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気軽に国際交流

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気軽に国際交流
国際交流学習
気軽に国際交流
―授業での取り組み実践報告―
杉 本
抄
録
多くのクラス(HR・授業),生徒にそれぞれの状況に合
範 雄
1
本校について
わせた異文化理解・交流がIT通信技術を利用すること
本校は,1987 年,普通科・外国語科・情報処理科(商
で,いかに容易に,気楽に外国の生徒と交流することが
業系)3学科併設の全日制高校である。外国語学科設置
できるかを体験させ,日常的な国際交流が相互理解を深
と初代校長・松本先生の先進性から,開校当初から外国
め,世界平和につなげられるという実践報告である。
語科PC教室はネットワークが構築され,情報処理科に
<キーワード>
は,海外パソコン通信と接続された「電話回線(外線)」
気軽に国際交流,授業,異文化理解,英語,世界平和
が引かれていた。そして,カリキュラム上では全校・全
学年で「LL」が必修科目,1 年生・普通科,外国語科
本
では「情報処理」が必修科目であった。
(現教育課程では,
文
2005 年 10 月,後期の授業が始まり,1年1組から4
組(普通科4クラス・情報A)では,GCC プロジェクト
「LLは「コンピュータLL」
,情報処理は,
「情報A」
となった」)
(Global Classroom Connection)に参加して,外国のパ
ートナークラスと Web 上での自己紹介が始まり,そして,
1年5組,6組(外国語科2クラス・情報A)では,GVC
2
私と「気軽に国際交流」の始まり
プロジェクト(Global Virtual Classroom)に参加し,
私は,開校2年目(1988 年)に情報処理科(商業)教
クラスメート(3か国で,1クラスを編成)も決まり,
師として赴任した。情報処理科は当然,コンピュータに
専用掲示板での「自己紹介」が終わり,「今後のスケジュ
関する授業があるが,38 歳になった私にとっては初めて
ール調整」,「トピックの選択・web page 制作の相談」と
の経験であった。
(当時,商業の教師はコンピュータとは
続いている。そして,1年7組,8組(情報処理科2ク
ほとんど縁がなかった) 時代の変化に悪戦苦闘する中,
ラス・ビジネス基礎)では,アメリカ・カリフォルニア
本校の「英語教育の充実」と「充実した通信環境」がパ
州のミルズ高校(日本語クラス)とのEメールの交換が
ソコン通信(後に,インターネット)を結びつけると,
始まった。前期に英文メールの練習をした成果を試そう
「何かできる」と思い,恐る恐る 海外パソコン通信
と,生徒たちは,パートナー(epal)からのメールを心
(CAMPUS2000)のキーボードをたたき始めた。その
待ちにしているところである。2005 年度1学年全8クラ
”キャンパス 2000”はブリティッシュ・テレコムが運営
ス(321 人)がオンライン国際交流プログラムに参加し
し,西ヨーロッパを広範囲にカバーし,1,000校以上
ている概要である。この文章が掲載されるころ(2006 年
が加盟する教育用ネットワークで,KDDの国際データ
1月)には,各学科ともに,それぞれのプログラムに熱
回線を利用してこれに接続していた。当初は,英語の教
心に取り組んでいる最中であろう。
員がときどきアクセスし新聞記事等の簡単なデータを拾
1996 年以来,普通科と外国語科は,
「情報A」(以前は
ってくる程度であったが,私が見よう見まねでアクセス
「情報処理」
)で,情報処理科は,専門科目(商業系)を
していくうちに,海外の先生と電子メールが交換できる
1つ選び,それぞれカリキュラムの融通性や担当者の適
ようになった。
「私のつたない英語でも通じる」という発
正と参加可能なオンライン・プログラムを結びつけて,
見でもあった。そこで,1年生の「*情報基礎」での電子
「授業での海外との交流」に取り組んでいる。
メール交換に取り組み始めた。それは以下のような内容
SUGIMOTO
Norio:埼玉県立和光国際高等学校(埼玉県和光市広沢 4-1)
- 45 杉本範雄:気軽に国際交流
であった。(*情報基礎 → 情報処理 → 情報A)
ほどの規模となった。本校生徒の「Did you see Lion?」
①
という,ジンバブエ (アフリカ) 生徒宛のメールに対し
加入者リストをもとに年齢の近そうな学校を選び,
「交流求む」のメールを生徒が作成する。
②
③
て,「Yes, we can see Lion at Zoo.」という返信が届い
メールの送受信と生徒への配布は教員が行う。
た。それは,まさに「異文化理解の瞬間」であった。こ
可能なら,その他の機能としてチャットを利用する。
んな「生徒同士の直接交流の積み重ね」が,世界への第
しかし,90 年代の初頭までは返事の戻ってくる確率は
一歩という思いを抱いた。
極めて低く,授業で十分な効果があがるほどの数のメー
ルの交換はできなかった。それでも「返事が来たときの
感動」と「海外との交流は意外と簡単」という体験が,
「気軽に国際交流」は可能であると確信できた。
4 「気軽に国際交流」を気楽にできる環境作り
その環境とは,校内ネットワーク(LAN)整備と生
徒への個人メールアドレス配布である。そのために,
1995
3
インターネットと「気軽に国際交流」授業
年度,埼玉県の「魅力ある学校づくり特別推進事業」に
応募し,その予算でメールサーバを構築し,10 月には,
イ ン タ ー ネ ッ ト の 普及 と と もに この “ キ ャン パ ス
独自ドメイン(WKHS.WAKO.SAITAMA.JP)を取得した。
(自
2000”は廃止された。1991 年に教育用ネットワーク“ア
分たち自身のドメインとして,生徒・教職員が誇りを持
ピックネット (apic.net)”が運用を開始すると,本校も
つことができた)
会員となり,そのインターネットへのゲートウエイ・サ
そして,1996 年1月に,生徒にメールアドレスを配布
ービスを利用することによって,本校インターネット利
し始め,同時にコンピュータ室と職員室で利用可能なL
用の最初の一歩となった。
ANも稼働を始めた。2000 年1月には,全校LANが完
“アピックネット”は,私たちに以下の経験をさせて
成し,すべてのHR,特別教室,教科準備室等から校内
くれた。
ネットワークシステム(含むインターネット)利用が可
①
「電子姉妹校プロジェクト」を通じての電子メール
能となった。もちろん,施設・設備の整備と共に,生徒・
校探し,これにより今まで西ヨーロッパだけに限られて
教職員へのネットワーク教育の実施,フィルタリングを
いた電子メール交換の範囲が拡大し,アフリカのジンバ
含むセキュリティの確保を行ったことはいうまでもない。
ブエにある女子校まで範囲は拡大した。
これらの取り組みは,当時の状況から,学校全体の取
教育プロジェクト"What's Japan; What's America",
り組みとはなり得ず,当然,志ある有志(私を含めて3
"GeoTouch"に参加し,海外でのオンラインプロジェクト
人)の献身的で地道な努力と,予算面で応援してくれた
への積極的取り組みの姿勢がわかってきた。
管理職とPTAの協力が実を結んだ結果であった。
②
同時に,本校の取り組みの遅れも自覚し,"GeoTouch"
埼玉県では,2003 年度から,全県立高校を「埼玉県学
参加がきっかけとなり,1995 年4月に国際電話回線を通
校間ネットワーク」のもとに置き,全生徒・教職員に個
じてハワイとの間で,初めての「*TV会議」を行った。
人メールアドレスを配布可能とした。本校も 2003 年 10
(*TV会議 = Video Conference, 現在,本校での海外
月に,生徒・教職員のメールアドレスを,本校独自ドメ
交流の中心となりつつある)
イン(@wakoku-h.ed.jp)から,学 校間 ネットワ ーク
④
(@wakoku-h.spec.ed.jp)に移行した。
③
電子メール(以後,メール)交換の数が増えるにつ
れ,その問題点も明らかになった。メールを受け取り,
整理やプリントアウトをし,生徒に配る教員の負担があ
まりにも大きい。また,メールは本来,手紙と同様直接
5 メール交換から始める「気軽に国際交流」
相手に送られるべきものであり,教員が介在することは
「国際交流」には,
「英語は不可欠」である。他の文化
学校の教育活動の一環とはいえプライバシーの問題も生
と交わるには,共通の言語=英語を通して行うのが必要
じる。 プリントアウトされたものを読む,あるいは返事
であるが,高校生であれば問題ないし,指導する教員と
を教員に託すことでは,生徒は実体験の感動を得られず,
しても「英語なら」何とかなる,と信じたい!
また,ネットワークの本来の意味を十分理解することも
できない。
インターネット利用の効果は絶大で,1993年には,
メール交換数では,
「授業で,国際交流実践」といえる
- 46 学習情報研究 2006.1
メールなら,「読むにも,
書くにも」
十分な時間があり,
辞書を利用したり,英語の先生に質問したりして,外国
の生徒とやりとりができる。また,授業中以外でも,自
分の時間を活用することができる。
(これには,
PC室や
と」を喜ぶ。もう一度メールを書き,返信がきたら,そ
図書館PCの開放が必要だが)
私は,情報処理(2003 年度以降は,情報A)の授業を
こで,第一の課題は解決である。
中心に,1年生全員(8クラス,320 人)に,epal(email
では,初めての英語メールは誰に出したらいいのか?
でのペンパル)を与え,入学後直ちに,メール交換を始
JEARN(http://www.jearn.jp)に連絡することをお勧め
めさせている。簡単な自己紹介から始まるが,中には,
する。もちろん,インターネットで国際交流関係サイト
特定の相手と3年間メール交流を続ける生徒も多くいる。
を検索してもよいが,予想以上に数が多いのに驚き,そ
もちろん,本人の努力不足であるが,1回きりの交換
して,どのサイトのどのプログラムに参加すべきかわか
で終えてしまう生徒も数人いることも事実である。
参考資料:授業におけるEメール交換相手数
(1年生8クラス 320 人の記録)
( http://www.wakoku-h.spec.ed.jp/inet/01_e-mail.htm )
度
今年度,本校情報処理科に4人の教職員が移動してき
た。そして,彼らに1年生と一緒に,英語メールを書い
てもらっているが,回数が重なるごとに,
「気軽」になっ
詳細は,本校 HP を参照してください。
年
らずに終えてしまうはずである。
ているようである。是非,皆さんにも,「気軽」を味わっ
ていただきたい。
交換国・地域数
延べ交換相手数
1998 年
26か国
722人
1999 年
22か国
535人
2000 年
25か国
595人
メール交換で「英語に慣れ」
,時差の感覚も理解してく
2001 年
31か国
677人
ると,メールでの交流の欠点(クラス全体で情報が共有
2002 年以降は,統計がないが,傾向は続いている。
毎年,入学直後の生徒に携帯電話の保有とメール経験
の有無をアンケートでとっているが,現在97%の生徒
が携帯電話を持ち,その全員がメールのやりとりの経験
がある。もちろん,家庭でのインターネット接続率は
85%を超えている。
物理的な環境(学校の施設・設備の充実)と生徒の豊
富なメール経験がそろった現在が,まさに「気軽に国際
交流」を容易に始めることのできるチャンスである。
6
7
できない)をカバーして,より交流の幅を広げたくなっ
てくる。掲示板を利用することによって,双方の交流授
業(プログラム)参加者全員で情報を共有することがで
き,いくつかのトピックを設定して,それぞれに対して
意見の書き込みを続けていくと,自然に文化の違いと共
通性が見えてくる。
特に,
アメリカやヨーロッパの学校と交流する際には,
その「時差」が「閲覧・書き込み」に有効に作用する。
また,メールとは異なったネチケットが必要になり,
一歩進んだ情報リテラシー教育となる。
※
メール交換の課題とその解決
メール交換から,「掲示板交流」へ
県・市町村教育委員会によっては,いわゆる「出会
い系サイト」対策で「掲示板カテゴリー」をフィルタ
課題1:先生方が,一歩を踏み出す決心がつかない。
リングしており,学校からアクセスできないことが多
課題2:自分の授業が遅れる。
い。その場合は,各教育委員会へ「アクセスの申請」
課題3:先生も生徒も英語が問題。
を 行 う 必 要 が あ る 。 な お , 私 が 現 在 利 用 し て いる
課題4:メール交換相手が見つからない。
「Nicenet ( http://www.nicenet.org/ )」は,埼玉県
課題5:メール交換のテーマと内容の把握が煩雑。
のフィルタリングには掛かっていない。
課題6:・・・・・・
と,課題を挙げていたら,キリがないが,課題2以降は,
課題 1 が解決すれば,自ずと解決する。簡単にいえば,
課題2以降については,私たち経験者からアドバイスを
受けることによって,そのほとんどが解決またはその第
へ
交流が進めば,自然と相手の声が聞きたい,顔が見た
一歩に近づくことができる。
では,課題1の解決策はあるのだろうか?
8 そして,TV会議(Video Conference)交流
まず「小
いと思ってくる。音声だけの交流は,時差を考慮に入れ
さな決心」をして,「気軽に英語でメールを書いてみる。
」
なければ,Skype ( http://www.skype.com/intl/ja/ )を
そして,「返信メールがきたら,自分の英語が通じたこ
利用することによって,(無料は 1 対1だが)高品質の
- 47 杉本範雄:気軽に国際交流
ボイスチャットができる。ただ,ボイスチャットは「英
語のリスニング力」が必要で,とても「気軽」とは言い
難い。たとえ,英語の先生が指導しても,「実際に話す」
のは生徒なので。
(1) 小中学校で実施する場合の「英語」の問題
担当される先生がたとえ英語に堪能でも,クラス児
童・生徒をすべて指導することは容易でない。
(日本語・英語翻訳ソフトも完全でない)
⇒地域のボランティアや地元高校生・大学生の応援
その点,TV会議は,お互いの様子がスクリーンに映
し出されるので,言葉に詰まっても,笑顔と「筆談」=
「紙に書いて,見せる」で,会議(交流)を続けること
ができる。もちろん,同時に文字による「チャット」も
利用できるが,その場に帰国生徒がいないと難しい。
TV会議を行うためには,必要な機器・環境を整える
必要があるが,学校のインターネット環境で行うには,
ウエブカメラとマイク(数千円で購入)をセットし,無
料のビデオチャットソフトをインストールすれば,基本
的な準備はOKである。そして,校内もしくは教育委員
会LANのセキュリティー設定を担当者に依頼すること
になる。
ビデオチャットソフトは,先方の環境にもよるが,
マック・Windows (PC) に対応している
iVisit ( http://www.ivisit.com/ )
OKBuddy ( http://www.okbuddy.jp/ )が,使い勝手がよ
い。また,マック同士なら
iChat( http://www.apple.com/macosx/features/ichat
/ )
を勧める。
で,解決する。
(2) 交流相手が,アメリカやヨーロッパ,韓国・台湾等
ブロードバンドの普及している地域なら,技術的に
非常に簡単にTV会議を設定できるが,その反面,日
本を含めて各国共に地域の教育委員会が強固(そして
融通のきかない)セキュリティで固めているために,
TV会議はできない。また,メールの交換についても,
学校や教育委員会で発行・管理しているところが少な
く,先方の先生の負担が大きくなっている。
⇒一般的に,パートナーの学校は「私立」の学校の
ほうが,セキュリティの設定変更が容易にできる。た
だし,先方のネットワーク管理者(tech person)との
連絡は不可欠。
また,オーストラリアは,先進国で時差も1時間程
度なので交流には適当であるが,意外に通信環境は遅
れており,そして,教育委員会管理下のネットワーク
は変更が厳しい。
(3) 高校での「交流のための授業時間の確保」
また,テスト通話で,「映像」か「音声」どちらかに障
授業進度(受験勉強)に影響が大きいと恐れ(圧力)
害がある場合には,前述の「Skype」を併用するとうまく
から,実施しにくい。一方,(受験勉強のない高校)で
いくことが多い。ただし,PC は2台必要。
は,資格取得に邁進したり,生徒の基礎学力に問題が
もちろん,MSN メッセンジャーや Yahoo メッセンジャ
あったりして実施困難である。
ーも双方が利用できる環境ならば,一番手軽である。
教育委員会管轄下LANでは,利用できないところがあ
⇒はじめは有志生徒や部活で始める。授業では,1
単元内,もしくは1,2週間限定で実施する。
るので,担当部署との調整が必要である。
※ 本校TV会議ページを参照ください。
(http://www.wakoku-h.spec.ed.jp/project/tv_kaigi/t
v_kaigi.html )
このページには,ビデオチャットソフト利用以外の,
TV会議も実施の様子も紹介されているので,興味のあ
る方は私に連絡されたい。
10
「気軽に国際交流」するために
現在,学校の通信インフラの整備が整い,
「総合的な学
習時間」が設定され,そして,低学年からの英語教育の
必要性がさけばれている。幸いなことに「国際交流実践
経験の豊富な先生方」が着実に増えている。ここに人と
人のネットワーク(ヒューマンネットワーク)が機能す
れば,日本全国で「気軽に国際交流」を始めることがで
9
今「気軽に国際交流」できるか
これまでに述べた通り「気軽に国際交流」の第一歩は,
皆さん(先生方)の「小さな勇気」が必要であることに
は間違いないが,それだけでは解決できない大きな壁も
存在する。
- 48 学習情報研究 2006.1
きる。直ちに,第一歩を踏み出したい方は,JEARN
(http://www.jearn.jp) に参加されたい。
すべての学校で,お互いの文化(異文化)を尊重・理
解し合えるような授業が進めば,子供たちの将来は「平
和な世界の中にある」と確信することができる。
そのために,「気軽に国際交流」
を実践しようではあり
ませんか。
本校の,オンライン国際交流実践記録
http://www.wakoku-h.spec.ed.jp/project/project.html
- 49 杉本範雄:気軽に国際交流
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