Comments
Description
Transcript
テクノえっせい - 中国経済産業局
テクノえっせい 294 家畜化は人類の知恵 広島工業大学名誉教授 中山勝矢 司馬遼太郎さんの小説「坂の上の雲」には、秋山兄弟のこと が書かれています。弟の真之(まさゆき)は日本海海戦を勝利 が書かれています 弟の真之(まさゆき)は日本海海戦を勝利 に導いた参謀であり、兄の好古(よしふる)はわが国騎兵隊を 創設した人です。 陸上の戦闘で象やラクダが使われた話もありますが、何千 年にもわたって軍事力を支えてきたのは馬の持つ機動力でし た。まさに騎兵は陸上部隊の華だったのです。 それが今ではガソリンエンジンのような内燃機関が主力とな り、馬は競馬場か乗馬クラブ、あるいは大学の馬術部といっ たところでしか見る機会がなくなりました。 (写真1) ○ 存亡の岐路 (写真1) 大学馬術部の練習風景 (東京農工大学で) 馬の歴史は数千年程度でしょうが、人類が動物の家畜化を 始めたのは非常に古いのです。多分、最終氷河期が終わる ころ、つまり1万3000年くらい前だろうと想像されています。 当時はまだ気候は寒冷でしたが、人類は集団で狩りに励み、 大型哺乳類を食べ尽くしてしまいました。当時の人類は自ら 行った環境破壊によって、存亡の岐路に立ったのです。 危機に至った人類にとり最大の課題は、食料の確保でした。 生きるために知恵を絞り、ほとんど同時に野生動物の飼育と 野生植物の栽培とを始めたと考えられています。 食料の確保にとり東西に長くて環境条件が似ていたユーラ シア大陸は有利で、植物の栽培と家畜化の成果は短期間に 広域に伝わったようです。南北に長い大陸ではこうはいきま せん。 せん 毛や革などの利用、さらに移動・運搬や軍事面での利用は、 どう考えても副次的です。そしてペットの役割が与えられたの は、最後の段階のように思われてなりません。(写真2) (写真2)毛を刈り終わった羊 (ニュージーランド・ロトルアでのショー) 旬レポ中国地域 4月号 1 カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部のジャレド・ダイア カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部のジャレド ダイア モンド教授は、「銃・病原菌・鉄(上下)」(草思社2000年)のな かで面白いことを述べています。 家畜化の候補になり得る陸生の大型草食動物は148種ほど いるなかで、実際に家畜化されて利用されたのは、たったの 14種に過ぎないというのです。これはちょっとした驚きです。 家畜といえば馬、牛、羊、山羊、豚、ラクダ、象といった動物 が頭に浮びますが、シマウマ、ヌー、サイ、カバ、キリンなどは 家畜化されていないのです。理由は何なのでしょうか。 この本には家畜化できる条件として、人間に馴染み、餌代が かからず、病気に強く、捕獲状態でも繁殖し、成長に必要な期 間が短 間が短いことだと書いてあります。もっともな話です。 とだと書 てあります。も ともな話です。 そのために選別と改良が行われたはずです。また発情期に 凶暴になると手に余るので、去勢の技術が古い時代に開発さ れています。家畜は、人類の知恵と努力の結晶だといえます。 ○ 共存を図る 陸上戦の主力であった馬の時代は、20世紀前半で終わって しまいました。第1次大戦の後、ドイツは技術の進展を読み、 機動力をガソリンエンジンやディーゼル機関に求めたのです。 つまり馬を棄て、トラック、装甲車、戦車の類を主軸にした機 動的な軍を築いたのです。後にフランス大統領となったドゴー ル将軍も、若いころ同様の提案をしたとあります。 しかし騎兵上がりの上層部は受け入れず、相変わらず騎兵 隊を主力にした軍を維持したのです。第2次大戦の緒戦におけ るフランスの敗因は、こうした転換を怠ったことにありました。 かつてバスは乗合馬車だったのであり、レール上で客車を馬 に曳かせる鉄道馬車の時代もありました。そして商品の輸送 はも ぱら馬に挽かせる荷車だ たのです はもっぱら馬に挽かせる荷車だったのです。 (写真3)いまでは銅像になってしまった牧羊犬 (ニュージーランド) 馬や牛を使っていた農耕も、いまではトラクターやコンバイン が主力になっています。20世紀の後半は石油と電気の時代で あり、牧羊犬は銅像として飾られる時代なのです。(写真3) 毛糸にしても化学繊維が圧倒しているし、皮革も人工皮革が 幅を利かせています。その結果、現代における家畜の役割は 幅を利かせています その結果 現代における家畜の役割は 狭められ、用途はもっぱら食用とペットだけといった有様です。 そうとはいえ誰でもペットの犬や猫、それに馬や羊、牛などに は親しみを感じます。これは人類が長期にわたり家畜との共 存を図ってきた成果なのでしょう。感慨深いものがあります。 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 Copyright 2011 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 旬レポ中国地域 4月号 2