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1. 水循環系保全整備計画の考え方

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1. 水循環系保全整備計画の考え方
1. 水循環系保全整備計画の考え方
1−1
1.1 整備計画の役割
水循環系保全整備計画は、造成基本設計やパブリックスペース・デザインなどのテ
ーマ別整備計画の一つであり、各地区の地区基本設計と相まってマスタープランを実
行に移すための具体計画として機能するものである。
水循環系保全整備計画では、環境影響評価書やマスタープランにおける基本方針に
沿って、保全項目ごとの計画目標の設定や対策施設の配置、諸元等を定める。
造成基本設計
(評議会 1998.5)
基本的考え方
(将計委 2000.2)
新キャンパス・マスタープラン2001
(評議会 2001.3)
工学系地区 センター地区
基本設計
基本設計
土地利用
学内交通
施設配置
環
境
設
備
移転順序
(2002.3)
・・・地区
基本設計
(2003.6)
造成基本設計(2000.3)
※
パブリックスペース・デザイン
交通アクセス及び学内交通
水循環系の保全
自然環境の保全
※
※
※
※
※ テーマ別整備計画
1.2 整備計画の基本方針
開発前
修復・改善措置
影響
整備計画では、移転地及び周辺地域の水循環系を保全するとともに、地域の将来にわた
る持続的な発展を可能とするような水秩序の確立を目指す。具体には、大学の統合移転事
業による土地利用の変化、昼間人口(学生や教職員)の増加等が水循環系の構成各要素に
対して及ぼす影響の範囲や程度を把握し、これらを移転前の状態に極力回復することを基
・森林の伐採、造成
・地下水保全対策
・利水池の整備
・洪水抑制対策
・昼間人口の増加
・水利用対策
(新たな水利用の発生)等
本方針として、このための保全対策および維持管理の内容等を明らかにする。
水循環系の要素としては、
・周辺の水環境や水利用の基本要素となっている地下水を中心とした降水・蒸発散・
浸透過程
・農業用水や上下水道を中心とした人為的な水利用過程
・洪水時における非日常的な降雨・流出過程
を対象とする。
糸島地域の水循環系
(移転事業後)
水循環系の
変化
糸島地域の水循環系
(現状)
糸島地域の水循環系
(移転事業後)
影響
×
糸島地域の
持続的発展
修復
統合移転事業
<影響要素>
・造成工事
・利水池の整備
・建築工事
・大学内の水利用 等
図−1.2.1
<影響回避・軽減対策>
・地下水保全対策
・農業用水、上下水道に
おける水利用対策
・流出抑制対策 等
開発による水循環系の影響イメージ
開発後
図−1.2.2
開発前後の土地利用比較
1−2
1.3 周辺特性の分析
地域における水循環系は、地形、気候をはじめとする自然特性、およびそこにおけ
る人為的な水利用の状況等により特等づけられる。
ここでは、これら新キャンパス周辺の水循環系を形成している基礎要素について概
略を示す。なお、詳細については、
「九州大学新キャンパス統合移転事業
環境影響評
価書(平成 12 年 2 月)」および「九州大学統合移転事業環境監視調査報告書(毎年度)」
を参照のこと。
1.3.1 地形、気候等の特性
移転地は、福岡市西区の西端部に位置し、一部前原市と糸島郡志摩町を含む。移
転地周辺は、緩やかな丘陵地であり、北東部は比較的起伏に富んだ山地、南東部は
水田等の農地が広がっている。移転地は、水崎川(二級河川)、大原川(準用河川)、
杉山川(普通河川)の源流に位置しており、これら流域の治水や利水、水環境と密
接に関連している。
移転地周辺の基盤岩は古生代の主に砂質・泥質片岩よりなる変成岩類であり、移
転地北部の山地や丘陵地に東西方向に分布している。その他の山地・丘陵地のほと
んどは主として中生代白亜紀に貫入した花崗岩類が分布する。
移転地周辺は、日本海型気候に属しているが、気象庁所管の地域気象観測点「前
原」の観測結果では、比較的温暖で夏季に降水量が多い太平洋型気候区の特色を有
している。年間降水量は 1,600mm 程度となっており、当該気候区の 1,700mm 前後と
比較して若干少ない。一方気温については、対馬暖流(黒潮)の影響を受け温暖な
気候で、年平均気温が 16.1℃となっており、沿岸部では年中無霜に近いところもあ
る。
(九州大学新キャンパス統合移転事業
図−1.3.1
環境影響評価書
平成 12 年 2 月より)
地形分類図
1−3
4,000
20
2,000
10
1,000
5
0
0
H6
H7
図−1.3.3
H8
H9
H10
H11
H12
H13
H14
H15
気温、降水量の経年変化(地域気象観測所「前原」)
「資料:気象庁
電子閲覧室データ
平成 6 年∼平成 15 年」
300
30
降水量
平均気温
平均月降水量(mm/月)
250
20
150
15
100
10
50
5
0
0
2月
3月
図−1.3.4
図-1.3.2
環境影響評価書
平成 12 年 2 月より)
25
200
1月
(九州大学新キャンパス統合移転事業
年平均気温(℃)
15
降水量
平均気温
4月
5月
6月
7月
8月
9月
年平均気温(℃)
年間降水量(mm/年)
3,000
10月 11月 12月
気温、降水量の月別変化(地域気象観測所「前原」)
「資料:気象庁
電子閲覧室データ
平成 6 年∼平成 15 年」
表層地質図
1−4
1.3.2 水環境特性
(2)ため池
(1)河川
移転地内及び周辺には 9 つのため池が分布していた。ため池の位置及びその集水域
移転地は大きく 3 つの水系に分けられる。
を図−1.3.6 に示す。
志摩町に位置する移転地北西部は桜井川水系杉山川流域に属し、移転地中央部から
立浦池を除く 8 つのため池が移転地を集水域に含んでいる。水源を自流域にのみに
北部にかけての流域は北流して博多湾へと注ぐ大原川水系に、また南部から北東部に
頼っているのは、神子浦池、二股池、柚木池の 3 つであり、それ以外はいすれも河川
かけての流域は東流して瑞梅寺川河口干潟を経由して今津湾へと流出する瑞梅寺川水
や近くのため池から取水している。
系水崎川流域に属している。
観測の結果、流量の季節的な特徴はみられない。
水質は、周辺集落からの生活排水や農業排水の影響を受け有機系の汚濁が進行して
いる。
(九州大学新キャンパス統合移転事業
環境影響評価書
図−1.3.5
水系図
平成 12 年 2 月より)
(九州大学新キャンパス統合移転事業
図−1.3.6
環境影響評価書
平成 12 年 2 月より)
開発前のため池の分布及び集水区域
1−5
1
(3)地下水
1'
100
1-1’断面
1)地下水位
移転地周辺の地下水位の分布形態は、地盤高およそ 50mを境にその特徴が異なって
80
開発前地表面
いる。井戸が分布する平地部及び谷部では地表面から数m∼十数mの位置にあり、ほ
ぼ地表面に沿って分布している。一方、標高の高い丘陵地の尾根部及び斜面部での地
60
下水位は深く、特に尾根部では地表から 50m近くまで及んでいる地点も認められる。
40
20
2
地下水面
弱風化部下面
3'
0
500
1500
1000
2500
2000
1'
2-2’断面
2
2'
100
80
開発前地表面
弱風化部下面
1
3
’
60
40
2'
20
地下水面
0
図−1.3.7
500
1500
1000
開発前の地下水コンター
2000
3-3’断面
3
3'
100
80
開発前地表面
60
40
弱風化部下面
開発後地表面
20
地下水面
0
-20
500
1000
図−1.3.8
1500
2000
開発前の地下水位断面図
1−6
2)湧水
3)塩水化
移転地中央部には「幸の神」と呼ばれる湧水があり、大原川の源流の 1 つとなって
3
3
いる。平成 9 年、10 年に流量が 200∼250m /日で推移している以外は、概ね 150m /日
移転用地南東部は、古くは今津湾からの入江であり、現在でも、地下水に海水の侵
入が認められる。
ボーリング観測孔および既存井戸の一部から、深部で 10mS/cm を超える電気伝導度
程度で推移している。
が測定されている。このような地下水文環境では、地下水揚水量の多寡によっても、
局所的な塩水化が引き起こされることがある。
2000 年 6 月造成工事着手
500.00
500
実測値
400.00
400
幸 300.00
の
神
湧
水
流
量 200.00
300
降
水
量
㎜
200
m3/day
100.00
100
0.00
0
96/4
96/10
97/4
97/10
98/4
98/10
99/4
99/10
図−1.3.9
00/4
00/10
01/4
01/10
02/4
02/10
03/4
03/10
幸の神湧水量
(九州大学新キャンパス統合移転事業
図−1.3.10
環境影響評価書
平成 12 年 2 月より)
地下水電気伝導度の調査結果
1−7
1.3.3 水利用の特性
(1)生活用水
表−1.3.1
福岡市西区、前原市および志摩町における生活用水(上水道)の現況は、表−1.3.1
に示すとおりである。
移転地近傍を北流瑞梅寺川の上流には、治水および水道水の確保を目的とした有
区
分
効貯水量 2,270m3 の瑞梅寺ダムがあり、福岡市西区の西南部および前原市の上水道源
上水道の利用状況
(平成 13 年度現在)
水源の種類
実績給水量
(箇所)
(m3/年)
表流水
ダム
51,116,000
として利用されている。また、その他水源として、前原市では同市内の浅井戸を、
自流(河川)
45,748,000
志摩町は深井戸を利用している。
浄水受水
49,321,000
なお、福岡市西区、前原市および志摩町には、工業用水の施設等は存在していな
い。
上水道
表流水
ダム
1,687,000
浄水受水
簡易水道
先
福岡市
前原市
1,845,000
浄水受水
383,000
深井戸水
256,000
深井戸(2)
14,600
自己水源(12)
専用水道
水
671,000
浅井戸水
表流水
給
志摩町
志摩町(姫島)
福岡市
受水併用(49)
−
自己水源(3)
自己水源(5)
前原市
志摩町
注)簡易水道とは、上水道のうち、給水人口が 5,000 人以下であるものをいう。
また、専用水道とは、寄宿舎、社宅、療養所等における自家用の水道、その
他水道事業の用に供する水道以外の水道であって、100 人を超える者にその
居住に必要な水道を供給するものをいう。
「平成 13 年度
福岡県の水道より」
1−8
(2)農業用水
表−1.3.2
地表水の水利用状況
移転地周辺には桑原水利組合、元岡水利組合及び開水利組合の3つの水利組合が
あり、相互に運用ルールを設け、移転地一帯の河川及びため池の水を農業用水とし
水利組合
た め 池
て利用している。その利用状況は図−1.3.11 に示すとおりである。
桑原水利組合は、平川池、かなくそ池、立浦堤、錦田堤の 4 つのため池と「幸の
神」湧水及び大原川を利用しており、主に水田に利用されている。
桑原水利組合
開水利組合は、大坂の池、大久保池の2つのため池と弁天川、水崎川の水を利用
している。大坂の池、大久保池は、10 月から翌年4月にかけて「幸の神」湧水を導
水しており、主に水田に利用している。
た
平川池
め
錦田堤
池
立浦堤
掛
かなくそ池
河
元岡水利組合は、神子浦池、二股池、米栗池、柚木池の4つのため池と弁天川の
水を利用している。柚子浦池、二股池及び柚木池は、水源が自流域のみのため、渇
川
弁天川よりポンプアップしており、利用用途は主に水田灌漑用である。
元岡水利組合
大原川
6
大坂の池
大原川
た
大久保池
水崎川
め
神子浦池
池
二股池
掛
灌漑面積(ha)
54
掛
開水利組合
水時には貯水量が減少する傾向がある。このため、米栗池では貯水量が少ない場合、
河川
56.94
6.74
4.09
弁天川
米栗池
99.41
柚木池
図−1.3.11
開発前の農業用水の取水経路と灌漑区域
1−9
(3)地下水
移転地周辺では、生活用井戸 550 箇所、農業用井戸 190 箇所、業務用井戸 42 箇所、
生活・業務兼用井戸 18 箇所の計 800 箇所が確認されており、このうち平成 7 年 3 月時
点で使用されている井戸は 691 箇所であった。そのほとんどは深さ 30m程度のボーリ
ング井戸であるが、深さ 10m以浅の手掘りの井戸も 2 割程度みられる。移転地周辺地
域は、元岡地区の一部を除き上水道の整備がなされていないこともあり、調査範囲内
のほとんどの家庭に井戸が設置されており、飲料水、雑用水に利用されている。業務
用井戸は、洗浄や冷却用の他、飲料水、雑用水に利用されている。
また、農業用井戸は、当該地が河川最下流部に位置するため、河川やため池の渇
水時には被害を受けやすいことから、これに代わる貴重な供給水源となっている。
表−1.3.3
地下水利用一覧(平成 7 年 3 月)
(九州大学新キャンパス統合移転事業
図−1.3.12
環境影響評価書
平成 12 年 2 月より)
井戸水利用分布
1−10
1.3.4 洪水の特性
表−1.3.4
移転用地は杉山川、大原川、水崎川の各流域に属するが、このうち特に水崎川の流
河川名
水崎川の区間別平均現況流下能力(堤防高評価)
区
間
中である。
水崎川
また、上記 3 河川の流下能力は、移転用地の造成工事にあたって必要となる洪水抑
制施設の設計条件となるものである。
下の谷川
流下能力の安全度
3
(m /s)
(年)
河口∼0k440
9
1/1.0
0k440∼1k360
5
1/1.0
1k360∼2k190
2
1/1.0
2k190∼上流端
2
1/1.0
0k000∼上流端
6
1/10
下能力は他に比べても低く、1∼2 年に一度は周辺農地への浸水被害が生じている。
なお、大原川は 10 年確率降雨に対して概ね改修済みであり、水崎川は現在改修工事
区間平均流下能力
A dobe Sy stems
図−1.3.13
現況比流量図
1−11
1.3.5
土地利用
新キャンパス周辺は、田園や山地等が残る地域である。一方で、前原市、志摩町等を含
む九大学術研究都市構想は福岡都市圏の新たな西の拠点としてその発展が大きく期待され
ている。この中でも、九州大学周辺は新都市の核として、道路や鉄道を軸とした新たなま
ちづくりや、河川、下水道等の整備も急速に進んでいる。
図−1.3.14
移転地周辺の土地利用計画
1−12
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