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ヘッジファンドのデュー・デリジェンス

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ヘッジファンドのデュー・デリジェンス
1
ヘッジファンドのデュー・デリジェンス*
- ヘッジファンド・ポートフォリオ戦略
におけるアルファの源泉 -
Stephen Brown,
Thomas Fraser,
Bing Liang
[訳]ファンド戦略部
吉田 奈央
業務企画部
俊野 雅司
【要約】
◇ デュー・デリジェンスは、綿密に構築されたヘッジファンド・ポートフォリオ戦略に
おいて、重要なアルファの源泉である。
◇ ヘッジファンド投資によって期待される高いリターンの一部が、ファンド運営に関す
る透明性の欠如によってある程度相殺されてしまうと一般的に理解されている。
◇ 分散されたヘッジファンド・ポートフォリオのパフォーマンスは、オペレーショナル・
リスクによって運用成績に悪影響を与えることが懸念されるファンドを組入対象から除
外することによって向上させることができる。
◇ しかしながら、効果的なデュー・デリジェンスを実施するためには多大な費用が発生
する。言い換えれば、そのような不可欠の固定的コストを十分に吸収できる程運用資産
規模の大きいファンド・オブ・ファンズは、アルファの追求において大きな競争上の優
位性があるといえる。
◇ その結果、ファンド・オブ・ファンズにおける規模の経済性はきわめて大きく、デュ
ー・デリジェンスはヘッジファンド投資におけるアルファの源泉であるという本稿の主
張の正当性を裏づける根拠となるのである。
1.はじめに
ファンド・オブ・ヘッジファンズ(以下、ファンド・オブ・ファンズ)は、投資家がヘ
ッジファンド投資を行う際の人気のある手段である。ファンド・オブ・ファンズは投資ス
タイルの異なる複数のヘッジファンド・マネージャーに投資することによって、分散投資
効果を投資家へ提供する。また、ファンド・オブ・ファンズは資産配分、個別マネージャ
ーのデュー・デリジェンス、選定、モニタリングなどの機能も投資家へ提供する。このよ
うなサービスの対価として、ファンド・オブ・ファンズのマネージャーは投資家から追加
的な報酬を受け取っている。その結果、ファンド・オブ・ファンズのリターンは、一般的
本稿は、以下の英文ワーキング・ペーパーを執筆者の了解を得て、翻訳したものである。“Hedge Fund
Due Diligence: A Source of Alpha in a Hedge Fund Portfolio Strategy,” Stephen Brown, Thomas Fraser,
and Bing Liang, September 2007。Stephen Brown 氏 はニューヨーク大学スターン・ビジネス・スクー
ルのファイナンス論教授 (David S. Loeb Professor of Finance) 。Thomas Fraser 氏はニューヨーク市の
弁護士。Bing Liang 氏はマサチューセッツ大学アムハースト校の金融およびオペレーション・マネジメン
ト学部のファイナンス論准教授。
*
当レポートは、㈱大和ファンド・コンサルティングが情報提供を目的として作成したものであり、金融商品取引法上の書面または資料
ではなく、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでもありません。投資等の意思決定は、読者ご自身の判断と責任のもとでなされ
るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
2
に個別ヘッジファンドのリターンより低くなりがちである 1。1996 年 6 月 30 日時点で、運
用資産額上位 50 のファンド・オブ・ファンズは、約 5,500 億ドルの資金を運用している 2。
ヘッジファンドは、平均的にアルファを創出する。このようにヘッジファンド投資は高
いリターンをもたらす一方で、ファンド運営に関する透明性の欠如によって、リターンの
一部が目減りしてしまうと一般的に理解されている。このようなオペレーショナル・リス
クがヘッジファンドの経営破綻や収益低迷の主な原因とすると、オペレーショナル・リス
クによって運用成績に悪影響を与えることが懸念されるファンドを組入対象から除外する
ことによって、分散されたヘッジファンド・ポートフォリオのパフォーマンスを向上させ
ることができるという示唆が導かれる。しかしながら、効果的なデュー・デリジェンスを
実施するためには多大な費用が発生する 3。言い換えれば、そのような費用を十分に賄うこ
とができる程規模の大きいファンド・オブ・ファンズは、小規模なファンド・オブ・ファ
ンズに対してアルファの追求において競争上の優位性を持っていることになる。その結果、
ファンド・オブ・ファンズにおける規模の経済性はきわめて大きく、デュー・デリジェン
スはヘッジファンド投資におけるアルファの源泉であるという本稿の主張の正当性を裏づ
ける根拠となる。
本稿の構成は以下の通りである。「2.デュー・デリジェンス」では、デュー・デリジェ
ンスのプロセスについて説明し、オペレーショナル・デュー・デリジェンスとファイナン
シャル・デュー・デリジェンスの違いについて述べる。「3.ヘッジファンドのリターン、
消滅とオペレーショナル・リスク」では、ヘッジファンドのリターン、消滅とオペレーシ
ョナル・リスクに関する文献の整理を行い、デュー・デリジェンスがいかにして競争力を
もたらすかを示す。「4.データ」では、本稿で使用した TASS データの概要を紹介し、ヘ
ッジファンドとファンド・オブ・ファンズのパフォーマンス分析の結果を示す。「5.結論」
では、本稿における主要な示唆を要約する。
2.デュー・デリジェンス
(1)デュー・デリジェンスの定義
ヘッジファンドのデュー・デリジェンスとは、ヘッジファンドの運用と運営の状況を精
査し、モニタリングすることと定義される。デュー・デリジェンスの目的としては、投資
1
Brown et al. (2004) を参照。
Martin, Scott, “Growing Places,” Institutional Investor (November 2006), Vol. 40, Issue 11, p.103 を
参照。
3 Ang et al. (2005) は、ファンド・オブ・ファンズが組入れファンドに支払う運用報酬に加えて、追加的
な報酬を自分たちで受け取ることは、デュー・デリジェンス機能を提供する対価という観点から正当化で
きると論じている。
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当レポートは、㈱大和ファンド・コンサルティングが情報提供を目的として作成したものであり、金融商品取引法上の書面または資料
ではなく、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでもありません。投資等の意思決定は、読者ご自身の判断と責任のもとでなされ
るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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対象として相応しいマネージャーを特定化することに加えて、投資家の投資目的に沿った
運用がなされているかを継続的にモニタリングすることの2点が挙げられる。デュー・デ
リジェンスの具体的内容は多岐にわたるが、ヘッジファンドの運用会社、運用チーム、投
資戦略、ビジネス構造、運営体制、利害関係者の構成、利益相反の有無、価格評価の方針
と手順、リスク管理、コンプライアンス体制、投資条件、刑事・民事・行政上の違反等の
有無、競合上の優位性などが含まれ、定性・定量の両面から詳細に調査が行われる 4。した
がって、適切なデュー・デリジェンスが行われれば、その特定のマネージャーへの投資に
伴う潜在的なオペレーショナル・リスクとファイナンシャル・リスクに関する綿密な分析
と理解を行うことができるのである。
(2)オペレーショナル・リスクとファイナンシャル・リスクの区別
IAFE (国際金融工学協会)によると、オペレーショナル・リスクとは「人員、プロセ
ス、技術、その他の外部要因によってもたらされる損失」と定義されている 5。オペレーシ
ョナル・リスクの範囲は広く、会計、運営、コンプライアンス、監査、価格評価、報告書
の作成、人事管理等に関するリスクが含まれている。Brown et al. (2007) では、運用会社
と投資家の間の潜在的な利益相反の度合いが大きくなればなるほど、オペレーショナル・
リスクも大きくなることを指摘している。一方、法令・行政上の問題が発生するケースで
は、何らかのオペレーショナル・リスクの存在が示唆されていると考えることができる。
オペレーショナル・リスクは、運用成績の低迷や過度の投資リスク負担といった、ファイ
ナンシャル・リスクとは区別される。したがって、オペレーショナル・デュー・デリジェ
ンスは、オペレーショナル・リスクに関するファンドの調査やモニタリングを行う目的で
実施されるのに対して、ファイナンシャル・デュー・デリジェンスは、ファイナンシャル・
4
ファンド・オブ・ファンズに関する実際のデュー・デリジェンスの状況は様々である。ファンド・オブ・
ファンズの中には、初期投資を行うまでの間に、投資候補となっている各ファンドにつき年間 100 時間以
上かけて調査を行い、数箇所の実地訪問を実施しているところも存在する。また、主としてコンサルティ
ング会社の作成するデュー・デリジェンス・レポートに基づいて投資判断を行うケースもある。一方、フ
ァンドのパフォーマンス・チェックと目論見書に目を通す程度で、ほとんど本格的なデュー・デリジェン
スを行わないファンド・オブ・ファンズも見られる。デュー・デリジェンスに関するヘッジファンド業界
の最良慣行としては、1)特に複雑で流動性の乏しい投資対象に関しては、価格評価の方針や手順のチェ
ック、2)内部統制に関する方針や手順のチェック(ファンドから資金を移動させるために何名の責任者
の署名が必要かなどが含まれる)、3)ファンドの履歴のチェックや同業他社へのヒアリングの実施、4)
利益相反の有無に関するチェック、5)監査会社、アドミニストレーター、プライム・ブローカー、弁護
士、その他のサービス提供会社へのヒアリングの実施、などが含まれる。
5 International Association of Financial Engineers, Report of the Operational Risk Committee:
Evaluating Operational Risk Controls, Conclusions and Findings on the Topic of: “How should firms
determine the effectiveness of their operational risk controls?” (November 2001)
(www.iafe.org/documents/EvaluatingOperationalRiskControls-WhitePaper.pdf)を参照。
当レポートは、㈱大和ファンド・コンサルティングが情報提供を目的として作成したものであり、金融商品取引法上の書面または資料
ではなく、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでもありません。投資等の意思決定は、読者ご自身の判断と責任のもとでなされ
るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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リスクに関するファンドの調査やモニタリングを行う目的で実施されるという違いがある。
アマランスの崩壊は、ファイナンシャル・リスクとオペレーショナル・リスクの違いを
表す一例である。アマランスが破綻した原因は、エネルギー関連の投資の失敗(ファイナ
ンシャル・リスク)にあった。しかしながら、破綻する前に徹底したオペレーショナル・
デュー・デリジェンスが行われていたとしたら、「リターンを検証するための独立した外
部のアドミニストレーターの欠如、不十分なリスク管理体制、会社の経費のファンド経費
への付け替え」など、複数のオペレーショナル・リスクの存在を明らかにすることができ
たであろう 6。
一般的に、オペレーショナル・リスクとファイナンシャル・リスクは関連性が高い。し
かし、ファイナンシャル・リスクとは異なり、オペレーショナル・リスクの分散化は容易
ではない。そのため、投資家は投資するすべてのファンドに関してオペレーショナル・デ
ュー・デリジェンスを行う必要がある。また、投資と運用の機能を委任している受託者は、
適切なデュー・デリジェンスを行うことが要求される 7。
3.ヘッジファンドのリターン、消滅とオペレーショナル・リスク
(1)ヘッジファンドによるアルファの創出
ヘッジファンドは平均的にアルファを創出する。Brown, Goetzmann and Ibbotson
(1999) は、オフショア・ファンドのリスク調整後リターンをシャープ・レシオとジェンセ
ンのアルファによって計測した結果、平均的にプラスであったと指摘している。また、
Kouwenberg (2003) も、ヘッジファンドの大半は報酬控除後においてもアルファを創出し
ているという検証結果を提示した。さらに、Ibbotson and Chen (2006) は、生存者バイア
ス(survivorship bias)や埋め戻しバイアス(backfill bias)を考慮した後においても、ヘ
ッジファンドのアルファは非常に大きかったことを示している。他にも、Liang (2000)、
Edwards and Caglayan (2001)、 Asness, Krail and Liew (2001)、Fung and Hsieh (2004)
などにおいて、数多くの研究者がヘッジファンドのリターンについて分析しており、統計
的に有意なアルファの存在を確認している。
Patrick Hosking, “Investor paid out extra penalties to quit Amaranth,” The Times (of London),
October 13, 2006, p.50 を参照。
7 「Uniform Prudent Investor Act(=UPIA)
」のもとでは、受託者は慎重に投資することが求められてい
る。UPIA は受託者に投資と運用の機能を委任することを認めている。そして、受託者が投資の機能を委
任した場合、受託者はマネージャーの選定とパフォーマンスのモニタリングを行う際に、
「合理的な配慮
(care)と技能(skill)、慎重さ(caution)」を発揮することが求められている。つまり、投資の機能を委
任している受託者は、慎重なモニタリングとデュー・デリジェンスを継続的に行うことが要請されている
のである。
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当レポートは、㈱大和ファンド・コンサルティングが情報提供を目的として作成したものであり、金融商品取引法上の書面または資料
ではなく、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでもありません。投資等の意思決定は、読者ご自身の判断と責任のもとでなされ
るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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(2)オペレーションに関する透明性の欠如
ヘッジファンド投資が高いリターンをもたらす一方で、その高いリターンの一部がオペ
レーション関連の透明性の欠如によって相殺されていると一般的に理解されている。ヘッ
ジファンドにオペレーションに関する透明性が欠如してしまう理由は多々ある。まず、金
融監督機関へ登録されている投資会社(投資信託)とは異なり、ヘッジファンドは 1940
年の投資会社法によって定められている膨大な情報開示の義務を負っていない。また、ヘ
ッジファンドの運用者がアメリカあるいは同等の他国で登録された投資助言者でない限り、
ヘッジファンドの運用者は法律で定められたオペレーションに関する詳細な情報開示を行
う必要がない。さらに、ヘッジファンドの運用者は投資と経営、組織に関する戦略とプロ
セスの間でバランスをとることに、きわめて神経を使っている。そのため、ヘッジファン
ドが複雑で流動性が低く、オペレーショナル・リスクにさらされているような投資戦略を
採用することが多いにもかかわらず、運用者は一般的にオペレーションに関する情報を提
供したがらない傾向がある。
オペレーションに関する透明性の欠如は、既存の投資家だけではなく、潜在投資家にと
っても様々なリスクの源泉となる。オペレーションに関する情報が不十分な場合、投資家
にとってオペレーショナル・リスクに対する十分なデュー・デリジェンスを行うのは非常
に難しく、また余計な費用と時間がかかってしまう 8。次のセクションでも示しているよう
に、オペレーショナル・リスクはヘッジファンドの消滅や低パフォーマンスの主な原因と
なっている。このようにオペレーショナル・リスクがヘッジファンドのパフォーマンスに
大きな悪影響を与えているとすると、デュー・デリジェンスにおけるオペレーショナル・
リスクの精査は非常に重要なプロセスとなる。
(3)ヘッジファンドの破綻と低パフォーマンス
ヘッジファンドが破綻する確率は非常に高い。ヘッジファンドの破綻が新聞の一面に掲
載されるケースは比較的少ないとしても、一年間に破綻するヘッジファンドの比率は決し
て小さくない。Brown, Goetzmann and Ibbotson (1999) は、年間 15%程度のヘッジファ
ンドが破綻し、運用開始から 2 年半でヘッジファンドの本数は半減するという検証結果を
示している。Liang (2001) は別のデータを用いて同様の検証を行い、年間 8.54%のヘッジ
ファンドが消滅していることを示した。一方、Amin and Kat (2003) は、消滅するヘッジ
ファンドの割合は年々著しく増加していると指摘したうえで、運用者の投資状況や見通し
Brown et al. (2007) では、SEC がヘッジファンドに対して投資顧問業者として登録し、フォーム ADV
の提出を義務づけようとした試み(結果的には、不運な結末を迎えたが)の主な動機は、オペレーショナ
ル・リスクに対する懸念であったと指摘している。
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当レポートは、㈱大和ファンド・コンサルティングが情報提供を目的として作成したものであり、金融商品取引法上の書面または資料
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るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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に対する外的要因の変化に原因を求めている。また、このレポートでは、運用者がファン
ドを償還してしまう時期も 5 年前と比較して格段に早くなっていると指摘している。
ヘッジファンド消滅の原因は多様である。パフォーマンスの悪化、オペレーション上の
失敗、経営状況の悪化等が挙げられるが、十分な運用資金を集めることができなかったケ
ースがしばしば見られる。Brown, Goetzmann, and Park (2001) では、ファンドの消滅と
過剰なリスクやパフォーマンスの相対的劣後の間に相関が見られることを示した。また、
Amin and Kat (2003) は、ファンドが比較的小規模であったり、パフォーマンスが劣後し
ていたりすることがヘッジファンド消滅の重要な要因であり、ファンドが消滅する割合は
大規模なファンドよりも小規模なファンドの方が高いことを示した。
オペレーション上の問題が、ヘッジファンドが清算に追い込まれる主な要因である。
Feffer and Kundro (2003) は過去 20 年間に清算された 100 以上のヘッジファンドを検証
した結果、「破綻したファンドの 54%に明らかなオペレーション上の問題が認められ、破
綻したファンドの約半数では、オペレーション上の問題だけが原因であると見なすことが
できる」と指摘した。この研究において、オペレーション上の問題によって破綻したヘッ
ジファンドのうち、41%は投資内容やパフォーマンスに関する虚偽の報告、30%はファン
ド間の資金の不適切な配分やその他の不正行為、14%は契約上認められていないようなト
レーディングの実施や運用スタイルの逸脱、6%は経営資源の不足、9%はその他のオペレ
ーション上の問題とされている。また、オペレーション上の問題が認められた 54%の破綻
ファンド以外に、38%が主として投資リスクの顕在化による破綻、8%はビジネス・リスク
とその他のリスクとの複合的要因に起因する破綻であった可能性があると指摘されている。
ヘッジファンド消滅の主な原因であることに加えて、オペレーショナル・リスクはヘッ
ジファンドの低パフォーマンスを引き起こす原因でもある。Brown et al. (2007) は、オペ
レーショナル・リスクとファンドの収益率の間には負の相関が存在し、運用者と投資家と
の間に利益相反が存在するケースでは、負の相関の程度が特に強くなると指摘した。また、
ファンド運営の集中度が高い場合ほど、収益率が低くなるという検証結果をも示している。
このようなファンドのオペレーショナル・リスクの問題は、ファンドにレバレッジを提供
している金融機関等には理解されているようである。しかしながら、オペレーショナル・リ
スクの存在は、過去のリターンにばかり注目する投資家の未熟な対応には何ら影響を与え
ていない。投資家はオペレーショナル・リスクがリターンに及ぼし得る重大な影響には気
づいていないかのように見える。
(4)分散投資によるヘッジファンド・ポートフォリオのパフォーマンス向上
オペレーショナル・リスクがヘッジファンドの消滅と低パフォーマンスの主な原因とす
当レポートは、㈱大和ファンド・コンサルティングが情報提供を目的として作成したものであり、金融商品取引法上の書面または資料
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ると、分散されたヘッジファンド・ポートフォリオのパフォーマンスは、オペレーショナ
ル・リスクによって運用成績に悪影響を与えることが懸念されるファンドを組入対象から
除外することによって向上させることができる。オペレーショナル・リスクが原因でリタ
ーンの低迷するファンドが、分散されたポートフォリオ全体のパフォーマンスを押し下げ
てしまうのは明らかである。したがって、オペレーショナル・デュー・デリジェンスを徹
底することによって、そのようなファンドを除外し、ポートフォリオのパフォーマンスを
向上させることができる。加えて、オペレーショナル・リスクが原因で破綻しそうなファ
ンドをポートフォリオから除外することによって、いくつか異なるルートで分散されたポ
ートフォリオ全体のリターン向上をもたらすことができる。前のセクションで示したよう
に、ファンドの消滅頻度は、過剰なリスクテイクやパフォーマンスの相対的低迷との間で
相関を示している。また、運用を中止するファンドの発生は、リスク調整後のポートフォ
リオの収益率を低下させ、ファンド・オブ・ファンズの運用コストを引き上げる。運用を
中止したファンドとの入れ替えを行うためには、新規組入れファンドの選定に追加の費用
と時間を費やしてデュー・デリジェンスを行う必要があるからである。その際には、クロ
ーズされたファンドの償還や新規ファンドへの投資に関する移換コストがかかる。また、
ファンド・オブ・ファンズが最適ポートフォリオに対してフル・インベストメントされて
いない場合には、最適化までの間に一定の時間を費やす必要があるかもしれない。
(5)デュー・デリジェンスの高コスト構造
ヘッジファンドに対して効果的なデュー・デリジェンスを行うためには、費用と時間の
面で、高いコストがかかる。まず、効果的なデュー・デリジェンスを行うためには、かな
りの時間がかかる。Anson (2006) は、徹底した投資家は投資前に各々のヘッジファンド運
用者の調査に 75~100 時間を費やす必要があるとしている。プリンストン大学投資会社
(Princeton University Investment Company)のような投資家はもっと調査に時間をか
け、徹底した調査を行っている。この会社の代表者であるアンドリュー・ゴールデン氏に
よると、投資前のデュー・デリジェンスには最低でも 400 時間、投資後の継続的なデュー・
デリジェンスには年間約 70 時間もの時間をかけて調査を行っているという 9。
一方、デュー・デリジェンスにかかる費用は、調査に費やす時間、調査の徹底度、法律
事務所や会計事務所、コンサルティング会社などの第三者機関を活用するかどうかなど、
様々な要素によって異なる。保守的に見積もっても、各々のヘッジファンドにかかるデュ
“Testimony of Andrew K. Golden, President of the Princeton University Investment Company,
presented to the Financial Services Committee, United States House of Representatives” (March 13,
2007) (www.house.gov/apps/list/hearing/financialsvcs_dem/ht031307.shtml)を参照のこと。
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るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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ー・デリジェンスの費用は 5~10 万ドルであり 10、10 個のヘッジファンドを組入れたファ
ンド・オブ・ファンズのデュー・デリジェンス費用の総額は 50~100 万ドルにも達する 11。
その他に、結果的にファンド・オブ・ファンズが投資しないことになったヘッジファンド
のデュー・デリジェンス費用も追加される。通常、ファンド・オブ・ファンズは組入れフ
ァンド数の数倍のヘッジファンドの調査を行うため、デュー・デリジェンスにかかる直接
費用は、50~100 万ドルを大幅に上回ってしまうであろう。そして、継続的なデュー・デ
リジェンスやデータベース構築などのデュー・デリジェンス関連費用も、追加的な費用と
して加算される。
(6)競争上の優位性
デュー・デリジェンスは分散されたヘッジファンドのポートフォリオのパフォーマンス
を高める効果が期待できる。しかし、有効なデュー・デリジェンスを行うには莫大なコス
トがかかる。したがって、そのような高額の費用を賄うことができる大規模なファンド・
オブ・ファンズは、小規模なファンド・オブ・ファンズに比べて競争上大きな優位性を持
っている。先にも述べたように、10 のヘッジファンドを組入れたファンド・オブ・ファン
ズのポートフォリオに対するデュー・デリジェンスのコストは、非常に保守的に見積もっ
たとしても、50~100 万ドルを大幅に上回ると推計される。したがって、小規模なファン
ド・オブ・ファンズにとっては、運用資産残高に応じて支払われる管理報酬では、その他
ファンドの運営費用を除いた場合でも、組入れ時に実施するデュー・デリジェンスのため
の費用を十分に賄うことができないため、競争上、不利な状況にあるといえる。
10
実際に、デュー・デリジェンスにかかる費用はファンド・オブ・ファンズによって大きく異なる。その
主な理由の一つは、デュー・デリジェンスを行う体制と内容がファンドによって大きく異なるからである。
規模の大きなファンド・オブ・ファンズの中には、オペレーショナル・デュー・デリジェンスに特化した専
門家を数名雇用し、さらにコンサルティング会社や法律事務所、会計事務所などの第三者機関による調査
を活用しているケースもある。その一方で、完全にコンサルタントにデュー・デリジェンスを任せている
ファンド・オブ・ファンズもある。また、業界の噂や口コミ情報に依存し、正式なデュー・デリジェンスはほ
とんど行わないファンド・オブ・ファンズもある。コンサルティング会社は、様々なデュー・デリジェンス関
連のサービスを提供している。運用者の経歴チェックは、ファンド・オブ・ファンズがコンサルタント会社
を利用する典型的な分野の1つである。ここで示した 5~10 万ドルという金額は、精緻なデュー・デリジ
ェンスにかかる費用の概算値である。比較のために示すと、格付会社からヘッジファンドのオペレーショ
ンの質に関する格付情報を入手する費用は、対象となるヘッジファンド運用会社の複雑さに応じて、5~10
万ドル程度である。
11 当然のことながら、ファンド・オブ・ファンズに組入れるべき個別ヘッジファンドの最適な数については
議論がある。大半のファンド・オブ・ファンズは、15~40 の個別ヘッジファンドへ投資している。一方で、
Lhabitant and Learned (2002) は、5~10 の個別ヘッジファンドを組入れたポートフォリオでも十分に分
散効果の恩恵を受けることができるという検証結果を示している。15~40 の個別ヘッジファンドを組入れ
る場合には、当然のことながら、投資前と投資後にかかるデュー・デリジェンスの費用は、10 の個別ヘッ
ジファンドを組入れるポートフォリオにかかる費用に比べてかなり高額になる。
当レポートは、㈱大和ファンド・コンサルティングが情報提供を目的として作成したものであり、金融商品取引法上の書面または資料
ではなく、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでもありません。投資等の意思決定は、読者ご自身の判断と責任のもとでなされ
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米国籍のファンド・オブ・ファンズの約 35%は運用資産残高が 2,000 万ドル以下である。
管理報酬が年率 1.5%であるとすると、純資産残高が 2,000 万ドルのファンド・オブ・ファ
ンズの管理報酬年額は 30 万ドルとなる。10 のヘッジファンドに対するデュー・デリジェ
ンス費用は保守的に見積もっても 50~100 万ドルであるから、運用資産額が 2,000 万ドル
程度のファンド・オブ・ファンズでは、他のデュー・デリジェンス関連費用やその他の運
営費用を考慮しない場合でも、投資候補先のヘッジファンドに対するデュー・デリジェン
スを実施するうえで十分な管理報酬を得ることができない。
4.データ
(1)データの概要
本稿では、Lipper TASS の 1994 年 12 月~2006 年 12 月のデータベースを活用して分析
を行った。ちなみに、TASS におけるヘッジファンドとファンド・オブ・ファンズのデー
タは、すべて報酬控除後となっている。前月末時点の基準価格と運用資産残高のデータが
提供されている米ドル建ての全ファンドを対象にポートフォリオを月次で構築していった。
運用資産残高に基づいて各ファンドを 5 段階にランク付けし、各ポートフォリオの翌月の
規模別加重平均リターンを算出した。一方、30 日物 T-bill レートをベンチマークとした超
過リターンに基づいて、シャープ・レシオを計算した。
(2)データ分析
表1は 1995~2006 年の個別ヘッジファンドとファンド・オブ・ファンズに関する規模
別の平均リターンとシャープ・レシオを表している。分析期間全般にわたってファンド・
オブ・ファンズのリターンは個別ヘッジファンドのリターンよりも低くなっているが、そ
れほど驚くべき結果ではない。ファンド・オブ・ファンズを除いた個別ヘッジファンドの
リターンは年率 11.28%であったのに対し、ファンド・オブ・ファンズのリターンは年率
9.98%であった。このリターン格差の一部は、ファンド・オブ・ファンズが投資家に課し
ている二重の報酬によって説明できる。ファンド・オブ・ファンズの管理報酬と成功報酬
のメディアン(中位値)はそれぞれ約 1.5%と約 10%であり、これらの報酬が組入れファ
ンドによって課される運用報酬に対する追加的な負担となる。前月末の運用資産残高に基
づいた 5 つのランクごとに比較すると、第 2~5 ランクに位置するファンド・オブ・ファン
ズでは、対応するランクの個別ヘッジファンドよりもシャープ・レシオが高くなっている。
年率のリターン水準は、小規模のヘッジファンドほど高く、最大規模のヘッジファンド
ではリターンが最低となっている。報酬控除後のヘッジファンドのリターンは、ランク2
のファンドが最も高く(14.63%)、ランク5のファンドが最も低い(11.03%)。興味深い
当レポートは、㈱大和ファンド・コンサルティングが情報提供を目的として作成したものであり、金融商品取引法上の書面または資料
ではなく、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでもありません。投資等の意思決定は、読者ご自身の判断と責任のもとでなされ
るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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ことに、ファンド・オブ・ヘッジファンズでは全く逆の結果となった。ファンド・オブ・
ファンズのリターンは、ランク 5 の最大規模のファンドが最高(10.14%)で、ランク 1 の
最小規模のファンドが最低(7.45%)となった。ランク 5 とランク 1 のファンド・オブ・
ファンズのパフォーマンス格差(2.69%)は、統計的にも経済的にも意義のある水準であっ
た。また同様にシャープ・レシオに関しても、最小規模のファンド・オブ・ファンズより
最大規模のファンド・オブ・ファンズの方が 2 倍以上高い値を示した。
表1
規模の経済性
前月末時点の運用資産残高に基づく規模の分類
t値
(5-1)
ランク 1
ランク 2
ランク 3
ランク 4
ランク 5
すべての
個別ヘッジ
ファンド
(FOF を除く)
14.47%
9.94%
0.074
14.63%
10.47%
0.133
12.87%
9.01%
0.128
11.50%
7.50%
0.122
11.03%
7.47%
0.117
-2.01
-2.16
ファンド・
オブ・ファンズ
7.45%
4.72%
0.074
9.25%
6.46%
0.134
8.90%
6.61%
0.152
9.54%
6.90%
0.180
10.14%
6.77%
0.213
2.78
2.63
(出所)TASS データベースの米ドル建の全ファンド(1995~2006 年)。
(注)上段から、加重平均年率リターン、加重平均年率超過収益(太字)、シャープ・レシオ(斜体)。
各月において、Lipper TASS のデータベースに前月末の基準価格と運用資産残高が含まれているすべ
ての米ドル建ファンドを基にポートフォリオを組成した。そのうえで、ファンド・オブ・ファンズを除
くすべての個別ヘッジファンドとファンド・オブ・ファンズそれぞれの運用資産残高に応じて5段階に
ランク付けし、翌月の報酬控除後の加重平均リターンを計算した。表では、ファンド・オブ・ファンズ
を除くすべての米ドル建ヘッジファンドとファンド・オブ・ファンズの年間平均リターンを表示してい
る。また、各ファンドに対して、Fung and Hsieh (2001) で指摘されているヘッジファンドのリター
ンに関する7種類のリスク要因(http://faculty.fuqua.duke.edu/~dah7/HFRFData.htm からダウンロ
ード可能)を用いて計算した月次加重平均アルファに 12 を乗じた年率超過リターンを計算した。シャ
ープ・レシオは「(月次平均リターン-30 日物 T-bill リターン)÷月次リターンの標準偏差」によっ
て計算した。t値は、リターンとアルファのそれぞれについて、ランク5とランク1のポートフォリ
オの格差に関するt検定量を表している。
以上の検証結果の背景としては、個別のヘッジファンドはファンド・オブ・ファンズと
は大きく異なるリスク・ポジションを取っている可能性を想定することができる。規模の
大きいファンド・オブ・ファンズでは、投資戦略や投資スタイルに関して必然的に幅広く
分散される。そのため、表1に見られるようなパフォーマンスの格差は、ベータのエクス
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ではなく、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでもありません。投資等の意思決定は、読者ご自身の判断と責任のもとでなされ
るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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ポージャーに関する格差によって説明できる可能性がある。この可能性に対処するため、
Fung and Hsieh (2001) において示唆されたヘッジファンドのリターンに関する 7 つの説
明要因をベンチマークとして用いてアルファを算出したが、結果は同じであった。このよ
うに、個別ヘッジファンドにおいては規模の不経済性が存在するが、ファンド・オブ・フ
ァンズにおいては逆に著しい規模の経済性が存在するという仮説を強く支持する結果が得
られた。
表2 知名度の高いサービス提供会社を利用しているファンドの割合
前月末の運用資産残高に基づく規模の分類
サービス
提供会社
ランク1ランク 2 ランク 3 ランク 4 ランク 5
全ファ
ンド
t値
(5-1)
法律事務所
個別ファンド
FOF
13.3%
11.7%
12.7%
12.0%
14.7%
11.9%
11.4%
14.0%
15.0%
14.0%
13.4%
12.7%
0.38
1.03
保管受託
銀行
個別ファンド
FOF
10.7%
15.2%
18.2%
20.3%
17.4%
19.4%
21.5%
24.2%
24.8%
28.6%
19.1%
21.4%
2.77
4.89
プライム・ 個別ファンド
FOF
ブローカー
13.0%
18.3%
16.9%
21.0%
19.7%
17.8%
22.4%
25.8%
20.8%
28.9%
19.0%
22.3%
1.58
3.80
監査会社
個別ファンド
FOF
19.2%
23.6%
26.7%
27.4%
25.8%
26.1%
26.9%
35.8%
33.2%
42.3%
26.8%
30.9%
2.42
6.01
事務管理
会社
個別ファンド
FOF
10.4%
15.0%
17.7%
16.8%
17.6%
16.2%
17.1%
20.8%
16.6%
24.6%
16.3%
18.6%
1.38
3.65
(出所)TASS データベースの 2006 年における米ドル建の全ファンド。
(注)2006 年の各月に対して、Lipper TASS のデータベースに前月末の基準価格と運用資産残高が含まれ
ているすべての米ドル建の個別ヘッジファンド(ファンド・オブ・ファンズを除く)とファンド・オブ・
ファンズのそれぞれに対して運用資産残高を基準に5段階にランク付けした。資産クラスごとに、複
数のファンドによって利用されているサービス提供会社の活用頻度を集計した。t 値は t 検定において、
ランク5のファンドとランク1のファンドの格差が統計的にどの程度有意であるのかを示した統計量
を表している。
以上の結果から、運用規模の大きいファンド・オブ・ファンズの優位性は非常に大きい
ことが理解できる。つまり、デュー・デリジェンスを実施するために必要な高額の費用を
十分に吸収できる大規模なファンド・オブ・ファンズは、小規模なファンド・オブ・ファ
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ではなく、投資家に対する投資勧誘を目的とするものでもありません。投資等の意思決定は、読者ご自身の判断と責任のもとでなされ
るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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ンズに対して著しい競争上の優位性を備えていると考えられる。しかし、これらのファン
ドは、この優位性を実際に活用しているのであろうか。表2には、個別ヘッジファンドと
ファンド・オブ・ファンズのそれぞれについて、ヘッジファンド産業におけるサービス提
供会社の利用状況をまとめた。一般論として、規模の大きいファンドほど知名度の高いサ
ービス提供会社を利用する傾向にある。ここで「知名度の高いサービス提供会社」とは、「複
数のファンドによって利用されている」という基準で定義した。ファンドの規模による活
用頻度の格差は、概ね、どのサービス提供会社にとっても大きく、特に監査会社に関して
は非常に大きな格差が見られる。大規模なファンド・オブ・ファンズでは、42.3%が知名
度の高い監査会社を利用している一方で、小規模なファンド・オブ・ファンズでは、この
比率が 23.6%に過ぎない
12。以上の結果は、ファンド・オブ・ファンズにおける規模の経
済性は非常に大きく、ヘッジファンド投資においてデュー・デリジェンスはアルファの源
泉であるという本稿で主張を支持するものである。
5.結論
この論文の主要な示唆は、
「ヘッジファンド投資においてオペレーショナル・デュー・デ
リジェンスは重要なアルファの源泉である」という多少意外性のある結論である。データ
が示すように、デュー・デリジェンスにかかる莫大な費用を賄うことのできる大規模なフ
ァンド・オブ・ファンズは小規模なファンド・オブ・ファンズに対して著しい競争上の優
位性を備えている。前月末時点の運用資産残高を基準として、ランク5のファンド・オブ・
ファンズは、ランク1のファンド・オブ・ファンズを 269bp 上回るパフォーマンスを示し
ており、その結果は統計的にも経済的にも有意であった。このように、ファンド・オブ・
ファンズは莫大な規模の経済性をもたらすのである。そのため、ファンド・オブ・ファン
ズのデュー・デリジェンスのプロセスは、デュー・デリジェンスがアルファを創出する機
能を上手に利用できるよう設計すべきである。デュー・デリジェンスを適切に行うことに
よって得られる投資の潜在的なリターンは、非常に説得力のある水準である。
この論文の示唆は、ファンド・オブ・ファンズの運用者や、財団や基金といったヘッジ
ファンドのポートフォリオに投資する投資家にとっていくつかの重要な意義を持つ。まず、
デュー・デリジェンスを行うことは受託者責任を果たすうえで必要不可欠な部分であるが、
アルファの創出において非常に効果的な役割を果たしている点に、デュー・デリジェンス
12
同様の結果は、
「大規模なファンドほど、小規模なファンドが費用面において利用することがむずかしい
ビッグ5(4)と呼ばれる監査会社を頻繁に利用する傾向がある」ことを指摘した Liang (2003) によって
も示されている。表2は、これと同様の結論が他の外部サービス提供会社にも適用できることを示唆して
いる。
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るよう、お願い申し上げます。なお、当レポートの無断転載・複写等は行わないよう、お願い申し上げます。
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の価値の大部分を見出すことができる。したがって、ファンド・オブ・ファンズの運用者
は、デュー・デリジェンスに対する費用と人員をそれ相応の水準に設定すべきである。例
えば、弁護士を雇うことによって、投資の正味現在価値を増加させることができるのであ
る。次に、デュー・デリジェンスの役割は、パフォーマンスが非常に良好なヘッジファン
ドを選択することよりは、むしろ低パフォーマンスや経営破綻が懸念されるようなヘッジ
ファンドの選択を回避する方に置かれている。したがって、デュー・デリジェンスのプロ
セスは、オペレーショナル・リスクの分析とオペレーショナル・デュー・デリジェンスに
重点を置くべきである。最後に、興味深いことに、デュー・デリジェンスはプロフィット・
センターになり得るのである。アルファを創出することは非常にむずかしい。本稿では、
それほど自明ではなく、斬新でありながら、現在それほど実行されていないアルファの創
出方法の有効性を実証できたのではないかと考えられる。
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