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- 1 - 研究成果報告書の要旨 研究代表者 和歌山大学・教授・此松昌彦

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- 1 - 研究成果報告書の要旨 研究代表者 和歌山大学・教授・此松昌彦
研究成果報告書の要旨
研究代表者
和歌山大学・教授・此松昌彦
共同研究者
和歌山大学・教授・中村太和
和歌山医科大学・教授・篠崎正博
和歌山大学・客員准教授・今西武
大規模災害対策と防災教育
要旨
今世紀前半に東南海・南海地震が発生すると言われている。それは東海地方、紀伊半島、
四国などの広範囲にわたって、震度が5もしくは6の揺れが発生すると政府の中央防災会
議で指摘されている。特に和歌山県ではその大災害時に約 600 箇所を越える集落が孤立し、
電気、ガス、情報通信などのライフラインが断絶する可能性があると和歌山県の被害想定
で示されている。そこで本研究では、孤立した集落で、どのような状況になるのかイメー
ジして、その対策として情報通信と避難所運営において地域の素材を利用した提案を行い
地域に対して提言をまとめた。
情報通信として、携帯電話や行政無線機による音声によるだけではなく、ヘリコプター
向けに視覚的に発信する救難サインを提案した。救難サインは要医療サイン、死者サイン、
要救助サイン、要飲食サインの4つに区分される。要医療サインと死者サインは医療での
トリアージに対応させて、色別に緊急なものから順に重傷群Ⅰ、中等症群Ⅱ、軽症群Ⅲに
分類している。この判別では医療従事者が孤立集落に必ず存在するとは限らないため、地
域での訓練を受けたものが判別するプログラムもまとめた。このサインは1m四方の再帰
反射型の素材に印刷し、夜間でも光をあてることで認識できる素材とした。また2m四方
の布に印刷した素材も作成した。そして民間のヘリコプター、和歌山県防災ヘリ、モータ
ーパラグライダーの協力により静止画撮影、動画撮影を行った。その結果、約 300m上空
からの撮影でもズーム撮影ではサインを認識することが可能で、現実的に利用できること
が明らかになった。
避難所運営では死者を弔う意味で、白い段ボールと担架をセットにした簡易棺を製作し
た。阪神淡路大震災では体育館で、遺体を毛布に包んだりして置かれていた。東南海・南
海地震では棺桶が足りなくなる可能性が高い。そこで少しでも遺族感情を配慮したものと
して提案した。
最後に孤立によるイメージをつける。高齢者でも利用できるローテクをもっと防災対策
に利用しよう。地域で非常食を考案しようなどを提言としてまとめた。
- 1 -
研究成果報告書
研究代表者
和歌山大学・教授・此松昌彦
共同研究者
和歌山大学・教授・中村太和
和歌山医科大学・教授・篠崎正博
和歌山大学・客員准教授・今西武
大規模災害対策
大規模災害 対策と防災教育
対策 と防災教育
1
目的
東南海・南海地震が今までの経験則から今世紀前半に発生すると言われている。そのた
め国の中央防災会議は、マグニチュード 8.6 という過去の地震で最大級の被害想定を示し
て東海地方、紀伊半島や四国において震度が5や6の揺れが発生するであろうと述べてい
る(図1)。この被害想定では死者数は約 18000 人、全壊家屋は約 63 万棟、経済的被害
は 57 兆円と想定している。また場合によっては東海地震と同時に発生する可能性もあり、
東海・東南海・南海地震の同時発生も想定した。このようにこれらの海溝型地震は広域に
被害が発生し、津波や土砂崩壊による孤立化が心配されている。そのため地方自治体は防
災対策に取り組んでいる。特に和歌山県においては孤立集落が約 600 箇所を越えるという
被害想定を行っている。
図1
東南海・南海地震震度予測分布予測
- 2 -
中央防災会 議,2003
和歌山県をはじめ中山間地域では、大災害時の孤立化対策が重要なポイントになる。孤
立化とは道路やライフラインが寸断し、まさに孤立して情報や物資の運搬などが断絶する
ことを意味する。特に孤立地域を同時にすべて救助など対応することは現実的に困難であ
る。行政側は約3日間の備蓄対策を個人に望んでいるが、孤立地域によっては約1週間程
度の備蓄と言われ始めている。しかし重傷者に対しては急を要するのも事実である。その
ため、災害医療で行われているトリアージのように孤立地域の救援のための優先順位が必
要になるであろう。そこで本研究では、孤立することをまずイメージしてどのような状況
になるか検討し、それにもとづいてライフラインという平常時の考えから、できるだけ高
齢者にも利用できて、地域の資源(バイオマス、野草など)を利用するライフスポット化
での孤立時における災害時対応システムを提案し、地域で今後検討してもらう素材を提供
することを目的とする。特に情報通信や避難所運営でのツールの提案を行う。
2 実施方法
2.1 従来の研究
申請者の此松、中村、今西は 2005 年に和歌山大学防災研究教育プロジェクトにおいて
開催した、防災合宿 in 熊野川町に参加した。そこでは和歌山県では孤立集落が多くなり、
1週間程度の孤立もあるだろうという想定のもと、和歌山大学、三重大学の教員、学生が
主体となって開催した防災合宿であった。
主催:和歌山大学・三重大学・NPO 共育学舎
共催:和歌山県・三重県・新宮市・熊野川町(現:新宮市)・紀宝町
後援:ノーリツ鋼機・カメラの西本・石橋石油・電源開発
場所:熊野川町(現:新宮市)旧敷屋小学校
日程:2005.8.9~11
そこではライフラインからライフスポットの視点で、地域資源の活用について実証実験
を行った。食料班、エネルギー班、水班、情報通信班、居住空間班に分かれて、課題をそ
れぞれ整理した。詳細については此松・中村が「2005 年防災合宿 in 熊野川での実証実験
―中山間地での災害孤立からの課題と展望―」として和歌山大学防災研究教育プロジェク
トブックレット1号として印刷した(2007 年)。そこで本研究と関連する分野について
当時の展望と課題についてその冊子より以下にまとめておく。
1)救難サイン
昼夜とも明確に判別可能で、実用性はあることは確認できた。河川敷、田畑、グランド
など土地条件に応じてどのような配色が目立つのか、図形の簡素化をどうするのかなどが
今後の課題になる(中村・今西,2006)。
救難サインについては、多くのヘリコプター操縦士が注目している。一般的にはヘリコ
プターは夜間に安全性の課題から飛ばないようになっている。目視で飛ぶために障害物の
危険性から守るためである。しかし災害時など緊急時は自衛隊を初め、防災ヘリ、ドクタ
ーヘリなども飛ぶことがある。そのため夜間用の救難サインは重要になる。夜間時では下
に手ぬぐいでサインを示しても見ることはできない。そこでヘリコプターのサーチライト
で反射する光再帰型はっきり確認することができることから有用性がある。つぎに救難サ
インのデザインが重要になってくる。遠くからの情報がきちんと操縦士等に理解できなけ
れば意味がないのである。
2)丸太コンロ
丸太コンロは火力が強いために災害時のような多人数の料理を作るときに向いている。
またすべて灰になるため埋め立てごみとするごみが残らない。従来の災害地ではガスボン
ベの缶がごみとなり処理で困っている現状がある。参加者からは丸太コンロや薪ストーブ
は大変好評であった。キャンプなどでも使用できるという意見が多かった。
- 3 -
3)食料
一般の非常食だけでは数日間をまかなうことは不可能。現地にある穀物、野菜、保存食
を活用するシステムを日常的に準備しておくことが重要。ポン菓子製造機は、各地に配備
されているがほとんど使用されていない。しかし災害時のお菓子類が不足しているときに
は威力を発揮しそう。配備状況や砂糖以外のまぶし材の開発が必要である(中村・今西,
2006)。
丸太コンロの有効性や救難サインなどの重要性について以上のように指摘され、検討課
題となった。
救難サインについては中村・今西(2006)が初めて提案し、図案についても公表した。
しかし医療従事者との議論やデザイン関係からの視点、航空用救難サインなどとの比較検
討の研究がなかった。そこで 2008 年から防災研究教育プロジェクトの研究として位置づ
け、メンバーとして申請者でもある此松、中村、今西、それに観光サインを手がける北村
元成が参加した。また実際に空からの撮影などが本研究まで、実施されたことがなく、有
用性についてその後の検討課題であった。
2.2 研究計画
本研究では以下のように研究を行った。
●情報通信
ヘリコプター用の救難サイン開発(此松、中村、篠崎、今西)
1)救難サインについての分類を整理していく
共同研究者の篠崎(和歌山県立医科大学)は災害医療の立場から分類について研究す
る。
2)デザインを行い、ノーリツ鋼機で試作品を作成
3)見えやすさ確認のためヘリコプターで確認してもらう
のろし・ほら貝による情報伝達の研究(中村・此松・今西)
中山間地域で実演する。
●中山間地域避難所運営
遺体袋の開発(今西)
死後にでる体液を吸収し、遺族感情の和らぐ遺体袋の試作品を開発する。
香川県の吸収剤を開発している業者と研究打合せ。試作品は県内業者に依頼する。
野草や残った野菜を利用して非常食野菜を検討する(中村、今西、此松)
地域の野菜や野草から保存食を見直し、昔からの利用方法を発掘する。
孤立時の医療対策(篠崎、此松)
和歌山県内の中山間地では高齢者が多い、このような背景をもとにどのような対策が必
要か検討する。
● 避難所マニュアルの編集・印刷(此松、中村、篠崎、今西)
- 4 -
3
結果
調査したことをもとに「孤立中山間地域版防災ハンドブック」を作成し、成果をまとめ
た。これをベースとして報告とする。
3.1 孤立時のイメージ(冊子版から引用)
地震での孤立というと皆さんは、2004 年の新潟県中越地震をイメージするでしょう。
土砂災害によって道路が寸断され、交通の寸断、情報通信の途絶によって山古志村をはじ
めとして孤立集落が 61 箇所発生したのです。それは活断層による直下型地震によるもの
でした。つまり局地的には被害が大きいのですが、活断層より離れると被害が小さくなり
ます。それが今度の東南海・南海地震ではまったく様子が変わります。なぜって図 1-1 の
震度分布予測にあるように東海地方、紀伊半島、四国南岸部にかけて広範に震度6以上が
発生するかもしれないのです。この地震では全国で最大で約 18000 人が死亡し、建物の全
壊が約 36 万棟発生するだろうと 2003 年に政府の中央防災会議で想定されています。さら
に河田恵昭(京都大学防災研究所)氏によると東南海・南海地震の発生によって約 3000
箇所を越える集落が孤立するであろうと述べています(河田,2006)。ちなみに和歌山県
の想定によると約 600 を越える集落が孤立すると言われています。
孤立とは?
では具体的に孤立するとはどういうことでしょうか。前にも述べているように道路が寸
断されるということで、つまり斜面崩壊等によって道路が陥没したり、地滑りによって使
えなくなり、車両による交通が寸断されることです。また多くの道路にそって電気や電話
などのライフラインが構築されていますので、情報通信の断絶、停電によって生活が著し
く困難になることです。食料も運ぶことができません。その意味でも道路そのものが山間
地にとってのライフラインです。
ラ イフラインが途絶すると?
次にライフラインが途絶するということは、どのような状況になるのでしょうか。読む
前にまず自分で考えてみて下さい。
①電話ができない
普通の加入電話では電気はいらない。ただしブロードバンドなどのインターネット回線
を利用するIP電話などは電気がないとつながらない。携帯電話では中継基地が問題なけ
れば使えるであろう(広域停電の場合、バッテリーで1日程度は稼働)。それよりも安否
確認のため電話が集中するために輻輳(ふくそう)することになる。そのため電話事業者
は通話規制により輻輳が広がらないようにする。ようは電話がかかりにくくなる。最近の
携帯電話は通話とメイルなどのパケットは分離しているため、音声は規制しても、パケッ
ト通信は規制していないようです。災害時にメイルでの通信がいいようです。
② 停電する
道路の寸断などによって電線も断線し、当然のように停電する。私たちの暮らしは、電
気抜きの生活は考えられないでしょう。テレビを見ることができないため、情報収集がで
きない。夜になっても電灯をつけることができない。夏の場合は、冷蔵庫が使用できない
ため、食料品にも影響があるでしょう。都市ガスの復旧に比べ、早く復旧しそうですが、
2008 年に発生した岩手・宮城内陸地震で孤立した地区の一部では電気の復旧で約3ヶ月
かかっている地区もあるようです。東南海・南海地震では道路の復旧と連動することを考
慮すると数ヶ月の復旧が必要な場所もあるでしょう。
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③ 食料・医薬品などの運搬ができない
食料を運搬する生活道路が寸断しているために、都会へ買い物などができない。特に備
蓄品が無ければ生活できないでしょう。そうなるとバイクやヘリコプター等による救援物
資の運搬が重要になります。そのため集落によっては拠点になるような地点へ集団で移動
することになるかもしれません。
④ 高齢者等のケアができない
紀伊半島のような中山間地域では高齢者が多く生活しています。病院通いの方や日常の
ケアーを受けながら生活していた方も多いでしょう。このような高齢者や通院者は通うこ
とができません。まちの拠点へ移動して生活しなくてはなりません。また河田恵昭(200
8)さんによると、都市部が被災することによって、道路が正常であっても、ケアなどの
サービスを受けることができなくなり、物理的な孤立と同じ結果をもたらし、集落に居住
できない環境が発生すると指摘しています。
⑤ 高齢者の二次
高齢者の 二次災害
二次 災害
高齢者が多く生活している場所が中山間地域です。そのため当然ですが被災者が多くな
ります。河田(2006)さんによると新潟県中越地震では地震の直接原因で亡くなった人が
16 名に過ぎない。2年後は67名増加しているという。これは死亡者が震災関連死であ
って、ショックストレス、過労死、エコノミー症候群などに起因しているようです。
和歌山県で想定されている被害想定でライフライン部分を引用する。2006 年3月に想
定されたものをまとめた。
交通・輸送施設被害
① 道路施設被害
紀南を中心に多くの被害、山地や海岸を走る道路で被害。
② 鉄道被害
紀南を中心に多くの被害が予測。海岸線の各所で津波による被害。
③港湾施設被害
すべての港湾で津波の影響。県内の大部分の港湾で利用困難。
ライフライン施設
①上水道施設供給支障
紀南から紀中にかけて多くの市町村で地震直後にほぼ 100%の断水率となる。県内では
53.7%の断水率。
② 都市ガス施設供給支障
都市ガス施設供給 支障
岩出町を除いたすべての都市ガスは地震直後に供給停止と予測。和歌山市・海南市・新
宮市において全ての復旧まで2ヶ月以上要する。
③ 電力施設供給支障
電力施設供給 支障
紀南及び沿岸部一帯で地震直後に停電する予測。県内の8~9割が停電するが、1日後
には半数が復旧し、1 ヶ月後に至る前に全域復旧する。
④電話・通信施設機能支障
紀南及び沿岸部一帯を中心に一般電話の機能が低下し、県内の3~4割で通話支障とな
る予測。
3.2 ライフスポットの視点
自然エネルギーという地域にある資源を活用してライフスポットという視点で災害に強
い街づくりや避難所を検討していくことにあるが、以下に基本的な視点をまとめる。これ
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は中村・今西(2006)にまとめ公表した。
① 地域資源を全面的に活用したシステム
地域資源を全面的に活用したシステム
外部資源への依存ができない以上、地域にある資源を活用してサバイバルできるシステ
ムを作ることが必要である。人間の生物的生存に必須の3要素は食料・エネルギー・水で
ある。
食料:現地にある穀物や野菜だけでなく保存食や山野草なども貴重な地域資源。災害に備
えた休耕田の活用も重要。
エネルギー:太陽、風などの自然エネルギーやバイオマスエネルギーの活用が基本
水:浄化・煮沸などの簡易なシステムの整備や雨水や地下水の活用がベース
② 簡易・低コストで地域住民が運用主体になるシステム
一般的にハイテクは巨大災害には本質的に脆弱であり、サバイバルにおいて現場で発揮
するのはローテクである。また自治体職員も被災者となるため、地域住民が主体とならざ
るを得ない。先人たちの知恵・ノウハウをもう一度見直しながら、地域住民主体運用で運
用できる簡易で低コストのシステムを整備することが必要。
③ 日常的に活用しながら非常時に運用可能なシステム
日常的に活用しながら非常時に運用可能なシステ ム
非常時のみを想定したシステムは、一般的に日常での訓練が行われていないと災害時に
利用できない可能性がある。防災システムにおいては日常的に使用しながら、災害時にラ
イフスポットとして活用できるシステムを考えることが重要である。
ライフスポットとして最低限整備することが必要な要素として、食料、エネルギー、情
報伝達、運輸、交通、居住の6項目である。
3.3 孤立時の情報通信
中山間地域の孤立集落では、双方向の情報収集が重要な視点になる。多くの今までの中
山間地域での災害では、ヘリコプターの重要性がいろいろな場所で言われている。しかし
広域災害になった場合にはまったく足らないという指摘もある。ここでは他では研究され
ていない情報についての研究成果を提案する。
3.3.1 ヘリコプター用救難サイン
中山間地域の災害時による孤立化が 2004 年に発生した新潟県中越地震から広く問題視
されている。その後,2005 年に内閣府の「中山間地等の集落散在地域における地震防災
対策に関する検討会」の「提言」 2) が出されて,国,自治体は孤立化対策について現在
まで行っている。特に孤立集落との情報通信が重要な課題となっているが,自治体では
「提言」でも指摘されているように衛星携帯電話の導入が徐々に進んでいる。しかし災害
時のためだけとなると自治体においては財政的な点からすぐに導入できない事情も存在す
る。また中山間地域などからなる孤立集落は過疎の地域が多く,高齢者が多い実情がある。
そのため衛星携帯電話に変わるものとして誰でも簡単に扱える機材が重要になる。たとえ
ば「提言」にもあるようにバルーンやのろしも必要な通信手段となるであろう。特に孤立
集落での情報収集においてはますますヘリコプターなどが重要になるため,有効な方法と
考える。しかし統一されたルールがなければ異常があるのはわかるが,どのような情報な
のか詳細な情報は不明となってしまう。
そこで本研究ではのろしやバルーンの代わりにヘリコプター用の救難用サインを提案し,
多様な情報を送れるように検討したので報告する。現在まで全国で統一されたサインは存
在しないため,これをきっかけに全国的な検討課題になればと考える。またこれからの課
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題である夜間ヘリコプターにも有効なサインとした。
なおヘリコプター用のサインについては,中村・今西(2006) 3) において今西が原型
を提案している。さらに本研究では医療やデザインの専門家を含めて,防災研究教育プロ
ジェクト(担当:此松昌彦、中村太和、今西武、北村元成)と篠崎正博の5名で本研究に
おいて行った成果である。
救難サインのコンセプト
ヘリコプター用救難サインは,中山間地域,沿岸地域などの津波や崖崩れなどで孤立す
るような集落単位で使用することが目標である。それは和歌山県のような過疎地域では高
齢者の方が最低限使用できるものではいけないと考えている。そのためサインの種類が多
くなく,単純であること。災害時の孤立集落で必ず必要な情報発信であることで検討した。
そこで以下の4点に分類した。
①要医療サイン:急を要する観点から負傷者対応のサイン
②死者サイン:救命不可能なものを示す
③要救助サイン:倒壊などでレスキューを必要とするサイン
④要飲食サイン:飲料水や食料の必要だというサイン
他の航空用サインとの比較
既存の航空用の標識と今回のサインが類似していては重大な誤解を招き混乱を発生しか
ねない。調査したところ国際民間航空機関(ICAO)の対空目視信号 4) が存在する。これ
は航空機による捜索救難活動を行う際に,地上の遭難者などが,上空の航空機に対して簡
単なシンボルマークを木の枝や石を用いて作成したり,地表に描くことなどにより,メッ
セージを伝える信号の国際基準となっている。類似する記号は,これと一部意味を重なる
ようにして作成した。
ヘリコプター用救難サインについて
提案するサインは図2に示した。サインの詳細については図内にコメントとして挿入し
た。
(1)要医療サイン
要医療サインの特色として,トリアージタッグのカテゴリーに色を合わせた。赤,黄,
緑の3種類に縦線1本にした。トリアージタッグではカテゴリ I,II,III が記載されて
いるが,遠方では縦線の並びは理解しにくいことから1本にしている。対空信号において
も縦線1本は医者必要の意味を示す。
(2)死者サイン
トリアージタッグにおいても黒が使われており合わせている。カテゴリーで O であり,
類似した□にしている。
(3)要救助サイン
黄赤(オレンジ)で「R」の白抜き。レスキューを必要とすることを示す。旧バージョ
ンではhとしていた。
(4)要飲食サイン
飲食品が必要であることを示し,「Food and Drink」から「F」を使った。
(5)人数サイン
人数を把握することができるように数字サインも提案する(図3)。これは電卓数字の
表記のようにドット部(白)と青地のベース部(下部を示すアンダーラインがある)から
構成される。
- 8 -
図2
救難サイン
- 9 -
図3
数字サイン
救難サインの掲示例
救難サインは上下がわかるように、上にブルーシートなどを利用して三角を作り、頂点
を下に向けて、サインと数字を組み合わせて利用する(図4)。
- 10 -
図4
救難サインの掲示例
再帰反射型救難サインの使用実験について
救難サインは避難所などのグランドや空き地,草地などで使用することを前提にしてい
る。できるだけ広い場所であまり,原色の無い場所に敷くのが理想である。今回のサイン
はモデルとして 128cm角の超広角(14°)再帰反射素材のシートに印刷し利用した(写
真1)。
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昼間の実験では確認者とサインの
距離を 300m離して、見え方につい
て確認した。つまりヘリコプターが
高度 300mより飛行している想定で
行った。その結果,サインは肉眼で
色や模様を確認できた。
これからの想定される夜間飛行の
ために夜間における実験も行った。
ここでも 300m離して,車のヘッド
ランプの光を充てて確認した。肉眼
では色は誰でも理解できた(写真
2)が, 形体については個人差が
あった。
なお現時点では、夜間飛行は自衛
隊や海上保安庁のヘリコプターが主
体で、一部自治体の防災ヘリが行っ
ているだけである。将来的には各自
治体のヘリコプターでも可能なよう
に準備しているそうであるが、費用
や設備の点ですぐにはできないそう
である。基本的な有視界飛行のため、
山間地域に入ると送電線などがあり
非常に危険となるそうだ。
布印刷した救難サイン
約1m角の救難サインでは確認し
にくい可能性もあり、大型インクジ
ェットプリンターを利用した2m角
の布印刷した救難サインも製作した
(写真3)。
再帰反射型救難サインに比べて大
きく印刷可能で、費用的にも相対的
に安く、普及版として多く生産可能
である。
写真1
再帰反射型救難サイン
図3
写真2
写真3
夜間のサイン
夜間での再帰反射型救難サイン
布製の救難サイン(2m角)
ヘリコプターによる救難サインの確認実験
本研究では、実際にヘリコプターを飛ばすことにより空撮を行うことができた。はじめ
に 10 月に紀の川市鞆渕の中山間地域において民間ヘリコプターの協力により動画撮影を
行った。このヘリは2名のりのため、パイロットとカメラマンだけであり、ハイビジョン
カメラを用いてビデオ撮影を行った。静止画撮影は1名だけのカメラ担当者のため、でき
なかった。ビデオ撮影にしたのは、できるだけ肉眼に近い状態にしたかったため、きれい
に撮影できる静止画カメラ撮影を選ばなかった。なおビデオ撮影ではズーム撮影は行わず
標準のままで撮影した。ビデオ撮影動画ファイルから静止画にファイル変換した写真を写
真4とした。高度は約 200m程度である。
- 12 -
その結果、ズーム撮影ではな
い場合で、1m角の救難サイン
は色の判別がなんとかできる程
度で、図形の認識はできなかっ
た。また 2.7m角のブルーシー
トの図形は確認できた。約5m
角の石灰の白線で描いたサイン
は確認した。
これらのことからズーム撮影
ができれば問題ないのではない
かと展望を持つことができた。
この時点では布製の救難サイン
を作成していなかった。
写真4 鞆渕小・中学校での救難サイン
2回目の 11 月には片男波に
おいてモーターパラグライダーによる空撮
を行った。和歌山県フライヤー連盟の協力
のもとで、約 200m程度上昇して静止画の
ズーム撮影に成功した。それによって約1
m角の救難サインを認識することができた
(写真5)。
シャッタースピードが遅いとぶれた写真
撮影になることもわかり、可能な限りスピ
ードの速い撮影が重要だとわかった。
3回目は1月に行い、和歌山県防災ヘリ
の協力のもとで、写真撮影ができた。そこ
では約 300m 上空からでも静止画で 10 倍ズ 写真5片男波海岸での救難サイン
ーム撮影によると問題なく、1m角、2m
角の救難サインを認識することができた。
写真6は紀美野町において約 200m上空か
ら撮影したものだ。小さいサインが1m角
のものである。
これらの結果、防災ヘリの常備している
カメラでの撮影で救難サインがきれいに認
識可能なことを明らかにすることができた。
救難サインを今度は実際の防災訓練で利
用してもらい、使い方の課題などについて
今後は検討したい。
なお 11 月に地域安全学会にて一部を発
写真6紀美野町での救難サイン(ズーム使用)
表した。(此松・他,2008) 5)
3.3.2 備蓄燃料、丸太コンロを使用した狼煙(のろし)について
ライフラインが破壊された時、緊急時の熱源として使用される備蓄燃料の丸太コンロは
狼煙としても使用できる。大地震などの大災害により孤立化した中山間地域の被害状況を
空から情報収集するために偵察飛行を行う自衛隊のヘリコプターや和歌山県の防災ヘリコ
プターなどに対し被災者がいるという存在を知らせるための救難サインの一つである狼煙
- 13 -
として使用できるのである。
但し、丸太コンロを狼煙として使用する
場合、事前に丸太コンロに手を加える必要
がある。それは丸太コンロに水を掛けるな
どして丸太コンロに十分に水分を含ませる
必要がある。そのことにより丸太コンロを
燃焼(注:燃焼方法は丸太コンロの燃焼方
法と同一)させた時に丸太コンロに含まれ
た水分が水蒸気となり大量の白い煙を発生
させるのである。その白い煙が狼煙の機能
を発揮するのである。
丸太コンロを使用した狼煙(のろし)の検
証実験は、11 月の和歌山県紀の川市鞆渕
小学校で行われたヘリコプターを使った救
難サインの検証実験において行われた。予
想通り大量の白い煙が発生し、水を含ませ
た丸太コンロが狼煙として十分機能を発揮
することが確認できた。
写真7
写真8
丸太コンロ
丸太コンロによるのろし
3.3.3 ランドマーク
現在の紀の川市、旧貴志川町の公共施設の建物の屋上に災害時に上空から被災状況を把
握するためにサイン(ランドマーク)を設置した事例がある。そのサインは旧貴志川町役
場をはじめとして小中学校、生涯学習センター、コミュニティセンター、浄水場などの1
1ヶ所に設置された。
残念なことにこの事業は既に終了し、現在は行われていない。紀の川市総務部消防防災
課にこの事業の詳細を尋ねてみたところ紀の川市にその資料が残っていないので詳細は不
明とのことであった。
大災害時に空からの情報収集が重要度を増す現在にあって旧貴志川町で行われていた空
からの情報収集のためのサイン(ランドマーク)設置の事業を検証し、今後の防災活動に
参考にする必要があると思われる。
3.3.4 手旗信号
大災害時、電源がなくても使える情報伝達手段の一つとして手旗信号が考えられる。
手旗信号について和歌山海上保安部にヒアリングを行ったところ、手旗信号は IT 情報
機器の飛躍的な発展により現在では殆ど使用されていないとのことである。手旗信号の使
用方法について尋ねてみたが、手旗信号のサインの組合せが複雑で手旗信号の使い方を完
全にマスターすることは非常に難しいとのことであった。
したがって地域住民が大災害の時の情報伝達手段としてこの難しい手旗信号の使い方を
マスターすることは容易ではないと思われる。このような点から空からの情報収集のため
に手旗新号をサインとして利用することは現実的に難しいと思われる。
- 14 -
3.4 中山間地域の避難所運営でのツール
中山間地域での孤立集落では、避難所と
なるような拠点が必ず必要になる。みんな
が一緒にいるほうが安全であり、安心であ
る。避難所運営方法については、自治体な
どがマニュアルを作成しているが、この研
究では、他ではない、地域資源を利用した
ものを提案する。
3.4.1 和大式丸太コンロきいぷ
避難所の備蓄燃料として開発に取り組ま
れたのが丸太コンロである。丸太コンロは
当初、和歌山県内からでる端材などの未利 写真9 燃焼している丸太コンロ
用木質資源を、燃料として有効活用する目
的で開発が進められていた。開発途上で、
この丸太コンロの火力、燃焼時間、使い勝
手の良さ、安全性をもってすれば、避難所
の熱源として最適だと考えた。そこで和歌
山大学防災研究教育プロジェクト・防災グ
ッズ開発チーム(2004 年 4 月発足)は、
丸太コンロの開発に本格的に取り組み、改
良を重ね、避難所の備蓄燃料及び簡単な調
理器具としての丸太コンロの基本モデルを
完成させた。
ここで丸太コンロの概要を説明する。丸
太コンロの寸法は、直径約 30 センチ前後、
写真 10 丸太コンロの制作
高さ約 30 センチ前後の丸太である。形状
はフリーサイズであるが、上記の寸法が使
いやすく、手頃な寸法である。丸太コンロの丸太は主に杉の端材を利用しているが、樹種
は問わない。あらゆる木の端材が丸太コンロの材料として利用できる。
丸太コンロの燃焼時間は、約1時間 30 分である(写真9)。丸太コンロは、簡単に着
火でき、丸太の中心部から外側に向かって燃焼する。燃焼する丸太上部に火ばさみを置い
て、ヤカン、鍋、金網、鉄板、フライパンなどの調理用具を乗せれば、湯沸しから始まっ
て料理全般(煮物・焼き物・揚げ物など)ができ、簡易調理器具として使用できる。一度
着火すると強風のなかでも火が消えず、火勢も衰えず燃焼し続けて、火の粉も飛散しない。
また、燃焼している時でも丸太コンロを両手に持って持ち運びもできる。
丸太コンロの製作方法・丸太上部の加工
①丸太上部の外側の円周の縁から約5センチ程度を残し、チェーンソウを使用して、丸太
上部から下部に向かって垂直にスリットを入れる(写真 10)。スリットの深さは上部
から下部に向かって約三分の二程度の深さにする
②次々に①と同様にチェーンソウを使用し、丸太の上部から下部に向かって垂直にスリッ
トを入れていく。
丸太を上部から見ると外側の円周の縁から約5センチ程度を残し、スリットが格子状に
入っている状態になる。
丸太コンロの製作方法/丸太下部の加工
① 丸太下部の外側の円周の縁から約 10 センチ程度を残し、チェーンソウを使用して、丸
- 15 -
太下部から上部に向かって垂直にスリットを入れていく。スリットの深さは下部から約
三分の一強の深さにする。
②次々と①と同様にチェーンソウを使用し、4~5 本スリットを入れていく。スリットの
深さはいずれも下部から約三分の一強の深さまで入れ、上部から入れられたスリットと
交わるように入れていく。その理由は、丸太下部のスリットから上部のスリットに向か
って空気の通り道を確保するためである。
3.4.2 薪ストーブ
もう一つの備蓄燃料として薪があげられる。未利用木質資源の代表格である間伐材や木
の端材を薪として利用する。薪は、一昔前まではどの家庭でも燃料として利用されていた
優れた燃料の一つである。それを災害時の避難所の熱源として利用しない手はない。その
薪を利用する場合、効率よく燃焼させるためにシンプルな構造で実践的な薪ストーブが必
要となる。そのために和大チームは薪ストーブの開発にも取り組んだ。
薪ストーブの製作方法
薪ストーブの部材は、全て鉄でできている。その製作方法は、まず、一枚板の鉄板を折
り紙細工のように長方体に折り曲げ溶接する。そして長方体の前方に開閉が自由な大きめ
の薪の投入口と空気吸入調整口を取り付ける。長方体の後方に煙突部を取り付け蓋をし、
四隅に足をつける。ただこれだけである。
非常にシンプルな構造である。
この薪ストーブの特徴は、ストーブ上部
の天板の着脱が可能なことである。例えば、
一枚の天板は、上部に鍋やフライパンを乗
せて調理ができるように円形の穴が2ヶ所
あけられている。もう一枚の天板は、フラ
ットな鉄板の一枚板で、焼きそばや焼肉な
どが簡単に調理できる。
この薪ストーブは非常に火力が強く、家
庭用ガステーブルと比較して勝るとも劣ら
ない調理機能を持つ。また、鉄製にしては
軽量・コンパクトな仕上がりで、持ち運び
が自由にできるように作られている。さら 写真 11 薪ストーブ
に、丈夫・安全・安価で、燃料の薪の熱効
率の良さを最大限引き出せる。丸太コンロ同様、災害時の調理器具として十二分に威力を
発揮することができる。また、暖房機能も非常に優れており、避難所生活に最低1台用意
しておけば厳しい冬の寒さを凌げるだけの強い暖房能力を有している。
3.4.3 電気
ライフラインの中でも電気は重要である。今の現代社会では電気がないと炊飯すらでき
ない状態になっている。米と水があってもである。その意味で電気が途絶した場合は、生
活が困難になる。情報収集としてテレビ、ラジオなども必要である。そのため避難所では
自家発電機を設置しているところが多くなっている。しかし自家発電機はガソリンやディ
ーゼルを使うことが一般的である。エンジンは普段から使用していないといざという時に
使えない。防災訓練しか使用していないということもある。そこですぐには困難でも方向
性として以下のような方法を課題として検討するように考える。
普段使っているものを発電機に(草刈り機発電機)(冊子から引用)
災害時には自家発電機を使えばよいのですが使えないこともあり、また高齢者はなかな
か使いたがりません。そこで発想したのが高齢者でも使っている草刈り機を発電機にして
- 16 -
しまおうという発想です。エンジンの回転
でカッターを回転させているわけですが、
それを歯ではなくモータにつけてしまおう
ということです。これなら普段でも使って
いるためエンジンの調子が極端に悪くなる
ことはありません。これは和歌山県紀美野
町にあるみさと天文台の豊増伸治研究員ら
が開発したシステムです。安定して 100W
程度は充分だそうです。
また最近ではハイブリッドカーでも発電
することができるそうです。電気を地域で
発電するという発想がこれからは重要にな
ってくると予想されます。
写真 12
草刈機発電機
3.4.4 非常食の確保:保存食と山野草の活用
災害時の非常食としてはアルファ米を中
心に多様なものが市販されている。災害に
備えて一定量の備蓄は必要であるが、価格
などの点からも大量の備蓄は困難であり、
地域にある既存の食料資源を災害時に活用
するシステムづくりが必要である。
保存食の活用
地域の気候・風土に対応して、日本各地
には漬物、かきもち、干物、燻製など多様
な保存食(写真 13)がある。和歌山では
なれ寿司、梅干、ゆべしなどが代表的であ
る。これらは地域の特産品にもなっている
が、災害時の非常用食料として再評価する 写真 13 かきもち、干し柿、ヤギのチーズ、鹿
ことが必要であろう。
肉の燻製(3年以上保存しています)
プロジェクトでは、有田川町(旧吉備
町)の共同作業所の協力を得てインスタン
ト・ラーメン用の乾燥野菜を試作した(写
真 14)。長期の避難生活においては野菜
はきわめて貴重な食材であるが、生野菜の
長期保存は困難であり、代替品としてネギ、
もやし、メンマ、ナルトからなる乾燥野菜
を作って試食をした。乾燥させたしいたけ、
トマトなどは日本料理やイタリア料理の重
要食材であるが、多様な乾燥野菜を開発し
て日常の調理に使いつつ災害時の非常食と
して活用する意義は十分あると思われる。
山野草の活用
写真 14 乾燥野菜
七草かゆ、タラの芽、ふきのとうなどの
山野草は日常生活でも活用されているが、
地域にはヨモギ、タンポポなどに代表される食べられる山野草が豊富にあり、災害時には
貴重な食材になる。タンポポはおひたしや天ぷら(写真 15)だけでなく、乾燥させた根
- 17 -
を焙煎すればタンポポ・コーヒーになる。おいし
いだけでなく、滋養強壮効果をもつ健康食品であ
る。
教育学部生物学教室の調査では和歌山大学栄谷
キャンパス内には食べられる山野草が 100 種類以
上あり、プロジェクトでは学生の協力を得て山野
草のリストを作成し、大学祭で実際に料理を作っ
て来場者に提供した。試食した人たちの反応はき
わめて良好であり、調理のレベルを上げれば新た
な郷土料理として開発することも可能と思われる。
ポン菓子
中山間地域に存在するもので、あまり使用され
ていないものがある。それはポン菓子製造機であ
る。配備状況の調査を行う必要がある。
写真 15
山野草天ぷら
写真 16
ポン菓子製造機
3.4.5 担架、遺体袋、段ボールを使用した棺の作成
阪神淡路大震災では一瞬にして約6000名の人々が亡くなった。未曾有の大災害とい
うこともあり亡くなった方の遺体は急きょ学校の体育館や公民館に搬送され、遺体は毛布
に包まれ体育館や公民館の一角のフロアに置かれた。とても遺体を安置したとは言いがた
い状態であった。そして遺体処理(検死から火葬に至るまで)に随分と時間を要し、被災
後の数日間は棺桶の手配さえままならない状態が続いた。その間、遺族は随分、辛い思い
をし、そして嫌な思いをした。
このような大災害時の遺体の扱い方や対応方法についての記述や記録は少なく、また行
政の防災マニュアルにも詳しく書かれていない。しかし大地震などの大災害が一たび発生
すれば多数の人々が亡くなることは避けることはできない。したがって大災害が発生した
時に遺族感情に配慮した遺体の扱い方や対応方法を知っておく必要があり、また災害時用
の担架、遺体袋、棺を準備しておくことも必要となる。
このような点をふまえ今回、災害時用の①担架②遺体袋③段ボウルを使用した棺の製作
を新たに行った。
①担架
今回、担架の縦に長い二本の棒は厚手のステンレス製のパイプを使用し、担架の横棒と
して使用するために短いステンレス製のパイプ三本を新たに作成し、長い二本の縦棒とジ
ョイントさせる工夫を行った。その理由は、従来から使用されている担架の長い二本の縦
棒だけでは、けが人や遺体の体重(成人の体重/約70キロ程度として)を大人二人で運
ぶことは難しいからである。担架に横棒を使用することにより多人数で担架を運ぶことが
容易になり、けが人や遺体の搬送は非常に楽になる。
そして横棒の上に市販されているコンパネを縦二分の一にカットして担架の台として使
- 18 -
用した。コンパネは細工が
簡単でしかも丈夫で安価で
ある。担架の台としては最
適と思われる。
図5 担架
②遺体袋
通常、警察、病院、葬儀社などで使用されている市販の遺体袋の多くは種類も少なく、
ポリ製やビニール製の物が多い。当然のことながらそれらは災害時に遺体を数日間、安置
することを想定して作られてはいない。単に事故や事件で亡くなった遺体を事故現場や事
件現場から収容することを目的として作られているのである。したがって数日間、遺体を
収容するための作りにはなっていない。
阪神淡路大震災のような大災害の場合、遺体処理を迅速に行うことが困難になり、数日
間を要することが十二分に考えられる。また阪神淡路大震災のような規模の大地震が夏場
に発生するとライフラインが破壊されクーラーも効かない体育館などに遺体が収容され、
安置された遺体は蒸し暑さのために腐敗が進むことになる。腐敗が進むと遺体からは屍液
が滲み出す。その場合、ポリ製やビニール製の遺体袋の内部に屍液が溜まり悪臭も発生す
ることになるであろう。また遺体袋の代わりに毛布などを使用した場合、屍液は毛布から
外に滲み出すことになる。想像するだけで恐ろしい光景が体育館に現れることになる。こ
のようなことから最低限、遺体袋に屍液を吸収するための工夫が必要となる。
そこでこの屍液を吸収するために今回作成した遺体袋には市販されている非常に吸水性
の高いポリマー製の犬猫のペットシートを使い、幅広いシートを作成し、遺体袋の中に敷
くことにした。このシートにより少なくとも遺体から滲み出す屍液は全て吸収されること
になると思われる。大災害時にこの遺体袋は緊急避難的に役立ち、前述したような最悪の
事態は少なくとも回避することができると思われる。
図6
遺体袋
- 19 -
③段ボウルを使用した棺(図7)
阪神淡路大震災の際には遺体を安置するための棺の手
配もままならなかった。そのような課題を解決するため
に緊急避難的に使用できる段ボール製の棺を作成した。
遺体袋や毛布に包まれた遺体をそのまま体育館などに
安置することは悲しみに沈む遺族感情を無視することに
なる。段ボウルという素材を使用しているが見た目にも
棺らしい体裁が整い、形式的な扱いになるがせめても棺
の体裁が整えば悲しみに沈む遺族感情に配慮することが
できると考える。
図7
3.5
段ボール棺
孤立集落の医療
孤立集落は必ずしも病院や医院などがあるとは限らない。また医療従事者がいるとも
限らない現状があり、認識しておく必要がある。それを前提で救急医療対策をする必要が
ある。活断層などの局地的な災害であれば、医療従事者がヘリコプターなどで、被災現場
へ入り、トリアージをすることが可能である。しかし広域で、和歌山県内で約 600 箇所を
越える集落で孤立し、けが人などがいると想定するとヘリコプターや医師の数が足りない。
そこで集落でトリアージする訓練を行っておく必要がある。
災害時の多数傷病者の重症度判別法と色による重症度表示
2004 年の新潟県中越地震は高齢者や子供を中心に 68 名が死亡した。都会ではないため
に被害は少なかったが、山崩れや土砂崩れで鉄道・道路が至るところで分断され、また電
気、ガス、水道、電話、携帯電話、インターネットのライフラインも破壊された。わが国
では地震のみでなく津波、台風、豪雨、洪水、噴火など風水害による災害が多く、これら
の災害では地滑り、山崩れ、崖崩れなどで道路や鉄道が分断され、また通信網も寸断され
応急処置をした後、この孤立した災害現場から救命のために傷病者を病院へ運ぶことが最
初にしなければならないことである。
神戸淡路大震災で多くの死傷者が出たのは初期の救急対応が悪かったのが原因のひとつ
に上げられた。この大震災を教訓として国および医療機関は、災害医療救援隊(DMAT)が
組織され、24 時間以内に災害現場への派遣することができるようになり、また防災・消
防ヘリやドクターヘリが整備され、自衛隊機とのコラボレーションにより傷病者を広域に
搬送することもできるようになり、また情報網の整備により多数の傷病者を受け入れるこ
とができる病院体制が整えられた。しかしながら、陸の孤島となった時に被災地での傷病
者を救出するためには、傷病者数の把握とその情報を伝達し、ヘリコプターなどでの被災
地からの治療を受けられる救護所や病院への搬送が救命につながる。
- 20 -
図8
一般住民のためのトリアージ方式
ここでは一般住民にでもできる災害時の重症度判定の方式について述べる。
【傷病者の重症度判別法―トリアージについて】
救急災害時に傷病者の重症度や治療順位をわける方法をトリアージと言う。語源はフラ
ンス語でナポレオン時代に戦争で多数の負傷者が出たときに、治療を行えば戦列に復帰で
きる軽症負傷兵から優先的に治療し、瀕死の負傷兵は治療の対象とせず、見殺しにした“
命の選別法”である。トリアージはその後、イギリスやアメリカでも採用され、軍事医学
の基礎となっており、また災害時の多数の傷病者が発生したときに、限られた医療資源の
中での治療順位を決める方法として、全世界で用いられている。災害医療では、トリアー
ジ(Triage)を行い、重傷者から順に処置(Treatment)を行い、重症者から順に搬送(T
ransportation)する3’Ts の方式が取り入れ、普及している。
トリアージの分類と色は万国共通であり、赤は重症群Ⅰ(最優先治療群)、黄色は中等
症群Ⅱ(非緊急治療群)、緑は軽症群Ⅲ(軽処置群)、黒は死亡群(0 不処置群)あるい
は瀕死状態であることを示す。また、救命処置、搬送および治療の優先順位はⅠ、Ⅱ、Ⅲ、
0 の順である。
【トリアージの方式】
トリアージを行うには、外傷の診断などの知識を持ち、救急医療や救護活動の経験を持
った人が混乱の災害現場で多数の傷病者を呼吸、循環および意識状態から迅速にトリアー
ジを行う方式や病院内での呼吸数の測定、血圧脈泊数の測定、意識レベルのチェック、外
傷の部位や程度から行う質の高いトリアージ方式などがある。しかしながら、孤立した地
域でのトリアージをするためには、必ずしも医療従事者や救急活動の経験をもつ人がいる
とは限らないので、重症度判別の正確性より、わかり易く、簡便的な方式が望まれる。ア
メリカで開発された多数傷病者のトリアージ方式である歩行、呼吸、意識状態の4項目を
用い、一般住民でもトリアージができる方式を図8に示す。
一般住民のトリアージ方式として、第 1 に歩けるか、歩けないかの2群にわけ、歩ける
人は軽症群Ⅲ(緑)とし、第2に歩けない人を呼吸状態から3群にわける。息が正常であ
り、顔色が良く手足が冷たく無ければ中等症群(黄)、息が苦しそうで顔色が悪く、手足
が冷たければ重症群Ⅰ(赤)、とし息をしていなければ、死亡しているとして死亡群 0
(黒)とする。第 3 に意識状態をチェックする。ぼんやりしている、受け答えがはっきり
- 21 -
しない、呼んでも返答がないなどの意識障害があれば重症群Ⅰ(赤)に分ける。また、各
分類群においても子供、妊婦、老人、病人は処置や搬送が優先される。
一般住民のためのトリアージ方式を普及させるためには、小中学校での必須教育、一般
住民への啓蒙活動が必要であろう。
3.6 防災ハンドブックの制作
本研究でまとめた研究成果を一般住民向けにアレンジして制作した 6) 。特に視点とし
て地域の素材を利用することに注目した。自分たちで地域を何とかしていこうという気持
ちになってくれるような仕掛けを入れている。地域活性化とセットで考えていかないとい
けない。防災自体がまちづくりであることを認識してもらう必要がある。
4
まとめ
本研究によって孤立集落への課題が明らかになった。それらから孤立集落の住民へ提言
としてまとめた。これは冊子に挿入している。
1.孤立によるライフラインの途絶をイメージできるようにしよう
2.丸太コンロのような地域を活性化させる素材を使おう
3.高齢者でも利用できるローテクをもっと防災対策へいかそう
4.情報発信のために救難サインを活用しよう
5.地域で非常食を考えよう
6.災害時には近くに医療従事者がいないこともある。そのためにも地域住民でト
リアージできるようにしよう
7.普段からの地域のコミュニティーは重要です。図上訓練などでお互いにいろいろな
課題について話ができるようにしよう
参考文献
1)此松昌彦・中村太和 2005 年防災合宿 in 熊野川での実証実験,和歌山大学防災研究教
育プロジェクトブックレット1号, 18 頁, 2007
2) 中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会提言, 27P,2005.
http://www.bousai.go.jp/oshirase/h17/chusankan_teigen.pdf
3) 中村太和・今西武, 巨大地震にどう備えるか.和歌山大学経済学会 経済理論, 第 3
30 号, 21-47, 2006
4) ICAO(国際民間航空機関),対空信号, http://www.jmcy.co.jp/~goto/hitori/
chisiki03.htm
5)此松昌彦・中村太和・北村元成・今西武・篠崎正博,災害時におけるヘリコプター用
救難サインの提案,地域安全学会梗概集,23 号,39-40 頁, 2008
6)此松昌彦 編集 孤立中山間地域版防災ハンドブック, 防災研究教育プロジェクト,
60 頁 2009
- 22 -
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