...

先進事例:地域連携会議と コーディネート機能

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

先進事例:地域連携会議と コーディネート機能
9
The National Mental Care Project
プロジェクトの進展
先進事例:地域連携会議と
コーディネート機能
The National Mental Health Care Project
53
The National Mental Care Project
9
プロジェクトの進展
先進事例:地域連携会議と
コーディネート機能
本プロジェクトで推奨している要素である地域連携会議とコーディネート機能について
は、いまだ系統的に報告できる段階ではない。現在は、この2つの要素が地域で実装され
るために解決すべきテーマを、先進事例から分析している。認識している解決すべきテー
マは、次の通りである。
コーディネート機能(症例)
実施主体
対象者の選定
地域連携会議(制度運用)
どの組織で誰が担うのか
公的セクターの関与形態
濃厚な支援*が必要な対象者
地域での見守り*が必要な対象者
―
人口あたりの上記対象者
単位あたりの住民規模
*濃厚な支援・見守り:受療・服薬状況を把握し、中断の可能性がある場合は早い段階で連絡して
受療・服薬を続ける支援をする必要がある対象者
ⅰ) 岐阜県大垣地域・兵庫県川西市・熊本県荒尾市(認知症)
岐阜県大垣地域(人口 16.3 万人)
、兵庫県川西市(人口 15.6 万人)
、熊本県荒尾市(人口 5.5
万人)では、認知症の患者・家族手帳を用いながら、コーディネーション機能と地域連携
会議が活発に実施されている 1)。
大垣モデルは、手帳を情報通信技術と連動する運用研究段階であった。認知症疾患医療
センターが中心となり、地域の医師会との意見交換を続けるとともに、自治体職員を招い
た講演会を開催するなど、
地域連携会議の基盤を整備しつつある。
大垣モデルと熊本
(荒尾)
モデルでは、標準化尺度によるモニタリングを準備していた。
兵庫(川西)モデルは、大阪大学で開発された手帳が、川西市で公式に運用されていた。
この手帳の主目的は、患者の治療ケアに関する情報を、医療機関や介護施設の職員のみな
らず、家族と共有するためにデザインされていた。川西市
(地域包括支援センター)
職員が、
川西医師会の協力の下で中心的な役割を担っていた。川西市は、診療所等の医師、介護施
設職員および家族が一堂に会する会議を、情報共有と運用方法の周知のために、定期的に
開催している。多様な地域の関係者が参加できるように、毎月別々の地域の会場で開催し
ていた。転倒リスクが高まった認知症者に対するベンゾジアゼピン系薬剤の整理がなされ
たり、認知症の行動・心理症状の報告に基づいて処方を追加して安定した事例などがあっ
た。なお、手帳を頻繁に活用している対象者は、人口 1 万対 4(頻活用)~ 10 名(独居)で
あるとの試算がなされている。
熊本(荒尾)モデルは 2012 年に熊本大学神経精神医学教室によって開発された。この教室
は熊本県の認知症疾患医療センター設置・運用計画および地域連携パスの開発・活用促進の
中心的役割を担ってきた。熊本モデルの記録は、予定、診断・治療、モニタリングおよび紹
介の要素に焦点を当てられていた。紹介状は診療報酬における紹介加算の算定ができるよう
54
The National Mental Health Care Project
にデザインされていた。熊本県の10 の認知症疾患医療センター圏域のひとつである荒尾市で
は、
手帳を活発に活用していた。認知症治療のみならず、
歯科医との連携にも活用されていた。
また、複数の医療機関における処方薬の整理を目的とした一覧表が、手帳に盛り込まれてい
た。手帳を配布する人口は、人口1 万にあたり5 名前後ではないかとの試算がなされている。
1)Ito H, et al. Open J Psychiatry 5, 129-136, 2015.
ⅱ) 福岡県小郡地域(糖尿病)
福岡県小郡三井太刀洗地区の人口は、小郡市(59,000 人)および太刀洗町(15,000 人)の
人口約 74,000 人の地域である。2006 年にこの地域に初めて糖尿病専門医が着任した。
「ど
の診療所でも標準的な糖尿病治療ができる」ために、日本一の糖尿病診療モデル地区をめ
ざして、
「全診療所」と糖尿病治療の連携を強化してきた。全診療所を対象としたのは、1
施設でも参加しないことにより、中断者がその医療施設に集中する危険性を感じたためで
ある。この地域にある、すべての診療所、調剤薬局および歯科医療機関とは、定期的に意
見交換ができる枠組みをすでに構築している。
ポイントは、コーディネートナースと糖尿病療養指導士の活躍である。この医療機関で
は、現在 20 名の糖尿病療養指導士(9 看護師、3 管理栄養士、3 薬剤師、2 臨床検査技師、3
理学療法士)が勤務している。
コーディネートナースは、他診療所や院内他科から紹介された糖尿病患者を逆紹介する
場合、逆紹介状をもって、各医療機関に説明に訪問している。2007 年からは連携パスを
用いて説明をしている。さらに院外糖尿病教室や薬局歯科眼科連携の活動も進めている。
それぞれの診療所への訪問は、2 か月に 1 回以上である。急激な血糖悪化・ドロップアウ
ト発生有無のチック、また専門医受診のお知らせなどを行っている。さらに、中断予防の
目的で、会報を作成・郵送したり、ウォークラリーへの参加を呼びかけている。なお、2
か月以上受診のない対象患者に対しては、電話・手紙連絡(2 回)を行っている。その結果、
パスを持参しての再診率、眼科受診率および尿蛋白検査実施施設割合は、着実に増加して
いる。さらに、糖尿病性腎症による透析導入人数の増加が抑制できていることが、近隣地
域の増加と比較することによって確認できている。
The National Mental Health Care Project
55
ⅲ) 沖縄県での保健医療情報の統合
沖縄県医師会は、2007 年度から特定健康診査の結果を基本情報に、各医療機関におけ
る検査結果や地域医療連携パス情報、また医療機関や各医療保険者が行う特定保健指導情
報等を集積及び共有し、県民への適切な保健指導や医療勧奨、治療等を行うための取組み
(「おきなわ津梁ネットワーク」
)を行っている。保険者(国保・協会けんぽ)のデータから、
糖尿病治療等が必要な対象者を抽出し治療を継続しているかを把握できる仕組みである。
受診の確認や中断者への関わりは、保健師(保険者)が実施している。医師会は会員医師
がこのネットワークに参加することを促すさまざまな工夫を行っている。
ⅳ) うつ病
かかりつけ医での診療でのうつ病で、精神科医への紹介がなされた事例のプロセスは、
稲垣らの報告が詳しい(図参照)1,2)。また、精神科医医療との連携がきわめて密接である
大学病院循環器内科でのうつ病および精神科医との連携については、
図を参考にされたい。
①精神科医との連携システムが構築され、②一定の知識と技術が蓄積されている場合、精
神科医に紹介する頻度は、日常診療において 0.2%前後である可能性が高いことを、この 2
つの事例は示している。
1)長健、他.精神科治療学 29: 379-386, 2014.
2)稲垣正俊、他.日本社会精神医学会雑誌 22: 155-162, 2013.
56
The National Mental Health Care Project
9.情報通信技術開発
本プロジェクトでは、患者・家族の治療への参画を促すという観点から、患者手帳を明
確に位置づけ、情報通信技術は手帳を補完する機能を担うというコンセプトで、システム
モデルを構築してきた。開発したシステムは大きく 2 つである。
複数の慢性疾患の
ⅰ)
管理
複数の慢性疾患を有する患者を、地域で複数の医療機関で治療を続けるためのシステム
を構築した。将来的に保健・介護の領域との連携ができることを見据えて、
患者名ではなく、
担当者のみが患者を特定できる対照表を持つ「連携可能匿名化」された一意の 15 桁の番号
で、許可された関係者が供覧できるシステムである。このコンセプトでシステムを開発し
た結果、情報を共有する関係者の範囲を、各地域で柔軟に設定することが可能となった。
供覧できる内容は、①処方薬、②検査値、転倒リスク、通院・通所継続状況(中断予防情報)
である。その入力・閲覧画面イメージを図に示す。関連システムとして、Social Network
System(SNS)の画面、および患者・家族のメールアドレスへリマインドできるシステム
が活用できるようにしている。2015 年から希望地域における実運用が開始している。
ⅱ)
服薬状況に関する
情報の共有
服薬アドヒアランスを高める工夫には、高齢者医療では(1)服薬数を少なくする、
(2)
服用法を簡便化する(例:1 日の回数へ減らす)
(
、3)介護者が管理しやすい服用法にする、
(4)
剤形を工夫する(例:口腔内崩壊錠や貼付剤)
、
(5)一包化調剤を指示する、
(6)服薬カレン
ダー・薬ケースの利用する、
が挙げられている(日本老年医学会編、
健康長寿診療ハンドブッ
ク、
2011)
。服薬カレンダーは、
高齢者や精神障害者には日常的に用いられている。プロジェ
クトでは、このカレンダーの服薬忘れを遠隔でも把握できる仕組みの開発を進めてきた。
本開発は、医療機器等の開発を所管する国立障害者リハビリテーションセンター、認知
症者の在宅生活支援に服薬支援機器を用いた研究に取り組んでいる信州大学と慶応大学と
当センターの 4 者の共同研究という枠組みで進めてきた。当センター病院の医師、看護師、
薬剤師が参画しながら検討している。
The National Mental Health Care Project
57
また、国内外の先行事例を収集するとともに、コンソーシアムを立ち上げて現状の共有
を公開で行ってきた。平成 25 年度は服薬支援機器の基本型を開発し、平成 26 年度前半は
基本型を搭載したモデル機作成して研究会議を通じての意見収集を行ってきた。平成 26
年度後半は、国立障害者リハビリテーションセンターの研究費の枠組みに移行し、本プロ
ジェクトでは共同研究組織として構築してきたプラットフォームの運営と、開発機器を用
いた臨床研究を企画している。
共同研究メンバー
58
The National Mental Health Care Project
服薬支援機器開発コンソーシアム
服薬カレンダー
Fly UP