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e-NEXI
2013 年 10 月号
➠特集
内 側 か ら 見 た ウ ズ ベ キ ス タ ン ‐ ビ ジ ネ ス の 魅 力 と リ ス ク Part
2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
駐ウズベキスタン特命全権大使 加藤 文彦
➠カントリーレビュー
テ ロ 事 件 後 も 「 買 い 」 が 続 く ケ ニ ア の 実 像 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7
➠NEXI ニュース
~ 最 前 線 で 働 く ~ N E X I
シ ン ガ ポ ー ル 事 務 所 長 最 近 の 活 動 報
告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
発行元
発行・編集 独立行政法人日本貿易保険(NEXI)
総務部 総務・広報グループ
e-NEXI (2013 年 10 月号)
内側から見たウズベキスタン
‐ビジネスの魅力とリスク‐
Part 2
駐ウズベキスタン特命全権大使
加藤 文彦
【この記事は、加藤個人の意見をまとめたものであり、大使館・日本政府の見解ではない】
9 月号の Part 1 では、ウズベキスタンの地理と歴史、及び内政と外交についてお伝えした。
今月号の Part 2 では、経済の切り口から、ウズベキスタンにおけるビジネスの魅力およびリスクについてお
届けする。
緑多く美しい街、タシケント(タシケント TV タワーより)
Ⅳ.経済
ウズベクの一貫した経済政策は、急激な改革でなく安定を重視した着実な発展を目指す漸進主義。
主な数字を紹介する。
(注)ウズベク政府によるデータ・統計等の情報開示は極めて限定的。
(S&P やムーデイーズが、ウズベクの国格付けできない主因はこの情報非開示。ちなみに OECD の格付け
は 7/8。NEXI や JBIC も当然同じ。私個人的には、もう一つ上のカザフ・アゼルバイジャン並みでいいと考
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e-NEXI (2013 年 10 月号)
えている。)
(注 1)外貨準備とは別に、経済復興開発基金が数年前に創設され、150 億ドルの外貨保有(アジモフ第
1 副首相兼財務大臣や同基金のグルヤモフ総裁から直接聴取)
(注 2)対外債務残高が極めて小さい。どれだけ信頼できるか不明
(注 3)予算は、2005 年以降、黒字で執行されており、累積財政赤字はゼロ
☆ 成長率/インフレ率
ウズベク政府発表の実質 GDP 成長率は、この 6 年間、リーマンショック直後の世界同時不況時期も含め
て、毎年 8%以上を維持。インフレ率は、それよりちょっと低い 7%程度。政府は 8%成長を続けていることで、
これまでの「漸進主義」が正しいと主張している。
(注)成長率は、IMF や ADB も、8%程度と発表。ただし、インフレ率は、IMF12%、ADB13%。
実感としては、8%成長と言っても、タシケントがドバイのような建設ラッシュとの感じは全くない。政府公共
投資が大きいことは確かであるが、旧ソ連時代の古いインフラ(電力、鉄道、道路、灌漑など)の更新投
資が主。
私はまだ解明できていないが、この国の表に出ない経済の存在を指摘する人もいる。信頼できる数字だ
け挙げると、ロシア中央銀行が、本年 1/四半期のロシアからウズベクへの送金額(貿易外)約 10 億ドル、
と発表。つまり、ロシアに出稼ぎ等で行っているウズベク人からの年間送金額は 40~50 億ドルとの巨額に
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e-NEXI (2013 年 10 月号)
上るという。
ロシア移民局の発表によると、ロシアで働くウズベク人登録数は、現在 273 万人(未登録を含めると、800
万人との見方もある)。ウズベクの人口 3 千万人のいかに多くが出稼ぎ等に行っていることか。
☆ タシケントの庶民の生活
もちろん旧ソ連時代よりよくなったと言う人は多い。
他方、共産主義の平等原則が、モスクワからウズベクへの富の流れを正当化し、電力・ガスなどのインフラ、
学校・病院等が整備されたのと比べ、今はむしろ、生活が悪くなったという人もいる。例えば、今の学校の
先生や病院の看護婦、警察官などは、給料が安く、それが、日常的な賄賂につながっているとの見方も
ある。
貧富の差が拡大していることは確か。例えば、
・車は、米国 GM のウズベク工場製が 95%以上と言われる(統計未開示。政府幹部談。ウズベクでは政
府が、車の生産・販売を管理)。 新車がこの数年で売れて、 タシケントの街は、きれいな車があふれて
いる(小型車 8 千ドル~普通車 1 万 5 千ドル)。途上国では、一人当たり年間所得が 3,000 ドルを超え
ると、新車が売れるというのが常識。ウズベクは、まだ、1,700 ドルのはず。
ウズベク語で「偉大なシルクロード」という意味の BUYUK IPAK YOLI 通り
・携帯電話の普及も著しい。子供も含め多くの人が 300~800 ドルのスマートフォンを持っている。
他方、低所得で、マハッラで助け合いながら、生活している人も多い。パンは、街のあちこちで焼いて売っ
ており、20 円程度。果物・野菜も日本の 1/5~1/10 の値段。低所得でも最低限の生活はできる。
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街のあちこちのバザールでは、
この時季スイカが 70~80 円で売られている
ウズベクの民芸品「スザニ」
☆ ビジネス環境
世銀が、ビジネス難易度のランクを毎年発表している。ウズベクは 185 カ国中、154 位(2012 年)。(ちなみ
に日本 24 位、カザフスタン 49 位、中国 91 位、ロシア 112 位。)
前述のとおり、安全・秩序を重視し、経済発展は少しずつ漸進主義で進めようとしていることから、安定
確保や国内産業保護(といってもまだ育っていない)名目で、外貨交換・送金や輸入手続きが煩雑で、遅
い。政府の営業許可等が厳格で時間かかる。情報開示は限定的。まだ旧ソ連的な体質が残っている。
特に、外貨交換・送金は、形式上規制はないが、事実上、極めて手続きが煩雑で、時間がかかる。前
述のマクロのテータでは、国の外貨準備・対外債務は健全・安定しているはずだが、外貨についての厳し
い管理の姿勢がある。
輸入手続きが煩雑、時間がかかることにも注意を要する。輸出国側の税関書類のチェックまで求めてい
る。
金融制度はまだ未整備。2 つの国有銀行(対外経済銀行(NBU)とアサカ銀行)と 10 以上の民間銀行が
ある。2 国有銀行が銀行総資産の 50%以上を保有しており、民間銀行の規模は小さい。この国では、ま
だ生活面で、住宅ローンや自動車販売ローンがなく、クレジットカードも一部のホテルを除いて使えない。
クレジット概念そのものが普及していない。ビジネス面でも、エネルギー関係や製造業のほとんどが国営企
業であることから、国営銀行からそれら国営企業への融資が大きい。民間銀行融資は商店などの中小
企業融資が中心で規模が小さい。銀行関係情報開示は限定的なため、S&P やムーデイーズの格付け
もほとんどない。貿易面でも L/C 国際規則に加入していない。L/C 開設は、ほとんどの銀行が、同額の
積立て、あるいは、担保提供がないと行わないので、そもそも意味が乏しい。欧米・日本の銀行は、ウズ
ベクの銀行とある程度のコルレス関係を有しているが、お金の経由などだけで、信用供与取引はほとんど
行っていない。外資系銀行は、韓国 KDB、ドイツ・コメルツなど数行が対外取引を含め細々と営業。
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クレジット取引が少ないため、国内通貨の現金が時に不足する。中銀の指導もあり、銀行は、企業の労
働者賃金支払いについても、一定割合を現金でなくキャッシュカード払いすることになっている。しかも、そ
のキャッシュカードが個々の銀行でスムーズに使えない状況も起こっている。
☆ 中国・韓国の急激な経済攻勢
このようなビジネス環境の下でも、近年の中国、韓国の経済攻勢はすさまじい。
中国は、近年、カリモフ大統領と中国国家主席等の首脳が、毎年交互に訪問し合い、ビジネス関係者
も同行。エネルギー(石油・ガス)権益はロシアに次ぐ規模で確保した。貿易も急拡大しており、貿易額(輸
出入合計)は昨年 30 億ドルを超えた。ウズベク政府が外国投資家のため、3 つの産業特区(関税・税の
恩恵あり。電気・ガス・道路・鉄道・コンテナヤード等のインフラ整備)を建設中(ナボイ、アングレン、ジザク)。
うちジザクは、当初から完全に中国が共同で建設している。
本年 9 月、習近平・新国家主席が訪問。数百人の経済関係者を同行。150 億ドル(1 兆 5 千億円)の
経済協力・民間契約に署名と報道されている(真水とは考えられないが)。既存に加え新たなパイプライン
建設等ガス関連プロジェクト、綿繊維貿易、中国開銀・輸銀ファイナンスなどの内容。
韓国も、カリモフ大統領とイ・ミョン・バク前大統領が、毎年交互に訪問し合い、ビジネス関係者も同行し
ていた。昨年の貿易額は 25 億ドル以上。電気・電子、特に携帯分野など、圧倒的に強い。また、北西
部のスルギリ・ガス田のガス処理・化学プラントは、ウズベク最大のプロジェクトであるが、韓国企業が建設
している。
☆ 我が国との経済関係
政府の経済協力は、ウズベク独立当初から、①経済インフラ整備・更新(電力・鉄道)、②市場経済化
支援、③社会セクター支援(農業・医療等)の柱で、累次円借款・技術協力・無償援助を行っている。
他方、民間の経済関係は、残念ながら、これまで極めて小さい。毎年の貿易額はわずか 2 億ドルでほと
んど変化なし。在留企業も十数社に留まっている。
前述のビジネス環境の悪さはあるものの、潜在市場として大きく、鉱物資源に恵まれ、また、親日的で、
日本の技術、製品等の高性能・高品質を極めて高く評価していることはプラスの要素。私としては、中
国・韓国の攻勢を見るにつけ、日本企業も、これからもっと真剣にウズベクに目を向けて欲しい、と期待し
ている。
その意味で、両国が官民で、「日本・ウズベキスタン経済合同会議」を設置、定期的に開催していること
は、重要である。私の赴任前、本年 3 月、タシケントで、第 11 回会議が開催され、日本から関山会長
(丸紅・副会長)はじめ 50 人以上のビジネス関係者が参加した由。これが、さらに大きな流れにつながるこ
とを期待したい。
合同会議と併行して、両国官主導の「ワーキンググループ」、「実務者連絡会」が設置され、ビジネス環
境改善を含めた協議の枠組みは、整備されている。
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最後に、これからウズベクとビジネスする場合、技術・高性能・高品質を売りにしつつ、中国・韓国企業等
との対抗上、価格面も考慮する必要がある。そして、注意事項 2 点
①ビジネス相手は、大方、政府・政府機関。従って、日本側も大使館含め公的機関が関与する形が望
ましい。(相手がコンプライアンスを守れる者かのチェックも必要)
②直接投資や大きなプロジェクトへの EPC 参画等の場合には、外貨交換・送金や輸入手続きを円滑に
行えるよう、また、減免税などをきちんと確保できるよう、例えば、「大統領令」で手当してもらうことが重要。
さらにその後の約束の履行担保策の検討も必要(①とも関連)
(一般的に、外貨獲得案件の方が、ウズベク政府のサポート得られやすいこと確か)
‐シルクロードの国からの第 1 報 (了)‐
※筆者の加藤駐ウズベキスタン特命全権大使は、
2007 年~2011 年に理事として日本貿易保険に在籍
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カントリーレビュー:テロ事件後も「買い」が続くケニアの実像
<Point of View>
ケニアの首都ナイロビのショッピングモールへの襲撃事件が起きた後においても、株価と為替は堅調に推移
している。斯様な治安面のリスクは、既に市場は織り込み済みである。ケニアは世界屈指の地熱発電大
国であり、また先進的な銀行システムを発展させてきた国でもある。今回の襲撃事件により、東アフリカ地
域でのテロ対策の前面に立つ役割が改めてあぶり出されたが、同地域の物流の中核に位置し最大の経
済規模を誇る地域大国が進める、堅実な経済運営にも着目したい。
1. ショッピングモール襲撃事件
(1)事件発生後の市場の動き
先月(2013 年 9 月)21 日、ソマリアのイスラム過激派グループのアル・シャバーブがケニアの首都ナイロビ
のウェストゲート・ショッピングモールを襲撃し、69 人が犠牲になるという痛ましい事件が起こった。ケニアにと
っては、1998 年の米国大使館爆破事件に次ぐスケールのテロ事件である。ケニヤッタ大統領の甥とその婚
約者も犠牲者に数えられたことで、民族や貧富の差を超えた連帯感が芽生えつつあるという。
短期的には、8 月に発生したナイロビ国際空港ターミナルの火災と相俟って、観光収入の減少等経済
的な悪影響がもたらされるであろう。しかし、ナイロビ証券取引所の代表的株価指標である Nairobi
Security Exchange Ltd. 20 Index は 9 月 2 日の 4669.85 から 10 月 9 日には 4946.02 まで 5.9%、年初
値比では 19.5%の上昇となった。襲撃事件の前後では、9 月 20 日から 24 日にかけ 4751.82 から 4729.30
へと 2 日間で 0.5%下落したが、その後は続伸している。また、通貨ケニア・シリング(Ksh)は、9 月 20 日の
USD1=Ksh88.84 から 10 月 9 日には USD1=Ksh86.52 まで 2.6%シリング高となり、年初値比でも 1.2%の
シリング高と安定している。
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今回の襲撃事件は想定の範囲内という、この国のセキュリティ・リスクに対する市場関係者の見方が、
昨年来既に織り込まれてきたといえるだろう。
(2)襲撃事件の背景と内政
2011 年 9 月に、ケニア軍を中核とするアフリカ連合軍が、ソマリアを拠点とするイスラム過激派グループの
アル・シャバーブへの越境攻撃を行ったが、今回の襲撃事件はこれに対する報復攻撃とされる。越境攻
撃以降、行き場を失った多くのソマリア人が流入していることも、事件が引き起こされた原因となった。
ケニアは 1963 年の独立以降、比較的安定した情勢が続いていたが、2007 年 12 月に行われた大統
領選挙の際、与党である国家統一党(PNU)のキバキ大統領が再選されたが、選挙に不正があったとし
て、最大野党のオレンジ民主運動(ODM)が抗議活動を開始した。選挙結果を巡る対立は、ODM オデ
ィンガ党首の同胞であるルオ族の蜂起と、キバキ大統領の属するキクユ族との衝突を引き起こし、根強く
残る国内部族間の対立を表面化させることとなった。衝突は 4 か月にわたり、死者約 1,200 人、国内避
難民約 50 万人という未曾有の大事件へと発展してしまった。翌年 4 月、アナン前国連事務総長の仲介
により PNU と ODM 両党を中心とする大連立政権が発足し、キバキとオディンガが各々大統領と首相に
就任した。ルオ族とキクユ族の関係も修復に向けて動き始めた。
2013 年 3 月に新憲法の下で初めての選挙が行われ、PNU のウフル・ケニヤッタ(初代大統領の息子)
が ODM のオディンガに勝利し大統領に就任したが、2007 年の衝突事件の首謀者として、副大統領のル
トらとともに国際司法裁判所に訴追され、現在も係属中である。
(3)襲撃事件後の国内の動き
テロ事件実行部隊への治安部隊の対応には不手際も目立ったが、政府部内の特に軍と警察との間
での連絡・協力体制の不備について、閣僚らは批判の矢面に立たされている。一方、ケニヤッタ大統領は
テロとの戦いの先頭に立つ民族間の結束の象徴という役割を自らに課し、来月に予定される国際司法
裁判所への出廷を回避すべく、国内外の世論を味方に付けようとしている。なお、この国では報道の自由
も、インターネットの自由使用も認められている。
民族間の結束を固める契機ともなった今回の襲撃事件が、イスラム過激派によって引き起こされたこと
から、国内少数派のムスリムが疎外感を持ち、より過激な行動へと誘引されやすくなったとの指摘もある。
政府がソマリア南部を緩衝地帯として北東部の治安を確保しようとの方針を変えることはないため、ソマリ
アとの緊張関係は当面継続しよう。特に米国との軍事協力関係も、さらに強化されよう。
2.ケニア経済を支えるハードインフラ
(1)地熱発電大国
主要産業は紅茶栽培等の農業と観光業であるが、ケニアは世界第 9 位の地熱発電大国でもある。電
源別電力発電量構成比は、水力 51.1%、火力 29.6%、地熱 13.8%となっている。政府はエネルギー開発
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計画“Least Cost Power Development Plan”を策定し、2030 年までに安価で安定した地熱エネルギー
による発電量を 5,530MW まで引き上げる計画を進めている(現在の国内総発電能力は 1,500MW 強で、
うち地熱発電量は 212MW)。ナイロビ北西部に位置するオルカリアには大規模な地熱発電プラントが並
び、今後も IPP 事業による 560MW 規模の開発が計画されている。また、アフリカ大陸を南北に縦断する
谷であるグレートリフトバレー(大地溝帯)沿いには、莫大な地熱源を秘めたサイトがいくつも点在し、その
ポテンシャルは 10,000MW とも言われている。
1970 年代から長い年月をかけて日本の技術、日本製の発電機器が地熱発電を通じてケニアの経済
発展を下支えしてきた。今新たに JICA の ODA により、280MW の地熱発電所が建設されている。今後は、
地熱 IPP 事業へのわが国企業の貢献(技術と投資)が求められている。
【オルカリア地熱発電】
【モンバサ港開発計画】
(在ケニア日本大使館より提供)
(2)東アフリカの物流ハブ
また、沿岸部のケニア第二の都市で、東アフリカ最大級の貿易港にあたるモンバサに世界からの投資と
製造業を呼び込むため、モンバサ港経済特区(SEZ)開発が計画されている。わが国政府が、優遇税制
措置等のソフト面を含めた SEZ 開発マスタープランを策定する。モンバサ港を東アフリカ地域のビジネス・ハ
ブへと進化させて、ケニア、ウガンダ及びルワンダ等近隣諸国全体の経済発展に寄与する構想である。ケ
ニアの中長期開発戦略である“ビジョン 2030”においても、優先プロジェクトの一つとして位置づけられる、
政府の期待も極めて高い大型プロジェクトである。
また、モンバサ港の北に位置するラム港を拡張・再整備し、ラム港から南スーダンを経てエチオピアに至る
回廊を開発するLAPSSET回廊開発プロジェクトも、同ビジョンの最重要プロジェクトの一つに位置づけら
れている。これが実現した暁には、ウガンダと南スーダンからの南回りの石油輸出港としての活用も期待さ
れる。しかし、治安上の理由等により、プロジェクトの進捗は遅れている。
今年初めにケニア北西部に商業生産の可能性がある油層が発見されたが、積み出しと治安上の問
題が立ちはだかる。海底ガス田の開発も、やはり治安とソマリアとの間での領海問題が障害となっている。
一方、これらの発見が、沿岸部の分離を主張するムスリム勢力を勢いづかせる可能性も指摘されてい
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る。
3.ケニア経済・金融のソフトインフラ
(1)堅実な財政・金融政策
発展途上国の例に違わず、ケニアも財政赤字と経常赤字の双子の赤字を抱え、マクロ経済環境は決
して芳しいものではない。
財政赤字(2012/13年度)はKsh2,496億(10/9現在Ksh1≒JPY1.16)とGDP比6.6%に達し、これを国
内借入Ksh1,951億及び海外借入Ksh605億によりファイナンスしている。政府の中銀に対する債務残高
は2013年6月時点でKsh364億にとどまり、中銀による国債引受は行われていない。また、国内向けの政
府債務残高Ksh10,506億の約半分にあたるKsh5,271億は市中銀行による国債引受であるが、2013年
6月の銀行貸出金残高はKsh14,549億と年12.8%の伸びとなっており、民間セクターに回るべき成長資金
を政府が吸い上げてしまうクラウディングアウトは生じていない。
経常赤字(2012/13年度)は4,621百万ドルとGDP比11.35%に拡大している。輸出の構成は紅茶が
21%、園芸作物が12%、輸入の構成は一般機械及び輸送機器が29%、石油が26%となっているが、紅茶
等の輸出や観光収入が減少したのが経常赤字拡大の主要因である。経常赤字は、資本収支の黒字
5,218百万ドルで埋め合わされている。その内訳を見ると、中長期借入金純増が999百万ドル、短期借
入金純増3,975百万ドル等であり、主要な資金の出し手は欧州の銀行である。直接投資や証券投資の
比率はなお低い。
【ケニアの国際収支バランス】
(単位:百万ドル)
2011/12年度
2012/13年度
▲10,000
(5,958)
(▲15,959)
3,225
▲121
3,015
▲3,881
▲10,578
(6,150)
(▲16,728)
3,398
▲153
2,712
▲4,621
貿易収支
(輸出)
(輸入)
貿易外収支
所得収支
移転収支
経常収支
中長期借入金
短期借入金
その他
資本収支
総合収支
外貨準備高
(輸入カバー月数)
(出所)Central Bank of Kenya
10
1,167
3,320
235
4,722
999
3,975
243
5,218
841
597
5,263
(4.3)
6,089
(4.4)
10
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ケニアは、伝統的に自由主義的かつ市場指向型の経済運営を行ってきており、変動為替相場制を
採用するとともに、海外との間での資本移動は原則自由とされている。経常赤字の拡大時には、高金利
政策によりインフレ率を一定範囲に抑えつつ緩やかなシリング下落を容認し、外貨準備高の維持を優先
する。なお、外貨準備を輸入額の4か月分以上常に確保するよう、法令により自らに義務を課している。
(2)発展する金融サービスと堅実な金融監督
世界経済フォーラムが発表する2013年の国際競争力ランキングにおいて、ケニアは対象国148か国中
96位に位置づけられている。インフラ整備、マクロ経済環境、健康及び教育については残念ながら100位
以下に甘んじているが、金融市場の発達については31位とひときわ目を引く。
ケニア中銀は、2005年にリアルタイムでの資金移動を可能にする電子決済システムを構築した。情報
通信システムと金融業の発達の産物であり、サファリコム社が提供する携帯電話端末を利用した
M-PESAのような、小口資金決済サービスが発達するための重要なインフラとなった。ケニア国内で開設
済みの預金口座数は2012年12月時点で1,762万口座と、人口約4,000万人余にして電力普及率が
20%台にとどまる国としては立派な数値と見えようが、携帯電話による資金決済サービスが、銀行に口座
を持つのが難しかった低所得者層を取り込んで成長を続けていることが背景にある。
ケニアの銀行システムは、2013年6月時点で43行の商業銀行等から構成され、その総資産規模は
Ksh25,135億である。銀行全体の不良債権比率は5.3%、引当後で2.3%とされるが、資産リスクウェイト勘
案後の自己資本比率は23.3%、また流動性資産の総資産に占める比率は30.6%、短期負債に対する比
率は42.7%と、資産健全性、安全性及び流動性において大きな問題を感じさせない。
中銀は銀行監督手法としてBIS基準を取り入れ、中核的自己資本比率は最低12%、流動性カバー
比率は最低20%、外貨建て資産負債未ヘッジポジションの対自己資本比率は最高10%等を維持するよ
う市中銀行に求めている。さらに、不良債権が10%増加した場合、預金の5%が一度に流出した場合、通
貨シリングが対米ドルで5%下落した場合等に基準を維持できるかのストレステストを課し、四半期ベース
での報告を求めている。
ケニアは、セキュリティ・リスクやインフラの未整備等早急には改善困難な数多くの課題を抱えながらも、
テロリスクだけでは捉え尽くせない国、わが国企業にとっての様々なビジネスチャンスや切り口が考えられる
国といえるのではなかろうか。
以 上
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~最前線で働く~NEXI シンガポール事務所長
最近の活動報告
シンガポール事務所長 佐藤達夫
NEXI シンガポール事務所は、e-NEXI1 月号の業務体制紹介でご報告したとおり、各種制度の紹介、
再保険や大型案件のフォローアップ、カントリーリスク等の調査、貿易保険機関(ECA)などとの連携強化
を主な業務として行っております。
また、事務所長の私は、NEXI のアジアオセアニア地域代表の役割も担っております。
今回は、最近のシンガポール事務所長としての私の取り組みをお話しすることで、我々の活動状況に
ついてもう少し具体的にお知らせしたいと思います。アジアの事業活動に関して NEXI をご利用いただくに
当たっては、是非シンガポール事務所の機能も有効活用していただければ幸いです。
1.再保険
(1)フロンティング再保険
シンガポール事務所の重要業務の 1 つは、NEXI が行う再保険の引受にかかる業務です。このうち、1
つは、日系損保会社とのフロンティングによる再保険です。3 年ほど前から開始しておりますが、この 5 月に
は商品内容を大幅に改めた新フロンティングをスタートさせました。
シンガポール事務所は、この新フロンティング商品にかかる NEXI 側の最前線に立つことになります。再
保険スキームは、アジア各国に展開する日系企業が、日本を経由することなく現地で直接輸出や国内
販売を行う際のリスク管理の保険を、現地の日系損保会社を経由して提供するものです。NEXI は日々
変化しつつある日系企業の活動に合わせた保険サービスを提供することを目指しています。シンガポール
事務所でも、新しい商品について日系企業に理解してもらうとともに、日系企業のニーズに的確に対応し
た商品を提供できるよう本部と調整していくことが必要です。
過去 1 年ほど、新商品の発売地域であるタイ、香港、シンガポールにおいて、数多くの日系企業や現
地損保会社の方々と意見交換を行い準備を進めました。5 月の販売開始以降は、フロンティングを行う
損保各社と NEXI 本部との間に入り、本商品に関する様々なサービス提供を行う立場として、個別の訪
問・意見交換やセミナーの活用等を通して、一層利用しやすい商品としてお客様にご活用していただくべ
く取り組んで行きたいと思っております。
(2)アジア ECA 再保険
もう一つの再保険は、アジアの貿易保険機関(ECA)を通じた再保険です。これは、2004 年から行って
おりもともと政府系貿易保険機関同士の協力関係強化が大きな目的の一つでしたが、最近は、リスク管
理ツールの一つとして、多くの日系企業からご関心をいただいております。
現在、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、香港、台湾の各保険機関と取り決めを行っており、
再保険の商品内容も改善を進めております。
シンガポール事務所は、これらの再保険についても、アジアの各保険機関と NEXI 本部の間に立って、
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個別の再保険案件や枠組みの改善をサポートしております。この一年の間に、これら 6 カ国を何度も訪
問し、顧客ニーズや再保険の枠組みについて先方貿易保険機関や日系企業の方々と意見交換を行っ
たほか、インドネシア、タイにおいて、先方貿易保険機関と共同でセミナーを開催し、再保険の枠組みや
その下での現地保険機関の保険商品の内容についての情報提供を進めてきました。引き続き、日系企
業の皆様にご活用いただけるよう努めてまいりたいと思います。
2.大型プロジェクト
NEXI の保険の中でも、貿易代金貸付保険、海外事業資金貸付保険、投資保険は、長期にわたる
代金回収リスク等をカバーする商品です。途上国での大型投融資プロジェクトは大きなリスクを伴うことか
ら、アジア地域でも多くの保険付保ニーズがあります。
NEXI では、保険契約にあたり保険機関として自らのリスクを合理的な範囲にとどめることが必要であり、
単に保険申請者との間でプロジェクトの内容を確認するだけでなく、案件の内容に従って、NEXI 自身が
直接プロジェクト関係者や関連する政府関係者などと対話や交渉を行うことが必要になってきます。シン
ガポール事務所では、そうした局面で本部をサポートすることも重要な業務となります。
例えば、インドネシアの政府系企業が携わる大型プロジェクトでは、インドネシア政府や政府系機関を
何度も訪問し、政府関係プロジェクトの返済リスクに関して意見交換を行いました。インドネシアは今、経
済発展が著しく国際的にも金融市場における信任も高まっていますが、やはり、大型の投融資プロジェク
トにおいては適切なリスク管理が求められます。インドネシア政府が設けつつある枠組みなどに関し、現地
の大使館の協力なども得つつ、国の機関として先方の政府や政府関係機関に働きかけています。
ベトナムにおいても、大型案件は引き続きリスクが高く、ベトナム政府の関与が重要になってきます。
NEXI の取り組みを正しく理解してもらい、ベトナム政府がプロジェクトのリスク軽減のために適切な措置を
講じることが重要です。私も、ベトナムの資金調達に直接関与する財務省の担当部局をはじめ、計画投
資省、商工省等を訪問してこうした問題に関する意見交換を行いました。その他、ミャンマーについても、
大型プロジェクトに保険の引受を行うためには先方政府の対応が重要な役割を果たすことになり、NEXI
本部からの役員ミッションに参加して政府部局等との対話の側面支援を行うなどしています。
3.カントリーリスク等の調査
アジア地域を担当するシンガポール事務所として、地域情勢の把握は重要な業務です。調査の内容
も、カントリーリスク全般を把握するために域内各国の政治情勢、経済情勢全体を把握するものと、国
別の引受方針等の決定のためにより具体的な制度の内容を調査するものと二種類のものがあります。
前者の場合は、この一年の業務の中で大きいものとして、ミャンマーの送金や為替に関する規制制度
の調査があります。日本企業のミャンマーへの関心が高まる中で、貿易保険へのニーズも高まりつつありま
す。NEXI としても、具体的に保険リスクを引き受けていくにあたっては、ミャンマー政府のまさに変化しつつ
ある規制内容について、把握しておくことが重要なため、政府の関係部局や現地の金融機関、有識者
等を訪問して情報収集を行いました。
後者の各国の政治経済情勢全般については、NEXI として、引き受けニーズが多い国と、今後、日系
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e-NEXI (2013 年 10 月号)
企業の進出等に伴いニーズが高まる国の双方を把握しておくことが必要です。前述のとおり、再保険、大
型プロジェクト対応等、色々な業務でアジア各国を訪問し、現地政府、日系金融機関、日系企業、国
際機関、大使館、ジェトロ等様々な機関と意見交換を行い、政治経済情勢に触れております。
その上で、より具体的にカントリーリスク調査として最近訪問したのは、ベトナム、バングラディシュ、ラオス
です。NEXI の保険引受も多く、日系企業の進出も著しいベトナムは、状況を十分に把握しておくことが
必要です。最近の状況を直接、政府の財務省、中央銀行などの部局から聴取し、IMF 等の国際機関
や、現地日系企業等との意見交換も行っています。また、日本企業の今後の進出先として注目されてい
る、バングラディシュ、ラオスについても、同様に政府の関係部局等の訪問を重ねております。
4.貿易保険機関連携と広報等
シンガポール事務所では、地域事務所として NEXI 本部の複数の部局の案件をまとめ、地理的な利
点を生かして容易に現場を訪問することが可能であるため、他にも、様々な業務に対応しています。
再保険の枠組みを持っていない他の貿易保険機関との関係でも、個別の必要に応じて訪問を行って
います。最近は、インドの貿易保険機関と対話を行うためにムンバイを訪問し、また、ベルンユニオンの貿
易保険機関のアジアメンバー会合が開催された際には、会議に参加して再保険等について意見交換を
行うため中国を訪問しました。その他にも二国間協議のためインドネシアを訪れるなどしています。
NEXI を地域で代表する立場にありますので、セミナー等に参加して NEXI の取り組み等に理解を広め
るため、インドネシアや韓国も訪問しております。
最後に、貿易保険で避けられないものに事故処理があります。私の在任するこの 1 年では、その関係
で現地に赴いたことはありませんが、前任の時代に起きた再保険案件の事故対応を、迅速にオーストラリ
アに渡り行いました。
以上、シンガポール事務所の取り組みを少し具体的にご紹介させていただきました。皆様に NEXI の貿
易保険をご利用いただくに当たり、何らかのお役に立てば幸いです。
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