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理工系研究留学生のカタカナ語学習の 効率化を意図した調査分析

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理工系研究留学生のカタカナ語学習の 効率化を意図した調査分析
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福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
調査報告
理工系研究留学生のカタカナ語学習の
効率化を意図した調査分析
福島大学共生システム理工学類教授 入戸野 修 独協大学国際教養学部言語文化学科非常勤講師 武 田 明 子 ため,その原語が英語とは思えないほど,実際の発音
とはかけ離れて表記され,表音文字で表記されたとお
りの発音からはとても原語を直接類推できるとは言え
ないことが多いからである。
第三の理由としては,カタカナ語が乱用されている
ことである。一読して意味が明らかでないカタカナ語
はじめに
著者ら(2002,2003,2005,2009,2010)はこれま
で科学技術研究留学生が習得し難い日本語(漢字およ
び複合動詞など)を中心に,これを難しいと感じる理
由,およびどのような語を抽出して学んだら学習の効
率化が図れるかについて調べてきた。今回はその調査
研究の延長線上でカタカナ語に注目した。
日本語を第二言語として学習する学習者からは漢字
圏であるか非漢字圏であるかにかかわらず,カタカナ
で書かれた語(以後カタカナ語と呼ぶ)は学習し難い
という声がある。その理由は大きく分けて以下の3つ
である。第一の理由として,日本語学習者がカタカナ
が氾濫しており,読んで直にその内容が正しく理解で
きるものばかりではない。たとえば,
「デフォルト」
(ま
たは,デフォールト)と書いてある場合,どれぐらい
の人が理解できるだろうか。これを「規定値」または「初
期値」と書けば,どんなものかを推測できる。しかし,
困ったことに「デフォルト」の意味はそれだけではな
い。経済用語としての「デフォルト」とは「債務者が
約束の期日までに借金を返せなくなった状態。また,
企業の破産や会社更生法が申請された状態」(『例解新
国語辞典』2006)を意味する。この場合は「債務不履
の「読み」に習熟していないことが挙げられる。彼ら
は最初に平仮名を学び,それに習熟してからカタカナ
の習得に進むため,カタカナよりは平仮名の方が読み
易い。また,日本語の基本は漢字平仮名交じり文であ
るため,平仮名に比べるとカタカナは親しみが薄く,
読み難いと言える。
第二の理由としては,使用されているカタカナ語の
原語が英語であることが挙げられる。英語が理解でき
ない者,または不得意な者にとっては,英語とカタカ
ナで記述される語を結びつけて理解することは難し
く,新出する漢字の語と同様に,カタカナ語も出現す
行」と書けば,一般人でもその意味するところが推測
できる。その上,カタカナ表記に長音符「ー」があっ
たりなかったりと必ずしも統一されていないので,
「デ
フォルト」と「デフォールト」を類似した異語だと理
解するかもしれない。
このようなカタカナ語の氾濫の中で,第二言語とし
て日本語を学習している学習者は,カタカナ語とどう
向き合えば良いだろうか。本研究では,特に理工系分
野の研究留学生を対象とし,彼らがどのようにカタカ
ナ語を学べば効率が良いのかについて,資料の収集と
るたびに覚えなければならない新出語となる。だから
といって,英語が母国語の者,あるいは日常的に使用
分析を通して考察する。
できる者であっても,カタカナ語が問題なく分かると
言うことにはならない。カタカナ語の発音はきわめて
日本語的であり,
「ティ,トゥ,ヴ」などの外来語音
を用いるとは言っても,子音に母音を補って発音する
1.外来語とカタカナ語
カタカナとは仮名文字の一つであり,アイウエオ…
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理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
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などの形の仮名をさす。「平安時代の初めに,漢字の
一部分をとって造られた表音文字」(
『例解新国語辞
3.この『外来語の表記』は,固有名詞など(例え
ば,人名,会社名,商品名等)でこれによりがた
典』2006)であり,「主に,外来語や動植物を書くの
に用いられ,字形を漢字の一部分から取ったものであ
る。それで,完全ではないとの意味から <片(=不完
いものには及ぼさない。
4.この『外来語の表記』は,過去に行われた様々
全)仮名> と書かれる」
(『現代国語例解辞典』2001)。
たとえば,平仮名「あ」が「安」の全体をくずしてで
きているのに対し,カタカナ「ア」は「阿」の左側部
な表記(「付」参照)を否定しようとするもので
はない。
結局,「デズニーランド/ディズニーランド」,
「メール/メイル」,「パラメター/パラメーター」,
「バイオリン/ヴァイオリン/ヴァイオリーン」と,
幾通りもの表記が可能であるということになる。日
分を取ってできている(
『日本語百科辞典』1998)。
本章では,カタカナとはどのような機能をもち,具
体的に何を書くときに使用されるものであるのか,あ
るべきなのかについて,理工系分野の研究留学生の目
本人でもどう書いたらよいのか迷うのであるから,
第二言語として日本語を学んでいる学習者にとって
は悩みはさらに深く,「よく分からない」,「理解し
にくい」という不得意意識を誘導することになる。
線を意識して整理する。
1.
1 カタカナ表記の基本的な役割
カタカナ表記の最も基本的な役割は,
文化庁の『公
用文の書き表し方の基準(資料集)
』(2001)に明記
されているように「外来語の表記」である。しかし,
内閣告示第二号に「一般の社会生活において現代の
国語を書き表すための『外来語の表記』の拠りどこ
ろを,
次のように定める」
と内閣総理大臣の名によっ
て宣言されているのに,その前書きは以下のように
例外を認めることを前面に押し出しているという矛
盾を含んでいる(1と5は省略)
。
2.この『外来語の表記』は,科学,技術,芸術そ
の他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそ
うとするものではない。
その上,現在ではカタカナ表記には様々な役割が
あるとされている。『例解新国語辞典』(2006)の
209ページに「ことばの知識」としてカタカナの機
能が分かりやすく解説してある。ここでは,本研究
の視点(理工系研究留学生のカタカナ学習の効率化)
から,その全体の骨子を表1のようにまとめた。
このように,カタカナは外来語を日本語発音で表
記するだけでなく,漢字表記や平仮名表記とは異な
る印象づけを意図して,読み手の注意を喚起する役
割を担うように変化している。すなわち,時に強い
印象を求め,時に省略した歯切れのよい言い回しを
求め,時に新語を作るといったような,多様な働き
をするものに変容している。たとえば,「危機一髪
表1 カタカナの機能
⑴ 文章を読みやすくしたり,特別の効果をあげたりする。
ドカン⒜という大音響と共に,ビル⒝の窓ガラスが砕け散った。モウモウ⒞たる白煙の奥に,
メラメラ⒟と赤い火が見える。
⒜:大きな爆発音を模写した擬音語
⒝:ビルディングという外来語の日本式省略語
⒞⒟:感じ取った様子を表す擬態語
⑵ 洒落た感じを醸し出す効果を出す(流行語として使用される)
リッチな気分にひたる・ナウい服装の人・ガッツのある人
⑶ 日本語と外来語を混じった上に省略されてできた混成語
ダントツ(断然+top)・ピンボケ(brandpunt+惚ける)
⑷ 難しい漢語を避ける
青天のヘキレキ(晴天の霹靂)・効果テキメン(効果覿面)・拍手カッサイ(拍手喝采)
⑸ 漢字音をわざわざカタカナで書いて,読み手の注意を引く
バンザイをする・間イッパツ・ヘンな話だ
⑹ 和語にもかかわらずカタカナ表記にして読み手の注意を引く
カミシモを着る・コロモの裾からヨロイがちらついている・ヤット出来上がった
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で乗り切った」や「無下には断れない」を「ききいっ
ぱつで乗り切った」や「むげには断れない」と平仮
言葉」と定義されている。これに対し,
「カタカナ語」
については『例解新国語辞典』に「カタカナ表記さ
名を使って書くことに比べれば,「キキイッパツで
乗り切った」や「ムゲには断れない」の方が読み易
いし理解し易いし印象も強くなる。
れる言葉。主に外来語」とあるだけで,『現代国語
例解辞典』にも『日本語百科大事典』(1998)にも
独立項目はない。つまり,両者の区別はかなり曖昧
だということになる。
そこで,既に日本化している外来語がどのように
このようにカタカナが溢れる状況であっても,カ
タカナ表記の基本はやはり外来語や外国の地名・固
有名詞の表記にある。このことを内山(2000)の資
認知され,分類されているのかを『例解新国語辞典』
(p.181)(2006)を参照して表3に示す。
これらの語を見ると,「スピーカー」のように国
料を引用して検証する。彼は総数963語のカタカナ
が表記する言語要素を調査し,これを機能別に分類
している。ここでは,本研究の視点から,異なり語
数の多い順に整理し直し表2に示す。表中のパーセ
語辞典には「拡声器」といった日本化した漢語が載っ
ているが,ラジオはラジオであり,マイクロホンは
マイクロホンである。つまり,漢語への翻訳がなく
ントや【 】内の例示は著者らによる注釈である。
この調査データは毎日新聞の朝刊1日分で,しか
ても,完全に日本化しているカタカナ表記される日
本語である。「パスポート」と「旅券」のようにど
ちらも普通に使われている語もあるが,
「ビザ」と「査
も広告・図表・図版などの部分のカタカナ語を除い
たものの集計であり,緻密な調査とは言えない。そ
れでも,出現数から明らかなように,外来語および
固有名詞の出現が圧倒的に多く,これだけで全体の
証」のように漢語の方が公式的で,カタカナ表記の
方が身近な雰囲気を醸し出す語もある。また,「プ
レーヤー」と「蓄音器」のように,すでに漢語の方
88%(①+②)を占める。つまり,カタカナ表記の
機能の基本は,本来の外来語(固有名詞を含む)の
表記にあると言える。
1.
2 外来語とカタカナ語
では,カタカナ語に関する一般人の日本語の危機
意識(漢語知識の貧困)や日本語学習者の苦手意識
の源はどこにあるのだろうか。
これを解明するには,
はじめに,我々がしばしば混同し,混用してしまう
「外来語」と「カタカナ語」の違いを明確にする必
要がある。
『例解新国語辞典』
(2006)でも
『現代国語例解辞典』
(2001)でも「外来語」は「はじめは外国語として
入り,その国のことばとして使われるようになった
が廃れている語もある。それでも表3の①∼③のい
ずれの語も,普通の日本人であれば,これらのカタ
カナ語が分からないと言うことはない。
では,同じようにカタカナ表記された「サスペン
ダー」,「ライフジャケット」,「ライトアップ」,「イ
ンセンティブ」などは外来語と言えるだろうか。「サ
スペンダー」には「ズボン吊り」という日本語があ
り,「ライフジャケット」には「救命胴衣」という
日本語がある。前出の『例解国語辞典』
(A)
(2006)
と『現代国語例解辞典』(B)(2001)を比べてみる
と,「サスペンダー」では(A)には「ズボン吊り」
とだけあるが,(B)には「ズボン吊り。スカート
にも用いられる」とある。つまり,「サスペンダー」
表2 新聞1日分のカタカナ表記の分類
① 外来語
② 固有名詞
③ 臨時の代替表記
④ 動植物の和名
⑤ オノマトペの類
⑥ 慣用的代替表記
⑦ 符合・記号の類
⑧ 臨時の音の表記
⑨ カタカナ英語
⑩ 外国人の日本語
498(51.7%)
357(37.1%)
36(3.7%)
31(3.2%)
13(1.3%)
12(1.2%)
7(0.7%)
5(0.5%)
2(0.2%)
2(0.2%)
【和製英語を含む】
【地名・人名・組織名・団体名・題名など】
【フリコメ詐欺・ヤラセなどの表記】
【キュウリ・ヒマワリなど】
【擬声語・擬音語・擬態語など】
【テキメン・ラセンなど】
【プラス・マイナス・キロメートルなど】
【キェー,オォォォ,感動詞など】
【サンキュー・イエスなどの言い回し】
【スミマセンガ,アリガトウゴザイマスなどのわざわざカタカナ
書きしたもの】
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理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
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表3 外来語の種類
① 漢語:もとは外国語であったが,すでに完全に日本化が進んでいて,既に外来語とは認識されなくなっている。
漢語をまねた日本製漢語も多くあり,いずれも漢語と呼ばれている日本語である。
② オランダ・ポルトガルなどからの外来語:鎖国の江戸時代にオランダを通じて入って来た語。カステラ,カッ
パ,タバコなど。既に使用されなくなって消えている語もあるが,残っている語は漢語と同様に日本化
が進み,外国語とは認識されなくなっているものも多い。合羽,煙草などのように,殆どの語に漢字表
記があり,元々の日本語だと思っている者も多い。
③ 明治以降の外来語1):主に英語からの外来語が多く,物の名から社会の各方面の現象などを表す様々な語。ラ
ジオ,マイクロホン,スピーカー,カーステレオ,パワーショベル,エコノミークラス,ハイレベルなど。
の意味を容易に思い浮かべることのできない未定着
なカタカナ語であると言える。この語を見たり聞い
たりして理解できなかった人は,まずは国語辞典を
はそのままで男女兼用を意味するが,
「ズボン吊り」
では男性用のものの意味しか表さず,不十分な訳語
と言える。また,
「救命胴衣」は(A)にはあるが(B)
にはなく,
「ライフジャケット」は(A)にはないが,
(B)にはある。これは「ライフジャケット」を日
本化したと考える編者と,日本化には至っていない
と考える編者があるということを意味する。
「ライトアップ」は,
『例解国語辞典』では「夜景
の演出として,建物や庭園などに照明をあて,暗い
中に浮かび上がらせること」という説明があり,
『現
代国語例解辞典』では「夜,建物などに光を当てて
美しく照らし出すこと」とあるのみで,対応する漢
語は見当たらない。対応する漢語がないままに,
「ラ
イトアップ」がそのまま日本化しかかっていること
になる。主な理由は,何よりも「ライトアップ」が
日常的な出来事であり,夜景を楽しむ市民が多いこ
とによると考えられる。すなわち,人々は機会を捉
えては「ライトアップ」を楽しむことができるため,
漢字で意味を知らされなくとも,
「light up」がその
調べ,もし辞典になければ,incentive というスペ
ルを何とか見つけ出して,英和辞典などからようや
くその意味を知ることになる。
以上の結果は,ある人にとってはこの語は既に自
在に使用できる,カタカナで表記する日本語(日本
化した語)(=外来語)であるが,ある人にとって
はこれはカタカナで表記された外国語(=カタカナ
語)となることを意味する。つまり,同じようにカ
タカナを使って表記していても,カタカナ表記には
外来語だけでなく,外国語もあることになり,両者
の日本語としての地位には大きな差があるというこ
とである。結局,カタカナ語の習得の点から問題な
のは,カタカナ語の中に外国語が発音をまねてカタ
カナ表記され,外来語のように振る舞っているカタ
カナ語が増えつづけていることなのである。
まま「ライトアップ」と翻訳されて具体的に理解さ
れ,
理解語彙にも使用語彙にもなっていると言える。
漢字ではなくても,「ライトアップ」から人々はそ
の意味内容を理解することができる。
では,
「インセンティブ」はどうだろうか。
『例解
国語辞典』ではこの語は独立項目にあり,「目標の
2.氾濫するカタカナ語の現状
2.1 カタカナ語の問題点の解析
新しい概念や物が外国から入ってくる量は膨大
達成に向けて,やる気をより強くもたせるために与
える褒美」
と説明している。また,
『広辞苑』
(第6版,
で,それらの日本語訳を考える時間がないままに言
葉が勝手に日本中で使われている。どの言語にも造
語力があるのだか,押し寄せる言葉の数が多すぎる
ため,限定的にしか使用を許されていない漢字を組
み合わせて,新しい概念や物の適当な日本製漢語訳
を逐一作っていくことは至難の業である。このよう
岩波書店)にも項目があり,「目標への意欲を高め
る刺激。特に,企業で与える報奨金・奨励金」とあ
るが,
『現代国語例解辞典』には項目がない。漢語
訳がないのは「ライトアップ」と同じであるが,全
な理由で,訳語が完成する前に表音文字で表記した
カタカナ語となって使われているが,カタカナ語は
本来外国語であり日本語のように振る舞っているだ
けなのである。
ての辞典に取り上げられているとは限らないという
点で「インセンティブ」という語は,多くの者がそ
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福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
オフ」の3語を比較する。「ディスクロージャー
現在,カタカナ語の多くは英語からの借用語であ
るため,それらのカタカナ語は英語の発音をカタカ
ナで表音表記されている。しかし,いくら表音文字
であっても,カタカナ語からは原語を推定すること
は簡単ではない。たとえば,「ライス」では「lice」
(disclosure)」や「リボルビング・ローン(revolving
loen)」と言ったカタカナ語では内容が理解できな
い者も,これらを「企業情報開示」,「分割払い」と
表記すれば,理解できる。「レイオフ」を「一時解雇」
と表記すれば,理解する人は増すだろうが,「レイ
か「rice」 か 分 か ら ず,
「 ド ラ ッ グ 」 で は「drag」
か「drug」か分からない。さらに,
「work」を「ワァー
ク」
「walk」を「ウォーク」と書き分けたとしても,
,
オフ」はこのような状況に陥る人が現実に多く,国
民全体に浸透する負の意味で「親しみの深い語」と
なっている。「リボルビング・ローン」はクレジッ
トの支払方法として馴染みが深くなっている。日常
生活の中でローンを利用する者はかなり多く,「あ
「WAAKU」
「UOOKU」というカタカナの発音から
では,たとえ英語話者であっても各語を正しく推定
するのは難しい。まして自分が知らない外国語がカ
タカナで表記されている場合,その意味は理解出来
らかじめ利用限度額と毎月の支払額を決め,その限
度額内で何度買い物をしても,月々の支払が変わら
ない」『カタカナ外来語/略語辞典』(1995)。代金
ない。日本語を第二言語として学習しつつある者に
とってはなおさら理解できないことになる。
返済方法を便利に感じる人が多いので,既に「リボ
払い」と和製省略語まであり日本化しつつある。こ
れに対して,「ディスクロージャー」は情報開示で
あるので,日常生活からは少し馴染みが薄く,親密
度はかなり低く,日常生活の使用語彙にはなり難い。
つまり,「レイオフ」や「リボ(ルビング)」は日本
化し,「ディスクロージャー」はカタカナ語のまま
で止まってしまうと予測できる。
しかし,現実を見ると,カタカナ語の氾濫への憂
いをよそに,「日本ではカタカナ語は受け入れる」
という傾向になっているのではないだろうか。その
理由は,日本人の漢字に対する知識は弱まっており,
たとえカタカナ語を日本語にするために漢語に翻訳
しようとしても,既に漢字を意味ではなく音として
捉える若者が確実に増えていると言う現実があるか
カタカナ語の原語が推定し難いもう一つの理由
は, カ タ カ ナ 語 に は日 本 で の 省 略 語 が 多 い と い
うことである。英語の発音をカタカナ表記すると
通 常 長 く な る の で, 日 常 的 に 使 う に は ど う し て
も短縮形が必要になる。そこで,
「ビルディング
(building)」は「ビル」になり,
「イントロダクショ
ン(introduction)」は「イントロ」になり,「リス
トラクチャリング(restructuring)」は「リストラ」
になる。和製漢語は漢字の意味から漢字圏の人々に
はその意味が類推できる。しかし,和製省略英語は
英語話者がその意味を類推することは容易ではな
い。カタカナ語は日本人にも外国人にも分かり難い
と言うことになる。
2.
2 カタカナ語は増え続けるだけなのか
この点について,朝日新聞の「論壇」(2000年3
月7日)では,
「カタカナ語表記したものが増える
背景には『英語のほうが格好がいい』とか『英語の
ほうが正しい言語である』という誤った考え方で,
らである。学生だけでなく,年齢の若い大人ですら,
「資料」を「資量」,「意味」を「意見」と書き,「自
治会(じちかい)」を「自治会(じじかい)」,
「文言(も
んごん)」を「文言(もんげん)」と発音する。さら
に,「句読点(くとうてん)」を「句読点(くどくて
ん)」と読んだ揚げ句,これが「てん(、)」と「ま
カタカナ語の欠陥が見えなくなっている人が多いこ
とを示している」
,また,
「日本語として定着してい
ないカタカナ語が半ば暴力的に使われている」とカ
タカナ語の氾濫に批判的である。カタカナ語が無秩
序に氾濫しており日本語の変化の点で問題である
が,著者らは,むしろ言葉に対する時代の要請をも
る(。)」であることが分からない者は少なくないの
である。著者らは,このような日本語の置かれた環
境では,新漢語を造語するよりは欧米の言葉をその
ままカタカナ語として導入して,それを定着させた
方が自然なのかもしれないと考えている2)。
考慮すべきで,馴染みのある語(カタカナ語を含む
日本語)ほど「分かり易い語」になる傾向を配慮し
た対応が望ましいと考える。
では,カタカナ語の増殖は日本語の和語・漢語
を駆逐してしまうのだろうか。たとえば,「ディ
スクロージャー」「リボルビング・ローン」「レイ
2.3 現在使用されているカタカナ語の現状と動向
上述した予測を裏付けると思われる資料が文化庁
の調査にある。文化庁では定期的に「国語に関する
世論調査」を行っている。60語のカタカナ語の認知
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理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
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度を,無作為に選んだ16歳以上の男女に行った調査
結果をホームページで公開している。同調査資料で
れている。分類B「一般人の認知度が低いカタカナ
語」では,社会現象や時事問題関係の語が多くなっ
は「認知度」(聞いたこと,見たことがある),「意
味の理解度」
(意味が分かる,何となく分かる)
,
「使
用度」
(自分でも使う)の各項目ごとに,該当欄ご
ているが,認知度の高い分類Aの語との大きな違い
は,取り上げられた語の多くが極く最近の話題に関
連したカタカナ語であることである。このうち,ジェ
との度合いの高い順に上位10語,および低い順に下
位10語を取り出している。
ここでは,本研究の視点から,調査資料を活用し
ンダー,インフォームド・コンセント,インキュベー
ション,バーチャル・リアリティーなどの語は,昨
今注目を浴びている事象であり,超最新のカタカナ
てカタカナ語の現状を確認するため,上述の3項目
に出現した45語に対して,
「一般人の認知度が高い
カタカナ語」
,
「一般人の認知度が低いカタカナ語」,
「一般人の認知度が大きく上がったカタカナ語」の
語の感がある。同じカタカナ語ではあるが,誰でも
が知っているような語と,人口の数パーセントしか
理解していないような語との間には,親疎感に大き
な差があると言えよう。
3つに分類をして表4にまとめた。
分類A「一般人の認知度が高いカタカナ語」では,
分類C「一般人の認知度が大きく上がったカタカ
ナ語」では,平成14年度と平成20年度で比べると,
「ト
社会事象や情報関係のカタカナ語が多く,繰り返し
て話題に上った語が理解語彙や使用語彙として含ま
レード・オフ」と「シミュレーション」の2語を除
き,他はすべて10%以上の上昇率を示す。「セキュ
表4 カタカナ語の親疎の度合い
A:一般人の認知度が高いカタカナ語(16語)
サンプル パフォーマンス バリアフリー リフレッシュ
オンライン コミュニティ セキュリティー ドキュメント
フルタイム リスク アクセス コーディネーター
ニーズ ピーク ホワイトカラー ライフスタイル
B:一般人の認知度が低いカタカナ語(13語)
(注) 一般的に人々には意味が把握されにくい語という最下位13語であるため,それぞれに
簡単な日本語の意味を付加する。
⑴ トレード・オフ(trade-off)
インフレと失業の負の相関関係
⑵ スクリーニング(screening)
篩い分け
⑶ ジェンダー(gender)
社会・文化面からみた男女の性差
⑷ キャピタルゲイン(capital gain)
株式などの元本の値上がり益
⑸ インフォームド・コンセント(informed consent) 納得して受ける治療
⑹ インキュベーション(incubation)
企業支援
⑺ イニシアチブ(initiative)
主導権
⑻ マクロ(macro)
巨視的な
⑼ セクター(sector)
部門
⑽ スクーリング(schooling)
通信教育課程における登校授業
⑾ フィードバック(feedback)
結果を元に還元し再検討すること
⑿ バーチャル・リアリティー(virtual reality) 仮想現実
⒀ サテライト(satellite)
企業や学校などが本拠から離れた所に設置する拠点
C:一般人の認知度が大きく上がったカタカナ語(16語)
(注)平成14年度と平成20年度を比較。(○○%↑)は平成14年前に比べて上がった割合を示
してある。
① モチベーション
(27%↑) ② モニタリング
(21%↑)
③ インサイダー
(19%↑) ④ アイドリングストップ
(13%↑)
⑤ アプリケーション
(17%↑) ⑥ コンテンツ
(16%↑)
⑦ ジェンダー
(12%↑) ⑧ セーフティネット
(10%↑)
⑨ セキュリティー
(16%↑) ⑩ スクリーニング
(10%↑)
⑪ トレード・オフ
(9%↑) ⑫ バーチャル・リアリティー
(10%↑)
⑬ バリアフリー
(16%↑) ⑭ アクセス
(11%↑)
⑮ ニーズ
(10%↑) ⑯ シミュレーション
(9%↑)
89 ―
―
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福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
カタカナ語についても更新対応されている。それぞ
れの最新版において,①の辞典では「科学や文化に
関する新しいカタカナ語」を増やし,②の辞典では
「現代社会生活に必要なカタカナ語」を追加し,③
リティ」について詳細に言うと,6年前には「聞い
たり,見たりしたことがある」項目で上位10位には
入っていなかったが,今回の調査では「意味の分か
る語」と答えた人が86%になっており,更に,「自
ら使用する」人は64%に上っている。同様な認知度
の辞典では「時代の要請に応えるためのカタカナ語」
を増やしている。辞典であるため,全体に平均して
言葉の意味を明らかにしなければならないので,カ
タカナ語の特徴を示すことのみに辞典の内容を特化
することはできない。しかしながら,3冊に出現す
の増加の傾向は,「ジェンダー」「スクリーニング」
「トレード・オフ」
「バーチャル・リアリティ」の4
語である。したがってこれらの認知度が上昇したカ
タカナ語は,好むと好まざるとに関わらず,いずれ
外来語となるべく日本化に向かっていると言える。
文化庁は2007年度にも同種の調査を行っている。
その際,
「外来語や外国語などのカタカナ語を交え
ることは好ましいか」という問いに対し,
「好まし
い」が15%,
「好ましくない」が40%であった。ま
た,最も最近の「平成20年度『国語に関する世論調
」では,カ
査』の結果について(2009年3月実施)
タカナ語の氾濫を憂いている人が多いにも関わら
ず,カタカナ語の理解度が大きく増していると示し
ている。カタカナ語の日本人への浸透速度はかなり
速く,一般の人たちは横文字やカタカナ語の間に助
詞を入れて話す政治家や学識者に顔をしかめながら
も,この状況を受け入れる姿勢になっていると見る
ことができる。
3.学習カタカナ語の抽出について
3.
1 辞書にあるカタカナ語の特徴
既述したように,
カタカナ語は外国語であるため,
その取扱いは必ずしも統一されていない。辞書に
る語,2冊に出現する語,1冊にのみ出現する語に
は,それぞれにある傾向が見られたので,ここでは
調査資料(資料提出可能)を示さないが,認められ
た傾向について以下にまとめる。
はじめに,3冊に出現する語としては,
「アーケー
ド」
「ウイルス」
「エキサイト」
「オーディション」
「ギ
フト」
「クーポン」
「コネクション」
「サラリー」など,
誰でもが日常生活で使用する語である。「エキサイ
ト」「ギフト」「サラリー」は,それぞれ「興奮」「贈
り物」「給料」と対応する日本語があるが,これら
と全く違和感なくカタカナ語が日常的に使われてい
る。その他の語には対応する日本語訳の語はなかっ
たが,ほとんどが既に外来語になっていると考えて
も良い語である。
次に,2冊に出現する語としては,「サテライト」
「アーカイブ」「サニタリー」「バーチャル・リアリ
ティー」「オゾンホール」「ジャンクフード」など一
般的な語があるが,極めて数が多いのは,病名(パー
キンソン病,シックハウス症候群など),食物名(チ
ンゲンサイ,ベーキングパウダーなど),化学物質
よっては外来語扱いされていたり,カタカナ語扱い
のままであったり,カタカナ語にも至っていないと
認定されて,
掲載されていなかったりする。そこで,
本調査研究では,複数の国語辞典でカタカナ表記さ
名(グルタミン酸,ヒスタミン剤,チタニウムな
ど),専門用語(グレシャムの法則,ブラウン運動
など),植物名(カトレアなど),単位(ミリバール
など)である。カタカナ語と意識して掲載の可否を
れている語を抽出し,それらの語の重複度合いを調
べた。使用した辞典は,①例解新国語辞典(2006),
考えたというよりは,あるジャンルの固有名詞につ
いて,それが「必須」であるかどうかの判断基準で
②現代国語例解辞典(2001),③学研現代新国語辞
典(2001)である。
選択されたと思われる。1冊ではなく2冊にあるの
だから,将来的にはカタカナ語として認知されてい
く可能性の高い語群であると言えよう。
最後に,1冊のみに出現する語としては,英語を
これら3冊のいずれかに出現したカタカナ語は
7,116語であった。そのうち, 3冊に出現した語
が2,018(28.4 %)
, 2 冊 に 出 現 し た 語 が2,108
(29.6%)
,1冊にのみ出現した語が2,990(42.0%)
であった。出現したカタカナ語の約3割が3冊にあ
り,3割が2冊にあり,残りの4割が該当辞書にの
み採用されていることになる。
辞典では版を重ねるたびに新しい試みがなされ,
そのままカタカナ発音して表記したカタカナ語が多
い。一般的には,辞書は完成まで多くの時間がかか
るので,ごく最近の語は採用されていない。したがっ
て,新しく取り入れた語とは言っても,
「アイマスク」
「アルツハイマー」「イメージキャラクター」「ワー
90 ―
―
キングシェア」「ケータリング」「リベンジ」
「コン
理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
(6745)
ドミニアム」
「コラーゲン」
「アンテナショップ」な
ど,既に人々に耳慣れし始めている語が多い。これ
3.2 新聞にあるカタカナ語の特徴
日常生活ではどのぐらいのカタカナ語が使われて
らの語は日常生活で頻繁に使われており,それだけ
に将来カタカナ語として定着する語であろう。
一方で,英語の単語に振り仮名をつけたような
いるのだろうか。堀内(『カタカナ・外来語/略語
辞典』2000)は,辞典の序文で,辞典には2万語以
上のカタカナ語が掲載されており,これに専門分野
印象をもつカタカナ語も多く見られる。
「インダ
ス ト リ ア ル(industrial; 工 業 の, 産 業 の )」「 カ
ンファレンス(conference;会議)
」「クラッシュ
のカタカナ語を加えると,5万語を超える数になっ
ていると述べている。
我々の日常生活では,テレビで,電車の中の広告
(crash;稼働不能なパソコンの故障)
」「センシティ
ブ(sensitive;感じやすい,神経過敏な)」など多
数ある。このような語こそカタカナ語としないで英
和辞典に載っている日本語訳,あるいはそれを的確
で,本や雑誌で,最近ではネットでと,多くのカタ
カナ語が使われている。実態を把握するため,予備
的調査として,新聞を選び,そこで使用されている
カタカナ語について調査した。資料とした新聞は以
に一語として翻訳した語を日本語として採用しても
らいたいものである。しかし,そうならずにカタカ
下のとおりである。
資料1 朝日新聞 記事面
ナ表記される理由の一つとして考えられるのは,こ
れらの語は他の語と組み合わせて使われる場合が多
く,それらの全てにいちいち日本語の訳語をつける
のは難しいということである。たとえば,「インダ
ストリアル」の場合,
この語と組み合わさる語を『カ
タカナ・外来語/略語辞典』
(2000)で調べると,
「∼
アドバタイジング(産業広告)
」
(以後「インダスト
リアル」の部分を「∼」で書く)「∼エンジニアリ
ング」
「∼ソサエティー(産業社会)
」
「∼デザイナー
(工業デザイナー)」
「∼デザイン(工業デザイン)」
「∼マーケティング」
「∼ユニオン(産業労働組合)」
「∼ロボット(工業ロボット)
」など多くある。この
うち下線のあるものにだけ,いわゆる「日本語訳」
の単語が書いてある。
「産業広告」,
「産業社会」,
「産
業労働組合」という訳をみると,確かに長いカタカ
ナ表記に比べると,少ない漢字数を用いていて漢語
(2010年2月1日∼7日の1週間)
資料2 朝日新聞 広告面
(2010年2月1日∼7日の1週間)
資料3 朝日新聞 1面と社説
(2010年5月1日∼31日の1ヶ月間)
資料4 日本経済新聞 1面と社説
(2010年5月1日∼31日の1ヶ月間)
資料1と2は,同じ新聞の記事面と広告面であり,
報道と宣伝という目的の違いにより,出現するカタ
カナ語に大きな使用傾向等の差があるかどうかを意
図して調べたものである。資料3と4は,1ヶ月分
の朝日新聞と日本経済新聞の1面および社説に出現
するカタカナ語を採取し,ジャンルは異なるが,同
じ条件(1面はトップ記事,社説はその社の意見)
下で使用傾向の差が認められるかを調べたものであ
る。朝日新聞は一般紙の代表として,日本経済新聞
訳されている。
「工業デザイナー」
「工業デザイン」,
,
「工業用ロボット」の表記を見ると混種語であるこ
とから,
「ロボット」
「デザイン」「デザイナー」は
既に日本化していると解釈できる。
以上を要約すると,カタカナ語には和語でも漢語
は経済紙の代表として選んだ。
はじめに,資料ごとに出現度数を調査し,頻度順
でも言い表すことが難しく,カタカナ語でしか,あ
るいはカタカナ語のニュアンスでしか表せない語が
あり,特に,他のカタカナ語と組み合わせて概念全
般を表す場合にその傾向が強いと言える。したがっ
にベスト100までを選んだ。このデータを基準にし
て資料間での重複度合いを調べたが,100位に同値
のものがあれば,それも同順位としたため,資料1
では101語,資料2では104語,資料3では123語,
資料4では101語が100位までの語となった。これら
が相互に重複している様子を実際のカタカナ語でま
とめると,表5のようになる。
それぞれの資料の上位から100番目にあたるカタ
カナ語の出現度数は,資料1が18回,資料2が13回,
資料3が5回,資料4が8回である。したがって,
それ以下のカタカナ語は出現数は多くないので,表
て,カタカナ語を嫌ったり良くないものだと決めつ
けるのではなく,留学生への学習指導の効率化を配
慮したカタカナ学習語の取捨条件を設定する必要が
あると考える。
5のカタカナ語を分析すれば,新聞に使用されるカ
タカナ語の特徴がつかめると考えた。表の中で下線
91 ―
―
(6746)
福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
表5 新聞に出現するカタカナ語の概容
⑴ 4資料すべてに出現するカタカナ語(13語)
エネルギー
テレビ
サービス
インターネット
ドイツ
ネット
ケース
テーマ
モデル
グループ
ポイント
メーカー
サイト
⑵ 資料2+資料1/3/4のいずれか2資料の計3資料に出現するカタカナ語(12語)
ホテル
プロ
メール
サッカー
メディア
ホームページ
イメージ
パソコン
チェック
センサー
スペイン
デザイン
⑶ 資料1/3/4に出現するカタカナ語(15語)
ドル
アジア
トヨタ
オバマ
マニフェスト
プラス
リスク
イラン
データ
メートル
トップ
タイ
システム
ブラジル
カネ
⑷ 資料2+資料1/3/4のいずれか1資料の計2資料に出現するカタカナ語(13語)
カナダ
ロシア
ホームページ
コード
アメリカ
ホール
スタッフ
トルコ
ビル
ビジネス
マンション
エコ
カタログ
⑸ 資料1/3/4のいずれか2資料に出現するカタカナ語(38語)
ユーロ
ギリシャ
チーム
キロ
ガス
スポーツ
リーグ
アフリカ
ダウ
スタート
メンバー
コスト
ニューヨーク
ソニー
マイナス
クラブ
モンゴル
バンコク
ワシントン
トラブル
クリントン
アップル
ロンドン
グアム
トラック
ヘリ
ブランド
ソウル
リーマンショック
トン
デモ
⑹ 資料1にのみ出現するカタカナ語(41語)
リコール/ハイチ/ブレーキ/プリウス/メダル/バンクーバー/ゼネコン
キャンプ/ジャンプ/ダム/ブルペン/コーチ/アクセルペダル/ミス
カード/シーズン/トリノ/パス/イスラム/イラク/コク(がある)
プレー/カッパ/センチ/ヤヌコビッチ/ゴール/スピード/アクセス
コメント/チモシェンコ/ファン/ベテラン/エッジ/コピー/スキー
ベネズエラ/レース/インスリン/インフルエンザ/ウクライナ/グラム
⑺ 資料2にのみ出現するカタカナ語(63語)
コース/アレルギー/セット/プレゼント/サイズ/キャンペーン/サーチャージ
ハガキ/セミナー/イタリア/グルコサミン/グレード/サメ/アミノ酸
シリーズ/バス/プラン/コンドロイチン/サポート/タイプ/ニオイ/ガイド
フリーダイヤル/ノニ/エジプト/ドラマ/パリ/レッスン/コンビニ/チャンス
コラーゲン/スグ/バランス/ビタミン/ローマ/スッキリ/ヨーロッパ
リフォーム/アップ/イスタンブール/インシップ/エキス/ストレス/パワー
テキスト/パンフレット/ポリフェノール/ルック/レシピ/ヒアルロン酸
ラク/オリジナル/クラブツーリズム/クルマ/ケータイ/デラックスホテル
ロンドン/カンタン/クレジットカード/スクーリング/スムーズ/ダイエット
トレーニング/レストラン/カッパドキア/プログラム
⑻ 資料3にのみ出現するカタカナ語(38語)
プロセス/ラジオ/デフレ/ウイルス/オピニオン/ワクチン/タクシン
ゲノム/パロマ/ユナイテッド/エアコン/ウラン/エース/ツアー/アンケート
ツイッター/フロン/カメラ/プーチン/ポルノ/ワールドカップ/アテネ
フィリピン/ブログ/プロバイダー/ヘリコプター/アスパラクラブ/アマゾン
アメリカン/イングランド/省エネ/キャメロン/パプアニューギニア/ブック
ブラウン/ミサイル/メドべージェフ/リーダー/リポート
⑼ 資料4のみに出現するカタカナ語(37語)
インフラ/インドネシア/プロジェクト/エンジン/グーグル/パナソニック
コメ/ベトナム/キャンプ・シュワブ/ドバイ/バレル/マネー/サムスン
シェア/ポルトガル/レナウン/ウォン/ケーブル/ホールディングス/ホンダ
セント/ビザ/クラウド/ドコモ/ベース/リストラ/オルセー/サノフィ
シェールガス/シンガポール/ピーク/エアバス/ノウハウ/マテリアル/メド
メキシコ/ヤクルト
92 ―
―
インド
ソフト
フランス
テロ
グローバル
コンチネンタル
イ・ミョンバク
理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
(6747)
は国名・地名・都市名であり,下線は人名・企業名・
タイトル名である。一覧すると,これらの固有名詞
しかし,表5の⑺には混乱を招くようなカタカナ
表記が見られる。それは,下線の部分である。該当
が非常に多いことが分かる。次に,これらを除いて
下線のない語では,⑴∼⑷のどれを見ても,多くの
者が知っているカタカナ語である。⑶に「マニフェ
部分の「ハガキ」「サメ」「ニオイ」「スグ」「スッキ
リ」「ラク」「クルマ」「ケータイ」「カンタン」はす
べてカタカナ書きしないで表記できる。「サメ」の
スト」があり,少し前までは分かり難いカタカナ語
であったが,
選挙戦で政治家達が盛んに
「公約」を「マ
ニフェスト」と呼ぶようになってから,あっという
ように動植物をカタカナで書くのが近頃の習慣であ
るし,「ケータイ」は携帯電話を意味する独立した
カタカナ語になっている。また「すっきり」のよう
まに親密性のある語となった。
⑸には「ダウ」
「グローバル」
「リーマン・ショッ
ク」など,幾つかの分かり難いかもしれないカタカ
ナ語が見られる。
「ダウ」は分かり難いが,それで
な副詞をカタカナ表記することも通常である。とは
言え,
「ハガキ」,
「ニオイ」「スグ」「ラク」「クルマ」
「カンタン」は,「葉書」「臭い」「すぐ/直ぐ」「車」
「簡単」が一般である。
も毎日テレビのニュースで耳にする語である。ダウ・
ジョーンズ平均であり,平均株価を示しているが,
このような変則的な表記は,⑺が広告記事のカタ
カナ語を取り上げたことに理由があると考えられ
経済事情に疎いと,耳に馴染んでいても比較的理解
語彙にはなり難い。
「グローバル」も様々な機会に
色々な人が多用するカタカナ語である。
「ダウ」よ
りも一般受けし,
日常でよく使われそうな語である。
しかし,何となく「グローバル」を「全世界の」と
か「地球規模の」と認識していたとしても,
「グロー
バル・ウェブ」
「グローバル・コントラクト」
「グロー
バル・サーチ」
「グローバル・シーリング」
「グロー
バル・テン」と続くと,改めてよく分からなくなる
カタカナ語であることが言える。むしろ直近の新し
い語である「リーマン・ショック」の方が,そのも
のずばりの意味しかないので,曖昧性もなく,すで
に人々の記憶の引き出しに正しく収まっている可能
性が高いと言える。結局,新聞では人々の日常生活
る。平仮名や漢字で書かれた普通の言葉をそのまま
使っていたのでは広告効果が低い。人の目を引き,
紙面を手に取って読んでもらうには,普通のことば
を普通ではないように表記することの意味は大き
い。
この部分は日本語を第二外国語として学んでいる
者にはやっかいなことは想像に難くない。彼らはカ
タカナで書かれたものは「外来語」だと思っている
向きがある。したがって,例えば「ラクな仕事」と
か「スグやります」などとあった場合,
「ラク」も「ス
グ」も外来語としてカタカナ表記のものを辞典で探
すことになるが,辞書にはそこまでは載っていない。
このような混乱が彼らをカタカナ語が難しいと思わ
せる理由の一つになっている可能性はある。
をいたずらに妨げるようなことのない範囲で抽出し
たカタカナ語が使用されていると判断できる。
該当資料にしか出現がなかった⑹∼⑼のカタカナ
語についても表を見る限りでは同様のことが言え
それでも紛れもなく,この種のカタカナ表記は日
本語の表現方法のひとつであることも事実である。
⑶にある「カネ」は「カネと政治」という使い方で
よく使われる。「金と政治」を「カネと政治」とわ
る。⑹にある「リコール」はトヨタの騒ぎ以来,今
や知らない人のないカタカナ語になっているし,⑺
ざわざ表記するからこそ,普通とは異なる権力にま
みれた「カネ」が強調される。また,⑹にある「コ
の「サーチャージ」については石油の値段が高騰し
旅行代金が高くなってしまった経験から多くの日本
人にとっては,既に誰もが知るカタカナ語になって
クがある」は平仮名表記の難点をカバーしている。
「こく」は平仮名書きをするが,「こくがある」では
すべて平仮名で分かりにくく減り張りがない。「コ
ク」とすることで,表現に強弱がつき,軽快で分か
りやすくなる。カタカナ表記は利便性と危険性を併
せ持っていると言える。
いる。⑻の「ゲノム」はヒトゲノムの解読以来,世
界はゲノムばやりであるし,
⑼の「インフラ」に至っ
ては,近々起こることが見込まれている自然災害に
向けて浸透しているカタカナ語といえる。このよう
日本語を第二言語として学習している学習者も,
「外来語だけがカタカナで書かれるわけではない」
に,内容が理解できる語については,それが和語で
あれ,漢語であれ,カタカナ語であれ,特に違和感
という認識を十分にもった上で,カタカナ語にまど
わされることなく,自分に最も効果のあるカタカナ
語の学習法を見出す必要がある。会話の中でカタカ
なく人々の生活に受け入れられているように思われ
る。
93 ―
―
(6748)
福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
ナ語が多用された場合には,その意味するところを
聞き返すことは恥ずかしいことではない。辞典を調
これに出現するカタカナ語を調査した。この本を選ん
だのは,材料工学の分野が現在注目を浴びている環境
べても出てこないようなカタカナ語は使っている本
人にしか分からないこともある。和語でも漢語でも
カタカナ語でも,学習者が知らないことばの説明を
問題,エネルギー問題,情報関連問題を支える基本分
野であるからである。基本である以上,出現する語彙
は理工系分野の必須語彙であると考えられるため,出
求めるのは当然のことである。後述するが,基本的
なカタカナ語を学習対象とした後は,必要に応じて
続出してくるカタカナ語を取捨選択する決断が必要
現するカタカナ語(資料5)がどの程度他の資料(資
料1∼4)に重なるかをみることで,理工系分野のカ
タカナ語の特異性,非特異性を知ることができると判
であろう。
断した。
4.理工系分野の研究留学生に有用な
4.1 『材料工学への招待』(資料5)の分析結果の
特徴
カタカナ語について
『材料工学への招待』
(以後『材料』と略記,1997)
では出現したカタカナ語の異なり語数は695語であ
理工系分野の研究留学生であっても,日本に生活基
盤がある以上,目の前にあるカタカナ語が,あるいは
今自分の耳に聞こえてくるカタカナ語が自分にとって
必要なものかどうかを,自分の判断で取捨する必要が
あると述べた。科学技術の分野では英語が共通語であ
るが,近年さまざまな研究は学際化されて専門分野の
線引きが難しくなっている。その一方で,専門はより
先鋭化し,複雑化し簡単に自分の専門を言うことはで
きない。迅速に研究成果をまとめ,それを世界に発信
するためには,現時点ではやはり英語が基軸となる。
これらの膨大な英語の単語はカタカナ語表記されてい
るが,実際にこれらのカタカナ語はどの程度専門家に
とって必要なのだろうか。
初級段階の日本語テキスト『みんなの日本語 初級
ⅠⅡ』
(2008)を例にとると,新出語彙が817語である
のに対して外来語は172語であり,全体の21%を占め
ており決して少ないとは言えない。しかし,アイスク
リーム,エスカレーター,カーテン,カタログ,キャ
ンセル,ケーキ,シャワーなどの語の多くはすでに日
本化しており,日本語学習に欠かせない基本語彙の範
疇である。表記から原語が分からない,発音から原語
り,延べ語数は3,158語である。このうち,出現頻
度が2以上のカタカナ語の異なり語数は341語(異
なり語総数の49%),延べ数が2,804語(延べ語数の
89%)である。ここから資料1∼4と同じようにし
て上位100位までを取り出すと,該当カタカナ語は
113語である。
『材料』(資料5)に出現するカタカナ語と資料1
∼4(3章2節と同じ)に出現するカタカナ語の異
同を見るために,まず多出順位10位までを取り出し
て比較してみる(表6)。
はじめに,カタカナ語は時代を映し出すことを示
す。資料1と2は2010年の2月1日∼7日までの新
聞である。資料1では,多くのカタカナ語はトヨタ
の事件に関係している。「トヨタグループの車がブ
レーキの不具合を起こし,リコール問題に発展して
おり,インドや中国だけでなくアジア全般に問題が
広がっている」ということが繰り返し報道された時
期である。これに対し資料3と4は5月1日∼31日
の1ヶ月間の1面記事と社説である。「ギリシャの
経済破綻がネットでもテレビでも問題になり,ユー
ロにもドルにも混乱が起き,世界はデフレ傾向に
なった」と連日報道された。
が推測できないなどの問題は確かにあるが,一度日本
語と英語の比較・確認が済めば,理解できるので問題
ない。つまり,日常生活の範囲でカタカナ語で悩むこ
とはあまりないと言える。
では,科学技術の分野で研究留学生として日本語を
我々は日常の中で無理に学習しなくても繰り返し
同じ言葉が使われれば,それは親密な語となり,習
得可能な語となる考える。それが生活に必要なもの
であればあるほど記憶に常にとどまるが,一過性の
学ぶ学習者にとって,必要なカタカナ語とはどのよう
なものであろうか。それは,日本語の中級学習者,上
級学習者,超級学習者が苦慮することの多い,カタカ
ナ語の問題点に一致するのだろうか。それを調べる
ニュースや出来事であればいずれはすたれて,忘れ
られてしまう。「口蹄疫」という言葉は,2010年7
月現在では誰でもが知っており,口に出したり,読
ために,資料5(
『材料工学への招待』入戸野修編,
1997)を理工学分野の代表的なテキストとして選び,
94 ―
―
んだり,書いたりできる理解語彙であり,使用語彙
である。しかし,その数ヶ月前までは,多くの人は「口
理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
表6 資料1∼5にある上位10位までの多出語
資料1
[朝日記事7日]
資料2
[朝日広告7日]
①トヨタ
(166)
②リコール (116)
③チーム
(90)
④ハイチ
(83)
⑤キロ
(75)
⑤ブレーキ (75)
⑦インド
(67)
⑦メートル (67)
⑨アジア
(63)
⑩グループ (58)
①コース
(135)
②ホテル
(130)
③アレルギー
(84)
④セット
(84)
⑤センター
(73)
⑥ホームページ (61)
⑦サービス
(60)
⑧インターネット(58)
⑨プレゼント
(55)
⑩キャンペーン (47)
⑩サイズ
(47)
( )は出現度数 資料3
[朝日1面・社説]
資料4
[経済1面・社説]
①ギリシャ
②ユーロ
③スポーツ
④ネット
⑤アジア
⑥ニュース
⑦ドル
⑦ラジオ
⑨デフレ
⑩イラン
⑩ドラエモン
①ドル
②ユーロ
③ギリシャ
④アジア
⑤テレビ
⑥メーカー
⑦サービス
⑧ダウ
⑧ドイツ
⑩ガス
⑩コスト
(81)
(80)
(37)
(37)
(35)
(31)
(30)
(30)
(28)
(27)
(27)
(6749)
(192)
(158)
(131)
(130)
(54)
(45)
(40)
(38)
(38)
(36)
(36)
資料5
[材料科学]
①エネルギー (209)
②イオン
(198)
③ガラス
(170)
④セラミックス(123)
⑤アモルファス (82)
⑥シリコン
(68)
⑦ファイバー
(49)
⑧ダイヤモンド (39)
⑨レーザー
(35)
⑩グラファイト (34)
がって,自分の興味が向く分野であれば,そこに必
要な語彙はカタカナが並んでいようが,漢字が並ん
でいようが,覚えなければならないし,覚えられる
ということである。これが先に述べた取捨選択する
条件の一つである。
蹄疫」という言葉も意味も漢字も知らずに読めもで
きなかった。漢字の言葉であれ,カタカナの言葉で
あれ,頻繁に接触があれば,十分に使用語彙にもな
ると言える。
カタカナ語はそういうものだと言うことが,資料
2と資料5を比較すると理解しやすい。ここには日
常のニュースで使用する語は出現しない。その代わ
り,
「旅行のコースや食べ物についてのキャンペー
ンをホームページを通じて行っていることを知ら
せ,インターネットで操作するとサービスが受けら
れたりプレゼントがもらえたりする」や,「食べ物
はアレルギーの心配がなかったり,セットで買うと
お得だったりする」のように,広告の世界で頻繁に
使われる語が出現している。これらは前述の報道記
4.2 数に見る資料1∼4と資料5の比較
表7は新聞(資料1∼4)と『材料』(資料5)
のそれぞれについて,出現した語を数で比較したも
のである。①は各資料に出現したカタカナ語の異な
り数,②は延べ数である。
表中,①の[ ]の中の数値は資料5の『材料』
を1としたときの,各資料の値である。また,②の
事とは異なった日常用語と言うべきものである。
一方,
資料5では,
「エネルギー」
「イオン」
「ガラス」
「セラミックス」
「アモルファス」
「シリコン」
「ファ
イバー」
「ダイヤモンド」
「レーザー」
「グラファイ
ト」の10語が出現している。どの語をとっても,こ
れらの語から連続した日常生活はあまり思い浮かば
( )の中の数値はそれぞれの資料の延べ語数を異
なり数で除したものである。まず異なり語数でみる
と,資料1と2は『材料』(資料5)の5倍前後の
数のカタカナ語が出現している。これは資料1と2
が新聞の全面を対象としているからであり,さまざ
まなジャンルのカタカナ語を網羅しているためであ
ると考えられる。これに対し,資料3と4では『材料』
の1.2∼1.3倍程度の数に収まっている。この資料は
ない。つまり,一般の人にとってはこれらの語は比
較的親密度の薄い理解語彙でしかないと言える。
以上の比較分析から推測できることは,何が必要
で何が不必要かは日常生活における興味や,専門分
新聞の1面と社説に限ってのカタカナ語の収集であ
るが,1ヶ月の長期にわたる収集結果である。しか
し,新聞の1面も社説もその日または直近のトップ
ニュースを扱うという,ある種の専門分野と同じよ
野によって大きく異なるということである。した
表7 資料1∼5に出現したカタカナ語の数の比較
①異なり語数
②延べ語数
資料1
資料2
資料3
資料4
資料5
3,412[4.91]
11,201(3.28)
3,534[5.08]
9,568(2.71)
821[1.18]
2,586(3.15)
940[1.35]
3,752(3.99)
695[1]
3,158(4.54)
95 ―
―
(6750)
福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
位までのカタカナ語の延べ語数は3,546であり,全
延べ語数の32%に当たる。つまり,上位にある101
語で全出現数の32%を賄っているということを意
うな環境にあると言える。したがって,『材料』だ
けでなく,ある一定のジャンルが定められている文
章では,そのジャンルに絞り込んだカタカナ語が出
現すると判断できる。
この傾向は②の延べ語数によりはっきりと現れ
る。資料1(新聞1週間)と資料2(広告1週間)
では,異なり語は広告の方が多いにもかかわらず,
延べ数では記事の方が多くなっている。これは記
事が広告より同じ語を多用するということであり,
ジャンルの多様な広告に比べると記述範囲が狭い
(絞り込んだ)ことを意味する。同様なことは資料
3と4にも言える。共に1面記事ではあっても,前
味し,101の異なり語のうち59語が他の資料にも出
現することを示す。上位100位までのカタカナ語で
最も多くの範囲を補っているのが資料5の『材料』
(67%)であり,以後,資料4(経済新聞の1面),
資料3(朝日新聞の1面),資料1(朝日新聞1週
間分の記事),資料2(広告記事)の順となる。
資料1∼4の中で,資料2だけが他とは異なる傾
向を示す。それは上位100位までのカタカナ語が全
体の出現語数の29%で,しかも他の資料に重複して
出現する語の数も半分程度と少ない。資料2(広告)
では,インパクトの強いオリジナルな語(新語)を
作ったり,すでにある日本語表記を独自のものに変
者は一般紙であり,トップ記事の範囲は広い。それ
だけに延べ数が少なくなる傾向があるが,後者では
経済を中心に組まれているため,ジャンルでの絞り
込みがあり,同じ語が何度も使用される傾向を示す
と考えられる。この傾向が最も顕著なものが資料5
の『材料』である。延べ語数は異なり語数の4.5倍
以上あり,他のどの資料よりも同じ語が繰り返し使
われることが理解できる。
『材料』は他の資料に比べて最も異なり語数が少
なく(695語)
,最も多い広告記事(3,534語)に比
べると1/5にも満たないが,延べ数になると他の
どの資料よりも重複使用が多い。
以上から,ジャンルが狭まれば狭まるほど,出現
するカタカナ語の異なり数も制限され,延べ語数が
増えていくと理解することができる。
えたりする傾向があった。それが他の資料に比べる
と上位100位までの延べ語数が少ないこと,他の資
料と共有する語が少ないことの原因になっていると
解釈できる。
資料5『材料』にも同様な傾向が見られるが,こ
れは広告とは異なっている。上位100位までの113語
で,全体の7割近くのカタカナ語を占めているにも
関わらず,これらの語が他の資料にも出現する割合
は僅か12%(14語)と極端に少ない。他の資料が資
料2を除きほぼ60%を補えるのに比べると,非常に
特徴的なことだと言える。
以上の分析結果から結論できることは,広告のよ
うに使用する語が他とは異なり,目立つことを目指
すものでない限り,新聞のように紙面全面を扱えば
範囲が増えて,使用カタカナ語も増えることになる。
一方,範囲が絞られると出現語も少なくなり,その
語が全体に出現する数も増すことになる。これが特
4.
3 上位100位にみるカタカナ語の特徴
表8は各資料における出現度数100位までの数値
を示したものである。①の「カタカナ語の数」は各
資料に出現した上位100位までの異なり数,
②の「カ
タカナ語の総度数」はそれらが使用される頻度,③
の「他にも出現の語数」は該当する資料の100位まで
異になったものが資料5『材料』であり,特化した
範囲を取り扱う場合は,同じ語が多く出るようにな
のカタカナ語が他の資料にも出現している数である。
表8を概観すると,資料1の場合,100位までの
カタカナ語は101語あり,これは全体の異なり語数
(3,412)の3%に相当することが分かる。この100
り,数少ない語で全体を網羅するようになると言え
る。
したがって,理工系の分野で日本語を学ぼうとす
る学習者は自分の専門に特化したカタカナ語に注目
表8 出現度数各資料のベスト100
①カタカナ語の数
②カタカナ語の総度数
③他にも出現の語数
資料1
資料2
資料3
資料4
資料5
101(3%)
3,546(32%)
59(58%)
104(3%)
2,731(29%)
38(37%)
123(15%)
1,514(59%)
75(61%)
101(11%)
2,215(59%)
61(60%)
113(16%)
2,127(67%)
14(12%)
96 ―
―
理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
(6751)
するのが,最も効果のあがる効率的なカタカナ語と
の望ましい向き合い方であると言える。
れらの多出語が他の4資料では非常に少ないことで
ある。このことは,『材料』に出現するカタカナ語
ここで,上述したことを別の角度から検証してみ
る。表9は前出③「他にも出現する語」の数に注目
し,上位100位までのカタカナ語が互いに他の資料
を100余り知っていれば,かなりの語の理解ができ
るが,695語のすべてを知っていても,新聞はせい
ぜい20%前後ほどしか読めないということを意味す
る。重複する語が少ないので,逆に新聞に出現する
語を多く知っていても『材料』関係の専門書の読解
には役立たないということになる。
にも出現する「重なり出現語数の相関」を調べたも
のである。
『材料』ではどの資料とも重なる度合い
は少なく10語以下であり,
最も多い経済新聞(9語)
では,『材料』に出現するどのような語が互いに
と最も少ない広告記事(6語)の差はないに等しい。
これに対し,もっとも多くの資料と多出語が重複
を示すのは朝日新聞の1面と社説を1ヶ月分(資料
3)収集したものである。しかし,資料1も2も朝
他の資料と重複し合うのだろうか。この問題を考察
するために,最初に上位100位までの『材料』に出
現するカタカナ語の他資料との重複度合いを実際の
語で調べた。その結果を表10に示す。
表中の⑴∼⑷に現れる『材料』のカタカナ語は,
日新聞であることを考えて,ここでは資料4(表で
は「経1面&社説」)に注目してみる。材料との相
我々が日常の生活の中で普通に使う語である。した
関は少ないものの,数としては最も多く(9語),
広告が少ないという新聞の性質上,広告との重複は
少ない(19)が,
それでも極端に少ないとは言えず,
朝日新聞とも多くの数が一致している。
このように相関表を分析すると,相互に重複し合
う割合が比較的均等な新聞の記事に出現するカタカ
ナ語は決して特異なものではないこと,
広告,
『材料』
と言った順に,専門性が絞り込まれた分野に限定さ
れるにしたがって,出現するカタカナ語も限定的に
なると言うことができる。
がって,今回のように全資料と重なっていない場合
があっても,それはたまたま今回の資料の中に現れ
なかった語だと考えても差し支えがない。⑸の他の
資料に,たとえば,「ガラス」「ダイヤモンド」「プ
ラスチック」「アンテナ」「レベル」「ナイロン」な
どの語がある。しかし,ここにあるカタカナ語の多
くは知っているようで知らない語が多い。これらの
語は普通の日常生活からは距離を置いたカタカナ語
であると言える。したがって,これらの重ならない
多くの語をすべて学習したからと言って,一般の文
章が飛躍的に読んで分かるようになるとは言えな
い。
しかし,その逆は言える。下線の部分は,『化学
工学論文集』(2008)に出現したカタカナ語に合致
するものである。筆者らはこの論文集6巻を使って,
4.
4 何に学習の主な視点を定めるべきか
図1は『材料』に出現するカタカナ語695が新聞
に出現する割合を見たものである。横軸にはカタカ
ナ語の出現が多い順を,縦軸にはカタカナ語の累計
出現割合を示す。
『材料』では上位113位までの語で
出現語数の67%を補うことができる。113位あたり
までの語が右肩上がりに伸びており,出現カタカナ
語の多くがここに集中していることがわかる。すな
わち,
集中して出現するカタカナ語を学んでおけば,
繰り返し読み進めば,理解できる範囲も広がるとい
うことを示唆する。
ここで,注意したいのは,
『材料』に出現するこ
複合動詞について多角的に分析した(入戸野・武田
(2009),
(2010))。この資料は「論文集」であったが,
ここからカタカナ語を抜き出してみた。1巻から6
巻までの異なりカタカナ語数は2,167語,延べ語数
は21,506語である。数の差が大きいので,特に100
表9 重なり出現語数の相関表
[材料]
7
[朝1週間記事]
6
8
9
7
46
36
6
26
26
[朝1週間広告]
19
8
46
27
27
[朝1面&社説]
9
36
19
49
49
[経1面&社説]
97 ―
―
位までとは限定せずに,『材料』の上位100位のカタ
カナ語が『化学工学論文集』にあるかどうかを調べ
た。その結果,表中のアンダーラインで示した⑸に
ある99語のうち58語が重複し,58.6%の重複度合で
ある。全113語で見ると70語の重なりであり,実に
61.9%の語が重複する。筆者らは『化学工学論文集』
を理工系分野の代表の一つとして選んだが,この結
果は,今回選んだ『材料』とのカタカナ語の重複度
合いをみると,資料として選択したことが誤りでは
なかったこと,および,分野が近ければ,重なり合
(6752)
福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
表10 上位100位までの『材料』に出現するカタカナ語の他資料との重複度合い
⑴ 4資料と重複:エネルギー テレビ
⑵ 3資料と重複:プラス データ パソコン センサー
⑶ 2資料と重複:ガス ソフト
⑷ 1資料と重複:サイズ ピアノ プロセス ボール ゴム
エンジン
⑸ 重複なし :(99語)
イオン
シリコン
グラファイト
デバイス
ケイ素
サーミスター
フィルム
アルミニウム
タービン
ジェットエンジン
シリコンウエハ
オーム
グリフィス
ドーピング
バイボーラ
ポテンシャル
コンピュータ
ポテンシャル
モーメント
カテナン
スピン
トランス
ビーム
ポアソン
ミラー
ガラス
ファイバー
バンド
モノ
シリカガラス
ペロブスカイト
レベル
オージェ
モード
エネルギーレベル
ホウ素
カリウム
コラム
エンタルピー
バケツ
ポリスチレン
ナイロン
マトリクス
エネルギーバリア
ガン
タングステン
パズル
ビニール
ポリプロピレン
ヤング率
セラミックス
ダイヤモンド
レンズ
キャリア
ベンゼン
ポリエチレン
アルミナ
ルビー
モノマー
エネルギーバンド
ポリアセチレン
サイコロ
スターポリマー
シリカ
バリウム
ウルツ
ファン・デル・ワール
アイソタクチック
エネルギーギャップ
ゲル
デンドリマー
バーガースペクトル
フラーレン
ポンピング
ランダム
アモルファス
レーザー
ポリマー
プラスチック
ロール
バリスター
チタン
コップ
クーロン
リン
ミクロ
アンテナ
タービンプレート
トンネル
ブロック
エレベーター
ベルト
ミスフィット
ガスセンサー
コンデンサー
トランジスタ
ヒ素
プラズマ
マシン
し取ったもので,やはり外国語である。しかも,意
味の定着は完成しておらず,常に流動的な外国語で
ある。したがって,これを使う人によってそれぞれ
意味する内容がずれることがあり,必ずしも安全な
う語も多くなる傾向があることを改めて検証したこ
とになる。
5.カタカナ語の学習方法への提言
意思伝達語とは言えない。日常生活においては曖昧
な伝達が予想されるようなカタカナ語の使用には注
以下では,本研究の調査資料の分析結果から,研究
留学生がカタカナ語を学習する立場に立った効果的な
学習方法について考察する。
意が必要である。しかし,カタカナ語の原語を何ら
かの手段をもって確認することは必要である。問題
は原語が余りにも異なる発音であり,欧米人がカタ
カナ語の意味を理解して,それを自分の母国語と同
5.
1 日本語をカタカナ語扱いするのを止める
最初に,外来語のカタカナ表記,外国語のカタカ
ナ表記,和語・漢語のカタカナ表記は根本的に役割
じ発音をしたからと言って,教える側が原語のアク
セントや発音をきちんと押さえていれば,「ギター」
が異なることを再認識する必要がある。外国語のカ
タカナ表記は,欧米諸国をルーツとする日本化した
日本語を,それが分かるようにカタカナで示した,
れっきとした日本語である。これに対し,外国語の
を「gI-taa」といわずに「gi-taA:r」と発音したから
といっても問題はない。
発音は問題でないとすれば,「カタカナ語が日本
語を駄目にする」,「カタカナ語が日本人を駄目にす
カタカナ表記は,英語の発音を便宜上カタカナに写
る」といった嘆きや心配が多い「カタカナ語」とは
98 ―
―
理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
(6753)
せない,むしろ不得意感を与えないように,カタカ
ナ語に馴染むように気配りすることである。
いったいどのようなカタカナ語なのだろうか。それ
は恐らくは外国語の問題ではなくて,日本語の問題
である。注視してもらうためにわざわざカタカナ表
記したり,動植物をカタカナで書くといった傾向だ
けでなく,昨今の風潮として,音訓表示の漢字をカ
5.3 可能な限りカタカナ語の後に原語を付加する
カタカナ語が氾濫する現代では,できるだけカタ
カナ語の後に原語を併記することが望ましい。カタ
タカナで書いたり,交ぜ書き語をカタカナで書いた
りするという傾向がある。
「怪我」を「ケガ」,「我
が儘」を「ワガママ」
,「ば倒」を「バ倒」といった
現状である3)。つまり,このような事態は現代人の
日本語に対する姿勢の問題であって,決してカタカ
カナ語は表記も様々であるから,常に辞書で探せ
るとは限らないからである。例えば「アイスコー
ヒー」「マスメディア」のような簡単な語でも原語
表記があるとないとでは理解度が異なる。「アイス
コーヒー」は原語では「ice coffee」ではなく,
「iced
ナの問題ではないと言える。
日本語の表記に関して,実際にこのような様々な
問題があるため,読み易さを求めた方法の一つとし
cofee」である。したがって,
「アイスコーヒー(iced
coffee)」とあれば,教える側にも教わる側にも時
間の節約と理解の早さが期待できる。同様にして「マ
て使われているのが,昨今多用される和語・漢語の
カタカナ書きである。しかし,美しい日本語を駄目
にするカタカナ語といった評価は必ずしも妥当とは
言えない。カタカナ語には問題もあるが,日本語の
しかも漢語翻訳では追いついていけない部分もあ
る。いたずらに無思慮に何でもカタカナ語にしてし
まう前の一考は必要ではあっても,現代社会には必
要なカタカナ表記だと言える。
学習者ではなく,我々日本人が,日本語学習者に
接するときには,できるだけ日本語は日本語で表現
し,学習者の混乱を招かないような配慮をするべき
であると著者らは考えている。
スメディア(mass media)」とあると,
「マスメ・ディ
ア」ではないことが一目瞭然で理解も早い。
カタカナ語は主に英語であるから,特に,英語が
媒介語である理工系の分野で研究する際には,これ
らのカタカナ語を原語で一度確認すれば,特に意味
が分からなくて困るということはない。まずは自分
の専門分野のカタカナ語に取り組むことが,カタカ
ナ語の学習の近道であると言える。
おわりに
5.
2 カタカナ語の「正しい」使い方を必要以上に
強要しない
日本語を学習する学習者はできるだけ正しい日本
語を学びたいと願う。これは当然のことであるが,
外来語についてはあまり「正しい」ことを強要しな
い方が望ましい。初級段階で学ぶ外来語には多少
「正
しい」発音,
「正しい」表記を望むことは必要かも
しれないが,それは程度問題である。カタカナ語は
以上の調査分析の結果から,カタカナ語の学習につ
いて以下のように考察した。
第二言語として日本語を学習している者は,意味な
く溢れているようにみえる目の前のカタカナ語とだけ
向き合うのではなく,洪水のように溢れてくるカタカ
ナ語を,それが自分に必要なものであるかどうかとい
う一点から見極める必要がある。日常生活そのものが
生活の場であれば,和語であれ漢語であれカタカナ語
であれ,少なくとも新聞に出てくる言葉を主として学
習することを目標にした方がよい。新聞は誰でもが読
めることが絶対条件である。したがって,知的生活を
発音が原語とは異なる場合もあるし,アクセントも
異なることも多い。重要なのは,日本人がカタカナ
語を口にした時に学習者がどの原語であるかが分か
ることである。反対に学習者が英語風な発音,中国
語風な発音,フィリピン風な発音でカタカナ語を発
声したときに,こちら側がそれを理解できることで
送ろうとする者にとっては,新聞の記事が読めること
は,必要かつ最低限の外国語学習の条件になると言え
る。
しかし,研究生活が日常生活である場合には,自分
の専門分野のカタカナ語と向き合うことを第一の目的
とするのが現実的な選択と言える。この際,専門分野
ある。それには教える側の勉強と意識改革が必要に
なる。日本語を教える側に必要なことは,強制的に
教えるよりは,カタカナ語が何のためにあるのかを
考えて,それが意思疎通の妨げにならない程度の理
解度で止め,カタカナ語への不快感や拒絶感を持た
のカタカナ語は多くが英語から来ていることを活用す
るべきである。英語と日本語式に表記されたカタカナ
語は違うとカタカナ語を責める人は多い。発声方法,
99 ―
―
(6754)
福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
記述方法が異なれば,たとえカタカナ書きを止めて英
語をそのまま用いたとしても日本人が読めばカタカナ
特殊なもの・専門的なもの・周辺的なもの(日常用語)
に使われている語が大部分である。極端に言えば,周
表記と同じ読み方になる。カタカナ表記から原語が分
からないという欠陥は確かにあるが,自分の専門分野
に出てくるカタカナ語は専門用語としての原語と比較
辺的なカタカナ語は,理工系分野の日本語学習者は学
ばなくてもよい。なぜなら,どんなに溢れるカタカナ
して確認することは容易であり,積極的にそうするこ
とを指導することは効果的である。
カタカナ語の一番の問題点は,学習者だけでなく教
いからである。
最先端の科学でも同じことが言える。多くのカタカ
語を学んでも,そのほとんどが専門分野には出現しな
ナ語が使われるが,それが一段落すると消えていくカ
タカナ語も少なくないからである。日本語の基本を
しっかり学び,基本語彙を習得していれば,カタカナ
える側も「カタカナ語=外来語=英語」と単純に思い
込んでしまう傾向があることである。そして,教える
側の意識と努力が足りないことも事実である。「アイ
デンティティー」などという言葉が出てきた時に,辞
書にある説明だけを棒読みで教える者は多い。しかし
「自分とは何者であるか,ということ。自己同一性,
自己証明などと訳されることば」
(『例解新国語辞典』
語を恐れる理由は全くない。第二言語として日本語を
学ぶ者は,自分の専門性を生かした学習方法に立ち,
カタカナ語の選別を自ら行うのが一番である。
2006)という辞典の説明をしたからといって,学習者
に正しく理解できるだろうか。基本的なことだが,教
える者が教えることをまずきちんと理解してから学習
者に教えるべきである。その際,もし日本語で的確に
説明できないようなカタカナ語であれば,
その時こそ,
カタカナ語と外来語の違いをきちんと説明し,「外来
語はカタカナで書く日本語」
「カタカナ語は日本語で
うまく表せない外国語」と,正しく説明し,学習者に
このことを熟知させることが大切である。言語は流動
するもの,言語は文化を背景に社会や現状を映すもの
である。必要なものは残り,不必要なものは消えてい
く。したがって,今現実の社会の中で自分に必要なも
のを取り出す知恵が備わるような教育指導が必要であ
る。
「オタク」
「ヒキコモリ」
「カワイイ」「モエー」「カ
注
1)石綿(1960)の調査によれば,英語からの外来語
が圧倒的に多くて全体の81%,以下,フランス語
6%,ドイツ語3%,イタリア語2%である。
2)山口(2006)は,国語学者としてこれ以上同音異
義語の漢語を増やすことに疑問を呈している。和製
漢語が作られたのは中国との文化交流が盛んだった
時には利点があったが,現在では英語が昔の中国語
の役割を果たしているのだから,カタカナ語を認め
るほうが理に適っていると述べている。
3)キクチ(1998)では,カタカナの使い道として,
交ぜ書きを読みやすくする,表外字をカタカナで示
す,表外音訓をカタカナで示す,漢語の特殊な読み
合わせをカタカナで示すなどをあげている。その調
査に「週間ファイト」というプロレス専門のタブロ
イド紙の分析を行っているが,むずかしい漢字は一
ラオケ」などのように日本から世界に出て行った言葉
もあるが,その量は圧倒的に少ないのが現実で,圧倒
切使わないでカタカナ書きされている方針を高く評
価している。
的に多いのが日本に入ってくる英語である。今や,コ
ンピュータの分野で使われる専門用語は,殆ど全てが
借用英語(カタカナ語)と言ってもよい。英語と違う
参考文献
とか,発音が変だとかいって日本語そのものを拒絶す
る学習者もいるが,氾濫する情報を素早く伝達する手
段として専門分野においてはカタカナ語が増えてしま
下川浩:『現代日本語構文法』三省堂(1993)pp56-
石綿敏雄:「雑誌の中の外来語」『言語生活4』筑摩書
房(1960)pp4-5.
59.
堀内克明:『カタカナ・外来語/略語辞典』自由国民
社(1995)
入戸野修編:『材料工学への招待 ― 新しい視点に
う。原語とカタカナ語を併記することは,カタカナ語
を効果的に学習できることになると認識すべきであ
る。また,どの分野でも専門用語がカタカナ語で代用
される傾向が強いからこそ,自分の専門分野に必要な
立って』培風舘(1998)pp1-162.
金田一晴彦・林大・柴田武:
『日本語百科大事典』(1998)
カタカナ語を中心に学習すべきである。
外来語は漢語と違って基本語彙に属するものが少な
宇野吉信:カタカナ語を考える,
『かもがわブックレッ
ト』かもがわ出版(1998)pp1-64.
い。カタカナ語もまた同様である。特にカタカナ語は
100 ―
―
理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
(6755)
入戸野修・武田明子:科学技術専門書に常用される複
キクチカズヤ:カタカナは「カタカナ語」以外に
も使い道がある,
『カナノヒカリ89号』
(1998)『み
合動詞の調査分析,『福島大学地域創造第21巻第
1号』(2009)pp128-147.
入戸野修・武田明子:理工系分野で学ぶ基礎的な複合
動詞の効果的な学習方法について,『福島大学地
域創造第21巻第2号』(2010)pp46-60.
文化庁ホームページ:平成20年度『国語に関する世論
んなの日本語Ⅰ,Ⅱ』スリーエーネットワーク
(1998)
東照二:
『社会言語学入門』研究社出版(1999)pp.1264.
内山和也:
「電脳」時代の片仮名表記語のゆくえ ―
メタファーと表現効果とをめぐって ― ,『広島
大学教育学部紀要第二部』第48号(2000)pp.257-
調査』の結果について(2010)
266.
朝日新聞:
「論壇」
(2000)平成12年3月7日朝刊
林巨樹・松井栄一:
『現代国語例解辞典』第4版,小
学館(2001)
文化庁:『公用文の書き表し方の基準(資料集)増補
二版』第一法規(2001)pp1-16.
金田一晴彦:
『学研現代新国語辞典』改訂第3版(2001)
大野晋・森本哲夫・鈴木孝夫:
『日本・日本語・日本人』
新潮選書(2001)pp1-172.
入戸野修・武田明子:留学生に対する科学技術専門書
読解のための教科書作成に向けて ― 化学工学に
『福島大学地域創造
おける専門日本語漢字 ― ,
第14巻第2号』(2002)pp77-87.
入戸野修・武田明子:研究留学生に対する科学技術専
門書読解のための漢字記述語の分析 ― 化学工学
『福島大学地域創造
における漢字を含む語 ― ,
第15巻第2号』(2003)pp51-62.
入戸野修・武田明子:科学技術専門書読解のための漢
字の例示語選定に関する一考察,
『福島大学地域
創造第17巻第1号』
(2005)pp.47-60.
山 口 仲 美:
『 日 本 語 の 歴 史 』 岩 波 新 書(2006)pp1230.
諏訪いずみ・高橋勇・黒岩丈介・小高智弘・小倉久和:
日本語学習者のカタカナ語理解を支援する英単語
検索システムの検討,
『電子情報通信学会論文誌』
Vol. 4(2006)pp797-806.
ディルルクシ・ラトナーヤカ:学習者がカタカナ語を
習得する際の問題点及びカタカナ語に対する意識
調査,
『電子情報通信学会論文誌』Vol.4(2006)
pp687-695.
林四郎:
『例解新国語辞典』第7版(2006)三省堂
柴崎秀子・玉岡賀津雄・高取由紀:アメリカ人は和製
英語をどのぐらい理解できるか,
『日本語科学21』
(2007)pp89-110.
新村出:
『広辞苑』岩波書店(2007)
『化学工学論文集』Vol1-6,化学工学会(2008)
101 ―
―
(6756)
福島大学地域創造 第22巻 第1号 2010.9
理工系研究留学生のカタカナ語学習の効率化を意図した調査分析
Comments on Effective Learning of Katakana Words Commonly Used in Japanese
Scientific and Technical Papers
Osamu NITTONO and Akiko TAKEDA
Learning of Japanese is necessary for foreign graduate students, who are eager to understand scientific
and technical Japanese papers, and then to start research activities in Japan as soon as possible. This study
analyzed practical usage of katakana words, taking into consideration of characteristics of katakana words
used in Japanese books including scientific and technical papers, together with our previously proposed
learning methods. It was shown that effective learning methods must consider several points including
detailed analysis on characteristics of katakana words, and also their selection principle reasonable for
practical learning is important when preparing text books of technical Japanese terms for research students
from especially non-Kanji countries. We also proposed several effective how-to leraning techniques for
premitive katakana words: ⑴ Deep-understanding and accumulation of vocabularies of primitive Japanese
words is basically necessary, with understanding that katakana word usually used is not always true
Japanese, ⑵ Deep-understanding of katakana words mainly used in scientific fields concerning their reseach
projects is also preferable, ⑶ Perfect usage of katakana words must be restricted within a reasonable degree
of katakana expression to be learned, ⑷ Use of katakana words followed with their original foreign words
is always desirable for true understanding of their meanings. Proposed how-to learning techniques will be
useful and helpful for deep understanding of Japanese technical papers together with the practical analyisis of
katakana words commonly usedin Japanes papers and books.
図1「材料科学への招待」に出現するカタカナ語が新聞に出現する割合
1
0.9
0.8
0.7
0.6
材料科学への招待
累
計
0.5 出
現
割
合
0.4
朝日2月1週記事
朝日2月1週広告
朝日5月1面と社説
日経5月1面と社説
0.3
0.2
0.1
1
51
101
151
201
251
301
351
401
カタカナ語(出現の多い順)
102 ―
―
451
501
551
601
651
0
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