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位相輪帯素子を用いた Blu-ray Disc/DVD 互換技術

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位相輪帯素子を用いた Blu-ray Disc/DVD 互換技術
特集
記録技術
位相輪帯素子を用いた Blu-ray Disc/DVD 互換技術
Phase Shift Element for Blu-ray Disc/DVD compatibility
小 池 克 宏,小 笠 原 昌 和,菊 池 育 也
Katsuhiro Koike,
Masakazu
Ogasawara,
Ikuya
Kikuchi
松 田 武 浩,江 塚 敏 晴,大 滝 賢
Takehiro Matsuda,
要
旨
Toshiharu
次世代光ディスクとして規格化された B l u - r a y
Ezuka,
Sakashi Ohtaki
D i s c は,波長 4 0 5 n m ,
N A 0 . 8 5 の光学系を使用し,カバー層 0 . 1 m m を有するディスクの記録再生を行う。
Blu-ray
D i s c 用ピックアップの開発においては,現在広く普及している D V D との
互換性確保が必要不可欠である。そのため,我々は B l u - r a y
D i s c と D V D 互換用光学
素子として D V D 用光源波長の光に対してのみ収差補正効果のある位相輪帯素子を開発
し,ピックアップでの実装評価によりその互換性能を確認した。
Summary
A Blu-ray Disc system which employs a 405nm blue laser diode, an NA 0.85 objective
lens and a 0.1mm cover layer was standardized.
When developing an optical pickup for Blu-ray Disc system, it is desirable to maintain compatibility
with DVD. To realize the compatibility, we have developed the Phase Shift Element and confirmed its
potential by experiment.
キーワード :
Blu-ray
Disc
,D V D
,球面収差,収差補正,光ディスク,
光ピックアップ,波長選択性
1. まえがき
6 5 0 n m の赤色レーザと N A 0 . 6 ∼ N A 0 . 6 5 の対物
次世代高密度光ディスクとして規格化された
レンズを使用しており,ディスクのカバー層の
B l u - r a y D i s c は,波長 4 0 5 n m の青紫色レーザ
厚みは 0 . 6 m m である。従って,B l u - r a y D i s c
と N A 0 . 8 5 の高 N A 対物レンズを使用し,D V D と
用のピックアップで D V D の記録再生をしようと
同じ大きさの光ディスクに 2 3 ∼ 2 7 G B のデータ
した場合,波長やディスク厚みの違いにより球
を記録再生する。対物レンズの高 N A 化に伴い,
面収差が発生するため記録再生が困難である。
ディスクの傾きによる性能劣化が大きくなるこ
このような課題を解決し,B l u - r a y D i s c と
とを避けるため,ディスクには 0 . 1 m m の薄いカ
D V D の互換対応が可能なピックアップを実現す
バー層が採用されている。
るために,我々は赤色レーザを用いたときのみ
一方,現在すでに普及している D V D は,波長
球面収差補正効果を持つ位相輪帯素子を開発
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PIONEER R&D Vol.14 No.1
し,ピックアップに搭載してその性能を確認し
従って,輪帯状段差の半径をそれぞれ最適化す
たので,その内容について報告する。
ることにより,B l u - r a y D i s c 用対物レンズで
D V D を記録再生する際に発生する球面収差を補
2. 位相輪帯素子光学設計
正することが可能となる。
今回開発した位相輪帯素子は,図 1 に示すと
位相輪帯素子を用いた場合の B l u - r a y D i s c
おり B l u - r a y D i s c 用単玉対物レンズと組み合
と D V D に対する波面収差を図 2 に示す。灰色で
わせて使用される。この素子は,平行平面板の
示されているのは B l u - r a y D i s c 用対物レンズ
片側に複数の輪帯状の微少な段差が施されてお
単体の場合の波面収差で,黒で示されているの
り,その段差量は 4 0 5 n m の光に対して波長の整
は位相輪帯素子を用いた場合の波面収差であ
数倍の光路長差が発生するように設計されてい
る。B l u - r a y D i s c の波面収差を見た場合,対
る。波長の整数倍の光路長差は波動光学的には
物レンズが B l u - r a y D i s c 用に設計されている
無視できるため,4 0 5 n m の光に対して位相輪帯
ため,対物レンズ単体で良好な波面収差となっ
素子は平行平板と同様に振る舞う。
ている。これに位相輪帯素子を加えた場合,波
一方,650nm の光に対しては,段差で発生す
面に階段状の光路長差が発生するが,輪帯状に
る光路長差は約 0 . 6 λとなり,波長の整数倍か
分割された各領域の波面の光路長差がちょうど
らずれる。従って,6 5 0 n m の光に対して位相輪
波長の整数倍に位置しており,それらの位相は
帯素子は輪帯状の段差形状の波面収差を生じ
すべてそろうため,波面に影響を与えない。
一方,D V D の波面収差を見た場合,対物レン
る。6 5 0 n m の光で発生する収差形状は,輪帯の
半径を変えることによりコントロール出来る。
図 1
ズ単体では波長やカバー層厚みの違いにより球
位相輪帯素子の構成
(a) Blu-ray Disc 波面収差
図 2
PIONEER R&D Vol.14 No.1
(b) DVD 波面収差
位相輪帯素子の有無による波面収差の比較
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面収差が発生していることがわかる。これに
対物レンズ単体の場合の波面収差で,黒で示さ
位相輪帯素子を加えた場合,B l u - r a y D i s c の
れているのは位相輪帯素子を用いた場合の実効
場合と同様に階段状の光路長差が発生するが,
波面収差である。B l u - r a y
その光路長差は約 0 . 6 λと波長の整数倍から
B l u - r a y D i s c 用対物レンズ単体の場合の波面
ずれている。しかし,対物レンズ単体で発生す
収差と位相輪帯素子を用いた場合の実効波面収
る球面収差と組み合わせた場合には,すべて
差が一致しており,D V D に関しては,対物レン
の領域の波面が B l u - r a y D i s c の場合と同様に
ズ単体の場合の波面収差と比べて位相輪帯素子
波長の整数倍に位置するようになる。
を用いた場合の実効波面収差は良好に補正され
D i s c に関しては,
このような,階段状の収差をより直感的に
ている。しかし,D V D に関しては補正後の輪帯
評価するため,図 3 に示すように,我々は実際
状に分割された各領域の波面に傾斜があるた
の波面収差から波長の整数倍を差し引いた仮
め,鋸波状の収差が残留する。
このような収差が残留していても D V D の再生
想的な波面収差である実効波面収差を定義し,
これを用いて位相輪帯素子を含んだ光学系の
が可能であるかを予想するために,このレンズ
収差を考えることにした。
の波面収差を用いてディスク上に形成されるス
位相輪帯素子を用いた場合の Blu-ray Disc
ポット形状のシミュレーションを行った。図 5
お よ び D V D に 対 す る 実 効 波 面 収 差 を 図 4 に示
はそのシミュレーション結果である。B l u - r a y
す。灰色で示されているのは B l u - r a y D i s c 用
D i s c に関しては位相輪帯素子の有無で全くス
図 3
波面収差と実効波面収差
(a) Blu-ray Disc 実効波面収差
図 4
(b) DVD実効波面収差
位相輪帯素子の有無による実効波面収差の比較
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PIONEER R&D Vol.14 No.1
ポット形状に差がない。一方,D V D に関しても,
3 .位相輪帯素子評価結果
位相輪帯素子を用いた場合の実効波面収差が鋸
図 6 は,今回試作した位相輪帯素子,対物レ
波状になっているにもかかわらず,D V D 専用に
ンズ,および組み立て後の互換レンズの収差を
設計されたレンズを用いた場合とほぼ同等のス
干渉計にて測定した結果である。互換レンズの
ポット形状が得られた。以上の結果から,我々
収差値は,B l u - r a y D i s c , D V D それぞれに対し
はこの位相輪帯素子により B l u - r a y
て,0.042 λ rms,0.032 λ rms と許容できる値
Disc と
D V D の互換記録再生が可能であると考え,これ
に収まっていることが確認できた。
を試作した。
我々はこの互換レンズを B l u - r a y
表 1 は,今回試作した位相輪帯素子を用いた
Disc 用
ピックアップおよび D V D 用ピックアップに搭載
B l u - r a y D i s c / D V D 互換レンズの仕様である。
し,その再生性能を確認した。図 7 はその測定
位相輪帯素子は樹脂製で,対物レンズには,ガ
結果である。B l u - r a y D i s c に関しては,ボト
ラス単玉の B l u - r a y D i s c 用対物レンズを用い
ムジッタ,マージンともに対物レンズ単体の場
た。位相輪帯素子の段差数は全部で 13 段で,段
合と比較してもその性能劣化が非常に小さいこ
差と段差の間隔の最小値は 0 . 0 4 8 m m と広く,製
とがわかる。また,D V D に関してもボトムジッ
造上好ましい設計となっている。
タ 7 . 5 % と良好な値が得られており,マージン
(a) Blu-ray Disc スポット形状
図 5
表 1
PIONEER R&D Vol.14 No.1
(b) DVD スポット形状
スポット形状シミュレーション結果
B l u - r a y D i s c / D V D 互換対物レンズ仕様
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も所定量が確保されていることが確認できた。
ていた球面収差を,コリメータレンズを駆動す
これらの評価結果から,今回試作した位相輪帯
ることにより補正することが可能になった。本
素子を用いた互換レンズにより Blu-ray Disc/
ピックアップを用いた B l u - r a y
D V D 互換再生が可能であることを確認した。
D V D の再生性能は,それぞれのピックアップで
D i s c および
測定した結果とほぼ同等であった。
4 .位相輪帯素子を用いた B l u - r a y
D i s c / D V D 互換ピックアップ
5 .まとめ
図 8 は,位相輪帯素子を使用して開発した
今回我々は,B l u - r a y D i s c / D V D 互換ピック
B l u - r a y D i s c / D V D 互換ピックアップの光路で
アップを実現するために,位相輪帯素子を開発
ある。D V D 用の光路が追加されることにより
し,ピックアップでの実装評価によりその有効
ピックアップが大型化することを避けるため,
性を確認した。また,この光学素子を利用した
4 0 5 n m のビーム整形には,従来のプリズムタイ
B l u - r a y D i s c / D V D 互換ピックアップを開発し
プではなく,レンズタイプのものを新たに開発
た。今後は,B l u - r a y D i s c および D V D の記録
した。これにより,従来はコリメータレンズと
に対応したピックアップの可能性に関してさら
は別に用意されたビームエキスパンダで補正し
なる検討を進める。
(a) 位相輪帯素子
(b) 対物レンズ単体
図 6
図 7
(c) 互換レンズ(Blu-ray Disc)
(d) 互換レンズ(DVD)
各光学部品と互換レンズの干渉縞
ディスクチルトに対するジッタの変化
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PIONEER R&D Vol.14 No.1
図 8
B l u - r a y D i s c / D V D 互換ピックアップ光路
松 田
5 .謝辞
武 浩 ( まつだ た け ひ ろ )
所属: コンポーネンツ・ビジネス・カンパ
本検討を進めるにあたり,B l u - r a y D i s c 用
ニー( C B C ) 第 1 技術部
対物レンズを提供していただいたペンタックス
入社年月: 1 9 9 2 年 4 月
株式会社の関係各位に深く感謝いたします。
主な経歴: M D メカ設計,D V D
ピックアップ
のアクチュエータ設計
江 塚
筆 者
敏 晴 ( えづか と し は る )
所属: 研究開発本部 A V 開発センター 小 池
B D R 開発部
克 宏 ( こいけ か つ ひ ろ )
入社年月: 1 9 9 0 年 4 月
所属: 研究開発本部 総合研究所
主な経歴: 入社以来,高密度光記録再生方
光技術システム研究部
式の研究・開発に従事
入社年月: 1 9 9 2 年 4 月
主な経歴: 光ピックアップ用光学素子の研
大 滝
所属: 研究開発本部 A V 開発センター
究・開発
小 笠 原
B D R 開発部
昌 和 ( おがさわら ま さ か ず )
入社年月: 1 9 8 0 年 4 月
所属: 研究開発本部 総合研究所
主な経歴: 光ピックアップの研究開発
光技術システム研究部
趣味など: 家庭菜園,R P G ,囲碁・将棋
入社年月: 1 9 8 9 年 4 月
主な経歴: ディスク機械特性評価機の開発
を経て青色光源を用いた光ディスクシステ
ムの開発に従事
菊 池
育 也 ( きくち い く や )
所属: 研究開発本部 総合研究所
光技術システム研究部
入社年月: 1 9 7 8 年 4 月
主な経歴: 光ピックアップの研究開発
PIONEER R&D Vol.14 No.1
賢 ( おおたき さ か し )
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