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小特集:南アジアの農村経済とその変容 小特集にあたって 小特集「南
小特集:南アジアの農村経済とその変容
小特集にあたって
小特集「南アジアの農村経済とその変容」は,2001 年から現在にいたるまで 3 年間にわ
たって続けられてきた「南アジア経済研究会」参加メンバーによってとりまとめられた研
究成果である.同研究会は,南アジア地域を主たる研究対象とする農業経済学者と開発経
済学者を中心として組織されたものであり,メンバーの多くが関西に在住している.研究
会は資金的な裏付けがなく,各自が手弁当で参加し,関心のある方ならどなたでも電子メ
ールさえ事前に登録すれば参加できるようになっている.細々とではあれ,研究会を,3
年間という長期にわたって 2 ヶ月に 1 度のペースで開催し,1 回あたり 2 本の報告を 3 時
間にわたり綿密に議論してきた.研究会後の懇親会においては,白熱した議論が続くこと
も稀ではなかった.2001 年 6 月から 2004 年 3 月にわたる研究会での報告者氏名とその開
催日を列挙すれば,つぎのとおりである(敬称略).
2001 年 6 月 16 日:佐藤隆広,宇佐美好文,8 月 11 日:水ノ上智邦,上池あつ子,11
月 17 日:角井正幸,岡本真理子,2002 年 2 月 9 日:佐藤隆広,杉本大三,4 月 6 日:
藤田幸一,脇村孝平,6 月 15 日:大石高志,岡道太郎,11 月 16 日:杉本大三,山田
菜美子,2003 年 1 月 11 日:宇佐美好文,七五三大輔,5 月 31 日:上池あつ子,
Khondaker Golam Moazzem and Koichi Fujita,3 月 29 日:三村聡・佐藤隆広,岡通太郎,
8 月 1 日:宇佐美好文,梅津千恵子,8 月 11 日:Ramesh Channd,Daizo Sugimoto,11
月 29 日:谷口謙次,綱島洋之,2004 年 1 月 31 日:宇佐美好文,清川雪彦・高橋塁,3
月 4 日:佐藤隆広,藤田幸一・岡通太郎.
本特集に掲載されている個々の研究論文についてはここでは詳細には論じないが,本特
集に通底しているであろう問題意識についてはひとことあってしかるべきかもしれない.
それは,大きくわけて 2 点あると思われる.第 1 は,杉本・宇佐美論文が典型であるが,
南アジア経済のグローバリゼーションである.南アジアの大国インドが,最後の新興市場
国として経済改革を行い,グローバル化していくのが 1991 年からである.ちょうど,
1990 年代にグローバリゼーションが加速するが,果たして,グローバリゼーションは本当
に世界全体の豊かさを増進させるのかどうか,または,開発途上国にとってグローバリゼ
ーションの影響はいかなるものなのか,という課題はよく議論もされているし,それをめ
ぐっては多くの論争がある.杉本・宇佐美論文は,グローバリゼーションがもたらす影響
をインドの半乾燥地域における農業や農村貧困とかからわせて議論している点に,最大の
特徴がある.また,直接にグローバリゼーションを議論しているわけではないが,佐藤論
文は,インド経済が IT(情報技術)革命の波にのり,いまや BRICs(ブラジル・ロシア・イン
ド・中国の頭文字からそう呼ばれている)として大国型高成長国のひとつとして注目を浴
びるまでになっているが,その裏側で若年層の失業問題が深刻な開発の課題として浮上し
てきていることに注意を喚起している.インドにおける IT ブームによる高成長がグロー
バリゼーションの光とすれば,その流れに乗ることがままならない若年失業層の膨大な存
在はその影といってよいかもしれない.
第 2 は,南アジア地域の生産要素市場の発達と失敗であり,それがもたらす農村社会経
済への影響である.とくに,よく議論されてきたのが,バングラデシュのグラミンバンク
の成功であろう.グラミンバンクは,グループの連帯責任のもと,メンバー女性に小口の
信用を供与し,貧困世帯の生活水準を高めるうえで大きな成果を挙げたといわれている.
これは,マイクロクレジット市場あるいは農村金融市場の発達という文脈で把握すること
ができよう.また,インドの土地貸借市場においても,大規模農が小農から土地を借り受
けるという「逆小作」などの現象が農業先進州において観察されることに加えて,バング
ラデシュでは揚水設備の普及とともに売水市場が発達し,地主(landlord)ならぬ水主
(waterlord)の出現などが注目されてきた.本特集では,藤田論文がインド西ベンガル州と
バングラデシュの地下水市場の諸問題を,岡本論文がネパールのマイクロクレジット市場
の経験を,佐藤論文がインド若年労働市場の諸特徴を,杉本論文がインド・パンジャブ州
の農業機械という資本財市場や賃耕サービス市場を緻密に分析している.南アジア地域に
おける要素市場のこうしたダイナミクスが,貧困,失業や所得分配にいかなる影響を及ぼ
すのか,今後とも目がはなせないであろう.
なお,本特集の企画は,2003 年 10 月 4 日・5 日に京都大学で開催された「日本南アジ
ア学会」での分科会「南アジアの農村経済とその変容」を出発点としている.われわれの
討論相手になっていただいた柳沢悠先生,分科会の設置を認めて頂いた学会関係者ならび
に主催校の実行委員会の方々に感謝申し上げたい.
とりあげていない多くの課題があり,かりに取り上げていても分析が不十分である可能
性が多いにあるため,本特集がどの程度学問的成果を挙げ得たのかは,読者の判断を待つ
ほかないだろう.しかし,われわれは本特集が,将来における南アジア経済研究のひとつ
の踏み石になればと思っている.また,本特集を読了後,南アジア経済研究会への参加に
関心をもった方は,佐藤隆広宛まで電子メール([email protected])で連絡を頂戴
できれば,幸いである.
小特集編集者
佐藤隆広
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