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財務会討論 一社会システムとしての財務会計一
商学研究第 5 0巻第 l 号 ( 15 3 ) 1 5 3 論文 財務会討論 一社会システムとしての財務会計一 伊藤徳正 目 次 1.はじめに 1 I.財務会計とは 皿 企業システムと財務会計 lV.株式会社の説明責任 V. 法律で規定されている財務諸表の種類 V I . 財務諸表とその進化の歴史 四 会計原則J .基準 四.おわりに 要旨 財務会計とは,企業の経済活動について.企業外部の利害関係者が.企業 とのかかわりについて事 情に精通したうえで判断や意思決定ができるように,企業活動を会計担当 者が会計的に認識しその結 果を財務諸表として彼らに伝達する社会的行為である 。財務会計は.会社法と金融商品取引法によって 規制され.会計基準に準拠して財務諸表が作成され伝達される 。社会 ・経済の変化にともない. 会計情 報の利用者の情報要求も変化し財務諸表もそれに応えるよう進化してきた 。近い将来. 日本の財務会 計制度は.大きく変化するであろう 。 キーワード 財務会計.会社法.金融商品取引法,財務諸表.企業会計原則 1 5 4 ( 15 4) 商学研究第 5 0巻第 l 号 1.はじめに 財務会計とは何かについて, 1 会計学」ゃ「財務会計論」 といった講義で使用されているいく つかのテキストを見てみると,次のように説明されている 。「財務会計は,株主,債権者,固な どの外部利害関係者(従業員もしばしば外部利害関係者とされる)に対して会社の財産の状態 や経営の業績に関する会計情報を提供することを目的とする会計領域である 。J, ) 1 1 財務会計 は,株主,債権者,税務署等の企業外部の利害関係者に対して.企業の経営成績.財政状態お 財務会計とは,通常,複式簿記等の手法 よび資金状態を報告することを目的とする会計 J2),1 によって,企業の資本および損益を正確に測定するとともに.企業の経営成績および財政状態 を明らかにしそれを企業の外部利害関係者に報告する会計をいう 。J3), 1 企業外部の情報利 用者に対して意思決定に必要な会計情報を提供する 会計を,財務会計という 。J4) それぞれの説明は,使われる用語が異なっていたり,少しずつ内容が異 なっていたりするが, 財務会計とは,以上のようなことである 。 ここでは,財務会計は社会システムの一つであると いうことを念頭に置きながら,誰に対して, するのかといったことを述べ どういった情報を,何のために, 財務会計とは何か どのように報告 財務会計はなぜ必要なのかといったことを 説明する 。 なお,愛知学院大学商学部において, り , 1 財務会計論」という科目は, 3年次開講の科目であ 2年次必修科目の「会計学」の履修を前提としている 。ゆえに会計の基礎的な知識を身に つけ,基本的な考え方を知っているものを対象とする科目であるが,ここではできるだけ,会 計学を未履修のものや会計の基礎的な知識を持っていないものにとっても理解できるような内 容を心がけている 。 1I.財務会計とは 「会計とは ,特定の主体の経済活動について,情報の利用者(利害関係者)が.その主体との かかわりについて,事情に精通したうえで判断や意思決定を行うことができるように,それら の活動を会計担当者が会計的に認識しその結果を会計情報として彼らに伝達する社会的行為 である 。J5) この会計の定義は, 1 9 6 6年にアメリカ会計学会が公表した『基礎的会計理論J6) に おける会計の定義を,藤田幸男先生が若干補足し修正したものとして発表したものである 。 この定義の中の「特定の主体」が何であるかによって,会計はいくつかの種類に分けられる 。 経済活動を行う特定の主体を,家庭とすれば,その会計は家計とよばれる 。特定の主体が営利 を目的としない組織,すなわち非営利組織であれば,非営利組織会計や非営利法人の会計など とよばれる 。非営利組織には様々な種類があり,特にそれが国や地方公共団体であれば,公会 計とよばれる 。 また例えば, 学校法人であれば学校法人会計,宗教法人であれば宗教法人会計 となる 。特定の主体が営利を目的とする組織,すなわち営利組織であれば営利組織会計とよば 財務会計論 れ,その営利組織が個 人事業であれば個人事 業会計とよばれ ( 15 5 ) 1 5 5 企業という組織形態をとってい れば企業会計とよばれる 。 さらに企業会計は,企 業形態によって,株式 会社会計,合名会社会 計,合資会社会計,合 同会社会計に分けられ る 。 これらを図で示すと以下のようになる 。 家計 f政府会計・自治体会計(公会計) ム 一 品 計 非営利組織会計 〈学校法人会計 l宗教法人会計 株式会社会計 営利組織会計 (個人事業会計 〈 (企業会計 合名会社会計 合資会社会計 合同会社会計 企業会計とは,会計の 行われる場が企業であ か会計担当者が会計的 に認識する対象が企業 の経済活動である会計を意味する 。 また 外部の利 害関係者と 企業の利害関係者,す なわち情報の利用者は ,企業 企業内部の企業経営に 携わる者に大きく分け られる 。企業会計は,会計 情報の利用者が誰かと いうことによって,企 業外部の利害関係者で あれば財務会計(自 n a n c i a l a c c o u n t i n g ).企 業 内部の経営に携わる 者であれば管理会計 (managementa c c o u n t i n gまたは m a n a g e r i a la c c o u n t i n g )と二つの領域に区分される 。 財務会計は.株主や債 権者などの企業外部の 利害関係者に対して, 企業の財政状態,経営 成 績お よび資金状態といった会計情報を伝達する ことを目的とする会 計であか外部報告会 計と もよばれる 。企業.特に株式会社 の利害関係者は数が多 く,会計情報による影 響が大きいため に,財務会計は,法律により規制されている 。 日本において財務会計を規制する法律は,会社 法(旧商法)と金融商 品取引法(旧証券取引 法)である 。 これら法律という制度に立脚する会 計を 制度会計という 。財務会計によって伝 達される会計情報は, 財務諸表という形をと る 。財 務諸表は,企業内部の 会計担当者が作成し企 業外部の利害関係者に 伝達される 。そのため信 頼性が確保されること が必要となり,第三者 である公認会計士によ る監査が行われる 。 財務諸表のうち,企 業の財政状態を明ら かにするためにもち いられるのが,貸借 対照表 ( B a l a n c eS h e e t:B / S )である 。資金の調達源泉(他人 資本すなわち負債と自 己資本すなわち資 本)とその金額,それ らが企業内にどのよう に投下されているのか という運用形態(資産 )と その金額とが,企業の財政状態をあらわす。 貸借対照表では ,財政状態、を明らかにするために, 資産 ( A s s e t ),負債 ( L i a b i l i t y ),資本 ( C a p i t a l )という 記号がもちいられ,資産 =負債+資本とい う等式が成り立つ 。 これを貸借対照表等式 という 。貸借対照表の構造は,以下の ようである 。 1 5 6 ( 1 5 6) 商学研究 第5 0巻 第1 号 貸借対照表 負債 資産 資本 企業の経営成績を明らかにするのが,損益計算 書 ( P r o f i ta ndL o s sSt a t ement:P/Lまたは I ncomeS t a t e m e n t )である 。企業は,利益を獲得することを主要な目的として活動している 。そ の活動の成果として得られたものが収益であり,そのための努力として費やされたものが費用 である 。損益計算書において,経営成績を明らかにするために,収益 ( R e v enue ),費用 ( E x p e n s e ) という記号が用いられる 。収益-費用=純利益(マイナスの時は純損失)という計算がなされ, 純利益または純損益が企業の経営成績をあらわす。 この計算式を変形すると,費用 +純 利 益 = 収益という等式が成り立つ 。 これを損益計算書等式といい ,損益計算書 を作成するための計算 式となる 。 この等式から損益計算書の構造は,以下のようになる 。 損益計算書 費用 収益 当期純利益 管理会計は,経営者お よび経営管理者等の企業内部の関係者に対して,経営管理に有用な会 計情報を提供することを目的とする会計で,内部報告会計ともよばれる 。管理会計に より作成 される会計情報は,その利用者が企業内部の者であり 経営管理に有用であることが重要であ るために,法律に よる規制はなく,財務諸表という形をとる必要はない 。 m . 企業システムと財務会計 ここでは ,藤田幸男先生の企業システムの図(第 1図)を用いて,企業システムと財務会計 の関係について説明する 。 財務 会計論 ( 1 5 7) 1 5 7 第 1図企業システム r (出典:藤田幸男 「 会計 と社会 J 早稲田 商学』第 3 5 9号. 1 9 9 4年 3月.3 0 9ペ ージ。) 企業は,われわれが生 活していくうえで必要 とする財やサービスを 生産し するシステムであると 捉えられる われわれに提供 。企業は,いろいろな 環境に固まれて,その なかで活動を i) 行 っている 。企業が行う経済活動は,販売,生産 , 購買および財務の四つ に大きく分けられる 。 われわれが必要とする ものを提供する販売活 動は,販売市場におい て,顧客とかかわりを 持つ ことで行われる 。 われわれが必要とする ものを作り出す生産活 動は,労働市場におい て従業員 とかかわることによって営まれる 。生産に必要な原材料や,加工するためのエネルギーなどを 調達する購買活動は, 購買市場において,財 ・サービスの提供者と のかかわりで営まれる 。 こ れらの活動を行うため の 資本を調達する財務活 動は,債権者や株主 と呼ばれる人びととか か わって資本市場で営 まれている 。 これらの四つの市場をまとめて,経済的環境という 8)0 企業が経済活動を行 っていくためには , さまざまな法律に準拠する必要があり ,いろいろな 形で政府がかかわりを 持 ってくる 。そのため,経済的環境の外側に とになる 政治的環境がおかれるこ 。 9) どのような経済的しくみを持つのか, どのような政治のしくみを持つのかということは,そ れぞれの国民の社会的 な慣習や価値体系をも とにして決定される 。経済的環境や政治的 環境の 1 5 8 ( 15 8 ) 商学研究第5 0巻 第 l 号 外側には,市民や国民とよばれる人びとが含まれる社会的・文化的環境がおかれる 10)。 企業が活動を進める過程においては,自然を壊さないという配慮が必要である 。人間の営み は , 自然環境の中でしか行うことはできない 。決して自然を超えることはできない 。そのため にすべての環境の外側に,自然環境がおかれるのである 1) 1。 企業の利害関係者は,それぞれの環境に存在する 。経済的環境の中では,債権者,株主,仕 入れ先,従業員および顧客といった人びとが,利害関係者として存在する 。政治的環境におい ては政府の監督機関や徴税当局 地域とのかかわりが問題となる社会的・文化的環境では地域 住民や一般市民が,利害関係者となるのである 。企業がその活動を継続し社会の中で存続し ていくためには,これら利害関係者と良好な関係を維持していかなければならない 。会計は. 企業と利害関係者との聞を結ぶ社会的なコミュニケーションの手段であり,会計情報を通じて, 企業は利害関係者に対して企業の活動を説明するのであるは)。財務会計では,伝統的に,債権 者と株主を,代表的な企業の利害関係者と捉えてきたが,ここにあげた全ての利害関係者が企 業の会計情報の利用者と捉えることができるのである 。 N. 株式会社の説明責任 ここでは,企業の代表的な利害関係者である株主を例にあげて,企業の説明責任を説明する ことによって,財務会計のしくみを検討する 。 企業形態の一つである株式会社が,一定の条件を満たして,株式を証券取引所に登録するこ とを上場という 。上場すると,その株式は証券取引所において自由に売買されるようになる 。 余剰資金を持っている人たちが,企業にその資金の運用をまかせ,資金を増やそうと考える 。 その人たちを投資家または投資者という 。投資家が株式を購入すると,その株式会社の株主と なる 。株主は,株式を購入することによって,その資金を企業に提供することになる 。すなわ ち,株式会社の経営者に資金を託して,管理-運用を委ねたのであるから,株主は委託者とな る。株式会社の経営者は 資金の管理・運用を受託したのであるから,受託者となり,資金を 管理・運用する責任,すなわち受託責任が発生する 。 ここでの資金の管理・運用の具体的な内 容が,前章の企業の経済活動である 。 また経営者は.資金をどのように管理・運用したのかを, 資金の提供者である委託者,すなわち株主に説明しなければならなし 」 これを説明責任(アカ ウンタビリテイ)という 。受託責任の遂行を明らかにするために,すなわち説明責任を果たす ために,経営者は株式会社の経済活動を会計情報として,株主に報告する 。 この会計情報は財 務諸表という形をとり,定期的に株主総会で報告し承認を受けることが義務づけられている (会社法第 4 3 8条)。 なお株主は,株式会社が利益をあげれば配当金として利益の分配が受けられる 。 また,株式 会社の経営成績などによって株価が変動するので,株主は株式会社の活動により利益を得たり, 損害を被ったりすることから,株式会社の利害関係者である 。 財務会計論 ( 15 9 ) 1 5 9 このような株式会社・ 経営者と株主との関係 を図にまとめると,第 2図のようになる 。 第 2図 株式会社・経営者と株主との関係 株主 株式会社 経営者 資金の委託 受託責任 説明責任 者 託 受 委託者 このように,株式会社 とその利害関係者であ る株主とは,受託者と 委託者の関係にある 。株 主は株式会社の財政状 態や経営成績を把握 したうえで,株式を保 有し続けるかどうか, 株式を 購入または売却すべき かどうか, といったような判断や 意思決定ができなけれ ばならなし E。 そ のために株式会社の会 計担当者は,その経済 活動を複式簿記という 技術をもちいて, 日々記録 し 財 務 諸 表 と い う 会 計 情 報 を 作 成 し 株 主 総 会 等 で 株 主 に 対 し て 報告するのである 。 また, 株式会社と しては , 資金を調達するために は,財務諸表を作成す ることが必要であると もいえ る。 v . 法律で規定されてい る財務諸表の種類 財務会計において,金 業の経済活動について ,企業の外部の利害関 係者が,その企業との か かわりについて,事情 に精通したうえで判断 や意思決定を行うこと ができるように,彼ら 利害 関係者に伝達される会 計情報が財務諸表であ る 。前述したように,財 務会計は,会社法と 金融 商品取引法という 二つの法律によって規 制されている 。 1.会社法による計算書 類の種類 『商学研究J本号の「国際会計論 一会計基準の国際的調 和化から統合へ 」の Eで論述してい るように,会社法は 1 8 9 9年に制定された商法か ら会社に関する部分が 独立,改正される形で 2 0 0 5 年に制定された 。 会社法による会計は, 債権者保護を中心目的 とした会計であると考 えられる 。 会社法においては,株 式会社は.各事業年度 に係る計算書類(貸借 対照表,損益計算書そ の 他株式会社の財産お よび損益の状況を 示すために必要かつ適 当なものと して法務省令で定める ものをいう 。)および事業報告なら びにこれらの附属明細 書を作成しなければな らないと定めら れている(会社法第 4 3 5条 第 2項)。 この法務省令で定める ものとは,株主 資本変動計算書およ び個別注記表を指す( 会社計算規則第 9 1条)。 そして株式会社におい て ,取締役は計算書類およ び 事 業 報 告 を 定 時 株 主 総 会 に 提 出 し 承 認 を 受 け な け れ ば な ら な い ( 会 社 法 第4 3 8条 第 1項およ 1 6 0 ( 1 6 0 ) 商学研究第 5 0巻第 l 号 ぴ同第 2項)。定時株主総会の終結後は遅滞なく,貸借対照表を大会社にあっては貸借対照表 および損益計算書を,公告しなければならない(会社法第 4 4 0条)。 ここでいう公告とは,官報 に掲載する方法,時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法,電子公告のいずれ かの方法(会社法第 9 3 9条)により広く一般に知らせることをいう 。 また大会社であって有価 証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは 連結計算書類を作成しなければ ならない(会社法第 4 44条第 3項)。連結計算書類とは,連結貸借対照表,連結損益計算書,連 結株主資本等変動計算書,連結注記表を指す(会社計算規則第 9 3条)。大会社とは,貸借対照表 に資本金として計上した額が 5億円以上であるか,または負債の部に計上した額の合計額が2 0 0 億円以上である株式会社のことをいう(会社法第 2条第 6項)。 これら計算書類等の作成などの 株式会社の会計は,一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとされている(会 3 1条)0 社法第4 2. 金融商品取引法による財務諸表の種類 金融商品取引法は, 1 9 4 8年に制定された証券取引法を, 2 0 0 6年に改正し名称変更したもので ある 。金融商品取引法の目的は,国民経済の適切な発展および投資者の保護に資することであ る(金融商品取引法第 1条)。 証券市場において有価証券の募集または売出を行う会社は有価証券届出書を(金融商品取引 法第 5条),有価証券の発行者である会社は事業年度ごとに有価証券報告書を(金融商品取引法 第2 4条),事業年度の中間日を期末とする半期報告書 (金融商品取引法第 2 4条の 5 ) を,もしく は上場会社であれば事業年度を 3ヶ月に区分した期間ごとに四半期報告書を(金融商品取引法 第2 4条の 4の 7 ),内閣総理大臣に提出しなければならな ¥ ' '0 半期報告書,四半期報告書という ように,事業年度を細かく分けて報告書を作成するようになったのは,情報利用者の即時の情 報要求に応えるため,すなわち情報が適時性を備えるようにするためである 。各報告書におい て,経理の状況を記載しなければならず,その中に財務諸表が含まれる 。有価証券届出書およ び有価証券報告書において開示される財務諸表は,法人格を有する個別の企業を特定の経済主 体とする個別財務諸表と,企業集団全体を特定の経済主体とする連結財務諸表である 。個別財 務諸表とは,貸借対照表,損益計算書,株主資本等変動計算書,キャッシュ・フロー計算書お よび附属明細表を指す(財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則:以下財務諸表等 規則という,第 1条)。連結財務諸表は,連結貸借対照表,連結損益計算書,連結株主資本等変 動計算書,連結キャッシュ・フロー計算書および連結附属明細表を指す(連結財務諸表等規則 第 1条)。半期報告書において開示される中間財務諸表は,中間貸借対照表,中間損益計算書, 中間株主資本等変動計算書,中間キャッシュ・フロー計算書(中間連結財務諸表を作成してい ない場合)であり,中間連結財務諸表は,中関連結貸借対照表,中間連結損益計算書,中関連 結株主資本等変動計算書,中関連結キャッシュ・フロー計算書である 。四半期報告書において 開示される四半期財務諸表(四半期連結財務諸表を開示すれば,開示の必要はない)は,四半 財務会計論 ( 16 1) 1 6 1 期貸借対照表,四半期 損益計算書,四半期キ ャッシュ ・フロー 計算書であり,四半期 連結財務 諸表は,四半期連結貸 借対照表,四半期連結 損益計算書.四半期連 結キャッシュ ・フロー 計算 書である 。 これら財務諸表は,企 業内容等の開示に関する 内閣府令や,財務諸表 等規則や連結 財務諸表等規則などの 内閣府令に従って作成 される 。 これらの規則において定めのない事項に ついては,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従う(財務諸表等規則第 1条等)。 ま た,証券取引所に上場 されている有価証券の 発行会社等が,金融商 品取引法の規定により提出 する貸借対照表,損益 計算書,その他の財務 計算に関する書類は, 特別の利害関係のない 公認 会計士または監査法人 の監査証明を受けなけ ればならず(金融商品 取引法第 1 9 3条の 2),有価 証券届出 書や有価証券報告書に は.この公認会計士ま たは監査法人による監 査報告書が添付さ れる 。 V I . 財務諸表とその進化の歴史 財務諸表は,特定の企 業の経済活動およびそ の結果に関する情報を ,その企業に利害関係 を もっている人びとに伝達する媒体である 13)。前述したように 様々な人びとが企業の 外部の利 害関 係者として考えられる のであるが,財務諸表 がどのような財務報告書から構成されるか, またそれぞれの財務報 告書がどの ような内容をもつものとして作成されるかは, (1) どの ような人びとが企業の利害関係者であるか (2) それぞれの利害関係者がどのような情報を必要としているカか、 によつて i 決央まる l 川一 」 心 り l ) 会計は社会システムの一つでで、 あるカか、ら,社会や経済の発展に従って,会計も変化してきたの であり,財務諸表も経 済の発展や資金の提供 者を中心 とする利害関係者の情報要求に応えるよ うに進化してきた 。 最も原始的な意味での 財務報告書としては, ロ ーマ時代に市民の作っ た財産目録があげられ る。当時のローマ市民 は,税法の規定によっ て自己の 一切の所有財 産について定時に財産 目録 を作ることを要求され ,課税はこれにもとづ いて行われていたと言 われている 15)。定期的な財 務報告が最初に法的に義務づけられたのは, 1 6 7 3年 3月にフランスで制定された商事勅令であ る。 この頃フランスで詐欺破産が横行 し,それから債権者を 保護する目的で制定さ れた 。 この 商事勅令により商人に 全ての動産不動産およ び債権債務の表として 財産目録を 2年ごとに作成 することが義務づけら れた 16)。その後,財産目録に 資本の部が追加 され,貸借対照表に進 化し た。 リトルトン(Ana n i a sC .L i t t l e t o n )の 『 会計発達史j li) には, 1 6 3 6年の初期の多桁式財務 表 の例が載せられている 18)。 ここには, 資産,負債,資本残高よりなる 貸借対照表がある 。 この 頃に,貸借対照表が作成されるようになったと考えられる 。「国際会計論 会計基準の国際的調 和化から統合へー」の Hで論述している ように,財産目録もしくは貸借対照表に よって ,主と して債権者に会計情報を伝達するという考え方は, ドイツから日本の商法に受け継がれた 。財 1 6 2 ( 16 2 ) 産目録に関しては, 商学研究第 5 0巻第 l 号 日本では, 1 8 9 0年に旧商法が, 1 8 9 9年に商法が制定され,財産目録の作成 が要求されていた 。 1 9 3 4年の商工省臨時産業合理局財務諸表準則および 1 9 4 1年の企画院製造工 業財務諸表準則(草案)においても財産目録についての規定があった 。 1 9 7 4年の商法改正にお いて,開業時および決算時の財産目録は廃止され,現在は清算,会社更生手続開始および破産 時の財産目録作成が義務づけられている 。 1 9 6 0年に大蔵省企業会計審議会から中間報告として公表された「企業会計原則と関係諸法令 との調整に関する連続意見書」の「三.企業会計原則と商法」の 1 1財産目録」で述べられて いるように,財産目録が初めて法律上の制度としてとりいれられたのは,債権者の保護,具体 的には支払能力の測定を目的としてのことであか貸借対照表は財産目録の要約表としての役 割をもっていた。そこでは,貸借対照表は財産目録から作成されるものと考えられていた 。企 業会計において損益計算の重要性が強調されるようになって,貸借対照表と損益計算書とは有 機的関連を保つべきことが認識されるようになった 。 このためには貸借対照表も含めて,財務 諸表は正確な会計帳簿に基づいて作成されなければならなし ¥0 ここで 財産目録は決算貸借対 照表作成の手段としての機能を失い,財産目録は貸借対照表に記載された資産及び負債の明細 表と しての機能は有しているが,決算報告書としての意義を失った, とされているのである 。 1 9 7 4年の商法改正では,財産目録の作成についての文言が削除され 貸借対照表は会計帳簿 に基づいて作成されることが規定された 。 1 9 4 9年に公表された企業会計原則では,財産目録に ついての規定はない 。貸借対照表は財産目録と切り離され,会計帳簿に基づいて作成されるこ ととなった 。 ここで,貸借対照表は原価主義による評価が採用されることとなったのである 。 財産目録は資産の部と負債の部から構成される 。そして流動・固定分類がされ,売却時価評 価される 。 これは 債権者保護を目的とし 債務の支払能力に関する情報すなわち財産の換金 化価値を表示することを目的としたためである 。 貸借対照表は,資産の部,負債の部,資本の部から構成される 。資本の部が追加されたのは, 1 7世紀に入り東インド 会社のような株式会社が出現 し 出資者に対しての報告が重視されたた めではないかと考えられる 。東インド会社が出港時に貸借対照表を作成し帰港時に貸借対照 表をまた作成し財産法によって利益計算をする必要があった 。 株式会社の発展にともない, 1 不在株主」が出現し.1所有と経営の分離」という現象が起こっ たために,経営者はその経営の委託者である大衆株主に対し経営活動の実態についての情報を 定期的に伝達する, という義務を負うようになり,企業の一定期間の経営成績に関する情報を 伝達する媒体として損益計算書が登場した問。その後.損益計算が重視されるようになり,貸 借対照表は財産目録と切り離され,帳簿をもとに作成される ようにな った 。 ここでは,取得原 価主義が採用され,繰延資産が計上されるようになった 。繰延資産とは,企業会計原則注解 1 5 によれば,すでに代価の支払いが完了しまたは支払義務が確定し これに対応する役務の提供 を受けたにもかかわらず,その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用であり, 財務会計論 ( 1 6 3) 1 6 3 その効果が及ぶ期間に 合理的に配分するため に,経過的に貸借対照 表上資産として計上す るこ とができると規定されている 。繰延資産は実体がな く換金化価値を持たな いため擬制資産や会 計的資産等と呼ばれ, 正確な期間損益計算の ために将来の収益に対 応させるよう計上され ると いう点で会計固有の概 念であると言われてき た 20)。企業会計原則では. 創立費,開業費,新株 発行費,社債発行費, 社債発行差金.開発費,試験研究費及び建設利息を繰延資産に属するも のと定めている 21)。 これらは,財産の換金 化価値を表示するとい う目的とは関係がない 。それ ゆえに財産目録には計 上されなかった 。 前述した理由により損 益計算書が登場したのであるが,アメリカにおいては, 1 9 2 9年のニュー ヨーク株式市場の大暴 落に始まる大恐慌によ り大衆投資家が損害を 被ったのを契機として ,投 資家保護を目的として, 1 9 3 3年に証券法, 1 9 3 4年に証券取引法が制定 され,損益計算書を中 心 とする財務報告制度の 法的基盤が確立した mo 日本に,損益計算書を 重視する考え方の会計 制 度が導入されたのは, アメリカの証券二法を模範として 1 9 4 8年に証券取引法が制定 された時で ある 。 また,証券取引法と公認会計士法を背景 として 1 9 4 9年に企業会計原則が制 定され,損益 計算書重視の会計の考 え方が,会計の実践に 浸透することとなった 。 現在のキャッシュ・フ ロー計算書にいたる資 金情報に関する計算書 の歴史は,企業規模の 拡 大 ・信用 経済の発達に伴って企 業が外部資金の調達を はじめたこと,科学の 発達 ・資本主義の 高度化に伴 って企業が多額の固定 資産を保有するに至っ たことを理由として始 まった 2 3 )。鉄道 会社等の実務界で使用されており, 1 9 0 8年に,コール(Wi l l i a mMorseC o l e )によって紹介され てはじめて一般に知ら れるようになった 起源とされる 290 その後アメリカでは, I w h e r e g o t, w h e r e g o n es t a t e m e n t J が,資金計算書の I 資金の源泉と使途に 関する計算書 J( S t a t e m e n to f S o u r c e sandA p p l i c a t i o no fF u n d s )や 「運転資本変動計算書 J( S t a t e m e n to fChangesi nWorking C a p i t a l )と名付けられた各種の 資金計算書が年次報 告書に記載されて開 示されるようにな っ たお )0 1 9 6 3年に会計原則審議会 ( A P B )は,意見書第 3号制を公表 し , I 資金の源泉と使途に関 する計算書 」 を提示した 。同意見書では,資金 の調達源泉および資金 使途に関する会計情報 は 企業の営業活動および 投資の意思決定に有用 であるとしこの計算書 は,補助的情報として 表 示されるべきもので, 強制されるものではな いと規定した 27)0 1 9 7 1年に, APBは意見書 第1 9号 を公表し, I 財政状態変動表 J( S t a t e m e n to fChangesi nF i n a n c i a lP o s i t i o n )を提示した 。財政状 態変動表は.資金調達 および資金投下活動を 要約し財政状態の変動 状態を開示することを 目 的とするものであると され,財政状態変動表 を基本財務諸表のひと つと位置づけ,作成を 義務 づけた 。財政状態変動表は, 基本財務諸表の ーっとして定着し,ア メリカ以外の国々にも 影響 を及ぼしていった 。例えば,国際会計基準委員会 ( I A S C )の国際会計基準 ( I A S )においても財政 状態変動表を採用する こととな ったお )0 1 9 8 7年には,財務会計基準審議会 (FASB)は APB意見 書 第1 9号 に か わ る 財 務 会 計 基 準 書 ( S F A S )第9 5号 を 公 表 し , キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー 計 算 書 ( S t a t e m e n to fCashF l o w s )を,基本財務諸表のーっとした 。 ここでは,資金を現金および現金 商学研究第 5 0巻第 l 号 1 6 4 ( 16 4 ) 同等物と定義し運転資本等の資金概念は認めないこととした 。企業の経営活動は営業・投資・ 財務の 3つの活動から成り立っているとしキャッシュ・フローをその源泉別に区分表示して 開示することを求めた 29)。 9 8 6年に企業会計審議会が公表した 「証券取引法 日本における資金情報の開示については, 1 に基づくディスクロージャー制度における財務情報の充実について(中間報告 ) Jにより資金繰 り情報の改善が提言され,有価証券報告書等の「経理の状況」において,財務諸表外の情報と して資金収支表が開示されるようになった 30)0 1 9 9 7年から,会計ビッグバンとよばれる金融・ 証券市場の抜本的大改革が行われることとなり,証券取引法における開示制度についても,国 際的動向という視点から多くの見直しがなされた 。こうした中で, F A S Bの S F A S第 9 5号や I A S C の改訂 I A S第 7号を概ねそのまま受け入れて, 1998年に企業会計審議会は「連結キャッシュ・ フロー計算書等の作成基準」を公表した。 これにより, 日本でも 2 0 0 0年 3月期より連結キャッ シュ・フロー計算書の作成が義務づけられるようになった 。 2 1世紀においては,国際的な会計基準の統合(収紋)という国際的動向を受けて, 日本の会 計においても,企業活動の目的は企業の富の増大にあるという考え方や,財務報告の目的とし て投資意思決定に有用な情報を提供することを中心とする考え方が,導入されてきた 。 これに よって前述した財務諸表が制度化されて,現在にいたっている 。近い将来, 財務報告基準 日本において国際 ( I F R S )が強制適用されるようになれば,貸借対照表に代わって財政状態計算書 が,損益計算書に代わって包括利益計算書が義務化されることが予想される 。 V J I . 会計原則・基準 1.会計原則・基準とはなにか 財務会計において 企業は 利害関係者に対して 彼らが事情に精通したうえで判断や意思 決定ができるという目的にかなった会計情報,すなわち情報利用者の情報要求に合致した財務 諸表を伝達しなければならない。 またその財務諸表は,信頼性をもったものでなければならな い。財務諸表の作成者と利用者との聞に,共通の理解のための指針がなければならない 。 これ らのことから,企業が会計という社会的行為をするための,規範・ルールといったものが必要 となる 。企業がその経済活動および関連事象について測定し記録し伝達するにあたって, 遵守すべき社会的規範が会計原則もしくは会計基準である 。本来ならば,会計原則と会計基準 という言葉は厳密に使い分けをするべきである 31) が,現実には同じ意味で使われていることが 9 7 0年代以降 多く, 1 会計基準という言葉を使うことが一般的になっている 。 ここでは,会計 基準という言葉を使用する 。情報利用者を含めた,すべての会計にたずさわる人びとによって G e n e r a l l yA c c e p t e dA c c o u n t i n gP r i n c i p l e s: 合意されたものを「一般に認められた会計原則 ( GAAP)J という 。具体的には,権威ある団体が設定し公表した会計基準をさす。現在の日本に おける GAAPは , 1 9 4 9年に経済安定本部企業会計制度対策調査会(後の企業会計審議会)が公 財務会計論 ( 1 6 5 ) 1 6 5 表した企業会計原則,企業会計審議会が公表した各会計基準, 2 0 0 1年に民間組織として設立さ れ企業会計審議会から 会計基準設定の役割を 受け継いだ財団法人財 務会計基準機構-企業 会計 基準委員会 ( ASB])が公表している各企業 会計基準である 。前述したように,会 社法会計にお いて,計算書類等の作 成などの株式会社の会 計は,一般に公正妥当 と認められる企業会計 の慣 行に従うものとされて いる(会社法第 4 3 1条)。金融商品取引法会計 においては,財務諸表 を作 成するにあたって財務 諸表等規則などの規則 において定めのない事 項については,一般に 公正 妥当と認められる企業 会計の基準に従うこと とされている(財務諸 表等規則第 1条等)。 この 「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」と「一般に公正妥 当と認められる企業会 計の基 準 Jとは,上記の企業会計原則や各会計基準,各企業会計基準である 。 2. 企業会計原則 日本における財務諸表作成のための会計規範としては, 1 9 2 0年代から 1 9 3 0年代初頭にかけて 相次いだ恐慌に対する 産業合理化政策の一環 として,商工省臨時産 業合理局が 1 9 3 4年に公表し た財務諸表準則や,第 二次世界大戦中, 日本国全体の価格統制や財政政策を行うことを目的と し国内全ての製造会社 を管理するため, 1 94 1年に国家総動員法に基 づいて企画院が公表 した 製造工業財務諸表準則 (草案)が存在してい た 。 第二次世界大戦後 1 9 4 9年には経済安定本部・ 企業会計制度対策調査会に よって企業会計原 則が公表された 。同時に公表された「 企業会計原則の設定に ついて」によれば,当 時の日本の 企業会計制度は,欧米のそれに比較して改善の余地が多く,かつ,甚だしく不統ーであるため, 企業の財政状態ならび に経営成績を正確に把 握することが困難な実 情にあった 。 日本の経済再 建上,当面の課題であ る外資の導入,企業の 合理化,課税の公正化 ,証券投資の民主化, 産業 金融の適正化等の合理 的な解決のために企業 会計制度の改善統一が 緊急を要する問題であ っ た。 よって企業会計の基準 を確立 し 維 持 す るために,企業会計原 則が設定されたのであ る 。 企業会計原則は,企業 会計の実務の中に慣習 として発達したものの なかから,一般に公正 妥当 と認められたところを 要約したものであって ,必ずしも法令によっ て強制されないでも, 全て の企業がその会計を処 理するにあたって従わ なければならない基準 ,実践的な規範として の役 割を与えられた 。 また企業会計原則は,公認会計士が,公認会計士法および証券取引法にもと づき財務諸表の監査を なす場合において従わ なければならない基準 とされた 。そして企業会計 原則は,将来において 商法,税法等の企業会 計に関係する諸法令が 制定改廃される場合に 尊重 きれなければならないという指導原理ともされた 。 企業会計原則は,一般 原則,損益計算書原則 ,貸借対照表原則の 三つから構成されてい る 。 1 9 5 4年の修正の際には,企 業会計原則注解が付け られることになった 。一般原則は,損益計 算 書原則と貸借対照表原 則に共通するもの,会 計処理と報告に共通す るもの,会計全般にわ たる ものであり, (1)真実性の原則, (2) 正規の簿記の原則, (3) 資本取引・ 損益取引区分の原 則 , (4) 明瞭性の原則, (5) 継続性の原則, (6) 保守主義(安全性)の原則, (7) 単一性 1 6 6 ( 16 6) 商学研究第 5 0 巻第 l 号 の原則の七つからなる。 企業会計原則は,企業会計審議会により. 1 9 5 4年 , 1 9 6 3年 , 1 9 7 4年 , 1 9 8 2年に修正され,ま た,企業会計原則を基礎としながらも別個の会計基準とされる連結財務諸表原則など諸々の会 計基準が設定され,現在にいたっている 。2 0 0 1年には民間組織である財団法人財務会計基準機 構・企業会計基準委員会 ( A S B ] )が設立され,公的組織である企業会計審議会から,会計基準 設定の役割を受け継いだ。A SB]は,企業会計基準,企業会計基準適用指針および実務対応報告 を公表している 。 3 . 理念的・体系的会計原則と実践的・個別的会計原則 会計行為を律する社会的な規範としての会計原則(基準)には,理念的・体系的なものと実 践的・個別的なものとがあり,実践的・個別的会計原則の基礎に,それに対する価値の尺度と して機能しそれを改める力としての理念的・体系的会計原則が存在しなければならない 3 2 )。理 念的・体系的会計原則は実践的-個別的会計原則を設定する際の指針となり,諸々の実践的・ 個別的会計原則に理論的な首尾一貫性をもたせ,個別的な会計処理の原則の適否を判断するた めの基本的なモノサシになる 。 アメリカでは,民間組織である会計手続委員会 ( C o m m i t t e eo n A c c o u n t i n gP r o c e d u r e s: C A P )が 1 9 3 9年から会計原則を設定してきた 。早急に解決を迫られてい る問題を個別的に検討し当時実践されていた複数の会計手続の中から,他の手続よりも明ら かにすぐれていると思われる一つないしは複数の会計手続を判断し勧告するという方式で作 業を進めていった 。 このような新たな会計問題に対して,個別に会計基準を設定する方法を, ピース・ミール・アプローチという 。その後,アメリカでは 1 9 5 9年に会計原則審議会 ( A c c o u n t i n g P r i n c i p l e sB o a r d: APB)に , 1 9 7 3年 に 財 務 会 計 基 準 審 議 会 ( F i n a n c i a lA c c o u n t i n gS t a n d a r d s B o a r d: F A S B )に,会計基準設定機関が交代したが,同じようにピース・ミール・アプローチに よる方法で個々の会計基準を設定している 。CAPも APBも,理念的-体系的会計原則を設定 す る こ と を 予 定 し て い た が , 実 現 は し な か っ た 。F ASBは , 1 9 7 8年 か ら 財 務 会 計 概 念 書 ( S t a t e m e n t so fF i n a n c i a lA c c o u n t i n gC o n c e p t s: S F A C )を公表している 。SFACの目的は,財務会 計基準および財務報告基準の基礎となる根本原理を明らかにすることであり, F ASBが財務会 計基準および財務報告基準を設定する場合に用いる基本目的ならびに諸概念を確立することで ある 33)0 S FACは,理念的・体系的会計原則であるといえる 。 このような理念的・体系的会計原 則は,概念的枠組・概念フレームワークと呼ばれることが多くなっている 。 日本においては ,企業会計原則の本文が理念的-体系的会計原則的なものであり,注解は実 践的・個別的会計原則的なものであると考えられる 。2 0 0 1年以降は, ASB]がピース・ミール・ アプローチにより,企業会計基準を設定している 。 これらは実践的・個別的会計原則であり, 0 0 4年に, ASB]の基本概念ワーキン それを支える理念的・体系的会計原則が必要となった 。2 グ・グループが討議資料[財務会計の概念フレームワーク』を公表した 。 これは,現行の企業 会計(特に財務会計)の基礎にある前提や概念が要約-整理されたものであり,将来の会計基 財務 会計論 ( 1 6 7) 1 6 7 準設定の指針になると期待されるものであるお)。 v m . おわりに 財務会計とは何かとい うことを明らかにする ために,財務会計と企 業システムとのかかわ り や株式会社の説明責任 とのかかわり,社会制 度としての財務会計制 度を説明してきた 。財務会 計論としては,個別の 論点など,ここでは説 明できなかったことが 膨大な 量 として存在してい る。本稿においては, 社会システムとしての 財務会計という視点を 常に意識してきた。 これか ら財務会計論を 学習してし E く学生諸君は,財務会 計は人聞が行う社会的 な行為であるというこ とや企業 と社会との関係という ことを常に意識して 学習を進めて欲しし 」 社会は常に変化してい る 。財務会計は社会シス テムの 一つであるから,機能 し続けていくた めには ,社会の変化に伴 って,財務会計もまた 変化していかなければ ならない 。 ここでは,財 務諸表の進化を歴史的 に見ることによ って,それを説明した 。今後も社会は変化していく 。財 務会計もまた変化して いくのである 。 注 1) 新井清光 『 現代 会計学第 三版』 中央経済社. 平成 4年. 7ペー ジ。 2) 3) 4) 5) 6) 倉 田三郎・ 藤永弘編著『現代 会計学 入門 ( 改訂版) J同文舘,平成 20年. 16ページ。 飯野利夫『財 ー 務会計論 [三訂版 J J 同文舘,平成 6年. 1-4ペー ジ。 向伊知郎 『 テキ ス ト財務会計制 度論』三 恵社 .2 0 0 9年. 7ページ。 藤田幸男 「会計の基礎概念 J 産業経理J1 9 9 6年 7月号. 1 7ペー ジ。 r Amer i c a nA c c o u n t i n gA s s o c i a t i o n,A S t a t e me n t0 1B a s i cAc c o u n t i n gT h e o r y ,1966.略し て ASOBATとも呼 ば オ 1る。 7) 8) 9) 1 0 ) 1 1 ) 1 2 ) 1 3 ) 1 4 ) 1 5 ) 1 6 ) 1 7 ) 1 8 ) 1 9 ) 2 0 ) r 藤田 幸男 「会計 と社 会J 早稲 田商学J第3 5 9号. 1 9 9 4年 3月.310ページ。 向上 , 31 0ペー ジ。 向上. 3 10 ~ 311 ペ ー ジ 。 同上. 3 1 1ペー ジ。 向上.31 1~ 312 ペ ー ジ 。 向上. 312 ~3 13 ペ ー ジ 。 藤田 幸男 「 財務諸表」早稲田 大学会計学研究室 『 最新簿記通論』中 央経済社.昭和 5 2年.2 2 3ページ。 向上. 2 2 3ペー ジ。 片野一郎訳 『リトルト ン会計発達 史J同文舘.平成 7年増補 5版. 1 9 0ペー ジ (片野注)。 藤田 .前掲論文 1 3 ) .2 2 3ペー ジおよび向 上.216ペー ジ。 AC .L i t t l e t o n, A c c o u n t i n gE v o l u t i o nt o1900,Am e r i c a nI n s t i t u t eP u b l i s h i n gC o .,I n c. ,1 9 3 3. 片野訳.前掲書, 222 ~ 224 ペー ジ 。 藤田. 前掲論文 1 3 ) ,2 2 4ペー ジ。 会計固有 の概念 という 意味に ついては. 藤 田幸男「繰延資産」吉永栄 助 ・ 飯野利夫院修 『 会社 の計算上 巻J 商事法務研究 会. 1 9 7 4年. 242 ~ 251 ペー ジ を 参照 。 2 1 ) 2 0 0 6年 に企業会計基準委員 会 ( ASBJ)が公表 した 実務対応報告第 四号 『 繰延 資産の会計処理 に関す る当 2 2 ) 2 3 ) 2 4 ) 2 5 ) 面の取扱し寸では.株式交 付 費,社債発行費等.創立 費.開業費.開発費の 5項目を繰延 資産 としてい る。 藤田 .前掲論文 1 3 ) .2 2 4ペー ジ。 染谷恭 次郎 『資金会計論[増補版 J J中央経済社. 1960年.37ペー ジ。 同上. 37 ~ 38 ページ 。 棲井通晴 ・佐藤倫正編著 『 キ ャッシュ・ フロー 経営 と会計』 中央経済社. 平成 1 1年. 3 8ペー ジ。 1 6 8 ( 1 6 8 ) 商学研究第 5 0巻第 1 号 2 6 ) APB,APBO p i n i o nNo .3,T h eS t a t e m e n t0 1SourcesandApplication0 1Funds,1 9 6 3 . 2 7 ) 標井・佐藤,前掲書. 38~39 ページ 。 2 8 ) 国際会計基準第 7号「財政状態変動表 J1 9 7 7年(lASC,lAS7,S t a t e m e n t0 1Changesi nF i n a n c i a lP o s i t i o n, 1 9 7 7 )。 これは 1 9 9 2年に改訂され.同 7号 「 キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー 計 算 書 J(lAS7,C a s hF l o wS t a t e m e n t s, 1 9 9 2 )となっている 。 2 9 ) 棲井・佐藤.前掲書. 40~41 ページ 。 3 0 ) 企業会計審議会「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準に閲する意見書 J1 9 9 8年.連結キャッシュ・ フロー計算書等の作成基準の設定について. 1経緯。 3 1 ) 藤田幸男先生は, I 会計原則」 という用語は, I 個々の会計との問題を処理するにあたって従うべき .実践 会計基準」 という用語は. I 会計報告の最善 的・個別的な指針ないし規範 Jを表すもの として用いられ. I のものを示す指標.あるいは良い会計実務への道を示すもの. したがって理念的・体系的な規範」を表す ものとして用いられてきた, と分析している 。 (藤田幸男「会計原則の役割と構造」山桝忠恕編『体系近 代会計学 I会計学基礎理論J中央経済社.昭和 5 5年. 1 9 6ページ。) 3 2 ) 藤田幸男「会計原則の役割と構造」山桝忠恕編『体系近代会計学 I会計学基礎理論J中央経済社.昭和 5 5 年. 225~226ページ 。 3 3 ) 平松一夫・広瀬義州訳 rFASB財ー務会計の諸概念<増補版>.1中央経済社. 2 0 0 2年. 3ページ。 3 4 ) 基本概念ワーキング・グループ「討ー議資料『財務会計の概念フレームワ ー ク』公表にあたって」討議資料 『 財務会計の概念フレームワーク J企業会計基準委員会 iページ。 参考文献 新井清光『現代会計学第 3版J中央経済社.平成 4年。 1 . 同文舘,平成 6年。 飯野利夫『財務会計論[三訂版 J 大森明「ビジネス世界と財務会計」愛知学院大学商学部編『商学への招待ービジネス・ヒューマンへの道J ユニテ , 2 0 0 7年。 片野一郎訳『リトルトン会計発達史J同文舘.平成 7年増補 5版 。 企業会計基準委員会基本概念ワーキング・グループ『討議資料「財務会計の概念フレームワ ー クJ .I企業会計基 準委員会. 2 0 0 4年。 木村敏夫 ・向伊知郎編著『財務会計論 国際的視点から 』税務経理協会,平成 1 9年。 倉田三郎 ・藤永弘編著 『現代会計学入 門(改訂版).1同文舘,平成 2 0年。 黒津清編著『わが国財務諸表制度の歩み 戦前編 』雄松堂 出版, 1 9 8 7年。 黒揮清『日本会計制度発展史』財経詳報社.平成 2年。 斎藤静樹編著『詳解「討宇議資料・財務会計の概念フレームワーク J .I中央経済社.平成 1 7年。 概井通晴・佐藤倫正編著『キャッシュ ・フロー経営と会計』中央経済社,平成 1 1年。 0年。 罵村剛雄著『会計制度資料訳解J白桃書房.昭和 6 染谷恭次郎『資金会計論[増補版 J .I中央経済社, 1 9 6 0年。 田中弘 ・向伊知郎・田口聡志『会計学を学ぶ経済常識としての会計学入門』税務経理協会,平成 2 0年。 平松一夫 ・広瀬義州訳 rFASB財務会計の諸概念<増補版>.1中央経済社. 藤田幸男「繰延資産」吉永栄助 ・飯野利夫監修『会社の計算 藤田幸男「財務諸表」早稲田大学会計学研究室編 r 2 0 0 2年。 上巻 J商事法務研究会. 1 9 7 4年。 f 最新簿記通論J中央経済社.昭和 5 2年。 藤田幸男「会計基準の設定主体について J 会計.1 1 9 7 9年 2月号。 藤田幸男「会計原則の役割と構造」山桝忠恕編『体系近代会計学 I会言│学基礎理論J中央経済社,昭和 5 5年。 r 5 9号 , 藤田幸男「会計と社会 J 早稲田商学J第3 r 1 9 9 4年 3月。 藤田幸男「会計の基礎概念 J 産業経理.1 1 9 9 6年 7月号。 向伊知郎『テキスト財ー務会計制度論』三恵杜. 2 0 0 9年。