...

生協活動、農業協同組合の現状と課題

by user

on
Category: Documents
19

views

Report

Comments

Transcript

生協活動、農業協同組合の現状と課題
山形大学人文学部「連合山形寄付講座」
2013年度後期 「労 働 と 生 活」
第12 回(2014.01.16)
協同組合とは何か、協同組合の取り組み
「生協活動、農業協同組合の現状と課題」
大 友 廣 和(山形県生活協同組合連合会 専務理事)
後 藤 新 一(山形県農業協同組合中央会 教育部長)
山形県生活協同組合連合会
専務理事 大友廣和
1.生協の誕生はイギリス、ロバート・オウエンが思想の源流
皆さんこんにちは。山形県生協連で専務理事をやっております大友と申します。私の方から生活協同組合
の現状と課題ということで約 30 分お話させていただきます。私の話は、大きく3つに分かれております。表
紙に書いてありますように「生協の誕生の歴史と理念」「生協運動の基本方向と課題」、最後に「地域との関
わり、共生の社会づくり」ということについてお話をさせていただきたいと思います。
最初に「生協の誕生の歴史と理念」についてです。生協の発祥の地はイギリスです。イギリスでは世界に
先駆けて 18 世紀後半に産業革命が起こります。このなかで労働者と資本家という階級が確立していきます。
労働者は低賃金、長時間労働で、常に失業への不安にさらされていました。そして、不健全な住居に住み、
悪徳商人に劣悪な商品を高い価格で買わされていました。例えば、小麦粉に砂が混ざっていたりしました。
このような状態を改善しようと生協がつくられていきます。
生活協同組合思想は、1771 年に生まれたロバート・オウエンの考え方が源流になっています。彼は、こん
なふうに考えました。最初に皆が利用する協同の店を作ろう。そして資金が貯まったならば住宅を建てよう。
次に私達が日常使えるような商品の工場を作ろう。さらに土地を購入して農場を作ろう。最後に協同のコミ
ュニティを作るというのがロバート・オウエンの協同の思想です。これが協同組合の思想の源流です。これ
に賛同した人達が当時はオウエン主義者と呼ばれていました。最盛期にはイギリス全土で 200 を超える協同
の店を開店しております。しかし、この協同の店は経営がうまくいかずに 1930 年代後半にはほとんど閉店
に追い込まれております。
2.最初に成功した生活協同組合、ロッチデール公正開拓者組合
そういうなかで、世界最初に成功した生協の店が出てきます。これが 1844 年にロッチデールというイギ
リスの地方都市で作られた生協です。当時このロッチデールでは大ストライキが起こっていました。何度も
繰り返されたストライキと失業によって労働者の生活は非常に悪化しておりました。これをなんとかしなけ
ればならないという人達が生活協同組合を創立しました。その最初の店が 1844 年 12 月 21 日にイギリスの
トードレーン通りの倉庫の1階に開店しました。これがロッチデール公正開拓者組合の始まりです。このロ
ッチデールは次のような創立宣言を掲げました。
「本協同組合の目的と計画は、組合員の金銭的利益と社会的
および家庭的状態の改善のための制度を形成することにある」として、店舗の開設、住宅の建設、品物の製
造の開始、土地の耕作、自立的な共同体の建設、さらに付け加えて禁酒ホテルの開設を掲げました。
ロッチデール公正開拓者組合がなぜ成功したのかということですけれども、これは後にまとめられ協同組
合原則という形になっています。組合員がどうやって生協を運営していったらいいのかと討論を重ねて、い
わば自分達で編み出していった運営の原則です。これは7つにまとめられました。
1つ目は、購買高による剰余金の分配。2つ目に商品については品質の良い物だけを扱う。3つ目に価格
1
については市価と同じ価格。4つ目は、掛け売りはやめて現金販売のみ。5つ目に組合員は平等だというこ
とで一人一票制。6つ目に組合の政治的、宗教的な中立の原則ということで、組合員の思想・信条の自由を
守る。7 つ目に協同組合の教育を推進する、と運営原則がまとめられました。
このロッチデール公正開拓者組合が奇跡的な成功を遂げたものですから、この経験が当時のジャーナリス
ト、ジョージ・ヤコブ・ホリョークによって各国に伝えられて、ロッチデール原則として他の生活協同組合
に受け継がれていきました。これがイギリス全土、さらにはヨーロッパから世界中に広がって生協が次々と
設立されていったという経緯を辿ります。
3.1895年に、国際協同組合同盟(ICA)が設立
全世界に協同組合が広がっていきましたので、協同組合としてまとまりを作ろうということで国際協同組
合同盟(ICA)が設立されております。ICAは 1895 年にロンドンに設立されております。世界各国の
農業、消費者、信用、保険、医療関係、漁業、林業、労働者、旅行、住宅、エネルギー等の協同組合の全国
組織が加盟しているという組織です。日本の生協では、日本生活協同組合連合会というのが全国組織ですけ
れども、これが加盟している。山形県生活協同組合連合会はICAには加盟しておりません。全国連合会が
加盟する。2012年3月現在のICAの加盟組織は世界で96カ国、266団体、傘下組合員は世界全体
で10億人というのがICAの組織です。NGOでみれば世界で一番大きいNGOになります。
4.日本での近代的な協同組合の始まりは明治初期、西洋からの輸入
日本の協同組合はいつ始まったのかということですが、ロッチデールから遅れること 50 年後の 1930 年代
末に「頼母子講」のような農民の土着的相互扶助システムを発展させて、大原幽学が「先祖株組合」
、二宮尊
徳が「報徳社」と名付けて、農村協同組合を設立したというのが日本の協同組合の始まりになっています。
これらは必ずしも近代的な協同組合の設立に対して直接的な礎になったというわけではありませんでした。
日本の生協の始まりは、明治に入って協同組合の考え方を西洋から輸入したことによります。イギリスや
ヨーロッパでの協同組合の活動が書籍や新聞によって紹介されました。特に有名なのが 1878 年に郵便報知
新聞に「協力商店設立ノ義」ということでロッチデールの組合が紹介されたというのが直接的なきっかけに
なっております。その翌年 1879 年(明治 12 年)に東京に共立商社、同益社、大阪に共立商店というのが設
立されます。東京の共立商社の呼び掛け人に当時の東京市長、弁護士、ジャーナリストの方々が名前を連ね
ておりました。西洋の新しい思想を日本でも実践しようという形で始めたというのが日本の生協の始まりで
すけれども、これは経営的にはうまくいかず、数年で活動を停止し消滅をしていきます。
5.労働組合運動の中から、日本でも生協が設立される
そのいうなかで、1898 年に共働店運動ということで、労働組合運動のなかから生協が出来てきます。いわ
ばロッチデールと同じように労働者の生活を改善しようということで出来てきます。
このように次々と生協が設立されてきたものですから、日本の政府もきちんとした法律的な基盤を作らな
ければいけないと考えました。明治政府はドイツに協同組合法の模範を求めて、1900 年(明治 33 年)に産
業組合法を制定しました。ドイツの法律は「産業及び経済組合法」という名前だったのですが、日本では経
済という名前が省略されて「産業組合法」という法律になってしまいました。組合の種類は、信用組合(金
融関係)
、購買組合、販売組合、生産組合という4種類とされておりました。ただこの産業組合法を根拠にし
て消費組合だとか医療利用組合なども作られております。
しかし、第一次世界大戦のなかで、労働組合運動、民主的な活動への弾圧が強まる中、ほとんどの組合が
解散または活動休止に追い込まれました。
第一次世界大戦後に大正デモクラシーと呼ばれる社会情勢の中で生協運動も再生をしてまいりました。こ
の時、3つのタイプの消費組合運動が生まれております。1つ目は「労働者消費組合」で労働組合運動のな
かから出来てきた生協。2つ目は「俸給生活者消費組合」で市民のお母さん方を対象にした消費組合です。
これは賀川豊彦の「神戸購買組合」と「灘購買組合」という組合が有名です。3 つ目は「会社工場付属消費
組合」で会社や工場で働いている人達を組合員として購買部が出来ました。
2
6.日本の生協運動の父、賀川豊彦
ここで賀川豊彦を紹介します。賀川豊彦は日本の生協運動の父と呼ばれております。賀川は生協運動だけ
ではなく幅広く社会運動に取り組んだ方です。1888 年に神戸に生まれました。クリスチャンとして若くから
貧民救済運動に取り組みました。そしてアメリカに留学して帰国後に、労働運動、農民運動、普通選挙運動
など社会改革運動に取り組んだという経歴をもっております。生協関係に限って彼の活動を紹介しますと、
1919 年に大阪に「共益社」という消費組合を作りました、1921 年には神戸と灘に生協を設立。1926 年には
東京で「東京学生消費組合」、1927 年には「江東消費組合」、1928 年には「中郷質庫信用組合」ということ
で今の信用組合に繋がるものを設立しております。1931 年には「東京医療利用購買組合」ということで、医
療生協の原型を作ったということです。現在のいろいろな生協のはしりを賀川は一生懸命取り組んでおりま
す。戦後、賀川は日本生協連の初代会長を務めました。
賀川は、「一人は万人のために、万人は一人のために」という社会を実現するために、「協同組合の中心思
想」を7つの短い言葉で表現しました。その書が今のコープこうべに残っております。いわばロッチデール
原則の日本語版です。その7つとは、利益共楽、人格経済、資本協同、非搾取、権力分散、超政党、教育中
心です。具体的な中身については資料を見ていただければと思います。
7.第二次世界大戦後に、再度、市民生協運動として再生がはかられた
第二次世界大戦後に、再度、生協運動の再生がはかられました。ここはポイントだけ紹介いたします。第
二次世界大戦後の敗戦後、1946 年から 1947 年に町内会生協が出来ました。全国に 6500 組合を超える生協
が出来ております。これは、戦後に物資統制が敷かれましたけれども物資を政府から受け取るため、配給を
受け取るための組合を作りました。ただこの生協は物資統制が緩和されますとほとんど消滅をしていきます。
1950 年代には、労働組合を中心とした「地域勤労者生協」が出来ます。これもなかなか経営的にはうまく
いかなくってほとんど消滅をいたしました。1960 年代後半からは市民生協づくりということで、いわば今の
日本全国で活動している生協のはしりが 1960 年代に出来たということです。1980 年代には日本生協連の方
針で、1県1生協ということで拠点生協づくりが始まりましたし、1990 年代には事業連合づくり、最近では
生協法が改正になって県域を越えて生協を作るということで、首都圏の所では「生活協同組合コープみらい」
が、複数の生協が合併して出来ました。
8.生協の種類と協同組合の種類
生協の種類は、7つくらいあります。1つは「地域生協」ということで、地域に居住する生活者を対象と
した生協。山形県内で言えば、生協共立社と生活クラブやまがた生協が該当します。
「職域生協」では職場で
働く人々が対象の生協ということで、山形県では警察官の生協があります。3つ目が「大学生協」
。ここ山形
大学にあります生協が該当します。それから「学校生協」
。これは小学校、中学校、高校の教職員で構成され
ております。
「医療福祉生協」ということで、鶴岡に庄内医療、酒田に酒田健康生協、山形にやまがた保健生
協ということで3つの医療生協があります。それから「共済生協」です。前回講義した山形勤労者共済生協
(全労済)が該当します。最後に「住宅生協」ということで山形県住宅生協、これは住宅を造って供給する
生協ということで、生協といっても7つくらいの種類があります。
協同組合については、戦前は産業組合法という一つの法律でもって全ての協同組合が網羅されていたんで
すけれども、戦後は産業組合法が廃止されて個別の組合法になりました。ここにありますように 17 の法律に
よってそれぞれの協同組合が作られております。上から7番目のところに消費生活協同組合法というのがあ
りますけれども、これによって生協は設立をされています。
9.消費生活協同組合法に掲げる生協の目的
次の話に移ります。生活協同組合運動の方向と課題です。先ほどご紹介いたしました消費生活協同組合法、
これでは生協について「この法律は、国民の自発的な生活協同組織の発達を図り、もって国民生活の安定と
生活文化の向上を期することを目的とする」と定めています。生協は、生活協同組織なのです。生活という
のを辞書でいろいろ調べてみますと、生活というのは人が生きている限りその命を維持し育むために行って
いる必要不可欠な活動のことである。基礎となる衣・食・住の他に働くこと、学ぶこと、余暇を楽しむこと、
3
コミュニケーションをとることなど生きること全てをいう。これの発達を図るというのが生協の目的だとこ
の法律でいっています。そして、
「組合員の利益を守れ」ということをいっているわけではないです。そうい
う活動をすることによって「国民生活全体の安定と生活文化の向上を図りなさい」、日本国民全体の生活に寄
与しなさいということを日本の法律ではいっております。
10.生協は三位一体の組織
生協は、三位一体の組織です。生協は組合員の願いを利用するために作っている組織で、組合員が出資し
利用し運営する。すなわち3つの役割がすべて組合員で行われている「三位一体の組織」
。ですから経営者と
利用者が分かれている一般の株式会社とは根本的に性格が違う。生協が発展するかどうかは正に組合員の共
同・連帯のパワーが必要で、そこが原動力になってきているということです。
生協は、願いを実現するために2つの手段を持っています。一つ目は事業活動を通してということで、安
全・安心な商品が欲しいということでコープ商品を開発したり、病院や店舗を作ったりしております。2つ
目にはいろんな運動を通して実現するということで、安全な食品が欲しいということで表示をきちんとさせ
たり、ガソリンだとか灯油についてもっと価格を安くして欲しいということで、要請運動を行っております。
この運動と事業の関係なのですが、こんなふうに捉えています。組織=運動が主体で、事業はその上に立つ
機能だと。あくまでもベースは組合員組織なり運動が主体で、事業というのは協同組合の機能だということ
です。
11.レイドロー博士の警鐘、協同組合の 4 つの優先分野
世界で協同組合が発展してくる中で、1980 年にICAモスクワ大会が開催されました。レイドロー博士と
いう方が世界の協同組合運動に対して「そもそも協同組合とは何者であるのか、他の企業と変わりないのか」
ということで警鐘を鳴らして、以下の4つの活動分野を協同組合が今後力を入れる優先分野として提案をし
ました。
第1は「世界の飢えを満たす協同組合」でなければならないということで、食糧・農業の問題に対して取
り組みなさい。第2は生産的労働の協同組合でなければならないということで生産労働に力を入れなさい。
第3は持続可能な社会のための協同組合でなければならないということで、環境問題、資源確保に対して取
り組みなさい。第4は「協同組合コミュニティの建設」ということでロバート・オウエンが掲げた理想、こ
れを取り組みなさいと4つの優先分野を提起しました。
それらの論議を踏まえて、1995 年に「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」が発表されまし
た。このICA声明というのは、定義・価値・原則という3つの部分から構成されております。定義とは「協
同組合とは何か」を規定しています。価値というのは、
「協同組合らしさ」を説明しています。原則は、協同
組合がその価値を実践に移すための活動指針として7つの原則をあげました。これを満たさないと自分達は
協同組合だと言っては駄目だという世界標準の規則として設けられたということです。ちなみに定義は、
「協
同組合は、協同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満
たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織である」となっています。これを世界の協同組合は満た
しなさいということです。
12.生協と地域との関わり、共生の社会づくり
3番目に入ります。
「地域との関わり、共生の社会づくり」ということです。地域というのは、非常に重要
な空間だと考えております。地域には実にいろんな課題があってもちろん生協だけでは解決出来ないのです
が、いろんな団体と協同しあいながら取り組んでいくというのが基本的な姿勢です。これまで地域の課題で
どんなことに取り組んできたのかということですが、山形県鶴岡市に鶴岡生協がありました。これは現在、
生活協同組合共立社ということで組織名称を変更しております。鶴岡生協は 1995 年に設立されております
けれども、設立当初から、ベトナム写真展、平和の取り組み、それから水道料金値上げ反対運動、小児マヒ
対策、ゴミ処理問題等々、平和の取り組みや地域の生活者が困っている課題について果敢に取り組んできた
という経験があります。
4
13.鶴岡灯油裁判の教訓
そのようななかで、特に大きな取り組みになったのが、鶴岡灯油裁判です。今から 40 年前の 1973 年。第
4次中東戦争が起きて、日本に石油が入ってこないという事態が起こりました。その時に、石油元売 12 社が、
闇カルテルを結んで千載一遇のチャンスということで灯油やガソリンについて生産調整、価格調整をやって
物価をどんどんつり上げました。洗剤やトイレットペーパーは店頭から無くなる。高校の時、社会科で習っ
たかと思いますけれども、
「狂乱物価」といわれました。その時に国会で問題になり、石油元売りが「諸悪の
根源」ということで指弾されました。公正取引委員会も動いて、闇カルテルを結んだということで摘発しま
した。しかし、この時に被害を受けた消費者については一銭も戻ってこないということで、鶴岡生協の組合
員達は裁判に立ち上がりました。損害賠償請求をしました。1974 年に山形地裁鶴岡支部に提訴。組合を中心
に 1654 名が原告団になりました。地裁では、不当判決。仙台高裁秋田支部に控訴して、高裁では逆転勝利
判決を勝ち取りました。元売り側は控訴、原告も控訴をして最高裁まで行きました。最高裁では 1989 年に
不当判決が出ました。なんで不当判決なのかというと、闇カルテルによって灯油価格が上がったということ
を消費者側が立証しなさいというのが最高裁の判決だったのです。そんなことは立証しようがないというこ
とで、当時のマスコミも含めて最高裁の判決はおかしな判決だということになりました。弁護団の辻先生は、
裁判の終結にあたり「私達は勝利したし、今も勝利しつつある」ということで結んでおります。
これから9年後に民事訴訟法が改正されました。第 248 条に消費者が被害を被った場合について裁判所が
損害額を認定して構わないと法律が改正されました。ですからもう一度灯油裁判を闘えば、今度は勝利でき
るのではないかと思っております。
この灯油裁判について、当時の鶴岡生協の佐藤日出夫専務がこんなふうに教訓をまとめております。
「信頼
がなければ何も出来ない、理念がなければ進まない、共感がなければ動きは作れない」と。信頼を基礎に協
同が図られてこそ大きな運動が達成出来る、これを生協運動を進める上での教訓にしようということです。
14.いつまでも住み続けられるまちづくりとFEC自給圏
現在、山形県生協連では「いつまでも住み続けられるまちづくり」をテーマに活動をしております。先ほ
ど紹介しました 1955 年の新しい協同組合原則ですが、その時に付け加えられた原則が2つあります。1つ
目は第4原則「自治と自立」と2つ目に第7原則「地域社会への関与」ということで、地域社会の持続的な
発展のために協同組合は活動しようという原則が付け加えられました。
国連が 2012 年を国際協同組合年と定めました。
協同組合が世界中で果たしている役割を積極的に評価し、
各国政府に対して協同組合を育成しなさいと呼びかけました。日本でも日本政府に対して協同組合憲章を制
定するように働きかけました。まだ協同組合憲章は出来ておりません。この時に掲げられたスローガンが「協
同組合がより良い社会を築きます」
、そしてロゴは7人の人が協力して協同組合の目的である立方体を掲げて
いるものです。
国際協同組合年の全国実行委員会委員長は、経済評論家の内橋克人さんが就任しました。一昨年、山形県
生協大会で内橋さんをお呼びして講演していただきました。その時、内橋さんはFEC自給圏を提唱なさい
ました。FECのFはフード、Eはエネルギー、Cはケアで、このFとEとCを自給できる地域の共同体を
日本全国にいっぱい作っていこうというのが内橋克人さんの提唱です。
15.モンドラゴン、世界を驚かせる
地域協同体の一つの典型になっておりますのが、スペインにありますモンドラゴンの協同組合企業群です。
スペインのモンドラゴン協同組合企業については話よりも映像を見ていただいた方が分かり易いと思います。
韓国のテレビ局が 55 分のドキュメンタリー番組を作りました。その予告編で 2 分 11 秒の映像です。音声
は韓国語になっていますが、日本語の字幕スーパーが出てきます。どうぞ、ご覧下さい。
(ビデオ鑑賞)2008 年再びの金融危機を迎えた世界経済。多くの企業が一時解雇を敢行する中で、唯一一人
の解雇も無く、安定的に成長している企業がある。世界を驚かせた協同組合企業、モンドラゴンの奇跡の秘
密は一体何だろうか。
以上で講義を終わります。ご静聴ありがとうございました。
5
山形県農業協同組合中央会
教育部長 後藤新一
1.はじめに
JA山形中央会の教育部を担当しております後藤と申します。よろしくお願いいたします。
私どもJAも協同組合であり、先ほど大友専務から説明ありましたように、イギリスがルーツであります。
歴史については割愛させていただき、私からは、JAの現状と課題、そして対応について5項目に分けてお
話しいたします。
はじめにJAの経営・運営の仕組みについて概略をお話したほうがわかりやすいと思うので、図を準備し
ました。真ん中の枠、
「一人では解決できない共通の願い、悩みや課題を人と人が助け合い、力を合わせるこ
とで解決する」
。これが協同組合の理念です。こういう理念に賛同する人々がJAに出資・加入します。JA
の場合は、出資金は1口 3000 円なんですけれども、拠出し組合員となります。組合員は、JAの総会・総代
会に出席しそこで一人一票の議決権を行使してJAの運営に参画することができます。その運営に対する意
思決定に基づき、役員が、理事会で組合長とか専門職を決めて、さらに職員も雇用して、いろいろな事業を
やっているということになります。そのような業務執行に基づいて、JAのいろんな事業を組合員に提供し
ています。総合事業です。後ほど詳しく話をします。それから経済的なものだけでなく、サークル活動など
みんなで取り組む生活文化活動(協同活動)もやっています。そういうサービス提供を通じて、図の上の方
の枠、
「営農の安定と豊かな暮らし」
「地域農業の振興」
「豊かな地域社会づくり」というJAの使命の達成に
努めています。
図の右に大きな丸で示していますが、これがJAであり県内に 17JA(法人)あります。その上段に県域
組織、全国域組織と書いていますが、17JAとは別に、私が所属しております県のJA中央会とか、そうい
った法人がありますし、全国にはJA全中(全国農業協同組合中央会)という法人もあります。こんな組織
形態で運営をしているというのが、私どもJAグループの特徴であります。
2.第1
農業協同組合(JA)とは
私どもは「農業協同組合法」に基づいて組織が成り立っています。第1条に、農業の生産力増大、営農と
生活を守る、更には地域社会、より良い社会を築く、そういうところまでJAの目的が謳われております。
また、第8条には、JA事業の目的がありますが、先ほど専務からお話がありましたけれども、非営利だぞ
ということが明記されております。そういうような法律の規定になっています。
また、先ほど説明がありました協同組合原則を受け、JAグループでは、さらに事業運営の考え方をJA
綱領として定めています。前文の最初で、協同組合原則に基づいて行動しますと宣言している。さらに地球
的視野に立って、また、全国・世界の協同組合と連携してやっていきますよということを前文で謳っている。
次に本文では、5項目設定しています。細かくは説明しませんが、1点だけ、本来、協同組合を組織すると
いうのは経済的なメリットを享受する、それが目的ですが、私どものJA綱領の中では、そのことが3番目
に掲げられている。JAへの積極的な参加と連帯によって、協同の成果(経済的なメリット)を実現しよう
ということで3番目にきています。1番目は何かというと、農協法にもありましたように地域社会に貢献し
よう、市民・消費者のために食と緑と水を守る、2番目は、地域住民、地域社会のために安心な豊かな地域
社会を築こうというスローガンを掲げて事業に取り組んでいるという組織であります。自分たちのことだけ
でなく外に向って取り組んでいこうというのを大事にしているということです。
3.第2
JAの現状
JAの現状についてお話をします。県内に 17 あるJAの規模は、小から大までいっぱいあります。グラフ
で正組合員と書いてありますが、正組合員というのは農業者の組合員です。後で出てきますが、農業者でな
い准組合員という資格の人もいます。
ここでは正組合員です。
米沢を中心とするJA山形おきたまは2万 2000
人くらいの正組合員が加入していますし、小規模なところですと 500 人、600 人というような組織もありま
す。全国では 703 のJAがあります。次に事業取扱高(17JA合計)を記載しましたが、貯金が 9200 億円余
りあります。山銀さんが約2兆円ですので半分近くあるということになります。販売高を見ていただきます
と 1150 億円ということになりますが、山形県の農業生産額は 2300 億円ぐらいですから、自分の家で食べる
6
分を除く販売する分ですと半分以上扱っているというのがJAの販売事業になります。
皆さん、ドライブで田んぼの中を走ったことがあると思いますが、田んぼの中のこんな施設を見たことあ
りますよね。これ分かる人いますか? カントリーエレベーター(CE)と言います。田舎のエレベーター、
まさしくそういう意味です。稲を刈って籾(もみ)にして、それをサイロに集めて、乾燥するため上に上が
ったり下に落ちたりします。まさにエレベーターということで、カントリーエレベーターという名前になっ
ています。お米は田んぼから刈って粒にして乾燥しないと食べられないんですね。この施設は建てようとす
ると何十億円というお金がかかります。またこちらの写真は果物の選別機。りんごなどを秀、優、良とか品
質ごと、LMSとか大きさごとに分ける作業があるんですけれども。これだって個別にやっていれば効率が
上がらない。まとめてやろうということで大きな施設を建てるんですけれども、これだって取得するには何
十億円となってしまいます。そういうこともあって、JAが組合員農家を代表して取得し、皆で使おうとい
うことをやっています。共同利用施設と言います。非常に高額な施設で、JAのバランスシート、簿記を習
った人は分かるんでしょうけれど、貸借対照表です。要は、固定資産が銀行等と比べたら非常に多額となっ
ています。それは当然、先ほどのような高額の施設を持っていますので固定比率が大変高くなってしましま
す。信用事業の資産と負債がありますが、こっちが貯金など預かっているお金、これが信用事業で使ってい
るお金。その差額が信用事業以外に使われているのではないかということでJAを批判する意見もあります。
なお、協同組合の場合は資本金とは言いません。出資金と言います。また剰余金と言います。会社でいう
と当期純利益といいますが、協同組合の場合は剰余金と呼びます。これは、儲けたお金という認識ではなく、
あくまでも組合員から預かっているお金、見積もった経費が少なくてすんで余ったお金という認識で名前を
剰余金と呼んでいます。
4.第3
JA批判
JAに対する批判は、これまでもいっぱいありました。私が中央会に入った約 30 年前からでさえ、何度も
批判されていますが、その前には、先ほどの産業組合の時代にも反産業組合運動というのがあり、業者さん
から産業組合のやり方はけしからんという批判を受けた歴史があります。
今のJA批判の特徴を大きく4つあげています。
「総合事業制度批判」
「独占禁止法の適用除外批判」
「外部
監査の導入要求」
「准組合員制度批判」ですけれど、この批判に従えば、もはやJAが協同組合でなくなると
いうような性格のものです。もう一枚お配りしているコピー資料、これは1月13日の山形新聞の一面の記
事です。一面トップです。それだけ注目されているというのはありがたいとも思いますけれども、
「農協改革」
という見出しで書かれています。そもそも農協は民間企業、民間団体です。お役人が天下りするような公益
法人とかではありません。民間組織ですから、当然自己改革というのが当たり前なんですけれども、余計な
お世話なんですが、農協改革をしろと言われています。その最たるものがこの4つです。このJA批判を説
明するとJAってどういうものなのか分かるのではないかと思います。
JAは「総合事業」といわれています。生協は、物資の購入という一つの事業をやっているわけですけれ
ども、JAは全てやっていて、農家の協同組合という話なんですね。農業の経営もやっているし、暮らして
いる。それら全てカバーしましょうというのがJAです。これを総合JAと言います。販売だけやっている
専門農協というのもあるんですけれども、JAグループの中心は総合JAです。なぜ総合でやっているの、
なぜ総合でできるんですかということですけれども、一般に銀行ですと購買事業なんてやっていません。普
通ですと物を買ったり売ったりの物流は担当していませんから、銀行は銀行業務だけということになります
けれども、JAは法律で総合事業の形態が認められている。それはなぜか?当時の農林省の見解、農協法が
できたのが戦後間もなくなんですけれども、その時には「それが最も農民の利益に合致する」んだという理
由です。そういう理由で、農協法で決まっているこの理由がこけると農協法をすぐに改正しろということに
なるんだと思います。そういう意味で、総合JAとして認められているんですけれども、私も、事態認識と
しては、これまで以上に協同組合らしいJAらしい総合事業の展開、これが絶対必要だと思っております。
そのための自らの改革も当然やらなくちゃいけないと思っております。
次に事業方式にも特徴があります。生協でも生活に必要な物を買う時、組合員皆でまとめて、少ない数量
のロットを大きくし、まとめて注文するというような話になるわけですけれども、JAの場合ですと買うだ
けでなく、売る方もまとめてやろうとなります。例えば、農家組合員のAさん~Dさんまでが、それぞれリ
7
ンゴを栽培しているとして、これをまとめて市場に出そうという話ですね。こういうのを共同計算販売と言
っています。売値が、例えば1箱 2000 円、例えば1箱 2500 円、これに運賃が掛かりますのでそれを差っ引
くと、平均して1箱 1850 円で精算しますというような手法、プール計算という手法をとっています。これが
いけないという批判をされています。でもこれって本来の協同組合、生協さんもそうですけれども、JAも
小さい単位をまとめてロットを大きくして取引をするというのは、そもそも協同組合のやり方なんです。け
れども、これを否定している、否定されているという話になっています。独禁法には、適用除外というのが
あって、相互扶助、加入団体の自由、一人一票、利益配分の制限、JAの場合ですと出資配当は7%以下に
農協法で定められております、こういう項目に合致すれば適用除外だぞと定められています。また、農協法
では、JAは独禁法のこの条項に該当する(適用除外である)ということを明記しています。それなのに、
ニュース等で聞いているかどうかですが、昨年の夏、庄内のJAに公正取引委員会の立ち入り調査が入りま
して、米の販売取引で組合員からもらう手数料を談合しているのではないかという話がありました。それは
何かというと、独禁法の但し書きがありまして、たとえ協同組合であっても不公正な取引をやる場合は駄目
だという話ですが、手数料の変更を談合して一緒に統一してやったのではないかという話なんです。私ども
の主張としては、全然そういうのは当たらないと言っています。後日、ニュース等になったら思い出してみ
てください。
もう一つの特色として監査があります。監査は、株式会社は会社法で公認会計士の監査が義務付けられて
いますけれども、JAには義務付けられていません。それがおかしいという批判があります。そもそも会社
法で公認会計士の監査を義務付けるのは、投資家の保護のためなんですけれども、JAの組合員、利用者は
投資家ではないんです。そもそも組合員の一人当たりの出資額というのが 30 万円くらいです。配当をねらっ
てお金を出しているわけではないので、従って公認会計士はいらないと。その代わり全国監査機構という組
織を独自に作ってやっています。公認会計士の監査と同じように、公認会計士を雇い入れながら監査をやっ
て報告書を出しています。農協法では貯金残高 200 億円以上のJAに、監査機構の外部監査を義務付けてい
ます。その他に行政指導があり、県庁とか農林水産省や金融庁の検査も入っています。そういうなかで、公
認会計士の監査を会社と同じように義務付けろというのは当たらないと思っています。投資家が株を何百万
円も何千万円も投資するというのと全然レベルが違います。配当が目的ではなくて、利用が目的ですのでそ
ういうことですね。(補足…もちろん、貯金者保護の仕組みも銀行と同じように整備しています。
)
最後に、准組合員制度というのがあります。これについては、農業者でなくても組合員になれる、事業利
用できるという話です。これはずっと昔の産業組合の時から職業に関係なく全員加入し事業利用していたの
で、地域の皆に協同組合活動のメリットが与えられるべきだという話で農協法に措置されたものです。そも
そも准組合員というのは、誰からも強制されて加入しているわけではなくて、事業を利用したい、出資もし
ますというのを承認して入ってもらっているので、農業者以外の加入がダメだという批判はおかしいのでは
ないかと思っています。
(補足…准組合員が増加しており、JA運営への意思反映という課題はあります。
)
そのようなことで4点申し上げましたが、とりも直さずJAの特色であると思っています。
5.第4
JA運営の課題と対応
次にJAの運営と課題ですが、JAグループでは3年に1回「JA大会」を開催しています。全国でもや
っていますし、山形県でも大会を開催し今後のJAグループの運営の方向性を決めています。詳しくは時間
がないので飛ばしますので後で資料を見ていただきたいんですけれども、課題認識という点では、特に組合
員の世代交代、これがJAグループの一番の課題であり、協同組合のメンバーであることの意識が希薄化し
ているのではないかと懸念されます。全国の正組合員と准組合員の年齢構成を図示しています。昭和1ケタ
世代、これは第一世代と呼んでいますけれども、この方々が 42%、4割を占めているという状況になります。
この方々がリタイヤした後、次の世代から、いかに協同組合という考え方を継承してもらうかということが、
非常に大きな問題になってきます。そのため、今回の大会では「次代につなぐ協同」をテーマとして開催し、
さまざまな活動を展開することとしております。途中説明を飛ばしますけれども、JAグループでは3つの
戦略を掲げ、10 年後の姿として①持続可能な農業の実現、②豊かで暮らしやすい地域社会の実現、③協同組
合としての役割発揮、この3つを実現しようと活動を展開しております。
8
6.第5
課題の解決に向けて
このような課題にどう対応していくか。農協法ができてから 60 余年経っています。これまでも、組織を揺
るがす様々な課題に遭遇しました。個々の課題の説明は割愛します。もし興味のある方は、裏に連絡先を書
いていますので連絡ください。いろんな課題がありましたけれども、私どもの組織は、連綿として、今日、
JAグループ山形、こういう形で存続しています。
例えばブロックローテーションという課題がありました。これは生産調整、田んぼで米を作るなという話
です。そういう行政の方針が出されまして、ではどうする、米を作らないということは、当然収入が減ると
いうことですから、所得を確保するにはどうすればいいんだという話ですよね。そこで考えたのは、畑をま
とめて水捌けを良くして大豆の収量をUPしようと、大型の機械を入れて効率良くしようと、大豆を作り収
入が減る人に対してみんなで補填してあげましょうという話をしました。組合員みんなで徹底的に議論しま
した。どうすればいいんだ、どうすれば一番影響が少ないんだと話をしたわけでして、その結果、大豆を植
える田んぼをまとめましょうという話に落ち着いたわけです。例えばAブロック、Bブロック、Cブロック
ということで、大豆栽培する田んぼを順次回そうという話をしました。これをブロックローテーションとい
います。大豆って水捌けが悪いと収量が全然駄目なんですね。ですから、水路の単位で大豆をまとめましょ
うということをやった。しかし、大豆を作ると補助金も出ますがそれでも当然収入が減る。その減った分を
皆で補填しましょうという相談をしました。そういったようなブロックローテーションとか「とも補償」と
いう仕組み、この山形県で議論の末考えだした仕組みがやがて全国に広がり、あるいは国の補助事業の仕組
みに取り入れられたということもありました。
また、例えば広域合併という課題があります。JAを合併し大きくして、事業機能をより高度化しようと
いう話です。平成3年に県内7JA構想というのを決定しました。63JAを7JAにするという話です。ま
ず、構想をまとめ上げるまで、7つにしようとそこまで行きつくのにも大変な議論をしたし、また構想をま
とめた後、合併の手続きに入りましょうというところでも、どのようなJAをつくるのか組合員を交え徹底
的に議論をしました。その結果、現在 17JA。7JAの目標に対して 17JAという状況にあります。
さらに、支店統廃合という課題があります。昔と比べ経営環境が激変していますので、車社会とかコンプ
ライアンスとかありますので、支店統廃合に取り組むJAがあります。株式会社の場合、経営トップが統廃
合するぞと決めれば、それで決まってしまいますが、JAの場合はそうはいかない。一人一票ということも
あり、組合員と徹底的に議論をするということになります。了解を求めて総会で決定という話になっていま
す。ここでも徹底して議論を組合員とやったという話ですね。今現在、統廃合を実際やって広域化した支店
の地区で新たな協同活動を模索しているところがあります。一方、JAの方針として統合はしないというこ
とで向っているJAもあります。それはそれで意思決定ですから尊重しなくてはいけないと思っております。
いずれにせよ、徹底した議論を重ねてきました。
話は変わりますが、先ほど専務からもありましたが、協同組合というのは3つの危機があった、あるとい
われています。信頼の危機、経営の危機、そして理念の危機といわれています。理念の危機というのは何か
というと、要は、JAの経営に、株式会社と同じ手法をただ物真似みたいに導入したということなんですね。
経営手法を株式会社と同じ手法でやったと。これが弊害、協同組合のメンバーであることの意識が希薄化し
たのではないかと言われています。
要は、経済合理性と、運営に参画し自分達の問題として課題解決しようという協同組合のやり方のバラン
ス。JAの運営が、お客様とサービスを提供する人ということで、組合員が単なるお客になってしまったと
いう話かと思います。経済合理性と協同組合の性質というのはバランスが大事だということであります。今
申し上げたように協同組合の運営というのは、一人一票が原則ですから単にトップが決めてもそれでは動か
ない。課題解決のためには徹底して話し合いをするしかないということです。要は、サービスが、どんなに
いいサービスを提供するぞといったって、人間らしさというか、人と人とが協議して決めようというものが
ないと農協ではなくなる、JAではなくなるという話です。
かつて「地方自治は民主主義の学校である」と言った学者さん、イギリスの政治家(補足…ジェームズ・
ブライス 1838 年~1922 年)がいるそうですけれども、一人一票、徹底した話し合いで自らの課題を皆で話
し合って決めるという意味では、「協同組合活動も民主主義の学校である」というふうに思います。
とはいっても、2 万人を超えるようなJAでは、組合員の意見を一つにまとめるのは至難の業です。徹底
9
した話し合い、議論をして決めるということなんですけれども、一人一票で決めるんですけれども、最終的
に満場一致で決まるというのは無いですね。ですから、多数決で決めざるを得ない。意見が通らなかった人
たちは、それでは、はい、さようならでは組織は壊れてしまう。そんなとき、ロバート・オウエンの言葉が
あります。ロバート・オウエンは、JAグループとしても協同組合運動の父と呼んでおります。
「もし皆の意見が統一できないのであれば、せめて心を合わせるように努めようではないか。」ということ
ばです。山登りのルートは違うんだけれども、目指す頂上は同じだと。今回はこっちのルートに決まったけ
ども、それに従おうというようなことで、みんなで目標に向っていく必要があるのではないかという話であ
ります。
先ほど、産業組合法が 1900 年に制定されたという話がありましたけれども、産業組合法の成立に尽力した
人が、品川弥二郎ともう一人平田東助という人です。この平田は米沢市出身です。山形県立図書館に行った
ことある人、手を挙げて下さい。県立図書館の入口を入って左側に懸人文庫というコーナーがあります。山
形県出身の世に功績のあった人のブースというか、部屋があるんですけれども、そこに平田の肖像が飾られ
ています。産業組合法を起草し、初代の産業組合中央会の会頭になっています。100 年以上も前の話、農協・
協同組合というのは古い話だなと思われるかもしれません。発展途上国の農業発展のために農協という組織
が非常に有効だ、という話も聞いたことがあるかもしれませんが、そういう意味からも農協・協同組合って
古いというイメージも与えているかもしれません。しかし、決してそうではないと思っています。
私見ですけれども、世の中、今の新自由主義をはじめとして、「私益」、私だけ、自分だけ儲かればいい、
自己責任という市場原理、そういった話が大きくなってきているんだろうと思います。そして「公益」
・行政
サービスなんか小さくていいぞと、小さい政府・行政という話になってきているのかなと。こっち(私益)
だけが非常に大きくなっているんですけれども、当然そういう社会というのは、他者への配慮がない、ぎく
しゃくした社会ですので、それだけではいけないと私は思っています。では何かというと、3 つ目の「共助」
という、助け合う、これは私ども協同組合ですけれども、こういう組織が、今の現代社会であるからこそ是
非とも必要だろうと思います。そういう意味で決して私どもの協同組合という組織形態は古くはないと思っ
ていますので、ご理解よろしくお願いしたいと。さらにこれからの「共助」は自分達だけ、仲間だけ助け合
おうというのではなくて、私どものJAグループの大会決議にもありますけれども、さらにこれを地域に広
げていこうということで活動をしています。地域だけでなくて、さらには地域を越えて遠くの仲間も増やし
ていこう、ということで取り組んでいるところです。
7.まとめ
農協改革をやれという話があります。しかし、農業県山形において、テレビ・ラジオ、新聞など農業に関
する話題・ニュースというのは非常にウエイトが高いんだろうと思います。そのなかでもJAが関わる取り
組みは、決して少なくないはずです。注意して見聞きしてみてください。私たちは、農家のため、地域のた
めに頑張っています。
いま、高齢化が進む中、地域で暮らすときに大事なものが2つあると言われています。
「キョウイク」と「キ
ョウヨウ」だそうです。地域で暮らす時に大事なのはキョウイクとキョウヨウだと。勉強する教育、博識が
あるという教養ではありません。それは何かというと「今日も行く所がある」、「今日も用事がある」と、キ
ョウ・イクところ、キョウ・ヨウじがあるがあるという意味で、キョウイクとキョウヨウが大事だと言われ
ています。私たちJAグループは、農業を通じて組合員や地域の皆さんが、居場所と出番があるという社会
を目指して頑張りたいと思っていますので、JAグループの取り組みについてご理解をお願いしたいと思い
ます。
お配りしている新聞記事の農協改革ですけれども、6月にまとめると言っています。これから、マスコミ
を通じたJAバッシング等々が数多くあろうかと思います。皆さんからは、鵜呑みして一面的にとらえるの
ではなく、ちょっと待てよと、JAの役割はそれだけなのかな?ということで、疑問を持ちながらニュース
を見ていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
ご静聴ありがとうございました。
10
Fly UP