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第5章まで
発 刊 に あ た っ て 我が国の平均寿命は世界でも最高水準となり、世界でも例のない急速な高齢化の進行が予測 されています。高齢者がいつまでも元気で、個人として尊重され、その人らしく暮らしていく ことが、個人にとっても社会にとってもきわめて切実な課題であります。 2000(平成12)年4月から実施された介護保険制度は、在宅重視と自立支援を理念として、 要介護状態になることや要介護度の軽減を図るとともに、できる限り在宅生活を継続すること ができるよう、保健・医療・福祉サービスを提供することを目的として創設されました。 制度施行後4年が経過し、サービス提供体制が充実するとともに、要介護認定者数及び介護 サービス利用者数は大幅に伸びており、介護保険料を押し上げる要因になっています。 特に、「要支援」「要介護度1」のいわゆる「軽度の高齢者の方々」の伸びが近年著しく、こ れらの人は、「要介護度2」以上の中・重度の人に比べて、要介護度の改善率が低く、大きな 課題となっています。 また、「介護予防・地域支え合い事業」は高齢者が自身の持てる能力を発揮し、在宅で暮らす ことのできるよう支援するという観点から、介護保険制度と同じ平成12年度にスタートし、 その重要性はますます高まっています。 しかし、現在「介護予防・地域支え合い事業」が「軽度の高齢者の方々」の改善に資する内 容で展開されているか、あるいは、高齢者が自立した暮らしを維持するための支援策として地 域に確実に根付いているかという点から考えると必ずしも十分とは言えない状況です。 今後、各地域において介護予防の意義と重要性への関心や理解が深まるとともに、高齢者の 自立を支援するための効果的で取り組みやすい事業の手法が広く普及することが必要です。 「高齢者体力向上トレーニング普及促進事業」は、こうした状況を踏まえ、高齢者の日常生 活行為に必要な能力の維持、向上等に効果のある筋力トレーニングをとおして、高齢者が要介 護状態になることを防ぐとともに、要介護状態を改善しようとする市町村の取り組みを支援す ることを目的に実施したものであります。 本マニュアルは、道内4自治体の協力を得てモデル的にトレーニングを行った結果を検証し て作成したものであり、プログラムを展開する際の手順やポイントのほか必要な体制などにつ いて、実践例に即してわかりやすく解説しております。 自治体や施設等において、介護予防事業の見直しを行う場合や新たに事業に取り組む際には、 本マニュアルを活用され効果的な事業展開のために役立てていただきたいと思います。 平成16年3月 北海道保健福祉部長 小田 清一 高齢者体力向上トレーニングマニュアル 目 次 ◇発刊にあたって ◇第 1 部 高齢者体力向上トレーニングの実践 第 1 章 トレーニングの概要 1 趣旨と目的 ………………………………………………………………… 2 2 参加対象者 ………………………………………………………………… 2 3 事業の特長 ………………………………………………………………… 4 4 トレーニングの期間 ……………………………………………………… 5 第 2 章 参加対象者の把握と手法 1 参加対象者の把握 ………………………………………………………… 8 2 事業の周知方法や参加の呼びかけ ……………………………………… 8 3 参加決定にあたっての対応 ……………………………………………… 9 第 3 章 トレーニングの導入 1 トレーニング開始準備 □事前準備 スタッフ ………………………………………………………………… 12 研修 ……………………………………………………………………… 12 会場 ……………………………………………………………………… 13 トレーニングに使用する用具 評価指標 問診票 2 ………………………………………… 14 ………………………………………………………………… 15 …………………………………………………………………… 16 体力測定の実施 □測定にあたっての留意事項 …………………………………………… 16 □測定項目 ………………………………………………………………… 16 □測定方法 握力 ……………………………………………………………………… 17 開眼片足立ち …………………………………………………………… 17 長座位体前屈 …………………………………………………………… 18 ファンクショナルリーチ ……………………………………………… 18 Timed up & go ………………………………………………………… 19 10m最大歩行速度 ……………………………………………………… 19 3 トレーニングの進め方 □トレーニングで強化される主な筋力 ………………………………… 20 □トレーニングプログラム ……………………………………………… 21 □全体のトレーニングの流れ …………………………………………… 22 4 □各期におけるトレーニング概略 ………………………………………… 22 導入期 ……………………………………………………………………… 22 維持期 ……………………………………………………………………… 23 発展期 ……………………………………………………………………… 24 トレーニングにおける留意事項 □トレーニング前 …………………………………………………………… 24 □動作等の留意事項 ………………………………………………………… 25 □トレーニング時のカウント方法 ………………………………………… 26 □指導者の立ち位置 ………………………………………………………… 26 □疾患等を有する高齢者への対応 ………………………………………… 27 □休憩のタイミング ………………………………………………………… 27 □負荷の見極め ……………………………………………………………… 28 □上げ下げ時の負荷への理解 ……………………………………………… 29 □セット数に応じたトレーニング ………………………………………… 29 □トレーニングの流れ ……………………………………………………… 29 □作用筋を意識させる ……………………………………………………… 30 □可動域の確認 ……………………………………………………………… 30 □非マシン筋トレの代償運動 ……………………………………………… 30 □個別メニューの追加 ……………………………………………………… 30 □ホームトレーニング ……………………………………………………… 31 第 4 章 トレーニングの実践 1 2 ストレッチ □ストレッチの必要性 ……………………………………………………… 34 □ストレッチ実施時の留意点 ……………………………………………… 35 ①胸部のストレッチ ……………………………………………………… 36 ②肩部のストレッチ ……………………………………………………… 37 ③腰背部のストレッチ …………………………………………………… 38 ④首部のストレッチ ……………………………………………………… 39 ⑤大腿部のストレッチ …………………………………………………… 40 ⑥そけい部のストレッチ ………………………………………………… 41 ⑦臀部のストレッチ ……………………………………………………… 42 ⑧下腿部のストレッチ …………………………………………………… 43 軽運動 □軽運動の留意点 …………………………………………………………… 44 ①腹筋運動 ………………………………………………………………… 45 ②四つん這い片手片足上げ ……………………………………………… 46 ③ヒップリフト …………………………………………………………… 47 ④ニーリング ……………………………………………………………… 48 3 バランストレーニング ……………………………………………………… 49 ①ニーベントウォーク ……………………………………………………… 50 4 筋力トレーニング …………………………………………………………… 51 ①レッグエクステンション ………………………………………………… 52 ②カーフレイズ ……………………………………………………………… 53 ③トゥレイズ ………………………………………………………………… 54 ④スクワット ………………………………………………………………… 55 ⑤アブダクション …………………………………………………………… 56 ⑥チェストプレス …………………………………………………………… 57 ⑦ロープーリー ……………………………………………………………… 58 ⑧レッグフレクション ……………………………………………………… 59 ⑨カール ……………………………………………………………………… 60 ⑩シュラッグ ………………………………………………………………… 61 5 クールダウン ……………………………………………………………… 62 第 5 章 トレーニング終了後 1 評価 ………………………………………………………………………… 64 □体力測定の実施 …………………………………………………………… 64 □その他の指標 ……………………………………………………………… 64 2 ホームトレーニング ……………………………………………………… 64 第 6 章 モチベーションの維持 □モチベーションの維持 …………………………………………………… 66 □事業への参加呼びかけ時のモチベーション喚起 ……………………… 67 □トレーニング開始当初(導入期)のモチベーション ………………… 67 □維持期のモチベーション ………………………………………………… 68 □発展期のモチベーション ………………………………………………… 69 □事業終了後のモチベーション …………………………………………… 70 第 7 章 トレーニングの管理 1 トレーニングメニューの工夫 …………………………………………… 72 2 疲れへの対応 ……………………………………………………………… 72 3 痛みへの対応 ……………………………………………………………… 73 ◇ おわりに ……………………………………………………………………… 74 ◇第 2 部 高齢者体力向上トレーニング普及促進事業の概要 1 目的及び事業内容等 ………………………………………………………… 76 2 検討委員会等の構成 ………………………………………………………… 77 3 事業経過 ……………………………………………………………………… 78 4 シンポジウムの概要 ………………………………………………………… 79 5 高齢者体力向上トレーニング普及促進事業 モデル市町村事業実施報告[総括] ……………………………………… 82 □高齢者体力向上トレーニング実施自治体/対象者 …………………… 82 □方法 1)非マシン群・マシン群のプログラム概要 …………………………… 83 2)評価指標 ………………………………………………………………… 83 3)トレーニングスケジュール及び評価 ………………………………… 84 4)トレーニング内容 ……………………………………………………… 85 □結果 1)各市町の事業結果の概要 ……………………………………………… 86 2)調査項目の結果概要 …………………………………………………… 87 3)身体機能評価結果 ……………………………………………………… 88 4)SF-36の結果 …………………………………………………………… 90 □考察 1)非マシン群トレーニング手法の評価及び有効性 …………………… 91 2)非マシン筋トレとマシン筋トレの比較 ……………………………… 94 負荷 ……………………………………………………………………… 94 トレーニング種目 ……………………………………………………… 94 従事者 …………………………………………………………………… 94 3)体力向上トレーニングの課題 ………………………………………… 95 □まとめ 6 1)廃用症候の予防 ………………………………………………………… 96 2)高齢者福祉の推進 ……………………………………………………… 96 高齢者体力向上トレーニング モデル事業の結果考察 I名寄市 …………………………………………………………………… 97 Ⅱ上富良野町 ……………………………………………………………… 101 Ⅲ奈井江町 ………………………………………………………………… 105 Ⅳ芽室町 …………………………………………………………………… 108 ◇資料編 ………………………………………………………………………… 111 身体状況チェック票/主治医の意見書/問診票/体力測定記録用紙/ SF-36質問紙/老研式活動能力指標質問紙/バーセルインデックス/ 個別アンケート(例)/FIM/自覚的運動強度(Borg指数質問紙)/ ホームトレーニング用紙/トレーニング経過記録票/ 高齢者向けトレーニングマシン一覧 ― 第 1 章 ― トレーニングの概要 第1章 トレーニングの概要 1 趣旨と目的 「介護予防・地域支え合い事業」ではこれまで、転倒予防や筋力向上等、高齢者の廃用症候 を防ぎ自立を維持するため、様々なメニューが多くの市町村で展開されてきたが、“その人ら しい暮らし”を在宅で送るために、どのような訓練や指導が有効なのか、という点では、今な お、効果的なプログラムを模索する担当者も少なくない。 本来、効果的な介護予防事業とは、高齢者が“その人らしい暮らし”を送ることのできるよ う、心身の状況や日々の活動、社会との関わりにまで広く目を向けながら、生活機能の向上を 目指すものでなければならない。 こうした効果を得るための具体的な手段を考える時、身近なところで日常的に、誰もが手軽 に取り組め、なおかつ、財政事情の苦しい主催者側にとっても大がかりな設備投資を必要とし ない「高齢者体力向上トレーニング」が有効な試みとしてあげられる。 本マニュアルでは、ダンベルやイスなど、身近な用具を使用したプログラムによって、個人 の状況に応じた訓練を行う手順や留意事項、期待される効果等の解説を通じて、効果的な介護 予防事業の実践手法について広く紹介するものである。 2 参加対象者 どのような高齢者であっても、適切に組み立てられたトレーニングによって、体力の向上が 期待できる。しかしながら、市町村の限られた資源・財源で事業を行う場合、より大きな効果 が期待できる、 「体力が低下した高齢者」の参加を積極的に考慮することが大切である。 − 効果の期待できる対象者の例 − ① 要介護認定結果において要支援∼要介護1の者 ② 障害老人の日常生活自立度において、Jランクの者 ③ 老研式活動能力指標において、手段的自立に「いいえ」が1つ以上ある者 ④ 最大歩行速度が80m/分未満の者 ⑤ 「ふらつき」 、「転倒」 、「体力の衰え」等を自覚している者(主観的体力低下) ※ 上記は、例として列挙したが、自立者を事業の対象としないという趣旨ではない。 2 第1章 トレーニングの概要 第 1 ■ 集団指導が難しい対象者の例示 トレーニングは、個別性に配慮したプログラムであるが、一定の集団で行われることから、 指示に反応することが困難な者及び常時介助が必要な者は、前記「効果の期待できる者」に 該当する場合であっても、集団指導が難しくなる場合がある。 章 − 集団指導が難しい対象者の例 − ① 要介護認定調査第 6 群(意志疎通)において、自立以外が1つ以上の者 ② 要介護認定調査第 7 群(問題行動)の中間評価項目得点が90点以下の者 ③ 痴呆性老人の日常生活自立度において、ランクⅡ∼Mの者 ④ 要介護認定調査において、両足での立位が「できる」以外の者 ■ 事故防止の観点から、医学的管理を考慮すべき対象 高齢者体力向上トレーニングは、無理のない負荷で行われるため、ほとんどの高齢者が実 施可能である。しかしながら、頑張りによる過負荷の設定、普段使わない筋肉の使用、誤っ た動作等により、循環器系や関節等に一時的に強い負担がかかり、痛みなどの症状を誘発す る場合がある。 このような事故を防止するためにも、次の例に示すような対象者については、医師の診察 結果や意見を踏まえ、「参加対象としない」、「運動種目の一部を免除する」、「注意深い観察 を行う」など、より慎重な対応が必要である。 − 慎重な対応、配慮を要する対象者の例 − ① 循環器系の疾患で治療中の者 ② 整形外科系の疾患で治療中の者 ③ 直近の基本健康診査において要精検の項目がある者 ④ 関節の痛みを訴える者 ⑤ 循環器系及び呼吸器系の自覚症状を訴える者 3 第1章 トレーニングの概要 3 事業の特長 ■ 事業規模 マシンを使用したトレーニングでは、一般に台数に限りがあり、1回のトレーニングに参 加できる者の数は10人以下となる場合が多いが、マシンを使用しないトレーニング(「非マ シン筋トレ」という。以下同じ。)は、各市町村で行われている健康づくり教室等の規模で 実施することができる。 必要なスタッフが確保されれば、20∼30人程度の人数でも実施可能である。 また、会場についても参加人員の収容できるスペースが確保できれば、特別な設備等は必 要なく、地区会館等でも実施可能である。 トレーニングプログラムの多くは、実施方法を習得すれば家庭でも実施が可能なものである。 (※会場スペースについては、第3章で記述) ■ 費 用 非マシン筋トレは、ダンベルやセラバンド等、比較的安価で購入することができる用具を 用いて実施するものであり、マシンを使用したトレーニングと比較して、初度設備にかかる 経費はわずかである。 また、財源としては、次のような事業の活用が可能と考えられる。 ○ 介護予防・地域支え合い事業 ○ 老人保健事業(機能訓練・訪問指導) ○ 国民健康保険医療費適正化特別対策事業 4 第1章 トレーニングの概要 4 トレーニングの期間 第 1 筋力をトレーニングするにあたっては、超回復の原則(※)による効果的な頻度は週2回か ら3回で、週3回が最も効果的であると言われている。 しかし、高齢者の場合は若年者より身体的・精神的疲労の回復に時間を要することを考える と週2回が望ましい。 章 また、トレーニングの期間については、対象者がフォームを正しく習得し、筋、関節をトレ ーニングに慣らすまでに要する期間として1か月、次に個人毎に最適な負荷を設定し、一定回 数のトレーニングの継続により筋力強化を図る時期として1か月程度、更に個別性に配慮しつ つ、獲得した筋力、柔軟性、バランス能力の改善を生活機能の向上へつなげる段階として、1 か月程度を要する。 このような観点から、トレーニングに要する期間を3か月間とすることが望ましい。 ■ トレーニング頻度 週 2 回 ■ トレーニング期間 約 3 ヶ月間 ※超回復の原則・・・・筋力トレーニングを行うと、筋肉を構成している“筋繊維”が断裂し たり破壊されたりする。その後、食事や適度な休息によって筋繊維は 修復され、破壊される前よりもやや太くなる。こうした流れを超回復 と呼ぶ。超回復には、約48∼72時間かかるとされている。 5 ― 第 2 章 ― 参加対象者の把握と手法 第2章 参加対象者の把握と手法 1 参加対象者の把握 トレーニングを始めるにあたっては、まず参加させるべき高齢者の把握が必要である。把握 する手段として次のようなものが考えられる。 ① 老人保健事業の対象者 ・健康診査の受診者 ・健康相談、健康教育参加者 ・機能訓練の対象者 ・訪問指導の対象者 ② 在宅介護支援センターが把握している高齢者 ③ 要介護認定の申請をした高齢者 2 事業の周知方法や参加の呼びかけ 参加者の募集にあたっては、保健師活動や在宅介護支援センターの協力により、参加対象と なる高齢者に対し、個別に直接呼びかける方法や、それ以外の高齢者に対しては、町内会や老 人クラブなどの関係機関からの協力も得ながら、広報紙やチラシ、ポスターなどを通じて、こ の事業の趣旨や内容等を分かりやすく周知する必要がある。 ― 参加勧誘にあたっての留意事項 − ① 高齢者の気持ちの動きに配慮する。 参加に消極的な者に対しては、時間をかけて勧誘することに加え、トレーニング意 欲の程度を考慮しながら、働きかける。 ② やる気になっているタイミングをとらえる。 健診等で保健師から運動を進められた時にはトレーニング意欲が高くなる。 8 第2章 参加対象者の把握と手法 ― ポスターやチラシ作成にあたっての留意事項 − ① フォントや文字の大きさに配慮する。 3 ② 字数が多いと敬遠されがちであるため、少ない字数でコンパクトにまとめる。 第 2 ③ 対象者の注意を引きつけるために、カラーにしたり、イラストを入れるなどの工夫 をする。 章 参加決定にあたっての対応 ■ 参加者の心身状態の確認 事業を有効かつ安全に行うためには健康管理が必要となる。 参加決定にあたり、普段の健康状態を把握できる問診票(資料編参照)を作成し、参加者 の治療中の疾患、リスクを事前に把握する。 また、医療機関を定期的に受診し、治療を受けている者については、参加可否について、 主治医に事業内容を伝えた上で、意見書(資料編参照)をもらうことが必要である。 ■ 参加可否の決定手法 参加決定に当たっては、次の条件を満たす者とする。 ① 第1章−2「参加対象者」(2ページ参照)。ただし、主治医が参加を認める者につい ては、事故のないよう十分配慮し、事業参加を認める。 ② 事業の目的を理解している。 ③ 事業期間中、継続して参加できる。 また、会場まで自力で来られない者については、送迎を確保するなどトレーニングに参加し やすい体制の整備に配慮する。 9 第2章 参加対象者の把握と手法 ■ 参加決定までの流れ ※ 個 別 対 応 老健事業の対象者 在介センター把握の虚弱高齢者 要介護認定の申請をした高齢者 一 般 対 応 広報紙、ポスター、関係団体等 を通じて周知 身 体 状 況 チ ェ ッ ク 参 加 者 エ ン ト リ ー 問 診 参 加 者 決 定 事 業 ス タ ー ト ※ 身体状況チェック票(資料編参照)により、事業に参加可能か否かを判定する。なお、 チェック結果により主治医の意見を必要とする場合や、定期的に医師の治療を受けている 者については、主治医の意見を踏まえ参加の可否を判断する。 10 ― 第 3 章 ― トレーニングの導入 第3章 トレーニングの導入 1 トレーニング開始準備 ◆ 事前準備 スタッフ 非マシン筋トレは、本マニュアルを基に、トレーニングに関する留意事項や種目を 理解し適切に運営する必要がある。 指導スタッフについては、一定の指導者研修を受講する必要がある。 役 割 職 種 参加の可否についての判定 健康管理 医師・保健師・PT・OT 痛みの管理 トレーニングの指導 PT・OT・健康運動指導士 保健師・担当職員 参加者の介助等 担当職員・ボランティア なお、虚弱高齢者はトレーニング中の姿勢変化により介助等が必要となる場合があ るため、参加者2、3人に対し、1人の介助者が必要となる。 研 修 市町村はトレーニングに従事する指導予定者を対象とした、指導者研修を実施する 必要がある。 研修の受講は、トレーニングの実施に際し異なる職種やボランティアに共通の目的 や方法を共有させることが目的であり、トレーニングの円滑な運営のため必要である。 ■ 研修内容 ・介護予防の基本的な考え方 ・体力向上トレーニングの概要 ・実施にあたっての準備・募集・運営方法 ・体力測定を含む評価の意義 ・リスク管理 ・体力測定の実施方法 ・実技講習 ■ ■ ■ 12 研修期間 ∼ 1∼2日間 研修対象者 ∼ 市町村介護予防事業担当者(保健師、担当職員) 、 ボランティア等 その他 ∼ 実技講習時は、ジャージ及びシューズを用意 第3章 トレーニングの導入 会 場 参加者人数によってスペースは変わってくるが、大まかな目安は次のとおりである。 第 3 15m 章 間隔は50㎝あける 1.5m×1.5m 20m 13 第3章 トレーニングの導入 トレーニングに使用する用具 筋力トレーニングに使用する用具は次のとおりである。 これらは、負荷の設定種類も多く、比較的安価で購入することができる。 トレーニング項目 ・レッグエクステンション ・アブダクション ・レッグフレクション 用 具 名 重錘バンド (500g∼1.5kg) 価格:1,000円∼ ・チェストプレス ・カール ダンベル (500g∼2kg) 価格:500円∼ ・ロープーリー ・シュラッグ セラバンド (中弱∼中) 価格:19,000∼20,000円(45m巻) ・カーフレイズ ・トゥレイズ 椅 子 ・スクワット ・安定感のある物 ・肘部のない物 なお、上記の用具を購入しなくとも、身近な物で代用することも可能である。 代 用 品 お手玉等(玄米入り) ※タイツでくるみ使用する。 ペットボトル タイツまたはストッキング等 14 用 具 例 同 等 品 重錘バンド ダンベル セラバンド 第3章 トレーニングの導入 評価指標 (各様式については資料編を参照) ① 体力測定指標 バランス、歩行能力等、高齢者の生活機能に関連のある主な6項目(16ページ「測 定項目」参照)について、トレーニングの初回と最終回に測定し、身体機能の改善状 況を把握する。 体力測定は、参加者がトレーニングの効果を数値で実感する手段として有効であり、 また、初回と最終回に加え、中間期にも測定することもトレーニングの継続意欲を維 持するうえで役立つ。 ② SF−36 SF−36は健康関連QOL尺度のひとつで、健康状態を本人の視点からとらえ評価する もので、36の項目からなり、次の8つの下位尺度としてまとめられる。トレーニング 開始前と終了後に調査する。 身体機能 PF(physical functioning) 心の健康 MH (mental health) 日常役割機能(身体) RP (role-physical) 日常役割機能(精神) RE (role-emotional) 体の痛み BP (bodily pain) 全体的健康観 GH (general health perception) 活力 VT (vitality) 社会生活機能 SF (social functioning) 第 3 章 ③ 老研式活動能力指標 老研式活動能力指標は、高齢者の生活機能の自立度を評価する指標で、「手段的自立 (IADL)」「知的能動性(余暇、世の中への関心等)」「社会的役割(社会参加)」の3つ の下位尺度から構成される。全体で13項目の質問があり、「はい」が1点、「いいえ」 が0点となる。 この指標については、虚弱高齢者に対しての参加エントリーの一手段としても活用 できる。 ④ バーセルインデックス 日常生活動作(ADL)の評価指標で、10項目を2―4段階で評価する。トレーニン グ前後に聞取り調査を行い、その変化によりADLの改善状況をみる。 ⑤ 個別アンケート 任意の様式で、トレーニング前後の生活、意識の変化等について記載してもらい、 上記指標に加えて、対象者の改善の状況を多方面から把握する。 ⑥ FIM(フィム) バーセルインデックス同様、ADLの評価指標で、バーセルインデックスの評価項目 に「社会認知機能」を加え、18の項目を、より精緻に7段階で評価する。 15 第3章 トレーニングの導入 問 診 票 担当者は参加者に対して、事業開始前に郵送などにより各自記入してもらった問診票 で、参加者決定のための評価を最終的に行う。また、このとき、必要に応じて血圧測定 等、予備検診を行ってもよい。 問 診 事 項 現病歴、既往歴、服薬、自覚症状、転倒歴、生活習慣 運動歴など 2 体力測定の実施 ◆ 測定にあたっての留意事項 各種目は、初回、最終回とも同じ者が測定することを原則とする。 ◆ 測定項目 種 目 要 素 握力 上肢筋力 握力計 開眼片足立ち 静的バランス ストップウォッチ 長座位体前屈 柔軟性 長座位体前屈計 ファンクショナルリーチ 動的バランス Timed up & go 歩行能力 10m最大歩行速度 16 用 具 ホワイトボードまたは模造紙 付箋紙、メジャー 椅子、ポールまたはコーン ストップウォッチ ストップウォッチ、ラインテープ 第3章 トレーニングの導入 ◆ 測定方法 握 力 ① 両足を開いて立位姿勢をとり背筋を伸 ばす。 ② 握力計の握りは、人差し指の第2関節 がほぼ直角になるよう、握りの幅を調 節する。 ③ 握力計が身体に触れないようにし、開 始のかけ声と同時に力一杯握る。 ④ 測定の際は、大きく身体から手を離し たり、腕を回したりしないように注意 する。 ⑤ 左右測定し、強い方を再度測定する。 2回のうち結果の良い方を採用する。 ⑥ 小数点第二位を四捨五入し、第一位ま で求める。 握りかた 第 3 章 開眼片足立ち ① 片足で立っていられる時間を測定する。 ② 背筋を伸ばし両手を腰にあて、片足を 床から離している時間を測定する。 ③ 次のうちいずれかの状態になった場合 は、測定を終了する。 ●軸にした足の位置がずれたとき。 ●腰にあてた手が離れたとき。 ●軸にした足以外の身体の一部が床に 触れたとき。 ④ 「目を開けたまま、片足立ちをしてく ださい」と声かけする。 ⑤ バランスを崩した際、転倒することも あるため、測定者が見守ること。 ⑥ 1度練習してから、2回測定し結果の 良い方を採用する。 ⑦ 安全性を考慮し、計測時間の上限を設 定しても可。(60秒程度) 練習時に支持脚を決め ること。 17 第3章 トレーニングの導入 長座位体前屈 ① 背筋を伸ばし、壁に背、尻をしっかり とつけ、長座位体勢をとる。 ② そのままの状態から、肘を張った腕を 前方に伸ばして手のひらを測定器の左 右それぞれの台の上にのせる。 ③ 測定器の先端を基準として、被験者は ゆっくりと前屈し、まっすぐ前方にで きるだけ遠くまで押し出す(滑らせ る) 。 ④ 最大前屈した後、ゆっくりと開始位置に戻る。 ⑤ 2回測定し、結果の良い方を採用する。 ⑥ ミリ単位まで計測する。 前屈したとき、膝 を曲げたり、股関節を 外旋しないように注意 する。 簡易長座位体前屈計 ファンクショナルリーチ ① 壁に対して横向きに立ち、両足を軽く開く。 ② 手を軽く握り、両腕を90度上げる。(※1) ③ 壁面の反対側の腕を下げ、肩の高さで伸ばした腕の先端を、付箋紙かペン等でマ ーキングする。 (※2) ④ 腕の先端の位置を保持したまま、足を動かさないようにしながら、できるだけ前 方に手を伸ばさせ、バランスを保持できるまでの地点に付箋紙またはペンでマー キングする。その際、かかとを上げてつま先立ちになっても良い。 (※3) ⑤ バランスを崩し転倒する場合もあるため、 介助者等を側方に立たせ見守る。 ⑥ ゆっくりと開始姿勢に戻る。 壁が利用できな ⑦ 壁に寄りかかったり、前に踏み出した場 い場合は、ホワイトボ 合は再度測定を行う。 ードを利用すること ⑧ マークの水平距離を、ミリ単位までメジ ャーで計測する。 もできる。 ⑨ 2回測定し、結果の良い方を採用する。 ※1 18 ※2 ※3 第3章 トレーニングの導入 Timed up & go ① 椅子から3m先の目印を折り返し、再 度、椅子に座るまでの時間を測定する。 ② 背中を伸ばして椅子に座り、手のひら をももの上におく。両足が床にしっか りと着いていることを確認する。 ③ 被験者は、測定者のかけ声により立ち 上がり、目印を回り、座るまでの一連 の動作をできるだけ早く行う。 ④ 測定者は被験者が、椅子から立ち上が る瞬間から、椅子に座るまでの時間を、 小数点第一位まで計測する。 ⑤ 1度練習させてから2回測定し、結果 の良い方を採用する。 計 測 の 終 始 タ イ ミングには厳密な規 定 は な く、立 っ て か ら 座るまでと理解する。 第 3 章 (配置図) 椅子 3m 目印 ※周り方は左右どちらでも良い 10m最大歩行速度 ① 予備走路を前後2m、測定区間を10m とり、区間をラインテープで示す。被 験者は測定者の教示に従い歩いてもら う。 ② 測定区間の始まりと終わりは、テープ を超えた時点とし、10mの歩行時間を 小数点第一位まで計測する。 ③ できるだけ早く歩かせ、決して走らせ ないようにする。 ④ 2回測定し、結果の良い方を採用する。 測 定 者 も 一 緒 に 歩きながら計測する。 ただし、ペースに影響 を与えないように配慮 する。 (配置図) 予備路 2m 測定区間 10m 予備路 2m ラインテープ 19 第3章 トレーニングの導入 トレーニングで強化される主な筋肉 僧帽筋 (深層に棘上筋) 三角筋 大胸筋 広背筋 上腕二頭筋 上腕三頭筋 背中起立筋 (深部:この図の下) 腹直筋 中殿筋 大殿筋 大内転筋 (内側側部にわたる) 長内転筋 ハムストリング (大腿二頭筋) 大腿四頭筋 前脛骨筋 腓腹筋 ヒラメ筋 前 20 後 第3章 トレーニングの導入 3 トレーニングの進め方 ◆ トレーニングプログラム 非マシン筋トレのプログラムについては、ストレッチ、軽運動、バランストレーニ ング、筋力トレーニング、クールダウンから構成されるプログラムを実施する。 プログラム名 種 目 ストレッチ 軽運動 バランストレーニング 筋力トレーニング※ 基 本 種 目 選 択 種 目 クールダウン 作 用 筋 首部 僧帽筋 腰背部 脊柱起立筋 胸部 大胸筋 肩部 三角筋 臀部 殿筋 第 3 下腿部 腓腹筋 章 大腿部 大腿四頭筋 そけい部 内転筋 ヒップリフト 殿筋、ハムストリング ニーリング 腹筋、殿筋 腹筋運動 腹筋 四つん這い片手片足上げ 殿筋、脊柱起立筋 ニーベントウォーク 大腿四頭筋 レッグエクステンション 大腿四頭筋 カーフレイズ 腓腹筋、ヒラメ筋 アブダクション 中・小殿筋、腹斜筋 チェストプレス 大胸筋、上腕三頭筋 トゥレイズ 前頸骨筋 スクワット 大腿四頭筋 ロープーリー 広背筋 カール 上腕二頭筋 シュラッグ 僧帽筋 レッグフレクション ハムストリング ストレッチ種目から3種目選択 ※筋力トレーニングの「基本種目」及び「選択種目」の定義は次のとおりとする。 「基本種目」∼柔軟性やバランス能力を改善するために必要な筋力の強化を図るた めの必須種目。 「選択種目」∼自覚的運動強度(Borg指数)を踏まえ、個人の能力に応じて取り入 れる。ただし、基本種目を無理なくこなせることを条件とする。 21 第3章 トレーニングの導入 ◆ 全体のトレーニングの流れ 非マシン筋トレの標準的なプログラム頻度は、週2回、3か月間継続して実施する。 その期間を、「①フォーム習得やトレーニングに慣れるための導入期」、「②最適負荷 を設定し筋力の強化を図る維持期」、「③負荷の調整を行い、筋力やバランス能力及び 日常生活動作の拡大を図る発展期」の1か月ごと3期に分ける。 ■ 全体の流れ(3か月間) 3か月 1か月 前期∼導入期 1か月 1か月 中期∼維持期 後期∼発展期 ●体力測定:トレーニング内容の学習 ●トレーニングの継続 ●トレーニングの継続 ●試 行:フォームの学習 ●慣れ具合、体調変化等の把握 ●負荷の調整 ●トレーニングの本格的実施 ●個別種目の導入 ●体力測定:個別アンケート ●負荷の調整(負荷量を増やす) ●事後調査 【実施プログラム】 ○ ストレッチ ○ 筋力トレーニング ○ 軽運動(後半) 【実施プログラム】 ○ ストレッチ ○ 軽運動 ○ バランストレーニング ○ 筋力トレーニング 【実施プログラム】 ○ ストレッチ ○ 軽運動 ○ バランストレーニング ○ 筋力トレーニング ◆ 各期におけるトレーニング概略 1回のトレーニング時間は90∼100分間とする。次に示した各期別のトレーニング に要する時間を目安として、参加者の虚弱度によっては若干の増減が必要となる場合 がある。 プログラム開始前後には十分な水分補給や休憩をとることとし、種目の合間にも必 要に応じて随時水分を補給する。 導入期(前期1か月) ストレッチ、筋力トレーニングとも、基本となるフォームを習得することが大切で ある。時間や回数をこなしたとしても、間違ったフォームでは目的とする作用筋を効 果的に鍛えることはできない。 このため、筋力トレーニングでの故障を防ぐ意味からも、ストレッチの手法をしっ かりと習得するとともに、筋力トレーニングに 関しては、低負荷により、トレーニングフォー ム並びに呼吸方法の習得に主眼をおく。 通常使用していない なお、フォーム習得後の導入期の後半には、 筋肉や関節を動かすこと 維持期からのトレーニングを念頭におき、実施 から、最初から無理をし 回数や負荷を増やしたり、軽運動を導入するこ ないよう見守る。 とが可能である。 ■ 導入期の流れ 90分 30分 ■ストレッチへの誘導 ■ストレッチ 22 45分 ■ストレッチ、軽運動、 筋力トレーニングのト レーニングフォームの 練習 ■用具の使い方の練習 回数にこだわらず正しいフォーム についての指導・練習 15分 ■クールダウン (ストレッチ) 第3章 トレーニングの導入 維持期(中期1か月) 維持期においては本格的にトレーニングを行っていくことになる。筋力トレーニン グにおける負荷量を上げ、自覚的運動強度(Borg指数:下記参照)によりそれぞれの 適正負荷を定めるとともに、基本セット数を10回2∼3セットとし、基本種目の消化 達成を目指す。 軽運動やバランストレーニングを徐々に導入し、包括的な筋力トレーニングに変換 していくことが必要である。 なお、負荷量やセット数を増やすことにより生じる恐れのあるフォームの崩れや、 痛みの管理に留意する必要がある。 ■ 維持期の流れ 第 3 90分 30分 45分 ■ストレッチへの誘導 ■トレーニング ■ストレッチ 15分 ・各10回2∼3セットを基本とし、徐々に 種類を増やして基本メニューの消化達成 を目指す。 ・個人のフォームを見ながら、痛みの管理 ・軽運動、バランス運動を徐々に導入 ■クールダウン 章 (ストレッチ) − 維持期の基本的トレーニング − ・軽運動・バランス運動 ・筋力トレーニング(10回2∼3セット) Borg指数 1973年に Borg によって提唱された 自覚的運動強度を目安にする方法。 Borg指数は、運動負荷試験の際、被験 者の自覚症状を定量的に把握する目的で 作成されたものである。安静時∼運動時 の概略心拍数を10で割った数値を、運動 強度の指標とする。 これを用いる場合は、酸素摂取量や心 拍数との相関も考え合わせると、Borg 「11−13」にあたる運動強度(体感)が 適当な目安とされる。 この指数は自覚的体感に基づいている ため、運動時の再現性が高く、安全域の 広い運動には手軽に用いられる。 自覚的運動強度(Borg指数) 20 19 非常にきつい(very,very hard) 18 17 かなりきつい(very hard) 16 15 きつい(hard) 14 13 ややきつい(somewhat hard) 12 11 楽である(fairly light) 10 9 かなり楽である(very light) 8 7 非常に楽である(very,very light) 6 (文献:「田嶋明彦、伊東春樹:運動処方、特に運動強度の設定についてHeart View 3(8) 」より改変引用) 23 第3章 トレーニングの導入 発展期(後期1か月) 発展期では維持期で獲得された筋力の強化を推し進めるとともに、それぞれの身体 機能の状況を見ながら負荷量を調整する。 また、選択種目を取り入れた個別メニューを導入し、負荷に応じた日常生活動作の 機能向上を図ることに考慮しながら、参加者それぞれに見あったトレーニングを継続 する。 ■ 発展期の流れ 90分 30分 45分 ■ストレッチへの誘導 ■トレーニング (負荷を調整しながら) ■ストレッチ ■選択種目の導入(個別メニュー) 15分 ■クールダウン (ストレッチ) − 発展期のトレーニング − ・軽運動・バランス運動 ・筋力トレーニング(10回2∼3セット) + 選択種目への取り組み(可能な者) 4 トレーニングにおける留意事項 ◆ トレーニング前 リスク管理を正しく行うには、日頃の健康状態(持病の有無とその状態)、その日 の体調(問診)、バイタルサインの確認が必要である。このうち、日頃の健康状態は 主治医の意見書から知ることができる。重要なのはその日の体調で、これは問診から 得られる。 高齢者は急に心身状態が変化することがあり、主治医によって基本的な情報を得て いても極端に言えばその日の健康を保証するものではない。バイタルサインのチェッ クと共に問診を毎回行う必要がある。 問診ではその日の体調とともに、前回参加後の体調変化(痛みの出現、疲労、自覚 的運動強度等)等の確認が必要である。 また、血圧の管理については、実施前の血圧測定で要観察の者や疾患により注意を 要する者は、実施中・実施後にも血圧測定を行う。 さらに、自動血圧計を用いると、参加者が自己測定する方法の場合、日々の健康自 己管理の意識を高めるとともに、スタッフの負担軽減も図れる。 24 第3章 トレーニングの導入 ◆ 動作等の留意事項 筋力トレーニングやストレッチを安全に行い、最大限の効果をあげるためには何よ りもまず、適切なフォームを習得する必要がある。誤ったフォームでトレーニングを 実施すると、効果が上がらないばかりか、関節痛などを引き起こす恐れがある。 適切なフォームで筋力トレーニングやストレッチを行うためには、「① スタートポ ジションの理解」、「② 動作とリズムの流れをつかむ」、「③ 呼吸方法」の3段階に分 けて行うと高齢者でも無理なく習得できる。 動 作 スタートポジション 留 意 事 項 「第4章トレーニングの実践」各種目の【手順】参照 第 3 ◆ スタートポジションがしっかりしていないと代償動 作が起きやすく、効果的な柔軟性や筋力の向上が十 分に図られない。 動 作 と リ ズ ム 章 ◆ メニューにより、運動姿勢がとれない場合や、動作 方法が理解できない人もいるため、フォームを工夫 するなどの対応が必要な場合がある。 フォーム ◆ 膝を床につけるトレーニングでは、マット等により 膝への負担を軽減する必要がある。 (床全体の材質、環境も考慮) ◆ 開始当初は特にフォームの習得に時間を充てること が代償動作を防ぎ、維持期以降の効果的なトレーニ ングにつながる。 ◆ 初心者は、腕を戻す、ダンベルを下げる等の際、ス ピードが速くなりがちであるため注意する。 テンポ・スピード ◆ 動きに任せて一気に作動しないこと。(関節を痛め る原因になる) 逆に、戻す時にあまりゆっくりしすぎると動作が途 切れる。 ◆ カウントに合わせ動作を止めずなめらかに行う。 呼 吸 方 法 ◆ スタートポジション、動作とリズムの習得段階では 息を止めないことを伝え、スタートポジション、動 作とリズムが習得できた後、呼吸法を指導する。 呼吸の タイミング ◆ 呼吸にこだわりすぎると、フォームの乱れや緊張が 生じるので注意。 ◆ 息ごらえや、力みをしないことが大切。 ◆ 動作の際、息を止めないようにするため、自ら声を 出してカウントする方法でも良い。 25 第3章 トレーニングの導入 ◆ トレーニング時のカウント方法 ◆ 集団で一斉に行う場合、初期はスタッフが声をかけながら行う。 ◆ 運動の往復時間は同じ時間とし、「イチ、ニー、サン、シー」で持ち上げ(伸ば す、引く等)、「イチ、ニー、サン、シー(ゴー、ロク、シチ、ハチ)」で下ろす (曲げる、戻す等)。 また、動作に合わせたカウント方法として、「 上 げ て 」 ・ 「 戻 し て 」、「 曲 げ て」・「戻して」等でも良い。 ◆ 動作時に呼吸を止めないよう参加者にもカウントしてもらいながら行うのも良 い。 ◆ 可動域の狭い者には、最終カウントで最終可動域に達するようゆっくりとした動 作を行うか無理にカウントに合わせない。 ◆ 指導者の立ち位置 指導者は参加者が行う運動の 見本となるよう一緒に運動を行 い、参加者全体から動きが見え やすい位置に立つ(座る) 。 指導者と参加者が対面する場 合は、対照的な動きで混乱を与 えないよう指導者は参加者と反 対方向の動きを行うように配慮 する。 また、動作が理解しにくい参 加者には、同一方向を向いて運 動を示すなどの工夫も必要に応 指導者の立ち位置(写真:上富良野町モデル事業) じて行う。 補助スタッフは、参加者の代 償動作が確認しやすい位置に付き、随時、フォーム等の指導を行う。 参加者同士の動きが見やすいよう円型で運動を行い、指導者が適宜、動作を確認し ながら実技を行うのも良い。 26 第3章 トレーニングの導入 ◆ 疾患等を有する高齢者への対応 高齢者は関節・筋肉・靱帯などに疾患をもっていることが多く、これに伴い関節可 動域制限、筋力低下、疼痛が生じている場合がある。 これらを主な原因とした身体機能低下に着目し、トレーニングプログラムを組み立 てることにより、個々人が安全にトレーニングを推し進めることが可能になる。 ① 理学療法士等による身体機能状況の把握を行うことが、安全かつ個別の特 性を生かしたプログラムの作成に結びつく。 ② 参加者のレベルに違いがある場合、できる人と比較してしまうため、比較 しないよう自分のペースで良いことを事前に十分説明し、途中で脱落しな いよう、励ましやサポートに配慮する。 ③ 易疲労性症状のある者に対しては、疲労に配慮し、適宜休憩をとる。 ④ 動作等に対する理解力が低下している場合もあるので、できるだけ繰り返 し動作を確認する。 ⑤ 移動の際、転倒に配慮する。特に、マットへの移動の際や靴の着脱の際に はふらつくことが多いので、椅子の用意やつかまるための安定した台を用 意するなど配慮する。 ⑥ 可動域制限があって運動姿勢がとれない場合、代替種目を作成し実施する。 第 3 章 ◆ 休憩のタイミング セット間の休息は1∼3分が目安とされている。また、種目間の休憩は参加者の疲 労状況などを勘案し設定する。なお、その際の休憩時間も1∼3分程度が目安である。 通常の休憩時間にかかわらず、トレーニング中に息切れや疲労の症状が現れてきた 場合は次のとおり対処する。 なお、休憩中には水分を十分とるよう配慮する。 息切れ、疲労時の対処方法 休 憩 *症状改善(落ち着く) トレーニング再開 *症状が改善されない トレーニング中止 ※判断はPTまたは保健師等 27 第3章 トレーニングの導入 ◆ 負荷の見極め 非マシン筋トレにおいても負荷を徐々に増加させることで筋力増強の優れた効果が 得られるため、維持期からは適正負荷で筋力トレーニングを実施することが望ましい。 適正負荷の設定は、高齢者に最大筋力(1RM※)を直接測定し、1RMの60∼70% を負荷とする方法以外に、自覚的運動強度(Borg指数:23ページ参照)を活用し、そ の結果、「楽である」から「ややきつい」の範囲にあたる運動強度を目安として設定 する。 ただし、以下の点に留意する。 ◆高齢者は体調変動が大きいことから、負荷は変動しても可。 ◆痛みや筋肉痛等が出現した際、症状に応じ、無理のない負荷とする。 負荷の見極めとして、過負荷の場合、痛みの出現、筋肉痛の出現、呼吸の乱れ、代 償動作の出現、スピード・テンポの遅れ等が出現する。また、自覚的運動強度(Borg 指数)の「きつい」の場合、過負荷となっている。これらの、症状や自覚がある場合 には、負荷を軽減する。 低負荷の場合、自覚運動強度(Borg指数)の「かなり楽である」をもとに把握でき る。この場合には、負荷を増加する。 負荷が重くなるに従い、疲労が蓄積しやすくなり、トレーニングに停滞が見られる 者が現れてくる恐れがあり、その際には負荷や回数を減らすなど適切な対処を心がけ る必要がある。 負荷を増量するには、ダンベル及び重錘バンドは重量を変更し、セラバンドについ ては、伸縮強度の強いものに変更するか、2枚重ねて使用するなどの工夫が必要であ る。 ※「1RM」・・・・・・「RM」とはRepetition Maximum(最大反復回数)の略。1RMとは1回しか反 復できない重さを指し、その者にとっての最大負荷重量を指す。 28 第3章 トレーニングの導入 ◆ 上げ下げ時の負荷への理解 シュラッグやロープーリーな どの種目では、可動域が変化す ることで負荷量が変化すること に留意する。 セラバンドを使用する種目の 際、バンドの固さ、引く長さ、 握り幅などで負荷が変化するた め、使用方法を十分説明し、個 別に応じた調整が必要である。 また、セラバンドの特性とし て、伸びた最後に強い力がかか り、血圧上昇につながることも あり、強度や呼吸方法の指導に 留意する。 第 3 (写真:名寄市モデル事業) 章 ◆ セット数に応じたトレーニング 1種目に対し、1セット当たり10回程度を2∼3セット行うことによって、筋力向 上の効果が得られる。しかし、3セットを開始当初から行うことは負担が大きいため、 トレーニング導入期は1∼2セット、トレーニング維持期から発展期には2∼3セッ ト行うことを原則とする。 低負荷により フォームを習得 1 セ ッ ト 実 施 2∼3セット 実 施 適 正 負 荷 の 設 定 2 ∼ 3 セ ッ ト 実 施 ◆ トレーニングの流れ 基本はストレッチ、軽運動、バランス運動、筋力トレーニング、クールダウンの順 に行う。 各トレーニングの順番は、一般的に大筋群から小筋群、下肢から上肢の順番に行う のが良いとされている。 会場の状況により、椅子や立位の運動と床上の運動に分け、筋力トレーニングの順 番の変更も可能。姿勢の変化が少ないようプログラム内で順番を変更するなどの組み 立ても良い。 29 第3章 トレーニングの導入 ◆ 作用筋を意識させる トレーニング時の見回りや観察の際に、作用筋に軽く触れ、「○○の筋肉に効いて いるのがわかりますか」などと声をかける。 何気なく運動を繰り返すのではなく、作用筋をしっかり意識しながら行うことによっ て、筋活動量を上げることができ、筋力トレーニングにとって効果的である。 ◆ 可動域の確認 トレーニング前に参加者個人ごとの可動域を把握することは、トレーニング期間を 通じ必要である。 また、極端に可動域が狭くトレーニング効果が十分発揮されないと判断した場合に は、その者に適した代替メニューを作成する。 ◆ 非マシン筋トレの代償運動 非マシン筋トレの場合、レッ グエクステンションのように、 期待する筋が働きやすい種目を 除き、ロープーリーなど、代償 運動の起こりやすい種目があ る。この場合、期待される効果 を得るためには、正しいフォー ムであるかの点検、声かけ、指 導が必要である。 自重やおもりに耐えられる筋 力がない場合や、可動域の制限 がある場合は、代償運動が出現 しやすいので注意する。 (写真:名寄市モデル事業) ◆ 個別メニューの追加 自覚的運動強度(Borg指数)を踏まえ、総合的に判断。ただし基本種目を無理なく こなせることが条件となる。 正しい姿勢をとれない場合は、別のフォームでの動作により目的とする部位の柔軟 性や筋力の強化を図る。 30 第3章 トレーニングの導入 ◆ ホームトレーニング 効果のある筋力トレーニングを実施するためには、週2回のトレーニング頻度を確 保することが望ましく、事業頻度が週1回しか確保できない場合や、教室を種々の事 情により休みがちの者に対しては、種目の一部を家庭で行うよう指導し、事業と合わ せてトレーニング頻度を週2回以上とすることが必要である。 ホームトレーニングを実施する場合には、参加者本人にホームトレーニング用紙 (資料編参照)をつけてもらうことで実施状況を確認できるとともにトレーニング継 続の意欲を保つことができるような工夫をすることが大切である。 【ホームトレーニングの流れ】 開 始∼3週目 ストレッチ 4週目∼8週目 ストレッチ & 筋トレ基本種目2∼3セット 第 3 開 始∼3週目 ストレッチ 章 & 筋トレ基本種目2∼3セット & 筋トレ選択種目 最初はストレッチのみのプログラムから開始し、種目ごとに正しいフォームを確実 に習得できるように指導することが大切である。 初期に誤ったフォームでプログラムを実施すると、矯正が困難になる可能性もある ため注意が必要である。 ◆ 自宅でのトレーニングの基本はストレッチと筋力トレーニング ◆ 痛みが生じる時は、当該種目は中止する。 ◆ 疲労時はストレッチのみを実施する。 31 ― 第 4 章 ― トレーニングの実践 第4章 トレーニングの実践 1 ストレッチ ◆ストレッチの必要性 ストレッチとは、関節可動域(range of motion : ROM)を広げる目的で、筋肉など の組織を伸ばす運動のことをいう。 関節可動域とは、対象となる関節が動く範囲のこ とである。 加齢とともに、筋肉や腱、靱帯などの柔軟性は低下し、関節の動きの範囲が狭くな る。これにより、スムーズな日常動作が困難となり転倒等の危険性も高くなる。 このため、ストレッチを行い身体の柔軟性を高めることにより、けがや故障を予防 し、筋力トレーニングへのスムーズな移行を図る。また、筋力トレーニング後のクー ルダウンにも3種目程度取り入れる。 ス ト レ ッ チ の 目 的 ■ 関節可動域を大きくし、柔軟性を高める ■ 筋力トレーニングへのスムーズな移行 ■ 筋肉への効果的な刺激 ■ 筋肉の緊張の緩和によるリラックス効果 ■ けがを予防する ■ 関節等の血液循環を高める 34 第4章 トレーニングの実践 ◆ストレッチ実施時の留意点 ストレッチも筋力トレーニングと同様、無理な姿勢をとったり、力を入れすぎると 故障の原因となる。実施の際は次の事項に留意しなければならない。 ■ 無理をしない けがや故障の原因となるので無理はしない。 ■ 息を止めない 息をこらえて行うと、血圧が過度に上昇すると ともに、筋肉も十分に伸びない。 ■ 弾みをつけない 反動や弾みをつけて行うと、効果を高めるどこ ろか、けがをする可能性がある。ゆっくりと伸 ばしていくことが基本。 ■ 痛みを感じる寸前まで伸ばす 身体の柔軟性は個人差が大きいことから「どこ まで伸ばすか」という基準はないため、痛みを 感じる寸前まで伸ばすこととする。 ■ 関節部が痛むときは中止する 関節に痛みのある部位のストレッチは故障の原 因となるので中止する。なお、ひどくない場合 は、痛みをチェックしながらゆっくりと行う。 ■ 伸ばす筋肉を意識する 漫然と行っていても効果は半減してしまう。 作用筋を意識して行うことにより、その効果を 十分に得ることができる。 第 4 章 35 第4章 トレーニングの実践 1 胸部のストレッチ 大胸筋 【手 順】 ① 立位または椅子座位など楽な姿勢を とる。 ② 両手を後ろで組み、左右の肩甲骨を 寄せるように、胸の筋肉を伸ばす。 【指導方法】 ■ 後方から軽く手を添えるなどにより 補助する。 【時 間】 ■ フォームを作って静止させ、「その 状態を保持します」と指示する。 ■ 静止時間 10∼30秒程度 ■ 1∼2回実施する。 ポイント 五十肩などで 後で手を組め ないときは、 タオルなどを 利用する。 36 第4章 トレーニングの実践 2 肩部のストレッチ 三角筋 【手 順】 ① 胸の前でストレッチを行う側の腕を伸ばす。 ② 反対側の手の前腕を、伸ばした腕の肘にかける。 ③ 伸ばした腕を横方向へ引っ張るようにし肩の筋肉を伸ばす。 【指導方法】 ■ 伸ばした腕の肘にかけた反対側の腕の位置に注意する。 ■ 肘が曲がらないように注意する。 ■ 筋肉を伸ばした際に肩が顎の下にくるような感じで行う。 【時 間】 ■ 左右実施する。静止時間 10∼30秒程度 ■ 1∼2回実施する。 第 4 章 37 第4章 トレーニングの実践 3 腰背部のストレッチ 脊椎起立筋 【手 順】 ① 膝を曲げて仰向けに寝る。 ② 手のひらを下に向けて両手を左右に広げる。 ③ 顔を右側に向けながら、ゆっくり膝を左側に倒す。 ④ ゆっくりした動作で①のポジションに戻す。 ⑤ 顔を左側に向けながら、ゆっくり膝を右側に倒す。 ⑥ ゆっくりした動作で①のポジションに戻す。 ⑦ ③∼⑥を繰り返す。 【指導方法】 ■ ③及び⑤の動作の時に、 「腰の筋肉が伸びていますか」と声かけする。 ■ 勢いをつけて膝を倒すと腰を痛めるので、膝はゆっくりと倒すようにする。 ■ 顔と膝の向きが逆になるよう、軽く手を添えて補助する。 【時 間】 ■ 左右実施する。静止時間 10∼30秒程度 ■ 1∼2回実施する。 ポイント 肩が床から浮かないよ うにする。 38 第4章 トレーニングの実践 4 首部のストレッチ 僧帽筋 【手 順】 ① 首を前後左右にゆっくりと曲げていく。 【指導方法】 ■ 首を前に倒すとき、手を頭の上へ置いて行ったり、首を後へ倒すときに、両手の親指を顎 の下から支え、軽く持ち上げるように行うと、よりストレッチされる。 ■ 勢いをつけ過ぎると頸椎を痛めることがあるので、ゆっくりと無理のないよう行う。 【時 間】 ■ 前後左右実施する。静止時間10∼30秒程度 ■ 1∼2回実施する。 第 4 章 39 第4章 トレーニングの実践 5 大腿部のストレッチ 大腿四頭筋 【手 順】 ① 横向きに寝て、上になった脚のつま先をつかむ。 ② 臀部とかかとをつけるように膝を曲 げる。 【指導方法】 ■ ストレッチする足の足首に軽く手を 添えて誘導する。 ■ 体の下になる側の手は楽な位置に置 く。 ■ 横臥位が困難な者は背後や横から軽 く支える。 ■ 股関節を十分伸展させるようにする。 【時 間】 ■ 左右実施する。静止時間10∼30秒 ■ 1∼2回実施する。 40 ポイント つま先がつかめない者 は、足首にタオルを引 っかけて行う。 第4章 トレーニングの実践 6 そけい部のストレッチ 内転筋 【手 順】 ① 床に座り両脚を折り、体の前で両足の裏を合わせるように手を添える。 ② ①の姿勢から静かに上体を前方に倒す。 【指導方法】 ■ 脚、足裏に軽く手を添え、動きを指示する。 ■ 股関節を十分伸展させるようにする。 【時 間】 ■ 静止時間10∼30秒 ■ 1∼2回実施する。 第 4 章 ポイント スタートポジジョンをと ることが困難な場合は、 仰臥位で足裏を合わせな がらゆっくりと両脚を開 く。 41 第4章 トレーニングの実践 7 臀部のストレッチ 殿 筋 【手 順】 ① 椅子に座り足を組む。 ② 両手で膝を抱え、大腿部を胸へ引き寄せるようにする。 ③ 片脚が終了したら、脚を組み替えて行う。 【指導方法】 ■ 膝を抱える際や、腿の裏側に手を回す際に、腕の動きを軽く誘導する。 ■ 膝の曲がりや脚の上がり具合により、無理のない範囲で行う。 【時 間】 ■ 左右実施する。静止時間 10∼30秒程度 ■ 1∼2回実施する。 ポイント 膝が曲がりにくい場合、片脚ずつ 腿の裏側を支えて行ってもよい。 また、脚を組まずに行っても良い。 42 第4章 トレーニングの実践 8 下腿部のストレッチ 腓腹筋 【手 順】 ① 両脚を前後に開く。 ② 後ろ脚のかかとが浮かないよう床にしっかりつける。 ③ ②の姿勢のまま、体重をゆっくり前方にかけ、後脚のふくらはぎを伸ばす。 【指導方法】 ■ 勢いをつけて行うと、アキレス腱を痛めるので注意。 ■ 両脚を開く、体重をかける等の動きでは、体幹が不安定になる場合があるので側方から見 守る。 また、椅子の背もたれにつかまり行っても良い。 【時 間】 ■ 左右実施する。静止時間10∼30秒 ■ 1∼2回実施する。 第 4 章 悪い例 43 第4章 トレーニングの実践 2 軽運動 軽運動は、身体全体のバランス機能及び体幹の安定性を向上させることを目的とする。 安定性のある、正しい姿勢を保つことができなくては、日常動作の改善へ結びつかず、 立位での正しい姿勢保持ができない場合、転倒の危険性も高い。 軽運動の導入については、筋力トレーニングにより、身体機能の向上が見られてくる 維持期から進める。 軽運動の留意点 ある部分を鍛える運動ではなく、身体全体を使った運動となることから、体幹支持 機能が低い者に対しては補助や見守りが必要となる。 ■ 正しい姿勢を保つことができるようにする ■ 運動中は、常に体幹を安定させるよう留意する ■ 体幹支持機能が低い者には、椅子等を使用しながら行う ■ バランスを崩した際に補助できるよう配慮する 44 第4章 トレーニングの実践 1 腹筋運動 腹 筋 【手 順】 ① 仰向けに寝て、膝は90度に曲げ る。 ② 手は大腿の上に置く。 ③ ゆっくりと上体を起こす。 ④ 無理がかからない角度(15∼ 30度)で5秒間静止する。 ⑤ ゆっくりと元に戻す。 ⑥ ①∼⑤を2∼3回行う。 【指導方法】 ■ 身体の動きに合わせて手のひら を大腿の上で滑らせる。 ■ 視線はへそを見るようにする。 ■ 静止の時、指先をできる限り膝 頭に近づける。 ■ 力の弱い者は、床から肩が少し 離れる程度から始める。 ■ 腹筋が働いていること(緊張し ていること)を意識させる。 第 4 章 【リズム】 ■ あまりこだわらず、個人のペー スに合わせてゆっくりと。 【呼 吸】 ■ 上体を起こすときに息を吐く。 ポイント 手のひらを滑らせる ように! 45 第4章 トレーニングの実践 2 四つん這い片手片足上げ 【手 順】 ① 両手両足を床について四つん這いになる。 ② 顔は正面を向く。 ③ 左手を上げ、次に右足を上げる。(膝を伸 ばすことが困難であれば曲げても良い。) ④ 一度静止して、元に戻す。 ⑤ 右手を上げ、次に左足を上げる。(膝を伸 ばすことが困難であれば曲げても良い。) ⑥ 一度静止して、元に戻す。 ⑦ ③∼⑥を2∼3回繰り返す。 殿筋・脊椎起立筋 ポイント ◆ 勢いをつけて脚を上げると、腰痛等の原 因になることがあるので、十分注意する。 ◆ 足を上げたときに、ふらつくことが あるので、側面から支持する等の対 応が必要。 【指導方法】 ■ 上体が傾いていないか、背中が反りすぎていないか、曲がりすぎたりしていないか、四つ ん這い姿勢が安定していることを確認する。 ■ ゆっくりと行わせるよう心がける。 【リズム】 ■ ④、⑥における静止時間は5秒程度とする。 ■ あまりこだわらず、個人のペースに合わせてゆっくりと。 足上げまでできない場合・ ・ ・ 片手上げでも脊椎起立筋に作用する。 46 第4章 トレーニングの実践 3 ヒップリフト 殿筋・ハムストリング 【手 順】 ① 仰向けに寝て、両腕をやや広げ気味にし、しっかりと床に手をつける。 ② 膝を90度∼120度に曲げる。 ③ 肩とかかとを床につけたまま、腰を浮かす。 ④ 2∼3回繰り返す。 【指導方法】 ■ 筋力の弱い方については、無理のない範囲で腰を少し浮かす程度にとどめる。 ■ 腰を浮かせる際には、勢いをつけずカウントに合わせてゆっくり行う。 ■ 腰を浮かした際の静止時間は5秒程度とする。 【リズム】 ■ カウント方法 *腰を上げるとき∼「上げて∼」・「1(い∼ち) 」等 *腰を戻すとき ∼「戻して∼」・「2(に∼い) 」等 第 4 章 47 第4章 トレーニングの実践 4 ニーリング 【手 順】 ① 正座から膝立ち姿勢になる。 ② 手を片手ずつ上げ下ろしし、両手同時でも行 う。 ③ 手を水平に前方に伸ばし、上体を左右にひね る。 *左右それぞれ行う。 ④ 手を上げて上体を左右に倒す。 *左右それぞれ行う。 ⑤ 各動作を1∼2回実施する。 【指導方法】 ■ ①の時、膝、大腿骨大転子、肩峰、耳のライ ンが一直線になっているかを確認する。 ■ 上体をひねる際に、体幹がふらつく場合があ るのでサイドから見守ること。 ■ 膝に痛みのある場合は、マットを敷く等の工 夫や、痛みの管理が必要となる。 *場合によっては中止も考慮する。 【リズム】 ■ あまりこだわらずゆっくりと行う。 48 腹筋・殿筋 ポイント 次の動作に移る前には、 基本姿勢に戻してから行 うこと。 第4章 トレーニングの実践 3 バランストレーニング 筋力トレーニングや軽運動を実施していても、身体全体のバランスが伴っていなけれ ば歩行や日常生活動作の向上は図られない。 このため、股、膝、足部の関節や筋肉を相互に機能させ、歩行の基礎となる正しい動 きや、重心の動きに際して、正しい姿勢への復元ができる平衡性を養うトレーニングを 行う。 バランストレーニングの代表的なものとして、次の3種目が上げられるが、用具を使 用せず、下肢のバランス向上に効果のある「ニーベントウォーク」を本プログラムでは 紹介する。 種 目 主な作用筋 使用用具 目 的 ニーベントウォーク 大腿四頭筋 − 股、膝、足部の関節と筋肉を相互 に連動させる動きの習得 体重移動※1 大腿四頭筋 ハムストリング バランスパット 正しい重心の位置を習得し、平衡 性を養う つぎ足※2 大腿四頭筋 − 第 4 歩行時のつまずき等の予防 章 〈参 考〉 ※1「体重移動」の方法 ①バランスパットの上で、立位をとる。 ②足踏みを行う ③片足立ちを行う。(持ち上げる足のつま先は、バランスパットにつけたまま。左 右行う。) ④両足を肩幅程度に開き、片足に体重移動する。 (膝を曲げない。左右行う。) ⑤足幅を狭くし、④を行う。 ⑥前後に若干開脚した姿勢から、前側に体重移動する。 (左右行う。) ⑦足をそろえて、前方へ体重移動する。(左右行う。) ※2「つぎ足」の方法 ①床に1本のラインをひき、その上 を歩く。ポイントは「前の足のか かとと、もう片方の足のつま先を つけるように」歩く。前進及び後 進交互に行う。 ②先ほどのライン上を足を交差させ て横に歩く。なるべく足を近づけ るようにし、右に歩いた後、同様 にもとの位置へ戻る。 前歩き 後歩き 49 第4章 トレーニングの実践 1 ニーベントウォーク 大腿四頭筋 【手 順】 ∼ステップ1∼ ① 両足をそろえた姿勢から 一歩踏み出し、かかとか ら着地する。 ② つま先と膝が正面を向く ように保ちながら、重心 を前方に移行する。 ③ 踏み出している足を引 き、もとの姿勢に戻る。 ∼ステップ2∼ ① 両膝を軽く曲げ、腰の高 さを同一に保ちながら、 ステップ1と同じく、一 歩踏み出す。 ② 重心を前方に移動する。 ③ 踏み出している足を引 き、もとの姿勢に戻る。 【指導方法】 ■ 両膝が曲がることにより安定性が崩れ、転倒の危険性があるのでサイドから見守る。 ■ 踏み出した時に膝が内側へ入り込んでいないか、重心が身体の後方に掛かっていないか等 に留意する。 【リズム】 ■ ゆっくりと行う。 50 第4章 トレーニングの実践 4 筋力トレーニング 高齢者は加齢とともに、歩行や、階段の昇り降り、椅子からの立ち上がり等の動作が 難しくなってくる。これは、大腿四頭筋をはじめとする下半身の筋力の衰えが大きな要 因である。 筋力トレーニングでは、下半身の筋力アップに主眼をおくとともに、身体全体のバラ ンスを考慮し、上半身、特に日常動作に関わりの深い部位についてトレーニングを行う。 種 目 基 本 種 目 選 択 種 目 主 な 効 果 レッグエクステンション 膝関節にかかる負担を軽減し、歩行の安定を図る カーフレイズ 歩行時の蹴る力をつける トゥレイズ 歩行時のつまずきを予防する スクワット 立ち上がりや階段の昇り降りがスムーズに行えるよ うになる アブダクション 歩行時における骨盤の安定性を確保する チェストプレス 起立動作等の補助機能を高める ロープーリー 体幹の支持の安定を図る レッグフレクション 歩行時の安定性を図る カール 起立動作等の補助機能を高める シュラッグ 物を持つ動作等の機能を高める 第 4 章 51 第4章 トレーニングの実践 1 レッグエクステンション 【手 順】 ① 椅子に腰掛ける。 (椅子の中央に。足が床に着くように 座る。 ) ② 手は腰にあて、背中を伸ばす。 ③ 顔は正面上方向へ向ける。 ④ ゆっくりと膝を伸ばし、床と水平にな った時点で一度静止させ、ゆっくりと 元の位置に戻す。 ⑤ 左右各10回、2∼3セット実施する。 【指導方法】 ■ 動作開始時には、「太ももを意識して、 ゆっくりと膝を伸ばしてください」と 声かけする。 ■ 上体に余計な力が入らないよう、手は 楽な位置におくようにする。 【リズム】 ■ カウント方法 *伸ばすとき∼「伸ばして∼」・「1 (い∼ち)」等 *戻すとき ∼「戻して∼」・「2(に ∼い) 」等 【呼 吸】 ■ 膝を伸ばす時に、ゆっくりと息を吐く。 ■ 慣れるまでは「吸って∼、吐いて∼」 の声かけも必要。 ポイント ◆ 膝を伸ばしきった位置で大腿部に触れ、筋肉が 収縮し硬くなっていることを確認させる。 ◆ 左右で足の動きや上がり方等が異なる場合があ るので、作用筋が正しく動いているか注意する。 ◆ 負荷をあげる時は、「重錘バンド」を足首に巻く。 (500g∼1.5kg) 52 大腿四頭筋 第4章 トレーニングの実践 2 カーフレイズ 腓腹筋・ヒラメ筋 【手 順】 ① 椅子の背もたれを持って立つ。 ② つま先でかかとの上げ下げを行う。 ③ 10回、2∼3セット実施する。 【指導方法】 ■ 勢いをつけてかかとを上げると、アキレス腱を痛める原因になるので、動作はカウントに 合わせて行わせる。 ■ 膝を伸ばした状態で行う。 【リズム】 ■ カウント方法 *上げるとき∼「上げて∼」・「1(い∼ち) 」 等 *戻すとき ∼「戻して∼」・「2(に∼い) 」 等 ※慣れてきたら、動作を1として、カウント していく。 代替方法 第 4 椅子の背もたれを持つ代 りに、壁に向かって立ち、 手を壁にあてて実施して も、同様の効果あり。 章 【呼 吸】 ■ つま先立ちするときに、息を吐く。 53 第4章 トレーニングの実践 3 トゥレイズ 【手 順】 ① 椅子に腰掛ける。 (椅子の中央に。足が床に着くように座る。 ) ② 手は腰にあてて背中を伸ばす。 ③ かかとを床につけたまま、つま先を上げ下げする。 ④ 左右各10回、2∼3セット実施する。 【指導方法】 ■ 誤った姿勢では、膝を痛める危険もあるので注意する。 【リズム】 ■ カウント方法 *つま先を上げるとき∼「上げて∼」・「1(い∼ち)」等 *つま先を戻すとき ∼「戻して∼」・「2(に∼い)」等 ※ 慣れてきたら、動作を1として、カウントしていく。 【呼 吸】 ■ つま先を上げるときに、息を吐く。 ポイント 「カーフレ イ ズ」とセットで行 うと、効果が高い。 ∼つまずきが防げる∼ 54 前頸骨筋 第4章 トレーニングの実践 4 スクワット 大腿四頭筋 【手 順】 ① 椅子に腰掛ける。(椅子の中央に。足が床に着く ように座る。) ② 両足を肩幅程度に開き、つま先を約30度程度開 く。 ③ 顔は正面やや上方に向け、上体はやや前傾させ る。 ④ 両手を腰にあてて起立し、その後、ゆっくりと、 もとの姿勢(椅子に座る。)に戻す。 ⑤ 10回2∼3セット実施する。 【指導方法】 ■ 起立時より、もとの姿勢に戻るときにゆっくり と戻るように指導し、大腿四頭筋が作用してい ることを意識させる。 ■ 誤った姿勢では、腰及び膝を痛める危険もある ので注意する。(腰痛防止のため、前傾姿勢を強 くさせないようにする。) ■ もとの姿勢に戻る(椅子に座る)とき、転倒し ないよう後方から見守る。 第 4 章 【リズム】 ■ カウント方法 *起立のとき∼「立って∼」・「1(い∼ち) 」等 *戻るとき ∼「座って∼」・「2(に∼い) 」等 ※慣れてきたら、動作を1として、カウントして いく。 【呼吸】 ■ 立ち上がるときに、息を吐く。 悪い例(前傾姿勢) ポイント 1 無理なくセットをこなす場合は、ダンベル を両手に持ち実施することで負荷を大きく することが可能 ポイント 2 自重に耐えることがやや困難な場合は、壁 やバー、椅子に手をかけて負荷を小さくす ることが可能 55 第4章 トレーニングの実践 5 アブダクション 中・小殿筋・腹斜筋 【手 順】 ① 横向きに寝て、肘で身体を支える。 ② 上側の脚はつま先を正面にして伸ばし、下側の脚は曲げておく。 ③ 上側の脚を上方向にまっすぐ持ち上げて一度静止させ、元の位置にゆっくり戻す。 ④ 持ち上げる際は、無理のない範囲で持ち上げ、角度は45度を限度とする。 ⑤ 左右各10回、2∼3セット実施する。 【指導方法】 ■ ゆっくり降ろすように指導し、作用筋が十分に使われていることを意識させる。 ■ 脚の筋力ではなく、 「お尻の横の筋力を使います。 」と声かけする。 ■ 横臥位が困難な場合は背後等から軽く支える。 ■ 肘で身体を支えることが困難な場合は肘枕の姿勢をとる。 ■ 股関節を十分伸展させる。 【リズム】 ■ カウント方法 *脚を上げるとき∼ 「上げて ∼」「1(い∼ち) 」等 *戻すとき ∼「ゆっくり降ろ して」「2(に∼い) 」等 ※慣れてきたら、動作を1とし て、カウントしていく。 【呼 吸】 ■ 脚を上げるときに、息を吐く。 ポイント 負荷増量が可能であれ ば足首に重鎮バンドを 着 用( 500g∼ 1.5k g) 56 第4章 トレーニングの実践 6 チェストプレス 大胸筋・上腕三頭筋 【手 順】 ① 仰向けに寝る。 ② ダンベルを両手に持ち、膝を立てる。 ③ 両腕を屈曲させた状態から、両腕同時に垂直方向に伸展させ、ダンベルを上げる。 ④ 10回、2∼3セット実施する。 【指導方法】 ■ 肘が真横にくるようにする。 ■ ダンベルの握り方(方向)に注意するとともに、しっかりと握るよう指導する。 ■ 伸ばした腕を戻す際にスピードがつき、反動で肘が床にあたって痛めないよう注意する。 ■ 「胸と腕の筋肉を主に使います」と声かけする。 【リズム】 ■ カウント方法 *ダンベルを挙上するとき∼「上げて∼」・「1(い∼ち) 」等 *戻すとき ∼「降ろして∼」・「2(に∼い)」等 ※慣れてきたら、動作を1として、カウントしていく。 第 4 章 【呼 吸】 ■ ダンベルを上げるときに、息を吐く。 ポイント 維持期及び発展期にダンベル重量の調整 (500g∼ 2.0kg) 57 第4章 トレーニングの実践 7 ロープーリー 広背筋 【手 順】 ① 床に座り、背筋を伸ばし、膝を軽く曲げる。 ② セラバンドを足の裏にかけ、両端を握って肘を後に引き寄せる。 ③ 体型に合わせてセラバンドの長さを加減する。 ④ 10回、2∼3セット実施する。 【指導方法】 ポイント ■ 背筋を常にチェックすること。 ■ 視線は前方を見る。 ◆セラバンドの長さは、スタート ■ 円背の高齢者の場合、腕でセラバンドを 時に背筋が正しく伸びる程度 の長さ 引こうとして広背筋にうまく力が入らな い場合があるので、その時には、「胸を ◆適正負荷となるよう、セラバン 張る」ことを強調せずに、「肘を後に引 ドの種類を決める き、左右の肩甲骨を寄せるように」と声 かけする。 ■ 背中に手指をあてるなどし、肩甲骨を寄せることを意識させる。 【リズム】 ■ カウント方法 *セラバンドを引くとき∼「引いて∼」・「1(い∼ち) 」等 *戻すとき ∼「戻して∼」・「2(に∼い)」等 ※慣れてきたら、動作を1として、カウントしていく。 【呼 吸】 ■ セラバンドを引くときに、息を吐く。 58 第4章 トレーニングの実践 8 レッグフレクション(選択種目) ハムストリング 【手 順】 ① 足首(左右片方ずつ)に重錘バンドを付けて、うつ伏せになる。 ② あごの下に手を組んで、両足とも伸ばした姿勢をとる。 ③ 臀部に向けてかかとを持ち上げ、膝を屈曲させる。屈曲角度は90度までとし、達した後、 ゆっくり元に戻す。 ④ 左右各10回、2∼3セット実施する。 【指導方法】 ■ 膝の後の筋(太ももの裏側)を意識させるよう声かけする。 ■ 屈曲及び戻す際はゆっくりと行い、筋へ負担をかけるようにする。 ■ 尻や膝が浮かないよう注意する。 【リズム】 ■ カウント方法 *膝を屈曲させるとき∼「曲げて∼」・「1(い∼ち) 」等 *戻すとき ∼「降ろして∼」・「2(に∼い)」・等 ※慣れてきたら、動作を1として、カウントしていく。 【呼 吸】 ■ 膝を屈曲させるとき、息を吐く。 第 4 章 ポイント 脚の曲げ戻しは、ゆっくりと行う ことにより、作用筋(ハムストリ ング)に負荷がかかり効果があが る ポイント 負荷増量が可能であれば足首に重 鎮バンドを着用(500g∼ 1.5kg) 59 第4章 トレーニングの実践 9 カール(選択種目) 上腕二頭筋 【手 順】 ① ダンベルを持って椅子に座る。 (肘掛けのない椅子を使用する。 ) ② 腕を体側に固定し、肘はやや曲げる。 ③ 肘を動かさないよう、肘の屈曲伸展を行う。 ④ 左右各10回、2∼3セット実施する。 【指導方法】 ■ 肘の位置は必ず固定させる(動かさない)。もとの姿勢に戻すときは、肘を中心に円弧を 描くように行う。 ■ 勢いよく肘の屈曲伸展を行うと効果がでないばかりか、肘を痛める原因になるので、カウ ントに合わせてゆっくりと行わせる。 ■ 上体を真っ直ぐにし、背筋を伸ばした姿勢で行う。 【リズム】 ■ カウント方法 *肘を屈曲させるとき∼「曲げて∼」・「1(い∼ち)」等 *戻すとき ∼「戻して∼」・「2(に∼い)」等 ※慣れてきたら、動作を1として、カウントしていく。 【呼 吸】 ■ 肘を屈曲させるとき、息を吐く。 ポイント 負荷増量が可能であれば ダンベル重量を調整する (500g∼2.0kg) 60 第4章 トレーニングの実践 10 シュラッグ(選択種目) 【手 順】 ① 足を肩幅程度に開く。 ② 両足でセラバンドを踏み、両端をそれぞれ握る。 ③ 肩をすくめるようにセラバンドを真上に引き上げる。 ④ 10回、2∼3セット実施する。 僧帽筋 ポイント スタートポジションで 前かがみにならないよ う注意する。 【指導方法】 ■ 肩を真上にすくめる。 ■ 肘を曲げず、張った状態でセラバンドを引き上げる。 ■ 体型に応じ、セラバンドの長さを調節する。 ■ すくめた肩を戻すとき、急に力を弱めると首を痛めることがあるので、カウントに合わせ、 ゆっくりと元の位置に戻すようにする。 【リズム】 ■ カウント方法 *セラバンドを引き上げるとき∼「引いて∼」・「1(い∼ち) 」等 *戻すとき ∼「戻して∼」・「2(に∼い)」等 ※慣れてきたら、動作を1として、カウントしていく。 第 4 章 【呼 吸】 ■ セラバンドを引くとき、息を吐く。 61 第4章 トレーニングの実践 5 クールダウン クールダウンは、身体の循環を調整して脈拍や血圧を安静時の値に戻し、静脈還流を 増すことにより、運動後の低血圧やめまいを防ぎ、上昇した体温を下げ、運動により蓄 積された乳酸代謝を促進する効果がある。 また、クールダウンのためのストレッチによって、トレーニングで使用された筋肉の 柔軟性を回復しておくことは疲労の予防につながる。 なお、クールダウンの種目は、下腿のストレッチを中心に3種目程度選択する。 ― 主な下腿のストレッチ − ■大腿部のストレッチ ■そけい部のストレッチ ■下腿部のストレッチ 62 ― 第 5 章 ― トレーニング終了後 第5章 トレーニング終了後 1 評 価 ■ 体力測定の実施 3か月のトレーニング終了後、トレーニングによって、どの程度身体機能の向上が 図られたか、トレーニング前に実施した体力測定と同様の項目を実施することにより 確認する。 体力測定の各項目における測定者についても、トレーニング前と同様の者が携わる こととする。 なお、トレーニング前後で、参加者の体力測定に対するモチベーションが変化して いることから、測定に挑む際に気負わないような配慮が必要である。 ■ その他の指標 体力測定と同様に、トレーニング前に実施した、SF−36等の評価指標や個別アン ケートについても同様に実施し、参加者の心身の変化を見ることも必要である。 結果の説明にあたっては、参加者個々人で体力の変化の程度は異なるものであるこ とを理解してもらうよう努めることが大切である。 その結果を検証し、次回の開催にあたり、トレーニング内容や取り組み方等を見直 し、より効果のある事業へと改善していくことが望ましい。 また、評価指標による変化を参加者へフィードバックして、終了後の自主的トレー ニングへ移行できるよう配慮する必要がある。 2 ホームトレーニング 3か月間のトレーニングにより身体機能に向上が見られても、その後の廃用症候を 防ぎ、生活機能を維持若しくは向上させるためには、無理なく日常生活に運動を取り 入れ、継続していくことが極めて大切である。 本トレーニングは、身近な用具を利用しながら継続していくことが可能であり、ダ ンベルや重錘バンド、セラバンドを購入しなくとも、第3章で示した、ペットボトル やタイツ等の代替品を使用し、同等の効果を得ることが期待できる。 そこで、トレーニング終了時のオリエンテーション等で、これら代替品の作成に関 する講座を開くなど、自宅でのトレーニング継続について啓発していくことが必要で ある。 また、定期的に参加者とコンタクトをとり、その後の状況を確認するとともに、ホ ームトレーニングを継続している者を対象とした、フォローアップ教室の開催などを 企画することも必要である。 64