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コア人材たる職員に期待する 第5回

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コア人材たる職員に期待する 第5回
連載◎
∼民間出身首長が語る∼
コア人材たる
職員に期待する
草分け的「市民参加」を原体験
第5回
─市長就任前における、三鷹市との関わりで心
に残っていることは何ですか。
清原 私は東京の吉祥寺で生まれましたが、小学
東京都 三鷹市長
生以降は三鷹で育ちました。大学では政治学やコ
清原慶子
ミュニケーション論を専攻し、特に地域コミュニ
ケーションや地域メディアについて研究しました。
そのような中、大学院生のときに、三鷹市の「第1
「参加」と「協働」の
担い手となるのは、
改革意欲の高い職員
東京都三鷹市は、昭和40年代から「市民参加」の市
政を推進し、
「参加」と「協働」によるまちづくりの
フロントランナーとして走り続けている。その舵取り
役を担っている清原慶子市長は、学生時代に三鷹市
の市民参加を体験し、その後も大学教員・研究者、
市民として、市民参加を通じて三鷹市政に関わってき
た。そして市長就任後は、
“改革のDNA”を受け継
いだ職員と市政改革を進めるとともに、無作為抽出
方式による新たな市民参加手法にも取り組んでいる。
次基本計画」を策定する市民会議で、20歳代の学生
代表の委員に指名されたのです。
三鷹市は、昭和40年代の鈴木平三郎市長時代か
ら民間企業に学びながら「経営」の視点を重視し
た市政を進め、そしてコミュニティセンターを核と
したコミュニティ施策を始めて以降、
「市民参加」
と「市民協働」による市政運営を推進してきました。
市民参加による「第1次基本計画」の検討もその
一環として導入された試みで、市民会議の最年少
委員として「市民参加」の草分け的な取組みに参
加できたことは、私自身にとって貴重な原体験とな
りました。
─その後、大学教員、研究職に就かれましたね。
清原 一時は三鷹市内の大学にも勤務していまし
た。そのようなこともあって、私は三鷹市在住の研
究者として、市の審議会や様々な会議の委員など
として三鷹市政に関わりを持ちました。
市は、市民と学識者と市職員が協働で市のまち
づくりの政策課題や長期展望などに関する調査研
究を行うため、1988年に国際基督教大学と協働して
「三鷹市まちづくり研究会」を設置しました。1995年
には「まちづくり研究所」と改称し、活発な調査研
究活動を展開しています。私もその研究員の一人
となり、職員とともに様々な研究を行い、その成果
を市の計画や政策に反映させました。
さらに市は、同研究所の提言を受け、1999年度か
ら「第3次基本計画」の策定作業において「原案
策定以前の白紙からの市民参加」を行いました。
プロフィール
清原慶子(きよはら・けいこ)
1951年生まれ。1974年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。
1976年同大大学院法学研究科修士課程政治学専攻修了。
1979年同大学院社会学研究科博士課程社会学専攻単位取
得満期退学。常磐大学専任講師、ルーテル学院大学文学部
教授、東京工科大学メディア学部教授、同大学メディア学
部長などを経て、2003年4月三鷹市長に就任。現在3期目。
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これも先駆的な取組みで、市民の視点から提言を
行う「みたか市民プラン21会議」を設置しました。
同会議は公募市民375名で組織されましたが、私は
3名の共同代表の一人となり、市との間で相互の役
割と責務を明確化したパートナーシップ協定を締結
して検討を進めたのです。このように、私は市長に
∼民間出身首長が語る∼ コア人材たる職員に期待する ❺
パートナーシップ協定による市民参加。
「みたか市民プラン
21会議」の共同代表として当時の安田養次郎市長に第3次
基本構想と基本計画への提言書を提出。
(平成12年10月)
三鷹市市制施行40周年記念誌の対談で故坂本貞雄三鷹市
長と三鷹市文化施設「井心亭」にて。(平成2年)(当時
はルーテル学院大学文学部助教授)
就任する直前まで三鷹市民として「市民参加」と
員には“改革のDNA”が受け継がれているという
「協働」に関わってきました。
“改革のDNA”を受け継ぐ職員
ことです。それは、歴代市長が民間の経営感覚を
取り入れながら行財政改革に努め、市民と対等な
関係で参加と協働を進めつつ、少数精鋭の職員に
─市長に就任されて、市役所組織や職員に対し
よって市政を経営してきた結果であると痛感しまし
てどのような印象を持ちましたか。
た。職員は上司や市長に対しても臆することなく、
清原 私は2003年4月30日に市長に就任しました。
改革の提案を行っています。
職員や議員の経験はなく、その意味で自治体行政
─改革意欲の高い組織風土であるということで
のプロではありません。しかし、学生時代から三鷹
すか。
市の「市民参加」を経験し、市役所や職員に接し
清原 そうです。ただ、だからこそ、さらに進化さ
てきたので、違和感やギャップはありませんでした。
せることが大事です。そしてそれは、市長が交代
むしろ、職員のほうは多少なりとも当惑したので
した時がひとつのチャンスでもあるのです。という
はないかと思いました。というのは、私の前の安田
のは、前市長は行政のプロでしたから、市長の考
養次郎市長は職員出身で、市役所のことや市政に
えは職員や組織にしっかり浸透し、市役所内部に
精通していたからです。ところが、選挙で選ばれ
とって当たり前の、
“言わずもがな”の慣例も存在
たとはいえ、三鷹市で職員や議員出身でない市長
していたと思います。そのような“暗黙知”を明文
は四半世紀ぶりのことであり、これまでとは違う人
化すること、
「見える化」することが大事だと考え
間が自分たちのリーダーとして突如現れたわけです
ました。
から、少なからずとまどいを覚えたのではないで
しょうか。
つまり、職員や議員の経験がない私が市長に
なったことで、素朴な疑問に対して声を発すること
そこで、私は少数の職員と話をする場を設けるこ
ができ、あるいは分かりやすく説明できる、いい意
ととして、就任翌月に女性の管理職とのランチミー
味でのマニュアル化を図っていけるのではないか。
ティングを開きました。それ以降も、
「トークセッ
そしてそれは、市民感覚、市民の視点に近づくこと
ション研修」という少人数の職員との対話型の交
だと思いました。そこで、市民のために仕事をする
流研修を行っています。職員は市長に成り代わって
職員が働きやすくなるようにマニュアル化を進め、
市民のために仕事をするわけですから、まずは市
「職員ハンドブック」や「自治基本条例ハンドブッ
長である私のことを知ってもらいたいという思いが
ク」などを作成しています。
ありました。職員との対話研修は現在も続いており、
─最近の若い職員は元気がないといわれていま
今年5月1日までの9年間に、トークセッション研
すが、三鷹市の場合はどうですか。
修で延べ1,317人、新規採用や新任管理職等の研修
清原 右肩上がりの経済成長が終焉し、社会に閉
なども合わせると延べ2,108人の職員とじっくりとし
塞感が漂う中、日本全体に元気がないとか、
「若者
たコミュニケーションを図ってきました。
に元気がない」という声もたびたび耳にします。し
そのような場を通じて感じたことは、三鷹市の職
かし、三鷹市職員に限っては、そのようなことはほ
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とんどないと断言できます。なぜなら、そういう覇
もので、これからさらに進展していく市民総ぐるみ
気のない職員は採用されていないからです。三鷹
の自治のための一里塚でもあります。制定までには
市では多元的な尺度で職員を採用していますが、
市民や職員の参加と市議会特別委員会の設置に
公務に対する意欲、市民のために仕事をしたいと
よって激論に激論を重ね、産みの苦しみを味わいま
いう情熱のない職員はほとんどいません。物静かな
した。しかし、これから大きく育つからこそ、その
職員でも、心には熱い思いを持っています。
苦しみは尊いものだと感じました。そして自治基本
しかも、そのような元気や情熱を引き出し、伸ば
す組織風土もあります。若い職員の発言や提案に
当に幸せだったと思っています。
耳を傾ける雰囲気が職場に浸透しているのです。
だからこそ、条例の理念となっている「参加」と
自分の考えを聞いてもらえたり、提案が通ったりす
「協働」のまちづくりを実践していくことが、市長
れば、職務に対する意欲は高まり、自信にもなりま
である私の最大の使命だと考えています。そのた
す。そのような積み重ねによって、
“改革のDNA”
めには、私自身もそうですが、職員も市民協働の
が受け継がれてきたのだと思います。
コーディネーターとなり、あるいは市民や市民団体、
それをさらに進展させるため、
「職員提案制度」
を業務改善や新しい政策づくりに活用するとともに、
民間企業などとパートナーを組む必要があります。
行政の日常的な活動やイベントなどで市民との協
私が市長になってから「市長賞・ベストプラクティ
働を進めていく上で大切なことは、パートナーシッ
ス表彰」を新設しました。各職場における1年間の
プ、対等性の考えを持つことです。パートナーとし
改革・改善の実践の中から、優れた取組みを表彰
て共通の目標を持ち、それぞれの役割と責任を果
する制度です。職員の努力や意欲をきちんと評価
たしていく。その前提として、市民参加の機会をつ
し、優れた実践は表彰して市民に公表することも、
くる必要があります。できるだけ多くの市民に参加
市長の大事な役目だと考えています。なぜなら、職
していただき、市民の声に耳を傾け、その声を市政
員は市民満足度を高める行政サービスの担い手だ
に反映する努力を惜しまない。さらに実施したこと
からです。仕事に向き合う意欲を引き出し、職員満
はきちんと検証・評価し、公表し、改善する必要が
足度を高めていけば、職員の先にいる市民の満足
あれば次に活かしていく。その繰り返しが重要です。
度も高まっていきます。
─具体的にはどのような取組みを行っています
実は私は、人見知りをする、とても大人しい子ど
か。
もでしたので、大学教員になる、ましてや市長にな
清原 三鷹市は今年3月末に2022年度を目標年次
るなどとは思ってもいませんでした。しかし、人は
とする「第4次基本計画」を策定しました。その計
環境や努力で変わることができると自らを振り返っ
画の策定過程では、市民の多様なニーズを反映す
て実感しています。ですから、いまの若者は元気
るため、審議会や市民会議をはじめ多層的・多元
がないと嘆いているのではなく、元気を引き出す機
的な市民参加に取り組みました。2010年度は「市民
会を創ることが何よりも大事だと思います。
意向調査」と市内7つのコミュニティ住区ごとの
無作為抽出方式の市民参加も実施
「まち歩き・ワークショップ」を行い、2011年度には
基本計画(骨格案)に関する広報特集号にアン
─三鷹市は「市民協働」の市政運営を推進して
ケートを折り込んで400通余りの回答をもらいまし
いますが、自治体には協働コーディネート能力が
た。また、骨格案、素案の各段階で住区ごとの
求められているのではないですか。
「まちづくり懇談会」の開催や「パブリックコメン
清原 冒頭お話ししましたように、三鷹市は全国に
ト」を実施。さらには、無作為抽出の市民による討
先駆けて「市民参加」と「協働」のまちづくりを進
議会「みたかまちづくりディスカッション」を開催
めてきました。そのひとつの集大成として、2006年
しました。
4月に「自治基本条例」を施行しています。
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条例誕生という歴史的瞬間に立ち会えたことは、本
無作為抽出方式による市民参加は、市民会議や
この条例は市民、歴代市長、市議会が積み重ね
各種審議会などの公募委員候補者の募集において
てきた「参加」と「協働」の歴史の上に築かれた
も、2010年度に全国に先駆けて実施しました。具体
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∼民間出身首長が語る∼ コア人材たる職員に期待する ❺
「第4次基本計画」の策定に向けた「みたかま
ちづくりディスカッション」(平成23年)
新任係長職とのトークセッション研修(平成
24年)
的には、無作為に抽出した1,000人の市民に、市民
は減っていません。チャレンジ精神とモチベーショ
会議や各種審議会などの公募委員候補者名簿への
ンの高い職員が多い証であり、市長としてありがた
登録をお願いする文書を送りました。その結果、111
いことだと思っています。
人の市民から可とする回答をもらい、
「公募委員候
職員研修制度も充実させ、各階層別の研修やス
補者名簿」に登録しました。その中からこれまでほ
キルアップを図る独自の研修に力を入れるとともに、
とんどの市民に、公募委員として市民会議などに
東京都市町村職員研修所や市町村アカデミーなど
参加してもらいました。市民参加では、公募によっ
への派遣研修にも積極的に取り組んでいます。派
て手を挙げてもらうことは行ってきましたが、積極
遣研修で他自治体の職員と交流することは、ネット
的に参加する市民だけが協働の担い手ではありま
ワークが広がり、非常にいい体験になるからです。
せん。自ら手を挙げていない市民にも参加の機会
また、他の自治体をはじめ、公益財団法人やN
を提供していくことが大事なのではないかと考え、
PO法人などへの職員派遣も行っています。様々な
あえて市民に参加の機会を提案するような取組み
職場で経験を積んでもらい、また、三鷹市の行政
を試みたのです。その結果、多くの市民が参加の
や公務を外から見つめてもらうのがねらいです。
意思を示し、実際に参加していただいたことに、改
戻ってきた職員は、その経験が活かせる部署やポ
めて三鷹市の「市民力」の高さを実感しました。
ストに配置しています。そのようにして、私は「人
名簿登録期間は2年間としていましたので、今年度
財」の育成に努めています。
は無作為抽出で2度目の募集を行いました。
─自治体職員として大切なことは何ですか。
市民とともに働く職員が地域を変える
清原 やはり、市民とのパートナーシップ・マイン
ドを忘れずに、市民のために汗を流すことです。法
─組織活性化にはコア職員の役割が重要だと思
治国家の公務員である以上、法令や条例などを遵
いますが、どのようにコア職員を育成しています
守することは当然ですが、市民に最も近い基礎自
か。
治体の職員としては、それに加えて、市民の目線で
清原 自治体のコア職員は、目立つ職員や日の当
法令や条例に向き合うことも必要です。善良な市民
たる部署にいる職員の中にだけいるわけではなく、
感覚からみておかしな制度やルールは、変えていく
あらゆる部署に存在します。陰で公務を支えている
勇気と能力を持つことが大事なのです。
職員も少なくありません。ですから、トップリー
厳しい経済・財政状況の中、また公務員バッシン
ダーの重要な役割は、あらゆる職員、職場に目配り
グなどもあり、自治体職員は過酷な環境に置かれて
をすることだと思っています。そして、本人の希望
います。しかし、混沌とし閉塞している社会状況だ
も聞きながら、適材適所の人事で活躍の場を設け
からこそ、それを変えていくチャンスでもあるので
ていく。その一環として、自己申告シートやフォ
す。地域社会を変えていけるのは、市民とともに働
ロー面接などを導入して異動や昇任などについて
く自治体職員であり、これほどやりがいのある仕事
の希望を聞くことや、職務給、人事考課の制度も
はないでしょう。自治体職員同士でピアサポートし、
整備しました。三鷹市では主任職、係長職、課長
心身ともに健康に十分留意して、市民と地域のため
補佐職で昇任昇格試験を行っていますが、受験者
に思う存分、力を発揮してほしいと願っています。
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