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空間位置情報サービス活用ガイドライン (初版)
空間位置情報サービス活用ガイドライン (初版) 初版:平成 25 年 3 月 一般財団法人日本情報経済社会推進協会 -1- 改訂履歴 版数 初版 発行 平成 25 年 3 月 作成者/改訂者 JIPDEC 改訂履歴 初版発行 -2- 目 次 はじめに............................................................................................................................... - 4 1.本書の位置づけ .............................................................................................................. - 5 【参考】主な用語・関係法令 .................................................................................................. - 6 2.屋内空間データの構築方法 ............................................................................................ - 7 2.1 屋内空間の利用の背景 .............................................................................................. - 7 2.2 屋内空間の利用方法(CAD データ) ........................................................................... - 8 2.2.1 CAD データから屋内空間データを生成する方法.................................................... - 8 2.2.2 CAD データから屋内空間データを生成する場合の留意点 ................................... - 11 2.3 屋内空間の利用方法(フロアマップ).......................................................................... - 11 2.3.1 フロアマップから屋内空間データを生成する方法 .................................................. - 11 2.3.2 アンカーポイントの留意点 ..................................................................................... - 13 2.3.3 フロアマップから屋内空間データを生成する場合の留意点.................................... - 14 2.4 ユースケース ............................................................................................................. - 14 2.5 本章の参考文献・ツール等の入手先 ......................................................................... - 16 3.屋内測位....................................................................................................................... - 17 3.1 屋内測位について .................................................................................................... - 17 3.2 屋内測位環境の設置例 ............................................................................................ - 17 3.3 IMES を用いた測位 ................................................................................................. - 19 3.4 屋内測位の課題 ....................................................................................................... - 19 3.5 ユースケース ............................................................................................................. - 20 3.6 本章の参考文献・ツール等の入手先 ......................................................................... - 21 4.データ連携 .................................................................................................................... - 22 4.1 『位置と時間を』キーにして情報を識別する手法 ......................................................... - 22 4.1.1 地理情報データベース ......................................................................................... - 22 4.1.2 場所情報コード .................................................................................................... - 24 4.2 PI(Place Identifier)について ................................................................................. - 29 4.3 流通フォーマットについて.......................................................................................... - 30 4.4 ユースケース ............................................................................................................. - 31 4.5 本章の参考文献・ツール等の入手先 ......................................................................... - 34 5.補足(オープンデータと地理空間情報) .......................................................................... - 35 - -3- はじめに 平成 17 年に Google 社が地図などを無償で提供するサービスを開始し、 WebAPI を同時に公開することで、Web 技術を扱えるエンジニアなどが地図を利 用できる環境を提供した。この結果、それまで高価であり、専門的な技術とされて きた地図情報の利用が活発化し、既存のサービスの質の向上や、数多くの新規 のサービスが創出された。このことは、「何かの情報への到達コストを圧縮するとイ ノベーションが起きる」ということを示している。 また、地図をはじめとして、「位置+時間」情報を保有する様々な地理空間情報 は、それをキーとするあらゆる情報を使って、様々な分野を横断的かつ広範につ なげることを可能にする。例えば屋外では、GPS 機能を搭載した携帯電話やカー ナビゲーションなどを通じて、好きなお店などの情報を得ることができる。このこと は、様々な分野において、「位置+時間」をキーにして、「情報を引き出し、繋げ る」ことができ、そのこと自体、サービスの高度化などにおいて重要な要素の一つ と考えられる。 このような観点から、日本でも、平成 19 年に『地理空間情報活用推進基本法』 (以下、基本法)が制定された。『位置情報、時間情報』を持った様々な情報を『地 理空間情報』と定義(第 2 条)し、社会基盤や、測位衛星基盤の整備と併せて、多 様なサービスの創出を目指すことが明記された。また、この基本法を基に、政府が 策定した『地理空間情報活用推進基本計画』によって、地理空間情報を整備・活 用していく動きが推進されている。 特に、平成 21~23 年度にかけて、それまでコスト面・技術面で利用がしにくか った『屋内空間』を利用するための基盤整備が推進された。これによって、これま で屋外において GPS 等の測位技術を用い、案内などを行うサービスに加えて、 屋外・屋内をシームレスにつなぐ仕組みを用いて、新しいサービスを創出できる環 境が整ってきている。 本書は、その屋内空間の利用に資する経済産業省・国土交通省の取り組みの 成果を取りまとめたものである。本書を通じて、屋内空間を利用するサービスの企 画、開発、質の向上等の参考になることを意図している。 -4- 1.本書の位置づけ 地理空間情報に係る技術の進歩によって、これまでにないサービスや産業を生み 出すとともに、既存のサービスや産業においても新たな展開をもたらす。地理空間情 報は、ビジネスチャンスを広げ、経済や社会に活力をもたらすものである。 例えば、人やモノの位置、周辺の状況情報を扱う位置情報サービスは、歩行者ナビ や位置ゲームなどを創出しているとともに、空間位置基盤データ(地図等)の普及、ス マートフォンをはじめとするスマートデバイスの普及、測位環境の普及によって、更に 有効に活用できる可能性が高まっている。特に、屋内外問わず、行動履歴等と、店舗 情報、観光情報等との融合が起き、個人の多様なニーズに対応した新たなサービスが 創出できる環境(屋内外シームレスなデータ連携によるイノベーション創出の環境)が 整いつつある。 本書は、以上のような状況を踏まえ、平成 22 年度から平成 24 年度までの 3 次元位 置情報を利用するための技術開発や実証実験の成果を中心に取りまとめたものであ る。具体的には、以下について、実証実験などの例示と共に、公開されているツール や、参考文献などを中心に取りまとめている。 (1)屋内空間のデータを生成する方法 (2)屋内測位の環境を整備する方法 (3)様々な情報を“3 次元位置情報”、すなわち“緯度、経度、高さ”を用いて連携す る方法 また、本書の読者として、以下を対象としている。 ① 屋外・屋内をシームレスにつなぐ地理空間情報を利用したサービスや、屋内空 間を利用したサービスなどの企画や、準備等をしようとしている事業者等 ② 屋外・屋内をシームレスにつなぐ地理空間情報を利用したサービスや、屋内空 間を利用したサービスを実施している事業者等 ③ 地理空間情報の利活用サービスについて参考となる情報を探している事業者 等 -5- 【参考】主な用語・関係法令 ○用語 (1) 地理空間情報: 空間上の特定の地点又は区域の位置を示す情報、並びにそれ に関連する情報 (2) 3次元位置情報:緯度、経度、高さの情報によって規定される空間上の特定の地 点を示す情報 ○関係法令 (1) 地理空間情報活用推進基本法(平成 19 年 5 月 30 日法律第 63 号) -6- 2.屋内空間データの構築方法 2.1 屋内空間の利用の背景 『地理空間情報サービス産業の将来ビジョン』(経済産業省,2008)では、以下の3 点の重要性が述べられている。 ① 情報も加えたリアルに近い立体的な表現を行なうとともに、実世界の時間 変化を正確に捉えるために、情報更新時刻等も加えた四次元の地理空間 情報の整備に変化させていくこと ② 座標が付与された住所(緯度経度と地番など)や座標が付与された公共施 設に関する情報(建物形状、間取りなど)の整備 ③ 住所や建物の位置情報の JIS 化や四次元情報(三次元座標+時間情報) をベースとした情報を付加することの標準化 上記①から③については、どれも屋内空間についてのものであり、この背景には、 サービス事業者では、屋外の地理空間情報はデジタル化が推進されており、それら地 理空間情報の調達コストは低廉化の方向にある中で、未だ標準的なデータ整備がな されていない屋内の地理空間情報の利活用を期待していることがある。 しかし、屋内空間の設計図面が公開され難いものであることや、公開されても、設計 図に使用される座標系(直交座標系)と世界測地系との関係付け作業が大変であるこ となどが課題となって、屋内空間の利用が進まないという課題が指摘されてきた。 本章では、以上のような課題を解決するために、経済産業省によって推進された屋 内空間を利用するために構築された技術、その利用にあたっての留意点、並びにユ ースケースを紹介する。 -7- 2.2 屋内空間の利用方法(CAD データ) 屋内空間を利用するにあたり、より正確な情報を生成する場合、建物の設計時に生 成される CAD(computer aided design)データが有効である。特に、建築分野では、 建物や構造物などの建築物の立体を平面図・立面図・断面図、あるいは透視図等の 図面として表現し、それにより建築物を「製作=施工」している。技術者の専門領域に 応じて、意匠、構造、設備などの図面群が存在し、それらの図面を作成するソフトウェ アを建築 CAD と呼んでいる。図面は設計行為の成果物であるが、建築 CAD のレベ ルも製図をするだけのものから、より専門的な検討、解析、シミュレーションなどを含ん だ高度なレベルまで存在する。Jw_cad、VectorWorks、AutoCAD、DRA-CAD など は、日本の建築分野でよく利用されている CAD である。これらは、図面を作成する機 能や 3 次元モデルを作成するモデリング機能などが搭載されている。 利用にあっては、3 次元 CAD データは細部までデータ化するため、容量が数百 MB に上るケースも多く、インターネット上でそのままやり取りするにはネットワーク負荷 が重い。そこで、等高線(ポリライン)の間引きや重複オブジェクトの削除等、データの 圧縮(軽量化)作業が必須となる。 2.2.1 CAD データから屋内空間データを生成する方法 CAD データを利用して、商業ビルなどの屋内空間情報を、フロア毎に 3 次元座標 (x、y、z)で表したモデル(以下、3 次元スライスモデルという。下図参照)として構築す るツール(世界測地系座標変換ツール、ネットワーク付与ツール)を経済産業省が提 供している。なお、経済産業省では、屋内空間データを『空間参照系データベース』と 呼んでいる。 図表 1 3 次元スライスモデル 3次元スライスモデル -8- このツールは、以下を実現している。 (1) 2 次元 CAD 設計図面をフロア毎に世界測地系座標を割り当て、フロア同士を 重ね合わせる事で建物情報を構成すること (2) 3 次元スライスモデル上の座標を参照する屋内ネットワークデータを構築するこ と 生成手順は以下の通りである。 図表 2 空間参照系データベースの生成手順 段階 方法 概要 使用ツール CAD デ ー タ 屋内 CAD データ CAD 図面の意匠権など 市販ツール等 整備作業 の整備 著作権を含む箇所などを マスキングする等 空間参照系デ 屋内 CAD データ CAD 図面を背景図として 世 界 測 地 系 座 標 ータ構築作業 の 軽 量 化 ・ シ ン プ ポリゴン化する等 変換ツール ル化 建物情報・座標の 建物配置図等の基準点と 設定 地図上(都市計画図など) の基準点を対応づける等 ネットワークの設定 通路の中央にネットワーク ネットワーク付与ツ を引き、施設出入口の前、 ール 通路の曲がり角や交差点 にノードを置く等 -9- 生成手順をフローで示す。 図表 3 空間参照系データベースの生成フロー (1)屋内CADデータの整備 (2)屋内CADデータの軽量化 (3)建物情報・座標の設定 (4)ネットワークの設定 著作権、意匠権への対応、 データ構成の整備 間引きやマスキング作業 世界測地系座標を設定し、 フロア毎の空間参照系デー タを作成 空間参照系データ上で屋内 ネットワークを設定 CADデータ整備作業 空間参照系データ構築作業 空間参照系データ ネットワークデータ 上記の手順によって生成された空間参照系データベースのイメージを下図に示 す。 図表 4 実際に生成された空間参照系データベースの例 出入口点 フロア外郭 ノード リンク 間仕切り 区画 フロア代表点 - 10 - 2.2.2 CAD データから屋内空間データを生成する場合の留意点 建築で生成される CAD 図面には、設計者の意匠権に関する情報が含まれている 場合がある。また、内部情報や保安設備など、サービスに利用できない情報も入って いる。以上のことから、CAD データの利用にあたっては意匠権を所有する設計者がい る場合に使用許可を取ることや、利用できない部分を削除・マスキングを行う必要があ る。 2.3 屋内空間の利用方法(フロアマップ) 屋内空間を利用する場合、CAD データが無い建物や、CAD データの利用が難し い建物も想定される。 その場合、一般に公開されているフロアマップなどから屋内空間が生成できると便 利である。そこで、経済産業省では、前記のツールの機能を拡張し、フロアマップから 生成することもできるようにしている。 ここでいうフロアマップは、以下の条件を満たすものを言う。 ・1 フロア 1 ファイルであること ・表現スケール全フロアで一致していること ・方角が統一されていること(同一であること) ・世界測地系座標を設定できる箇所が存在すること 2.3.1 フロアマップから屋内空間データを生成する方法 フロアマップは幾何情報を持っていないため、ベクトルデータを生成するために、幾 何情報を与える必要がある。しかし、フロアマップはフロアを構成する店舗、地物(トイ レ、エスカレータ等)、通路等の大よその位置の把握のために用いられるが多く、通路 を分かり易く表現するために、広くなるようデフォルメされており、店舗の区画がその分 だけ小さく表現されている。また、形状もシンプル化されていることが、各所で様々なズ レが盛り込まれる要因となっている。 そこで、前記のツール(世界測地系座標変換ツール)では、フロアマップに対して、 幾何情報を与えると同時に、可能な限りサイズ補正および縦横比の補正を実行できる ようにしている。(下図参照) - 11 - 図表 5 フロアマップからの実寸補正機能 また、「確実に正しい世界測地系座標が取得でき、屋内平面図に対応づけられるこ と」が重要であることから、「安定した世界測地系を持った基準点(以降、アンカーポイ ント:実際に出入り口等を測量して得た座標)」を設定することで、CAD データから生 成した場合のものと比較して、遜色の無いデータを生成できるようにしている。(下図参 照) - 12 - 図表 6 アンカーポイントから世界測地系座標を設定する機能 座 標変換基 準点と して使 用す る 場合には 「座標 変換基 準点 と して使用 」にチ ェック を入 れる。 アンカーポイント (座標変換基準点) アンカーポイントとは、屋内の地図と屋外の地図を重ね合わせるキーとなる位置をい う。例えば、屋外から屋内へシームレスなナビゲーションを想定した場合、屋外の地図 と屋内の地図の連結(重ね合わせ)が必要であるが、一般的に屋内の地図と屋外の縮 尺や精度は異なる。この異なる精度の地図を重ね合わせるために、具体化されたのが アンカーポイントの考え方である。これを換言すれば、屋内外を連結するための位置 情報となりうるものの考え方である。 2.3.2 アンカーポイントの留意点 アンカーポイントは、実世界の座標(緯度、経度:地理座標系)と、簡易平面図の座 標(図面上の x, y:図面座標系)を関連付け、簡易平面図上においても実世界と同じ 座標として地図構成要素を取り扱うための重要な座標点となる。 地理座標系と図面座標系の対応付けのみを考慮するのであれば、地理座標系と図 面座標系の情報だけがあればよい。しかし、より正確かつ信頼性の高い地理座標と図 面座標の対応を取ることを考慮した場合、地理座標の取得情報(測量を行った際の情 報)をメタデータ(諸元情報)として付与することで、地理座標の正確性や信頼性を保 証できると考えた。したがって、アンカーポイントの構成要素としては、大きく「①地理 座標系の情報」、「②図面座標系の情報」、「③メタデータ」、の 3 つが必要である。 なお、アンカーポイントの情報については、屋内空間データ共に、BtoB で Web 標 - 13 - 準により相互交換するためのデータ形式(流通フォーマット;後述)が提供されている。 図表 7 アンカーポイントの構成要素 構成要素 詳細 地理座標系 緯度、経度、高さなどの一般的な地理座標系情報。 一つのアンカーポイントについて、それぞれ唯一の数値を持 つ(1:1対応) 図面座標系 アンカーポイントに対応する図面上の描画要素。 一つのアンカーポイントに対して、図面ごとに描画要素が存在 しうる(1:n対応)。 描画要素は論理的には ID あるいは代表点座標で特定できる が、RDF の制約から ID 参照を前提とする。 メタデータ 日付、作成者などの一般的な情報。 これもアンカーポイントに対して唯一のデータを持つ(1:1)。 「種別」ではアンカーポイントの種別を定義することを想定す る。公的/私的、また、アンカーポイントの等級のようなデータ の受け皿となることを想定する。 2.3.3 フロアマップから屋内空間データを生成する場合の留意点 フロアマップから屋内空間データを生成する場合に、建物出入り口の緯度経度をア ンカーポイントとして使用することは、世界測地系への配置方法としては安定的な方法 であるが、その緯度経度の測位方法が異なる場合(例えば、隣接する建物間や、地下 街間で測量方法が異なる場合など)に、データがうまくつながらないことが想定される。 よって、異なる所有者の屋内空間をつなげて利用する場合には、それぞれ同じ測位 方式を用いてアンカーポイントを設定するか、又は同一事業者がアンカーポイントを設 定することが望ましい。 また、フロアマップは一般に公開されているものが多いが、建物の所有者や、管理者 に相談もなく、勝手に利用することは信義上望ましいことではない。 2.4 ユースケース 上記の屋内空間データを利用した実証実験が、G 空間 EXPO2010(平成 22 年、パ シフィコ横浜)において、実施された。 G 空間 EXPO2010 会場の管理用の CAD 図面から空間参照系データベースを構 築し、世界測地系座標を付与するために、アンカーポイントを設定した。(下図参照) - 14 - 図表 8 アンカーポイントの設定点 :計測点 :アンカーポイント(座標変換点) 図表 9 構築された G 空間 EXPO2010 会場の屋内空間データ :施設代表点 :ノード点 :リンク 実証実験では、屋内ナビゲーション、スタンプラリー、ソーシャル情報の可視化が実 施された。 ソーシャル情報の可視化では、特定の場所を指し示す Twitter のハッシュタグ/イ ラスト地図座標(および ID)/空間参照系データベース上の座標(および ID)の相互 変換テーブルを整備し、この相互変換テーブルを用いて、異なる識別子体系/座標 体系間の相互変換することで、その会場内のつぶやきが何処でどれ位発生している か、また、それが時間と共にどのように変化するかを可視化することを試みた。(下図参 照) - 15 - これによって、どのような発言がトリガーになって、各ブースへの誘因が起きるかなど が明らかになることが分かった。 図表 10 Twitter の屋内空間でのリアルタイムな重畳 2.5 本章の参考文献・ツール等の入手先 図表 11 参考文献・ツール等の入手先 分類 名 URL 等 ツール 世界測地系座標変換ツール http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/G IS/index.html ネットワーク付与ツール 文献 平成 22 年度 IT とサービス の融合による新市場創出促 進事業(地理・空間情報基盤 活用サービス実証事業 2 次 公募)事業報告書 - 16 - 3.屋内測位 3.1 屋内測位について 位置情報を利用するサービスを実施するにあたり、屋内の位置の把握については、 従来課題として指摘されてきたが、屋内のセンサーなどを利用した測位技術も進展し ており、屋外・屋内の測位技術を俯瞰すると、下図のようになる 図表 12 測位技術の俯瞰図 屋 外 GPS Galileo 携帯電話・PH S QZSS gpsOne 屋 内 RTK-GPS Pseudolite GPS AirLocation IMES 無線LAN WiFi センサー類 RFID WiMAX Bluetooth 例えば、従来、無線通信としての用途のみで搭載していた Wi-Fi デバイスを利用し、 ハードウェアとしての追加コストなしに、同社の“PlaceEngine”に対応することで位置 情報を扱える機器へ変える技術(PlaceEngine など)や、屋内に GPS と同等の信号を 配 信 す る 機 器 を 設 置し 、 測 位 情 報 を 取 り 扱う 技 術 ( IMES ( Indoor MEssaging System))などがあげられる。 本章では、G 空間プロジェクトにおいて、実空間で実証された無線 LAN 測位を中心 に、その利活用について述べる。 3.2 屋内測位環境の設置例 経済産業省平成 22 年度『IT とサービスの融合による新市場創出促進事業(地理・ 空間情報基盤活用サービス実証事業)』において、平成 23 年 2 月 8 日から 20 日か けて、クイーンズスクエア横浜内のクイーンズイーストおよびクイーンモールの協力を 得て、B1F〜2F にて屋内測位の実証を行った。 具体的には、2F には 17 個(約 20m 毎)、1F には 20 個(約 20m 毎)、B1F には 38 個(約 10m 毎)の合計 75 個の無線 LAN アクセスポイントを設置し、実証実験参加 者の移動履歴を取得することで、その精度等の検証を行った。その結果、B1F では測 - 17 - 位差 5 メートル以内、1F、2F では測位差 10 メートル以内で測位できることを確認した。 なお、測位に要する時間は、概ね 5~10 秒以内であり、吹き抜けを含むフロアやエリ アの判定もできた。 この例の測位方法は、予め屋内測位用のデータベースを構築する方法を取ってい る。その際の構築方法として、以下の 2 つのケースがある。 (1)パターン 1 ① 各無線 LAN アクセスポイントのフロア図上の座標を取得する ② 座標を緯度経度に変換する ③ 無線 LAN アクセスポイントの BSSID(MAC アドレス)、SSID、緯度、経度、 フロア/エリア情報の一覧リストを作成する ④ その一覧を専用のツール(民間のエンジンなど)を用いて符号化および暗 号化を行う (2)パターン 2 ① 世界測地系座標変換ツールを用いて、各無線 LAN アクセスポイントの緯 度経度を取得する ② 無線 LAN アクセスポイントの BSSID(MAC アドレス)、SSID、緯度、経度、 フロア/エリア情報の一覧リストを作成する ③ その一覧を専用のツール(民間のエンジンなど)を用いて符号化及び暗号 化を行う 上記のどちらのケースを用いても、前記の測位結果が得られている。 下図に屋内測位によって得られた移動軌跡を示す。 図表 13 屋内測位による移動軌跡の例 - 18 - なお、無線 LAN の屋内測位環境を整備する場合には、以下に留意する必要があ る。 (1) 環境調整 ① 無線 LAN アクセスポイントは、床などではなく、ある程度の高さに一律に置く ことで出力等が安定する。(前記実証実験では地上高 15cm 前後に統一) ② 無線 LAN アクセスポイントは出力が強いものを選ぶ。(出力が弱いと、距離に よる判定が難しくなる) ③ 設置してからの電波の見え方を調査し、設置方法を調整する期間を設ける。 (2) ライブラリーの用意 スマートフォンの場合、その OS によって、電波強度が捉えにくいものもあるた (3) め、利用者デバイスに搭載されている OS の特性に合わせたライブラリーを用 意する。 マップマッチングの課題 上記実証実験において、現在地測位までの時間が 10 秒以内で結果が来る ようになったが、10 秒間で利用者は数メートルから 10 数メートル歩いてしまう ことが予想される。表示される際には、本来必要とする場所ではない場所が 表示されてしまう可能性があるため、サービスの種類ごとに、位置の補正方法 の検討を行う必要がある。 3.3 IMES を用いた測位 IMES(Indoor MEssaging System)とは、独立行政法人宇宙航空研究開発機構 (JAXA: Japan Aerospace Exploration Agency) によって仕様が提案されたもので あり、屋内において GPS 互換信号を提供する方式を言う。電波法に規定されている 「微弱電波」を使用するため、無線局免許不要で設置し、運用できるメリットがある。 平成 25 年 3 月時点での LSI チップは約 12mm 角,基盤も 30mm 角程度にかな り小型化されたため,照明機器や火災探知機器など既存設備に組み込むことも可能と なっている。 3.4 屋内測位の課題 情報提供サービス分野の中で、地下街や大規模商業施設内における人のナビゲー ション、物流分野においては、地下の駐車場やビルの中における荷物のトレースとい ったニーズがあり、屋内測位の取り組みも増えつつある。その場合、屋外と屋内を行き 来することを想定すれば、シームレスな受信信号の切替え、及び信号捕捉に要する時 間の短縮化を実現させる必要がある。 屋内測位を実現する技術にはいくつかの選択肢あるが、測位衛星システムとともに 利用するためには、それぞれの受信機を併せ持つ必要があるなど、利便性に欠ける。 - 19 - 以上のような事から、屋内測位を実現するための屋内空間のデジタルマップ化とともに シームレスな切替えの実現、測位衛星システムと屋内測位システムについてのそれぞ れの受信機のワンチップ化を図ることなどが必要であろう。 下表に GPS を合わせた比較表を記述する。 図表 14 屋内 GPS、Wi-Fi 測位の比較 項目 GPS 屋内 GPS Wi-Fi 測位 測位方式 測位衛星から送 られる「緯度・経 度・高さ」が入っ た信号を受信す 衛星測位ができない屋 内で、測位衛星から送ら れるのと同じ信号を送信 する機械を設置し、その 無線 LAN の MAC アドレ スと、その受信可能範囲を データベースとして持って おき、その情報と、電波強 る。 信号を受信する。 度で位置を特定する。 測位の課 題 屋内で使えな い。また、市街 地ではビルなど の反射により、 信号が受信でき ない。 対応機材の設置が必 要。また、端末側の GPS チップが屋内 GPS に対 応していることが必要。 不特定多数の無線 LAN AP(アクセスポイント)を使 うため,APが少ないと、精 度が粗くなる。 測位時間 数分 10 秒以内 10~30 秒程度 3.5 ユースケース (1)マーケティングでの利用例 無線 LAN アクセスポイント測位インフラを構築することによって、今まで取ることが 出来なかった動線の情報や来訪者の移動に沿った情報提供を行うことが出来る。下 図は、前記実証実験で取得した移動履歴であるが、アンケートと突き合わせを行い、 分析することで、被験者の年齢が高くなるにつれて、エスカレータの近辺の滞留時間 が長いことが分かった例である。 図表 15 実証実験の例 - 20 - (2)施設での利用例 介護士の行動履歴を取得し、請求データを生成するために、空間参照系データベ ースと屋内測位が利用されている。 図表 16 イメージ図 3.6 本章の参考文献・ツール等の入手先 図表 17 参考文献及びツールの入手先等 分類 文献 URL 等 名 http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/G 平成 22 年度 IT とサービス IS/ の融合による新市場創出促 進事業(地理・空間情報基盤 活用サービス実証事業 2次 ミドルウェア仕様書 公募)事業報告書 - 21 - 4.データ連携 G 空間サービスを実施する上で、コンテンツは必要である。例えば、店舗案内におい て、最適な位置にお店を表示することや、ソーシャルな情報から関連する情報(口コミ など)を表示することなど『位置と時間』をキーにして、様々な情報を連携することで、ユ ーザの利便性も高まることが期待できる。そのためには、関連する情報を識別できるこ とが重要である。 本ガイドラインでは、「(1)『位置と時間』をキーにして、情報を識別する手法として、 地理情報データベースと場所情報コード」を、「(2)関連する情報(同じ場所を示す異 な る 表 現 方 法 を 用 い た コ ン テ ン ツ な ど ) を 連 携 す る 手 法 と し て 、 PI ( Place Identifier)」を、「(3)前記の空間データを Web 標準である SVG(Scalable Vector Graphics)を用いて相互交換する流通フォーマット」について、それぞれ解説する。 4.1 『位置と時間を』キーにして情報を識別する手法 4.1.1 地理情報データベース 情報発信者からユーザまでの情報のスムーズな流れを、3 次元座標値を用いる(ビ ル内のテナントやイベント等、様々な地理空間情報に 3 次元座標(WGS84)を付与す る)ことによって、位置に関連した情報を定義し、その場所には何があるのか、3次元空 間の中で利用するコンテンツを表記し、集積することを目的として、地理情報データベ ースが構築された。 特徴として、「ビルの情報(以降、建物情報)」、「店舗や施設等の案内に必要となる 情報(以降、店舗/施設情報)」、「物販や飲食等の分野の店舗毎で扱う商品の情報 (以降、商品情報)」、「店舗毎に行うイベント情報(以降、イベント情報)」を対象とし登 録するものであることがあげられる。また、「地図による検索からの登録」及び「テンプレ ートによる検索からの登録」がツール提供されている。これは、商業施設等に入居する 関連店舗が、自身の情報を登録し易いことを念頭において構築されたためである。 - 22 - 図表 18 地理情報データベース ツールの登録画面 地理情報データ 登録開始 建物選択 ①建物アイコンをクリック 空間参照系データベースの 建物情報を基にアイコンを表示する 代表点選択&テナント/施設情報登録 登録完了 座標を取得、 設定 ②テナント代表点を選択 フロアマップ ③テナント/施設情報を登録 また、このツールを通じて、空間参照系データベースが提供する URI(ID)で、店舗 を特定できる仕組みが提供されている。(下図参照) 図表 19 ブログを URI で連携するイメージ ブログ等 △△レストランに関するクチコミ情報など 名称 名称 地理情報 DB ××書店 太郎さんのブログ 今日のランチは、かつ丼でした。 ○○喫茶店 名称 △△レストラン 座標 x,y,z,t URI http://hogehoge.org/tokyo_station/1f.svg#id_001 住所 東京都港区△△ ○○ビル10F アクセス ×××駅から東へ徒歩5分 営業時間 11:00~22:00 URI アンケート結果 URI 夜景がきれいなレストラン第1位 URI ブログ等の記事から店舗等の位置を 参照するためにURIを利用する。 このURIは、空間参照系DBから提供 される。 - 23 - 4.1.2 場所情報コード 場所情報コードとは、地理空間上に存在する地物又は一定範囲の空間に ID と位 置情報を与えるための一つの仕組みを提供するものである。 具体的には、ucode 1を使用したコード体系で、国土地理院で管理する位置情報 点(基準点や三角点等)に場所情報コードを付与し、例えば、基準点の維持管理(地 震による地盤のズレ等への対応)のために利用するものである場所情報コードはその 位置に関する情報を結びつける入り口となる、キーとなるコードである。 図表 20 場所情報コード(出典:国土地理院資料) 場所情報コードの特徴は、主に以下の 3 つとして整理できる。 (1) 1区画内において、64 個までコードを付与することができる。 64 個のうち、1 つ目は区画そのもののために利用され、2 つ目以降を「モノ」 に対し付与することが出来る。 (2) コードそのものに 0.1 秒の精度の座標値(緯度/経度)を包含する。 現状の GPS での測位では 15m 程度の誤差があるが、空間位置情報コード での位置参照は、ある程度の位置(3m のメッシュ)に絞り込まれる。また、通 信を介した発行機関(国土地理院)への問い合わせを行うことで、より正確な 信頼性のある座標値などのデータを得られる。 (3) 平面の座標だけでなく、高さの情報も持つ。 高さの情報は、建物における「階数」としてコード内に保持する。 1 コンピュータがモノや場所を識別するための 128 ビットの識別子 - 24 - 場所情報コードの申請者は、その地物の所有者(施設の管理者、ビル管理会社)の 場合もあれば、テナント事業者が申請を行う場合もある。場所情報コードを付与する際 には、地物の所有者(施設管理者、ビル管理会社)の許可を取らなければならないこと とされている。そのため、申請者が地物の所有者(施設管理者、ビル管理会社)の場 合、申請者が地物の所有者(施設管理者、ビル管理会社)ではない場合の 2 つのケー スでは、申請の流れが異なる。 申請者と地物の所有者が同じ場合は、テナント事業者からの依頼・要望を受けて、 地物の所有者が申請者となってコードの申請を行う。コードの設置工事は、各テナント 事業者が実施する。 図表 21 申請者と地物の所有者が同じ場合の例 テナント事業者 ビル管理会社 (申請者=施設管理者) 国土地理院 (発行者) 申請者登録申請を行う 申請者として登録 申請に必要な認証情報を取得 コード申請を依頼 コード予約を申請する ICタグを製作する 予約したコードを取得 該当コードを予約する ICタグを設置する ICタグの位置を計測する 正式発行通知を受ける 計測データを添えて正式登録申請する 正式発行通知を受ける 申請データを確認して正式登録 発行者DBで公開する コードの運用を開始する (出典)「位置情報基盤整備のためのガイドライン(案)」(平成 25 年度に国土地理院より公開予定) また、申請者(テナント事業者等)と地物の所有者が異なる場合、地物の所有者の 許可を受けて、申請者が自ら IC タグ設置工事と発行申請を行う。 - 25 - 図表 22 申請者と地物の所有者が異なる場合の例 テナント事業者 (申請者) ビル管理会社 (施設管理者) 申請者登録申請を行う 国土地理院 (発行者) 申請者として登録 申請に必要な認証情報を取得 コード予約を申請する コードの設置を許可する 該当コードを予約する ICタグを製作する ICタグを設置する ICタグの位置を計測する 計測データを添えて正式登録申請する 申請データを確認して正式登録 正式発行通知を受ける 発行者DBで公開する コードの運用を開始する (出典)「位置情報基盤整備のためのガイドライン(案)」(平成 25 年度に国土地理院より公開予定) (1)利用方法の例 ①屋内における 3 次元空間情報データベースを構築する場合 G 空間プロジェクトの視点から見ると、場所情報コードは、空間参照系データ ベース(屋内マップ)を整備するときの基準点になり得る。これによって、場所情 報コードのように緯度経度座標で書かれているコードを用いることによって、屋内 屋外をシームレスにつなげることができる。その場合、ある特定のサービス用途 に限定されるものではなく、様々なサービスが横断的に利用できるもの(=協調 領域(業界横断的に裨益があるもの))として、整備されることが望ましい。 また、空間参照系データベースを構築する場合に、その位置の確からしさを 担保すること(位置の認証など)が必要である。場所情報コードは、国土地理院と いう国の機関から発番されるものであるため、その担保を裏付けるものになり得る。 他方で、技術的に、位置情報の詐称が容易に行われてしまうので、それをどう担 保するかという課題もある。この対応としては、位置情報点に付けるタグに電子 署名の秘密キーを使って照合できるような仕組みや、タグ自体の製造番号を併 用して詐称出来ないようにするといった方法などが考えられる。 - 26 - ②施設・店舗管理など地物に設定する場合 場所情報コードを設置された場合、そのコードで場所が識別できるようになり、 そこへ到達できることになる。空間位置情報コードは、0.1 秒単位のメッシュを提供 するため、GPS 等の測位環境を使用せずとも、誤差 3m 以内の精度で場所やモ ノ、及び位置が特定できる。 ③利用分野やサービスの内容等を踏まえた高さ情報の取り扱い 場所情報コードは、高さ情報として「階数」を持つ。例えば、大型ショッピングセ ンターなどに行った際に、自分の位置を知りたい時に階数情報は有用である。 他方、津波や洪水などの場合、高さ情報が階数のみでは、屋外は「1 階」と示さ れるため、高台への避難誘導等を想定した場合は、階数情報のみでは不十分で ある。このような場合に有用な高さ情報は、標高や地上高である。よって、高さ情 報について、サービスごとに必要となる値の持ち方が変わるため、階数、標高、地 上高、水深といったように管理することも想定する必要がある。 ④安心・安全に関わるサービスで利用する場合 東日本大震災のような災害時は、人の位置情報が分かることで救出や支援を 行うことが容易になる。そのため、公共機関が管理している施設や場所等に空間 位置情報コードが数多く振られることが望ましい。例えば、街路灯、電柱などに振 られれば、もし地震等で倒れたとしても、そのコードを読む(QR コードで読むなど) ことができれば、「ここにいた」という生存証明にもなる。前述のとおり、3m メッシュ で、当該人の大よその位置等が分かる可能性があることから、例えば、公民館や 学校等に振られていたならば、場所コードは緯度経度座標を持っているため、場 所の特定ができ、迅速な救助、及び支援が可能になる。 以上のような観点から、場所情報コードには、大きく 2 通りの利活用方法がある。 (ⅰ)ID による識別・連携(地物に場所情報コードを付与し、利活用する) 何らかの管理対象物に対して場所情報コードを付与することで、従来、位置情報 を持たない管理対象物に対して、位置情報を付与することができることなど。 (ⅱ)位置保証スタンプ(場所に場所情報コードを付与し、利活用する) 場所情報コードを基準点あるいは基準点として機能しうる地物に付与することで、 必ずしも GPS 等による測位を行わなくとも、大まかな位置を把握できるなど。 - 27 - (2)測量方法について 場所情報コードを申請するためには、その地点の緯度経度座標が必要である。これ は、コードそのものに 0.1 秒の精度の座標値(緯度/経度)を包含するためである。そ の緯度経度座標は、測位によって取得する必要がある。この場合の測位方法を以下 に示す。 ①GPS、トータルステーションで測位する方法 GPS 受信機やトータルステーションを用い、空間位置情報コードを付与するため の位置情報点の位置を計測する。GPS とトータルステーションを組み合わせた測 位方法は、衛星の信号を受信できる位置で GPS 受信機を用いて測位する。続い てその位置を既知点としたトータルステーションによる測位を行う。 ②屋上で測位する方法 GPS を使った測量では、建物の陰などの原因のため上空視界が確保できず、測 位ができない場合がある。高層の建物の屋上であれば上空視界が確保できること から、建物の屋上で測位する方法もある。 ③基盤地図情報で測位する方法 1/2500 都市計画基図(紙地図)などを用いて、空間位置情報コードの発行を依 頼する該当位置を目視で確認し、その座標値を求める方法である。 既存の測量成果の精度に依存するため、他の測位方法と比較して、その測量 成果の精度に依存してしまうことと、基盤地図情報に記載されている地物以外の 場所に場所情報コードを設定したい場合、対応する地点の特定が困難なケース があるが、現地測量が不要なため簡易に座標値を求められることが出来るという 利点がある。 ④民生用 GPS で測位する方法 民生用 GPS を利用し、衛星からの信号を受信して座標値求めることができる。 最近では、準天頂衛星「みちびき」に対応した民生用 GPS も市販されている。但 し、前記②のとおり、GPS の信号を受信する性質上、上空視界が確保できないと 測位結果に大きな誤差が含まれる可能性がある。また、高精度の測量用 GPS と 比べて、民生用 GPS の精度は高くないなどの課題がある。 図表 23 測位方法別の精度、手軽さ、コストの比較 測位方法 精度 手軽さ コスト ① GPS、トータルステーションで測位する ◎ △ △ - 28 - 測位方法 精度 手軽さ コスト ② 屋上で測位する方法 ○ △ △ ③ 基盤地図で測位する方法 △ ◎ ◎ ④ 民生用 GPS で測位する方法 △ ◎ ○ 方法 大型商業施設で本格的なサービスとして空間位置情報コードをアンカーポイントに 付与させることを前提にすると、手軽さとコストが犠牲になるが、良質のサービスを提供 するために「①GPS、トータルステーションで測位する方法」あるいは「②屋上で測位 する方法」を選択し、場合によっては、測量会社等へ作業を依頼するのが望ましい。 一方、本格的なサービスを行う前に、試験導入をする場合などは、精度の高さより、 手軽さとコストを優先させ「③基盤地図で測位する方法」あるいは「④民生用 GPS で測 位する方法」を選択するとよい。 4.2 PI(Place Identifier)について PI(Place Identifier:場所識別子)は、場所の名称や位置情報等を記述し、同じ場 所を指し示す異なる表現について、関連を意味づけするためのアーキテクチャを定め た標準規格である。PI の特徴は、場所を記述するための標準的な記述仕様というだ けでなく、場所同士の関連(たとえば、「東京タワー」という名称と、「東京都港区芝公園 4-2-8」という住所が同一の場所を指すという意味づけ)を定義できるという点である。ま た、PI の標準規格では、関連付けた場所を検索するための API も定義されており、標 準 API を利用した場所同士の変換が可能である。 PI のアーキテクチャを適用することで、例えば Web ページに記載されている地名を 座標に変換し、地図表示させたり、行政が持つ避難所と住所の一覧を地図上にジオコ ーディングしたり、というようなサービスが実現できる。また、前述の場所情報コードを 情報連携のための主キーのように設定し、PI アーキテクチャを適用することで、これま で位置を持たなかった情報に対して、位置情報を関連付けることが可能になる。 - 29 - 図表 24 PI の考え方 PI は、空間参照とそれに基づく値のセットで構成される場所識別子であり、GML (ISO19136)方式や、ISO19125(単純地物アクセス)で規定されている WKT(Well Known Text)方式を用いた符号化方式も規定に含めるものである。 図表 25 PI の記述例 なお、PI は、平成 23 年 2 月 25 日付官報にて、JIS(JIS X7155)が制定されてい る。また、平成 24 年 10 月 ISO/TC211 より、国際標準 ISO19155 として制定された。 4.3 流通フォーマットについて 流通フォーマットとは、SVG Map Profile(SVG Tiling and Layering Module を 拡張した SVG Tiny1.2)に準拠した SVG 形式による図形データとして配信され、Web - 30 - ブラウザ等でフロア地図として表示することができるものである。これによって、「①世界 測地系座標変換ツールから屋内ネットワーク付与ツールへのデータの受け渡し」、「② 屋内ネットワーク付与ツールで作成したデータの受け渡し」が実現できる。 また、SVG には測地系(この場合、世界測地系)を宣言することができる。この宣言 によって、全ての座標値を世界測地系の座標値に換算することができる。具体的には、 ローカルな座標系で記述された図形に対して、ローカル座標と世界測地系座標を変 換するパラメータ(アフィン変換パラメータ)を与えることで、世界測地系によって記述さ れた地図上に投影することができる。更に、SVG では、地理座標(世界測地系)/地 理識別子/ローカル座標だけでなく、URI を識別子として、場所を一意かつコンパクト に識別することが可能であるだけでなく、ナビゲーションで利用するネットワークを構成 するリンクは、ノードとノードを連続的に接続したものであり、ノードの位置を URI で表 現することにより、そのリンクを表現することができる。 4.4 ユースケース 1.地理情報データベース 平成 22 年度経済産業省では、東京駅地下街において、地理情報データベースに 登録された店舗情報を、前記空間参照系データベースの座標データと UI を用いて紐 づけることで構築した環境において、回遊行動支援型広告、及びコンシェルジュカウ ンターに案内端末を設置し、店舗までの道案内サービスの実証実験を実施した。 ここでは、「①曖昧さが発生する文字情報の検索と比較し、的確かつスピーディーに 必要な情報を検索・利用することができることを説明するとともに、これによって、情報 発信者からユーザまでの情報のスムーズな流れを屋内空間において実現できること」、 「②特に、店舗/施設情報(店舗(物販店や飲食店等)や施設(トイレ、コインロッカー 等)の案内に必要となる情報)など固定されているものを識別するデータベースとして 効果が高いこと」が明らかになった。 - 31 - 図表 26 実証実験で使用した画面 2.場所情報コード 場所情報コードをセンシングのインフラとして導入し、交通量のチェックや場所の状 況のチェック、混雑度を示すことで、その情報を利用したサービスが検討されている。 例えば、場所情報を用いたマーケティング分析や人流の可視化等を行うことで、通 行人の属性(性別や趣味・嗜好等)に合わせた情報提供が出来るようになる。 また、外国人が集まるような場所では、多言語配信を行う等、場所やそこにいる人の 特性に応じた観光情報の配信サービスなどが期待できる。更に、場所情報コードを使 うことで、3m メッシュごとの人流の可視化が可能になるので、店舗開設へ向けた分析 のコストの圧縮などが期待されている。 - 32 - 図表 27 場所情報コードを用いた混雑表示のイメージ 混雑度の可視化(3m間隔)※円の大きさが混雑度を表す 店舗を新しく 出したい。 3.PI、流通フォーマット 東日本大震災において、国土地理院数値地図上に放射線量などの情報を可視化 する際に PI が用いられた。ここでは、公共の所有する情報が、その機関毎にコード体 系がまちまちであるため、PI を用いて連携し利用した。 図表 28 PI を用いた例(MMM0311) (出典)「Map MashUp Manager for 0311」(http://mmm0311.cloudapp.net/) - 33 - 4.5 本章の参考文献・ツール等の入手先 図表 29 参考文献・ツールの入手先等 仕様 地理情報データ ベース 場所情報コード PI 流通フォーマット 分類 URL 等 名称 文献 平成 22 年度 IT とサービスの融合 http://www.meti.go.jp/p による新市場創出促進事業(地理・ olicy/it_policy/GIS/ 空間情報基盤活用サービス実証事 業 2 次公募)事業報告書 ツール 地理情報データベース構築ツール 文献 位置情報基盤整備のためのガイドラ (平成 25 年度に国土地理 イン(仮称) 院より公開予定) ツール - - 文献 PI 仕様書 http://www.jipdec.or.jp/ archives/dpc/gxml/conte nts/pi/index.html JISX 7155 場所識別子(PI)アー キテクチャ 日本規格協会 流通フォーマットエンコーディングガ イドライン http://www.meti.go.jp/p olicy/it_policy/GIS/ JIS X 7197 SVG に基づく地図の 日本規格協会 文献 表現及びサービス JIS X 4197:2012 標題 変倍ベク タグラフィックス - 34 - 5.補足(オープンデータと地理空間情報) 「電子行政オープンデータ戦略」(平成 24 年 7 月 IT 戦略本部)が発行され、関係 府省を中心に、オープンデータ(行政機関が所有する情報を機械可読な状態したも の)の取り組みが活発になっている。 行政機関が所有する情報の多くは、場所や時間に関連させ収集されているものが多 く、民間の利用ニーズからもそれらの利用が期待されている。 そこで、本ガイドラインで紹介したツール等の利用について、オープンデータの促進 に援用できるものについて、下表にまとめる。 図表 30 オープンデータでの援用例 本ガイドラインに記載した 仕様やツール オープンデータでの援用例 対象となるデータ例 空間参照系データベース 公共空間のデータ生成 ・公民館、庁舎 地理情報データベース リストで出た情報の座標付与 ・避難所、保育園な どのリスト PI 町丁字コードなど、同じ場所を ・統計データを連携 指す異なるコードの連携 する 場所情報コード 特定の範囲の中の情報を集約 ・上下水道や、ガス・ 電気などのインフラ 情報 - 35 -