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20110714ジェーン・ケルシー教授東京講演会議事録

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20110714ジェーン・ケルシー教授東京講演会議事録
2011年7月14日
憲政記念館
ジェーン・ケルシー教授
第1部
東京講演会
講堂
議事録(未定稿)
講演
皆様この様な形で、お招き頂きまして参加できることを大変うれしく思いま
す。そして皆様方の前でお話しできることを大変うれしく思います。ニュージ
ランドにおいても、この様に国会議員の皆様に参加頂けるというのは大変幸せ
でございます。ニュージランドに帰りましても、同じように国会議員との対話
を推進してまいりたいと思います。
過去数日間にわたりまして、仙台にまいりました。まず冒頭に東日本大震災
で被災された皆様、犠牲に遭われた方々に哀悼の意を表するとともに、お見舞
いを申し上げたいと思います。日本の国民の皆様が影響を受けたと伺っており
ます。ニュージランドにおきましても、実は悲劇的な地震がクライストチャー
チにおいてありました。私どもも多くの友人を失い、衝撃を受けています。そ
して、今後の復興に向けて努力を傾注していかなければなりません。
さて、本日のテーマについてでありますが、自らの運命は自らが決定してい
かなければならないということを強調したいと思います。そしてTPPに関し
まして、国家として国民として、意見を述べられなければならないと思います。
3部構成でプレゼンテーションさせて頂きたいと思います。まず第1部はT
PP交渉の背景であります。そして、第2部におきましては、問題点について
ご紹介申し上げたいと思います。今までの交渉の中で、浮上してきた問題点を
ご紹介します。第3部におきましては、日本への影響についてご説明します。
とりわけアメリカから出てきた文書を見るとアメリカが日本に対して何を要求
しているのかが示唆されています。TPPの交渉に参加した際に日本に対する
要求がどういうものになるかご紹介申し上げます。
まず、この環太平洋戦略的経済連携協定・TPPとは何かということですが、
まだ存在しない協定です。新しい協定であります。本協定を推進しようとして
いる関係者は、21 世紀の協定であると主張しています。今までにはなかったよ
うな自由貿易協定になると主張しているのです。とりわけTPPの目的は国境
の枠組みを超えることを目指していると主張しています。今までになかったこ
とであります。国境の枠組みを超える国内措置ということであります。政策や
規制で普通貿易では対象にならなかったものもTPPの対象になるのです。後
で詳しくご説明申し上げたいと思いますが、例えば公衆衛生に関する政策、資
源の所有権も含まれます。そして民主主義的なプロセスも対象となります。従
いましてこの協定は、ユニークなものになります。それは、広範な影響を国内
の政策、そして日々の生活に与えることになるからです。
現在は9カ国が交渉に参加しています。オーストラリア、ブルネイ、チリ、
マレーシア、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、アメリカとベトナム
です。いずれもAPECの加盟国です。それ以外に共通点はないとお考えにな
るかも知れません。確かに多様な国々です。しかし、重要な共通点もありまし
て、それについては後でご説明申し上げたいと思います。
このTPPの中の力関係を理解するために重要な要素というのは、9カ国で
はあるけれども1カ国だけが圧倒的に大きな経済大国であり、そして、政治的
な影響力を持っているということです。すなわちアメリカが圧倒的に大きいと
いうことであります。ですから実質的にはアメリカとその他8カ国の協定とも
位置付けられます。
なぜそのようなことを申し上げるかという背景ですが、オーストラリアやニ
ュージランドの2カ国におきましては、TPPのような協定に関しましては、
閣議決定ができます。しかし、アメリカにおいては議会が承認しなければなら
ないのです。すなわち、アメリカの商業的な目的に適ったものでなければなり
ません。そしてまた、アメリカの議会が犠牲にしたくないセンシティブ的な分
野につきましては徹底的に保護するということになります。アメリカの議会が
承認しなければTPPというのは成立しないのです。だからこそアメリカは交
渉において圧倒的な影響力を及ぼすのであります。
このTPPは 2005 年に締結されました、チリ、シンガポール、ニュージーラ
ンド、ブルネイの環太平洋戦略的経済連携協定をベースにしています。しかし、
これは完全な協定ではありませんでした。投資、金融サービスを規定する章が
なかったからです。チリは当時アメリカとの交渉を完結し、その協定が投資金
融サービスにどう影響を及ぼすのかということについて示唆がうまれたからで
す。そして 2008 年におきまして投資金融サービスに関する交渉が行われた際に
アメリカが参加をすることを表明したのです。
ジョージ・ブッシュ大統領は、アメリカがこの交渉に参加するだけではなく、
P4に参加したいと表明したのです。アメリカが他の協定に参加するというの
は例外的です。従いましてアメリカが完全なパートナーとして再交渉するとい
うことを意味したのです。その後、オーストラリア、ペルー、ベトナムも交渉
に参加することを表明しました。そして、その後マレーシアも交渉に参加しま
した。しかし、オバマ政権が誕生した際に、TPPに関しては、前政権の政策
を再評価してから考えるとしたわけです。ロビー活動もありまして、企業側の
ロビー活動を受けてオバマ政権もTPPの交渉に参加することを表明しまし
た。それ以降7回にわたって、交渉・会合が開かれまして、2週間前にベトナ
ムで第7回の交渉が行われました。
以上歴史に関して概観を説明させて頂きました。もう尐し深く振り返る必要
性があると思います。19 世紀まで遡る必要性もあるかと思います。1999 年にW
TOのラウンド交渉がシアトルにおいて開催されました。しかしながら、失敗
に終わりました。会場の外でもデモが行われ、そしてWTOの加盟国の間から
反対意見が出たからです。当時は、とりわけニュージランドの現貿易大臣が下
から協定を作る必要性があると主張したのです。トップダウンではなく、下か
らボトムアップで協定を作ろうと考えたわけです。トロイの木馬戦略と言えま
す。皆様方よくご存知だと思います。このトロイの木馬というのは、全く問題
のない木馬と思われたけれどもその中にはいろんな目的があったわけです。
その後、ニュージーランドとシンガポールが協定を交渉しまして、そしてP
4、チリ、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイの間で交渉されたので
す。その他のFTAと組み合わせていこうという取り組みです。この様な取り
組みを通して、アジア・太平洋地域全域にわたっての協定を構築したいと考え
ているのです。それがTPPの背景にある目標です。
ではここで、具体的な目的について申し上げたいと思います。2つの主要な
目的があります。TPPの推進者によって、打ち出されている目的です。
一つめは商業的な目的です。しかし、これは通常の貿易協定ではないのです。
貿易協定というのは、自動車あるいはテレビその他の製品をそれぞれの国の間
でやりとりをする貿易に関するものだとお考えかと思います。そして国境での
関税が課せられ、そして輸入された製品が高くなる問題に対応するものです。
しかし、TPPの現在の交渉国は、高い関税を設けていません。殆どの国は任
意で関税を引き下げてまいりました。そして、この交渉国の間で既にFTAが
策定されています。したがって互いの市場にアクセスできる状況になっていま
す。シンガポール、チリ、ブルネイ、オーストラリアとアメリカは自由貿易協
定があります。オーストラリア、ニュージランドもASEANとの協定があり
ます。そしてその他にも多くの協定があります。既存の交渉国の間で関税を引
き下げるというのは主たる目的ではないのです。商業的な目的を考えるのであ
れば、重要なのは投資の分野であります。したがって、この協定というのは投
資に関する協定と位置付けることもできます。外国の投資家が、とりわけアメ
リカの投資家が他国に投資をし、そして権利を保障してもらうことを可能にす
るものです。そしてこれらの協定を投資家自らが政府に対して行使することが
できるのです。
アメリカがとりわけ重要視している分野があります。知的財産権から得られ
るロイヤリティーです。製薬会社もそうですし、ハリウッドもそうです。マイ
クロソフトも同様ですが、非常に重要な収入源になっているのです。常により
厳密な知的所有権の法律の整理を求めています。そうすることによって権利を
独占したいと考えているのです。
それに加えて、他の自由貿易協定で入っていないもので、サプライチェーン
の統合を行うということをTPP関係諸国の中で行うというものであります。
様々な事業を各国で行っている国々を対象にしたものがあります。
そして、もう1つは規制の調和です。つまり、国内の規制をお互いに出来る
だけ似通ったものにしようというものなんです。つまり、国境を越えて深く入
り込むということでありまして、これは単に普通の貿易、従来の貿易をどうこ
うするということではないということです。
2つめの目的、これは先ほども申し上げましたが、この地政学的、戦略的な
目的です。これは経済とは無関係でもあります。TPPはいわば判断基準にな
る協定と理解されています。すなわち、1つのモデルをつくろうというものな
んです。そのモデルをもとに他の国が参加できるようにするというというもの
です。特に、他の新興工業国、特に大きな国、例えばインドであるとか中国、
韓国もそうです。日本にとりましては、この戦略は非常に重要であります。た
だ単に、日本が、参加するということは、クレディビリティを与えるというこ
とになります。すなわち、アメリカ以外の小さな国だけでは、余り意味を持た
ないからです。もし日本がこの全体の中に加わっていくことになりますと、お
そらくしっかりとした基盤として他の国々が参加出来るようなものになると理
解されています。すなわち、この協定はアメリカを中心にして行う、アメリカ
のモデルをベースとしたものになるということ。これがテンプレートになって
経済統合をアジア太平洋地域に実現していこうというものなんです。これ自身、
アメリカにとっても中国に対するカウンターバランスを作り出すことになりま
すし、そして、アメリカ自身は現在、ASEAN+3ではありません。ASE
AN+6、この東アジアサミットの3ヵ国でもありません。したがって、アメ
リカにとりまして戦略的な目的は非常に重要なんです。気象・経済的目的が同
様に重要だということになります。
この2つの目的を擁護することによって、アメリカの議会を通過することに
つながる。そして、議会を通過するということが政治家に求められるというこ
とになります。オーストラリアとニュジーランドにおきまして、より幅広い経
済統合、アングロアメリカのモデルをベースにしてつくっていこうというふう
に考えております。周辺国があるということになりますので、主要なマーケッ
トにアクセス出来るようにするためにはそれが必要だからです。ご覧頂いてお
りますように、この交渉は非常に広範囲に広がるものであります。9ヵ国だけ
ではなく、様々な作業グループが内部に存在しています。こういった課題を1
つの作業グループで、議論されているものは、他の作業グループでも議論され
ているということになっています。したがって、全体像を理解するのは非常に
難しいものがあります。
いま、現段階における交渉でもどういう状況になっているでしょうか。もと
もとこの交渉の妥結は、APECの首脳会議がホノルルで開催される時、すな
わち 11 月に設定されていました。最初からこういったことは実際出来ないとい
うふうに言った人がいます。あまりにも、壮大で論争を呼ぶ内容を含んでいる
からです。ですから、達成は出来ないだろうと見ていました。そして、その通
りになりそうです。色々な重要なテーマがまだまだ議論されていません。とい
うのは、オバマ政権が、ブッシュ大統領の時に制定した、そして合意をした自
由貿易協定を議論しなければならないからです。 韓国、パナマ、そしてコロン
ビアの自由貿易協定について解決しなければならない。したがって、それをこ
なれるまでは、政治的に非常にセンシティブな課題を先に出すということをし
たくないという状況にあります。したがって、2011 年9月には、米国の交渉会
議が行われることになりますが、しかしそれが十分に実行できなければ 11 月の
合意は難しいということになるでしょう。ただ、APECの首脳会議が 11 月に
開かれますので、そこで合意があったとしても、ある種の曖昧な枠組みが合意
されるに過ぎないという状況になるのではないでしょうか。
来年、アメリカでは大統領選挙があります。そして、合意を来年に実現する
というのは、合意が出来ると想像するのは難しいということが分かるでしょう。
例えば、経済団体、労働組合、環境保護団体、そして、アメリカの小規模な農
民が色々な意見を言うようになるからです。したがって、交渉に関わっている
人たちにとりましても、2013 年までは何も起こらないだろうと見ています。つ
まり、まだまだ十分時間がある。そして、その時間を使って何が起きているの
かということを理解することが出来るということであります。この点について
は、後ほどもう尐し詳しく話をしたいと思います。
交渉は非常に秘密裏におこなわれていますので、中身を見て何が議論されて
いるのかを外から見るのはなかなか難しいことです。しかし、一方では交渉が
おこなわれている期間がありますので、この期間において、日本においても色々
議論をしておられますけれども、何が具体的にこの費用対効果、費用便益の関
係から何が課題なのかを議論しなければならないかと思います。
公式の情報が非常に尐ない状況でありますけど、しかしながら、すでに多く
の課題が議論を呼ぶものになっています。様々なTPPの交渉国において 話題
になっている課題があります。おそらく、最大の争点になっているのは知財に
ついてでしょう。何故これが議論を呼ぶのかということになりますと、テキス
トがリークされたことに現れております。アメリカの草案がリークされた、そ
してニュージーランドの草案もリークされています。これは全く双方が逆にな
っているんです。様々なアナリストによりますと、アメリカのテキストを見れ
ば様々な分野でどういう意味合いを持っているかということが分かると思われ
ました。
もっとも重要な分野というのが医薬品です。つまり医薬です。アメリカの製
薬会社のロビー活動の結果、アメリカの草案がつくられています。しかし、こ
のテキストを採用するというということになりますと、安い医薬品にアクセス
することが他の国では難しくなります。例えばニュージーランドの例がありま
すけど、ここがニュージーランドで最大の争点となっているからです。我々は
このファーメックスといわれる製薬公認機関があります。そして予算を決めま
して、一つの形式があって、その医薬品に対してどれだけ支払われるかという
ことが決められています。例えば、ジェネリックな医薬品もありますし、そし
て、また特許の製薬、そしてロイヤリティについても制限なども入っています。
アメリカの提案は、ニュージーランドがこのシステムを運用することが出来な
いようになってしまいます。すなわち、この医療予算が更に上がってしまう。
若しくは、国民が医薬品を購入するのに更にお金を支払わなければならないと
いうこと。医療保険の下で健康保険によって医薬品に対してアクセスできる訳
でありますけど、しかしながら、それが利用できなくなる。そして、選んでい
かなければないという状況におかれることになります。
2つめの知財の関係で重要な点は、インターネットに対するオープンアクセ
スです。マイクロソフト自体は、このインターネットで何が出来るのかという
ことについて非常に関心を持っております。そして、もしアクセスをすべきで
ない者がアクセスした時の賠償請求、そして、インターネットプロバイダに対
して、実際に人々が何をダウンロードしているのかということについて監視を
しなければならない。これは、民主主義の観点から問題になると思います。そ
して、グーグルが実際この議論をしています。マイクロソフトやグーグルにと
ってこの点が重要になってくるというわけです。
同時に、ニュージーランドにおきましては、例えばローカルなIT会社がオ
ープンソースを持っていると致します。そして、ここで将来イノベーションが
発生すると、そしてイノベーションの機会が失われてしまうということになり
ますと、経済発展の可能性も失われてしまうということになります。アメリカ
は、刑事罰を実際にインターネットに不適切な形でアクセスした時に刑事罰を
加えようというような話があります。図書館も懸念を持っております。著作権
の期間との観点です。日本におきましては、あるものは 70 年、そして別のもの
は 50 年という著作権の期間というふうに理解しています。この著作権期間が長
ければ長いほど、大学や図書館等にとりましては、アフォーダブルのサービス
をしにくくなります。インターネットに対する制限、そして、この著作権の問
題が、知識セクター、そして大学セクターにとって大きな制約になります。
もうひとつの重要な要素がありますが、そして議論が出る点でありますが、
投資家の権利に関わる点です。ほとんどの国におきましてはある種の制約・制
限を海外の外資に対して行っております。しかしながら、ほとんどの国におい
て、そういった制約が取り除かれて参りました。そして、特にセンシティブな
分野、例えばニュージーランドにおきましては、農地の購入、そして漁業権の
購入、アメリカからこういった制約を全て取り除けというふうにいわれており
ます。
この点におきましてニュージーランドでは非常にセンシティブになっており
ます。特に民営化の歴史をたどってきた経過があるからです。公的資産の民営
化を行った、しかしながら多くの場合失敗をしたという経験をもっています。
その結果、政府として航空会社、そして鉄道会社を再買収するということを行
いました。そして、また郵政の民営化についても失敗をするということがあり
ました。現在、政府として、また民営化をしようとしています。例えば、我々
がつくった、政府でつくった銀行の民営化を検討しています。もし、こういっ
たところに制約を加えるということができないということになりますと、非常
に大きな問題を抱えることになります。ニュージーランドの外からニュージー
ランドに対して大きな制約が加わるということになります。
しかし、この協定の中で提起をされています投資家の保護がありますが、そ
のためにはニュージーランドとして、そのルールを変えていかなければなりま
せん。その場合、投資家は、その権利として国家に対して請求することが出来
るというふうにいわれております。そして、投資家としてこの紛争を国家に対
して直接行う、ニュージーランドの裁判所ではなく国際調停裁判所、これは世
界銀行のものですけど、ここに提起することができる。そして議論につきまし
ては秘密裏におこなわれることになります。投資家と国家しか分からない内容
になっています。
また、紛争が起きている、あるいは提訴されていること自体わからないこと
があります。先に進むまで状況が明らかにならないということです。オースト
ラリアにおいての事例があります。オーストラリアにおいてはこれが問題にな
り、TPPの議論が非常に展開されています。フィリップモリスというタバコ
の会社がありますが、公衆衛生上タバコの消費をオーストラリア政府が制限し
ていると主張しているのです。タバコのロゴに関しまして、簡素化するという
ことを法律で整備しようとしています。フィリップモリスは、このような行為、
このような政策は収用に値するとしている。投資をしたものの結果である商標
が侵害されていると主張しているのです。したがって、オーストラリア政府を
世界銀行の機関に提訴する。しかも香港の子会社を通して提訴するというので
す。これは裏口からの提訴です。これは協定の中で権利が与えられています。
ですからフィリップモリスやその他の企業も、TPPはこのような投資に関し
ての規定がなければ受け入れられないと主張しています。
ベトナムは縫製産業について懸念しています。アメリカの提案している規定
によりますと、もしも繊維が、その縫製されている国であるならば問題だとし
ています。ベトナム産業は非常に懸念しています。アメリカにとって有利な規
定であるからです。
そして次に、国家貿易企業についてでありますけれども、シンガポールやベ
トナムは特にそうなんですけども、このような国家貿易企業があります。これ
は反競争的であるという主張が生まれています。国によっては、農業に関して
国家貿易企業のある国もあります。例えばカナダにおきましては、酪農に関し
て乳製品、そして家禽などに関しましても、国家貿易企業があります。カナダ
に対しましては、それを譲歩しなければ交渉に参加することはできないといわ
れています。
日本においても同様の企業があります。輸入品に関しての国家貿易企業があ
ります。しかし、交渉の対象にしなければ、交渉に参加できないということが
要件になります。政府調達市場についてでありますが、政府は多くの投資をし
ます。サービスを享受しています。とりわけ建設業において、また、港湾、道
路、刑務所などの政府調達市場があります。外国企業も同様に入札に参加でき
るようになります。交渉の中身次第ということであります。
次に農業については後で詳しく説明します。もう一つ争点になっているのは、
金融に関してです。グローバルな金融危機が起きた時にこの交渉が始まりまし
た。主要なプレーヤーで、金融サービスに関してのショーをアメリカの協定に
おいて策定したのは、いわゆるシティバンク、シティグループ、AIGなどで
す。これらの企業というのは金融危機を起こした企業であります。リスクがさ
らに継続するということになります。国境をまたぐ金融サービスが、また、ト
ゥー・ビッグ・トゥ・フェイルの国際金融機関、そして金融上のイノベーショ
ンなどが危機をもたらしたにも関わらず、また影響を及ぼすということになり
ます。私もこの分野を深く研究してまいりました。
もう一つ重要な分野は、投機的な資本の流れをコントロールするということ
があげられます。これこそが不安定をもたらしているわけです。韓国は規制を
はじめました。資本の流れに関して規制をはじめようとしています。しかし、
アメリカの協定はそれを許可しません。また、政府は国際収支が危機の状態に
あっても介入できないことになります。
労働並びに環境に関しましても争点があります。さらに、人の移動を貿易協
定を通してということに関しましての争点が起きています。通常は移民法の問
題ですが、しかし企業はオペレーションを円滑化していくために、そしてまた、
投資をしていくために要求しています。会計事務所、法律事務所も同様の規程
を求めています。
もう一つ重要な争点になっているのは農業に関してです。TPPというのは
自由なアクセスを提供する、そしてまた、10 年間で関税をゼロにするといわれ
ています。しかしこれはアメリカ以外の国に適用されるルールです。アメリカ
は既存のFTAに関しては、再交渉の対象にならないとしています。したがっ
て、砂糖に関しては、オーストラリアに対して一切妥協しない、譲歩しないと
主張しています。また、ニュージーランドの乳製品に関しても、再交渉の対象
にしないとしています。しかし、同じ柔軟性を他の国に提供しようとはしてい
ません。さらにアメリカは、検疫、食品表示、規格、BSE牛に関しましても
主張しています。そしてまた、遺伝子組換作物に関しては、禁止措置をとって
はならないと主張しています。
これは全て主権と民主主義に関する問題点です。というのは文書は秘密裏に
交渉されています。合意に達するまで非公開で交渉されます。また、期限が設
けられているわけではありません。ですから永続するということです。政府が
脱退しない限り永続するものです。脱退する場合は、企業そしてまた外交上、
色々な問題が出てまいりますので、脱退は事実上難しいのです。そして中身を
変更することも非常に難しいのです。全ての締約国が合意しなければ内容を変
更することはできません。この義務は国家間で行使されるのみならず、先程申
し上げましたとおり、法人、投資家が直接強制できるものとなっています。ま
た、投資家は透明性を求めています。透明性というのはオープンであるという
ことを普通意味するものと思います。しかし、企業にとりましては、自分たち
にとって透明性を求めるということです。すなわち政府が政策、規制などを議
論する際に参加したいと主張しているのです。
例えば日本郵政についても同様の主張があります。どうして意見が受け入れ
られないかということに関しまして説明を求めます。また、他の協定でも見ら
れますが、新しい政策、規制に関しての交渉について不満があった場合、その
ような規制を導入するのであれば訴えるということを投資家が主張することが
できるのです。ですから、主権と民主主義に関する問題点があり、また、柔軟
性が不十分であるということの重要な要素であります。
では、日本への要望についてでありますけど、米国の通商代表部は毎年、各
国の貿易障壁についての報告書を出しています。日本に関しましては、2011 年
の報告書がありますけども、それを読むとアメリカが日本に対してどういう要
望を出してくるのかということを理解することができます。米国はもはや製造
に関しましては超大国ではありません。当然のことながら、国内の産業を保護
したいと考えています。輸出に関してのアクセスを求めると思いますが、むし
ろサービスを重要視しています。サービスと投資です。そして知財からのロイ
ヤリティ収入を重要視しているのです。
2011 年の報告によりますと、米、豚肉、牛肉、小麦の輸入制度を撤廃する。
そして食品に関しての関税率を引き下げることを求めています。また、検疫、
食品の安全性に関しての法律の改正を求めています。
通信産業に関してのアクセスを拡大する。金融、保険についても拡大する。
また、輸送、港湾に関しての流通、IT、法律事務所、教育産業などについて
の拡大を求めています。建設、公共事業に関してのアクセスを求めています。
ITと官民パートナーシップについてのアクセスを求めています。知的財産権
に関しましては、制約を含めて改正を求めています。医療機器に関しての拡大
を求めています。また、投資規則に関しまして、非公式で障壁の撤廃を求めて
います。そして、競争の透明性を求めています。透明性というのは、日本政府
の政策決定に影響を及ぼしたいと考えているのです。
では、医療制度についての示唆を考えてみたいと思います。我々は公衆衛生
制度というのは、社会的役割があると考えています。地域社会にとって、将来
にとって重要だと考えています。しかし、これらの協定においては商業的な活
動としてみなされているのです。その中でもアメリカが国際的な医療産業にお
いて最大プレーヤーです。それを更に拡大したいと考えています。そのために
TPPを活用したいと考えているのです。私立病院に関しての制限を撤廃して
欲しいと考えています。さらに民間の保険サービスを提供したいと考えていま
す。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)による病院運営
を求めています。オンラインで医療を提供したいと考えています。国境を越え
た保険サービスを求めています。国境を越えた保険サービスと呼ばれるもので
す。さらに医療機器並びに医薬品に関しての承認手続きを迅速化してもらいた
いと考えています。多くの人が求めているのではないかと思いますが、それだ
けではなく、診療報酬制度を変えてより高い利益をあげたいと思っています。
したがって、医療に関する予算が不十分になるということになります。血液製
剤に関しての規制を緩和してもらいたいと思っています。食品表示並びにダイ
エット保健関連、栄養補助食品に関しましても緩和を求めています。劇的な変
化が日本の医療制度に起きるということを意味しています。
では日本郵政はどうでしょうか。これは私にとりましても非常に興味をもっ
ている分野でありまして、日本からも多くの方が、ニュージーランドの規制緩
和、そして、郵政三事業の民営化について見に来ていたからです。そして、新
しい銀行を作るということもありました。我々は、その金融の 94%を外国資本
でもっている、そして、農村部門、貧困層に対してサービスを提供しなかった
という経験があります。
アメリカは長年にわたりまして、日本郵政について不満をもっていました。
AIGの保険、そしてシティーグループなどが中心になったものでありました。
フェデックスもそうだったと思います。この保険、そして金融、またその宅配
サービスにアクセスしたがったからです。ここでは、いわば平等の競争条件が
ないということ、そして政府からの保証を日本郵政が暗黙のもとに受けてる。
これはフェアーではないということがあったわけです。そして金融、金融サー
ビスについては内部相互補助が行われているということ、そして異なる税法規、
そして規制が適用されているということもいわれました。
また、WTOでこれを提訴をするということをいわれました。アメリカの企
業が日本の金融、そして保険業に対して、また宅配サービスに対してフェアー
な扱いをすべきだとしていたわけです。
TPPを通じて、こういった企業が直接この問題を取り上げることができる
ようになるということになります。すなわち日本政府に対して大きなてこを行
使できるようになるということになります。そして、一旦これが提供されるよ
うになりますと、元に戻すということが難しいということになります。キウイ
バンクがありますが、これは政府が作った銀行でありますけども、これが大き
な問題を抱えることになります。すなわち、キウイバンクのようなものをTP
Pのもとではつくることができなくなるからです。
最後になりますが、なぜ、このTPPに日本政府が交渉に参加をしようとし
ているのかということ、この点について4つの理由が一応いわれています。
一つは、もっとアクセスを確保、他の市場に対してアクセスが確保できるよ
うになる、投資、そして物、市場へのアクセスができるようになるということ
になります。そして、TPPの交渉国、アメリカだけではありません、そうい
った国々と既に自由貿易協定を結んでいるわけです。アメリカは日本市場にア
クセスすることができるようになります。その点については非常に政治的にセ
ンシティブな対象になっております。韓国とアメリカのFTAにつきましても、
いかにこういった交渉をするということ、そして譲歩をするということが難し
いことであるかということがよくわかります。
二つめの理由として上げられているのは、日本は、このAPEC全体の合意
ということを目指すということにつながるということになります。ASEAN
+3、そしてASEAN+6で日本は既に中心的な存在です。なぜ、それに加
えて英・米型の協定、自由貿易協定に参加をしなければならないのか。
第三の理由は、これは経済的な観点ではない、これは外交的な取引だと、目
標があるのだということ。アメリカとより近づこうという狙いなのだというこ
と。そしてアメリカが中国に対抗できるようにしていこうというものです。
もうひとつ、第四番目の理由でありますが、これは、これまでも申し上げま
したけれども、ニュージーランドの新聞、二日前だったと思いますが、出てい
たものです。TPPは日本政府がリストラを行い、これは国内的な政治の中で
なかなか難しいということもあって、裏側からこういった変化をもたらしてい
こうという狙いがあるというふうにしていました。そしてその上で、ドアを閉
めてしまう。そうなりますと、新政権はこれをひるがえすことができなくなっ
てしまいます。もちろん皆さんの方が、日本の状況については良くご存じかと
思います。ですから、引き続き榊原先生とも話をしながら、この点についてい
ろいろ伺っていきたいと思います。どうもありがとうございました。
第2部
パネルディスカッション
(榊原教授)
ケルシー先生、非常に明解な、それでインストラクティブなお話をいただき、
ありがとうございました。実は私、お話を聞きながら、20 年前、私がアメリカ
とやってた交渉を鮮明に思い出したんですね。覚えておられる方がいるかどう
かわかりませんけれども、あの時は、ストラクチュア・インペディメント、構
造的な障害を取り除くための交渉をやるんだということをアメリカが言ってで
すね、その時取り上げたのが政府調達と保険と自動車だったんですね。これは
日本の関税率が高いとか、日本が輸入制限をしているということじゃなかった
です。日本の制度がおかしいんだと、日本の制度はアメリカのように変えろと、
つまりアングロサクソンスタンダードを日本に求めてきたのは、実は 20 年前の
日米交渉だったんです。日米構造協議と呼ばれてたんですね。非常にこれは困
難な交渉でございました。つまり、アメリカは、アメリカのスタンダードがユ
ニバーサルなものだと、日本がおかしいんだというポジションを全く変えない
わけですね。我々の方は、日本には日本のルールがあるんだよと、日本には日
本の制度があるんだと、日本には日本の内政があるんだということを言うんで
すけども、全くアメリカは聞く耳をもたなかったということで、非常に長いこ
と困難な交渉を続けたのを覚えておりますけども、今日のケルシー先生の話を
聞いていると、アメリカは全く変わっていない。特に、アメリカで外国に対し
てこういう厳しい要求を突き付けるのは、どちらかというと民主党政権なんで
すね。日本の民主党政権はいいんですけれども、アメリカの民主党政権は、ど
うも、特に海外に対して厳しい要求をする。私がそういう交渉をしたのはクリ
ントン政権の第1期、民主党政権でございますね。今度はオバマ政権の第1期
ということで、言うこともほとんど変わっていないということでございますか
ら、実はアングロサクソンスタンダードを他の国に押しつけるということは、
ずっとアメリカがやってきた。アメリカはスーパーパワーですから、かなりそ
れができるポジションに、実は政治的、あるいは外交的にあるわけでございま
す。
そういう中で、我々は、やはり我々の国益というか、我々の制度を守らなけ
ればいけない。これがなかなか難しいんですね。実は日本の中にそれを理解し
てくれない方がずいぶんいるわけです。私は交渉をしてて一番嫌だったのは、
後ろから玉が飛んでくることなんです。つまり、榊原は、なんか非常に反動的
なことを言っていると、もっと自由化したらいいじゃないかみたいなことを言
う人が、日本国内にかなりたくさんいた。今度のTPPでも同じですね。日本
国内でTPPを促進しろと言ってる政治家、あるいは有力者がたくさんいる。
ですから、おそらく交渉で正論を言うと、また後ろから玉が飛んでくるという
ことになるんだと思います。
我々は、そろそろ自由化か、保護貿易だという二極化した発想から抜け出な
ければいけないですね。確かに戦争直後、ガットとかWTOが活躍して貿易自
由化した時、これは多くの国が閉鎖経済体系でしたから、それを開放経済体系
にするということには意味があった。関税を引き下げるとか、輸入規制を撤廃
するとかいうことに意味はあった。ただ、現在は、ケルシー先生も言ってたよ
うに、ほとんどの先進国は、もう開放体制に入っているんですね。関税も非常
に低いと、輸入制限も非常に戦略的なものを省いてはほとんどないということ
で、自由貿易体制の中にあるわけです。ですから、実は戦争直後のように、あ
るいは 50 年代、60 年代、70 年代のように自由化交渉をするという必要はなく
なってきてしまっている。ですから、自由化か保護貿易かという、そういう二
極化されたメンタリティーは、もう捨てなきゃいけない時期に、私は入ってき
ていると思うんですね。
このTPPというのは、いったい何かということ、今日お聞きになって非常
によくわかったと思いますけども、これはアメリカの国益を他の国に押し付け
ようという、そういう基本的な条約なんですね。アメリカとオーストラリアも
若干その中に入っているかもしれませんけれども。その2つの国がイニシアテ
ィブをとって、それをアジア太平洋地域に拡げようと、アメリカンスタンダー
ド、あるいはアングロサクソンスタンダードでアジアパシフィックを仕切ろう
という、そういうことだというふうに考えるのが非常に自然だと思うんですよ
ね。
ですからそうなってくると、日本の医療制度なんかが、日本の医療制度とい
うのは非常に広範な健康保険制度をベースにできているわけですから、これは
アメリカとは全く質的に違うわけですよね。これを崩せと言っているわけです
よね。これは日本にとってえらいことになりますよね。日本の今の健康保険制
度というのは、多くの人々に非常にクオリティーの高い医療を提供しているわ
けですね。いろいろ問題点が全くないわけではないですけれども、日本の平均
寿命が世界で一番長くて、日本人が極めて健康だということのひとつの大きな
理由は日本の医療制度、日本の健康保険制度なんですね。これはやっぱり全体
としては守らなければいけないものだと。これを崩せということをTPPの交
渉は日本に要求するわけでございます。
ですからこの医療制度が一つの典型でございますけれども、いくつかアメリ
カと違った制度というものを我々はもっているわけですね。しかもその制度が
有効に機能しているものが相当あるわけです。そういうものをどうしてこうい
う交渉にのっかって崩さなければいけないのかと、経済界のトップとか政治家
のトップもサポートするわけですけれども、もうお辞めになられるようですか
ら、誰が今度トップになるかよく分かりませんけれども、いずれにせよ日本の
リーダーと目される人達がこれをサポートするのは私は信じられないですよ
ね。
私は大蔵省でずっと国際派、国際チームをやってきましたから、大体外務省
とか大蔵省、経産省の国際派というのは、普通は自由化に賛成するんですね。
大体そういうものをプロモートするのはそういう人たちなんですけれどもね。
私の目から見てても、こんなおかしな条約というのはないわけですよね。です
からこれがアメリカのためにはなるけども、日本の実際の利益になるかという
ことは詳細に検討しなければいけない。そういうことが非常に重要だと思いま
す。
もう一つ付け加えさせていただくと、これはやっぱりアメリカやオーストラ
リアが、東アジアの経済圏の中に自分のイニシアティブを持って入ろうという
政治的な意図、そういう戦略的な意図が隠されているわけですね。実はご承知
のように東アジア経済圏、ASEAN+3と言ってますけど、日本、中国、韓
国、それからASEAN10 カ国、これは非常に速いペースで経済統合が進んで
いる、進めているわけです。ヨーロッパとは違って、まだ制度はできていませ
んけれども、企業とかマーケットが中心となって経済統合が進んでいる。です
から、ASEAN+3、13 カ国の間の域内貿易比率というのは実は 58%になっ
ていて、もうじき 60%になる。EUの域内貿易比率が 65%ですから、実は東ア
ジアの経済統合はかなりヨーロッパに近いところまで事実上進んできているん
ですね。ですから、それはアメリカとかオーストラリアにとってみれば、何と
かそこに入りたい。そのベネフィットを得たいというのは当然のことです。ア
メリカの国益、オーストラリアの国益を考えれば、私は彼らを批難するつもり
は全くありませんけれども、彼らにとっては当然のことです。つまり、日本、
中国、韓国、ASEAN、そういうところで作った経済統合の中に、彼らも入
りたいということですね。
それに対して日本は前のめりになって、それを推進しようとする人が非常に
多いのは、実は私は驚いているんですね。中国や韓国は非常にクールですよ。
関係ないよ、という感じでこのTPPを見てるわけですね。既に東アジアの中
で十分なベネフィットを受けているからです。アメリカやオーストラリアがそ
れにのりたいということに、特に手を貸す必要はないよ、というのが中国の態
度ですから、当然日本だって、最初から大反対という必要はないわけですけど、
最初から大賛成だという必要も全くないわけですよね。詳細に検討して、日本
にとってプラスになるものがあるのかどうか、あるいは日本にとって全体とし
てプラスになるのかマイナスになるのか、そういうことを詳細に検討すること
が極めて重要なことです。私は国際交渉の常識として、ごく当たり前のことだ
と思うんですよね。
日本の農業を守れとか、日本の医療を守れとか、そういう日本の既存の制度
をただ守れというだけじゃなくて、交渉として当たり前のことだと、これが全
体として日本の国益になるのかということをきちっと検討しましょうよと。ア
メリカが言ったから、これが自由化だから賛成しなければいけないというのは、
10 年前、20 年前の発想ですよ。10 年前、20 年前は我々は残念ながらそれをや
らざるを得ない立場に置かれたこともしばしばありました。アメリカというの
は強国で、日本はそれに従属的な立場にあった。そういう時期があったわけで
ございますけれども、今や状況は違っているわけですよね。ですから、当然我々
は、自らにとってこれがプラスかマイナスか、今日のケネシー先生のお話を伺
えば、これが大きなマイナスの要素を持っているんだということがお分かりに
なったと思いますけれども、そういうことで、TPPに対しては極めて慎重な
態度で挑むべきだと、一つひとつのメリット、デメリットを検討して、正に皆
さんがやっておられるようにTPPを慎重に考えるということをやることが、
我々にとって非常に重要だと思います。
内容をきちんと検討もしないで賛成している政界や経済界のリーダーの人た
ちにはかなり憤りを持っております。そういう人たちはリーダーとは言えない
のではないかと。アメリカの言うことに自動的に従うという時代はもう終わっ
たんですよね。そういう意味で、詳細にこれを検討して、慎重な態度でこれに
挑むと、どちらかといえば、中国や韓国とタッグを組んで、共通のポジション
を作った方がいいんじゃないかと、日本と中国が話し合って、一体これどう思
うと、どういうふうに対応したらいいのかと、全面的に反対するのか、一部だ
け賛成するのかといろんなストラテジがあると思いますけれども、中国と話し
合って、むしろ日・中・韓、あるいは日・中・韓+ASEAN10 の共通のポジ
ションをとって、それで、アメリカ、オーストラリアに挑むということなどを
考えるべきだと思っております。もう 10 分以上も喋ってしまったんで、ケルシ
ー先生の方にお譲りします。
(ケルシー教授)
簡単に答えさせて頂きたいと思います。先生に賛成です。ただ私も学者です
ので、学者はもう尐し話をさせていただかなければならないのではないかと思
います。
2点申し上げたいと思います。日本とニュージーランドの間には共通点があ
ると思います。非常に現実が違うにも関わらず共通点があります。ひとつは、
ニュージーランドも日本同様にアメリカからのプレッシャーに対して独立して
いるということです。例えば、反核政策同様なんですけど、ニュージーランド
におきましては、我々は絶対に強制されないと考えています。アメリカの経済
的植民地にはならないと考えています。もう既にオーストラリアの経済的な植
民地になってしまっていますが、アメリカの植民地にはならないと考えていま
す。アメリカの植民地になることは非常に怖いことであるからです。
さて2点目ですが、TPPというのは 21 世紀型の協定であるということに関
しましても異なった意見を持っています。21 世紀というのは、今の現実とは大
きくかけ離れたものであるからです。地政学的な変化がこれから起きるであり
ましょう。そして気候変動のこともあります。エネルギー資源が不足していま
す。食料に関しましても不足があると思います。また、雇用に関しましても不
安定です。国の中でも、そして国同士の間でも格差があります。本当にTPP
が答えなのでしょうか。保護主義だけの問題ではありません。あるいは変化に
対し閉ざすということではないのです。むしろ、オープンにしておかなければ
ならないのです。そして、これからの変化に対して、どのような対応が必要な
のかを考えなければなりません。議論を通じて、情報をベースに、そしてまた
現実も鑑み、現在とそして将来に目を向けながら検討していかなければならな
いのです。とりわけ若い人たちの将来も考えなければなりません。そして若い
人たちも将来にわたって意思決定ができなければならないのです。将来に対し
て意思決定する能力を閉ざしてしまってはいけないのです。我々はもう年をと
ってしまいましたけれども・・・。大きな責任があると思います。すなわち、若い
人たちのために自由な空間を提供しなければなりません。そして、将来のリー
ダーになっていただきたいと思っているのです。
(榊原教授)
ご指摘のように、ニュージーランドと日本の立場はとても似ているのかもし
れませんね。
ニュージーランドはオーストラリアという大国に隣接していて、ある程度オ
ーストラリアに時としては従属せざるを得ないという立場にあると。日本もア
メリカという大国のもとにあって、時としてアメリカに従属せざるを得ないと
いうことで、双方とも今やある種のインディペンデンスを求めて、それぞれの
国益は何かというようなことを考えなければいけない立場にきているんだと思
います。そういう意味で、ニュージーランドのケルシー教授に今日お話を聞け
たということは、大変よかったというふうに思ってます。
もう一つは、実は、いま世界経済は非常に大きな構造転換の時期に来ている
と思うんですね。この構造転換の時期というのは、500 年に1度位の大きな構
造転換の時期。これはどういうことかというと、世界経済の中心が緩やかでは
ありますけれども欧米諸国から中国とかインドとかアジアの地域に再び戻って
きたということですね。再び戻ってきたというのは、長い歴史を見ますと大体、
中国とインドが世界の二大経済大国だったんです。アンガス・マディソンとい
う人が 1820 年の世界のGDPの推計をしていますけれども、1820 年の時点で
世界のGDPの 29%を有していたのは中国なんですね。16%を有していたのは
インドですから、19 世紀の初めまでは、中国とインドが世界の総生産のほぼ半
分近くを維持していたんですね。
中国とインドが没落するのが 19 世紀半ばからです。これは何によってかとい
うと、植民地化によって没落するということですね。香港が割譲されるのが 1840
年ですし、インドがイギリスの植民地になるのは 1877 年ですから、ヨーロッパ
の植民地化によってアジアが没落するんですけれども、それが再び歴史の表舞
台に戻ってきて中国とインドが非常に早いスピードで経済成長を続けていく
と。ですから、おそらく去年中国は、日本のGDPを抜きましたけれども、2030
年前後、30 年から 35 年前後には、中国のGDPがアメリカを抜くというふう
に予想されています。ですから、中国が名実ともにナンバーワンになるという
のが 10 年~15 年位の間でくるということが予想されるわけでございます。
ですから、こうした大きな転換期に今世界があるんだということを我々はし
っかり認識する必要があると。その中で先程も言いましたように、日本は東ア
ジア経済圏の中にかなり強力な基礎を築いているんですね。中国には政治的に
はまだ完全にうまくいっているとはありませんけれども、経済的には日中は不
可分になっていると、日本の企業いずれをとってみても中国と何らかの関係が
あると。中国経済も日本企業を抜きにしたら立ちゆかないという状況になって、
経済的には東アジアの統合というのは非常に進んでいるということです。
そういう意味では今日本の歩んでいる道というのは決して間違っていないわ
けですね。そういう意味からTPPを考えますと、若干、アメリカもオースト
ラリアも焦って、そこに入りたいよと、俺たちも中に入れろと、そういう意図
が若干あるんだろうと思います。おそらく非常に長期的にいうと経済の中心が
アメリカやヨーロッパから中国やインド、あるいはそれを含んだアジアに移っ
ていくということはほぼ確実ですね。グンダー・フランクという人が、もう 10
年位前にリオリエントという本を書きましたけれども、オリエントには2つの
意味がありますね。「東洋」という意味と、「方向付ける」という意味があり
ますから、リオリエントとは、ダブルミーニングで、再び東洋に世界の方向が
向き始めたと 10 数年前に書いているんです。実はそれが徐々に実現している訳
です。日本もそれを踏まえて、アメリカとの良好な関係、欧米との良好な関係
を維持しながら、東アジアの重要なメンバーとして、その中で役割を果たすと
いうのが極めて重要になってきたと思います。
ですから、TPPというものを考える時にも、そういう基本的な視点、世界
経済が大きく変化しているという基本的な視点を踏まえなければいけない。20
年前の発想ですと、アメリカがスーパーパワーで、それに対抗できるものはひ
とつも無いんだと、大きく時代も変わる可能性もないと。そうであれば、究極
的にアメリカに従うしか方法がないんだというのが 20 年前の発想でしたけど
も、今やその発想は変えなければいけないんですね。アメリカとの関係を悪く
しろと私は言っている訳ではありません、アメリカとの良好な関係は維持しな
がらも、大きく世界経済が変わっているんだということを認識することが、我々
にとって非常に重要です。ですから、TPPを考える時に、まさにそういう視
点を基本にして、これに対応することが重要ではないかと思っています。
質疑応答
(質問者)
今日は先生のお話を聞きしながら、ほとんどの点でTPPについての経過や
狙いや、そういった所も含めて、多くのところで認識が共通していることを感
じましたし、そして非常に力強く思いました。その中で、先ほどもお話があっ
たんですが、ニュージーランドの場合、米国に強制はされないと、植民地国に
はならないという点で非常にはっきりしているというお話しを聞いて、そう言
う意味では日本もしっかりと独立した考え方をもって進まなければならないと
言うことを思いました。
それと、守るだけではダメだと言う議論もあるんですが、私は今の日本は、
一番肝心な国民の食料の自給率が 40%そこそこということにおいて、やっぱり
自給率を引き上げていくためにしっかりと主張するというのは、これは保守主
義でもなんでもない。守るだけでの話ではなくて、自立した国として当たり前
な話だと思ってまして、そういう点でしっかり主張しなくてはいけないという
ことも感じました。
ひとつお聞きしたいんですが、TPPは例外無き関税化というわけです。そ
ういう意味でダメだって話があるんですけど、流れがあると思うのですね。も
ともとの流れでいうと、WTO協定があり、そしてそれがなかなかうまくまと
まらない。シアトルの話もありましたが、その中において2国間協定などの形
で進んできたこという経過があると思うんです。そういった面では、FTAや
EPAについて、先生はどのようにお考えになっているかお聞きしたいと思い
ます。
(ケルシー教授)
実は交渉に関しまして共通点があります。全ての交渉ですが、ドーハ・ラウ
ンドで議論されているポジションは、WTOのドーハ・ラウンドは、2国間協
定並びにより大きな協定にも影響を及ぼします。アメリカのひな型となってい
る協定、そしてまた、EUの協定のひな型の共通点というのは、WTOでやら
れなかったものを盛り込むということです。それが共通点になっています。
一部の関係者によりますと、WTOはもはや重要ではなくなったと言ってい
ます。また一部の人は、これらの協定が締結されればWTOにおいての意見の
相違が無くなるといっています。各国政府がFTAなどを通して条件を受け入
れたと見なされるからです。一利あると私も考えています。ASEANが闘っ
てきたこと、WTOで反対してきたことをFTAの中で受け入れてしまってい
ることに懸念をしています。
更にTPPだけではなく、ドーハ・ラウンドに関しましても、その他の南北
アメリカのFTAに関しても言えることですが、野心的になればなるほど、交
渉が失敗に終わるということです。抵抗が高まるからなんです。ガットに関し
ても同様だったと思います。基本的に財に関する、貿易に関するものでした。
しかし今は膨大な協定内容になっています。そして大きな国内的な影響が出て
くるものです。大きな影響が出てくるということなので、持続することが出来
ないということになるんだと思います。受け入れられなくなるということです。
TPPも同様です。野心的になりすぎていることが問題視されています。しか
し、日本はEUとの交渉を始めると聞いています。TPPの内容と類似した内
容になると思います。したがって、ひとつの協定だけの問題ではないのです。
それぞれが関係性を持っていることを意識しなければなりません。
(榊原教授)
今、おっしゃった様にですね、このネゴシエーションというのは、いろんな
関係で絡みあっているんですね。WTOのネゴシエーションが上手くいかなく
なって、このTPPに変えようということですけども、アメリカがイニシアチ
ブを取って、みんなが付いていくというタイプのネゴシエーションが、だんだ
ん成立するのが難しくなったという状況が恐らくあるんだと思うんですね。
10 年前、15 年前は世界の経済政策を協議するのに、G7、G8でよかったで
すけども、もうG20 じゃないと決められないわけですね。中国なり、インドな
り、ブラジルなどのそういう所が入っていないと、世界経済の大きな枠組みは
決められないというところにきているわけです。今度のTPPも中国もインド
も入っていないわけですね。ですからそういう意味で、今までの形の経済政策
でのリーダーシップ、今までの形でのネゴシエーションというのが次第に変わ
ってきたと、これ、WTOを含めてこういう形にだんだんなってきているんだ
と思います。
ですから、先ほども言いましたように、国際機関とか、国際的なネゴシエー
ションを含めて、いま大きな構造変化が世界経済に起こっていますから、それ
を変えていかなければいけない時期、そういう時期に入ってきていると私は思
います。日本がどういうポジションをとるかは非常に重要だと思うんです。日
本がTPPに賛成してしまえば、相当なインパクトをTPPのグループに与え
ることになってしまいます。アメリカ、オーストラリア、プラス日本というこ
とになれば、次第にアジアの国が入って来るということを予想させるわけです
から、ここで日本の国がどっちの立場に立つのかということは、私は極めて重
要ではないかと思っています。
(質問者)
私は榊原教授とは違いまして、貿易の自由化に 30 年間農林水産省で反対し、
国会議員になってもずっと反対し続けています。
2つ質問があります。TPPはおかしいんですが、最初の4つの、こういう
ことを言ってはなんなんですが小さな国、ニュージーランド、チリ、シンガポ
ール、ブルネイ、人口数百万人で、一国で全てのものを賄えないし、この4カ
国だけだったら幸せだったんじゃないかなと思います。そこにアメリカが入っ
たんでぶち壊しになっているんじゃないかという気がするんですけど、それに
ついてケルシー教授はどうお考えになるかと。
もう一つ、今度はオーストラリアとの関係です。オーストラリアについて、
先ほど冗談めかして半分エコノミックコロニーになってるとおっしゃいました
けど、オーストラリアとニュージーランドでしたら、そこそこ上手くいけるん
ですかねと、この2点についてお伺いしたいと思います。
(ケルシー教授)
P4の関係、そしてTPPは非常に興味深いものがあるんです。というのは、
他の国は公式的にはP4以外といわれているからです。しかしながら、実際は
そうではないのですが。PR活動の一環だと思います。そのアメリカ中心のT
PPをもう一度上手く別のものに仕立てようという形のものだと思います。P
4の合意というのは、必ずしも野心的な内容ではありません。金融サービスも
投資の条項も入っていなかったんです。知財についていえばWTOの内容をな
ぞったものでありました。したがって、必ずしも高い質の自由貿易協定ではな
い。そして他の人達が参加したいものでは必ずしもなかったわけです。したが
って、レトリックを考えていかなければならないということ。出来るだけアメ
リカの役割を低く見せるというところに狙いがあるように思います。もちろん
アメリカとしてチリと合意を持ってますし、そしてシンガポールと協定を持っ
ています。したがって、これを見ますと、戦略的な目的についていえば、P4
を活用することによって次のステップに進んでいこうという魂胆だと思いま
す。オ-ストラリアとは経済統合協定がすでに存在します。非常に広範囲に重
いものです。そして、これを一つのモデルとして活用して、TPPとして非常
に深い内容を持つべきだという口実に使われています。
我々の銀行の 94%をオーストラリアが所有していますし、そしてスーパーマ
ーケットのチェーンにつきましても、恐らく私が考える以上に支配されている
と思います。したがって、将来にとって、これは非常に大きな意味をもつもの
であります。ニュージーランド国民にとって、ニュージーランド経済が停滞す
るということ。そうなりますとオーストラリアでしか働くということができな
いということになります。したがって、どのような将来をニュージーランドと
して、我々が選び取ろうとしているのか、そして経済統合が、その中でどのよ
うな意味をもつのかということを考えていかなければなりません。そうでなけ
れば今後、小さな島国が、更に世界経済に意味を持たない国になってしまうと
いうことになります。こういった議論をしていかなければならないわけです。
日本のような大きな国で行われる議論とはその点は異なっています。したがっ
て、我々にとって対外的に、それぞれの国の状況が違うので、単一の基準を適
応するということは出来ないのだということだと思います。こういった議論を
するのはなかなか難しいんです。アメリカというのは悪の帝国だと、一方でオ
ーストラリアというのは非常に優しい友好的な国なんだと、コアラの国だとい
う風に考えています。
(質問者)
素朴な質問で恐縮ですが、先だって経済同友会が日本の再生プログラムのよ
うなものを発表して単行本化されたのですが、財界としてはTPPに積極的に
参加すべきだということで一致してるようなのですが、質問はお二人に対して、
一つは榊原さんに、なぜ財界は挙げてTPPに参加しようとしているのか。企
業の利益のためなのか、あるいは雇用のためなのか。予想はつくのですがお考
えをお伺いしたい。ケルシー教授には、ニュージーランドにも経済団体という
ものがあるとしたら、その団体はTPPに賛成をしているのか、それとも反対
をしているのか伺いたい。
(質問者)
私はオーストラリアの専門家ですので尐し心配なのですが、オーストラリア
という観点で考えると楽観的な考えを持っています。シンガポール、マレーシ
ア、ベトナム、オーストラリアなどは、アメリカに対してものが言えると思い
ます。二国間協議であれば、日本はアメリカに弱いので心配です。オーストラ
リア政府はオープンでプロセスがありますし、そしてまた学会からも資料が出
ていますし、また、制約などに関しても見解が出ています。すべてがうまくい
けば、この枠組みは確立できると思います。そして、協定はアメリカに対して
有利ではなく、他の国にとって有利なものが出来るのではないかと思います。
その可能性もあると思うのですが、ナイーブな見解でしょうか。
(榊原教授)
どうして財界が賛成しているかということですけど、経済同友会だけではな
くて、経団連も賛成していますね。どうして賛成しているのか僕は理解できな
いのですが、要するにあまり勉強していないのではないかというのが私の非常
に単純な結論でして、TPPがいったい日本にとって、日本企業にとって何を
意味するのかということについて、十分な考察をしていないのではないか。つ
まり、私が先ほど言いましたように、自由化か保護主義かという昔のパラダイ
ムで、自由化だから良いことに違いないと、そういうことで賛成しているんだ
というふうにどうも思えてならないんですね。賛成しているかなりの部分の人
が、そういうことではないかと。もし、それを確認したかったらですね、TP
Pの内容の細部を経団連の会長とか、同友会の会長に聞いてみればいいと思い
ますね。恐らく知らないのではないかと思います。
(ケルシー教授)
ニュージーランドのビジネス・経済界は、全てのFTAを推進しています。
例外なくです。ニュージーランドというのは輸出国であるので、関税に関しま
しても 15 年間ゼロでした。そしてほとんど国内に製造業がありません。大きな
ものがないのです。輸出基盤は農業、農産品です。フォンテラが最大の輸出企
業です。ニュージーランドにおいては、フォンテラの利益こそが国益だという
人もいるくらいです。しかしながら、TPPに関しましては必ずしもそうでも
なくなりました。といいますのも、ニュージーランドは商業上の利益があるか
どうかということが問題であるからです。特にアメリカは酪農業に関してアク
セスを拡大することを許さないからです。我々は牛に関して十分に数があり、
環境上の問題もあるので、これ以上、牛の数を増やすことが出来ないのかもし
れないのです。持続可能な農業という観点では、それほどメリットはありませ
ん。したがって、ニュージーランドの経済界は、TPPに関しましては十分に
説得力を持っていないということです。
ウィキリークスによって、ニュージーランドの交渉官がアメリカに対して、
ニュージーランドはTPPからの大きなメリットはないということを言及した
とされています。この論点に関しまして聞かれたときには、より大きな協定の
ための基盤になるということを主張しています。従いまして、TPPが他の国々
との協定の基盤になると考えられています。中国とのFTAはすでにあります。
したがって、経済的な論点というのは説得力がないのです。はじめてビジネス
のジャーナリストも懐疑的であります。経済誌がTPPに対しては懐疑的にな
っているのです。これはポジションの大きな変化だと思います。
そして先ほどの楽観的なご意見についてですけど、アメリカの議会が承認し
なければならないというふうに申し上げましたけど、それが1番大きな問題だ
と思います。それ次第であるということです。アメリカの経済、アメリカの政
局というのは、いま大変な状況にあります。したがって、妥協する状況ではな
いと思います。アメリカとオーストラリアに関しましては、金融サービス規定
はなかったのです。それも影響を及ぼすと思います。しかし、我々としては、
譲歩を引き出さなければならないと思います。妥協がなければ協定はなしと考
えるべきだと思います。そのような結果に終わるのではないかと実は思ってい
ます。是非、アメリカに対して対峙してもらいたいと思っています。しかし、
その譲歩しないということを担保しない限り、意見の主張は出来ないと思いま
す。
(質問者)
私はいま、アメリカに握られている食料主権ですね、食料主権を取り戻そう
ということで飼料米の自給向上運動に取り組んでいるのですが、今日のお話し
でTPPそのものが謂わば 20 世紀の発想で、日本の国益に、それから日本が主
体的にアジア地域の平和と共同に参加する、これに楔を打ち込むということが
良くわかりました。そういう意味で、榊原先生が提起されていらっしゃるAS
EAN+3(日中韓)、東アジア共同体というのは、まさに 21 世紀に日本がア
ジア諸国と連帯して、世界の平和と安定に貢献できると思っているのですが、
この東アジア共同体構想に関して、ASEAN+3に加えて、ASEAN+5
ですね、オーストラリアとニュージーランドを加えた構想も提起されているの
ですが、私はASEAN+3でスタートして、東アジア共同体をつくった後、
アジア共同体に広げるべきだと思っているのですが、この点に関して、ケルシ
ー先生と榊原先生の見解をお伺いいたします。
(質問者)
お二人の先生に一つずつ質問があります。ケルシー先生については、物品の
自由化についての交渉がTPPで行われていると思うのですが、この物品の自
由化交渉の進め方について、アメリカは先生がおっしゃられましたように既存
のFTAを前提にして、FTAがない国同士でFTAを結べばいいと。結果的
にはFTAの寄せ集めとして、物品の自由化を進めるという立場だと思うんで
すね。それに対して、ニュージーランド、オーストラリアは、全体の加盟国に
共通する議定書がいるんだと、そして既存のFTAは認めないという立場にあ
ったと思うんですね。ただ、実際に交渉は、その両者の妥協で始まって、アメ
リカの考えを事実上、前提にするような形でもって進んでいると思うのですが、
これが一体どうなるのか。ニュージーランドの政府の方は、我々は共通の議定
書が必要だとの立場を捨てているわけではないと言っていたと思うのですが、
一体どうなるのだろうかと、先生のお考えをお聞きしたいと思います。
それから榊原先生には、大変広い視点のお話しを伺って、大変ありがたいと
思ったのですが、おっしゃられるようにやっぱりどのような内容がここで出て、
交渉されているのか、出てくるのか。やはりそれを見ないことには、それに対
して日本がどう対応するかということが決められないと思うんですね。ところ
が実際には、交渉は完全な秘密交渉で、リークしてくる情報以外には出てこな
い。我々が判断する材料がないわけですね。先生のお考えを前提にしますと、
いまのTPP交渉が妥結して、そこで始めてTPPの内容が出てくると思うの
ですね。妥結して出てくる内容を見て、判断すればいいんだとおっしゃられて
いるのか、その点についてお聞きしたいと思います。
(榊原教授)
まず、ASEAN+3にオーストラリア、ニュージーランドを入れるという
話ですけど、これはフレキシブルにオーストラリア、ニュージーランドが望め
ば入れたらいいということだと思います。ただ、ASEAN+3でアジアのあ
る種の共同体をつくっていくのにキーになる国というのは、やはり日本と中国
なんですね。ですから、日本と中国の間である種の合意を取り付けるというこ
とが、最も重要なことだと思っています。
それからまた、TPPの交渉がいまクローズで行われていて、それが出てき
たときにイエスかノーか言えばいいんじゃないかということでしたけど、交渉
が妥結した後でノーというのは非常に難しいですね。ですから、交渉のプロセ
スで尐なくともある程度透明にしてもらって、それで国内的に議論するという
場がなくては私はいけないと思います。日米で構造協議をやったときも、かな
りプレスに対してオープンにやった記憶がありますので、日米で政府同士が合
意して、それを国会で否定するというのはなかなか難しいですよね。内閣は与
党から出ているわけですから。そのような意味で、プロセスはもっと透明にし
て、そのプロセスの中で国民的な議論をしていくということが、とても重要と
思っています。
(ケルシー教授)
オーストラリア、ニュージーランド、そしてASEANとの関係について申
し上げれば、自由貿易協定をオーストラリア、ニュージーランド、ASEAN
でまとめたばかりです。恐らく、オーストラリア、ニュージーランドの希望と
しては、双方でやっていきたいということだと思います。つまり、将来がそこ
にあるということですから、アジアが我々を望んでいるのかよくわからないと
いう懸念も両国は持っています。したがって、アメリカとの関係というのが、
引き続き重要になるというわけです。というのは、もしアジアから拒否をされ
る、そしてアメリカがその時に我々に既に興味を持っていないとなれば、世界
の底に突き落とされてしまいます。オーストラリアは中国と経済関係で深いも
のを持っています。ウラミニウムを含めて天然資源があります。ニュージーラ
ンドは中国とFTAを結んでいます。したがって、既に関係構築を進行中です。
しかしながら、基本的に我々は白人の英米流の国だということがありますので、
アジアの一部になるということについては、尐し抵抗感もあるかもしれない。
一方で、アジアの方から見ましても、オーストラリア、ニュージーランドが新
しい現実に適応可能なのかどうかというふうに見ていると思います。これは大
きな課題です。
技術的な質問もありましたが、農業交渉についてですが、オーストラリア、
ニュージーランドとしては、単一の譲許表が全ての国において適用されるもの
でなければならないと主張しています。一方で、アメリカはFTAがあるので
あれば、それをそのままにしておくべきだと。そして二国間のFTAを結んで
いない国と結ぶべきだという考えです。交渉担当官と話をした限りにおいては、
何らかの共通の工程表が出来るというのがありますが、その枠の中に様々なバ
リエーションを設けるということ、そのバリエーションを用意することで、ア
メリカの立場も容認するようにするというものです。私自身はニュージーラン
ド政府として、乳酸品について入っていないものに合意するとは考えられませ
ん。これは非常に重要だからです。乳酸品・乳製品の産業にとりましても、マ
ーケットアクセスというものが全てではないと。アグリビジネスの投資、そし
て他国において農業事業を行うということについても、そこから利益を得るこ
とが出来るということになります。したがって、マーケットアクセスというよ
りは、他の分野に目を向けているという状況があります。
最後になりますけど、もうひとつ技術的な問題が台頭しています。TPPの
もとで既存のFTAはどうなるのかということです。P4の中におきましては、
企業として既存のFTA若しくはTPPのどちらの方が利益があるのかという
判断をするようにさせるということでありますけど、この問題は解決をみてい
るわけではありません。
(了)
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