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Vinaboo(PDF/1.45MB)
LIFE
INTERVIEW
都市鉄道を通して
ベトナム人の生活が快適になるように
ホーチミン市都市鉄道建設事業(1号線)
General Consultant総括(Project Director)
日本工営(株)/NJPTアソシエーション 増沢 達也さん
ホーチミン市都市鉄道建設事業。現在、一路線は日本の政府開発援助(ODA)の円借款でまかなわれ、すでにその工事は始まっています。
机上では予想もできない大規模なプロジェクト。今回、そのプロジェクトを手がけるコンサルタント総括の増沢さんにお話をうかがいました。
*また、今回、各工事パッケージのプロジェクトマネージャー(PM) の方々−住友商事・伊原PM(高架土木)、清水建設・河合PM(地下土木)、
日立製作所・小牧PM
(鉄道システム)−にも多大なご協力をいただきました。
−ホーチミン市都市鉄道について簡単にご説明ください。
が延び、郊外線としての機能を有しています。日本の一般的な都
市鉄道基準に準拠した仕様となっています。
1号線の後を追っているのが2号線で、ドイツを中心としたヨーロ
ッパの援助資金とアジア開発銀行(ADB)の資金により設計変更・
入札図書作成作業が進捗中です。その他、5号線についてはスペ
イン政府が事業化調査支援を行っており、今後もスペインの支援
により整備が予定されています。また、3A号線は1号線の延伸路
線となり、これに接続する3B号線と合わせて、ホーチミン市は円借
款での事業実施をベトナム政府に提案しており、今後の円借款案
件として期待されています。その他の路線についてはまだ実施が
具体化されていない状況です。
増沢さん
−日本の鉄道に似ている部分は?
高速大量旅客輸送鉄道(Mass Rapid Transit:MRT)による都市鉄
設計に採用する技術基準として日本の鉄道技術基準がベトナム
道整備は全部で7路線(3号線が3A、 3Bに分かれている)が計画さ
政府から承認されており、また車両の寸法などの具体的な鉄道シ
れており、路線の総延長は約170kmです。網の目のように張り巡ら
ステム仕様についても、日本の一般的な都市鉄道仕様に基づいた
された東京圏(横浜を含む)の都市鉄道網の総延長は約3,000kmで
標準仕様書の適用が承認されています。したがって1号線は、日
すから、それには遠く及びませんが、かつて東京がそうであったよう
本人にはなじみの深い鉄道になることでしょう。
に今後の経済発展、国民所得水準の上昇により順次都市鉄道路線
地下駅となるのは、ベンタイン市場から現バーソン造船所のある
が拡大されていくものと想定できます。ホーチミン市のMRTのマスタ
区間までの計3駅です。このあたりは密集地のため、高架にできず
ープランはホーチミン市の総合交通マスタープラン(HOUTRANS)の中
地下になっています。こちらは清水建設と前田建設工業の共同企
で策定され(2004年)、2005年に政府により承認されています。
業体が工事を進めています。地下鉄事業で大きな問題となるのは
HOUTRANSも日本の技術協力(国際協力機構(JICA)の開発調査)
防火対策で、これまで日本のODAで実施された他国の地下鉄事
により策定されました。
業ではアメリカのものが防火基準として適用されてきました。この
場合、プラットホームやコンコースにKIOSKなどを設置できません。
−なるほど。都市鉄道の工事は円借款で行われているのですか?
ホーチミン市都市鉄道の整備は各国のODAや国際金融機関の資
金協力で実施されています。適用される技術基準は援助国の技術
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ホーチミン市都市鉄道では、日本と同じ防火基準(国土交通省の
鉄道技術省令)の適用が承認されており、日本の地下鉄と同じよう
に駅中施設を有した地下駅が可能です。
基準を採用するケースが多く、このためホーチミン市都市鉄道は相
今回、信号システム、軌道などの面で、日本でもまだ採用されて
互に異なった技術基準が混在する状況になっています。ただし軌間
いない最先端のシステムを導入しています。これは、開業後のメン
については標準軌(日本では新幹線と同じ1,435mm)で統一されて
テナンス負担を軽減し、結果的にコストダウンをするためです。ベト
います。
ナムでは鉄道メンテナンスに必要なスペアパーツや消耗品を提供
1号線は最も早く整備が実施された路線で、JICAの円借款で事業
できるメーカーがまだなく、毎回輸入に頼らなければならなくなると大
が進められています。ホーチミン市中心のベンタイン市場の地下駅
変なコスト高です。また、人間による管理を少なくするというねらい
を起点に計14駅あり、ビエンホアに向かう国道1号線に沿って路線
もあります。
INTERVIEW
貨物鉄道という巨大鉄道プロジェクトの事業化調査(Feasibility
Study)とホーチミン市都市鉄道のGeneral Consultant業務が受注
でき、この両案件に集中すべく、部長を解任してもらい両案件に参
加させてもらいました。
仕事の内容は、MAURとの契約に基づくGeneral Consultantの業
務として、本プロジェクトの調査・設計、入札図書作成、入札業務、
工事の施工監理、開業後の鉄道運営会社に対するアドバイザリー
サービス、と業務が多岐にわたっています。日本では役所が行う
業務中、技術的業務の全てを代行しているようなものです。私はそ
の中で総括の役割ですので、この全ての業務について管理・監督
する責任があるのです。また、工事パッケージ間で起こりうる接点
−車両モデルの公開。見学された人々の反響はどうでしたか?
車両はシンボリックな存在ですので、色々な意見が出ているようで
す。代表的な意見は「外観をもっと流線的に」とか「車内に掴まり棒を
設置」などで、現在、事業実施機関であるホーチミン市都市鉄道管
理局(MAUR)が意見を集約中です。ちなみに座席上の網棚につい
ては、設置しない方針となっています。
の仕事(インターフェイス)のどこまでを各ゼネコンでやるのかの調
整など、各担当のパッケージ内で処理できない問題は私のほうで
解決しなければなりません。
−ストレスも多いかと思いますが、解消法はありますか?
各ゼネコンさんとは、契約や支払いに絡みクレームが出た場合
など、時に対立関係になることがあります。ただ、プロジェクトを成
*編集部:実際の車両モデルに乗ってみました。こちらは日立製作所が
功させたいという気持ちは皆同じです。そこで、仕事を離れて皆が
担当しています。外観はすっきり、日本の電車車両と違わない。シートは
楽しめるように、毎週ゴルフコンペを開催しています。私が予約、ア
プラスチック。とても幅広い印象。座るのが好きなベトナム人のためにイ
レンジ、成績も集計します。運動を兼ねたストレス解消法かもしれ
スを増やした方が?(床に座るか・・・)
ません。あとはペットの犬ですね。動物と触れ合うのは何よりのス
その後、高架橋の主桁製作現場へ移動。こちらは住友商事&Cienco6の
共同企業体が担当しています。初めて見るスケールの大きさにビックリ。
トレス解消になります。日本にいる家族とのLINEトークも楽しみに
しています。
これがそのまま移動して設置されるとは思いもよりませんでした。伊原
PMは“造ってすっぽりはめる”という簡単そうな表現をされていましたが、
一寸の狂いも許されない緻密な作業。それ故に真剣です。
−ベトナムは他国に比べてどうですか?
ベトナムは生活し易い国で、食事も多国籍であるしローカル食で
も美味しく食べられます。食事についてはインド赴任時にとても困
りました。食事が合わないとそれだけで、スタッフも皆ストレスを感
じ、仕事の効率も上がらない。インドの時は日本食が調理できる料
理人をわざわざネパールから延べ6人連れてきました。現在も事
務所から日本食のあるところまでは遠いので、事務所の空いたス
ペースにキャンティンを作り、私が日本食の調理を指導、スタッフ
が調理をし、日本食を提供できるようにしました。
仕事では、英語もしくは通訳を介したベトナム語を使っています。ベ
トナム語はTRYしてみましたが発音が難しくて一向に通じないので
あきらめました(笑)。昔、インドネシアに赴任していた時は3ヶ月で
−ところで、増沢さんが赴任された経緯は? お仕事の内容を
教えて下さい。
インドネシア語を話せるようになっていたんですけどね。インドネシ
ア語は赴任終了から25年以上経った今でもまだ話せますよ。
仕事での苦労としては、承認や同意を出す人間がなかなかその
私は大学卒業後、ちょっと回り道をした後、日本工営という建設コ
サインをしないということがあります。ベトナムでは、その事項に関
ンサルタント会社に入社しました。その後大部分の期間、海外の水
して問題が生じると、承認した者の個人的責任が追及される度合
力発電プロジェクトや道路プロジェクトに従事してきました。2001年、
いが高く、その責任追及を免れるため承認をするにあたり、責任者
今後海外での鉄道プロジェクトが増加するとの見立てから、それま
は十二分な法的書類の提出を求めてきます。ベトナムの役人との
でなかった鉄道コンサルタント部門が設立され、私が初代の鉄道技
会話でよく使われる「Legal
術部長に就きました。この時から私の鉄道プロジェクトとの付き合い
が満足する十二分な書類を整えるのに時間と労力を費やします。
が始まったのです。部長就任からしばらくはプロジェクトの受注もなく
今は我々も学習をしましたので、以前よりはスムースに事が運ぶ
日々案件プロモーションに奔走しておりましたが、運よくインドの幹線
ようになりました。幸い、私と同じように感じているベトナム人も居
Base」なる言葉がそれに当たり、先方
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LIFE
INTERVIEW
たりして、彼らと悩みを分かち合えることが救いです。こういった“
京のようにネットワークとして都市交通が整備されることが必要にな
改革派”とでもいうのでしょうか、そういう人たちが増え、率先して
っています。一方で都市鉄道整備には巨額の初期投資を要し、都
動いて進めてくれています。ベトナムもだんだん変わりつつあるの
市鉄道網の整備のための資金調達が大きな問題となります。今後
かなとも感じています。
はアジアインフラ投資銀行(AIIB)なども都市鉄道整備の資金ソース
として存在感を増してくることが考えられます。
−未だにバイクが王様のベトナムですが、電車の利用に移行
すると思われますか?
−最後に、
プロジェクトに対する思いをお聞かせ下さい。
運賃をいくらにするのか? も利用者が多くなるかどうかの課題
本プロジェクトに着任してから既に7年半が過ぎており、2020年予
かもしれないですね。最初はタダでもよいかもしれません(笑)。使
定の全線開業まで継続するとなると12年以上、本プロジェクトに従
って良さを知ってもらう必要があると思うんですね。タダが無理とし
事することになります。私は今年で還暦を迎える年齢になり、本プロ
ても、例えば日本のように、雇用主が従業員の通勤に対して定期
ジェクトがこれまでの土木屋人生の集大成になると思っています。
券購入代金(実費)を負担し、従業員は実質的に通勤費がタダに
ベトナムにとっても歴史上初めて地下鉄・都市鉄道を持つというベト
なる、とすれば都市鉄道利用者も増えるかと。これが実現できれ
ナムの歴史に刻まれる事業でもありますので、それに関わった者と
ば中心部から離れたところに住む人も増えるはずで、都市圏の拡
してぜひとも成功裏に完成・開業にこぎつけたいと思っています。
大・分散化にも寄与します。中心部より離れると土地はまだ余って
いるし、物価も若干安いので生活環境が良くなってくる。交通費支
*取材にあたり、各社プロジェクトマネージャー(PM)とともに、暑い中をご
丁寧に案内いただきました。各現場のスケールの大きさに、ただただ驚く
給を会社の福利厚生として採用してみるのはとても良いことだと思
ばかりでしたが、部分的に行われているように見えるそれぞれの事業も、
います。日本では通勤費実費支給は当たり前で、通勤に新幹線を
皆さんが一丸となって取り組む姿勢が見られました。また、まとめる立場の
利用する人にすら実費支給する時代ですよ。また、鉄道を引くこと
増沢さんにPMの方たちも信頼を寄せているのだなと感じました。電車移動
によって間接的に生じる税収入が増えます(沿線への事業投資・
が当たり前の日本人にとってとても楽しみなプロジェクトであり、また、ベトナ
企業進出が誘発される→法人税の増収、商取引が増える→V.A.T
ム人の生活様式にどのような変化をもたらすのか、期待してやみません。
増収、施設などができると雇用が増え、国民の所得が上がる→所
得税増収)。利用者が少ないと駅周辺へ誰も投資をしたがらないし、
結果、経済効果も上がらないのではないかと思います。
−都市鉄道がベトナム人にもたらす夢や課題は?
ベトナムに限らず、都市鉄道を持つことはその都市のステータス
を高めることになり、その意味でベトナムも夢が叶うことになります。こ
れまで東南アジアでは、シンガポール、クアラルンプール、マニラ、
バンコクで都市鉄道が開業しており、ホーチミン市都市鉄道はそれ
に続くことになりますが、現在並行してハノイ市でも2A号線(中国
が支援)及び3号線(フランスやADB等が支援)が工事実施中で、
これが完成しますと、東南アジア諸国の中でベトナムが唯一2つの
都市で都市鉄道を持つ国になります。なお、日本もハノイ1号線と
2号線を支援しており、建設に向けて準備が進んでいます。
*プロフィール 増沢 達也(ますざわ・たつや)
東京工業大学卒業。日本工営入社。入社四年目から一貫して海外(インドネ
シア、マレーシア、タイなど)の水力発電・道路プロジェクトに参加。2001年から
課題ですが、一つは都市鉄道と道路交通との連携問題がありま
鉄道技術部長を務めチュニジアやカンボジアの鉄道案件に関与。2006年にイ
す。鉄道は高速大量輸送が可能ですが、線路の上しか走れませ
ンドの幹線貨物鉄道事業化調査に副総括として参加した後、2008年からホー
んので、必ず両端で道路交通(歩行も含めて)との連結が必要に
なります。このため鉄道整備に合わせて、駅からの集散道路・バス
サービス整備や駐車場・バス/タクシー乗り場などを備えた駅前広
チミン市都市鉄道1号線のGeneral Consultantの総括(Project Director)を務め
て現在に至る。
事業内容
・高架区間17.1km:11駅、車両基地(21ha)建設:住友商事と越企業(CIENCO 6)の共同企
場の整備が必須となります。こうしたインターモーダル施設は都市
業体が担当。2012年7月着工
鉄道1号線事業のスコープに含まれておらず、別途、計画立案・資
・電気・通信・信号システム、車両、軌道、開業後5年間の保守等:日立製作所が担当。
金調達が必要になってきます。この問題についてはJICAが補完調
・地下区間1.7km(オペラハウス駅~バーソン駅)建設:清水建設・前田建設工業の共同企
査を実施しており、その調査の提案内容に従って、今後の具体化
業体が担当。2014年8月着工
についてホーチミン市側が検討中です。
円借款供与状況
もう一つの大きな課題は都市鉄道ネットワークの整備です。大
都市においては一路線だけが実現しても旅客にとっての利便性の
向上は限定的なものであり、公共交通への転換が進みません。東
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左から:伊原PM(住友商事)、増沢さん、河合PM(清水建設)、小牧PM(日立製作所)
2013年8月着工
・地下区間0.9km(ベンタイン駅~オペラハウス駅手前)建設:入札準備中
2007年3月 第1期分として20,887百万円の借款契約を調印
2012年3月 第2期分として44,302百万円の借款契約を調印
累計65,189百万円
JICAは円借款と並行して、ホーチミン市都市鉄道運営会社の設立を技術協力で支援中。
大阪市交通局が協力。
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