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現代における葛布の可能性

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現代における葛布の可能性
090203
現代 にお ける葛 布 の可能 性
学籍 番 号
0533005
氏名
岩 崎史子
指導教 員
1
道 明 美保子
葛布 を実 際 に制 作 す る と ともに、 なぜ 葛布
制 作 の 目的
世 の 中、環 境 問題 が取 り上 げ られ て久 しい。
が世 間 か ら姿 を消 したか、 問題点 や これか ら
各分 野 で様 々な 省 資源運 動 が展 開され て い
の可 能性 を考 察す る ことに よ って 、 クズの新
るが 、 こと衣 服 に関 して は、他 分 野 に対 し遅
しい繊 維 素材 と して の展 望 を見 つ ける ことを
れ を とって い るのが現状 で あ る。
近年 にな って 、 よ うや く リサ イ クル素 材 や
自然 素材 が注 目され るよ うにな うたが :既 製
この研 究 の 目的 とす る。
2
研 究の 内容 、概 要
葛 布 をよ り深 く理 解 す る た め に 、 植 物 と
品 を回収 して つ く りかえ る際 には様 々な化 学
して の ク ズ 、 葛 布 の歴 史 、 葛 繊 維 の性 質 の
的処 理 が必要 とされ 、環 境 問題 には貢 献 度 が
β 項 目につ い て研 究 し、 そ の性 質 を反 映 し
低 いのが 現 状 で あ る。 さ らに、 自然素材 で も
て 葛 布 を制 作 す る 。
作 物 と して綿や 麻 を栽培 した とき には農 薬 、
21
化 学肥料 等 の薬 品が大 量 に使 用 され 、土壌 汚
染や 生態 系 の変化 も起 こって きて い る。
この よ うな背 景が あ った ので は天 然素 材 が
「地 球 に優 しい」 とは言 い切 れ な い。
クズの植 生
"
‐
マ メ科 つ る性 の多 年 草。 中国原 産 で北 海道
か ら九州 の ほか 、東 ア ジア、東南 アジア に広
く分 布 す る。荒 れ地 や薮 に多 く生息す る。
5月 頃発 芽 し、急 速 に生長す る。木 な どに
私 が テー マ に選 んだ葛布 とい うの は、平 安
巻 きつ いて 上 に登 る性 質が あ り、低 木 な どは
以 前 か らある繊維 で ある。植 物繊 維 の 中で は
覆 い尽 くされて枯 死す る こともあ る。 クズ の
いち ばん美 しい といわれ た は どの繊維 で あ る
蔓や 根 は昔か ら農村部 で利 用 され て いた ため 、
が 、昭和 前期 の工 業化 の波 によ り、そ の伝 統
近 代以 前 は あ ま り繁 茂す る ことは なか ったが 、
はす で に途絶 えて しまって い る 。。
道 具 を手作 りす る ことが な くな って以来爆 発
クズ とい う植 物 自体 は 日本 中 どこにで も生
息 して い る もので あ り、毎 年 夏 にな る と処 分
しきれな いほ どの繁殖 力 を持 つ植物 で あ る。
的 に増殖 して、現在 で は有 害植 物 とみ な され
て い る。
根 に はで んぶ ん質 が豊 富 で 、葛粉 な どと し
荒れ地 に生息 す るので農 薬肥 料 な ども不 要 で
て利 用 され て いる。
ある。彦 根 市 内で も川 辺や ち よつ とした空 き
22
地 には、いた る と ころ に葛 の葉 が覗 いて いる。
この よ うな植 物 を うま く禾1用 で きた ら、 こ
れ は理想 的 な天 然繊 維 で はな いだろ うか。
葛 布 の歴史
葛布 は静 岡県 掛 川市 の ものが有 名で 、平安
時代 か ら武家 、貴 族 の装東 な どに使 用 され 、
中世 にお いて広 く取 引 され た い。繊維 と して
は弱 いが 美 しい光 沢 を持 ち 、経 糸 に綿 や絹 を
さ くれや 枝 分 かれ が 少な い印 象 を受 けた。
使 う こ とで補 強 してつ く られ て いた。
明治 期 には藩 の保 護 を失 い、 生産 は大 き く
落 ち るが 、そ の美 しさか らア メ リカ向 けに輸
図
1葛 側 面
出す る よ うにな った。 しか し次第 に葛 が不足
す るよ うにな り、昭和
30年 には葛繊維 の
9
割 を韓 国 に依 存 して い る。 そ の後 韓 国が 日本
向 けの輸 出 を規 制 した ため 、葛布 の生産 は大
幅 に落 ち込 み 、現在 は数戸 で 生産 して いるの
図 2大 麻側面
みで あ る。
一 方 、鹿 児 島県 甑 島列 島で は野 良着 と して
(× 1200)
も着 用 され て い る記録 が あ り、糸 作 りの方 法
によ って丈夫 に作 る こ とも可能 で ある う。
甑 島列 島 で は麻 の栽培 が 盛 ん で はな く、葛
が使 用 されて いた 。必 要 に追 られ て の利 用 な
図 3苧 麻側面
ので 、掛 川 が緯 糸 だ け に葛 を使用 す るの に対
(X800)
して甑 島列 島 で は経緯 に葛 が使 用 され て いる。
甑 島 の葛布 は昭和
30年 代 まで は需 要が あ
ったが 、それ 以 降徐 々 に廃 れ て いき、 現在 で
は葛布 を織 る人 は いな い い。
葛 の蔓 は全 国 的 に利 用 され て いて、約 30年
2)繊 維 断 面
図 4∼ 6の 写 真 よ り、葛 は繊 維 数本 が糊 状 の
もの で合 わ さって い る ことが わか る。繊維 の
前 まで腰 籠や ざるな ど して 利用 され て いた。
m、
太 さは葛繊維 が 5∼ 7 μ
大 麻 が 30∼
葛 の 蔓 は丈夫 で軽 いので野 良仕事 に重宝 され
nで あ り、
苧麻 が 20∼ 30 μ
葛 が他 の繊維 と比べ
て いた。 また、甑 島で は漁網 と して禾1用 され
て いた とい う こと もあ り い、葛 は生活 に密着
て か な り細 い ことがわか った。
した 身近 な素材 だ った とい う ことがわ か つた。
20
葛 繊維 の性 質
葛 は靱 皮繊 維 で 、繊 維 の製造 方 法な どは麻
渕
lt鮮
401.l、
面
な どとほ ぼ同様 の過程 を踏 む。
葛 繊維 と大麻 、苧 麻繊 維 の性 質 を比較 す る。
1)繊 維 側 面
大 麻 、苧 麻 は繊 維 が 一 本 ず つ独 立 して い る
が、図
1に 見 られ るよ うに葛 は数本が 東 にな
って いる ことが わか る。 また 、葛繊維 の表 面
には網 の よ うな ものが見 え るが、これ は他 の 2
種 (図
2、
3)に はな く、独特 の もので あ る。 こ
れ が 表 面 に凹 凸 をつ く り、光 が舌L反 射 して光
沢 が で きて い る と考 え られ る。
そ の ほか 、他 に比 べ て葛 繊 維 には繊 維 の さ
図 5大 麻断面
(×
1500)
と外 皮 を分 ける。
靭 皮 を取 り出 した ら陰千 し し、生乾 きの
図 6苧 麻断面
(X2000
状態 で は ぐし、繊 維 をやわ らか くす る。
4)苧 績 み (図
10、
H)
繊 維 を細 く裂 いて苧績 み し、一 本 の糸 に
す る。
3)引 っ張 り強 さの比較
葛 、大麻 の 2種 類 につ いて 、乾 燥時 と湿潤
時 の強度 と伸 び を試験 した。
図 7を 見 る と、葛 は大 きな 力がか か る と弱
いが 、大 麻 と比 べて 非 常 によ く伸 び る ことが
図 8 採集
わ か った 。特 に大麻 の強度 が下 が る湿 潤時 で
図 9 外皮 を煮 る
の使 用 には強度 に もあ ま り差 がな くな るので 、
ィ 11■ ヽ
鑽
葛 は湿潤 時 の使 用 に向 いて いる といえ るだ ろ
う。
:ζ
図 10 苧績み
32
図
11
か せ にす る
葛布作 り 0
今 回 の制作 で は、経糸 に苧麻 糸 を使 った も
の と経緯 に葛 糸 を使 用 した もの を作 った。
1)経 糸 巻 き
図 7ク ズ繊維 と大麻繊維 の比較
3
31
葛 糸作 り 9
経緯 に葛 を使用 す る もの は、葛糸 にス ピ
1)ク ズ の採 集 (図 8)
クズ を 15∼ 2メ ー トル の長 さに刈 り取 る。
で き るだ け太 く、節 の 間隔 の長 い もの を
ン ドル で撚 りをか けた もの を用 いた 。
2)整 経
必 要 な糸 の長 さを計算 し、整経器 を用 い
て経 糸 の長 さをはか る。
選ぶ。
葉や 枝 分 かれ を切 り取 り、刈 り取 つた蔓
整経 す る際 には一 か所で アゼ を と り、糸
が 整列す るよ うにす る。
の皮 を剥 く。
2)外 皮 を煮 る (図
経 糸 に苧 麻 糸 を使 用 す る方 は 、苧 麻 糸
40/2(田 中直 染料 店)を 使 用 す る。
制 作 の 方法
9)
3)機 あ げ
は が した 皮 の部 分 を炭 酸 水 素 ナ トリウ
苧 麻 糸 を使用 した ほ うは、機 はイザ リ機
ム 10g/1水 溶液 で 2時 間 ほ ど煮 る。煮 終 わ
を使 用 し、葛糸 のみ の ほ うは手製 の原始 機
る 目安 と して、指で しごいて外皮 が簡 単 に
分 離す るか が 目安 とな る。
3)繊 維 の分 離
流 水 に さ ら しな が ら指 で し ごいて 靭 皮
を使 用 した。
4)織
り
葛糸 を緯 糸 に使用 し、布 を織 る.
織 り上が った ら端 を房 に して糸 端 を揃 え
て切 る。
た こ と、合 成繊維 の台頭や 流通網 の発 達 によ
る ものが大 き い と考 え られ る。
作 品 につ いて は、今 回 は糸 に撚 りをか けず
経糸 に苧 麻 糸 を使 用 した もの と、撚 りをか け
て 経緯 に葛 を使用 した もの を両方制 作 した。
経糸 に使 用 した糸 は、苧麻 は紡 績糸 で あっ
図 12 整経台
た ため扱 いや す か ったが 、苧 績 み を した葛 は
太 さが不 均 一 で あ るた め撚 りが均等 にか けに
くか つた り、撚 る方 向 を間違 え る と績 み 目が
解 けて きた り して 、扱 いが難 しか った。 しか
し一旦 出来 上が った糸 を使 う時 には特 に問題
4
図 14 原始機
な く制作 で きた ので、紡績 によ って糸 の太 さ
考察
を均 一 にす る ことがで きれ ば、葛で も日の揃
葛布 を実 際 に制作 して みて 、 葛か ら繊 維 を
つた布 が作 りや す いだ ろ う。
また 、 制作 時 に特 に感 じた の は、葛 は非 常
取 り、糸 を作 る ことが いか に難 しいか がわ か
った。
に乾 燥 が速 い とい う こ とだ。経緯 に葛 を使 用
まず 、 クズ を採集 で き る場 所 で あ る。
した とき に霧 吹 きで湿 気 を与 えなが ら作 業 し
クズ を太 くまっす ぐに伸 ばす た め には、土
て いたが 、か な りの量 を吹 きか けて もす ぐに
地 の手入 れが肝 心 で ある。植物 自体 は砂漠 の
乾 燥 した。これ は吸湿性 が 高 い とい う ことで 、
緑 化 に も貢献 した とお り荒 地 に も生息す るが、
夏物衣 料 に適 す る性 質 で あ る。
前年 の蔓 に巻 きつ いて 団子 にな って いる もの
こ の よ う な 性 質 を 生 か し、 上 記 に挙 げ た 間
もあ った ため 、前 年 の蔓 を残 さな いよ う処 分
題 点 を解 決 す れ ば 、 新 しい 繊 維 と して ク ズ を
す るの は生産 性 を上 げ るた め には必須 に思 わ
利 用 す る こ と は 充 分 可 能 で あ る と考 え られ る 。
れ た。
5
クズ は、栽培 自体 は容 易な植 物 で ある.専
用 の栽培棚 で巻 きつ く力 を抑 制 しなが ら栽 培
す る ことが で きれ ばま っす ぐな蔓 を栽培 す る
こ ともで きる よ うに思 った。
次 に、葛 の見 分 け と見 極 め で ある。
制作 に適 して いる もの、煮 る時 の煮 加減 、
分離 の 力加減 、苧績 み の仕 方 な ど、私 の技術
の拙 さ もあるが 、葛糸 は使 いやす い とは決 し
て言 えな い。
葛 糸 は伸 び は い いが 荷重 には弱 いので 、 引
っ張 り強 さ にお いて他 繊維 に劣 らな くて も、
使用 す る上で はそれ は 問題 に思わ れた。
葛布 の制作 につ いて は、 ひ とつ ひ とつ の作
業 は難 しくな い。葛布 が衰退 した原 因 は、分
業 をせず に必 要な分 だ けを各個 で生産 して い
弓1用 文 献
1)千 田百 合子 :実 蓉 の里 は葛の里下
甑 島列 島 “葛
布"の 衣 ,月 刊染織 αNo 218,62∼ 630999)
2)稲 垣栄洋 :「 身近な雑草 のゆか いな生 き方」 ,草 思
社 ,東 京都 ,161∼ 165(2003)
3)深 津裕子 :染 織工芸技術の変遷―
葛布 の製作技法 と
用途 を事例 として―,無 形文化遺産研究報告 .第
2
号 ,35∼ 63(2008)
4)千 田百合子 :美 蓉の里 は葛の里上 下甑島 “
葛布"
の庶民衣 ,月 刊染織 α,No
216,22∼ 260999)
5)竹 内淳子 「草木布 ⅡJ,法 政大学出版局 ,東 京都
,
141∼ 158(1995)
0)福 井雅已 :「 贈 り物のゆ くへ
らしJ
95(2004)
手織 りの布がある暮
株式会社 マ リア書房 ,京 都府 ,78∼
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