...

雑草よもやま話(1)

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

雑草よもやま話(1)
雑草よもやま話(1)
雑草とはどのような植物?
雑草とはどのような植物でしょうか。
てくるのです。よく見れば季節や場所によ
雑草の定義については多くの学者が提言し
って発生してくる雑草の種類が異なること
ており、伊藤教授は「雑草は人間の撹乱の
に気が付かれるでしょう。「名も無き雑草」
内側で自然に発生する植物群であり、栽培
などと言われますが、名前が無い雑草はあ
植物は人間の手助けが無けれ
りません。「名も知らぬ雑草」と
ば繁殖しない植物群」とされ
言うべきです。
ています。また、雑草は山野
農業は雑草との戦いと言わ
草、人里植物、作物(栽培植物)
れ、農耕地や庭園に雑草が生え
のすべてにまたがった植物群
ないようにしたいと願ってい
と言われています。
る方は多いでしょう。しかし、
しゅ
植物の種 によっては明らかに
上述のように雑草は人間の生
雑草と呼べる植物もあります
活の場に生えてくる植物です。
が、大豆畑に生えた麦は雑草
開墾したばかりで雑草も生え
ですし、一般的には雑草と呼ばれる植物も
ない土地では、作物も生育しないことが知
食用や観賞用に栽培すれば立派な作物です。
られております。
簡単に考えれば「雑草は、人間の生活の場
雑草は作物と太陽の光や肥料分、水分を
に自然に発生してくる望まない植物」と言
取り合って作物の生育を阻害したり、病害
えるでしょう。
虫の棲家となったり、景観を悪くしたりす
雑草は自然に生えてきて、しかもたくま
るため、嫌われ者の代表になっております
しく生育します。「雑草のようにたくまし
が、最近では遺伝資源としての有用性が見
い」と言われる所以ですが、いつも同じ種
直されたり、生物の多様性保持の観点から、
の植物が生えてくるわけではありません。
徒に雑草をすべて除去することの是非が議
その場(環境)で最も育ちやすいものが生え
論されております。 (IK)
1
雑草よもやま話(2)
水田除草剤の経済効果は 8,522 億円!
水田の草取りを経験された方はご存知で
要約すると、ヘクタール当り換算で 43.7
すが、極めて苛酷な労働です。今から約 50
万円となり、
日本全体での経済効果は 8,522
年程前までは、人力によってすべての水田
億円と非常に大きな金額となります。
で草取りが行われてきました。除草剤が全
では、この金額を誰かに負担頂ければ、
く使われていなかった 1949 年(昭和 24 年)
除草はすべて人力でできるのでしょうか。1
に、水田の除草のための労働時間はヘクタ
日 8 時間労働として、1ha の水田を除草す
ール(ha)当り 506 時間でし
るのに約 63 人が必要で、
た。
2004 年の作付けが日本全体
それが除草剤の普及に伴
で約 170 万 ha ですので、1
い短縮し、1997 年(平成 9
億 710 万人が必要となりま
年)の労働時間は僅か 20 時
す。草取りの期間を 60 日に
間になっています。この除
分散させても 1 日当り約 178
草剤による経済効果を松中
万人が草取りに従事しなけ
先生(元神戸大学)の試算
ればならず、他産業の活動を
結果で見ると、以下のよう
停止させない限り不可能で
になります。
す。言い換えれば、除草剤は
1949 年(除草剤なし)の労働
これだけ多くの労働力を農
時間 506 時間/ha・・・・・A
ホタルイ(撮影青木)
1997 年(除草剤利用)の労働
業から他産業へ移行させ、日
本の経済発展に非常に貢献
時間 20 時間/ha・・・・・B
したとも言えるでしょう。
1997 年の草取り労賃 960 円/時間・・・・・C
除草剤を使用しない除草手段としてアイ
人力除草で余分に掛かるお金 C×(A-B)
ガモ、紙マルチ、米ぬか等が検討されてい
=46.7 万円/ha・・・・・D
ますが、除草剤並みの効果、利便性、経済
除草剤代金3万円/ha・・・・・・E
性があるとはいえません。除草剤を使用し
その差(除草剤の経済効果)D-E=43.7 万
ないイネ栽培は現実的ではなく、農薬登録
円/ha・・・・・・F
に定められた使用方法に従って正しく使い、
日本全体での経済効果 F×1997 年の作付面
消費者に「安心」していただくことが大切で
積(195 万 ha)=8,522 億円
す。
2
(IK)
雑草よもやま話(3)
除草剤抵抗性雑草の出現
雑草とは、「絶えず外的な干渉や生存地の
除草剤抵抗性雑草の出現は、日本では畑
干渉が加えられていないと、その生活が成
地でのパラコート抵抗性雑草と水田での
立、存続出来ないような一群の植物(笠原)」
SU 抵抗性雑草の出現が主なものですが、
とも言われております。
諸外国では広範囲の種類の除草剤に対する
水田においても基盤整備をしたり、植付
抵抗性雑草の出現が報告されており、1999
け時期を変えたり、直播栽培から移植栽培
年までに延べ 234 種の雑草で抵抗性生物型
に変えたり、収穫後に後作をしたり、使用
の出現が認められております。
する除草剤を変えたり、同じ除草剤を長年
SU 系除草剤は極めて少ない使用量で幅
連用したりすると、発生する雑草の草種や
広い種類の雑草に有効です。特にクログワ
発生量が変化します。これらは人間の干渉
イ、オモダカなど従来の除草剤では防除が
であり、そこで作物を栽培する限り雑草は
難しかった雑草にも作用を示すことから、
発生します。
他剤と簡単に置き換えることが出来ません。
そこで SU 抵抗性雑草に有効な成分を加え
わが国の水田において、ノビエは昔から
最も重要な防除対象ですが、他の雑草の重
ることにより問題の解決を図っております。
要度は時代により変化してきました。広く
しかし、抵抗性対策を行った除草剤でも、
除草剤の普及が始まった昭和 30 年代後半
その 1 剤だけを連用すれば新たな抵抗性雑
からはマツバイやヒルムシロ、その後はウ
草の出現を促すことになり兼ねません。除
リカワ、ミズガヤツリ、ホタルイなどの防
草剤は価格や剤型、含有成分数だけで選定
除が大きな問題となりました。
するのではなく、防除したい雑草の草種と
しかし、新しい除草剤の普及により余り
その圃場の特性(土壌条件など)や栽培方
問題とならない状態まで防除できるように
法に適した作用性を持つ除草剤を選定し、
なりました。 最近ではスルホニルウレア系
その除草剤の性能が十分に発揮される正し
除草剤(SU)の抵抗性雑草やイボクサ、
い使い方をするべきだと考えます。
(I・K)
イネ科多年生雑草のアシカキ、キシュウス
ズメノヒエなどの防除が問題化してきてお
ります。
アメリカアゼナ(ゴマノハグサ科)
イボクサ(ツユクサ科)
3
雑草よもやま話(4)
栽培イネの雑草化
雑草は生き抜くための特性として、脱粒
遅いものまで混在しているそうです。この
性と休眠性を持っています。
雑草イネが激発すると、6~7割の減収に
脱粒性とは、成熟期(収穫期)近くの穂や莢
なるとのことです。
からの子実(種子)の落ち易さの程度を示
岡山県農業総合センターの石井先生は、
し、休眠性とは、熟したばかりの種子が、
「落ち生え」が多く残るような栽培方法を
温度や水の条件が整っても発芽しない性質
継続した場合、雑草イネが発生する危険性
を言います。栽培イネ
が高くなること、また、
では、収穫時にも籾が
最近話題の赤米や飼料用
簡単には落ちません。
イネにも脱粒性や休眠性
これは、収穫時のロス
の高いものがあり、直播
を少なくするために、
栽培地帯に導入する場合
脱粒性の悪い系統を選
には、雑草化の可能性を
抜してきたからです。
十分検討する必要性があ
また、栽培イネでは
ると指摘されております。
栽培管理に不必要な休
近年の水稲用除草剤は、
眠性を持っておりませ
イネに対する安全性が高
ん。このための困った
いものが販売されており
問題として、倒伏して
ます。従って、栽培イネ
雨が続くと、熟した籾が穂についたまま発
に影響が無く雑草イネだけを枯らす作用を
芽してしまう「穂発芽」が起きてしまいま
持つ水稲用除草剤は無いと言えるでしょう。
す。
それは「雑草イネ」もイネそのものだから
ところが最近は、岡山県や長野県の乾田
です。雑草イネが発生した水田では、直播
直播栽培を連続して行った水田で、脱粒性
栽培から移植栽培に切り替えたり、栽培イ
の強い「雑草イネ」が見つかっております。
ネの播種期を遅らせ、栽培イネが出芽する
見つかった雑草イネは草姿、出穂期、稈長、
前に出芽した雑草イネを非選択性茎葉処理
穂長などが栽培種と類似しており、脱粒性
除草剤で防除しているそうです。
(I・K)
は強く収穫前にほとんど籾が落ちてしまい
ます。雑草イネの休眠性は変異が大きく、
※群馬大学社会情報学部
栽培種と同様に速やかに発芽するものから
イネの写真の提供をうけました。
4
青木繁伸様より、
雑草よもやま話(5)
帰化雑草増加の原因
外国から侵入し、日本において定着・生
では、観賞用に導入した植物や、熱帯魚の
活できるようになった植物を「帰化植物」
水槽に入れるための外国産水草が逃げ出し
と呼びます。
て雑草化した例も見られております。しか
一般的には、明治維新前後からのものを
し、利用目的で導入した植物が逃げ出し、
帰化植物とし、ヒエやホタルイなどのよう
雑草化した例は余り多くはありません。
に、作物の伝来に付随
家畜の飼料用に大量に
して有史以前に帰化し
輸入されている乾草や、ト
た植物を「史前帰化植
ウモロコシ、ソルガム、大
物」と呼んでいます。
麦、綿実、ダイズなど輸入
帰化植物が雑草化した
穀物に、種々の植物の生存
ものが帰化雑草で、最
種子が多量に混入してい
近特に発生が増えてい
ることが判明したことか
ます。
ら、帰化雑草の急激な増加
は農産物輸入の急増が最
榎本先生の報告では、
二十世紀になって渡来
大の原因と考えられてい
し畑雑草化した主なも
ます(清水)。家畜の糞に
のにセイヨウタンポポ、
入った種子は、堆肥にして
ハルジオン、セイタカ
醗酵させればほとんどが
アワダチソウ等があり、
死滅しますが、未熟のまま
水田雑草としてはキシ
圃場に投棄されれば、生き
た種子をばら撒いていることになります。
ュウスズメノヒエ、アメリカセンダングサ、
アメリカアゼナ、ハイコヌカグサ、ホソバ
昨年6月に特定外来生物被害防止に関す
ヒメミソハギ等があります。水田に定着・
る法律(外来生物法)が公布され、外国か
発生する新しい帰化雑草は過去 30 年 ほど
ら生物を導入することが難しくなりました
の間に起きたことで、史前帰化植物が主体
が、既に導入された植物を栽培している場
であった日本の稲作での雑草の草種の変化
合にも、それが逃げ出してわが国の生態系
として極めて特徴的なこと(清水)とされ
に悪影響を及ぼさないように注意しなけれ
ています。
ばならないでしょう。
では、これら外来の雑草はどのような経
(I・K)
路で日本に入ってきたのでしょう。929 年
※群馬大学社会情報学部
に渡来した畑雑草のイチビは繊維作物とし
ハルジオンの写真の提供をうけました。
て、またキシュウスズメノヒエは飼料作物
として栽培されたとの説があります。最近
5
青木繁伸様より、
雑草よもやま話(6)
ヒエはイネの擬態植物
古来から水田の最大の害草はノビエです。
には比較的容易に防除されていましたが、
一般にノビエと総称されている雑草には、
最近では水田内にも多く見られるようにな
タイヌビエ、ヒメタイヌビエ、イヌビエ、
りました。他の種よりも出芽時期が早いた
ヒメイヌビエがあります。
め生育の進行が早く、除草剤の処理時期が
タイヌビエとヒメタイヌビエはイネの擬
遅れないように注意する必要があります。
態植物であり、イネに姿形が非常によく似
ヒメイヌビエは畑条件に適応した特性か
ています。そのため手取り除草時代には最
ら水田ではほとんど発生しませんが、乾田
も防除が困難な雑草でし
直播栽培では初期の畑状
た。人間が手取り除草を
態が出芽・生育に好適で
行うことによって無意識
あることから、連続して
に作り出した、イネに似
転換畑にすると多発生す
た最高で最悪の雑草では
ることがあるようです。
ないでしょうか。
これらのノビエに加え
除草剤で防除するよう
て、最近ではコヒメビエ
になってからは、比較的
(別名:ワセビエ)が九
容易に除草できるように
州の休耕田や畦畔に侵入
なりましたが、水田の重
していることが確認され、
要雑草の地位は変ってい
ケイヌビエ
ません。湛水条件で管理
水田雑草となることが懸
念されています。
される水田は、タイヌビエとヒメタイヌビ
漢字の「稗」と「穇」は共に「ひえ」と
エの出芽・生育に最も適しています。ヒメ
読みますが、
「稗」は雑草のイヌビエや一部
タイヌビエはタイヌビエよりも小型で、分
栽培されているヒエ属のヒエを、
「穇」はオ
布域はタイヌビエよりも狭く、種子も小さ
ヒシバ属のシコクビエ(食用栽培種)を意
いのが特徴とされています。
味する(松中)そうです。
イヌビエには小穂の先端の芒(のぎ)が
(I・K)
極めて長いもの(ケイヌビエとも呼ばれる)
※群馬大学社会情報学部 青木繁伸様より、
からほとんど無いものまであります。イネ
写真の提供をうけました。
と草姿が異なることから、手取り除草時代
6
雑草よもやま話(7)
防除がやっかいなホタルイ
わが国の水田で防除が問題となっている
栽培して同定したところ、イヌホタルイは
ホタルイ属植物は、ヒメホタルイ、コウキ
すべての機関の種子で認められ、タイワン
ヤガラ、シズイなどのほか、雑草防除上“ホ
ヤマイとコホタルイが僅かに認められまし
タルイ”と呼ばれている植物があり、この
たが、ホタルイは認められませんでした。
“ホタルイ”が最も広域的に問題となって
真正のホタルイの生育地を調査したとこ
います。
ろ、湿潤で土壌の撹乱や除草剤の施用がな
しかし、このいわゆる“ホ
い休耕田やその畦畔で、ホタル
タルイ”は植物分類学上ホタ
イにとって日当たりの良いと
ルイと命名されている植物そ
ころに発生していました。
のものではなく、ホタルイと
以上のことから、
“ホタルイ”
外部形態が類似しているホタ
として問題となっている草種
ルイ属植物の総称です。ホタ
は主としてイヌホタルイであ
ルイと外部形態が類している
り、ホタルイは水田ではほとん
植物には、イヌホタルイ、タ
ど発生しないか、発生しても種
イワンヤマイ、ミヤマホタル
子を生産するには至らないと
イ、コホタルイがあります。
考えられました。なお、東北地
そこで、水田で防除が問題となっている
方の水田においてタイワンヤマイが優占化
“ホタルイ”の草種を明らかにすることを
している事例が報告されており、タイワン
試みたところ、イヌホタルイが最も雑草と
ヤマイも“ホタルイ”を構成している草種
しての形質に優れ防除が難しく、次いでタ
といえます。近年、スルホニルウレア系除
イワンヤマイの順になりました。真正のホ
草剤に抵抗性を持つイヌホタルイやタイワ
タルイは雑草としての特性が劣り、除草剤
ンヤマイが出現し、いわゆる“ホタルイ”
に対する感受性が非常に高く、市販されて
の防除をより難しくしております。
いる多くの除草剤で容易に枯殺できること
(I・K)
から、防除の対象となっている草種とは考
※群馬大学社会情報学部青木繁伸様より、
えられませんでした。また、各地の試験研
写真提供をうけました。
究機関から送られた“ホタルイ”の種子を
7
雑草よもやま話(8)
クログワイの防除は根気が必要
性能の高い除草剤が数多く開発されてい
をすることにより、土壌表層に出た塊茎は
る今日でも、防除が困難で難防除雑草と呼
乾燥し、死滅します。水田の排水を図り、
ばれるものにクログワイがあります。クロ
常湿田を乾田化することによってクログワ
グワイと外部形態がよく似た雑草にホタル
イが消えた例も報告されています。
イ類がありますが、クログワイは茎を指で
塊茎には数個の芽があり、その内の1つ
しごくとパチパチと音がします。このため
の芽が生育しますが、傷付けられたり、除
「パチパチグサ」という呼び名もあります。
草剤の影響を受けたりすると、次の芽が生
またホタルイ類の茎の先
育をはじめます。クログワイ
端部(包)は尖っています
は深さ 30cm からも芽を出
が、クログワイの茎の先端
し、水田に水を入れた時から
は丸くなっており、先端に
稲刈りの時までダラダラと
花が着きますので、見分け
出てきます。この様な性質が
るときの参考になります。
除草剤でのクログワイの防
除を難しくさせています。
クログワイは土中に塊
茎(イモ)を作ります。塊
茎は深さ 15~20cm に最
も多く作られ、大きい塊茎
クログワイを除草剤で防
除するには気長な防除が必
クログワイの塊茎の様子
ほど深い位置に作られま
要です。クログワイに有効な
除草剤を連年使用すると、塊
す。大きな塊茎は休眠が深いため出芽が遅
茎の数は少なく形も小さくなり、比較的浅
れると共に生存年限も長いので、防除上は
いところに作られます。浅いところの小さ
大塊茎を作らせないことが重要です。塊茎
い塊茎は芽が揃って出てきますので、除草
は、はじめは白っぽい色をしていますが、
剤の効果も高くなります。
次第に黒くなります。塊茎の寿命は長く、
クログワイの塊茎を昔の人は食用にした
水田土中で5年間生きていた例もあります。
そうで、クログワイの仲間であるオオクロ
しかし、乾燥には比較的弱く、土壌の表層
グワイ(シナクログワイ)の塊茎は今でも
が乾燥する乾田では、秋から冬の間に耕起
中華料理に使われています。
越冬した塊茎(皮をむくと,多数の芽があることがわかる)。
8
(岩崎)
雑草よもやま話(9)
オモダカの塊茎は寿命が1年
オモダカは別名ハナグワイといい、昔か
オモダカの塊茎は大きさがまちまちで、
ら家紋や武具の飾りの題材として使われて
大きな塊茎ほど土中深く、深さ 30cm にも作
いますが、水田では難防除雑草としてクロ
られます。また、秋に作られた塊茎は深い
グワイと同様に防除が問題となっています。
眠り(休眠)に入っており、芽を出すには
オモダカと同じ仲間の水田雑草にはウリ
休眠から覚める必要があります。休眠から
カワ、アギナシがありま
覚めるためには高温が必要
す。オモダカの変種のク
で、遅いものは夏になって
ワイはおせち料理に使わ
休眠から覚めるものもあり
れる立派な栽培植物で、
ます。このため発生はダラ
オモダカの園芸品として
ダラと長く、代かきから
花弁が帯紅色の八重咲き
100 日以上経っても芽が出
や大輪咲きのものがあり
てきます。この性質が防除
ます。
を難しくしている理由の一
つです。除草剤で防除する
オモダカは数多くの種
子と塊茎(イモ)を作ります。種子から芽
際には、オモダカに有効な薬剤を体系で使
を出したオモダカは、除草剤で比較的容易
用する必要があります。
に防除できるので問題はありませんが、厄
クログワイの塊茎は、水田土中で5年間
介なのは塊茎から生育するオモダカです。
生存していた事例を前に記しましたが、オ
塊茎から発生したオモダカは、初め、線形
モダカの塊茎の寿命はほとんどが1年です。
の葉を数枚~10 枚程度出し、次いで葉の先
従って、1年間徹底的に防除を行い新しい
端がヘラのような形の葉を1~2枚出し、
塊茎を作らせなければ、次年のオモダカ発
その後特徴的な矢尻型の葉を出します。オ
生は防げます。
モダカはクログワイやウリカワ等と異なり、
水槽の水草として輸入された、オモダカ
生育期間中に株数を増やすことはありませ
と同属のナガバオモダカが逃げ出し、帰化
ん。夏になるとハナグワイの名の通り白い
しております。熱帯魚を飼育される方は、
きれいな花を咲かせます。花は雌雄異花(雄
水草の管理にも気を使っていただきたいも
花と雌花が別のこと)で、花茎の下の方に
のです。
ついた雌花が先に咲き、その後雄花が開花
(岩崎)
します。
9
雑草よもやま話(10)
植物が放出する化学物質の有効活用
アカマツ林は下草がほとんど無いことか
リーゴールドやタヌキマメ(別名:コブト
ら「アカマツの露は下に生える草を枯らす」
リソウ)、畑雑草のエビスグサ等がセンチュ
とか、
「クルミを植えるとその周囲の作物が
ウの被害軽減を目的に植え付けられていま
よく出来ない」とか、
すし、タバコのニ
「クリが水田の近く
コチン、デリスの
にあると、田が茶色
ロテノンは古くか
になって稲の出来が
ら殺虫剤として利
悪い」とかいう現象
用されています。
が昔から観察されて
ほとんどすべての
います。
植物が生成してい
近年これらの現象
るジベレリンは、
についての研究が進
ブドウの種無し化
み、アレロパシーに
や各種植物の生長
よることが明らかに
調節に使用されて
されてきました。ア
います。人間が化
レロパシー(他感作
学的に作った物質
用)とは、一般的に「ある植物から放出さ
は自然界に存在せず危ないものであり、天
れる物質が、他の植物や微生物に何らかの
然に存在する物質は人間や環境に安全であ
影響を及ぼす現象」を意味します。この定
るという妙な考え方がありますが、植物が
義には、ある植物が他の植物の生育を阻害
生成する化学物質には合成農薬と類似の化
したり、特定の作物を連作することによる
学構造を持つものがあり、クルミの葉に含
忌地(いやじ)現象のような阻害作用だけ
まれる物質が分解してできるユグロンの化
でなく、違う種類の植物同士を植えておく
学構造は、除草剤のキノクラミンに類似し
と、互いに生育が促進されるような共栄関
ています。
係も含まれます。
また、藤井氏らは、クレオメに含まれる
アレロパシーは生態系調和型農業におい
揮発性物質から、20 年以上も前に殺センチ
て、病害虫抵抗性品種や雑草抑制力を持つ
ュウ剤・殺菌剤として農薬登録されている
品種の育成、連作障害の防止、間作や混植
メチルイソチオシアネートを検出しており
による増収等の面で寄与する事が期待され
ます。人間が合成した化学物質と同じ物質
ています。植物が生産・放出する化学物質
を、植物も生産していたのです。
を農薬的に使用している例は多々あり、マ
(岩崎)
10
雑草よもやま話(11)
イネと共に進化するノビエ
日本にイネが伝来したのは今から約 3000
生産できる性質を獲得しています。この擬
年前の縄文時代と考えられていますが、水
態性は、長年にわたって営々と繰り返され
田で栽培されるようになったのは弥生時代
てきた農民による除草作業という人為淘汰
と言われています。最初に日本にきたイネ
の結果です。このため手取り除草ではタイ
は陸稲であり、
ヌ ビエ の除
その後朝鮮半島
去 は困 難で
を経由して、一
し たが 、除
部は直接中国か
草 剤の 普及
ら水稲がやって
に より 比較
きました。因み
的 容易 に防
に中国で稲作が
除 でき るよ
始まったのは今
う にな りま
から約 10000 年
し た。 タイ
前、水田稲作が
ヌ ビエ は日
始まったのは約
本 では 水田
5000 年 前 と 言
の 雑草 です
われています。
が 、中 国雲
現在栽培され
南 省の 少数
ているイネは、
民 族は 昔は
野生のイネを人
主 要な 食糧
と して タイ
間が栽培化した
栽培植物(作物)
で、人間にとっ
タイヌビエ(稗)イネ科
前橋市「敷島公園ばら園」にて Aug 08, 1998
ヌ ビエ を栽
培 し、 現在
も 酒の 原料
て都合のよい性
質が選抜されてきました。熟しても籾が落
として栽培しているとのことです。日本で
ち難い性質や、一斉に登熟する性質などが
食料として栽培されていた(現在も極一部
そうです。日本には栽培化されたイネが渡
の地域で栽培されている)ニホンビエは、
来したわけですが、その後も優秀な農民に
イヌビエに由来する栽培種です。ヒエはイ
より日本の気候や各種条件に適合する更な
ネが伝来する以前の重要な食糧で、約 5500
る選抜が進められ、明治以降は国や県の研
年~4000 年前の三内丸山遺跡(青森県)か
究者の努力も加わり現在のイネになりまし
らもヒエが栽培されていたと考えられる痕
た。
跡が見つかっています。
一方、イネと共に渡来したタイヌビエは、
(岩崎)
姿形や出穂時期がイネにそっくり(擬態性)
※写真は、青木繁伸氏の「植物園へようこそ!」から
であり、開花後8日位で発芽可能な種子を
使用させていただきました。
11
雑草よもやま話(12)
コナギは発生初期の徹底を!
田雑草としての報告があります。
コナギは別名ミズナギとかササナギと呼
ばれ、水田の重要雑草の一つでしたが、
2,4-Dをはじめとする多くの有効な除草剤
コナギが発芽するためには15~16℃の気温、
湛水条件、光が必要です。出芽は代掻きを行
の普及により、次第に問題雑草という意識 った条件では2mm程度に限られます。イネの
が少なくなりました。
種子や幼苗にはコナギの発芽・出芽を促進す
しかし、現在でも管理が疎かになったり
る作用があります。しかも促進効果はイネの
すると多発生し、多量に発生した場合はイ 催芽種子や10日苗には見られますが、20日以
ネの収量に最も影響
上の苗では見られ
を及ぼす雑草である
ません。この発芽促
ことに変わりはあり
進物質はイネ種子
ません。特に最近では、
や籾殻に含まれて
スルホニルウレア系
いるそうです。前年
(SU)の除草剤に抵抗
にコナギが発生し
性を持ったものが出
た圃場で湛水直播
現し、防除の重要性が
栽培や乳苗移植栽
改めて見直されてお
培をすると、コナギ
ります。
の発生が増える可
コナギはミズアオ
イ科の植物で、この科
ミズアオイ(水葵)
ミズアオイ科
能性があります。
コナギは窒素の
に属する雑草にはコナギの他にミズアオイ、吸収力が強く、雑草害の要因は主に養分競合
ホテイアオイ、アメリカコナギが知られて と考えられていますが、イネの分げつ芽に対
おります。ミズアオイは、全国的には絶滅 する遮光の影響もあるといわれています。イ
が危惧されていますが、北海道ではSU抵抗
ネの生育に及ぼす影響は他の雑草よりも大き
性生物型が出現し、防除上問題となってい く、特に少肥条件下で顕著に現われます。一
ます。ペットショップなどで売られている 方、水稲移植後2~3週間以降に発生したコ
ホテイアオイは、わが国では雑草としては ナギは、ほとんど生育せず種子を生産しない
ほとんど問題とはなっておりませんが、熱
といわれています。発生初期にしっかり防除
帯地方では水路や池の雑草として大問題と することが大切です。
なっております。アメリカコナギは、1973
(岩崎)
年に渡来した帰化雑草で、岡山県などで水
12
雑草よもやま話(13)
やっかいなアメリカセンダングサについて
水田の主な雑草はほとんどが史前帰化雑
が、開花後半月程度で水稲と共に地上部を
草ですが、新帰化雑草で広く問題となって
刈り取った場合でも、種子が成熟していま
きたものにアメリカセンダングサがありま
す。種子が成熟するための期間が不足して
す。
いるにもかかわらず、種子生産を可能にし
アメリカセンダングサは、大正時代に日
ている原因は、水稲収穫時に切断された茎
本に侵入したとされる北米原産のキク科1
でも種子の成熟が進むためです。従って、
年生の雑草です。同じセンダングサ属の仲
種子生産防止のためには、アメリカセンダ
間には水田雑草のタウコギ、エゾノタウコ
ングサの刈取り時期に開花が認められた場
ギや、畑雑草のセンダングサ、コセンダン
合、刈取ったアメリカセンダングサを水田
グサがありますが、アメリカセンダングサ
外へ持ち出し、できれば適切に処分するこ
は茎や葉柄が紫色を帯び、かつ葉がハッキ
とが望ましいと言えます。
リした複葉になる点が
アメリカセンダング
際立った特徴です。セ
サが強害草化してきた
ンダングサ属雑草の種
のは、米の生産調整が強
子(痩果)は、いずれ
化され休耕田が増加し
も逆向きの棘のある芒
た、70 年代終わり頃か
を持つため衣服などに
ら 80 年代にかけてと言
付き易く、“ひっつき
虫”といわれています。
アメリカセンダング
サは大型で茎が硬いた
め収穫作業に支障をき
たします。従来、アメリカセンダングサ
は中干し後に発生し急速に大きくなるた
め、有効な防除対策が取りにくいと考え
られていましたが、水稲移植後1ヵ月程
度しっかり防除すれば、収穫作業への害
を回避できるそうです。アメリカセンダ
われています。休耕田で繁茂したアメリカ
ングサの幼植物は、5㎝以上の深さに湛水
センダングサが大量の種子を生産し、周辺
するとほとんどが枯死します。水稲生育初
の水田に広がっていった可能性も推察でき
期の湛水深の維持は、アメリカセンダング
ます。
サの水田内への定着防止と、水稲用除草剤
の効果の安定化の両面で重要な技術でしょ
(岩崎)
※写真は、青木繁伸氏の「植物園へようこそ!」から
う。
使用させていただきました。
アメリカセンダングサの種子が成熟する
には、開花後約1ヵ月を要します。ところ
13
雑草よもやま話(14)
水稲用除草剤を上手に効かせる方法について
農家の方にとって、何時撒いてもすべて
雑草を枯らすには、雑草が枯れるだけの量
の雑草を枯らし、作物に害の無い薬剤が理
の成分を短期間で吸えるようにしてやるこ
想の除草剤でしょう。
とが大切です。雑草が成分を十分吸収する
しかしながら、そのような除草剤は存在
前に水を動かす(薬の含まれていない水を
しません。除草剤は効かせる薬です。作物
入れる)ことは、出されたお酒を充分に飲
と防除したい雑草の種
む前にどんどん水
類にあわせた除草剤を
で薄めることと同
選び、適切な時期に適
じで、雑草が酔えな
切な量を散布すること
い(枯れるだけの量
が大切です。また、雑
の成分を吸収でき
草に直接散布して枯ら
ない)ようにしてい
す除草剤以外の水稲用
ること、すなわち除
除草剤では、水田に張
草剤を効かないよ
られた水の管理が除草
うにしていること
剤の効果を大きく左右
と同じです。
します。
水稲用除草剤を
水田に散布された除草剤は、崩壊・拡散
上手に効かせるには、「水管理がポイント」
しながら有効成分が水に溶け出します。水
であることをほとんどの農家の方はご存知
に溶け出した有効成分はイネや雑草に吸わ
です。
れると同時に土壌に吸着され、一部は水と
除草剤の処理に当っては、水口や水尻を
共に流れ去ったり(流亡)、光や微生物に分
しっかり閉めることはもちろん、モグラや
解されたり、気中に逃げたり(気散)しま
ザリガニの穴も塞ぎ、畦畔からの水の出入
す。土壌に吸着される量は土壌の種類や有
を止めることが大切です。このように管理
効成分の特性によって異なります。一般的
した水田では、処理数日後に蒸発などで減
に砂の多い土壌では吸着量は少なく、腐植
水して田面が露出しても、効果は変わらな
含量の高い土壌や粘土質の土壌では吸着が
いことが認められています。
(岩崎)
多くなります。
水中の有効成分が植物(イネや雑草)に
※写真は、青木繁伸氏の「植物園へようこそ!」から
吸収されると、水中濃度が低下します。そ
使用させていただきました。
うすると土壌に吸着された成分が再び水に
溶け出し(脱着)植物に吸収されます。植
物は水に溶けた成分しか吸収できません。
14
雑草よもやま話(15)
除草剤を上手に使えば環境負荷も低減
「環境保全型農業」、
「低投入持続型農業」
等が言われて久しく、農薬の使用、特に除
として除草剤よりも安定した効果を示し、
安価で簡便な手段はありません。この除草
草剤を使用した雑草防除
剤も適切に使われなければ
は「悪」的な感覚も一部
期待する効果が得られない
で見受けられます。
だけでなく、防除困難な雑草
これら農業の目的は、
の蔓延を来したり、水田以外
食糧生産と環境を調和さ
の場所に生育する生物にも
せた「持続可能な農業・
影響し、身近な生物を失うこ
農村の開発」を構築する
とにもなりかねません。
1697 年に宮崎安貞は、
ことにより、人類の生存
基盤の一つである多様な
その著書「農業全書」の中で、
生物の共同作用によって
「上の農人は草のいまだ見
維持されている生態系の
えざるうちに中打(なかう)
保全にあると言われます。
ちし芸(くさぎ)り、中の農
一方、農薬の登録に際しては、その効力や作
人は見えて後芸る也、見えて後も芸らざる
物に対する安全性のみならず、人畜や魚介
を下の農人とす。これ土地の咎人也」と、
類等に対する安全性、環境に対する影響の
雑草の生育初期の除草の必要性を精神論的
有無などについて厳密な審査がなされ、基
に述べていますが、現代では科学的な視点
準に適合した薬剤だけが農薬として登録さ
で除草を考えるべきでしょう。除草剤の特
れ、販売されています。
性を十分に理解し、上手に使いこなすこと
で期待通りの結果を得ると共に、環境への
除草剤を使わない水田雑草の防除方法と
影響を最小限にしたいものです。
しては、アイガモ、コイ、スクミリンゴガ
イ、紙マルチ、米ぬか、活性炭、除草機な
(岩崎)
ど各種の生物や資材・機械の利用、深水を
維持する耕種管理があり、一部の農家で実
行されていますが、除草剤と同等の効果、
経済性、利便性は期待できないのが現実で
す。これ以外にも適当な大きさの雛や稚魚
の確保、外敵からの保護、給餌、稲食害の
回避、地温低下による減収、有機物醗酵時
の異臭など各種の問題点を抱えています。
昨今販売されている水稲用除草剤の性能
は非常に高いと言えるでしょう。米価が低
迷する状況で生産資材の低廉化が求められ
※写真は、青木繁伸氏の「植物園へようこそ!」から
ておりますが、広域的に行う雑草防除方法
使用させていただきました。
15
雑草よもやま話(16)
転換大豆畑で雑草化するアサガオ類
榎本(1997)によれば、これらアサガオ類
の日本への渡来年代は、アサガオが最も古
く8世紀であり、マルバアサガ
オが 1700 年代、アメリカアサ
ガオとマルバコウが 1800 年代、
ホシアサガオとマメアサガオ
が 1950 年代だそうです。また
清水ら(2001)によれば、アサガ
オは 10 世紀頃に中国から薬用
植物として渡来し、江戸時
代に観賞用に多数の園芸
品種が作られたそうです。
因みにアサガオの英名は
アサガオといえば風鈴、浴衣、ヒマワリ
などと共に夏の風物を代表するものの一つ
です。
小学生時代の
夏休みに生育観
察をされた方や、
朝顔市できれい
な花の鉢を買い
求められた方も
多いと思います。
しかし最近、い
わゆる「アサガ
オ」のイメージと異な
った、葉の形が違って
いたり、花が小さいア
サガオを目にされてい
ませんか。色々な種類
のアサガオが海外から
渡来し、日本に帰化していますが、このア
サガオ類が最近西日本地域の畑地や水田で
雑草化している事例が報告されておりま
す。
アサガオ類はヒルガオ科サツマイモ属の
植物で、熱帯アメリカや熱帯アジアの原産
といわれており、日本に帰化しているアサ
ガオの仲間にはアサガオ、マメアサガオ、
アメリカアサガオ、マルバアメリカアサガ
オ、イモネアサガオ、イモネノホシアサガ
オ、キクザアサガオ、マルバアサガオ、ホ
シアサガオ、ヨウサイ、タイワンアサガオ、
マルバコウ、ルコウソウ等があります。多
くのアサガオ類は1年生ですが、イモネア
サガオ、イモネノホシアサガオ、ヨウサイ、
タイワンアサガオは多年生です。なお属名
が示すようにサツマイモもアサガオの仲間
です。
Japanese morningglory
と付けられています。
わが国の大豆畑の雑草
として確認されている(徐
ら、2005)のはアサガオ、
アメリカアサガオ、マルバアメリカアサガ
オ、マメアサガオ、ホシアサガオ、マルバ
アサガオであり、前年に水稲を栽培した圃
場ではアメリカアサガオとマメアサガオの
発生が認められています(平岩ら、2005)。福
見ら(2005)によれば、子葉展開期に湛水す
るとアメリカアサガオ、マルバアメリカア
サガオは死滅し、マメアサガオは生き残る
ものの生育は抑制されるそうです。一方平
岩らは、水田でのアサガオ類は中干しの時
に発生し、その後湛水しても枯死せず、水
稲収穫後に種子を生産することを報告して
います。
水稲栽培中に発生したアサガオ類の防除
方法は現在不明で、今後の研究が待たれま
す。
(岩崎)
※写真は、は、青木繁伸氏の「植物園へようこそ!」から
使用させていただきました。
16
雑草よもやま話(17)
水田で外来生物法の規制対象植物増加の兆して
特定外来生物による生態系等への被害防
止のための法律「外来生物法」が昨年6月
1日に施行され、規制対象植物としてナガ
エツルノゲイトウ、ミズヒマワリ、ブラジ
ルチドメグサが指定されました。このうち
のナガエツルノゲイトウと同じツルノゲイ
トウ属植物であるホソバツルノゲイトウが、
九州の水稲直播栽培の雑草として問題とな
っており、その生育特性と防除対策につい
て、九州沖縄農業研究センターの住吉先生
(2005 年)の報告を見てみます。
ホソバツルノゲイトウは熱帯アメリカ原
産のヒユ科1年生植物で、日本では本州中
部以南の太平洋側で発生が認められていま
す。水田の雑草として問題化しているのは
今のところ九州の乾田直播栽培だけのよう
で、今後広がる可能性を秘めていると思わ
れます。種子の発芽には適度の水分と共に
酸素と光が必要であるため、出芽深度は最
大でも 1cm と考えられていますが、湛水条
件下ではほとんど発芽しません。また 15℃
以上で発芽しますが、発芽適温は 25~30℃
と考えられています。ホソバツルノゲイト
ウは畑雑草としての特性が強い植物ですが、
種子は比重の軽い外被に包まれており水に
浮きやすいことから、代掻きによって土中
の種子は水面に浮き、その後の落水によっ
ホソバツルノゲイトウ
て地表面に散布されることになるため、水
田としての管理が最も発生しやすい条件を
提供していると考えられます。
発生したホソバツルノゲイトウの生育は、
葉身が水面上に出る程度の湛水ではほとん
ど阻害されず、完全に水没する状態に湛水
すればかなり生育は抑制されますが枯死す
ることはなく、中干しや収穫前の落水によ
って生育が再開されると考えられます。
乾田直播栽培でのホソバツルノゲイトウ
の防除は、①水稲播種前後の非選択性茎葉
処理剤による防除②乾田期間のベンタゾン
剤による防除③入水後のスルホニルウレア
混合剤による防除の3つのポイントがあり
ますが、いずれの処理でも葉令が進んだ個
体に対する効果は低下しますので、乾田期
間の防除をしっかり行う必要があります。
近年の外来雑草の蔓延には、輸入飼料へ
の雑草種子の混入や未熟堆肥中の生存種子
の耕地への散布という実態が大きく係わっ
ています。有機物の施用に当っては完熟化
に努め、混入する雑草種子の発芽力をなく
してから耕地へ投入する必要があります。
(岩崎)
※写真は宮城教育大学
安江研究室
ナガエツルノゲイトウ
17
環境教育実践研究センター
鵜川研究室から使用させて頂きました。
雑草よもやま話(18)(最終回)
地上部と地下部で花芽形成する不思議な植物
史前帰化雑草のマルバツユクサは熱帯
アジア原産の植物で、日本では関東以西~
南西諸島に分布し、主に果樹園の雑草とし
て防除が問題となっています。
同じ仲間で我々に馴染み深いツユクサ
は、葉は卵状披針形で濃い藍色の花ですが、
マルバツユクサの葉は名前の通り広卵形
で花は淡い藍色をしています。マルバツユ
クサの面白い開花特性と防除対策につい
て、宮崎大学の松尾光弘先生(2005)の総説
から抜粋してご紹介しましょう。
世界に存在する約 25 万種の顕花植物の
ほとんどは、地上部に花芽を形成し開花・
りも高く、暗条件よりも明条件で高くなり
受精して種子を作ります。しかし一部には
ます。また、大種子は休眠覚醒処理による
地下部においても花芽を形成し、開花する
発芽が小種子よりも早いことが認められて
ことなく自家受精して種子を作る植物もあ
います。自然条件下での発生期間について
ります。このように 1 つの植物体の地上部
は未知の点が多いのですが、地上部の大種
だけでなく地下部においても花芽を形成し
子では4月と 6 月に出芽数が増加し、小種
て種子を結実することを「2 種結実性」と
子では 4 月~8 月の長期に渡って出芽が認
呼んでおり、このような結実性は 36 種の植
められた実験例があります。
物で認められ、ツユクサ属植物ではマルバ
マルバツユクサの除草剤による防除につ
ツユクサを含む 5 種で認められています。
いては非選択性茎葉処理剤を用いた試験が
マルバツユクサの花は、地上部では二枚
行われておりますが、発生期間が長いこと
貝のような仏炎苞内に通常 2 個着花し、開
から1回の除草剤散布では防除が困難であ
花・受精して果実(さく果)となって種子
ると共に、接触型の除草剤では地上部は枯
ができます。地下部では地中茎の各節ごと
殺できても地下部を枯殺できないため、地
に 1 個の花が着き、自家受精して果実がで
下部の種子形成を抑えられないことが心配
き、種子ができます。どちらの果実にも長
されています。
径が 3~4mm の大型の種子が1個と、2mm
(岩崎)
程度の小型の種子が2~4個できます。地
上部で結実した大種子の発芽率は小種子よ
18
Fly UP