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歯性感染症
歯性感染症 歯科口腔外科学講座 石橋浩晃 口腔の機能 1. 消化機能(咀嚼機能) 運動性機能(捕食,咀嚼,食塊形成,食塊輸送,嚥下,嘔吐,吸啜,なめる) 感覚性機能(歯ごたえ,食物の大きさ,形状,硬さ,表面性状,温度,味覚,痛覚)分泌性機 能(唾液分泌) 2. 呼吸機能 運動性機能(呼吸,咳,くしゃみ,あくび,呼気の吹き付け) 3. 発声機能 運動性機能(構音,歌唱) 4. その他 口笛,武器,道具,愛情表現,傷口をなめる,クレンチング,喫煙,表情, 顔の構成要素 口腔 上唇小帯 歯 硬口蓋 口蓋扁桃,扁桃上窩 軟口蓋,口蓋垂 口蓋咽頭弓 口蓋舌弓 後臼歯三角 舌背 歯肉 下唇小帯 翼突下顎ヒダ 歯 唇,頬側面 口蓋,舌側面 歯の構造 Biofilm (生物膜) 多糖類やその他有機汚染物質でできたゲルの中に� 細菌や真菌等が入り込んで複合体を形成し、生体の表面に付着した状態のもの • Biofilm感染症 齲蝕 歯周病 中耳炎 筋骨格炎 壊死性筋膜炎 胆道感染症 骨髄炎 細菌性前立腺炎 慢性気道感染症 カテーテル留置後の感染症 Plaque 歯垢 plaque 約80%ー水分 約20-30%ー固形成分 70-80% 細菌 20-30% 菌体外基質, 上皮細胞,白血球 etc 1 mm3中に108個の細菌が存在 う蝕 • • 口腔内常在菌である,streptococcus mutansによる感染症。 生活習慣病ー内因感染症 細菌によって産生された酸 硬組織の脱灰 Streptococcus mutans 電顕像 実質欠損(齲窩)の形成 う蝕の進行 う蝕の特異性 • 生体内でもっとも無機質の多い組織であるエナメル質 の表面から破壊がはじまる。 • 他の疾患にみられるような自然治癒が期待できない。 • 国民病とも呼ばれ、罹患者が圧倒的に多い。 • 個体差が大きく、また、同一個体でも歯種、歯面によ っても発生率が異なる。 • 食習慣や歯磨きの習慣などの日常的な環境が成因に大 きく関係する。 • 他の疾患に比較して、関心度に個人差が非常に大きい。 鼻粘膜 10 5/cm2 � 外耳 10 4 /cm2 � デンタルプラーク 10 11 /g� 常在菌:唾液1 mlに1 mg 口腔内 200 mg 唾液 10 8 10 9/ml� 約5時間に1回分裂 皮膚 10 3 /cm2� 胃 0 10 3 /ml� 空腸 10 2 10 3 /g� 回腸 10 6 10 7/g� 盲腸 10 9 10 10 /g� 直腸 10 10 10 11 /g� 尿道 0 10 3 /ml� 腟分泌液 10 9/ml 奥田克爾:新口腔感染症とアレルギー.一世出版, 300頁. 歯肉縁下プラーク 700種類以上にのぼる 細菌が生息している (Aas et al�2005) 歯周病の進行 財団法人福井県歯科医師会 楽々パワーポイント 歯科健康教室の達人 より引用 歯周病の病因 • • 嫌気性グラム陰性桿菌による 感染症。 生活習慣病 Porphyromonas gingivaris Prevotella intermedia Bacteroides forsythus Actinobacillus actinomycetemcomitans etc. Prevotella intermedia の電顕像 内毒素 ,各種組織破壊性酵素 etc. Porphyromonas gingivarisの電顕像 ・炎症の誘発 ・破骨細胞の分化誘導 による骨吸収 歯ブラシについて 歯ブラシの選択 1. 2. 3. 4. 個人の口腔の発達などに応じた適当な 形や大きさであること(下顎前歯部の 刷毛bristles 舌側に楽に入るもの) 後端heel 植毛(刷毛)部の形態はストレートが よい 2. 3. 頭部head 頚部neck ある程度コシの強い毛であること 頚部,把柄部はストレートで握りやす いこと 歯ブラシの交換期 1. 先端toe, top 毛先が開いたもの(後ろから見て毛先 がはみ出したもの 毛先の摩耗したもの 著しく不潔になったもの 把柄部handle ブラッシング指導 歯間ブラシ デンタルフロス プラークコントロール スケーリング ルートプレーニング 歯周病と全身疾患 誤嚥性肺炎 感染性心内膜炎 糖尿病 早産・低体重出産 口腔ケアによる誤嚥性肺炎の予防効果 2年間の発熱発生率 2年間の肺炎発生率 米山武義 他:日本歯科医学会依託研究;要介護者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究 日本歯科医学会雑誌、20:63頁、2001年. 歯周治療によってグリコへモグロビン値が改善 Treatment of periodontal disease in diabe7cs reduces glycated hemoglobin. Grossi SG et al. J Periodontol 1997; 68:713‐719 55歳 女性 BMI 26 アクトス 30mg 朝1 アマリール 1mg 朝1 歯周治療開始 HbA1c 8.8% 歯周病と糖尿病 歯周病 と 糖尿病の相互関係 2-way relationship 歯周病 歯周病原性 細菌性因子 糖尿病 インスリ ン抵抗性 高インス リン血症 マクロファージ エンドトキシン等 IL-1β、TNF-α MMP 結合組織の破壊 歯槽骨吸収 AGE蛋白 IL-1β、TNF-α 歯周病があることが 糖尿病悪化に繋がる MMP 結合組織の破壊 糖尿病患者が歯周病になりやすい理由 糖尿病 唾液分泌低下 高血糖 AGEの蓄積 好中球の機能異常 サイトカイン の異常産生 創傷治癒不全 (コラーゲン合成の低下) 易感染性 歯周病 歯肉の細小血管障害 歯周病の増悪因子:糖尿病 母親の歯周病と胎児の体重 ** (mm) 3.2 初産婦 * p<0.05 ** p<0.01 * 全妊婦 n=93 n=40 歯 肉 ポ ケ ッ ト の 深 さ 3.0 ** 2.8 2.6 n=31 * n=20 2.4 正常体重児出産 低体重児早産 (Offenbacher S, et al., 1996) 女性ホルモンと歯周病 E: エストロゲン P: プロゲステロン 歯肉溝の細菌叢の変化 歯周病原因菌の比率の増加 (E/P) Prevotella intermedia菌の増加 (E/P) 脈管系の変化 歯肉毛細血管の拡張 (P) 血管透過性の増大 (P) 細胞の変化 内皮細胞の刺激 (P) 上皮細胞の角化の低下 (E) 上皮細胞の分化の低下 (E/P) 器質重合作用の低下 (E/P) コラーゲンの合成阻害 (P) 葉酸塩代謝の増加 (E/P) 免疫応答の変化 好中球の走行性と食作用の低下 (P) 抗原応答の抑制 (E/P) T細胞の応答の抑制 (E/P) マクロファージのPG 産生の誘導 (E/P) Barbara,H. et al., (2000) 口腔,顎炎の特徴 • 解剖学的特徴 1.歯性感染に継発して軟組織や顎骨に進展 2.顎骨は上顎や鼻腔,又は口底などの近接軟組織との解剖学的 位置関係が複雑→炎症の進展経路が複雑 3.衛生的管理が困難 4.全身的基礎疾患に影響されやすい • 治療学的特徴 1.顎骨内,骨髄への薬剤の移行が乏しい 2.軟組織での血管が豊富で治癒しやすい 3.唾液の自浄作用,抗菌作用 4.直視可能で診断が容易,処置の困難な部位への波及 口腔顎顔面の感染症における原因菌の侵入門戸 原因菌 1)外来性微生物による外因性感染 2)常在菌群による内因性自己感染 侵入門戸 1)歯質(う蝕,歯牙破折,歯質欠損) 2)歯周組織(歯周炎,智歯周囲炎) 3)術中,術後の感染(抜歯,外科処置) 4)外傷(顎骨骨折,軟組織裂傷) 根尖性歯周炎から炎症の波及経路 歯・歯周組織の炎症� 歯肉膿瘍� ① ① 根尖性歯周炎� 歯槽骨炎� ② 顎骨・周囲組織の炎症� ② ③ ①歯槽骨への波及� ②骨膜への波及� ③骨髄への波及� 歯髄内感染性病変� 根尖性歯周疾患の経過 根尖孔� 根尖周囲歯周組織の損傷� 慢性根尖性歯周炎� 急性根尖性歯周炎� 歯槽骨炎� 顎骨への炎症拡大� 歯槽部での炎症の限局化� 歯槽骨骨膜炎� 歯肉膿瘍� 顎骨骨膜炎� 骨膜下膿瘍� 顎骨骨髄炎� 顎周囲炎 蜂窩織炎� 自壊・瘻孔� 敗血症� 慢性顎骨骨髄炎(腐骨)� 急性上顎洞炎の治療指針 急性症状の緩和� 1.薬物治療 抗生物質,消炎酵素剤,消炎鎮痛剤 2.減圧穿刺 診断,原因菌の同定 3.切開排膿 炎症の拡大制御,原因菌の同定 4.原因歯抜歯 口腔上顎洞瘻孔形成術� 30 慢性上顎洞炎の治療指針� 可� 開存� 歯内治療� 原因歯保存� 狭い� 不可� 粘膜肥厚の範囲� 広い� 自然孔� 原因歯の治療� 抜歯� 粘膜肥厚の範囲� 狭い� 広い� 保存� 抜歯+口腔上顎洞瘻孔形成術� 歯根端切除術+上顎洞根治術� 根切� 閉鎖� 抜歯+口腔上顎洞瘻閉鎖術� 抜歯+口腔上顎洞瘻孔形成術� 抜歯+上顎洞根治術� 31 経鼻腔上顎洞洗浄� 炎症の波及と解剖学的 咀嚼筋隙� 頬部隙� 翼突下顎隙� 舌下隙� 頬骨側頭隙� 顎下隙� オトガイ下隙� 側咽頭隙� 後咽頭隙� 頚部血管鞘(隙)� 食道周囲組織� 前部縦隔洞� 後部縦隔洞� 顎骨周囲の 頬筋 頬部隙 33 顎骨周囲の 34 顎舌骨筋と隙の関係 35 顎骨周囲の 36 顎骨周囲の 後咽頭膿瘍 傍咽頭膿瘍 口蓋扁桃 扁桃周囲膿瘍 翼突下顎隙 側(傍)咽頭隙 37 頸部の 38 検出菌 -Aerobes- 前期:1980-1991 後期:1991-2001 株数� 検出菌 -Anaerobes- 株数� 二相性理論と嫌気性菌 41 抗菌薬 抗菌薬使用のガイドライン2005より • I群:歯周組織炎 – 膿瘍を形成している症例は膿瘍切開を行うとともに, • 第一選択薬:経口ペニシリン系薬,経口セフェム系薬 • 第二選択薬:経口ペネム系薬,ケトライド薬 • 第三選択薬:経口ニューキノロン系薬 • Ⅱ群:歯冠周囲炎 • 第一選択薬:経口ペニシリン系薬,経口セフェム系薬 • 第二選択薬:経口マクロライド系薬,ケトライド薬 • 第三選択薬:経口ニューキノロン系薬 • Ⅲ群:顎炎 – 軽症:経口薬,中等症:経口(増量要)・注射薬 – 重症:注射薬 • 第一選択薬:経口ペニシリン系薬,経口セフェム系薬 • 第二選択薬:経口ペネム系薬,ケトライド薬 • 第三選択薬:経口ニューキノロン系薬 • Ⅳ群 顎骨周辺の蜂巣炎 – 注射薬の適応 原因菌の推定,確定が必要 • ペニシリン系薬,セフェム系薬,ペネム系薬,リンコマイシン系薬(ダラシン®) 重症感染症 • 重要な徴候・症状 – 発熱 – 脱水 – 腫脹の急激な増大 – 開口障害 – 激痛 – 嚥下障害 – 呼吸困難 – 舌の挙上 – 軟口蓋の腫脹 – 両側性の顎下部の腫脹ーLudwigアンギーナの可能性 HGM 口腔外科マニュアル (医学書院)を一部改変 局所麻酔法 • 膿瘍より一回り広い範囲に麻酔 を行う. • 歯間乳頭部の麻酔により,骨膜 切開の際に 痛が少ないことが ある. 周囲麻酔 • 筋層など深部に膿瘍が存在する 場合,表層を麻酔し,切開後に 深部に追加する. 44 切開手技 • 試験 刺は太め(18G程度)の注射針を 用い吸引しながら進める. • 切開は十分排膿される程度の大きさで よい. • 表在性の膿瘍では最大豊隆部直上を切 開する. • 深部の場合,切開は粘膜のみにとどめ, 粘膜下組織は,剥離子や止血鉗子など を用いて,鈍的に膿瘍腔に達する. 口腔粘膜割線(1975,茂木) 45 切開手技 46 口腔外切開 47 まとめ • 外界に接しており,直視できるため,診断は 比較的容易である. • 膿瘍を形成した場合は積極的な解放とドレナ ージがのぞましい. • 急速に進行する場合もあり,重篤化が懸念さ れる場合は,早めの対応が必要となる. 48