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屋久島(電気自動車)調査団レポート
屋久島(電気自動車)調査団レポート 目次 第 1 章 まえがき ----------------------------------- 2 第2章 屋久島の自然- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 2 第 3 章 電気自動車の導入の経緯 - - - - - - - - - - - - - - - - - - 4 3.1 上屋久町役場の経緯 3.2 屋久町役場の経緯 3.3 その他の機関での経緯 3.4 「屋久島低公害車普及検討会」 第4章 使用実態 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 9 4.1 屋久島の低公害車数(電気自動車・ハイブリッド自動車) 4.2 活用状況および走行距離 4.3 充電方法と運用 4.4 走行性能に対する評価 4.5 航続距離に対する評価 4.6 故障・ 修 理・メンテナンス の 実 績 と 評 価 4.7 バッテリーの劣化(航続距離の低下) 4.8 価格と維持コスト( 燃 料・電力料を含む) 4.9 その他の評価と不満 ・要望等 第 5 章 今後の計画 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 13 第 6 章 所感 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 14 第 7 章 あとがき - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 14 第 8 章 資料 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 15 8.1 質問事項 8.2 電気自動車の仕様 8.3 自動車のエネルギー変換効率 8.4 大都会の環境対策への提言 8.5 特定地域へ電気自動車の導入について 8.6 廃 食 油 8.7 富士山の環境をよくするには 8.8 Y S 1 1 の開発について 第 1 章 まえがき 世界自然遺産の島、屋久島。その屋久島で電気自動車を導入し、その普及に努めている という情報がある委員を通じて第二技術委員会の我々の耳に入った。屋久島といえば縄文 杉、年間降雨量8,000∼10,000mm、亜熱帯気候、等々が思い浮かぶ。誰が、 いつ、何のために、導入/普及に熱心なのだろうか?好奇心の虫がムクムクと目覚めてき た。 早速、全委員から調査団員を募集することとした。まず事前に書籍、電気自動車製造メ ーカー、インターネット等を駆使して屋久島と電気自動車の情報を手分けして収集した。 夏も終わりの9月上旬、近海で台風が停滞している中、調査団は屋久島めがけて出発した。 この報告書は現地で見聞してきた事実を忠実にまとめ上げたものである。そのため、文中 で前後の矛盾や、数値の違いなどがあるかもしれない。見聞録としてご理解いただきたい。 第2章 屋久島の自然 屋久島の概況は、平凡社世界大百科事典によると、以下の通りである。 「鹿児島県南部,大隅諸島中の島。大隅半島の南端から南へ約 60km,種子島の南西約 20km に位置し,面積 503km2,周囲約 105km の五角形状の島である。熊毛郡に属し,北半の上屋 久町と南半の屋久町に分かれる。人口約 1 万 3430(1995)。古第三紀層とそれを貫く花コウ岩 層からなる高峻な島で,最高所は九州一の標高をもつ宮之浦岳(1935m)。これを取り巻くよ うにして永田岳(1886m),黒味岳(1831m)などがあり,いわゆる八重岳を構成している。 《日本書紀》に,616 年(推古 24)掖玖(やく)人が大和朝廷に入貢したとあるのが,屋久島 が記録に登場する初めであり,以後遣唐使船や海上交通の要地として利用された。中世, 島津氏の支配下に入り,一時は種子島氏に治められたが,1612 年(慶長 17)以降島津氏の直 轄領となり,奉行が置かれた。島の 90%が山林,そのうち 80%が国有林である。農業は, ポンカン,タンカンなどのかんきつ類,エンドウなどの園芸作物,ガジュツ(ショウガ科。 漢方で根茎を健胃剤とする)の栽培と加工などが行われる。漁業はトビウオやカツオを主と する。降水量が多いため水力発電に適するが,島外への送電はできない。 島周辺の低地は,年平均気温 20℃前後で温暖であり,サンゴ礁も見られ,ガジュマル, アコウ,クワズイモなどが育つ。また降水量も多く,平地で年間 4000mm 内外,山地では 8000mm を超えるところもある。このため山岳地帯では高度による植物相の変化に特徴があ り,標高 700∼1000m 以下はクス,カシなどの照葉樹林帯,1500m あたりまでは屋久杉帯, これを越えるとヤクザサ帯となる。屋久杉はとくに有名で,樹高 20m,直径 1∼2m に達す るものが 9 割を超す。樹齢 300 年以下のものは屋久杉とはいわず,コスギと呼ばれる。屋 久杉の巨木の中には,樹齢 2800 年の白谷大杉,根回りが 32.5m のウィルソン杉,42m の大 王杉,43m の縄文杉などがあり,木目が美しいので高級建築材ばかりでなく工芸品用材とし ての価値も高い。これらは宮之浦川支流の白谷川渓谷にある自然観察林や,東岸の安房(あ んぼう)から 16km の屋久杉ランドなどで見ることができる。屋久杉原始林は特別天然記念 物に指定されている。標高 1600m 付近の花之江河(はなのえごう)は高所湿原として貴重であ る。動物種も数が多く,ヤクシマザルやヤクシカなどの著名なもののほか,アカヒゲ,ツ マベニチョウ,キリシマミドリシジミ,ツグミの 1 種のアカコッコ(天)などが生息する。1993 年 12 月,屋久島は世界遺産に指定された。 自然に恵まれた優れた観光地で,尾之間(おのあいだ)温泉,湯泊温泉などもある。鹿児島 港から定期船で約 4 時間,ジェットフォイルで 2 時間半,鹿児島空港からの航空路(40 分) もある。」 図1. 屋久島地図 屋久島は、急峻な山と豊富な水を背景に、必要電力量の約 8 割を水力発電によるクリーン エネルギーによって賄っている。この特性を生かして、全てのエネルギーを再生可能なク リーンエネルギーから生み出すという目標に向かい、新エネルギーの導入に取り組んでい る。 屋久島の道路は、周囲を一周する平坦路と島の中央に伸びる山岳路に別れている。周囲の 道は全周 100km 程度であり、走行距離に制限があるが坂道走行は得意な電気自動車に適し ている。すべてを電気自動車に置き換えると排ガスを一切出さない究極のクリーンな環境 を得ることができる。 なお、屋久島における環境に対する決意は、以下の屋久島憲章に示されている。 1.わたくしたちは、島づくりの指標として、いつでもどこでもおいしい水が飲め、人々 が感動を得られるような、水環境の保全と創造につとめ、そのことによって屋久島の価 値をといつづけます。 2.わたくしたちは、自然とのかかわりかたを身につけた子供たちが夢と希望を抱き、世 界の子供たちにとって憧れであるような豊かな地域社会 をつくります。 3.わたくしたちは、歴史と伝統を大切にし、自然資源と環境の恵みを活かし、その価値 を損なうことのない、永続できる島づくりを進めます。 4.わたくしたちは、自然と人間が共生する豊かで個性的な情報を提供し、全世界の人々 と交流を深めます。 第 3 章 電気自動車の導入の経緯 屋久島におけるEV (電気自動車)の導入については、公共輸送機関としての鉄道のな い屋久島においては,島民の日常の足として自動車は欠かせない移動手段となっている。 一方,地球温暖化防止対策の一つとして二酸化炭素排出量の少ない低公害車が近年脚光を 浴びている。そこで今,世界自然遺産の島・屋久島にふさわしい島内交通手段として,低 公害車特に究極のクリーンエネルギーカーであるEV の導入についての取り組みが進め られている。 ・屋久島全体の低公害車数 22 台(内電気 17 台 昨年 4 台増加、ハイブリッド 5 台 内レ ンタカー1 台、昨年レンタカー1台増加) ・内訳:上屋久町 8 台(内ハイブリッド車 1 台)、屋久町 3 台、上屋久郵便局 1 台、 屋久島環境文化財団 1 台、屋久島電工 1 台、屋久島空港管理事務所 1 台、屋久島ユー スホステル 1 台(ハイブリッド)、トヨタレンタカー 1 台(ハイブリッド)、他は民間? ・年に数回フォーラムなどを開催し、低公害車の宣伝普及を図っている。2000 年は、3 月 クリーンエネルギーフォーラム、5 月世界遺産会議、小学生を対象にした環境学習教室開催 など活発に活動している。 ・フェリー利用(往復 4 5 万円)は、トラックが多い。観光客は、フェリー、水中翼船か 飛行機で入って、レンタカーを借りるのが一般的。全部でレンタカーは 300 台(夏期)。今 後、ハイブリッドレンタカーが増える傾向。 ・冬季においては、雨が比較的少なく河川の水量が減少するので、水力発電量が減少し、 火力発電に依存する割合が大きくなる。年間で水力発電に約80%、火力発電に約20% 依存している。屋久島の北部は、年間を通じて風速5m/s以上の強風が吹き、冬季は特 にその傾向が強い。この冬季の強風を活用して風力発電を導入し、クリーンエネルギーの 有効活用を図ることにより、火力発電に対する依存度を低めることを目指している。しか しながら南部では冬季の風がさほど強くなく風力発電の構想は中断している。 3.1 上屋久町役場の経緯 ・上屋久町における電気自動車等導入の経過は以下の様であった。 平成 7 年 11 月 低公害車重点的導入調査事業を環境庁から委託し、事業用車両としてダイ ハツハイゼットバン 2 台を導入 平成8年11月 エコスタンド1 か所設置(上屋久町小瀬田) 平成9年3月 エコスタンド2 か所設置(上屋久町宮之浦、屋久町尾之間) 平成 9 年 8 月 財団法人グリーンクロスジャパンよりトヨタ RAV4LEV 1 台寄贈 平成10年1月 屋久島低公害車普及検討会発足 平成 10 年 3 月 ダイハツハイゼットバン 2 台を廃車処分(台風 19 号により使用不能とな ったため) 平成 10 年 10 月 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)より地域新エネルギー導 入促進事業(クリーンエネルギー自動車)の採択が決定し、上屋久町電気自動車等普及促 進事業を開始。(事業費:16,630 千円 補助金:8,314 千円) 平成 10 年 12 月 トヨタ RAV4LVEV 2 台、ダイハツハイゼットバン EV 2 台を導入 平成 11 年 トヨタ RAV4LVEV 2 台 プリウス 1 台 ? 平成 12 年 10 月 トヨタ RAV4 1 台、 コースターハイブリッド 1 台(全国で 34 台の販売 実績、25 人乗り)、プリウス 1 台導入予定。(事業費:13,291 千円 補助金額:6,236 千円) ・上屋久町電気自動車等普及促進事業:平成 10 年から 12 年にかけてクリーンエネルギー 自動車を合計 11 台(電気 8、ハイブリッド 3)を導入し、公用車として使用するとともに クリーンエネルギー自動車をレンタル事業等に導入してもらうための啓蒙活動に活用する。 なお、事業費については地域新エネルギー等促進対策費補助金(補助率:事業費の 1/2 以 内)を活用している。 写真1 上屋久町で電気自動車と記念写真 3.2 屋久町役場の経緯 ・屋久町役場における電気自動車等導入の経過は以下の様であった。 平成7年11月 屋久町2台の軽自動車タイプ(ダイハツハイゼットバン)のEV 導入(環 境庁の「低公害車重点的導入調査事業受託事業」) 平成9年3月 エコスタンド2 か所設置(上屋久町宮之浦、屋久町尾之間) 平成9年11月 屋久町にホンダEV プラス1 台導入 平成10年1月 屋久島低公害車普及検討会発足 写真2 屋久町で電気自動車と記念写真 3.3 その他の機関での経緯 ・その他の機関における電気自動車等導入の経過は以下の様であった。 平成7年11月 屋久島電工(株)1台の軽自動車タイプ(ダイハツハイゼットバン)のEV 導入(環境庁の「低公害車重点的導入調査事業受託事業」) 平成8年7月 屋久島環境文化財団にダイハツハイゼットバンEV1 台導入 平成9年10月 上屋久郵便局にダイハツハイゼットバンEV1 台導入 平成10年1月 屋久島低公害車普及検討会発足 ・その他、レンタカー会社、ユースホステルにも導入された。 3.4 「屋久島低公害車普及検討会」 会 員: 環境庁屋久島管理官事務所,屋久島営林署,屋久島森林環境保全センター,上屋久郵便局, 屋久島環境文化財団,屋久島電工,屋久島交通,まつばんだ交通,鹿児島県レンタカー協 会屋久島支部,上屋久町,屋久町 事務局: 屋久町企画課(09974 7 2111 ) ・屋久島低公害車普及検討会 (1) 場所:屋久島全島 (2) 内容:現在、屋久島には電気自動車が 7 台導入されていて、エコステーションも 3 箇所 に設置されている。そこで、屋久島に EV を更に普及させるために、中心組織となる検討会 を発足させ、EV 導入プログラムを検討、実施や EV 普及の啓蒙活動を行う。 (3) 屋久島に電気自動車普及を推進する意味:最近、マスコミで取り上げられたり、日本 EV 協会による試乗会が行われたりと、屋久島と EV を結びつける動きが起こっている。ここで、 今なぜ屋久島に EV なのか、その意味について整理する。EV の持つ特性と屋久島の持つ特 性はたがいに相乗効果を生み、他の地域には見られない特色を出していることがわかる。 その屋久島に EV を導入するに当たり、他では見られない地域特性について以下に整理する。 まず、屋久島の次世代に引き継ぐべき自然の保護に、EV の大きな特徴である優れた環境保 全性が有効であることが挙げられる。今や自動車は島の人が生活していく上で切り離せな いものであるが、環境に優しい EV は、島の基本理念である「自然と人との共生」をまさに 具現化したものと言えよう。そして、これが重要な点であるが、島の電力の 8 割は再生可 能なクリーンエネルギーで賄われているという屋久島の特性があげられる。EV は、走行時 には、CO2,NOx を排出せず完全なクリーンエネルギー自動車であるが、電力製造時の主に 火力発電所から排出される CO2,NOx を考慮すれば、その環境保全性は後退する。 しかし、屋久島の電力で充電し、走行した EV は、ほぼクリーンな自動車と言えるものであ る。これこそ屋久島独自の特性で、この屋久島に EV 導入を進める大きな利点でもある。ま た、EV の持つ環境保護に関する啓蒙、アピール効果は、島の自然保護、ならびに「自然と 人との共生」を進めていく上で大きな推進力となる。そして、EV が多く走ることや、EV のレンタカーシステムの導入などは、屋久島の新たな魅力となり、地域の活性化に貢献す ることも考えられる。一方、EV の特性として、走行距離の少なさが普及の大きなネックと なってきた。しかし、屋久島はほどほどの広さを持つ島である。最新の EV を導入し、島内 3 箇所のエコステーションと連動していくことを想定すれば、日常の使用にはほぼ問題ない と考えられる。以上の通り、屋久島の地域特性と EV の特性には、互いに高めあう相乗効果 が多く存在しており、EV の集中導入を図るならば、屋久島以上の適地は他にはないと考え られる。 第4章 使用実態 4.1 屋久島の低公害車数(電気自動車・ハイブリッド自動車) (平成12年9月) 電気自動車 ハイブリッド車 合計 1 トヨタプリウス 1 8 上屋久郵便局 7 トヨタ RAV4 EV 5 ダイハツハイゼットバン 2 3 ホンダ EV PLUS 1 ダイハツハイゼットバン 2 1 屋久島環境文化財団 1 屋久島電工 1 屋久島空港管理事務所 1 上屋久町 屋久町 3 屋久島ユースホステル 1 トヨタレンタカー 1 未確認 (3) (2) 合計 17 5 22 (注:屋久町のホンダ EV PLUS は3年間無償貸与で継続は未定。他は購入。) 4.2 活用状況および走行距離 (1)上屋久町 ・公用車として、各課に一台づつ配備している。月平均 600km 程度走る。 (a) 電気自動車(平成11年1月∼12月) 電気使用量(kW/h) 電気自動車(No.) 電気料金(円) 走行距離(km) 1km あた り コスト (円/km) 総計 月平均 総計 月平均 総計 月平均 RAV4EV (2146) (企画調整課) 1,794 149.5 43,679 3,640 6,736 561.3 6.5 RAV4EV (2708) (商工観光課) 2,219 184.9 53,087 4,424 8,956 746.3 5.9 RAV4EV (2709) (教委総務課) 1,482 123.5 36,920 3,077 5,560 463.3 6.6 ハイゼットバン (5269) (会計課) ハイゼットバン (5271) (総務課) 281 23.4 14,633 1,219 516 43.0 28.4 589 49.1 19,651 1,638 1,928 160.7 10.2 比較参考 ガソリン車 1km あたりコスト 12.0 円 (b) ハイブリッドカー(平成11年10月∼12月) 燃料使用量( L ) ハイブリッドカー (No.) プリウス(4088) (総務課) 燃料料金(円) 走行距離(km) 総計 月平均 総計 月平均 総計 月平均 83.0 27.7 10,120 3,373 1,474 491.3 1km あた り コスト (円/km) 6.9 燃費 17.8km/l ・実用以外にも年に数回フォーラムなどを開催し、低公害車の宣伝普及を図っている。2000 年は 3 月にクリーンエネルギーフォーラム、5 月に世界遺産会議、小学生を対象にした環 境学習教室開催など活発に活動し、電気自動車等を導入することにより、環境問題の啓 蒙活動に取り組んでいる。 (2)屋久町 人口 6662 人、自動車台数(軽自動車を含む)約 4500 台。観光、建設が主な産業。電気 自動車は企画調整課が推進担当で、主として町役場と支所との連絡等に積極的に使用して いる。 電気自動車(平成10年1月∼12年4月の1年間あたり) 電気使用量(kW/h) 電気自動車(No.) ホンダ EV PLUS (企画調整課) 電気料金(円) 走行距離(km) 総計 月平均 総計 月平均 総計 月平均 2,869 239.1 45,000 3,750 12,800 1067 1km あた り コスト (円/km) 3.52 (電気料金が上屋久町と異なるが、理由は未確認。) 4.3 充電方法と運用 ・駐車スペースの前に 200V 電源が一つずつ設置されている。 ・電気自動車使用を使用していない時は常に車庫に設置された電源から車載充電装置で通 常充電している。使い切ってからフル充電するよりもバッテリーの持ちがよい。充電は 駐車場の前にあるスイッチボックスから伸びたコード(200V)の先についた端子を車の サイドの穴に差すだけで簡単。 ・普通充電ではフル充電に 200V で 8 時間、100V だと 24 時間かかる。 ・島内3か所のエコステーションにおける急速充電では約 30 分で充電できる。ただし常時 通常充電の運用で間に合い、急速だとバッテリーの寿命が落ちるので、急速充電はほと んどしない。 (このエコステーション(急速充電設備)はトヨタ RAV4 EV のために設置したもので、 ホンダ EV PLUS には急速充電機能は付与されていない。) ・感電などの心配は皆無。 ・車によって充電アダプターの形状が違うので困る。(RAV4 EV とハイゼットで、というこ とらしい。) 以上、おもに上屋久町役場での聴取結果によるが、充電に関しては上屋久町、屋久町で ほぼ同様の運用をしている。 またカタログ上の標準充電時間は、トヨタRAV4:6.5時間、 ホンダ EV PLUS:約 8時間(200V)である。 4.4 走行性能に対する評価 ・RAV4EV は、坂道の登りはガソリン車より力があって良いが、下りはエンジンブレーキの 効きが弱くてフットブレーキを多用するので、こわい(上屋久町)。 ・電気自動車は、性能上は普通の 2000cc 級乗用車と変わらない。坂道では、電気のほうが 良いくらい。エンジンブレーキも効く(屋久町)。 4.5 航続距離に対する評価 ・仕様上では、一充電走行距離は、 トヨタ RAV4LV EV(カタログ): 「215km(10・15モード)」 ホンダ EV PLUS(カタログ): 220km(10・15 モード走行)、350km(40km/h 定地走行 ・航続距離をもっと伸ばして欲しい。 ・急発進を繰り返すと航続距離が短くなるので、ゆったり走るのがよい。 (参考:ハイブリッド車の航続距離) ・イベントのために借用したトヨタコースターハイブリッド車は、シリーズ方式なので白 谷雲水峡までの登り坂を一気に登れず、中途で30分アイドルして充電する必要があっ た。かつ騒音も大きかった。 ・上屋久町が使用しているプリウスの性能、航続距離については特にコメントはなかった。 4 . 6 故障 ・ 修 理 ・ メ ン テ ナ ン ス の 実 績 と 評 価 ・下部のバッテリーケースに石はねか何かで穴があき雨天時に水が浸入しウォーニングラ ンプがついたことがある。 ・他にはほとんど故障はない。 トヨタは、環境部長が講演に訪れたりして、かなり力を入れているが、ディーラーが遠く にあって不便なところが不満なようであった(屋久町側の安房(あんぼう)のトヨタ指定 工場に点検を依頼するが、上屋久町役場から 30 分かかる)。 ホンダ EV PLUS は本調査実施以後に3年目の車検をしたが、熊本県庁がリースで使用し ている同型車の整備施設まで輸送して車検を受けた。 従来と異なる技術に立脚した製品の普及過程では、修理を含むインフラの整備が重要な 条件の一つとなることを示唆するものであろう。 4.7 バッテリーの劣化(航続距離の低下) ・最初のダイハツハイゼットバン(鉛酸電池)では1充電航続距離が 100km しかなく、か つ電池の劣化で年々短くなって、3 年ごとにバッテリー交換に 50 万円かかるなど、使い 勝手とコストが高く、廃車にしたがっている。 ・トヨタ RAV4 の最初の1台の車検時にバッテリーが 3 年以上もつことが実証された。今後 どれ位もつかは不明。 ・その後、ホンダ EV PLUS も3年目の車検をし、バッテリーは交換せずに使用している。 屋久町役場への貸与は継続(当面、次の車検時期である2年間を想定)。 4.8 価格と維持コスト(燃料・電力料を含む) ・車両価格は 500 万円(トヨタ RAV4)、970 万円(ホンダ EV PLUS)と高い。 ・NEDO でガソリン車との差額の半額を助成するが、それでもまだ高い。 ・ランニングコストはガソリン車の約半分である。 ・Ni-MH バッテリーの場合、バッテリーコストが高く、交換 250 万円が入ると高くなる。 ・以前よりバッテリーの寿命が長くなって良いが、まだバッテリーのコストが高い。 ・1km あたりコストは 6.5 円とガソリン車より安いが、走行距離が伸びないとコストは、28 円と高くなる。 ・ガソリン車では 126 円/L で 12 円/1km となる。 4.9 その他の評価と不満・要望等 ・モーター音は、発進時に気になる程度。そのためタイヤ音、ブレーキ音が気になる。 ・音が静かで車がいることに気がつかないため,老人こどもがいるとこわい。狭い道を通 るときは、非常に気を使う。歩行者が飛び出してくる危険がある。でも、まだ事故はな い。 ・電気自動車の関係する交通事故は、現在までのところ無し。 ・普通の車より重いためタイヤが早く磨耗する。 ・乗っていると優越感を感じる。(高価な車である。サイドに大きなEVのステッカーが張 ってあるので、注目を浴びる。) ・エアコンの効きは全く問題ないが、走行距離が短くなるので使用には慎重。 第 5 章 今後の計画 現在は主に EV の導入運用を行っているが、今後の低公害車の導入について、ハイブリッ ドにも注目している(上屋久町)。また、乗用車、バン以外にもトラックの低公害車があれ ば検討してみたいとのことである(屋久町、上屋久町)。上屋久町は 2000 年 10 月にトヨタ RAV4、コースターハイブリッド、プリウスを 1 台ずつ追加導入する予定である。 一方、屋久島全島の交通手段として、EV の導入についての取り組みが進められており, 1998 年 1 月には「屋久島低公害車普及検討会」が発足した。屋久島低公害車普及検討会は EV を更に普及させるための中心組織であり、EV 導入プログラムを検討し、実施や EV 普 及の啓蒙活動を行う。 屋久島は世界自然遺産に登録されていることや、島の電力の 80%をクリーンエネルギー で賄っている等の特殊な事情より、「100%クリーンエネルギーの島」、 「屋久島ゼロエミッ ション構想」等を掲げており、今後も活発な活動を行っていくと考えられる。 第 6 章 所感 世界自然遺産登録後、低公害車(特に電気自動車)の導入に情熱を傾けている町役場の 方々に直接お会いして現場に密着したお話を伺うことができた。自然保護、自然と人との 共生という面で、世界の模範となろうという情熱には驚かされるとともに、電気自動車、 ハイブリッド車の急速な普及ぶりをまのあたりにして、認識を新たにしました。低公害車 に関するかなりの分量の情報を得ることができ、有意義な見学会であったと思います。環 境にはお金がかかるので、屋久島のような制限された地域では可能としても、東京のよう な大きな地域でどのように環境対策を行うのか、難しさも感じました。何かブレイクスル ー(電池と制御の進歩、インフラの整備)が必要と感じました。大都市では、限定された 範囲での多摩ニュータウンや横浜みなとみらいにおける共同利用システムの実証実験や神 戸におけるレンタカーでの一部地域使用などが検討されていますが、インフラが整えば個 人でも 500 万円くらいならば買う人もいるのではないかと実感しました。但し、一目見て 電気自動車に乗っているとわかるしかけが必要なような気もしますが。 第 7 章 あとがき 生命の躍動感あふれる美しい自然の中で数日を過ごして、我々調査団員も大いにレフレ ッシュされた。また、野生動物(屋久猿 6 匹、鹿 2 頭を見ました。)と一緒に生活している 島民の方々を見ると、人間もまた動物であるという感触を自然に得ることができた。また、 今回台風が接近している中での技術調査となりましたが、船が全て欠航となるなか、わが 日本の傑作機 YS11 は台風もものともせず 15 分遅れくらいで飛んでくれました。YS11 開発 の記録も今回興味を持って読みました。日本の航空機開発の問題点が凝縮されていると思 います。H2 ロケットの開発も同様な過程を踏んでいるとその本には書いてありました。 **************************************** 調査団名簿 小島 幸夫 (科学警察研究所) 高田 博 (いすゞ自動車) 鶴賀 孝廣 (本田技術研究所) 堀内伸一郎 (日本大学) 片山 硬 (日本自動車研究所) 鳥垣 俊和 (日産自動車) **************************************** 第 8 章 資料 8.1 質問事項 事前に各委員からの質問事項を集約したもの。 ①導入の動機 メーカーまたは販売店、あるいは県などからの特別な補助とか優遇措置があったか。ある いは通常どおりの購入をしたのか。 ②使われ方 使用目的 使用頻度 運行管理(予約、利用料金、使用制限) どういう方がドライブするか? どんな道を走るか? 月間(年間)走行距離 1回当たりの走行距離 電気自動車はどういう使い方が良いか? ③充電 充電頻度 充電時間 充電時の問題点 バッテリーの交換頻度 充電のための設備の充実度は? 電力使用量あるいは電気料金はどれくらいか。また電気料金については 県とか電力会社から優遇措置などはあるか。 ④故障 メンテナンスの内容 故障の種類と回数 特にモーター、バッテリー 修理やメンテナンスに関して、メーカーあるいは販売店は特別な対応を してくれているか。また満足のいくものか。 ⑤長所・短所 平坦路・坂道の走り易さ 使用者の満足度 安心してドライブできるか? 通常の乗用車との比較 他の低公害車(ハイブリッド車、LPG 車)との比較 ⑥改善要望 走行距離 最高速度 運転のしやすさ? エアコンの効きは? 音は気になる? ⑦今後の導入計画 現在の運用状況はいつまで続ける計画か。 (この質問は、「今後の導入計計画」とほぼ同義とも言えますが。) ⑧将来の展望(屋久島におけるという意味) 民間企業、個人も低公害車を使用する方向だろうか? 低公害車としては、どのタイプに注目されているか? 現在、人間を運ぶための手段として電気自動車を導入されていますが、物流(トラック) にも低公害車(電気自動車に限らず、他のハイブリッド車、LPG 車など)を導入すること は検討されていますか? 8.2 電気自動車の仕様 トヨタ RAV4LV EV およびホンダ EV PLUS の主要諸元 (両車のカタログより合成。項目名と順序は前者のカタログ表記に準じる。) HONDA EV PLUS 全長 mm 3,980 4,045 全幅 mm 1,695 1,750 全高 mm 1,675 1,630 車両重量 kg 1,540 1,620 乗車定員 名 5 4 種類 交流同期モーター DCブラシレス 最高出力 kW/rpm 50/3,100-4,000 49/1,700-8,750 最大トルク N・m/rpm 190/0-1,500 275/ -1,700 種類 シール形ニッケル−水素 12V シール型 Ni-MH 電池 個数 24 24 288(12V×24 個) (記載なし) 車載式 車載型(コンダクティブ) 単相 200/30 AC100/200V(単相) 約 6.5 時間 約8時間(200V) 最高速度 km/h 125 130(推定) 一充電走行距離 (10・15モード) km 215 220 寸法・重量 トヨタ RAV4LV EV (コンダクティブ充電タイプ) モーター パ ワ ー ユ ニ ッ ト バッテリー 公称電圧 V 種類 充電器 入力電源 V/A 標準充電時間 性能 8.3 自動車のエネルギー変換効率は、電気、ハイブリッド、燃料電池、デ ィーゼル等、どれが一番良いのか?(石油等エネルギーの掘削から使用まで考 慮する) 各種の動力源を用いた自動車のエネルギー変換効率を比較する。ここではエネルギー源の 掘削から自動車の走行までの損出を考慮しているが、自動車本体、電動機、電池等の製造、 廃棄に必要なえネルギーは考慮していない。小型乗用車を対象とし、10−15モードで の走行を前提としている。 エネルギー効率の高い順に、 (1)電気自動車 17.9∼27.1% (2)CNG(天然ガス)自動車 13.0% (3)ディーゼル自動車 11.1% (4)ガソリン自動車 10.8% であった。 小型乗用車の燃費、車両重量、走行抵抗の設定値 電気自動車 CNG自動車 ガソリン自動車 ディーゼル自動車 10−15モード 車両重量(kg) 燃 費 平均走行抵抗 (kg) 6.8 km/kWh 50.8 1,700 17.0 km/L 38.3 1,200 14.0 km/L 33.2 1,000 15.0 km/L 33.2 1,000 備 考 リチウムイオン電池を想定 エネルギー・燃料の配給端効率 電力(火力) 天然ガス メタノール ガソリン 軽油 採掘*1 船舶輸送 精製 国内輸送*2 圧縮 (電気事業連合会提供値: 1997年度値) 88 % 98 % − 99 % 98 % 70 % 99 % − 95 % − 99 % 99 % 90 % 95 % − 99 % 99 % 95 % 95 % − 配給端効率 36.0 % 83.7 % 65.8 % 83.8 % 88.5 % *1 天然ガスは液化を、メタノールはメタノール変換を、それぞれ含む。 *2 天然ガスはガス化を、軽油は給油を、それぞれ含む。 出典: 平成11年度電気自動車等中長期普及計画報告書、(財)日本電動車両協会 (平成 12 年3月) 図 小型乗用車の10・15モード走行時のエネルギー効率(その1) 出典: 平成11年度電気自動車等中長期普及計画報告書、(財)日本電動車両協会 (平成 12 年3月) 8.4 大都会の環境対策への提言 自動車が発生源となる環境悪化に関する対策は、使わない(交通量の削減)、長く乗らな い(交通流の円滑化)、および、クリーンな車に乗る(自動車の環境対応技術)が考えられ る。これらを纏めると以下のようになる。 ■ 交通量の削減 ○ 公共交通システムの整備 ・LRT(Light Rail Transit)(熊本市、広島市) ・小型バス(金沢市) ○ 新都市交通システム ・EV シェアリングシステム(レンタカーシステム、ITS) 実験名称:エコ・パークアンドライド社会実験(海老名市)、クレヨン(豊田 市)、ICVS(栃木県茂木町)、ITS/EV 都心レンタカーシステム(横浜市)、ITS/EV 住宅地セカンドカーシステム(稲城市)、ITS モデル実験(大阪市) ・バスの連隊走行 ・動く歩道 ・スカイレール ○ 自転車の見直し ・自転車専用レーン ・鉄道車両への持ち込み ■ 交通流の円滑化 ○ ITS ・VICS ・ETC ・スマートウェイ ○ 道路設備・運用の整備 ・路上駐車の防止・取締 ・信号制御・車線運用の改善 ・ポケットローディングシステム(端末物流車の荷物の積みおろし対策、東京都) ・ラウンドアバウト(ロータリー) ■ 自動車(道路)の環境対応技術 ○ 規制の強化(排出ガス、騒音、リサイクル) ○ 自動車の環境対応技術 ・DI(直噴)化 ・リーンバーン化 ・CNG 自動車 ・ハイブリッド自動車 ・燃料電池自動車 ・EV ・騒音対策 ・リサイクル対策 <参考文献> 自動車交通研究 2000−環境と政策−:日本交通政策研究会発行 8.5 特定地域へ電気自動車の導入について 現在,日本の観光地で自動車の乗り入れを規制している地域がある.たとえば,尾瀬,乗 鞍スカイライン,秋田県駒ケ岳,岩手早池峰山などである.これらの地域では自然保護の ため,主にマイカーの乗り入れを規制している. 海外でも,スイスにある標高 1620m の観光都市ツェルマットでは環境保護のため,内燃機 関を用いた自動車の乗り入れを禁止している.この町はスキーリゾートとして有名で,海 外からも多くのスキー客が訪れる.町中の主な移動手段は電気自動車である.タクシー, バス,各ホテルで使用する自動車もすべて電気自動車である.自動車でこの町にやってき た観光客は,ツェルマット駅の一つ前の駅,タッシュ駅にある駐車場に車を止め,電車に 乗ってツェルマットに向かう.これを「パーク&ライド」システムと呼ぶ. このような観光地における自動車の乗り入れ規制に対して,都心への自動車の乗り入れを 規制しようとする動きもある.たとえば,東京都は都市の道路渋滞緩和や環境保護のため, 都心への車の乗り入れを制限するナンバー規制や負担金制度導入などを検討している.特 にディーゼル車による排ガスが問題となっていることから,ディーゼル車の乗り入れ規制 に対する論議が盛んである. このような都心への車乗り入れ規制に賛成する人が四割を超えていることが総理府による 「都市交通に関する世論調査」で明らかになっている.調査は平成 11 年7月,人口三十万 人以上の都市に住む 20 歳以上の 3000 人を対象に行われた.回答率は 68.9 パーセントであ った.それによると,都市交通の問題点として道路渋滞をあげた人が 45.4 パーセントとト ップで,駐輪場の不足(20.8 パーセント),公共交通機関の利便性が悪い(18.4 パーセント) などの順であった。都心への車の乗り入れを規制するため,負担金を課す制度導入につい ては 42 パーセントが賛成で、平成 2 年の前回調査の賛成者(29 パーセント)を大きく上回 った.反対・慎重派もほぼ同数の 41.1 パーセントであった.反対理由は「道路整備が先決」 「負担増は困る」をあげている。ナンバープレートの末尾番号で乗り入れを規制する制度 については、賛成(4.08 パーセント)が反対(38.6 パーセント)を上回った. 政府の検討委員会でも特定地域への自動車の乗り入れ規制が検討されている.環境庁の低 公害車大量普及方策検討会(座長,猿田勝美・神奈川大名誉教授)は窒素酸化物などによ る大気汚染を防止するため,電気自動車や天然ガス車などの低公害車の普及策を盛り込ん だ中間報告書をまとめている.低公害車の導入促進策はこれまで,購入費用の補助や自動 車取得税の軽減が実施されてきたが,あまり普及は進んでいない.検討会は ・ 運送業者などが使用する自動車の一定割合を低公害車に転換すること ・ 自動車メーカーは一定割合の低公害車を製造,販売すること を義務付けるよう提言した.また,自動車ユーザーの購入意欲を高めるため ・ 電気自動車の充電を無料で行う駐車場の設置 ・ 電気自動車の有料道路料金の減額や免除 とともに,低公害車以外の道路への乗り入れ規制措置などの検討を求めた. 特定地域への乗り入れ規制の理由は,都市部においては渋滞の緩和と排ガス等の環境問題 の緩和,観光地では自然環境の保護が第一に考えられる.電気自動車の特定地域への導入 は,渋滞緩和の効果は期待できないが,排ガス問題を解決し,自然環境の保護という観点 からは効果的である.特に今回調査した屋久島では,水力発電によって電力の大部分が供 給されているため,電気自動車の導入によって交通・物流に化石燃料を全く使用せずに済 むことになる.このように電力の供給に恵まれた地域では,電気自動車の導入は自然環境 の保護の対して非常に効果的であると考えられる. 8.6 廃食油 屋久町では、家庭から廃食油を回収しバイオディーゼルフュエルに再生して公用車に使 用している。バイオディーゼルフュエルのメリットとしては、 ① 硫黄酸化物を含まないのでクリーンである。 ② 軽油と比較して黒煙が 1/3-1/6 になる。 ③ 廃食油を捨てないので環境への負荷が少なくなる。 ④ 軽油と変わらない価格、燃費。 ⑤ 従来のディーゼル車の構造変更が不要で、そのまま使える。 再生のための原料は、廃食油(植物油、てんぷら油等)、メタノール、触媒、析出剤、水道 水である。触媒によってメチルエステル化してディーゼル車で利用できるようにする。メ チルエステルの他にグリセリン、水が排出される。再生装置は 500 万円以上であるが、廃 食油回収コストを除くと 20 円/L 程度で再生できる。 東京では 80 円/L 程度の値段で市販もされている。 京都市では、全国に先駆けて平成 9 年 11 月よりごみ収集車 220 台にバイオディーゼルを使 用しているが、これが全国的に展開されつつある状況のようである。化石燃料とは全く異 なる燃料であり石油依存度を低くすることができ、また、公害リサイクルになり、コスト もそれほど高くないことから、今後も継続して展開されていくと考えられる。 8.7 富士山の環境をよくするには 富士山の世界自然遺産登録が拒絶された理由は環境汚染であるが、汚染原因は、主に人 間のモラルの低さより発している。各種廃棄物の投棄や、登山者が捨てるゴミ等が主なも のである。社会的なものは、登山者用トイレの未整備くらいである。とにかく登山者が多 く、その人たちが登山愛好家ではなく観光客であるところに問題があるらしい。水質汚染 やゴルフ場建設による自然破壊なども見られるが、ゴミの問題に比較して大きく取り上げ られてはいない。 富士山再生への取り組みとして、環境 NPO「富士山クラブ」が設立され、富士山の環境 保全のための市民団体のネットワーク化、財政支援を目的とする「富士山水と緑の育水基 金」、環境保全・資源利用のあり方を提言するために創設する「富士山学会」、エコツアー、 シンポジウム、インターネットによる富士山の実態の紹介などの活動を行っている。また、 し尿を垂れ流さないバイオトイレを山梨、静岡両県の5合目に設置した。 行政側は、静岡県・山梨県共同で「富士山憲章」を制定し、富士山の総合的な環境保全 対策を展開している。 屋久島が以上のような環境汚染とは無縁であるためか、屋久島について環境を語れば、 地球的規模の環境になってしまうが、富士山ではどうもそうではないらしい。交通・物流 で出来る環境対策はゴミの問題がかたづいてからのような気がする。 <参考文献> 富士山憲章 http://www.fujisan-net.gr.jp/kensyou.htm 日本一の山再生へ(世界自然遺産登録の拒絶理由など) http://www.mainichi.co.jp/eye/fuji/tokusyukiji/01.html 富士山のバイオトイレ活躍 http://www.mainichi.co.jp/eye/fuji/tokusyukiji/13-1.html 環境破壊が進む富士山 http://www.mainichi.co.jp/eye/fuji/tokusyukiji/11-1.html 富士山クラブについて http://www.mainichi.co.jp/eye/fuji/fujiclub.html 8 . 8 Y S 1 1 の 開 発 に つ い て 1945 年の敗戦により,日本は一切の航空機開発を禁止された.占領軍によるこの禁止令は 1952 年にようやく解除された.日本の航空産業はこのとき,無からの再出発を強いられた. 1956 年 6 月 13 日に開かれた航空工業会の定期理事会において,当時の通産省重工業局航空 機武器課課長 赤沢璋一は国産輸送機開発に関する構想を発表した.当時アメリカの航空 会社は 150 200 人も乗れる大型機の開発を進めている最中であり,完全に出遅れた日本が そこに食い込むのは無理と思われたため,中型機の開発が選択された.1957 年,正式に予 算が認められ,研究組合の性格をもつ「財団法人輸送機設計研究協会(輸研)」が設立され た.輸研は以下のメンバからなる技術委員会を組織した. 委員長 日本大学教授 木村秀政 企画班主任 元中島飛行機技師 太田稔 空力班主任 元川西航空機技師 菊原静男 構造班主任 元三菱重工技師 堀越二郎 艤装班主任 元川崎航空機技師 土井武夫 木村は戦時中,東大航空研究所において世界周回航続距離記録を打ち立てた「航研機」の 設計に参加していた.太田は戦時中,陸軍の「九七式戦闘機」,一式戦闘機「隼」,四式戦 闘機「疾風」などの設計にかかわった.菊原は海軍の「九七式飛行艇」,「二式大型飛行艇」, 局地戦闘機「紫電」および「紫電改」の設計主任を務めた.堀越は「九六式艦上戦闘機」, 「零式艦上戦闘機」(零戦),艦上戦闘機「烈風」などの主任設計者であった.土井は陸軍 の三式戦闘機「飛燕」などの主任設計者を務めた. 機名は YS11 と決定した.これは輸送機設計の頭文字 YS とエンジン選択第 1 案(ロールス ロイスダートエンジン),機体設計第 1 案(主翼面積 95 平方メートル)を選択したことに 由来するものである.したがって,YS11 は「ワイエスいちいち」と読むのが正しく, 「ワイ エスじゅういち」ではない. YS11 の特徴の一つは,基本設計を進めるに当たり,オペレーションズリサーチの手法を取 り入れたことにある.すなわち,飛行機の基本的な性格を定める要素,主翼面積,主翼縦 横比,翼厚,重量,エンジン馬力などの変化にともなう性能・経済性(直接運航費)の変 化をコンピュータによって詳しく調べた.技術委員会はオペレーションズリサーチに東大 教授 近藤次郎らの協力を得て,もっとも有利な乗客数を 60 人と決め,これに基づいて基 本的な設計をすすめた.このような方法は現在では常識とされることであるが,当時とし ては非常に新しかった.この内容は木村,近藤,菊原の連名により,1960 年チューリッヒ で開かれた第 2 回国際航空学会で 「Operations Research in the Basic Design of YS-11 Transport Airplane」 と題して発表された.また,日本の国状にあわせて 1200m の短い滑走路でも離着陸できる ことを目標とした.その結果,YS-11 はターボプロップエンジンを 2 機搭載した双発機とな った. このような基本計画に対し,60 席では大きすぎる,ターボプロップよりピストンエンジン がよい,予圧客室は贅沢だ,新味が全くないなどの批判が相次いだ.このような批判に対 し,木村は次のように語っている. 「YS11 があのような平凡な形になったのは,滑走距離が短くて運航費の安い経済的な近距 離輸送機というきわめて地味な性格によるもので,このような性格に最もよく適合する形 を,合理的に追求した結果なのである.」 飛行機の本,新潮社(1962) 基本設計にあたった技術委員会の主任は,戦時中幾多の傑作機を設計した錚々たるメンバ であったため,航空機の設計に関する考え方も異なっていた。その結果,激しい議論が続 いた.木村は 「何しろこの道で一家を成した連中の集まりなので,何かといえば激しい議論になった. しかし,お互いに遠慮なくものをいえる間柄だし,純粋に技術的な議論なのでほんとうに 楽しく,時を経つのを忘れた.」わがヒコーキ人生,日本経済新聞社(1972) と述べている. 1959 年 6 月 1 日,「特殊法人日本航空機製造株式会社(日航製)」が資本金 5 億円で設立さ れ,輸研が進めてきた基本計画を引き継ぎ,詳細計画図の作成を担当することになった. 設計部長には新三菱重工の技術部次長であった東條輝雄が就任し,試作・量産の指揮をと ることになった.東條らの設計チームは輸研の基本設計を詳細に検討した結果,いくつか の矛盾に直面した.そこで,重量を軽くするため胴体を細くする等の設計変更を行い,詳 細計画図を完成させた.ここで描かれた計画図に基づいて各メーカが詳細設計を行い,そ れらを日航製が確認したのち,機体メーカが製作を行った. 1号機の部品製作は 1961 年から始まった.主翼を川崎重工,胴体を新三菱と日本飛行機, 脚を住友精密が担当し,それらを新三菱小牧工場に集めて組み立てを行った.1962 年 7 月 11 日,第 1 号機がロールアウトした.同年 8 月 30 日 7 時 21 分,名古屋空港を離陸,初飛 行に成功した.操縦士は近藤計三,副操縦士は長谷川栄三であった.試験飛行の結果,い くつかの問題点が明らかになった.YS-11 はできるだけ大きいペイロードで,しかも短い離 着陸距離を目標に設計されたため,三舵(ラダー,エルロン,エレベータ)の効きが悪く, 横安定性が不十分であった.そのため,日航製は三舵を改修すると同時に,上半角を 2 度 増やしてこの問題に対処した.また,境界層の剥離による振動問題も発生した.これに対 しては翼面にボルテックスジェネレータを取り付けることにより解決した.このような改 修によって,型式証明を得るまでに時間がかかったが,1964 年 8 月 25 日に運輸省の,1965 年 9 月 7 日に米国連邦航空局の型式認定を得た. YS11 の主要スペック(A-200)と型名 エンジン 乗員 乗客 全長 全幅 全高 主翼面積 機体重量 離陸重量 着陸重量 有償重量 搭載燃料 最高速度 巡航速度 最高到達高度 離陸滑走路長 着陸滑走路長 航続距離 型名 YS11-100 YS11A-200 YS11A-300 YS11A-400 YS11A-500 YS11A-600 Rolls-Royce Dart 542-10K turboprop×2 2名 60 名 26.30m 32.00m 8.98m 94.80 ㎡ 15,419kg 24,500kg 24,000kg 6,581kg 5,820kg 546km/h 452km/h 6,580m 1,280m 668m 3,215km 変更点 基本型 エンジンの出力をアップ 胴体の前半部を貨物室に改造 貨物専用型 A-200 の輸送力アップ型 A-300 の輸送力アップ型 最大離陸重量 23,500kg 24,500kg 24,500kg 24,500kg 25,000kg 25,000kg 計画が出発してから 8 年, 58 億 5 千万円の開発費をかけた YS-11 は 1964 年量産体制に入 った.販路を確保すべく,日航製は 1966 年,北米各地でのデモフライトを実施した.続い て,1967 年 1 月には南米で,同年 12 月にはカナダで,1968 年にはアジア,中近東,ヨー ロッパなどでもデモフライトを行った.その結果,1968 年末には確定受注機数が 100 機を 越えた.その後も販売数を増やし,1974 年に生産が終了するまでの生産総数は 182 機,販 売総数は 181 機であった.なお,現在でも飛行を続けている YS11 は世界で 82 機に上る. 販売先 全日空 東亜国内航空(現JAS) 中日本航空 南西航空 防衛庁空幕 防衛庁海幕 航空大学校 航空局 海上保安庁 ピードモント航空(アメリカ) リーブアリューシャン航空(アメリカ) オリンピック航空(ギリシャ) クルゼイロ航空(ブラジル) バスプ航空(ブラジル) トランズエア(カナダ) エアアフリカ(コートジボアール) ガボン政府(ガボン) アリマンタシオン(ザイール) 大韓航空(韓国) オリエント航空(台湾) フィリピン政府(フィリピン) フィリピナスオリエント航空(フィリピン) ボーラック航空(インドネシア) ペリタエアサービス(インドネシア) アラ航空(アルゼンチン) 機数 34 33 1 5 13 10 2 3 5 23 2 8 8 6 2 2 2 1 8 2 1 4 1 2 3 YS11 の性能上の特徴は次のようにまとめられる. 1.短い離着陸距離 設計時点から日本のローカル空港で使用することを想定して,短距離離着陸を重 視していた.そのため,ターボプロップエンジンを使用したプロペラ機とした. ターボプロップエンジンはピストンエンジンにくらべて馬力当たりの重量が半分 以下であり,信頼性も高い. 2.頑丈な機体構造 設計段階で胴体のギロチンテスト,水槽テストなどを行い,非常に頑丈な機体と した.当時,イギリスのジェット旅客機コメットの疲労破壊事故の原因が解明さ れたばかりであり,日本には民間輸送機の設計に関するノウハウもなかったこと から,疲労限度にかなりの余裕をみて設計された.その結果,設計時の寿命は 3 万時間であるにも関わらず,飛行時間 6 万時間をこえる機体がいまだに現役とし て飛行している.これも YS11 の頑丈さによるものである. 3.極めて高い信頼性 1997 年エアーニッポンでは YS11 の定時出発率が 99.6 から 99.8パーセントという 驚異的な値を記録している.これは現代のハイテク機の値をも上回る好成績であ る. YS11 の高信頼性は最初から得られたものではなく,運行の初期はトラブル が多発し,一時は民間輸送機としての使用を疑問視する声もあった.このような 初期トラブルを,エアラインと日航製が協力して粘り強く改良した結果,1970 年 からはトラブルも出尽くし,高い定時出発率の記録を過去 30 年に渡って維持して いる. 4.安い直接運航費 設計時に徹底したオペレーションズリサーチにより,直接運航費を安くするよう に機体諸元を決定したため,競合機であったオランダのフォッカーF27 フレンド シップ,イギリスのホーカシドレーHS748 にくらべて経済性に優れていた. 5.特徴的な操縦性 YS11 は短い離着陸距離を目標に設計されたため,機体の大きさにくらべてプロペ ラが大きく,フラップの開き角度も大きい.これによって YS11 の操縦性,特に 着陸時の特性は通常の機体とやや異なり,熟練までに時間がかかるという. YS11 の開発と自動車の開発 航空機の開発と自動車の開発は多くの点で異なっている. 1.開発に必要な投資額が一桁以上異なる 2.生産数も航空機は数百機,自動車は数十万台と全く異なる 3.自動車はほぼ 4 年ごとにモデルチェンジするが,航空機は 20 年以上使用される 4.自動車は個人のユーザーによって使用されるが,航空機はエアラインによって使用さ れる 5.現代の航空機の開発は国家の支援を得て行われる場合が多い このように異なる点が多いため,航空機の開発と自動車の開発を直接比較するのは無理が ある.しかし,日本的な開発という意味でいくつかの類似点が見いだされる.その一つは, 特に革新的な設計を採用したわけではなく,既存の技術を洗練させ,細かい部分の改良を 重ねたという点である.これは過去の日本車が,革新的な設計というより,従来の技術の 欠点を丹念に改良して世界に広まっていったことと類似している.また,高い信頼性によ って多くのユーザーを獲得していったことも,日本車の歴史と類似している.