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カードによる差別化戦略 - Nomura Research Institute

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カードによる差別化戦略 - Nomura Research Institute
1
2
コンサルタントが語る
コンサルタントが語る
いろいろな収益可能な事業展開ができる。一つ
することである。顧客の中に入って顧客の業
は顧客にカスタマイズした提案が可能だという
務がわかってくれば、
いろいろな提案も出てく
ことである。また、顧客がどんなコスト構造にな
る。それが自社にないものであれば、
外部のパー
っているかということがわかれば、その定額化
トナーと共同で提案していくという形が展開で
が可能になる。
また、
顧客の経営状況も含めて、
きる。顧客をどれだけ深く知っているかというこ
内側から観察できるようになると、金融機関が
とが、同様のサービスを提供する企業との差別
提示するような与信以上のものが提供でき、金
化にもなっている。
融サービスまで展開できるのである。
「ハード提供」というところから「ハード+サー
顧客の情報を蓄積する方法としては、遠隔
ビス提供」になることは、製品とサービスの両方
監 視のような情 報 技 術を使う方 法もあるし、
を提供していこうということで、
これは多くの企業
TSMCのようなプラットフォームを提供する方法
が取り組んでいる。実際にいい業績を残して
もある。実際に顧客の中に入っていって情報蓄
いところは、
顧客のインサーダー化ができている。
カードによる差別化戦略
カードは、顧客とのチャネルとして極めて有効に機能する。カード活用の最初のステップは多くの
企業が発行するポイントカードであり、顧客の囲い込みという“守り”を効果的に差別化できる。
次のステップはカードビジネスを通じたリテール金融事業への進出であり、本業と金融事業を
車の両輪として機能させながら顧客基盤と事業基盤をますます拡大していくという“攻め”の
差別化が達成できる。
カードによる“ 攻め”と“ 守り”
多くの企業が発行しているポイントカードは、
積をするパターンもあれば、
トヨタのようにカード
というツールを使って蓄積していくパターンもある。
[組織を動かすためのアクション]
顧客を囲い込むために最適なツールである。
カードによる差別化の最初のステップは、
ポイ
しかし、ポイントカードの真価はそれにとどまら
ントカードを「顧客を囲い込む“守り”のツール」
あるいは直接的買収やジョイントベンチャー設
サービス事業による収益化の必要性はわか
ない。その種類や形態は様々ながら、数十万
として有効に機能させることである。
立という形で蓄積していく方法もある。
っているが、実際にはなかなか動けないという
∼数百万人という会員を保有する企業も少な
航空会社のマイレッジプログラムに始まった
サービス事業の成功要因は、
インサイダー化
ことが多い。結局は組織をどう動かしていくか
くないポイントカードは、
これまで金融とは縁の
ポイントカードは、
ありとあらゆる業種に浸透す
ということが一番重要になると考えている。
なかった事業会社がリテール金融ビジネスへ
るとともに、
消費者の生活にも深く根付いてきた。
一般に、製造業企業には、
こうしたサービス
参入する足がかりとしても機能する。
ある調査では、家電量販やスーパーが発行し
そして、
リテール金融において重要なのは消
たものを中心に、消費者の9割近く
(85.9%)が
費者のニーズにフィットする商品の開発であり、
ポイントカードを所有しており、
うち3割(28.3%)
その成功の本質はメーカーなど事業会社にお
が「ポイントが加算されるお店を積極的に利用
ける商品・サービスの開発となんら違いはない。
している」と回答している(出所「ICカードに
したがって、我が国の消費者がこれまで横並
関する世論調査」日本ICカード推進協議会)。
びでのサービス提供しかしてこなかった金融
ところが 残 念なことに 、多くの 企 業は 、この
供できるわけではない。
「関係が深い顧客から」
機関に決して満足していない今日、消費者の
ポイントカードを単なる割引メニューの一つとし
順番に提供していく。また、社内的なプロモー
心を捉えるために骨身を削る努力を続けてき
か位置付けていない。そして、
「ポイントによる
ションも重要で、
「パイロット・プロジェクト」的な
た事業会社にとって、
リテール金融の覇者とし
割引負担が収支を圧迫しているが、他社との
ものを立ち上げて成功体験をつくる。それをも
て大きな収益を手にするチャンスが到来してい
対抗上やめることもできない」と悲鳴をあげる
とに「全社的な意識改革、組織体制の整備」
るのである。
経営者も少なくない。 サービス事業の収益化へのステップ
5
ソリューション
の標準化・
横展開
収
益
性
4
オペレーション
アウトソーシング
3
ソリューション
提供
事業についての知見や適任の方が必ずしも
多くはない。
したがって、外部人材も含めた「少
人数の事業チーム」を組成するところから入る。
製品、物流、知財ノウハウも含めて、社内にある
「競争力のあるコアを棚卸する」。こうしたソリ
ューションあるいはサービス事業は誰にでも提
サービス事業
収益化の壁
製品と
サービスの
パッケージ
提供
ポイントカードによる
顧客基盤の強化
2
ハード+
サービス提供
1
ハード提供
へと進化させることが組織を動かす。
サービス事業の発展
6 コンサルタントが語る-1
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright(C) 2004 Nomura Research Institute,Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
金
融
コ
ン
サ
瀬ル
尾テ
ィ
ン
利グ
数部
上
級
コ
ン
サ
ル
タ
ン
ト
実は、
ポイントカードをうまく活用できていない
企業では、
「ポイントカードを使って何を達成す
コンサルタントが語る-2 7
2
コンサルタントが語る
るのか」という基本的な戦略が欠如しているこ
ほど手厚い割引を提供することこそがロイヤル
しての機能はもとより、
毎月特定日に会員限定の
を図り、
それによってさらに多くの会員を獲得し
とがほとんどである。そのため、
とにかく一人で
ティ向上の肝なのである。
全店割引セールを行う、請求書等の送付物に
て収益を拡大させていくという好循環サイクル
も多くの会員を獲得しようと焦るあまり、航空
これらの大原則が守られている企業では、
DMを同封するなど、様々な形で本業の売上
を辿ることができれば、新しい収益源を創出で
会社など多数の外部企業と提携し、
どこで何
ポイントカードは強力な武器となる。実際、我が
拡大へ貢献している。しかしながら、本当に驚
きることに加えて、本業の顧客基盤自体もます
を買っても使えるようなポイントカードに仕立て
国におけるポイントカードの代表的成功事例で
くべきことは、
こうした流通系カード会社の経常
ます拡大することができるのである
(図2)。
てしまうケースが散見される。また、
カード発行
あるヨドバシカメラの場合には、上記の原則を
利益がイオン、
ダイエーといったそれぞれの母
後も従来と変わらない販促施策を続ける結果、
守りつつ買上金額の10∼20%というような高率
体企業と比較して遜色のない100億円を超え
ポイント分がそのまま新たな持ち出しとなって
のポイントを付与することで、
顧客から「安い店」
る水準に達しており、母体企業以上に健全な
しまうケースも多い。
として高い支持を集め、売上を伸ばし続けて
しかし、
ポイントカードの本質的意義は、
「与
いる。
主要流通系カード会社の利益額(出所)各社事業報告書
えたポイントによって顧客をロックインすることで、
還元(特典利用)するのも、
どちらも自社での
図2
2
カード会員の増大
図2.
カード活用の成功サイクル (出所)野村
総合研究所
(単位:億円)
クレジットカードによる
新しい収益源の創出
(出所)野村総合研究所
図1
流通系主要4社 2001年度経常利益
自社の優良顧客を囲い込むこと」である。この
観点にたてば、ポイントを付与するのもそれを
経営を続けている会社もあることである
(図1)。
カード活用の成功サイクル
450
1
3
カードの魅力アップ
金融収益の拡大
412
400
350
利用に限って行うことが大原則であることは
4
300
明らかであろう。他社とポイント提携することで、
しかし、
ポイントカードによって何十万人もの
資金力アップ
図1.
主要流通系カー
(出所)
241ド会社の利益額 250
自社で与えたポイントを他企業での商品購入な
会員を獲得できる可能性がある大企業の場合
どに使われては、単なる割引にしかならない。
も
には、
これを既存事業に対する“守り”のツー
ちろん、他社で貯めたポイントを自社で使っても
ルとして位置付けるだけでは十分でない。カー
らえれば新たな顧客の開拓につながるが、航
ド会員を対象とした新たなサービスを開発し、
50
空会社・ホテル・レンタカーといった互いに強い
そこから新しい収益をあげることによって、
「事
0
各社事業報告書
200
190
これこそがCRMの真髄というべきものであり、
150
92
100
事実こうした狙いを背景にこの数年の間でも、
トヨタ自動車、
イトーヨーカ堂、
ソニー、
ローソン、
ファミリーマートといった著名企業が相次いでク
クレディセゾン
オーエムシー
イオンクレジット
ポケットカード
補完関係にある一部の異業種連合などを除く
業基盤の強化」というさらに高度な差別化を
と、極めて限定的な効果しかもたらさない。
達成しなければならない。
こうした高収益の源泉は、
カード会員がキャ
また、
ポイントカードの導入に併せて従来行っ
そのための、
カードによる差別化の次のステ
ッシングやローンといった金融商品を利用する
てきた特売セールやその宣伝のためのチラシ
ップはポイントカードをポイント機 能 付きクレジ
際の手数料である。こうした金融商品マーケッ
等を廃止し、
その原資をすべてポイントにあて
ットカードとして発行することであり、
イオンクレ
トは、従来からあるクレジットカード会社、消費者
ることも不可欠である。数量限定や時間限定
ジット
(イオングループ)やオーエムシーカード
(ダ
金融会社に加え、最近の都市銀行の本格参
などによる特 売は、
「 安 売りハンター」とでも
イエーグループ)
といった企業がその先駆者
入もあって拡大を続けており、年齢・性別を問
しかしながら、今や平 均で2枚 、なかには
呼ぶべき一部の顧客を潤すだけで、本当に
である。
わず幅広い消費者に利用されている。
5枚以上のクレジットカードを持っている消費者
ロイヤルティが高い優良顧客に対してはむしろ
こうした流通系カード会社は、本業である小
そのため、
自社で発行するクレジットカードか
すら珍しくない時代である。今さらクレジットビジ
不公平感を生むだけである。そのため、使えば
売企業とうまく連携することで数百万人に達す
ら得られる潤沢な利益にもとづいてポイントサ
ネスなど始めてうまくいくのだろうかと思われる
使う程得になるポイントカードによって優良顧客
る会員を獲得してきた。そして、
ポイントカードと
ービスの拡充などカードサービスの魅力アップ
経営者も多いだろう。
8 コンサルタントが語る-2
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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レジットビジネスへ本格参入している。
カード会員を獲得するカギ
∼カード商品開発力∼
コンサルタントが語る-2 9
2
コンサルタントが語る
ところが、そもそも我が国におけるクレジット
ことを徹底的に追求した結果、驚異的な成長
クレジットビジネスに関するノウハウを蓄積して
委託先の業務やシステムに大きく依存すること
カードの浸 透 度は米 国に比べると遙かに低
を続けてきた。キャピタル・ワンは、金利、各種手
いることも大きな利点である。
から、商品開発の自由度に一定の制限がつく
い。クレジットカードでの決済比率は、米国が
数料、付帯サービス、券面デザインなど、
カード
という可能性がある。このため、アウトソース
21.4%であるのに対して日本では6.6%に過ぎず、
商品を構成するほとんどすべての要素を変数
先の選定には十分な検討が必要である。
まだまだ成長の余地は大きい(1998年データ、
として自在に組み合わせることで、6,000種類
出所:The Nielson Report, 日本クレジット産
を超える商品を開発してきた。例えば、
ポイント
業協会)。
プログラムに関しても、出張の多いビジネスマン
さらに、
カード先 進 国である米 国において
にはフライトマイレージが倍になるがショッピング
一 方で、運 輸・ホテル・流 通などの企 業を
すら、未だ新規参入の余地が存在する。実際、
ポイントの付かないカードを、主婦には逆にショ
中心に、消費者を満足させる商品の開発には
米国のキャピタル・ワン・フィナンシャル
(以下、
キャ
ッピングポイントが倍になるがフライトマイレージ
自信があっても、
まったくノウハウのない金融
近年では、
ICカードの登場によるカード自体
ピタル・ワン)は、
クレジットカード普及率が70%
が付かないカードを出す、
といった具合である。
事業をゼロから始めることには強いためらいを
の機能アップによって、
カードの経営ツールとし
近くに達する米国市場において、1992年のカー
その成功の本質は、
ハイスピードな商品開発
感じる経 営 者 が 少なくないだろう。しかし、
ての利用可能性がますます大きくなってきた。
ド発行開始からわずか10年で4,000万口座を
にある。例えば、現在提供されているカードのう
その場合には、
クレジット業務を全面的にアウト
既存カード会社にとっては偽造・不正対策の
獲得した(図3)。
ち55%が6ヶ月前には、80%が1年前には、提供
ソースするという解決策をとればよい。 切り札としても期待されるICカードであるが、
されていなかったとされる。すなわち、年間数
今 春 、自社カードの発 行を開 始したイトー
その機能を活かした新しいサービスが次々に
キャピタル・ワンの成長 (出所)Capitl One Financial corporation
50
45
年末口座数(百万)
図3.
キャピタル・ワンの成長
図3
口 35
座
数
︵
百 30
万
︶
25
ICカードで変貌する
クレジット業界
万回に達するテストマーケティングを行うことで、
ヨーカ堂の場合には、
ジェーシービー(以下、
開発されている。
50
売れる商品を毎日発見し続けているのである。
JCB)
と全面的な業務提携を行うことにより、
たとえば最近、
クレジットカードと鉄道・バスの
45
もちろん、
こうした商品開発は容易なものでは
クレジット事業の経験がないわずかな数の社員
乗車券・定期券を一体化するという画期的な
40
なく、
我が国のカード会社にも例はない。
しかし、
によって、極めて短期間でクレジットカード子会
カードが開発された。これを受けて、2003度
だからこそ事業会社が成功できるチャンスが
社であるアイワイ
・カード・サービス
(以下、
IYC)
中にも、東日本旅客鉄道や阪急電鉄が相次い
あるのだ。
を立ち上げることに成功した。
で新たなカードの発行を開始する予定である。
変化し続ける顧客ニーズを捉えてハイスピ
このケースでは、
IYCはカード会員の獲得だ
運賃収入の減少に悩む鉄道会社にとってカー
ードで商品開発を行うことは、消費財メーカー
けを担当し、与信審査、債権管理・回収、顧客
ドへの期待は非常に大きいが、
膨大な数の通勤・
を中心とした我が国の事業会社の多くにとっ
応対といったクレジットカード固有のすべての
通学客をターゲットとした鉄道系カードは、
クレ
ては“お家芸”ではなかろうか。そのため、事業
業務・システムをJCBに委託している。これによ
ジット業界地図を大きく塗り替える可能性すら
会社であればこそ、本業で培ったノウハウを
り、
カードの発行を開始したその日から、
日本有
秘めている。
武器に魅力的なカード商品を開発し、今後の
数のカード会社であるJCBと同じ水準でサー
こうした動きに取り残されることのないよう、
管理債券($十億)
40
クレジット業務を征するカギ
∼アウトソーシング∼
(出所)Capital One Financial Corporation
20
35 管
理
債
30 券
残
高
︵
25 $
十
億
20 ︶
15
15
10
10
5
5
クレジットビジネスをリードしていくことができ
ビスを提供することが可能になったのである。
これまで金 融とは縁のなかった事 業 会 社に
0
るのである。特に、家電や自動車といったメー
ただし、スケールメリットを活かして自社で
おいても、今すぐカード活用に関する本格的な
カーの多くは、
カード会員獲得の拠点となる系
行うよりも低コストで業務委託できる、固定費を
検討に着手すべき時がきていると言えよう。
キャピタル・ワンでは、
「顧客ニーズに完璧に
列販売店をもつことに加え、系列のファイナンス
変動費化できる、
などアウトソーシングが本来的
フィットするようにカード商品を変化させ続ける」
子会社において既に与信や債権管理といった
にもつメリットも享受できる反面、
カード商品が
0
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001年
10 コンサルタントが語る-2
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