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抑うつの予防要因と してのメ タ認知的知覚の安定性の検討
明治大学心理社会学研究 第8号 2012
〔原 著〕
抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
村山 恭朗1)・岡安 孝弘
要 約
メタ認知的知覚とは,脱中心的な視点からネガティブな認知や感情を体験する認知的構
えである。近年の研究において,メタ認知的知覚は抑うつやうつ病リスクを軽減させるこ
とが報告され,メタ認知的知覚は抑うつへの予防要因になりうることが示唆されている。
しかしながら,予防要因として必要とされるメタ認知的知覚の縦断的な安定性はこれまで
検討されていない。そこで本研究は,相対的安定性と絶対的安定性の評価法を用い,女子
大学生とコミュニティから得られた成人の2群を対象としてメタ認知的知覚の安定性を縦
断的調査によって検討した。その結果,両群において,メタ認知的知覚の相対的および絶
対的安定性が認められた。
キーワード:メタ認知的知覚,絶対的安定性,相対的安定性,抑うつ
問題と目的
とから(Cuijpers&Smit,2004),抑うつ症状を
我が国におけるうつ病の生涯有病率は7%前
悪化させる要因を明らかにし,その要因に関する
後,12カ月有病率は約2%であり(川上ら,
研究を積み上げていくことはうつ病予防を促進す
2003),うつ病を発症した者の半数以上は寛解後
る上で臨床的,社会的意義があると思われる。
に再発もしくは再燃するという報告がある(Judd,
近年,認知行動療法領域において,脱中心性
1997)。さらに世界保健機構(World Health
(decentering)が注目されている。脱中心性とは,
Organization)は2020年までにうつ病は世界の精
心理的な距離を保ちつつ思考や感情を体験するこ
神保健を脅かす疾病の2番目としてリストアップ
とを指す(Safran&Segal,1990)。そして,脱中
している(Murray&Lopez,1998)。このことか
心的な視点でネガティブな認知や感情を体験する
ら,うつ病は現代社会に蔓延する精神疾患であり,
認知的な過程(認知的構え)はメタ認知的知覚
罹患後の治療は無論であるが,その発症予防も重
(metacognitive awareness)と呼ばれる(Teasdale
要となる。そして,健常者が示す抑うつ症状はう
et aL,2002)。メタ認知的知覚が弱い者はネガティ
つ病発症のリスク要因であると指摘されているこ
ブな認知や感情に同一化し,自己や環境を一義的,
悲観的に知覚してしまう。逆に,メタ認知的知覚
1)明治大学大学院文学研究科臨床人間学専攻
が強い者では,ネガティブな認知や感情は必ずし
一71一
村山 恭朗・岡安 孝弘:抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
も自己や現実を正しく捉えたものではなく,一過
抑うつの予防要因になり得ることが示唆される。
性のメンタルイベントのように知覚される。それ
一方,心理的な要因が精神疾患の発症や精神症
故,メタ認知的知覚が強い者はネガティブな認知
状の悪化を促すリスク要因であるためには,その
や抑うつ感を客観的に知覚し,それらに執着せず
要因が継時的に安定していることが必要とされる
自己や環境を多面的に柔軟に知覚できると考えら
(Ingram&Luxton,2005)。特に,その要因が抑
れる。そのため,メタ認知的知覚は抑うつを予防
うつのリスク要因と位置づけられるためには,抑
する要因(予防要因,protective factor;Ingram
うつ状態が変化する場合であってもその強さが安
et al。2011)になり得る可能性がある。
定していることが必要とされる(Santor et al.,
実際,メタ認知的知覚に関するこれまでの研究
1997)。このことから,リスク要因と同様に抑
において,メタ認知的知覚が強い場合には抑うつ
うつへの予防要因も抑うつ状態に左右されず継時
が低い水準で維持されることが指摘されている。
的に安定している必要があると考えられる。それ
例えば,うつ病患者よりも健常者ではメタ認知的
故に,メタ認知的知覚が抑うつの予防要因として
知覚が強いこと(村山・岡安,2012a;Teasdale
位置づけられるためには,メタ認知的知覚の強さ
et aL,2002),メタ認知的知覚が強いうつ病患者
が継時的に安定していることが求められる。逆に,
は,弱い患者と比べて,うつ病再発リスクが低い
もしメタ認知的知覚の強さが縦断的に変化する場
ことが報告されている(Teasdale et aL,2002)。
合,言い換えれば,抑うつの増減に伴ってメタ認
また臨床群(うつ病患者や既往歴がある者)を対
知的知覚の強さが変動する場合には,メタ認知的
象とした介入研究において,メタ認知的知覚の改
知覚は状態性の要素が強い要因であると考えら
善を目的としたマインドフルネス認知療法
れ,予防要因としての側面は薄れてしまうばかり
(MBCT;Segal et aL,2002)によって抑うつ症状
か,メタ認知的知覚は抑うつの一様相であると推
が軽減すること(Kenny&Williams,2007)や,
測される。しかしながら,これまでの研究におい
うつ病再発リスクが抑えられること(WiUiams et
て,メタ認知的知覚の安定性はあまり検討されて
al.,2000:Teasdale et aL,2002)が報告されてい
おらず,メタ認知的知覚の強さが一定期間をは挟
る。非臨床群を対象とした研究においても,同じ
んでも安定しているかは明らかにされていない。
ような結果が報告されており,マインドフルネス
そこで本研究は,縦断的な調査によってメタ認知
トレーニングを受けた抑うつ傾向にある大学生は
的知覚の安定性を検討することを目的とした。
メタ認知的知覚が改善することで抑うつの水準が
心理的要因の安定性に関するこれまでの研究に
低く維持されることが示されている(勝倉ら,
おいて,安定性の評定には相対的安定性(relative
2009)。またメタ認知的知覚が強い者ほど,抑う
stability)と絶対的安定性(absolute stability)
つ状態下において,うつ病発症や抑うつ悪化リス
という異なる二つの評定法が用いられている
クを高めるネガティブな認知(Rude et al.,2010)
(Santor et. al.,1997)。相対的安定性とは,個人
の喚起が抑えられることも見出されている(村山・
間にみられる相対的な得点差の安定性,または群
岡安,2012b)。これらの研究結果から,臨床群
内の得点順位の安定性(例えば,初回測定時点で
のみならず健常群に対しても,メタ認知的知覚は
高得点群であった者が,2回目の測定においても
一 72一
村山 恭朗・岡安 孝弘:抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
高得点群であるかどうか)であり,インターバル
管理職によって本研究の趣旨が説明された上,調
を挟んで測定された測定値間の相関が強い場合に
査は実施された。他は研究者および協力者によっ
その安定性が認められる。他方,絶対的安定性と
て研究趣旨が説明された上,対象者に配布,実施
は群全体が示す得点(平均値)の安定性であり,
された。2回の調査に参加し,すべての質問項目
2回の測定された平均値に差が認められない(有
に不備なく回答した112名(男性33名,女性79名,
意差が認められない)場合に絶対的安定性がある
初回測定時の年齢44.4±10.68歳,年齢範囲21−70
と認められる。これに倣い,本研究では相対的安
歳,20代:8名,30代:29名,40代:38名,50代
定性と絶対的安定性の両側面から,メタ認知的知
以上:37名)を対象とした。1回目調査はX年8
覚の安定性を検討することとした。
月初旬(T1),2回目調査はX+1年4月中旬(T2)
これまでの抑うつに関連する心理的要因(ネガ
であった。2回の調査問はおよそ9カ月であった。
ティブな反すうや抑うつスキーマなど)の安定性
両群ともに本調査への協力は自由意思に任せら
に関する研究において,対象の属性や年齢が安定
れた。なお,同一対象者による調査結果を識別す
性の程度に影響を与えることが報告されている
るために,フェイスシートにおいて,年齢,性別,
(Bagby et al.2004;Hankin,2008など)。このこ
所持している携帯電話の番号(下4桁)の記入を
とを踏まえ,本研究では,女子大学生とコミュニ
求めた。これを除き,個人を特定する情報(氏名
ティから得られた成人の異なる2群を調査対象と
など)の回答は求めなかった。
した。
調査材料
メタ認知的知覚尺度(metacognitive
方法
awareness scale;村山・岡安,2010,2012a,以下
調査対象と手続き
MCAS):MCASは二つの下位尺度(ネガティブ
Sample 1:関東圏にある私立女子短期大学の
な感情や認知への対応尺度ネガティブな認知の
学生を対象として,2回の調査が実施された。初
評価尺度)で構成され,日常生活で見られるメタ
回測定では76名が調査に参加した。2回目調査に
認知的知覚を伴う体験傾向の測定を目的にしてい
参加し,すべての項目に不備なく回答した53名(初
る。回答形式は6件法(1:非常に当てはまる一
回調査時において,18.98±1.15歳)を対象とした。
6:全く当てはまらない)であり,得点が高いほ
なお本調査の実施に際し,事前に大学管理責任者
どメタ認知知覚が強いことを表す。本研究では,
に対し調査目的が説明された。調査対象者には大
高い信頼性と妥当性が認められているネガティブ
学管理責任者から調査目的が口頭で伝えられると
な認知と感情への対応尺度のみを用い,メタ認知
共に,質問用紙のフェイスシートにも同様の調査
的知覚を測定した。その項目には「不安なときや
目的が記載された。1回目調査はX年5月中旬
落ち込んでいるとき,一方的な考え方をしてしま
(T1),2回目調査はX年9月中旬(T2)に実施
う方だ」などがある。反すう,体験の回避,思考
した。2回の調査問はおよそ5カ月であった。
抑制などとの間に高い相関が示され,基準関連妥
Sample 2:近畿地方に在住もしくは勤務する成
当性が認められている(村山・岡安,2010,
人を対象として2回の調査が実施された。一部は
2011,2012a)。
一 73一
村山 恭朗・岡安 孝弘:抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
自己記入式抑うつ尺度(Self−rating Depression
ではT1時点で10名(8.9%),T2時点で14名(12.5%)
Scale;Zung, 1965,以下SDS):抑うつの測定には
が中等度以上の抑うつ状態(50点以上)にあった。
SDSの日本語版(福田・小林,1973)を用いた。
相対的安定性
SDSは20項目で構成され,その半数の項目は否定
各測定値の平均および標準偏差はTable 1に示
的表現で,残りの半数が肯定的表現で記述されて
してある。メタ認知的知覚の相対的安定性を検討
いる。回答形式は4件法(1:ない又はたまに一
するために,各群におけるT1とT2とのメタ認知
4:ほとんどいつも)であり,高得点は強い抑う
的知覚の再検査相関を求めた。その結果,両群に
つ状態にあることを表している。
おいてT1とT2で測定したメタ認知的知覚の間に
は高い相関が認められた(Sample 1:r=.697,
結果
Sample 2:r=.709,共にp<.OOI)。また,両群
調査対象者の抑うつ状態
が示した相関係数には有意差は認められなかった
非臨床群を対象とした研究(アナログ研究)を
(Zニ.119, n.s.)。なお,各群共に, T 1とT2抑う
行う場合,その研究結果がどの程度臨床群に適用
つ状態間の相関は高かった(Sample 1:r=.688,
できるのかを計る上で,調査対象の中でうつ病な
Sample 2:r=.700,共にp<.001)。
どの診断基準を満たす可能性がある者の割合を示
絶対的安定性
すことが有益であること(奥村・坂本,2009)か
メタ認知的知覚の絶対的安定性を検討するた
ら,各サンプルの抑うつ状態を検討した。これま
め,対応のあるt検定によってT1とT2での測定値
での多くの研究において,SDSの得点が40点台を
の差を検討した。その結果,両群ともT1とT2で
軽度抑うつ状態としていることから(e.g.,横田・
のメタ認知的知覚の強さに差は認められなかった
山村,2007),それに則し抑うつ状態を検討した。
(Sample 1:t(54)=・.112, n. s., d=0.01;Sample
その結果,Sample l(大学生)ではT1時点で43
2:t(111)=・.247,n.s., d=0.02)。また, T1と
名(81.1%),T2時点で37名(69.8%)が軽度もし
T2での抑うつ状態を比較したところ, Sample 1
くはそれ以上も抑うつ状態にあった。Sample 2
ではT1−T2間で差は認められなかったが(t(54)
(成人)ではT1時点で37名(33.0%), T2時点で
=.239, n.s., d=0.03), Sample 2では有意差が認
46名(41.1%)が軽度もしくはそれ以上も抑うつ
められ,T1よりもT2において強い抑うつ状態に
状態にあった。またSample 1ではT1時点で20名
あった(t(111)=−3.2,p〈.Ol, d=0.24)。
(37.7%),T2時点で23名(43.4%)が, Sample 2
Table 1 Tl, T2の測定値およびその有意差と相関係数
一般成人(n=112)
大学生(n=55)
変数
T1
T2
t幡量
Tl−T2の
相関係数
T1
T2
t幡量
T1−T2の
相関係数
メタ認知的知覚 25.17(6.81)25.26(&34)t= −J22 0.Ol r=.697”’ 31.39(7.01)3L52(7448) t=−247 0.02 r=7709宰“
抑うつ症状 47.26(9.正0)47.02(9.78)t=239 0.03 r=.688’“ 36.41(8.95)38.54(&97)t=−320** O.24 r=.700”’
note:事* pく.01 串寧零p<.OOI
一74 一
村山 恭朗・岡安 孝弘:抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
考察
コミュニティの成人を対象とした場合であって
先行研究において,メタ認知的知覚はうつ病再
も,メタ認知的知覚には高い安定性があることが
発リスクを抑えると共に,抑うつの軽減を促すこ
認められると共に,メタ認知的知覚の強さは抑う
とが報告されていることから,メタ認知的知覚は
つ状態の増減の影響を受けないことが明らかに
抑うつに対する予防要因になり得ることが考えら
なった。以上の異なる二つのサンプルを対象とし
れる。しかしながら,予防要因であるために求め
た本研究の結果から,対象者の属性や調査期間お
られる継時的な安定性について,メタ認知的知覚
よび抑うつ状態に関わらず,メタ認知的知覚には
ではこれまで検討されていなかった。そこで本研
相対的および絶対的安定性があることが明らかに
究は相対的安定性と絶対的安定性の異なる二つの
なり,メタ認知的知覚は抑うつの予防要因となる
評定方法によってメタ認知的知覚の安定性を検討
要素である縦断的な安定性を満たすことが示され
した。また調査対象者の属性や調査期間によって,
た。
安定性の強さが影響されることが指摘されている
Beckの認知理論において,ストレスフルな出
ことから,本研究では,調査期間を変えると共に,
来事を経験する中で抑うつスキーマに代表される
女子大学生と一般成人という質的に異なる群を対
ネガティブな認知が抑うつを引き起こすことが仮
象とした。その結果,両群において数カ月を挟ん
定されており,そのため,これらのネガティブな
でもメタ認知的知覚の強さは安定していることが
認知は抑うつへのリスク要因とされている(Clark
認められた。このことから,メタ認知的知覚は高
&Beck,1999)。しかしながら,薬物療法を受け
い安定性を示すことが明らかになった。
た後のうつ病寛解患者が示すネガティブな認知の
Sample 1では,女子大学生を調査対象,調査
強さは健常者の水準にまで低下することが認めら
期間を5カ月とし,メタ認知的知覚の安定性を検
れていること(Eaves&Rush,1984;Hamilton&
討した。その分析の結果,T1とT2で測定された
Abramson,1983)から,一部ではネガティブな
メタ認知的知覚の間には非常に高い相関が認めら
認知の強さは抑うつ状態を反映すると指摘されて
れた。またTlとT2のメタ認知的知覚の強さには
いる(Teasdale,1983)。このことから,先行研
有意な差は認められなかった。この結果から,メ
究においてメタ認知的知覚の抑うつ低減効果が指
タ認知的知覚の相対的および絶対的安定性が認め
摘されてはいるものの,メタ認知的知覚が抑うつ
られ,女子大学生においてメタ認知的知覚は非常
の予防要因であるとは言い切れない可能性もあっ
に高い安定性を示すことが明らかになった。
た。しかしながら,本研究の結果,Sample 2に
Sample 2ではコミュニティからの成人を調査対
おいて,抑うつ状態が強まってもメタ認知的知覚
象とし,調査期間を9カ月として検討した。その
の強さは変化しないことが認められた。このこと
結果,Sample 1と同じように, TlとT2の測定値
から,メタ認知的知覚は抑うつ状態を反映したも
間には高い相関が認められた。さらに,Sample
のや抑うつの一様相ではなく,抑うつとは独立し
2ではTl−T2間において抑うつ状態の悪化が認め
た心理的要因であることが実証された。これに加
られたが,T1−T2間におけるメタ認知的知覚の強
えて,先行研究において,メタ認知的知覚の改善
さには変化が認められなかった。このことから,
を通じた抑うつの軽減が報告されていること(勝
一75一
村山 恭朗・岡安 孝弘:抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
倉ら,2009)を踏まえると,メタ認知的知覚は抑
ら,反すうとは異なり,メタ認知的知覚の強さは
うつとは独立した要因であると共に,抑うつに先
群内の相対的な強さが維持されるだけではなく群
行して存在する心理的要因であり,抑うつの予防
全体が示す強さも安定しており,それ故にメタ認
要因になり得るものであると考えられる。非臨床
知的知覚は外的環境の影響を受けにくい要因であ
群を対象として,メタ認知的知覚の研究はこれま
ると考えられる。つまり,調査対象の属性に関わ
であまり行われておらずメタ認知的知覚の研究は
らず,メタ認知的知覚は安定性の高い心理的要因
萌芽的な段階にある。今後,抑うつやうつ病発症
であることから,メタ認知的知覚は将来の抑うつ
に及ぼすメタ認知的知覚の影響に関するさらなる
状態やうつ病リスクを予測する上で反すうよりも
検討が期待される。
説明力が高い要因である可能性が考えられる。今
先行研究において,メタ認知的知覚とは反義的
後,さらなる縦断的調査を行い,メタ認知的知覚
な心理的要因であるネガティブな反すう(以下,
の抑うつやうつ病リスクの予測に関する検討が期
反すう;Teasdale,1999)は抑うつのリスク要因
待される。
と指摘されている。先行研究において,反すう傾
メタ認知的知覚とパーソナリティ傾向
向が強い場合には抑うつの維持や悪化が引き起こ
うつ病に関するこれまでの研究において,特定
されるだけではなく,うつ病発症リスクが高まる
のパーソナリティ傾向はうつ病を引き起こす根本
ことが見出されている(Nolen・Hoeksema&
的な要因と指摘されている。神経症傾向はその一
Morrow,1991;Nolem−Hoeksema&Larson,
つであり(Kotov et aL,2010など),神経症傾向
1999)。しかしながら,反すうに関して,相対性
が高い場合にはうつ病発症リスクが高まるだけで
的安定性は認められているものの,絶対的安定性
はなく(Boyce et al.,1991),うつ病エピソード
は認められないことが報告されており(Bagby
が長引きやすいことが報告されている(Duggan
et aL,2004;Hankin,2008),反すうでは群内にお
et aL,1990)。これらのパーソナリティ傾向は遺
ける相対的な強さは比較的安定しているものの,
伝/生物学的な影響を強く受ける気質の一側面で
群全体としての強さは変化すると考えられる。こ
あると言われ(Watson et aL,2006),その傾向は
れを支持するように,強いストレッサーを経験す
幼少期から発現し長期的に安定していると指摘さ
る場合には,反すうが強まることが縦断研究にお
れている(Klein et al.,2010)。実際,4−6年生
いて示されている(村山・岡安,2012c;Nolen・
であっても神経症傾向が高いほど強い抑うつ状態
Hoeksema et al.,1999)。それ故,一部の研究で
にあること(Ehrler et aL,1999)や,神経症傾向
は反すうは抑うつのリスク要因と指摘されている
の高さはうつ病が寛解した後であっても断続的に
が,反すうの強さは環境要因によって変動する可
維持されたままであることが見出されている
能性があり,状況次第では抑うつ状態を予測する
(Roberts&Gotlib,1997)。本研究の結果メタ
ことは困難である可能性も考えられる。他方,本
認知的知覚は抑うつの増減に関わりなく1年弱の
研究の結果,反すうとは反義的な要因であり抑う
間,継時的に安定していることが示された。この
つの予防要因と示唆されるメタ認知的知覚の相対
ことから,メタ認知的知覚もパーソナリティ傾向
的および絶対的安定性が認められた。このことか
の一つである可能性も考えられよう。しかしなが
一76一
村山 恭朗・岡安 孝弘 抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
ら,10週前後に渡るMBCTや認知療法によって
特有の地域文化などがデータに影響を及ぼした可
メタ認知的知覚は改善し向上する研究報告
能性も考えられる。今後,これらの影響を弱める
(Teasdale et a1.,2002)を踏まえると,メタ認知
ために,複数の大学や地域で調査対象者を集める
的知覚は可塑的な要素があり不変的とされるパー
必要があると思われる。
ソナリティには位置づけられないと思われる。
本研究では,異なる2群を調査対象とし,それ
他方,特定のパーソナリティ傾向を持つことで,
ぞれの群における抑うつ状態を確認した。
特定の情報処理パターンや特定の情動が駆動,喚
Sample 1では半数以上が, Sample 2ではおよそ
起しやすいことが示唆されている。例えば,神経
30%が軽度以上の抑うつ状態にあることが示され
症傾向が高い者ほど反すう傾向が高いことが報告
た。しかしながら,本研究の調査対象者は臨床群
されている(Nolan et aL,1998)。このことから
ではなかったことから,うつ病歴がある者やうつ
すると,メタ認知的知覚はパーソナリティ傾向と
病患者においてもメタ認知的知覚の安定性が認め
は異なる要因であると考えられるが,特定の抑う
られるかどうかは定かではない。実際メタ認知
つ的パーソナリティに見られる特異的な特性や情
的知覚の基礎概念である脱中心性に関して,薬物
報処理パターンの一つであり,それ故に,本研究
治療前後(約6カ月のインターバル)の大うつ病
が示したように継時的に安定している可能性があ
性障害を罹患する患者が示す脱中心性は変化して
る。メタ認知的知覚に関する研究は未だ萌芽的な
いたことが報告されている(Fresco et al、,2007)。
状況にあるため,メタ認知的知覚は遺伝/生物学
今後,臨床群を対象としたメタ認知的知覚の安定
的な影響を強く受ける要因であるか,発達段階早
性の検討が必要であると思われる。
期(学童期など)から発現し抑うつなどに影響を
与える要因であるか,うつ病や慢性的な抑うつ状
引用文献
態(気分変調性障害など)の素因と指摘されてい
Bagby, R. M., Rector, N A., Bacchiochi,工R.,&
るパーソナリティ傾向によってもたらされる特性
McBride, C.2004 The stability of the response
的な要因であるかなど,メタ認知的知覚と遺伝的
styles questionnaire rumination scale in a sample
な影響やパー一ソナリティ傾向との関連性はほとん
of patients with malor depression. Cognitive
ど明らかにされていない。今後,メタ認知的知覚
Therapy and Research,28,527−538.
のさらなる研究の発展が期待される。
Boyce, P, Parker, G, Bamett, B, Cooney, M.,&
今後の課題
Smith, E 1991 Personality as a vulnerability
本研究の限界として,調査対象者が挙げられる。
factor to depression. British Journal of
本研究のSample 1は関東圏にある女子短期大学
Ps:ソchiatry,159,106−Il4.
に通学する学生を対象とした。単独の女子大学の
Clark, D. A.& Beck, A. T l999 Scientific
学生を対象としたことから,サンプリングバイア
ノ”oundations of cognitive theory and therapy{ゾ
スの影響もあったと考えられる。またSample 2
depre∬ion. New Ybrk:Wiley
も同様に,本調査の協力者によるサンプリングバ
Cuijpers, P,&Smit, F 2004 Subthreshold
イアスの可能性や調査を実施した地域に潜在する
depression as a risk indicator fbr major depressive
一77一
村山 恭朗・岡安孝弘抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
disorder:asystematic review of prospective
New Ybrk.
studies. Acta 1)sychiatrica Scandinavica, 109,
Ingram, R. E.,&Luxton, D. D.2005 Vulnerability−
325−331.
stress models. In B. L. Hankin&J. R. Z. Abela
Duggan, C. F, Lee, A. S.,&Murray, R. M.1990
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Does pefsonality predict long−term outcome in
vulnerability−stress perspective. pp・32−46・
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Thousand Oaks, CA.
19−24.
Judd, L. L.1997 The clinical course of unipolar
Eaves, G,&Rush, A. J.1984 Cognitive pattems in
major depressive disorder. Archives of General
symptomatic and remitted unipolar major
PSソchiatrソ,54,989−991.
depression. Journal of Abnormal・Psアcholo9ア,93,
勝倉えりこ・伊藤義徳・根建金男・金築優
31−40.
2009 マインドフルネストレーニングが大学生
Ehrler, D. J., Evans, I G.,&McGhee, R. L l 999
の抑うつ傾向に及ぼす効果一メタ認知的気づき
Extending big−five theory into childhood:A
による媒介効果の検討一,行動療法,35,
preliminary investigation into the relationship
41−52.
between big−five personality traits and behavior
川上憲人・大野裕・宇田英典・中根充文・竹島
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村山 恭朗・岡安 孝弘 抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
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村山 恭朗・岡安 孝弘 抑うつの予防要因としてのメタ認知的知覚の安定性の検討
Investigating Stability of Metacognitive Awareness
As a Protective Factor of Depression
Yasuo MURAYAMA, Takahiro OKAYASU
ABSTRACT
Metacognitive awareness(MCA)is de丘ned as a cognitive set in which negative thoughts or
feelings are experienced within a de−centered perspective. Recent research has indicated that
MCA reduces depressive symptoms and risk of depressive disorders, which has suggested that
MCA could be a protective factor toward depression. However, only a few studies have
examined whether MCA shows longitudinal stability which a protective factor should have.
The purpose of the current study was to longitudinally investigate the relative and absolute
stability of MCA in two different samples, female college students and adults in a community.
The results indicated that both of the samples showed the relative and absolute stability of
MCA.
Key Wbrds:Metacognitive Awareness, Absolute Stability, Relative Stability, Depressio11
一81一
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