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私の牛乳についての見方が変わったのは

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私の牛乳についての見方が変わったのは
私の牛乳についての見方が変わったのは今から 3 年前、平成21年 1 月号の「小児歯科臨床」という雑誌に小児科の先
生が牛乳について書かれていた記事を目にしてからです。
それからは「牛乳に相談だ♪」という何とも歯切れの悪いCMも、ある意味理解を示しそのフレーズを聞いていまし
た。
これを機に改めて牛乳について調べてみましたが、確証が得られない部分も多々あり、当然の結果として今回も断
言できるまでには至りませんでした。
そこで複数の医科の先生のご意見なども伺い、とりあえず現時点での牛乳について私見をまとめてみることにしま
した。
牛乳を飲むと骨が強くなる?
アメリカはカルシウムの 3/4 を牛乳や乳製品から摂取しているそうです。そのアメリカでは 1000 万人が骨粗鬆症に
悩まされ、50 歳以上の女性の 2 人に 1 人、男性の 8 人に 1 人が骨粗鬆症で骨折しているそうです。
そしで世界で最も牛乳を飲んでいるノルウェーでの骨折率は日本の 5 倍だそうです。
このように乳製品の消費量の多い国ほど大腿骨の骨折が多い調査結果が出ていることを考えると、
「成人にとってはかえって牛乳は骨を弱くする作用がある」と言われてもしょうがないのではないかと思われます。
ただし成長期の子どもにも同じことを言っていいのかは分りませんでした。
ハーバード大学が 1980 年から 12 年間、77,761 人の女性看護師を対象の調査した結果、牛乳を沢山飲んでも骨折の予
防にならないことが統計学的に明らかになりました。
(牛乳をだけでなく、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズなどの乳製品も対象に骨折のリスクに影響するホルモン剤の
使用、喫煙状況や摂取カロリー、肥満度などの他の要因についても併せて調査したうえで、乳製品単独の影響のみを
分析した結果だそうです)
そういった調査結果からアメリカでは 1998 年から「骨粗鬆症の予防に牛乳を」というコマーシャルがメディアから消
えたそうです。
日本でも 2003 年から骨粗鬆症にからめた牛乳の宣伝が行われなくなったそうです。(日本の場合、理由は明らかにさ
れていないとのこと)
牛乳を飲むと歯が強くなる?
お母さんのお腹の中にいる間だけでなく出生後もお子さんの顎の骨の中で育つ歯にはカルシウムが優先的に回され
るので、
カルシウム不足で「歯が弱くなる」「歯の本数が減る」ことは通常考えられません。
生えたばかりの歯は弱く、唾液中のカルシウムを取り込んで行くことで徐々に成熟し強くなっていきます。
実は歯の表面は食事の度に「カルシウムが溶け出しては再取り込みされる」(脱灰と再石灰化)が繰り返されていま
す。
溶け出しの量の方が多ければ、歯の表面が透明感を失った白い色に変化し弱くなって行きます。
これが初期ムシ歯です。
初期ムシ歯のレベルであれば、再石灰化されることでまだ健康な歯に戻れる可能性があります。
<歯を強くする方法>
① 歯の成熟・再石灰化を促す
・フッ素は歯から溶け出したカルシウムやリンを再び歯に戻す(再石灰化)を促進する働きがあります。
・再石灰化の時間の方が長くなるように努める(だらだら食いをしない、間食の回数を減らす)
・歯の成熟・再石灰化を促す唾液が良く出るように、砂糖の入っていないガムを咬む
{キシリトール入りのガムで歯が強くなる(再石灰化が促進される)のはキシリトールではなく唾液の働きです!
キシリトールはムシ歯菌に作用 リカルデントは直接歯を強くする CPP-ACP*が配合 }
② 更に酸に溶けにくい歯の質に変える
・フッ素はエナメル質の結晶の不完全な部分(格子不正)を修復し、より完全なハイドロキシアパタイト(エナメル質
の主成分)に変える働きがあります。(結晶性の向上)
・さらにハイドロキシアパタイトにフッ素が取り込まれる(一部が入れ替わる)とフルオロアパタイトといって、もっと
酸に溶けにくい結晶に変化します。
以上は「歯を強くする効果」「初期ムシ歯を改善する効果」が認められています。
*ACP は(アモルファスカルシウムホスホネート:非結晶性リン酸カルシウム)の略
CPP はカゼインホスホペプチドの略で、
牛乳タンパクであるカゼインを酵素でペプチド(アミノ酸にまで分解される一歩手前の状態。
アミノ酸がいくつかくっついた集まり)まで分解したもの
カルシウムや鉄を溶けやすくし、腸での吸収を助ける働きや ACP をエナメル質表層下まで運搬し安定化
させる働きがある。
CPP-ACP は溶液内でリン酸カルシウムを沈殿させないで過飽和の状態にする機能を有し、さまざまな試験に
よってう蝕を抑制・再石灰化する働きがある。
リカルデントに含まれる CCP は牛乳から作られるそうですが、カゼインは分解されにくいタンパクで、膵臓から分泌さ
れるトリプシンという酵素で分解されるそうなので、人の口の中で唾液によって分解されて CPP ができるとは考えに
くく、
(加熱された市販の)牛乳を飲んでも「歯が強くなるか」「初期ムシ歯に効果があるか」は…
疑問です(^_^;)
歯を直接強くするという趣旨からは外れますが、ムシ歯菌を減らす働きのある乳酸菌が発見され、そのヨーグルトな
ども商品化もされています。
(ひょっとしたら口の中に住み着いている乳酸菌ならば、口の中で牛乳を CPP まで分解してくれるかもしれませんが、
今のところ確認は取れていません)
牛乳のカルシウムは吸収率が良い?
今回の調べで
以前言われていた「牛乳のカルシウムは吸収率がよい」ということの元となったデータは、実は科学的根拠が乏しい
ことが分かりました。
上述の「乳製品の消費量が多い国の方が骨折率は高い」という調査結果から考えると、
①牛乳にはリンが多く、代謝によって生じるいので飲めば飲むほどカルシウムは体外に排出される
②牛乳にはタンパク質が多く、代謝によって生じる尿酸や硫酸イオンによって体液が酸性に傾く
それを中和するために骨からカルシウムを溶出させる
そのためカルシウムを摂取するには植物の方が優れている。
③カルシウムの吸収にはマグネシウムが必要で、マグネシウムは牛乳には少ないので吸収が悪い
等、その作用機序にも非常に説得力があり、
「牛乳は飲めば飲む程カルシウムは出て行く」説もまことしやかに思えました。
ある程度は上記理由により吸収率の低下は考えられますが、実際には
④吸収率について中立的な立場で新たに調べたデータでは野菜よりは牛乳のカルシウムの方がまだ高かった。
⑤放射性カルシウムを用いたカルシウムの吸収研究で、牛乳中のカルシウムは 18~36%の吸収率であった。
という報告があるので、
「どれだけカルシウムを摂る必要があるか」「牛乳からカルシウムを摂るのが良いのか悪いのか?」という問題は一
旦横に置き、カルシウム摂取源としての価値は認められるのではないかと思えます。
(但し以前程の優位性は認められない)
「牛乳は飲めば飲む程カルシウムは出て行く」というのは言い過ぎなのではないかと思われます。
タンパク質の摂り過ぎはカルシウムの排出を促すので「乳製品の消費量が多い国の方が骨折率は高い」のは年齢ご
との必要なタンパク質の量より実際に摂っているタンパク質やリン(加工食品にリンは多い)が多いことが原因と思わ
れます。
骨を強くする(骨密度を上げる)には牛乳よりも運動の方が(それも「より骨に負荷が掛かる」ものの方が)効果が高
いと思われます。
カルシウムの吸収率については何と一緒に食べるかでも左右されます。
それどころか
⑥「カルシウムの吸収を左右するのはビタミン D の活性型であるビタミン D3 である。カルシウムの摂取量が少なけれ
ばビタミン D3 の生成が増えカルシウムの吸収率を上げるので、欧米に比べ摂取量が少ないアジアやアフリカでもカ
ルシウムの欠乏が起こらないし、成長期の子どもや妊婦、授乳中の女性が必要なカルシウムを確保できるのはビタミ
ン D3 がカルシウムを有効に利用しているため。」
という記述さえありました。
生命の神秘さを感じますね。
カルシウムの吸収率については、食品同士を単純に比較してうんぬんできるものではないようです。
この点からも「1 日のカルシウムの必要量600mgについてさえ科学的根拠が薄い」という意見は大きくうなずけま
す。
牛乳は牛乳以外の食物アレルギーを引き起こす?
個人的には今回最も気になり、今なお気になっているテーマです。
⑦牛乳のタンパク質の80%はカゼインで 40%がαカゼイン、40%がβカゼイン。
一方母乳中のカゼインはほとんどがβカゼイン。人間にはαカゼインを分解するレンニンという酵素がない。
ペプシンがちゃんと分泌されるようになるのは 2,3 歳。
そのため特に2歳未満の人間の子どもは牛乳タンパクの半分を占めるαカゼインの分解が困難なため小腸を傷つ
け腸管壁浸漏性症候群(LGS)を引き起こすことがあり、様々な消化器疾患を招く。
傷ついた小腸からは分子量の大きい未消化の食品が入り込み、食物アレルギーの誘因となる
(⑧更に LGS は ADHD:注意欠陥多動性障害、喘息、アトピー、夜尿症、慢性疲労、原因不明の発熱、不眠症とも関係があ
るという説もある)
これは非常に説得力のあるアレルギー発現の機序に思えました。
そこで知り合いの小児科のA先生、皮膚科(アレルギーにお詳しい)のB先生とC先生に
「牛乳は様々な食物アレルギーを引き起こす原因となるか?」聞いてみました。
するとお三方とも
「まだ消化機能の未熟な 3 歳以下のお子さんが牛乳を多量に摂取することで、家族的にアレルギーの素因があるお
子さんの場合、牛乳アレルギーになる確率は上がることは考えられる。が、牛乳が他の食物アレルギーの誘因とな
るかまでは疑問。」
という趣旨のご回答を頂きました。
特にA先生は、体質(遺伝)によっては大量に牛乳を摂取することで牛乳アレルギーになる可能性があることだけを
聞いて、牛乳など特定の食材を一切排除した食事療法に走ることの危険性を指摘されていました。
特に小麦での除去食療法の危険性を言われておられましたが、特殊なケースを除き、可能性があるというだけでそ
れを行ってしまうと4歳を過ぎ、急に食べると危険とのことでした。
自称「幅のある食の応援隊」の私としては嬉しいご意見でありました。
(職業柄、砂糖・ジュース、そして今度は牛乳に対してまで危険性をお話しするので、あれはダメこれもダメと危険性
ばかりを吹聴する歯科医と誤解されているかもしれないので、念の為)
牛乳を飲むと母乳がよく出る?
根拠となるデータは見つかりませんでしたが、そのようなことはないようです。
*後述する c 参照
・
それよりも前出の小児科の A 先生によると、お母さんを「母乳神話」の呪縛から解いてあげることの方が効果がある
とのことです。
母乳の出はお母さんとお子さんの精神状態にとても関係があるのだそうで、
「今は母乳が出なくても(牛乳タンパクをペプチドにまで分解した低アレルギーを謳ったミルクもあるし)他の人から
色々言われても心配しなくていいんですよ。それより不安に思っていることの方がお母さん、お子さんにとってよく
ないですよ。」といったお話しを聞き、安心されると、母乳が出るケースもあるそうです。
牛乳の話題からは少し外れますが、
それで母乳が出たかどうかよりも、お母さんがストレスを感じ過ぎてヒステリックになったり、ふさぎ込んでいたりする
ことの方がよっぽどお子さんへの影響が大きいのだそうです。
飲み過ぎを心配する理由
a 飲み過ぎは心筋梗塞の原因となります。
統計的にも牛乳・乳製品の消費量と心筋梗塞の死亡率には相関が認められています。
牛乳中の飽和脂肪が動脈硬化の原因と考えられていた時期もありました。確かにこれも血管内膜へのコレステロー
ルなどの侵入によって形成されるプラーク(肥厚斑:歯科で言うプラークとは異なる)の形成に一役買っていると思
われます。
が、実は血液中のカルシウムは特にプラークに好んで沈着するそうで(歯科でいうプラークにカルシウムが沈着し
て固くなったものが歯石)、カルシウムがプラークに沈着することが原因で次第に管腔が狭まり、心臓を養う血管
(冠動脈)の血流が途絶え心筋梗塞となることが分かったそうです。
牛乳を多量に摂取すると一過性にカルシウムの血中濃度が上昇し、そのカルシウムがプラークに沈着しやすく
なります。
これは年配の方だけの問題ではなく、若い人にも起こり得るそうです。
b 飲み過ぎは白内障(目の病気)の誘因となる可能性があります。
動物実験でも証明されています。(若いラットほど早く白内障になったとのこと)
これは、乳糖が分解されてできたガラクトースが水晶体に蓄積するからと考えられています。
日本でも宮崎大学教育学部教授の島田彰夫氏が、牛乳を良く飲む子と飲まない子の視力調査をしたところ、よく飲
む子のほうが視力が悪いという結果も出ているそうです。
c 飲みすぎると鉄欠乏性貧血を起こします。
飲み過ぎは鉄欠乏性貧血の原因となります。(牛乳貧血という言葉さえある)
牛乳は鉄分が少ないことに加え、牛乳で満腹になってしまうと他の鉄分の多い離乳食・普通食を食べなくなってし
まうのが原因となります。
乳児期と思春期に起こり易いのですが、実は「お腹のお子さんのために」「母乳の出を良くするために」と牛乳を飲
み過ぎる妊産婦の方に牛乳貧血が起こり易いそうです。
以上私なりに書籍、インターネット、医科の先生方のご意見を参考に牛乳について私見を交えてまとめてみました。
今回牛乳についてのお題を頂き、改めて勉強になりました。(個人的には⑦のアレルギー説がまだひっかかっていま
す)
牛乳を飲んではいけない、乳製品を摂ってはいけないと言っている訳ではありません。
「歯や骨を強くするために牛乳を飲んだ方がいいですか?」という質問から始まった今回の牛乳小話(?)ですが、
健康のためにと過剰に牛乳を摂り、そのことでかえって健康を害する恐れがあることを知って欲しいとの思いからお
話しをしたり書かせてもらいました。
上述しましたように、私は自称「幅のある食の応援隊」でありたいと思っております。
カルシウムの補給源として牛乳一品目にこだわる必要はなく、もっと野菜を見直してもらいたいと思います。
また、牛乳には以上のような一面もあることも知って頂き、飲み過ぎに注意してこれからもお子さんたちと牛乳・乳製
品のおいしさを分かち合えたらと思っています。
参考資料
牛乳神話完全崩壊 外山利通 メタモル出版
牛乳カルシウムの真実 http://www.eps1.comlink.ne.jp/~mayus/lifestyle2/milkcalcium2.html
Think Health
http://chirotic.exblog.jp/14388804/
切れる子どもをつくる食生活①
http://www.seronjihou.co.jp/milk03.htm
自然にかえる子育て 真弓定夫 芽ばえ社
牛乳には危険がいっぱい?
フランク・オスキー 弓場隆
東洋経済出版社
冒頭で述べました私が牛乳についての見方がかわるきっかけとなった記事ですが、
書かれた先生は牛乳に大変造詣が深く、割と中立的な立場で今見てもとても上手に記事をまとめられておられたの
で一部抜粋し最後に紹介させて頂きます。
牛乳神話
(中略)
要するに、牛乳についてよく知らないのです。牛乳は体に良いといわれているから体に良いと思っていた、というの
が真相のようです。
実態をよく知らないまま牛乳=栄養のある飲み物というイメージ、これが世にいう「牛乳神話」です。
牛乳の擁護派と否定派
(中略)
肯定派の先生は牛乳のメリットだけを強調されますが、中には根拠のはっきりしない部分もあります。完全栄養食品と
か良質のたんぱく質とか栄養のバランスが良いとかはこの種です。
(中略)
否定派は当然デメリットを指摘されます。
乳糖不耐症の問題、牛の飼料の問題、アレルギー、動脈硬化、がんの原因になるなどが指摘されています。
また、牛乳の一番のメリットとされている骨に対しても、逆に骨粗しょう症を促進するとさえ言われています。
肯定派からはそのようなエビデンスはないとの反論が出ていますが、日本では牛乳世代の方が骨が貧弱、酪農国の
方が骨粗しょう症の頻度が高い、ケニアやタンザニアでは牛乳を飲むマサイ族しか骨粗しょう症はない、牛乳を飲ま
なかった以前の中国には骨粗しょう症に当たる病名がないといわれているなどが指摘されています。
牛乳擁護派の根拠
1)栄養のバランスがよい。
2)完全栄養食品である。
3)アミノ酸100の良質の蛋白質である。
4)カルシウムが多い。
5)ラクトフェリンに効果―抗菌作用や抗ガン作用、抗酸化作用などが知られている。
6)カゼインホスフォペプチド(CPP)はカルシウムの吸収を促進する。
7)体格が良くなる。
牛乳否定派の根拠
1)蛋白質が異種たんぱくで、アレルギーの誘因となる。
2)乳糖分解酵素であるラクターゼは日本人の 85%で 4 歳以降に消失するため、乳糖不耐症となる。
3)飽和脂肪酸が多く、動脈硬化やがんの誘因となる。
4)牛の飼料には抗生物質やホルモン剤が含まれ、これらが人体に悪影響を与える。
5)一緒に含まれる蛋白質やリンのためカルシウムが骨に沈着せず体外に出されることで、かえって骨が弱くなる。
6)乳糖が分解されて出来るガラクトースは、白内障の原因となる。
7)鉄、銅、亜鉛のミネラルが少ないため、貧血になりやすい。
8)そもそも、牛の物を横取りしてはいけない。
(中略)
今後、ますます牛乳の評価に対する論争はヒートアップしていくと思われます。給食の現場では、アレルギーの問題だ
けでなく牛乳以外の飲み物を希望する声も高まっています。国の牛乳に対する支援策もある意味理解出来ますが、
一方では牛乳を止めて健康になった人がいることも事実です。
(中略)
一日も早く、牛乳の肯定派(提供側)と否定派のどちらにも偏らない公正な立場での検証が望まれます。
月間小児歯科臨床 第14巻第 1 号(平成 21 年 1 月 1 日発行)
上瀬クリニック(三重) 上瀬英彦
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