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2007(日本語Pdfファイル)
[R2.1.4]
省燃費型自動車用潤滑油生産に向けた
次世代鉱油系基油製造プロセスの研究開発
(次世代鉱油系基油製造プロセスグループ)
○白濱真一、田川一生、松井茂樹、栗原 功、黒澤 修、青木 徹、矢口 彰、辻本鉄平、
吉田俊男、三本信一、田口昌広、武末秀夫、高橋大介、木村信治、中村誠、中村直樹
1.研究開発の目的
本研究開発の目的は省燃費型自動車用潤滑油生産に必須の高性能潤滑油基油を、現
行プロセス以下の使用エネルギーで製造するプロセスを開発することである。
具体的な目標としては、(1)現行プロセスでは製造が困難である VI(Viscosity Index,
粘度指数)140 以上、硫黄分 1mass ppm 以下の高性能潤滑油基油を、現行プロセス対比
1/2 以下の使用エネルギーで製造する、すなわちワックスを原料とする異性化プロセ
スを開発すること、(2)またこの基油を使用して、省燃費型自動車用潤滑油としての最
適処方を確立することにより、自動車の燃費を 5%向上させ、環境負荷低減に貢献する
ことである。
VGO
油分: 20%以上
課題①
異性化触媒の
高性能化
課題②
反応条件の
最適化
溶剤脱ロウ
溶剤脱油
溶剤脱ロウ
GrⅠ,Ⅲ
基油
製造装置
H15-17年度使用原料
高品位ワックス
油分:0 – 10%
水素化異性化
GrⅠ基油
VI ≦110
GrⅢ基油
VI ≦130
本開発基油
基油留分
VI≧140
エンジン油
ATF
課題③
自動車用省燃費潤滑油の開発
(添加剤の最適化)
H18-19年度原料
低品位ワックス
図 1-1
本開発の全体像と課題
潤滑油による省燃費化のためには、自動車のエンジンや変速機内の摩擦を低減する、
すなわち、潤滑油の粘度を低下させるのが効果的である。しかし、粘度を下げすぎる
と潤滑性が悪化し、機械の摩耗や焼付きといった問題が生じる。このため潤滑性を維
持するためには、機械の最高到達温度における粘度は一定以上にする必要がある。潤
滑油は温度が低下すると粘度が高くなる。その変化度合いを粘度指数(VI:Viscosity
Index)と呼び、温度による粘度変化が小さいほど、VI が高いと定義されている。そ
こで潤滑油による省燃費化のためには、実用油温における過剰な粘度を適正な粘度に
スを異性化することにより、
(100)
溶剤脱ロウ
この 目的 のた め、 ワック
減圧
軽油
溶剤 抽出
する必要がある。
水素化分解プロセス
高度水 素化分解
下げる、すなわち VI を高く
潤滑油
留分
(25)
CO2:150- 210kg/原料kL
750-1050kg/製品kL
(20)
VI 125
VI140 以 上 、 硫 黄 分 1mass
ppm 以下 の潤滑油 基油を 製
造することを目標にした 。
また、図 1-2 に現行水素
190kg/kL
高品質
ワックス
(100)
溶剤脱ロウ
1-1 に示す。
160kg/kL
開発目標プロセス
水素 化異性化
開発の全体像と課題を図
CO2 60∼120kg/kL
排出量 (同等以下)
潤滑油留分
(60)
CO2:175-235kg/原料kL
350-470kg/製品kL
(50)
VI≧140
化分解プロセスと開発目 標
プロセスの CO2 排出量の計
算値(文献値
1)-4)
図 1-2
より算出)
現行水素化分解プロセスと開発目標
プロセスの CO2 排出量の比較(計算)
を示すが、ワックスの水素化異性化プロセスにおいて、収率ほぼ 50%で基油を得るこ
とができれば、基油の単位生産量あたりの CO2 排出量を半減できるため、これを目標
とした。
エンジン油については、現在粘度グレード SAE 5W-20, 0W-20 の油は、一般的な油(粘
度グレード:SAE 5W-30)に対して 2%程度燃費向上することが要請されている 5) 。変速
機油については、AT(Automatic Transmission、自動変速機)に使用される省燃費型
ATF(Automatic Transmission Fluid、自動変速機油)は、粘度などを最適化すること
により 1.1∼1.4%燃費が向上することが報告されている
6)
。国内の乗用車は、新車の
変速機の 90%以上が AT であるため、本研究開発では ATF を対象にした。既存の省燃
費型潤滑油の研究成果を考慮して、本研究開発においては、エンジン油について 3%、
ATF として 2%、自動車用潤滑油として 5%の燃費向上を目標とすることとした。
本研究開発は平成 15 年度から開始し、上述の目標は平成 17 年度までに達成した。
当初想定していた原料はフィッシャートロピシュ法などにより製造される高品位ワッ
クスであった。しかしながらこの高品位ワックスの入手は当面困難であることがわか
ってきた。そこで通常基油の製造時に副生する低品位ワックスを原料に、同じ性能の
基油を製造するプロセスを、平成 19 年度までに開発することを新たに目標とした。
さらに、開発した高性能基油の特徴を生かし、エンジン油の寿命を 20%延ばすこと
を目標とした。これにより廃油を 20%削減できることになる。またさらに、副生する
高品位軽質基油を緩衝器用作動油に利用することにより緩衝器の性能を向上させるこ
とを目標に加えた。具体的には緩衝器用作動油の粘度の安定性を 20%向上させること
により乗り心地維持をはかり、ひいては燃費の向上に寄与するものである。また作動
油に、この開発した基油を使用した ATF を応用することにより、従来の作動油に比較
し、1%以上の省電力効果を目標とすることを新たに加えた。
2.研究開発の内容
2.1次世代鉱油系基油製造プロセスの開発
本研究開発においては、VI140 以上、硫黄分 1mass ppm 以下の高性能潤滑油基油を、
現行プロセス対比 1/2 以下の使用エネルギーで製造するプロセスを開発することが課
題であるが、ワックス(n-パラフィン)を効率的に VI の高いイソパラフィンに異性化
する触媒の開発が重要である。
一般に触媒の性能には担体(組成および調製方法)および担持金属(種類および担
持方法)の選択が大きな影響を及ぼす。このため、本研究においては、各種担体およ
び担持金属を組み合わせた触媒を試作し検討することとした。担体については、当社
におけるこれまでの知見および文献調査より、アモルファスシリカアルミナ担体が nパラフィンを十分に異性化する能力を有すると考えられたため、シリカアルミナ担体
を中心に検討した。担持する活性金属については、貴金属である白金より検討を開始
したが、ワックスとして石油系基油製造過程で生成するスラックワックスから得られ
る高品位ワックスには、わずかながらも硫黄が含まれているため、硫化物系触媒の最
適化を図ることとした。さらに、平成 18 年度からは原料に低品位ワックスを使用する
ことにしたため、含まれる硫黄や窒素による触媒の耐久性の向上、ならびに油分の粘
度指数の向上、さらにワックスからの異性化基油の収率向上が鍵となった。そこで硫
化物系触媒を基本として、その担体の工夫、さらに反応条件の検討を中心に進めた。
2.2省燃費型自動車用潤滑油の最適処方の開発
最終的な目標は、開発した基油を使用して省燃費型自動車用潤滑油処方の開発を行
うことであるが、1 年目の平成 15 年度は既存の潤滑油基油の分析および性能評価を行
うとともに、自動車用潤滑油を試作・評価することにより、基油の性状および構造と
性能の関係を明確にした。
2 年目、平成 16 年度は大型異性化装置が稼動し基油の製造が可能になった。製造し
た基油を使用して最適処方検討を行った。
3 年目、平成 17 年度はこれまでの触媒技術開発を基に、プロセス運転条件の最適化
を図り、プロセスの実証をおこなった。またこの条件を基に外注により基油の大量製
造を行い、エンジン油で 3%以上、ATF で 2%以上の燃費改善効果を実証した。
4 年目の平成 18 年度はこれまでの技術で製造した基油を使用して、各種添加剤の最
適化を検討した。
5 年目の平成 19 年度は改良を続けるとともに集大成として、低品位ワックスから製
造した開発基油を用いて全ての目標の実証、目標達成の確認を行った。
3.
研究開発の結果
3.1次世代鉱油系基油製造プロセスの検討
3.1.1異性化触媒の検討
(1)原料ワックス組成の影響
平成 16 年度、油分の影響について検討した。詳細は省略するが、油分が、5mass%、
もう一つは 23mass%とかなり油分を含むものを検討した結果、いずれのワックスから
も FT ワックスを原料とする基油の VI 相当以上のものが製造できることがわかった。
しかし油分 5%のスラックワックスから製造した基油は FT ワックスからの基油とほと
んど同じ組成であったが、油分を 23%含むスラックワックスから製造した基油では、
芳香族分も 2.6%と多く、FT ワックスと同等の性能とは言いがたいものであった。
(2)担体の検討
450
担体のシリカ/アルミ
ナ比の影響について、平
アルミナ比を 1 以下と
250
200
し最適の反応温度で反
150
応を行えば、高品位ワッ
100
クスから目標の基油を
50
製造することが可能で
0
あることを実証した。
シリカ/アルミナ比
担体A>担体B
300
酸量
得るためには、シリカ/
担体B
350
成 17 年度までに、高粘
度指数基油を高収率で
担体A
400
担体C(第三成分C)
担体D(第三成分D)
100
300
700
温度, ℃
平成 18 年度からは、
原料に低品位ワックス
500
図 3-1 開発触媒の酸性度
を使用することとした
ため、ワックスの異性化能力だけではなく、ワックスに含まれる油分の粘度指数の向
上も 必要 にな った 。そ こ
で担 体に 第三 成分 を入 れ
ることを検討した。
図 3-1 にアンモニアに
よる 酸性 度の 測定 結果 を
示す 。第 三成 分が 無い 場
合に 比べ 、強 酸部 分が 少
なく なり 、逆 に弱 酸部 分
が増 加し た。 特に 第三 成
表 3-1 第 3 成分の効果(原料:低品位ワックス)
触媒担体
Si/Al 比 1 以下
第 3 成分
なし
C
D
分解率
Base
Base
Base
SAE10 基油収率, %
24
25
27
密度(15℃), g/cm3
0.8188
0.8259
0.8213
動粘度(40℃), mm2 /s
16.50
16.66
16.21
動粘度(100℃), mm2 /s
3.943
3.993
3.918
粘度指数
139
142
141
流動点℃
-25.0
-25.0
-25.0
分 D はその効果が大きく、
分解 を抑 え、 異性 化を 促
進することが期待された。すなわち同じ収率であれば高い VI となるため、油分による
VI 低下を補うことができることが期待された。
表 3-2 第 3 成分添加による低品位ワックス原料基油性状
触媒担体
Si+第 3 成分 D/Al比:1 以下
目標値
基油名
70 ペール
SAE10
SAE20
基油収率
%
19
27
5
>計 47
密度(15℃)
g/cm3
0.8144
0.8213
0.8324
動粘度(40℃)
mm2 /s
10.01
16.21
36.24
動粘度(100℃)
mm2 /s
2.781
3.918
6.879
粘度指数
124
141
152
>140(SAE10)
硫黄分
mass ppm
<1
<1
<1
<1
流動点
℃
-30.0
-25.0
-17.5
反応条件を流動点が-25℃になるように調整し、低品位ワックスを原料に製造した場
合の基油性状と収率を表 3-1 に示す。表には第三成分を添加しない結果も示している。
VI は第三成分 C のほうが高いが、収率は D のほうが高く、また VI も 141 と目標値を
満足することがわかった。
表 3-2 に製造された各粘度グレードの性状と収率を示す。合計の基油収率は 51%で
あり、本プロセスで目標とする CO2 排出目標 50%削減の目安となる収率 47%を上回った。
また先に述べたように VI も 141 と目標を上回った。もちろん硫黄分は 1 mass ppm
以下であり、プロセス開発における全ての目標を満足させることができた。
3.2省燃費型自動車用潤滑油の最適処方の検討
3.2.1エンジン油処方の検討
費エ ンジ ン油 処方 は完 成
したが、18 年度以降はオ
イル 交換 距離 の延 長、 す
なわ ち寿 命延 長を 目的 と
して開発を進めた。
開発基油は酸化劣化を
促進 する 芳香 族成 分や 硫
黄化 合物 をほ とん ど含 ま
塩基価(HCl法), mgKOH/g
平成 17 年度までに省燃
6
基 準 GrⅢ GF-4
開 発基油 GF-4
GE-505-4
5
4
GE-505-5
3
開 発油
2
1
0
ない ため 、本 質的 に酸 化
0
20
安定 性に も優 れて いる 。
40
60
80
試験時間 , h
そこ で、 実エ ンジ ンを 使
用す る潤 滑油 清浄 特性 評
図 3-2
開発油のエンジン油酸化劣化評価結果
価装 置で 開発 基油 の寿 命
延長効果を評価したが、基油の差はほ
6 .00
は寿命延長は困難であることがわかっ
た。このため、添加剤による改善をエ
ンジン油酸化劣化評価装置(NOx 吹き込
み試験)により検討した。その結果摩耗
防止剤の違いが寿命に大きく影響する
ことがわかった。
さらに摩耗防止剤以外の添加剤での
改善も試みた。基本処方に酸化防止剤、
分 散 剤 を さ ら に 加 え た 処 方 GE-505-4
塩基 価(H Cl法), m g KO H/ g
とんど認められず、基油の性能だけで
Gr ⅢGF- 4
開発基油GF- 4
2 .00
0 .00
0
ならびに-5 がエンジン油酸化劣化評価
試験機では優れた性能を示した。結果
を図 3-2 に示す。そこで GE-505-4 と 5
について潤滑油清浄特性評価装置で評
GE- 5 0 5 - 4
GE- 5 0 5 - 5
4 .00
図 3-3
50
10 0
時間 , h
15 0
20 0
試作エンジン油清浄特性評価結果
そこで先に効果のあった新摩
耗防止剤を試した。エンジン油
酸化劣化評価装置で評価した結
果、なかでも摩耗防止剤 B が優
れており、これを使用したオイ
ルを開発油とすることにした
(図 3-2)。
開発油の性能を潤滑油清浄特
塩基価( H Cl 法), mg KO H /g
価した。結果を図 3-3 に示す。しかしほとんど寿命延長は認められなかった。
性評価装置と潤滑油高温酸化安
4.0
GrⅢ基準油
3.0
開発油
2.0
1.0
0.0
0
100
300
時間, h
定性評価装置で評価した。潤滑
油清浄特性評価結果を図 3-4 に
200
図 3-4
潤滑油清浄特性評価結果
示す。いずれの試験でも極めて
優れた結果であり、寿命としては 2 倍以上の延長となった。
3.2.2ATF 処方の検討
(1)ATF の粘度指数向上剤の最適化
ATF による燃費向上は基本的にいかに常温域の粘度を下げることができるかにかか
っており、基油の性能向上とともに粘度指数向上剤の最適化が不可欠である。
平成 18 年度、粘度指数向上剤のポリマー分のみを取り出し、その性能について評価
した。同じポリマーの添加量でも粘度指数の向上効果が大きく異なることがわかった。
またポリマーの分子量だけでなく、ポリマーを構成しているモノマーの構造が大きく
影響していることもわかった。
検討した中でもっとも粘度指数向上効果が大きかった VII-B について ATF として
の粘度特性の評価を行った。VII-B の粘度指数向上効果は同じ添加量では GrⅢ基油と
開発油に差は認められなかった。しかしながら実際に ATF 処方にすると、粘度指数が
大幅に向上した。これは開発基油の組成がイソパラフィンであるため、ポリマーに対
して貧溶媒と
なるためと考
えられる。貧溶
媒ではポリマ
ーが十分膨潤
しないことに
より増粘効果
表 3-3
試作油 No.
基油
添加剤
粘度指数向上剤
(Mw20,000 一定:溶解性変更)
基準
溶解度 B
基準
3.28
3.28
3.28
5.41
5.40
5.38
189
3820
192
4250
173
7760
5.41
5.40
5.38
二円筒疲労寿命試験(2.0GPa,120℃,1500rpm,滑り率 40%)
1 回目, サイクル
2.00
2.11
2 回目, サイクル
1.85
1.91
2.09
1.97
基油粘度, 100 ゚ C, mm2/s
動粘度, 100 ゚ C, mm2/s
が相対的に小
さくなり、同じ
粘度にするた
めには多くの
ポリマーが必
要となる。これ
により結果的
粘度指数向上剤の最適化と疲労寿命
試作油
基準 A
基準 B
-2
開発油
開発油
GrⅢ
○
○
○
粘度指数
BF 粘度 -40 ゚ C, mPa・s
動粘度 100 ゚ C, mm2/s
に粘度指数も高くなったものと考えられた。
ATF に使用される粘度指数向上剤は使用中の粘度低下を抑制するため、分子量に制
限がある。これは大きな分子ほど剪断を受け分子量が低下し、粘度低下が大きくなる
ためである。そこで平成 19 年度は分子量を 2 万とし、溶解性をパラメーターとして最
適化検討を行った。結果を表 3-3 に示す。試作油-2 がもっとも粘度指数を向上させ、
低温粘度も十分低いものであった。
(2)基油の ATF 疲労寿命特性への影響と対策
自動変速機には多くのギヤやベアリングが使用されている。これらはいかなる運転
条件にさらされても、車が廃車となるまで損傷しないことが条件となる。開発基油は
ほとんど 100%がイソパラフィンであり、これが疲労寿命に影響がないことを証明す
る必要がある。この評価は、最終的には対象となる自動変速機で、考えられる最高の
負荷をかけた条件で、目標となる寿命を超える運転を行い、問題がないことを確認す
ることにより行われる。この試験は一般には実施できないため、平成 18 年度は、スラ
スト軸受けによる疲労試験を行った。その結果開発基油を使用した場合は GrⅢ基油よ
り寿命が短くなることがわかった。そこで平成 19 年度は、実機にもっとも近い評価方
法といわれる二円筒疲労寿命性能評価装置を導入し、詳細な検討を実施した。評価結
果として、ここでは先にいろいろな要求条件を満足するなかで、粘度指数を最適化す
るときに使用した試作油の評価結果を表 3-3 に示す。ここでも粘度指数がもっとも高
かった試作油-2 が疲労寿命の基準となる基準 B と同等以上の寿命を保持していた。
すなわち試作油-2 で使用した粘度指数向上剤は剪断安定性を満足した上で、粘度指
数が最も高く、本開発油の懸念であった疲労寿命の問題も解決できるものであった。
3.2.3
開発油の燃費低減効果
本研究開発の目的のひとつは、開発した基油を用いて、エンジン油について 3%、
ATF として 2%、自動車用潤滑油として計 5%以上の燃費向上を目標とすることである。
(1)エンジン油の省燃費性能
表 3-4
供試油名
基油
添加剤(新極圧剤+FM)
粘度指数向上剤 A
粘度指数向上剤 B
動粘度,mm2/s(40℃)
(100℃)
粘度指数
酸価,mgKOH/g
CCS 粘度,mPa・s(-35℃)
MRV 粘度,mPa・s(-40℃)
開発エンジン油の組成と性状
基準油
GrⅢ-B
新 GEO-A
PAO
GrⅢ
開発油
○
○
○
○
64.6
9.92
139
2.00
14,900*
30,600
39.9
8.74
207
1.36
5,900
19,000
39.2
9.51
239
1.53
新 GEO-B
開発油
○
○
27.4
7.05
235
1.66
2,640
5,300
開発基油を使用した最適化処方検討結果を踏まえ、省燃費型エンジン油を調製した。
試験に使用した試験油の性状を表 3-4 に示す。燃費はシャーシダイナモメータを用い
た実車試験により測定し、運転パターンとしては EC モードを採用した。これは ATF の
評価法と合わせるためである。試験の繰り返し精度は極めて高く十分信頼できる値が
得られた。エンジン油の基準油には ILSAC の燃費試験法、Seq.ⅥB で使用されている
5W-30 油とした。結果を図 3-5 に示す。
開発基油を使用した新 GEO-A は 2.68%の燃費改善効果を示した。さらに粘度指数向
上 剤 を 変 更 し た 新
10.40
GEO-B は 2.83%の改善効
果を示した。
2.83%
(2)省燃費 ATF
燃費試験に供試した
ATF は、最適化処方で検
燃費,km/L
10.30
討したものである。組成
2.68%
10.20
粘度指数
向上剤の差
1.74%
基油組成の差
10.10
と性状を再度表 3-5 に
基油・基本処方の効果
示す。ATF の省燃費効果
10.00
を測定する公的試験法
はないため、燃費はエン
図 3-5
基準油
新GEO-A
GrⅢ-B
新GEO-B
開発エンジン油の EC モードによる燃費改善率
ジン油と同様シャーシ
ダイナモメータを用いた実車試験により測定し、一部カーメーカーで採用されている
EC モードを運転パターンとした。
表 3-5
供試油名
基油
添加剤
粘度指数向上剤
(溶解性変更)
動粘度@100 ゚ C, mm2/s
粘度指数
燃費試験供試 ATF の組成と性状
基準 ATF
GrⅢ-ATF
新 ATF-1
GrⅠ
GrⅢ
開発油
□
○
○
新 ATF-2
開発油
○
基準
溶解度 A
溶解度 B
7.015
5.38
5.39
5.40
181
173
188
192
結果を図 3-6 に示す。
10.30
最適化した粘度指数向
2.43%
ATF-2 は 2.43%と、極め
て高い省燃費効果を示
した。
燃費,km/L
上剤 P・B を使用した新
10.20
1.34%
0.79%
10.10
開発基油効果
以上、開発エンジン油
で 2.83%、開発 ATF で
10.00
2.43%、合計して 5.26%
滑油による 5%以上の燃
費改善を実証した。
基油・処方の効果
基準
ATF
の燃費改善を確認し、本
開発目標の自動車用潤
粘度指数
向上剤の差
図 3-6
GrⅢ-ATF
新ATF-1
新ATF-2
開発 ATF の EC モードによる燃費改善率
3.2.4
軽質開発油の応用
本 研究 開 発 では 自 動車
表 3-6
70 ペール
用潤 滑油 への 応用 が主 た
る目的であるため、SAE10
密度
(15 ゚ C)
の開 発に 力が 注が れて い
動粘度
(40 ゚ C)
る。 しか しな がら 副生 油
として 70 ペールと呼ばれ
る基 油が 製造 され る。 こ
の基 油も 従来 の基 油に 比
較し て非 常に 高粘 度指 数
開発油の軽質油性状
開発油
0.8144
g/cm3
10.01
mm2/s
mm2/s
(100 ゚ C)
GrⅢ*
0.8291
2.781
10.22
2.714
粘度指数
124
109
流動点
゚C
-30.0
-32.5
硫黄量
ppm
<1
<1
*低粘度のため VI が低く厳密には GrⅢ基油ではない。
であ る。 そこ でこ の副 生
油を有効活用することでさらに、本開発の有効性が増すことになる。この 70 ペールは
表 3-6 に示すように粘度指数が高く優れた特性を示す。また構造的にもほとんどがパ
ラフィンであり酸化安定性などにも優れているため、その用途拡大が本研究開発の価
値を高める観点か らも重要であ る。具体的に は 、緩衝器用作動油 (Shock Absorber
Fluid: SAF)への応用と、ATF を一般的作動油として使用することを検討することに
した。
具体的目標は、緩衝器用作動油の場合、粘度の安定性を 20%向上させることである。
これにより乗り心地維持をはかり、ひいては燃費の向上に寄与するものである。また
作動油に、開発した軽質基油を使用した ATF を応用することにより、従来の作動油に
比較し、1%以上の省電力効果を目標とした。
(1)
緩衝器用作動油への応用
SAF に要求される性能は、温度による粘度変化が小さいことである。SAF は流体がキ
ャピラリーを通過するときに、粘度による抵抗により減衰作用を発揮する。したがっ
てその減衰力は粘度によって変化する。このことは適正な減衰力を発揮するためには
いかなる環境でもできるだけ同じような粘度であることが期待される。
特に自動車用緩衝器は外気温-40℃から+40℃を超える環境で使用される。したがっ
て-40℃でも適正な粘度である必要があるし、また 40℃を越える環境でも十分な粘度
を保有している必要がある。
20
準油としては性状が現在 の
最高レベルの粘度温度特 性
のものを使用した。すな わ
ち-40℃でも 1500mPa・s 以下
で あ り 、 40 ℃ で も 12mm2 /s
程度の粘度を保有している。
開発基油を使用した開発 油
SAF-35 は基準油の 1/3 以下
粘度低下率(100℃), %
性能を比較するための 基
15
10
10 0 万回
20 0 万回
試験条件:
±2 5mm×3Hz,8 0 ℃,
横力5 8 8N
5
0
開発SAF
基準油
の粘度指数向上剤の添加 量
で、基準油の性状をはる か
図 3-7
開発 SAF の耐久試験後の粘度低下
に超える粘度−温度特性を示した。この特性は合成油に匹敵し、粘度指数という面で
は合成油を凌いでいる。さらに実験室評価の剪断安定性でみると、基準油より 2.5 倍
以上の向上が認められ、目標を十分達成していた。
実ショックアブソーバーを使
1000
用した耐久試験結果を図 3-7 に
基準油
耐久後
示す。開発油の粘度低下率は基
準油の 1/2 以下であり、目標を
開発油
耐久後
十二分に満足する結果であった。
減衰力, N
また開発油は、耐久後はもち
ろん、耐久前においても優れた
減衰力特性を示し、使用した開
発基油そのものが SAF に非常に
600
400
200
0
- 20
-10
-200 0
10
20
-400
適したものであることを示して
いる。潤滑油緩衝特性評価装置
-600
で評価した結果を図 3-8 に示す。
-800
(2)
最大速度:0.3m/s
800
ATF の作動油への応用
-1000
変位, mm
軽質油の応用として、これを
使用した ATF の作動油への応用
200 万サイクル耐久後
を検討した。本開発の目的は先
図 3-8
に開発した ATF を作動油として
開発 SAF の減衰力特性
も利用し、その良好な粘度温度特性から省エネルギー効果を引き出すことである。潤
滑油省エネルギー性評価装置を使用して、電力消費に対する効果を測定した。15MPa、
60℃以外の全ての条件で高い
2 .5
代表例として 10MPa の結果を
図 3-9 に示す。全条件の単純
平均で GrⅠ基油作動油に対し
て 1.8%、GrⅢ基油に比較して
も 0.5%以上の消費電力低減効
果であった。
また作動油へ要求されるも
電力消費低減率, %
消費電力低減効果を示した。
10 MPa( REO(Zn )対比)
2 .0
G rⅢ1 0 (AT )
1 .5
開発油( AT )
1 .0
0 .5
0 .0
30℃
4 0℃
油温
うひとつの重要な性能は酸化
安定性である。開発油の熱安
定性試験結果は、GrⅠ基油を
60℃
図 3-9
開発作動油の消費電力削減効果
使用した作動油 REO(Zn)が 20 日で測定不能になるほどのスラッジが発生するのに対し、
開発基油を使用した PECGT10(AT)ではほとんど発生しなかった。
4.
まとめ
4.1 平成 19 年度の研究開発
本研究開発で掲げた目標を全て達成した。具体的には下記の通りである。
(1)潤滑油基油の製造プロセス開発
VI140 以上、硫黄分 1ppm 以下、CO2 排出量を 1/2 削減を達成した。
(2)自動車燃費改善
EC モードでエンジン油による燃費向上 2.83%(5W30 対比)、ATF による燃費向上
2.43% (従来 ATF 対比)を確認。計 5.26%と目標を達成した。
(3)エンジン油のオイル交換距離延長
開発基油を使用し、添加剤を最適化したエンジン油の寿命が、従来の GrⅢエンジ
ン油より 1.2 倍以上であることを確認、目標を達成した。
(4)高性能 SAF 開発
実機耐久試験にて粘度特性安定性 1.2 倍を実証、かつ乗り心地も改善されている
ことを確認、目標を達成した。
(5)ATF の作動油への応用拡大
省エネルギー評価装置にて本開発作動油による 1%以上の電力消費量削減効果を確
認、目標を達成した。
4.2今後の予定
次世代鉱油系基油製造プロセスの開発については掲げた目標を全て達成した。今後
はもう一度原点に立ち返り、理想的な基油構造はいかなるものか、計算によるシミュ
レーションを実施する予定である。
また省燃費型自動車用潤滑油の最適処方の開発については、目標として掲げたエン
ジン油、ATF による燃費低減もその目標値を達成した。また
副生する軽質油の利用
のため、緩衝器用作動油(SAF)や、ATF を一般的作動油へ応用し、目標を達成した。
今後はさらにディーゼルエンジン油等への適用を模索する。
(引用文献)
1. 石油学会編、石油精製プロセス、講談社(1998)
2. TEPCO 環境行動レポート 2002、東京電力株式会社(2002) 24
3. 化学工学会編、化学工学便覧
改定5版、丸善(1991)表 24.11
4. 化学装置百科辞典編集委員会、化学装置百科事典,化学工学社(1971)表 27-9
5.International Lubricant Standardization and Approval Committee (ILSAC), ILSAC
GF-4 Standard for Passenger Car Engine Oils, January 14, 2004
6. K. Yamamori, K. Saito, Y. Kobiki, A. Ogawa, Development of New Automatic
Transmission Fluid for Fuel Economy, SAE Paper 2003-01-3258 (2003)
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