討項目を選定した。
○
−
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
−
○
−
○
−
○
−
海生生 赤潮発生
物
海藻草類
○
−
○
○
底生生物
○
○
取水流動の変化
この結果、深層水の取・放水に伴う CO 2 収支
の把握、深層水の取水に伴う生物連行、深層
水放流による温度、pH、栄養塩濃度変化の特
徴と、放流に伴う植物プランクトン群集変化、
赤潮発生の可能性、富栄養化の可能性を、ま
た沿岸域における海藻への影響、藻場生物群
集への影響を抽出した(表 2.3-1)。
(2)
変化の有無
項目
取水側 生物連行
遊泳生物取り込み
放流水の影響
物理・ 冷・温排水の拡散
化学特
pH変化
性
高栄養塩の拡散
放水側 富栄養化
植物プランクトン
○,変化あり;−,変化なし
環境影響評価技術
深層水を発電所冷却水として使用した場合に起こる環境変化を把握するために、本
研究において検討した手法を示す。
a. CO 2 収支検討
ある一定以上の水深になると全炭酸濃度が高くなることが知られている。このよう
な海水を汲み上げて放流すると大気 CO 2 分圧との差によって、CO 2 が大気中に放出さ
れる可能性がある。一方で栄養塩も高濃度であるため光合成が盛んとなり、大気に放
出された CO 2 が再び海水中に吸収される可能性があり、深層水の取放水に伴う CO 2 の
収支を事前に把握する必要がある。既存の深層水取水施設(高知、富山、北海道、沖
縄)において汲み上げられている深層水中の全炭酸、全アルカリ度、および必要な水
質 項 目 ( 塩 分 、 リ ン 酸 、 珪 酸 、 DIN 濃 度 * ) を 測 定 し 、 こ の 結 果 を 基 に Lewis &
Wallace(1998)の計算法と原田(2000)に準拠して化学平衡計算を行い、深層水を汲み
上げて放流した場合の CO 2 収支を検討した。
低温安定性を有する深層水を発電所に利用した場合の発電効率の向上効果や、深層
-62-
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
水を放流した場合の 1 次生産の変化を考慮した CO 2 収支計算を行ない、深層水を発電
所冷却水として利用した場合の CO 2 排出量削減効果を予測する手法を提案した。
*
DIN 濃度:DIN:dissolved inorganic nitrogen
溶存態無機窒素濃度
b.生物連行影響の推定
一般的に深層に比べて表層部の生物量が格段に多いことが知られている。一方、近
底層では生物量が若干多くなることも知られている。深層水を発電所冷却水として使
用する場合、陸上からの汲み上げ方式となり、近底層の海水を取水することになる。
このため、近底層より取水している既存の深層水取水施設(高知、富山、近大富山)
において、取水されている深層水と表層水中の連行生物の実態把握調査を 1 回/月の
頻度で 1 年間実施した。この結果を基に、深層水取水と表層水の取水における生物連
行特性を比較した。また漁業上の有用生物については産出親魚当量法等(水産庁)を基
に連行影響が漁業に及ぼす影響の推定を行った。この調査にあわせて汚損生物幼生の
出現状況についても調査を実施した。なお、大型生物の取り込みについては、既存の
深層水取水施設のデータを用いた。
c.深層水放流域の物理・化学的変化の検討
深層水を取水し、発電所の冷却用海水として利用した後に放流した場合、放流域に
おいて温度変化や海水の密度変化が起こり、放流に伴う変化域がこれまでの表層取水
型発電所とは異なった様相を呈する可能性がある。深層水を放流した場合の放流域の
特 徴 を 推 定 す る た め に 、 沿 岸 放 流 (通 常 の 岸 か ら の 放 流 法 )と 沖 合 い 放 流 法 (水 深 数
10m 付近からの放流法)について検討した。2方法を前提としたのは、環境への悪影
響が想定される場合、沖合い広域放流により影響を低減することを目的としたためで
ある。各放流法について3次元モデルを用いて深層水放流による放水域の流動、水温
変化特性を推定した。深層水を放流した場合、放流海水密度が地域によって異なる可
能性があり、鉛直的にも複雑な流れとなることが想定されたため、3次元モデルを用
いた。深層水は高栄養塩濃度の海水であるため栄養塩の拡散検討をおこなった。また
全炭酸濃度は表層水に比べて高い特徴を有しており、深層水は表層水に比べて低 pH
である。この変化域を推定するために全炭酸、全アルカリ度、リン酸、珪酸、塩分等
について表層水との混合希釈に伴う濃度変化を計算し、この結果を基に放流域の pH
変化を計算した(Lewis & Wallace)。ここでは光合成によるpH 変化は考慮していな
い。以上の手法を用い深層水を放流した場合の放流域の特性を予測した。
d.天然植物プランクトン群集の変化の検討
深層水の放流域では温度と栄養塩の変化が同時に起こる。この変化に対する植物プ
ランクトン群集の応答を推定するために、天然植物プランクトン群集を用いて温度条
件別、栄養塩濃度別の培養試験を行なった。この結果を基に天然植物プランクトン群
集の増殖速度と変化要因を関数化し、深層水放流域における植物プランクトン群集の
増殖制限因子と、増殖速度変化を推定した。
-63-
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
e.赤潮発生の可能性検討
深層水放流域における赤潮生物の増殖の可能性を検討するために、培養試験が可能
な代表的有害赤潮藻類( Heterosigma と Gymnodinium )を用いて室内培養試験を行い、
深層水の希釈率と増殖速度の関係を推定した。この結果を基に赤潮生物の増殖速度と
温度、栄養塩濃度の関係を関数化し、深層水放流域における増殖速度の推定をおこな
った。一方、天然海域においては赤潮藻とそれ以外の植物プランクトンが共存・競合
状態にある。このような条件下での赤潮藻類の増殖特性を把握するため、赤潮藻と珪
藻の混合培養試験を行なった。また野外での実証性を確認するため、赤潮藻が優先す
る天然植物プランクトン群集を野外から採取し、深層水を添加した条件で室内培養試
験を行ない植物プランクトン群集の変化を調べた。また室内試験結果を基に競合種
(赤潮藻と珪藻)存在下での数値モデルを作成し、深層水の放流による赤潮藻増殖条件
(放流管理条件)を検討した。
f.放流海域の富栄養化検討
2つの放流法のうち、相対的変化が大きい沿岸放流法での深層水の流動・拡散結果
を用い、動物プランクトンまでの変化を計算に加えた低次生態系モデル(3 次元ボッ
クスモデル、60km×4km、1 ボックス 3km×1km)を用いて、深層水放流による栄養塩の
挙動、植物プランクトンの増殖変化、沈降フラックスの変化、底泥からの溶出速度等
の変化を計算した.計算にあたっては場の流動条件、放流海域の富栄養化レベル、底
泥での分解速度等を変化させ、100 万 m 3 /日の放流によってどの程度の変化が起るか
を推定した。深層水放流による変化については放流がある場合と、無い場合について、
植物プランクトンバイオマスの変化と年間の堆積物量の変化を比較することによっ
て富栄養化の可能性を推定した。
g.放流域の生物群集の変化
既存の深層水放流海域調査(高知県室戸市三津)と、本研究期間中に放流が開始さ
れた新設の取水施設放水域(高知県室戸市高岡)での事前・事後調査(4 年間)を行い、
深層水放流域における生物群集変化の実態を把握した。また閉鎖性の高い漁港内(高
知県高岡漁港)に深層水を放流し、植え付けた海藻や漁港内の栄養塩や植物プランク
トン量等の変化を調査した。海藻類の成長特性を把握するため、温度と深層水混合条
件を変えた室内培養試験をおこない、温度と栄養塩濃度の変化に伴う成長率の変化を
関数化した。大型葉体を用いた試験を実施し(高岡施設)、室内試験で得た成長関数の
再現性を検証した。この他に海藻の捕食者であるムラサキウニや魚類を用いた捕食実
験を行なった。
これらの結果を基に、深層水放流に伴う藻場生物群集の現存量変化の予測をおこ
なうための藻場生態系モデルを開発した。これによって深層水を昇温し海域に放流し
た場合の、温度と栄養塩濃度の複合的変化が大型藻類とその捕食者に及ぼす影響を推
定した。またこれに植物プランクトン群集を加えて大型藻類との栄養塩摂取の競合を
考慮した場合についても検討した。
-64-
Ⅲ.研究開発成果について
(3)
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
深層水の取・放水影響
深層水の大量取放水に伴う環境影響検討結果の概観を図 2.3-1 に、既存発電所との
比較と全体評価結果を表 2.3-2 に示した。既存発電所と共通に起る現象として、取水
流動変化、生物連行(遊泳生物取り込み
を含む)、放流域で温度変化が起るが、
これらは深層水を用いることによって、
栄養塩濃度変化
流れ
pH変化域
影響を低減できる可能性のあることが
明らかとなった。生物連行については
深層水の取水によって既存の表層水利
800万∼1500万m 2
温度変化域
6000∼160万m
1万∼11万m
生物連行
影響低減
(1/2以下)
2
有機堆積物増大(最大0.4%)
2
捕食者バイオマス増大
一次生産増大(最大4%)
珪藻主体の群集
藻類成長促進(最大1.8倍)
用に比べると連行生物量が大幅に減少
100万m3/日の放流
付着生物
減少
すること、有用生物の連行が僅かであ
60万kW火力発電所
CO2排出量削減
40,000㌧CO2削減
ることが推定できた。深層水の放流に
よる温度変化は、北海道から沖縄にお
図 2.3-1
深層水の放流に伴う環境変化の概観
表 2.3-2
深層水の取・放水に関する環境影響検討結果
いて各地域の表層水温の年最高水温を
上回ることがない点が既存の表層取水
型発電所とは大きく異なる点であった。
また温度変化域の範囲も深層水を利用
することによって低減できることが明
らかとなった。
深 層 水 に 特 有 に 起 る 現 象 の う ち CO 2
放出の可能性については、深層水の取
放 水 に 伴 っ て 深 層 水 に 含 ま れ る 高 CO 2
が大気中に放出される可能性を有する
が、深層水の低温安定性の利用によっ
て発電所からの CO 2 排出量が削減でき、
収支としては約 4 万㌧以上の CO 2 が削
変化の有無
既存発電所との
深層取水 表層取水 比較
項目
変化の様相
評価
CO2放出
○
−
変化あり
発電効率の向上によりCO2放出
量削減。
+
取水流動の変化
取水 生物連行
側
遊泳生物取り込み
△
○
低減
底泥のまき込み考慮。
±
○
○
○
○
低減
地域特性を考慮。
+
±
○
○
鉛直変化考慮
地域,季節によって変化水深が
異なる。
○
○
低減
影響は低減。鉛直分布考慮。
○
−
狭域変化あり
影響小。課題あり。
○
−
変化あり
富栄養化,海藻成長への影響。
+
−
±
○
−
変化あり
一次生産,底質有機負荷微増。
±
○
−
変化あり
+
赤潮発生
海生生
物
海藻草類
○
−
変化あり
増殖速度増大,珪藻主体。
珪藻増殖,赤潮域への放流を避
ける。
○
○
変化あり
影響改善。成長促進(付着珪
藻との拮抗作用課題)。
+
底生生物
○
○
変化あり
概ね増大。
+
放流水の影響
物理・
化学特 冷・温排水の拡散
性
pH変化
高栄養塩の拡散
放水 富栄養化
側
植物プランクトン
○変化あり;△変化する場合がある;−変化なし
+ プ ラ ス 効 果 期 待 ; ±ど ち ら の 場 合 も あ る ; − マ イ ナ ス 効 果
減できると推定された(60 万 kW LNG 発
電所)。
放流域においては昇温と深層水中に含まれる高濃度の栄養塩によって植物プランク
トンが増殖し、この結果として放流域において有機堆積物の僅かな増加が起こること
が推定された。植物プランクトン群集の増殖速度は高まり、最大で 4%程度のバイオマ
スの増大が起こるが、概ね多様性を維持しつつ珪藻を中心に増殖できる可能性が示さ
れた。また有害赤潮藻の増殖の可能性を検討した結果、深層水の特徴である高珪酸濃
度特性によって、珪藻主体の群集が構成されることが示唆された。放流域の海藻類に
ついてみると、深層水の昇温(環境水温を超えない範囲での昇温)と高栄養塩濃度によ
って海藻類の成長促進が期待でき、またこれに伴ってウニ等の捕食生物量の増加も期
待でき、藻場の保全、回復に利用できる可能性が示唆された。
一方で、限定的ではあるが低 pH 域が形成される可能性のあることが明らかとなった。
-65-
+
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
また赤潮海域への放流によって珪藻主体の群集構成に変化することが期待できるもの
の、赤潮藻も増殖する可能性があることから、赤潮発生海域への放流は避けるべきで
あると考えられた。
以上の結果は、深層水を発電所冷却水として利用した場合、これまでの表層水取水
型発電所に比べて環境影響を低減でき、かつ放流海域の藻場保全等に利用可能となる
ことを示唆するものであった。
(4)
モニタリング項目と手法
深層水を放流した場合、変化する要因として CO 2 収支、取水流動、生物連行、放水
流動、放水域の温度変化、栄養塩の拡散、pH 変化、富栄養化、植物プランクトン増殖
特性、赤潮発生の可能性、放水域の海生生物の変化等の 13 項目が挙げられた。このう
ち、CO 2 収支と取水流動は事前検
討項目であり、モニタリングが
表 2.3-3
項目
下の8項目が挙げられる。これ
CO2収支検討
の技術で対応できるものである
が、本研究開発の中で確立、検
討した手法である、CO 2 収支検討
法と深層水の放流影響を予測す
るための藻場生態系モデルにつ
いては、特にマニュアル案を作
モニタリング
事前検討の必要性
必要な項目としては生物連行以
らの項目の調査検討法は、既存
事前検討項目とモニタリング項目
必要性
取水流動
取水側
影響
生物連行
放水流動
物理・
化学的 冷・温排水
要素 栄養塩拡散
pH変化
放水影 富栄養化
響
植物プランクトン
赤潮発生
生物的
要素 藻類成長影響
藻場影響
底生生物
評価基準
必要性
方法
-
○
CO2排出量削減効果推定。
×
○
底泥のまき込みが起きない事前検討。
×
○
重要種の産卵場、幼稚仔の着底場。
○
取水ピットでの調査。
-
○
船舶航行、漁労妨害。海底面の洗掘、
肥沃化法。
○
流向・流速調査。
○
1℃以上の変化範囲。
○
水温・塩分調査。
○
当該海域の環境基準値。
○
水質調査。
○
環境基準値pH7.8を基準。
○
水質調査。
○
(1)1次生産の増大域。
(2)有機沈降粒子の年間堆積量。
○
Chl-a,POC調査,動・植
物プランクトン調査。
○
放流域特性(赤潮発生の有無と種類)。
○
藻類と捕食者の現存量の変化。
藻類の成長阻害。
種構成等の変化。
○
○
生物量、組成変化。
○
藻場調査。
藻場範囲,坪刈(動植
物)調査。
成した。
(5)
主な要素技術の検討結果
a.深層水の取水に伴う CO 2 収支
既存の深層水取水施設(高知、富山、北海道、沖縄県)を事例として、深層水の取
放水に伴う CO 2 収支の検討を行った。生物固定を考慮しない場合、深層水 1000m 3 /日
の取水量で年間 4.8∼5.6 ㌧の CO 2 が大気中に放出され、生物固定を考慮した場合、
1.8∼3.2 ㌧の CO 2 を放出する可能性があると推定された。
深層水を汽力発電所の冷却水として利用することによって、発電効率が 1∼3 ポ
イント上昇することが本研究開発の中で明らかとなっている。この結果を基に、60
万 kW 級 LNG 発電所において深層水を 100 万 m 3 /日で深層水を取水した場合の CO 2 収
支を 明ら か にし た(表 2.3-4)。こ の結 果、 生 物固 定を 考 慮し ない 場 合で約 3.9 万
t-CO 2 /年が削減でき、生物固定を考慮した場合では約 4.2 万 t-CO 2 が削減できるもの
と推定された。以上の結果より、深層水を大量に取水して海域等に放流する場合、
-66-
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
深層水の冷熱性を利用して省エネ等に利用できれば、地球温暖化対策上有利となる
ことが明らかになった。
表 2.3-4
深層水の取・放水に伴う CO 2 収支の検討
(1)生物固定無し
項 目
深層水発電利用によるCO2削減期
待値 (A)t
生物固定
なし
生物固定
あり
深層水取水によるCO2
放出量(B)t-CO2
高知
(2)生物固定有り
B:深層水利用による
発電効率向上による
CO2削減量
富山
B:深層水利用による
発電効率向上による
CO2削減量
44,900
CO2
5,300
5,500
39,600
39,400
A
CO2
A
発電所
発電所
CO2
CO2削減量(A-B)tCO2
生物固定がある場合の
CO2放出量(B)t-CO2
CO2削減量(A-B)tCO2
2,000
42,900
栄養塩
消費
表
層
水
固定
吸収
アルカリ度
上昇
植物プラン
クトン
2,600
42,300
深
層
水
・CO2高濃度
・栄養塩高濃度
・低水温
・CO2高濃度
・栄養塩高濃度
・低水温
LNG60万KW発電所:利用率100%:冷却水量:100万m3/日
A-B>0:CO2は増加
A-B>0:CO2は増加
深層水利用による発電効率の向上は1.39%,原油換算1.72万kL/年
A-B<0:CO2は減少
A-B<0:CO2は減少
原油1L=38.2MJ,原油排出係数は0.0684kgCO2/MJ
b.生物連行
既存の深層水取水施設(高知、富山)を事例として 1 年間の現地調査によって、深層
水取水に伴う生物連行の特性把握を行った。深層水の取水に伴って連行される生物量
を、表層取水のそれと比較した結果、深層水
表 2.3-5
取水による連行生物は、種数、量ともに少な
くなった(表 2.3-5)。深層水の取水によって漁
項 目
らかにした。
連行・取り込み
深層水出現量
表層取水の24∼46%
種類数
表層取水の32∼60%
漁業影響
漁業対象種
ホタルイカモドキ卵連行
シラエビの取り込み
取水障害
汚損生物
エボシガイ類幼生出現
フジツボ・汚損多毛類幼生出現せず
二枚貝不明
環境影響
業対象生物の連行が見られたが、その量は僅
かであることを産出親魚当量法等によって明
生物連行調査結果の概要
以上の結果は、深層水の利用は、生物連行
影響を考慮する必要のある場合において、有
利な手法であると考えられた。しかし、深層
水を取水する場合、取水口の設置位置はその地域特性(重要種の産卵場、浮遊幼生の
着底場等)を十分配慮した上で決定する必要がある。
汚損生物幼生の出現についてみると表層水に出現するカンザシゴカイ科やフジ ツ
ボ類幼生の出現は認められないが、エボシガイ科幼生の出現が認められた。
c.放水域の水質等の変化
深層水を 100 万 m 3 /日レベルの大量に汲み上げ発電所冷却用水として利用し、昇温
させた後に放流した場合、放流域において pH の変化、水温変化、栄養塩濃度の変化
が挙げられた。これらの変化特性について数値モデルを用いて検討した。
沿岸放流法と沖合い放流法を比較した結果、放水管によって放流する沖合い放流法
は初速を 2m/sec とすることによって、変化範囲を沿岸放流法に比べて小さくできる
ため、環境変化を低減する手法として沖合い放流が有効であることが明らかとなった。
-67-
2.研究開発項目毎の成果
Ⅲ.研究開発成果について
2.3
環境影響評価技術等研究
沿岸放流について、pH、水温、栄養塩の変化範囲を比較した。変化域の広さは概ね
pH<温度<栄養塩拡散範囲の順となった(図 2.3-3)。pH の変化域を環境基準値である
7.8 を基準としてみると、その変化域は放水口の近傍に限定された。
放水域の温度変化について、既設発電所(表層取水)と深層水汲み上げ型発電所の特
徴を比較した結果、深層水汲み上げの場合、夏季は温度変化域をほとんど形成しない
が、冬場になると、既設発電所の温度変化範囲とほぼ同程度となった。これは深層水
を利用することによって発電所からの排水に伴う温度変化域を低減できることを示
している。また深層水の放流特性は地域や取水水深によって異なるが、太平洋側や日
本海側の水深 300m 付近であれば、15℃程度昇温しても環境水温の年変化幅を超える
ことがないことが特徴であった。一方で既存の表層取水の場合は年間の環境水温を最
大で 7℃を超える場が出現することにあり、温度変化の面からは深層水取水が有利で
あることを示している。
栄養塩の拡散を 100 倍希釈(表層水の栄養塩の 10%程度増大させる範囲)でみると、
広域に拡散することが予測された。
0
1km
0
1km
(冬季水温)
0
1km
放水口
放水口
放水口
1km
放水 口
0
2℃以上上昇
1℃以上上昇
低下
50倍未満
100倍未満
8.0未満
8.1以上
10m
0
500m
500m
10m
0
500m
pH 分布
栄養塩希釈率
0
500m
(冬季pH)
0
1km
7.8未満
7.9未満
8.0未満
8.1以上
10m
放水口
水温変化
0
0m
0m
10m
放水口
0m
放水口
放水口
放水 口
0m
7.8未満
7.9未満
放 水口
1℃以上
10倍未満
20倍未満
0
0m
500m
10m
図 2.3-3 深層水放流に伴う水質等の変化特性(沿岸放流法)
d.深層水放流による植物プランクトン群集への影響
深層水を昇温して放流した場合、温度と栄養塩濃度変化の複合的変化が起きる。天
然植物プランクトン群集の増殖速度と温度、栄養塩濃度の関係を推定するため、室
内培養実験法を用いて放流域での増殖特性把握をおこなうと共に、変化要因(水温と
栄養塩濃度)との関係を関数化し、深層水の昇温放流による複合的作用による変化を
定量的に推定した。この結果、深層水を昇温せずに放流した場合、放水口近傍にお
いては温度が増殖制限因子となり、植物プランクトンの増殖が制限された。
一方、5℃以上の昇温では、やはり水温が増殖制限因子となるものの表層水中での
増殖速度を上回り、植物プランクトン群集の増殖を促進することが明らかとなった。
主な栄養塩類(DIN、PO 4 、SiO 2 )では DIN が主な増殖制限因子となっていることが明ら
-68-
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
かとなった。この結果は太平洋側、日本海側ともにほぼ同じ傾向を示した。以上の
結果は、深層水を発電所冷却水として利用した後に放流した場合、天然の植物プラ
ンクトン群集の増殖速度が高まることが明らかとなった(図 2.3-4)。また天然植物プ
ランクトン群集の群集多様性が極端に低下する傾向は認められないことを室内実験
から確認した。
高知(冬)
高知(夏)
2.0
0℃UP
5℃UP
10℃UP
15℃UP
1.5
比増殖速度(d-1)
比増殖速度(d-1)
2.0
1.0
0.5
0℃UP 5℃UP 10℃UP
15℃UP
1.5
1.0
0.5
表層水28℃,2μM
0.0
1
図 2.3-4
10
希釈倍率
0.0
100
表層水16℃,2μM
1
10
100
希釈倍率
深層水放流域における植物プランクトン群集の比増殖速度の推定(高知)
e.赤潮発生の可能性検討
深層水の昇温放流に伴う、水温と栄養
(1)深 層 水 放 流 条 件 で の 赤 潮 群 集 構 成 の 変 化
赤潮藻類
塩濃度の変化が有害赤潮藻の増殖に及ぼ
す影響を検討した。
赤潮藻が単一種の条件で、室内培養実
験をおこなった結果、深層水の昇温放流
は赤潮藻の増殖を促進することが明らか
となった。
一方、天然においては赤潮藻と他の植
物プランクトンが共存している。このよ
表層水添加
深層水添加
うな条件において深層水を放流した場合、
深層水の昇温放流は珪藻の増殖を促進し、
(2)深 層 水 の 放 流 に 伴 う 赤 潮 藻 増 殖 量 の 変 化 の 予 測
H.akashiwoの最大増殖期待値(⊿T=15℃:高知)
赤潮藻の増殖を抑制することを混合培養
した赤潮藻が優先する植物プランクトン
群集を用いた室内実験によって、深層水
の添加によって珪藻優先に変化すること
を確認した(図 2.3-5(1))。これは深層水
中には PO 4 、DIN だけでなく、SiO 2 が高濃
度に存在することが要因の1つとなって
いるためと考えられた。
栄養塩と温度に対する赤潮藻と珪藻の
増殖パラメータを取得し(一部文献値)、
種間競合を想定した数値モデルを作成し
-69-
H.akashiwo最大増殖期待値
(cells/mL)
実験から明らかにした。また野外で採取
1e5
10000
HA:SC=1000:1000
HA:SC=100:1000
1000
100
HA:SC=10:1000
10
1
HA:SC=1:1000
1
10
100
深層水希釈倍率
1000
HA,Heterosigma akashiwo
SC,Skeletonema costatum
HA:SC,培養初期添加密度(cells/mL)
図 2.3-5 深 層 水 放 流 条 件 下 で の 赤 潮 藻 の 群 集 変 化
と数値モデルによる赤藻の増殖レベルの推定
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
た。これを基に赤潮藻と珪藻の密度比の違いが赤潮藻の増殖に及ぼす作用について
検討した結果、初期細胞密度条件で一定以上の赤潮藻が存在する場合(赤潮藻:珪藻
=100:1000)は、赤潮藻が 1,000cells/mL 以上に増殖する可能性があることが推定さ
れた。これは、すでに赤潮の発生している海域に深層水を放流することは、必ずし
も適正でないことを示唆している(図 2.3-5(2))。
f.富栄養化
低次生態系モデル(動物プランクトンまで)を組み込んだ 3 次元ボックスモデルを
用いて、深層水の放流に伴う植物プランクトン増殖の変化と底泥堆積物の変化を予
測した。場の流速との関係をみると、高流速の場(50cm/s)では深層水の希釈が大き
く、植物プランクトンの増殖に大きな変化は見られなかった。流速 5cm/s の場につ
いて検討した結果では、植物プランクトンの最大増殖域は、放流口下流側 18km付
近、沖合い 2km 以浅に形成され、約 4%の増加が認められた。深層水放流による底
泥の堆積物量は放水口下流側約 40km 付近で最大となり、約 0.4%程度の増加となっ
(2)植物プランクトン増殖(chl-a),8月
(1)栄養塩の拡散(PO4),年平均
18km
60km
最大4%の増加
場の流れ
4km
放水口
μg/L
μg/L
(3)沈降粒子堆積量(有機物量)年合計
最大0.4%増加
40km
4km
60km
-3
0
3
6
9
12
15
mg/m2
図 2.3-6
深層水を放流した場合の植物プランクトンの増殖域と沈降粒子の堆積
15℃昇温で 100 万 m3/日の放流量
た(図 2.3-6)。以上の結果からみて、100 万 m 3 /日程度の放流であれば、深層水の昇
温放流による富栄養化の可能性は小さいと推定された。この結果は、海域を肥沃化
することも困難であることを示している。しかし地域特性によって集積場が形成さ
れる場合もあるため、深層水放流にあたっては富栄養化に伴う環境変化をモニタリ
ングすべき要検討項目の1つと考えられた。
g.深層水放流域における生物群集の変化
深層水をすでに 10 年以上にわたって放流している高知県三津海域(約 500m 3 /日 放
-70-
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
流)は石灰藻が主体の岩礁域であるが、深層水放流域近傍においてはホンダワラ類や
コンブ目の分布が見られた(図 2.3-7(1))。2000 年 5 月より深層水の放流を行ってい
る高知県高岡海域(概ね 1,000m 3 /日 放流)において、深層水放流前後の調査を 4 年間
実施した。しかし、放水口近傍において生物相(動物、植物相)に明確な変化は認め
られなかった。これらの結果は、長期的には深層水放流の影響が放水域に現れるも
のと推察されるが、場の特性(高岡は波当りが強い)も群集変化に重要な役割を果た
していると想定された。
このため比較的静穏な高岡漁港内に深層水を放流して(約 800m 3 /日 放流)、植え付
(1)高知県室戸深層水放流海域でのホンダワラ分布
(2)深層水放流実験でのアカモクの成長
影
非
25
平 成9年 度
今 回(平 成12年 度)
10m
@
影
10m
5m
5m
0m
3m
0m
高知県
海洋 深層水 研究所
10
5
南側排水
地点
北側排水
地点
15
平
均
3m
茎長
20
三津漁港
0
移
0m
図 5.5.1.1-5
図 2.3-7
50m
100m
02/11
03/1
2
200m
ホンダワラ類の分布範囲の比較
深層水放流域でのホンダワラ類の繁茂状況と、深層水放流実験でのアカモクの成長
けた海藻の成長変化を調べた。アカモクとカジメは放水口近傍において高い成長を
示し、深 層水の放 流が海藻 類の成長 促進に寄 与するこ とが明ら かとなっ た(図
2.3-7(2)) 。この結果は、深層水の放流が海藻の成長を促進させることを放流現場
において明らかにした、はじめての実証結果である。
(1)カジメの成長
h.藻類成長への影響
(2)冬季におけるカジメの成長
10
深層水を発電所で昇温後に放流した場合の、
長率に及ぼす影響を室内実験によって調べた。
この結果を用いて、温度と深層水希釈率(DIN
相対生長率( % )
水温変化と栄養塩濃度の変化が大型藻類の成
8
(太平洋側)
6
4
2
環境水における生長(DIN=2μM,T=16℃)
換算)の変化と成長率の関係を関数化し、深層
0
1
10
深層水希釈率( log )
水放流域における海藻類の成長率の変化を推
定した。マクサ、カジメ(太平洋側代表種)、
(2)ツルアラメの成長
(2)冬季におけるツルアラメの成長
(日本海側)
相対成長率
よって表層海水の成長率を超える高い成長速
することが、藻類の成長にとって有利である
100
10
ツルアラメ(日本海側代表種)共に昇温放流に
度を示し、深層水を放流する場合は昇温放流
0℃ UP
5℃ UP
10℃ UP
15℃ UP
0℃UP
5℃UP
10℃UP
15℃UP
5
ことが明らかになった(図 2.3-8)。
0
i.深層水の放流による藻場生物群集への影響
放水口前面海域に 3000m×1000m(1 メッシ
1
図 2.3-8
10
深層水希釈倍率
100
深層水放流域における海藻の
成長率の変化
ュ 50m×50m)の領域を設定し、室内実験より
得た成長パラメータを用いてカジメ、マクサ、トゲモクの面的な成長量の変化を計
-71-
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
算した。深層水の昇温と高濃度の栄養塩の供給によって、放水口前面でカジメ、マ
クサ、トゲモク共に 1.8 倍(深層水の放流が無い場合に対して)の成長促進効果が推
定された。また放水口から下流方向 2kmでもそれぞれ 1.05 倍、1.23 倍、1.07 倍で
あった(図 2.3-9)。これに併せ海藻捕食者であるムラサキウニの生産量の変化を計
算した。放水口前面において約 1.4 倍の生産量の増加が推定された。
以上の結果は、深層水の昇温放流によって、放流下流域において海藻やその捕食
者の成長が促進され、藻場の保全に有利であることを示している。
本研究のなかで、深層水の放流が付着珪藻を増大させることも明らかとなった。
野外における付着珪藻と大型藻類の関係、あるいは磯焼けの原因(結果)種である石
灰藻類との関係についても検討をおこなったが、本業務のなかで充分な結果が得ら
れなかった。これは波浪が存在する場において付着珪藻が大型藻類や石灰藻の成長
にどのような作用を及ぼすかを推定することが困難であったためである。今後、実
証レベルの研究のなかで明らかにする必要がある。
(1) 深層水放流による海藻の成長
(深層水放流ー未放流)
(2) ムラサキウニ現存量の変化
流れの方向
1.6
152
ムラサキウニ現存量増加率
沿岸流 0.1m/s
193
489
放水口
1.4
1.2
1.0
-1000
-500
0
放水口
500
1000
1500
2000
沿岸方向(m)
0.8
total 2.2t
2
カジメ現存量の差 (g-wet/m )
カジメ現存量(差)
(g-wet/m2)
図 2.3-9
上流方向
total 4.8t
total 27.8t
2
マクサ現存量の差 (g-wet/m )
マクサ現存量(差)
(g-wet/m2)
下流方向
2
トゲモク現存量の差 (g-wet/m )
トゲモク現存量(差)
(g-wet/m2)
深層水放流に伴う海藻類と捕食動物(ムラサキウニ)現存量の変化
⑥海域肥沃化の可能性
深層水を昇温して放流した場合、植物プランクトンの増殖効果は 18km の範囲におい
て最大 4%程度(図 2.3-6)であるのに対し、大型藻類では放水口から 2km の範囲におい
て成長が促進されることが推定でき(1.05∼1.8 倍)、これに伴って海藻類の捕食者であ
る ム ラ サ キ ウ ニ も 放 水 口 か ら 1.6km の 範 囲 に お い て 増 加 す る こ と が 予 測 さ れ た (図
2.3-9)。これらの予測結果は、深層水を放流して海域の生産量を高める場合、海藻等
の成育に利用するのが、深層水による海域肥沃化効果を明確化する上で有利と考えら
れた。しかし深層水を昇温することによって、深層水の海水密度が変化し、軽密度海
水となる場合があり(図 2.3-3)、海底に繁茂する海藻類の成長促進に利用するためには
何らかの人為的手段を講じる必要があることも明らかとなった(図 2.3-3)。このため深
層水を滞留させるための沖合い堤の築造や、放水ノズルをらせん状として旋回流を起
こし、表層水との初期混合を大きくする方法(図 2.3-10)、 あるいは沖向きと岸向きの
放流を同時におこなう方法等を検討した。
-72-
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
高岡港内でおこなった放流実験では、比較的閉鎖された海域に深層水を放流するこ
とによって、藻類の成長が促進されることが明らかとなった。1つの方法としては放
水口前に湾入部を作り、前面に障壁を設置する等の工夫を行うことによって、軽密度
となった深層水を滞留させ大型藻類の安定的な成長が可能な場を作り、これを藻類の
種場(タネ場)として、外海側に胞子等を供給することによって藻場を広げる方法が考
案された。
形成藻場
潜 堤
深層水放流
新規形成藻場
発電所
胞子等の拡散
図 2.3―10
深層水を利用した海域肥沃化手法の要素技術
と放流利用イメージ
-73-
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.3
環境影響評価技術等研究
(2)成果のまとめ
実施内容
目標
①環境影響評価
項目選定
②評価技術
研究開発成果
●13項目の環境影響検討項目を抽出。
●生物連行推定。
●CO2収支,放流域の温度変化,栄養塩拡散,pH変動予測,富栄
養化予測。
●定量的生物影響予測。植物プランクトン増殖,赤潮藻の増殖,大
型藻類・捕食動物予測。
(1)環境影響評
●深層水を放流した場合,大気中にCO2を放出する。
価
発電効率向上によ ●火力発電所冷却水として利用することによって排出CO2を削減。
●60万kW級LNG発電所でCO2排出量を約4万㌧CO2(100万m3/
るCO2収支
日で)削減。
影響推定
●既存の表層水発電所に比べて影響低減。
●pH変化と富栄養化影響は小さい。
●赤潮発生適正放流条件案を作成。
●適度な昇温と栄養塩の供給は海藻類の成長促進に有効。
水理実験,数値モ ●放水口より1.6kmの範囲において海藻成長を促進。
(2)海域肥沃化
デルによる定量的 ●ムラサキウニの生産も増加。
研究
●効率的肥沃化放流法として,潜堤の築造や,螺旋放流ノズルを
予測
提案。
(3)環境影響モ 環境モニタリング
ニタリング手法 手法策定
●8項目を要モニタリング項目として提案。
●手法は既存の方法に従う。
●CO2収支検討法(pH予測法),藻場生態系モデル検討法のマ
ニュアル案を作成。
【引用文献】
i)
Lewis, E. and D. W. R. Wallace (1998) : Program Developed for CO 2 System
Calculations, ORNL/CDIAC-105, Carbon Dioxide Information Analysis Center.
ii) 原田 晃(2000):深層水利用で考えられる二酸化炭素の問題、月刊海洋(総特集)、
pp.229-233.
-74-
Ⅲ.研究開発成果について
2.4
2.研究開発項目毎の成果
研究開発項目
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
立地条件別最適システム設計・評価研究
本研究開発では、火力発電所を中核とした多目的多段階利用システムの最適利用形態に
ついて、LCA 的評価も含めた総合評価を行い、経済的成立性の高い地点を選定する。さら
に、選定地点に利用形態を提案するために、実用化・事業化に向けた今後の課題、展開方
法などを纏めることを目的として実施した。
(1)
適地類型化の検討とシステム構成要素技術の調査
①国内の深層水取水状況
・ 内外の深層水利用施設を調査した結果、2004 年現在、国内で 14 ヶ所(図 2.4-1)、
海外で 2 ヶ所の取水施設があり、国内 17 ヶ所で建設の計画があることが分かった。
海外ではハワイ自然エネルギー研究機構(NELHA)で海洋温度差発電の研究開発を目
的とした取水管の増設工事が行われており、韓国でも製品製造を目的とした施設の
建設構想が進展している。
・ 国内の取水施設の内 10 個所は、この 5 年以内に建設されたもので、高知県における
深層水の商業利用の成功がきっかけとなって建設されている。特に、最近 1∼2 年の
傾向として、商業利用のみを目的とした取水量数百 m 3 /日の小規模な施設が民間資本
で建設されており、これらの施設ではイニシャルコストの低減を図るため、取水管
材料にこれまで使用されていなかった硬質ポリエチレン管や被覆ライニング鋼管が
採用されている。
・ 既往の利用施設では、水産利用や脱塩水利用などの産業利用が主で、エネルギー利
用の例は少ない。これは、既往の設備では取水量が少ないため、エネルギー利用と
既存の深層水取水施設
全国14ヶ所:2004年現在
滑川市
図 2.4-1
日本における既存の深層水取水設備設置状況 (平成 16 年 4 月 1 日現在)
- 75 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
しては量的に不十分で深層水の単価が高くなること、また、気候的に深層水の低温
性を有効に利用できる需要が少ないことなどの理由によるものと推測される。
②システム構成要素技術の調査
・ 取水技術では、管路形式が海底地形に対する適用性が最も高く、取水管材料として
鋼管と鎧装硬質ポリエチレン管が適合し、施工法として半浮遊式海底曳航法の実用
性が高いこと、取水量 100 万 m 3 /日、取水管距離 4km で 100 億円程度の建設費となる
ことが判明した。
・ 資源エネルギー技術では、深層水の復水器冷却水としての利用で、既設火力発電所
では、地域による設計海水温度の違いから日本中部地域の発電所へ適用する場合に
省エネルギー効果が高くなること、一方、新規火力発電所では、深層水適用を前提
とした最適設計により、日本南部の発電所へ適用すると最も省エネルギー効果が高
くなること、また、復水器設備が 1/2 程度に縮小されることから設備費も大幅に削
減できることが明らかとなった。
・ シミュレーションによる検討結果から、60 万kW級火力発電所の復水器冷却水とし
て深層水を利用することで、立地地域によって異なるが、発電出力が 1.5∼3.7%向
上し、プラント熱効率(発電効率)が 0.6∼1.5 ポイント向上することが推定された。
また、日本南部の新規火力発電所で設備利用率を 100%とした場合の原油削減量は
3.6 万 kl/年、CO 2 削減量は 9.2 万t-CO 2 /年と推定された。
・ シミュレーションによる検討結果から、ガスタービンコンバインドサイクルの吸気
冷却に深層水を用いた場合、発電出力が最大 10%向上し、発電効率が 1%程度向上
することが予測された。
・ 冷熱源代替利用への適用実験の結果から、深層水を凝縮機冷却水として利用した過
冷却解除法によるシャーベット状深層水氷の製造では 45%、深層水を直接冷熱源と
した貯蔵温度 15℃の低温貯蔵では 65%、深層水との熱交換で冷房用の空気や水を冷
却する空調システム利用では 77%の電力削減率となることが認められた。
・ 火力発電所(60 万 kW、設備利用率 50%)の復水器冷却水として深層水を利用した場合
の経済性の検討結果から、取水設備を 70 億円程度で建設すると現状の表層海水を利
用した発電所と同程度の経済性であることが判明した。この建設コストは、今回開
発した技術では、取水量 100 万 m 3 /日、取水管距離 3km の場合に実現可能な水準であ
る。
・ 深層水による地域冷熱供給(地域冷房システム)については、従来の冷房熱源設備
が不要となるため熱源部では建設コストが大幅に削減され、省エネルギー効果も大
きい。しかし、需要地まで冷水を搬送する地域導管の敷設が必要となり、搬送距離
が長いと建設費が高くなり採算性が左右される。沖縄のホテル群を対象とした検討
では、導管建設費 25 万円/m での採算ラインは、導管延長2km(往復4km)程度まで
と推定された。
・ 海水淡水化に深層水を利用すると、表層水を利用する場合と比べて汚損物がほとん
ど な い た め 前 処 理 工 程 が 大 部 分 不 要 と な り 淡 水 生 産 コ ス ト を 35% 程 度 低 減 で き 、
- 76 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
10%程度の省エネルギー効果が得られ、河川水からの製造コストに比べても 1.1 倍
程度となることが推定された。
・ 水産養殖では対象とする魚種の飼育適性温度まで深層水を加熱する必要があり、し
かも深層水を大量にするので、発電冷却水を2次利用することによる省エネルギー
効果は大きい。
・ 深層水の発電所冷却水としての利用による CO 2 収支に関しては、冷却水の低水温化によ
る省エネルギー効果により、取水による CO 2 放出量の5∼10 倍程度の CO 2 排出量削減効
果があることが推定された。
・ 深層水の大量取水・放水による影響は、従来の表層水の取水・放水に比べて、生物的
にも、物理的にも環境影響が軽減されることが推定された。
・ 取水技術や発電技術については、机上検討や小規模実験で得られた知見の技術実証(実
証規模実験)が必要である。
・ 冷熱源代替技術については、個々の要素技術単独での実用化も考えられる。
・ 淡水化技術については相当程度の実用可能性を有している。
③適地類型化指標の検討
・ わが国における陸上取水型深層水利用施設の立地適地として、取水管敷設長さの観点
から、離岸距離5km 以内で水深 200mに達する地点を図 2.4-2 に示した。合わせて同
図には、深層水取水適地と近接する既設の発電所の位置を示した。
・ わが国の海洋深層水取水適地は、地域的には知床半島(オホーツク海)、日本海北部系、
太平洋黒潮系、九州南部沖縄系(東シナ海)の 4 区分に大きくまとめることができ、
気候的には寒冷地型、温暖地型、亜熱帯型に分類される。
・ 本州地域の水深 300m地点における海水温度は、日本海側が数℃程度なのに対して、太
平洋側では十数℃程度になる。
・ 気候条件や地理的条件による分類は、深層水の取水温度の観点から大きな意味を持つ。
・ 地理的条件としては、内湾に属するもの、外海に面しているもの、島嶼として独立し
ているものという地形上の分類ができる。この分類軸は、深層水利用施設から排出さ
れる深層水放水の挙動に関して大きな意味を持つ。
・ 深層水の利用形態から見た分類は類型化指標として直接的であり、深層水の取水方式
は施設の形態的特徴を表す。
・ 放水方式はその活用目的によって施設の性格付けが決まる。
・ これらの検討結果から、下表に示すように気象条件、地理的条件、利用形態、取水方
式、放水方式の 5 項目で分類する適地類型化指標を作成した。(表 2.4-1)
- 77 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
北海道
知床半島
北海道
渡島半島西部
奥尻島
青森県
深浦町
富山県
富山湾沿岸
新潟県
佐渡島
糸魚川市
山形県
酒田市飛島
石川県
能登半島東岸
千葉県
房総半島南部
福井県
越前岬
鹿児島県
瓶島列島
宇治群島
鹿児島県
奄美諸島
神奈川県
相模湾沿岸
高知県
室戸岬東部
沖ノ島
鹿児島県
薩摩半島南部
大隅諸島
トカラ列島
静岡県
相模湾沿岸
駿河湾沿岸
福田町
東京都
伊豆諸島
三重県
尾鷲市
和歌山県
那智勝浦町
潮岬
沖縄県
先島諸島
沖縄県
沖縄諸島
沖縄県
尖閣諸島
既設発電所 水深200mまで
5km以内
10km程度
海岸線から水平距離5km 以内に、水深 200m に達する地点を示した。
海洋科学技術センター・清水建設(株)技術研究所、共同研究「深層水供給
システムに関する調査研究」成果報告書、昭和 61 年3月、を基に作成
図 2.4-2
海洋深層水取水施設の立地適地
日本の深層水取水施設の立地適地と近接する既設発電所
- 78 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
表 2.4-1
分
適地類型化指標
類
気象条件
地理的条件
項
目
亜熱帯型、温暖地型、寒冷地型
太平洋型、日本海型、東シナ海型、オホーツク海型
内湾型、外海型、島嶼型
利用形態
電源立地型(冷却水)、大規模工場立地型(冷却水)、水産養殖型(飼育水)、
製 品 生 産 ・加 工 型 (原 材 料 、加 工 用 水 )、 レ ジ ャ ー ・健 康 産 業 型 (体 験 、 水
浴)、水産利用型(洗浄用水、蓄養水)、水産加工型(加工用水、洗浄用水)、
農業利用型(冷房・冷却用熱源水)、地域冷房型(冷房用熱源水)、多目
的利用型
取水方式
陸上取水型、洋上取水型、タンカー取水型
放水方式
浅海域環境改善型、浅海域生産型、影響回避型、海域肥沃化型、水質改
善型
- 79 -
Ⅲ.研究開発成果について
(2)
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
立地条件別最適利用システムの設計評価
①立地条件別深層水利用システムの試設計
・システム設計では、各地点の特性を生かすシステム構成を考えることが必要である。
・ 適地類型化指標を基に立地特性を考慮し、システム試設計を実施する地域として北海
道、富山、首都圏、静岡、高知、沖縄を選定した。このうち首都圏と沖縄では洋上取
水での試設計も行った。
・ 各地域において水深 300mから取水した場合の深層水の水温は表 2.4-2 のように推定さ
れた。
表 2.4-2
地域
取水温度℃
深度 300m
各地域の深層水の水温
北海道
富山
首都圏
静岡
高知
3℃
3℃
10℃
10℃
10℃
沖縄
15℃
(10℃:600m)
・ 北海道では、気温、水温が低いため冷房需要は少なく、沖縄のような南方の地点と比
較すると低温特性を年中利用するのは難しいが、夏期に魚類の蓄養に利用するなどそ
の地点の特性を考慮した利用は可能である。また、水産養殖では深層水の取水温度が
年中3℃と低すぎるため魚の成長に不向きで、発電所冷却水として加温された深層水
を水産用水として利用することで、成長促進と大幅な省エネルギー効果が得られる。
また、2 次利用後の深層水排水はこの地域で問題となっている磯焼け対策に利用できる
可能性がある。
・ 日本海側の深層水は 3℃程度の低温で取水が可能となる。富山では、医療・健康利用や
飲料水などの産業利用のほか、水産利用や漁港における衛生管理型漁港(HACCP 対応)
などの需要がある。
・ 首都圏など大消費地に近い地域では、火力発電所での冷却水利用や商業利用のほか、
工業用水やテーマパーク・水族館などレジャー施設用水としての分水事業が考えられ
る。取水管長を短縮できるメリットから東京湾上での浮体式発電施設も考えられる。
・ 静岡など太平洋側の深層水は 300m水深で 10℃程度であり、日本海側と比べるとやや
高いが、年間の変動は小さく安定しており各種の冷却水としての利用が可能である。
商業利用のほか、工業用水としての分水事業が考えられ、水産利用や漁港における
HACCP 対応の需要がある。
・ 高知では取水温度は水深 300mで 10℃程度であり、工業利用がないため、水産、農業、
製 品 生 産 な ど で の 利 用 が 中 心 と な り 、エ ネ ル ギ ー 利 用 と し て は 温 暖 地 で あ る こ と か ら
冷房利用に向いている。
・ 沖縄では水深 600m以深で海水温度が 10℃以下となる。冷房需要がほぼ年間を通して
存在するため低水温性を有効に生かせる。水産養殖では夏場の高温対策が必要になり、
深層水を利用することで安価な水温管理が可能となり、クルマエビなど種類によって
は2期作の可能性もある。夏には海水温度が 30℃以上になる場合があり、深層水排水
- 80 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
を珊瑚の白化現象防止対策に利用することも可能である。また、慢性的な水不足の問
題があり海水淡水化の需要も考えられる。産業利用の面では、島嶼性から輸送コスト
が大きくなるデメリットが有る。
・ 首都圏の洋上システムとして海上浮体式火力発電所のシステム設計を行い、取水管延
長を短縮できるメリットがある反面、浮体建造費が高く、取水管と発電設備の波浪影
響に課題があることが確認された。
・ 沖縄における洋上システムとして、深層水と表層水を混合して密度調整を行った放流
水によって海域肥沃化・漁場形成を図る洋上型深層水取水施設の試設計を行い、技術
的実現可能性と経済的効果を確認した。
・ 2次利用の方法としてのミネラルウォーターや製塩などの製品生産、タラソテラピー
や観光・療養での利用、衛生管理型漁港での洗浄水利用や海水氷製造などの用途では、
深層水の使用水量は比較的少なく、既存の取水施設では1ヵ所当たり数百 m 3 /日程度で
ある。
・ 発電所冷却水としての大量の深層水を2次利用する方法としては、上水供給を前提と
した海水淡水化、地域冷房、大規模水産養殖、海域肥沃化、磯焼け防止対策などがあ
る。
・ 上水供給を前提とした海水淡水化、大規模水産養殖などへの適用に実用化の可能性が
ある。
・ 海域肥沃化、磯焼け防止対策などへの適用については今後の実証研究が必要な段階に
ある。
- 81 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
②最適利用システムの詳細設計と総合評価
・適地類型化指標を基に選定した6地域についてのシステム試設計から、さらに、北海道、
首都圏、沖縄の3地域を選択し、システムの詳細設計と総合的な評価を行った。
<北海道地域の最適利用システム設計と総合評価>
・北海道では、発電出力 5 万 kW、取水量 10 万 m 3 /日の蒸気タービン火力発電所を中心とし
て、冷蔵・冷凍倉庫、冷房等への冷熱供給、飲料水供給、企業分水等での利用を考え、温排
水は水産養殖に利用したのち、磯焼け対策として放流するシステム構成とした。(図 2.4-3)
・検討対象とした地点では取水管長が 8.5km と長くなるため、特定規模電気事業(PPS)と2
次利用の収益を考慮した経済性の評価で単純回収年数は 13.3 年となったが、企業分水が考
慮されれば短縮される可能性が大であることが示唆された。
・冷却排水の深層水を磯焼け対策に使うためには、周囲海水と混合して有光層に滞留させ
ることが必要で、このための方法を提案した。
周辺地域への電力供給
△T=15℃
有機性廃棄物受け入れ
温度コントロールプラント
5万kW
3 ℃
96,400 t/day
* ごみ焼却場の排熱エネルギーの活用
**地域及び周辺都市部からの
△T= 5 ℃
発電施設
18 ℃
96,400 t/day
18 ℃
400 t/day
*
**
熱交換 バイオガス
プラント (有機性廃棄物に
23 ℃
アクアセンター
3 ℃
3,600 t/day
海洋療法施設
2,200 t/day
△T=
1℃
3℃
2,200 t/day
冷熱供給
冷蔵庫、冷凍庫、冷房
3℃
エゾアワビ 陸上養殖
3 ℃
100,000t/日
2℃
96,000 t/day
18 ℃
タラソテラピー
アトピークリニツク
など
△T=5℃
600 t/day
深層水取水
生産量:80t/年
400
t/day
原水分水施設
2,200 t/day
排水処理
漁港施設
800 t/day
3 ℃
8℃
600 t/day
飲料水等供給
3 ℃
水中荷捌施設: 1,000 t/day
HACCP対応: 700 t/day
流通・加工:500 t/day
放水
分水による商品化
淡水
塩
濃縮海水
高ミネラル水
飲料水
200
t/day
200
t/day
400 t/day
よるメタン発酵)
300
t/day
1
t/day
図 2.4-3
1
t/day
飲料水メーカー:
200 t/day
酒造メーカー:
200 t/day
食品加工メーカー:
100 t/day
化粧品製薬メーカー:100
海域の肥沃化、藻場の造成
t/day
北海道地域における電源立地型深層水多目的利用システムの構成
- 82 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
・深層水を蒸気タービン(ST)発電所の復水器の冷却水として利用することにより、発電
端の発電効率は深層水取水温度の 3℃において 37.5%、北海道岩内における表層水の平均
水温 12℃の時には 36.3%、また、夏期最高水温 24℃の時には 34.0%となることが推定さ
れ、深層水を利用することにより、発電効率は年間平均 1.2 ポイント、最大 3.5 ポイント
程度の改善効果があることが分かった。また、発電出力では年間平均 3.2%、最大 10.2%
程度の出力増となる。(図 2.4-4)
ST効率(発電端,LHV)
40%
38%
36%
34%
32%
30%
0
図 2.4-4
10
20
冷却水温度(℃)
30
冷却水温度と発電効率
(5万kW級、発電端)
・排水放流による肥沃化効果の検討を行い、深層水排水による海域肥沃化の方法として、
排水を一旦小さな区画に溜めた後に半閉鎖的な海域内に排水されることにより、重密度・
軽密度排水共に小区画において鉛直混合され、小区画から海域内に出る時にはほぼ同密度
排水に近い状態となるため、全層が同程度に肥沃化されうることが判った。
また、ほとんど閉鎖された狭い海域に 10 万トン/日といった大量の深層水を放水した場
合、冬場・夏場を問わずかなり短時日で海域全体が鉛直方向も含めて希釈率 20 倍といった
Y
Y
オーダーの充分な栄養塩を含む肥沃化海域になる可能性が示された。(図 2.4-5)
700
700
Discharge Port
600
500
500
400
400
Dilution
1000
500
200
100
50
20
10
5
2
300
200
100
0
Discharge Port
600
250
500
750
200
100
0
1000
X
250
500
750
X
(a) 表層
図 2.4-5
Dilution
1000
500
200
100
50
20
10
5
2
300
(b) 底層
工業港区周辺の希釈倍率分布
(冬期 Case1:放水量 10 万 m 3 /日、2日経過後)
- 83 -
1000
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
<首都圏地域の最適利用システム設計と総合評価>
・首都圏では、IPP(独立系発電事業者)によるガスタービンと蒸気タービンのコンバインド
サイクル(GTCC)発電所を中心として、総合病院、保養施設、リゾートマンションなどの冷房
に深層水を利用し、その後、レジャー施設や工業利用へ分水するシステム構成を提案した
(図 2.4-6)。首都圏の場合は大規模な水産養殖や淡水化施設などの需要がないため大量の
深層水を有効に利用する用途の想定が困難で、IPP 発電所のみでの経済性を評価した。
この結果、検討した発電出力 24 万 kW(取水量 30 万 m 3 /日)、発電出力 72 万 kW(取水量 100
万 m 3 /日)の2ケースで、取水管長4km 以内において採算性が成立することが見積もられた。
IPP発電所
720MW
992千t/日
10℃
⊿t=14℃
排熱回収式コンバインドサイクル
GT吸気冷却 474MW
ST復水器冷却 246MW
病院・保養所
塩水稲作
深層水風呂マンション
100千t/日
(各戸深層水風呂付き)
50戸
0.04千t/日
4.5千t/日 0.2千t/日
海中サハリ パーク 892千t/日
深層水取水
ディズニーシー
お台場海浜公園
水深300m
1,000千t/日
10℃
3.0千t/日
排 水
ビール工場
0.3千t/日
発電立地型海洋深層水利用システム(首都圏)
図 2.4-6
首都圏地域における電源立地型深層水多目的利用システムの構成
○シミュレーションによる発電設備の運転状況の評価
・発電出力 72 万kW のコンバインドサイクル(GTCC)発電設備について、吸気冷却と復水器
の冷却に深層水を適用した場合と、吸気冷却を行わず復水器冷却は表層海水で行う場合の
運転状況を、シミュレーションによって評価した結果を図 2.4-7 に示す。
図 A には深層水を冷却水として利用した場合としない場合の1年間毎月の平均発電効率
の比較を、図 B には1年間毎月の平均発電量の比較、また、図 C には年間の総発電量の累
計の比較を示す。
深層水を利用する場合には年間を通じて発電効率、発電量は一定しているのに対して、
利用しない場合には夏期に気温、海水温度の上昇に伴い、発電効率、発電量の低下がみら
れる。
- 84 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
図 D には年間の気温、表層水温、深層水温と冷却水として使用したあとの排水温度の変
化を示す。これにより深層水利用が発電効率上、温排水による環境影響対策上有効である
年間の発電効率の比較
深層水利用
深層水未利用
年間の発電量比較
図B
48.0
270,000
47.0
250,000
46.0
230,000
発電量kwh
発電効率%
図A
45.0
44.0
43.0
深層水利用
深層水未利用
210,000
190,000
170,000
35
25
20
15
10
12月
11月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
10月
深層水利用
深層水未利用
1,600,000
1,400,000
1,200,000
1,000,000
800,000
600,000
400,000
200,000
5
ことが確認できる 。
図 2.4-7
深層水利用発電施設の年間シミュレーション結果
- 85 -
12月
11月
10月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
1月
12月
11月
10月
9月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
3月
0
0
2月
温度℃
30
年間の総発電量比較(稼働率70%)
図D
総発電量Mwh/年
40
2月
1月
12月
150,000
外気温
表層水温度
深層水温度
深層水利用排水温度
深層水未利用排水温度
年間気温、海水温度、
排水温度の比較
図C
11月
9月
10月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
42.0
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
○事業採算性の検討
発電出力 72 万kW のコンバインドサイクル(GTCC)石油火力発電所の事業採算性を評価し
た。
発電所の運用形態としては IPP を想定している。
建設費を極力押さえて採算性を追求することで、図 2.4-8 に示すように初年度から黒字
で運転できる可能性を確認した。
<検討条件>
石油火力発電所:72 万kW(GTCC)
深層水取水量:100万m 3 /日
総事業費:722億円
借入:75%
金利1.5%年
稼働日数:260日
買電料金:12円/kWh
<検討結果>
営業収入:244.5億円/年
支出: 燃料費
149.4億円
運転管理費
8.0億円
金利
21.7億円
その他
3.3億円
合計
182.4億円
25年後累積資金
602億円
利益率
5.1%
700
600
累積損益
500
支出
300
200
100
事業年数
図 2.4-8
事業採算性の検討(720MW 級 GTCC)
- 86 -
25
23
21
19
17
15
13
11
9
7
5
3
0
1
億円
収入
400
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
<沖縄地域の最適利用システム設計と総合評価>
沖縄地域においては、発電出力 12.5 万 kW、取水量 30 万 m 3 /日の蒸気タービン火力発電所
を核として、地域冷房、大規模海水淡水化、製品生産、健康・療養、藻類生産、水産養殖、
農業などの施設から構成されるシステムを設計した。
システム構成図(図 2.4-9)とシステム概念図(図 2.4-10)を以下に示す。
17∼18℃
淡水循環系統
10∼11℃
熱交換
器
地域冷房
リゾートホテル群 1,200室
14∼17℃
20,000m3/日
800m3/h
大規模淡水化施設
生産淡水量 40,000m3/日
製品生産 飲料水、自然塩、食品など
火力発電所
125,000kW
⊿t=14∼18℃
排水
23∼28℃
300,000m3/日
12,500m3/h
深層水受水槽
9∼10℃
9∼10℃
4,000m3/日
160m3/h
健康、療養 タラソテラピー、アトピー治療など
排水
水産養殖 栽培漁業センター、クルマエビ養殖など
農業利用(土壌冷却)
野菜の周年栽培:ホウレンソウ、イチゴなど
取水量:32.4万t/日
‐600m
9∼10℃
システム構成
図 2.4-9
深層水適地利用システムの構成図(沖縄地域)
- 87 -
排水放流
Ⅲ.研究開発成果について
図 2.4-10
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
沖縄地域における電源立地型深層水多目的利用システムの概念図
設計システムの経済性評価の結果を表 2.4-3 に示す。取水設備は取水管長6km で 90 億
円程度で建設され、特定規模電気事業(PPS)を想定した電力販売利益が年間 19.9 億円、深
層水の2次利用において、脱塩水などの製品生産では年間 4.3 億円、水産養殖では 3.3 億
円程度の経済効果があり、単純回収年数は 10.4 年程度と見積もられた。
表 2.4-3
深層水利用最適システムの経済性評価
施設
深層水取水施設
諸元
取水量
32.4 万 t /
日、L=6,000m
125MW
建設費
利益
億円
億円/年
90
2.3
200
19.9
蒸気タービン発電施設
発電量
製品生産
ボトルドウォーター・製塩
10
4.3
水産養殖
クルマエビ、ヒラメ、アワビ
18
3.3
観光利用
タラソテラピー
8
1.6
農業利用
葉菜類、イチゴ
4
0.4
海水淡水化施設
淡水生産
-
-
330
31.8
4万t/日
合計
- 88 -
備考
深層水販売
特定規模電気事業
建設費 1/2 補助
公共事業
or
PFI
単純回収年数
10.4 年
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
・ システム構成要素ごとの省エネルギー効果と CO 2 排出量削減効果評価結果を表 2.4-3 に
示す 。
・ これらの効果は、火力発電所冷却水としての利用が圧倒的に大きいが、深層水を大量
に利用する水産養殖、大規模淡水化などで大きい。
・ システム全体での CO 2 収支は、深層水放流による CO 2 放出量が 150∼400t-C/年に対して、
発電効率向上による CO 2 削減量は、運転条件によって 1,600∼5,700t-C/年程度と、そ
の比は 1:10 程度であり、深層水の発電所冷却水としての利用は CO 2 放出量の削減に大
きく寄与することが確認された。
表 2.4-4
省エネルギー効果と CO 2 排出量削減効果
システム構成要素
省エネルギー効果[kL]
火力発電所冷却水
5,500
14,650
地域冷房
303
808
大規模淡水化施設
558
1,480
製品生産
−−−
−−−
タラソテラピー
15
40
水産養殖(クルマエビ、ヒラメ養殖)
916
2,440
微細藻類培養
391
1,046
温室栽培(ホウレンソウ、イチゴ栽培)
42
110
表 2.4-5
深層水放流による
CO 2 放出量
t-CO 2 /年
生物固定あり
576
生物固定なし
1,474
CO 2 排出量削減効果[t- CO 2 ]
本システム全体での CO 2 収支
発電効率向上による CO 2
削減量
t-CO 2 /年
5,801 ∼ 20,988
- 89 -
深層水利用における CO 2
収支
t-CO 2 /年
-4,326 ∼ -20,412
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
②深層水を冷却水とする火力発電所の LCA 的評価
60 万 kW 級の新設LNG火力発電所の冷却水として深層水を 100 万t/日利用するケース
についてLCA的評価を行った。深層水の冷却水利用による発電効率の向上は1%とし、
火力発電所と深層水取水施設の耐用年数はいずれも 30 年とした。
a.
深層水取水施設の LCA 的評価
<評価対象システム>
・評価対象の取水施設は、表 2.4-6 に示す取水量 100 万m 3 /日の着底管路方式とした。
表 2.4-6
評価対象とする深層水取水施設の仕様
項 目
仕様
取水量
100 万m 3 /日
取水管
内径 2,030mmφ、外径 2,300mmφ
鉄線巻きアラミド補強ポリエチレン管
取水管本数
1本
取水管延長
3,000m
取水深度
DL−300m
附帯設備
取水ピット、ポンプ設備を含む
<インベントリー分析>
・ 深層水取水施設の LCA 的評価におけるインベントリー分析対象項目を表 2.4-7 に示す。
・ 今回の分析では、LCA 評価におけるインベントリー分析の方法として、素材重量、製品
価格、工事金額や消費電力量などを評価データとして、産業連関法を適用した。
・ 影響評価の項目は、エネルギー消費量と CO 2 排出量とした。
・ エネルギー消費量と CO 2 排出量の原単位データは、科学技術庁・金属材料研究所が 1997
年に公表した“Environmental load of 4000 Social Stocks”を用いた。
・ なお、深層水取水施設の廃棄処分については、現在までに、どのように処分するか検
討されたことがないが、建設工事費と同等以下と考えられることから、現時点では、
建設工事費と同等の費用を見積もることとした。
- 90 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
表 2.4-7
分析段階
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
インベントリー分析の分析対象と分析方法
分析対象
A.資材製造
取水管建設材料
B.流通・運搬
長管製作
評価データ
素材重量、製品価格
作業船団艤装・解体
作業船団回航
工事経費
敷設用資機材運搬
C.建設工事
事前調査工
敷設工事
浅海部掘削・管埋戻工
護岸撤去・復旧工
工事金額
取水ピット構築工
現地敷設準備・片付け工
D.運用
取水運転動力
電力消費量
E.維持管理・改修
保守、改修
初期建設コストに対する比率
F.廃棄処分
解体、撤去、処分
建設工事費(B+C)と同等と仮定
<影響評価>
・深層水取水施設の耐用年数を 30 年として、年間のエネルギー消費量と CO 2 排出量を、資
材製造、流通運搬、建設工事、運用、維持管理の各分析段階毎に整理した結果を図 2.4-11
に示す。ここにおいて、資材製造、流通運搬、建設工事の各段階における年間エネルギー
消費量と年間 CO 2 排出量は、建設時のエネルギー消費量と CO 2 排出量を耐用年数で除した
ものである。運用段階の年間エネルギー消費量と年間 CO 2 排出量は、取水ポンプの運転に
要する年間の電力量から求めた。維持管理段階においては、初期建設費の 1%に相当する
金額が維持管理に毎年必要になるものと想定し、これに取水ポンプの耐用年数を 6 年間と
して、この更新分を考慮して求めた。
この結果、年間のエネルギー消費量、CO 2 排出量とも運用段階に占める割合が圧倒的に大
きく、それぞれ 80%弱と 60%強を占める結果となった。
残りは、資材製造、流通運搬+建設工事、維持管理の3段階がほぼ同等の割合となり、そ
れぞれ年間エネルギー消費量で 8%程度、年間 CO 2 排出量で 12∼14%を占める結果となっ
た。
- 91 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
エネルギー消費量[GJ/年]
廃棄処分 資材製造
7%
7%
維持管理
7%
CO2排出量[t-CO2/年]
資材製造
12%
廃棄処分
12%
流通運搬
3%
建設工事
5%
流通運搬
4%
維持管理
10%
総計
7,606
t-CO2 /年
総計
126,595
GJ/年
運用
54%
運用
71%
図 2.4-11
b.
建設工事
8%
深層水取水施設の年間のエネルギー消費量とCO 2 排出量
LNG火力発電所のLCA的評価
評価対象の発電施設は、表 2.4-8 に示す発電出力 60 万kWの汽力式 LNG 火力発電所(1990
年建設)とした。
表 2.4-8
評価対象とする発電施設
種別
出力
設備利用率
熱効率
耐用年数
LNG 火力
600MW
100%
40.0%
30 年
LNG 火力発電所の LCA 的評価は、電力中央研究所が既設の出力 100 万kWの LNG 火力発
電所について行ったライフサイクル CO 2(LCCO 2 )評価の結果 [ 3] を基に、これを 60 万kW
出力に換算して行い、深層水を冷却水として利用する効果については発電効率(熱効率)
を1%上昇させることで考慮した。
既存の出力 60 万kWの LNG 火力発電所の熱効率を 40%として、また、深層水を冷却水
として利用した出力 60 万kWの LNG 火力発電所の熱効率を 41.16%と想定して行なった
LCA 的評価の詳細は表 2.4-11 と表 2.4-12 を、それぞれ参照されたい。
深層水を冷却水とした LNG 火力発電所(60 万kW)の LCA 的評価の結果(資料1の表 10)
を、段階ごとに整理して表 2.4-9 に示す。
この結果、発電所の構築段階における CO 2 排出量はごくわずかで、運用段階が 99.5%を
占め、その8割を燃料が占めていることが分かる。
- 92 -
Ⅲ.研究開発成果について
表 2.4-9
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
深層水を冷却水とした 60 万 kW
LNG 火力発電所の CO 2 排出量
CO 2 排出量
段階
割合
t- CO 2 /年
構築
12,404
0.4%
運用
2,874,202
99.6%
(内、燃料)
(2,270,623)
(運用段階での割合;79.0%)
2,886,606
合計
100%
<深層水取水施設のLCA的評価との比較>
深層水を冷却水とした LNG 火力発電所の CO 2 排出量と深層水取水施設の CO 2 排出量を比べ
ると、図 2.4-12 に示すように深層水取水施設の CO 2 排出量は、30 年間の運用では発電時の
燃料の占める比率が多く、発電施設の排出量に比べて 0.4%以下と非常に小さいことが分
かる。
深層水を冷却水とした
60 万kW LNG 火力発電所
深層水取水施設
100 万t/日
構築
0.4 %
燃料 以外
の運用
21.0%
CO 2 排出量
CO2 排出量
0.76 万
燃料
t-CO2/年
61%
288 .6 万
t-CO 2/年
構築
27%
燃料以外の
運用 12%
燃料
79.0%
図 2.4-12
発電施設と取水施設の CO 2 排出量の比較
<LNG火力発電所における深層水利用効果>
LNG火力発電所の冷却水として深層水を利用した効果として、既存のLNG火力発電
所と深層水を冷却水としたLNG火力発電所の燃料消費量と CO 2 排出量を表 2.4-10 に示す。
表より、深層水の適用による発電効率の向上によって、出力 60 万KWのLNG火力発電
所において設備利用率 100%の場合、燃料削減効果 3.6 万 kL/年(原油換算)、CO 2 排出量
削減効果 9.2 万t-CO 2 /年、が得られることが分かる。
- 93 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
表 2.4-10
項
目
燃料消費量(LNG)
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
深層水を冷却水として利用した効果
既存の LNG
深層水を冷却水とした
火力発電所
LNG 火力発電所
870
845
25.4
1,226
1,191
35.8
3,204
3,112
91.5
差
千 t/年
燃料消費量(原油換算)
千 kL/年
CO 2 排出量
千 t-CO 2 /年
なお、参考のために、表 2.4-11 及び表 2.4-12 に LCA 的評価に関する詳細な結果を記載
する。
参考文献
[1]LCA 実務入門編集委員会編、LCA 実務入門、(社)産業環境管理協会、1998 年 8 月
[2]井上秀文、建設の LCA、オーム社、平成 13 年 6 月
[3]本藤祐樹、内山洋司、森泉由恵:ライフサイクル CO 2 排出量による発電技術の評価、
(財)電力中央研究所、研究報告Y99009、平成 12 年 3 月
- 94 -
Ⅲ.研究開発成果について
2.研究開発項目毎の成果
表 2.4-11
既存の LNG 火力発電所(60 万kW)の LCA 的評価
前提条件
発電量(発電端)
発電量(送電端)
総発熱量
物量(燃料消費量)
発電(構築)
素材・燃料必要量
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
5,256,000
5,029,466
11,300,400
869,262
鉄鋼(ユニット構成機)
鉄鋼(ボイラー)
鉄鋼(タービン)
鉄鋼(給水復水)
鉄鋼(脱硝)
鉄鋼(集塵)
鉄鋼(電気)
鉄鋼(機械その他)
鉄鋼(土木)
コンクリート
軽油
(MWh/年)
(MWh/年)
(Gcal/年)
(t/年)
出力
設備利用率
所内率
熱効率
耐用年数
発熱量
18,110
10,799
2,362
2,572
518
959
901
7,284
30,528
361,230
7,050
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(Kl/基)
34,239
7,556
11,536
1,816
3,357
3,959
26,716
41,701
41,180
18,640
190,700
1.26
506.9*出力^ 0.559
物量(ボイラー)
302.28
物量(タービン)
66.11
物量(給水復水)
71.98
物量(脱硝)
14.51
物量(集塵)
26.83
物量(電気)
25.21
出力あたり鉄鋼量
12.14
出力あたり鉄鋼量
50.88
出力あたりコンクリート量
602.05
出力あたり軽油消費量
11.75
[補完係数]
ボイラー
1.321
タービン
1.342
給水復水
2.284
脱硝
1.564
集塵
1.564
電気
2.218
機械その他
1.685
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
排出原単位(鉄鋼)
(t-CO2/基)
排出原単位(コンクリート)
(t-CO2/基)
排出係数(軽油)
(g-CO2/KWh)
CO2排出量
鉄鋼(ボイラー)
鉄鋼(タービン)
鉄鋼(給水復水)
鉄鋼(脱硝)
鉄鋼(集塵)
鉄鋼(電気)
鉄鋼(機械その他)
鉄鋼(土木)
コンクリート
軽油
190,700 計
発電量あたりCO2排出量
発電(運用)
アンモニア
触媒
建設補修
機械修理
CO2排出量
アンモニア
触媒
建設補修
機械修理
計
発電量あたりCO2排出量
発電(燃料)
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
採取・前処理(構築)
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
採取・前処理(運用)
CO2排出量
燃料
粗ガス中
発電量あたりCO2排出量
燃料
粗ガス中
国内輸送(構築)
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
国内輸送(運用)
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
メタン
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
合計
CO2排出量
3,470
42
2,639
5,151
4,331
210
8,538
9,751
22,829
4.54
(t/年)
(100万円/年)
(100万円/年)
(100万円/年)
(t-CO2/年)
(t-CO2/年)
(t-CO2/年)
(t-CO2/年)
(t-CO2/年)
(g-CO2/KWh)
発電量あたり消費量(アンモニア)
発電量あたり消費額(触媒)
発電量あたり消費額(建設補修)
発電量あたり消費額(機械修理)
排出原単位(アンモニア)
排出原単位(触媒)
排出原単位(建設補修)
排出原単位(機械修理)
2,336,471 (t-CO2/年)
排出係数
464.56 (g-CO2/KWh)
CO2排出量
3,920 (t-CO2/年)
0.78 (g-CO2/KWh)
330,624 (t-CO2/年)
127,886 (t-CO2/年)
600 (MW)
100%
4.31%
40.00%
30 (年)
13,000 (Mcal/t)
(t)
(t)
(t)
(t)
(t)
(t)
(t/MW)
(t/MW)
(t/MW)
(Kl/MW)
1.366 (t-CO2/t)
0.114 (t-CO2/t)
2.644 (t-CO2/Kl)
0.690
0.008
0.502
0.980
1.248
4.985
3.236
1.893
(g-kWh)
(円/kWh)
(円/kWh)
(円/kWh)
(t-CO2/t)
(t-CO2/100万円)
(t-CO2/100万円)
(t-CO2/100万円)
206.76 (Kg-CO2/Gcal)
4.51 (Kg-CO2/t)
CO2排出量
CO2排出量
380.35 (Kg-CO2/t)
147.12 (Kg-CO2/t)
CO2排出量
2,008 (t-CO2/年)
0.40 (g-CO2/KWh)
2.31 (Kg-CO2/t)
CO2排出量
94,750 (t-CO2/年)
18.84 (g-CO2/KWh)
109.00 (Kg-CO2/t)
65.74 (g-CO2/KWh)
25.43 (g-CO2/KWh)
44,332 (t-CO2/年)
メタン排出係数
8.81 (g-CO2/KWh)
2,969,463 (t-CO2/年)
- 95 -
0.051 (t-CO2/t)
Ⅲ.研究開発成果について
表 2.4-12
2.研究開発項目毎の成果
深層水を冷却水とした LNG 火力発電所(60 万kW)の LCA 的評価
前提条件
発電量(発電端)
発電量(送電端)
総発熱量
物量(燃料消費量)
発電(構築)
素材・燃料必要量
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
5,256,000
5,029,466
10,981,924
844,763
鉄鋼(ユニット構成機)
鉄鋼(ボイラー)
鉄鋼(タービン)
鉄鋼(給水復水)
鉄鋼(脱硝)
鉄鋼(集塵)
鉄鋼(電気)
鉄鋼(機械その他)
鉄鋼(土木)
コンクリート
軽油
(MWh/年)
(MWh/年)
(Gcal/年)
(t/年)
出力
設備利用率
所内率
熱効率
耐用年数
発熱量
18,110
10,799
2,362
2,572
518
959
901
7,284
30,528
361,230
7,050
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(t/基)
(Kl/基)
34,239
7,556
11,536
1,816
3,357
3,959
26,716
41,701
41,180
18,640
190,700
1.26
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(t-CO2/基)
(g-CO2/KWh)
506.9*出力^ 0.559
物量(ボイラー)
302.28
物量(タービン)
66.11
物量(給水復水)
71.98
物量(脱硝)
14.51
物量(集塵)
26.83
物量(電気)
25.21
出力あたり鉄鋼量
12.14
出力あたり鉄鋼量
50.88
出力あたりコンクリート量
602.05
出力あたり軽油消費量
11.75
[補完係数]
ボイラー
1.321
タービン
1.342
給水復水
2.284
脱硝
1.564
集塵
1.564
電気
2.218
機械その他
1.685
3,470
42
2,639
5,151
4,331
210
8,538
9,751
22,829
4.54
(t/年)
(100万円/年)
(100万円/年)
(100万円/年)
(t-CO2/年)
(t-CO2/年)
(t-CO2/年)
(t-CO2/年)
(t-CO2/年)
(g-CO2/KWh)
CO2排出量
鉄鋼(ボイラー)
鉄鋼(タービン)
鉄鋼(給水復水)
鉄鋼(脱硝)
鉄鋼(集塵)
鉄鋼(電気)
鉄鋼(機械その他)
鉄鋼(土木)
コンクリート
軽油
190,700 計
発電量あたりCO2排出量
発電(運用)
アンモニア
触媒
建設補修
機械修理
CO2排出量
アンモニア
触媒
建設補修
機械修理
計
発電量あたりCO2排出量
発電(燃料)
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
採取・前処理(構築)
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
採取・前処理(運用)
CO2排出量
燃料
粗ガス中
発電量あたりCO2排出量
燃料
粗ガス中
国内輸送(構築)
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
国内輸送(運用)
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
メタン
CO2排出量
発電量あたりCO2排出量
合計
CO2排出量
2,270,623 (t-CO2/年)
451.46 (g-CO2/KWh)
3,810 (t-CO2/年)
0.76 (g-CO2/KWh)
600 (MW)
100%
4.31%
41.16%
30 (年)
13,000 (Mcal/t)
(t)
(t)
(t)
(t)
(t)
(t)
(t/MW)
(t/MW)
(t/MW)
(Kl/MW)
排出原単位(鉄鋼)
排出原単位(コンクリート)
排出係数(軽油)
1.366 (t-CO2/t)
0.114 (t-CO2/t)
2.644 (t-CO2/Kl)
発電量あたり消費量(アンモニア)
発電量あたり消費額(触媒)
発電量あたり消費額(建設補修)
発電量あたり消費額(機械修理)
排出原単位(アンモニア)
排出原単位(触媒)
排出原単位(建設補修)
排出原単位(機械修理)
0.690
0.008
0.502
0.980
1.248
4.985
3.236
1.893
排出係数
(g-kWh)
(円/kWh)
(円/kWh)
(円/kWh)
(t-CO2/t)
(t-CO2/100万円)
(t-CO2/100万円)
(t-CO2/100万円)
206.76 (Kg-CO2/Gcal)
CO2排出量
4.51 (Kg-CO2/t)
CO2排出量
CO2排出量
380.35 (Kg-CO2/t)
147.12 (Kg-CO2/t)
1,951 (t-CO2/年)
0.39 (g-CO2/KWh)
CO2排出量
2.31 (Kg-CO2/t)
92,079 (t-CO2/年)
18.31 (g-CO2/KWh)
CO2排出量
109.00 (Kg-CO2/t)
43,083 (t-CO2/年)
8.57 (g-CO2/KWh)
メタン排出係数
321,306 (t-CO2/年)
124,282 (t-CO2/年)
63.88 (g-CO2/KWh)
24.71 (g-CO2/KWh)
2,886,606 (t-CO2/年)
- 96 -
0.051 (t-CO2/t)
Ⅲ.研究開発成果について
(3)
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
適地へのパイロット事業提案の検討
<沖縄地域の小型分散型電源システム設計と総合評価>
・ 比較的小型の数万 kWのガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)を中心としたシス
テム設計を、沖縄県本島・離島を対象として行った。深層水の2次利用としては施設
冷房、海水淡水化、水産養殖、農業利用、製品生産、観光利用などを想定し、地域活
性化につながる地域開発コンセプトとして提案した。(図 2.4-13,14)
・ 深層水の冷却水としての利用により発電効率が1%向上することを前提として発電原
価を検討した結果、火力発電所の設備利用率が 75%の場合、1 万kW 級火力発電所の設
備利用率が 75%の場合、取水量 1.5 万 m 3 /日の深層水取水施設を 16 億円以下で建設で
きれば、現在の表層水を利用した場合の発電原価と同等の経済性があることを確認し
た。
吸気冷却
10.5
GT+ST コンバインド発電
10MW
∼
3,700 m3/日
淡水製造 3,000m3/日
(1 万人分)
深層水
淡水化
施設
∼
復水器
7,500m3/日
21℃
15,000 m3/日
18,700m3/日
13.5
℃
11,200m3/日
11,300m3/日
10.5℃
7,300m3/日
18℃
受水槽
地域冷房
1,000 m3/日
産業利用
1,000 m3/日
観光利用
1,000 m3/日
ホテル群の冷房
ボトルドウォーター
製塩
特産品生産
食品加工
タラソテラピー
排水
1,000m3/日
排水
1,000m3/日
発電所、淡水化
施設の冷房
取水量 30,000m3/日
取水深度 600m
取水温度 10.0℃
深層水取水口
図 2.4-13
4,500m3/日
深海ミュージィアム
18∼22℃
水産養殖利
用
20,500 m3/日
クルマエビ
ヒラメ
サケ
アワビ など
農業利用
1,000 m3/日
ホウレンソウ
イチゴ
花卉 など
排水 20,500m3/日
蓄養、海面養殖など
1万 kW 級GTCC発電システムを中核とする深層水多目的利用システム
- 97 -
2次利用施設
ガスタービン 排ガスボイラ 蒸気タービン
7,000kW
3,000kW
排水
Ⅲ.研究開発成果について
図 2.4-14
2.研究開発項目毎の成果
2.4 立地条件別最適システム設計・評価研究
小型分散型電源を中核とする深層水多目的利用システムの概念図
- 98 -
Ⅲ
別表
別表)
○ 特許リスト・文献リスト
別表1.特許(9件)
No
出願番号
出願日
出願人
出願に係る特許等の表題
(特願)
1
2003-395583
H15.11.26 三 井 金 属 エ ン ジ ニ ア リ ン 流体輸送用ポリエチレン管の継手構造
グ株式会社
2
2003-397748
及び水中敷設方法
H15.11.27 三 井 金 属 エ ン ジ ニ ア リ ン 大口径厚肉ポリエチレン管の製造方法
グ株式会社
3
2003-397744
H15.11.27 三 井 金 属 エ ン ジ ニ ア リ ン 金属線巻き樹脂複合管の製造方法
グ株式会社
4
2004-018597
H16.1.27 高知工科大学
シャーベット状の氷の貯蔵庫
5
2004-126451
H16.4.22 株式会社東洋製作所
海洋深層水による空調装置
6
2004-126452
H16.4.22 株式会社東洋製作所
海洋深層水による空調装置
7
2004-184784
H16.6.23 株式会社前川製作所
海水シャーベット氷の製氷システム
8
2004-214231
H16.07.28 古河電気工業株式会社
プラスチック管の接続部
9
2004-360985
H16.09.頃 新日本製鐵株式会社
濃縮海洋深層水の製造方法
- 99 -
Ⅲ
別表
○
文献リスト
査読付き 14 件の他に、論文(査読付き、その他)及び口頭発表で 72 件を通じて成
果の公表に努めた。(別表 2-1 から 3、平成 16 年 9 月 1 日集計分)
学会、社会からの反響は、現況では海洋深層水の健康利用の高まりがあり、ニーズ
に関する関心が高い。今まで、資源利用、健康飲料といった観点での取り扱いが多か
ったが、省エネという観点での利用に注目が集まってきた。
その一環として、本事業を取り扱った記事の一部を別表2−5に示した。
別表 2.公開資料一覧
1.論文(査読付き)
15件
2.口頭発表
72件
3.その他(著書、雑誌、報告書、新聞など)
別表 2-1 論文(査読付き)
No.
発表者所属
15 件
氏名
発表題目
長谷部 雅伸
Asia and Pacific Coasts 2003.
Proce.2th Inter. Confer.
APAC121.
(社)日本海洋開発産業協会
源波 修一郎
(社)日本冷凍空調学会 「冷凍」 「食品の安全を守る冷却・保管・検査等の現場における諸設備」
2003 Vol.78No.911 42-45
―海洋深層水の取水施設―
2
香川大学農学部・㈱関西総合環境セ 一見和彦 池田知司ほか
3 ンター・北大
株式会社前川製作所
5
発表先
清水建設(株) 技術研究所
1
4
17件
Journal of Harmful Algae
備考
MIXING PROCESSES OF DEEP-SEA WATER DISCHARGED INTO
STEADY TIDAL CURRENT AND THEIR SEASONAL VARIATION
Growth characteristics of noxious flagellates and diatoms in deep
seawater
投稿中
エネルギー資源学会(2004.1)
海洋深層水利用高効率シャーベット海水氷製造システムの開発
第20回エネルギーシステム経
済・環境コンファレンス講演論文
集509 512
清水建設(株)技術研究所・(株)大内 長谷部雅伸・森野 仁夫・大 土木学会 海岸工学委員会 海 大規模深層水利用システムにおける複合的利用形態とその成立性
海洋コンサルタント
山 巧・大内 一之
岸工学論文集第51巻(受理)
について
町田明登・安留 哲
投稿中
6
(株)関西総合環境センター・鹿島建 岸 靖之・林 正敏・池田知 土木学会 海岸工学委員会 海 海洋深層水の放流に伴う沿岸環境特性の検討
設(株)・(財)電力中央研究所・ (独)産 司・田中昌宏・角湯正剛・原 岸工学論文集第51巻
業技術総合研究所・東海大学海洋学 田 晃・田中博通・高橋正征
部・高知大学大学院
受理
7
鹿島建設(株)・(株)関西総合環境セ 田中昌宏・岸 靖之・池田知 土木学会 海岸工学委員会 海 海洋深層水の発電所冷却水利用後の沿岸放流拡散特性に関する
ンター・東京久栄 ㈱・芙蓉海洋㈱ 司・高月邦夫・乾 悦郎
岸工学論文集第51巻
検討
8
(財)電力中央研究所 我孫子研究 角湯正剛ほか
所
Pacon International(2002),547556
㈱関西総合環境センター・大阪府大・ 林正敏・池田知司・大塚耕 Pacon International(2002),536司・高橋正征
546.
Assessment of environmental effect and fertilization of sea area
used deep seawater
清水建設(株)・東京久栄・㈱関西総 長谷部 雅伸・大山巧・平山 土木学会 海岸工学論文集
彰彦・高月邦夫・池田知司 (2002)Vol.49,971-975
沿岸海域環境の季節変動に伴う深層水放流時の拡散形態の変化
関西総合環境センター・大阪府立大 池田知司・林 正敏・大塚 耕 Journal of Offshore and Polar
司
Engineers(2002)2002-MK61.6pp.
Assessment of Environmental Effect and Fertilization at Deep
Seawater Discharged Area
(株)東京久栄・㈱関西総合環境セン 高月邦夫・池田知司・平山 土木学会 海岸工学論文集
彰彦ほか
(2001)第48巻1346-1350
海洋深層水の適正放水方式の検討
9 東大
10 合環境センター
11 学(株)
受理
A PARAMETRIC STUDY ON POWER PLANT PERFORMANCE
USING DEEP-SEA WATER FOR STEAM CONDENSATION
12 ター,清水建設㈱
高知県海洋深層水研究所・高知県工 隅田隆・浜田和秀・川北浩 深層海水と健康研究会誌 vol.2 FN膜及びED処置による海洋深層水のミネラル調整技術
久・岡崎由佳・関田寿一
13 業技術センター
14
(株)東京久栄
15 (株)関西総合環境センター
高月邦夫
林正敏・池田知司ほか
海洋深層水研究 Vol.3,No.1:31- 深層水の新しい放水方式の検討
40
日本プランクトン学会誌
- 100 -
深層水の放流による植物プランクトン群集の応答
投稿中
Ⅲ
別表
別表 2-2
成果の公表(その他の論文及び口頭発表)
72 件
( 注 : H14,15 の 一 部 を 掲 載 )
公開の形態
口頭発表
年度
H16
所属
新日鐵㈱
発表者
木村春男
口頭発表
H15
香川大学農学部
一見和彦 池田知司
学会、会議名
富山県深層水協議会「深層水フォーラムinとや
ま」
日本海洋学会
口頭発表
H15
香川大学農学部
一見和彦 他3名
九州大学応用力学研究所
口頭発表
H15
口頭発表
H15
高知県海洋深層水研究所・高知県工業技術セン 浜田和秀・川北浩久・隅田隆、行弘恵、岡崎由佳、 深層海水と健康研究会
ター
関田寿一
㈱関西総合環境センター 池田知司
JOIA成果発表会
口頭発表
H15
口頭発表
H15
口頭発表
H15
口頭発表
H15
口頭発表
H15
口頭発表
H15
口頭発表
H15
口頭発表
H15
口頭発表
古河電気工業(株)・JOIA ・高知県・若狭湾エネル
ギー研究センター ・(株)東芝・JFEチュービック
(株)
(株)関西総合環境センター ・経済産業省・東京大
学
(株)東洋製作所 籠浦徹・井上哲夫・源波修一郎 ・萩田淑彦・重田 第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
達雄・若松光夫・辻正幸
池田 知司 ・林 正敏・後藤浩一・原田晃・高橋 正 第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
征
太田隆・渡部信一郎・一岡順
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
H15
新日本製鐵株式会社・富山県・(社)日本海洋開発 高橋 直哉・木村春男・吉田行範・坂口実・源波修
産業協会
一郎
鹿島建設(株)・(財)電力中央研究所・(社)日本海 沖原幸政・角湯正剛・源波修一郎
洋開発産業協会
(株)日本エコエネルギー研究所・住友重機械工業 青木俊征・加戸正治
(株)
清水建設(株)・(財)電力中央研究所・川崎重工業 森野仁夫・角湯正剛・大戸寛
(株)
高知県工業技術センター・高知県海洋深層水研究 刈谷学・本川高男・野村明・川北浩久・田村光政
所
高知県水産試験場
児玉修
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
口頭発表
H15
高知県海洋深層水研究所
荻田淑彦・川北浩久・田島健司・平岡雅規
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
口頭発表
H15
高知県海洋深層水研究所
阿部祐子・荻田淑彦・森山貴光・内村真之
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
口頭発表
H15
㈱前川製作所
町田明登・安留哲
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
口頭発表
H15
大阪府立大学・高知県海洋深層水研究所
大塚耕司・高倉このみ・森山貴光・阿部祐子
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
口頭発表
H15
高知県水産試験場
児玉修
(財)漁港漁村建設技術研究所
口頭発表
H15
(社)日本海洋開発産業協会 源波修一郎
深層水情報交換会 Navi-10
口頭発表
H14
香川大学・㈱関西総合環境センター
一見和彦(NEDOフェロー)・池田知司ほか
九州大学応用力学研究所
口頭発表
H14
新日本製鐵株式会社
木村 春男
化学工学会関西支部
口頭発表
H14
(社)日本海洋開発産業協会
源波修一郎
海洋深層水利用研究会
口頭発表
H14
(株)東洋製作所
太田 隆
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
高知工科大学
横川 明
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
(株)前川製作所
中山 芳憲
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
口頭発表
H14
籠浦徹・石井健一・源波修一郎 ・田島健司・小泉 第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
眞範・伊藤新
浜田和秀・川北浩久・隅田隆・行弘恵・関田寿一 第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
刈谷学・本川高男・田村光政・川北浩久
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
古河電気工業(株)・JOIA ・高知県・若狭湾エネル
ギー研究センター ・(株)東芝
高知県海洋深層水研究所・高知県工業技術セン
ター
高知県海洋深層水研究所・高知県工業技術セン
ター
㈱関西総合環境センター・瀬戸内海区水研・東大
林正敏・池田知司・井関和夫・高橋正征
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
高知大学
松岡孝尚、石川勝美、北野雅治、福元康文
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
高知大学
松岡孝尚、石川勝美、北野雅治、福元康文
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
高知大学
松岡孝尚、石川勝美、北野雅治、福元康文
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
高知大学
松岡孝尚、石川勝美、北野雅治、福元康文
第6回海洋深層水利用研究 久米島大会
口頭発表
H14
新日本製鐵株式会社
木村 春男
Pacon International(2002),
口頭発表
H14
(社)日本海洋開発産業協会、
内村真之 (NEDOフェロー)
JOIA・高知県事業成果報告会
口頭発表
H14
高知県工業技術センター
田村光政
JOIA・高知県事業成果報告会
- 101 -
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
第7回海洋深層水利用研究会 焼津大会
Navi-8講演会
Ⅲ
別表
別表 2-3 著作、雑誌等での公開
種類
年度
所属
著者・執筆者
媒体
雑誌
H16
(財)電力中央研究所・新日本 角湯正剛・木村 春男・清水勝
製鐵(株)・清水建設㈱・(株) 公・池田知司・森野仁夫
関西総合環境センター
海洋深層水利用研究会ニュース(2004) エネルギー使用合理化海洋資源活用システム開発
第8巻、第1号7-12
著書
H16
(株)関西総合環境センター・
産総研
池田知司・原田晃
深層水のABC(印刷中)
深層水の汲み上げとCO2の挙動
著書
H16
(株)関西総合環境センター・
清水建設
池田知司・清水勝公
深層水のABC(印刷中)
取水に伴う諸問題
雑誌
H16
高知大学、清水建設(株)、
NEDO
高橋正征、清水勝公、川嶋淳史 フロント No.1907 2003年7月号
未知なる海洋深層水
雑誌
H16
高知県海洋深層水研究所・
JAMSTEC
阿部祐子・荻田淑彦・森山貴光・内 瀬戸内海区水産研究所
村真之
海洋深層水がカジメ(Ecklonia cava)の生長に与える影響
について
雑誌
H15
高知県工業技術センター 浜田和秀
海洋深層水利用研究会ニュース(2003) 高知県工業技術センターでの海洋深層水研究の取り組み
第7巻、第2号
雑誌
H15
高知大学農学部
松岡孝尚、北野雅治、石川勝美、
海洋深層水利用研究会ニュース(2003) 海洋深層水の農業への有効利用
第7巻、第1号
冷熱の水耕栽培への利用
報告書
H14
(株)関西総合環境センター
池田知司
水産工学関係試験研究推進会議
水産基盤部会報告書(2002)15-20
深層水の放流と環境への作用(漁場造成の可能性)
雑誌
H13
(株)関西総合環境センター
池田知司
海洋深層水利用研究会ニュース
(2001)5巻,2号,1-4.
深層水の放流
雑誌
H12
(財)電力中央研究所
角湯正剛
海洋深層水月刊海洋号外NO22,56- 火力・原子力発電所での海洋深層水の冷却水とし
61.
ての利用の可能性
雑誌
H12
海洋深層水月刊海洋号外NO22,160- 海洋深層水による沿岸海域の肥沃化
169.
雑誌
H11
高知県海洋深層水研究所・ 渡辺貢・谷口道子・池田知司・
(株)関西総合環境センター・ 小松雅之・高月邦夫・金巻精一
東京久栄 ㈱・芙蓉海洋開発
㈱
東京大学大学院総合文化研 高橋正征
究科
海洋開発ニュース Vol.27No.6 1999
年11月号
21世紀の基幹資源として期待される海洋深層水
新聞
H16
NEDO
川嶋淳史
化学工業日報
海洋深層水のエネルギー利用
H15
㈱前川製作所
町田明登
日刊工業新聞・日経産業新聞・冷凍 海洋深層水利用 高効率シャーベット海水氷製造シ
食品新聞・みなと山口合同新聞・月 ステム
刊フローズンワールド・日刊水産経済
新聞
H15
東洋製作所
太田隆
日経産業新聞・日本冷凍冷房新聞
海洋深層水を利用した空調システム実用化へ
H14
高知県
朝日新聞・高知新聞
海洋深層水共同研究センター完成
H14
富山県滑川市
北日本新聞
深層水取水施設を利用して各種データーを採取
- 102 -
タイトル
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
1.
成果の実用化、事業化可能性
1.1
資源・エネルギー利用の事業化可能性
深層水の低温安定性及び清浄性を火力発電所の発電効率改善に利用すること、あるいは
低温庫、空調、製氷の冷熱源に利用することは、エネルギー密度の低い特性を十分に活用
する対象として合理的である。この場合には大量取水がエネルギー利用、経済性確保の点
で重要である。火力発電所では設備規模が大きいだけに、発電効率が 1%変化するだけで、
料金の押し下げ効果は大きい。一方、後者の各種利用設備では、電力削減率が 50%を超え、
深層水利用効率も高く 2kWh/㌧程度と省エネルギーに適した利用形態を提案し早期事業化
が期待できることが示された。特に地域冷房は海岸近くに限定されるが著しく高い省エネ
効果から、早期大規模利用のメリットは大きい。
これらの効果は設備のランニングコストを削減するのに寄与し、設備を新設する場合に
は迷わずに、採用できる。
(1)
発電効率改善技術
火力発電所の復水器の冷却水として、表層海水に代えて低温な深層水を使用するこ
とによって、発電効率が向上する。この場合の投資対効果を考慮した経済性を中心に、
新設の場合と既設の施設の改良に適用する場合に分けて、深層水設備を設置する場合
の経済効果及び投資回収年数の算定を行い、実用化可能性を検討・評価した。
ア)
新設 発電所への適用
(経済効果)
新設の場合(沖縄、60 万 kW級)には、復水器や取水ポンプの小型化により、年間 4.21
億円のコストダウンが図れることがわかった。これは、表層水を用いる従来法の設計に対
して 30%の設備費用削減に相当する。(本文 41 頁参照)
また、発電効率に関しては、深層水利用による凝縮温度を低く設定することで、約 2.9%
発電効率を向上させることが可能であり、年間 15,360 万 kWh の電力増分が期待できる。
そこで、稼働率80%、電力単価10円/kWhと仮定して経済効果を算出すると 、
15,360万(kWh/年)×0.8(稼働率)×10(円/kWh)=12.29(億円/年)
そこで、経済効果は年間あたり、12.29+4.21=16.5(億円)と算出される。
- 103 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
(投資回収年数)
取水管の敷設や維持管理の費用を考慮した回収年数は以下のとおりとなる。
有効取水量:1,000,000t/日=3.65 億t/年
初期設備負担:100 億円
取水設備償却年数:30 年
維持費用:修繕費 1%、税 0.7%とすると、
年間維持費用:修繕費(1.0 億円/年)+税金(0.7 億円/年)=1.7 億円/年
経済効果 16.5 億円から維持費用 1.7 億円を差し引いた値を利益分として、投資額を利益分
で除した単純回収年数と、投資額を金利 2%、元利均等で返済する場合の複合回数年数は以
下のとおりとなり、短期間で、投資金額を回収できることから、経済的にメリットがあると
考える。
⇒単純回収年数: 6.8 年(=100 億円÷(16.5-1.7)億円/年)
⇒複合回収年数:7.4 年
イ) 既設発電所への適用
(経済効果)
既設の場合(新潟県、60 万 kW級)には、夏場ではピークで 3.5%程度の改善が見込め、
年平均では 1.4%程度の出力増が期待できることが示された。電力にして 7,320 万 kWh で
ある。(本文 40 頁参照)
そこで、取水管の敷設投資、また必要となる維持管理経費を以下の通り試算した。但し、
有効取水量、初期設備負担、設備償却年数は、ア)と同じ。
維持費用:償却費用も含め 30 年で返済、金利 2%(元利均等返済)、修繕費 1%、税 0.7%
とする。
年間維持費用:償却費用(4.47 億円/年)+年間維持費用(1.7 億円/年)=6.17 億円/年
一方、この場合の利益源は出力増である。稼働率のピークは 8 月を中心として 12 月、1
月は少ない。設備稼働率と出力増の関係から、夏場(8 月)を中心として運転したほうが
出力増分は大きい。例えば、設備稼働率を 80%とした場合、年平均で見ると出力増分は
58.56 万 kWh/年であるが、2 月から 11 月までの稼動とすれば(設備稼働率 83%)、出力増
分は 69.22 万 kWh/年となる。
出力増分 7,320 万 kWh、設備稼働率を 80%とした場合 、出力増分の経済効果は、発電
所内電力料金を 10 円/kWh とすれば、
増収額:69.22×10 円/kWh=6.92 億円/年
となる。この経済効果は直接的な効果となり、取水管敷設費用に当てられる。
(投資回収年数)
- 104 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
経済効果 6.92 億円から維持費用 1.7 億円を差し引いた値を利益分として、 投資額を
利益分で徐した単純回収年数と、投資額を金利 2%で元利均等で返済する場合の複合回数
年数は以下のとおりとなる。
単純回収年数:100 億円÷(6.92-1.7)億円/年=19.2 年
複合回収年数:24.4 年
複合回収年数が 25 年程度になるものの、発電所の寿命を考慮した場合、取水管償却後
は消費者に電力費減となって還元されるものと期待される。
以上をまとめると、下表のようになる。
表 1.1(a)
経済効果のまとめ(稼働率 80%の場合)
項目
新規設置(沖縄)
既設更新(新潟)
設備費(億円)
100
100
メンテナンス費(億円/年)
1.00
1.00
税(億円/年)
0.70
0.70
設備低減費(億円/年)
4.21
‐
発電効率改善(億円/年)
‐
6.92
単純回収年数(年)
6.8
19.2
複合回収年数(年)
7.4
24.4
新設の場合、単純回収年数は 6.8 年である。設備償却後は消費者に電力費減となって還
元されるものと期待される。
既設設備を深層水冷却に更新する場合には、単純回収年数でみて 19.2 年である。減価
償却費等を勘案した複合回収年数では約 25 年となり、経済性だけから見ると更新のメリッ
トは少ないと見られる。ただし、運転期間における燃料消費の低減による発生炭酸ガスに
よる環境負荷の低減や周辺利用施設での省エネ技術導入による波及効果などの副次的な効
用は考慮すべきである。
(2)
冷熱利用技術
温暖なわが国における冷房、低温に関する需要は大きい。特に冷房にかかる電力の消費
は増大する一方である中で、1℃から 10℃という深層水の冷熱を利用することは利用効率
も高く、従来型の冷凍システムや空気冷却システムに比べて消費電気量を大幅に削減でき
る用途であることが本研究で実証された。また、一部耐食性のある材料を使用するだけで
大きな設計変更もなく実用化が可能であることも示したとおりである。
このように冷蔵、冷凍機の冷熱源として深層水の冷熱を使用する場合、電力使用量を大
場に削減できる用途である。すなわち、温度域にもよるが、冷房のように 15℃程度を保持
するのであれば、深層水を通水するポンプのみの動力で足りる。従来のチラ−を利用した
- 105 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
設備に比べ電力削減率は 70%を超える。製氷設備のように深層水温度以下に冷却するよう
な場合であっても、従来のチラ−を利用した設備に比べ電力削減率は 50%を超えることも
ある。
これらの設備は、一基当りでみた場合、発電所の冷却水のように大量の深層水を必要と
するわけではないが、基数増あるいは組み合わせを増やすことによって効果をあげること
ができる。ビル内の冷房あるいは水産市場の冷房、製氷と組み合せ取水量が確保できる場
合、実現可能であると考えられる。
ア)低温庫
低温に保存することは産業的に広い範囲に適用されるので、波及効果の大きい利用形態
である。この場合も、発電冷却向けに大量取水した深層水の利用として効果的な分野であ
る。本研究では、長期間使用した場合についての省ネ効果から費用対効果を調べた。建物
自体は同じものを使う事として,冷房機器の耐用年数期間中に必要となる費用について試
算した。
従来設備は数量、品質ともに完成されたものであるだけに、低価格である。一方、深層
水利用設備数量は限定的である。素材は高価である。システムの簡素化に伴う部品点数の
少なさを加味し、将来、深層水熱交換器が普及すると冷凍機冷却と同価格になると予想さ
れることから、設備費は従来の冷凍機冷却設備と同じ 26 万円とした。検討結果を下表に示
す。
またメンテナンス費用として冷凍設備では機器設備費の 1.5%、深層水冷却では、構造
が簡単な事、チタン製である事から 1%と仮定した。耐用年数は両者共に 15 年として必要
な費用を試算した。
表 1.1(b)
項目
経済効果のまとめ
深層水冷却
従来冷凍機冷却
260,000
260,000
メンテナンス費(円/年)
2,600
3,900
電気料金(円/年)
15,480
43,860
15
15
深層水費用(円/t)
1.69
-
深層水費用(円/年)
2,043
‐
ランニングコスト計(円/年)
20,123
47,760
ランニングコスト差(円/年)
27,637
‐
9.4
‐
設備費(円)
償却年数(年)
単純回収年数(年)
但し、算定の条件は以下のとおりである。
保冷面積:4.95m 2
保冷温度:14℃
冷却能力:913kcal/h
- 106 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
電気料金:20 円/kWh
表より、新設の場合、ランニングコスト差がそのままメリットとして享受できる。
既設設備から深層水冷却設備に更新するには、既存設備更新時期に併せて導入すべきであ
る。ちなみに、投資費用で見ると単純回収年数は 9.4 年である。
イ)空調(冷房)システムを含む多目的・多段階利用
空調すなわち冷房は大規模取水で得られる深層水の利用効率の大きい用途の一つとし
て重要である。
深層水冷熱利用空調システムの実用化では、空調システム後の深層水をさらに多段階利
用して冷蔵倉庫用冷凍機の冷却に用いて凝縮温度を低くすることで、より有効に低温性を
利用できるシステムが構築できると考えられる。ここでは、その空調利用だけでなく、さ
らに冷凍の冷却に他段階利用した事例をもとに経済性を試算・評価した。
深層水の取り出し口は直近(50m)とし、その導水管工事(@50 千円/m、2,500 千円)
を見込む。空調システムの規模は 400m 2 のオフィス、冷蔵倉庫群利用(1 万㌧冷蔵規模、842kW
相当)で、供給深層水温度を 10℃と想定、空調設備で熱交換した後は、冷蔵利用として、
庫内温度-25℃冷蔵倉庫 2 棟で冷却水と熱交換した後、魚市場あるいは養殖等に利用する。
深層水量は 400m 3 /日とする。比較対照設備は空冷チラー方式空調設備、冷却塔使用水冷式
冷凍設備とする。電気料金は 20 円/kWh として算出した。
表 1.1(c)
経済効果のまとめ
項目
深層水冷却
従来冷凍機冷
却
119,774
150,784
‐
‐
49,521
74,044
15
15
深層水費用(円/t)
1.69
‐
深層水費用(千円/年)
222
‐
ランニングコスト計(千円/年)
49,743
74,044
ランニングコスト差(千円/年)
24,301
‐
4..9
‐
設備費(千円)
メンテナンス費(円/年)
電気料金(千円/年)
償却年数(年)
単純回収年数(年)
新設の場合、設備費低減分およびランニングコスト差がそのままメリットとして享受で
きる。また、既設設備を深層水冷却設備に更新する場合には、単純回収年数でみて5年前
後である。深層水料金の影響をそれほど受けない。新設、更新のいずれでもメリットは大
きい。
ウ)シャーベット状海水氷製造
- 107 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
シャーベット氷は深層水の低温性よりも清浄性、すなわち資源としての利用に着目した
用途として用いるものである。本研究開発プロセスにより、塩水の濃度を種々調整し、お
よそ 0.3mm 以下の微細な氷片としたシャーベット氷を冷凍利用する場合の経済性を検討し
た。この場合も大量取水による低い深層水単価が経済性、実用化普及の大きく寄与するこ
とは間違いがないが、あわせて用いる対象とする商品にいかに付加価値をあげるかという
商品企画も重要である。
冷凍能力 1000kW 規模の製氷設備で従来方式(空気熱交換器)と深層水利用方式(深層
水熱交換器)を比較した。深層水温度は、高知県での取水を想定した 10℃とする。イニシ
ャルコストは従来方式に対して COP 向上等により製氷設備容量が低減できるために安くな
る。凝縮器が海水仕様となるために空冷仕様の 1.5 倍程度となるが、その他の設備は同等
の費用となるため設備容量低減分だけ安くなり、イニシャルコストとしては従来方式に対
して 17%減となる。ランニングコストに関しては製氷システムの電力削減分が減ることと
なるが、補機動力は同等に必要となるため 40%削減となった。
深層水の取り出し口は直近にあるものとするも、50m の導水管工事(@50 千円/m、2,500
千円)を見込む。深層水量は 5,600m 3 /日とする。電気料金は 20 円/kWh とする。
検討結果を下表に示す。
表 1.1(d)
経済効果のまとめ
項目
深層水冷却
従来冷凍機冷却
設備費(千円)
167,500
200,000
メンテナンス費(円/年)
‐
‐
電気料金(千円/年)
21,600
36,000
償却年数(年)
15
15
深層水費用(円/t)
1.69
‐
深層水費用(千円/年)
3,060
‐
ランニングコスト計(千円/年)
24,660
36,000
ランニングコスト差(千円/年)
11,340
‐
単純回収年数(年)
14..8
‐
新設の場合、設備費低減分およびランニングコスト差がそのままメリットとして享受
できる。
既設設備を深層水冷却設備に更新する場合には、単純回収年数でみて 11.6 年以上で
ある。深層水料金を負担すれば、約 15 年になる。しかし、この場合には、魚類の鮮度
保持等の品質保持による商品価格の向上など得られる副次効果による経済効果が期待
される。
1.2
深層水取水技術開発研究の実用化可能性
- 108 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
現 存 す る 最 大 級 の 深 層 水 取 水 施 設 と し て は ハ ワ イ 州 に あ る N E L H の 取 水 管 路 φ 1.4m
であり、その取水量は日量 10 数万t級(管内通水速度 V≒1m/sec)である。
これに対して本研究開発の取水管路は口径 2m で、取水量が日量 100 万 t(管内通水速度
V≒3.6m/sec)と、口径及び取水性能の両面から見て、世界的に最も大口径にある取水管路
構造であり、取水システムと言える。このように深層水を大容量に陸上まで供給できる取
水施設の実用化は、発電所の冷却水利用以外に、海洋温度差発電の分野において実現化の
障害となってきた恒久構造物としての取水施設を可能とし、自然エネルギー回収技術を実
用化するもので、地域冷暖房分野への活用も期待される他、近年、沿岸域の水質悪化に伴
う陸上養殖への転換に伴う大量給水や海域浄化、海域の磯焼け対策としての活用も期待さ
れる。
そこで、大深度・大量取水管路技術の実用化可能性について、実用化に関して経済性を
確保する技術的見通しを得ている。
・ 大深度・大量取水管路の実用化における最大の課題であった「管路の設置形式、管材料、
敷設方法」の3大要素を具体化していることに加え、これまでに制度化されていなか
った取水管路の設計法を基準化・確立しており、汎用性の面からも優位性の高い見通し
がついた。
・ 本取水管路の実用化は数万tから数十万t級の取水管路施設へも活用可能なものであ
り、多方面の産業展開が期待される。
・ 鉄線巻きアラミド繊維補強硬質ポリエチレン管の使用については、既に現在計画中の
深層水少量取水施設への使用引き合いが出ている。
・ これまでの管内流速 1m/sec に対して、管内流速 2∼3m/sec 程度の高速通水管路の設計
法を確立し、実用化可能性を実証しており、既存関連施設への展開が期待できる。
・ 取水施設費の縮減化は事業成立性において不可欠であり、事業性を踏まえた「施設費
100 億円以下の条件を満たすことが出来た。更に、取水管路長L≦3000m では 70 億円
の設計が可能となり、更に経済性の高い展開が期待できる。
・ 深層水取水施設に対してメンテナンスフリーな施設運用について具体化、実用性の実
証をした。
・ 実用化に向けて、施設の建設から運用を通して、その環境影響や漁業活動への影響を
確認、評価しており、実用化の見通しをつけた。
- 109 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
1.3
環境影響評価技術等研究の展開と普及の可能性
本研究開発成果の適用により、深層水の取放水に係わる環境影響評価に関する基準の明
確化、評価マニュアル書の標準化作業を通して、発電所等による大量取放水事業への展開
に際しての以下のとおり、公共的知見として成果の普及と実現が期待できる。
・ 深層水利用型発電所において検討すべき環境影響検討項目として挙げた 13 項目からな
る予測評価技術とモニタリング項目を提案した。また CO 2 収支計算法と藻場生態系モデ
ルについてはマニュアル案を作成した。深層水を利用した発電所建設前後において、
この技術をベースに地域特性等を考慮した環境影響に関する事前評価と事後モニタリ
ング調査が可能となる。さらには、これを土台として、事前・事後調査において実証・
修正を行い、マニュアル化を図ることにつなげられる。
・ 深層水を放流することによって海藻類の成長が促進できることを実証し、また本研究
で開発した藻場生態系モデルを用いて藻場育成への有効性を予測した。また潜堤の築
造,らせん状放水ノズルによる効率的藻場育成利用法を提案した。これにより深層水
利用発電所立地にあたっての具体的海域肥沃化手法の提案が可能となった。地域的特
性を考慮し,実機レベルでの実証を加味して汎用性を高めることができる。
・ 深層水を火力発電所冷却水として利用した場合の CO 2 収支と排出 CO 2 削減効果(マニュ
アル案を作成)を推定した。この成果を、深層水利用発電所立地にあたっての利便性
として、評価項目の1つとして加えることが可能となった。更に継続的に知見を反映
して汎用性を高める。
以上の実現を通して海洋開発事業における環境影響の評価に関して、精度を向上し、標
準化に寄与するものと考える。
1.4
立地条件別最適システム設計・評価研究の展開と普及の可能性
本研究開発成果を適用した立地地点における産業育成が期待できる。
新規発電所建設計画がない今、本プロジェクトでは実用化シナリオとして、まず、省エ
ネ型の発電ニーズがあり、深層水型の発電立地に適した南方での小規模パイロットでの実
用化を行い、資源利用としての地域での新規産業事例を重ねるとともに、大型設備への実
用化知見を収集し、日本各地域での産業や風土の特長に応じた形での普及促進につなげる
ことが期待される。
- 110 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
2.
波及効果
大量の深層水取水技術開発の結果、利用可能となった深層水を発電所冷却水として利用
したあとの昇温された排水は、多様な淡水供給、環境影響の低減と沿岸域の肥沃化、大量
な深層水と多様な温度帯を有する清浄な深層水の供給による、発電所を中核とした産業形
成などの効用が実現できると言う波及効果が期待される。また、環境影響の評価技術の応
用、立地条件に適した産業形態の提案を通じた社会基盤の醸成が、波及効果として期待さ
れる。
2.1
モデル実証研究(「深層水取水技術開発研究」、及び「資源・エネルギー利
用技術研究」)の波及効果
①発電効率改善技術
・ エネルギーを中心とした産業立地は取水設備費を回収できる数少ない産業と考えられ
る。下工程に食品、漁業、水質浄化等に多段利用できれば、波及効果ははかり知れな
い。新規産業の創出、地域活性化は利用者がどのようなグランドデザインを策定する
か、新規事業を起こすことができる。
②冷熱利用技術
・ エネルギーの安定供給から省エネルギー、エネルギー源の分散化が求められている。
深層水の冷熱はクリーンな自然エネルギーであり、新たなエネルギー源となり得る。
資源小国日本は回りを深層水で囲まれており、その恩恵を利用する義務がある。深層
水利用をシステム化できれば、新しい再生循環型産業システムが構築でき、地域の発
展に貢献できる。
③ 資源有効利用技術
・ 水産、環境分野はもちろんであるが、製造業関連に限っても、波及効果は大きい。深
層水をエネルギー源ととらえる他に、資源ととらえる。つまり、深層水は清浄な工業
原料海水である。製塩を例に上げるまでもなく、海水を原料とする産業は多い。濃縮、
脱塩、ミネラル(にがり)調整品を低コストで製造できれば、新たな産業を創生でき
る。最近の健康食品ブームに乗ってミネラル水の爆発的な販売あるいは苦汁ブームの
到来により数百億円産業となったことが良い例である。
2.2
基盤技術研究(「環境影響評価技術等研究」、及び「立地条件別最適システ
ム設計・評価研究」)の波及効果
「環境影響評価技術等研究」
本研究成果は、評価技術標準化され、下記の波及効果が期待される。
・ 高い珪酸濃度の深層水放流による赤潮藻組成に関する実証データを得た。この知見は
赤潮防除対策のための基礎的知見として一般的に活用される。
- 111 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
・ 本研究で得られた藻場育成効果の実証結果や、評価するために温度変化と栄養塩濃度
変化を考慮した評価手法(室内実験法、藻場生態系モデル)は,既存の小規模深層水取
水における放流水の有効利用に適用可能となる。
・ 富栄養な深層水の昇温放水による海洋生物の増殖が期待でき、また多様な温度域を作
ることにより有用海生生物の生産量の増大など漁業や、増養殖事業への波及効果が期
待できる。
「立地条件別最適システム設計・評価研究」
新規立地地点における産業化の基礎知見を得ることが期待でき、新規な立地地点での事
業提案につなげるという波及効果が期待される。
- 112 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
3.
実用化・事業化のシナリオ
3.1
資源・エネルギー利用技術研究の実用化・事業化シナリオ
九州や沖縄のような南方地方に、水深 300m程度から日量 100 万トンの深層水を取水する
設備を設置し、60 万 kW 級の火力発電所復水器冷却水に利用するとともに発電所ビル内を
含めた近隣地域の室内空調や低温倉庫、シャーベット氷製造のためにも利用する。使用し
た後の深層水は、温度特性に応じて、冷温のものは藻場の造成等に利用、水温の上昇したも
のは、沖合の水中放水口から放水し、植物プランクトンを増殖させ、CO 2 の固定を図る。また、
地元の企業からの要請があれば、発電所で冷熱エネルギーとして使用した後、深層水を有償
で販売し、地元の産業振興に役立てる。
深層水による産業規模は一時のブームの沈静化にも拘わらず、高知県の例では、平成 8
年からの深層水関連売上高が伸び続け、平成 15 年度には深層水を用いた商品の売上高が
135 億円を超えたといわれている。
発電所で利用し大量取・放水される深層水はコストも安いことから、濃縮或いは脱塩水
として関連産業などに利用しやすく、地域の産業活性化により一層寄与することが期待さ
れている。
そこで、現状の 100 万㌧/日の 10 分の一程度のスケールである日量 10 万㌧/日程度で低
温エネルギーが一年を通して比較的長時間利用できる沖縄など南方の地域にまず実用設備
を設置することが有望と考える。
それぞれの技術毎に実用化シナリオを描くと以下の通りである。
①発電効率改善技術
本州には現在のところ新規発電所建設計画はないが、南方地域でパイロット事業化を進
め、深層水取水適地での新規立地及び更新における適用を促進する。また、既設の発電所
においてパイロット事業の開始を促進すべく情報宣伝を行い、実現に向けた取り組みを進
める。
②低温庫
各地の既設の深層水取水設備を利用した立地での適用にむけた情報提供を進めた結果
をもとに、今後は新規計画で当初から効果が出る適用事例の採用が進むものと考えられる。
③空調(冷房)システム
技術的には特に課題はない。富山県水産試験場や高知県室戸アクアファームに小規模な
設備が既に稼動している。また、高知県深層水研究所でも新たに稼動した。今後、使用方
法や運用方法別のシステムを構築していく必要がある。そのためにも、実際に使用しても
らうことが必要である。そこで、現在、深層水取水設備を建設済、建設中、計画中の個所
に本システムを採用されるように情報宣伝活動する。特に、冷蔵、冷凍設備の必要な漁業
関連者への営業に展開を図るために、具体的には、静岡県のタラソピア施設構想への提案
など具体化に向けた活動を行った。
- 113 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
④シャーベット製氷設備
本製氷システムの製氷方式である過冷却製氷方式は、真水を用いた蓄熱式空調システム
や食品・飲料工場等のチルド水(1℃以下)による冷却で多数の実績を持つ。このシステム
において真水の変わりに海水(深層水)を用いたのが本製氷システムであり、現在、深層
水取水設備を建設済、建設中、計画中の個所に本システムの採用のシナリオを考え、働き
かけと提案を行っている。
なお、深層水シャーベット氷を用いた魚介類の鮮度保持効果は、効果があることは分か
っているが、定量的な評価が出来ていないのが現状である。また、鮮度保持効果があった
としても、それが漁価に影響するところまでは来ていないようである。本製氷システムに
関心を持たれているのは、マグロ、ブリなどの高級魚や関アジ、関サバなどのブランド魚
など比較的漁価の高い魚の関連団体からである。この市場の場合、数箇所で納入され鮮度
保持効果が市場で評価されれば、一気にスタンダードになる可能性が大きい。特に深層水
を取水している地域においては、適用される可能性が高い。
⑤濃縮・脱塩設備
海水を濃縮・脱塩する技術は海水淡水化技術として広く知られているものの、逆浸透膜
を用いて15%程度まで濃縮する技術は世界的にも例がない。海水の成分比率を損なわずに、
濃縮することがポイントである。製塩、苦汁の製造に用いる原料(かん水)として注目さ
れている。深層水に限定されることなく一般の海水でも使える技術である。折からの、自
然塩、天然苦汁ブームから引き合いも多く、これまで、富山県入善での製塩、高知県室戸
の製塩および浮遊浴(アミューズメント)、富山県滑川の製塩、七尾での製塩、ミネラル
ウオーター、浮遊浴(宿泊施設)の検討を行った。平成16年度に滑川市から濃縮水、脱塩
水の分水(一般販売)を目的とした「濃縮・脱塩設備」の受注を得た。これをきっかけに
市場展開を図って行く。
表には、参考のために、上記項目の実用化に向けた取り組みの現状を整理した。
①発電効率改善技術
沖縄地域に小規模発電所の導入の働きかけ。
②低温庫貯蔵技術
高知県深層水研究センター内に常設。
③空調(冷房)システム
高知県深層水研究センター内に常設。静岡県に具体的な提案を実
施した
④シャーベット氷製造及び利
実証設備をデモ機として利用する。16年度に佐渡市に深層水氷
用技術
システムを納入した。
⑤濃縮・脱塩設備
16年度に滑川市から「濃縮・脱塩設備」の受注を得た。17年に
運転予定。
- 114 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
3.2
深層水取水技術開発研究の実用化・事業化シナリオ
発電所の取水施設としての利用を踏まえた場合、その要求品質として、一般施設に比べ
高い構造耐力と実績に裏付けられた信頼性が求められる。したがって、先ず、数万㌧級で
実証し、次に数十万㌧級へ、最終的に 100 万㌧級と段階的に取水規模をアップし実績を積
んでゆくことが現実的であると考える。
3.3
環境影響評価技術等研究の実用化・事業化シナリオ
本研究の成果は、環境影響の評価という公益性、公共性に供する事業成果として、具現
化するシナリオとして、以下の道筋を想定している。
・ 本成果の特性である公益・公共性に資するため、情報の公開に努める。また本研究で
検討された 重要項目に ついては報 告書中にマ ニュアル案 を作成し報 告書中に収 録し
た。
・ 今後、実機スケールの取放水によって実証し,開発技術の適用性を明らかにすると共
に修正を図る。事業終了後、小モデル設備建設に合わせた試験を開始する。放流影響
については数年のスケールで実証する必要があるため,運転開始後のモニタリング調
査を継続した上で,最終的な技術評価と汎用性の検証を行い、大規模の取放水設備導
入における事前評価の精度を高め、一般化して利便性を高めてゆく。この成果を、全
体マニュアルに反映すると共に、重要な成果については学会等に発表し、各分野の専
門家の意見を踏まえた修正を加え精度を上げ、標準化につなげる。
3.4
立地条件別最適システム設計・評価研究の実用化・事業化シナリオ
深層水取水施設の建設コストや発電コスト、多目的利用システムの事業化に伴う経済効
果については試算を行い、スケール効果や採算性などの見通しを得ている。そこで、
・ 実施規模としては、大量取水技術開発の観点から直径 0.6m以上の取水管敷設を行い、
実用的発電設備の観点から 1 万kW 以上の発電設備による実証実験から開始するシナ
リオを想定する。
・ 本研究開発の成果を実用化して行くためには、地方自治体と共同した実施案の創り込
み、地方自治体の地域振興政策や、電力会社の電源立地計画などと連係した展開を図
る。
・ また、実証発電規模を数千kW とし、離島対策として実施することも考えられる。
・ 社会的には 電力需要の 伸びの停滞 から既存の 電力会社に よる発電立 地の計画が 延期
もしくは凍結されている現状から、分散型電源立地での適用を考えることが展開方法
として有力と考える。
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Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
発電立地型システムの実現に向けた今後の展開方法と対応の方策について下記の通り、
実現に向けた提案を行っている。
①行政関係:自治体の今後の地域振興策に本堤案が位置づけられるよう県、市へ提案し、
同意の形成を目指す。このためには、現在進められている町村合併に伴う地域振興策
として提案する。
②発電関係:電力会社の発電立地及び将来需要に対する方向性との整合性をとる。既存電
力会社によらない、小型分散電源立地についても適用を提案する。
③地域冷房関係:既存ホテル郡など熱需要のある地域において、設備転換の同時性が必要
となる。このためには、地域振興計画との整合性を取る。
④水需要:水資源の安定確保の手段としての海水淡水化施設の導入について上位計画との
整合性をとる。
④水産関係:既存の水産試験場、栽培漁業センターなどの建替え計画などの中で深層水活
用による水産振興策を位置づける。
⑤展開策:地域コンソーシアム等による推進組織の形成や企業、国や地方自治体の補助金
活用によるパイロット事業化。
⑥提案と事業化の動き:地方自治体と共同した実施案の創り込みを下記の通り推進してい
る。
実施規模としては、大量取水技術開発の観点から直径 0.6m以上の取水管敷設を行い、
実用的発電設備の観点から 1 万kW 以上の発電設備による実証実験を実施する計画を立案
した。
現在、新規に海洋深層水の取水を希望している自治体の水産試験場の移転計画を契機に、
本提案を示し、県や電力会社の協力を得て立地調査事業に着手し実現させるシナリオを考
え活動を進めている。
この小規模での実現をベースに大規模(60 万 kW 級)発電所への実現につなげるシナリ
オを考えている。
以上
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