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シダ植物の物質生産に基づく成長の 生理生態学的研究

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シダ植物の物質生産に基づく成長の 生理生態学的研究
シダ植物の物質生産に基づく成長の
生理生態学的研究
Eco-physiological studies of growth on the
basis of matter production in pteridophytes
2005 年 3 月
坂卷義章
シダ植物の物質生産に基づく成長の生理生態学的研究
目次
第Ⅰ章
シダ植物
1
Ⅰ−1
シダ植物とは
1
Ⅰ−2
シダ植物の生活環
2
Ⅰ−3
シダ植物の生態学的研究
4
第Ⅱ章
緑色胞子の発芽に関する研究
11
第Ⅲ章
配偶体の成長と胞子体の形成に関する研究
27
Ⅲ−1
配偶体の成長と若い胞子体の成長に対する物質的貢献
27
Ⅲ−2
胞子体の数はどう決まるか
39
Ⅲ−3
配偶体の物質生産とその貢献―生活環の進行と配偶体の役割
48
第Ⅳ章
胞子体個体群の成長と維持に関する研究
68
Ⅳ−1
スギナ個体群の現存量とその動態
69
Ⅳ−2
スギナ個体群の成長と維持に対する被陰の影響
72
Ⅳ−3
生育期間中の被陰の炭水化物経済に対する影響
83
Ⅳ−4
スギナの栄養繁殖に対する貯蔵茎と地下茎断片の貢献
90
Ⅳ−5
物質生産から見たスギナの生活史戦略―人里雑草としての特徴
96
第Ⅴ章
総括:陸上植物の進化におけるシダ植物の位置と生態学的研究125
謝辞
129
引用文献
130
第Ⅰ章
シダ植物
Ⅰ−1
シダ植物とは
一般に、陸上植物はコケ植物からシダ植物を経て種子植物に進化したと考え
られている(加藤
1997)。この、陸上植物の進化に関しては古くから形態学的、
系統学的な方面から研究されている(湯浅
1954)。しかし、コケ植物からシダ植
物への進化の過程には化石や形態の上から異論もある(井上
1974、西田
1977)。Hofmeister(1851)は、コケ植物とシダ植物では配偶体と胞子体の二つの
体(世代とよばれる)が交互に現れる世代交代とよばれる現象を明らかにした。
この世代交代に基づいて両者の進化を考えることが、これまでの系統学の大き
な流れであった。配偶体が胞子体に進化したと考える新生説(Antithetic theory)
と、胞子体は配偶体の変形にすぎないとする相同説(Homologous theory)である
(Goffinet 2000)。前者の説は、Bower(1908)以来、多く唱えられ、Bower はこ
れによってコケが陸上植物の祖先型であるとした(井上
1974)。後者の説では、
配偶体と胞子体が相同な植物体から分化したと考えるため、配偶体と胞子体が
同形のマツバランまたはその類似植物(シダ植物)と想定される原始陸上植物か
らの進化の方向がコケとシダでは異なったと考えることになる
(Zimmermann1932、井上 1982) 。この考え方によれば、陸上植物の祖先型は
シダ植物ということになり、このことからコケ植物はシダ植物からの退行進化
であるとする説が発展した(Goffinet 2000)。
遺伝子の解析が可能になった 1990 年代以降は、DNA 分子の解析によって系
統を調べることが主流になった。加藤(2000)は分子系統による陸上植物の進
化の諸説をまとめている。これによれば、様々な遺伝子による解析結果は必ず
しも一致していないが、多くはコケ植物がシダ植物を含む維管束植物の系統と
早期に分かれたことを示している。現在でも、5SrRNA と ATP アーゼβの系統
-1-
解析からコケ植物はシダ植物からの退行進化である、とする説(堀と吉永
1992)
もあるが、一般的には、コケからシダへという考え方が受け入れられており、
本論文でもこれに従う。
シダ植物は胞子で増えるという生殖的特徴と、維管束を持つという栄養的特
徴を兼ね備えた群として他の陸上植物から区別される(西田
1984、加藤
1997)。さらに、生活環の特徴も他の植物群との区別点になるが、これについて
は次項(Ⅰ−2)で述べる。また、シダ植物は単系統ではなく、いくつかの起
源の異なった植物群が類似の生活環を持つことによって、見かけ上まとまった
ものである、という考えがとられている(Smith 1955、 浅間
1977、西田
1977、
1984)。現生のシダ植物門は、マツバラン類(綱)、ヒカゲノカズラ類(綱)、トクサ
類(綱)と狭義のシダ類(綱)の 4 つに分けられると考えられてきた(Gifford と
Foster 1989)。前の三者はシダ植物門とは別の植物門に分類される場合も多く、
まとめて下等シダ類あるいはシダ類似植物とよばれることがある(表Ⅰ−1、伊藤
(1973)による)。また、狭義のシダ植物を胞子嚢の形成様式や胞子の性質によっ
てさらに真嚢シダ、薄嚢シダ(もっとも普通のシダ類)、水生シダ(異型胞子)の三
つに分ける場合もある(Bold ら 1980)。さらに、Duckett と Ligrone (2003)は配
偶体と胞子体の接続の形が薄嚢シダ類とその他のシダ植物では違っていること
を報告している。このように、シダ植物は分類系統学上では、複雑な植物群で
あるが、本研究では、Pryer ら(2001)に基づいて下等シダ類を含め、すべてを
シダ植物として扱うことにする。
Ⅰ−2 シダ植物の生活環
図 1−1 に一般的なシダ植物の生活環を示す。下等シダ(シダ類似植物)を含め
た大多数のシダ植物は同型胞子シダとよばれ、胞子には雌雄の差がなく、基本
-2-
的に両性の配偶体になる能力がある。一部の水生シダとヒカゲノカズラ類は、
胞子に大小があり大胞子は雌性、小胞子は雄性の配偶体を形成する。本研究に
使用したシダ植物は全て同型胞子シダなので、本論文の中ではこの仲間のみに
ついて言及する。
シダ植物の普通に見られる体は胞子体である。シダ植物の胞子体は、原則と
して葉の裏側に胞子嚢を形成し、その中で減数分裂が行われて核相が n の胞子
が作られる。胞子嚢の裂開によって放出された胞子は、環境が適当であれば発
芽し、小型で、器官が未分化のコケに似た植物体を形成する。この体が配偶体
で、シダ植物門では特に前葉体とよばれることもあるが、本論文では他の植物
門にも共通する配偶体の呼称を用いる。配偶体は光合成による独立栄養で成長
し、最も一般的なシダ綱の多くの種ではハート型の植物体に発達する。通常の
場合、配偶体は小さく、長さ、幅とも5mm 程度であり、1∼数層の光合成組
織と裏面に叢生する仮根のみからできている。ある程度の大きさに育った配偶
体は成熟し、その裏側に造精器、造卵器を形成する。多くのシダ植物の配偶体
は両性になる能力を持つが、早く育った個体が、造卵器を形成する頃に他感物
質(アンセリディオーゲン)を出し、周囲の他個体に小型のまま造精器を形成
させて、雄性配偶体に留める事も知られている(Näf 1956、1979)。このため、
野外の配偶体集団は雌雄の単性と両性の個体を含んでいることが普通である
(Schneller ら 1990)。両性になった配偶体でも、原則として自家受精は避けら
れているものが多い(Lloyd 1974)が、必ずしも絶対ではない(Klekowski 1979)。
受精した卵細胞は分裂して胚となり、胞子体を形成して造卵器から外に成長し
始める。造卵器内には配偶体と接続するフット(Foot)とよばれる組織ができ、境
界面に分布する転送細胞が能動輸送によって胞子体に物質を転流する(加藤
1964)。胞子体は、普通、葉が先に形成され、続いて根が伸張する。葉が数枚展
-3-
開したころに配偶体は枯死し、胞子体が独立する。胞子体は成長して、通常見
られるシダの姿になる。胞子体は種子植物と同様の維管束植物であり、根、茎、
葉の各器官が分化して陸上植物としての形態が確立している。
シダ植物門では、生活環に見られる配偶体、胞子体の両方の世代が光合成に
よって独立栄養で生活し、それぞれの世代が繁殖することに特徴がある。他の
陸上植物の生活環では、コケ植物は通常の体が配偶体である。コケ植物の胞子
体は雌の配偶体に栄養的に寄生(苔類)または半寄生(蘚類、ツノゴケ類)す
る形で短期間現れ、胞子を散布した後には枯れる一時的な体である。これに対
して、種子植物では通常の体は胞子体であり、配偶体は受精のときに花粉管、
胚嚢の形で花の中に現れるだけである。シダ植物は、陸上植物の中で唯一、両
世代が独立栄養で生活することから、コケ植物から種子植物への陸上植物の進
化の過程を考える上で重要な植物群であるとされている(Bell 1979)。
Ⅰ−3
シダ植物の生態学的研究
シダ植物は形態学的には早くから研究され (Luerssen 1879)、生活環なども
Hofmeister(1851)などによって明らかにされた。日本でも初期の研究は形態学
的なものが多く(柘植
1887 など)、生活環の研究は久保田(1887)が最初と見ら
れる。生態学的な視点の研究は、分布に関するものが多い(Page 1979)が、全体
としては形態学や生理学などに比べて多くない。生理生態学的な実験研究にも
いろいろな視点のものがあり、シダ植物の生活環の複雑さから取り扱われる生
育段階もいろいろであるので、これまでの研究史の詳しい内容はそれぞれの章
でふれることにする。
図Ⅰ−2にシダ植物の初期成長のフローチャートを示す。本論文では、植物
の基本的な生活様式である光合成による物質生産の観点から、シダ植物の生活
-4-
環の中の節目である(1)胞子の発芽、(2)配偶体の成長と受精による胞子体の
形成、
(3)胞子体個体群の成長と維持、の3点について行った研究の結果につ
いて述べる。
胞子の発芽に関するものは、かなり早くから発芽条件の解析(Hartt 1925,
Okada 1929) や、胞子成分の分析(Gullvåg 1969)などの研究が行われてきた。
発芽に際しての胞子の光受容に関しては、Towill ら(1973、1980 など)により一
連の研究が行われた。近年では発芽に伴う細胞の構造(Gantt と Arnott
1965)
や物質面での変化(Inoue ら 1992)などが研究されている。
胞子が発芽してできる配偶体世代は形態学的には多くの研究があり、日本産
の種については百瀬(1967)の集成がある。しかし、その生態学的研究は、野外で
の出現頻度の不安定さと分類形質の少なさなどの理由から著しく少なく、主に
培養条件下で研究が行われてきた(Sheffield 1994)。Pickett (1914)の配偶体の生
存と光、水分環境に関する研究がその初期のものである。その後、Mottier
(1925,1927) は過熟配偶体の成長から配偶体の時期にも栄養生殖が想定できる
ことを示し、Albaum(1938a,b)は配偶体の成長と胞子体形成の関係をオーキシン
による頂芽優勢と関連させて考えた。1960 年代には、配偶体の成長と胞子体形
成の生理学的研究が多く行われた(Whittier と Steeves 1962 など)。近年になっ
て光形態形成の研究が多く行われ(Swami と Raghavan 1980、Kawai ら 2003)、
光受容のための構造の点から配偶体 の形態を考える理論的研究(Cooke と
Racusen 1988)も行われた。しかし、物質生産研究の基礎になる配偶体の光合成
速度と呼吸速度に関する研究は、植物体が小さいことから測定が困難であり、
現在に至るまでほとんど行われていない(Friend 1975、Hagar と Freeberg 1980、
Martin ら 1995)。特に、成長によるそれらの変化を扱ったものはほとんどなく
(Ong ら 1998)、胞子体形成との関係については、Sakamaki と Ino (1999)以外、
-5-
皆無である。また、光合成速度、呼吸速度を基礎にして配偶体の物質生産につ
いて行った研究も、本研究以外には見られない。
これに対し、胞子体に関しては有性生殖以外は種子植物と同じ考え方で研究
できるため、農業などにかかわる一部の種については早くから個体群の研究が
行なわれた。日本でも、個体群の現存量や生産構造を扱った研究に安藤と竹内
(1967)、Maeda(1969)などがある。特に、ワラビ(Pteridium aquilinum (L.)
Kuhn.)については、牧草地などの雑草としてヨーロッパを中心に研究が進んで
いる(Conway 1953、Marrs ら 1993、など)。これらは個体群の成長や拡大の様
式についての研究が主流であり(Oinonen 1967a、b)、それらの中に光合成によ
る物質生産的な視点や生産物の転流に関する内容が含まれるものもあった
(Williams と Forey 1975)。これに反して、ワラビ以外のシダ植物の光合成や
物質生産に関する研究は少なく、光合成速度については、Böhning と Burnside
(1956)が陰生植物の一例としてあげているが、これはシダ植物を意識してのもの
ではなかった。シダ植物としての光合成速度の測定は Maeda(1969)、Friend
(1975)、Hagar と Freeberg(1980)、Prange ら(1983、1984)、Nobel ら(1984)、
Bauer ら(1991)、Martin ら(1995)、Gratani ら(1998)などの、様々な視点から
の研究の中で現れるが、それぞれが研究材料とした種のある特定の葉について
の測定であり、多種の光合成速度を測定して環境条件と比較しているのは
Ludlow と Wolf (1975)、Hollinger (1987)だけである。また、前田(1978)は数種
のシダ群落の葉群の構造と物質生産の関係をまとめている。
シダ植物はコケ植物や藻類に近い葉状植物の配偶体と、種子植物に近い維管
束構造を持つ胞子体の二つの体を持つため、その分布はそれぞれの世代が環境
から受ける影響とそれに対する成長によって決められる(前田 1978、Page 1979)。
この両世代に対する淘汰圧の違いは、耐乾燥性や耐凍性などとあわせて、様々
-6-
な環境下でのシダ植物の生活を考える上で重要であり、両世代がその共通の基
礎である光合成による物質生産をどのように環境に対応させているか、を知る
ことはシダ植物の分布や陸上植物の進化を考える上で重要な視点となると考え
られる(加藤
1999)。本論文は、この視点でシダ植物の生活を解析していくこと
を目的とした。
-7-
図 1−1 シダ植物の生活環
岩槻
-8-
(1992)
図Ⅰ−2シダ植物の初期成長のフローチャート
-9-
表Ⅰ−1
シダ植物(門)の分類
Ⅰ.マツバラン類(綱)
1、マツバラン目
マツバラン科−マツバラン
Ⅱ.ヒカゲノカズラ類(綱)
2、ヒカゲノカズラ目
ヒカゲノカズラ科−ヒカゲノカズラ、トウゲシバ
3、イワヒバ目
イワヒバ科−イワヒバ、クラマゴケ
4、ミズニラ目
ミズニラ科−ミズニラ
Ⅲ.トクサ類(綱)
5、トクサ目
トクサ科−トクサ、スギナ
Ⅳ.シダ類(綱)
6、ハナヤスリ目
ハナヤスリ科−ハナヤスリ、ハナワラビ
7、リュウビンタイ目
リュウビンタイ科−リュウビンタイ
8、ゼンマイ目
ゼンマイ科−ゼンマイ
9、シダ目
フサシダ科−カニクサ ウラジロ科−ウラジロ
コケシノブ科−コケシノブ ワラビ科−ワラビ
ミズワラビ科−ミズワラビ シノブ科−シノブ
キジノオシダ科−キジノオシダ ヘゴ科−ヘゴ
オシダ科−ヒメシダ シシガシラ科−コモチシダ
チャセンシダ科−オオタニワタリ
ウラボシ科−ノキシノブ シシラン科−シシラン
10、デンジソウ目
デンジソウ科−デンジソウ
11、サンショウモ目
サンショウモ科−サンショウモ
アカウキクサ科−アカウキクサ
伊藤(1973)より一部改変
- 10 -
第Ⅱ章
緑色胞子の発芽に関する研究
シダ植物の生活環は胞子から始まる。胞子の発芽には様々な条件があること
が古くから報告されている(Hartt 1925)が、特に光の刺激はそのエネルギーとし
ての強度、信号としての波長などが重要な影響を与えるとされる(石川と大房
1954、Towill と Ikuma 1973)。ここでは物質生産に関するエネルギーの観点か
ら緑色の胞子の発芽と光合成、呼吸について行った研究について述べる。
多くのシダ植物の胞子は黒色の周皮を持ちクロロフィルを含まないが、トク
サ科、ゼンマイ科などの胞子はクロロフィルを含んでいる。クロロフィルを含
む胞子は光照射条件下ではクロロフィルを持たない種の胞子より発芽が早いこ
とが報告されている(Lloyd と Klekowski.Jr 1970)。
しかし、このような緑色胞子の寿命は短い。普通、これらの寿命は放出後1
ヶ月以内であり、乾燥によって更に短くなる。Lebkuecher (1997)はトクサ
(Equisetum hyemale)の胞子を用いて、乾燥期間と吸水後の光合成能力の変化を
蛍光強度の測定によって調べた。乾燥期間が2週間を超えると光合成能力の回
復が起こらなくなることを示し、このことから、トクサが湿地に限って分布し
ていることを説明した。彼は、同属のスギナが乾燥地に分布するのは胞子によ
る繁殖の結果ではなく、胞子体の栄養生殖によるものとしている。ゼンマイ科
も緑色の胞子を持つが分布は水湿地に限られず、トクサ科と異なり地下茎によ
る繁殖も盛んではない。日当たりの良いところでは、胞子に由来すると考えら
れる幼個体が見られることから、胞子からの繁殖が起こっていることが推察さ
れる。三井(1978)は、この緑色胞子には何らかの生態学的意味があると述べてい
るが、その内容は明確にはされていない。Gantt と Arnott(1965)は周皮は黒色
ながらクロロフィルを持つ Matteuccia struthiopteris の胞子を用いて、発芽時
における細胞の分裂と形態的な分化をもとに、それぞれの細胞に含まれる貯蔵
- 11 -
物質の組成の変化と分配を調べた。その結果、クロロフィルは配偶体の中で特
に前葉体細胞とよばれる同化細胞側に含まれており、その後の成長に貢献する
ことがわかった。彼らは、貯蔵物質が重要なのは前葉体細胞と仮根細胞が分か
れる2細胞期である可能性が高いと考えた。
本研究では、物質生産の面からゼンマイ(Osmunda japonica Thumb.)におけ
る緑色胞子の発芽と、胞子と配偶体の光合成能力を測定し、これらが発芽以後
どのような経時的変化をたどるかを調べた。これに基づいてクロロフィルを持
つ胞子の特徴とその意義を調べるのが本章の主題である。
実験には主としてゼンマイ(Osmunda japonica Thumb.)の胞子を用いた。本
種は日本全土を含めたアジア地域に広く分布する。日本では主に平地から山地
にかけての林下に普通に生育している(岩槻
1992)。株立ちになり、春に栄養葉
に先駆けて胞子葉を展開する。胞子葉は胞子嚢を密につけ光合成をする葉身を
持たず、胞子放出後すぐに枯死する。胞子は周皮が無色で内部にクロロフィル
を持つ緑色胞子である。比較のため、周皮は黒色で内部にクロロフィルを持つ
リョウメンシダ(Archniodes standisii (Moore) Ohwi)と周皮は黒色でクロロフ
ィルを持たないヒメシダ(Thelypetris palustris (Salisb.) Schott) の胞子も用い
た。
2001 年4月 14 日に早稲田大学大隈庭園(北緯 35 度 39 分、東経 139 度 44 分)
内のゼンマイから胞子葉を採取した。胞子葉を紙袋に入れ室温で 3 日間風乾し
て胞子を落下させた(「4.14」胞子とする)。
「4.14」胞子の一部を 4 月 18 日からシ
リカゲル入りの缶に入れ、1 ヶ月間乾燥保存した(「4.14 乾」とする)。同じ個体か
ら 4 月 18 日に再び胞子葉を採取し、
風乾して 4 月 21 日に胞子を採取した(「4.18」
胞子)。4 月 14 日に採取した胞子葉の一部をそのままビニール袋に入れて 5 月
14 日まで冷蔵庫に保存し、5月 14 日に室温で風乾して 5 月 18 日に胞子を集め
- 12 -
た(「5.14」胞子)。また、2003 年 4 月にも同個体から胞子を採取した。
2003 年 4 月 15 日に取った胞子を 9 cmシャーレ内の蒸留水で湿らせたろ紙上
に播き、白色蛍光灯による光量子密度(PFD)180 µmol m-2s-1 (LICOR
LI -188,
Lincoln, NB, USA)、25℃で 12L-12Dと 24Dの二つの光条件で培養をして 10 日
目まで毎日 1 回発芽率を測定した。100 倍の顕微鏡下で毎日1シャーレ当たり
100 個以上の胞子を数え、そのうち仮根が胞子外に伸びているものを発芽胞子と
した。
表Ⅱ−1
培地の組成
Knop 液
多量要素
Boysen−Jensen液
含有率(g/l)
微量要素
含有率(g/l)
Ca(NO3)2・4H2O
1.000
H3BO3
0.600
MgSO4・7H2O
0.250
MnCl2・4H2O
0.400
KH2PO4
0.250
ZnSO4・7H2O
0.050
KCl
0.120
CuSO4・5H2O
0.050
FeCl3
0.005
両液を1000:1に混合
寒天 20g/lで固形化
また、2001 年 4 月 21 日に少量の「4.14」胞子を 9 cmシャーレ内のクノップ
‐寒天培地(表Ⅱ−1)に播き 25℃、12L-12Dの条件で培養して発芽率を調べ
た。光条件は黒の寒冷紗を使って、光量子密度(PFD) を 165、30.3、1.4、0.74、
0.38 µmol m-2s-1の 5 段階にした。
2001 年 4 月 21 日に「4.14」胞子約 100 mgずつを 10 cm2のグラスフィルタ
ーに載せ、酸素電極(Hansatech DW2, King’s Lynn, UK)を用いて 1 試料ごとの
- 13 -
酸素交換を測定した。180 µmol m-2s-1PFD、25℃、12L-12Dの条件下で培養し
ながら1日から3日の間隔で2週間にわたって測定を行った。照射光は
Hansatech LS2 を 用 い 、 光 合 成 曲 線 を 作 成 し た 2 試 料 を 除 い て
1400µmolm-2s-1PFDと暗黒条件(呼吸測定) 、温度は 20℃とした。光合成曲線は
附属のガラスフィルターを用いて 100~400 µmol m-2s-1ごとの光強度を段階的に
作って作成した。測定後は試料を凍結乾燥し、乾燥質量を測定した。また、未
展開(胞子を含む)胞子葉の羽片と未展開栄養葉の羽片 3 枚ずつについても個別
に酸素交換を酸素電極を用いて測定した。
酸素測定に用いた試料と同様に調整した試料を用いて、光合成に関する蛍光
測定を行った。5 月 19 日に「4.14」、
「4.14 乾」、「4.18」、
「5.14」胞子を用いて
光 合 成 収 率 ア ナ ラ イ ザ ー ( MINI PAM, Hainz Walz, GmbH, Effeltrich,
Germany)によって光化学系Ⅱの活性の指標になるΔF/Fm’ を蛍光で測定した。
風乾状態のそれぞれの胞子について測定した後、これらの試料に蒸留水を与え
て湿らせた。普通、量子収率を測定する場合は 30 分程度暗黒下に試料をおいて
から光照射して測定する。本実験では胞子散布に伴う環境変化に対する光合成
活性の短時間の変化を知るために、給水後の最初の数分は 2~5 分の間隔で測定
を行うので暗期をとることができなかった。そのため、連続光の照射下で量子
収 率 の 代 わ り に 光 合 成 活 性 の 変 化 を 追 う こ と の で き る(Schreiber ら 1994)
ΔF/Fm’ を用いた。この試料を 16 個作り、4 個ずつ 9 cmシャーレに入れて
180µmol m-2s-1 PFD、25℃、12L-12Dの培養器内に置いて 4 日間に渡って測定
を行った。
乾燥した胞子および発芽した胞子を凍結乾燥し、非構造性炭水化物(デンプ
ン、スクロース、グルコース;以下は炭水化物と表現する)含有率をKumeらの
方法(後述)により測定した。2000 年には野外個体から採取した胞子および未展
- 14 -
開の胞子葉と栄養葉の羽片各 3 枚について測定をした。また、乾燥保存してあ
った 1 年前と 2 年前に採取した胞子及び比較のためにリョウメンシダとヒメシ
ダの胞子についても測定した。2003 年には 180 µmolm-2s-1PFD、25℃、12L-12D
の培養条件下と暗黒下のゼンマイとヒメシダの胞子について、乾燥時から吸水
後 1 週間まで1~2日ごとの試料について炭水化物含有率の経時的な変化を測定
した。
非構造性炭水化物濃度の測定は Kume ら(1998)に準拠した。凍結乾燥した植
物体をコーヒーミルを用いて粉末にした。約 10 mg の粉末を再乾燥後、0.1 mg
まで精秤し 50 ml のガラス瓶に入れた。粉末に 80℃の 80%(v/v)エタノールを
11 ml 加え、15 分間震盪し、その後 15 分間 1000×g で遠心分離した。上澄み
をピペットで分離した。この操作を 2 回繰り返し可溶性糖を取り出した。35℃
のロータリーエバポレーターで抽出液から溶媒を完全に除き、1 ml の蒸留水で
残渣を溶解し、糖(グルコース、スクロース)試料とした。沈殿は室温で風乾し、
0.9 ml の蒸留水を加えて 80℃で 30 分間抽出を行った。その後 15 分間 1000×g
で遠心分離した。次に 0.1 ml の 2%アミログルコシダーゼ(Boehringer 社製)を
加えて室温で 30 分以上デンプンの加水分解を行い、得られたグルコースをデン
プン試料とみなした。測定はバイオケミストリー・アナライザー(YSI Model
2700 Select, Yellow Springs 社製)を用いて酵素膜法 (グルコース膜;YSI 2365、
スクロース膜;YSI 2703) で行った。
測定された 003 年の発芽率を図Ⅱ−1 に 2 示す。発芽は胞子散布後 3 日で始
まり 5 日目にほぼ終了した。
図Ⅱ−2 に光条件の異なる各シャーレの発芽率の変化を示す。ここでは 3 日目
に発芽が見られ、165 µmol m-2s-1PFDの場合は 4 日目までに 60%の発芽率があ
り 11 日目には 100%に達した。30 µmol m-2s-1 PFDでは発芽は遅れたが 11 日目
- 15 -
には 100%になった。これ以下の光条件では最終発芽率が低かった。
図Ⅱ−3に胞子の給水後の乾燥質量あたりの酸素交換速度の時間変化を示す。
乾燥した状態の胞子は酸素交換はしなかった。酸素吸収速度(呼吸速度)は給水 1
時間後に最も高く、200 時間の間に次第に低下した。酸素放出速度(光合成速度)
は最初の 5 時間ほどは 0.1µmol O2 g-1 s-1程度だった。この後も光合成速度は呼
吸速度より低かったが次第に上昇し、50 時間後には呼吸速度とほぼ同じになっ
た。この後、光合成速度は呼吸速度より高くなった。
図Ⅱ−4に胞子葉と栄養葉の羽片の酸素交換速度による光−光合成曲線を示
す。栄養葉の光−光合成曲線は一般的な植物の葉と同型であったが、胞子葉の
光合成能力はきわめて小さく、強光時にわずかに呼吸を上回る程度であった。
胞子葉においてクロロフィルを含む部分は胞子だけであるため、胞子葉の光合
成速度は胞子の光合成速度であると言える。これに対して呼吸速度は胞子葉組
織の呼吸も加わっている。
蛍光強度で測定されたゼンマイの「4.14」胞子の光化学系Ⅱの活性の指標
ΔF/Fm’の推移を図Ⅱ−5に示す。乾燥した胞子ではこの値は 0.2 以下と低かっ
たが、給水 2 分後には 0.3~0.4 となり、5 分後には 0.5 前後になった。この値は
1 日後には約 0.7 まで上昇し、4 日後には 0.8 近くになった(データは省略)。4
月 14 日から約 1 ヶ月間乾燥保存した「4.14 乾」胞子は、乾燥せずに冷蔵した
「4.14」胞子や「4.18」胞子、5 月 14 日まで葉ごと冷蔵してから取り出した「5.14」
胞子より有意に低く、120 分以内には回復しなかった。また、この胞子は結局、
発芽しなかった。
図Ⅱ−6(a)に 3 種のシダの胞子に含まれる非構造性炭水化物(デンプン、スク
ロース、グルコース;以下、炭水化物と略す)の乾燥質量あたりの含有率を示す。
ゼンマイでは胞子採取直後(OJ0)、1 年間(OJ1)および 2 年間(OJ2)乾燥
- 16 -
保存した胞子の含有率を示した。ゼンマイとリョウメンシダ(AS)はクロロフィ
ルを含む胞子であるがこれらはスクロースの含有率が高かった。ゼンマイでは
乾燥保存された胞子の非構造性炭水化物含有率は 2 年後でも変化しなかった。
ヒメシダ(TP)はクロロフィルを含まない胞子であり、量は測定していないがす
りつぶした際に脂質を多く含むことが観察された。図Ⅱ−6(b)はゼンマイの胞
子と胞子散布前の胞子葉(胞子を含む)、胞子散布後の胞子葉、栄養葉のそれぞれ
の炭水化物含有率である。胞子葉は葉の組織があるため質量あたりの含有率は
胞子そのものより低かったが、グルコース含有率が胞子より高かった。散布後
の胞子葉はスクロース含有率が大きく低下し、未展開葉に含まれたスクロース
は主に胞子に含まれていたことが示された。
図Ⅱ−7は胞子の発芽に伴う炭水化物含有率の給水後 9 日目までの変化であ
る。ゼンマイ胞子では給水後から急激なスクロース含有率の低下が起こり、デ
ンプンがわずかに増加した。この変化は給水後1日目で大きく変化し、以後の
変化は小さくなった。また、デンプン含有率は 2 日目以後低下した。スクロー
スも 4 日目以降は 1%以下になった。この変化には光の有無による有意差はなか
った。ヒメシダではデンプン、スクロースとも最初から含有率が低く、この期
間では時間の経過による大きな変化は見られなかった。
クロロフィルを持つ胞子の発芽は一般に黒色の胞子より発芽が早いとされて
いる(Lloyd と Klekowski.Jr 1970)。本実験では前者に属するゼンマイ胞子の発
芽は給水後3日以降に起こった(図Ⅱ−1)
。この発芽の進行は給水後の照射光
強度に影響された(図Ⅱ−2)。胞子採取後の風乾の期間が長くなるにしたがって、
枯死して変色した胞子の割合が多くなることが観察された。胞子の発芽の制御
機構に関しては多くの報告があり、フィトクローム、カルシウムイオン、貯蔵
タンパク質など(菅井 1990、Inoue 1995)が要因とされている。胞子の発芽は積
- 17 -
算光量と関係があることが図Ⅱ−2の光が強い場合の曲線から見られるが、同
様の現象をコウヤワラビで報告している Towill と Ikuma (1973)、Towill (1980)
によれば、光の波長によって発芽反応の強さが異なるため、この場合の光の受
容体はフィトクロームであり光合成には関係がないとされている。また、コウ
ヤワラビの発芽率は温度で変わることも報告されている(Hartt 1925、伊藤ら
1972)。Fischer と Shropshire (1979)は発芽は暗黒下でも起こるが、エチレン
によって阻害され、この阻害が光によって解除される際の反応の強さが光の波
長に影響されるとしている。
次に、信号としての光(古谷ら 1981)より、光合成のエネルギーとしての光に
重点を置いて考察する。本研究の酸素交換による光合成測定の結果から(図Ⅱ−
3、4)ゼンマイの胞子は胞子葉の中にあるときから光合成をしていることがわ
かった。このことから、強く乾燥しなければ胞子は放出時から物質生産を行っ
ていると推測される。蛍光測定により風乾状態の胞子には光化学系の反応は見
られない(図Ⅱ−5)が、給水して2分後には光化学系Ⅱの指標となる蛍光の上昇
が見られ、その後も ΔF/Fm’ は上昇を続けた。Lebkuecher (1997)は胞子の乾
燥期間が長くなると光化学系の回復が困難になるため発芽できなくなるとして
おり、そのためトクサは湿地から出られないとして胞子の光合成を重視してい
る。本研究においては、1ヶ月間乾燥したゼンマイの胞子は光化学系Ⅱの回復
が2時間以内には起こらず、その後も発芽しなかったことから、ゼンマイの胞
子はトクサと同様に乾燥に弱いことが示された。給水2日後には純酸素放出速
度(純光合成速度)は酸素消費速度(呼吸速度)より大きくなりプラスの物質生産が
できる状態になった。この2日目は発芽率の測定からは発芽により配偶体細胞
が周皮外に現れる時期にあたり、胞子嚢からの放出前から継続していた胞子の
光合成から配偶体の物質生産に移る時期と考えられる。Gullvåg (1968)はスギナ
- 18 -
の胞子は胞子形成の時期から電子伝達系を含む葉緑体の構造を持っており、吸
水によって葉緑体の分裂が盛んになるが、グラナの密度は胞子の時期のほうが
大きく、これに対し、黒色胞子のワラビでは吸水後からクロロフィルの形成が
始まると報告している。
炭水化物含有率から見た緑色胞子の黒色胞子に対する特徴は、スクロースの
含有率が非常に高いことである(図Ⅱ−6)。周皮が黒色でありながらクロロフィ
ルを持つリョウメンシダの胞子でも同様であった。これに対し、クロロフィル
を持たないヒメシダの胞子では多量の脂質の含有が観察され、スクロースの含
有率は非常に低かった。Gemmrich (1977)は黒色胞子に比べてゼンマイ属の胞
子は脂肪の含有率が極端に少なく、脂肪酸の構成も違っていることを報告して
いる。 Gullvåg (1969)によれば緑色胞子を持つトクサ属でも脂質の含有率は低
く、黒色胞子は脂質の含有率が高い。そして、トクサ属に特有の貯蔵物質はリ
ポタンパクであり、直接細胞の単位膜になることが特徴とされ、ゼンマイの胞
子は黒色胞子とトクサ属の中間の性質を持つとしている。これは Okada(1929)
の各種の胞子の含水率と休眠性の研究に基づく推論であり、直接の成分分析で
はない。ゼンマイ胞子のスクロース含有率は乾燥状態で保存すると2年たって
も減少しなかったが、新鮮な胞子に給水すると1日以内にスクロースが大きく
減少し、デンプンが増加した(図Ⅱ−7)。Towill (1980)は、コウヤワラビでは胞
子内のスクロースがデンプンに変わり蓄積することが胞子発芽の刺激であると
している。ゼンマイの胞子でも Takeno と Inoue (1992)によれば発芽と光合成は
DCMU で光合成を阻害しても起こることから、発芽と光合成は関係がないとさ
れ、発芽しない胞子にはデンプンが貯まることも報告されている(Inoue ら 1992)。
スクロースとデンプンの増減の過程は本研究でも同じであった(図Ⅱ−7)。給水
2 日目まではスクロースの低下にともなうデンプンの上昇には逆の関係が見ら
- 19 -
れたが、Towill (1980)、Inoue(1992)などではこれはスクロースからデンプンへ
の直接の変換であるとしている。Towill と Ikuma (1973)は、コウヤワラビで光
照射に伴う呼吸の上昇をスクロース、デンプンの変化とあわせて報告している。
光合成をしない黒色の胞子や、クロロフィルがあっても周皮が黒い胞子の場合
と違って、胞子嚢や周皮が無色で、胞子の段階から光合成をしているゼンマイ
の場合は胞子嚢からの放出による受容光の変化は小さく、炭水化物の構成を変
換する反応が起こるきっかけは吸水による細胞分裂の開始であると考えられる。
また、本研究で調べた光合成生産にかかわるいろいろの要素はすべて胞子の発
芽時期である 2 日目に転換点を示している。発芽は緑色胞子としての限定され
た状態から配偶体の成長に変わる時である。しかし、この間の胞子のエネルギ
ー源は貯蔵タンパク質であるという研究があり(Inoue ら 1995)、スクロースが
必ずしもエネルギー源であるとはいえない。コウヤワラビの発芽した配偶体で
は炭素、水素、酸素の割合から胞子の貯蔵脂質が炭水化物に変わることが推定
されている(Wayne と Hepler 1985)。2 日目以後の成長に伴って細胞の増加が起
こっても炭水化物の含有率が低下することから、これ以後は配偶体で一定の物
質生産が行われているにしても、貯蔵炭水化物も使われていることが推定でき
る。しかし、黒色胞子の Dryopteris paleacea でも光照射後 2 日目にはクロロフ
ィルが形成されることが報告されており(Scheuerlein ら 1988)、光合成開始ま
でのこの程度の時間差はその後の成長には特に有利な影響を持たないとも考え
られる。黒色胞子は乾燥状態で通常 1 年以上の寿命があるが、緑色胞子は数日
から 2 ヶ月程度の寿命しかなく、乾燥によってさらに短命になる。Gullvåg(1969)
は、緑色胞子がもつ細胞としての性質は、非休眠性や生理反応の継続など栄養
体の細胞に近い、としている。本研究からも光合成の継続性などこの考えを支
持する結果が得られた。緑色胞子の特徴とされる早い発芽は、この性質によっ
- 20 -
て起こっていると考えられ、寿命の短さもその非休眠性の結果であることが推
察された。植物の個体群維持のためには繁殖体が土壌中に休眠状態で存続する
ことも大きな要素になる。種子植物のシードバンクと同様に野外のシダ個体群
に胞子バンクが存在することには、肯定(Dyer と Lindsay 1992, Sheffield 1996)、
否定(Grime 1985)両論があるが、緑色胞子ではこれまでに述べた性質から胞子
バンクは存在しないと考えられる。このことは現在の緑色胞子シダの生態的分
布に影響を与えていることが推察される。
- 21 -
Germination rate (%)
100
75
50
25
0
0 1 2
3 4 5 6 7 8
9 1011
Days
図Ⅱ−1 2003 年の発芽率。□は 12L-12D、■は暗黒条件下のものを示す。測
定値の縦線は標準誤差(n=3~4)を示す。
Germination rate (%)
100
75
50
25
0
0
5
10
15
20
Days
図Ⅱ−2 2001 年胞子の培養PFDを変えた場合の発芽率の推移。シンボルは
□:165、◇:30.3、○:1.4、△:0.74、▽:0.38 µmol m-2 s-1のデータを示す。
光周期は全て 12L-12Dである。
- 22 -
0.5
0.4
0.4
0.3
0.3
0.2
0.2
0.1
0.1
0
0
0
50
100
150
O2 Consumption rate (µmol g-1s-1)
O2 Evolution rate (µmol g-1s-1)
0.5
200
Hours after watering
O2 Exchange rate (µmol g-1 s-1)
図Ⅱ−3 2001 年胞子の給水後の酸素交換速度の時間変化。□は酸素放出(光合
成)、■は酸素吸収(呼吸)を示す。
0.4
Sterile leaf
0.3
0.2
0.1
Fertile leaf
0.0
Fertile leaf
-0.1
-0.2
0
500
1000
1500
PFD (µmol m-2 s-1)
図Ⅱ−4 展開前(2000 年 4 月 21 日)の胞子葉と栄養葉の光―光合成曲線。シン
ボルは◇、○:胞子葉、□:栄養葉の各 3 羽片を示す。
- 23 -
1
∆F/Fm'
0.75
0.5
0.25
0
0
50
100
Minutes after watering
図Ⅱ−5 給水後 120 分までの光化学系Ⅱの活性の指標(ΔF/Fm’)の変化。シン
ボルは□:4.14 乾、◇:4.14、○:4.18、△:5.14 胞子を示す。
- 24 -
Non-structural carbohydrate concentration (%, w/w)
10.0
(a)
7.5
Starch
5.0
Glucose
Sucrose
2.5
0.0
OJ2
OJ1
OJ0
TP
AS
Species
8.0
(b)
6.0
4.0
2.0
0.0
Spore
Young
Fertile
Old
Fertile
Sterile
Stage
図Ⅱ−6 非構造性炭水化物の含有率。
(a)胞子の含有率。OJ0: ゼンマイ採取
直後、OJ1: ゼンマイ 1 年間乾燥、OJ2: ゼンマイ2年間乾燥、TP:ヒメシダ、
AS:リョウメンシダ。(b) ゼンマイの胞子、胞子を含んだ胞子葉、胞子放出後
の胞子葉、未展開の栄養葉の含有率。
- 25 -
Non-structural carbohydrate concentration (%, w/w)
10.0
(a)Osmunda
7.5
5.0
2.5
0.0
2.5
(b)Thelypteris
2.0
1.5
1.0
0.5
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10
Days
図Ⅱ−7 非構造性炭水化物の含有率の変化。○:スクロース、□:デンプン、
△:グルコースを示す。(a)ゼンマイの場合。白:12L-12D、黒:暗黒条件 (b)
ヒメシダの場合。12L-12D のみ。
- 26 -
第Ⅲ章
配偶体の成長と胞子体の形成に関する研究
シダ植物の陸上植物の中での特徴は、配偶体世代と胞子体世代がそれぞれ独
立した光合成生物であることである(Haufler 1997)。写真Ⅲ−1に、胞子体を形
成している配偶体の写真を示す。寒天培地上に生育した配偶体に胞子体が形成
され、2枚程度の葉が展開している状態である。これまでに行われたシダ植物
に関する生態学的研究の多くは胞子体に関するものであった。配偶体に関する
研究は、小型で分類形質が少ないこと、野外での個体数や生育の不安定さなど
による研究のしにくさからあまり見られない(Farrar と Gooch 1975)。世代交代
のあるシダ植物の生態を研究するためには配偶体、胞子体の両世代を研究する
必要がある。本章では胞子発芽に由来する配偶体の成長と、配偶体上で受精に
よって形成された胞子体の成長に対する配偶体の貢献を、物質生産の観点から
研究した結果を述べる。
Ⅲ−1、配偶体の成長と若い胞子体の成長に対する物質的貢献
配偶体に関する生理生態学的研究としては、Pickett (1914)が Camptosorus
rhizophyllus と Asplenium platyneuron の2種の配偶体について乾燥と光条件
の違いに関しての生態学的な適応について研究したのが初期のものである。
Mottier (1925,1927)は Camptosorus rhizophyllus と Asplenium platyneuron
で、また、Albaum (1938a) は Pteris 属2種の胞子体を形成しなかった配偶体
の成長について研究を行った。1960 年代には、多くの研究者が生理学的な面か
ら世代交代を研究した(Whittier と Steeves 1960、Bell と Zafar 1961、Miller
と Miller 1961 など)。彼らは、いろいろな培地や光条件など異なる培養条件下
で、培地の糖濃度の差による胞子体形成率の変化や、無配生殖による発生など
について研究をした。また、光による形態形成についての生理学的研究も多く
- 27 -
行われた(臼井
1972)。近年、Cooke と Racusen(1988)はコウヤワラビ(Onoclea
sensibilis)の配偶体の成長に伴う形態の変化を光受容能力の面から理論的に考
察した。
胞子体の初期成長には配偶体による物質的支持が重要である(加藤 1964)。配
偶体と胞子体の接続部には転送細胞があり、その働きはコケ植物でよく研究さ
れている(Renault ら 1992、Rushing と Anderson 1996)が、シダ植物での研究
は少ない(Duckett と Ligrone 2003)。配偶体の胞子体に対する物質生産の貢献
度について研究するには、配偶体、胞子体両者の光合成による物質生産量と成
長量を知ることが必要である。
シダ植物の成熟した胞子体の光合成速度については多くの研究(Böhning と
Burnside 1956、Maeda 1969、Friend 1975、Prange ら 1983、1984、Nobel
ら 1984、Bauer ら 1991)が行われてきたが、配偶体と形成初期の胞子体に関す
るものは少ない。配偶体の光合成速度と呼吸速度については Friend (1975)、
Hagar と Freeberg (1980)などによる測定はあるが、それらは成長の特定の時期
についてのものである。Hagar と Freeberg (1980)は、Todea barbara の 6∼8
枚の葉を持った若い胞子体の光合成速度を測り、Martin ら(1995)は、Pyrrosia
longifolia の若い胞子体と成熟した胞子体の光合成、呼吸活性を比較し、成長に
伴う CAM 型光合成の発現について研究した。
配偶体と胞子体の生育過程に伴う物質生産量の変化とその世代交代に対する
意義について明らかにするためには、成長に伴う代謝の変化の継続的測定が必
要である。本章では、ヒメシダ(Thelypteris palustris (Salisb.)Schott)の若い
胞子体の成長に対する配偶体の貢献を、配偶体と若い胞子体の成長と光合成、
呼吸速度などの測定結果に基づいて検討する。
- 28 -
ヒメシダは世界の温帯に広く分布し、日本全土の日当たりのよい湿地に群生
する夏緑性の草本である。地下茎が長く発達し、葉には胞子葉と栄養葉の二型
があり、胞子葉は夏に展開する。草高は 40∼70 cm になる(岩槻 1992)。
ヒメシダの配偶体は(1)単純な構成の培地で生育する、(2)胞子を播いて 2 ヶ月
で胞子体を形成する、(3)他の種より配偶体の成長にばらつきが少ない、などの
特徴を持ち、本章に述べる研究の材料として適していた。
シダ植物の生活環については第 1 章に詳述した(図Ⅰ−1、2)。本章では配偶
体と若い胞子体の成長と物質生産について述べる。多くのシダ植物は造精器、
造卵器を一つの配偶体に形成する両性の特徴を持っている。しかし、小さい配
偶体には造精器だけが形成されることが多く(益山 1984)、造卵器はある臨界サ
イズ以上に成長した配偶体上に形成される(Takeno と Furuya 1980)。同一配偶
体上での造精器、造卵器の成熟には時期の差があり、自家受精を避けているこ
とが多い(Robertson 2002)。受精は誘引物質によることが報告されている (伊藤
ら 1972) が、種特異性は厳密ではなく、属内での雑種が多く報告されている(倉
田と中池 1994)。受精後に胞子体が胚発生を経て現れる。若い胞子体は自立でき
るサイズまで配偶体の援助によって成長すると考えられている(井上
1974)。
1982 年から 1996 年まで、毎年夏の終わりに、早稲田大学本庄キャンパス(北
緯 36 度 13 分、東経 139 度 35 分)内の水田放棄地にあるヒメシダ群落から、成
熟した胞子葉を採取した。採取した葉は紙袋に入れて室温で風乾し、胞子を放
出させた。5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液で胞子表面を滅菌した後、胞子を
9cmシャーレに入れたクノップ‐寒天培地(表Ⅱ−1)上に蒸留水とともに播いた。
培地は受精に適したpH 5.5(Hoshizaki 1979)に調整した。初期の胞子密度は
1シャーレ当たり約 400 個、培養温度は 25℃で、培養中は適宜、蒸留水を加え
た。光は蛍光灯と白熱電球で 155 µmol m-2 s-1の光量子密度(PFD)とし、12 時間
- 29 -
の明期・暗期サイクル(12L-12D)とした。過密を避けるため、培養開始 48 日後
に発芽配偶体を新しいシャーレに 10 個体ずつ移植した。新しいシャーレの中で
配偶体をそれまでと同じ条件で培養した。その後、一部の配偶体は胞子体を形
成した。胞子体を形成した配偶体も、それまでと同様に培養した(実験 1)。
胞子体を形成することによる配偶体の成長の変化を調べるため、48 日目から
別の培養シリーズを作った(実験 2)。培養個体群から幅が約 5 mm の配偶体を選
び、10 個体ずつを新鮮な培地を入れたシャーレに移植し、同様に培養した。移
植の時点では、配偶体は胞子体を形成していなかった。幅 5 mm の配偶体は乾
燥質量で平均 0.181 mg に相当した。
実験 1 では胞子を播いた後、21 日目から 10 日おきに、2∼4 個のシャーレか
らそれぞれ 10 個の配偶体をサンプリングし、それぞれの配偶体の長さと幅をミ
クロメーターを用いて測定した。あらかじめ質量を測定したアルミ箔小片に 10
個ずつの配偶体を包み、80℃で乾燥して乾燥質量を測定した。40 日目以後は、
1 個体ごとに質量を測定した。以下、特別に書かない限り質量は乾燥質量である。
実験 2 では、通算の培養日数で 60 日目からシャーレ 2 個分の 20 個体を約 10
日ごとにサンプリングした。胞子体が出現した後、配偶体を胞子体を形成した
配 偶 体 (S-gametophytes ; 略 号 SG) と 胞 子 体 を 形 成 し て い な い 配 偶 体
(N-gametophytes;略号 NG)の二つに分けた。胞子体を針を用いて配偶体から
慎重に取り外し、配偶体の長さ、幅、質量を個体ごとに測定した。胞子体につ
いては葉と根の数と質量を測定した。
胞子を播いて 60 日目のシャーレから、いろいろなサイズに育った胞子体のつ
いた配偶体 40 個を選び、ミクロメーターを用いて胞子体の葉の幅を測定した。
そして、胞子体の乾燥質量と葉の幅との関係を推定した。20 個の胞子体を慎重
に配偶体から取り外し、残りの 20 個は配偶体をつけたままにした。新鮮な培地
- 30 -
を入れたシャーレに配偶体付き、配偶体なしの胞子体をそれぞれ 5 個体ずつ置
き、上記と同様の条件で培養し、7 日後にすべてをサンプリングした。胞子体、
配偶体は分離して個々の大きさと質量を測定した。
配偶体と若い胞子体の光合成速度、呼吸速度は、赤外線ガス分析器(堀場
VIA300:京都)を用いて開放系で測定した。同化箱は 85×60×27 mmのアクリル
製で、光源は 500Wの白熱灯を用いた。光量子密度(PFD)は植物面上で最大
約 600 µmol m-2 s-1とし、寒冷紗を用いてPFDを調節した。同化箱内の空気の流
量はサンプルの大きさと活性によって 0.3∼0.7 ℓ min−1の間で変化させた。同
化箱に送る空気は 25℃で水飽和させた。配偶体の光合成速度と呼吸速度は胞子
散布後 21 日目以降、約 10 日おきに 152 日まで測定した。さらに、206 日目に
も 1 回測定した。初期の小さい配偶体は、測定値に影響しないことがわかって
いる寒天培地につけたまま測定した。40 日目からは配偶体を針を用いて培地か
ら外し、20∼30 個体を湿らせたろ紙上に並べ、同化箱に入れて測定した。胞子
体の測定では、針を用いて胞子体を配偶体から外し、20∼30 個の胞子体をまと
めて測定した。胞子体を外した後の配偶体(SG)についても同様に光合成速度と
呼吸速度を測定した。配偶体と胞子体は測定後にそれぞれ 80℃で乾燥し、質量
を測定した。
若い胞子体と配偶体の成長段階ごとの光合成能力を比較するために、光合成
速度の微量の変化が測定できる酸素電極(Hansatech DW2, King’s Lynn, UK)を
使用して、光飽和条件(180 µmol m-2 s-1PFD;光源Hansatech LS2unit)、20℃
での酸素放出速度(光合成速度)を測定した。また、暗黒条件にして呼吸による酸
素消費速度を測定した。測定室内の二酸化炭素濃度は約 10 kPaとした。培養開
始 30 日目と 65 日目のNGを培地から試料を取り、約 20 個体ずつをまとめて測
定した。SGと胞子体は分離し、それぞれの光合成速度と呼吸速度を同様に測定
- 31 -
した。SGと胞子体は、それぞれについた胞子体の成長段階によって
「未展葉」、
「1 葉」、「2 葉」の3段階に分けた。各段階のSGと、胞子体の酸素放出速度は 20
個体以上をまとめて測定した。測定後のサンプルは乾燥して質量を測定した。
配偶体と胞子体の成長を光合成速度、呼吸速度と質量に基づいて以下の式で
計算した。
Gn+1=Gn×(1−α) × (1 + (12 ×(Png – Rg)×0.0967×T))
(1)
Gn、Gn+1 は時点n、n+1(日)の配偶体の質量(mg)。α(≤1)は配偶体から
胞子体への物質の転流の割合。Pngは培養光強度、25℃での配偶体の光合成速度
(µmolCO2 g-1 s-1)。Rgは 25℃での暗呼吸速度(µmolCO2 g-1 s-1)である。光周期は
12L-12Dで、0.0967 は転形率を 0.61 としたときのCO2(µmol g-1 s-1)から質量(mg
day-1)への変換係数である。T(日)はnとn+1 の間の日数である(表Ⅲ−1 ではT=10
とした)。
Sn+1= Sn×(1+ (12×(Pns – Rs)×0.0967×T+α×Gn×(1+(12×(Png – Rg)×
0.0967× T) )
(2)
Sn、Sn+1 はn、n+1(日)時点の胞子体の質量(mg)。Pnsは培養光強度、25℃
で の 胞 子 体 の 光 合 成 速 度 (µmolCO2 g-1 s-1) 。 Rs は 25 ℃ で の 暗 呼 吸 速 度
(µmolCO2g-1 s-1)である。
培養により測定した NG と SG の成長曲線を図Ⅲ−1に示す。図Ⅲ−1(a)は
乾燥質量での成長、(b)は配偶体のサイズ(長さ×幅)の成長を示している。質量と
サイズは 50 日目頃までは同様な増加過程を示した。50 日目以降ではサイズの
増加は停止したが、NG では質量の増加が継続した。SG の質量増加は 60 日目
頃に停止し、100 日目頃には配偶体は枯死した。SG の最小質量は 0.072 mg で
あった。
図Ⅲ−2に 48 日目に移植した配偶体と胞子体の質量成長を示す(実験 2)。胞
- 32 -
子体は 48 日目までは出現しなかった。SG は NG と比べて明らかに成長が低下
していた。48 日目では、配偶体の初期乾燥質量は 0.18 ± 0.05 mg(平均 ± SE)
であったが、60 日目には、NG で 0.51 ± 0.11 mg(7 個体)、SGで 0.33 ± 0.09mg
(11 個体)になった。この差は有意であった(t 検定:p<0.05)。60 日目以後の SG
には質量の有意な増加は見られなかった。124 日目には、NG の平均質量は
3.63±1.00mg (9 個体)であったが、SG は 0.47 ± 0.12 mg(12 個体)で、枯死し始
めていた。70 日目以前では、SG と胞子体を合計した質量と NG の質量との間
に有意な差はなかった。60 日目では、SG と胞子体の合計質量は NG より小さ
かったが有意な差ではなかった。70 日目以後には、胞子体の物質生産によって
SG と胞子体の合計質量は NG より大きくなった。
胞子体の質量と葉の数による成長曲線を図Ⅲ−3に示す。測定可能であった
胞子体の最小質量は 60 日目の 0.017 mg であった。胞子体質量は 124 日目には
11.1 mg に増加した。移植した 48 日目には造卵器から外に出ている胞子体原基
はなかった。60 日目までに平均 1 枚の葉が現れ、その後、約 10 日に 1 枚の割
合で葉の数が増加し、130 日目には平均 7.7 枚の葉が形成された。
NG、SGと若い胞子体の光合成速度と呼吸速度の経時的変化を図Ⅲ−4に示
す 。 若 い 配 偶 体 の 光 合 成 速 度 は 大 き く 、 30 日 目 以 前 の も の で は
0.18µmolCO2g-1s-1 であったが、100 日目以降のものは 0.03 µmolCO2 g-1 s-1に低
下した。SGの光合成速度、呼吸速度は同時期のNGのものと有意な差がなかっ
た。呼吸速度は若い配偶体で高く、成熟した配偶体で低かった。若い胞子体の
光合成速度と呼吸速度は配偶体と同じく、形成初期に高く、次第に低下した。
胞子体を形成していない配偶体の光−光合成曲線の経時的な変化を図Ⅲ−5
に示す。21 日目の配偶体の光飽和点は約 200 µmol m-2 s-1PFDであったが、42
日目以後では 100−150 µmol m-2 s-1 PFDに低下した。この値は培養の光強度
- 33 -
155 µmol m-2 s-1より低かったので、今回の培養における光条件はごく初期を除
いて飽和光合成強度に達していたと考えられる。呼吸速度は、初期の
0.03µmolCO2g-1s-1から後期の 0.007 µmolCO2 g-1 s-1まで低下した。何らかの理
由で受精しないまま成長して過熟になった配偶体は、周辺部で細胞分裂を起こ
し、小さな配偶体を多数作った。このような新しい配偶体(Out growth: Albaum
1938a)は、胞子から発生した最初の配偶体と同様に高い光合成速度を示した(図
では 232 日目)。胞子体を形成した配偶体(SG)の光合成曲線は、同時期の配偶体
を形成していないもの(NG)と違いが見られなかった(図Ⅲ−6)。
図Ⅲ−7は、二酸化炭素飽和濃度条件下で酸素電極を用いて測定したNG、SG
と胞子体の光合成速度の比較である。図Ⅲ−7(a)に見られるようにNGとSGの
光合成速度、呼吸速度にはCO2による測定と同様に有意差がなかった(p<0.05)。
また、胞子体の発達の程度も有意な影響を与えなかった。若い胞子体について
は、光合成速度と呼吸速度の合計量には「未展葉」、「1 葉」、「2葉」の間で差がな
かった(図Ⅲ−7b)。しかし呼吸速度においては「未展葉」は葉の展開しているも
のに比べて有意に大きかった(p<0.05)。このことは、「未展葉」の段階では葉の
構成のための呼吸が盛んで、物質の要求が大きいことを示唆している。「1葉」
と「2葉」の光合成速度と呼吸速度は同じ程度であった。
図Ⅲ−8に、胞子体の移植後1週間の成長を示した。移植した胞子体個体の
乾燥質量は事前に測定した葉の幅の合計から推定した。
y = 0.0025x + 0.0023、
(r2 = 0.700,
n = 21)
x はミクロメーターで測定した葉の幅(目盛数;20=1mm、精密な回帰のために
目盛数のまま使う)、y (mg)は胞子体の乾燥質量である。初期質量が 0.05 mg 以
下の胞子体では高い成長が見られた。この成長は配偶体の付いた胞子体の方が
有意に高かった(F-test、p<0.05)。それに対し、0.05 mg 以上では配偶体の有無
- 34 -
による成長の有意な違いは見られなかった。
図Ⅲ−9は 32 ページの式(1)から計算した配偶体の成長曲線と実測値を表し
ている。この計算結果はNGの実測値と良く合っていた。この図から、SG につ
いても転流率αを加えることによって成長のシミュレーション計算ができるこ
とが分かった。
胞子体の成長に対する配偶体の物質生産上の貢献度を知るために、胞子体の
質量成長を光合成速度、呼吸速度、転流率に基づいて計算した。表Ⅲ−1 は、培
養開始 50 日目(表では 1 日とする)に配偶体上に現れた胞子体の質量成長を表し
ている。光合成速度と呼吸速度は図Ⅲ−4によった。配偶体の光合成速度と呼
吸速度が 2 葉展開期まで胞子体の形成によって影響されないこと(図Ⅲ−6)か
ら、NG と SG の質量成長の差は胞子体への転流量によるものである。配偶体か
ら胞子体への転流率αは最初から 10 日間は 0.15、それ以後は SG の成長が止ま
ることから 1.0 とした。表Ⅲ−1によれば、胞子体は配偶体からの転流により
10 日間で 0.049 mg に育つが、この段階で配偶体から切り離されると 21 日目に
は 0.196 mg になるのに対し、配偶体がついたままだと 0.381 mg になる。表Ⅲ
−1 の右端に、この間の実測値を示してある。実測値は 30 日目まで配偶体の生
産量を含めた場合の計算と良く合っている。胞子体は 30 日目までに第 1 葉を展
開していた。
図Ⅲ−10 は、光合成速度と呼吸速度(図Ⅲ−4)と成長曲線(図Ⅲ−9)から計算
した配偶体の物質生産量を示している。12L・12D の条件では、配偶体の最大生
産量は培養 120 日目頃に現れ、それ以後は減少に転じた。物質生産量が最大に
なる配偶体質量は乾燥質量 1.6 mg と推定された。
配偶体に生殖器官が形成されるためには、ある程度の大きさまで配偶体が成
長することが必要である。特に、造卵器の形成に臨界サイズが存在することは
- 35 -
以前から多数の報告がある(Takeno と Furuya 1980、益山 1980)が、これらは
配偶体の幅による測定であった。本研究ではこの臨界サイズは乾燥質量でも表
せることを示した(図Ⅲ−1)。物質生産に基づく研究では質量で表せることが
重要である。臨界サイズに達した配偶体は造卵器を形成するが、造精器の形成
には、これまでの報告と同様に(伊藤ら 1972)臨界サイズは認められなかった。
胞子体の成長に対する配偶体の物質生産からの貢献度を調べるには、配偶体
と胞子体それぞれの物質生産を知ることが必要である。本研究では光合成速度
と呼吸速度を用いて両者の物質生産量を計算した(図Ⅲ−9)。
配偶体の光合成速度はこれまでほとんど報告されていない。Fiend (1975)は
Cibotium glaucumの配偶体で 25℃のとき 0.16 µmolCO2 g-1 s-1の最大光合成速
度 を 報 告 し て い る 。 ま た 、 Hagar と Freeberg (1980) は Todea barbara で
0.03µmolCO2g-1s-1 (22 ℃ ) の 、 Martin ら (1995) は Pyrossia longifolia で
0.057µmolCO2g-1s-1 の光合成速度を報告している。呼吸速度は Todea barbara
で 0.017 µmolCO2 g-1 s-1 (Hagar と Freeberg 1980) 、 Pyrossia longifolia で
0.011µmolCO2g-1s-1 (Martinら 1995)であった(一部の単位は筆者換算)。本研究
の中で測定した8種類のシダの配偶体の光合成速度と呼吸速度(データは省略)
にはどの種でも大きな差がなく、配偶体では種間差は小さいと考えられる。こ
れらの値の間に見られる差は配偶体の生育の各時期による差異と考えられる
(図Ⅲ−5)。配偶体の光合成速度と呼吸速度は胞子体の形成によって変わらな
かった(図Ⅲ−6)。過熟になった配偶体が形成したOut growthの光合成速度は、
古い配偶体部分の呼吸速度が大きいことによって、見かけの光合成速度は低く
なるが、総光合成速度は若い配偶体と変わらなかった(図Ⅲ−5)。古い配偶体
部分が枯死すると、新しい配偶体(Out growth)の新個体としての成長が起こる。
表Ⅲ−1に示した胞子体の質量成長の過程から、胞子体は初期には配偶体の
- 36 -
物質生産に依存して成長したと考えられる。図Ⅲ−6から、配偶体の生産量は
胞子体形成によって変化しないと推定されたので、SG の生産速度としては NG
の生産速度をそのまま使うことができる。表Ⅲ−1 の計算によれば最初の 10 日
間は転流率は配偶体の生産量の 10∼20%と見られ、計算では転流率を 0.15 とし
た。この小さな転流率の原因は、配偶体の物質供給量であるソースサイズに対
してこの時期の胞子体の物質要求量であるシンクサイズが小さいことにあると
考えられる。10 日目以後の転流率は純生産の 100%と考えられた。図Ⅲ−2に
よれば出現 20 日目までは SG と胞子体の合計質量は NG のそれと同等か、少な
かった。このことは、出現 20 日目以前の胞子体の成長は SG の生産に依存し、
30 日目以後には胞子体の葉は十分に展開するので自立して生活ができるように
なったことを示している。
胞子体の移植実験において、0.05 mg 以下の初期サイズでは配偶体の存在が胞
子体の成長に影響を持っていたことが示された。この 0.05 mg の質量は 10 日目
ごろの大きさである。配偶体を取り除いた小さい胞子体の成長が小さいのは、
胞子体の初期成長に対する配偶体の役割の重要性を示している。この役割は、
物質生産以外にも水や養分の吸収のための根としての存在意義も考えられる。
水吸収に関する役割は、野外では胞子体発生の初期までの配偶体はコケや落葉
に包まれる形で生育することが多いこと(Willmot 1985)など、乾燥を防ぐ意味で
重要であるが、培養条件下では小さいと考えられる。この実験の場合も小さい
胞子体では物質の吸収に障害が起きた可能性もあるが、それを含めても 0.05 mg
以上の胞子体は自立できることが示された。
胞子体が取り除かれると、それを形成していた配偶体は枯死しない(Mottier
1927)。このことは、胞子体を形成した配偶体の枯死の理由が胞子体による影響
であることを示している。Cousens (1989)は、配偶体の枯死の理由を胞子体の
- 37 -
形成のために物質が転流するためとしている。
DeMaggio と Wetmore (1961)は、葉 1 枚を展開した Todea barbara の胞子体
は無機塩類だけの寒天培地上で独立生活できると報告している。このように、
配偶体の物質生産上の役割は胞子体が第1葉を展開した時点で終わると考えら
れる。
野外の環境条件は実験室内より変化が多い。そのため、野外の配偶体の成長
は実験室のものと同じではない(Sheffield 1994、Ranker と Houston 2002)。し
かし、光合成速度や呼吸速度のような生理的過程は同じであると考えられる。
図Ⅲ−10 は、乾燥質量が 1.6mg を超えた配偶体では物質生産が低下することを
示している。配偶体が大きくなりすぎると胞子体の形成に有利ではないことに
なる。
胞子体形成の最適タイミングをこれらの結果から検討した。胞子体の形成は
造卵器の形成に始まる。造卵器の形成開始は配偶体のサイズで決まる(Takeno
と Furuya 1980)。その後、受精が起こり、胚発生には数日かかる。若い胞子体
の成長に使われる物質の大部分は配偶体の生産物質に依存している。配偶体の
生産力が高ければ、それだけ胞子体の成長も早くなる可能性がある。個体の物
質生産量が最大になるように次の葉を展開するタイミングは、前の葉の生産が
最大になる直前である(Kikuzawa 1995、菊沢
1995a)。配偶体の物質生産が最
大になるのは、この実験では 120 日目である(図Ⅲ−10a)。出現後 20 日目以前
の若い胞子体には配偶体からの物質供給が不可欠であることから、配偶体が最
初の胞子体の葉を展開する最適なタイミングは 60−70 日目であると考えられ、
胞子体の形成はこのタイミングで行われている。
不適な環境では配偶体の成長は遅く、造卵器や胞子体の形成は遅れる。極端
に不適な条件では胞子体は形成されない(Farrar 1967)。胞子体の成長は配偶体
- 38 -
の物質生産に支持され、これは環境条件、特に光強度に影響されることになる。
予測不可能な環境変動は配偶体個体群の死亡率にも影響を与える(Sato 1992)。
以上から最適なシダの有性繁殖戦略は、配偶体が胞子体を形成する臨界サイズ
に達したらできるだけ早く胞子体を形成し、成長させることであると考えられ
る。
Ⅲ−2、胞子体の数はどう決まるか
シダ植物はその一生に独自に生育する二つの異なる世代、配偶体世代と胞子
体世代、を持っている。この二つの世代は様々な点で違いがあり、これらを比
較する研究も多方面から行われてきた(例えば Keddy 1981)。胞子体は配偶体の
上に有性生殖によって形成される。物質生産の面では、初期の胞子体は配偶体
の生産物に依存して成長する(Sakamaki と Ino 1999)。大きく育った一つの配偶
体は多くの造卵器を形成するが、通常、一つの配偶体上に成立する胞子体は一
つである。Willson (1983)は、配偶体にとって胞子体を作る負担が大きいので、
多くの胞子体を作ることができないと述べている。Sakamaki と Ino (1999)は、
胞子体は自分の物質生産によって生きられるようになる第 1 葉展開期まで配偶
体に依存していることを明らかにした。また、出現後 10 日目までの胞子体はそ
のシンクサイズが小さいことにより、配偶体の生産物を全て使うのではないこ
とも分かった(シンクリミット)。この時期には、一つの胞子体の形成に配偶体の
物質生産量の 10~20%が胞子体の質量増加に相当し(Sakamaki と Ino 1999)、配
偶体もその残りによって質量が増加した。配偶体は胞子体形成の初期には複数
の胞子体を自分の生産力によって作る能力があることになる。
配偶体は胞子体形成後に枯死する。多回繁殖型の生物では、繁殖の際に親に
残った物質は次回の繁殖のために親によって使われるが、配偶体のように一回
- 39 -
繁殖型の生物ではそれは無意味である(Reekie ら 1997)。世代交代のための物質
の利用の観点からは、配偶体が自らの生産物を胞子体形成後の自らの生存のた
めに使うのは適応的ではない。配偶体にとっては、できる限り多く自分の遺伝
子を持った胞子体を作り、自らの死の時点では物質を使い切るのが適応的であ
る。逆に、配偶体に依存して生きる胞子体にとっては、配偶体の生産物の利用
のみならず、近接して形成される他の胞子体との環境資源に関する競争はない
方が良い。胞子体にとって配偶体の独占的利用が最も適応的である。このよう
に利害が相反すると考えられる両世代間で、どちらの世代が胞子体の数を決め
ているのか。ここでは、光合成と呼吸による物質生産の観点から配偶体と胞子
体の関係について検討する。
実験には埼玉県本庄市のヒメシダ個体群から、前項Ⅲ−1 と同様に採取した胞
子を用いた。胞子を滅菌した後、クノップ‐寒天培地(表Ⅱ−1)を入れた 9 cm
シャーレに蒸留水と共に胞子を播いた。これを前項Ⅲ−1 と同じ条件で培養し、
培養ストックとした。
配偶体の物質生産が胞子体の成長に影響することから、配偶体のサイズによ
る胞子体成長への影響を知るため、配偶体の切断実験を行った。培養開始後約
50 日目のストックから、実体顕微鏡のミクロメーターを用いて幅が約 5 mm の
配偶体を選んだ。この時期の配偶体の幅はその乾燥質量と強い相関があり、幅
5mm の配偶体の乾燥質量は 0.181 mg である。この時点では、配偶体はまだ胞
子体を形成してはいなかった。
配偶体をスライドグラス上に取り、ミクロメーターで幅を測定した後、実体
顕微鏡下でカミソリを用いて縦に二つに切断した。切断した配偶体(Cut
gametophyte;略号 CG)を、新鮮な培地に 1 シャーレ当たり 10 個ずつ移植し
た。対照として、切断しない配偶体(Intact gametophyte;略号 IG)も同様に
- 40 -
移植した。これらはこれまでと同様の条件で培養した。
60 日目(移植後 10 日目)から 10 日おきに CG、IG をともに 20 個体(2シャー
レ分)ずつ採取した。配偶体は胞子体を形成したもの(S-gametophytes;略号 SG)
と形成していないもの(N-gametophytes;略号 NG)に分けた。採取した配偶体
は個別に、幅と 80℃での乾燥質量を測定した。胞子体は配偶体から針を用いて
慎重に外し、葉と根の数を測定した後に 80℃で乾燥し質量を測定した。
培養開始後 60 日目のストックから、1 枚の葉のついた胞子体を持った、様々
な大きさの配偶体を 60 個選んだ。20 個の配偶体から針を用いて慎重に胞子体
を外し、20 個は処理をしない対照とした。胞子体付き配偶体(対照)、胞子体除
去配偶体それぞれ 20 個ずつを新鮮培地を入れたシャーレに移植して、ストック
と同じ条件で培養した。残りの 20 個は半分に切り、胞子体がついた側とつかな
い側に分けた(断片の左右は考えない)。胞子体付き断片、胞子体無し断片 20 個
ずつをそれぞれ 1 シャーレに移植して、ストックと同じ条件で培養した。胞子
体を残した配偶体と胞子体を除去した断片からの胞子体の形成を 2 ヶ月間観察
した。
一般に、植物では生産物の利用状況によって生産力が変化することが知られ
ている(津野 1971)。配偶体でも、シンク‐ソース関係から胞子体形成の負担に
よって配偶体の生産力が変化する可能性が考えられる。胞子体の有無によるSG
の光合成能力の違いを調べるために、第 1 葉展開期のSGの光合成速度を酸素電
極(Hansatech DW2)によって測定した。装置付属の光源を使って光量子密度(最
大 350 µmol m-2 s-1 PFD; Hansatech LS2unit)をフィルターにより下げながら酸
素放出量を 20℃で測定した。二酸化炭素濃度は約 10 kPaに調整した。呼吸によ
る酸素消費も同時に測定した。第 1 葉展開期の胞子体のついたSGを培地から取
り、20 個をまとめて測定した。最初の測定の後、全試料のSGと胞子体を針を用
- 41 -
いて胞子体のfootの部分で慎重に分離した。分離した胞子体とSGは、蒸留水で
湿らせたろ紙を敷いた 9 cmシャーレに入れ、25℃、180 µmol m-2s-1 PFD、
12L-12Dの培養器に置いた。3時間後と 2 日後に同一試料について配偶体、胞
子体別々に酸素交換の測定を行った。2日後の測定後、試料を 80℃で乾燥し質
量を測定した。
図Ⅲ−11(a)に、切断しなかった配偶体(IG)と半分に切った配偶体(CG) の乾燥
質量の成長を示す。それらのうちで、胞子体のない配偶体(NG)と胞子体を形成
した配偶体(SG)の乾燥質量の成長を区別して示した。Sakamaki と Ino (1999)
が示したように、配偶体の成長速度は胞子体が出現してから 10 日ほどで低下し、
その後に止まった。これは IG も CG も同様であった。図Ⅲ−11(b)に、IG と CG
それぞれの上に形成された胞子体の乾燥質量の成長を示す。胞子体の成長は IG
上のものも CG 上のものもほとんど同じ成長を示した。データは省略したが葉
の数、根の数にも差は認められなかった。
図Ⅲ−12 は、培養開始 71 日目(胞子体出現後 21 日目)の配偶体と胞子体の乾
燥質量の関係である。この時点で、NG のサイズは SG より大きかった。胞子体
サイズのばらつきは、ある程度は受精のタイミングの違いと考えられ、この時
期の配偶体のサイズは胞子体形成による成長停止時のサイズと考えることがで
きる。この結果は、配偶体と胞子体の成長はこの時点では擬似的なトレードオ
フの関係にあることを示している。ただし、両者とも独立栄養なのでこの関係
は完全とはいえず、この後は胞子体の成長と配偶体の衰退でこの関係は崩れる。
また、胞子体の乾燥質量は IG も CG も有意な差がないことも示している。この
ことは、ひとたび胞子体形成が始まれば、胞子体が優先的に成長することを示
している。
図Ⅲ−13 は、酸素放出によって胞子体ごと測った SG の光合成速度を示して
- 42 -
いる。この値は、1回目の測定後に測定に使った配偶体と胞子体を分離して、
それぞれの胞子体と SG を 3 時間、2 日後に別個に測って合計した値と有意に違
わなかった。これらの結果は、配偶体の光合成速度は胞子体の有無によって変
化しないことを示している。
様々なサイズの配偶体が胞子体を形成する場合、同じサイズの胞子体を作る
負担は、小さい配偶体ほど重くなる。SG と NG の乾燥質量の比の胞子体成長に
伴う変化を、図Ⅲ−14 に示す。配偶体の物質生産量から胞子体への分配率を
Sakamaki と Ino (1999)の成長モデルによって配偶体側の質量成長を基にして
計算したところ、10 日目までの SG の生産量からの胞子体への分配率は純生産
の 40%(α=0.4)であり、半分に切った配偶体については 80%(α=0.8)となった
(図Ⅲ−15)。半分に切った配偶体の乾燥質量(CG)と完全な配偶体の乾燥質量
(IG)の比を、SG と NG について胞子体がほぼ独立する 71 日目で計算した(表
Ⅲ−2)。平均質量での SG と NG の比(S/N)は CG の方が小さく、CG と IG
の比(C/I)は SG の方が小さかった。これらのことは胞子体出現から 10 日間の
SG の成長は CG の方が小さいことを示している。このように、胞子体形成の負
担は小さな配偶体の方が重いことが示された。
一つの配偶体は多数の造卵器を形成するが、胞子体は通常一つである。複数
の胞子体を同時に形成することもある(益山 1984)が、我々の実験では多胚の発
生率は約 1%であった(表Ⅲ−3)。多胚はほとんどが2胚で,1例だけ3胚(表の例
には、なし)が記録された。同じシャーレの中で、多胚になった配偶体と通常の
配偶体の推定初期質量には差がなかった。一つの実験の中で多胚は多くないの
で、胞子体の数の影響を調べるために、多胚の個体を同じシャーレの通常個体
と比較した。多胚の胞子体一つずつは、乾燥質量も葉数も同時に培養された通
常の一つだけの胞子体と有意な差はなかった。
- 43 -
SG から第 1 葉展開期の胞子体を除去したとき、その後 30 日間は胞子体の発
生はなかった(写真Ⅲ−2)。半分に切った配偶体において胞子体のない断片は胞
子体を形成せず、配偶体組織だけを作った。胞子体形成前に配偶体を切った実
験(前記の切除実験)では各断片の胞子体形成率は完全な胞子体と同じであっ
た。
胞子体は形成初期に配偶体の生産物質に依存して育つが、第1葉が展開した
後は栄養的には自立した。コケ植物の Funaria hygrometrica では、胞子体の光
合成速度は配偶体の葉 14 枚分に相当するという報告もある (Watson 1964) が、
その呼吸消費については触れられていない。Rastorfer (1962)によれば、コケの
胞子体の光合成は最大でもその呼吸を賄う程度である。シダの若い胞子体の物
質生産量は成長に必要な量には不足している(Sakamaki と Ino 1999)。胞子体が
出現してから 10 日間は、SGの生産物の 10−20%分が胞子体の質量増加に相当
した。この期間のSG側の成長は、光合成量から計算される成長量の約 60%で
あった(図Ⅲ−15)。つまり、一つの胞子体を形成するための配偶体の全負担は、
転流のための呼吸消費を含めても配偶体の生産力の 40%程度と考えられる。胞
子体が付いていることは、配偶体の生産力には影響しなかった(図Ⅲ−13)。
Mottier (1925,1927)は、長期培養で老熟した配偶体は多胚になることがあると
報告した。普通、配偶体には多くの造卵器が形成されるが、そこに形成される
胞子体は一つである。受精が起こると、新しい造卵器の形成はとまる(Bell 1992)。
胞子体が一つしかできない理由として、配偶体にとっての胞子体形成の負担が
あげられることがある(Willson
1983)。一般に、親にとっては、できる限り多
くの子を作ることが適応的であるとされている。逆に、親の能力を独占するこ
とが子としては望ましいと考えられる(ドーキンス 1991、菊沢 1995b)。胞子体
形成初期における配偶体の生産物の利用をめぐる配偶体と胞子体の競争は、あ
- 44 -
る量の資源をめぐる擬似的なトレードオフの関係になる(図Ⅲ−12)。数とサイズ、
有性繁殖と栄養繁殖などのトレードオフの研究は、多くの種子植物で行われて
いる(例えば、Nishitani ら 1995、Reekie ら 1997、Sato と Yahara 1999)。菊
沢(1995b)は生産される子の数とサイズのトレードオフ関係は、精子、卵を形成
する下等植物では配偶子形成の段階で存在することを指摘した。本研究で得ら
れた知見から、シダ植物では胞子体形成の段階にもこのようなトレードオフ関
係が存在すると考えられる。配偶体の生産物は胞子体形成後には胞子体に転流
するが、胞子体出現 10 日目まではそのシンクサイズの小ささから、転流しなか
った生産物によって配偶体も成長した。しかし、10 日目過ぎには胞子体のシン
クサイズが大きくなり、配偶体の生産物の全てが使われた。その後、配偶体は
成長せずに枯れた。
切断された配偶体と完全な配偶体の比較では、配偶体サイズが違うにも関わ
らず、そこに形成される胞子体の成長量には有意な差がなかった。このことか
ら、(1)形成された胞子体は配偶体のサイズに関係なく一定量の物質を使うこと、
(2)胞子体成長の初期には配偶体の生産に余分があること、(3)胞子体成長に配偶
体の生産物が優先的に使われること、などが示唆された。しかし、胞子体が配
偶体に依存しているため、あるサイズの胞子体を作る負担は小さい配偶体ほど
大きいことになる。本研究においては、150 µmol m-2 s-1の光条件下での配偶体
の光合成生産力は胞子体出現から最初の 10 日目までは 2∼3 個の胞子体を育て
られるだけの量がある。にもかかわらず、ほとんどの配偶体は胞子体を一つし
か形成しなかった。
配偶体は胞子体を形成した後に枯れる。胞子体出現 10 日目以降、シンクサイ
ズの増大に伴って配偶体の生産物は全て胞子体に転流することが推定される
(Sakamaki と Ino 1999)。生き延びることのない配偶体にとっては、胞子体をで
- 45 -
きる限り多く作ることが適応的なはずである。遺伝子の面で考えても、自家受
精はあまりなく、精子の多くは他の配偶体から来るものであるため、複数の胞
子体があった場合も同じ遺伝子構成とは限らない(Duckett ら 1974、益山
1980)。胞子体が配偶体を独占できる場合は、独立後も近接して胞子体が存在す
ることが避けられ、資源に対する競争が避けられる利点もある。Cousense
(1981)は、若い胞子体間の強い競争を想定している。一つの胞子体にとって、自
分以外の胞子体が同一の配偶体に形成されるのは望ましくない。また、
Davidinis と Ruddat (1983)はヒメシダと同属の T. normalis において、胞子体
が周囲に生育する別の配偶体の成長を阻害する物質を放出していることを報告
している。しかし、ヒメシダでは同一培養容器の中で接近した配偶体で胞子体
は正常に形成されるため、この他感物質が胞子体の数に影響することはないと
考えられる。Sheffield (1984)は、多くの生物の成長を阻害するジメチルスルフ
ォキシド(DMSO)を加えた培地では、配偶体の成長は影響を受けないが、胞
子体の成長が影響を受け、また、多胚の発生が起こることを報告している。
多胚形成の場合、それらの胞子体の平均質量は同じシャーレ内の正常に形成
された胞子体の質量よりやや小さい傾向があったが有意差はなかった(表Ⅲ−
3)。このことは、物質生産の計算上だけでなく、実際に配偶体は 2∼3 個の胞
子体を同時に形成する能力があることを示している。胞子体が一つしかできな
い理由として、Bell(1975) や Duckett と Bell(1972)では、生殖細胞(卵、精子)
の寿命が短いことを想定している。しかし、この実験で示したように胞子体が
一つしかできないのは、一つできた胞子体自身の存在によっていると考えられ
る(Bell 1992)。Duckett と Duckett(1980)は、胞子体形成に伴う配偶体成長の
停止の理由は、資源を吸収されることより、多胚を避けるための阻害であると
している。第 1 葉展開期の胞子体が配偶体から取り去られた時、その配偶体は
- 46 -
その後 30 日間は次の胞子体を作れなかった(写真Ⅲ−2)。半分にされた配偶体
の胞子体のない断片も同様であった。配偶体が胞子体形成前に切断された場合
は、胞子体の形成率はどちらの半分も完全な配偶体と変わらなかった。このこ
とは、胞子体を形成した配偶体上の造卵器は Duckett (1979)が Equisetum の配
偶体で報告しているように活性を失っている事を示している。いくつかの種の
コケでは、二つの造卵器のうちで一つが他方の受精に伴って活性を失った
(Watson 1964)。胞子体形成は老熟した配偶体でも起こる。それゆえ、受精能力
を失うのは齢によるものではない。造卵器は継続的に多数形成される。成熟し
た配偶体は同時に複数の成熟した造卵器を持っており、偶発的に同時に受精が
起こることがある(益山 1984)。種子植物において、種子形成の時期に栄養の分
配を止めて種子生産を放棄することがあるが(菊沢 1995b)、組織の発達度が低
く小さいシダの配偶体では、細かい転流の調節は不可能であろう。逆に、胞子
体側が制限する場合は、自分以外の胚を殺せばいいことになる。配偶体側が余
分な受精胚を阻害するとすれば、必要な一つを除いて選択的に殺さなければな
らない(図Ⅲ−16)。胞子体切除後の配偶体が再び胞子体を形成するのに 30 日以
上かかったのは、既存の造卵器が活性を失い、新しい造卵器を作るのに時間が
必要であることを示唆している。Albaum (1938b)は、この過程は胞子体の葉か
ら出る植物ホルモンによるものであるとし、Page (1979)もこの見解を支持し、
Scheffield (1984)もこれを阻害物質を使った実験によって説明している。これら
のことから、親の配偶体が子の数を制限する場合は選択的な過程が必要になり、
子の胞子体が自分以外の兄弟を制限する場合は選択の必要がなくなる。このよ
うに胞子体は阻害物質を通じて他の造卵器の活性を阻害することで、独占的な
配偶体の利用を実現していると考えられる。
- 47 -
Ⅲ−3
配偶体の物質生産とその貢献―生活環の進行と配偶体の役割
陸上植物の進化の上では、配偶体中心の植物から胞子体中心の植物への移行
が、形態、繁殖様式などの点での陸上生活への適応であると考えられている。
配偶体が生活の主体であるコケ植物から、胞子体中心の種子植物への方向が陸
上植物の進化の主系列であると考えられ、その中間に位置するシダ植物では配
偶体の上で受精が起こり、胞子体が形成され、配偶体の枯死によって胞子体が
独立生活するという過程を経ている。
通常、発芽した胞子から成長した配偶体はほぼ全体が光合成器官であり、光合
成による物質生産に基づいて成長し、あるサイズに到達すると生殖器官を形成
する。特に、造卵器の形成には配偶体の最小サイズがあり、造精器の場合のよ
うな誘導物質は知られていない(菅井
1988)。その臨界サイズまで育つ時間は配
偶体の物質生産力によって変わる。このため、好適な環境では胞子体への交代
が早まることになる。ただし、環境は変動するので、早い胞子体の形成が必ず
しも有利ではない場合もある(Faarar と Gooch 1975)。
受精卵は細胞分裂をして成長するが、その成長のための物質は配偶体からの
転流によっている。胞子体が形成された場合、配偶体の生産物は胞子体に優先
的に分配されるように見える。配偶体が枯死するのも、胞子体への転流による
ものという説(Duckett と Duckett 1980)もある。また、配偶体上の胞子体の数
を制限しているのは形成された胞子体であることが本研究で示唆された。胞子
体は、必要のなくなった配偶体をホルモンで殺すという考えもある(Albaum
1938b)。
しかし、配偶体は胞子体に移行する単なる一過程であるのかは、疑問の余地
がある。何らかの理由で受精しなかった過熟配偶体は、周辺部で新しい細胞分
裂を起こし、周辺(縁)に新しい配偶体を作ったり(Mottier 1927)、小さな配偶体
- 48 -
を多数作る(Albaum 1938a)。このような新しい配偶体は、胞子から発生した最
初の配偶体と同様に高い物質生産速度を持ち(図Ⅲ−5)、再び生殖器を作り、胞
子体を形成することができる。この働きは、配偶体の栄養繁殖と考えることが
できる。
このように、個体(群)としての配偶体についてはまだ検討の余地があるが、シ
ダ植物が陸上植物として発展するには、乾燥などに弱い配偶体から維管束を持
つ胞子体に主体を移すことが必要であり、その方向に進化が進んだと考えるこ
とができる。
- 49 -
写真Ⅲ−1 胞子体を形成しているヒメシダ配偶体。配偶体にはあまり種間の
形態差がない。上は 155 µmol m-2 s-1 PFD、下は 60 µmol m-2 s-1 PFDで育てた
もの。撮影までの培養日数は異なる。
- 50 -
Dry mass (mg)
10
10
10
0
(a)
-1
S
-2
A
10
10
-3
2
Length x Width (mm2)
(b)
10
1
S
A
0
10
10
-1
0
20
40
60
80
100 120
Days in culture
図Ⅲ−1 培養した配偶体の成長曲線。(a)乾燥質量の増加、(b)面積(幅×長さ)
の増加。□:無性あるいは胞子体を形成していない配偶体(NG)、○:胞子体を
形成した配偶体(SG)。横線 A は造卵器、S は胞子体を形成した配偶体の最小サ
イズを示す。測定値についた縦線は標準誤差(n=10)を示す。
- 51 -
Dry mass (mg)
102
101
100
10-1
40
60
80
100
120
140
Days in culture
図Ⅲ−2 培養開始後 48 日目に移植した配偶体の成長曲線(実験 2)。□:無性
あるいは胞子体を形成していない配偶体(NG)、○:胞子体を形成した配偶体(SG)、
●:SG と胞子体の合計質量。測定値についた縦線は標準誤差(n=10)を示す。
- 52 -
Dry mass (mg)
10
10
10
10
10
2
(a)
1
0
-1
-2
10
Number of leaves
(b)
8
6
4
2
0
40
60
80
100
120
Days in culture
図Ⅲ−3 胞子体の成長曲線。(a)乾燥質量の増加、(b)葉の数の増加を示す。測
定値についた縦線は標準誤差(n=10)を示す。
- 53 -
Net photosynthesis (µmol CO2g-1s-1)
0.20
0.15
0.10
0.05
0.00
-0.05
0
50
100
150
200
Days in culture
図Ⅲ−4 赤外線ガス分析器で測定した光合成速度と呼吸速度の経時変化。温
度は 25℃、光合成は 600μmol m-2 s-1 PFDで、呼吸は暗黒下で測定した。○:
NGの光合成速度、●:NGの呼吸速度、△:SGの光合成速度、▲:SGの呼吸
速度、□:胞子体の光合成速度、■:胞子体の呼吸速度を示す。各曲線の回帰
式は以下の通り。NGの光合成:y=−0.017+5.017χ−1(r2=0.818)、NGの呼吸:
y=−0.003+0.881χ-1(r2=0.519)、胞子体の光合成:y=0.309−0.003χ+5.000×
10−6χ2(r2=0.966)、胞子体の呼吸:y=−0.053+1.337×10−4χ(r2=0.309)。
- 54 -
N-gametophytes
Net photosynthetic rate (µmol CO2 g-1 s-1)
0.20
0.05
21
0.15
0.00
0.10
-0.05
0.05
0.05
100
200
300
400
500
100
200
300
400
500
152
0.00
0.00
100
200
300
400
500
-0.05
-0.05
-0.10
0.05
0.20
67
206
0.00
42
100
0.15
200
300
400
500
-0.05
0.10
0.10
0.05
232 Out growth
0.05
0.00
100
200
300
400
500
-0.05
0.00
100
200
300
400
500
-0.05
-0.10
PFD ( µm o l m -2 s -1 )
図Ⅲ−5 胞子体を形成していない配偶体(NG)の光−光合成曲線の培養の進行
に伴う変化。数字は培養日数。過熟配偶体の周囲に発生した配偶体(Out growth)
もあわせて示した。シンボルの違いは測定ごとの曲線を示し、1個体の測定値
ではない。
- 55 -
Net photosynthetic rate (µmol CO2 g-1 s-1)
0.03
0.02
0.01
0.00
200
100
300
400
-0.01
-0.02
PFD (µmol m-2 s-1)
図Ⅲ−6 培養 84 日目と 85 日目の胞子体を形成していない配偶体(NG)と形成
している配偶体(SG)の光−光合成曲線。□:84 日、○:85 日、白抜きは NG、黒
塗りは SG を示す。
- 56 -
0.3
(a) Gametophytes
0.2
O2 evolution (µmol O2 g-1 s-1)
0.1
0.0
-0.1
-0.2
30day 65day
NG
NG
0.5
Fold 1Leaf 2Leaves
SG
SG
SG
(b) Sporophytes
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
Fold
1Leaf
2Leaves
Stage
図Ⅲ−7 酸素電極を用いて測定したいろいろな段階の配偶体と胞子体の光合
成速度と呼吸速度。(a)配偶体:30 日の NG、65 日の NG、胞子葉が未展開の時
の SG、胞子葉が1枚展開した時の SG、胞子葉が2枚展開した時の SG の総光
合成、純光合成、呼吸それぞれの速度を示す。(b)胞子体:胞子葉未展開の胞子
体、第1葉が展開した胞子体、葉2枚が展開した胞子体の総光合成、純光合成、
呼吸それぞれの速度を示す。測定値についた縦線は標準誤差(n=4)を示す。
- 57 -
Dry mass increase (mg)
1.00
0.75
0.50
0.25
0.00
-0.25
0.00
0.05
0.10
0.15
Estimated initial mass (mg)
図Ⅲ−8 移植した胞子体の7日間の成長。●:配偶体つきの個体、□:配偶
体を除去した個体。
Gametophyte growth (mg)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
20
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Days in culture
図Ⅲ−9 式(1)により計算した配偶体の成長曲線と実測値。□:NG、○:SG。
測定値についた縦線は標準誤差(n=10)。
- 58 -
表Ⅲ−1 式(2)により計算された胞子体の成長。日数は胞子体出現からのもの
で、配偶体培養日数 50 日目を第1日とした。αは配偶体から胞子体への生産量
の分配率。表中の網掛けをした欄は各計算で配偶体の転流を受ける期間を示す。
右端欄に胞子体質量の実測値を示す。
Simulated growth of young sporophytes emerged on the 50th
day in gametophytes culture (it corresponds to the 1st day for
sporophytes). Translocation ratio ( a) from the gametophytes to the
sporophytes is 0.15 before the 10th day after emergence and 1.0 after
the 10th day. Heterotrophic duration means attached duration to
gametophytes. Measured mass shows the actual dry mass (mean ±
S.E.) harvested on each day. See text.
Days after
Estimated dry mass of sporophytes (mg)
sporophyte
emergence
Heterotrophic duration **
α∗
1
Measured
dry mass (mg)
10
20
30
40
mean±S.E.
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
n
10
0.15
0.049
0.049
0.049
0.049
0.039±0.006
9
21
1.0
0.196
0.381
0.388
0.388
0.448±0.089
9
30
1.0
0.603
1.175
1.306
1.306
1.919±0.438
6
40
1.0
1.776
3.442
3.826
3.922
3.448±0.651
13
54
1.0
5.980
11.658
12.959
13.288
11.102±1.563
9
*
Translocation ratio from gametophyte net production
** Days after sporophyte emergence
Attached to gametophytes
- 59 -
(a)
(b)
Dry mass (mg)
図Ⅲ−10 配偶体の成長に伴う光合成量、呼吸量、物質生産量の培養日数(a)、
配偶体サイズ(b)による変化。□:1日の総光合成量、○:1 日の純光合成量、
△:1日の呼吸量、●:12 時間当たりの純生産量。
- 60 -
10 1
(a) Gametophytes
10 0
Dry mass (mg)
10 -1
10 -2
10 2
(a) Sporophytes
10 1
10 0
10 -1
10 -2
10 -3
40
60
80
100
120
140
Days in culture
図Ⅲ−11 切断配偶体の成長と切断配偶体上の胞子体の成長。(a)配偶体。■・
□:完全な配偶体、◆・◇:半分に切った配偶体、黒塗りは NG、白抜きは SG。
(b)胞子体。●:完全な配偶体に形成されたもの、○:半分の配偶体に形成され
たもの。測定値についた縦線は、標準誤差(n=7~13)。
- 61 -
Sporophytes (mg)
1. 8
1. 6
1. 4
1. 2
1. 0
0. 8
0. 6
0. 4
0. 2
0. 0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
Gametophytes (mg)
Photosynthesis (µmol O2 10min-1)
図Ⅲ−12 71 日目の配偶体と胞子体の乾燥質量の関係。■:完全な配偶体、◆:
半分に切った配偶体。
1
0.5
0
-0.5
0
100
200
300
400
PFD (µmol m-2 s-1)
図Ⅲ−13 酸素電極で測定した、胞子体の有無による配偶体の光合成速度の変
化。同一サンプルの 10 分間の酸素放出量で示してある。■:胞子体つきの配偶
体(初期状態)、◆:分離 3 時間後の配偶体と胞子体の放出量の合計、●:2 日後
の配偶体と胞子体の放出量の合計。
- 62 -
1.00
SG/NG
0.75
0.50
0.25
0.00
0
20
40
60
80
Days after transplant
図Ⅲ−14 移植後の SG と NG の質量の比の変化。■:完全な配偶体、◆:半
分に切った配偶体。各回の測定値の平均値どうしの割合。
表Ⅲ−2 胞子体形成 21 日目の半分の配偶体(CG)と完全な配偶体(IG)の
SG と NG の質量比と SG と NG での CG と IG の質量比
Comparison between the growth of S-gametophytes
and N-gametophytes on the 21st day from appearance
of sporophytes in the same culture.
S/N
C/I
Cut
0.26
S-gametophyte
0.27
Intact
0.47
N-gametophyte
0.49
N/S: mean dry mass of S-gametophytes/mean dry mass of N-gametophytes
C/I: mean dry mass of Cut-gametophytes/mean dry mass of Intact-gametophytes.
- 63 -
1.5
(a) Intact
Dry mass (mg)
1.0
α=0.0
0.5
α=0.4
α=0.8
0.0
0.5
(b) Cut
α=0.0
0.4
0.3
α=0.4
0.2
0.1
α=0.8
0.0
40
50
60
70
80
Days in culture
図Ⅲ−15 式(1)、(2)によって計算した配偶体からの物質生産量の分配率に
よる配偶体の成長の変化。(a):完全な配偶体(Intact)、(b):半分に切った配偶体
(Cut)。実線は胞子体への分配なし、点線は分配率 40%、破線は分配率 80%と
した場合の配偶体成長のシミュレーション。■:NG の成長の実測値、◆:SG
の成長の実測値。測定値についた縦線は標準誤差(n=7~13)。
- 64 -
表Ⅲ−3 多胚形成した場合の配偶体と胞子体の大きさ。多胚形成個体の多か
ったシリーズのものを示す。
Dry mass mg
One
Day
N-Sp*
Number
Gametophyte
Sporophyte
Sporophyte
Leaf number
Significance**
19
Double
4
0.722+0.317
0.094+0.074
0.047
1.0+0.0
N.S.(p<0.05)
Single
15
0.329+0.223
0.151+0.206
Sterile
1
0.586
Double
1
0.269
0.376
Single
14
0.323+0.260
0.693+0.629
Sterile
5
0.841+0.326
Double
1
0.502
2.046
Single
17
0.585+0.320
1.788+1.242
Sterile
2
1.041+0.223
Double
2
0.516+0.081
4.554+1.799
Single
14
0.399+0.218
3.565+2.524
Sterile
4
1.468+0.135
Double
5
1.024+0.378
4.191+3.033
Single
11
0.774+0.301
4.016+2.610
Sterile
4
1.677+0.873
Double
4
2.156+3.215
9.324+3.348
Single
12
1.446+2.649
6.961+2.015
Sterile
4
2.073+1.045
Double
1
0.356
12.098
Single
8
0.552+0.343
8.691+4.835
Sterile
1
1.466
26
33
40
47
62
76
1.0+0.0
0.188
2.0
2.7+0.8
1.023
3.0
N.S.(p<0.05)
1.0+0.0
2.277
4.5+0.7
N.S.(p<0.05)
4.3+1.1
2.096
4.3+1.0
N.S.(p<0.05)
4.9+1.0
4.662
6.3+0.5
N.S.(p<0.05)
6.8+0.6
6.049
7.0
8.0+1.2
** Dry mass
*Number of
and leaf
Sporophyte
number
- 65 -
N.S.(p<0.05)
N.S.(p<0.05)
写真Ⅲ−2 胞子体を除去した配偶体の 30 日後の状態。培養 60 日目の第 1 葉
を展開した胞子体を持った配偶体から胞子体を除去したもの(上)、配偶体を半分
に切断したもの、胞子体のない側の断片(左下シャーレの左半分)と胞子体のある
側の断片(同右半分)。右下は移植しただけの対照。
- 66 -
Sp o ro p h y t e
N o n -s e le c t iv e
×
Se le c tiv e
in h ib it io n
×
in h ib itio n
Ga m e t o p h y te
図Ⅲ−16 胞子体数の調節の模式図。
- 67 -
第Ⅳ章
胞子体個体群の成長と維持に関する研究
シダ植物の生活環の主体は胞子体である。そのため、シダ植物は一般に胞子
体世代で認識される。現生のシダ植物の多くは多年生の草本である。草本性の
多年生種子植物の個体群の成長と維持については多くの研究が行われてきた
(Harper 1977 など)が、シダ植物についての研究は牧草地の害草になるワラ
ビ(Pteridium aquirinum L.)を除いてはあまり研究されていない(Marrs ら 1993、
Pitmann 2000 など)。
本章では、シダ植物胞子体個体群の成長と維持に関して行った研究について
述べる。材料として身近で多くの個体群が得られるスギナを用いた。スギナ
(Equisetum arvense L.)は北半球の広い範囲に分布する(Hauke 1966、1978)。
日本では畑や人家近くの日当たりのよい荒地に多く分布し(大井 1957)、駆除し
にくい耕地雑草として知られている。自然度の高い森林などには見られないの
で、人間活動の影響がその生活に影響していると考えられ、人里植物とよばれ
ている。
スギナはシダ植物門トクサ綱(伊藤 1973)に分類される原始的なシダ植物で、
植物体は緑色の地上部と褐色の地下部から構成されている。根以外の全草は節
と節間によって作られた節構造を持つ茎である。地上部には春に出現する高さ
10∼30cm の茶色の短命な胞子茎(いわゆるツクシ)と緑色の栄養茎(いわゆるス
ギナ)の二型がある。栄養茎は細く、高さ 20∼80 cm で節に葉の変形した鞘があ
る。枝は輪状に節につき主茎、枝ともに光合成器官である。地下部は黒褐色で、
地上茎をつける縦向きの部分と横向きの部分に大別される。両者に構造上の大
きな差異はなく、節に根を輪生する。横向き地下茎には下向きに長い根が伸び
ることがある。貯蔵茎は地下茎の節部から枝分かれした茎の変形したもので最
大 3∼4 節、各節は最大長径 3 cm 程度の紡錘形でデンプンを貯蔵する。写真Ⅳ
- 68 -
−1に地下部の写真を示す(鈴木 1980)。
Ⅳ−1
スギナ個体群の現存量とその動態
個体群に関する生理生態学的研究の最初の段階は、対象とする個体群の動態
を正確に把握することである。本章の研究の基礎として、スギナ個体群の現存
量とその動態について最初に述べる。
調査は埼玉県本庄市の早稲田大学本庄校地(北緯 36 度 13 分、東経 139 度 35
分 ) 内 の 畑 放 棄 地 で 行 っ た 。 北 側 に ア カ マ ツ (Pinus densiflora) 林 と コ ナ ラ
(Quercus serrata)を主とした雑木林があり、南に開けたほぼ平らな関東ローム
層の土壌に成立した草地であった。この場所は 1978 年以前の少なくとも 10 年
間は耕作されず、毎年 1∼2 月に火入れが行われ、地上の枯草は焼却されていた。
調査地の植生は 3∼4 月にはスギナが純群落状に生育し、5 月以降ススキ
(Miscanthus sinensis)、ヨモギ(Artemisia princepus)などの背の高い草本や、
クズ(Pueraria lobata)、カナムグラ(Humulus japonicus)などのつる性の植物が
多く生育する。湿った地域ではヨシ(Phragmites communis)が生育していた。
調査地では、スギナは 3 月初めに胞子茎を出し、3 月終わりから胞子茎が枯れ
るのと交代に栄養茎を展開した。栄養茎は 4 月には純群落状になったが、5 月以
降は他の草本に被陰され、7 月初めには地上部が枯れた。しかし、この群落から
200 m くらい離れた道端の被陰されない個体群は霜が降りる 11 月まで地上部を
維持していた。
調査に際しては 4 月に地上がほぼ均一なスギナの純群落に見える地域を調査
場所とした。1978 年 2 月から 7 月、1979 年 1 月から 12 月までの間、約 1 ヶ月
ごとに調査地内に 50 cm×50 cm の方形枠を 2∼9 個取り、枠内のスギナ地上部
をすべて採取した。その後、それら枠内の地下部をすべて掘り取った。採取し
- 69 -
たスギナは水洗後、地上部を胞子茎と栄養茎に分け、地下部は縦向き地下茎、
横向き地下茎とそれぞれに付属する貯蔵茎、根に分けた。新しく伸びた地下茎、
新生貯蔵茎も分別したが、新地下茎は短期間で色が変化し、新旧地下茎の区別
が困難になるため、当年部分のすべてが分別されてはいない。地上部の長さと
数、地下茎の長さ、貯蔵茎の体積と数を測定した。新地下茎、新貯蔵茎につい
ても同様の測定を行った。各器官の試料は 80℃で恒量になるまで熱乾燥して質
量を測定した。
現存量の測定結果は枠ごとのばらつきが大きかったので、一度伸張すると形
態が安定している地下茎の長さを基準として、つまり、横向き地下茎 10 m あた
りの諸器官の乾燥質量(SC10)として表した。
毎月の試料からランダムに取り出した縦向き地下茎、横向き地下茎について、
それぞれの長さと乾燥質量を測定し、単位長さあたりの乾燥質量(RML; mgcm-1)
を算出した。貯蔵茎については排除される水の量をメスシリンダーで測定し、
次いで体積あたりの乾燥質量を算出した。
1979 年 12 月に一つの枠の地下部を地表から 20 cm ずつの層に分けて採取し
た。サンプルは現存量調査の試料と同様に処理した。また、1980 年 4 月から 7
月まで地上部の層別刈り取りを行って他種との関係を調査した。
図Ⅳ−1に調査地の 4 月初めの状況の写真とスギナ群落の垂直的構造を模式
図で示した。調査地では約 1 m で地下水位に達し、地下部の分布はその深さま
でであった。
図Ⅳ−2に横向き地下茎 10 mの平均現存量と、各測定時に横向き地下茎 10
mあたりに付いていた各器官の現存量の季節変化を示した。器官ごとの質量の
分配比は伊藤ら(1987)の報告と同様の傾向であった。胞子茎は 3 月初めに現れ、
3 月終わりに最盛期を迎え 4 月初めにすべて枯れた。栄養茎は 3 月終わりに現れ
- 70 -
5 月に最大量になった。4 月に最初に現れた栄養茎(一次茎とする)は開けた場所
では 6 月まで存続した。6 月から新しい栄養茎(二次茎とする)が現れた。調査し
た個体群では栄養茎は 6 月ごろから他種植物に被陰され、7 月に地上部はすべて
枯れた。主体をなす地下茎の現存量は 3∼4 月の地上部展開期に減少し、地上茎
が出来上がる 5 月以降増加した。7 月に最高になった後、冬に向かって減少し、
生育開始時の量に戻った。貯蔵茎は地下茎と同様な変動を示したが、変動の幅
は大きかった。
地下茎の単位長さ当たりの乾燥質量(RML)は 1 月から地上部展開期の 4 月
まで大きな変化はなく、展開に伴って 4 月に低下し展開終了後の 5 月に急速に
上昇した。その後、7 月から次第に低下して 12 月には春のレベルに戻った(図Ⅳ
−3(a))。貯蔵茎では 4 月に体積当たりの質量(容積密度)が低下し、5 月に最
高になった(図Ⅳ−3(b))。地下茎、貯蔵茎におけるこれらの値の変化は、後のⅣ
−2の項で示すように地上部の急速な展開に伴う貯蔵物質の消費と光合成産物
の蓄積、その再分配による各器官の成長の結果である。
図Ⅳ−4に 4 月、5 月、7 月のスギナ群落地上部の生産構造と垂直的な相対照
度(RLI)の変化を示した。4 月初、中旬には地上部はスギナのみしかなく、草丈
は低いため、地表面でも高い RLI が得られたが、4 月後半から多種の草本が伸
び始め、5 月の地上部最盛期を過ぎた 6 月には他種に高さが超えられて被陰が始
まり、7 月には被陰によって地上部はすべて枯死した。このときのスギナ栄養茎
の高さであった地上 40 cm での RLI は 0.63%であった。
図Ⅳ−5に 12 月 14 日に調査した地下部の 20 cm ごとの層別現存量を示した。
縦向き地下茎は地上茎を付けるものが多いため地表付近で多く分枝し、新地下
茎も上層ほど多く分布していた。縦向き地下茎につく貯蔵茎は 20 cm より下の
層に多かった。横向き地下茎は調査地では主に 2 層に分布し、地表付近と
- 71 -
60-80cm 層に多かった。上層のものは地上茎を発生する縦向き地下茎を支える
ものである。下層のものは現存量の多くを占め、RML も大きく、大型の貯蔵茎
が多くついていた。スギナは地上茎のすぐ下を除いて根の発達が悪く、現存量
にもほとんど現れなかった。
調査を行った本庄のスギナ個体群の最大現存量は約 1.1 kg m-2であった。この
値はMutohら(1968)のオギ(Miscanthus saccariflorus)の 2.5 kg m-2の約半分
であった。大きな地上部を持ち地下部も発達しているオギに対してスギナの地
上部は最大でも 0.2 kg m-2であり、現存量の大部分は地下部が占めていることが
大きな特徴である。地上部と地下部の比(T/R比)は 0.2 であった。南日本の森
林地帯で、同様に光の強い裸地に純群落を作って生育するコシダ(Dicranopteris
linearis)では、スギナと同じ 1 kg m-2程度の現存量が報告されているが、T/R比
は 1 以上である(安藤と竹内 1967)。地下部が大きな割合を占めるのが他の草原
構成種と比べた場合のスギナの特徴の一つである。スギナ地下部の発達の様子
は、伊藤ら(1988)が報告しているのと同様に、地下部現存量の大部分を地下茎と
貯蔵茎が占めていた。このような大きな地下部は栄養繁殖、物質の貯蔵、養分
や水分の吸収、地上部の攪乱に対する防御などの役割を果たしている(Ruiters
と McKenzie 1994, Iwasa と Kubo 1997)。現存量の季節変化や貯蔵炭水化物
の動態(Sakamaki と Ino 2002、2004)から、スギナでもこのような役割があ
ることがわかった(Ⅳ−2、3に詳述)
。
Ⅳ−2
スギナ個体群の成長と維持に対する被陰の影響
スギナは東京付近では 3 月終わりに栄養茎が出現し、11 月まで維持される。
しかし、前項Ⅳ−1で述べたように、多くの個体群では生育期間中に大型の植
物によって被陰され、夏以前に地上部を失う。地上部を失うことによる光合成
- 72 -
期間の短縮は個体群の成長と維持に大きな影響を与える。本項では(1)スギナ個
体群を維持するために必要な物質生産期間、(2)生産期間中の被陰に対するスギ
ナの反応、について物質生産の面から研究した。
これら二つの問題はスギナの雑草としての生活史戦略に密接に関連するもの
である。長い地下部が錯綜するスギナの形態的特徴や新生部分と既成部分との
区別のしにくさなどから、これらの問題を野外の個体群で研究することは困難
である。本研究では早稲田大学本庄校地の個体群から採取した貯蔵茎を栽培す
ることによって、光条件と成長の関係を調べた。生育期間中に人為的に光条件
を変えることによって起こる成長や光合成、呼吸に対する効果から被陰される
野外個体の成長を考察した。
1981 年の1月に本庄校地の個体群から貯蔵茎を採取した。一節の平均生質量
が 0.2 g の貯蔵茎を選び、栽培実験に使用した。生質量 0.2 g は乾燥質量では
0.05g に相当した。貯蔵茎を 4 月 1 日に直径 21 cm、深さ 15 cm の植木鉢 450
個に 2 個ずつ植え、この日を実験の 0 日とした。寒冷紗で光をさえぎらない
PFD100%の区を被陰されていない状態とし、黒色の寒冷紗を用いて相対光量子
密度(RPFD)を 9%に調整した区画を作った。栽培用の土壌は本庄の生育地から
運び、スギナは栄養条件の悪い土地にも生育する(Williams 1979, Andersson
と Lundegårdh 1999a)ので、実験期間中に肥料は与えなかった。これらの鉢
は東京の早稲田大学 16 号館の屋上(北緯 35 度 39 分、東経 139 度 44 分)に置き、
水は充分に与えた。図Ⅳ−6(a)に貯蔵茎から発芽した個体の写真と図Ⅳ−6(b)に
その成長過程の模式図を示した。貯蔵茎から形成された部分を一次部分(地上茎、
地下茎)、一次部分から新たに形成された部分を二次部分(地上茎、地下茎)とし
た。
二つの実験区から毎月 10 個体ずつ採取した。試料は水洗後、地上部(栄養茎
- 73 -
のみで胞子茎はなかった)、地下茎、貯蔵茎、新生貯蔵茎と根の各器官に分けた。
試料は 80℃で熱乾燥し、乾燥質量を測定した。地上茎と新生貯蔵茎の数、地上
茎と地下茎の長さも測定した。100%区のうち 40 個の鉢は、生育期間中の被陰
を想定して 1981 年 6 月 18 日(植付け後 79 日)に 9%区に移した。これらの個体
も定期的に採取し、他の処理区の試料と同様の処理をした。
生育期間中の被陰に対するスギナの生理的対応を知るため、被陰に伴う非構
造性炭水化物(グルコース、スクロース、デンプン;以下「炭水化物」と略記
する)の含有率の変化を調べた。1996 年 2 月に東京都東久留米市(現、西東京
市)(北緯 35 度 45 分、東経 139 度 30 分)の個体群からとった貯蔵茎を 1996 年 6
月 12 日に植え付けた 16 鉢を 100%区に置いた。うち 8 鉢を 9 月 7 日(植え付
け後87日目)に、寒冷紗で RPFD3%に被陰した処理区(3%区)に移した。9
月 20 日(植え付け後 100 日目)に、全試料を採取し、前述のように各器官の測
定を行った。炭水化物の分析に使うため、試料は凍結乾燥した。これらの試料
について第Ⅱ章に述べたのと同様な方法で炭水化物量の測定を行った。
栄養茎の光合成速度と呼吸速度は、地上部の生育期間中(5 月から 10 月)に
毎月、赤外線ガス分析器(堀場VIA300、京都)を用い開放系で測定した。300mm
×70mm×5mmの透明アクリル樹脂製同化箱を用い、500W白熱灯または 400W
メタルハライドランプ(三菱 MLBOC400C-U)を光源とした。栄養茎は地表面
で切って小さな水を満たしたビンに挿し、同化箱に入れた。光源の位置を植物
表面での光量子密度(PFD)が約 600 µmol m-2s-1 になるように固定し、寒冷紗
を用いてPFDを低下させた。流入空気の流量は試料の光合成活性によって 0.3
∼0.7 ℓ min-1
の間で調節した。同化箱内の温度は 10℃(5 月のみ)または 15℃
(6 月から 10 月)とし、それから 30℃まで 5℃刻みで上げて各温度で光合成を
測定した。毎月 2∼5 本の試料について測定した。測定後の試料は 80℃で乾燥
- 74 -
し、質量を測定した。飽和総光合成速度は次の式で回帰した。
Pg(i) = Pgsat × (1 – e(-Si))
Pg(i)はPFDがi µmol m-2s-1の時の総光合成速度、Pgsatは光飽和総光合成速度、
Si(>0)は光−総光合成曲線の形を決める係数である。PgsatとSiは測定値から最
小二乗法で計算した。温度とPgsatの関係は
Pgsat(t) = at2 + bt + c で表した。
Pgsat(t)は t℃のときの光飽和総光合成速度、a、b、cは係数である。
暗呼吸速度は赤外線ガス分析器(東芝ベックマンA315、東京)を用いて開放系
で測定した。植物体は地上部と地下部に分け、それぞれをアクリル製の管(直
径 5 cm、
長さ 20 cm)に湿らせたろ紙とともに入れた。空気流量 0.3∼1.0 ℓ min-1
で 30℃から 10℃まで 5℃刻みに下げながら各温度で呼吸を測定した。毎月 3∼5
個体の試料について測定し、測定後の試料は 80℃で乾燥し、質量を測定した。
物質経済に基づいてスギナ個体の成長を以下の式で推定した。
NP = Pg × L × F × M – Rs
(1)
Rs = rf × 24 × F × M
(2)
Ru = ru × 24 × U × M
(3)
Ds = df × F
(4)
Du = du × U
(5)
NPは純生産量(g day-1)、Pgは総光合成速度(µmol CO2 g-1 s-1)、Lは飽和光合成速
度になる強度以上の光があたっている時間(hr)、FとUは栄養茎と地下部それぞ
れの乾燥質量(g)である。Rs、Ruは栄養茎と地下部それぞれの呼吸消費量(gday-1)、
rf、ruはそれぞれの呼吸速度(µmol CO2 g-1 s-1)である。Ds、Duは栄養茎と地下
部それぞれの質量の減少を示し、係数df、duは栄養茎と地下部の枯死や転流に
よる減少率(g day-1)である。Mは転形率(組織形成量/有機物生産量)を 0.61
- 75 -
とした時のCO2固定速度(µmol s-1)から有機物生産量(g day-1)への変換係数(この
場合は、0.0967)である。
スギナの年間の成長は Pakeman ら(1994)のワラビの研究にならって、以下の
4 つの時期に分けた。
第 1 期;貯蔵物質によるシュートの形成(4 月∼5 月中旬)
貯蔵茎から一次の地上茎と地下茎が貯蔵物質によって作られる。地上茎の生
産物は一次地上茎自体を大きくするのに使われる。地下部では、一次地下茎の
成長による質量増加は貯蔵茎の質量の減少に打ち消される。1日ごとの地上茎
(⊿F)と地下部(⊿U)の質量の変化は以下の式で表される。
⊿F = NP + Du × C
(6)
⊿U = −Du
(7)
係数 C は既成植物体を材料として新生部分を形成する場合の転形率である。
第2期;物質生産による独立栄養期(5月中旬~9月)
1 本の一次栄養茎が最大に達した後は、生産物の一部が地下部の成長に使われる。
⊿F = NP × α
(8)
⊿U = NP × (1−α) – Ru
(9)
係数α(≤1)は日生産量の栄養茎への分配率である。
第3期;衰退期(10 月∼12 月)
地上のシュートが衰退する。
⊿F = NP × α – Ds
(10)
⊿U = NP × (1-α) – Ru + Ds × C
(11)
次年度の芽はこの時期に作られる。
第 4 期;冬季(1 月∼3 月)
⊿F = −Rs = 0
(12)
- 76 -
⊿U = −Ru
(13)
この時期には地下部から地上部への転流は起こらない。
図Ⅳ−6に貯蔵茎から発芽した個体の写真と貯蔵茎からの個体の成長を模式
的に図示する。貯蔵茎からの地上部はすべて栄養茎であった。貯蔵茎から不定
芽が発生し、一次地下茎が伸びて地上に一次栄養茎を形成する。一次地上茎が
最大になるまでの時期を Stage1 とした。最大になった一次栄養茎の生産物が初
期貯蔵茎に最充填され、二次器官が形成される時期を Stage2 とした。栄養茎は
4 月 20 日ごろ地上に現れ、9 月に最大の質量を示した(図Ⅳ−7a)。一次地上
茎 1 本当たりの質量は 100%、9%区とも 7 月の約 0. 1 g が最大であった(図Ⅳ−
7b)。一次茎は個体当たり 1∼2 本であった(図Ⅳ−7c)。100%区の個体では 6
月から二次茎が発生し始めたが、9%区では生育期間を通じて二次地上茎は現れ
ず、一次地上茎が存続した。光条件のよい場所ほど、12 月に地下茎に観察され
た次年度の芽の数は多かった。
地下茎はスギナの地下部の主要な器官である。地下茎の質量は 10 月に最大に
なった(図Ⅳ−8)。地上茎が枯れた後、芽の形成されていない地下茎は枯れた。
一生育期間終了時の地下茎の長さは 100%区で約 400 cm、9%区で 40 cm であ
った。
貯蔵茎の質量は一次茎が十分に出来上がるまで減少した(図Ⅳ−8)。この質量
は一次地上茎が確立した後、増加した。一度、0.06 g まで増加した後、初期の
質量まで再び減少した。新生貯蔵茎は 7 月から現れた。
図Ⅳ−9に一次茎が枯れ始めるまでの個体ごとの地上部と地下部の質量の比
を示す。データは 5 月から 8 月までの 100%、9%区の個体のものである。図中
の点の分布は地下部の質量に従って大きく二つに分かれた。地下部が貯蔵茎の
初期質量である 0.05g以上のときは地上部と地下部の質量は直線的な増加を示
- 77 -
した。地下部の質量が 0.05g以下のとき地上部の質量は増加していなかった。
図Ⅳ−10 は 79 日目に 100%区から 9%区に移したスギナ個体の成長を示して
いる。RPFD9%の条件下では地上茎、地下茎とも質量の増加は継続したが、被
陰によって成長速度は低下している。被陰直後の低下は地上部より地下部のほ
うに影響が大きい(図Ⅳ−10a,b)。この成長の変化の結果は T/R 比に表れた。T/R
比は 7 月以降全体として 9%の方が大きかった。この比は 100%区のものを被陰
した場合、1 ヶ月で 9%区のものと同じになった(図Ⅳ−10c)。12 月の新生貯蔵
茎の質量は 9%区のものは平均 0.074 g であったが、79 日目に被陰したものは
個体全体の質量は 9%区より大きいにもかかわらず新生貯蔵茎は 0.021 g と少な
かった(図は省略)。
100%区から 3%区に移して2週間後の個体では、地上部のスクロース含有率
は他の二つの炭水化物が有意に減少している(p<0.05)にもかかわらず、減少しな
かった(表Ⅳ−1)。地下部では、3%区のスクロース含有率は被陰のないものに
対して有意に高くなっていた(表Ⅳ−2)。
光−光合成曲線から読み取った飽和光強度は 400 µmol m-2 s -1 (5,6 月は
600µmol m-2s-1)であった。飽和光合成速度(Pgsat)は栄養茎が伸びきった 5,6 月
(1981 年)の東京の月平均気温では 0.10 µmol CO2 g-1 s-1 (Pg)以上であった。1981
年の東京の平均気温で計算したこの値は一次地上茎が枯れる8月には
0.04µmolCO2 g-1 s-1まで低下した。9月の二次地上茎の光合成速度は5月の一次
地 上 茎 と 同 じ く ら い で あ っ た ( 表 Ⅳ − 3) 。 9 % 区 の 地 上 茎 の 光 合 成 速 度 は
400µmolm-2s-1 で飽和し、50 µmol m-2 s-1 (9%RPFDの光強度とする)での光
合 成 速 度 は 5 月 に 0.06 µmol CO2 g-1 s-1 で あ っ た 。 こ の 値 は 8 月 に は
0.05µmolCO2 g-1 s-1まで低下した。
地上部の呼吸速度(rf)は 1981 年の東京の月平均気温から計算した。この値は
- 78 -
5月に 0.010 µmol CO2 g-1 s-1であった。その後、気温の上昇にしたがって 9 月
の 0.024 µmol CO2 g-1 s-1まで上昇した(表Ⅳ−3)。地下部(地下茎、貯蔵茎、根)
の呼吸速度(ru)は群落の地下 10 cmの地温である 15℃で一定として計算した。
この値は 5 月の 0.0013 µmol CO2 g-1 s-1から 6 月以後の 0.0006 µmol CO2 g-1 s-1
まで変化した。
個体の成長を、物質生産速度、成長解析から推定された地上部と地下部の分
配率(α)に基づいて計算した。純生産量(NP)は式(1)を使って計算し、式の L は
光の測定値がないので各月ごとに以下の条件を仮定した。
1)
L は東京の各月 15 日の昼の時間より 2 時間(5,6 月は 3 時間)少ない。
2)
光合成はLの時間内だけで起こる。5,6 月はLのうち 1 時間だけは飽和光合成
速度の 80%(400∼600 µmol m-2s-1)の光合成をする。
3)
雨天や曇天による物質生産の低下は考えない。
Pg、rf、ru、L は各月内は一定とした(表Ⅳ−3)。よって、この計算結果は生育
期間中の生産量の上限を示すことになる。第 1 期には一次茎の質量が最大 0.01 g
で、数は増加しなかった。一次茎の生産物は地上部が最大になるまでは地上部
そのものを作るのに使われる。地下部の質量減少は、一次茎を作るための炭水
化物の転流による。成長のデータから、1 日の新生部分への転流率は質量の 2%
と見積もった(du = 2)。貯蔵物質はデンプンである(Hauke 1966)ので、乾燥質量
への転形率は 0.5 (Midorikawa 1959) とした。そのため貯蔵茎の質量減少分の
50%の質量の新生器官(栄養茎、地下茎)が作られたと仮定した。最初の測定時の
地上茎と地下茎の質量比は 2:1 であったので、第 1 期の間に貯蔵物質から作ら
れる地上茎の質量は貯蔵茎質量の減少分の 30%と推定した(C = 0.3)。第 2 期の
地上部と地下部の分配比をαで表した。この値は成長によって変化する
(McConnaughay と Coleman 1999、Farrar 1999)。しかし、この比を調節する
- 79 -
機構は良くわかっていない(Minchin ら 1994、Matsumoto ら 2000)。そこで、
本研究ではこの値は各サンプリング時の質量比を用い、サンプリングの日また
は月の初めに変更した(表Ⅳ−4)。第3期では各部分の減少率は厳密には分から
ないので、成長曲線から df、du を推定した。12 月以前の地上部の減少は枯死
と地下部への転流が含まれており、転形率は 0.5 と仮定した(C = 0.5)。この計算
の結果は実際の成長と良く一致した(図Ⅳ−11a)。9%区のものも同様に計算した。
9%区の成長データは標準誤差が大きかったが、計算結果はそれぞれの平均値に
ほぼ一致した(図Ⅳ−11b)。6 月に被陰した個体についても、被陰によって生産
速度や分配率が変化することを加えることによって実際の成長と適合させるこ
とができた(図Ⅳ−12)。
多年性草本個体群において、地下部の初期サイズはその成長や拡大に大きく
影響する。スギナでは、次年度まで残る主要な部分は地下茎と貯蔵茎である。
前年の光条件は、初期サイズを決めることによって当年の成長に影響する。こ
のことは次年度の芽のサイズが早期に決定する林床植物については多くの研究
がある(Yokoi 1976a、小林 1979 など)が、陽地生草本についての研究は見られ
ない。質量は組織量と貯蔵物質量の合計である。スギナでは第 1 期に貯蔵茎の
貯蔵物質は一次地上茎と一次地下茎に転流する。これは、Ⅳ−1で述べた本庄
校地個体群の4月の地下部質量の減少に現れている。
Ruiters と McKenzie(1994)は、アヤメ科の多年性草本 Sparaxis glandiflora の
一生育期間を貯蔵物質や生産物の移動状況から”phenophase”に分けた。この視
点によると、本研究の第 2 期は更に二つに分けられる。最初は一次茎の生産物
により既存部分が再充填される「再充填期」である。この期間には地上部や地
下茎は数、長さなどの変化がない。既存部分が再充填されると二次地下茎が伸
び、二次地上茎、新生貯蔵茎がその上に形成される「拡大期」に入る。この時
- 80 -
期に地上茎の高い生産力を使って、二次地下茎による個体(群)の拡大が行われる。
個体群を拡大するにはより早く拡大期に入ることが必要である。このような成
長パターンは Iwasa と Cohen(1989)で提唱された理論に適合している。同様な
成 長 パ タ ー ン は ラ ン 科 の 多 年 草 Tipularia discolor で も 報 告 さ れ て い る
(Tissue ら 1995)。この成長パターンはスギナ個体群の調査でも地下茎の質量か
ら示唆されている(図Ⅳ−3)
。しかし、良く育った個体群では地下部の現存量
が多いため、初期成長のための地下部質量の減少は限定的にしか見られなかっ
た。
生育期間中に被陰を受けた植物は、大きく分けて二通りの反応を示すと考え
られる。一つは、春植物を代表とするもので、生産を放棄して休眠に入る反応
(戦略1)である。もう一つは、被陰に耐え、もしくは被陰を避けて生産を継続す
る反応である(戦略2)。しかし、スギナ個体群ではその複雑で大きな地下構造か
ら、どちらの戦略をとるかを解明することは困難であった。個体を使用した栽
培実験では、被陰から2週間以内に地上部、地下部共に転流形態であるスクロ
ースの割合が高くなることが分かり、地上部に対する地下からの転流が増加す
ることが推定された(表Ⅳ−1、2)。この結果、スギナは光条件が悪化した場合、
同化器官を大きくするために貯蔵物質を使うことが明らかになった。野外個体
群では、背の高い草本の下に少数の弱々しいスギナ地上部が見られることが良
くある。これらの弱々しい地上部は光条件の悪い所で枯れたり再生したりを繰
り返している。このような結果からスギナは被陰に対して戦略2を取っている
事が示唆された。
成長シミュレーションでは、パラメーターを変えることによって様々な生産
環境の条件を比較することができる。特に好適な条件下では光合成速度は本研
究のものより少し大きい値の報告(Andersson と Lundegårdh 1999b)もあるが、
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本研究の値もそれから大きく外れるものではなかった。両方の戦略の効果を比
較する為、地上部への再転流が起こらない場合(Pn とαが被陰の日に 100%から
9%の時の値に変化する場合;シナリオ1)と被陰後 1 ヶ月間は地上への再転流が
起こる場合(毎日、地下部質量の 2%が転流するとする;シナリオ2)を作ってシ
ミュレーションを行った。再転流の期間と割合は被陰のタイミングによって変
化する可能性があるが、ここでは被陰実験の個体の成長データから前記のよう
に仮定した。
図Ⅳ−13 は、5 月から 9 月までの各月 1 日に 100%から 9%に被陰された場合
それぞれの個体成長のシミュレーションである。シナリオ2では一時的な地下
部量の減少はあるものの最終的には次年度に残る量は多くなることが示された。
しかし、9 月に被陰された場合は残りの生産期間の短さによって次年度への残り
は減少した。6 月 18 日に被陰した実際の個体では 16.9%と計算値に近くなった
(表Ⅳ−5)。
本研究の結果から、生育期間中の 7 月以降に起こる 9%程度の軽い被陰なら次
年度の成長に対する影響が比較的小さいと考えられた。光条件が悪くなると休
眠する春植物(Yokoi 1976b)や生殖成長に切り変える林床植物のヤマノイモ
(Dioscorea japonica) (Hori と Oshima 1986)などと異なり、スギナは被陰に対
して、より多くの地上部を作って生産力を上げるように反応している。スギナ
は貯蔵物質を使って地上部を作り、その生産によって地下部をより多く残すよ
うにする。このやり方は短期間の被陰に対しては有効であるが、長期の被陰に
対しては休眠より消耗が大きくなると考えられる。実際に背の高い小麦畑では
スギナは消滅するという報告もある(Williams 1979)。
スギナの主な生育地は耕作地、耕作放棄地や道端である。このような場所は
定期的あるいは不定期に人為による撹乱を受ける。このため、地上部の競争者
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になる大型の植物は取り除かれ、少なくとも春先には競争者のない状態で生育
できる。以上のように 6 月まで競争者のいない場所ならばスギナ個体群はその
後も存続でき、生育地としては適している。Beasleigh と Yarranton(1974)によ
れば E. sylvaticum は山火事の後に繁茂し、森林が回復するに従って減少すると
報告されている。スギナも春の火入れによって枯れ草が消滅した後に盛んに生
育する。このような撹乱はスギナの生育を競争回避や光条件の改善によって支
援していると考えられる。
Ⅳ−3:生育期間中の被陰の炭水化物経済に対する影響
スギナは耕作地や道端、工事や崩壊などによって新しく開けた裸地など日当
たりの良い場所に侵入し、短期間に大きな個体群を作る。シダ植物にとって、
新しい生育地への移動手段は小さくて軽い胞子が有効であると考えられる。し
かし、スギナでは胞子から配偶体を経由する有性生殖は、野外の個体群ではあ
まり見られない(朝比奈 1927)。新しい土地へのスギナの侵入は主に地下茎や貯
蔵茎による栄養生殖であると考えられる(大場 2002)。本庄校地の個体群(Ⅳ−1
参照)では1m2の区画内に地下茎は長さで約 40∼80 m、深さは約 1 mに達して
いた。このような大きな地下部の意義として栄養繁殖、物質の貯蔵、水分や養
分の吸収や撹乱からの防御などが考えられている(GulmonとMoony 1986、
RuitersとMcKenzie 1994、IwasaとKubo 1997)。個体群の移動が主に地下茎、
貯蔵茎で行われることから、地下茎からのスギナの成長や発達が調べられてき
た(二瓶ら 1967、Williams 1979、CloutierとWatson 1985、Marshall 1986、伊
藤ら 1987、1988)。
Grime ら(1988)はスギナの個体群は撹乱された土地に分布するとした。Ⅳ−1
に述べたようにスギナの地上部は春には純群落状に発達するが、夏季までに他
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の植物に被陰され、地上部を失う個体群も多い。地上部の存続期間は光合成生
産の期間を変化させることによって、個体群の発達と維持に大きな影響を与え
ている(Sakamaki と Ino 2002)。
光合成を中心とした炭水化物収支は植物の成長に大きな影響を与えるので、
植物の生活史を調べる手段として、多くの研究に取り上げられてきた。Meyer
と Hellwig (1997)は 2 種類の林床植物の生活史が非構造性炭水化物の動態で比
較できることを示した。シダ植物については Williams と Forey (1975)がワラビ
の個体群で炭水化物含有量の季節変化を報告した。Pakeman と Marrs (1996)
はこのデータに従って、ワラビ個体群の貯蔵物質の生物季節学的な変化を考え
てモデルに組み込み、地球環境変動に対する個体群動態の変化について考察を
行った。トクサ属に関しては Borg (1971)がフィンランドの E. palustre 個体群
の地下茎のデンプン含有量の季節変化について調査した。
Sakamaki と Ino (2002)はスギナが生育期間中に被陰されることの成長に対
する影響についてシミュレーションした。この結果、被陰されたスギナは休眠
するのではなく、貯蔵物質の積極的な利用によって反応することが推察された。
本項ではスギナ個体の非構造性炭水化物の含有量と光条件の関係について述べ
る。地下茎の伸長は、生産部分もしくは貯蔵部分からの転流に支えられている。
栄養繁殖に使われる新生地下茎は、生育開始時の貯蔵炭水化物によって作られ
る。それゆえ、地下茎の非構造性炭水化物含有率はスギナの初期成長量を決め
ている。
これまでに、多年性草本個体群の成長を質量による量的な変化で捉えた研究
は多いが(例えば Mutoh ら 1968)、地下部の貯蔵物質の変化で質的に捉えた研究
は少ない(例えば Suzuki と Stuefer 1999)。そのため、ここでは光条件の変化に
伴う地下茎の貯蔵物質量の変化に注目し、地下茎の質について考察した。
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東京都東久留米市のスギナ個体群から 1996 年 2 月、1997 年 2 月に採取した
貯蔵茎を繁殖体として用いた。基本的な栽培法はⅣ−2の項に示したものと同
じである。貯蔵茎の生質量は約 0.2 g で、この実験では乾燥質量で 0.04 g に相
当した。光条件は 100%と RPFD3%(寒冷紗で被陰)とした。1996 年 4 月 1 日に
80 個の植木鉢に各 2 個ずつ貯蔵茎を植え、100%区と 3%区に 40 個ずつ鉢を置
いて、それぞれの光条件で栽培した。また、1997 年 4 月 1 日に 90 個の植木鉢
に各 2 個ずつの貯蔵茎を植え、うち 13 鉢を 3%区に置いた。残りは 100%区に
置いたが、27 鉢を 6 月 21 日(栽培開始から 82 日目)に3%区に移した(D6 グル
ープとする)。更に、4 鉢を 7 月 16 日(107 日目)に 3%区に移動した(D7 グルー
プ)。D6 グループのうち8鉢を7月 16 日に 100%区に戻した(DA7 グループ)。
更に D6 グループの残りのうち、5 鉢を 8 月 11 日(133 日目)に 100%に戻した
(DA8 グループ)。D6、D7 グループを「被陰処理」、DA7、DA8 グループを「改善
処理」とする。約 1 ヶ月ごとに各処理区、
グループから 4∼8 個体を採取し前項(Ⅳ
−2)の成長解析と同様に処理し、測定した。成長解析で得られた乾燥サンプルに
ついて、第2章と同様に処理し、デンプン、スクロース、グルコースの含有率
を測定した。
1997 年の 100%区と 3%区の個体の成長を器官ごとに示した(図Ⅳ−14)。地
上部の出現はどちらも4月 20 日頃であった。貯蔵茎の質量減少に従って地下茎
が形成された。新生貯蔵茎は6月以降地下茎の節に形成された。3%区では個体
全体の合計乾燥質量は最大時には初期貯蔵茎の値をやや超えたが、11 月までに
全個体が枯死した。
図Ⅳ−15(a)に光条件を変えた処理区を含めて、個体全体と地下部の成長を質
量で示した。質量は被陰処理後に減少し、改善処理によって急速に増加した。
- 85 -
D6 グループでは6月に被陰した時点に最初から 3%区で育てた個体に対して約
10 倍の平均質量をもっていたが、被陰を始めてから4ヶ月後では、3%区で育て
た個体の約 2 倍の質量にまで差が小さくなった。
個体全体と地下部の炭水化物 (デンプン+スクロース+グルコース) 含有量
を図Ⅳ−15(b)に示す。被陰処理によって D6、D7 グループの個体は、最初から
3%区で育てた個体に対して、被陰を始めてから3ヶ月後で質量では上回ってい
るものの、炭水化物量は同じくらいか、それ以下になった。改善処理によって
DA7、DA8 グループの炭水化物含有量は約2ヶ月で 100%区で育てたものと同
じくらいに回復した。
100%区の光条件下では地下茎は伸長したが、被陰処理後は有意な伸びはなか
った(図Ⅳ−16a)。図Ⅳ−16(b)に地下茎の単位長さ当たりの質量(RML;mg cm-1)
の変化を示す。RMLは個体全体の地下茎の乾燥質量を地下茎全長で割ったもの
なので、地下茎の太さや形は反映しない。100%区のRMLは最大で 5 mg cm-1で
あったが、3%区の個体では生育期間を通じて 2 mg cm-1以下であった。RMLの
増減は光条件の変化に敏感に反応した。D6 グループでは被陰の時点が地上部の
形成で貯蔵物質を使い尽くした時期なので、それ以上RMLの低下は見られなか
った。
地下茎の炭水化物の含有率を図Ⅳ−17 に示す。炭水化物含有率は被陰処理に
よって、D6、D7 グループでは 1 ヶ月間で最初から 3%区にあった個体と同じレ
ベルまで低下した。逆に、改善処理によって DA7、DA8 グループでは 1∼2 ヶ
月で 100%区のものと同じ率まで上昇した。
貯蔵茎は地下茎の節部の腋芽から形成される。図Ⅳ−18 は 9 月までの採取個
体のRMLと新生貯蔵茎の質量の関係である。RMLが 1 mg cm-1以上の地下茎で
は新生貯蔵茎はRMLの増大に従って増加したが、1 mg cm-1以下の地下茎には貯
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蔵茎は形成されなかった。
地下茎における炭水化物の重要性を調べるため、8 月のRMLと炭水化物含有
率の関係を調べた(図Ⅳ−19)。スクロース、グルコースの含有率とRMLとの相
関は弱かった。これに対して、デンプンの含有率はRMLと強い相関(r2 = 0.742)
を示した。
デンプンは測定した 3 種の炭水化物のうちで最も含有率が高いため、
3 種合計の含有率もRMLと正の相関を示した。このため、RMLはデンプン含有
率の指標とすることができると考えられた。RMLが 1 mg cm-1以下の地下茎の
デンプン含有率は 1%以下であった。
光条件の良い生育地ではスギナの翌年に残る器官は地下茎と貯蔵茎である
(図Ⅳ−14)。地下茎や貯蔵茎の持つ貯蔵物質は翌年の初期成長に重要である
(例えば Williams と Forey 1975、Marrs ら 1993、Suzuki と Hutchings 1997、
Suzuki と Stuefer 1999)。スギナでは地下茎の非構造性炭水化物含有率は貯蔵
茎より低いものの、個体量に占める割合が大きいため、地下茎が最大の貯蔵器
官になっている。地下部の炭水化物含有量は、乾燥質量より光条件の変化に大
きく影響を受けた(図Ⅳ−15、17)。被陰に伴って RML が低下するのは、地下茎
の炭水化物含有率が急速に低下することによっている(図Ⅳ−16b、Ⅳ−17)。前
項(Ⅳ−2)に示したように、被陰後、ある程度の期間は地下部から地上部への貯
蔵物質の再転流が見られた(Sakamaki と Ino 2002)。スギナは光強度の低い環境
下では少ない物質生産量のため、RML の小さい地下茎を作った(図Ⅳ−16)。
RML の小さい地下茎は貯蔵茎をつけなかった(図Ⅳ−18)。地下茎のデンプン含
有率は RML で表せることが分かった(図Ⅳ−19)。ワラビではデンプン含有率が
10%以下の地下茎は冬季に枯死することが知られている(Pakeman と Marrs
1996)。しかし、スギナではこの限界はわかっていない。
多年性植物では、種個体群の存続のために、定着した場所での個体自身の生
- 87 -
存を確保すること、そこからの個体(群)拡大が必要である(稲垣 2002)。光条件の
良い環境では、スギナは RML の大きな地下茎を作り、その場所への定着と拡大
をともに進めることができる。これに反して光条件が悪い場所では、陽地生草
本であるスギナにとっては最初に根付いた場所に貯蔵茎を作って個体を確立す
るより、地下茎を拡大して光条件の良い場所を求めることがより適した方法と
考えられる。枯死しやすい、細い地下茎を作ることは次年度の拡大には有効で
はないように見える。しかし、クローン植物には条件の良い場所のシュートか
ら条件の悪い場所のシュートに生産物を転流する「クローナル・インテグレー
ション」が知られており(Slade と Hutchings 1987、Hutchings 1999、Hill と
SilanderJr 2001)、もし、偶然に地下茎が光条件の良い場所に出た場合、その場
所での高い物質生産により個体を存続させることを期待できる。林床や林縁に
生育するつる植物のヤマノイモでは、光環境が悪い場合は栄養成長を停止して
全ての生産物を地下部に蓄える(Hori と Oshima 1986)。逆に、スギナは悪い場
所に耐えるのではなく地下茎を伸ばしてよい場所を探す生き方をしていると考
えられる。
貯蔵茎を形成すると、地下茎の伸長はトレードオフによって制限されること
になる。Hauke(1985)によれば、スギナでは、有限成長の芽は貯蔵茎になり、
無限成長する芽が地下茎になるとされる。貯蔵茎を作る刺激は、ジャガイモ
(Solanum tuberosum)で多く研究されている(Hartmann と Kester 1968、
Moorby 1980、Engels と Marschner 1986、Sergeeva ら 2000)が、スギナでは
明らかではない。しかし、本研究の結果から、地下茎へのデンプンの蓄積が貯
蔵茎を作ることを可能にしていると考えることができる(図Ⅳ−18、19)。この
パターンは Gray(2000)のキャッサバ(Manihot esculenta)に関する spillover モ
デルに適合する。
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スギナの主な生育地は、耕作地、畑などの放棄地や道端である。このような
場所は定期的、不定期に人為による撹乱を受ける。草刈は、背の高い植物を取
り除くことによりスギナを光獲得競争から解放する。スギナは節から不定芽を
作る能力が高く地上部の刈り取りから回復するのが早い(Schaffner 1931)。この
再生の速さはスギナの雑草性の重要な特徴である。Iwasa と Kubo(1997)のモデ
ルでは生産部分が取り除かれた場合、貯蔵部分に先だって生産部分の再生が行
われることが示された。Sakamaki と Ino(2002)はこのような現象がスギナ個体
群が被陰された時にも起こることを報告した。多量の貯蔵茎を持つことは新し
いシュートを作る余力が大きいことを示している。たとえ、貯蔵物質のない地
下茎であっても光条件のよい場所に出ればそこから出たシュートは高い生産力
が期待できる。しかし、被陰に対し貯蔵物質を積極的に使って対応する戦略は、
長期間の被陰下では貯蔵物の減少を早くする。この戦略は、スギナが生育地の
モザイク的な光環境の変動に依存している傾向があることを示している。
Cloutier と Watson(1985)は地下茎断片からのスギナ個体群のすばやい再生を報
告している。本項で示されたスギナの特徴は、耕地雑草として生活を支えるも
のであると同時に、何故、安定した生育地に繁栄しないか(Grime ら 1988)を示
すものでもある。
Ⅳ−4 スギナの栄養繁殖に対する貯蔵茎と地下茎断片の貢献
スギナは自然個体群内ではほとんど有性繁殖をしないとされ(朝比奈 1927)、
新しく開かれた土地や耕作地に旺盛に侵入するが、離れた土地への侵入は移さ
れた土に混じった植物体の断片によることが多い(Page と Barker 1985、大場
2002)とされる。スギナでは植物体断片の栄養繁殖能力は極めて高い。スギナの
植物体が断片化した場合、貯蔵物質を使って不定芽が節部に形成される。これ
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までに地上茎、地下茎、あるいは貯蔵茎からの個体成長に関しては、多くの研
究が行われてきた(Schaffner 1931、二瓶ら 1967、Williams 1979、Cloutier と
Watson 1985、Marshall 1986、伊藤ら 1987、1988)。地下茎と貯蔵茎は本来同
じ器官であるが、それらの形態や貯蔵物質量などには違いがある。個体群を拡
大する主な方法である栄養繁殖に関する両者の間の違いがどのような点にある
かを比較した研究は見られない。
植物の炭水化物経済はその生活史や繁殖戦略と密接に結びついている(例えば
Meyer と Hellwig 1997)。地下部に含まれるデンプンは地下茎から成長する植物
にとっては構成原料として重要である(例えば Williams と Forey 1975、Suzuki
と Hutchings 1997、Suzuki と Stufer 1999)。Cloutier と Watson (1985)は、
地下茎断片からの個体群の成長を調べ、侵入点の数的な広がりより侵入断片数
の多さがスギナ個体群の再生速度に大きく影響すると述べた。また、長い断片
は貯蔵物が多いため、生育地の速い拡大をもたらすと考えた。初期貯蔵物質の
量が植物の成長に影響を与えることについては、多くの研究がある(例えば Hori
ら 1987)が、侵入初期に急速な拡大を見せる(Freckleton と Watkinson 2002)
雑草性の植物個体群の場合、繁殖体に形成される芽の数が成長開始点として重
要であり、貯蔵物質はその芽の展開を支える役割を持つと考えられる。
前項Ⅳ−3では、スギナの非構造性炭水化物の動態を乾燥質量の成長を支え
る物質として研究した。本項では、貯蔵茎と地下茎断片を繁殖体として栽培し、
貯蔵茎および地下茎からのスギナ個体の成長を測定する。また、栄養生殖に関
する能力の背景としての貯蔵茎と地下茎断片の新生器官形成時の炭水化物の含
有量の変化を測定し、これらの結果から初期繁殖体としての両者の特性を比較
した。
1996 年冬に、東京都東久留米市の個体群で採取した貯蔵茎を、東京の早稲田
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大学 16 号館屋上でプラスチック製プランター(60×15 cm、深さ 15 cm)を用
いて 1996 年春から 1998 年 2 月まで、遮光せずに栽培した。このスギナ個体を
1998 年 2 月に掘り出して、地下茎と貯蔵茎に分けた。貯蔵茎は一節ごとに分け、
1 個の平均生質量が約 0.15 g の貯蔵茎を選び、地下茎は約 7 cm の断片とし、そ
れぞれを初期繁殖体とした。これらの初期繁殖体はともに乾燥質量約 50 mg に
相当した。一つの植木鉢(直径 21 cm 深さ 15 cm)に貯蔵茎 1 個と地下茎断片
1 本を植えたものを 70 鉢用意した。栽培は前項Ⅳ−2と同様に行った。光条件
は RPFD 100%と 3%とした。約 1 ヶ月に 1 回、100%、3%区の貯蔵茎と地下茎
それぞれの繁殖体に由来する個体を各 8 個体ずつサンプリングし、前項Ⅳ−2
と同様の測定を行った。実験は 1998 年 9 月に 3%区の個体が全て枯死したので
終了した。
それぞれの初期繁殖体が貯蔵物から形成できる新生部分の量を調べるために、
暗黒条件のインキュベーターで貯蔵茎と地下茎断片を培養し、個体の成長を測
定した。貯蔵茎と地下茎断片を各 30 個ずつ用意した。貯蔵茎の平均乾燥質量は
33 mg(生質量 81 mg)、地下茎の平均乾燥質量は 27 mg(生質量 128 mg)で
あった。地下茎断片は平均 2 個の節を持っていた。それぞれ 10 個ずつを 12 cm
シャーレ内の湿らせたろ紙上に置き、25℃で培養した。培養開始 9、16、32 日
後に各 10 個体をランダムに採取した。地下茎の長さと不定芽の数を測定した後、
新生部分と初期部分に分けて凍結乾燥し、各器官の質量を測定した。
初期繁殖体のサイズがその後の個体成長に与える影響を調べるため、長さ
1cm、5 cm、10 cmの地下茎断片を用意した。このときのRMLは 9.8 mg cm-1で
あった。貯蔵茎は平均乾燥質量 50 mgのものを用いた。それぞれの長さの断片
各 30 個と貯蔵茎 30 個を大きさ別に、湿らせたろ紙を敷いた 12 cmシャーレに
入れ、25℃の暗黒下で培養した。10 cmの断片には 15 cm×10 cm、深さ 5 cm
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のスチロール容器を用いた。約 10 日ごとに 10 個ずつを採取し、上記と同様の
測定を行った。
それぞれの初期繁殖体の持つ非構造性炭水化物(デンプン、スクロース、グル
コース)量と、その新生部分形成における利用度を知るために、成長解析及び暗
黒培養の実験で得られた乾燥試料について第2章と同様に処理し、炭水化物含
有率を測定した。
図Ⅳ−20(a)に 100%区および 3%区で貯蔵茎、地下茎断片から再生した個体の
8 月までの成長を乾燥質量で示す。3%区ではどちらの器官からの個体も質量が
初期値を超えることがなく、9 月までに全て枯死した。図Ⅳ−20(b)には新生地
下茎の長さを示した。100%区では地下茎断片からの個体の質量や地下茎長は貯
蔵茎からの個体より有意に大きかった。3%区では長さは増加せず、枯死するま
で目立った変化は見られなかった。図Ⅳ−21(a)は貯蔵茎と地下茎に形成された
不定芽の数で、地下茎断片には貯蔵茎より有意に多くの不定芽が形成された。
図Ⅳ−21(b)は不定芽に形成された一次栄養茎の数を示す。繁殖体からの初期成
長は一次栄養茎の光合成によるため、100%区では地下茎からの個体の不定芽の
多さがその後の個体の成長に影響することが推察された。
図Ⅳ−22(a)は暗黒条件下での貯蔵茎と地下茎からの個体の質量成長を示して
いる。貯蔵茎の平均初期質量は 33 mg、地下茎は 27 mg であった。33 mg の貯
蔵茎は 16 mg、27 mg の地下茎は 4.6 mg のデンプンを含んでいた(図Ⅳ−22b)。
このデンプン量は 32 日の間にそれぞれ 6.4 mg、0.9 mg にまで減少した。初期
部分の質量の減少量は同じではなかったが、作られた新生部分の質量には有意
な差はなかった。16 日間の平均の転形率(新生部分の乾燥質量の増加/初期部分
の乾燥質量の減少) (Midorikawa 1959)は貯蔵茎で 0.59、地下茎で 0.38 であっ
た。地下茎から形成された新生部分は貯蔵茎からのものよりデンプン含有量が
- 92 -
少なかった。
図Ⅳ−23 は暗黒条件下での培養 30 日目の新生部分質量と繁殖体の生質量か
ら推定した初期質量の関係である。地下茎については大きな繁殖体の作った新
生部分は合計質量が大きかった。この実験では初期貯蔵茎の大きさの違いが小
さかったので、貯蔵茎の新生部分には大きな差が見られなかった。
図Ⅳ−24 に培養 30 日目の新生部分の地下茎の長さと初期部分の節数の関係
を示す。節は不定芽が形成される場所である。新生地下茎の長さは、節数に比
例して長かった。貯蔵茎は 1 節であり、形成された地下茎の長さも 1 節の地下
茎断片と変わらなかった。
図Ⅳ−25(a)は 1、5、10 cm の地下茎に形成された新生地下茎(芽)の数である。
長い地下茎はより多くの新生地下茎をつけた。図Ⅳ−25(b)は地下茎数を芽を形
成した節数当たりで表したものである。ここでは初期地下茎の長さによる差は
見られなかった。長い地下茎の芽数が多いのはより多くの節を持つためであり、
貯蔵茎を含め、一節ごとの芽の数は 2 個弱で差がなかった。
図Ⅳ−26(a)に8月の地下茎質量から非構造性炭水化物を除いた質量(組織の
量とする)とRMLの関係を示す。またそのときの炭水化物量も示す。回帰式に
よれば、RMLが 1 mg cm-1以上の地下茎では非構造性炭水化物の量が質量の約
23%で、組織量は約 77%になる。図Ⅳ−26(b)には貯蔵茎の場合を乾燥質量との
関係で示す。貯蔵茎では 60%以上が非構造性炭水化物であった。
スギナの主な生育地は耕作放棄地や道端である。このような場所は定期的、
不定期的に人為による撹乱を受ける。Bellingham と Sparrow (2000)は木本植
物の撹乱に対する二つの個体再生戦略、実生と萌芽、について検討した。彼ら
は頻繁ではあるが、極端に強くない撹乱が起こる生育地での萌芽の優越性を指
摘した。この考えはスギナを含む多年生草本にも適用できると考えられる。
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Grime (1985)はスギナは撹乱や競争には強いがストレスに弱いとしている。種
子植物の実生に対応する配偶体(Johnson-Groh ら 2002)はスギナ個体群の中
では通常は見られない。この配偶体期はシダ植物の生活環の中で環境の変化に
対してもっとも弱い時期である(Page 2002)。耕起が行われない果樹園などでは
頻繁に配偶体からの個体群形成が見られるという報告(渡辺 1986)もあるが、人
為の撹乱を多く受ける生育地では地下茎や貯蔵茎を通しての栄養繁殖(萌芽再
生)が雑草としてのスギナの繁殖戦略には最も適していると考えられる。
スギナの次年度に残る主要な器官は地下茎と貯蔵茎である。Cloutier と
Watson (1985)はスギナの地下茎からの速やかな群落の再生について検討した。
彼らは、地下茎断片が侵入してから 1 ha の土地を覆うまでの年数を断片からの
個体の成長実験に基づいて計算した。その結果、侵入点の数より侵入断片数の
方がこの年数に強い影響を持つことを示した。このことは、耕作による地下茎
断片化がスギナの雑草としての生活史に貢献していることを示している。また、
彼らは長い地下茎はより多くの貯蔵物質を持っていることによって、より多く
のシュートを形成できるとしている。しかし、彼らは侵入した地下茎の節数に
ついては言及していない。本研究の結果からは、不定芽は節にしか形成されな
いので、繁殖体の節数はスギナの栄養繁殖の観点からは無視できない。彼らの
実験では、1cm の断片を使用しているので断片の多くは 1 節のみを持つと推定
できる。そのため、本研究における芽数は彼らの研究の断片数に相当すると考
えられる。
貯蔵茎は地下茎の腋芽として形成される。地下茎の非構造性炭水化物含有率
は貯蔵茎より低い(図Ⅳ−26)。Sergeevaら(2000)によればジャガイモの貯蔵茎に
おいてはデンプンの蓄積と形態の変化は独立のものであり、炭水化物量と組成
が、長い地下茎を作るか貯蔵茎を作るかに影響するとしている。スギナでは新
- 94 -
生貯蔵茎はRMLが 1 mg cm−1以上の地下茎に形成された(図Ⅳ−18)。RMLが
1 mg cm−1以下の地下茎のデンプン含有率は 1%以下であり(図Ⅳ−19)、スギナ
ではデンプンが蓄積することが新生貯蔵茎形成の引き金になっていることが示
唆された。スギナでは北方の個体群(Hauke 1966)や窒素の少ない土地の個体
群(Williams 1979)で貯蔵茎を多く形成することが報告されている。これらの
結果は、環境によって成長が抑制される個体群では、スギナがタンパク質を作
って組織を成長させた余剰の炭水化物を貯蔵茎に貯めることを示唆している。
竹松と一善(1997)の総説は、雑草としてのトクサ科の特徴についてまとめてい
る。その中で、スギナの貯蔵茎は地下茎に比べて乾燥に弱く、栄養繁殖に貢献
することが少ないと述べている。
暗黒下の栽培実験では新生部分の乾燥質量の成長は地下茎断片も貯蔵茎も差
がなかった(図Ⅳ−22a)が、地下茎断片は貯蔵茎より質量減少が大きかった。こ
の差は両者のデンプン含有量の差によっている。最初、地下茎断片は 4.6 mg、
貯蔵茎は 16 mgのデンプンを持っていた(図Ⅳ−22b)。普通、1 節から形成され
る芽は 1 または 2 個だったので 1 芽当たりに使えるデンプン量は地下茎で
2.3~4.6mg、貯蔵茎で 8.0~16.0 mgとなる。貯蔵デンプンのない 1 mg cm−1の新
生地下茎を形成すると仮定すれば、これらは地下茎断片で実験結果から転形率
を 0.4 として 0.9∼1.8 cm、貯蔵茎で転形率を 0.6として 4.8∼9.6 cmとなる。
繁殖体の初期サイズは貯蔵物質の量として新生部分の成長に影響を与える
(図Ⅳ−27)。暗黒下での実験の結果では、長い地下茎はより大きい新生部分を形
成した。デンプンの含有量から見ると、50 mg の貯蔵茎は 6.8 cm(66.6 mg)の地
下茎断片に相当した。新生地下茎の長さは地下茎断片の節数に比例し、貯蔵茎
も 1 節の茎に相当していることが明らかになった(図Ⅳ−24)。6.8 cm の地下茎
断片の節数は 2.7 であった。1 節に形成される芽の数は地下茎断片も貯蔵茎も差
- 95 -
がなく(図Ⅳ−25(b))、地下茎断片は同じ量の貯蔵物質を使って貯蔵茎の 2∼3
倍の数の芽を作る能力を持っていた。
十分な光条件の下ではスギナ個体群は、多数の芽を作れる地下茎断片によっ
て多くの地上茎を作り、その物質生産によって大きく発展することができる。
逆に、光条件の悪い場所や深い埋没に対して、貯蔵茎は一つの芽あたりに使え
るデンプン量を多くすることによって耐えることができる。このような現象は
種子植物の大小の種子サイズの違いに関しても報告されている(Leishman と
Westoby 1994)。スギナの雑草としての生活史を支えている一つの側面は、本研
究で示された栄養繁殖能力であることが明らかになった。
Ⅳ−5
物質生産から見たスギナの生活史戦略―人里雑草としての特徴
本章の研究の結果から、スギナの生活史戦略は次のようにまとめられる。
人為の影響の大きい、耕地や工事などによる荒地などを主な生育地とするス
ギナは、背の高い植物などに被陰されて光条件が悪くなった場合に、光合成を
する栄養茎を増加させ、地下茎を伸長させるなど積極的な対応をする方向に進
化した。カタクリなどの林床の春植物と対照的なこの生存戦略は、短期的に解
消される被陰には有効であるが、長期のあるいは広域の被陰の場合は消耗が大
きく、不利に働く可能性がある。この結果、スギナは、安定した背の高い草本
の群落や森林には見られない。そのような場所では春植物的な戦略をとってい
るように見える。
本研究の結果から、スギナは、少なくとも夏以前に充分な物質生産を行えれ
ば、個体群を維持することができると推察された。また、クローン内での生産
物の転流により、地下茎の一部が光条件のよい場所に到達すれば、そこに形成
された栄養茎の生産力によって個体は成長することができる。転流によって全
- 96 -
体を維持したり、生産の良い部分だけを生き残らせて条件の良い場所に移動す
ることもできる。
このようなスギナの特性に対して、人間活動による土地の撹乱は、草刈や野
焼きなどによる競争者になる大型植物の除去、地下茎などの植物体の断片化に
よる栄養繁殖の促進と動土による繁殖体の拡散(Page と Barker 1985)、環境の
モザイク化による好適な光環境の創出などの点でスギナの生存戦略を助けてい
ることになる。一般的に、耕地雑草は人間活動を利用する方向に適応している
(伊藤 1993)。
陸上植物の中でも特に起源の古い植物群であるトクサ類は、地下茎の構造な
どで湿地の生活に適応している種が多く(Kaarlo 1931)、適する環境の減少な
どで絶滅が危惧される種も多い。その中でスギナは一見乾燥している土地にも
盛んに侵入する。これはスギナでは栄養茎の気孔が陥没しているなど、乾燥に
適応した構造も持っていることによっている(Sporn 1995)が、また、地下水
位に達する長い地下茎やトクサ類にはない貯蔵茎を持つことにもよっている。
このように、雑草の主体をなす種子植物より起源の古い植物でありながら、人
間活動に適応する形の進化を遂げているのがスギナという種の大きな特徴であ
る。
- 97 -
栄養茎
地下茎
貯蔵茎
写真Ⅳ−1
節
スギナ個体の地下部構造 (鈴木 1980 より一部改変)
- 98 -
図Ⅳ−1本庄校地のスギナ群落の写真(4 月)と地下構造の模式図(真柳仁氏原図)
- 99 -
Standing crop per 10 m horizontal rhizome (g)
125
100
Tuber
75
50
Fertile shoot
Rhizome
Fertile shoot
25
Sterile shoot
0
M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
1978
1979
Month
図Ⅳ−2 本庄のスギナ個体群の現存量の季節変化。横向き地下茎 10mの平均現
存量と、各測定時に横向き地下茎 10mあたりに付いていた各器官の現存量の季
節変化を示した。
- 100 -
.
50
Bulk density of tuber (g cm-3)
RML (mg cm-1)
(a)
40
30
20
10
0.7
(b)
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
J MM J S N J MM J S N
1979
1978
Month
図Ⅳ−3 本庄のスギナ個体群地下部の密度の季節変化。(a)地下茎の単位長さ当
たりの乾燥質量(RML)。■:横向き地下茎、□:縦向き地下茎。(b)貯蔵茎の
容積密度。●:横向き地下茎に付いた貯蔵茎、○:縦向き地下茎に付いた貯蔵
茎。
- 101 -
図Ⅳ−4 本庄のスギナ群落の地上部の生産構造。
図Ⅳ−5 本庄のスギナ個体群の地下部の層別構造。12 月 14 日測定。
- 102 -
図Ⅳ−6 (a)(写真)貯蔵茎からの個体
(b)貯蔵茎からの個体の成長(模式図)。
- 103 -
10 1
Number of shoots Dry mass of single shoot (g)
Dry mass (g)
.
(a)
10 0
10 -1
10 -2
10
-3
0.10
(b)
0.05
0.00
30
(c)
20
10
0
A M J J A S O N D J F M AM
1981
1982
Month
図Ⅳ−7 スギナ個体の地上部の成長。(a)個体当たりの質量 (b)1本の栄養茎
の質量 (c)個体の栄養茎数 ○:100%区、●:9%区
- 104 -
10
1
(a) 100%
10 0
10 -1
Dry mass (g)
10 -2
10 -3
10
1
(b) 9%
10 0
10 -1
10 -2
10 -3
A MJ J A S O N D J F MA M
1982
1981
Month
図Ⅳ−8 スギナ個体の各器官の成長曲線 (a)100%区 (b)9%区 □:栄養茎、
◇:地下茎、●:旧貯蔵茎(初期繁殖体)、○:新生貯蔵茎、△:根
- 105 -
Shoot dry mass (g)
10
10
1
0
10
-1
10
-2
10
-3
10 -3
10
-2
10
-1
10
0
10
1
Belowground parts dry mass (g)
図Ⅳ−9 5月から8月までの個体の地上部と地下部の質量関係
●:9%区
- 106 -
○:100%区、
Shoot dry mass (g)
10 1
(a)
10 0
10 -1
10 -2
.
10 -3
10 1
Rhizome dry mass (g)
(b)
10 0
10 -1
10 -2
10 -3
3.0
T/R ratio
(c)
2.0
1.0
0.0
M J J A S O N D J F M A M
1982
1981
Month
図Ⅳ−10 生育途中(6 月 18 日:79 日目)に RPFD9%に被陰した個体の成長
(a)栄養茎の質量 (b)地下茎の質量 (c)地上部と地下部の比(T/R 比) ○:
100%区、●:9%区、▲:100%から 9%に被陰。点線は被陰日を示す。
- 107 -
表Ⅳ−1
被陰後 2 週間の栄養茎の非構造性炭水化物含有率
Change of carbohydrate content in the shoot by shading during two weeks.
Data represents mean + SE (n = 5).
Same superscript letters in a column are not significantly different (t-test p<0.05).
Content(mg/mg dry mass)
RLI(%)
Initial
2weeks
100
100
3
表Ⅳ−2
Sucrose
Glucose
Starch
a
0.022+0.006
b
0.012+0.004
e
0.029+0.009
a
0.016+0.007
c
0.027+0.004
e
0.037+0.001
a
0.017+0.002
d
0.002+0.000
f
0.003+0.001
被陰後 2 週間の地下茎の非構造性炭水化物含有率
Change of carbohydrate content in the rhizome by shading during two weeks.
Data represents mean + SE (n = 5).
Same superscript letters in a column are not significantly different (t-test p<0.05).
Content(mg/mg dry mass)
RLI(%)
Initial
100
2weeks
100
3
Sucrose
Glucose
Starch
a
0.009+0.002
c
0.016+0.001
e
0.187+0.038
a
0.006+0.003
c
0.018+0.003
e
0.213+0.019
b
0.018+0.003
d
0.009+0.001
f
0.080+0.011
- 108 -
表Ⅳ−3
スギナ成長シミュレーションの計算上の諸数
Photosynthesis and respiration rates.
100%
Month
Pg
rf
ru
L
T
April
*
*
0.0004
10.0
13.9
May
0.113
0.010
0.0013
10.0
17.5
June
0.111
0.010
0.0006
10.5
20.2
July
0.060
0.008
0.0006
12.0
26.3
August
0.042
0.023
0.0006
12.0
26.2
September
0.121
0.024
0.0006
11.5
21.8
October
0.032
0.018
0.0006
11.0
17.6
November
**
**
0.0006
10.0
10.4
April
0.106
0.024
0.0004
10.0
14.0
Month
Pg
rf
ru
L
T
April
*
*
0.0004
10.0
13.9
May
0.059
0.012
0.0013
10.0
17.5
June
0.099
0.013
0.0006
10.5
20.2
July
0.049
0.016
0.0006
12.0
26.3
August
0.049
0.016
0.0006
12.0
26.2
September
0.069
0.009
0.0006
11.5
21.8
October
0.060
0.026
0.0006
11.0
17.6
November
**
**
0.0006
10.0
10.4
April
0.059
0.004
0.0004
10.0
14.0
9%RLI
Pg:
Gross photosynthetic rate
(µmolCO2g-1s-1)
rf:
Respiration rate of shoot
(µmolCO2g-1s-1)
ru:
Respiration rate of underground part
(µmolCO2g-1s-1)
L:
Irradiance time duration for light saturated photosynthesis
(hours)
T:
Temperature for photosynthesis
(℃)
*:
Shoot was too small
**:
No shoot
- 109 -
表Ⅳ−4
スギナ成長シミュレーションの計算上の地上部と地下部の分配比
100%
100→9%
9%
date
α
Apr.1
1.0
May 1
0.9
1.0
Jun. 1
0.5
1.0
Jun. 19
0.5
1.0
1.0
0.02
Jul. 1
0.5
0.5
1.0
0.01
Jul. 16
0.4
0.4
0.4
Aug. 1
0.4
0.4
0.0
Sep. 1
0.1
0.4
0.0
df
Oct. 1
0.02
Nov. 1
0.01
Dec. 1
0.01
α
df
du
du
α
0.02
1.0
df
du
α
df
du
0.02
0.2
0.09
0.02
0.01
0.01
0.02
0.01
0.01
0.06
0.01
0.01
Distribution rate to the aerial part.
Translocation rate from aerial part.
Translocation rate from underground part.
- 110 -
101
(a) 100%
10 0
10
Dry mass (g)
10
10
-1
-2
-3
10 -4
10 0
10
10
10
(b)9%
-1
-2
-3
10 -4
A M J J A S O N D J F M
1981
1982
Month
図Ⅳ−11 スギナ個体成長シミュレーションの結果 100%と 9%、実線:個
体全体、破線:地上部、点線:地下部。シンボルは実測値 ●:個体全体、□:
地上部(栄養茎)、◇:地下部 測定値に付いた縦線は標準誤差(n=10)を示す。
- 111 -
10 1
Dry mass (g)
10 0
10
10
10
-1
-2
-3
10 -4
A M J J A S O N D J F M
1981
1982
Month
図Ⅳ−12 スギナ個体成長シミュレーションの結果 100%から 9%に被陰し
たもの。実線:個体全体、破線:地上部、点線:地下部。シンボルは実測値 ●:
個体全体、□:地上部(栄養茎)、◇:地下部 測定値に付いた縦線は標準誤差
(n=10)
表Ⅳ−5 各時期に被陰した結果、次年度 3 月 10 日に残った地下茎の量を
100%区のものと比較した。
Scenario 1; growth as 9% just after shading.
Scenario 2; translocation to shoot with 2% of
underground dry mass for 1 month after shading.
Shading from
Scenario 1
Scenario 2
% to 100% site % to 100% site
May 1
3.8
7.5
Jun. 1
Jul. 1
Aug. 1
Sep. 1
13.3
62.8
81.2
81.5
19.8
83.8
101.3
70.4
Jun.18 (actual)
16.9
- 112 -
0.20
May 1
0.15
0.10
Calculated dry mass of belowground part (g)
0.05
0.00
0.60
0.50
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
Jun. 1
2.50
2.00
Jul. 1
1.50
1.00
0.50
0.00
3.00
2.50
2.00
1.50
1.00
0.50
0.00
2.00
1.50
Aug. 1
Sep. 1
Se p t e m b e r
1
1.00
0.50
0.00
A M J J A S O N D J F M A
1981
1982
Month
図Ⅳ−13 被陰時期を変えた場合の個体地下茎の成長シミュレーション結果。
5月から9月までの各月1日に100%から9%に被陰した場合を示す。破
線:再転流のない場合(シナリオ1)、実線:再転流のある場合(シナリオ2)
- 113 -
102
(a)
101
Dry mass (g)
Shoot
100
Rhizome
10-1
Current tuber
10-2
Tuber
10-3
10-1
(b)
Shoot
Rhizome
10-2
Tuber
10-3
A
J
A
O
Month
D
図Ⅳ−14 1997 年の成長解析の結果を器官ごとの積み上げで示す。(a)100%
区 (b) 3%RPFD 区 3%区では 11 月までに全個体が枯死した。
- 114 -
Dry mass (g)
102
(a)
101
100
10-1
Carbohydrate content (g)
10-2
101
(b)
100
10-1
10-2
10-3
10-4
A
J
A
O
D
Month
図Ⅳ−15 (a)個体質量と(b)個体の炭水化物含有量 □:100%区、◇:3%区、
○:D6 区、△:D7 区、▽:DA7 区、▷:DA8 白抜きは個体全体、黒塗りは地
下部を示す。
- 115 -
Rhizome length (cm)
104
(a)
103
.
102
101
100
RML (mg cm-1)
6
(b)
5
4
3
2
1
0
A
J
A
O
D
Month
図Ⅳ−16 光条件と地下茎の性質。(a)個体の地下茎長 (b)単位長さ当たりの
質量(RML) シンボルは図Ⅳ−15と同じ(白抜きのみ)。測定値に付いた縦
線は標準誤差(n=8)
- 116 -
Carbohydrate concentration (%)
40
30
20
10
0
A
J
A
O D
F
A
Month
Dry mass of current tubers (g)
図Ⅳ−17 光条件と地下茎の炭水化物含有率
測定値に付いた縦線は標準誤差(n=8)
シンボルは図Ⅳ−16と同じ。
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
10-1
100
RML (mg cm-1)
図Ⅳ−18 RML と新生貯蔵茎の質量
- 117 -
101
10 2
10 1
Sucrose
Carbohydrate concentration (%)
y = 0.020 x0.081
r2=0.016
Glucose
y = 0.008 x0.319
r2=0.259
10 1
10 0
10 0
10-1
10 2
10-1
10 2
Starch
y = 0.010 x1.457
r2=0.742
Total
y = 0.054 x0.702
r2=0.575
10 1
10 1
10 0
10-1
10 0
10-2
10-1
10 0
10 1
10 2
10-2
10-1
RML (mg cm-1)
図Ⅳ−19
RML と炭水化物含有率の関係
- 118 -
10 0
10 1
10 2
101
Total dry mass (g)
(a)
100
10-1
Length of new rhizome (cm)
10-2
103
(b)
102
101
100
10-1
A
M
J
J
A
Month
図Ⅳ−20 100%と RPFD3%の光条件での 乾燥質量 50 mg の地下茎、貯蔵
茎からの成長曲線 (a)個体質量 (b)地下茎長 シンボルは□:100%区地下茎、
○:100%区貯蔵茎、■:3%区地下茎、●:3%区貯蔵茎 測定値に付いた縦線
は標準誤差(n=8)
- 119 -
5
Number of buds
(a)
4
3
2
1
Number of first shoots
0
5
(b)
4
3
2
1
0
A
M
J
J
A
Month
図Ⅳ−21 地下部に形成された(a)不定芽の数と(b)一次栄養茎の数
ルは図Ⅳ−20と同じ。測定値に付いた縦線は標準誤差(n=8)
- 120 -
シンボ
Growth (mg)
102
(a)
101
100
10-1
Starch content (mg)
20
(b)
15
10
5
0
0
10
20
30
40
Days
図Ⅳ−22 暗黒、25℃条件下での貯蔵茎と地下茎からの個体の成長曲線 (a)
乾燥質量 (b)デンプン含有量 シンボルは□:地下茎(初期繁殖体)
、○:貯蔵
茎(初期繁殖体)、◇:地下茎からの新生部分、△:貯蔵茎からの新生部分 測定
値に付いた縦線は標準誤差(n=3∼5)
- 121 -
Dry mass of new parts (mg)
20
15
10
5
0
0
50
100
150
Estimated dry mass of initial parts (mg)
Total length of new rhizome (cm)
図Ⅳ−23 暗黒、25℃条件下 30 日目の推定初期質量と新生部分質量
殖体は□:地下茎、●:貯蔵茎
初期繁
8
6
4
2
0
1
2
3
4
Tuber
Number of node
図Ⅳ−24 暗黒、25℃条件下 30 日目の新生地下茎の長さと初期繁殖体の節数。
測定値に付いた縦線は標準誤差(n=10)
- 122 -
5
Rhizome number
(a)
4
10cm
3
5cm
2
Tuber
1
1cm
0
Rhizome number per node
2.0
(b)
1.5
1cm
5cm
10cm
Tuber
1 .0
0.5
0 .0
10
15
20
25
30
35
Days
図Ⅳ−25 暗黒、25℃条件下 30 日目の(a)新生地下茎の数、(b)初期繁殖体の
節数当たりの不定芽数。 貯蔵茎は1節。測定値に付いた縦線は標準誤差(n=10)
- 123 -
12.5
(a)
10.0
Tissue
7.5
5.0
Dry mass (mg)
Carbohydrate
2.5
0.0
0
5
10
15
RML (mg cm-1)
40
(b)
30
Tissue
20
10
Carbohydrate
0
0
10
20
30
40
50
60
Dry mass of tuber (mg)
図Ⅳ−26
非構造性炭水化物及び組織の量と(a)RML (b)貯蔵茎質量の関係
回帰式は
(a) Tissue; y=0.772x+0.296, r=0.986 Carbohydrate; y=0.228x-0.296, r=0.876
(b) Tissue; y=0.364x+8.903, r=0.811 Carbohydrate; y=0.637x-8.903, r=0.925
- 124 -
第Ⅴ章
総括:陸上植物の進化におけるシダ植物の位置と生態学的研究
シダ植物門はコケ植物門以下の葉状植物と裸子植物門以上の維管束植物をつ
なぐ、陸上植物の進化の上で特徴のある分類群である。植物の生活環には半数
体の配偶体と倍数体の胞子体の二つの世代が現れる。シダ植物ではその二つの
世代がともに独立栄養で生活する個体として出現し、それぞれが繁殖をすると
いう点に特徴がある。つまり、配偶体世代はコケ植物と、胞子体世代は種子植
物と同様な生活をすることになる。胞子発芽から配偶体の成長まではコケ植物
の生活と同じである。コケ植物では普通、配偶体は多年生である。その胞子体
は成熟した雌性配偶体上に形成される造卵器から一時的に成長し、胞子散布を
終わると枯死する短命な世代である。その胞子体の成長は原則的には配偶体の
物質生産に依存している。蘚類の胞子体は光合成能力を持ち、自身の呼吸を支
える程度の物質生産が可能である(Rastorfer 1962)。ツノゴケ類を除くコケ植物
の胞子体は、胞子嚢を頂点とした有限成長をする。配偶体からの胞子体形成過
程はシダ植物でも同様であり、相違点は胞子体が無限成長をする点である。
Renzaglia ら(2000)はツノゴケの胞子体の無限成長はシダとの並行進化である
としている。配偶体と胞子体の生産物利用の観点から、シダ植物は進化上のあ
る時点から胞子体がその光合成生産によって自身を拡大して基物から栄養や水
分の吸収が行えるようになり、さらに初期成長で配偶体の生産物を消費し尽し
て枯死させる方向に進化したと考えることができる。本研究で示したように配
偶体は複数の胞子体を作る能力がありながら、通常一つしか胞子体を形成しな
い。このことは、配偶体が枯れる原因は確定できないとしても、生活環の中で
の胞子体の優越性を示している。Campbell (1905)は配偶体と胞子体には別々の
方向の進化が起こったとしている。この考え方を採れば、結果的には胞子体が
発展した仲間が陸上植物としての形態を完成したことになる。胞子体は広範囲
- 125 -
に胞子を散布するため、丈が高くなる必要があり、通導組織や根茎葉の組織、
器官の分化が必要だったと考えられている(Keddy 1981)。シダ植物は現生種で
は大きくても高さ 10m 以下であるが、地質時代には 30m 以上になった種もあ
り、形態的には未発達な部分があるとはいえ、陸上植物としての適応力は種子
植物に劣るものではないと考えられる。組織、器官の発達により背の高い植物
体を作れるようになり、光受容にも有利になった。本研究のスギナも、種子植
物の雑草生活をする種と同様な生活史戦略を持って個体群を拡大し、植物群落
の構成種となり、他種との競争にも耐えている。陸上植物としてのシダ植物に
残った大きな欠点は、有性生殖に精子を使うことである。水が充分とはいえな
い陸上で精子を泳がせられるのは、限られた環境でしかない。このため、陸上
植物では進化に伴って配偶体世代が縮小する傾向がある(Haufler と AdamsⅢ
1982)。配偶体で生活するコケ植物では、乾燥に対し著しい耐久性を持つものも
多い (Nakatsubo ら 1989) が、シダ植物の配偶体は乾燥に非常に弱く、特別に
湿った場所にしか生育できない。この、陸上植物としての大きな弱点(Page 2002)
を克服するには、早く受精して胞子体に移行することが必要である。その受精
に関しても前記のような欠点がある。このように、陸上植物は配偶体をなくす
方向への進化(前川
1973)を遂げることによって、現在の陸上での地位を確立し
たと考えられる。
シダ植物の場合、配偶体はコケのような変含水性を持たず、乾燥に会えば表
面から細胞が死んでいく。しかし、残った細胞が水分や光が充分な条件になっ
た場合には、比較的容易に配偶体の再生が起こる。配偶体の翼の部分は細胞が
普通一層であるが、中央の生殖器をつける褥(クッション)とよばれる部分は、特
に過熟の配偶体では厚くなっており、内部の細胞が生き残る可能性がある。こ
れに対して受精してできた若い胞子体は単軸のため、成長点(頂端分裂組織)が
- 126 -
一つしかなく、ここを傷つけられると枯れることがある。このため、環境条件
が適当でなくなった時、どちらの世代が生残しやすいかという点については論
争がある。一度確立すれば、体の構造や成長の速さなどでは胞子体が強いと考
えるのが普通である (西田
1958、伊藤
1972) が、アパラチア山脈に生育す
る Vittria の一種では低温で胞子体を作れない環境下では配偶体のまま栄養繁殖
で 維 持 さ れ て い る 個 体 群 が 報 告 さ れ て い る (Farrar 1967) 。 Farrar と
Gooch(1975)は中部アイオワで、配偶体の早い成長によって秋に発生した胞子体
は雪で枯れ、越冬した配偶体から春に形成された胞子体が個体群を作ることを
多くの種のシダで報告している。佐藤らは一連の研究で、北海道に生育する数
種のシダ植物の配偶体と胞子体の耐凍性を調べ、それらの分布を規定している
のは胞子体の耐凍性であり、配偶体は分布の制約に関与していない、と述べて
いる(Sato と Sakai 1980、佐藤と酒井
1981、
Sato 1982、1983)。また、胞
子体を形成させないと、配偶体は長生きする。本研究の培養下でも、通常数ヶ
月で胞子体を形成して枯れるオニゼンマイ(Osmunda claytoniana)の配偶体が
胞子体を形成させないと5年以上生存した。成長の盛んな周縁部には突出した
配偶体の組織片が形成され、その一部はハート型の新配偶体を形成し、そこに
造卵器が形成され、古い部分の枯死によってこれらの周縁部分は独立した個体
になることもあった。これらの新生配偶体は物質生産速度も第 3 章に述べたよ
うに若い配偶体と同様であり、配偶体が栄養繁殖したと考えて良いであろう。
久保田(1887)、Campbell (1905)、Mottier (1927) などは配偶体から形成される
組織片を栄養繁殖のための無性芽として扱っている。配偶体の形態はその成長
速度や再生による配偶体自身の生活史戦略に関係するという報告もある
(Dassler ら 1996)。また、本論文では扱わなかったが、シダ植物には胞子形成の
ときに減数分裂が起こらず、2n の配偶体を形成して受精なしで胞子体を形成す
- 127 -
る無配生殖をする種が多く見られる。この現象は、人為による撹乱とそれに対
する世代交代時間の短縮としてヒトの文化の進展と関連して考察されることも
ある(岩槻 1997)。この場合は、配偶体と胞子体は同質であり、形態の違いだ
けであるが、胞子体が形成されると配偶体部分は枯死する。これは理由は明ら
かになっていないが、シダ植物は一時的にも配偶体の形態を経過することが生
活環を閉じるために必要であることを示している。
以上に述べたように、胞子体への移行がなければ配偶体は必ずしも枯れるべ
き一時的なものではなく、当然のように考えられている配偶体から胞子体への
生活環の進行は、進化の段階でどちらが主になるかの競争の歴史を残している
のかもしれない。コケ植物の遺伝子の分析から配偶体では働かず胞子体の中で
のみ働く遺伝子が特定されている(長谷部 2003)。益山(1984)は胞子に葉緑体を
含むカラクサシダ(Pleurosoriopsis makinoi)は胞子の放出時期が冬であり、胞子
の寿命が短いこと、配偶体の発達が悪いことなどから有性生殖の成功率は著し
く低く、配偶体が無性芽を形成して配偶体の栄養生殖をすることにより有性生
殖の低さを補っているとしている。彼はこのように一見障害と見える形質も、
その種が現在の生育地に適応する上でむしろ必要な形質であることが考えられ
るとしている。このように、シダ植物の生理生態学的研究から得られた結果は、
進化の中での配偶体の位置づけについて再考する端緒にもなると考えられる。
- 128 -
謝辞
本研究を進める上で多大なご指導、ご援助をいただきました伊野良夫早稲田
大学教授並びに大島康行早稲田大学名誉教授に深く感謝いたします。大島先生
には研究の初歩から長い間ご指導をいただき、伊野先生には論文をまとめるま
でのご指導、討論、助言を頂きました。また、寺田美奈子神田外語大学教授に
は調査、助言などにご援助、ご指導をいただきました。堀良通茨城大学教授、
小泉博岐阜大学教授、中坪孝之広島大学助教授、久米篤富山大学助教授には研
究を進める上で貴重なご意見をいただきました。早稲田大学教育学部生態学研
究室及び人間科学部大島研究室の皆様には野外調査や研究に関する検討などで
お世話になりました。長年月のため多数になりますのでお名前を挙げることは
避けますが、合わせて深く感謝いたします。最後に野外調査をさせていただい
た早稲田大学本庄キャンパス、自由学園の皆様に感謝いたします。
- 129 -
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研
究
論文
○(報文)
○(報文)
(報文)
○(報文)
講演
業
績
(1) Contribution of fern gametophytes to the growth of produced sporophytes
on the basis of carbon gain.
Y.Sakamaki and Y.Ino
Ecological Research 14: 59-69 (1999)
(2) Influence of shade timing on an Equisetum arvense L. population.
Y.Sakamaki and Y.Ino
Ecological Research 17: 673-686 (2002)
(3) Two types of matter economy for the wintering of evergreen shrubs in
regions of heavy snowfall.
Y.Ino, T.Maekawa, T.Shibayama and Y.Sakamaki
Journal of Plant Research 116: 327-330 (2003)
(4)Response of non-structural carbohydrates content of belowground parts in
Equisetum arvense L. according to the irradiance change during a growing
season.
Y.Sakamaki and Y.Ino
Journal of Plant Research 117: 385-391(2004).
<国際学会>
Photosynthetic rates and growth of fern gametophytes.
The 5th International Congress of Ecology (Yokohama)
Y.Sakamaki and Y.Oshima
<国内学会>
(1)培養系におけるヒメシダ前葉体の乾物生長に対する胞子体形成の影響
第 47 回日本植物学会大会(東京)1982 年 9 月
坂巻義章、大島康行
(2)物質生産からみたヒメシダ胞子体と前葉体の関係
第 48 回日本植物学会大会(京都)1983 年 10 月
坂巻義章、大島康行
(3)スギナ地上部の存続期間と物質生産
第 32 回日本生態学会大会(広島)1985 年 3 月
坂巻義章、大島康行
- 154 -
1990.9
(4)シダ植物配偶体・胞子体の生理生態学的研究
第 51 回日本植物学会大会(鹿児島)1986 年 10 月
坂巻義章、大島康行
(5)コモチシダ個体群の研究 1、無性芽からの成長
第 54 回日本植物学会大会(仙台)1989 年 9 月
坂巻義章、大島康行
(6)スギナの生育と光条件;可溶性炭水化物量から
第 44 回日本生態学会大会(札幌)1997 年 3 月
坂巻義章、伊野良夫
(7)スギナの栄養繁殖;貯蔵茎と地下茎断片の比較
第 46 回日本生態学会大会(松本) 1999 年 3 月
坂巻義章、伊野良夫
(8)シダ植物配偶体の生産力と胞子体の成長
第 48 回日本生態学会大会(熊本) 2001 年 3 月
坂巻義章、伊野良夫
その他
(報告書)
自然教育園における主要四林分内での土壌呼吸について
自然教育園報告 9: 91−98 1979 年 3 月
坂巻義章、伊野良夫、大島康行
(講演:国内学会)
自然教育園における主要四林分内での土壌呼吸について
第 43 回日本植物学会大会(千葉)1978 年 9 月
坂巻義章、伊野良夫、大島康行
- 155 -
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