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21 世紀の臨床開発を支える新しい技術(3)

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21 世紀の臨床開発を支える新しい技術(3)
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【シリーズ】
21 世紀の臨床開発を支える新しい技術(3)
アダプティブ・デザイン
解 説
医薬品評価委員会 統計・DM 部会
「アダプティブ・デザイン啓発活動」タスクフォース委員 栗林
和彦
医薬品評価委員会 統計・DM部会で取り組む
「21世紀の臨床開発を支える新しい技術」
についての解説の第3回として、
「アダプティブ・デザイン
(adaptive design)
」を紹介します。
ンを採用した臨床試験を成功に導くためには、周到
はじめに
な事前検討が必要になりますし、不十分な計画の代
アダプティブ・デザインは「臨床試験の継続中にそ
替や、臨床開発に単なる近道を与えるものではあり
の中で蓄積されているデータに基づいて、臨床試験
ません。事前検討のために、従来の試験デザインに
の妥当性やインテグリティを損なうことなく、試験
比べて試験開始までに多くの時間を要することもあ
の特徴の変更法を決定する臨床試験デザイン」と定義
ります。
1)
されています 。
本稿では、アダプティブ・デザインの代表的な例
「試験の妥当性を損なわない」ということは、正し
を紹介するとともに、試験を成功させるために、計
い統計的推測 (p値の調整など) を与えることや試験
画段階で検討すべきこと、実施上で注意すべきこと
運営上で生じうるバイアス(偏り)を最小化すること
にも焦点をあてていきます。
を意味します。
「インテグリティを損なわない」とい
※割り付け…ランダム化もしくは何らかの決定論的な方法に
よってあらかじめ決めておいた規則に従って、被験治療を
被験者に割り当てること。
うことは、多方面の科学の専門家に説得力のある結
果を示せることを意味し、意図した変更の事前規定
や中間解析の機密性維持により達成されます(文献1
アダプティブ・デザインの例
の訳者注に詳細記載)。つまり、アダプティブ・デザ
臨床開発で利用機会の比較的多いアダプティブ・
インでは、「臨床試験の妥当性やインテグリティを損
デザインとして、アダプティブ用量探索、シームレ
なうことなく」という条件つきで、試験実施中の中間
ス第Ⅱ/Ⅲ相デザイン、症例数再推定を簡単に紹介し
解析の結果に基づいて、それ以降の試験デザインの
ます。
いくつかの要素を決定することができます。条件つ
アダプティブ用量探索
きといっても、アダプティブ・デザインの柔軟性に
被験薬の対象とする疾患において標準治療薬があ
よって、試験の途中でも患者さんにより有効で安全
り、それと同程度かそれ以上の有効性を示す用量を
※
な治療を割り付け られるようにできます。また、第
探索するときに、アダプティブ用量探索デザインは
Ⅲ相検証試験で用いる投与量を正しく選択できる可
有用です。効果が不十分かもしれない低用量から、
能性を高めたり、承認申請までの期間短縮を試みる
安全性に懸念のある高用量までの広い用量範囲で、
ことができます。さらに、第Ⅲ相検証試験における
効果の不十分な用量もしくは安全性に問題のある用
デザイン上の仮定を確認し、適切に修正することで試
量への暴露をより少なくし、安全で効果の見込める
験の成功確率を上げるようにもできます。このような
用量への暴露をより多くして用量反応関係を推定す
魅力的な利点によって、アダプティブ・デザインの利
ることができます。
2)
用が、欧米では2007年ごろから急速に広がり 、日
3)
3回の中間解析と最終解析で用量反応関係を推定
本でも近年徐々に広がりつつあります 。
し、標準薬と同程度かそれ以上の効果を示す用量を
一方で、このような利点は無償で手にすることが
推定する例を示します(図1)。用量1から用量7の範
できるわけではありません。アダプティブ・デザイ
囲で用量反応関係を調べたいのですが、高用量での
【シリーズ】21世紀の臨床開発を支える新しい技術
(3)
JPMA News Letter No.142(2011/03)
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反応率
反応率
1 2 3
4
5
6
7 用量
2 3
4
5
6
7 用量
反応率
(b) 第 2 回 中 間 解 析
反応率
(a) 第 1 回 中 間 解 析
標準薬の反応率
3
4
5
6
7 用量
( c) 第 3 回 中 間 解 析
1 2 3
4
5
6
7 用量
(d) 最 終 解 析
図 1 アダプティブ用量探索試験の例
安全性に懸念があり、用量1から用量5で開始してい
別の試験で検討する目的を1つの試験の中で検討し
ます。最初の中間解析で、効果が不十分であった用
ます。それによって、試験と試験の間に要する時間
量1を中止し、用量5での安全性に問題がなかったこ
を短縮あるいは排除することができます。
とから、一段階上の用量6を追加しています。第2回
第1ステージで用量を選択し、第2ステージで対照
中間解析では、依然として用量2で効果が不十分であ
群と比較する試験の例を示します(図2)。最初に、
ったため中止し、高用量での安全性に問題がなかっ
用量選択のための用量反応関係についての情報を得
たことから、さらに用量7を追加しています。3回目
られるように、用量1から用量5に患者さんを割り付
の中間解析では、用量3の効果が依然として不十分で
けます。対照群への割り付けは、試験全体を通して
あったので中止し、用量4から用量7で試験を継続し
固定しておきます。有効かつ安全であると判断でき
ています。最終解析では、すべてデータを用いて用
る用量を同定できるまで、あるいはすべての用量が
量反応関係を推定しています。中間解析での用量群
無益であるとして試験中止の判断ができるまで第1
の中止および追加の基準、症例数の設定方法は事前
ステージを継続します。第2ステージで用いる用量を
に規定しておきます。
同定できたら、同定した用量群と対照群に患者さん
シームレス第Ⅱ/Ⅲ相デザイン
シームレス・デザインでは、一般には2つ以上の
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を割り付け、最終解析でそれらを比較します。この
場合も、中間解析での用量群の選択基準、次ステー
ジの症例数の設定方法は事前に規定しておきます。
【シリーズ】21世紀の臨床開発を支える新しい技術
(3)
反応率
中間解析
用量1
用量2
1
2
3
4
5 用量
用量3
用量4
用量5
比較
対照
最終解析
図2 シームレス第Ⅱ/Ⅲ相試験の例
症例数再推定
150
一般には、検証試験の症例数は、対照薬と比較し
て、被験薬が期待する効果を有しているときに統計
100
は90%以上になるように算出します。しかし、実
際には、効果の大きさが期待よりも小さいけれど、
臨床的には意味のあることもあります。症例数再推
定では、そのようなときに、最終解析の統計的仮説
50
症例数の増加(%)
的有意差を検出できる確率(検出力)が80%もしく
検定で、被験薬と対照薬の効果に本当は差がないの
に誤って有意差ありとする(第Ⅰ種の過誤)確率が規
好ましくない
好ましい
0
見込みあり
0
20
40
60
80
100
条件つき検出力(%)
図3 症例数再推定の例
定した水準(有意水準、通常 0.05)を上回らないよ
うに、ある上限まで症例数を増加します。
症例数再推定には、治療群への割り付けを明らか
にしないで、分散や平均イベント発現率の推定値だ
けに基づく方法と、割り付けを明らかにして、治療
効果の大きさの推定値に基づく方法があります。症
例数増加の基準には、中間解析での条件つき検出力
最終解析の比較において、試験全体を通して、当
を用いることが多いです。条件つき検出力は、中間
該用量群と対照群に割り付けられたすべての患者
解析で得られた治療効果の大きさなどの推定値に基
さんを用いて適切な統計的方法で解析する場合
づいて計算した、最終解析で統計的有意差の得られ
に inferentially seamless といい、それぞれの解析
る確率です。
において、各ステージで割り付けられた患者さんだ
図3に例を示します。図3の基準に従えば、条件
けを用いる場合に operationally seamless とい
つき検出力が90%以上のときは「好ましい」結果が
います。
得られているとして元の症例数のままで、条件つき
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検出力が30%以上90%未満の場合に「見込みあり」
に選択したデザインが、その目的を達成するために
として元の症例数の150%増(2.5倍)までの範囲で、
他の候補デザインと比較して、満足のいくものでな
条件つき検出力が90%になるように症例数を増加し
ければなりません。
て試験を継続します。条件つき検出力が30%未満の
場合には「好ましくない」として元の症例数のままで
試験を継続します。これにより、第Ⅰ種の過誤確率
アダプティブ・デザインの検討に並行して考えな
が規定した有意水準を超えないように制御していま
くてはいけないのが、その試験を効率よく問題なく
す。条件つき検出力が極めて大きい場合に、絶大な
実施できるということです。迅速なデータ収集、用
有効性が認められたとして試験中止する基準や、小
量群での割り付け比率を変更する場合の治験薬の供
さい場合に無益性のために試験中止する基準を組み
給、実施施設と割り付けセンターとの通信などは、
合わせることも可能です。
アダプティブ・デザインの試験を実施するうえでの
計画段階での検討
基盤を与えます。
実施面で、特に注意が必要なのが、患者登録の速
アダプティブ・デザインの適用を考えるときには、
度です。アダプティブ・デザインは中間解析の結果
明確な理由のあることが一番重要です。たとえば、
に基づいて、後の試験デザインについて判断します
用量反応関係の推定で患者さんの安全性を配慮しな
ので、判断のもとになる有効性データが投与後すぐ
ければならない場合や、検証試験で検出力を確保し
に利用可能になるときに、最も効率がよくなります。
たいが、試験デザインの1つないし2つだけの要素
有効性データを得るために長い投与期間が必要で、
についてまだ不確実な場合などが該当するでしょう。
患者登録が速い場合には、中間解析の結果に基づい
このとき、アダプティブ・デザインを適用すること
て変更できる範囲が限られます。場合によっては、
が目標にならないように注意しないといけません。
中間解析の結果が得られるときに、当初の予定の最
そして次に、目的を達成するための試験デザイン
大症例数がすでに登録され、投与が開始されている
の候補をいくつか考え、それら試験デザインを比較
ことも起こりえます。このようなことから、患者登
し、それらの中から最適なデザインを選択します。
録の速度は試験デザインの一部分であるとも言われ
これらの候補デザインの中には、中間解析を実施せ
ています4)。短期間での患者登録の利点とアダプティ
ずに何の変更もしない、従来型のいわゆる固定デザ
ブ・デザインを適用することの利点を比較検討すべ
インも含めます。アダプティブ・デザインの試験が、
きであり、患者登録の速度の試験デザインの動作特
常に固定デザインよりも優れているとは限らないか
性に及ぼす影響を上述のシミュレーションで評価し
らです。
ておくことも重要です。
さらに、中間解析の結果に基づく決定のための基
施設モニタリングでの原資料確認やデータクリー
準や手順も具体的に規定することが必要です。アダ
ニングもアダプティブ・デザインの試験を成功に導
プティブ・デザインは、従来の固定デザインを超え
く要素で、計画通りに定期的に淡々と実施すること
る有益性を示すときにだけ採用すべきです。候補デ
が重要です。中間解析直前の集中的なモニタリング
ザインの比較は、平均必要症例数、検出力 / 第Ⅰ種
は実施施設に中間解析の時期を知らせていることに
の過誤確率、正しい用量を選択する確率などの試験
なりますし、効果についての不必要な当て推量を助
デザインの動作特性に基づきます。アダプティブ・
長し、何らかのバイアスをとり込んでしまうことも
デザインは非常に複雑な統計理論に基づいているた
あります。
め、その動作特性を解析的に調べることに限界があ
試験のインテグリティを維持するために、データ
り、ほとんどの場合にコンピュータ・シミュレーシ
モニタリング委員会(DMC)の設置、DMC内での解
ョンを用います。さまざまな仮定のもとでシミュレ
析、審議および勧告の手順、試験運営ならびにスポ
ーションを実施し、推定した動作特性を総合的に判
ンサー(臨床研究を企画・実施・資金調達する個人ま
断して、最適な試験デザインを選択します。最終的
たは組織)内での勧告の伝達方法などの事前規定も重
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実施上の留意点
【シリーズ】21世紀の臨床開発を支える新しい技術
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要です。実際には、事務局運営や独立統計解析セン
の機密情報の取り扱いについて理解し、細心の注意
ターの業務は、開発受託機関(CRO)に委託すること
を払うことが必要です。このように、すべての関係
になります。つまり、スポンサーが直接に関与でき
者が一丸となって取り組むことにより、アダプティ
ないDMC会議では、CROの各担当者が会議の運営
ブ・デザインを採用した試験を成功に導くことがで
をサポートすることになります。DMC会議を円滑に
きます。
進め、試験を成功させるためには、CROの各担当者
とスポンサーの各担当者の十分な事前打ち合わせが
鍵になります。
おわりに
アダプティブ・デザインは、適切に利用すれば、
臨床開発の効率を改善する可能性を有しています。
ただ、その可能性を十分に引き出すためには、計画
段階において十分な検討が必要で、実施面において
も注意すべきことがたくさんあります。アダプティ
ブ・デザインの試験の妥当性やインテグリティが損
なわれないためには、試験にかかわっているすべて
の関係者(スポンサー、DMC、CRO、実施施設)が、
中間解析の結果、DMCの勧告内容、決定の詳細など
【シリーズ】21世紀の臨床開発を支える新しい技術
(3)
1)小宮山靖、越水孝、菅波秀規、酒井弘憲、渡橋靖、東宮
秀夫.医薬品の臨床開発におけるアダプティブ・デザイ
ン:米国研究製薬工業協会ワーキング・グループのエグ
ゼクティブ・サマリー邦訳. 臨床薬理 2009;40(6)
:
303-310.
2)Quinlan, J, Gaydos, B, Maca, J, Krams, M. Barriers
and opportunities for implementation of adaptive
designs in pharmaceutical product development.
Clinical Trials 2010;7:167-173.
3)越水孝、栗林和彦、小宮山靖、東宮秀夫.アダプティブ・
デザイン導入の現状と今後の見通し.医薬品医療機器レ
ギュラトリーサイエンス 2010;41(4)
:262-266.
4)Berry, D. The promise and the perils of adaptive
designs. PhRMA Adaptive Designs Workshop:
Opportunities, Challenges and Scope in Drug
Development, November 2006.
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