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研究紀要 - 久留米大学情報教育センター

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研究紀要 - 久留米大学情報教育センター
久留米大学健康・スポーツ科学センター
研究紀要
第 18 巻
《目
次》
原著論文
高強度負荷一定運動に対する中心循環系および酸素摂取量の動態
右 田 孝 志・Marzorati MAURO・Porcelli SIMONE
Marconi CLUDIO ………………………………………………………………………
1
大学生のライフスタイルと社会的スキル及び精神的健康との関連
緒 方 智 宏・豊 増 功 次 …………………………………………………… 11
成熟期中期のラット足底筋に対する走トレーニングの影響
辻 本 尚 弥・鈴 木 英 樹 …………………………………………………… 19
研究資料
幼児の活動量に影響を及ぼす因子の検討∼父母の幼児との関わり方の違いから∼
古 賀 夕 貴・豊 増 功 次 …………………………………………………… 25
スポーツ活動を行う大学生のメディカルチェックにおける心電図検査の臨床的意義の検討
−九州・沖縄内の他大学との比較−
小 宮 加 代・白 坂 由起子・岩 崎 由美子・ 本 ゆかり
吉 田 生 美・吉 田 典 子・豊 増 功 次 ……………………………… 33
精神保健福祉士のスクールソーシャルワーク業務に関する検討
大 西
良・藤 島 法 仁・ポドリヤク‐ナタリヤ・許
莉
芬
末 永 和 也・米 川 和 雄・辻 丸 秀 策 ……………………………… 39
男性学生長距離ランナーにおける栄養状態の推移と身体組成
滿 園 良 一・稲 木 光 晴・上 野 友 愛・佐々木
香
苗 ………… 47
大学病院勤務医師の子育て状況と仕事ストレスについて
豊 増 功 次・松 本 悠 貴 …………………………………………………… 53
地域におけるアダプテッドスポーツイベントの参加者評価
行 實 鉄 平 ………………………………………………………………………… 59
2 0 1 0年
12 月
久留米大学健康・スポーツ科学センター
本誌刊行までの研究報告等は, 下記の論叢及び紀要に掲載さ
れています。
文 理 論 叢
第1輯
(1949)
文 理 論 叢
第2輯
(1949)
久留米大学論叢
第3輯
(1950)
久 留 米 大 学 論 叢 (人文・社会科学) 第 4 巻 第 1 号 (1951)
同
(自 然 科 学) 第 4 巻 第 1 号 (1951)
同
(人文・社会科学) 第 4 巻 第 2 号 (1952)
同
(自 然 科 学) 第 4 巻 第 2 号 (1952)
同
(人文・社会科学) 第 5 巻 第 1 号 (1953)
同
(自 然 科 学) 第 5 巻 第 1 号 (1953)
経
済
学
同
人文・社会科学 第 5 巻 第 2 号 (1953)
同
(自 然 科 学) 第 5 巻 第 2 号 (1954)
経
済
学 第 6 巻 第 2 号 (1955)
同
人文・社会科学
同
(自 然 科 学) 第 6 巻 第 1 号 (1955)
同
(人文・社会科学) 第 6 巻 第 2 号 (1955)
久 留 米 学 会 紀 要 (人文・社会科学) 第
1
号 (1956)
同
(人文・社会科学) 第
2
号 (1957)
久留米理学会紀要
第
1
号 (1957)
久留米文学会紀要 (人文・社会科学) 第
3
号 (1957)
久留米理学会紀要
第
2
号 (1957)
久留米文学会紀要 (人文・社会科学) 第
4
号 (1958)
久留米理学会紀要
第
3
号 (1958)
久留米大学論叢
第 7 巻 第 1 号 (1958)
(
)
(
)
∼
同
第40巻 第 2 号 (1991)
久留米大学保健体育センター研究紀要 第 1 巻 第 1 号 (1993)
∼
同
第 7 巻 第 1 号 (1999)
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要 第 8 巻 第 1 号 (2000)
∼
同
第17巻 第 1 号 (2009)
1
=原著論文=
高強度負荷一定運動に対する中心循環系
および酸素摂取量の動態
右
田
孝
志1)
Marzorati MAURO2)
Porcelli SIMONE2)
Marconi CLUDIO2)
Kinetics of Central Cardiovascular Variables and Oxygen Uptake during
Constant Heavy-Intensity Exercise.
Takashi MIGITA1), Marzorati MAURO2), Porcelli SIMONE2)
Marconi CLUDIO2)
We studied the kinetic characteristics of cardiovascular variables during intensity heavy cycling
exercise. In particular, we used a new thoracic electrical impedance system (Physio Flow, France),
which was developed with a new algorism and measurement electrode to improve reproducibility and
accuracy, to determine cardiac output () during exercise.
The methods used were the same as in our previous study. In addition to the previously analyzed
data, in this study, we analyzed heart rate (HR) and stroke volume (SV). Furthermore, we treated two
experiences as separate samples in this study. These data were analyzed using mono-exponential
regression.
Time constant (τ) of SV was faster than that of , however, a significant relationship was found
between the τof both variables. The asymptotic amplitude of SV correlated with that of (r = 0.708,
P < 0.05). When we examined profiles of oxygen uptake (O2), , and an index of arteriovenous
oxygen difference [(a-) O2diff], we could find that the (a-) O2diff possessed speedier kinetics than
O2 and .
From these results, we suggested the following two possibilities;1) SV would be dominant factor
for degree rather than for velocity to determine the kinetic of , 2) kinetic of oxygen consumption
may have been speedier than that of oxygen delivery.
;thoracic electric impedance, cardiac output, stroke volume, arteriovenous oxygen difference
1) 久留米大学健康・スポーツ科学センター
2) IBFM-Physiology. Italian National Research Council
2
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
緒
第18巻
第1号
2010
の年齢、 体重、 身長はそれぞれ17 ± 0.5歳、 80 ±
言
5.1㎏、 および185 ± 5.2㎝) が本実験に参加した。
運動時のエネルギー需要量に対する有酸素的な要
被験者の全員が Circolo Sestese Canoa Kayak (Italy)
因は、 酸素摂取量 (O2) に反映され、 それは酸素
運搬系としての心拍出量 () と酸素消費系として
のメンバーであり、 少なくとも3年間の定期的なカ
ヤック競技のトレーニングを行っていた。
の動静脈酸素較差 [(a-)O2 differ]によって調節さ
れている[Fick の原理、 O2 =×(a-)O2 differ]。
2. 実験デザイン
そ し て の 値 は 、 心 拍 数 (HR) と 一 回 拍 出 量
(SV) によって決定される。 これまでの多くの研究
漸増自転車運動を60 rpm で実施した。 その後、 最
被験者は、 最初に疲労困憊に至るまでの最大負荷
において、 O2 (エネルギー需要量あるいは運動強
度) の増加に伴って と HR は運動終了時までほ
大運動時の 「仕事量−心拍数」 関係から求められた
ぼ直線的に増加すること 、 一方、 SV は O2max
の60∼80%あたりでピーク値をとり、 それ以降は定
分間の過渡運動テストを2回実施した。
常状態を示すこと4)、 あるいは鍛錬者においては運
3. 測定項目
1-3)
80%に相当する運動強度 (w) を用い、 安静から6
動終了時まで漸増すること1,5),などが報告されてき
すべての運動テストにおいて、 呼気ガス変数、 心
た。 しかし、 これらの研究の多くは、 様々な運動強
拍数 (HR)、 一回拍出量 (SV) および心拍出量 ()
度における上述の変数に関する量的な観点からの検
が安静時から運動を通して連続して測定された。
呼 気 ガ ス は 代 謝 測 定 装 置 (Vmax229 、 Sensor
討であった。
近年、 測定機器の開発とデータの分析手法の進歩
Medics、 USA) を用いて breath-by-breath で測定し
によって、 一呼吸毎 (breath by breath) の呼気ガス
た。 心拍数と一回拍出量は、 インピーダンス法によ
データの解析が可能となり、 運動開始時の O2 の
る心電計 (Physioflow、 ManatecBiomedical、 France)
動態特性が検討されてきている。 そして、 O2 の
量的な応答のみならず、 運動開始時の時間的な応答
を用いて測定した。 心拍出量は、 HR、 SV インデッ
特性を検討することによって、 生体内におけるエネ
下の算出式にしたがって評価した。
ルギー出力特性に関する有用な情報を得ることがで
2
(L/min)=HR(beats/min) × SVi (ml/m ) × BSA
2
(m )
きる可能性が示唆されている
6,7)
。 しかし、 運動時
の O2 以外の指標の応答特性に関する報告は少な
く、 特に各変数間の関連性について言及した研究も
クス (SVi)、 および体表面積 (BSA) を用いた以
動静脈酸素較差 [(a-)O2diff]は、 Fick の原理よ
り O2 を で除して求めた。
ほとんど見当たらない8,9)。 そこで、 本研究は、 上
述した運動時のエネルギー需要および供給に関連し
4. データ解析
た変数について、 高強度一定負荷運動に対する応答
最大運動中の呼気ガスおよび循環系のデータは毎
特性を検討し、 それらの関連性を検討することを目
分の後半30秒を平均し、 最も高い値をピーク値とし
的とした。 本研究では、 酸素運搬系 (中心循環系)
た。
の変数に関して、 近年、 これまでと違ったアルゴリ
最大下運動中の breath-by-breath の O2 データは、
測定に伴うノイズを減らすために10秒毎に平均した。
ズムおよび改良された電極を用いた新しいインピー
ダンス法による測定装置10-13) を用いて検討を行った。
方
法
本研究の被験者、 デザインおよび測定項目は、 先
13)
、 HR および SV は、 5拍の心拍数毎に算出され
た。 本研究では、2回の測定値を平均せず、 各試行
を別々なデータとして扱った。 そして各変数を運動
開始に合わせて時系列に並べ、 汎用性のソフト
と同じであり、 そこに詳細が述べ
(SPSS 11.5、 SPSS Inc.、 USA)を用いて以下の非線
られているので、 それらに関しては簡単な記載にと
形のモデルにフィットさせ、 過渡応答の動態に関す
どめておく。
る変数を求めた。
に報告した研究
Y (t) = b + A ×
1. 被験者
6名のトレーニングを積んだカヤック選手 (平均
1-e-(t-TD)/τ
× u
ここで、 Y (t)は時間 t における各変数の値、 b は
安静値、 t < TD の時 u = 0、 t >= TD の時 u = 1、 A
高強度負荷一定運動に対する中心循環系および酸素摂取量の動態
は一定負荷運動時の指数項の増幅値、 τは指数項の
3
Variables
for
maximal
exercise.
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,
.)
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時定数、 TD は運動開始からの時間遅れを示す。
5. 統計
すべてのデータは平均±標準偏差で示した。 一定
負荷運動に対する変数間の差の検定には、 対応のな
/.1
)
1!
-
い一元配置の分散分析を用い、 有意な F 値が得ら
##
れた場合の多重比較には Scheffe による比較を用い
た。 2変量間の関係はピアソンンの相関係数を用い
"#
$
て検討した。 いずれの場合も有意性のレベルは5%
(P < 0.05) とした。
結
果
最大運動時のO2、 運動強度および呼吸循環系の
測定値を表1に示した。 本被験者の および SV
く、 他の変数のτは60∼70秒であった。 結果的に
のピーク値は形態および O2 peak からみて幾分高
(P < 0.05)。 また、 運動開始時の O2 の時間遅れ
(TD) は、 および HR との間に統計的に有意な差
が認められた (P < 0.05, 0.01)。
い傾向にあった。
一定負荷運動に対する O2 、 、 HR および SV
の動態の解析結果を表2に示した。 測定の技術的な
SV のτは のそれより統計的に有意に小さかった
問題および解析の非理論的な結果によるデータの欠
運動開始後の増加分 (A) の と HR および SV
の関係を図1に、 またτに関する と HR および
如のため、 および SV のサンプル数は11および9
SV の関係を図2にそれぞれ示した。 いずれも3つ
となった。
の変数の得られた9つのサンプルのデータのみを示
SV の時定数 (τ) は、 49 ± 20.1 秒と最も小さ
した。
Kinetic characteristics of pulmonary oxygen uptake (O2),
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cardiac output (), heart rate (HR) and stroke volume (SV).
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Significant
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0.01
between
O&
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4
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
A に関して、 と SV との間にのみ有意な相関関
係が認められた (図1, P < 0.05)。 HR の時定数は
SV と比べての時定数に近い値であったが (表2)、
の時定数と有意な関連性の認められたのは SV で
あった (図2, P < 0.05)。
O2 、 、 および (a-) O2 diff の時間推移に伴う
フィッティングモデルの結果を図3に示した。 O2
および は、 解析結果から得られた予測値を運動
終了時の値を100%として示した。 (a-) O2 diff(t)
「O2(t)/(t)」 によって示した。 3つの変数
の得られた11サンプル中、7サンプルにおいて (a-1,
は
b-2, c-2, d-1, e-1, e-2, f-2)、 (a-) O2diff の速い
立ち上がり傾向が認められた。
考
察
高強度の一定負荷運動に対する O2 の応答は、
運動後半に漸増する成分を持つ二次の指数回帰モデ
ルが一般に用いられている14-16)。 しかし、 今回検討
した O2 以外の変数が二次の指数回帰モデルにフィッ
ティングするかどうかは不明である。 したがって、
本研究では一定負荷運動に対する O2 と循環系の
各変数の応答全般に渡る特性を検討する事として、
一次の指数回帰モデルを用いて解析を行った。
1. 、 HR、 および SV の応答特性
ある運動強度における の値は、 HR と SV の積
Relationship in amplitude (A) between cardiac output
() and heart rate (HR) (upper panel), stroke volume
(SV) (lower panel).
として表わされる。 本研究では、 一定負荷運動中の
の応答に対する HR と SV の関連性を検討した。
応答の時間的要因を示すτは と HR の両変数
において同程度の大きさであったが、 SV のτは と比べて有意に小さかった (表2, 図2)。 応答特
性から考えると、 この結果は SV が の応答速度
を規定する要因とはならないことを示すように思え
る。 しかし、 本研究において、 のτと有意な相関
関係を示したのは SV のみであり、 HR よりも SV
の方が との関連性の高い可能性が示唆された。
応答の時間的特性を表わすτに対して、 本研究にお
ける A は一定負荷運動に対する各変数の応答の量
的特性を示す。 Richard et al.17) は、 本研究と同様の
インピーダンス法による の測定装置を用いて、
高強度一定負荷運動時の循環系の応答特性を検討し
Relationship in time constants (τ) between cardiac
output () and heart rate (HR) and stroke volume
(SV). Regression line (solid) shows the relationship
between and SV (P<0.05). Dotted line is identical
line.
た。 その結果、 の A が SV の A と有意な相関関
係にある事を示し、 SV が の決定要因であること
を示している。 本研究における の A は、 SV との
間においてのみ有意な相関関係を示した。 以上の事
5
(
(
)
)
(
(
)
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(
(
)
)
(
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O 2
(a-)O 2 diff
(
(
)
)
(
(
)
)
高強度負荷一定運動に対する中心循環系および酸素摂取量の動態
O 2
(a-)O 2 diff
Results of model fits to oxygen uptake (O 2 ), cardiac output () and arteriovenous oxygen difference [(a-)
O2diff]. These data are expressed as a percentage of the overall response.
(
(
)
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(
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(
(
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)
(
(
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(
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(
)
)
6
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
O 2
(a-)O 2 diff
高強度負荷一定運動に対する中心循環系および酸素摂取量の動態
7
を考慮すると、 高強度一定負荷運動に対する の
応答に対して、 SV は速度の規定要因ではなく、 応
記のような事象が上げられる。 すなわち、 O2 お
よび と比べて (a-) O2diff の運動開始時の立ち上
答の量的な規定要因となる可能性が示唆される。
がりが速い傾向を示した7つのサンプル中、 4つの
本研究における興味ある知見の一つは、 運動開始
サンプル (図3、 a-1、 c-2、 d-1、 f-2 ) は1分程度
時の時間遅れ (TD) である。 すべての変数におい
の時間経過後に定常状態を示し、 残りの3つのサン
て TD の平均値がマイナスとなっているのは、 本研
プルは1分程度の時間経過後に減少傾向を示した
究の被験者が高いレベルのパフォーマンスを有して
(図3, b-2, e-1, e-2 )。 Chuang et al.18)は、 一定負
いる競技者であることから、 運動に対する準備状況
荷運動に対する O2、 HR および近赤外分光法を用
が早期に整っていた可能性が考えられる。 さらに、
いた組織ヘモグロビン (Hb) の酸素化/脱酸素化レ
O2 の TD と比べて、 、 HR および SV の TD が
小さい傾向にあった。 O2 が酸素の運搬系と消費
系によって規定されることを考慮すると、 本研究の
ベルの応答を同時に測定した。 その結果、 乳酸性作
TD の結果は運動に対する応答のドライブが酸素の
て緩やかに増加するケースと、 速い応答に続いて減
消費系よりも運搬系において早期に起こる可能性を
少を示すケースを報告した。 彼らは LAT 以上の高
示唆すると思われる。 この点に関しては、 酸素消費
強度運動の場合、 乳酸の産生に伴って [H+ ] が増
系の応答特性を同時に測定する、 例えば、 近赤外分
加し、 組織レベルでは Bohr 効果によって Hb の脱
光法などの装置を同時に用いて検証してみる必要が
酸素化が促進する一方、 [H+] の増加による血管拡
あるだろう。
張作用によって血流量が増加し、 Hb の再酸素化も
業閾値 (LAT) 以上の強度における脱酸素化レベル
の応答特性として、 運動開始初期の速い応答に続い
促進する可能性を示唆している。 本研究で得られた
2. および (a-
) O2diff の応答特性
Fick の原理より (a-) O2diff は 「O2/」 によっ
(a-) O2 diff の 二 つ の 応 答 パ タ ー ン も 、 Chuang et
al.18)の Hb の脱酸素化レベルの応答特性を反映して
て求めることができる。 Richard et al.17) は、 一定負
いるものと考えられる。 すなわち、 [H+] の増加に
荷運動に対する O2 と を同時に測定し、 Fick の
よる Bohr 効果と血管拡張作用による血流量の増加
原理より(a-) O2diff を算出した。 そして各変数の
動的特性を検討した結果、 (a-) O2diff のτが O2
の複合的な要因によって、 高強度一定負荷運動に対
および のτと比べて小さいことを報告した (τ=
示したものと推察される。
39 ± 18 sec:(a-) O2diff, 53 ± 20 sec:O2、 89
± 34 sec:)。 彼らの研究では、 O2 および の
3. 研究の制約
する (a-) O2diff の応答が異なる二つのパターンを
始時に合わせて時系列データとして処理されたので、
本研究では、 、 HR および SV を循環系の変数
として測定し、 それらは近年、 機器とアルゴリズム
t における (a-) O2diff (t) の算出が可能であった。
の改良によって、 運動時の測定精度の向上が報告さ
一方、 本研究においては、 一定時間による平均化を
れているインピーダンス法による装置を用いて実施
実施しなかったので、 t における (a-) O2diff (t) の
した。 その結果、 本研究の最大漸増運動時に得られ
算出が困難であった。 そこで、 運動終了時の値を
たピーク時の および SV は、 31.2 ± 2.5 L/min お
100%として相対値で示した応答特性の O2 および
よび 171.2 ± 16.6 ml/b であった。 本研究と同じ測
の フ ィ ッ テ ィ ン グ モ デ ル の 時 間 (t) に お け る
「 O2 (t)/(t)」 によって (a-) O2 diff (t) の比較
定機器を用いた先行研究において、 ピーク時の 検討を試みた。 その結果、7つのサンプルにおいて、
りも小さい値17) が報告されている。 これらの値には、
(a-) O2 diff の運動開始時の立ち上がりが O2 お
よび と比べて明らかに速い傾向を示した。 これ
被験者の性、 年齢あるいは身体的能力が影響を及ぼ
測定値がデータ収集後に10秒毎に平均され、 運動開
および SV が本研究と同程度19)、 あるいは本研究よ
すことが示されている20)。 本被験者の形態および身
の先行研究の結果と同様であり、
体的能力からみて、 今回得られた および SV の
したがって本研究においても、 酸素の運搬系よりも
値は幾分高い傾向にあるように思われる21,22)。 それ
消費系の方が一定負荷運動に対する応答の速い可能
が、 装置を含めた測定に関する技術的な問題か、 あ
性が示唆された。
るいは本被験者の特性によるのかは不明であり、 今
17)
は Richard et al.
本研究における興味ある知見の二つ目として、 下
後の検討課題である。
8
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
本研究では、 新しく開発された胸部インピーダン
第18巻
第1号
2010
1999; 86: 742-7.
ス法による の測定装置を用いて、 高強度一定負
8) Grassi B, Poole DC, Richardson RS, Knight DR,
荷運動に対する循環動態の応答特性を検討した。 そ
Erickson BK, Wagner PD. Muscle O2 uptake kinet-
の結果、 の応答に対して、 SV は応答の速度調節
因子というよりも量的な規定因子の可能性が示唆さ
ics in humans: implications for metabolic control. J
れた。 また、 高強度の一定負荷運動に対して、 酸素
9) Miura T, Takeuchi T, Sato H, Nishioka N, Terakado
Appl Physiol 1996; 80: 988-98.
運搬系よりも酸素消費系の応答速度の速い可能性、
S, Fujieda Y, Ibukiyama C. Skeletal muscle
そして、 酸素消費系の応答には異なるパターンの認
deoxygenation during exercise assessed by near-
められる可能性も示唆された。
infrared spectroscopy and its relation to expired gas
謝
辞
analysis parameters. Jpn Circ J 1998; 62: 649-57.
10) Charloux A, Lonsdorfer WE, Richard R, Lampert E,
本実験を実施するに当たり、 被験者および測定場
Oswald MM, Mettauer B, Geny B, Lonsdorfer J. A
所の調整をしていただいたカヤックチームのコーチ
new-impedance
である Andrea Baglion 氏に感謝申し上げます。
invasive evaluation of cardiac output at rest and
cardiograph
device
for
non-
during exercise: comparison with the direct" Fick
引用文献
method. Eur J Appl Physiol 2000; 82: 313-200.
1) Gledhill N, Cox D, Jamnik R. Endurance athletes'
11) Richard R, Lonsdorfer WE, Charloux A, Doutreleau
stroke volume does not plateau: major advantage is
S, Buchheit M, Oswald MM, Lampert E, Mettauer
diasolic function. Med Sci Sports Exerc 1994; 26:
B, Geny B, Lonsdorfer J. Non-invasive cardiac out-
1116-21.
put evaluation during a maximal progressive exer-
2) Magel JR, Toner MM, Delio DJ. Metabolic and car-
cise test, using a new impedance cardiograph
diovascular adjustment to arm training. J Appl
Physiol 1978; 45: 75-9.
3) Warburton DER, Gledhill N, Jamnik VK, Krip B,
Card N. Induced hypervolemia, cardiac function,
device. Eur J Appl Physiol 2001; 85: 202-7.
12)
Welsman J, Bywater K, Farr C, Welford
D, Armstrong N. Reliability of peak O2 and
maximal cardiac output assessed using thoracic
O2 max, and performance of elite cyclists. Med
Sci Sports Exerc 1999; 31: 800-8.
bioimpedance in children. Eur J Appl Physiol 2005;
4) Gonzalez-Alonso J. Point: Counterpoint: Stroke vol-
13) 右田孝志、 Marzorati M, Porcelli S, Marconi C.
ume does/ does not decline during exercise at maxi-
高強度運動に対する酸素摂取量および心拍出量
mal effort in healthy individuals. J Appl Physiol
の動態. 久留米大学健康・スポーツ科学センター
2008; 104: 275-276.
研究紀要 2009; 17: 1-7.
94: 228-35.
5 ) Ferguson S, Gledhill N, Jamnik VK, Wiebe C,
14) Barstow TJ, Mole PA. Linear and nonlinear charac-
Payne N. Cardiac performance in endurance-trained
teristics of oxygen uptake kinetics during heavy ex-
and moderately active young women. Med Sci
Sports Exerc 2001; 33: 1114-9.
ercise. J Appl Physiol 1991; 71: 2099-106.
15) Takashi M, Kouji H. Effect of different pedal rates
6) Rossiter HB, Ward SA, Kowalchuk JM, Howe FA,
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Griffiths JR, Whipp BJ. Dynamic asymmetry of
load cycling exercise. J Sports Med Phys Fitness
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16) Takashi M, Kouji H. Effect of switching pedal rate
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7) Whipp BJ, Rositer HB, Ward SA, Avery D, Doyle
17) Richard R, Lonsdorfer WE, Dufour S, Doutreleau S,
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Oswald MM, Billat VL, Lonsdorfer J. Cardiac out-
31
nation of muscle P and O2 uptake kinetics during
put and oxygen release during very high-intensity
whole body NMR spectroscopy. J Appl Physiol
exercise performance until exhaustion. Eur J Appl
高強度負荷一定運動に対する中心循環系および酸素摂取量の動態
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18) Chuang M-L, Ting H, Otsuka T, Sun X-G, Chiu F,
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19) Lepretre PM, Koralsztein JP, Billat VL. Effect of
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and cardiac output. Med Sci Sports Exerc 2004;
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20) Ogawa T, Spina RJ, Martin III WH, Kohrt WM,
Schechtman KB, Holloszy JO, Ehsani AA. Effects
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21) Stickland MK, Welsh RC, Petersen SR, Tyberg JV,
Anderson WD, Jones RL, Taylor DA, Bouffard M,
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cardiovascular hemodynamic response to exercise?
J Appl Physiol 2006; 100: 1895-901.
22) Reybrouck T, Heigenhauser GF, Faulkner JA.
Limitations to maximum oxygen uptake in arm, leg,
and combined arm-leg ergometry. J Appl Physiol
1975; 38: 774-9.
9
11
=原著論文=
大学生のライフスタイルと社会的スキル
及び精神的健康との関連
緒
方
智
宏1)
豊
増
功
次1)2)
Relationship between Lifestyle, Social skills,
and Mental Health of University Students.
Tomohiro OGATA1), Kouji TOYOMASU1)2)
We used a questionnaire to determine how social skills and mental health are related to lifestyle.
The questionnaire used the Japanese versions of the GHQ-28 and KiSS-18. We prepared a lifestyle
questionnaire specifically for this study. A total of 232 university students (125 men, 107 women)
were surveyed.
Results showed that, (1) Degree of mental health and social skills were negatively correlated. (2)
A significant difference was recognized in both social skills and degree of mental health for the The
enforcement situation of a part-time job". (3) Social skills were low, and those who had poor mental
health was found to be a tendency to do not work part-time in The enforcement situation of the parttime job" as a result of a discriminant analysis.
These results suggest that those who cannot obtain sufficient social skills showed a tendency to
develop poor mental health. Moreover, they suggested that the participants evaded lifestyle in the
interpersonal domain selectively.
;社会的スキル、 精神的健康、 ライフスタイル、 KiSS-18、 GHQ-28
緒
言
ることが明らかにされている 1)∼7) 。 精神的健康は
身体的な健康とも密接に関わっているため、 精神的
青少年や成人を対象としたライフスタイルと身体
健康対策においても、 単に心のみに焦点をあてれば
的・精神的健康の関連を報告した研究は数多くなさ
良いというわけではない。 ストレスが自律神経機能
れており、 健康的なライフスタイルが、 生活習慣病
や内分泌機能、 免疫機能の異常を介して様々な疾患
の予防・改善や精神的健康の維持・増進と関係があ
をもたらすことが明らかにされ、 さらには、 ストレ
1) 久留米大学大学院医学研究科 健康科学
2) 久留米大学健康・スポーツ科学センター
12
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
スがライフスタイルの歪みを介して疾患になる場合
も考えられる。
第18巻
第1号
2010
康が重要だと考えられる。
このように、 精神的健康とライフスタイルは密接
一方、 社会的スキルとは、 「対人場面において、
な関係があり、 さらには、 社会的スキルも精神的健
個人が相手の反応を解読し、 それに応じて対人目標
康・ライフスタイルに大きく関係している可能性が
と対人反応を決定し、 感情を統制したうえで対人反
考えられる。
応を実行するまでの循環的過程」8)、 「対人関係を円
目
滑に運ぶために役立つスキル」9) と定義される人間
関係の技術である。 社会的スキルが対人や集団との
的
ライフスタイル・社会的スキル・精神的健康の3
関係の中で発揮される相互作用の技能であるので、
者は密接に関係し、 互いに作用し合って心身の健康
この技能の不足は対人関係や集団との関係で不適応
を保っていると推測される。 しかし、 これまでの研
を引き起こすことが推察される。 先行研究によれば、
究ではそれぞれの関係は示されているものの、 3者
社会的スキルの不足は、 対人不安・孤独感・ストレ
の関係を包括的に検討したものはほとんどみられな
ス・抑うつ状態やうつ病等を引き起こして、 社会的
い。 社会的スキルは、 精神的健康を負の方向に移行
不適応や精神的健康の不調等を招くことが示唆され
する多くのストレスを緩和して精神的健康を健康な
ている 8) 10) 11) 。 Hammen12) は、 社会的スキルの不足
状態に保ち、 さらにはライフスタイルに影響してい
→ストレッサーの増加→抑うつ反応増大、 の過程を
る可能性が考えられる。 そこで本研究では、 3者の
主幹とするストレス生成デルを提案し、 Segrin &
関連を知るために、 ライフスタイルと精神的健康と
Abramson13) は、 「社会的スキル−ストレス仮説」 を
社会的スキルを包括的に検討した。 またその中で、
提案して、 社会的スキルの不足は対人領域のストレッ
社会的スキルや精神的健康度がどのような領域のラ
サーをより多く受ける結果を招き、 抑うつ状態、 ひ
イフスタイルと関係するのかを知るため、
いてはうつ病発症を増加させると報告している。 こ
接するライフスタイルを対人領域" 他者と接しな
れらのことから、 対人接触の機会が多い大学生活に
いライフスタイルを非対人領域" と本研究では定義
は社会的スキルが大きく影響していることが推測さ
し、 これについても検討した。
れ、 個人の社会的スキルの状態がライフスタイルに
方
影響している可能性が考えられる。 Riggio ら14) は、
社会的スキルの不足が大学生の課外活動への参加を
妨げることを明らかにしている。 さらに渡部 15) は、
他者と
法
1. 対象者: 大学生
被調査者のうち、 本研究で用いられた調査におい
社会的スキルの不足が対人接触の回避に結びつくこ
て無効な回答を除いた232名 (平均年齢19.6歳、
とを確認しており、 これらは社会的スキルが、 ある
SD=1.3) を分析対象者とした。 内訳は、 男性125名
領域のライスタイルに影響することを示唆している。
(平均年齢19.1歳、 SD=1.2)、 女性107名 (平均年齢
また、 大半の大学生は卒業と同時に就職というラ
19.8、 SD=1.4) で、 学年は1年生118名、 2年生70
イ フ ス タ イ ル の 転 機 を 迎 え る 。 Ashforth &
名、 3年生24名、 4年生19名であった。
Humphrey16) は、 「仕事場は、 内在する権力構造と人
間関係が複雑で、 多くの感情が生じる場面である」
2. 方
法: 質問紙による調査
と示しており、 「対人関係を円滑に運ぶために役立
独自に作成した運動・睡眠・食習慣などのライフ
つスキル」 である社会的スキルは仕事場では重要で
スタイルに関する質問票および精神的健康や社会的
ある。 廣 17) は 「 心の病" が最も多い年齢層は30歳
スキルについて、 無記名自己記入法によるアンケー
代である」 ことを示した社会経済生産性本部メンタ
ト調査を行った。 精神的健康度の尺度として、 日本
ルヘルス研究所 18) の結果をもとに、 30歳代の精神
版 GHQ-28を使用した。 社会的スキルの尺度は KiSS-
疾患はそれ以前の10∼20歳代から続いた職場不適応
18を用いた。 評価は、 GHQ-28と Kikuchi's Scale of
が顕在化した可能性があると示している。 就業での
Social Skill (KiSS-18) およびライフスタイルに関す
精神疾患には、 職場不適応と精神的健康との関連が
る質問票の結果の比較から行った。
影響を与えていると推測される。 就職をひかえた大
学生にとって、 就職してからの職場不適応を回避す
るためにも、 十分な社会的スキルと良好な精神的健
3. 調査票
精神的健康度:日本版 GHQ-28
「身体的症状」、
大学生のライフスタイルと社会的スキル及び精神的健康との関連
13
「不安と不眠」、 「社会的活動障害」、 「うつ傾向」 の
尺度の内的整合性を知るためα係数を検討した。
4下位尺度で構成され、 それぞれに0∼7点で下位
KiSS 全18項目での検討では、 平均57.58、 SD9.96で
尺度得点を設定し、 合計点を GHQ 得点として評価
α=.90と十分な値であった。 初歩的スキル3項目で
する。 点数が高いほど精神的健康度が低いことを示
の検討では、 平均9.15、 SD2.57でα=.75であった。
す19) 20)。 これまで数多くの研究や調査で使用され信
高度のスキル3項目での検討では、 平均9.93、 SD
頼性・妥当性は証明されている2)5)7)。
2.08でα=.54であった。 攻撃のスキル3項目での検
討では、 平均9.34、 SD1.93でα=.68であった。 感情
社会的スキル:KiSS-18
処理のスキル3項目での検討では、 平均9.56、 SD
菊 池 9) の 作 っ た 社 会 的 ス キ ル 尺 度 で あ り 、
2.16でα=.59であった。 計画のスキル3項目での検
Golstein らによる若者に必要な6つのカテゴリーを
討では、 平均9.97、 SD1.83でα=.54であった。 スト
基に質問項目18項目より構成されている。 それら18
レス処理のスキル3項目での検討では、 平均9.63、
項目は、 ①初歩的なスキル②高度のスキル③感情処
SD1.91でα=.54であった。
理のスキル④攻撃に代わるスキル⑤ストレスを処理
この結果から、 KiSS 全18項目でのα係数が最も
するスキル⑥計画のスキル、 の6つのスキルに分類
高く、 KiSS-18は十分に信頼性の高い尺度と思われ
されている。 ①の初歩的スキルとは、 対人関係を円
る。 6項目の下位尺度としての内的整合性について
滑にするため相手の顔色をよんだり、 気持ちをおし
は、 初歩的スキルがα=.75と高い数値を示したが、
はかって挨拶や話し合いができるスキルである。 ②
他の項目はα=.70以下と十分な数値とは言えず、 全
の高度のスキルとは、 他人に上手に助けてもらった
18項目のα=.90より低い数値を示したことから、 本
り、 仕事の指示を与えたり、 必要なときにはタイミ
研究では下位尺度を設定せず、 合計得点で検討した。
ングよく謝ったりするやや高度な対人関係のスキル
である。 ③の感情処理のスキルとは、 相手とのかか
わりの中で、 相手の気持ちを知ったり、 自分の心の
動きに注意が向いたりする、 対人関係の円滑さを支
4. 分析方法
性差の社会的スキル、 精神的健康度の平均得点の
えるスキルである。 ④の攻撃に代わるスキルとは、
比較には t 検定を行った。 各ライフスタイルを要因
相手との付き合いの中で時には相手を攻撃したいと
とし、 社会的スキル、 精神的健康度の平均得点の比
いう気持ちになったりするときに対人関係を保って
較については一元配置分散分析を行い、 有意差が見
いくのに欠かせないスキルである。 ⑤のストレスを
出された場合は Bonferroni の多重比較を行った。 有
処理するスキルとは、 対人関係に伴うストレスによっ
意水準は p<0.05とした。
て相手との関係を悪くしないためのスキルである。
⑥の計画のスキルとは、 相手と協力して仕事を進め
5. 倫理的配慮
るためには欠かせないスキルである。 この尺度は
調査対象者には事前に調査目的を説明し、 調査へ
「いつもそうだ」 5点、 「だいたいそうだ」 4点、 「ど
の参加は強要されるものではなく対象者の自由意思
ちらとも言えない」 3点、 「だいたいそうでない」
による同意を得て行うものであること、 参加しない
2点、 「いつもそうでない」 1点、 とした5段階の
ことによる不利益は一切生じないこと、 調査によっ
リッカート法であり、 合計得点は90点である。 また
て得られたデータは回答者が特定できない方法をと
この尺度は、 α係数=.83と高い信頼性を有し、 妥
ることを保証した。 なお、 この研究は久留米大学御
当性に関してもきわめて高い尺度であることが立証
井学舎倫理委員会で承認された (承認番号:126)。
されている9)。
KiSS-18の信頼性と内的整合性の検討
結
果
1. 性差の検討
KiSS-18には下位尺度は基本的には無く、 合計得
男女差の検討を行うために、 KiSS-18得点 (以下、
点を社会的スキル得点とする、 としているが、 下位
KiSS 得点)、 GHQ-28得点 (以下、 GHQ 得点) およ
尺度に準ずる6個のスキルが設定されている。 多く
び GHQ 各下位尺度得点について t 検定を行った。
の研究でその6項目を下位尺度としてそのまま用い
その結果、 GHQ 下位尺度の不安と不眠 (t(230)=
て検討してある研究がみられる。 そこで今回は下位
2.29, p<.05) について、 男性よりも女性のほうが
14
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
有意に高い得点を示した。 しかしながら他の GHQ
神的健康度との相関係数、 平均値、 標準偏差を
下位尺度3項目、 KiSS 得点 (t(230)=0.72, n.s.)、
Table2に示す。
GHQ 得点 (t(230)=1.04, n.s.) については男女の得
点差は有意ではなかったため、 今回は男女を合わせ
て検討をしていくことにした。 男女別の平均値と標
準偏差および t 検定の結果を Table1に示す。
3. 社会的スキル高低群別での精神的健康度の比較
KiSS 得点を用いて高群、 低群 (平均±1/2 SD)
に分け、 GHQ 得点の比較を行うため t 検定を行っ
たところ、 有意に KiSS 得点低群の GHQ 得点が高
2. 社会的スキルと精神健康度の相関関係
いという結果となった (t(135)=4.54, p<.001)。 さ
KiSS 得点と GHQ 得点には、 有意な負の相関が
らにすべての精神的健康度下位尺度においても、 社
認められた。 また、 GHQ 下位尺度4項目すべてにお
会的スキル得点低群の精神的健康度得点が有意に高
いて KiSS 得点と負の相関が認められた。 しかし、
くなった。 結果を Table3に示す。
身体的症状では低い値となった。 社会的スキルと精
KiSS 得点と GHQ 得点の性差
KiSS 得点と GHQ 得点及び下位尺度との相関係数、 平均値、 標準偏差
KiSS 得点高低群での GHQ 得点の比較
大学生のライフスタイルと社会的スキル及び精神的健康との関連
4. 社会的スキル・精神的健康度とライフスタイル
15
群が 「ときどき」 群・ 「していない」 群より有意に
との関係
低かった。 身体的症状得点については、 「継続的」
社会的スキル・精神的健康とライフスタイルとの
群が 「していない」 群より有意に低かった。 不安と
関係を検討するため、 KiSS 得点、 GHQ 得点および
不眠得点については、 「継続的」 群が 「ときどき」 ・
GHQ 下位尺度 (身体的症状・不安と不眠・社会的
「していない」 群より有意に低かった。 社会的活動
活動障害・うつ症状) 得点において一元配置分散分
障害については、 有意差は無かった。 うつ傾向得点
析をおこなった。 また、 社会的スキルや精神的健康
度がどのようなライフスタイルに関連しているのか
を検討するため、
サークル所属・部活動経験・ア
ルバイトの実施状況" は 「対人領域のライフスタイ
ル」 とし、
朝食習慣・昼食習慣・夕食習慣・間食
習慣・夜食習慣・飲酒習慣・食事時間の規則性・ス
トレス解消法の有無" においては 「非対人領域のラ
イフスタイル」 として比較検討した。 なお、
趣味
の有無・運動習慣の有無" については、 趣味と運動
での内容において、 対人領域と非対人領域が混在し
ているため 「その他のライフスタイル」 とした。
その結果、 対人領域である サークル所属の有無"
では有意差は見られなかった。 部活動経験の有無は
大半の者が過去に経験を有している結果となったの
「アルバイト実施状況」 3群間での KiSS 得点の多重比較
で除外することとした。 さらに、 非対人領域である
朝食習慣・昼食習慣・夕食習慣・間食習慣・夜食習
慣・飲酒習慣・食事時間の規則性・運動習慣の有無・
ストレス解消法の有無・趣味の有無のいずれにおい
ても有意な群間差は見られなかった。 しかし、 対人
領域である 「アルバイトの実施状況」 では、 KiSS
得点で群の効果が有意であった (F (2,229)=3.90,
p<.01) 。 さ ら に 、 GHQ 得 点 (F (2 , 229)=8.87 ,
p<.001) および GHQ 下位尺度 (身体的症状・不安
と不眠・うつ傾向) 得点でも、 群の効果が有意であっ
た (Table4)。 そのため、 Bonferroni の方法 (5%水
準) による多重比較を行った (Fig.1, 2)。 KiSS 得
点については、 「継続的」 群が 「していない」 群よ
り有意に高かった。 GHQ 得点については、 「継続的」
「アルバイト実施状況」 3群間での GHQ 得点の多重比較
「アルバイト実施状況」 3群間での KiSS 得点・GHQ 得点の比較
16
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
については、 「継続的」 群が 「していない」 群より
有意に低かった (Fig.3)。
第18巻
第1号
考
2010
察
1. 社会的スキルと精神的健康度との関係
5. 因果関係の検討
社会的スキルと精神的健康度には、 有意な負の相
社会的スキルと精神的健康度が 「アルバイトの実
関がみられた。 また精神的健康度下位尺度すべてに
施状況」 に与える影響を検討するために、 判別分析
おいても同様の結果となった。 さらに、 社会的スキ
を行った。 結果を Table5に示す。 判別的中率は
ル低群では社会的スキル高群より有意に精神的健康
60.2%であった。 KiSS と GHQ は、 「アルバイトの
は不良という結果となった。 これは、 社会的スキル
実施状況」 を 「継続的」 か 「ときどき/していない」
が低いと精神的健康が不良傾向であることを示して
に判別できる可能性があり、 精神的健康度は特に重
いる。 これらの結果は、 Segrin & Abramson13) の 「社
要な判別項目であることが示唆された。
会的スキル−ストレス仮説」 や、 先に述べた 社会
この結果
から、 KiSS 得点が低く GHQ 得点が高いほど、 ア
的スキルは、 精神的健康を負の方向に移行する多く
ルバイト実施が 「ときどき/していない」 傾向にあ
のストレスを緩和して精神的健康を健康な状態に保
ることが確認された。 つまり、 社会的スキルが低く、
つ" という仮説を支持したと考えられる。 また、 社
精神的健康が不良ならば、 アルバイト実施が 「とき
会的スキルと精神的健康度下位尺度4項目では、 社
どき/していない」 傾向にあるといえる。
会的活動障害との関係が強いことを認めた。 これは、
対人領域で発揮される社会的スキルの不足は、 社会
的活動障害によって対人領域でのストレスを生成し、
不安と不眠さらにはうつ症状へと至っていく、 とい
う過程をたどり精神的健康の悪化を引き起こしてい
る可能性が考えられる。 一方、 嶋田ら21) は児童を対
象とした研究で、 ある程度の社会的スキルの獲得が
ストレス反応の軽減効果を示すことを明らかにして
いる。 本研究は大学生が対象だが同様に、 獲得した
高い水準の社会的スキルは、 精神的健康を良好な状
態に保つまたは移行させる可能性を示唆している。
2. 社会的スキル・精神的健康度とライフスタイルとの関係
社会的スキル・精神的健康とライフスタイルとの
関係を検討するため、 個々のライフスタイルでの
「アルバイト実施状況」 3群間での GHQ 下位尺度の多重比較
KiSS 得点・GHQ 得点の比較を行った。 対人領域、
非対人領域での多くのライフスタイルで群の効果は
アルバイト頻度 「継続的」 「ときどき/して
いない」 における判別分析の結果
認められなかった。 しかし、 対人領域である 「アル
バイトの実施状況」 では、 社会的スキル・精神的健
康度の両者とも群の効果が有意であった。 社会的ス
キルでは 「継続的」 群が 「していない」 群より有意
に高い結果となり、 精神的健康度および下位尺度
(身体的症状・不安と不眠・うつ傾向) でも 「継続
的」 群が 「ときどき/していない」 群より有意に良
好である結果となった。 この結果と判別分析の結果
より、 ①社会的スキルが低く精神的健康の不良な者
はアルバイトをしていない傾向にあることが示唆さ
れた。 また、 社会的スキル・精神的健康の両者とも
非対人領域のライフスタイルとは関係が確認されず、
対人領域のライフスタイルとの関係が認められた。
大学生のライフスタイルと社会的スキル及び精神的健康との関連
17
対人領域の中でも 「アルバイトの実施状況」 のみに
推移を測定した先行研究 22) では、 入学時に精神的
関係していた。 これより、 ②社会的スキルだけでは
健康度が低い学生は2年次以降、 精神的健康度が
なく精神的健康も対人領域でのライフスタイルで関
positive に推移していた、 という結果を示している。
係することが示唆された。 ③社会的スキル・精神的
これらのことから、 サークル活動に順応していく過
健康は 対人領域のライフスタイル" の中でも、 関
程において、 精神的健康度は positive に推移してい
係がある領域と関係がない領域が存在する可能性が
くと考えられる。 本研究の結果は、 サークル活動の
考えられた。 また、 関係がある領域でも、 その関係
順応過程において、 精神的健康度を positive に推移
には強弱がある可能性が考えられた。
させる一要因が、 社会的スキルであることを示唆し
上記①∼③より、 社会的スキルは、 対人領域での
ている。 さらに、 positive に推移した精神的健康度
ライフスタイルに影響する可能性が考えられる。 社
がサークル活動を継続させる要因として関係した可
会的スキルの不足が対人接触や課外活動の回避に結
能性も推測される。 以上は本研究の 「サークル活動
びつくことを明らかにした Riggio ら
14)
や、 渡部
15)
と同様に、 本研究でも 社会的スキルの低い者はア
ルバイトをしていない傾向にある" という結果を得
た。 また、 Ashforth & Humphrey16) は、
の有無」 において、 精神的健康度の統計的有意差を
認めなかった理由と考えられる。
アルバイトの実施は、 個人のアルバイトの目的や
仕事場は、
生活環境によって実施状況が大きく異なり、 様々な
内在する権力構造と人間関係が複雑で、 多くの感情
要因が関係している。 判別的中率の低さはこのこと
が生じる場面である" と述べており、 大学生におい
が関係していると考えられるが、 今回の結果から、
ての仕事場であるアルバイトには、 他のライフスタ
社会的スキルと精神的健康は 「アルバイトの実施状
イルよりも社会的スキルが強く関係している可能性
況」 に関連していることが明らかとなった。 廣 17)
が考えられる。 さらに、 同じ対人領域のライフスタ
は、 30歳代の精神疾患はそれ以前の10∼20歳代から
イルである 「サークル活動の有無」 では、 社会的ス
続いた職場不適応が顕在化した可能性があると示し
キルの統計的有意差がみられなかったことからも、
ている。 このことから、 就業者、 特に若年就業者が
「アルバイトの実施」 には、 サークル活動などの他
不満や悩みを感じ、 精神的健康を害することは離転
のライフスタイルよりも、 社会的スキルが強く影響
職につながるだけでなく、 労働への参加や復帰への
している可能性が考えられる。 これらのことより、
障害にも影響を及ぼすことが考えられる。 大学生に
大学生において、 社会的スキルの不足した個人は、
おいての仕事場であるアルバイトは、 就職してから
対人領域でのライフスタイルを選択的に回避するこ
の精神的健康にも影響をあたえ、 労働の継続性や労
とに結びつく可能性がある。 一方、 他の要因として
働への参加にも影響を及ぼすことが推測される。 こ
は、 アルバイトは学外活動、 サークル活動は学内活
れらのことから、 大学生において社会的スキルを高
動であることの違いも影響しているかもしれない。
め、 精神的健康を良好にすることは重要であると考
次に、 前述した①∼③と GHQ が重要な判別項目
えられる。
であったことから、 精神的健康は、 社会的スキルと
最後に本研究の限界と展望を述べる。 本研究では
同様、 対人領域でのライフスタイルに影響する可能
社会的スキル、 精神的健康、 ライフスタイルの3者
性が示唆される。 これまで、 ライフスタイルと精神
において因果関係も含めて考察したが、 分析に用い
的健康との関連は数多く報告されている。 兒玉ら
たデータは横断データであり厳密には3者の因果関
7)
の研究では入学直後の大学生に対して、 精神的
係について言及すべきではない。 しかし、 Segrin23)
健康と対人領域でのライフスタイルとの関連を明ら
では、 9ヵ月間を過ぎても社会的スキルの程度は比
かにしている。 この結果では、 サークル活動に参加
較的安定していることが明らかにされている。 この
している学生は、 精神的健康度が低い傾向を認めて
ことから、 調査時点での社会的スキルは、 少なくと
おり、 本研究とは異なる結果であった。 これは、 調
も9ヵ月前に身に付けたと仮定できる。 また、 精神
査時期が影響していると推測される。 本研究の調査
的健康度尺度である GHQ-28は過去2∼3週間から
時期は1月であり、 入学から最も短い者でも約10ヵ
現在までを反映する調査 19) なので、 社会的スキル
月が経過している。 よって、 入学直後と比較して、
は精神的健康度よりも先行して獲得している可能性
大学生活やサークル活動に順応してきた時期である
が考えられる。 このことから、 社会的スキル・精神
と考えられる。 さらに、 学年ごとの精神的健康度の
的健康・ライフスタイルの3者の関係を、 社会的ス
18
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
キルが起点となる因果関係も含めて考察した。 しか
大学生の対人行動に関する研究:孤独感と社会
し、 特に精神的健康とライフスタイルの因果関係に
的スキルとの関係. 社会心理学研究 1993;8(1):
ついては、 今回の結果からでは断片的であり先行研
44-55.
究も少ないため、 今後、 3者の因果関係を見ていく
11) 大迫秀樹. 高校生のストレス対処行動の状況に
には縦断的研究が期待される。 今後はまた、 大学生
よる多様性とその有効性. 健康心理学研究
に特徴的な傾向を知るためには、 社会人など他の集
1994;7:26-34.
団と比較することが必要である。 さらには、 社会的
12) Hammen C. Generation of stress in the course
スキルや精神的健康以外のライフスタイルに影響を
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103:655-68.
的健康が不良傾向にあり、 対人領域でのライフスタ
14) Riggio RE . Watring KP . Throckmorton B .
イルを選択的に回避することに結びつくことが示唆
Social skills,social support, and psychosocial adj
された。
ustment. Personality and Individual Differences
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19
=原著論文=
成熟期中期のラット足底筋に対する
走トレーニングの影響
辻
本
尚
弥1)
鈴
木
英
樹2)
Effects of Running Training on the Rat Plantaris Muscle
during the Middle Maturation Period.
Hisaya TSUJIMOTO1), Hideki SUZUKI2)
Abstract
We studied the effects of running training on myosin heavy chain (MyHC) isoform composition
in 16 female mature Fischer 344 rats (12 month old). The animals were divided into two groups:
sedentary (S; n = 7) or run (R; n = 9) group. Animals in the R group were trained with treadmill
running (30 m/min, 60 min/day and 5 days/wk) for 8 weeks. After 8-weeks of training, the plantaris
muscle (PLA) was isolated, and crude myosin was prepared. MyHC isoform composition was analyzed
by sodium dodecyl sulfate polyaclylamidegel electrophoresis (SDS-PAGE).
Body weights in both groups increased significantly during the training period. However, the final
body weights of each group were not significantly different. PLA weight and relative PLA weight of
the R group were significantly higher than those in the S group.
No statistical difference was found in the compositions of the MyHC I and IId isoforms in either
group. However, the R group value for the type IIa MyHC isoform was higher than that of the S
group and the type IIb MyHC isoform value for the R group was relatively lower than that of the S
group.
These results indicated that the MyHC isoform composition of the PLA muscle changed with
running training. We conclude that running training during the middle period of maturation affected
muscle contractile protein metabolism.
;Female Fischer 344 rat, Myosin heavy chain, Mature,
Plantaris muscle, Running training
1) 久留米大学 健康・スポーツ科学センター
2) 愛知教育大学 保健体育講座
20
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
緒
第18巻
第1号
2010
うまで-60℃の冷凍庫で保存した。 なお飼育および
言
屠殺でのラットの取り扱いについては、 「実験動物
高齢者人口の増加により、 健康長寿社会をめざし
て国や民間で多くの取り組みがなされている
1)2)
。
の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」 に
沿って行った20) 21)。 また本実験では飼育の過程にお
高齢者の健康維持や増進には適度な運動が有用とさ
いて病的に死亡したラットは除外した。 実験に供し
れ、 多くの介入研究がある3)-6)。 高齢者の健康には、
たラットの観察からは活動、 特に自発歩行や走行な
その年齢で実施している運動も影響するが、 疫学的
どの行動に異常は認められなかった。
な研究からはそれ以前の運動習慣も影響すると報告
次に、 足底筋の MyHC アイソフォーム構成比の
されている7)8)。 つまり、 健康に対する運動のより
分析を行った。 保存していた筋は分析時に筋腹にて
よい効果を得るには、 成熟期以降の、 いわゆる中年
二分し、 一方を MyHC アイソフォーム構成比の分
期に運動を開始し習慣化することが重要と考えられ
析に供した。 まず筋を Tsika ら22)の方法に従いホモ
る9)-11)。
ジナイズし、 さらに Bar と Pette23)の方法により粗ミ
歩行やランニングといった持久性のトレーニング
オシンを抽出した。 蛋白量調整のための蛋白定量に
は、 生活習慣病やその温床となる肥満の改善に有効
は Biuret 法を用いた24)。 次に抽出した粗ミオシンに
であるとされ、 中高年に対して推奨されている。 持
変性剤を添加し、 56℃で10分間インキュベートし変
久的な走トレーニングは骨格筋において、 毛細血管
性させた。 変性粗ミオシンは、 Sugiura ら25) の方法
密度、 ミオグロビン量、 ミトコンドリア量の増加や
に従い5-7%の濃度勾配ゲルを用いた SDS-PAGE
酸化系酵素活性の上昇、 筋線維の肥大、 筋線維タイ
(KS8020型:マリソル) により MyHC アイソフォー
プの移行、 疲労耐性の向上などの様々な変化を引き
ムを分離した。 泳動後ゲルは銀染色 (銀染色キット
12)-16)
起こすことが報告されている
。 我々はこれまで、
ワコー:和光純薬) を施しタンパク質を可視化した。
主に成熟期初期と高齢期の実験動物を用いた基礎的
アイソフォームの相対的構成比の分析は、 前報17)-19)
な研究で、 持久性走トレーニングの効果について、
と同様に蛋白質の泳動パターンを CCD カメラでコ
筋の構成タンパク質に注目し検討してきた17)-19)。
ンピューターに取り込み、 イメージデジタイザーシ
本研究では、 ヒトの中年期にあたると考えられる
成熟期中期の実験動物を用いて、 持久的な走トレー
ステム (FDM98-RGB:フォトロン) を用いて画像
解析により行った。
ニングの骨格筋に対する影響について、 特にミオシ
各測定値は群ごとに平均値及び標準偏差を求め統
ン重鎖 (Myosin heavy chain; MyHC) アイソフォー
計学的な検定を行った。 体重では1要因に対応があ
ムの構成比に注目して検討した。
る2要因の分散分析を用いた。 筋重量及び相対的筋
方
法
実験動物には、 生後12ヶ月齢の Fischer344系の雌
重量では、 それぞれの群の比較に、 分散の検定には
F 検定法を用い、 分散が等質であった場合は t 検定
法を、 分散が等質でなかった場合は Aspin-Welch 検
ラットを用いた (日本SLC)。 餌 (CE-2:日本ク
定法を用いた。 MyHC アイソフォーム相対的構成比
レア) 及び飲水は自由摂取とし、 昼夜逆転した12時
では、2組の独立な標本に対するχ2 検定を行った。
間の明暗サイクルで室温22±1℃、 湿度60±5%の環
全ての検定において有意水準は5% (p<0.05) とし
境下で飼育した。 実験群として対照群 (Sedentary;
た26)。
S 群, N=7) と持久性走トレーニング群 (Running;
R 群, N=9) の2群を設けた。 R 群には持久性運動
として、 実験動物用トレッドミルを用いた走トレー
結
果
体重と足底筋重量および相対的足底筋重量を平均
ニングを分速30m で1日1時間、 週5日行った。
値と標準偏差により表1に示した。 S 群の体重は、
トレーニングは1週間の予備トレーニング期間を設
トレーニング期間中増加傾向を示した。 一方、 R 群
けた後、 12ヶ月齢に達するまで8週間行った。 トレー
ではトレーニング期間が進むに従い体重は減少傾向
ニング終了後、 ラットの体重を計測、 麻酔下にて頚
を示した。 最終体重では R 群において S 群に比べ有
動脈より放血し屠殺した。 その後、 足底筋を摘出、
意に低値を示した。 足底筋重量および相対的足底筋
筋重量を測定した後ただちに液体窒素により冷却し
重量は、 R 群において S 群に比べ有意に高値を示し、
たイソペンタン中で瞬間凍結し、 生化学的分析を行
トレーニングによる筋肥大が観察された。
成熟期中期のラット足底筋に対する走トレーニングの影響
21
P
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Body
weight,
plantaris
muscle
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relative
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muscle
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7
OE
EG:
図1には各群のタイプ I、 IIa、 IId、 IIb MyHC ア
イソフォームの相 対 的 構 成 比を示した。 各 群の
MyHC アイソフォーム相対的構成比を統計処理した
場合、 S 群に対し R 群の MyHC アイソフォーム相対
ソフォームの発現が増加した結果であると考えられ
る。
考
察
的構成比に有意な差が認められた。 特に、 タイプ IIa
本実験では、 成熟期中期のラット足底筋を対象に、
MyHC アイソフォーム相対的構成比は、 S 群の7.1±
持久的走トレーニングの影響について検討し、 トレー
3.2%に比べ、 R 群では17.2±6.2%と有意に高値を示
ニングによる足底筋重量の増加とミオシン重鎖アイ
した。 一方タイプ IIb MyHC アイソフォーム相対的
ソフォーム構成比の変化を明らかにした。
構成比は、 S 群の15.8 ± 11.7%に比べ、 R 群では3.5
トレーニング期間中のラットの体重は、 R 群で体
± 2.9%と有意に低値を示した。 タイプ I MyHC およ
重の減少傾向がみられた。 これはこれまでの報告と
びタイプ IId MyHC アイソフォーム相対的構成比は
同様に、 ストレスによる食欲低下や摂食量の減少、
両群間で有意な差はみられなかった。 これは、 持久
脂肪沈着の抑制などの要因による考えられる27) 。 筋
的トレーニングにより、 タイプ IIb MyHC アイソフォー
組織の重量については、 R 群では筋重量および相対
ムの発現が減少し、 相対的にタイプ IIa MyHC アイ
的筋重量ともに、 S 群に比べて有意に高値を示した。
Myosin heavy chain isoform composition of plantaris muscle in each group.
22
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
また S 群の筋重量を前報18) の6ヶ月齢群と比較する
イソフォームが存在するハイブリッド線維を増加さ
と、 相対的な筋重量では低値を示しており、 加齢に
せると考えられている30)-33)。 本実験の走トレーニング
ともなう体重の増加に比べ、 それに見合った筋重量
の結果、 筋活動量の増加によりアイソフォーム合成
が増加していないことを示していた。 12ヶ月齢とい
のスィッチングがおこりタイプ IId MyHC の発現と、
う成熟期中期での体重増加の要因は、 筋以外の部分、
さらにタイプ IIa MyHC の発現が促進され、 単一筋
多くは体脂肪増加によるのではないかと考えられる。
線維内の MyHC アイソフォームの混在が引き起こさ
ヒト中年期では体重の増加がみられるものの、 それ
れたと考えられる。 またタイプ IId MyHC の構成比
に見合った筋重量は増加せず、 体脂肪が増加する。
に変化が見られなかったのは、 タイプ IId MyHC の
本実験でもラットの体重と筋重量に同様な関係がみ
みを発現しているタイプ IID 線維においても、 タイ
られた。 このことから今回用いた月齢は筋の量的変
プ IIa MyHC が発現したためではないかと考えられ
化では、 ヒトの中年期あたると考えられる。 走トレー
る。 本研究ではハイブリッド線維の種類とそれらの
ニングにともなう実験動物の活動筋肥大は、 これま
構成比についての検討を行っていない。 筋構成タン
で多く報告されている17)-19) 25) 28) 。 本研究でもこれら
パクの詳 細な変 化を明 確にするためには、 今 後
の報告と同様にトレーニング効果として筋肥大が観
MyHC をベースとして単一筋繊維を分類し、 実験条
察された。 また我々は前報で、 本実験と同月齢のラッ
件によりその分布がどのように変化するのかを明確
ト前脛骨筋において、 走トレーニングによる筋重量
にする必要があると考えられる。
の増加を観察している17)。 前脛骨筋は足底筋の拮抗
以上の結果から、 持久的な走トレーニングが実施
筋であることから、 走トレーニングでは下肢の前部
された場合、 成熟期前期と同様に成熟期中期におい
と後部の両筋が活動参加していると考えられる。
ても、 筋タンパク質の代謝に影響する事が、 ミオシ
トレーニングにともなう MyHC アイソフォームの
変化について、 Sugiura ら25) は、1日1時間、 週5日
ン重鎖を中心とする蛋白レベルの分析より示唆され
た。
で4週間の持久的な水泳トレーニングを行ったラッ
引用文献
ト長指伸筋において、 タイプ IId MyHC の相対的構
成比の増加とタイプ IIb MyHC の減少を報告してい
る。 Wada ら28) は1日最大2時間、 週5日で10週間
の持久的な走トレーニングを行ったラット外側広筋
において、 タイプ IIb MyHC の減 少とタイプ IId
MyHC および IIa MyHC の有意な増加を報告してい
る。 我々も前報で、 成熟期ラット足底筋の MyHC ア
1) 内閣府.
平成22年版 高齢社会白書. 初版. 大
分県 : 佐伯印刷,2010.
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平成22年
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イソフォーム構成比において、 持久的な走トレーニ
者運動トレーニング. 初版.東京都 : 健康と良い
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友だち社,2006.
IId MyHC の有意な増加と相対的にタイプ IIb MyHC
4) 漆畑 俊哉, 衣笠 隆, 相馬 優樹, 三好 寛和,
の減少を報告した17)-19) 。 成熟期中期ラットを用いた
長谷川 聖修.
本実験でも、 S 群に比べ R 群ではタイプ IIb MyHC
を改善させる運動介入:無作為比較試験.
が減少した。 一方、 タイプ IId MyHC 構成比には両
力科学 2010; 59:97-106.
群間で有意な差はみられず、 タイプ IIa MyHC にお
いて走トレーニングにより有意な増加が観察された。
筋活動量が増加し蛋白合成能に変化が生じた場合、
女性前期高齢者のバランス能力
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における身体活動と健康長寿.
体
高齢期
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活動筋内の MyHC アイソフォーム合成のスイッチン
6) Suzuki T , Kim H , Yoshida H , Ishizaki T.
グが起こるとされている。 Kirschbaum ら29) は、 活動
Randomized controlled t6ial of exercise interven-
量増加にともなう MyHC アイソフォームの変化の方
tion for the prevention of falls in community-
向は、 速筋ではタイプ IIb→IId→IIa→I の順序で起こ
dwelling elderly Japanese women. J Bone Miner
るとしている。 また, 運動刺激など活動様式の変化
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成熟期中期のラット足底筋に対する走トレーニングの影響
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ツ科学センター研究紀要 2004;12(1): 23-9.
25
=研究資料=
幼児の活動量に影響を及ぼす因子の検討
∼父母の幼児との関わり方の違いから∼
古
賀
夕
貴1)
豊
増
功
次1)2)
An Examination of Effective Factors for Infant Activities
Based on Different Parental Relationships.
Yuki KOGA1), Kouji TOYOMASU1)2)
;幼児、 小児生活習慣病、 両親
緒
言
父母や保育士など、 周囲の大人からの影響を大きく
受ける。
社会生活環境の変化に伴い、 我々の生活スタイル
保育所通所中の幼児であれば、 平日は、 養育者で
は多様化してきている。 肥満、 高血圧、 心疾患等の
ある保育士からの影響(保育所活動や行事などによ
いわゆる生活習慣病は近年増加しており、 身近な病
る影響)を受けると思われる。 しかし、 休日は保育
気の一つである。 生活習慣病は日々の不規則・不健
所活動がないため、 父母からの直接の影響を受ける
康な生活の継続によりもたらされる誰にも起こりう
と考えられる。
る病気である。 最近では、 肥満、 過食、 偏食、 運動
そこで幼児の活動量を指標とし、 養育者の違いが
や遊びの不足などが小児生活習慣病起因の問題とし
見られる平日と休日の活動量に着目した。 そして、
て指摘されており、 小児生活習慣病についての報告
その背景にある父母の幼児との関わり方および父母
も徐々に増加してきている。
自身の生活習慣が幼児の活動量に及ぼす影響につい
交通機関の発達や、 車社会に代表されるように、
て質問紙を用いて検討した。
我々の生活は過去数十年間と比較して大きく変化し
方
ている。 そのため、 我々の日々の活動量は減少傾向
にあり、 上記の小児生活習慣病起因の問題のうち、
運動や遊びの不足は、 メタボリックシンドロームな
どの生活習慣病を引き起こす一因とも大いに関係が
1. 研究対象者
A市の保育所に通所中の幼児 (3歳∼6歳)とその
父母
あると思われる。 運動不足の解消、 メタボリックシ
ンドロームをはじめとした生活習慣病の予防のため
に我々は意図的に運動を生活に取り入れていかねば
ならない。 とくに生活習慣の形成段階にある幼児は、
1) 久留米大学大学院医学研究科 健康科学
2) 久留米大学健康・スポーツ科学センター
法
2. 研究実施場所
A市保育所
26
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
3. 研究実施期間
平成21年7月∼平成21年12月
第18巻
第1号
2010
5. 倫理的配慮
A市保育所の所長および父母会にて、 文書および
口頭で研究の趣旨、 方法を説明し、 承諾を得た。 研
4. 調査内容
究の実施に当たり、 保育所に通所中の幼児の父母全
① 幼児の背景
員に対し文書にて研究の趣旨および倫理的配慮につ
3歳∼6歳の幼児26名とその父母から、 父母の年
いて説明し、 文書による同意を得た。 また、 対象の
齢、 家族構成、 きょうだいの有無を含む家庭背景に
幼児は未成年であるため、 父母から文書による同意
ついて回答を求めた。 幼児26名中、 父親と母親両方
を得た。 本研究は、 久留米大学御井学舎倫理委員会
から回答の得られた幼児17名およびその父母を分析
の承諾を得て行った (承認番号:119)。
対象とした。
6. 分析方法
② 幼児の活動量測定
午前9時20分から午後3時50分までの6.5時間、
幼児に歩数計 (オムロンヘルスカウンタ) を装着し
値は全て平均値±標準偏差で示した。 統計学的評
価は、 SPSS 15.0J を使用し、 χ2検定、 unpaired-t
検定を行った。 なお、 有意水準は p < 0.05とした。
た。 月曜日から金曜日までを1クールとし、 これを
結
3回行った。 歩数計の装着は保育士に依頼した。 ま
た、 保育所の無い日曜日は、 平日同様、 午前9時20
果
1. 幼児の背景
分から午後3時50分までの6.5時間幼児の活動量を
平均年齢は幼児4.1±0.91歳、 父親34±4.9歳、 母
調べた。 歩数計の装着は父母に依頼した。 なお、 体
親32±5.6歳であった。 家族構成は核家族が10人
調不良の日などの測定値は除外し、 歩数計から得ら
(58.8 %)、 祖父母を含む3世代以上の家族が7人
れた歩数を活動量として測定した。
(41.2 %)、 きょうだい有りは14名 (82.4 %)、 無し
は3名 (17.6 %)であった。
③ 幼児の健康診断
A市保育所にて毎年保育所の希望者のみに実施さ
2. 歩数に基づく幼児の活動量の比較
れる 「幼児の生活習慣病予防検査」 で得られた身体
17 名 の 幼 児 全 員 の 平 日 の 平 均 歩 数 は 4586.9 ±
計測および血液検査データについて、 保育所の了承、
1828.8歩、 日曜日の平均歩数は4562.8±1657.5歩で
父母の同意を得て分析し、 幼児の体格および健康影
あった。 幼児全体の活動量は平日と日曜日では有意
響を評価した。
な差は見られなかった。 (Fig.1) しかし、 日曜日の
歩数は最大歩数15631歩、 最小歩数403歩で、 最大歩
④ 父母に対する質問紙の実施
数と最小歩数の差が大きく、 日曜日の活動量には大
父母と我が子との関わりを調査するため、 独自で
きな違いがあることが示された。 したがって、 日曜
作成した質問紙を作成した。 食事、 運動・遊び、 睡
日の歩数に基づき、 クラスター分析を用いて幼児17
眠について父母それぞれに回答を求めた。 質問毎に
名を2群に分けた。 その結果、 10233.2±3223.2歩、
4段階の回答項目を設け、 我が子との積極的な関わ
りを最も強く持つと考えられる回答1と、 それ以外
の回答で集計を行い、 分析した。 回答の結果より、
我が子との関わりに対する父母間での認識と行動の
違いを把握すると同時に、 活動群別の違いも抽出し、
比較検討した。
また、 父母自身の健康習慣について調査するため、
運動、 朝食、 間食、 たばこ、 お酒、 睡眠時間の確保、
ストレス解消法の7項目について、 父母それぞれに
回答を求めた。 回答の結果より、 父母間での生活習
慣の違いを把握すると同時に、 活動群別の違いを抽
出し、 比較検討した。
幼児17名の平日と日曜日の平均歩数
幼児の活動量に影響を及ぼす因子の検討
27
3547.7±2277.7歩の2群に分かれた。 これをそれぞ
検査についての結果を示す (Table1, 2)。 それぞれ
れ高活動群 (n=5)、 低活動群 (n=12) とした。 こ
の項目において有意差の見られた項目は無かった。
の2群での平日の歩数の平均は、 高活動群4944.5±
2088.7歩、 低活動群4426.1±168.0歩であり、 平日の
4. 高活動群と低活動群における父母と幼児との関
わりの比較
歩数には有意な差は無かった (Fig.2)。
幼児の日曜日の歩数の違いは父母の幼児との関わ
りによる影響が大きいのではないかと考え、 父母間
の関わりの違いについて、 高活動群と低活動群で回
答結果を比較した。 回答の結果は Table 3 に示す。
「食事は家族一緒に食べていますか?」 という問
いに対し、 高活動群では母親の5名中4名、 父親の
5名中1名が 「毎日一緒に食べる」 と回答し、 低活
動群では母親の12名中6名、 父親の 12名中3名が
「毎日一緒に食べる」 と回答した。 「お子様は父母の
目から見て、 活発な方だと思いますか?」 という問
高活動群、 低活動群の平日の平均歩数
いに対し、 高活動群では母親の5名中4名、 父親の
5名中1名が 「活発な方だと思う」 と回答し、 低活
3. 高活動群と低活動群における幼児の身体計測・
動群では母親の12名中8名、 父親の12名中5名が
血液検査の比較
「活発な方だと思う」 と回答した。 「お子様と遊びま
日曜日の歩数が有意に異なる高活動群と低活動群
すか?」 という問いに対し、 高活動群の父母の10名
における、 幼児の身長、 体重を含む身体計測、 血液
中3名、 低活動群の父母の24名中4名が 「毎日遊ぶ」
と回答した。 「休日にお子
高活動群と低活動群における幼児の身体計測
様と外出しますか?」 とい
う問いに対しては、 高活動
群の父母の10名中4名、 低
活動群の24名中3名が 「休
日の度に外出する」 と回答
した。 中でも、 高活動群の
父親は5名中1名が 「休日
高活動群と低活動群における幼児の血液検査の比較
の度に外出する」 と回答し
た。 また、 「保育所のある
日と無い日ではご父母の目
から見てお子様の運動量は
違うと思いますか?」 とい
う問いに対し、 高活動群で
は母親の5人中0人、 父親
の5人中1人が 「違うと思
う」 と回答した。 一方、 低
活動群では同質問に対し、
母親の12名中7人、 父親の
12人中8人が 「違うと思う」
と回答した。 いずれも、 高
活動群、 低活動群ともに父
母間での考え方に有意差の
見られた項目は無かった。
28
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
高活動群と低活動群における父母と幼児との関わりの比較
5. 高活動群と低活動群における父母の生活習慣の比較
幼児の日曜日の歩数の違いは父母自身の生活習慣
平日朝食、 たばこ、 お酒の習慣は父母間に有意な差
があった (順に p = 0.003、 p < 0.001、 p = 0.002)。
も影響している可能性がある。 そこで、 父母間の生
また、 ストレス解消法の有無について、 高活動群に
活習慣について、 活動群別に回答結果を比較した。
おいては、 ストレス解消法 「有」 と回答した父母は
回答の結果は table 4 に示す。
10名中9名 (90%) であった。 これに対し、 低活動
高活動群においては、 たばこの習慣は父母間に有
意な差があった (p =0.016)。 また、 低活動群では、
群においてはストレス解消法 「有」 と回答した父母
は24名中12名 (50%) であった。
幼児の活動量に影響を及ぼす因子の検討
29
高活動群と低活動群における父母の生活習慣の比較
考
察
1. 幼児の背景
時間を作れないことが考えられた。 対象者の背景に
もあるように、 核家族が半数を占めることから、 仕
事と子育てを両立する核家族の現状を反映するよう
今回対象となった幼児を持つ父母は、 A保育所で
な結果となった。 このような日常生活の中において
毎年行われる 「幼児の生活習慣病予防検査」 を自ら
も、 高活動群の母親は、 我が子を活発であり、 平日
の幼児に受診させている。 従って、 この集団はもと
と休日の活動量に違いがないと答えていることから、
もと、 生活習慣病に対する関心が高いことが考えら
我が子をしっかり観察していることが考えられた。
れる。 また、 約8割の対象者にきょうだいがいたが、
また、 毎日一緒に食事をすると答えていることから
今回は兄弟の有無による活動量の差を捉える事はで
も、 仕事以外の限られた時間で子供と密に関わろう
きなかった。
とする姿勢を捉える事ができた。 一方、 高活動群の
父は、 母親と正反対に、 我が子を活発だと思ってお
2. 歩数に基づく幼児の活動量の比較
歩数計を用いた今回の調査において、 日曜日の歩
らず、 また毎日一緒に食事をする機会も少ない状況
が明らかとなった。
数から2群に分けられた高活動群と低活動群におい
高活動群と低活動群それぞれの母親の回答結果を
て、 幼児の平日活動量を比較した際、 2群間に差は
比較すると、 幼児に対する関心、 そして積極的な関
みられなかった。 このことから、 保育所通所中は、
わりを実際に持つ事が考えられる項目で違いが見ら
保育所の活動プログラムが一律に行われており、 幼
れた。 また、 両群の父親からは積極的な幼児への関
児の保育所での活動量に差が無いことが推測された。
心、 実際の関わりを見いだすことができなかった。
3. 高活動群と低活動群における父母と幼児との関
のライフスタイルにとって重要な役割を担っており、
これらの結果をまとめると、 母親の存在は、 幼児
わりの比較
このことが幼児の日曜日の歩数の差として現れてき
父母の考え方が幼児の活動量の差として表れるの
た事が考えられた。 父母ともに幼児と積極的に関わ
ではないかと考え、 アンケート調査を実施した。 今
ることに努めることが、 幼児の活動量に反映され、
回は、 父母間で考え方に有意な差がある項目を抽出
幼児の将来のより良い生活習慣に反映されることが
することはできなかった。 回答結果を分析すると、
示唆された。
高活動群、 低活動群ともに、 父母が毎日あるいは休
日でさえ我が子と遊ぶ時間を持つことができない現
4. 高活動群と低活動群における父母の生活習慣の比較
状が浮かび上がった。 回答の自由記述欄には、 仕事
父母の考え方の違いと同時に、 父母の生活習慣も
が忙しいため、 夜勤のため日中は寝ている等の記述
幼児の活動量の差に何らかの影響を与えているので
があり、 両親ともに自身の仕事に追われ、 子供との
はないかと考え、 健康習慣に関するアンケートを実
30
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
施した。 高活動群の父母は好ましい生活習慣を取得
と養育者の意見と関連づけることの必要性を提示し
しており、 低活動群の父母は高活動群の父母と比較
たと考える。 幼少期から当然のこととして身につい
して生活習慣が乱れているのではないかと予想した。
ていく生活習慣が乱れること、 その際に関わる父母
高活動群では、 父母間で有意差の見られた項目が、
の我が子に対する考え、 これらが将来的に幼児の生
「たばこ」 のみであった。 低活動群では、 「たばこ」
活習慣に影響を及ぼす因子となり得ることが今回の
と 「お酒」 で有意な差が見られた。 低活動群の父母
調査で明らかとなった。 今後は更に、 幼児の生活実
で24人中15人が平日の朝食を摂る習慣を持つと回答
態に父母の見解を加え、 縦断研究をしていく必要が
しているにも関わらず、 父母間では朝食習慣の有無
ある。
に有意な差が見られた。 親の食生活は成長期の幼児
謝
にとって大変重要であることは明らかである。 父母
がともに朝食習慣を持ち、 更には家族一緒に食事を
摂ることが、 日中の活力につながることを示唆する
本研究に参加頂いたA保育園の幼児、 保護者なら
びに関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
結果となった。 また、 高活動群の父母の9割が何ら
引用文献
かのストレス解消法を持っている。 一方で、 低活動
群の父母は5割しかストレス解消法を持っていなかっ
た。 幼児と関わる上で、 自身のストレス解消法の有
無は重要であり、 ストレス解消法を持つよう心掛け
ることが、 大家族と核家族の間に生じる子育てのス
トレスをも解消し、 よりよい生活習慣の取得につな
がるのではないかと考えられた。
今回の調査で、 高活動群、 低活動群の幼児の身体
計測、 血液検査に目立った差は見られなかった。 し
辞
1) 村田光範. 東京都予防医学協会年報
2007;36;44-9
2) 藤原美由紀. 「身体活動」 を題材とした生活習
慣の改善に関する指導の工夫.
3) 厚生労働省
平成20年
健康局総務課生活習慣病対策室
国民健康・栄養調査.
4) 文部科学省 平成20年度 全国体力・運動能力,
運動習慣等調査結果.
かし、 活動群間、 父母間における我が子への関心、
5) 大関武彦. 調剤と報酬 2009;15;14-7
父母自身の健康習慣には違いが見られた。 日曜日の
6) 吉永正夫, 鮫島幸二, 金倉章子, 他9人.
歩数に関して高活動群と低活動群との間に見られた
有意差は、 幼児の活動量が身体的な要因に起因する
のでなく、 父母の関わり方や父母自身の生活習慣の
影響に起因することを示唆する結果となった。
生活習慣病を予防するためには、 より良い生活習
慣を身につける必要がある。 その際、 自身の行動変
容が必要となる。 対象となった幼児は行動変容を自
身でできる年齢に達していない。 したがって、 両親
の幼児に与える影響は大きいと思われる。
最近では、 小児期の生活習慣病予防健診の必要性
が報告されている1)6) が、 未だ、 明確な診断基準が
確立されていない状態である。 各方面で、 生活習慣
改善に関する指導の工夫もなされており2)、 厚生労
働省および文部科学省も毎年国民の健康調査、 子供
の運動習慣などの調査を行い、 対応している状況で
ある 3)4)。 また、 小児期に獲得された不規則な生活
習慣により導かれる血管病変が確認されており、 医
療機関と家庭との密接な関わりが提唱されている5)。
今回我々が行った研究では、 研究対象者が少ない
という限界はあるが、 幼児の活動状況とそれに対す
る父母の見解を知ることができた。 小児の生活習慣
肥満研究
2009;15;286-90.
幼児の活動量に影響を及ぼす因子の検討
31
32
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
33
=研究資料=
スポーツ活動を行う大学生のメディカルチェックにおける
心電図検査の臨床的意義の検討
−九州・沖縄内の他大学との比較−
小
宮
加
代
白
坂
由起子
岩
崎
由美子
本
ゆかり
吉
田
生
美
吉
田
典
豊
増
功
次
子
Clinical Significance of Electrocardiography for Medical Screening
of Competitive Athletes at Kurume University
: Comparison with Medical Screening at Other Universities.
Kayo KOMIYA, Yukiko SHIRASAKA, Yumiko IWASAKI
Yukari TAKAMOTO, Ikimi YOSHIDA, Noriko YOSHIDA
and Kouji TOYOMASU
;メディカルチェック、 心電図検査、 大学生、 スポーツ活動
方
はじめに
当大学では1988年より、 スポーツ活動を行う学生
法
1. 本学のメディカルチェックについて
に対し、 メディカルチェックの一環として、 安静時
メディカルチェックの対象は、 本学公認の28の体
心電図検査 (以下心電図検査とする) を実施してい
育系サークルに新たに入部し、 実際に競技を行う学
る1) 2)。 現在のメディカルチェックのシステムが構
部学生である。 毎年8月下旬に開催される体育会連
築されて20年以上が経過しているが、 これまで、 シ
絡会にて、 新入部員を対象に心電図検査を実施する
ステムの評価を行っていない。 そこで、 過去5年間
ことを案内し、 各部毎に実際にスポーツ活動を行っ
の心電図検査結果と他大学へのメディカルチェック
ている新入部員の名簿を保健室へ提出してもらい対
に関するアンケート結果から、 当大学のメディカル
象者を確定した。
チェックにおける心電図検査の臨床的意義について
検討した。
検査項目は、 ①身体計測 (身長・体重)
測定
③問診
②血圧
④心電図検査で、 1日に30∼40人ず
つ保健室にて実施する。 実施期間は、 毎年10月上旬
∼中旬の5日間である。
久留米大学健康・スポーツ科学センター
34
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
2. メディカルチェックに関す
るアンケートについて
大学生におけるスポーツ活動
参加前のメディカルチェックの
実施状況と、 メディカルチェッ
クとして心電図検査の実施状況
を調査し、 この調査結果と本学
これまでの実施結果を基に、 メ
ディカルチェックの意義と問題
点を検討することを目的として、
アンケート調査をおこなった。
調査対象は、 九州地区大学保
健管理研究協議会に登録されて
いる4年制大学46校である。 実
施期間は、 平成22年3月12日∼
4月12日である。 アンケートの
内容は、 ①メディカルチェック
の実施内容について
②メディ
カルチェックの結果について
年度別受検者数と心電図検査の有所見者数の推移
各年度の下 ( ) 内の数値は、 受検者数を示した。 棒グラフ上の数値と ( )
内の数値は、 各年度の有所見者数とその割合を示した。
③メディカルチェック実施後の
事後措置について
④メディカ
ルチェックの必要性と今後につ
いて
⑤メディカルチェックと
しての心電図検査について
⑥学生の運動中の事故について
である。
結
果
1. メディカルチェックの結果
2005年から2009年度にメディ
カルチェックを受けた学生は、
1013例 (男性874例, 女性139例,
年齢18∼21歳) で、 受検率は
100%であった。 有所見者数は、
1013例中149例で、 有所見率は
14.7%であった。 年度別有所見
率は、 12.1%∼16.8%とばらつ
きはあるが、 例年1割以上の学
生に所見が認められていた
(図1)。 過去5年間の所見の内
訳は、 心拍数40以上50未満の洞
性徐脈が37名と最も多く、 次い
で不完全右脚ブロック22名、 高
電位差19名の順であった (表1)。
また、 過去5年間の有所見者
心電図所見内訳
スポーツ活動を行う大学生のメディカルチェックにおける心電図検査の臨床的意義の検討
35
有所見者の管理指導区分の内訳
各年度の有所見者を ①有所見問題なし ②経過観察 ③要精密検査の3つの管理指導区分
に分類し、 その割合を示した。 各年度の下 ( ) 内の数値は有所見者の総数である。
左端の棒グラフは、 2005年∼2009年度の合計を示した。
149例のうち、 所見はあるが問題なしとなった学生
校の大学が実施していた (表2)。
は30例 (20.1%)、 経過観察となった学生は92例
(61.8%) 、 精 密 検 査 が 必 要 と な っ た 学 生 は 27 例
(18.1%) であった。 過去5年間において、 精密検
査の結果、 運動制限を指示された学生はいなかった
(図2)。
2. アンケート調査の結果
調査対象の46校のうち回答があった大学は27校、
回答率は58.7%であった。
①メディカルチェックの実施について
現在メディカルチェックを実施している大学は27
校中10校、 実施していない大学は17校であった。
②メディカルチェックの結果について (実施してい
る10校において、 重複回答あり)
メディカルチェックの対象は、 健康診断証明書の
提出が必要な大会や特定の大会に出場する学生のみ
に実施している大学が10校中8校で最も多かった。
実施期間は、 健康診断時に実施と回答した大学が10
校中4校、 健康診断時以外で実施と回答した大学は
10校中7校であった。 検査項目については、 身体計
測、 問診、 心電図検査、 内科診察は、 10校中8∼9
他大学におけるメディカルチェック検査実施項目
36
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
メディカルチェックに対する他大学の意見
九州・沖縄内の大学におけるアンケート調査結果のうち、 a:メディカルチェック実施の有無の割合、
b:メディカルチェックを実施していないが、 必要性があると考えている大学の割合、 c:メディカル
チェックを実施する必要があると感じているが、 実施できない理由を示した。
③メディカルチェック実施後の事後措置について
メディカルチェックの結果、 精密検査が必要と判
6校において、 実施出来ない主な理由は 「コストと
人員の問題」 が5校と多かった (図3)。
断された場合、 10校中8校が医療機関への受診指導
を行っていた。 二次検査を行い、 その結果で医療機
⑤メディカルチェックとしての心電図検査について
関の受診指導を行っている大学は、 10校中2校であっ
メディカルチェックとして心電図検査を実施して
た。
いる大学は、 10校中9校であった。 心電図検査の結
果、 所見を認めた学生の割合は、 0∼5%未満が最
④メディカルチェックの必要性と今後について
現在メディカルチェックを実施している大学の多
も多かった。 同様に、 経過観察者の割合は、 0∼5
%未満が最も多く、 要精査者の割合については、
くは、 メディカルチェックを実施する必要性がある
0.0∼0.5%未満が最も多かった。 要精査者で、 医療
と回答し、 実施していない大学の多くは、 必要性は
機関の精密検査結果、 運動の禁止または制限を指示
ないと回答していた。
された学生はいなかった (図4)。
メディカルチェックの実施の有無に関わらず、 必
要性があると感じている理由として、 外傷や突然死
⑥運動中の重大事故について
等の事故防止・低減のためが挙げられていた。 必要
過去5年間に重大事故の発生があったと回答した
性がないと感じている理由としては、 心電図検査だ
大学は、 27校中3校であった。 その事故内容は、 試
けではリスクを判断することが困難であるからなど
合中の外傷と回答した大学が2校、 トレーニング中
が挙げられていた。 また、 メディカルチェックの必
の外傷と回答した大学が1校で、 内科、 循環器系の
要性があると回答しているが、 現在実施していない
疾患による重大事故の発生は認めなかった。
スポーツ活動を行う大学生のメディカルチェックにおける心電図検査の臨床的意義の検討
37
心電図検査結果 (実施大学9校)
心電図検査を実施している9校の有所見率、 経過観察率、 要精密検査率をそれぞれ階層化し、 その割
合を円グラフに示した。 a. 有所見率 (黒:0∼5%, 灰色:5∼10%, 白:10∼15%)。 b. 経過観察率
(黒:0∼5%, 灰色:5∼10%, 白:10∼15%)。 要精密検査率 (黒:0.0∼0.5%, 灰色:1∼2%, 白:
2∼3%) を示した。 矢印は、 本学の5年間の平均に該当する階層を示した。
考
察
わが国では、 平成7年に学校保健法施行規則の一
いう意見と、 その有用性は認めつつも、 心電図検査
の費用が高額であることと、 心電図検査だけでは確
定診断できず、 二次検査を要するケースが多いこと
部改訂に伴い、 小・中・高校の1年生全員に対し、
から、 大規模な人数を対象とした包括的なスクリー
心電図検査の実施が義務化された。 この学校心臓検
ニングの検査項目には容認できないという意見とで
診により、 心疾患の早期発見と指導区分の管理や運
議論されている。 わが国では、 国内においても意見
動活動の指導が行われている。 しかしながら、 現在、
が異なっており、 若年者のスポーツ活動前のメディ
大学生に対する心電図検査は義務づけられていない
カルチェックにおける検査項目の明確な指針はない
ため、 心電図検査実施の判断は、 各大学に任されて
のが現状である3) 4) 5)。
いる。 特に、 大学生の年齢に相当する若年者のスポー
当大学では1988年より、 運動部の新入生を対象に
ツ活動前の心電図検査実施の是非については、 諸外
メディカルチェックを実施しているが、 心電図異常
国間でも意見が異なっており、 現在も議論がなされ
により運動の禁止または制限を指示された事例はな
ている。 この議論の最大の争点は、 費用対効果に関
かった。 アンケート調査から、 他大学においても、
する部分である。 心電図検査は、 効率的に疾患を発
過去5年間にそのような事例はなかった。 さらに、
見し、 運動中の突然死を予防するには有用であると
当大学・他大学において、 循環器系の疾患によるス
38
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
ポーツ活動中の事故の発生はなかった。 これらのこ
第1号
2010
参考文献
とは、 現在大学に入学してくるほとんどの学生は、
中学1年生、 高校1年生と2回の学校心臓検診を受
1) 豊増功次, 山下桂子. 久留米大学の健康管理シ
検しており、 大学入学以前に心疾患のスクリーニン
ステムにおけるメディカルチェックと安静時心
グが十分になされていることを示しているとも考え
電図検査の意義. 久留米大学保健体育センター
られる。 しかし、 心電図検査で毎年1割以上の有所
研究紀要. 1993;1.143-51.
見者を認める当大学において、 メディカルチェック
2) 小宮加代, 豊増功次ら. 体育系サークル新入部
における心電図検査を中止することは、 早計かと思
員に対するメディカルチェックとしての安静時
われる。 しかし、 現行のシステムのまま継続するこ
心電図検査の意義と問題点. 久留米大学健康・
とは、 スポーツ活動前のメディカルチェックとして
スポーツ科学センター研究紀要. 2009;17.33-8.
十分とはいえない。 なぜなら、 当大学のメディカル
3) 浅井利夫. 学校心臓検診システムと成果. 心臓,
チェックは、 対象が新入部員に限定され、 実施時期
2010;42(2):143-51.
が大学入学後にスポーツ活動を開始してから数ヶ月
4) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン
が経過しているからである。 よって今後は、 スポー
(2007年度合同研究班報告). 心疾患患者の学校、
ツ活動を行う全学生に対して早い時期に実施できる
職域、 スポーツにおける運動許容条件に関する
ような、 簡便な実施方法とシステムの構築が必要で
ある。
今回のアンケート調査から、 メディカルチェック
の必要性を感じているが実施できない主な理由は、
「コストや人員の問題」 であることが明らかとなっ
ガイドライン2008年改訂版. 2008;5-13,46-8.
5) 木下訓光. 臨床スポーツ医学. 2009-11;26(11):
1385-92.
6) 黒田善雄. 実践スポーツクリニック スポーツ
のためのセルフケア. 文光堂. 1996;第1版.
た。 この問題を考慮し、 スポーツ活動前のメディカ
7) 福田濶. 実践スポーツクリニック 学校におけ
ルチェックの簡便な方法を見出すことは、 実施率の
るスポーツ医学. 文光堂. 1996;第1版.
向上に繋がると考える。 現在行っているメディカル
チェックにおいて、 最もコストを要するのは心電図
検査である。 問診により心電図検査が必要な学生を
選別することができれば、 簡便で効果的なメディカ
ルチェックが可能となるであろう。 今後、 リスク保
有者を層別化するための問診票を作成し、 現在の心
電図検査と平行して活用することで、 その有効性と
精度を検討する予定である。
メディカルチェックには、 突然死などのスポーツ
事故を防ぐだけではなく、 スポーツ活動を行う者自
身が自己の健康状態を確認し、 安全にスポーツに参
加できるような、 セルフケア能力の向上のための
教育・指導の機会としての重要な役割があると考え
る6) 7)。 今後は、 メディカルチェックの実施と合わ
せ、 練習中や試合中の事故に対する教育や指導の実
施も検討していきたい。
39
=研究資料=
精神保健福祉士の
スクールソーシャルワーク業務に関する検討
大
西
良1)
藤
許
莉
米
川
和
島
法
仁1)
ポドリヤク・ナタリヤ2)
芬2)
末
永
和
也2)
雄3)
辻
丸
秀
策1)3)
School Social Work Duties of Psychiatric Social Workers.
Ryo OHNISHI1), Norihito FUJISHIMA1), Nataliya PODOLYAK2)
Lifen HAU2), Kazuya SUENAGA2)
Kazuo YONEKAWA3), Shusaku TSUJIMARU1)3)
;精神保健福祉士、 スクールソーシャルワーク、 業務指針
はじめに
援内容も退院支援、 就労支援、 子育て支援、 家族支
援、 低所得者の支援、 犯罪被害者の支援、 災害支援
近年、 我が国の社会状況はめまぐるしく変化し、
など多岐に渡っている。 このように、 精神保健福祉
人々の福祉的ニーズも多様化している。 それに伴い
士は国民の福祉的ニーズや社会の状況に対応しなが
精神保健福祉士注1) の職域も拡大されつつある。 今
ら、 様々な分野において多様な支援を実施している
日、 精神保健福祉士が関わる対象は、 精神科医療ユー
ことがわかる。
ザーやその家族に限定されるものではない。 現在で
なかでも近年、 文部科学省の 「スクールソーシャ
は、 司法、 労働、 教育、 産業、 地域生活などの様々
ルワーカー活用事業」 の展開によって、 教育機関に
な分野で精神保健福祉士は活躍している。 社団法人
おける精神保健福祉士の臨床実践に関する調査・研
日本精神保健福祉士協会が取りまとめた 「精神保健
究が盛んになっており、 全国学会等においても精神
福祉士業務指針及び業務分類」1) では、 精神保健福
保健福祉士によるスクールソーシャルワーク実践に
祉士が所属する機関ならびに支援内容について表1
ついての研究報告がなされている。 主な研究報告と
のように示している。
しては、 不登校、 虐待、 非行などの児童生徒の学校
精神保健福祉士が所属する機関としては、 医療機
生活上の諸問題に関するソーシャルワーク実践につ
関、 社会福祉施設、 司法機関、 労働関係機関、 教育
いての研究が多くみられる。 ところが、 精神保健福
機関、 一般企業などの広範な分野に及び、 また、 支
祉士によるスクールソーシャルワーク業務ならびに
1) 久留米大学 比較文化研究所
2) 久留米大学大学院 比較文化研究科
3) 久留米大学 文学部 社会福祉学科
40
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
精神保健福祉士が所属する機関ならびに支援内容
精神保健福祉士が所属する機関
・障害者地域生活支援機関 (入所・通所施設、 居住支援、 相談支援など)
・医療機関 (病院、 診療所)
・行政機関 (国・都道府県・政令市・市町村、 保健所、 精神保健福祉センター、
児童相談所、 福祉事務所など)
・高齢者地域生活支援機関 (入所・通所施設、 地域包括支援センターなど)
・その他の福祉施設 (生活保護施設、 婦人保護施設、 児童福祉施設など)
・団体 (社会福祉協議会、 各種団体など)
・司法機関 (保護観察所、 刑務所など)
・労働関係機関 (ハローワーク、 障害者職業センターなど)
・教育機関 (小学校、 中学校、 高等学校、 大学など)
・一般企業
・民間相談機関
・独立事務所
精神保健福祉士の支援内容
・家族支援
・子育て支援
・虐待防止と介入および対策 (児童、 高齢、 障害、 DV)
・アディクション (薬物、 アルコール、 ギャンブル、 摂食障害など)
・低所得者対策 (生活保護関係、 ホームレス)
・退院・地域移行支援
・地域生活定着支援
・就労支援 (就職支援、 就労定着支援、 就労継続支援など)
・犯罪被害者支援
・自殺対策 (予防・遺族への支援)
・災害時における支援
・地域特性に対応した支援
出典:社団法人日本社会福祉士協会 精神保健福祉士業務指針及び業務分類第1版 2010 p34−p35 を参考に筆者作成
業務指針に関する先行研究は乏しく、 いまだ十分だ
的な知識・技術を有する者で、 過去に教育や福祉の
とは言えない。
分野において活動経験の実績等がある者とされてい
そこで本研究では、 先行研究のレビューを通して、
る。 さらに職務内容としては、 ①問題を抱える児童
スクールソーシャルワーカー (School Social Worker;
生徒が置かれた環境への働きかけ、 ②関係機関等と
SSWer) の専門的役割について整理したうえで、 精
のネットワークの構築、 連携・調整、 ③学校内にお
神保健福祉士のスクールソーシャルワーク業務指針
けるチーム体制の構築、 支援、 ④保護者、 教職員等
について検討することを目的とする。
に対する支援・相談・情報提供、 ⑤教職員等への研
精神保健福祉士による
スクールソーシャルワーク業務について
文部科学省は2008年度より 「スクールソーシャル
修活動などとされている (表2参照)。
SSWer の業務内容については、 いくつかの著書
(論文及び報告書含む) の中で示されている。 例え
ば、 日本学校ソーシャルワーク学会が編集する 「ス
ワーカー活用事業」 を開始し、 全国に SSWer を配
クールソーシャルワーカー養成テキスト」 では、
置している。 この事業では、 SSWer は児童生徒が
SSWer は、 児童生徒が学校生活を円滑に送れるよ
置かれている様々な環境に対して働きかけることが
うにするために、 また、 教師や学校組織が充実した
でき、 また、 学校の枠を超えて関係機関等との連携
教育活動を展開できるようにするために、 児童生徒
を図るコーディネーター的な人材として位置づけら
や家庭、 学校、 地域社会に介入し支援していくと示
れている。 SSWer の選考に関しては、 精神保健福
している2)。 また、 社団法人日本社会福祉士養成校
祉士や社会福祉士等の福祉に関する専門的な資格を
協会の スクール (学校) ソーシャルワーカー育成・
有する者が望ましいとし、 教育や福祉に関する専門
研修等事業に関する調査研究<報告書>
では、
精神保健福祉士のスクールソーシャルワーク業務に関する検討
41
文部科学省 「スクールソーシャルワーカー活用事業」 の一部抜粋
いじめ、 不登校、 暴力行為、 児童虐待など、 児童生徒の問題行動について、 極めて憂慮すべき状況にあり、
教育上の大きな課題である。 こうした児童生徒の問題行動等の状況や背景には、 児童生徒の心の問題とともに、
家庭、 友人関係、 地域、 学校等の児童生徒が置かれている様々な環境に着目して働きかけることができる人材
や、 学校内あるいは学校の枠を超えて、 関係機関等との連携をより一層強化し、 問題を抱える児童生徒の課題
解決を図るためのコーディネーター的存在が教育現場において求められているとことである。
このため、 教育分野に関する知識に加え、 社会福祉等の専門的な知識や技術を有するスクールソーシャルワー
カーを活用し、 問題を抱えた児童生徒に対し、 当該児童生徒が置かれた環境へ働きかけたり、 関係機関等との
ネットワークを活用するなど、 多様な支援方法を用いて、 課題解決への対応を図っていくこととする。
なお、 スクールソーシャルワーカーの資質や経験に違いがみられること、 児童生徒が置かれている環境が複
雑で多岐にわたることなどから、 必要に応じて、 スクールソーシャルワーカーに対し適切に援助ができるスー
パーバイザーを配置する。
スクールソーシャルワーカーとして選考する者について、 社会福祉士や精神保健福祉士等の福祉に関する専
門的な資格を有する者が望ましいが、 地域や学校の実情に応じて、 教育や福祉の両面に関して、 専門的な知識・
技術を有するとともに、 過去に教育や福祉の分野において、 活動経験の実績等がある者のうち次の職務内容を
適切に遂行できる者とする。
①
②
③
④
⑤
問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働きかけ
関係機関等とのネットワークの構築、 連携・調整
学校内におけるチーム体制の構築、 支援
保護者、 教職員等に対する支援・相談・情報提供
教職員等への研修活動
出典:文部科学省 「スクールソーシャルワーカー活用事業」、 2008
SSWer はソーシャルワークの専門知識を所持し、
しており、 それらを図1のように概略図で示してい
その理念に基づいて子どもの問題に“生活の視点”
る。
を持って係わり、 学校という場を実践基盤とすると
著者らの研究6) においても、 SSWer の立場は、
する福祉専門職であり、 諸関係機関との橋渡し的役
「仲介者」、 「力を添える者」、 「代弁者」、 「組織者」、
割を担うと述べている3) 。
「促進者」 などであり、 ソーシャルワークの理念に
門田4) は、 全米ソーシャルワーカー協会が発行す
るリーフレット
School social workers : enhancing
school success for all students
から SSWer の役割
基づいて、 仲介、 調整、 連携などの援助技術を駆使
しながら、 児童生徒、 学校、 家庭、 地域社会を支援
する福祉専門職であることを言及している。
を、 ①個人とグループへのカウンセリング、 ②生徒
このように、 SSWer である精神保健福祉士は、
と親へのサポートグループ、 ③危機予防と介入、 ④
ソーシャルワークの理念に基づき、 学校、 家庭、 地
家庭訪問、 ⑤社会的、 発達的アセスメント、 ⑥親教
域への包括的な働きかけを行い、 子どもたちの生活
育と訓練、 ⑦専門的ケースマネジメント、 ⑧生徒へ
の質 (ウェルビーイング) を高めることを目標とす
のサービスを提供する他の専門職との協働、 ⑨コミュ
る福祉専門職であり、 ネットワーク (つなぐ) 活動
ニティ機関や団体との協働、 ⑩生徒・親・学校シス
によって、 子どもを中心に人と環境の相互作用にお
テムのためのアドボカシーなどと紹介しており、
ける関係性の構築 (再構築) を図り、 地域社会での
SSWer は、 個人、 家庭、 学校、 コミュニティのつ
“絆”の構築 (再構築) を促していく役割を担う。
なぎ役であると述べている。
すなわち、 SSWer である精神保健福祉士は人と環
工藤5) は、 SSWer の主な専門的役割として、 学
境の相互作用関係を活用し、 それぞれをうまく調整
校との間で行われるコンサルテーション、 仲介・調
しながら、 子どもや家族、 学校を含めた地域社会全
整、 地域社会との間で行われる仲介・調整、 連携、
体の成長と絆の回復を支援していく福祉専門職であ
家庭との間で行われる相談、 代弁、 仲介などを示唆
るといえる。
42
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
SSWer
工藤が提示するスクールソーシャルワークの概略図
出典:工藤歩 高等教育機関におけるスクールソーシャルワークの有益性
維持を目指して∼ 関西福祉大学紀要 No.10 2007 p38
精神保健福祉士による
スクールソーシャルワーク業務指針の検討
∼義務教育後の教育の機会の
もや家族の問題に限らず、 教師への支援や学校シス
テムの改善など教育環境全般に関しても支援の対象
となる。
ここからは、 上述した SSWer である精神保健福
祉士の専門的役割を踏まえて、 精神保健福祉士のス
(2) 主な機能と提供されるサービス (支援)
クールソーシャルワーク業務について、 (1) 支援対
精神保健福祉士による主な機能と提供されるサー
象者、 (2) 主な機能と提供されるサービス (支援)、
ビス (支援) として、 表3のような内容が想定され
(3) 対処する問題の主要なカテゴリーに分けて示
る。 精神保健福祉士は子どもたちが生活する学校、
したうえで、 精神保健福祉士のスクールソーシャル
家庭、 地域の広範な生活場面において多様なサービ
ワーク業務指針について検討していくことにする。
ス (支援) を提供する。
(1) 支援対象者
(3) 対処する問題の主要なカテゴリー
精神保健福祉士による支援対象者はすべての子ど
精神保健福祉士が対処する問題の主要なカテゴリー
もとその家族、 あるいは教職員である。 主に成長途
を表4に示す。 精神保健福祉士は発達、 教育、 進路
上期にある子どもの発達 (人格発達とともに知的発
等の学校生活に関する諸問題に加え、 家族問題、 経
達も含む) や心身の健康など、 子どもの成長や生活
済問題、 医療に関する問題などに対処することにな
と密接に関わる事柄で支援が必要な者 (子どもやそ
ろう。
の家族、 その関係者) が対象となる。 さらに、 子ど
精神保健福祉士のスクールソーシャルワーク業務に関する検討
43
精神保健福祉士による主な機能と提供されるサービス (支援) の一覧
・教育、 発達、 健康に関する相談支援
・子どもの発達や健康に関する情報の提供
・治療機関、 専門の相談機関への紹介と連携
・自殺や死亡事故などの (学校) 危機的状況が発生した場合の緊急支援
・学校内での子どもと家族への支援
・家庭訪問による子どもと家族への支援
・電話による子どもと家族への支援
・地域における社会資源の開発、 継続、 展開
・日常生活に関する支援
・心理テストの実施
・子ども、 保護者、 教職員へのカウンセリング
・いじめ、 不登校に関する支援
・学級担任や養護教諭との連携
・適応指導教室やフリースクールなど学校外の教育機関との連携
・特別支援学級への支援
・教職員への支援
・教育相談や生徒指導に関する委員会への参加と運営
・高校、 中学校、 小学校、 保育所など他の教育機関との連携
・お便り (学校ソーシャルワーカーの PR、 心の健康情報の提供など) の発行
・学級集団への支援 (心の健康や人間関係づくり教育、 自己主張トレーニングなど)
・保護者への研修
・教職員への研修
・子どもの健康やニーズに関する調査
・研究活動
精神保健福祉士が対処する問題の主要なカテゴリー
題に対してエコロジカルな視点注2) から個別的に支
援を行うものであり、 必要となる支援・活動として
・発達に関する問題
・教育に関する問題
・進路に関する問題
・医療に関する問題
・生活全般に関する問題
・非行や犯罪に関する問題
・健康 (身体面、 精神面の両方) に関する問題
・家族関係、 家族機能の問題
・人間関係に関する問題
・経済的問題
・虐待など生存に関わる問題
・日常生活に関する問題
・経済的問題
は、 アセスメント、 個別支援計画の策定、 支援計画
の振り返りと評価、 再アセスメンなどが考えられる。
指針2として、 子どもや保護者を各種機関 (社会
資源) へとつなぐコーディネート機能が挙げられる。
基本的な考え方は、 個別のケースに合致した専門機
関の紹介および常日頃からの各種専門機関との連携
であり、 必要となる支援・活動としては、 各種機関
の紹介と同行や地域の会議等への参加などが考えら
れる。
指針3として、 子どもやその家族に対して心身の
健康の維持・向上のために心理教育的な予防教育を
行うことが挙げられる。 基本的な考え方は、 子ども
以上の (1) から (3) の内容を踏まえて、 試案
やその家族の心身の健康を維持・向上するため情報
的ではあるが、 精神保健福祉士によるスクールソー
提供や予防の重要性を伝え、 早期発見・早期対応体
シャルワーク業務指針を6つに分けて示す (表5)。
制を築くことであり、 必要となる支援・活動として
まず、 指針1として、 子どもや保護者への個別支
は、 予防教育や心理教育の実践が考えられる。
援 (カウンセリングも含む) が挙げられる。 基本的
指針4として、 教職員への精神保健福祉に関する
な考え方は、 子どもやその家族が抱える生活上の問
知識・技術の提供が挙げられる。 基本的な考え方は、
44
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
指針1
第18巻
第1号
2010
精神保健福祉士によるスクールソーシャルワーク業務指針
子ども・保護者への個別支援 (カウンセリングも含む)
子どもやその家族が抱える教育、 発達、 健康等の生活に関する困難や課題の解決に向けた支援 (カウンセリ
ングも含む) を行う。
基本的考え方
子どもやその家族が抱える生活上の問題に対して個別的に支援を行う。
エコロジカルな視点から支援を検討する
必要となる支援・活動
アセスメント (子ども、 家族が抱える問題の見立て)
個別支援計画の策定
支援計画の振り返りと評価
再アセスメント など
指針2
子ども・保護者を各種機関へとつなぐコーディネート機能
虐待や発達障害などの教育機関では対応困難なケースについては、 各種専門機関 (病院・クリニック、 特別
支援学校、 適応指導教室・フリースクールなど) へと繋ぎ、 適切な支援が受けられる環境調整を行う。
基本的考え方
ケースに合致した専門機関の紹介
常日頃からの各種専門機関との連携
必要となる支援・活動
各種機関の紹介と同行
地域の会議等への参加
指針3
子ども・保護者への心理教育的な予防教育
子どもやその家族の心身の健康を維持・向上するために心理教育的なアプローチを用いて支援を行う。 例え
ば、 子どもの鬱に関する基礎知識、 自尊心を高める取り組み実践の紹介などの情報提供と予防教育
基本的考え方
子どもやその家族の心身の健康を維持・向上するため情報提供 (学級通信の活用など)
予防の重要性を伝え、 早期発見・早期対応体制を築く
必要となる支援・活動
予防教育
心理教育
指針4
教職員への精神保健福祉に関する知識・技術の提供
教職員に子どもやその家族への支援に必要な精神保健福祉に関する知識や技術を提供、 共有化を図る。
基本的考え方
精神保健福祉に関する専門的な情報を提供するとともに、 教職員の抱える課題の解決を図る
必要となる支援・活動
教職員に対する精神保健福祉に関する知識・技術の情報提供
精神保健福祉士のスクールソーシャルワーク業務に関する検討
指針5
45
学校危機における緊急支援
子どもの死、 教職員の不祥事などの学校危機に対する緊急的な支援
基本的考え方
学校現場で危機的状況が発生した場合に、 第三者的立場で学校危機への支援を行う。
必要となる支援・活動
アセスメント (学校全体の見立て)
学校の機能回復に向けた支援計画、 実施、 評価
急性ストレスや悲嘆反応などの支援
指針6
社会資源の開拓 (子育て・発達支援教室の開催、 放課後相談会の開催)
子どもやその家族、 地域のニーズに合った社会資源の開拓と継続
基本的考え方
限られた社会資源では対応が困難な場合は、 精神保健福祉士自らが社会資源を開拓する
必要となる支援・活動
ニーズの発見、 掘り起こし
社会資源の開拓、 継続
精神保健福祉に関する専門的な情報を提供するとと
もに、 教職員の抱える課題の解決を図ることであり、
おわりに
必要となる支援・活動としては、 教職員に対する精
先述した文部科学省の 「スクールソーシャルワー
神保健福祉に関する知識・技術の情報提供が考えら
カー活用事業」 は、 2009 (平成21) 年度から国庫補
れる。
助事業 (国が3分の1を負担、 残りの3分の2は各
指針5として、 学校危機における緊急支援が挙げ
自治体が負担する) として位置づけられ、 「学校・
られる。 基本的な考え方は、 学校現場で危機的状況
家庭・地域に連携協力推進事業」 として再編成され
が発生した場合に、 第三者的立場で学校危機への支
ている。 しかし残念なことに、 この再編成に伴って
援であり、 必要となる支援・活動は、 学校全体のア
自治体によっては 「スクールソーシャルワーカー活
セスメント、 学校の機能回復に向けた支援計画、 実
用事業」 を中止するところや事業規模を縮小すると
施、 評価、 急性ストレス反応や悲嘆反応に対するメ
ころも見受けられる。 今後は、 精神保健福祉士によ
ンタルへの支援が考えられる。
る SSWer の業務についてのさらなる検証と業務指
最後に、 指針6として、 子どもやその家族、 地域
針の体系化が求められる。 また同時に、 教育分野に
のニーズに合った社会資源の開拓が挙げられる。 基
おける精神保健福祉士の存在意義ならびに支援の有
本的な考え方は、 既存の限られた社会資源では対応
効性や固有性についても検討していくことが必要で
が困難な場合に、 精神保健福祉士自らが新たな社会
あり、 今後の研究課題である。
資源を開発するものであり、 ニーズの発見、 掘り起
こし、 社会資源の開発などが考えられる。
注
釈
以上で示した6つの業務指針は、 精神保健福祉士
注1:精神保健福祉士法第2条において、 精神保健
が SSWer として活動する際の基本的な指針である。
福祉士とは、 「精神障害者の保健及び福祉に関
しかしながら、 SSWer の活動は地域の特性や学校の
する専門的知識及び技術をもって、 精神病院そ
風土、 さらには精神保健福祉士の勤務形態などの様々
の他の医療施設において精神障害の医療を受け、
な要因によって異なることが推測されるため、 それ
又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを
ぞれの状況に応じた業務指針の検討が必要になる。
目的とする施設を利用している者の社会復帰に
46
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
関する相談に応じ、 助言、 指導、 日常生活への
適応のために必要な訓練その他の援助を行うこ
とを業とする者をいう」 と定められている。 つ
まり、 精神保健福祉士は、 精神障害者を対象に
治療や入院生活上の問題を解決したり、 あるい
は社会復帰を図るための援助や相談を行ったり、
さらには、 退院後の住居や再就労の場の選択な
どについての助言・指導、 日常生活に適応する
ための訓練などを行う福祉専門職である。
注2:エコロジカルな (生態学的な) 視点では、 人
間の生活を3つのレベルで捉える。 それは、 個
人や家族、 グループ (集団) を対象とするミク
ロレベル、 学校、 病院、 町内会や近隣などの地
域 (community) を対象とするメゾレベル、 さ
らに、 市区町村や政府で運用される制度や法律
を対象とするマクロレベルである。 さらにこれ
ら3つの生活レベルは相互に循環し、 空間的な
広がりをもつものとして捉えられる
引用文献
1) 社団法人日本社会福祉士協会. 精神保健福祉士
業務指針及び業務分類. 第1版. 2010;345.
2) 日本学校ソーシャルワーク学会編集. スクール
ソーシャルワーカー養成テキスト. 第1版. 中
央法規出版, 2008;26.
3) 社団法人日本社会福祉士養成校協会. スクール
(学校) ソーシャルワーカー育成・研修等事業
に関する調査研究<報告書>. 2008;112.
4) 門田光司. わが国における学校ソーシャルワー
カーの役割機能に関する調査報告. 社会福祉学
2006;46(3):12233.
5) 工藤
歩. 高等教育機関におけるスクールソー
シャルワークの有益性∼義務教育後の教育の機
会の維持を目指して∼. 関西福祉大学紀要
2007;10:3540.
6) 大西
良. 不登校事例におけるソーシャルワー
クの実践−エコマップを用いた役割評価を中心
に−. 学校ソーシャルワーク研究
5759.
2010;5:
第18巻
第1号
2010
47
=研究資料=
男性学生長距離ランナーにおける
栄養状態の推移と身体組成
滿
園
良
一1)
稲
木
光
晴2)
上
野
友
愛3)
佐々木
香
苗4)
Changes in Nutritional Status and Body Composition
of Male College Distance Runners.
Ryouichi MITSUZONO1), Mitsuharu INAKI2)
Tomoe UENO3), Kanae SASAKI4)
フォーマンスと密接な関係にある乳酸性閾値
はじめに
(Lactate
Threshold : LT)
が分岐鎖アミノ酸
持久性スポーツ競技の典型となる長距離走は、 継
(Branched-Chain-Amino Acid : BCAA) 摂 取 に よ っ
続的な持久性トレーニングに見合う充分なエネルギー
て改善することを認めた。 しかしながら、 従来のト
所要量および適切な栄養バランスに裏づけられた食
レーニングに見合うエネルギー所要量などが充足さ
1)∼5)
。 この栄養的な取り
れているか、 と言う観点から実際の年間トレーニン
組みは、 従来の量的検討に加えてトレーニングやゲー
グに沿った栄養学的な検討がなされているとは言い
ムとの兼ね合いで何を、 と言う質的観点や食のタイ
難い。
生活に拠って保証される
ミングをも重要視しつつある6)。 例えば、 トレーニ
一方、 長距離ランナーは、 身体組成上の一般的特
ングやレースの直前に摂取する糖の選択であった
徴として、 少ない体脂肪量を持つ14)。 この長距離ラ
7) 8)
り
、 トレーニング後に補給するアミノ酸の選
ンナーにおける身体組成は、 継続的なトレーニング
択9)∼12) などである。 また、 トレーニングあるいは
の結果としてのみ検討されてきた。 しかしながら、
レースの後における摂取タイミングも、 糖であれタ
持久性トレーニングのみであれば 「からだ」 を維持
ンパク質であれエネルギー源の回復や 「からだ」 づ
することすら難しく、 食事に裏付けられたトレーニ
くりとして早い補給が勧められる。
ングでなければ 「からだ」 づくりにはおぼつかない
さらに、 栄養摂取がパフォーマンスに及ぼす影響
に関する報告もある。 Matsumoto ら13) は、 持久性パ
1)
2)
3)
4)
久留米大学健康スポーツ科学センター
西南女学院大学保健福祉学部
久留米大学医学部付属病院臨床栄養部
大塚製薬佐賀栄養製品研究所
と考えられる。
本研究は、 年間シーズンを通した期分け上の時期
48
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
に沿って栄養状態を明らかにするとともに、 最終的
行った。 さらに、 分析は食品摂取頻度調査をもとに
な栄養の調査・分析時における身体組成との関連性
栄養指導ソフト 「エクセル栄養君 Ver.4.5」 (株、
を検討する目的で行った。
健帛社) を用い、 食品群別摂取量および栄養素等摂
方
取量を算出して行った。
法
C. 身体組成の推定と体型の評価
A. 被検者
被検者は、 継続的な持久的トレーニングを実施し
身体組成は、 体重1kg 当り1g の重水 (D2O) を
てきた久留米大学陸上競技部に所属する長距離ラン
経口投与する体水分量法にて推定した。 その後、 1、
ナー14名である。 被検者の身体的特性は表1に示し
2、 3時間後に採尿された検体は約20分間熱蒸留し、
た通りであり、 継続的なトレーニングに伴うスポー
検体中の重水濃度が赤外分光光度計 (FTIR−8300、
ツ傷害などによるトレーニング中断は基本的にない。
島津社製) によって分析された。 投与量と尿中の重
また、 栄養・食事調査の日時は2008年7月2日 (年
水濃度から体水分量が求められ、 その体水分率から
間における前半試合期のトラック・シーズン終了時)、
除脂肪量 (Lean Body Mass:LBM) を算出し、 体
9月2日 (年間における後半準備期の合宿明けで後
脂肪量 (Fat Mass:FM) など身体組成を推定した。
期試合期前)、 そして2009年3月12日 (年間におけ
皮下脂肪量 (Subcutaneous Fat:SF) は、 14箇所の
る準備期)のそれぞれ3回であり、3回目の栄養・食
皮下脂肪厚、 皮膚厚、 体表面積、 体脂肪密度から算
事調査に身体組成の推定と人体計測を同期させ、 実
出した。 体内深部脂肪量 (Internal Fat:IF) は FM
施した。
と SF の差であり、 SF、 IF に2分した体脂肪分布と
なお、 本研究は久留米大学御井学舎倫理委員会の
した。
承認を受け (承認番号:95)、 その後に被検者は本
研究の趣旨・内容について説明を受け、 文書にて同
意した。
D. 統計処理
測定項目は、 平均値と標準偏差で示した。 シーズ
ン毎の測定値間における比較は対応のあるt検定、
B. 栄養・食事調査
測定値の相関関係は Pearson の積率相関分析により
栄養・食事調査は、 各被検者が予め記入した記録
表ならびに調査票をもとに、2人の管理栄養士がフー
検討した。 なお、 統計の有意水準は危険率5%未満
とした。
ド・モデルに拠った面接を行なう食品摂取頻度調査
結果と考察
法に拠った。 その際に、 3度にわたる調査時におけ
る各被検者は、 同一の管理栄養士によって調査され
表2は、 男性長距離ランナーにおける食品群別摂
た。 また、 2人の管理栄養士による面接および調査
取量について、 1回目から3回目までの平均値と標
にバラツキがないように、 調査前後に確認しながら
準偏差それぞれを示したものである。 3回の摂取量
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男性学生長距離ランナーにおける栄養状態の推移と身体組成
49
間に有意な差は認められなかったが、 初回と2回目
動水準Ⅲ (3050kcal/日) と比較して低く、 活動
の調査時でともに6食品群の平均値で最大値を示し
Ⅱ (2650/日) の水準に近い15)。 また、 個々人に不
ていた (表中の下線)。 ランナー個々の摂取状況は
足が見られなかった食品群別摂取量に対して、 個々
肉類摂取量で目安量を上回るものが多く、 2回目で
人における栄養素等摂取量はエネルギー所要量を始
14名中9名、 3回目で11名中7名であった。 また、
め、 大多数で不足していた (エネルギー所要量は延
飲料摂取量は、 気候を反映していた為か初回の7月
べ39人中で8人しか充たしていない)。 とくに、 糖
調査時に半数以上で目安量を上回る結果を示してい
質の摂取不足は著しく、 延べ人数の約3分の2で不
た。 しかしながら、 3回の調査における食品群別摂
足していた。 これまでも持久系競技者のエネルギー
取量の平均値は、 いずれも一定の傾向を認めなかっ
所要量不足が報告されているものの、 特に女性競技
た。
者に顕著であり2) 3) 5)、 16) 、 九州地区トップ・レベ
表3は、 男性長距離ランナーにおける栄養素等摂
ルの長距離ランナー17) やラクロス選手18) などでも同
取量について、 1回目から3回目までの平均値と標
様の結果が報告されている。 本報においても、 トレー
準偏差それぞれを示したものである。 食品群別摂取
ニング時の消耗に見合う摂取量を充たしていないこ
量と同様に、 3回の摂取量間に有意な差は認められ
とが推察される。 反面、 初回の7月の調査時で6名
なかったが、 合宿明けに相当する2回目の調査時で
が塩分摂取量で所要量を超えており、3回の平均値
もっとも大きな摂取量を示す傾向にあった (表中の
でも最も高い。 このことは、 気温上昇による発汗量
下線で示した10項目)。 しかしながら、 これら3回
の増加に伴う Na 喪失を代償しようとした結果かも
のエネルギー所要量の平均値は、 いずれも男性の活
知れない。 持久性競技者の鉄欠乏性なども報告され
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久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
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男性学生長距離ランナーにおける栄養状態の推移と身体組成
51
ており19,20)、 本報でもカルシウム不足が顕著であり、
glycogen synthesis after exercise: effect of time
他の微量元素の摂取状況なども詳細に検討する必要
carbohydrate ingestion. J Appl Physiol, 1988;
がある。 一方、 今回と同様の持久系スポーツ種目で、
64:148085.
日本トップ水準のパフォーマンスを有する競歩選手
7) 満園良一, 岡村浩嗣, 井垣京子, 他2名
20km
(20K:1時間27分51秒) は、 エネルギー所要量を
走行前、 走行中に摂取する AFC ドリンクの
始め、 高い栄養素の充足率を示していた21)。 この高
影響. 久留米大学保健体育センター研究紀要,
い栄養素の充足率は、 厳しいトレーニングの継続と、
1993;1:3341.
その結果となる高いパフォーマンスの基盤になるも
8) Mitsuzono R, Okamura K, Igaki K, et al. Effects
のと考えられる。 本報におけるトレーニング量は栄
of fructose ingestion on carbohydrate and lipid
養調査時に把握出来ていないが、 トレーニング量お
metabolism during prolonged exercise in distance
よびパフォーマンスとエネルギー所要量を始めとす
runners . Appl Human Sci J Physiol Anthrop,
る栄養素との関連性は今後の課題である。
表4は3回目の栄養・食事調査時に同期させた身
1995;14:12531.
9) Okamura K, Doi T, Hamada K, et al. Effect of
体組成の結果であるが、 2008年12月に実施された九
amino
州学生駅伝 (島原) 3位の出走メンバー7人と、 そ
postexercise recovery on protein kinetic in dogs.
れ以外4人の比較で示した。 両群間で差が見られな
かった身体組成はほぼ同水準の低値であり、 体水分
J Appl Physiol, 272;E102330.
10) 満園良一, 土居達也, 桜井政夫, 岡村浩嗣 長距
量法で報告された既報と比較しても低い14)。 このこ
離ランナーの長時間運動後におけるタンパク摂
とは、 出走メンバー7人だけでなくチーム全体とし
取タイミングのタンパク代謝に及ぼす影響. 久
て継続的な持久性トレーニングの影響であると考え
留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要,
られるが、 エネルギー所要量の観点からエネルギー
不足も影響しているかどうかはわからない。 今回、
and
glucose
administration
2000;8:2532.
11) 満園良一, 辻本尚弥, 吉田典子, 他3名
during
長距
身体組成とそれぞれ栄養・食事調査時における各項
離ランナーにおける LT レベルの長時間運動パ
目との間には、 関連性が認められなかった。 身体組
フォーマンスに対する分岐鎖アミノ酸摂取の影
成はエネルギー出納を反映していると考えられるの
響. 久留米大学健康・スポーツ科学センター研
で、 長距離ランナーのトレーニングに伴うエネルギー
消費量の追跡も、 トレーニング量や栄養・食事の把
8238.
13) Matsumoto K, Koba T, Hamada K, et al .
参考文献
SN
The
zone
diet
and
athletic
performance. Sports Med, 1999;27:21328.
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needs
of
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athlete. Clin Sports Med, 1999;18:54963.
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4) Nogueira JA, Da Costa TH Nutrition status of
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athletes:
what
アミノ酸飲料が運動パフォーマン
スに及ぼす影響. 臨床スポーツ医学, 2005;22:
握と併せて検討する必要がある。
1) Cheuvront
究紀要, 2006;14:713.
12) 濱田広一郎
is
the
available
Branched-chain amino supplementation increases
the
lactate
threshold
during
an
incremental
exercise test in trained individuals. J Nutr Sci
Vitaminol, 2009;55:528.
14) 満園良一
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大学健康・スポーツ科学センター研究紀要,
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15) 厚生労働省(監), 日本人の食事摂取基準 (2005
年版), 第一出版, 2005.
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16) Gabel, KA. Specials nutritional concerns for the
22.
5 ) Loucks AB Low energy availability in the
female athletes. Curr Sports Med Rep, 2006;5:
marathon and other endurance sports . Sports
Med, 2007;37:34852.
6 ) Ivy JL, Katz AL, Cutler CL, et al . Muscle
18991.
17) 満園良一, 上野友愛, 佐々木香苗
全日本大学
女子選抜駅伝における九州学生選抜チーム
(2005∼2007) の栄養状態. 久留米大学健康・
52
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
スポーツ科学センター研究紀要, 2007;15:81
4.
18) 益田玲香, 今村裕行, 山下あす香, 他3名 大学
ラクロス選手の鉄欠乏状態と栄養素等摂取量状
況. 栄養学雑誌,
19) Volpe,
2008;66:30510.
SL : Micronutrient
requirements
for
athletes. Clin Sports Med, 2007;26:11930.
20) Malczewska J, Raczynski G and Stupnicki R:
Specials nutritional concerns for the female
athletes. Int J Sport Nutr Exerc Metab, 2000;
10:26076.
21) 満園良一, 上野友愛, 佐々木香苗, 稲木光晴 男
性学生競歩選手における身体組成、 血中脂質特
性および栄養状態. 久留米大学健康・スポーツ
科学センター研究紀要, 2009;17:714.
第18巻
第1号
2010
53
=研究資料=
大学病院勤務医師の子育て状況と
仕事ストレスについて
豊
増
功
次1)2)
松
本
悠
貴2)
Child Care Conditions and Work Stress in University Hospital Doctors.
TOYOMASU1)2)
Kouji
Yuuki
MATSUMOTO2)
;女性医師、 育児環境、 職業性ストレス簡易調査票、 仕事ストレス
緒
言
妊娠・出産および育児は女性の人生に大きな影響
「心身面の健康状態は良好であるのか」、 など子育て
しながらの職場環境や仕事状況、 およびストレス状
況などに関するデータはほとんど把握していない。
を及ぼすことから、 女性労働者において、 出産とそ
そこで本学の職員に対する育児支援の充実をはかる
れに続く育児は仕事との両立を難しくしている現状
目的で、 平成21年から育児休業明け後、 復職された
がある。
教・職員の方にアンケート調査を行ってきた。 今回、
女性医師の勤務続行を阻む要因としては、 以下の
ものがあげられている1)。 産前・産後休業取得の不
女性医師を対象に調査を行い、 女性医師の育児状況
と仕事ストレスについて検討したので報告する。
徹底、 育児休業の取得困難、 保育・託児施設の整備
対
不十分と利用困難な状況、 病児保育の整備不十分、
象
柔軟な勤務制度の不備、 職場復帰に向けての再教育・
A 大学病院勤務の女性医師に対し行った質問紙調
支援プログラムの欠如、 上司・同僚の無理解などで
査に回答した64名を分析の対象とした。 平均年齢は
ある。
34.4±4.0歳である。
筆者は本学の産業医の立場で、 働く労働者の心身
の健康維持・増進を目的に職員の健康管理に関する
方
法
業務を行っている。 この業務の中でも職場における
1. 質問紙の配布・回収
子育て支援は重要な業務の一つと考えている。 育児
1) 平成21年6月に A 大学病院の所属部署 (講座)
休業明け、 仕事に復帰された後、 「子育てしながら
の所属長を通じて、 部署に所属する女性医師に対
職場でどのような就労生活を送られてあるのか」、
し質問紙調査を行った。 質問用紙は未婚者用と既
「家庭や職場における子育て支援は十分であるのか」、
婚者用の2つを用意し、 所属長から個人宛に配布
1) 久留米大学健康・スポーツ科学センター
2) 久留米大学大学院医学研究科 健康科学
54
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
してもらい、 該当者が質問用紙を選択し、 記入後
な仕事の負担 (質):質的負担度」 「自覚的な身体的
は学内便で返却してもらった。
負担度」 「職場の対人関係でのストレス」 「職場環境
2) 平成21年6月から平成22年10月までに A 大学
によるストレス」 「イライラ感」 「疲労感」 「不安感」
病院の育児休業後の復職時健康診断を受けた受診
「抑うつ感」 「身体愁訴」 の10項目、 点数が低いほど
者に対し質問紙調査を行った。 質問用紙を個人宛
ストレス度が高い下位尺度として、 「仕事のコント
に学内便で郵送 (配布) し、 記入後は学内便で返
ロール度」 「技能の活用度」 「仕事の適性度」 「働き
却してもらった。
がい」 「活気」 「上司からのサポート」 「同僚からの
サポート」 「家族・友人からのサポート」 「仕事や生
2. 質問用紙
活の満足度」 の9項目である。
筆者が独自に作成した質問用紙と Utrecht Work
Engagement Scale (UWES) 日本語短縮版2) と職業
3)
3. 統計学低手法
性ストレス簡易調査票 である。 独自の質問用紙の
独自の質問紙から得られた回答結果 (データ) は、
内容は、 個人属性のほか給与形態、 勤務年数、 家族
平均値±標準偏差および百分率で示した。 UWES
構成、 夫の年齢、 働く不安の有無とその理由、 施設
および職業性ストレス簡易調査票から得られた労働
利用の有無、 育児支援者の内訳、 夫の育児参加状況、
意欲得点と仕事ストレス得点はすべて平均値±標準
仕事と育児の両立を支える要因、 仕事と育児を両立
偏差で示した。 3群間の平均値の比較には分散分析
することの困難さの理由、 仕事をやめようと思った
(ANOVA) と Tukey HSD 検定を行った。 解析ソフ
ことがあるか否か、 望まれる職場のサポートなどで
トは、 SPSS15.0J を用い、 両側検定に基づく P 値を
ある。 UWES 日本語短縮版は、 Shaufeli ら4) により
求め有意水準は5%未満とした。
提唱された労働意欲の指標で 「自らの職務を遂行す
る意欲や積極的な姿勢を表す」 とされている。 9項
4. 倫理的配慮
目の質問に対し、 7件法 (0−6) で回答し各質問
学内の倫理委員会で承認 (承認番号98) 後、 調査
の総得点を算出し点数の高低から労働意欲の程度を
を実施した。 調査時には説明文により本人の同意を
評価した。 職業性ストレス簡易調査票は、 ①仕事の
文書で得た。 記入後は、 糊づけ封筒に入れ厳封の上、
ストレス要因 (心理的な仕事の負担:量と質)、 自
筆者あてに学内便で配送 (返送) してもらった。 ま
覚的な身体的負担度、 職場の対人関係でのストレス、
たデータの管理など個人情報の保護には充分な配慮
職場環境によるストレス、 仕事のコントロール度、
を行った。
技能の活用度、 仕事の適性度) 17項目、 ②ストレス
結
反応 (活気、 イライラ感、 疲労感、 不安感、 抑うつ
感、 身体愁訴) 29項目、 ③修飾要因として、 社会的
支援 (上司からのサポート、 同僚からのサポート、
果
1) 分析対象者の内訳
64名中、 20名は既婚者で子供あり、 16名は既婚者
家族・友人からのサポート) 9項目と、 仕事の満足
で子供なしであった。 残りの28名は未婚者であった。
度、 生活の満足度各1項目、 計57の調査項目から成
以下は既婚者で子供ありの20名についての結果を示
り立っている。 回答方法は、 すべて4件法になって
す。
いる。 ①仕事のストレス要因に対しては 「そうだ」
2) 背景について
「まあそうだ」 「ややちがう」 「ちがう」、 ②ストレス
今回の質問用紙を記入した時期 (調査時点) は復
反応では 「ほとんどなかった」 「ときどきあった」
職後平均7.7ヶ月目の時期であった。 表1に示すよ
「しばしばあった」 「ほとんどいつもあった」、 ③支
うに平均年齢は35.1歳、 夫の年齢は38.2歳。 勤務年
援では 「非常に」 「かなり」 「多少」 「まったくない」、
数は、 5年以上が85%であった。 有給者は約半数で
④満足度では 「非常に」 「かなり」 「多少」 「まった
あった。 出産後6∼12ヶ月以内の時期に復職した人
くない」 となっている。 判定方法は、 4件法を素点
は43.7%を占めていた。 復職後の日勤日数は平均4.3
換算票により質問項目得点を算出し、 点数の高低が、
日であった。 働く不安があると答えた例は95%を占
下位尺度の意味と合うように表示した。 すなわち点
めていた。 仕事をやめたいと思ったことがあると答
数が高いほどストレス度が高い下位尺度として、
えた例は27%近くであった。 9割は保育所などの施
「心理的な仕事の負担 (量):量的負担度」 「心理的
設を利用していた。
大学病院勤務医師の子育て状況と仕事ストレスについて
既婚者子供あり20名の背景
55
3) 育児状況について
育児をしながら働く不安の理由は、
図1に示すように働いている環境 (68.4
%)、 他者の理解 (55%)、 知識 (42.1%)、
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体力 (40.9%) の順であった。 育児支援
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を行っている育児支援者は、 図2に示す
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ように実の母親がもっとも多く (65%)、
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次いで夫 (60%)、 実の父親 (21%)の順
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であった。 夫の家事・育児参加は60%と
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80%であったが、 参加の程度 (%) は、
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家事の場合平均7.2%、 育児の場合平均
16.8%であった。
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働く不安理由
(n:20)
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56
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
4) 仕事と育児について
第18巻
第1号
2010
の問いには 「頻回にある」 の回答が36.8%、 「時々
ある」 の回答が31.6%であった。 しかし 「ほとんど
仕事と育児の両立を支える要因は、 図3に示すよ
ない」 との回答も31.6%であった。
うにもっとも多かったのは職場の理解・支援
(84.2%) で あ っ た 。 2 番 目 は 家 族 の 理 解 ・ 支 援
5)
(73.7%) であった。3番目は勤務時間・体制と保育
望まれる職場のサポート
所の時間帯 (いずれも63.2%) であった。5番目は
職場のサポートとしては、 図4に示すように労働
保育施設に預けること (57.9%) であった。 ほかに
内容の改善 (60%)、 マンパワー (交代要員の確保
職場の制度、 家族の健康、 自分の健康の順であった。
など) (35%)、 子供を預けられる場所 (30%)、 職
図表には示していないが、 「勤務時間以内に仕事・
場の理解 (20%)、 再研修 (指導・教育) 体制 (20
研究が終わらずに、 家へ持ち帰ることがありますか?」
%)、 給与と保障の確保など (15%) の順であった。
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大学病院勤務医師の子育て状況と仕事ストレスについて
6)
仕事ストレス要因とストレス反応について
考
表2に既婚者で子供ありと子供なしおよび未婚者
57
察
の3群について年齢と労働意欲得点および仕事スト
平成21年から行ってきた本学職員に対する子育て
レス得点の平均値を示す。 労働意欲得点は既婚者子
状況と仕事ストレスに関するアンケート調査につい
供ありの例で40.4±8.3ともっとも高く、 仕事の適性
ては、 昨年の本研究紀要で看護師を対象とした調査
度および仕事・生活満足度も既婚者子供なし、 未婚
結果を報告した5)。
者に比べて高い値を示した。 一方、 仕事の量的負担
子育て中の職員の同定やその職員の復職後の状況
度は既婚者子供ありの例でもっとも低い値を示した。
については、 育児休暇を取得された後、 復職される
さらに表3に仕事ストレスの社会的支援と心身のス
時に産業医の健診が必要であり、 産業医である筆者
トレス反応得点の平均値を示す。 既婚者で子供あり
が直接健診時に御願いして個人宛にアンケート調査
の例で活気やイライラ感は高い値を示したが、 すべ
用紙を配布・回収した。 しかし医師の場合、 育児休
ての項目において3群間で有意差は認められなかっ
業を取得されない (出来ない) 例が多く、 今までの
た。
やり方では十分な情報が得られずデータの収集がで
きないと考え所属長を通して、 既婚者用と未婚者用
既婚者子供ありと子供なしおよび未婚者の比較−1
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58
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
の2つの質問紙を用意し、 所属の女性医師に該当の
結
質問用紙を選んでもらい記入後の回収という形式
(やり方) をとった。 その結果、 子育て中の20名の
第1号
2010
語
本調査で、 「将来、 育児をしながら働く不安はあ
りますか?」 の問いに対し、 既婚で子供のある例で
貴重な回答と意見を得ることができた。
20名の背景では、 勤務年数5年以上の例が8割以
は95%が、 既婚で子供のない例では100%、 未婚者
上であった。 有給者の割合は50%で、 育児休業を取
では82%の例が 「不安はある」 と回答していた。 不
得された例は15%であった。 「将来、 育児をしなが
安のない、 働きやすい職場づくりを目指し、 産業医
ら働く不安はありますか?」 の問いには95%の例が
がまずやれることは、 子育て労働に対する職場の理
「不安がある」 と回答していた。 またその不安理由
解やサポートのための職場の健康教育や労働者本人
は、 働いている職場環境や他者の理解であると半数
の健康障害を引き起こさないメンタルヘルスケアの
以上の例が回答していた。 育児支援者は、 夫がもっ
充実・強化である。 早急に子育て労働者に対する個
5)
では90%を
人に応じた仕事ストレス対策の確立が望まれる。 最
超えていたのに比べ低い割合であった。 これは配偶
後に今回の調査に協力いただきました女性医師の皆
者 (夫) も医師であることが多く保育の確保が不可
様に深謝いたします。
とも多かったが、 前述の看護師の調査
欠であると考えられた。 「今、 あなたの職場におい
引用文献
て、 どのようなサポート (体制) が必要と思われま
すか?」 の問いでも、 子供を預けられる場所の回答
が上位に上がったのも当然と思われた。 外部の一般
1) シンポジウム
女性医師を取り巻く諸問題.
新潟医学会雑誌, 2008, 122 (10) :54154.
保育所を探すといっても社会の託児施設不足は深刻
2) 島津明人、 小杉正太郎、 鈴木綾子、 梨和ひとみ、
であり、 入所することが難しいなか、 医師家庭は年
加登朝子、 平賀光美、 入交洋彦、 北尾和代:ユ
収や不規則な勤務時間などが支障となり、 入所は困
トレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度日本
難を極める。 学内の保育所の拡充が望まれるところ
語版 (UWESJ) の信頼性・妥当性の検討.
産業衛誌, 2007, 80:3044.
である。 また子供の急な発熱で仕事中に保育所から
呼び出されること、 朝から出勤できないなどの事態
3) 下光輝一、 原谷隆史、 中村
剛司、 廣
調査結果において 「勤務に当たって育児で問題になっ
也、 大谷由美子、 小田切優子、 岩田
たこと」 であげられた最大の問題は 「子供の急病」
牧彦:主に個人評価を目的とした職業性ストレ
であり、 次に 「子供の感染症」 と病児保育の対応領
ス簡易調査票の完成. 労働省平成11年度作業関
域であるものが大半であったとの報告6) もある。 病
児保育施設があれば、 代替医師を探すための時間的
連疾患の予防に関する研究. 2000, 12664.
4) Schaufeli WB, Salanova M, Gonzailez-Roma V,
調整も可能であろう。 子育て女性医師の労働意欲得
& Bakker AB : The measurement of engagement
点は40.4±8.3と高く仕事に対して非常に意欲的であ
ることが明らかになった。 今回と同じ尺度を用いて
and Burnout. J Happiness Studies, 2002, 3:71
92.
5) 豊増功次、 河原田康貴、 松本悠貴:大学病院勤
調査した看護師の既婚女性 (子供の有無は不明) の
務看護師の子育て状況と仕事ストレスについて.
労働意欲得点は27.9±10.1であった7) ことからも労
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀
働意欲の高さが示された。 女性医師が働き続けるた
要, 2009, 17 (1) ,615.
6) 斉藤加代子:大学勤務の女性医師の支援と育成.
めには、 1.自身の意欲が高いこと、 2.働きやすい
職場環境であること、 3.配偶者 (多くは医師) や
尚典、 荒井
賢、 川上憲人、 林
はしばしば起こる。 子を持つ女性医師のアンケート
稔、 宮崎彰吾、 古木勝
昇、 鈴木
小児科診療, 2007, 70 (1).
周囲の理解と協力があること、 が必要と考えられる。
7) 松本悠貴、 豊増功次、 三橋睦子、 足達康子、 山
近年、 いろんな機会で女性医師の就労問題につい
下拓人:大学病院勤務看護師における労働意欲
て取り上げられている1) 8) 。 本学においても働きや
すい職場環境を目指して、 上司・同僚の理解を高め
る職場教育、 勤務体制 (労働時間・内容) の見直し
や改善、 給与や身分の保証なども必要であると考え
られた。
に影響を及ぼす因子の検討. 久留米医会誌,
2010, 73:13846.
8) 名越澄子、 中澤晶子:特別企画
女性医師の社
会的使命. 日消誌, 2010, 107:17.
59
=研究資料=
地域におけるアダプテッドスポーツイベントの
参加者評価
行
實
鉄
平
Participant Evaluation of an Adapted Sport Event in Community.
Teppei YUKIZANE
;アダプテッドスポーツ、 スポーツイベント、 参加者評価、 満足度、 スポーツベネフィット
諸
齢者、 女性といった様々な人が楽しむことのできる
言
スポーツへとその意味する対象の広がりを見せてい
障害者スポーツは、 障害を持った方々の 「①リハ
る。 最新スポーツ科学辞典2) によれば、 AS とは、
ビリテーションの手段として」、 「②健康増進や社会
「身体に障害のある人などの特徴に合わせてルール
参加意欲を助長するものとして」、 「③障害や障害者
や用具を改変、 あるいは新たに考案して行うスポー
に対する国民の理解を促進するものとして」、 これ
ツ活動を指し、 身体に障害がある人だけではなく、
まで主に医療や福祉の領域を中心にその普及が図ら
高齢者や妊婦等、 健常者と同じルールや用具の下に
れてきた1)。 しかしながら、 近年、 障害者スポーツ
スポーツを行うことが困難な人々がその対象となる」
の世界では、 より競技性の高い障害者スポーツ大会
ものと定義されている。 このように、 今日、 障害者
が様々な場で開催されるようになり、 我が国からも
スポーツに対する認識は、 リハビリテーションの延
注1)
。
長という考え方から、 競技するスポーツへ、 そして、
彼ら彼女らの姿は、 「パラリンピック」 が Paraplegia
障害の有無に関わらず多様な人々と日常生活の中で
Olympics ( 下 半 身 麻 痺 者 の オ リ ン ピ ッ ク ) か ら
楽しむスポーツへと広がりつつあると言えよう。 つ
Parallel Olympic (もう一つのオリンピック) へと
まり、 障害のない人にとってのスポーツの意義と障
意味内容を変化させたのと同様、 障害者スポーツを
害者にとってのスポーツの意義は、 今後、 一体化す
1つの競技スポーツとして多くの人に認知させる契
ると言っても過言ではない。
選手として参加する障害者が増加してきている
機となっている。 また、 「ディサビリティ・スポー
ツ Disability sport」 から 「アダプテッドスポーツ
しかしながら、 藤田3)4) は、 我が国の障害のある
人のためのスポーツ環境は、 未だ施設、 プログラム、
Adapted Sport (以下、 AS と略す)」 へといった障
指導者、 情報提供のどれをとっても十分とは言えな
害者スポーツを表現する言葉の広がりは、 いわゆる、
い状況にあり、 その結果、 教室や大会・イベントと
障害者のスポーツから、 健常者も含めた子どもや高
いったスポーツ活動に関わる障害者は、 極めて低調
徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部/久留米大学健康スポーツ科学センター研究員
60
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
であることを指摘する。 また、 武隈5) は、 障害者ス
ことできるメディア」 と定義することとした。 また、
ポーツに関する研究は、 そのほとんどが教育・心理・
スポーツイベントは一口にいっても、 その目的や対
生理・医学・リハビリテーションなどの立場から指
象となる人々の違いなどによって様々な種類があり、
導論や運動処方を含むプログラミングの方法論に関
規模や内容も様々である。 そこで、 本研究では、
わるものとなっており、 障害者スポーツの環境整備
AS の理念を体感的に理解できる可能性の高いイベ
という経営論に関する研究が極めて脆弱であること
ントとして、 運営者 (スタッフ) も参加者と共に楽
を指摘する。 このことから、 障害者スポーツの普及・
しむことのできる地域レベルのスポーツイベント、
振興を企図した研究は、 今後、 いわゆる 「指導論」
いうなれば、 地域における 「参加型障害者スポーツ
と 「経営論」 の成立を前提とし、 両者が相補的に現
イベント」 を開催し、 参加者に対して評価を行うこ
場実践に対して貢献するものでなければならないと
とで、 今後の AS イベント運営におけるマネジメン
言えよう。
ト課題を抽出することを目的とした。
さて、 障害者スポーツのイベントに関する研究は、
研究方法
これまで、 ボランティアの参加動機6)7)8) や、 組織
コミットメント9)、 役割構造による意識変容10)、 学
生の満足度11)といったイベントを支えるボランティ
1. AS イベントにおけるスポーツベネフィット
本研究では、 AS イベントの参加者評価を後に示
ア (供給サイド) に注目した研究が多くみられる。
す表2のように、 各プログラム (種目) の満足度評
一方、 参加者 (受給サイド) に注目した研究は、 各
価だけではなく、 スポーツベネフィットという視点
種イベントの実践報告12) 13) 14) の一部として示される
も取り入れ評価を試みた。
ものがほとんどであり、 藤田ら3) による全国身体障
スポーツベネフィットは、 スポーツを見たり行った
害者スポーツ大会の参加者を対象にした研究も見ら
りすることによって得られる効果、 利益、 価値、 意
れるが、 その内実は、 日常のスポーツ活動を調査し
識を総称するものであり、 経済的な意味合いよりも
たものとなっている。 つまり、 障害者スポーツのイ
むしろ、 社会学や心理学的色彩の強い言葉である18)。
ベントに関する研究は、 ボランティア及び実践報告
また、 Wankel&Berger19) は、 スポーツがもたらす一
に関するものがほとんどであり、 参加者によるイベ
般的なベネフィットとして 「①個人的楽しみ」、 「②
ント評価を行った研究は 蓄積されているとは言い
個人的成長」、 「③社会的調和」、 「④社会的変化」 と
難い。
いう4つの分類を示している。 しかし、 金山20) は、
翻って、 スポーツイベントは、 スポーツの普及・
スポーツイベントにおいては、 さらに拡張されたスポー
振興にとって不可欠なスポーツ事業の1つであり、
ツベネフィットこそがイベント戦略において重要であ
運営の仕方によっては大きな効果を期待できるもの
ると指摘する。 また、 スポーツイベントにおけるスポー
である。 しかしながら、 このイベントという概念は、
ツベネフィットは、 主催者がつくり出すスポーツイ
行事や催事とも混同され、 その捉え方は様々である
ベントの商品としての特性と消費者ベネフィットの
15)
16)
という 。 その中で、 田中 は、 イベントをプロデュー
組合せから生まれてくものであるとし、 恩田21)による
スする立場から 「行・催事のもっている特性や機能
「遊」 空間の商品特性と消費者ベネフィットを援用し
などの利用価値を媒介にして、 もうひとつ別建ての
た25のコンセプトからなるスポーツベネフィットを示
目的を達成しようとするのがイベントである」 とし
している。 具体的には、 前者のイベント主催者側か
ている。 これは例えば、 企業が自社製品の PR で関
らみた商品特性である、 ①魅力 (Attraction)、 ②娯楽
わることや、 行政が地域振興という個別の目的をもっ
(Amusement) 、 ③ 雰 囲 気 (Atmosphere) 、 ④ 態 度
て関わることなどを指すものと言えよう。 また、 小
(Attitude)、 ⑤交通機関 (Access) の5A(5次元) と、
坂17) はイベントを 「目的をもって、 特定の期間に、
後者のイベント参加者側からみた消費者ベネフィッ
特定の場所で、 対象となる人々に個別的、 直接的に
トである 、 ① 利 便 性 (Communication) 、 ② 快 適 性
「刺激」 を体感させるメディアである」 とも定義し
(Comfort)、 ③信頼性 (Confidence)、 ④情報発信性
ている。 よって、 本研究では、 AS イベントを上記
(Communication)、 ⑤選択制 (Choice) の5C(5次元)
のような定義に即し、 「障害者スポーツで行われる
のマトリクス(5×5) からなる25項目のスポーツイ
各スポーツ種目の普及・振興を促すとともに、 それ
ベントにおけるスポーツベネフィット・コンセプトで
を参加者にアダプテッドスポーツとして認知させる
ある。
地域におけるアダプテッドスポーツイベントの参加者評価
61
そこで、 本研究では、 この金山20) を参考に、 AS
と、 ②平成20年度∼平成21年度の文部科学省委託事
イベントにおけるスポーツベネフィットの測定道具
業注2) により、 障害者スポーツイベントを大学にお
(インディケーター) を開発することを試みた。
い て 実 施 し た 実 績 が あ る こ と 、 ③ AST (adapted
2. AS イベントの開催
的な活動を実践していること等があげられる。 また、
sports team) という学生サークルが存在し既に自主
本研究では、 先に示した AS イベントの定義に即
今回の AS イベントにおいては、 施設・用具・指導
した、 いわゆる、 地域における参加型障害者スポー
者・資金・広報等といったイベントに関わるすべて
ツイベントをK大学において企画・開催してもらう
の運営を AST メンバー (大学生) に担っていただ
ことにした (表1)。 この AS イベントをK大学で
き、 ボランティア (素人) ベースで作り上げた AS
開催した理由は、 ① (財)日本障害者スポーツ協会
イベントのマネジメント課題をより鮮明に抽出する
公認障害者スポーツ指導者養成校 (中級) であるこ
ことにした。
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62
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
3) AS イベントに対する評価
3. 調査内容の概要
本研究では、 上述した研究目的の達成に関わる調
第一に、 各種目の満足度は、 「1. 非常に不満足」
査内容として、 表2に示しているように 「1. 対象
から 「5. 非常に満足」 までのリッカート型尺度の
者の基本的特徴」、 「2. 対象者の運動・スポーツ活
5段階評定を用いて回答していただき、 これらの回
動」、 「3. AS イベントに対する評価」、 といった
答は、 間隔尺度を構成するものと仮定した上で、
3つの観点 (大項目) を設定し、 それぞれの大項目
「1. 非常に不満足」 1点から 「5. 非常に満足」
のもとに中項目・小項目の質問項目を設定した。 こ
5点までの得点化を行い、 平均値を算出した。 また、
こでは、 主要な質問項目の回答形式について説明し
不満足種目の具体的内容及び今後取り入れてほしい
ておきたい。
希望種目については、 自由回答法により測定し、 KJ
法によるカテゴリー分類を行った。
1) 対象者の基本特徴
第二に、 スポーツベネフィットの各インディケー
性別、 世代、 障害有無、 参加回数、 参加形態、 参
ターは、 AS イベントに即したワーディングを用い、
加媒体、 及びイベントへの関わり (役割) について
20項目を精選・作成した (表3)。 なお、 表3の斜
は、 単一回答方式 (多項選択方式) により測定した。
線で示したマトリクス (5項目) は、 金山20) に示さ
また、 障害のある方については、 その具体的な内容
れる内容だが、 本研究で対象とする AS イベントで
について直接記入方式により把握した。
は想定できない項目 (除外した項目) を示している。
また、 各項目は、 「1. まったくあてはまらない」
2) 対象者の運動・スポーツ活動
から 「5. 大いに当てはまる」 までのリッカート型
「する」 スポーツへの関わりは、 日頃の運動・ス
尺度の5段階評定を用いて回答していただき、 これ
ポーツ活動頻度を、 「みる」 スポーツへの関わりは、
らの回答は、 間隔尺度を構成するものと仮定した上
ここ1年間のスポーツ観戦・視聴状況を、 「ささえ
で、 「1. まったくあてはまらない」1点から 「5.
る」 スポーツへの関わりは、 ここ1年間のスポーツ
大いにあてはまる」5点までの得点化を行い、 分析
ボランティア活動内容を、 単一回答方式 (多項選択
に応じた数値の算出を行った。
回答形式) により測定した。
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地域におけるアダプテッドスポーツイベントの参加者評価
63
析22)により結果の集約を行った。 因子分析の手順は、
4. 調査方法
本研究における調査は、 K大学で開催された 「第
第一に、 KMO (Kaiser-Meyer-Olkin) の統計量、 及
2回ふれあいスポーツフェスタ∼障害のある人も、
び Bartlett の球面性検定を実施し、 各インディケー
ない人も、 大人も子どもも、 みんなで楽しもう∼」
ターの妥当性を検証した。 第二に、 因子分析 (主因
の参加者を対象に質問紙調査が実施された。 実施日
子法:バリマックス直行回転) を実施し、 AS イベ
は、 2010年12月12日。 実施方法は、 イベント閉会式
ントのスポーツベネフィット因子を抽出した。 第三
終了後に調査票を配布し、 その場で回収する直接回
に、 各因子の信頼性分析を実施し、 Cronbach のα
収法により行われた。 その結果、 110名から質問紙
係数を算出した。 また、 対象者の特徴 (障害有無及
調査票を回収することができた。 しかしながら、 不
び参加回数) との分析においては、 必要に応じてt
完全な調査票も含まれていたことから、 最終的には、
検定を行った。
99名 (有効標本回収率90.0%) の調査票を分析に使
結果と考察
用することにした。
1. 調査対象者の特徴
5. 分析方法
表4は、 調査対象者の特徴を示したものである。
AS イベント参加者の基本的特性、 及び運動・ス
まず、 性別及び世代は、 「男性」 が59.2%、 「20代」
ポーツ活動については、 基本的に単純集計及びクロ
が65.3%で最も多かった。 次に、 障害の有無は、
ス集計を用いて分析を行った。 また、 AS イベント
「なし」 が77.4%で健常者の参加が7割を占めた。
に対する評価は、 各種目の満足度およびスポーツベ
また、 障害を有する参加者 (22.6%) の具体的障害
ネフィットといった2つの視点で分析を進めた。 前
内容は、 「知的障害」 23.8%と、 「広汎性発達障害」
者の満足度については、 単純集計 (平均値比較) 及
14.3%をあわせた広い意味での知的障害を有する参
びカテゴリー分析を行った。 一方、 後者のスポーツ
加者が38.1%で最も多く、 次いで、 「頚椎損傷」 が
ベネフィット (20項目) については、 探索的因子分
28.6%であった。 このように、 対象者の属性に関し
64
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
ては、 健常者である若い男性の参加者が多くみられ
第18巻
第1号
2010
た。 一方、 障害を持った参加者は、 全体の約2割で、
その具体的障害については、 知的障害者及び頚椎損
傷を主とした肢体不自由者の参加者が多かった。
次に、 参加回数及び参加形態は、 「初回」 が65.6
%、 「大学・大学サークル」 が55.7%で最も多かった。
また、 参加媒体は、 「大学・大学サークル」 25.0%、
「障害者スポーツ協会」 20.8%、 「学校の先生」 19.8
%、 「知人・友人」 18.8%が多く、 イベントへの関わ
り (役割) は、 「一般参加 (観戦)」 58.3%、 「運営
スタッフ」 30.2%で多くの割合が示された。 このこ
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とから、 対象者のイベント参加状況に関しては、 障
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7892
害者スポーツ協会や知人・友人から情報を得て参加
!:3!"#$;<
している人もいるが、 その多くが、 初めて参加する
大学生であることがわかる。
2. 対象者の運動・スポーツ活動
ここでは、 対象者の日頃の運動・スポーツ活動に
ついて見ていきたい。 まず、 表5の 「する」 スポー
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ツへの関わりである運動・スポーツ活動の頻度は、
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ツ活動実践者は69.4%となっている。 次に、 表6の
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「みる」 スポーツへの関わりであるスポーツ観戦・
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視聴状況は、 「直接観戦 (球場やスタジアムに足を
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運ぶ) した」 26.0%、 「間接的観戦 (TV,新聞等) し
た」 37.5%、 「直接・間接的観戦ともにした」 27.1%
3. AS イベントに対する評価
をあわせた観戦・視聴状況は、 90.6%であった。 ま
1) 各種目の満足度
た、 「みる」 スポーツへの関わり効果の高い、 直接
図表1は、 AS イベントにおいて実施した7種目
観戦及び直接・間接的観戦両方をあわせた直接観戦
に対する満足度評価を示したものである。 まず、 全
を行っている人は、 53.1%となっている。 次に、 表
体的な評価を示す 「全体的に」 項目の平均値は、
7の 「支える」 スポーツへの関わりであるスポーツ
4.46ポイントで、 非常に高い満足度となっている。
ボランティアの活動状況は、 「定期的 (教室やサー
次に、 各種目での満足度を見てみると、 「車いすリ
クル等) な活動をした」 人が43.0%、 「単発的 (大
レー」 (4.68) が最も高く、 次いで 「車いすツイン
会やイベント等) な活動をした」 人が22.6%となっ
バスケットボール」 (4.24)、 「風船バレーボール」
ており、 これらをあわせたスポーツボランティア活
(4.20) が高い満足度を得た種目となっている。 一
動を行っている人は、 65.6%であった。 また、 表8
方、 これらの種目に比べ、 「サウンドテーブルテニ
の現在スポーツボランティア活動を行っていない人
ス」 (3.66)、 「フライングディスク」 (3.78) は、 満
の今後の希望においても、 「今後活動してみたい」
足度の低い種目となっている。 しかしながら、 これ
が40.6%で 「わからない」 18.8%に比べ、 多くの割
らの種目は、 3.00ポイントを超えるものであり、 一
合を占めている。
定以上の満足度を得ているといえよう。
これらのことから、 今回の AS イベント参加者は、
次に、 表9は、 不満足だった種目 (プログラム)
「する」 スポーツへの関わりのみならず、 「みる」、 「支
の具体的内容に関する自由記述を KJ 法によりカテ
える」 といった運動・スポーツ活動においても、 バラ
ゴリー別に示したものである。 各カテゴリーは、 種
ンスよく実践している人たちであることがわかる注3)。
目に関する内容が5つ、 運営に関する内容が3つに
地域におけるアダプテッドスポーツイベントの参加者評価
65
集約された。 その中で、 「風船バレーボール」 は最
また、 Bartlett の球面性検定においては、 有意確率
も多く、 具体的には、 試合のルール (審判のジャッ
が0.1%水準で認められたことから、 各項目の妥当
ジ) に関するものが多くみられた。 また、 運営に関
性は保証されるものとし、 この20項目すべてを採用
しては、 「種目の同時進行」 に多くの不満内容が見
し分析を進めることとした。
られ、 具体的には、 時間的な余裕がなくすべての種
次に、 スポーツベネフィット (20項目) の探索的
目を体験できなかったことがあげられている。 これ
因子分析では、 1回目の因子分析 (主因子法:回転
らの意見は大変貴重なものであり、 次回のイベント
なし) による初期の固有値が1以上、 分散の累積%
に反映させるべき内容といえよう。
が64,935%となった4因子をスポーツベネフィット
次に、 表10は、 今後の AS イベントで取り入れて
因子として採用し、 2回目の因子分析 (主因子法:
ほしい希望種目を 「今回実施した種目」 と 「今回実
バリマックス直行回転) による因子得点 (.40以上)
施していない種目」 に分類し、 多い種目で順に示し
を算出した結果、 表11のような20項目からなる4因
たものである。 今回実施した種目については、 「風
子構造を得ることができた。 ちなみに、 第1因子は、
船バレーボール」、 「車いすツインバスケットボール」
SB⑦
SB⑧
SB⑨ といった誰もが参加でき、
が多く挙げられている。 一方、 今回実施していない
楽しむことのできる空間の創造を意味する娯楽とい
種目については、 「ボッチャ」 が最も多く挙げられ、
う要素、 及び SB⑩
次いで、 「車いすバスケットボール」、 「車いすサッ
ベントに没頭できる雰囲気や非日常に浸れる雰囲気
カー」、 「卓球バレー」 の順となっている。 また、 こ
といった要素の項目で集約されることから、 「娯楽・
こで挙げられている種目を集約すると 「車いす」 に
雰囲気因子」 と命名した。 第2因子は、
関する種目が多いことに注目できる。 よって、 次回
SB②
SB③
SB⑪
SB⑫ といったイ
SB①
SB④ といった日常生活とは異
の AS イベントの種目を検討する際は、 継続希望の
なる場所、 人、 体験といったイベントの魅力に関す
多い種目を残しつつ、 「車いす」 を使用する種目の
る項目で集約されることから、 「魅力因子」 と命名
新たな導入を検討すべきと思われる。
した。 第3因子は、 SB⑬
SB⑮
SB⑯ といっ
たスタッフの対応に関する項目で集約されることか
2) AS イベントのスポーツベネフィット
①スポーツベネフィット因子の妥当性・信頼性の検討
ここでは、 スポーツベネフィットを用いた AS イ
ベントの評価分析を進めていくために、 まず、 AS
ら、 「態度因子」 と命名した。 最後の第4因子は、
SB⑰
SB⑱
SB⑲
SB⑳ といった会場ま
でのアクセスや会場内の掲示物に関する項目で集約
されることから、 「アクセス因子」 と命名した。
イベントにおけるスポーツベネフィットとして精選・
次に、 各因子の主成分分析及び信頼性分析では、
作成した各インディケーター (20項目) の妥当性を
各因子ともに第一主成分のみの抽出となり、 表11に
検証した。 その結果、 各項目間の KMO 統計量は
示すように、 固有値が2.428-4.342、 分散が54.276%-
.867であり、 かなり良い値23) を得ることができた。
80.936%、 α係数が0.785-0.880で、 各因子の説明力
66
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
地域におけるアダプテッドスポーツイベントの参加者評価
SB⑫
67
(参加費がかかっても参加したいと思う:3.
88)、 SB⑧ (本物に身をゆだねる楽しさがあった:
3.96) が、 「魅力因子」 は、
SB④
(選択できるメ
ニューが豊富にあった:3.79) が他の項目に比べ低
い評価となっている。 また、 「態度因子」 は総じて
高い評価であるものの、 「アクセス因子」 において
は総じて低い評価となっている。
以上のことから、 AS イベントにおけるスポーツ
ベネフィットは総じて高い評価を得ているものの、
会場までのアクセスや会場内の掲示物といったアク
セス性、 選択できるメニューの豊富さや本物志向と
いったプログラム内容に関するものは、 評価の低い
内容となっており、 今後の AS イベントにおいて検
討すべき要素といえよう。
③障害有無別にみる AS イベントの評価
図表3は、 AS イベントのスポーツベネフィット
評価を参加者の障害有無別に示したものである。 ま
ず、 全体的な評価としては、 障害を有する参加者が
健常者に比べ、 高い評価をしていることがわかる。
次に、 各項目別に見てみると、
ことで気分爽快になった)、
SB⑪
SB⑮
実で安心できる対応があった)、
(参加する
(スタッフの確
SB⑬
(スタッフ
のいき届いたきめ細かい心配りがあった)、
(固有値、 分散) 及び信頼性 (α係数) においても
十分な値を得ることができた。
以上のことから、 AS イベントのスポーツベネフィッ
ト (4因子20項目) は、 妥当性・信頼性をもったイ
ンディケーターであるといえよう。
②AS イベントのスポーツベネフィット評価
図表2は、 AS イベント参加者におけるスポーツ
ベネフィットの全体的な評価を示したものである。
まず、 各項目別に見てみると、 評価の高い項目とし
ては、 「魅力因子」 の SB②
(日頃体験できない
スポーツを楽しめるものであった:4.63) や、 「娯
楽・雰囲気因子」 の SB⑭
(人と人との触れ合い
があった:4.52) をあげることができる。 一方、 評
価の低い項目としては、 「アクセス因子」 の SB⑱
(会場までの交通手段が豊富であった:3.64) や、
SB⑲
(会場《体育館》内の掲示物が適切でわか
りやすかった:3.71) があげられよう。 次に、 各因
子別に見てみると、 「娯楽・雰囲気因子」 では、
SB⑳
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68
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
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(会場《体育館》内の移動がスムーズであった)、 の
加者を見てみると、2回目の参加者に比べて 「アク
4項目においては、 有意差 (5%水準) を認めるこ
セス因子」 は高い評価であるものの、 「娯楽・雰囲
とができた。 さらに、 各因子別に集約して見てみる
気因子」 及び 「魅力因子」 に関しては、 総じて低い
と、 障害を有する参加者は、 特に 「態度因子」 にお
評価であることがわかる。 また、 具体的な項目では、
いて高い評価であることがわかる。
このことから、 障害有無別にみた AS イベントの
SB⑰ (アクセスが容易な場所で開催されていた)、
SB⑲
(会場《体育館》なの掲示物が適切でわか
スポーツベネフィット評価は、 健常者に比べ、 障害
りやすかった)、 の2項目で、 有意差 (5%水準)
を有する参加者で総じて高い評価を見ることができ、
を認めることができた。 一方、2回目の参加者を見
その中でも、 スタッフのきめ細かな対応といった
てみると、 「娯楽・雰囲気因子」 及び 「魅力因子」
「態度因子」 において高い評価を得ていることが明
は高い評価であるものの、 「アクセス因子」 におい
らかとなった。
ては、 低い評価となっている。 また、 具体的な項目
では、
④参加回数別にみる AS イベントの評価
図表4は、 AS イベントのスポーツベネフィット
評価を参加回数別に示したものである。 初めての参
SB⑥
(楽しみながら、 役立つ《勉強にな
る》ものであった)、
SB⑦
(我を忘れてプレーで
きる《楽しめる》ものであった)、 の2項目におい
て有意差 (1%水準以上) を認めることができた。
地域におけるアダプテッドスポーツイベントの参加者評価
このことから、 参加回数別にみた AS イベントの
69
を抽出することを目的とした。
スポーツベネフィット評価は、 回数を重ねるごとに
その結果、 第一に、 各種目プログラムの満足度は、
魅力ある楽しいイベントとしての評価が高くなる一
全体的に高い評価を得ていることがわかった。 その
方、 イベント会場までのアクセスや会場内の掲示物
中でも 「車いすリレー」、 「車いすツインバスケット
といったわかりやすさの面に関しては、 厳しい評価
ボール」 といった 「車いす」 を使った種目は、 高い
となっていることが明らかとなった。
評価となっている。 また、 「車いす」 を使った種目
結
は、 今後の AS イベントで取り入れてほしい希望種
論
目としても多数あげられていることから、 継続して
本研究は、 地域における参加型障害者スポーツイ
採用すべき種目といえる。 一方、 「車いす」 を使っ
ベント (AS イベント) の参加者評価を各種目の満
た種目に比べ、 「サウンドテーブルテニス」、 「フラ
足度及びスポーツベネフィット測定により検討し、
イングディスク」 は、 低い評価となっている。 これ
今後の AS イベント運営におけるマネジメント課題
らの種目に関しては、 種目特性を熟知し、 参加者が
70
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第18巻
第1号
2010
より楽しめる要素 (ゲーム性を取り入れたり、 ルー
「態度因子 (3項目)」、 「アクセス因子 (4項目)」 の
ルを変更したり) を検討していくことが必要となろ
4因子20項目から成り立つことを明らかにできた。
う。
そして、 AS イベントのスポーツベネフィット評価
第二に、 不満足だった種目の具体的内容は、 種目
は、 総じて高い評価を得ているものの、 会場までの
に関する内容 (5つのカテゴリー) と、 運営に関す
交通や会場内の掲示物といったアクセス性、 選択で
る内容 (3つのカテゴリー) に集約された。 その中
きるメニューの豊富さや本物志向といったプログラ
でも、 「風船バレーボール」 の試合ルール (審判の
ム内容に関するものは低い評価内容であった。 よっ
ジャッジ)、 及び 「種目の同時進行」 による体験で
て、 今後の AS イベントでは、 このようなスポーツ
きない種目あったという内容に関しては、 今後の
ベネフィット項目の低い内容に関して意識的に対応
AS イベントにおいて反映すべき内容といえる。
していくことが望まれる。
第三に、 AS イベントのスポーツベネフィットは、
第四に、 参加者の特性によるスポーツベネフィッ
「娯楽・雰囲気因子 (8項目)」、 「魅力因子 (5項目)」、
ト評価では、 いくつかの相違を明らかにすることが
地域におけるアダプテッドスポーツイベントの参加者評価
71
できた。 まず、 障害有無別の評価では、 スタッフの
ポーツとして認知させることできるメディア」 と定
きめ細かい対応といった、 主に 「態度因子」 の項目
義した。 よって、 今後の研究においては、 AS イベ
において、 障害を有する方の評価が高いことが認め
ントの評価だけでなく、 このような AS イベントを
られた。 次に、 参加回数別による評価において2回
通して醸成される参加者の意識変化を測定・検証し
目の参加者は、 初めての参加者に比べ、 アクセス因
ていくことも残された課題と考える。
子の項目は低い評価であるものの、 それ以外の因子
項目においては、 総じて高い評価であった。 このこ
付記
とから、 AS フェスタの魅力は、 参加を重ねること
本研究は、 平成22年度 (財) 住友生命健康財団ス
で獲得できるものであると考えられ、 よって、 初め
ミセイコミュニティスポーツ推進助成プログラム
ての参加者が参加しやすい雰囲気を作っていくこと
「地域におけるアダプテッドスポーツ環境の構築に
も大切ではあるが、 継続参加者によるリピーターの
関する研究」 (研究代表者:行實鉄平) の一部とし
獲得は、 AS という魅力を醸成する大切な取り組み
て行われたものである。
であるとも考えられよう。
謝
今後の課題
辞
本研究では、 障害者スポーツイベントの参加者評
本研究遂行にあたり、 満園良一氏 (久留米大学健
価を、 単に各種目プログラムの満足度だけではなく
康・スポーツ科学センター)、 山下大介氏 (福岡市
スポーツベネフィットという指標を作成し、 複合的
障害者スポーツセンター) には、 適切な研究・調査
な視点で吟味・把握しようと努力した。 と同時に、
環境の整備にご配慮を頂きました。 ここに記して謝
障害有無別や参加回数別といった AS イベント参加
意を表します。
者の特徴によってどのような相違がみられるのかに
ついても浮き彫りにしようと試みた。
注
しかしながら、 本研究の分析を進めていくうえで
注1) 北京パラリンピック競技大会報告書24)によれ
3つの問題が今後の重要な検討課題として残された。
ば、 東京 (1964) パラリンピックの参加選手団
第一に、 本研究では、 金田20) を参考に4次元20項目
は53人だったのに対し、 北京 (2008) パラリン
からなる AS イベントのスポーツベネフィットとい
う仮説的構成概念と各インディケーターを構築・設
ピックでは、 162人で過去最多となっている。
注2) 文部科学省では、 「総合型地域スポーツクラ
計したが、 このマトリクス項目以外を検討していな
ブを核とした活力ある地域づくり推進事業」
い。 よって、 AS イベントのスポーツベネフィット
(2008、 2009、 文部科学省委託事業) を実施して
をより精緻に分析する測定項目の検討は、 残された
おり、 具体的には、 ① 「働き盛りの年代のスポー
課題となる。
ツ参加機会の創出」 (H20、 H21:1 クラブ)、
第二に、 本研究では、 参加者の特性による分析を
「②高齢者の運動・スポーツ活動への参加機会
行ったが、 今回の AS イベントの参加者 (調査対象
向上」 (H20:3 クラブ、 H21:1 クラブ)、 「③スポー
者) の特性に大きな偏りが見られる。 つまり、 健常
ツ参加意識の向上」 (H20:2 クラブ、 H21:3 ク
者大学生の意見を大きく反映した結果となっている。
ラブ)、 「④子どもスポーツ活動の充実」 (H20、
よって、 今後はサンプリングの問題も検討した分析
H21:4 クラブ)、 「⑤女性のスポーツ参加機会の
を行う必要があるといえよう。
最後に、 AS という概念の理解は、 我が国が近い
向上」 (H20:1 クラブ、 H21:2 クラブ)、 そして、
「⑥障害者のスポーツ参加機会の向上」 (H20、
将来、 体験することになる超高齢社会におけるスポー
H21:2 クラブ) といった6課題に取り組む総合
ツの普及振興を考えていくうえで、 また、 ノーマラ
型クラブが選定された。 その中でK大学は、 ⑥
イゼーションやインテグレーションといった社会理
の実践モデルとして活動を行った。
念を幻想ではなく実現させるために、 重要な鍵概念
注3) スポーツ経営学が目的としている 「豊かなス
であると考える。 本研究では、 AS イベントを 「障
ポーツライフ」 の内実は、 スポーツへの多様な
害者スポーツで行われる各スポーツ種目の普及・振
関わり (する・みる・支える) をバランスよく
興を促すとともに、 それを参加者にアダプテッドス
実践することであるが、 現状としては、 「する」、
72
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
「みる」 といった関わりに比べ、 「支える」 関わ
りは低調であることが指摘されている。
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23) 佐藤進・出村慎一. 潜在的な構成要因 (因子)
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進編. 健康・スポーツ科学のための SPSS によ
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p.118-30.
24) 財団法人日本障害者スポーツ協会日本パラリン
ピック委員会. 2008北京パラリンピック競技大
会報告書. 2009.
73
1. 投稿資格
1) 本誌への投稿は、 原則として久留米大学健康・スポーツ科学センターの教職員 (専任教員・兼任教員・
兼担教員・非常勤講師・技術系職員) 及び研究員、 研究生によって行われるものとする。 但し、 研究
生の場合は、 指導教員との連名とする。
2) 第一著者が本センターの教職員・研究員以外の場合は、 本センター教職員との連名とする。
3) その他、 特別に編集委員会で認めた者とする。
2. 原稿一般規定
1) 人間を対象とした研究の原著論文では、 ヘルシンキ宣言の精神に則り実施することとする。
2) 実験動物を対象とした研究の原著論文では、 「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指
針」 および 「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」 に従い計画し実施するものと
する。
3) 原稿の種類は、 総説、 短総説、 原著論文、 研究資料、 短報、 事例報告、 内外の研究動向、 研究上の問
題提起、 技術報告、 その他とし、 和文もしくは英文とする。
3. 原稿執筆規定
1) 原稿のフォーマット:原稿はパーソナルコンピュータを用い、 標準的なソフトウェアで作成する。
A4縦置き横書きを基本として、 上下左右に25mmの余白をとる。 和文の場合は1ページ1200字 (40
字×30行) になるように、 英文の場合は、 1ページ30行になるように設定する。
2) ファイルのフォーマットについて、 文章 Word 形式、 図・表は Excel あるいは PowerPoint 形式とする。
特殊なソフトウェアを使用して文章及び図・表を作成した場合は、 論文に掲載する形で PDF ファイ
ルを作成して、 使用ソフトウェアの名称、 バージョンを明記し原稿に同封し提出する。 論文の版組み
を指定する場合は論文に掲載する形で PDF ファイルを作成して、 原稿に同封し提出する。 図は原則
としてグレースケールで印刷する。 特にカラーでの図掲載を希望する場合は、 図をグレースケールと
カラーそれぞれで印刷し、 グレースケール原稿の裏にその旨を記載する。 ただし図をカラーにするか
否かについては、 編集委員会で決定する。 全ての原稿は本文 [表紙、 抄録、 謝辞、 引用文献を含む]、
図・表および図・表の説明をひとつのフォルダにまとめる。
3) 原稿:第1枚目は原稿表紙として、 表題、 著者名、 所属、 キーワード (5語以内)、 原稿の種類、 原
稿用紙枚数、 図・表の数、 別刷り希望部数を記入する。 但し、 短報については原稿の1枚目から表題、
著者名、 所属、 キーワード (5語以内) を記し、 ついで本文を書く。 短報は刷り上がり4ページ以内
(原稿8ページ程度) とする。
4) 原著論文の抄録:第2枚目に、 論文の本文が和文の場合は英文抄録をつける。 論文の本文が英文の場
合は和文抄録をつける。
5) 図・表:和文あるいは英文で適切な題目と説明をつける。 図・表の挿入箇所は、 本文中で挿入する個
所の前後に1行空け、 括弧内に図・表番号を書き入れて指定する。 短報については、 図・表を合わせ
て4枚以内とする。
6) 項目:項目の順番は、 原則として次のとおりとする。
(1) 大項目;緒言、 方法、 結果、 考察、 引用文献
など
(2) 小項目;1、 2、 …、 1)、 2)、 …、 (1)、 (2)…、 ①、 ②、 …
7) 引用・参考文献:本文中で文献に言及した場合、 著者名の右肩か文の右肩に末尾の文献表に照合する
番号をつける。 3人以上の共著の場合、
ら" たち" et al." を用いる。
例1. 吉水8) によれば……
例2. Toyomasu & Yoshida9)10) ……
例3. 満園ら5) ……
8) 文献表:末尾文献表の順序は、 引用あるいは参考順に整理して本文中の番号と照合出来るようにする。
74
文献表の著者名は省略しないで記入する。 但し、 6名を超える場合は、 6名以降の著者は et al、 あ
るいは他を用い省略してもよい。
4. 原稿の著作権・複製権・公衆送信権について
原稿の著作権・複製権・公衆送信権については、 久留米大学
健康・スポーツ科学センターに帰属する
ものとする。 また著者本人が公衆向けに公開あるいは送信する場合は、 編集委員会の承諾を得るものとす
る。
5. 投稿原稿の送付先
下記の久留米大学
健康・スポーツ科学センター紀要編集委員会Eメールアドレスに原稿を添付して送
付する。
紀要編集委員会Eメールアドレス:[email protected]
6. 校正
編集委員会の決定した期日内で、 校正は初校のみ著者が行い、 2校以降は編集委員により行う。 英文タ
イトルおよび英文要旨については、 初校時に編集委員会が依頼するイングリッシュカウンセラーによる校
正をうけるものとする。 またその際の費用については久留米大学
健康・スポーツ科学センターが負担す
る。 英文論文については、 著者が望めば初校時にイングリッシュカウンセラーによる校正をうけることが
できる。 ただし、 その際の費用は著者負担とする。
7. 別冊料
別冊50部を無料とする。 それ以上必要とする場合には著者は、 必要部数を投稿時に申し込む。 但し、 そ
の分の実費は著者負担とする。
2010年12月31日
編
集
後
記
研究紀要の刊行は18巻を数えますが、 昨年度の英文タイトルに加え、 原著における英文抄録
(3編) のネイティブによる校正も、 今回、 初めて導入出来ました。 ネイティブによる英文校正の
導入を編集委員会で決定してから、 3年目で実現したことになります。 同時に、 4年ぶりに投稿原
稿が1桁台の9編です。 また、 印刷所が変わったことにより、 論文以外の体裁として、 印刷物の経
緯などに間違い (14巻からの分) に気づくことになりました。 いずれにせよ、 研究紀要のより一層
の充実を図るためにも、 より正確な校正を経た刊行に務めていきたいと切に思っていますので、 今
後とも関係者の協力方宜しく御願いします。
久留米大学健康・スポーツ科学センター研究紀要
第 18 巻
平成22年12月
編
発
集
行
久留米大学健康・スポーツ科学センター
〒8398502 久留米市御井町1635
編
集
発 行 者
滿園
印 刷 所
有限会社 もろふじ印刷
良一・辻本
〒830-0074
尚弥
久留米市大善寺町夜明1116
VOL. 18
CONTENTS
ORIGINALS
Kinetics of Central Cardiovascular Variables and Oxygen Uptake during
Constant Heavy-Intensity Exercise.
Takashi MIGITA, Marzorati MAURO, Porcelli SIMONE,
and Marconi CLUDIO ……………………………………………………………………
1
Relationship between Lifestyle, Social skills,
and Mental Health of University Students.
Tomohiro OGATA and Kouji TOYOMASU …………………………………………… 11
Effects of Running Training on the Rat Plantaris Muscle
during the Middle Maturation Period.
Hisaya TSUJIMOTO and Hideki SUZUKI……………………………………………… 19
NOTES
An Examination of Effective Factors for Infant Activities
Based on Different Parental Relationships.
Yuki KOGA and Kouji TOYOMASU ………………………………………………… 25
Clinical Significance of Electrocardiography for Medical Screening
of Competitive Athletes at Kurume University
: Comparison with Medical Screening at Other Universities.
Kayo KOMIYA, Yukiko SHIRASAKA, Yumiko IWASAKI, Yukari TAKAMOTO,
Ikimi YOSHIDA, Noriko YOSHIDA and Kouji TOYOMASU ……………………… 33
School Social Work Duties of Psychiatric Social Workers.
Ryo OHNISHI, Norihito FUJISHIMA, Nataliya PODOLYAK, Lifen HAU,
Kazuya SUENAGA, Kazuo YONEKAWA and Shusaku TSUJIMARU ……………… 39
Changes in Nutritional Status and Body Composition
of Male College Distance Runners.
Ryouichi MITSUZONO, Mitsuharu INAKI, Tomoe UENO and Kanae SASAKI …… 47
Child Care Conditions and Work Stress in University Hospital Doctors.
Kouji TOYOMASU and Yuuki MATSUMOTO ……………………………………… 53
Participant Evaluation of an Adapted Sport Event in Community.
Teppei YUKIZANE ……………………………………………………………………… 59
2010
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