Comments
Description
Transcript
最新の診断技術と治療成績2016〜 【大腸がん】(PDF:489KB)
1 大腸がん は じめに した内視鏡医が育成されたことにより 普及しています。その結果、がんのみ わが国では大腸がんが年々増加して ならず前癌状態の良性病変、あるいは おり、悪性腫瘍による死因のなかで、 一部ががん化した病変などを解像度の 男性では第3位、女性では第1位を占 高い内視鏡を用いて診断することが可 めるがんとなっています。このような 能となりました。さらには、2014年か 大腸癌の増加には、わが国の食生活の ら大腸カプセル内視鏡検査も使用でき 変化、すなわち肉食、高脂肪、高蛋白、 るようになり、大腸がん発見率の向上 低残渣食が関与していると考えられて に寄与するものと期待されています。 います。また、大腸がんの一部は同一 一方、CT、MRI、PETなどの画像解像 家系内に集中して発生することがあ 度の向上も著しく、これらの方法は大 り、 遺伝性大腸癌と総称されています。 腸がんの広がりを診断するために必要 胃癌と同様に、大腸がんも早期がん 不可欠な検査法となっています。 と進行がんに大別されます。早期がん 大腸がんの治療方針は、がんの広が は粘膜下層と呼ばれる大腸表面直下の りと深さによって大きく異なります。 部分までにとどまるものであり、大部 特に、深さは大変重要なポイントで、 分は無症状です。一方、進行がんはさ 前述の粘膜下層のうち比較的浅い部分 らに深部まで入り込んだがんで、当然 までにとどまるものは内視鏡治療で根 早期がんより大きいものが多いのです 治できる可能性がありますが、深い部 が、必ずしも血便などの症状が出現す 分まで入り込んだ場合は外科的治療が るわけではありません。従って、大腸 第一選択となります。内視鏡治療とし がんをできるだけ早期に発見するため てはポリペクトミーや内視鏡的粘膜切 には、無症状であっても大腸を直接、 除術、内視鏡的粘膜下層剥離術などの あるいは間接的に検査することが重要 手技が用いられ、外科的治療としては となります。 胃癌と同様に腹腔鏡下大腸切除術と開 大腸がんの診断においては、主に内 腹術があります。一方、より進行した 視鏡検査が用いられています。従来必 大腸がんに対しては、従来よりも優れ ずしも簡単な検査ではなかった大腸内 た効果を有する抗癌薬が開発されてい 視鏡検査は、内視鏡機器の進歩と熟達 ますし、放射線療法を用いることもあ 2 Colorectal Cancer ります。九州大学病院では、これらの か良性かの診断を行います(病理診 治療法を単独、あるいは組み合わせて 断) 。最近では病変の表面構造を拡大 患者さんに提供することでより良い大 して観察することのできる拡大内視鏡 腸がんの治療を心がけています。 が普及してきており、病変に特殊な染 大腸がんを取り扱う診療科は消化管 色を施した後や狭帯域光観察(NBI) 内科、消化器外科、放射線科、血液・ (画像強調観察の一種)を用いて表面 腫瘍内科、先端分子細胞治療科と多岐 模様を観察することで良・悪性の判断 に亘り、光学医療診療部、先端工学診 や、悪性である際は、その深さを推測 療部、手術部、病理部、などの協力を することが可能になってきています 得て、胃がんの診断と治療を包括的に (拡大内視鏡検査)。また内視鏡から病 行っています。以下に当院における大 変に対して超音波(エコー)を直接あ 腸がんの診断・治療の現状や臨床研 てることでがんの深さやリンパ節転移 究・治験についてお示し致します。 の有無を診断することができます(超 音波内視鏡検査)。 診断 【1】大腸内視鏡検査 【2】注腸造影検査 肛門から検査用の管を挿入し、そこ 内視鏡スコープを肛門から挿入し からバリウムと空気を注入して体の向 て、全大腸(直腸、S状結腸、下行結 きを変えながらX線写真を撮る検査で 腸、横行結腸、上行結腸、盲腸)を観 す。検査を受ける前には大腸をきれい 察する検査です。検査を受ける前に多 にする必要があり、検査前日は検査食 量の下剤で大腸を洗浄してきれいにす を食べて、夜に下剤を服用します。検 る必要があります。検査に対して苦痛 査後にもバリウムが腸管内に残らない が強い方には、希望により鎮静剤を使 ように下剤の服用を行います。この検 用して苦痛の軽減を図ります。病変 査で大腸がんの位置や大きさを客観的 (がん、ポリープなど)を発見した場合 に診断できます。また大腸がんのある または病変が疑われる場合には、一部 場所では粘膜模様やひだの異常、腸管 組織を採取(生検)して顕微鏡で細胞 壁の変形の有無を観察し、その所見か の観察を行い、病変の種類および悪性 ら病変の深さを診断します。 3 大腸がん 【3】CT検査/MRI検査 CT検査(コンピュータ断層撮影法) りも何倍も取り込むという性質を持っ ています。PET(陽電子放射断層撮影 は、身体に多方向からX線を照射して 法)はその性質を利用した検査で、陽 得られた情報をコンピュータで処理し 電子を放出するブドウ糖に近い成分 身体の断面像を描出する検査で、MRI (FDG)を体内に注射し、体内での薬 検査(核磁気共鳴画像法)は磁気の力 剤の分布を画像化します。FDGが異 を利用して身体の断面像などを描出す 常に集まる場所を見つけることで、が ることのできる検査です。造影剤を使 んの発生部位の特定や転移の診断に用 用することで、そのコントラストによ います。 り診断能が上昇しますが、強い腎障害 のある方や造影剤にアレルギーのある 【6】腫瘍マーカー 方は基本的に使用できません。CTや がんの種類によって多くのマーカー MRIでは大腸がんの広がりや転移の有 があり、大腸がんではCEAやCA19-9 無をみますが、それぞれにメリットと が一般的です。ただし腫瘍マーカーの デメリットがあり、大腸がんの発生部 異常だけでは、大腸がんの有無や進行 位やその広がり方でCTとMRIのどち 度合いの判断はできません。大腸がん らの検査が必要か (もしくは両方とも) が存在しても腫瘍マーカーが上昇しな の判断を行います。 いこともあります。しかし腫瘍マー カーは定期的に測定して経過を追うこ 【4】腹部超音波検査 超音波(エコー)検査は、体内にあ る臓器などに超音波が当たって跳ね とにより、がんに対する治療効果の判 定やがんの再発の有無などの一つの指 標となります。 返ってきた信号が映像になって映し出 される検査です。主として肝臓への転 移の診断に用いられます。 外 科的治療(鏡視下手術) 腹腔鏡手術とはビデオカメラでおな 【5】PET検査 がん細胞は分裂が盛んで、エネル ギー源となるブドウ糖を正常な細胞よ 4 かの中を見ながら行う手術のことで す。 Colorectal Cancer ちんととれること、再発率が低いこ と)」ですが、欧米の報告では進行癌に 腹腔鏡手術を行っても開腹手術と再発 率に差はないとの結果になっており、 日本の臨床試験の結果ももうすぐ発表 される予定です。また、開腹手術で見 (ビデオカメラの映像) るよりもより接近して拡大視野で行う ため、微細な血管・神経を認識しなが 従 来 の 開 腹 手 術 で は 皮 膚 を 20〜 ら行え、出血量も少なくなっています。 30cm切開していましたが、ポートと 但し、腹腔鏡手術は特殊な器械を使用 いう5〜12mm径の管を約5個刺し することもあって、手術費用は10万円 て、炭酸ガスで腹部を膨らませて行い 前後高い設定になっています。詳細は ます。切除に必要な腸管の授動とリン 各科のホームページをご覧ください。 パ節郭清を腹腔内で行ったのち、皮膚 に小切開(3〜6cm)を追加して、病 変を体外に出して切除し、腸管をつな ぎます。 大腸疾患に対しては、日本では1992 年に開始されました。特徴として、傷 が小さいため術後の痛みや患者負担が 少なく、回復が早いことが挙げられま す。当初は良性疾患や早期癌に限定さ (術後1週間) れていましたが、徐々に適応が拡大さ れ、2010年の大腸ガイドラインでは早 期癌の規制がはずれ、「がんの部位や 外 科的治療(開腹術) 進行度などの患者要因のほかに、術者 盲腸・上行・横行・下行・S状結腸 の経験、技量を考慮して適応を決める を「結腸」といい、結腸と直腸をあわ べきである」と改訂されました。勿論 せたものを大腸といいます。S状結腸 手術で最も大切なのは「根治性(=き に発生したがんを、 「S状結腸がん」あ 5 大腸がん るいは「大腸がん」と表現しますが、 取り除く」という目的が達成できる状 どちらも正しい表現です。 況もあります。 定型手術 局所進行直腸癌の手術 結腸がんではがんを含む前後約 直腸癌の場合は、周囲臓器に癌が浸 10cmを、直腸がんではがんを含む肛 潤することがあります。男性であれば 門側2〜3cm以上の大腸を切除し、 前立腺、性能、女性であれば膣や子宮 その部分を栄養している血管に沿った などの周囲臓器を癌と一緒に取り除く 第3群までのリンパ節(標準はD3)を ことがあります。周囲臓器へ侵襲をす 郭清するという手術が定型手術となっ こしでも減らすために術前化学療法や ています。 放射線治療が併用されることがありま す。そのような場合は開腹手術が行わ 内視鏡的切除 れる頻度が高くなります。さらに骨盤 「がん」が粘膜内にとどまりリンパ 内臓全摘術とは、男性では直腸、膀胱、 節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍 前立腺、精嚢、女性では直腸、子宮、 が一括切除できる大きさの大腸がんに 膣、膀胱を切除し、内腸骨動静脈およ 対しては、ポリペクトミー、内視鏡的 び周囲のリンパ節を切除郭清し、尿の 粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下 通り道の変更を行う大腸癌の手術の中 層剥離術(ESD)といった、肛門から では最も侵襲の大きい手術です。遠隔 挿入される内視鏡を使った方法で病巣 転移が無く、がんが骨盤内のみの局所 部を切除し、組織を回収する治療法が で進行している場合には治療効果の高 可能です。腹腔鏡を用いた鏡視下手術 い 手 術 で す。体 へ の 侵 襲 は 大 き く、 により、第3群までのリンパ節郭清 様々な診療科の協力と専門スタッフが (D3)を含む定型手術が可能となって 必要です。 きました。しかし、がんの部位や進行 度合い、他の臓器の合併切除の必要性 といった腫瘍側の要因、および過去の 開腹歴などといった患者さんの要因に よって開腹手術の方が「手術でがんを 6 大腸癌の転移を含む手術 大腸癌の転移で頻度の高いものは肝 転移、次に肺転移です。 Colorectal Cancer 高齢化と「がん」 がんの発生頻度は年齢に相関して増 の肝転移も化学療法を併用することで 切除が可能となることがあります。 加します。今後、国内人口の高齢化に 伴い高齢でがん治療を必要とする人の 割合はさらに増えていくことが予想さ 化 学療法 れます。手術手技の標準化と周術期管 大腸がんに対して抗がん剤による化 理の高度化によって合併症の頻度は数 学療法を行う場面は、大きくわけて、 %に抑えられ、より安全に手術が受け 切除不能の進行・再発大腸がんに行わ られるようになってきています。従来 れる化学療法、および、がん根治術の は手術が困難であるとされた多くの合 前後に行われる術前後(周術期)補助 併症を伴う方でも、チーム医療により 化学療法の2つがあります。大腸がん 手術可能となっています。 の化学療法はここ10年で劇的な進歩を 遂げてきており、切除不能進行・再発 集学的治療 の場合でも、平均的な生存期間が従来 大腸癌の5年生存率は、結腸がん・ の1年程度から、2年半〜3年に向上 直腸がんの順でステージ0:94.8・92. しただけでなく、従来では切除不能で 9%、ステージⅠ:90.6・89.3%、ステー あった高度な転移のある場合でも、化 ジⅡ:83.6%・76.4%、ステージⅢa: 学療法によって腫瘍が縮小し、外科手 76.1・64.7%、ステージⅢb:62.1・ 術による切除が可能となる例も見られ 47.1%、ステージⅣ:14.3・11.1%と るようになりました。 報告されています(大腸癌研究会・大 腸癌全国登録 1991〜1994年度症例) 。 【切除不能の進行・再発大腸癌に 以上のように進行度が進むにつれ、生 対する化学療法】 存率は低下します。この10数年で化学 切除不能の進行・再発大腸がんに対 療法が飛躍的に進化しました。これに する化学療法に関しては、新規の抗が よって大腸癌の治療は大きく変化しま ん剤が本邦でも多数用いられるように した。大腸癌は肝転移を来しやすいこ なり、治療成績は向上してきました。 とが知られていますが、以前では切除 現在は、オキサリプラチン、イリノテ が不可能と思われていたような大腸癌 カン、5-FU、ロイコボリンをそれぞれ 7 大腸がん 組 み 合 わ せ た、FOLFOX 療 法 と マブ、パニツムマブは、ともに腫瘍細 FOLFIRI療法が主に行われています。 胞の表面にある増殖刺激の入り口をブ どちらも薬剤を約48時間かけて点滴す ロックして腫瘍増殖を抑える薬剤で る方法ですが、 中心静脈注射ポートと、 す。これらの分子標的抗がん剤と、上 飲料用ペットボトル大のインフュー 記のFOLFOX療法、FOLFIRI療法な ジョンポンプと呼ばれる器具を用いる どを組み合わせることでさらに治療成 ことで外来通院での治療が可能となっ 績が向上することも知られており、当 ています。これらの治療に加え、中心 院でも積極的にこれらの治療法を行っ 静脈ポートなどの器具を用いず、外来 ています。 での点滴と、5-FU、ロイコボリンにか これらの抗癌剤により治療成績が向 わる内服薬(カペシタビンまたはS-1) 上したことで、この項の最初に述べた の組み合わせによる治療も可能で、オ ように、近年、当初切除困難と判断さ キサリプラチンとカペシタビンによる れた転移巣が切除可能となるケースが XELOX療法などが行われています。 増えてきています(コンバージョン: これらの治療法は効果の面でほぼ同 治療方針の転換)。当院では、このよ 等と考えられており、順序を問わず うなコンバージョンを期待するケース 5-FU(またはカペシタビン、S-1)、オ に適した化学療法の検討を行う臨床試 キサリプラチン、イリノテカンの3剤 験(ATOM試験)を日本全国の中心と で十分に治療することが大切であると なって実施しています。 考えられています。当院でも、この原 則に従って治療を計画しています。 これらの有効性の高い治療を優先的 に実施しますが、その上で体調や臓器 また、新しい世代の薬剤として3種 機能を良好に保たれている方には、さ 類の分子標的抗がん剤、 ベバシズマブ、 らにレゴラフェニブやトリフルリジ セツキシマブ、パニツムマブが進行・ ン・チピラシル(TAS-102)という薬 再発大腸がんの治療に用いられるよう 剤も使用できるようになりました。こ になり、治療成績の向上に寄与してい れらの薬剤は、腫瘍を十分に縮小させ ます。ベバシズマブは、腫瘍細胞に酸 るほどの効果が出ることはまれです 素や栄養を送る血管の成長を妨げて腫 が、一定の割合の方の病状進行を遅ら 瘍の増殖を抑える薬剤です。セツキシ せることができ、大腸がん全体の治療 8 Colorectal Cancer 成績向上に寄与しています。 場合には切除を考慮することが勧めら れています。切除可能な肝転移の場合 【術前後(周術期)補助化学療法】 には、術前/術後にあわせて6ヶ月間 臨床病期Ⅲ期の大腸がんに対して の補助化学療法を行うことが有効な可 は、腫瘍を全て取り除く根治的な手術 能性があると考えられており、当院で の後に一定期間の化学療法を行うこと もこのように手術と化学療法を組み合 (術後補助化学療法)で再発する可能 わせた治療を行っています。病巣の広 性をより低く抑えられることがわかっ がりや合併症の有無などを総合的に考 ており、当院でも術後状態に問題がな 慮し、患者さんごとに最良と考えられ ければ補助化学療法をお勧めしていま る治療計画を提案しています。肺転移 す。5-FUとロイコボリン、あるいは など、肝転移以外の転移巣切除につい 内服薬のUFTとロイコボリン、カペシ ては抗がん剤治療との組み合わせによ タビン、S-1のいずれかを用いること る治療の成績は未報告ですが、肝転移 が一般的です。近年では、上記のオキ 切除に準じて患者さんごとに治療計画 サリプラチンを含む治療を行うことも を検討しています。 増えてきています。また、状況によっ ては臨床病期Ⅱ期でも補助療法を考慮 することがあります。 【化学療法の個別化】 大腸がんの化学療法では、いくつか 大腸がんのうち直腸癌では根治切除 の治療薬について、効果や副作用を投 後に局所再発が問題となることがあ 与前に予想できるものがあります。近 り、欧米では術前に化学放射線療法が 年の研究により、セツキシマブ、パニ 広く行われています。日本では手術成 ツ ム マ ブ に 関 し て は、が ん 細 胞 の 績が良好なため直腸癌の術前補助療法 KRAS遺伝子検査を行うことで、治療 は一般的ではありませんが、当院では、 前から効果の期待できない患者さんを 化学療法の成績向上をうけてさらに良 診断することが可能です。これによ 好な治療成績を目指し、術前化学療法 り、無効な抗がん剤を使って副作用の を行う場合もあります。 みを被ることを減らし、かかる治療費 大腸がんでは、臨床病期Ⅳ期で遠隔 転移巣があっても、完全切除が可能な を抑えることにもつながっています。 ま た、イ リ ノ テ カ ン の 投 与 前 に 9 大腸がん UGT1A1遺伝子多型検査を行うこと を早期大腸がんと呼びます。内視鏡治 で副作用ハイリスク群を事前に診断す 療は患者さんの体への負担が少ないと ることも可能となっており、化学療法 いう大きなメリットがありますが、大 施行に際し臓器障害などの危険因子を 腸の内側からの治療となるため、深達 有する患者さんを中心に検査を行って 度が深い病変や、リンパ節転移といっ います。 た大腸の外にある病変は治療すること ができません。したがって、早期大腸 当院では、これらの治療法よりもさ がんのうち深達度が浅く、リンパ節や らに有効な治療法、あるいは副作用な 他の臓器に転移がないものが内視鏡治 どの負担がより少ない治療法を開発す 療の対象となります。内視鏡治療を行 る目的で多数の臨床試験を実施してい う前には、上述した条件を満たす病変 ます。臨床試験に参加するには、事前 かどうか診断するために内視鏡以外の に病状・体調等の審査を通過する必要 検査も必要となりますが、治療前にが があり、すべての患者さんが参加でき んの深達度を100%の確率で診断する るわけではありませんが、担当医から ことはできません。このため、内視鏡 案内があった場合には、医学の進歩の 治療においては病変をきれいに切除し ため協力をご一考いただけますと幸い て、切除した組織を顕微鏡できちんと です。 診断すること(病理組織学的検索)が 重要となります。 内 視鏡的治療 早期大腸がんに対する内視鏡治療と して主なものに、内視鏡的ポリペクト 大腸は直腸と結腸に分類されます ミーと内視鏡的粘膜切除術(EMR)が が、直腸下部の壁は内側から粘膜層、 あります。内視鏡的ポリペクトミー 粘膜下層、固有筋層、外膜の4層構造、 は、茎やくびれを有したポリープ状の それ以外の直腸と結腸は粘膜層、粘膜 がんに対して、スネアと呼ばれるリン 下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5 グ状の電気メスで病変の根もとを縛っ 層構造となっています。大腸がんは粘 て焼き切る方法です。しかし、早期大 膜層から発生しますが、がんの深さ (深 腸がんの中には隆起の丈が低いものや 達度)が粘膜下層までにとどまるもの 陥凹した形態を呈するものも多く認 10 Colorectal Cancer め、容易にスネアで病変を縛ることが 薄く、粘膜層および粘膜下層を切開し できないものも存在します。このよう て剥がしとっていくESDには内視鏡 な病変に対してはEMRが行われます。 の繊細な操作が必要であり、EMRよ EMRは1980年代に日本で開発された りも高度な技術が要求されます。 治療法で、病変の下に薬液を注射して 当院では、日本消化器病学会や日本 擬似的に病変を隆起させた後に、スネ 消化器内視鏡学会より認定を受けた指 アで病変を縛って焼き切る方法です。 導医や専門医を中心として、最新の内 この方法は安全かつ簡便であること、 視鏡機器を用いてポリペクトミーや 比較的短時間で終了できることより、 EMR、ESDを行っています。また同 早期大腸がんの標準的な内視鏡治療法 時に、次世代を担う若い医師へのト として全国に普及しています。しか レーニングも行い、内視鏡治療の技術 し、EMRは大きな病変や内視鏡治療 向上のため日々修練を積んでいます。 後に再発してきた病変をきれいに切除 EMRの概要 することができないという欠点があり ました。そこで、この欠点を補う治療 粘膜下層に 注入された薬液 法として近年、内視鏡的粘膜下層剥離 術(ESD)という方法が行われていま す。ESDはEMRをベースとして開発 された早期大腸がんに対する治療法 で、病変周囲や病変の下を特殊な電気 病変直下の粘膜下層に薬液を注入し、 スネアを かけて切除する。 ESDの概要 ①病変のすぐ外側に印を付ける ②病変の下に薬液を注射して盛り上げ、 印の外側を切開していく ③病変の下を剥がしていく ④切除した病変を回収する メスを用いて切開して剥がしていく方 法です(図) 。ESDは、EMRによる切 除が困難な病変でもきれいに切除する ことができるため、がんの取り残しに よる再発が少なく、なおかつ切除した 組織の詳細な病理組織学的検索が可能 となることで、外科的治療を含めた追 加治療の必要性に関して十分な検討が できます。ただし、大腸の壁は非常に 放 射線治療 大腸がんは結腸癌と直腸癌に大別さ 11 大腸がん れます。結腸癌は、原発巣に対して放 予想される場合、もしくは並存疾患の 射線治療が用いられることは殆どあり ため手術不可能な場合には放射線治療 ません。結腸癌で放射線治療の適応と が用いられます。また、骨盤内再発病 なるものは、骨転移に対する緩和照射 変には小線源を使用した組織内照射も や肺転移に対する照射などが挙げられ 行われることがあります。 ます。一方、直腸癌では、骨転移や肺 転移に対する照射に加えて、術前・術 後や手術不可能なときなどにも放射線 治療が用いられることがあります。 《治療計画(直腸癌) 》 治療計画は、CT画像を基にして行 わ れ ま す。GTV (gross tumor volume)と呼ばれる指標は原発巣と 術前放射線治療 単独放射線治療が行われることもあ リ ン パ 節 腫 大 を 合 わ せ た 範 囲 で す。 CTV (clinical target volume)は、 りますが、最近は化学放射線療法が行 原発巣に加えて2、3cmを加えた範 われています。術前に化学放射線療法 囲、リンパ節腫大に0.5〜1cmを加え を行うことで、局所制御率・肛門括約 た範囲、所属リンパ節(直腸傍リンパ 筋温存率の向上が期待できます。 節・内腸骨リンパ節・閉鎖リンパ節・ 仙骨前リンパ節)を含めた範囲です。 術後放射線治療 術後放射線治療によって、局所再発 より進行した直腸癌では、さらに外腸 骨リンパ節領域を含めて照射します。 率の減少が期待できます。術後は腸管 PTV (planning target volume)と の癒着などがあるため、放射線治療の はCTVにさらに1cmを加えた範囲で 有害事象として、下痢を含めた消化器 す。PTVを含む範囲に前後2方向か 症状の発生に注意が必要です。 らの照射や、左右2方向に後1門を加 えた3方向からの照射、あるいは前後 手術不可能例・再発例に対する放 左右4方向からの照射が行われます。 射線治療 手術不可能例や骨盤内再発病変に対 《線量》 して放射線治療が行われます。周囲臓 術前照射は40〜50Gy(グレイ)を 器への浸潤が疑われ根治的切除困難が 20〜28回に分けて、術後照射は50Gy 12 Colorectal Cancer (グレイ)を25〜28回に分けて1週間 に行われてきた開腹手術に対し 当たり5回照射するのが標準的です。 て、腹腔鏡下手術が技術的にも、 術後に病変が残存する場合には50Gy がんを治すという意味からも安全 (グレイ)の時点で極力腸に直接照射 な手術であることを明らかにする することを避けながら、総線量60Gy 臨床試験。 (グレイ)程度まで追加します。当院 では、直腸癌に対して60Gy(グレイ) StageⅣ大腸癌に対する腹腔鏡 を投与する場合には、まず40Gy(グレ 下手術の意義 イ)を全骨盤腔に投与し、その後、照 日本国内におけるステージⅣ大腸 射野を病変部とその周囲の十分な範囲 癌の非根治的切除における腹腔鏡 を加えた領域に絞って20Gy(グレイ) 下手術の現状を把握し、その意義 追加照射を行っています。 と位置づけを探索することを目的 に、各施設における短期および長 《有害事象》 急性期有害事象 期の治療状況を集計し、開腹手術 と比較検討する研究。 下痢・膀胱炎・肛門痛・会陰部皮膚 炎などがあげられます。 高齢者における腹腔鏡下大腸癌 切除術の有効性と安全性に関する 晩期有害事象 頻便・ろう孔形成・腸閉塞・潰瘍形 成などがあげられます。 後向き調査 高齢者における腹腔鏡下大腸癌切 除術について、既に確立された術 式である開腹による大腸癌切除術 臨 床研究・治験 と比較検討し、その有効性と安全 性について検証する研究。 1.消化管外科(I) Clinical Stage(臨床病期)0 StageⅢ結腸癌治癒切除例に対 〜Ⅰ期直腸癌に対する腹腔鏡下手 する術後補助化学療法としての 術の妥当性に関する第Ⅱ相試験 UFT/Leucovorin療法とTS-1療 直腸がんの治療に関して、標準的 法の第Ⅲ相比較臨床試験 13 大腸がん 根治切除手術を受けたStageⅢ結 StageⅡ/StageⅢ結腸癌治癒 腸癌及び直腸S状部癌の患者さん 切除例に対する術後補助化学療法 において、術後再発予防目的とし としてのmFOLFOX6療法の認容 て標準的治療法のひとつである 性に関する検討 UFT/Leucovorin療法に対し、 術後補助化学療法としての TS-1療法が劣っていないことを mFOLFOX6療法によりアレル 示すための試験。 ギー反応と感覚異常や知覚不全が どれだけの割合で起こるかをみる 試験。 StageⅡ大腸癌に対する術後補 助化学療法に関する研究 StageⅡ大腸癌に対する術後再発 治癒切除可能な局所進行下部直 予防目的として、抗がん剤の一つ 腸癌に対する術前XELOX療法の であるUFTの有効性を評価する 有効性の検討 試験。 治癒切除可能な局所進行下部直腸 癌に対して、術前にXELOX療法 StageⅢb大腸癌治癒切除例に を行うことが治癒切除率を改善す 対する術後補助化学療法としての るか否か、また肛門温存率が改善 UFT/ Leucovorin 療 法 と するか否か、その後の再発率や生 TS-1/Oxaliplatin療法の第Ⅲ相 存率に影響を及ぼすかを検討する 比較臨床試験(ACTS-CC02) 臨床試験を行っています。 StageⅢ結腸癌治癒切除例に対 糞便中および膵液・胆汁中の異 する術後補助化学療法としての 常メチル化DNAをターゲットと mFOLFOX6療法またはXELOX した消化器癌の遺伝子診断に関す 療法における5-FU系抗がん剤お る研究 よびオキサリプラチンの至適投与 糞便や検査の時に得られる膵液や 期間に関するランダム化第Ⅲ相比 胆汁の中で、がんに特異的にみら 較臨床試験(JFMC47) れるDNAのキズとしてのメチル 化の異常を超高感度で検出するこ 14 Colorectal Cancer とによりがんが存在することを示 伝子を取り出して発現のパターン し、新しい消化器癌の遺伝子診断 などを調べています。 法の確立を目指す研究を行ってい ます。 KRAS野生型切除可能大腸癌肝 転移に対する術後補助化学療法 腫 瘍 特 異 的 DNA 異 常 を タ ー mFOLFOX6と周術期化学療法 ゲットとした、大腸癌リンパ節外 mFOLFOX6+セツキシマブの第 微小壁外進展癌病巣および腸間膜 Ⅲ相 ラ ン ダ ム 化 比 較 試 験 静脈内遊離癌細胞の検出とその意 (EXPERT) 義 血液中にがん細胞が存在すること や、大腸癌の壁外への進展病巣が 2.消化管外科(2) 肝限局性転移を有するKRAS野 あると、 患者さんの予後が悪い (が 生型の結腸・直腸癌における術前 んが再発しやすい)と言われてい 化学療法SOX+Cetuximabの有 ます。末梢血液中やがんに近い腸 効性および安全性の検討―多施設 間膜静脈内の血液中の遊離癌細胞 共 同 第 Ⅱ 相 臨 床 試 験 ― や、大腸癌周囲の進展病巣の存在 (KSCC1002) をDNA異常の存在を検出するこ とで証明し、予後の予測ができる かを調べる研究を行っています。 L-OHP治療歴を有する切除不 能進行・再発結腸・直腸癌二次治 療 例 に 対 す る IRIS + 生体機能分子の網羅的かつ数理 bevacizumab療法の有用性の検 解析による大腸癌切除患者の予後 討 ― 臨 床 第 Ⅱ 相 試 験 ― 識別方法の確立 (KSCC1102) 大腸癌の手術後に癌が再発するか どうか、完全に切除できなかった 5-FU 系 抗 が ん 剤、L-OHP、 大腸癌に抗癌剤がどの程度効果が CPT11 あるか、を予測する診断法を確立 KRAS遺伝子野生型の治癒切除不 するために大腸がんの標本から遺 能な進行・再発 3剤の治療歴を有する 結腸・直腸癌患 15 大腸がん 者に対するパニツムマブおよび 日常臨床下における大腸癌一次 S-1併用療法の有用性の検討―第 化学療法におけるセツキシマブ併 Ⅱ相臨床試験―(KSCC1103) 用療法の安全性・有効性の検討― 多施設共同観察研究― Ca/Mgおよび牛車腎気丸によ る支持療法下における大腸癌に対 遺伝子解析による大腸がん治療 する術後補助化学療法としての 薬の感受性及び副作用予測に関す XELOX療法の効果・安全性確認 る 臨 床 研 究 ―modified 試験(KSCC1201) FOLFOX6±Bevacizumabおよ びFOLFIRI±Bevacizumab 再発危険因子を有するStageⅡ 大腸癌に対するユーエフティ/ロ KRAS野生型切除可能大腸癌肝 イコボリン療法の臨床的有用性に 転移に対する術後補助化学療法 関する研究(JFMC46) mFOLFOX6と周術期化学療法 mFOLFOX6+セツキシマブの第 Ⅲ相 ラ ン ダ ム 化 比 較 試 験 StageⅢ結腸癌治癒切除例に対 する術後補助化学療法としての (EXPERT) mFOLFOX6療法またはXELOX 療法における5-FU系抗がん剤お 腹腔鏡下悪性腫瘍手術後のフォ よびオキサリプラチンの至適投与 ンダパリヌクスと間欠的空気圧迫 期間に関するランダム化第Ⅲ相比 法併用によるVTE予防の安全性 較臨床試験(JFMC47) の検討(腹腔鏡下(アリクストラ)) StageⅢb大腸癌治癒切除例に 対する術後補助化学療法としての UFT/ Leucovorin 療 法 と 切除可能な消化管間質腫瘍 (GIST)肝転移患者の治療方法に 関する第Ⅱ相試験 TS-1/Oxaliplatin療法のランダ ム 化 比 較 第 Ⅲ 相 試 験 (ACTS-CC02) 16 日本国内の消化管間質腫瘍 (GIST)患者における観察研究 Colorectal Cancer する進行・再発結腸・直腸癌に対 (GIST観察) するセツキシマブ/TS-1/塩酸イ KRAS野生型の大腸癌肝限局転 リノ テ カ ン 併 用 化 学 療 法 移に対するmFOLFOX6+ベバシ (CeIRIS)第 Ⅰ / Ⅱ 相 臨 床 試 験 ズマブ療法とmFOLFOX6+セツ (CeIRIS) キシマブ療法のランダム化第Ⅱ相 臨床試験(ATOM) ⑵ RAS遺伝子野生型で化学療法 未治療の切除不能進行再発大腸が ハイリスク消化管間質腫瘍 んに対するmFOLFOX6+ベバシ (GIST)に対する完全切除後の治 ズマブ併用療法とmFOLFOX6+ 療 に 関 す る 研 究(STAR パニツムマブ併用療法の有効性及 ReGISTry) び安全性を比較する第3相無作為 化比較試験(PARADIGM) 大腸癌肝転移巣における抗癌剤 ⑶ 効果規定因子に関する研究 Fluoropyrimidine, Oxaliplatin, Irinotecanを含む化 切除不能又は転移性の消化管間 学療法に不応・不耐のKRAS野生 質腫瘍(GIST)を有する成人患者 型進行・再発結腸・直腸癌に対す を対象にニロチニブとイマチニブ るRegorafenibとCetuximabの の有効性及び安全性を比較するラ 逐 次 投 与 と Cetuximab と ンダム化、非盲検、多施設共同、 Regorafenibの逐次投与のラン 第Ⅲ相臨床試験 ダム化第Ⅱ相試験(REVERCE) 3.第一内科 ⑷ 治癒切除不能な進行再発の結腸 ⑴ 初回化学療法(オキサリプラチ 直腸癌に対するレゴラフェニブの ン・フッ化ピリミジン系抗がん剤 効果と副作用の予知のための前向 併用化学療法)に対して不耐また き観察研究 は不応でKRAS遺伝子野生型を有 17 MEMO 九州大学病院がんセンター 18 MEMO 九州大学病院がんセンター 19 20 2016年3月